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【機国開戦】Jesus! 自由騎士、全滅!?

●ジョン・コーリナーの二重陽動作戦
作戦の概要はいたって単純な陽動作戦だ。
『ファルスト小管区に陣取るヘルメリア軍にあえての大攻勢を仕掛け、そちらに目が向いている隙に蒸気船を用いてヘルメリア本土に自由騎士達を潜航させる』
陽動にはイ・ラプセル騎士団と軍事顧問のフレデリックが赴く。相手の目を止める事を目的とした豪華な看板という事である。
時間にすれば八時間の隠密潜航。隠密性を高めた蒸気船に乗り、息をひそめて進む自由騎士達。
――だが、自由騎士達はある噂を聞いていた。
『ヘルメリアのジョン・コーリナーは自由騎士をヘルメリアに売り払う算段をしている』
『それを手土産にヘルメリアに帰還するつもりだ』
……ジョン・コーリナーと言う人物について、自由騎士が得た情報を統括するとこうである。
一つ、ヘルメリア出身のノウブル。社会的に優遇されている立場なのに、あえて奴隷解放組織『フリーエンジン』に所属している。
一つ、ヘルメリアでは潜入工作員として動いていた。軍内部には公的に存在しない暗部。スパイとも呼ばれる部隊で『Cloak And Dagger』と呼ばれていたと言う。
一つ、この作戦を立案したのはジョンである。航路を含め全て彼が決めたと言う。曰く、『フリーエンジンとの合流地点』だとか。
一つ、本人は否定するが、メイド好き。
その他いろいろあるが、何も知らない人から見た感想は『ヘルメリアの元スパイ』である。情報戦に長ける他国の人間を信用出来るか否か。
「思ったより揺れるな」
「この辺りは海流が交差していて、海の難所の一つです。お陰で船影も少なく密航には適しているのですよ」
大きく揺れる船足に不安を感じた自由騎士に、ジョンは事も無げに答える。これからどんどん揺れますよ、と付け加えた。
「そういえば、例のモノは皆さんつけてもらえましたか?」
「あの歯車柄のバッチか? つけてると思うけど何か意味があるのか?」
「ええ、作戦のキモです。命綱と言ってもいい」
「もう少し詳しく――なんだ!?」
ジョンとの会話は突然の爆発により遮られた。爆発の赤が視界を焼き、砲撃を仕掛けた船の姿を映し出す。その旗にはヘリメリアの国旗がはためいていた。すなわち――
「ヘルメリア海軍!?」
『コーリナー、貴様がこのルートを使う事はお見通しだ! ファルストの攻撃が陽動作戦だという事もな!』
ヘルメリアの船から聞こえる声。それと同時に小型艦とそしてイ・ラプセル蒸気船甲板に射出されるいくつかの『騎士』――
『見るがいい! プロメテウスをモデルに作られた新型兵器『蒸気騎士』だ! シャンバラでは日の目を見なかったが、自由騎士達を倒せるのならデビュー戦として申し分ない!』
<クイーンオブハート起動。魔術コート展開>
<戦闘開始。マーチラビット、射出>
弾丸として打ち出された『騎士』が戦闘態勢に入る。同時に歯車騎士団を乗せた船が船に攻撃を開始した。
「容赦ないですねぇ、ニクソン二等。ここぞとばかりに戦力を導入してくる」
「バレてるじゃないか! どうするんだ!?」
ヘルメリア海軍の手際をほめるジョン。そんなジョンに詰め寄る自由騎士。そんな態度をいさめるように手の平を向け、指を五本立てた。
「この攻勢を耐え凌いでください。具体的には仲間が来るまでの五分ほど」
五分? 自由騎士達は眉を顰める。
「ここで皆さんにはヘルメリア海軍と戦闘して死亡してもらいます――表向きは」
その一言に自由騎士達は驚きの表情を浮かべる。だが怒りを発露する前にジョンは言葉を重ねる。
「作戦の詳細を説明している余裕はないので、概要だけを説明します。
ここで死亡したとヘルメリア軍に認識させることで、自由騎士へのマークが弱まります。少なくとも弱体化した自由騎士は戦力外と思わせる事で、スパイの目から逃れて今後のヘルメリアでの活動を行いやすくします」
つまり死亡を偽装し、敵の監視から逃れるのである。
「同時に『自由騎士は生きている!』と言う旨の噂を流し、情報網を混乱させます。ヘルメリア軍内を混乱させ、同時に本国での貴方達の活動に影響のないように整えます。
イ・ラプセルには水着やアマノホカリの薄着を着る祭りがあると聞きました。そういう祭りもどんどん素顔で参加してください。そのほうが情報が混乱しますので。ところでその祭にメイド服とかありません? ないですか、はあ」
そして『死んだな人間が生きている』と喧伝することで情報の不信を煽る。相反する情報の信頼性を確かめる手間は大きい。ましてやそれが他国の数十名単位となればなおのことだ。下手な変装をするよりも堂々と街を歩いている方が混乱は高まる。
少なくとも、今目の前に居るヘルメリア海軍は死亡説を信じるだろう。そして彼らは自由騎士を『倒した』ことで英雄となり発言力も増す。彼らを否定する声は中々通らないだろう。
「……無茶苦茶だな」
「強固な情報網を突破しようとするなら、無茶を三つぐらいは通さないといけないんですよ。――それでも数か月が限度でしょうが」
成程、と納得する自由騎士達。ともあれやるべきことは決まった。
危機的状況の中、貴方は――
●歯車騎士団の槍二つ
――時間はわずかに遡る。
「ネェェェェッド! 聞いたか、イ・ラプセルが攻めてくるそうだ!」
「あー、はいはい聞いてますよ。お陰で週末の『釣り』の予定がおじゃんですよ。ミズビトガールとウフフでムフフだったのに」
「プロメテウス攻撃を陽動にして本国に騎士を侵入させようなど、卑怯千万! 騎士の名に恥じる行為だ! このマリオンが蹴散らしてくれる!」
「じゃあ頑張ってくださいね。こちらは小舟で援護するんで」
「俺とお前の槍を持って、異国の卑怯な作戦を貫き崩す!」
「奇襲なんだからもう少し静かにしてほしいね。……ま、ここまでくれば気付かれても同じか。死なない程度にさくっといきましょう」
「いくぞおおおおおおおおおお!」
作戦の概要はいたって単純な陽動作戦だ。
『ファルスト小管区に陣取るヘルメリア軍にあえての大攻勢を仕掛け、そちらに目が向いている隙に蒸気船を用いてヘルメリア本土に自由騎士達を潜航させる』
陽動にはイ・ラプセル騎士団と軍事顧問のフレデリックが赴く。相手の目を止める事を目的とした豪華な看板という事である。
時間にすれば八時間の隠密潜航。隠密性を高めた蒸気船に乗り、息をひそめて進む自由騎士達。
――だが、自由騎士達はある噂を聞いていた。
『ヘルメリアのジョン・コーリナーは自由騎士をヘルメリアに売り払う算段をしている』
『それを手土産にヘルメリアに帰還するつもりだ』
……ジョン・コーリナーと言う人物について、自由騎士が得た情報を統括するとこうである。
一つ、ヘルメリア出身のノウブル。社会的に優遇されている立場なのに、あえて奴隷解放組織『フリーエンジン』に所属している。
一つ、ヘルメリアでは潜入工作員として動いていた。軍内部には公的に存在しない暗部。スパイとも呼ばれる部隊で『Cloak And Dagger』と呼ばれていたと言う。
一つ、この作戦を立案したのはジョンである。航路を含め全て彼が決めたと言う。曰く、『フリーエンジンとの合流地点』だとか。
一つ、本人は否定するが、メイド好き。
その他いろいろあるが、何も知らない人から見た感想は『ヘルメリアの元スパイ』である。情報戦に長ける他国の人間を信用出来るか否か。
「思ったより揺れるな」
「この辺りは海流が交差していて、海の難所の一つです。お陰で船影も少なく密航には適しているのですよ」
大きく揺れる船足に不安を感じた自由騎士に、ジョンは事も無げに答える。これからどんどん揺れますよ、と付け加えた。
「そういえば、例のモノは皆さんつけてもらえましたか?」
「あの歯車柄のバッチか? つけてると思うけど何か意味があるのか?」
「ええ、作戦のキモです。命綱と言ってもいい」
「もう少し詳しく――なんだ!?」
ジョンとの会話は突然の爆発により遮られた。爆発の赤が視界を焼き、砲撃を仕掛けた船の姿を映し出す。その旗にはヘリメリアの国旗がはためいていた。すなわち――
「ヘルメリア海軍!?」
『コーリナー、貴様がこのルートを使う事はお見通しだ! ファルストの攻撃が陽動作戦だという事もな!』
ヘルメリアの船から聞こえる声。それと同時に小型艦とそしてイ・ラプセル蒸気船甲板に射出されるいくつかの『騎士』――
『見るがいい! プロメテウスをモデルに作られた新型兵器『蒸気騎士』だ! シャンバラでは日の目を見なかったが、自由騎士達を倒せるのならデビュー戦として申し分ない!』
<クイーンオブハート起動。魔術コート展開>
<戦闘開始。マーチラビット、射出>
弾丸として打ち出された『騎士』が戦闘態勢に入る。同時に歯車騎士団を乗せた船が船に攻撃を開始した。
「容赦ないですねぇ、ニクソン二等。ここぞとばかりに戦力を導入してくる」
「バレてるじゃないか! どうするんだ!?」
ヘルメリア海軍の手際をほめるジョン。そんなジョンに詰め寄る自由騎士。そんな態度をいさめるように手の平を向け、指を五本立てた。
「この攻勢を耐え凌いでください。具体的には仲間が来るまでの五分ほど」
五分? 自由騎士達は眉を顰める。
「ここで皆さんにはヘルメリア海軍と戦闘して死亡してもらいます――表向きは」
その一言に自由騎士達は驚きの表情を浮かべる。だが怒りを発露する前にジョンは言葉を重ねる。
「作戦の詳細を説明している余裕はないので、概要だけを説明します。
ここで死亡したとヘルメリア軍に認識させることで、自由騎士へのマークが弱まります。少なくとも弱体化した自由騎士は戦力外と思わせる事で、スパイの目から逃れて今後のヘルメリアでの活動を行いやすくします」
つまり死亡を偽装し、敵の監視から逃れるのである。
「同時に『自由騎士は生きている!』と言う旨の噂を流し、情報網を混乱させます。ヘルメリア軍内を混乱させ、同時に本国での貴方達の活動に影響のないように整えます。
イ・ラプセルには水着やアマノホカリの薄着を着る祭りがあると聞きました。そういう祭りもどんどん素顔で参加してください。そのほうが情報が混乱しますので。ところでその祭にメイド服とかありません? ないですか、はあ」
そして『死んだな人間が生きている』と喧伝することで情報の不信を煽る。相反する情報の信頼性を確かめる手間は大きい。ましてやそれが他国の数十名単位となればなおのことだ。下手な変装をするよりも堂々と街を歩いている方が混乱は高まる。
少なくとも、今目の前に居るヘルメリア海軍は死亡説を信じるだろう。そして彼らは自由騎士を『倒した』ことで英雄となり発言力も増す。彼らを否定する声は中々通らないだろう。
「……無茶苦茶だな」
「強固な情報網を突破しようとするなら、無茶を三つぐらいは通さないといけないんですよ。――それでも数か月が限度でしょうが」
成程、と納得する自由騎士達。ともあれやるべきことは決まった。
危機的状況の中、貴方は――
●歯車騎士団の槍二つ
――時間はわずかに遡る。
「ネェェェェッド! 聞いたか、イ・ラプセルが攻めてくるそうだ!」
「あー、はいはい聞いてますよ。お陰で週末の『釣り』の予定がおじゃんですよ。ミズビトガールとウフフでムフフだったのに」
「プロメテウス攻撃を陽動にして本国に騎士を侵入させようなど、卑怯千万! 騎士の名に恥じる行為だ! このマリオンが蹴散らしてくれる!」
「じゃあ頑張ってくださいね。こちらは小舟で援護するんで」
「俺とお前の槍を持って、異国の卑怯な作戦を貫き崩す!」
「奇襲なんだからもう少し静かにしてほしいね。……ま、ここまでくれば気付かれても同じか。死なない程度にさくっといきましょう」
「いくぞおおおおおおおおおお!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.戦闘を5分間(30ターン)維持する
どくどくです。
ヘルメリア編開始。そしていきなり危機的状況――!
●敵情報
便宜上、戦場を三つに分けます。どの戦場に行くかをプレイング冒頭もしくはEXプレイングに書いてください。書いてない場合はランダムに割り振ります。『足りない所に入れてください』『臨機応変に判断して戦場を選びます』等書かれてあっても、ランダムに割り振ります。
『【機国開戦】ファルスト陽動作戦』『【機国開戦】真一正義は此処に在り』に参加された方は、若干遅れて小型艇での参戦となります。その為、累積ダメージはそのままに、回復されずに参戦することになります。戦闘不能判定であった場合は、HPが1/4の状態での参加になります。(どちらの状態であれ、フラグメンツ復活は可能です)。また戦場は必ず【海上】となります。
【船内】
船内の修理やトラブルの対応をします。ヘルメリアの攻撃で破壊された個所を直したり、出火したブロックを鎮火したり、開いた穴から入ってくる海水を排出したりします。また怪我した船員を癒したり、元気づけたりするのもこちらになります。
こちらの対応が少ない場合、戦闘終了後に船員が死亡する可能性があります(シナリオ上でのペナルティはありません)。
【海上】
小舟で出航し、蒸気船に攻撃を仕掛ける歯車騎士団を攻撃します。ミズビトは水中を移動して、相手のブロックを無視できます。
歯車騎士団はガンナー中心ですが、護衛にガーディアンがついています。一つの小舟にガンナー3名、ガーディアン2名が乗っています。戦闘開始時、歯車騎士団の小舟は五隻存在しています。便宜上、ガンナーが後衛でガーディアンが前衛とします。
こちらの対応が足りない場合、船が大きく揺れ【船内】【甲板】で戦う自由騎士の行動に影響が出るでしょう(確率でノックバックがかかります)。
ネームドキャラ
『ランサー』ネッド
歯車騎士団。階級は四等。ノウブル。銛を投げるガンナーです。その武器の形状もあって、近接戦闘も得意です。
前衛に居ますが、危険を感じたら後ろに下がります。
ガンナーと軽戦士のランク2等を使います。
EXスキル:ホエールキラー 攻遠貫2(50%、100%) 鯨の皮膚を貫通する鋭い一撃です。【防御無】【致命】【必殺】溜1
【甲板】
イ・ラプセル蒸気船の甲板で暴れる『蒸気騎士』十二体と戦います。騎士鎧風の蒸気兵器を身に纏った存在です。大きさは人間大程度。
『クイーンオブハート』と呼ばれる魔術を遮るコーティングと、『マーチラビット』と呼ばれる多段炸裂弾(遠距離範囲・三連撃・バーン2)を持つことが分かっています。また、他にも武装を持っている可能性があります。
戦闘開始時、八体とマリオンが前衛に、四体後衛に居ます。
こちらの対応が足りない場合、重傷率及びフラグメンツ消費数が高まります。
ネームドキャラ
『熱血槍』マリオン
歯車騎士団『蒸気騎士』。階級は四等。鎧で姿見えないけどノウブル。無駄に熱い騎士です。見た目は同じですが、よく叫んでるんですぐにわかります。
前衛に居ます。危険を感じても逃げません。
上記の蒸気騎士装備に加え『ホワイトラビット』と呼ばれる蒸気射出による遠距離攻撃可能な槍で攻撃(ノックバック効果付)してきます。
EXスキル:熱き叫び 自付 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 攻撃力とドラマ上昇。
●貢献
貢献度の高いキャラが本依頼に参加された場合、自由騎士死亡の情報の精度が高まります。具体的にはヘルメリアを誤魔化せる期間が伸びます。
また、貢献度が低いキャラはこの場での印象が薄いため、今後の隠密活動などでボーナスがつきます。
●NPC
サイラス・オーニッツ(nCL3000012) :【船内】で怪我人を癒しています。
アミナ・ミゼット(nCL3000051) :【海上】で戦っています。
ジョン・コーリナー(nCL3000046) :【船内】で機械修理をしています。
レティーナ・フォルゲン(nCL3000063):【船内】で機械修理をしています。
NPCは絡まれなければ基本空気です。
●その他情報
時刻は夜。幸か不幸か乗ってきた船が燃えているため、明かりは充分です。
歯車騎士団の攻撃を受けて船が揺れており、一定確率でターン最初に敵味方全員ノックバック判定を行います(浮遊や飛行状態のキャラは除外。技能によりプラス補正あり)。
また、ジョンは出発前に自由騎士全員に歯車柄のバッヂを見える所に付けるように言っています。特に指示がなければつけている者とします。外したい場合はプレイングに記載してください。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
ヘルメリア編開始。そしていきなり危機的状況――!
●敵情報
便宜上、戦場を三つに分けます。どの戦場に行くかをプレイング冒頭もしくはEXプレイングに書いてください。書いてない場合はランダムに割り振ります。『足りない所に入れてください』『臨機応変に判断して戦場を選びます』等書かれてあっても、ランダムに割り振ります。
『【機国開戦】ファルスト陽動作戦』『【機国開戦】真一正義は此処に在り』に参加された方は、若干遅れて小型艇での参戦となります。その為、累積ダメージはそのままに、回復されずに参戦することになります。戦闘不能判定であった場合は、HPが1/4の状態での参加になります。(どちらの状態であれ、フラグメンツ復活は可能です)。また戦場は必ず【海上】となります。
【船内】
船内の修理やトラブルの対応をします。ヘルメリアの攻撃で破壊された個所を直したり、出火したブロックを鎮火したり、開いた穴から入ってくる海水を排出したりします。また怪我した船員を癒したり、元気づけたりするのもこちらになります。
こちらの対応が少ない場合、戦闘終了後に船員が死亡する可能性があります(シナリオ上でのペナルティはありません)。
【海上】
小舟で出航し、蒸気船に攻撃を仕掛ける歯車騎士団を攻撃します。ミズビトは水中を移動して、相手のブロックを無視できます。
歯車騎士団はガンナー中心ですが、護衛にガーディアンがついています。一つの小舟にガンナー3名、ガーディアン2名が乗っています。戦闘開始時、歯車騎士団の小舟は五隻存在しています。便宜上、ガンナーが後衛でガーディアンが前衛とします。
こちらの対応が足りない場合、船が大きく揺れ【船内】【甲板】で戦う自由騎士の行動に影響が出るでしょう(確率でノックバックがかかります)。
ネームドキャラ
『ランサー』ネッド
歯車騎士団。階級は四等。ノウブル。銛を投げるガンナーです。その武器の形状もあって、近接戦闘も得意です。
前衛に居ますが、危険を感じたら後ろに下がります。
ガンナーと軽戦士のランク2等を使います。
EXスキル:ホエールキラー 攻遠貫2(50%、100%) 鯨の皮膚を貫通する鋭い一撃です。【防御無】【致命】【必殺】溜1
【甲板】
イ・ラプセル蒸気船の甲板で暴れる『蒸気騎士』十二体と戦います。騎士鎧風の蒸気兵器を身に纏った存在です。大きさは人間大程度。
『クイーンオブハート』と呼ばれる魔術を遮るコーティングと、『マーチラビット』と呼ばれる多段炸裂弾(遠距離範囲・三連撃・バーン2)を持つことが分かっています。また、他にも武装を持っている可能性があります。
戦闘開始時、八体とマリオンが前衛に、四体後衛に居ます。
こちらの対応が足りない場合、重傷率及びフラグメンツ消費数が高まります。
ネームドキャラ
『熱血槍』マリオン
歯車騎士団『蒸気騎士』。階級は四等。鎧で姿見えないけどノウブル。無駄に熱い騎士です。見た目は同じですが、よく叫んでるんですぐにわかります。
前衛に居ます。危険を感じても逃げません。
上記の蒸気騎士装備に加え『ホワイトラビット』と呼ばれる蒸気射出による遠距離攻撃可能な槍で攻撃(ノックバック効果付)してきます。
EXスキル:熱き叫び 自付 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 攻撃力とドラマ上昇。
●貢献
貢献度の高いキャラが本依頼に参加された場合、自由騎士死亡の情報の精度が高まります。具体的にはヘルメリアを誤魔化せる期間が伸びます。
また、貢献度が低いキャラはこの場での印象が薄いため、今後の隠密活動などでボーナスがつきます。
●NPC
サイラス・オーニッツ(nCL3000012) :【船内】で怪我人を癒しています。
アミナ・ミゼット(nCL3000051) :【海上】で戦っています。
ジョン・コーリナー(nCL3000046) :【船内】で機械修理をしています。
レティーナ・フォルゲン(nCL3000063):【船内】で機械修理をしています。
NPCは絡まれなければ基本空気です。
●その他情報
時刻は夜。幸か不幸か乗ってきた船が燃えているため、明かりは充分です。
歯車騎士団の攻撃を受けて船が揺れており、一定確率でターン最初に敵味方全員ノックバック判定を行います(浮遊や飛行状態のキャラは除外。技能によりプラス補正あり)。
また、ジョンは出発前に自由騎士全員に歯車柄のバッヂを見える所に付けるように言っています。特に指示がなければつけている者とします。外したい場合はプレイングに記載してください。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
3個
3個
7個




参加費
50LP
50LP
相談日数
9日
9日
参加人数
67/∞
67/∞
公開日
2019年06月28日
2019年06月28日
†メイン参加者 67人†

●船内Ⅰ
船内な混乱に満ちていた。
ヘルメリアの襲撃、上がる炎。戦いに不慣れな人達はパニックに陥り、そのまま砲撃によるショックを受けて傷を負う。
しかしそんな船員たちに寄り添う手があった。
「大丈夫ですか? 癒しますので、気をしっかり持ってください」
倒れた船員に向けて『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)が優しく声をかける。汚れと血の跡を清潔なタオルで拭き、止血の為に包帯を巻く。手慣れた動きはそうしたことになれている証。そして人を助ける為に鍛錬を重ねた証でもあった。
「祈りをここに。癒し手の力、ここにあれ」
「すまない……。手間をかけさせて。あんたほどの腕なら、俺達なんか無視して――」
「無視していい命なんてありません」
この戦争は自由騎士が決定した戦い。その為に無関係な船員を犠牲にしていいわけがない。癒し手として甲板の戦いに行くべきなのかもしれないが、そうと分かっていてもたまきは彼らを見捨てることはできなかった。
「さあ、次は――」
「いっそげー!」
応急処置をした人を抱えて運ぶ『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)。船の状況は変化していく。今この場が安全でも、一分後がどうなっているかなど分からないのだ。予想できる限り安全な場所に運ばなくては。
「交戦が終わるまでここで休んでいてほしいんだぞ! はい、これ!」
「悪い。でもこいつはアンタが飲んでくれ。まだ動き回るんだろう?」
「サシャは大丈夫なんだぞ! いっぱい食べてきたんだぞ!」
広い部屋に患者を運び、ジュースを渡すサシャ。患者がのどを潤したのを確認した後で、サシャはまた船内を走りだす。倒れている者、船を修理する者。そんな彼らを助けるべく奔走する。五分間、体力が尽きるまで動き続けるつもりだ。
「大変だけど、サシャは頑張るんだぞ!」
「優雅な船旅とはいきませんでしたね」
ふう、とため息を吐く『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)。元より密航である以上は優雅とは言えなかったが、それでもこんな歓迎をされるとは思わなかった。冗談めかして言うのは心を落ち着ける為。そのまま羽を広げ、動き出す。
「非戦闘員の方は船内の奥へ退避してください」
「わかった。あんたはどうするんだ?」
「まだやることがあります。さあ、早く」
避難誘導を同時に傷を癒すべくレオンティーナは動き出す。『世界一のメセグリン使い』……そんな夢を持つ彼女の癒しの力が振るわれる。やるべきことは多い。手が足りないことなど分かっている。それでもレオンティーナは諦めずに動いていた。
「さあ、次はあっちに行きますわ」
「はい。キリもがんばります」
レオンティーナの言葉にキリ・カーレント(CL3000547)が頷いた。バランスを取りながら船内を進み、耳を澄ませて周囲を警戒する。幸いにして甲板で交戦している音が聞こえるだけで、船内への侵入には至ってないようだ。
「皆さん、頑張ってください。キリは船員たちを守ります」
「っ……! すまない、騎士様。俺達なんかの為に」
「キリは大丈夫です」
高熱と蒸気が見れている音を聞き、そちらに向かうキリ。爆発の危険に晒されながらも修理する仲間や船員たちの盾となるような位置に立ち、彼らの身を守っていた。ケガすることも多いが、それで誰かを守れるのならキリは笑顔になれる。
「皆さんの安全は保証します……!」
「まずはあの人から……次はあの人。皆絶対に治してみせますっ」
『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)も人を癒す戦いに身を投じていた。普段は図書館に籠っているサブロウタだが、今こそが戦う時だと船に乗り込んでいた。学んだ癒しの術を使いって人を助けるその為に。
「大丈夫です! 皆さん、元気を出してください!」
「……っぐ、ぁあ……っ」
「良かった、生きています! 今術をかけますから!」
声をかけ、意識の状態を確認してからサブロウタは癒しの術を行使する。反応が薄いが、生きている。それを見て、自分でも癒せる範囲だと安堵した。放たれた淡い光が船員を癒していく。少しずつ戻る温もりと呼吸音に危険域を脱したと確信する。
「止まっている時間はありません。まだまだ行きますよ!」
「……ううっ、船の中は狭いです、ね」
爆発で揺れる船の中を『落花』アルミア・ソーイ(CL3000567)が進む。船に乗るのは初めてで、船が襲われるのも初めてだ。だが想像以上に怖くはない。それまでの経験もあるが、一人じゃないという事がアルミアの背中を押していた。
「回復、しますね。覚えたてですけど……」
「悪い……。右手が、動かねぇ」
自由騎士になって覚えた回復の術。アルミアはそれを行使して仲間や船員を癒していく。追い詰められて覚えたネクロマンシーの術と違い、自分の意志で覚えた呪文。思い出すようにそれを唱え、マナを導いて仲間を癒していく。
「もし倒れても、ネクロマンシーの力で、また戦えますから! じょ、冗談です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…… 」
「できる事を最大限に行う。それを恥じることはないさ。そう、『行動は言葉よりも雄弁に語る』だね」
芝居かかった口調でコール・シュプレ(CL3000584)はアルミアを慰めるように言う。行動の結果が正であれ邪であれ、それを行ったということがその人間を語っている。誰かを助けようとする事に、誰が文句をつけようか。両手を広げ、コールは主張する。
「さあ。行動開始だ。なに、大丈夫。百戦錬磨の自由騎士の登場だ。拍手喝采とはいかないだろうけど、心安らかにしてその活躍をご覧あれ!」
優雅に踵を返し、コールも行動に移る。バックに詰め込んだ医療品、癒しの術、そして演技力。それら全てがコールの武器。苦しむ者達を癒し、危機的状況にあっても笑顔で安心させる。その戦いこそが自分に出来る最大限なのだと信じていた。
「大丈夫。外では頼りになる仲間が頑張ってくれているし……中では私達が全力を尽くす。必ず治して見せるさ!」
ヘルメリアの攻撃で消えるはずだった命は、彼らの献身により繋がっていく。
●海上Ⅰ
イ・ラプセルの船に向けて砲撃を続けるヘルメリア海軍。オラクルの加護を知っているため、その距離は射撃圏内に近づきている。
だが裏を返せばこちら側が迎撃できる範囲でもあるのだ。戦いにおいて距離ほど重要なファクターはない。こちらの武器が届くか否かで、作戦の前提は大きく変わってくるのだ。
「ふむ。八艘跳びとまいりますか!」
「跳んだ!? ええい、厄介な!」
とん、と膝を叩いて『ジローさんの弟(嘘)』サブロウ・カイトー(CL3000363)は宙を舞う。まるで地面を蹴るかのように水面を蹴り、相手との距離を詰める。アマノホカリの英雄が如く船と船を跳び回り、刃を振るっていく。
「その時の戦いでは潮の流れが変わってくれましたが、今回はそうもいかないでしょうなあ」
翻弄するように刃を振るいながらサブロウは苦笑する。海になれているわけではないが、このわずかな時間で潮の流れが変わるとは思えない。ならば尽力するまでだ。持ち前の速度を生かし、重厚なガーディアンを縫うようにしてまた跳躍する。
「さて開戦から大変ですな。どうなる事やら」
「決まっておろう。勝つために動くのみだ」
サブローの答えに頷くように応える『尽きせぬ誓い』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)。ゆれる波など苦でもないとばかりに小舟を操り、槍を構えて敵陣を見る。大きく息を吸い込んで、押される味方陣を支える様に声を張り上げた。
「皆の物! この戦いにイ・ラプセルの未来あり! 諦めるな!」
『おおー! 行くぞー!』
声を限りにして叫び、仲間達に檄を入れる。前に出て敵を討つだけが騎士ではない。仲間を支え、激励することもまた騎士なのだ。その為にこの体はあり、その為にこの魂はある。
「あれは……ギルトバーナー! あの黄金騎士団を制した奴だ!」
「ほう。さすがヘルメリア、耳聡いな。ならば『傲慢』と言われたこの槍、受けてみるがいい!」
「ナナンもまけないぞ、おー!」
元気よく武器を振り上げる『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)。出来れば戦わずに行きたかったが、ここで戦わなければ仲間達がヘルメリアにより傷ついてしまう。そんな事は許せなかった。
「ぎゅーっとちからをこめて、だだーっとはしって、どっかーん!」
「思ったより、重い……!」
舌足らずでたどたどしく言いながら、ナナンは武器を振るう。自分の身長ほどある両手剣を握りしめ、然り腰を据えて振り回す。ガーディアンの盾とナナンの剣がぶつかり合い、派手な音を立てる。こらえきれなかったガーディアンがよろけ、膝をついた。
「まだまだ終わらないよ、とぉー!」
「――遅い」
一言告げ、『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)は太刀を振るう。海を走り、その速度を殺さぬままに振るわれた一閃。音すら切り裂くと錯覚させるほどの横一文字がヘルメリア海軍の足を止める。
「まだ止まらん。海の動きは熟知している。捕らえられると思うな」
「この動き、通商連の海兵並みか!」
止まることなく動き回るグローリア。事前に学んだ戦術により、波の動きはおおむね理解している。事前知識があれば揺れる足場でも速度を失うことなく移動が出来た。体をかすめる銃弾に足を止めることなく、刃を振るう。
「狙うならしっかり狙うんだな。そう簡単に当てられると思うな」
「予想はしていましたが、混戦になってきましたね……」
困ったように息を吐く『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)。広範囲の呪文は味方を巻き込みかねない。多数の敵を討つには効率的ではあるが、仲間を傷つけてしまっては意味がない。断念し、呪文を切り替える。
「炎人の血の一滴。怒りの声、ここに示さん――」
「魔術使い……! 盾、展開せよ!」
指先にマナを集わせ、魔力展開するマリア。高度な呪文はその分マナを消費し、継戦能力に劣る。何よりも魔法の威力は本人の魔力に依存するのだ。それを考慮した術の選択。マリアの炎が戦場を走った。
「焦らずに行きましょう。今はできる事を確実に」
「ガンナーをガーディアンが守ってくる。それはコチラも計算済みだ」
ヘルメリア海軍の布陣を見ながら『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)はダガーを握る。その布陣を崩すつもりはない。大事なのは時間をもたせること。それを念頭に置いて、戦いに挑む。
「行くぜ。あの男は悪い奴ではなさそうだしな。機会があればゆっくりと話をしてみたいものだ。この戦いが終わった後でな!」
作戦を持ってきたジョンのことを思いながらオルパは海の上を走る。話す時間はあまりなかったが一度腰を据えて話してみたいものだ。ヨウセイに伝わるレンジャーの技法。それを駆使して戦端を維持する。二重ナイフの舞がヘルメリア海軍を襲う。
「ヨウセイと戦うのは初めてか? そのまま翻弄されていろ!」
「落ち着け、戦線を維持しながら砲撃を続けるんだ!」
ぶつかり合うイ・ラプセルとヘルメリア。両雄とも譲るつもりはない。
海の上での戦いはまだ始まったばかりだ。
●甲板Ⅰ
そして甲板ではヘルメリアが誇る新型『蒸気騎士』の一団と自由騎士達が抗戦していた。
「カーミラ・ローゼンタール、ここにあり! かかって来ーい!」
大声をあげて敵陣に突撃する『イ・ラプセル自由騎士団』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。自分の存在を隠すことなくアピールし、そのまま全身で敵陣に向かっていく。開幕の勢いをつけるに値する華々しい攻撃だ。
「お前がカーミラか! だがその剛腕、この蒸気騎士に通じると思うか!」
「通じるよ! 頑丈そうな鎧だけど、私の前には布の服も同然! どりゃああ!」
敵陣の中で動きを止め、カーミラは瞳を閉じる。周囲に居る者の『気』の動きを第六感で感じ取り、それを乱すように自らの拳に気を込めて、回転させるように動かす。鉄を貫くのではなく、その気を乱す。それがカーミラが新たに学んだ拳。
「どうだ! これが私の拳だよ!」
「ぐっ、おおおおおお! 亜人風情が人の技をここまで使うとは……!」
「ナイス初撃! その間に私は色々調べさせてもらうわ!」
指を立ててカーミラの攻撃に合図を送る『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)。そして蒸気騎士にコーティングされた対魔導用の装備を見やる。淡く光る紋様のような管の形。あそこに特殊な液体を流しているのだろう。対魔導技術。しかしそれは――
「逆に言えば、それだけ魔道に恐れをなしている証拠なのよね。私の瞳から逃れられると思わない事ね」
フードの奥からその構造を解析しようときゐこは瞳に魔力を通す。見たところ、遣唐使が使う防御の構えと同じ程度の対魔導防御のようだ。注意する必要があるが、同時にいくつかの弱点も見える。
「あのコーティングを使ってる間は、動きが鈍くなるみたいね! 一気に勝負を決めりゃいましょう!」
「やはり一流の魔術師は誤魔化せないか……! だが、気力でカバーしてやる!」
「せやけど気力はこっちにもあるんやで!」
甲板を蹴って『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)が跳躍する。全身機械の鎧で包まれた蒸気騎士。その技術にアリシアは素直に感激する。しかしイ・ラプセルが劣るとは思わない。
「思いっきりあたらせてもらうで!」
「この脚力、機械の性能だけではないか!」
踊るように戦場を駆け回りながらテンションをあげていくアリシア。機械の足のメンテナンスは完璧だ。榴弾を避けながら潮風を切るように足を振るい、間近の蒸気騎士に一撃を喰らわせる。衝撃が中に伝わった感悪が、足を通じて伝わってくる。
「どうや! うちらなめとったら、痛み目見るで!」
「その通りです! 自由騎士を侮ればどうなるか。とくと教えてあげましょう!」
サーベルを掲げて『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は意気揚々と叫ぶ。貴族として戦場に立ち、その苛烈な性格のままに刃を振るう。それこそが自分に与えられた義務なのだと信じて疑わない。ここで刃を振るわずしてどうするか!
「マリオン様と愉快な仲間達! お覚悟を!」
「一緒くたにするな!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃ!? 俺達は仲間だと信じてたのに!」
宣誓の後に蒸気騎士に向かって進むデボラ。気合を付けて防御力を固め、一気に突き進む。敵の攻撃は敢えてよけずに受け止め、痛みを魔術で誤魔化して歩を進めた。刃が届く範囲に踏み込むと同時、サーベルを横なぎに払う。
「お・引・き・取・り・下さいっっっ!」
「それはこちらのセリフだ! 我が国に密航しようとする犯罪者共が!」
「まあ、それはそうやねんけどなぁ。細かいこと気にする男はモテへんで」
マリオンの声に涼し気に応える『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。暑苦しい男やなぁ、と思いながらも引くことのない性格には好感が持てる。さて兜の中身はどんな顔か。狼華の顔に妖艶な笑みが浮かんでいた。
「あんさんらもそんなナリしとうと海の上は辛いやろ? 頭ぐらいとりぃや」
「栄光高き蒸気騎士の装備、不要と思ったことなど一度も、ないっ!」
からかうように刃を振るう狼華。それにわざわざ答えるマリオン。マリオンが剛槍なら、狼華は風の刃だ。重く振るわれる蒸気型騎士槍をそよぐ風のように避けながら一撃を加える狼華。真逆の戦士が甲板で舞い踊る。
「海に出た甲斐はあったわ。当たると終わりの槍。楽しませてもらうで」
「ええ、楽しませてもらいましょう。強敵との戦いは心躍ります」
『赤竜落とし』リンネ・スズカ(CL3000361)が強敵の気配を察した、とばかりにマリオンに迫る。癒し手であるリンネだが、戦いの気配に惹かれるように前に出てきてしまう。後悔はない。むしろこれを逃せば、その方が公開するだろう。
「一つ手合わせ願います。受けて貰えますよねぇ?」
「無論! 蒸気騎士の槍、とくと味わうがいい!」
リンネの誘いに乗るように槍を構えるマリオン。そのまま正直に突撃してくる。硬い装甲と重い槍の一撃。その一打一打がたゆまぬ鍛錬の結果であることをリンネは理解できた。自然と唇を舐め、血が滾ってくる。
「噂に違わぬ蒸気兵器と騎士の鍛錬! これだから戦いは止められません!」
「……くそ、分からねぇ……! なんで戦争なんかするんだよ……!?」
盾と槍を手にして『平和の盾』ナバル・ジーロン(CL3000441)が足を止める。リンネが楽しいというのは理解できる。個人の武技を測るいい機会だからだ。だが戦争は違う。もっと別の、混沌とした何かだ。それを好んで行う理由は解らない。
「だけど、オレが戦わないことで、誰かが余計に傷つくかと思うと、それも嫌だ!」
分かっている。自分なんかが理解できない様々な理由があることがある事を。ただ確実なのは、ナバルが出来る事は守ることだ。迷いながら苦しみながら、それでも守らねければ笑顔さえ途絶えるのだ。
「敵は飛び道具を使う! 後衛の仲間が危険! ならオレはそれをただただ庇うのm……あいたぁ!? 何するんだよ!」
「ア、誤射。スマン、ナバル」
後ろから撃たれて怒るナバルに謝罪する『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)。あまり気にしていないようなエイラだが、ナバルなら大丈夫だという信頼があった。
「ナバル、護ル。ダカラ、盾硬イ。ソレ、信ジテル」
(なんだよその信頼は。こっちは戦う理由さえ見つけられないのに……)
笑うエイラ。その笑顔を見てナバルは頭を振った。エイラに悪意はない。本当に大丈夫と思ったからこそそうしたのだ。だったら今は、その信頼にこたえるだけだ。
「マリオン、狙ワナイ。仲間、狙ッタ敵追従スル!」
ナバルに隠れるように位置取りながら、エイラは魔の矢を放つ。その場所が一番安全だと信じているか顔で。
「リグも一緒のを狙うのです」
エイラが狙った蒸気騎士に向けて、『餓鬼』リグ・ティッカ(CL3000556)が拳を振るう。作戦内容は完全には把握していないが、とにかく蒸気騎士を相手すればいい事は解っている。だったら今は全力で挑むだけだ。
「かっこいいこと、リグには言えませんけれど。リグは、リグにできる精一杯でがんばりますのです」
戦う理由なんて、リグにはない。一日三食もしくはそれ以上食べれればそれでいい。だけど食欲は生物として最も正しい戦う理由だ。相手の動きを注視しながら、体の思うままに四肢を振るう。
「関節とか急所です。でも当然対策とか練っているようです」
「だよなぁ! そう簡単に倒せたら面白くねえもんな!」
言って笑う李 飛龍(CL3000545)。甲板で暴れる蒸気騎士。人ではない機械の動きだが、それでも強さには変わりない。そしてそこに強い相手がいるのなら飛龍の血が騒ぐ。滾る血のままに笑顔を浮かべていた。
「時間稼ぎは任せた! おれっちは全力で暴れさせてもらうぜ!」
「来い!」
言葉と同時に甲板を蹴る飛龍。呼吸を整えて体内に『龍』を宿し、その熱量をぶつけるように拳を振るう。一打は衝撃を伝える為。そして二度目はその衝撃を足場に打撃を『通す』為に。貫く一打が蒸気騎士を震わせた。
「硬ってぇ! 強え! 全く、やりがいがあるぜ!」
「あの防御力は純粋に装備によるもののようだ。蒸気騎士特有の特殊な技法、というわけではないのか」
ふむ、と『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)は唸るように解析する。仲間を癒しながら相手の戦いを見て解析を行う。蒸気機関等に対する知識があればより詳しい事が分かったかもしれないが、今はそれを悔やんでいる時ではない。
「回復は任せてくれ。キミたちは存分に戦ってくれたまえ」
言いながら大気のマナを集めるアルビノ。魔道技術のないヘルメリアでも、他国と変わらずマナは溢れている。それらをかき集め、アルビノ自身のマナで方向性を定めて解き放つ。癒しの方向性を持ったマナが、仲間に降り注いでいく。
「しかしかなり暴走的な技法のようだ。使用の度に着用者に負荷がかかっている。あの回復剤さえもそのようだ」
「どういうことだ?」
アルビノは見てわかったことを仲間に伝える。
高火力な威力を持つが、その分蒸気騎士のリスクは大きい。動きが鈍くなったり、視界がぼやけたりと蒸気騎士の動きに乱れが見える。高火力の代償として身体に負担がかかっているようだ。
だがそれが蒸気騎士攻略の決定打になるとは思えない。今は、まだ――
●船内Ⅱ
「ったく。あちこち攻撃受けてんなこの船。海水をかき出すもの、バケツしかねーのかよ!」
『風詠み』ベルナルト レイゼク(CL3000187)はバケツを手に海水をかき出していた。船体に入り込んだ海水をどうにかしないと、五分ももたずに船は沈むだろう。そうでなくとも砲撃は続いているのだ。
「ベルナルトさん、ちゃんとお仕事してるかしら?」
そんなベルナルドに声をかける『疾走天狐』ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)。銀の髪を動きやすいようにまとめたギンギツネのケモノビト。教育を受けた貴族がにじみ出る立ち様だ。
「一応まじめに働いてますよっと。じゃないと船が沈む」
「思ったよりも真面目で結構。私達の頑張りで、船員の皆様も助かるのですから……とても良い事ですわ!」
ガブリエーレの顔を見る余裕もない、とばかり手を動かすベルナルト。その様子を見て安心したかのようにガブリエーレは微笑んだ。普段はあまり活発的ではないベルナルトを見ているので、真面目に働く姿を見て安心する。
「で、お嬢は何やってんすか。ここにいたら濡れるぜ」
「濡れる? 私は壁に立てるから、これ位なら大丈夫ですわ」
「もう一回聞くけど、何やってるんすか? それなりの身なりのお嬢様なんですから」
壁に張り付いているガブリエーレを見て、ベルナルトはどういうべきか言葉を選びながら口を開く。船の壁に張り付くようにして立つ貴族のお嬢様。活発的な貴族なのは知っているが……。
「まあ、こんな所に来る時点で野暮か」
「? では情報伝達再開やね! ベルナルトさんも、排水作業ファイトですわ!」
「へいへい」
言ってガブリエーレは壁を伝って船内を移動し、故障個所を皆に伝えていく。ベルナルトは黙々とバケツによる排水を続けていた。
「分かった。修理に回るよ」
故障個所の報告を受けたマリア・ベル(CL3000145)は船に据え置いてある修理用の工具を手に現場に走る。壊れている箇所を見て、直す順番を整理する。先ずは排水。そして駆動系。爆発しそうな個所は人を避難させてから。
「よし、これなら何とかなる。任せておいて」
細かいチェックを終えた後にマリアはゴーグルを顔にかける。あまり素顔は見せたくないが、緊急事態なので仕方ない。手慣れた手つきで故障個所を組みなおし、テーピングで蒸気の漏れを塞ぐ。応急処置だが、これで何とかなる。
(できれば相手の新兵器も、誰か鹵獲してくれたらいいんだけどね)
そうすれば船の部品になるかもしれないのに、と愚痴るマリア。そんな余裕はないだろう事は解っているが。
「次は何処?」
「エンジンルーム近くをお願いしますわ。わたくしはポンプ類を見ます」
マリアの声に応える『生真面目な偵察部隊』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)。蒸気機関に関する学問は習得している。その知識を生かし、この場を凌ぐのだ。五分持たせればなんとかなるとジョンは言った。その言葉を信じて。
「わたくしはコーリナー様を信じますわ」
暗い噂があるヘルメリアの元スパイ。こちらに協力すると言ったその言葉をレベッカは信じると誓った。だから今は動くのみ。修理のためにいったんバルブを閉じ、厚手の軍手をして配管の修理を行う。揺れる船の中、レベッカは汗を流しながら動いていた。
「こちらは完了しましたわ。伝達お願いします」
「はい、わかりました」
レベッカの言葉に頷く『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)。いまだに砲撃を受ける船は時間ごとに故障個所が増えていく。その伝達は重要な仕事だ。何処が直り、何処が壊れたか。それを元に応急処置は行われる。
(わたしは機械に詳しいわけでも船員の方を癒せるわけでもないけど……)
サラは走る。この素早い動きがサラの最大の武器だ。ならその足を生かして動くのみ。伝達が終われば排水や消火。修理や治療以外の雑用なら何でもやる。それらの専門家を十全に動かすために。一人一人が出来る事をすれば、事態は好転する。そう信じて動くのだ。
「船員の方への被害が少なくなるよう頑張ります!」
「わわわ、私にも手伝える事があ、ありますかっ」
パニックに陥らないように自制しながらリリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)は周囲に問いかける。落ち着こう、と思えば思うほど気持ちは逸り、何をするべきかわからなくなる。ゆっくり深呼吸をして、周りの動きを見る。
(しっかりするのよ、リリー。出来ることはある。あるはず)
リリーと母に呼ばれて慣れ親しんだ一人称を使って、心を落ち着かせるリリエラ。先ずは怪我人を運ぼう。そう決めれば自然と体は動いていた。爆発に巻き込まれた人を抱え、安全な場所に向かって走り出す。
「大丈夫です。私達が何とかしますから!」
「そうです! なんとかしますっ」
リリエラの言葉に同調するティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。まだ自分が新米で未熟な事は分かっている。それでも誰かを助けたいという気持ちは未熟ではない。ここを乗り越えて、ヘルメリアへの戦いに挑むのだ。
「ヘ、ヘルメリアでは奴隷にされた方々が今も苦しんでいるんですよね?」
手先の器用さを生かし、細かな修理を行うティルダ。シャンバラのヨウセイに対する扱いと、ヘルメリアの亜人。その境遇を重ねていた。虐げられる苦しみ。命を奪られる哀しみ。それを知っているから。そんなことは良くないと知っているから。
「奴隷を解放するために、頑張らないとですっ」
「お仕事開始。坊ちゃんの傍……僕の居るべき場所、帰る為」
翼を広げて出火場所に向かうユートリース・ミアプラキドゥス(CL3000573)。何故かメイド服を着たユートリースだが、それ以外は無駄のない動きで消火活動を行っていた。空気中の水分を集め、バケツに水を満たして火にかける。海の上だから、水が集まるのは早い。
「メイド・オブ・オール・ワークの腕見せる」
淡白に言ってテキパキと動くユートリース。ユートリース自身は今回の戦争の件に特に感想や思う所はない。ユートリースを動かすのは『坊ちゃんの為』だ。坊ちゃんは今戦っている。だからこちらも今できる戦いをこなすのだ。
「メイド服の需要があるって聞いた、から女装で来た。よく分からないけど」
「だ、そーですよー。せんせー」
「肌の汚れを避ける為の長袖膝丈スタイル。効率重視なイ・ラプセル一七五〇タイプのようですね」
半眼で見るネズミのケモノビトに対し、顎に手を当てて答えるジョン。
「本気なのかふざけているのか。俺にはその嗜好は真意を隠す仮面に見えるよ」
そんなジョンに向けてライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は静かに答える。蒸気機関に関する知識を生かして修理をしながら、ジョンの動向を見ていた。いうべきことはいくつかあるが、最初に聞くべき言葉は船に乗り込んだ時から決まっている。
「ヘルメリアに襲撃されるまでは想定内だな?」
「おや? 慧眼ですね」
ライモンドの問いかけを、誤魔化すことなく認めるジョン。
「当然だ。君がイ・ラプセルに下った時点で、ヘルメリア海軍は通るなら此処だと想定していたはずだ。敢えてそれに乗ったのはフリーエンジンも回収に来るからか。
酷い話だ、ここまで派手にぶつかる必要があったか? それともフリーエンジンの頭目が無駄に派手好きなのか」
「後者を否定する気はありませんが、必要性はあります。『イ・ラプセルの策を見破って、勝利した』と思わせれば、こちらの偽装を疑う事はないでしょう。自分の意志で勝ち取った勝利なら、疑う余地はありません。
……とはいえ、『蒸気王』と『ディファレンスエンジン』を何処まで誤魔化せるかは未知数ですが」
「まあいい。私は私の目的の為だ。なに、今は君らの邪魔にはならないだろう」
ため息と一緒に不満を吐き出し、ライモンドは作業に戻る。
「え~。これも作戦なの~? 船沈められちゃったら困るぅ~。あたし泳げないんだよ~。溺れたら助けてくれる~?」
『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は問い詰めるようにジョンに質問を重ねる。その間もホムンクルスを使って修理を行い、クイニィー自身も手を動かしていた。
「っていうか、詳しい作戦の内容。そろそろ教えてもらってもいいと思うんだけど~。あと歯車バッチはどんな役割があるの? フリーエンジンの会員バッチとか?」
「ああ、船は沈みます。そうしないと死亡を偽装できないので。ただ五分間はもたせないといけないので修理は必要ですが」
さらりととんでもない事を言うジョン。
「ですがご安心を。『フリーエンジン』の仲間が助けに来ます。バッヂはその為の誘導灯ですね」
「でも船でノコノコ来たら砲撃の的になるんじゃない?」
「ええ、その通り。ですから――」
作戦の内容を聞いて、クイニィーは笑顔を浮かべる。
「すごーい、流石ヘルメリア! 色々面白いこと知れそう!」
手を叩いて喜ぶクイニィー。未知の国に対する興味が彼女の期待を満たしていた。
●海上Ⅱ
海上戦ではあるが、そのフィールドを自在に駆ける者達がいる。ウミビトやソラビト。彼らは自分の特性をフルに生かして戦いに挑んでいた。
「では行きますか」
『ReReボマー?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)もその一人だ。戦闘開始と同時に水中に潜り、そこから回復の術式を飛ばしている。戦いで傷ついた者をそのダメージの深さを基準にして癒していく。
「危なくなったら水に逃げて――と言うほど甘くはないようですね」
「当然だ。深く潜ったならともかく、水面に顔を出す相手など戦い慣れている!」
エミリオは肩から血を流しながら、目算を誤ったことを察する。彼らは海軍だ。水中に居る相手の攻撃方法はあって当然だ。戦闘圏外まで逃げれば問題ないのだろうが、そうなれば仲間を癒せなくなる。
「何とか合流部隊が来るまで持たせたいのですが。どうなりますか」
「そんなこともあろうかと、くーは盾を持ってきたのじゃ! 見よ、この大きさを!」
巨大な盾を持ち、『アイギスの乙女』フィオレット・クーラ・スクード(CL3000559)は水中で威張る。ただでさえ大きな盾だが、戦いの際に展開してさらに防御範囲が広がる仕様になっている。目立つことこの上ないが、防御力は充分にあった。
「とにかく今は耐えるのじゃ。回復はくーに任せて攻め立てぃ!」
水中を自在に移動しながら盾だけ水面に出してフィオレットは戦う。盾より重い者は持てないと豪語する(?)彼女は敵を攻撃するのではなく回復で仲間を支援していた。出来の銃弾を巨大な盾で弾きながら癒しの魔力を解き放っていく。
「ここで必殺のぉ、サクリファイス! 必殺技があれば決まったのじゃがなあ」
「そんなことないよ! アタシも頑張るとするかねぇ!」
しまらないと声をあげるフィオレットに向けて、トミコ・マール(CL3000192)は嗤って翼を広げる。そのまま宙を飛んで夜の海を飛んだ。そのまま鉄塊を構え、胸を張って仁王立ちする。
「ハハハッ、アタシはここだよ! 狙えるものなら狙ってみな!」
自分の体力を信じ、トミコは敢えて敵に狙われやすい上空に飛ぶ。ガーディアンの技で身体を強化し、囮となるために自らを晒す。自分が傷ついている間は仲間は傷つかない。その間に仲間が何とかしてくれると信じていた。飛び交う銃弾がトミコを襲う。
「まだだよ……! アタシはそう簡単に、倒されやしない……!」
「あ、危ない……今……治すから……」
水中から顔だけを出して『笑顔のちかい』ソフィア・ダグラス(CL3000433)は傷ついたトミコを見る。戦う事は怖いけど、水の中からなら何とか支援できる。水中にあるマナをかき集め、マジックスタッフに集める、
「体力が減ってる人が……いっぱい……今……傷を癒す……」
ぼそぼそと呟くソフィア。銃弾と砲撃だ飛び交う戦場の恐怖。いつそれが自分の方に飛んでくるかわからない。その恐怖に耐えながら呪文を完成させる。大海に満ちたマナが杖の先端でその色を変えていく。冷たい青のマナから、白く光る癒しのマナに。ソフィアの合図と共に放たれたマナが仲間達を癒していく。
「戦いは苦手だけど……水の上なら……ボクも活躍……できるかも……」
「おっし、じゃあおじさんは向こう行ってくるわ」
『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は言葉と同時に深く海に潜り、敵陣に迫っていく。水中から魔法で攻撃しようとするが、海軍もそれを察知しているのかタルの爆雷を投下してくる。爆発の衝撃を避けながら、ニコラスは船に居る男を見た。
「よう、ニコ。卿の所に戻ってきた、なんて事はないよなぁ?」
「驚いたね。お前が野郎の顔を認識出来るなんてな」
銛をもったガンナー。『ランサー』ネッドと呼ばれた海の英雄。ニコラスは油断なく銛を構えるネッドを見ながら次の手を考える。逃げるか、それともまだ戦うか? 逃げるにせよ戦うにせよ、油断なく構える銛をどうにかしないと。
「そりゃ覚えるさ。あの娘、お前の名前をずっと叫んでたからな。お前が戻ってくる、って信じてな」
「……っ! そうかい。それは――」
脳裏に浮かぶ人物。ニコラスは湧き上がる激情を必死に押さえた。
「ああいう女が堕ちていくのは、いい酒の肴になったぜ。そういう意味でお前には感謝――おおっと!?」
「――忘れてたわ」
空中でスナイパーライフルを構えた『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が静かに呟く。ネッドに向かい銃を放った彼女は、そのまま次弾を装填する。薬莢が水中に落ちるより早く、アンネリーザは次の構えに入っていた。
「シャンバラは、ヨウセイを助けるっていう大義名分があった」
撃つ。また装填する。
「今回は奴隷としてへルメリアに居る亜人を助けるため。アンタみたいな人から、守るために戦うのよ」
撃つ。また装填する。
悩むことはあるだろう。選択を誤ったと嘆くこともあるだろう。でも、手は止めない。止めればその分犠牲者が増えるというのなら、ボロボロになりながら進んでいく。それがアンネリーザ・バーリフェルトと言う生き方だった。
「空中に浮いてりゃ、いい的だぜ。帽子のねーさん!」
「そうね。少しの間なら攻撃を引き受けてあげる」
同じく羽を広げて飛行する『浮世うきよの胡蝶』エル・エル(CL3000370)。ゆれる波など空を飛べば脅威にはならない。その代わり、狙われやすくなるのは確かだ。ましてやそれが明らかに詠唱しているとわかるのなら、魔術を放たれる前に倒そうと思うのも当然の流れ。
「……ッ!? ま――まだ……っ!」
銃弾を受けて血を流しながらエルは意識を保つ。死ぬつもりはない。いや、本当はこの戦いの前――シャンバラの戦いで死ぬ予定だった。だけど生き残ってしまった。生き残る理由が、出来てしまった。その理由はまだ表現不能のモノだけど、それは確かにエルの心にあるのだ。
「海の波より恐ろしい波動がある事を知りなさい!」
寄せて返す二重の魔力波。それが敵陣を襲う。魔術に慣れていない海軍はそれだけで大きな打撃を受けた。それを確認し、エルは脱力するように落ちていく。そのまま気を失い海に――
「大丈夫か? ボロボじゃねえか」
「貴方も、酷い有様ね。後は、任せたわよ」
海に落ちる前に自分を受け止めた男の声。その声に安堵するようにエルは意識を手放した。
●甲板Ⅱ
自由騎士と蒸気騎士。甲板での戦いは激化する。
「ミケの踊りでみんな、元気だすにゃっ♪」
『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)は甲板で踊る。ピカピカの尻尾の鈴が、ステップを踏む度に音を鳴らす。凪いだ海を思わせる静かな踊りと同時に放たれる魔力が、仲間達の傷を癒していく。
「自由騎士は人材不足のようだな。旅芸人で人材を水増しするなんて」
「ただの旅芸人と思ったら大間違いだにゃ。ミケの踊りは皆を笑顔にするんだにゃ」
しなやかさを保ちながらミケは戦場で踊る。『マーチラビット』の炎がミケの体力を奪うが、それを感じさせない明るい笑顔だ。それは踊り子のプロ意識もあるが、心の底から踊ることで笑顔にできると信じている証でもあった。
「にひひひ♪ ミケの踊りを見るんだにゃーっ!」
「いきなり大ピンチで大変だけど、がんばろー!」
おー、拳を振り上げる『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)。熱い酒声をあげている蒸気騎士は避けて、他の騎士の目星をつけて距離を詰めていく。ナックルを構え、力強く踏み込んで拳を叩きつけた。
「敵の攻撃範囲内に蒸気騎士を巻き込むように動けば――って普通に巻き込んで撃ってきた!?」
「その程度の覚悟なくして、騎士が前に立てるか」
リサは広範囲の攻撃を避けるため、敢えて蒸気騎士に接近して榴弾を打つのをためらわせようとした。だが蒸気騎士は申し合せたかのように範囲攻撃を仕掛ける。その装甲を信じたか、あるいは自由騎士を効率よく討てるならそれもよしと受け取ったか。
「覚悟完了だね。それじゃこっちも全力で殴りに行くよ!」
「出来るだけ多対一の形を作るんだ。陣形を維持し、孤立するのを避けてくれ」
声を出しながら『そのゆめはかなわない』ウィルフリード・サントス(CL3000423)は蒸気騎士に武器を向ける。騎士同士の実力はともかく、武装と言う意味では蒸気騎士は未知数だ。下手に一対一で挑めば大怪我を追うだろう。
「上手く分断してた対一の方向にもっていきたいが……そう簡単にそれが出来る相手でもないか」
「その辺りの海賊と同じと思われては困るな」
国を守る軍隊の練度は低くはない。ウィルフリードも分かってはいたが、そう簡単に相手一人を囲める状況は生まれない。となれば地道に攻めていくしかないのだ。全身の力を込めて、蒸気騎士に武器を振り下ろす。
「愚痴を言っても始まるまい。今はこの状況を突破するのみだ」
「然り。これは負けられぬ戦いだ。全力を尽くそう」
ガントレットを嵌めた『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)が口を開く。スラム生まれも貧しい出自だが、親の教育がよかったのか正義を愛する真面目な性格に育った。どのような戦いにおいても、自分の正義を掲げるほどである。
「我が正義は回復のみにあらず、攻めるヒーラーをとくと見よ!」
後衛で回復を行っていたラメッシュだが、好機を見出すと同時に前に出て拳を振るう。両者のバランスを見ながら術を放つヒーラー。その経験が機を見出す勘を鋭くしていた。そしてすぐに仲間の元に戻り、回復の術を行使する。
「おのれ謀ったか……!」
「回復役が後衛など誰が決めたことなのだ」
「とはいえさすがはヘルメリア。練度は高い」
錬金術でラメッシュに生命力を与えていく『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。彼は後衛の回復役を中心に生命力と精神力を活性化する薬品を与え、継戦能力を高めるサポートに徹していた。
「指揮官を倒せば一時的に指揮系統は麻痺する。狙う価値は高いな」
「来いィ! 数多の技師が苦難の末に作り上げた型式Sys-QoH・塗布式対魔装甲『クイーンオブハート』、けして甘くはないと知るがいい!」
避けぬと言いたげに胸を叩くマリオンに対し、ウィリアムは錬金術を展開する。赤く光る赤い液体が気化し、細かな粒子の矢となってマリオンに穿たれた。魔装甲は確かにその威力を削いだが、液体に内包された毒がマリオンの身体を蝕んでいく。
「卑怯とは言うまい? これも戦いなのだから」
「無論! そしてこの程度、気力で克服するのみ!」
「しかし朗報だね。魔術そのものはある程度弾くけど、副次効果は残るという事か」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は蒸気騎士の動きを観察して、一つの結論に至る。格闘技の防御の構えも、防御力を高めるが精密に穿たれた一撃の影響は避けれない。技法を高めれば対魔装甲とやらにも通じるのだ。
「やるべきことは変わらないね。己を高め、その技法をもって挑むだけだ」
「そんなことは、俺達も同じだああああああ!」
マグノリアの言葉に暑苦しい声が帰ってくる。自分達が努力するように、ヘルメリアの騎士達も努力する。技術の上に胡坐をかいで威張っているような連中ではないのだ。散開した薬品がキリとなって蒸気騎士を蝕む。威力こそ削がれたが、毒は確実に体力を奪っていく。
「流石に目に見える所に動力源らしいものはない、か」
「魔導を良しとしないけど、対策はきっちりするわけですねぇ~」
不満そうにつぶやく『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。ヘルメリアは科学の国だ。現象そのものを非科学的だと『非科学的』に否定はしない。事実を認め、それを法則づけて対処するのが科学なのだ。
「ふむ、効きやすい魔法と言うのはなさそうですね~。一律同じように弾くようですぅ~」
「ぐ……。バカスカ打ち込んでくれたな……!」
その例に倣い、シェリルも『科学的』に相手の対魔導装甲に様々な術式を試していく。どれだけ弾き、どういった結果になり、別角度からアプローチし。少なくとも蒸気騎士の反応からノーダメージではない事は分かったのは確かだ。
「では次はこれでいきましょう~」
「カノンも行くよー! たー!」
元気よく『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)が叫んで蹴りを放つ。難しい作戦を考えるのはカノンの仕事ではない。五分耐えろというのなら、そのままに戦うのがカノンの仕事だ。途中、熱く叫んでいる蒸気騎士を指差し、一言告げる。
「ちょっと、おじさん煩い!」
「俺はまだ二十歳だ! おじさんでは、なぁい!」
大声で否定するマリオン。実際のところ、マリオンの年齢自体はどうでもよかった。会話により時間を稼ぎ、あわよくば相手の注意を引ければ。迫りくる槍を避けながら、カノンはさらなる追撃を加える。
「二十はおじさんだよ。センセーみたいにカッコよければ別だけど」
「ま、二十歳でこの作戦に抜擢された騎士様だ。相応にはできるんだろうよ」
ニヤリ、と口角をあげる『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)。アンの目的は強いものと戦う事。ただそれだけの為に戦いに身を投じ、そして生き延びていく。騎士と銃士。その在り方は違うが、強弱はそんな事とはお構いなしに決まる。
「そう言えば、船の上で強敵とやりあうっていうのは何かを思い出すね!」
一年ほど前のヴィスマルク戦を思い出すアン。あの時はラッパ銃を持つ軍人との戦いだった。今は蒸気機関で身を固めた騎士との戦いだ。世界は広い、見知らぬ土地の見知らぬ強敵。戦い続けていれば、いつかどこかで交差するだろう。
「アンタは何処までやれるのか、楽しみだね!」
「蒸気騎士の名にかけて、負けるわけにはいかないっ!」
「騎士の名を出されたからには、こちらも退くわけにはいかない」
マリオンの前に立ち武器を構える『活殺自在』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。国ごとに掲げる騎士道の違いはあるが、国家と民を守護するのは変わらない。その為に効率重視の騎士もいるが、礼節を重んじる相手ならこちらも礼を尽くそう。
「俺は騎士アリスタルフ・ヴィノクロフ。一騎士として貴公に一騎打ちを望む!」
「ヘルメリア蒸気騎士マリオン・ドジソン! その勝負、受けて立とう!」
互いに一定の距離を取り、武器を掲げる。合図として投げ出されたコインが地面についた瞬間に二国の騎士は動き出す。槍の穂先が僅かに揺れたのを見て、アリスタリフは距離を詰める。体内の気を一気に解放し、鋭い風のような突きを繰り出した。
「ふっ……強い、な」
「貴殿こそ! 結束一年僅かの騎士団と侮っていれば、深手を負っていたな!」
「いやでも目に付くわね、あの暑っ苦しいの」
叫ぶ蒸気騎士を見ながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はため息をついた。顔すら見会えないほどの重武装な蒸気騎士。その中にあって、唯一個性らしいものを持つ暑苦しい相手。その槍の動きを見て、思わずエルシーは足が向く。
「イ・ラプセルの自由騎士、エルシーよ。スクラップにしてあげるから、かかってきなさい」
「おうとも! 蒸気槍『ホワイトラビット』で汝らの野望を弾いてくれよう!」
手間に益するエルシーに、槍を掲げてから迫るマリオン。蒸気騎士の性能もあるが、槍捌きは鍛錬された戦士の動きそのものだ。その事に感心しながらエルシーは手甲を振るう。赤い竜の一撃が、蒸気騎士の鎧を穿つ。
「海を超えて聞こえし『緋色の拳』。まさに噂に違わぬ動き! 立場が許せば正式に勝負を挑みたい所だ!」
「蒸気機関の性能に頼るお坊ちゃんかと思ったけど、やるじゃない。デートのお誘いは下手みたいだけど」
「んー……思ったより紳士的だけど、相手がノウブルだからなんだろうね」
『博学の君』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)はマリオンとエルシーの会話を聞いたのちに、冷たく言い放つ。ウザくて熱い脳筋騎士のように見えて、相手の実力を軽視しない。だが『ノウブルの対等な強敵』と『良く訓練を仕込まれた亜人』の差を感じていた。
(それが彼ら――ヘルメリアの常識なんだろうね)
仲間に回復を施しながらアクアリスはそんなことを考える。彼らにとって亜人は人じゃない。飼い犬か飼い猫ぐらいの価値なのだ。その『扱い方』は各個人それぞれだろうが、決してノウブルと亜人を同列には扱わない。それが見て取れた。
「さて、どうなる事か。文字通り水が会わない相手なんだよね。熱と水って所も」
「んなあああああああああおおおおおおぅぅぅぅ!!」
叫び声と共にスピンキー・フリスキー(CL3000555)はマリオンの前に立ち、武器を構える。マリオンの叫び声に負けじとばかりに猫パーカーの奥から声を出し、自らを指差して相手を挑発した。――叫んで時間を稼ごうとか、そういった考えではないようである。
「クソデカボイスなら誰にも負けない! そぉれがスピンキー・フリスキーだぁ!」
「ぬぅ! だがこの熱き魂の叫び、誰にも負けやしない!」
言ってマリオンと素ピンキーは叫び合い、そして武器を重ねる。雄叫びと共に叩きつけられる一撃。交差する一撃毎に百の会話を超える何かが伝わってくる。何物にも負けぬという熱い滾り。そう。その心こそが自らを熱く燃え上がらせていくのだ。
「その目に焼き付けろこの雄姿ィ! その耳に刻めこの咆哮ゥ! ここで倒れたとしても、この魂と叫びだけは倒れないいいいいいいいいいい!」
「こちらこそ! 蒸気騎士ここにありと、心に刻むがいいいいいい!」
「似た者同士だなぁ……。ま、こっちはこっちでやるか」
刀に手をかけ、月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が歩を進める。潮風が着流しを揺らし、ヨツカの髪をなぐ。目の前で繰り広げられる蒸気騎士との戦いを前に、臆することなく戦場を歩いていく。まるで、馴染みの通りを歩くかのような軽やかさで。
「暴れてくれば、いいのだろう? 任せろ。ヨツカの……得意分野だ」
「何者だ? 無名のオニビトのようd――」
構えを取る蒸気騎士の言葉は、最後まで続かなかった。
気が付けばヨツカは騎士の背後を歩いており、ため息と同時に納刀する。納刀音が甲板に響いたと同時に、交差した蒸気騎士は人形の糸が切れたかのように崩れ落ちていた。そのまま何もなかったかのようにヨツカは蒸気騎士を見る。
「ヨツカだ。覚えておけ」
戦好きのオニビトの笑み。そこに恐怖と他の何かを感じた蒸気騎士は、相手をけして無名だと侮ってはいけない事を悟っていた。
●海上Ⅲ
「もう始まってるか。陽動で時間食ったからな……」
抱えた女性をそっと下した後、『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は息を吐いた。陽動作戦でプロメテウスと戦い、その時のダメージはまだ快癒したとは言い難い。痛む体を押さえながら、もうひと仕事だと自らに檄を入れた。
「だがまあ……歯車騎士団とやり合えるのなら悪くねえ!」
銃を構え、歯車騎士団の船に向かって撃ち放つ。ここはまさに敵地。そして相手は復讐する国の軍隊。ザルクは魂が焦げるような感覚に支配される。理性でギリギリブレーキをかけながら、しかしここで手を抜くつもりはないと弾丸を放つ。
(……しかし、死亡を偽装? 上手くいくのかねマジで)
ジョンを疑うつもりはない。だが、ここまで敵に囲まれた状況でどうやって?
(そこはそれ、派手にやればいいんじゃ。ワシら相手からすれば有名人じゃからな)
小声でつぶやくザルクに近づき、同じく小声で返す『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。自由騎士としてイ・ラプセル国内外で動いているシノピリカだ。当然その活躍も相手の国に伝わっている。
「ワシのことはスパイでご存じなのじゃろう。この戦果、情報通りかどうか確かめるがいい!」
傷で痛む体を諸共せず、最前線に出るシノピリカ。この肉体、この機械の腕。それは誰かを守るためだと言わんがばかりである。後ろで指揮するのではなく、前に出て仲間を導く。それこそが我が栄光とばかりに。仲間の盾となった彼女はそのまま――
「ぐわーーー! やーらーれーたー!
シノピリカ・ゼッペロン、一生の不覚……むーねーんーなーりー!」
「いや早いから。もう少し踏ん張れ。確かにしんどいけどな!」
派手に叫んで倒れるシノピリカにツッコミを入れる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。事実、先の戦いでのダメージはほぼ残っている。前衛で挑んだ相手程ではないにせよ、疲れが残っているのは事実だ。
「さあて、覚悟しろよ怪我人共。治すぞ」
ツボミも充分怪我人なのだが、そこは気にせず癒しの術式を展開する。もう出し惜しみをしている余裕はない。残った精神力全てを使い切るようなペースで、癒しの魔力を放っていく。戦線を立て直し、時間を稼ぐのだ。
「……とはいえ、アイツはやばいな。鯨でも狩ってろって話だ」
ツボミの目には銛をもった歯車騎士の海軍がいた。人に隠れてもその人ごと貫いてきそうな腕前だ。
「流石海軍だな。海慣れしているのはこちらばかりでもないらしい」
『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)はツボミが注視する相手の動きを見て、そんな感想を告げる。通商連から(高額で)学んだドクトリンとは別種類の海戦技術だ。とはいえこちらも負けてやるつもりはない。
「『ランサー』ネッド。悪いが封じさせてもらう」
「やだねぇ。男と付き合うつもりもないし、楽して勝利したいんだよね」
アデルの申し出に軽口を返しながら銛を構えるネッド。高重量のアデルの槍と鯨を穿つ森が交差する。パワーならアデルが、速度ならネッドが勝る槍と槍の勝負。三合交わした後に、ネッドが大きく距離を取る。
「――投擲か」
ネッドの意図を知り、アデルは防御の構えを取る。追おうとすれば他の歯車騎士団に阻まれる形となる。
「戦いってのは自分の得意の押し付け合いなんでね。その槍は流石に投げれねぇだろうしな……っと!」
「そうはいきません!」
銛を投擲する準備をしていたネッドに向けて、『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が斬りかかる。動くたびに先の戦いで受けた傷がじくりと痛む。もしかしたら傷口が開いたかもしれない。何とか痛みをこらえ刃を握りしめる。
「勇ましいねぇ。だけど無理しすぎだ。可愛い体に傷がついたら、奴隷商で査定した時に買いたたかれちまう」
「……っ。奴隷商人に売るつもりなのですか……!」
ネッドの森をさばきながらアリアが叫ぶ。ヘルメリアは奴隷を完全にシステムにしている。基本的には亜人だが、ノウブルの奴隷がいないわけではない。そんな使いなど御免とばかりにアリアの刃が高速で走る。
「温情のつもりなんだけどねぇ。ここでつかまれば斬首確定。死んでるよりは生きてる方がいいでしょう? こう見えても女性には博愛主義なんですよ」
「その扱いが博愛と言うのは納得できないな」
ネッドの言葉に異を唱えるように『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が声をかける。肩で息をしながら、どうにか立っている状態だ。それでもまだ負けるつもりはない。自分の信念の為に、ここで膝を屈するつもりはなかった。
「女性をモノとして扱う……いいや、奴隷制度そのものが納得できない!」
「そういやイ・ラプセルは亜人放し飼いでしたっけ? 躾とか大変でしょうよ」
真摯に抗議するアダムに対し、ネッドはふざけたように挑発する。奴隷に対する考え方。亜人に対する考え方。同じ人間なのに、こうも考え方が異なるのか。奥歯を強く噛みしめながら、力の限りに武器を振るう。負けられない、と言う信念を込めて。
「どうして……! どうしてそんなことが言えるんだ!」
「そちらの国だって数年前まではそんなこと言ってたんでしょうよ。ついでいうと、よその国の常識にいちゃもんつけるなら、戦争になりますぜ。今更だけど」
「んー、国とか正直どーでもいーけど繋がった縁は大事なのよ」
『炎の踊り子』カーシー・ロマ(CL3000569)はネッドの言葉に腕を組んでそう返す。イ・ラプセルの自由騎士と言う立場ではあるが、カーシーは国の為と言う気はあまりない。だが、そこで出会った仲間の為なら身を粉何して戦おう。
「作戦の是非も意図も、問うのはこの場を凌いでからだ」
盾を構えて『砕けぬ盾』オスカー・バンベリー(CL3000332)が呟く。陽動の失敗。そしてヘルメリアに見つかった現状。それさえも作戦の内と言う。その是非を問うより前にこの場を切り抜けなくては。頼れる仲間と共に。
「ルーク、オスカー、カーシー……ただいま」
「メインヒーラーのお姉ちゃんが来たからにはもう安心ですよ!」
陽動作戦に参加していた『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)と『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)が合流してくる。二人とも戦いの痕がまだ癒えきっていない。事、リムリィは激しい攻撃を受けたのかボロボロだ。
「無事……とは言えない様だな。まずは傷を癒せ。その間は俺達で支えてやる」
そんな二人の様子を見て『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は包帯を巻く。簡素だが応急処置にはなったようだ。二人が帰ってきたのなら、やるべきことは決まった。この場を乗り切り、勝利を掴むのだ。
【熾火】の五人は、視線を交わした後にそれぞれの場所に移動する。オスカーを前面に出し、その両翼にリムリィとルーク。その背後にフーリィンとカーシー。五角形になるような陣形を敷き、動き出す。
「合わせるぞ。カーシー!」
「はーい!」
ルークの合図と共にカーシーが回るように踊る。遠近感を狂わす踊りが歯車騎士団の距離感を惑わした。その隙を逃すことなくルークが弾丸を撃ち放つ。兜に守られているとはいえ、こめかみに衝撃を受ければ相手はよろめく。
「ちからをあわせれば、このじょうきょうだってなんとかなるはず」
「おねえちゃんが一杯癒しますから、頑張ってきてください! ……はふぅ」
「やれやれ危なっかしい。だが、信頼はできるな」
無表情のまま血を流すリムリィ。しかし傷などないかのように歯車騎士団に迫り、巨大な鈍器の一撃を加える。そんなリムリィを始めとした仲間達をサポートすべく、フーリィンは癒しの魔力を解き放った。本来自分を支えている魔力も解き放ち、貧血で膝をつく。倒れそうになるフーリィンを肩で担いで支えるオスカー。敵陣を見据えたまま、仲間達の動きを観察していつでも庇えるように構えていた。
会場の勢いを盛り返す【熾火】の勢い。その『臭い』を察したのかネッドが銛を構えて力を籠める。全身の筋肉を引き絞るようにして構え、一気に解き放つ。
「ノウブルの女を殺すのは目覚めが悪いんだけどねぇ。ま、ヒーラー狙うのは戦術の基本てことで。軽く死んでくださいな」
軽薄な言葉と共に解き放たれる銛。海の巨大幻想種すら傷つける鋭い一撃がフーリィンに迫る。
「お前は鯨は殺せるだろうが――」
その銛を――一枚の盾が阻む。
「この盾の後ろに居る者は殺せない。未だ不甲斐ない俺だが、この盾の後ろだけは守り抜く」
重い一撃。オスカーは『ホエールキラー』の一撃を受け止めながら、しかし仲間は守ると誓いを立てる。全ては守れないけれど、この盾の後ろに居る仲間だけは守り抜く。
銛が加速するように力が籠められる。鯨の皮膚すら貫通する『ランサー』の秘技。ただの人間など受け止める事すらかなわない。熟練の騎士でも、無傷ではいられない。
それは誓い。誰かを守り抜くという誓いが生んだ奇跡。己の信念に盾が呼応し、そして相手の技法を上回ったのだ。
故に――この奇跡は『盾の誓い』。己の未熟を知りながら、しかし護ると誓った騎士の在り方。
「…………こいつは心折れそうだぜ。今のは結構本気で放ったんだぜ」
「ええ。ですがこれが現実です」
震える足に活を入れながら『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はネッドに迫る。両足に魔力を帯びた靴を履き、水上を走り歯車騎士団を攻め立てる。残りの体力を考えればそう長くは走れない。それを理解しながらミルトスは走る。
「おいおい、ボロボロじゃねぇか。さっきのお嬢ちゃんと言い、イ・ラプセルは本当に無茶するな」
「生まれてこの方『死んで来い』なんて言われるのって初めてなので、ちょっと加減がわからなくて」
「いやいやいや! 恥じらいながら言う事じゃねぇから、それ!」
ミルトスの攻撃を腕で受け、転がって移動しながらなんとか致命傷を避けるネッド。予備の銛を置いた場所に移動しようとするが、ミルトスはそこに先回りしてネッドを阻む。大きく下がろうとするネッドの胸元にミルトスの蹴りが突き刺さった。
「……げふぅ……!?」
「『ランサー』ネッド、見事ですがここまでです」
気を失ったネッドに向けて、ミルトスが言い放つ。歯車騎士団がその結果にどよめいた。
このまま一気に――と思った自由騎士は予想外の轟音に足を止める事となる。
乗ってきた蒸気船が、爆発したのだ。
●沈む自由騎士
船には構造上『背骨』に相応する部分がある。船はそこから『肋骨』のように材木を組んでいく。船の強度部分であるそこが折れれば、航海は困難になる部分だ。
ある程度航海になれたヘルメリア海軍は、その『背骨』を折ったことを確信する。連鎖的に起きる爆発が、さらにイ・ラプセルの船の崩壊を加速させていた。歯車騎士団は勝利を確信し、撤退にかかる。距離を取りながら砲撃を続け、自由騎士達を脱出させないような陣形を展開していく。
「おわっ!?」
次々と海に投げ出されていく自由騎士達。水上歩行の加護を使っていた自由騎士も、爆発の衝撃で足場が揺れれば立ってはいられない。足を取られ、入水してしまう。何とか体制を整えようとするが――
(なんだ……? 体が引っ張られる!)
自由騎士達は予想外の引力により海中に引っ張られていた。パニックに陥りそうになるが、何が原因なのかはすぐにわかる。胸元につけた歯車のバッヂ。そこに力がかかっているのだ。
(これ、バッヂが引っ張られてるのか? って、なんだあれ!?)
自由騎士の視界には、鯨のような何かがあった。
鯨ではない。鯨は木でできていない。鯨はガラスのような窓がない。鯨は腹部から触手のような何かを生やしていない。鯨はスクリューなんかついていない。
そんな『何か』が口を開き、自由騎士達を飲み込んだ――
●
気が付けば、自由騎士達は巨大な部屋に寝ていた。
一部始終を見ていたミズビトの話によると、自由騎士達は全員鯨のような何かに飲まれ、ここはその鯨の中だという。船内で動いていた者達の活躍もあり、船員などの非戦闘員もすべて無事のようだ。
「……危なかった。ミズビトが気付いてくれなかったらそのまま沈んでいる所だった」
アデルは深くため息を吐く。何故か理由で鯨に引っ張られなかったらしい。他の自由騎士より深く海底に沈んでしまい、その分疲労がたまっていた。
「ここは何処なんだ? って、なんだあれ?」
問う自由騎士に、ミズビト達は呆れたように壇上に立つ一人の少女を指差した。
「GoodEvening! ようこそ自由騎士の諸君! この『鯨型潜航船クルクー』の乗り心地はどうだ? ん? 控えめに言って最高? 当然だとも!
何せこの『フリーエンジン』代表のニコラ・ウィンゲート様の作り出したものだからな! 目覚まし時計の位置が微妙なこと以外はパーフェクトだ!」
胸を張り、かんらかんらと威張る少女。
なにあれ? と問うと、誰かが目を覚ますたびにあれを繰り返しているという。
とりあえず話の分かる人間に聞こう、とジョンを捕まえる自由騎士。
「なにあれ?」
「フリーエンジンの代表です。話にあった『仲間』ですよ。バッヂは特殊な磁力を発してこの船に誘導する役割を持ってます。
皆さんは海中に沈みました。海流激しいこの海で死体が上がることはまずないとヘルメリアも判断するでしょう。このまま海中からヘルメリアに上陸できます」
いや、そういう事を聞きたいんじゃないけど。それを分かっているのか否か、ジョンは説明を続ける。
「ヘルメリアとイ・ラプセルやシャンバラ領地内への移動もこの『クルクー』を用いて移動します。あらかじめ予定を立てていれば移動はそれほど難しくはありません。何せ皆さんは『死んで』います。スパイのマークもほぼないとみていいでしょう。
ともあれお疲れ様です。とりあえず私達の城に向かいましょう」
城? 困窮した組織からは想像できない単語である。そもそも蒸気国家ともいえるヘルメリアに城があるのだろうか?
「イ・ラプセルのお城ほどじゃ、ありませんけど、皆さんが、寝泊まりするだけのスペースは、ありますよ。
あ、寝心地は、少し悪いかも、ですけど」
久しぶりの我が家と言いたげにレティーナが微笑んで言葉を重ねる。よくは解らないが、体を休める場所があるのはありがたい。しばらくはそこがホームグラウンドになるのだから。
「YeaHA! この天才たるニコラ様はこの出会いの前にヘルメリアに攻撃を仕掛けておいたのだ! 何? それがなければ五分も戦わずに済んだ? そういう事もあるやもしれん!
だが攻撃は完璧だ。何せ跳ぶからな! ホップステップファルストボンバー!」
フリーエンジン代表は未だにメカ自慢を続けていた。自慢と言うかなんというかだが。
「繰り返すが、アレがフリーエンジンの代表なんだよな? ……その、大丈夫なのか? ただの…………メカ優先な常識知らずにしか見えないんだが」
「言葉を選んでいただきありがとうございます」
不安の元にジョンに問いかける自由騎士。ジョンは自由騎士の優しさに一礼した。
「些か特殊ですが――」
「いささか?」
「その特異性こそが彼女がリーダーたる所以です。――それに気づかない、という事はやはりイ・ラプセルはいい国なのでしょう」
よく分からない事を言うジョン。気づかない事が幸せ?
問い直そうとした瞬間に、軽い衝撃が船を揺らす。浮上する感覚と、窓から見える煤煙に包まれた灰色の空。
蒸気国家ヘルメリア。その景観が目の当たりにあった。
1819年6月28日――
公式記録として自由騎士は壊滅的な打撃を受けたと記される。
しかし非公式の記録として、この日自由騎士達はヘルメリアの地に足を踏み入れたのであった。
船内な混乱に満ちていた。
ヘルメリアの襲撃、上がる炎。戦いに不慣れな人達はパニックに陥り、そのまま砲撃によるショックを受けて傷を負う。
しかしそんな船員たちに寄り添う手があった。
「大丈夫ですか? 癒しますので、気をしっかり持ってください」
倒れた船員に向けて『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)が優しく声をかける。汚れと血の跡を清潔なタオルで拭き、止血の為に包帯を巻く。手慣れた動きはそうしたことになれている証。そして人を助ける為に鍛錬を重ねた証でもあった。
「祈りをここに。癒し手の力、ここにあれ」
「すまない……。手間をかけさせて。あんたほどの腕なら、俺達なんか無視して――」
「無視していい命なんてありません」
この戦争は自由騎士が決定した戦い。その為に無関係な船員を犠牲にしていいわけがない。癒し手として甲板の戦いに行くべきなのかもしれないが、そうと分かっていてもたまきは彼らを見捨てることはできなかった。
「さあ、次は――」
「いっそげー!」
応急処置をした人を抱えて運ぶ『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)。船の状況は変化していく。今この場が安全でも、一分後がどうなっているかなど分からないのだ。予想できる限り安全な場所に運ばなくては。
「交戦が終わるまでここで休んでいてほしいんだぞ! はい、これ!」
「悪い。でもこいつはアンタが飲んでくれ。まだ動き回るんだろう?」
「サシャは大丈夫なんだぞ! いっぱい食べてきたんだぞ!」
広い部屋に患者を運び、ジュースを渡すサシャ。患者がのどを潤したのを確認した後で、サシャはまた船内を走りだす。倒れている者、船を修理する者。そんな彼らを助けるべく奔走する。五分間、体力が尽きるまで動き続けるつもりだ。
「大変だけど、サシャは頑張るんだぞ!」
「優雅な船旅とはいきませんでしたね」
ふう、とため息を吐く『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)。元より密航である以上は優雅とは言えなかったが、それでもこんな歓迎をされるとは思わなかった。冗談めかして言うのは心を落ち着ける為。そのまま羽を広げ、動き出す。
「非戦闘員の方は船内の奥へ退避してください」
「わかった。あんたはどうするんだ?」
「まだやることがあります。さあ、早く」
避難誘導を同時に傷を癒すべくレオンティーナは動き出す。『世界一のメセグリン使い』……そんな夢を持つ彼女の癒しの力が振るわれる。やるべきことは多い。手が足りないことなど分かっている。それでもレオンティーナは諦めずに動いていた。
「さあ、次はあっちに行きますわ」
「はい。キリもがんばります」
レオンティーナの言葉にキリ・カーレント(CL3000547)が頷いた。バランスを取りながら船内を進み、耳を澄ませて周囲を警戒する。幸いにして甲板で交戦している音が聞こえるだけで、船内への侵入には至ってないようだ。
「皆さん、頑張ってください。キリは船員たちを守ります」
「っ……! すまない、騎士様。俺達なんかの為に」
「キリは大丈夫です」
高熱と蒸気が見れている音を聞き、そちらに向かうキリ。爆発の危険に晒されながらも修理する仲間や船員たちの盾となるような位置に立ち、彼らの身を守っていた。ケガすることも多いが、それで誰かを守れるのならキリは笑顔になれる。
「皆さんの安全は保証します……!」
「まずはあの人から……次はあの人。皆絶対に治してみせますっ」
『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)も人を癒す戦いに身を投じていた。普段は図書館に籠っているサブロウタだが、今こそが戦う時だと船に乗り込んでいた。学んだ癒しの術を使いって人を助けるその為に。
「大丈夫です! 皆さん、元気を出してください!」
「……っぐ、ぁあ……っ」
「良かった、生きています! 今術をかけますから!」
声をかけ、意識の状態を確認してからサブロウタは癒しの術を行使する。反応が薄いが、生きている。それを見て、自分でも癒せる範囲だと安堵した。放たれた淡い光が船員を癒していく。少しずつ戻る温もりと呼吸音に危険域を脱したと確信する。
「止まっている時間はありません。まだまだ行きますよ!」
「……ううっ、船の中は狭いです、ね」
爆発で揺れる船の中を『落花』アルミア・ソーイ(CL3000567)が進む。船に乗るのは初めてで、船が襲われるのも初めてだ。だが想像以上に怖くはない。それまでの経験もあるが、一人じゃないという事がアルミアの背中を押していた。
「回復、しますね。覚えたてですけど……」
「悪い……。右手が、動かねぇ」
自由騎士になって覚えた回復の術。アルミアはそれを行使して仲間や船員を癒していく。追い詰められて覚えたネクロマンシーの術と違い、自分の意志で覚えた呪文。思い出すようにそれを唱え、マナを導いて仲間を癒していく。
「もし倒れても、ネクロマンシーの力で、また戦えますから! じょ、冗談です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…… 」
「できる事を最大限に行う。それを恥じることはないさ。そう、『行動は言葉よりも雄弁に語る』だね」
芝居かかった口調でコール・シュプレ(CL3000584)はアルミアを慰めるように言う。行動の結果が正であれ邪であれ、それを行ったということがその人間を語っている。誰かを助けようとする事に、誰が文句をつけようか。両手を広げ、コールは主張する。
「さあ。行動開始だ。なに、大丈夫。百戦錬磨の自由騎士の登場だ。拍手喝采とはいかないだろうけど、心安らかにしてその活躍をご覧あれ!」
優雅に踵を返し、コールも行動に移る。バックに詰め込んだ医療品、癒しの術、そして演技力。それら全てがコールの武器。苦しむ者達を癒し、危機的状況にあっても笑顔で安心させる。その戦いこそが自分に出来る最大限なのだと信じていた。
「大丈夫。外では頼りになる仲間が頑張ってくれているし……中では私達が全力を尽くす。必ず治して見せるさ!」
ヘルメリアの攻撃で消えるはずだった命は、彼らの献身により繋がっていく。
●海上Ⅰ
イ・ラプセルの船に向けて砲撃を続けるヘルメリア海軍。オラクルの加護を知っているため、その距離は射撃圏内に近づきている。
だが裏を返せばこちら側が迎撃できる範囲でもあるのだ。戦いにおいて距離ほど重要なファクターはない。こちらの武器が届くか否かで、作戦の前提は大きく変わってくるのだ。
「ふむ。八艘跳びとまいりますか!」
「跳んだ!? ええい、厄介な!」
とん、と膝を叩いて『ジローさんの弟(嘘)』サブロウ・カイトー(CL3000363)は宙を舞う。まるで地面を蹴るかのように水面を蹴り、相手との距離を詰める。アマノホカリの英雄が如く船と船を跳び回り、刃を振るっていく。
「その時の戦いでは潮の流れが変わってくれましたが、今回はそうもいかないでしょうなあ」
翻弄するように刃を振るいながらサブロウは苦笑する。海になれているわけではないが、このわずかな時間で潮の流れが変わるとは思えない。ならば尽力するまでだ。持ち前の速度を生かし、重厚なガーディアンを縫うようにしてまた跳躍する。
「さて開戦から大変ですな。どうなる事やら」
「決まっておろう。勝つために動くのみだ」
サブローの答えに頷くように応える『尽きせぬ誓い』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)。ゆれる波など苦でもないとばかりに小舟を操り、槍を構えて敵陣を見る。大きく息を吸い込んで、押される味方陣を支える様に声を張り上げた。
「皆の物! この戦いにイ・ラプセルの未来あり! 諦めるな!」
『おおー! 行くぞー!』
声を限りにして叫び、仲間達に檄を入れる。前に出て敵を討つだけが騎士ではない。仲間を支え、激励することもまた騎士なのだ。その為にこの体はあり、その為にこの魂はある。
「あれは……ギルトバーナー! あの黄金騎士団を制した奴だ!」
「ほう。さすがヘルメリア、耳聡いな。ならば『傲慢』と言われたこの槍、受けてみるがいい!」
「ナナンもまけないぞ、おー!」
元気よく武器を振り上げる『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)。出来れば戦わずに行きたかったが、ここで戦わなければ仲間達がヘルメリアにより傷ついてしまう。そんな事は許せなかった。
「ぎゅーっとちからをこめて、だだーっとはしって、どっかーん!」
「思ったより、重い……!」
舌足らずでたどたどしく言いながら、ナナンは武器を振るう。自分の身長ほどある両手剣を握りしめ、然り腰を据えて振り回す。ガーディアンの盾とナナンの剣がぶつかり合い、派手な音を立てる。こらえきれなかったガーディアンがよろけ、膝をついた。
「まだまだ終わらないよ、とぉー!」
「――遅い」
一言告げ、『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)は太刀を振るう。海を走り、その速度を殺さぬままに振るわれた一閃。音すら切り裂くと錯覚させるほどの横一文字がヘルメリア海軍の足を止める。
「まだ止まらん。海の動きは熟知している。捕らえられると思うな」
「この動き、通商連の海兵並みか!」
止まることなく動き回るグローリア。事前に学んだ戦術により、波の動きはおおむね理解している。事前知識があれば揺れる足場でも速度を失うことなく移動が出来た。体をかすめる銃弾に足を止めることなく、刃を振るう。
「狙うならしっかり狙うんだな。そう簡単に当てられると思うな」
「予想はしていましたが、混戦になってきましたね……」
困ったように息を吐く『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)。広範囲の呪文は味方を巻き込みかねない。多数の敵を討つには効率的ではあるが、仲間を傷つけてしまっては意味がない。断念し、呪文を切り替える。
「炎人の血の一滴。怒りの声、ここに示さん――」
「魔術使い……! 盾、展開せよ!」
指先にマナを集わせ、魔力展開するマリア。高度な呪文はその分マナを消費し、継戦能力に劣る。何よりも魔法の威力は本人の魔力に依存するのだ。それを考慮した術の選択。マリアの炎が戦場を走った。
「焦らずに行きましょう。今はできる事を確実に」
「ガンナーをガーディアンが守ってくる。それはコチラも計算済みだ」
ヘルメリア海軍の布陣を見ながら『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)はダガーを握る。その布陣を崩すつもりはない。大事なのは時間をもたせること。それを念頭に置いて、戦いに挑む。
「行くぜ。あの男は悪い奴ではなさそうだしな。機会があればゆっくりと話をしてみたいものだ。この戦いが終わった後でな!」
作戦を持ってきたジョンのことを思いながらオルパは海の上を走る。話す時間はあまりなかったが一度腰を据えて話してみたいものだ。ヨウセイに伝わるレンジャーの技法。それを駆使して戦端を維持する。二重ナイフの舞がヘルメリア海軍を襲う。
「ヨウセイと戦うのは初めてか? そのまま翻弄されていろ!」
「落ち着け、戦線を維持しながら砲撃を続けるんだ!」
ぶつかり合うイ・ラプセルとヘルメリア。両雄とも譲るつもりはない。
海の上での戦いはまだ始まったばかりだ。
●甲板Ⅰ
そして甲板ではヘルメリアが誇る新型『蒸気騎士』の一団と自由騎士達が抗戦していた。
「カーミラ・ローゼンタール、ここにあり! かかって来ーい!」
大声をあげて敵陣に突撃する『イ・ラプセル自由騎士団』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。自分の存在を隠すことなくアピールし、そのまま全身で敵陣に向かっていく。開幕の勢いをつけるに値する華々しい攻撃だ。
「お前がカーミラか! だがその剛腕、この蒸気騎士に通じると思うか!」
「通じるよ! 頑丈そうな鎧だけど、私の前には布の服も同然! どりゃああ!」
敵陣の中で動きを止め、カーミラは瞳を閉じる。周囲に居る者の『気』の動きを第六感で感じ取り、それを乱すように自らの拳に気を込めて、回転させるように動かす。鉄を貫くのではなく、その気を乱す。それがカーミラが新たに学んだ拳。
「どうだ! これが私の拳だよ!」
「ぐっ、おおおおおお! 亜人風情が人の技をここまで使うとは……!」
「ナイス初撃! その間に私は色々調べさせてもらうわ!」
指を立ててカーミラの攻撃に合図を送る『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)。そして蒸気騎士にコーティングされた対魔導用の装備を見やる。淡く光る紋様のような管の形。あそこに特殊な液体を流しているのだろう。対魔導技術。しかしそれは――
「逆に言えば、それだけ魔道に恐れをなしている証拠なのよね。私の瞳から逃れられると思わない事ね」
フードの奥からその構造を解析しようときゐこは瞳に魔力を通す。見たところ、遣唐使が使う防御の構えと同じ程度の対魔導防御のようだ。注意する必要があるが、同時にいくつかの弱点も見える。
「あのコーティングを使ってる間は、動きが鈍くなるみたいね! 一気に勝負を決めりゃいましょう!」
「やはり一流の魔術師は誤魔化せないか……! だが、気力でカバーしてやる!」
「せやけど気力はこっちにもあるんやで!」
甲板を蹴って『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)が跳躍する。全身機械の鎧で包まれた蒸気騎士。その技術にアリシアは素直に感激する。しかしイ・ラプセルが劣るとは思わない。
「思いっきりあたらせてもらうで!」
「この脚力、機械の性能だけではないか!」
踊るように戦場を駆け回りながらテンションをあげていくアリシア。機械の足のメンテナンスは完璧だ。榴弾を避けながら潮風を切るように足を振るい、間近の蒸気騎士に一撃を喰らわせる。衝撃が中に伝わった感悪が、足を通じて伝わってくる。
「どうや! うちらなめとったら、痛み目見るで!」
「その通りです! 自由騎士を侮ればどうなるか。とくと教えてあげましょう!」
サーベルを掲げて『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は意気揚々と叫ぶ。貴族として戦場に立ち、その苛烈な性格のままに刃を振るう。それこそが自分に与えられた義務なのだと信じて疑わない。ここで刃を振るわずしてどうするか!
「マリオン様と愉快な仲間達! お覚悟を!」
「一緒くたにするな!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃ!? 俺達は仲間だと信じてたのに!」
宣誓の後に蒸気騎士に向かって進むデボラ。気合を付けて防御力を固め、一気に突き進む。敵の攻撃は敢えてよけずに受け止め、痛みを魔術で誤魔化して歩を進めた。刃が届く範囲に踏み込むと同時、サーベルを横なぎに払う。
「お・引・き・取・り・下さいっっっ!」
「それはこちらのセリフだ! 我が国に密航しようとする犯罪者共が!」
「まあ、それはそうやねんけどなぁ。細かいこと気にする男はモテへんで」
マリオンの声に涼し気に応える『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。暑苦しい男やなぁ、と思いながらも引くことのない性格には好感が持てる。さて兜の中身はどんな顔か。狼華の顔に妖艶な笑みが浮かんでいた。
「あんさんらもそんなナリしとうと海の上は辛いやろ? 頭ぐらいとりぃや」
「栄光高き蒸気騎士の装備、不要と思ったことなど一度も、ないっ!」
からかうように刃を振るう狼華。それにわざわざ答えるマリオン。マリオンが剛槍なら、狼華は風の刃だ。重く振るわれる蒸気型騎士槍をそよぐ風のように避けながら一撃を加える狼華。真逆の戦士が甲板で舞い踊る。
「海に出た甲斐はあったわ。当たると終わりの槍。楽しませてもらうで」
「ええ、楽しませてもらいましょう。強敵との戦いは心躍ります」
『赤竜落とし』リンネ・スズカ(CL3000361)が強敵の気配を察した、とばかりにマリオンに迫る。癒し手であるリンネだが、戦いの気配に惹かれるように前に出てきてしまう。後悔はない。むしろこれを逃せば、その方が公開するだろう。
「一つ手合わせ願います。受けて貰えますよねぇ?」
「無論! 蒸気騎士の槍、とくと味わうがいい!」
リンネの誘いに乗るように槍を構えるマリオン。そのまま正直に突撃してくる。硬い装甲と重い槍の一撃。その一打一打がたゆまぬ鍛錬の結果であることをリンネは理解できた。自然と唇を舐め、血が滾ってくる。
「噂に違わぬ蒸気兵器と騎士の鍛錬! これだから戦いは止められません!」
「……くそ、分からねぇ……! なんで戦争なんかするんだよ……!?」
盾と槍を手にして『平和の盾』ナバル・ジーロン(CL3000441)が足を止める。リンネが楽しいというのは理解できる。個人の武技を測るいい機会だからだ。だが戦争は違う。もっと別の、混沌とした何かだ。それを好んで行う理由は解らない。
「だけど、オレが戦わないことで、誰かが余計に傷つくかと思うと、それも嫌だ!」
分かっている。自分なんかが理解できない様々な理由があることがある事を。ただ確実なのは、ナバルが出来る事は守ることだ。迷いながら苦しみながら、それでも守らねければ笑顔さえ途絶えるのだ。
「敵は飛び道具を使う! 後衛の仲間が危険! ならオレはそれをただただ庇うのm……あいたぁ!? 何するんだよ!」
「ア、誤射。スマン、ナバル」
後ろから撃たれて怒るナバルに謝罪する『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)。あまり気にしていないようなエイラだが、ナバルなら大丈夫だという信頼があった。
「ナバル、護ル。ダカラ、盾硬イ。ソレ、信ジテル」
(なんだよその信頼は。こっちは戦う理由さえ見つけられないのに……)
笑うエイラ。その笑顔を見てナバルは頭を振った。エイラに悪意はない。本当に大丈夫と思ったからこそそうしたのだ。だったら今は、その信頼にこたえるだけだ。
「マリオン、狙ワナイ。仲間、狙ッタ敵追従スル!」
ナバルに隠れるように位置取りながら、エイラは魔の矢を放つ。その場所が一番安全だと信じているか顔で。
「リグも一緒のを狙うのです」
エイラが狙った蒸気騎士に向けて、『餓鬼』リグ・ティッカ(CL3000556)が拳を振るう。作戦内容は完全には把握していないが、とにかく蒸気騎士を相手すればいい事は解っている。だったら今は全力で挑むだけだ。
「かっこいいこと、リグには言えませんけれど。リグは、リグにできる精一杯でがんばりますのです」
戦う理由なんて、リグにはない。一日三食もしくはそれ以上食べれればそれでいい。だけど食欲は生物として最も正しい戦う理由だ。相手の動きを注視しながら、体の思うままに四肢を振るう。
「関節とか急所です。でも当然対策とか練っているようです」
「だよなぁ! そう簡単に倒せたら面白くねえもんな!」
言って笑う李 飛龍(CL3000545)。甲板で暴れる蒸気騎士。人ではない機械の動きだが、それでも強さには変わりない。そしてそこに強い相手がいるのなら飛龍の血が騒ぐ。滾る血のままに笑顔を浮かべていた。
「時間稼ぎは任せた! おれっちは全力で暴れさせてもらうぜ!」
「来い!」
言葉と同時に甲板を蹴る飛龍。呼吸を整えて体内に『龍』を宿し、その熱量をぶつけるように拳を振るう。一打は衝撃を伝える為。そして二度目はその衝撃を足場に打撃を『通す』為に。貫く一打が蒸気騎士を震わせた。
「硬ってぇ! 強え! 全く、やりがいがあるぜ!」
「あの防御力は純粋に装備によるもののようだ。蒸気騎士特有の特殊な技法、というわけではないのか」
ふむ、と『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)は唸るように解析する。仲間を癒しながら相手の戦いを見て解析を行う。蒸気機関等に対する知識があればより詳しい事が分かったかもしれないが、今はそれを悔やんでいる時ではない。
「回復は任せてくれ。キミたちは存分に戦ってくれたまえ」
言いながら大気のマナを集めるアルビノ。魔道技術のないヘルメリアでも、他国と変わらずマナは溢れている。それらをかき集め、アルビノ自身のマナで方向性を定めて解き放つ。癒しの方向性を持ったマナが、仲間に降り注いでいく。
「しかしかなり暴走的な技法のようだ。使用の度に着用者に負荷がかかっている。あの回復剤さえもそのようだ」
「どういうことだ?」
アルビノは見てわかったことを仲間に伝える。
高火力な威力を持つが、その分蒸気騎士のリスクは大きい。動きが鈍くなったり、視界がぼやけたりと蒸気騎士の動きに乱れが見える。高火力の代償として身体に負担がかかっているようだ。
だがそれが蒸気騎士攻略の決定打になるとは思えない。今は、まだ――
●船内Ⅱ
「ったく。あちこち攻撃受けてんなこの船。海水をかき出すもの、バケツしかねーのかよ!」
『風詠み』ベルナルト レイゼク(CL3000187)はバケツを手に海水をかき出していた。船体に入り込んだ海水をどうにかしないと、五分ももたずに船は沈むだろう。そうでなくとも砲撃は続いているのだ。
「ベルナルトさん、ちゃんとお仕事してるかしら?」
そんなベルナルドに声をかける『疾走天狐』ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)。銀の髪を動きやすいようにまとめたギンギツネのケモノビト。教育を受けた貴族がにじみ出る立ち様だ。
「一応まじめに働いてますよっと。じゃないと船が沈む」
「思ったよりも真面目で結構。私達の頑張りで、船員の皆様も助かるのですから……とても良い事ですわ!」
ガブリエーレの顔を見る余裕もない、とばかり手を動かすベルナルト。その様子を見て安心したかのようにガブリエーレは微笑んだ。普段はあまり活発的ではないベルナルトを見ているので、真面目に働く姿を見て安心する。
「で、お嬢は何やってんすか。ここにいたら濡れるぜ」
「濡れる? 私は壁に立てるから、これ位なら大丈夫ですわ」
「もう一回聞くけど、何やってるんすか? それなりの身なりのお嬢様なんですから」
壁に張り付いているガブリエーレを見て、ベルナルトはどういうべきか言葉を選びながら口を開く。船の壁に張り付くようにして立つ貴族のお嬢様。活発的な貴族なのは知っているが……。
「まあ、こんな所に来る時点で野暮か」
「? では情報伝達再開やね! ベルナルトさんも、排水作業ファイトですわ!」
「へいへい」
言ってガブリエーレは壁を伝って船内を移動し、故障個所を皆に伝えていく。ベルナルトは黙々とバケツによる排水を続けていた。
「分かった。修理に回るよ」
故障個所の報告を受けたマリア・ベル(CL3000145)は船に据え置いてある修理用の工具を手に現場に走る。壊れている箇所を見て、直す順番を整理する。先ずは排水。そして駆動系。爆発しそうな個所は人を避難させてから。
「よし、これなら何とかなる。任せておいて」
細かいチェックを終えた後にマリアはゴーグルを顔にかける。あまり素顔は見せたくないが、緊急事態なので仕方ない。手慣れた手つきで故障個所を組みなおし、テーピングで蒸気の漏れを塞ぐ。応急処置だが、これで何とかなる。
(できれば相手の新兵器も、誰か鹵獲してくれたらいいんだけどね)
そうすれば船の部品になるかもしれないのに、と愚痴るマリア。そんな余裕はないだろう事は解っているが。
「次は何処?」
「エンジンルーム近くをお願いしますわ。わたくしはポンプ類を見ます」
マリアの声に応える『生真面目な偵察部隊』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)。蒸気機関に関する学問は習得している。その知識を生かし、この場を凌ぐのだ。五分持たせればなんとかなるとジョンは言った。その言葉を信じて。
「わたくしはコーリナー様を信じますわ」
暗い噂があるヘルメリアの元スパイ。こちらに協力すると言ったその言葉をレベッカは信じると誓った。だから今は動くのみ。修理のためにいったんバルブを閉じ、厚手の軍手をして配管の修理を行う。揺れる船の中、レベッカは汗を流しながら動いていた。
「こちらは完了しましたわ。伝達お願いします」
「はい、わかりました」
レベッカの言葉に頷く『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)。いまだに砲撃を受ける船は時間ごとに故障個所が増えていく。その伝達は重要な仕事だ。何処が直り、何処が壊れたか。それを元に応急処置は行われる。
(わたしは機械に詳しいわけでも船員の方を癒せるわけでもないけど……)
サラは走る。この素早い動きがサラの最大の武器だ。ならその足を生かして動くのみ。伝達が終われば排水や消火。修理や治療以外の雑用なら何でもやる。それらの専門家を十全に動かすために。一人一人が出来る事をすれば、事態は好転する。そう信じて動くのだ。
「船員の方への被害が少なくなるよう頑張ります!」
「わわわ、私にも手伝える事があ、ありますかっ」
パニックに陥らないように自制しながらリリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)は周囲に問いかける。落ち着こう、と思えば思うほど気持ちは逸り、何をするべきかわからなくなる。ゆっくり深呼吸をして、周りの動きを見る。
(しっかりするのよ、リリー。出来ることはある。あるはず)
リリーと母に呼ばれて慣れ親しんだ一人称を使って、心を落ち着かせるリリエラ。先ずは怪我人を運ぼう。そう決めれば自然と体は動いていた。爆発に巻き込まれた人を抱え、安全な場所に向かって走り出す。
「大丈夫です。私達が何とかしますから!」
「そうです! なんとかしますっ」
リリエラの言葉に同調するティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。まだ自分が新米で未熟な事は分かっている。それでも誰かを助けたいという気持ちは未熟ではない。ここを乗り越えて、ヘルメリアへの戦いに挑むのだ。
「ヘ、ヘルメリアでは奴隷にされた方々が今も苦しんでいるんですよね?」
手先の器用さを生かし、細かな修理を行うティルダ。シャンバラのヨウセイに対する扱いと、ヘルメリアの亜人。その境遇を重ねていた。虐げられる苦しみ。命を奪られる哀しみ。それを知っているから。そんなことは良くないと知っているから。
「奴隷を解放するために、頑張らないとですっ」
「お仕事開始。坊ちゃんの傍……僕の居るべき場所、帰る為」
翼を広げて出火場所に向かうユートリース・ミアプラキドゥス(CL3000573)。何故かメイド服を着たユートリースだが、それ以外は無駄のない動きで消火活動を行っていた。空気中の水分を集め、バケツに水を満たして火にかける。海の上だから、水が集まるのは早い。
「メイド・オブ・オール・ワークの腕見せる」
淡白に言ってテキパキと動くユートリース。ユートリース自身は今回の戦争の件に特に感想や思う所はない。ユートリースを動かすのは『坊ちゃんの為』だ。坊ちゃんは今戦っている。だからこちらも今できる戦いをこなすのだ。
「メイド服の需要があるって聞いた、から女装で来た。よく分からないけど」
「だ、そーですよー。せんせー」
「肌の汚れを避ける為の長袖膝丈スタイル。効率重視なイ・ラプセル一七五〇タイプのようですね」
半眼で見るネズミのケモノビトに対し、顎に手を当てて答えるジョン。
「本気なのかふざけているのか。俺にはその嗜好は真意を隠す仮面に見えるよ」
そんなジョンに向けてライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は静かに答える。蒸気機関に関する知識を生かして修理をしながら、ジョンの動向を見ていた。いうべきことはいくつかあるが、最初に聞くべき言葉は船に乗り込んだ時から決まっている。
「ヘルメリアに襲撃されるまでは想定内だな?」
「おや? 慧眼ですね」
ライモンドの問いかけを、誤魔化すことなく認めるジョン。
「当然だ。君がイ・ラプセルに下った時点で、ヘルメリア海軍は通るなら此処だと想定していたはずだ。敢えてそれに乗ったのはフリーエンジンも回収に来るからか。
酷い話だ、ここまで派手にぶつかる必要があったか? それともフリーエンジンの頭目が無駄に派手好きなのか」
「後者を否定する気はありませんが、必要性はあります。『イ・ラプセルの策を見破って、勝利した』と思わせれば、こちらの偽装を疑う事はないでしょう。自分の意志で勝ち取った勝利なら、疑う余地はありません。
……とはいえ、『蒸気王』と『ディファレンスエンジン』を何処まで誤魔化せるかは未知数ですが」
「まあいい。私は私の目的の為だ。なに、今は君らの邪魔にはならないだろう」
ため息と一緒に不満を吐き出し、ライモンドは作業に戻る。
「え~。これも作戦なの~? 船沈められちゃったら困るぅ~。あたし泳げないんだよ~。溺れたら助けてくれる~?」
『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は問い詰めるようにジョンに質問を重ねる。その間もホムンクルスを使って修理を行い、クイニィー自身も手を動かしていた。
「っていうか、詳しい作戦の内容。そろそろ教えてもらってもいいと思うんだけど~。あと歯車バッチはどんな役割があるの? フリーエンジンの会員バッチとか?」
「ああ、船は沈みます。そうしないと死亡を偽装できないので。ただ五分間はもたせないといけないので修理は必要ですが」
さらりととんでもない事を言うジョン。
「ですがご安心を。『フリーエンジン』の仲間が助けに来ます。バッヂはその為の誘導灯ですね」
「でも船でノコノコ来たら砲撃の的になるんじゃない?」
「ええ、その通り。ですから――」
作戦の内容を聞いて、クイニィーは笑顔を浮かべる。
「すごーい、流石ヘルメリア! 色々面白いこと知れそう!」
手を叩いて喜ぶクイニィー。未知の国に対する興味が彼女の期待を満たしていた。
●海上Ⅱ
海上戦ではあるが、そのフィールドを自在に駆ける者達がいる。ウミビトやソラビト。彼らは自分の特性をフルに生かして戦いに挑んでいた。
「では行きますか」
『ReReボマー?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)もその一人だ。戦闘開始と同時に水中に潜り、そこから回復の術式を飛ばしている。戦いで傷ついた者をそのダメージの深さを基準にして癒していく。
「危なくなったら水に逃げて――と言うほど甘くはないようですね」
「当然だ。深く潜ったならともかく、水面に顔を出す相手など戦い慣れている!」
エミリオは肩から血を流しながら、目算を誤ったことを察する。彼らは海軍だ。水中に居る相手の攻撃方法はあって当然だ。戦闘圏外まで逃げれば問題ないのだろうが、そうなれば仲間を癒せなくなる。
「何とか合流部隊が来るまで持たせたいのですが。どうなりますか」
「そんなこともあろうかと、くーは盾を持ってきたのじゃ! 見よ、この大きさを!」
巨大な盾を持ち、『アイギスの乙女』フィオレット・クーラ・スクード(CL3000559)は水中で威張る。ただでさえ大きな盾だが、戦いの際に展開してさらに防御範囲が広がる仕様になっている。目立つことこの上ないが、防御力は充分にあった。
「とにかく今は耐えるのじゃ。回復はくーに任せて攻め立てぃ!」
水中を自在に移動しながら盾だけ水面に出してフィオレットは戦う。盾より重い者は持てないと豪語する(?)彼女は敵を攻撃するのではなく回復で仲間を支援していた。出来の銃弾を巨大な盾で弾きながら癒しの魔力を解き放っていく。
「ここで必殺のぉ、サクリファイス! 必殺技があれば決まったのじゃがなあ」
「そんなことないよ! アタシも頑張るとするかねぇ!」
しまらないと声をあげるフィオレットに向けて、トミコ・マール(CL3000192)は嗤って翼を広げる。そのまま宙を飛んで夜の海を飛んだ。そのまま鉄塊を構え、胸を張って仁王立ちする。
「ハハハッ、アタシはここだよ! 狙えるものなら狙ってみな!」
自分の体力を信じ、トミコは敢えて敵に狙われやすい上空に飛ぶ。ガーディアンの技で身体を強化し、囮となるために自らを晒す。自分が傷ついている間は仲間は傷つかない。その間に仲間が何とかしてくれると信じていた。飛び交う銃弾がトミコを襲う。
「まだだよ……! アタシはそう簡単に、倒されやしない……!」
「あ、危ない……今……治すから……」
水中から顔だけを出して『笑顔のちかい』ソフィア・ダグラス(CL3000433)は傷ついたトミコを見る。戦う事は怖いけど、水の中からなら何とか支援できる。水中にあるマナをかき集め、マジックスタッフに集める、
「体力が減ってる人が……いっぱい……今……傷を癒す……」
ぼそぼそと呟くソフィア。銃弾と砲撃だ飛び交う戦場の恐怖。いつそれが自分の方に飛んでくるかわからない。その恐怖に耐えながら呪文を完成させる。大海に満ちたマナが杖の先端でその色を変えていく。冷たい青のマナから、白く光る癒しのマナに。ソフィアの合図と共に放たれたマナが仲間達を癒していく。
「戦いは苦手だけど……水の上なら……ボクも活躍……できるかも……」
「おっし、じゃあおじさんは向こう行ってくるわ」
『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は言葉と同時に深く海に潜り、敵陣に迫っていく。水中から魔法で攻撃しようとするが、海軍もそれを察知しているのかタルの爆雷を投下してくる。爆発の衝撃を避けながら、ニコラスは船に居る男を見た。
「よう、ニコ。卿の所に戻ってきた、なんて事はないよなぁ?」
「驚いたね。お前が野郎の顔を認識出来るなんてな」
銛をもったガンナー。『ランサー』ネッドと呼ばれた海の英雄。ニコラスは油断なく銛を構えるネッドを見ながら次の手を考える。逃げるか、それともまだ戦うか? 逃げるにせよ戦うにせよ、油断なく構える銛をどうにかしないと。
「そりゃ覚えるさ。あの娘、お前の名前をずっと叫んでたからな。お前が戻ってくる、って信じてな」
「……っ! そうかい。それは――」
脳裏に浮かぶ人物。ニコラスは湧き上がる激情を必死に押さえた。
「ああいう女が堕ちていくのは、いい酒の肴になったぜ。そういう意味でお前には感謝――おおっと!?」
「――忘れてたわ」
空中でスナイパーライフルを構えた『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が静かに呟く。ネッドに向かい銃を放った彼女は、そのまま次弾を装填する。薬莢が水中に落ちるより早く、アンネリーザは次の構えに入っていた。
「シャンバラは、ヨウセイを助けるっていう大義名分があった」
撃つ。また装填する。
「今回は奴隷としてへルメリアに居る亜人を助けるため。アンタみたいな人から、守るために戦うのよ」
撃つ。また装填する。
悩むことはあるだろう。選択を誤ったと嘆くこともあるだろう。でも、手は止めない。止めればその分犠牲者が増えるというのなら、ボロボロになりながら進んでいく。それがアンネリーザ・バーリフェルトと言う生き方だった。
「空中に浮いてりゃ、いい的だぜ。帽子のねーさん!」
「そうね。少しの間なら攻撃を引き受けてあげる」
同じく羽を広げて飛行する『浮世うきよの胡蝶』エル・エル(CL3000370)。ゆれる波など空を飛べば脅威にはならない。その代わり、狙われやすくなるのは確かだ。ましてやそれが明らかに詠唱しているとわかるのなら、魔術を放たれる前に倒そうと思うのも当然の流れ。
「……ッ!? ま――まだ……っ!」
銃弾を受けて血を流しながらエルは意識を保つ。死ぬつもりはない。いや、本当はこの戦いの前――シャンバラの戦いで死ぬ予定だった。だけど生き残ってしまった。生き残る理由が、出来てしまった。その理由はまだ表現不能のモノだけど、それは確かにエルの心にあるのだ。
「海の波より恐ろしい波動がある事を知りなさい!」
寄せて返す二重の魔力波。それが敵陣を襲う。魔術に慣れていない海軍はそれだけで大きな打撃を受けた。それを確認し、エルは脱力するように落ちていく。そのまま気を失い海に――
「大丈夫か? ボロボじゃねえか」
「貴方も、酷い有様ね。後は、任せたわよ」
海に落ちる前に自分を受け止めた男の声。その声に安堵するようにエルは意識を手放した。
●甲板Ⅱ
自由騎士と蒸気騎士。甲板での戦いは激化する。
「ミケの踊りでみんな、元気だすにゃっ♪」
『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)は甲板で踊る。ピカピカの尻尾の鈴が、ステップを踏む度に音を鳴らす。凪いだ海を思わせる静かな踊りと同時に放たれる魔力が、仲間達の傷を癒していく。
「自由騎士は人材不足のようだな。旅芸人で人材を水増しするなんて」
「ただの旅芸人と思ったら大間違いだにゃ。ミケの踊りは皆を笑顔にするんだにゃ」
しなやかさを保ちながらミケは戦場で踊る。『マーチラビット』の炎がミケの体力を奪うが、それを感じさせない明るい笑顔だ。それは踊り子のプロ意識もあるが、心の底から踊ることで笑顔にできると信じている証でもあった。
「にひひひ♪ ミケの踊りを見るんだにゃーっ!」
「いきなり大ピンチで大変だけど、がんばろー!」
おー、拳を振り上げる『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)。熱い酒声をあげている蒸気騎士は避けて、他の騎士の目星をつけて距離を詰めていく。ナックルを構え、力強く踏み込んで拳を叩きつけた。
「敵の攻撃範囲内に蒸気騎士を巻き込むように動けば――って普通に巻き込んで撃ってきた!?」
「その程度の覚悟なくして、騎士が前に立てるか」
リサは広範囲の攻撃を避けるため、敢えて蒸気騎士に接近して榴弾を打つのをためらわせようとした。だが蒸気騎士は申し合せたかのように範囲攻撃を仕掛ける。その装甲を信じたか、あるいは自由騎士を効率よく討てるならそれもよしと受け取ったか。
「覚悟完了だね。それじゃこっちも全力で殴りに行くよ!」
「出来るだけ多対一の形を作るんだ。陣形を維持し、孤立するのを避けてくれ」
声を出しながら『そのゆめはかなわない』ウィルフリード・サントス(CL3000423)は蒸気騎士に武器を向ける。騎士同士の実力はともかく、武装と言う意味では蒸気騎士は未知数だ。下手に一対一で挑めば大怪我を追うだろう。
「上手く分断してた対一の方向にもっていきたいが……そう簡単にそれが出来る相手でもないか」
「その辺りの海賊と同じと思われては困るな」
国を守る軍隊の練度は低くはない。ウィルフリードも分かってはいたが、そう簡単に相手一人を囲める状況は生まれない。となれば地道に攻めていくしかないのだ。全身の力を込めて、蒸気騎士に武器を振り下ろす。
「愚痴を言っても始まるまい。今はこの状況を突破するのみだ」
「然り。これは負けられぬ戦いだ。全力を尽くそう」
ガントレットを嵌めた『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)が口を開く。スラム生まれも貧しい出自だが、親の教育がよかったのか正義を愛する真面目な性格に育った。どのような戦いにおいても、自分の正義を掲げるほどである。
「我が正義は回復のみにあらず、攻めるヒーラーをとくと見よ!」
後衛で回復を行っていたラメッシュだが、好機を見出すと同時に前に出て拳を振るう。両者のバランスを見ながら術を放つヒーラー。その経験が機を見出す勘を鋭くしていた。そしてすぐに仲間の元に戻り、回復の術を行使する。
「おのれ謀ったか……!」
「回復役が後衛など誰が決めたことなのだ」
「とはいえさすがはヘルメリア。練度は高い」
錬金術でラメッシュに生命力を与えていく『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。彼は後衛の回復役を中心に生命力と精神力を活性化する薬品を与え、継戦能力を高めるサポートに徹していた。
「指揮官を倒せば一時的に指揮系統は麻痺する。狙う価値は高いな」
「来いィ! 数多の技師が苦難の末に作り上げた型式Sys-QoH・塗布式対魔装甲『クイーンオブハート』、けして甘くはないと知るがいい!」
避けぬと言いたげに胸を叩くマリオンに対し、ウィリアムは錬金術を展開する。赤く光る赤い液体が気化し、細かな粒子の矢となってマリオンに穿たれた。魔装甲は確かにその威力を削いだが、液体に内包された毒がマリオンの身体を蝕んでいく。
「卑怯とは言うまい? これも戦いなのだから」
「無論! そしてこの程度、気力で克服するのみ!」
「しかし朗報だね。魔術そのものはある程度弾くけど、副次効果は残るという事か」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は蒸気騎士の動きを観察して、一つの結論に至る。格闘技の防御の構えも、防御力を高めるが精密に穿たれた一撃の影響は避けれない。技法を高めれば対魔装甲とやらにも通じるのだ。
「やるべきことは変わらないね。己を高め、その技法をもって挑むだけだ」
「そんなことは、俺達も同じだああああああ!」
マグノリアの言葉に暑苦しい声が帰ってくる。自分達が努力するように、ヘルメリアの騎士達も努力する。技術の上に胡坐をかいで威張っているような連中ではないのだ。散開した薬品がキリとなって蒸気騎士を蝕む。威力こそ削がれたが、毒は確実に体力を奪っていく。
「流石に目に見える所に動力源らしいものはない、か」
「魔導を良しとしないけど、対策はきっちりするわけですねぇ~」
不満そうにつぶやく『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。ヘルメリアは科学の国だ。現象そのものを非科学的だと『非科学的』に否定はしない。事実を認め、それを法則づけて対処するのが科学なのだ。
「ふむ、効きやすい魔法と言うのはなさそうですね~。一律同じように弾くようですぅ~」
「ぐ……。バカスカ打ち込んでくれたな……!」
その例に倣い、シェリルも『科学的』に相手の対魔導装甲に様々な術式を試していく。どれだけ弾き、どういった結果になり、別角度からアプローチし。少なくとも蒸気騎士の反応からノーダメージではない事は分かったのは確かだ。
「では次はこれでいきましょう~」
「カノンも行くよー! たー!」
元気よく『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)が叫んで蹴りを放つ。難しい作戦を考えるのはカノンの仕事ではない。五分耐えろというのなら、そのままに戦うのがカノンの仕事だ。途中、熱く叫んでいる蒸気騎士を指差し、一言告げる。
「ちょっと、おじさん煩い!」
「俺はまだ二十歳だ! おじさんでは、なぁい!」
大声で否定するマリオン。実際のところ、マリオンの年齢自体はどうでもよかった。会話により時間を稼ぎ、あわよくば相手の注意を引ければ。迫りくる槍を避けながら、カノンはさらなる追撃を加える。
「二十はおじさんだよ。センセーみたいにカッコよければ別だけど」
「ま、二十歳でこの作戦に抜擢された騎士様だ。相応にはできるんだろうよ」
ニヤリ、と口角をあげる『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)。アンの目的は強いものと戦う事。ただそれだけの為に戦いに身を投じ、そして生き延びていく。騎士と銃士。その在り方は違うが、強弱はそんな事とはお構いなしに決まる。
「そう言えば、船の上で強敵とやりあうっていうのは何かを思い出すね!」
一年ほど前のヴィスマルク戦を思い出すアン。あの時はラッパ銃を持つ軍人との戦いだった。今は蒸気機関で身を固めた騎士との戦いだ。世界は広い、見知らぬ土地の見知らぬ強敵。戦い続けていれば、いつかどこかで交差するだろう。
「アンタは何処までやれるのか、楽しみだね!」
「蒸気騎士の名にかけて、負けるわけにはいかないっ!」
「騎士の名を出されたからには、こちらも退くわけにはいかない」
マリオンの前に立ち武器を構える『活殺自在』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。国ごとに掲げる騎士道の違いはあるが、国家と民を守護するのは変わらない。その為に効率重視の騎士もいるが、礼節を重んじる相手ならこちらも礼を尽くそう。
「俺は騎士アリスタルフ・ヴィノクロフ。一騎士として貴公に一騎打ちを望む!」
「ヘルメリア蒸気騎士マリオン・ドジソン! その勝負、受けて立とう!」
互いに一定の距離を取り、武器を掲げる。合図として投げ出されたコインが地面についた瞬間に二国の騎士は動き出す。槍の穂先が僅かに揺れたのを見て、アリスタリフは距離を詰める。体内の気を一気に解放し、鋭い風のような突きを繰り出した。
「ふっ……強い、な」
「貴殿こそ! 結束一年僅かの騎士団と侮っていれば、深手を負っていたな!」
「いやでも目に付くわね、あの暑っ苦しいの」
叫ぶ蒸気騎士を見ながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はため息をついた。顔すら見会えないほどの重武装な蒸気騎士。その中にあって、唯一個性らしいものを持つ暑苦しい相手。その槍の動きを見て、思わずエルシーは足が向く。
「イ・ラプセルの自由騎士、エルシーよ。スクラップにしてあげるから、かかってきなさい」
「おうとも! 蒸気槍『ホワイトラビット』で汝らの野望を弾いてくれよう!」
手間に益するエルシーに、槍を掲げてから迫るマリオン。蒸気騎士の性能もあるが、槍捌きは鍛錬された戦士の動きそのものだ。その事に感心しながらエルシーは手甲を振るう。赤い竜の一撃が、蒸気騎士の鎧を穿つ。
「海を超えて聞こえし『緋色の拳』。まさに噂に違わぬ動き! 立場が許せば正式に勝負を挑みたい所だ!」
「蒸気機関の性能に頼るお坊ちゃんかと思ったけど、やるじゃない。デートのお誘いは下手みたいだけど」
「んー……思ったより紳士的だけど、相手がノウブルだからなんだろうね」
『博学の君』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)はマリオンとエルシーの会話を聞いたのちに、冷たく言い放つ。ウザくて熱い脳筋騎士のように見えて、相手の実力を軽視しない。だが『ノウブルの対等な強敵』と『良く訓練を仕込まれた亜人』の差を感じていた。
(それが彼ら――ヘルメリアの常識なんだろうね)
仲間に回復を施しながらアクアリスはそんなことを考える。彼らにとって亜人は人じゃない。飼い犬か飼い猫ぐらいの価値なのだ。その『扱い方』は各個人それぞれだろうが、決してノウブルと亜人を同列には扱わない。それが見て取れた。
「さて、どうなる事か。文字通り水が会わない相手なんだよね。熱と水って所も」
「んなあああああああああおおおおおおぅぅぅぅ!!」
叫び声と共にスピンキー・フリスキー(CL3000555)はマリオンの前に立ち、武器を構える。マリオンの叫び声に負けじとばかりに猫パーカーの奥から声を出し、自らを指差して相手を挑発した。――叫んで時間を稼ごうとか、そういった考えではないようである。
「クソデカボイスなら誰にも負けない! そぉれがスピンキー・フリスキーだぁ!」
「ぬぅ! だがこの熱き魂の叫び、誰にも負けやしない!」
言ってマリオンと素ピンキーは叫び合い、そして武器を重ねる。雄叫びと共に叩きつけられる一撃。交差する一撃毎に百の会話を超える何かが伝わってくる。何物にも負けぬという熱い滾り。そう。その心こそが自らを熱く燃え上がらせていくのだ。
「その目に焼き付けろこの雄姿ィ! その耳に刻めこの咆哮ゥ! ここで倒れたとしても、この魂と叫びだけは倒れないいいいいいいいいいい!」
「こちらこそ! 蒸気騎士ここにありと、心に刻むがいいいいいい!」
「似た者同士だなぁ……。ま、こっちはこっちでやるか」
刀に手をかけ、月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が歩を進める。潮風が着流しを揺らし、ヨツカの髪をなぐ。目の前で繰り広げられる蒸気騎士との戦いを前に、臆することなく戦場を歩いていく。まるで、馴染みの通りを歩くかのような軽やかさで。
「暴れてくれば、いいのだろう? 任せろ。ヨツカの……得意分野だ」
「何者だ? 無名のオニビトのようd――」
構えを取る蒸気騎士の言葉は、最後まで続かなかった。
気が付けばヨツカは騎士の背後を歩いており、ため息と同時に納刀する。納刀音が甲板に響いたと同時に、交差した蒸気騎士は人形の糸が切れたかのように崩れ落ちていた。そのまま何もなかったかのようにヨツカは蒸気騎士を見る。
「ヨツカだ。覚えておけ」
戦好きのオニビトの笑み。そこに恐怖と他の何かを感じた蒸気騎士は、相手をけして無名だと侮ってはいけない事を悟っていた。
●海上Ⅲ
「もう始まってるか。陽動で時間食ったからな……」
抱えた女性をそっと下した後、『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は息を吐いた。陽動作戦でプロメテウスと戦い、その時のダメージはまだ快癒したとは言い難い。痛む体を押さえながら、もうひと仕事だと自らに檄を入れた。
「だがまあ……歯車騎士団とやり合えるのなら悪くねえ!」
銃を構え、歯車騎士団の船に向かって撃ち放つ。ここはまさに敵地。そして相手は復讐する国の軍隊。ザルクは魂が焦げるような感覚に支配される。理性でギリギリブレーキをかけながら、しかしここで手を抜くつもりはないと弾丸を放つ。
(……しかし、死亡を偽装? 上手くいくのかねマジで)
ジョンを疑うつもりはない。だが、ここまで敵に囲まれた状況でどうやって?
(そこはそれ、派手にやればいいんじゃ。ワシら相手からすれば有名人じゃからな)
小声でつぶやくザルクに近づき、同じく小声で返す『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。自由騎士としてイ・ラプセル国内外で動いているシノピリカだ。当然その活躍も相手の国に伝わっている。
「ワシのことはスパイでご存じなのじゃろう。この戦果、情報通りかどうか確かめるがいい!」
傷で痛む体を諸共せず、最前線に出るシノピリカ。この肉体、この機械の腕。それは誰かを守るためだと言わんがばかりである。後ろで指揮するのではなく、前に出て仲間を導く。それこそが我が栄光とばかりに。仲間の盾となった彼女はそのまま――
「ぐわーーー! やーらーれーたー!
シノピリカ・ゼッペロン、一生の不覚……むーねーんーなーりー!」
「いや早いから。もう少し踏ん張れ。確かにしんどいけどな!」
派手に叫んで倒れるシノピリカにツッコミを入れる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。事実、先の戦いでのダメージはほぼ残っている。前衛で挑んだ相手程ではないにせよ、疲れが残っているのは事実だ。
「さあて、覚悟しろよ怪我人共。治すぞ」
ツボミも充分怪我人なのだが、そこは気にせず癒しの術式を展開する。もう出し惜しみをしている余裕はない。残った精神力全てを使い切るようなペースで、癒しの魔力を放っていく。戦線を立て直し、時間を稼ぐのだ。
「……とはいえ、アイツはやばいな。鯨でも狩ってろって話だ」
ツボミの目には銛をもった歯車騎士の海軍がいた。人に隠れてもその人ごと貫いてきそうな腕前だ。
「流石海軍だな。海慣れしているのはこちらばかりでもないらしい」
『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)はツボミが注視する相手の動きを見て、そんな感想を告げる。通商連から(高額で)学んだドクトリンとは別種類の海戦技術だ。とはいえこちらも負けてやるつもりはない。
「『ランサー』ネッド。悪いが封じさせてもらう」
「やだねぇ。男と付き合うつもりもないし、楽して勝利したいんだよね」
アデルの申し出に軽口を返しながら銛を構えるネッド。高重量のアデルの槍と鯨を穿つ森が交差する。パワーならアデルが、速度ならネッドが勝る槍と槍の勝負。三合交わした後に、ネッドが大きく距離を取る。
「――投擲か」
ネッドの意図を知り、アデルは防御の構えを取る。追おうとすれば他の歯車騎士団に阻まれる形となる。
「戦いってのは自分の得意の押し付け合いなんでね。その槍は流石に投げれねぇだろうしな……っと!」
「そうはいきません!」
銛を投擲する準備をしていたネッドに向けて、『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が斬りかかる。動くたびに先の戦いで受けた傷がじくりと痛む。もしかしたら傷口が開いたかもしれない。何とか痛みをこらえ刃を握りしめる。
「勇ましいねぇ。だけど無理しすぎだ。可愛い体に傷がついたら、奴隷商で査定した時に買いたたかれちまう」
「……っ。奴隷商人に売るつもりなのですか……!」
ネッドの森をさばきながらアリアが叫ぶ。ヘルメリアは奴隷を完全にシステムにしている。基本的には亜人だが、ノウブルの奴隷がいないわけではない。そんな使いなど御免とばかりにアリアの刃が高速で走る。
「温情のつもりなんだけどねぇ。ここでつかまれば斬首確定。死んでるよりは生きてる方がいいでしょう? こう見えても女性には博愛主義なんですよ」
「その扱いが博愛と言うのは納得できないな」
ネッドの言葉に異を唱えるように『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が声をかける。肩で息をしながら、どうにか立っている状態だ。それでもまだ負けるつもりはない。自分の信念の為に、ここで膝を屈するつもりはなかった。
「女性をモノとして扱う……いいや、奴隷制度そのものが納得できない!」
「そういやイ・ラプセルは亜人放し飼いでしたっけ? 躾とか大変でしょうよ」
真摯に抗議するアダムに対し、ネッドはふざけたように挑発する。奴隷に対する考え方。亜人に対する考え方。同じ人間なのに、こうも考え方が異なるのか。奥歯を強く噛みしめながら、力の限りに武器を振るう。負けられない、と言う信念を込めて。
「どうして……! どうしてそんなことが言えるんだ!」
「そちらの国だって数年前まではそんなこと言ってたんでしょうよ。ついでいうと、よその国の常識にいちゃもんつけるなら、戦争になりますぜ。今更だけど」
「んー、国とか正直どーでもいーけど繋がった縁は大事なのよ」
『炎の踊り子』カーシー・ロマ(CL3000569)はネッドの言葉に腕を組んでそう返す。イ・ラプセルの自由騎士と言う立場ではあるが、カーシーは国の為と言う気はあまりない。だが、そこで出会った仲間の為なら身を粉何して戦おう。
「作戦の是非も意図も、問うのはこの場を凌いでからだ」
盾を構えて『砕けぬ盾』オスカー・バンベリー(CL3000332)が呟く。陽動の失敗。そしてヘルメリアに見つかった現状。それさえも作戦の内と言う。その是非を問うより前にこの場を切り抜けなくては。頼れる仲間と共に。
「ルーク、オスカー、カーシー……ただいま」
「メインヒーラーのお姉ちゃんが来たからにはもう安心ですよ!」
陽動作戦に参加していた『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)と『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)が合流してくる。二人とも戦いの痕がまだ癒えきっていない。事、リムリィは激しい攻撃を受けたのかボロボロだ。
「無事……とは言えない様だな。まずは傷を癒せ。その間は俺達で支えてやる」
そんな二人の様子を見て『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は包帯を巻く。簡素だが応急処置にはなったようだ。二人が帰ってきたのなら、やるべきことは決まった。この場を乗り切り、勝利を掴むのだ。
【熾火】の五人は、視線を交わした後にそれぞれの場所に移動する。オスカーを前面に出し、その両翼にリムリィとルーク。その背後にフーリィンとカーシー。五角形になるような陣形を敷き、動き出す。
「合わせるぞ。カーシー!」
「はーい!」
ルークの合図と共にカーシーが回るように踊る。遠近感を狂わす踊りが歯車騎士団の距離感を惑わした。その隙を逃すことなくルークが弾丸を撃ち放つ。兜に守られているとはいえ、こめかみに衝撃を受ければ相手はよろめく。
「ちからをあわせれば、このじょうきょうだってなんとかなるはず」
「おねえちゃんが一杯癒しますから、頑張ってきてください! ……はふぅ」
「やれやれ危なっかしい。だが、信頼はできるな」
無表情のまま血を流すリムリィ。しかし傷などないかのように歯車騎士団に迫り、巨大な鈍器の一撃を加える。そんなリムリィを始めとした仲間達をサポートすべく、フーリィンは癒しの魔力を解き放った。本来自分を支えている魔力も解き放ち、貧血で膝をつく。倒れそうになるフーリィンを肩で担いで支えるオスカー。敵陣を見据えたまま、仲間達の動きを観察していつでも庇えるように構えていた。
会場の勢いを盛り返す【熾火】の勢い。その『臭い』を察したのかネッドが銛を構えて力を籠める。全身の筋肉を引き絞るようにして構え、一気に解き放つ。
「ノウブルの女を殺すのは目覚めが悪いんだけどねぇ。ま、ヒーラー狙うのは戦術の基本てことで。軽く死んでくださいな」
軽薄な言葉と共に解き放たれる銛。海の巨大幻想種すら傷つける鋭い一撃がフーリィンに迫る。
「お前は鯨は殺せるだろうが――」
その銛を――一枚の盾が阻む。
「この盾の後ろに居る者は殺せない。未だ不甲斐ない俺だが、この盾の後ろだけは守り抜く」
重い一撃。オスカーは『ホエールキラー』の一撃を受け止めながら、しかし仲間は守ると誓いを立てる。全ては守れないけれど、この盾の後ろに居る仲間だけは守り抜く。
銛が加速するように力が籠められる。鯨の皮膚すら貫通する『ランサー』の秘技。ただの人間など受け止める事すらかなわない。熟練の騎士でも、無傷ではいられない。
それは誓い。誰かを守り抜くという誓いが生んだ奇跡。己の信念に盾が呼応し、そして相手の技法を上回ったのだ。
故に――この奇跡は『盾の誓い』。己の未熟を知りながら、しかし護ると誓った騎士の在り方。
「…………こいつは心折れそうだぜ。今のは結構本気で放ったんだぜ」
「ええ。ですがこれが現実です」
震える足に活を入れながら『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はネッドに迫る。両足に魔力を帯びた靴を履き、水上を走り歯車騎士団を攻め立てる。残りの体力を考えればそう長くは走れない。それを理解しながらミルトスは走る。
「おいおい、ボロボロじゃねぇか。さっきのお嬢ちゃんと言い、イ・ラプセルは本当に無茶するな」
「生まれてこの方『死んで来い』なんて言われるのって初めてなので、ちょっと加減がわからなくて」
「いやいやいや! 恥じらいながら言う事じゃねぇから、それ!」
ミルトスの攻撃を腕で受け、転がって移動しながらなんとか致命傷を避けるネッド。予備の銛を置いた場所に移動しようとするが、ミルトスはそこに先回りしてネッドを阻む。大きく下がろうとするネッドの胸元にミルトスの蹴りが突き刺さった。
「……げふぅ……!?」
「『ランサー』ネッド、見事ですがここまでです」
気を失ったネッドに向けて、ミルトスが言い放つ。歯車騎士団がその結果にどよめいた。
このまま一気に――と思った自由騎士は予想外の轟音に足を止める事となる。
乗ってきた蒸気船が、爆発したのだ。
●沈む自由騎士
船には構造上『背骨』に相応する部分がある。船はそこから『肋骨』のように材木を組んでいく。船の強度部分であるそこが折れれば、航海は困難になる部分だ。
ある程度航海になれたヘルメリア海軍は、その『背骨』を折ったことを確信する。連鎖的に起きる爆発が、さらにイ・ラプセルの船の崩壊を加速させていた。歯車騎士団は勝利を確信し、撤退にかかる。距離を取りながら砲撃を続け、自由騎士達を脱出させないような陣形を展開していく。
「おわっ!?」
次々と海に投げ出されていく自由騎士達。水上歩行の加護を使っていた自由騎士も、爆発の衝撃で足場が揺れれば立ってはいられない。足を取られ、入水してしまう。何とか体制を整えようとするが――
(なんだ……? 体が引っ張られる!)
自由騎士達は予想外の引力により海中に引っ張られていた。パニックに陥りそうになるが、何が原因なのかはすぐにわかる。胸元につけた歯車のバッヂ。そこに力がかかっているのだ。
(これ、バッヂが引っ張られてるのか? って、なんだあれ!?)
自由騎士の視界には、鯨のような何かがあった。
鯨ではない。鯨は木でできていない。鯨はガラスのような窓がない。鯨は腹部から触手のような何かを生やしていない。鯨はスクリューなんかついていない。
そんな『何か』が口を開き、自由騎士達を飲み込んだ――
●
気が付けば、自由騎士達は巨大な部屋に寝ていた。
一部始終を見ていたミズビトの話によると、自由騎士達は全員鯨のような何かに飲まれ、ここはその鯨の中だという。船内で動いていた者達の活躍もあり、船員などの非戦闘員もすべて無事のようだ。
「……危なかった。ミズビトが気付いてくれなかったらそのまま沈んでいる所だった」
アデルは深くため息を吐く。何故か理由で鯨に引っ張られなかったらしい。他の自由騎士より深く海底に沈んでしまい、その分疲労がたまっていた。
「ここは何処なんだ? って、なんだあれ?」
問う自由騎士に、ミズビト達は呆れたように壇上に立つ一人の少女を指差した。
「GoodEvening! ようこそ自由騎士の諸君! この『鯨型潜航船クルクー』の乗り心地はどうだ? ん? 控えめに言って最高? 当然だとも!
何せこの『フリーエンジン』代表のニコラ・ウィンゲート様の作り出したものだからな! 目覚まし時計の位置が微妙なこと以外はパーフェクトだ!」
胸を張り、かんらかんらと威張る少女。
なにあれ? と問うと、誰かが目を覚ますたびにあれを繰り返しているという。
とりあえず話の分かる人間に聞こう、とジョンを捕まえる自由騎士。
「なにあれ?」
「フリーエンジンの代表です。話にあった『仲間』ですよ。バッヂは特殊な磁力を発してこの船に誘導する役割を持ってます。
皆さんは海中に沈みました。海流激しいこの海で死体が上がることはまずないとヘルメリアも判断するでしょう。このまま海中からヘルメリアに上陸できます」
いや、そういう事を聞きたいんじゃないけど。それを分かっているのか否か、ジョンは説明を続ける。
「ヘルメリアとイ・ラプセルやシャンバラ領地内への移動もこの『クルクー』を用いて移動します。あらかじめ予定を立てていれば移動はそれほど難しくはありません。何せ皆さんは『死んで』います。スパイのマークもほぼないとみていいでしょう。
ともあれお疲れ様です。とりあえず私達の城に向かいましょう」
城? 困窮した組織からは想像できない単語である。そもそも蒸気国家ともいえるヘルメリアに城があるのだろうか?
「イ・ラプセルのお城ほどじゃ、ありませんけど、皆さんが、寝泊まりするだけのスペースは、ありますよ。
あ、寝心地は、少し悪いかも、ですけど」
久しぶりの我が家と言いたげにレティーナが微笑んで言葉を重ねる。よくは解らないが、体を休める場所があるのはありがたい。しばらくはそこがホームグラウンドになるのだから。
「YeaHA! この天才たるニコラ様はこの出会いの前にヘルメリアに攻撃を仕掛けておいたのだ! 何? それがなければ五分も戦わずに済んだ? そういう事もあるやもしれん!
だが攻撃は完璧だ。何せ跳ぶからな! ホップステップファルストボンバー!」
フリーエンジン代表は未だにメカ自慢を続けていた。自慢と言うかなんというかだが。
「繰り返すが、アレがフリーエンジンの代表なんだよな? ……その、大丈夫なのか? ただの…………メカ優先な常識知らずにしか見えないんだが」
「言葉を選んでいただきありがとうございます」
不安の元にジョンに問いかける自由騎士。ジョンは自由騎士の優しさに一礼した。
「些か特殊ですが――」
「いささか?」
「その特異性こそが彼女がリーダーたる所以です。――それに気づかない、という事はやはりイ・ラプセルはいい国なのでしょう」
よく分からない事を言うジョン。気づかない事が幸せ?
問い直そうとした瞬間に、軽い衝撃が船を揺らす。浮上する感覚と、窓から見える煤煙に包まれた灰色の空。
蒸気国家ヘルメリア。その景観が目の当たりにあった。
1819年6月28日――
公式記録として自由騎士は壊滅的な打撃を受けたと記される。
しかし非公式の記録として、この日自由騎士達はヘルメリアの地に足を踏み入れたのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
MVP
軽傷
重傷
称号付与
『背水の鬼刀』
取得者: 月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)
『槍折りし聖女』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『命を繋ぐ巫女』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)
『スチームエンジニア』
取得者: マリア・ベル(CL3000145)
『盾の誓い』
取得者: オスカー・バンベリー(CL3000332)
取得者: 月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)
『槍折りし聖女』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『命を繋ぐ巫女』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)
『スチームエンジニア』
取得者: マリア・ベル(CL3000145)
『盾の誓い』
取得者: オスカー・バンベリー(CL3000332)
†あとがき†
どくどくです。
いきなりの決戦。そして(表向きは)敗戦。そんなホットスタートなヘルメリア編です。
シャンバラ戦が神と神の軍隊の戦いなら、ヘルメリア戦は権力とそれに抗う奴隷の叛逆(パンク)です。その第一手は、皆様の奮戦で見事に成功したと言えるでしょう。
MVPは各戦場から。称号と共に貢献度にも色を付けてプレゼントです。
あと、なんか同調してラーニングスキルも。これは素直にプレイングがはまったという事です。
それではまた、イ・ラプセルで。
スキルラーニング!!
獲得キャラクター:スピンキー・フリスキー(CL3000555)
獲得スキル:熱き叫び
いきなりの決戦。そして(表向きは)敗戦。そんなホットスタートなヘルメリア編です。
シャンバラ戦が神と神の軍隊の戦いなら、ヘルメリア戦は権力とそれに抗う奴隷の叛逆(パンク)です。その第一手は、皆様の奮戦で見事に成功したと言えるでしょう。
MVPは各戦場から。称号と共に貢献度にも色を付けてプレゼントです。
あと、なんか同調してラーニングスキルも。これは素直にプレイングがはまったという事です。
それではまた、イ・ラプセルで。
スキルラーニング!!
獲得キャラクター:スピンキー・フリスキー(CL3000555)
獲得スキル:熱き叫び
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