MagiaSteam
沈みゆく星のクラティア



●・・・---・・・
 女は憂鬱そうにつま先で船室の床を叩く。周囲には自分の立場とおなじような『兵站軍』。正確にいえば彼女は主人の私兵なので違うのだが、上役にとっては大した違いなど無いのだろう。
 ここは兵站軍を収容する部屋と言うにはあまりにもお粗末な――口さがなくいうなら倉庫だ。数人の兵站軍と詰められたここは居心地が悪くてしかたがない。
 とは言え、兵站軍にとって居心地のいい場所などそうそうあるものではないが。
 女は主から課せられた任務を反芻する。
『ヴェルヌ卿に呼ばれたんで行ってくるわ。なにかあったら、ボンボンのお守り頼む。
 ホランズのフリゲイト艦に小隊連れて乗り込む手配はしておいた。
 あ? 直接ボンボンの船に乗らないのかって? まあいろいろしがらみってもんがあるんだよ』
 どうせなら主――ネッド・ラッドの護衛をさせてくれたらいいのに、とも思うが正式な場に自分のような亜人が踏み入れることは不可能なのだ。
「哨戒船の護衛兵というのも重要な仕事ではあるけれど、それでも――」
 ネッド様のそばにいれるほうがいい、などとは言えない。普段であれば諜報に破壊、そして女という立場を使った軍上層部への『籠絡』が彼女の仕事になるが、たまにこういった傭兵まがいの仕事も命じられることがある。
 そういった自分の動きによってネッドは己の立場を堅牢なものにしている。それでいいのだ。私は彼の道具なのだから。
 徹底した『教育』は少女だった女を変えた。
 ただただ、ネッド・ラッドのために。そして神ヘルメスのためにその身を捧げる一個の機械に。
「輸送船が襲われた! 今、回光通信機によるSOS信号を受け取った。
 ライルズ艦長率いるエスター号の援護に向かう!」
 伝令の言葉に女――ステラ・モラルは金の髪を後ろに縛る。
 何らかの敵襲がエスター号を襲ったらしい。
 おそらくはフリーエンジンだろう。
 あんな壊れた歯車のような邪魔な国民……国民だと呼びたくもない逆賊がヘルメス様の考えを否定し反旗を翻すなど不届き千万にも程がある。
 彼らの動きは最近になって、大胆になってきた。
 輸送船を強襲など昔の彼らではありえない。イ・ラプセルと手を組んだというまことしやかな噂はながれてはくるが、イ・ラプセルの有力な自由騎士たちはヘルメリア軍によって殺されたとも聞く。
「イ・ラプセルか――」
 ステラは生き別れた父を思う。父がイ・ラプセルの自由騎士になったという話は聞いた。まあ聞いたと同時に先のヘルメリア軍との交戦によって死んだという情報も得た。
 彼女はかつて、父を慕っていた。けれど父はもうヘルメリアにあだなす裏切り者でしかない。正直なところそこになんの感情もない。
 死んだときいてそうか、と思っただけだ。
「隊長、指示を」
 伝令が慌ただしく甲板に戻った直後、彼女の部下である兵站軍が指示を乞う。
「ええ、ネッド様の指示はライルズ様のお守り、すぐに甲板に出て戦闘準備をととのえて……っ!」
 指示を出している最中に大きく哨戒船が揺れる。
「なに?!」
 慌ただしくなった甲板を走り回る音が聞こえる。先程の伝令兵がもういちど船室におりてきて、本艦への敵襲を伝えた。
 
●「お父さま、今日のスープとてもおいしいわ」
「エスター号に向かったみんなの事は知ってるよね? エスター号の近くにフリゲイト艦――哨戒船がいることが水鏡でわかったの!」
 『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が資料を胸元にかかえあなた達のもとに飛び込んでくる。
「その哨戒船がエスター号と合流したらちょっと大変なことになるとおもうんだ。だから、この哨戒船がエスター号と合流するのを止めてほしいの。
 いまから向かえばちょうどエスター号に向かって方向転換をするタイミングで哨戒船に接敵できるとおもうから急いで急いで!」
 それと、とつなげたクラウディアの表情は曇っていた。
「ニコラスさんの娘さんも――いるみたい」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.フリゲイト艦を10ターン足止めする。
  たぢまです。
  どくどくSTのエスター号強奪作戦!との連動依頼になります。
  この船を足止めしてください。
  10ターン足止めできたら成功です。
  失敗した場合にはエスター号の時間制限が20ターンに減少します。
  戦闘不能者が半数を超えた時点で撤退になります。
  10ターン後には退却してください。
  
  この依頼は関係者依頼になります。ニコラス・モラル(CL3000453)さんの娘さんであるステラ・モラルが登場していますが、該当PCの依頼への参加を強要するものではありません。また優先もありません。
  
  注意:
  この依頼はどくどくSTの『Getaway! エスター号強奪作戦!』と同時に参加することはできません。
  確定後参加が確認された場合は参加を取りやめさせていただいます。参加料の返金はありませんのでご注意ください。
  
 ◇時間
  夜です。甲板に光源はありますが、各々で対策があればベストです。
  
 ◇ロケーション
  エスター号の救出に向かうフリゲイト艦(哨戒船)の甲板になります。
  船の全長は50mほど。広さは10m程度になります。
  揺れはそこそこ。
  
 ◇敵
  艦長 ホランズ・ミンスター
   この船の艦長です。バスター/オラクル/ノウブル。かなり強いです。
   艦長室にいます。10ターンを超えたら出てきますが戦闘をすることはおすすめしません。
   下記ステラ・モラルよりも強いです。
   10ターン以内に艦長室にむかうのには甲板にいる敵を全滅させる必要があります。
   
  兵站軍隊長 ステラ・モラル
   金髪が美しいミズヒトの女性です。年齢は23歳。フェンサー。
   碧眼は父親譲りになります。かなりの美人さんです。
   『教育』によって強靱な戦士になりました。かなり強いです。
   フェンサーのランク3のスキルまで使用することができます。
   価値があるものはヘルメスとネッド・ラッド(どくどくSTNPC)のみ。
   主人の命令は生命をかけてでも従います。
   ネッドの私兵なので正確には兵站軍ではありませんがこの場にいる兵站軍のリーダーを任されています。
   諜報員ではありますが戦闘力が高いのでネッドの指示で戦いにいくことが多いです。
   速度と物理火力は高め。魔導火力はそれほど高くはありません。
   最前衛で戦います。
   
   EX:ルストコリエンテ 魔導/遠距離/単体
    自らの武器に水流を纏わせて放ちます。その水流が武器に接触すると素材に関わらず魔法的に錆びて
    攻撃力が大きく減少します。
    【ウィーク3】ミズヒトに対してのダメージが+20%されます。使うごとにある程度の体力が消耗されます。
    
   兵站軍15名
    基本的に最前衛(歯車騎士たちより前にいるという意味です)として行動します。
    前衛に重戦士系、軽戦士系、格闘系が3人ずつ、防御タンク系2人
    後衛に魔導士、ヒーラー系が2人
    
   歯車騎士団(蒸気騎士)2名
    後衛から攻撃してきます。彼らに向かうには兵站軍が邪魔をします。
    騎士鎧風の蒸気兵器を身に纏った存在です。大きさは人間大程度。
   『クイーンオブハート』と呼ばれる魔術を遮るコーティングと、『マーチラビット』と呼ばれる多段炸裂弾(遠距離範囲・三連撃・バーン2)を持つことが分かっています。
    兵站軍、歯車騎士はランク2までのスキルを使います。
    
    以上たいへんですがよろしくおねがいします。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年10月30日

†メイン参加者 8人†




 ツケが回り回ってとうとう返済を求めて迫ってきた。
 もちろん自分の故郷がどんな国であったのかなど、理解しているし現状自由騎士としてその職務を全うするのであればそういう日も来るとは思っていた。
 『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は近づいてくる敵艦の灯に眉根を寄せる。

 いやだ、と『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は思った。父と娘で傷つけあうそんな世界を認めるわけにはいかないと戦うことを決めた。
 戦争だから親子が敵国同士に分かれたのであれば争うことになるのは自明の理である。その理がわからないほど子供ではない。
 だけど、「いや」なのだ。そんな理が。難しい話ではない。血を分けた親子が敵同士というのが嫌だという、ごくごく単純な――それは我が我儘な子供のような理由なのだ。だから今日は自分の我儘のために戦う。
 そう思ったらすとんと納得がいったような気がした。

 『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)もまた親子同士で戦うという理由がわからない。彼にとって親は、親だけではない。村の人々はみんな家族のようなものだった。
 親は子を愛するし、子もまた親を愛する。そんな単純な構造が当たり前だった。
 事情はあるのかもしれない。けれど、だからといって親子で殺し合いなんて絶対に嫌だ。
「だから絶対にさせない……親子同士で殺し合いなんて……!」
 フリゲイトを睨みながら呟くナバルにアダムはキョトンとした目を向け、そして微笑んだ。
 気持ちは同じだ。ならばそれを成せばいい。

 『黒き狂戦士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)が女神に祈りを捧げている傍ら、『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はフリゲイトに乗船しているだろう女を思い帽子をかぶり直す。
 親と子供の殺し合い。それは嫌なことだ。でもアンネリーザは可愛そうだと同情はしない。
 彼女は彼女――戦士として生き抜くことを選んだのだから。その生き方を否定はできない。
 いくらだって違う道はあったはずだ。しかしあの女はそれを選んだ。それだけの話なのだ。
「ふふ、いろいろな事情があるみたいだね。けれどね――俺にいわせれば、そこに美しい女性がいるのであれば馳せ参じるのが男の甲斐性というものさ!」
 『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は大げさに両手を開いてそう言い放った。事実水鏡で姿をみたニコラスの娘――ステラ・モラルは目も眩むような美女だった。
「おいおい、おじさんの娘だからキレイなのは当然だけど、気軽にナンパしてくれるなよ?」
「それは、ちょっと約束できないな。美女がいれば口説くのは男のサガだろう? それはニコラスも同じはずだろ?」
 ニコラスのツッコミにオルパは悪びれる素振りすらない。
「たしかにすばらしいおいどのもちぬしでしたな」
 『おちゃがこわい』サブロウ・カイトー(CL3000363)とて、親子が戦うことが辛くないわけがないが、そこは大人。軽口でもって空気を軽くしようとナンパ話に乗る。
 民事不介入とは世の理とはいえ、夫婦喧嘩の仲裁なんて日常茶飯事。なれば親子喧嘩だっておなじこと。いつもどおりにおせっかいするだけの話だ。
 とはいえ任務は忘れていない。最優先事項は頭にしっかりと叩き込んである。
「あなたは何を望みますか?」
 ナイトオウルが茫洋とした瞳でニコラスに尋ねる。
「望むこと? いやいや、そんなものはないさ。お仕事のほうが大事。おじさんたちはここで、足止めをする。それだけだよ」
 飄々と答えるニコラスにナイトオウルは瞑目し、嘘だ、と思う。
(女神よ。神民の幸福を願う女神よ。貴女の望みが、私の願いです。そのためになら――)
 そして祈る。愛しき女神に。
「みなさん! もうすぐ接舷しますよ~! 揺れますので準備を!」
 『最初のいっぽ』ナーサ・ライラム(CL3000594)はカンテラを振りながら皆に向かって警告する。
 彼らの夜はまだ始まったばかりである。


 敵襲を受け、フリゲイト艦の甲板がにわかに騒がしくなる。
 細身の剣を携えたステラ・モラルは兵站軍を率い最前線で指示をかけていく。
 最後列で偉そうにふんぞり返っている歯車騎士団の皆様はきっとろくに指示も援護もしてくれないだろう。
「おちついて、フリーエンジンなんて大したものじゃない。海の中に叩き落としてやりなさい」
 言ってステラは自由騎士たちに切り込めば、アダムが前にでてその刃を受け止める。
「直接みるとやっぱ別嬪さんだね!」
 オルパがひゅうと口笛を吹いて切り合う二人を超え、敵前衛に切り込んでいく。
「おっと、先を越されましたか。なんと胸元も見事!」
 サブロウもまた、得物を携え帆柱を利用しつつ敵前衛に近づく。
「船の上の戦いは慣れてきたとこだっ!」
 この作戦を成功させることができればより多くのヒトビトを助けることができる。そのためにやることが戦うことばかりだということはナバルの心に軋みをもたらす。
 だから今は――。
「自分が倒れない限り、他の仲間の誰も倒れさせない! そして、オレもそう簡単には倒れない!」
 オルパとサブロウに向け、パリィングを発動する。
 ナバルのちからは守ることに特化したそれだ。守護することもまた戦いである。
 それはこの戦乱の世においてナバルという不格好だとしても純粋な、ヒトを殺すことを厭う少年のあり方に他ならない彼だけの戦い方なのだ。
 ステラを抑えたアダムは防御をナバルにまかせ、自分は剣を軋らせながら、目の前の女に集中する。
「貴方がどう思うかはさておき、ここからは進ませないよ。……違うな、こんな言葉は女性にかけるには無粋だ。
 僕以外の男に目移りなんてさせないよ!」
 零元の波動とともに放たれた一言がステラを掴む。
「な…っ! ふざけているのか?」
「だってよ、おとうさん」
「おい! アダム、娘はやらんからな!!」
 オルパの煽りに思わずニコラスが突っこむ。
「……っ!」
 そこで初めて、ステラの目線がニコラスに向く。その視線は物言わぬとも雄弁に父親を非難する娘のものに他ならない。
「いやね、置いてけぼりにしたのはワザとじゃないんだぞ? 不慮の事故だ、不慮の事故」
 ニコラスは仲間を回復させながらステラの視線から、目を逸らせる。わかってはいたが非難がましい娘の視線は物理力を伴わないとはいえ鋭い心理攻撃になってニコラスを襲う。
 娘をヘルメリアから開放して助けたいという気持ちはある。しかし自分がいまその言葉を口にしてしまうのは烏滸がましいにも程があるのだ。だから、願うことしかできない。どうか良い未来をと。
「生きていた……の? 父さん。……いいえ、ニコラス・モラル。生き汚い貴方が死んだという情報のほうが、間違いだったようね。……あなたにはネッド様から捕縛命令がでているわ。ネッド様も貴方が生きていると革新していたようね。捕縛するのは死体でも構わないみたいだけど」
「ひえっ、怖い怖い」
 女は父親のそんな巫山戯た態度に苛立ちを顕にする。その隙をつくようにアンネリーザがヘッドショットを放った。
 女の髪を結わえた紐がちぎれ飛び、髪が夜闇に広がった。
 その夜闇を切り裂くように上空から、刃と化した無数の羽が女を切り裂くように足元の甲板をずたずたにする。自由騎士たちの矢継ぎ早の攻撃に女はたたらを踏んだ。
「AAAaaAAaaaHhHHhH!!!」
 影をまとった漆黒――夜闇に紛れ奇襲を狙っていたナイトオウルが女を攫おうとするが、女はすぐに態勢をたてなおし、剣でナイトオウルをはねのけた。
 2度、その奇襲は通じないだろう。

 敵兵を攫うと考えるのであればそれは仲間たちと事前の相談が重要になる。奇襲を仲間たちが理解していなければ、連携をとることも難しい。
 また夜闇に紛れて、空中から近づくことは可能ではあるだろう。しかし、こちらもまた夜目がない以上、攻撃する場所は勘に頼ることになる。
 空中にいる状況を利用して攻撃を集中させるのであれば、それこそ目立つ必要がある。敵兵の目の前には明確に船に乗り上げた自由騎士という敵がいるのだから。とはいえ、目立てば奇襲は難しくなると痛し痒しである。
「え、え~い」
 ナーサが魔導書を抱えながら、敵前衛にユピテルゲイヂを放てば、後衛の回復手たちは回復に手間取られる。
 蒸気騎士は自由騎士たちの前衛を狙い、兵站軍ごとまとめてマーチラビットを放った。
「くそ、負けるか! まけるかぁあ!! 痛くない! 痛くない!!」
 ナバルはその猛攻に必死の形相で耐える。ナバルはマーチラビットの多段攻撃に腕を吹き飛ばした兵站軍の悲痛な顔を見て胸が軋む。
 なんだよ、そいつは味方なんだろう?! なんで! なんで――!
 鎧に包まれた蒸気騎士の顔はわからない。けれど、ナバルにはニヤニヤと笑っているようにみえた。
 ちくしょう、そんな笑いなんて、オレが求める笑顔なんかじゃない! オレはみんなを幸せな笑顔にするんだ!
 やり遂げるんだ! こんなところで投げ出さない。
 ああ、体中痛くないところなんてない! だからって投げ出すわけにはいかない!
 オレは間違ってない! 絶対に! オレは間違っていないんだ!!!!
 ナバルは英雄の欠片というチップを使ってでも、立ち続けることを選ぶ。
「おっと、無理すんなよ!」
 ニコラスが慌てて、ナバルに回復を施す。
「すみません、ナバルさん。ありがとうございます」
 サブロウはナバルが自らを傷つけてでも、自分を守ったことに礼をいう。ならば、彼のためにも――彼ら親子のためにも自分は兵站軍を少しでも減らして時間を稼ぐことに専念する。
 それはオルパも同じで、彼らは目配せし、先程マーチラビットの攻撃をうけた兵站軍を狙い、戦闘不能にする。
 オルパは戦いながらも亜人開放のための行動中だと兵站軍に告げるが、反応は思わしくはない。それもしかたない。彼ら兵站軍は体の一部を機械化されているものがほとんどだ。それはヘルメリアに生命を握られているという意味に他ならない。
 兵站、という名前の通り彼らはヒトではなく兵站あつかい――つまりは消耗品なのだ。彼らは生きるためにはヘルメリアに与するしか道はない。おかしな行動をみせればたとえこの場で生き残ろうと、本国で査問会にかけられる。その末路はたったひとつだ。

 ――どうにも即席の隊長であるステラと兵站軍、そして蒸気騎士の足並みがそろっていないように見える。
 そこが打開点になるとアンネリーザは直感し、状況を洗い直す。
「コキュートスちょうだい、私にあわせて、ヒーラーを狙うわよ。前衛はそのまま前衛に、ナバルとアダムはまだ耐えれるわよね! 男の子だもの!」
 アンネリーザの指示に、ナーサは、はい! と返事し、前衛の男達は苦笑しつつも頷く。
(別に全員倒す必要なんかはない。だったら弱みにつけ込んでめいっぱい引っ掻き回してやるんだから。希望の船であるエスター号のもとへそう簡単に行かせたりはしないわ)
「できらぁ!!」
「女性のエスコートは得意じゃないけど、うん。ナバルくんにはまけてられないからね。
 たとえ、たおれても立ち上がるさ」
 ナバルとアダムが両者両様の返事を返せばアンネリーザは元気があってよろしい、と頷いた。
 ステラの猛攻を一身でうけているアダムには正直ダブルカバーリングまでできる余裕はなかった。ステラは戦闘用に特化しているだけにその攻撃は苛烈だ。
 回避を狙うもののそれはなかなか奏功しない。
 親子で傷つけあってほしくない。戦いのなかでそんな考えが甘いものだとわかっている。
 たった一組の親子の絆を守れずになにが騎士か!
 少年は我儘であろうと思う。子供だといわれても構わない。自分は自分らしく、イヤダイヤダと駄々を捏ねるような我儘な『自分』であると決めたのだ。
 打ち据えられるその攻撃が親であるニコラスに届かないのなら上々だ。

「モラル卿! なにか手伝えることはありませんか?」
 サブロウが後衛のニコラスに声をかける。
 まったく。ナバルもアダムも、サブロウも、おせっかいなんだよ。
 ニコラスはステラに対して皆がそろって大きな怪我をさせないように戦っているのはわかる。手加減のできる相手ではないが、それでもできる範囲で配慮していることに気づいていないわけなどない。
 ニコラスは一つため息をつくと、娘と視線を合わせる。
「こいよステラ! ネッドを殺そうって狙ってんのは俺だ! とっておきのがあるんだろ?!」
「貴様、ニコラス・モラルッ!! ぬけぬけと!」
 ニコラスは娘に向かって叫ぶ。そんなことしか言えない自分に嫌気がさす。けれどそれこそが彼が彼女にかけることのできる言葉の精一杯だ。サブロウがやれやれ、不器用な親父さんだとため息をつく。
 アダムとナバルなど、戦闘を煽る言葉に驚きの表情を見せている。せっかく子供に気を使ってもらったのに台無しにする俺は、ああ。大人失格だ。
 まったく度し難いとはこのことだな。
 親らしいことなんて、大人として子供に、なにもできないのだと思うと情けなくなる。
 怒りに燃えるステラのルストコリエンテがニコラスに向かい、水流がニコラスの武器を捉え、ニコラス本人をも捉えていく。
 この痛みはきっと娘の心の痛みだろう。それを受けることくらいしか俺にはしてやることはできない。
 準備はしていたが、ミズヒトへの特攻をもつその威力は他の種族よりもミズヒトであるニコラスにはよくきく。足元から力が失われていく。英雄の欠片を引き寄せなんとか膝をついても立ち上がることができた。
 ルストコリエンテを放出したステラはこほりと血を吐く。しかして未だ膝はついてはいない。

「時間よ!」
 アンネリーザが撤退するべき時間を告げる。
 父と娘の邂逅をもう少しくらいは楽しんでもらいたかったけど非常にもタイムリミットはすぐそこだ。
「足止めは十分よ、船長さんと戦うなんてバカなことは言わないわよね?」
 言って、フリゲイト艦の手すりを超え、接舷していた自由騎士たちの船に飛び移りながらアンネリーザは皆を促す。
「お嬢さん、素敵な夜をありがとう! 別れは惜しいけど! そうそう、せっかくの美人さんなんだ。もっと人生楽しもうぜ! じゃあまた会おうな! グンナイ!」
 オルパも挨拶だけは忘れずにアンネリーザに続く。
「それでは!」
 サブロウは自分が飛び乗っていた帆柱にかかる帆のロープを切ってから船に戻る。
「せめてもの嫌がらせだ!」
 ナバルは腰にくくりつけていたカンテラを外して投げてサブロウが落とした帆に火をかければ、消火作業に兵站軍が手をとられることになった。エスター号への救援にはしばらく時間がかかることになるだろう。
「ひゃあ??」
 ぼーっとするナーサをナイトオウルが掴み、低空を駆けて接舷している船に戻る。
「ニコラスさん……」
 無言で娘を見つめるニコラスを殿のアダムが促す。
「逃げるのか? ニコラス・モラル」
 ステラが言いながら剣をニコラスに向ける。
「俺は追われると逃げる主義なのさ」
「この臆病者!」
「だろうな」
「ニコラスさん! 早く」
 アダムに急かされてニコラスはステラに背をむけ、そしてもう一度振り返る。
「……」
 言いたいことはあった。またな、元気で良かった、あえて嬉しい、でもそのすべてを言う資格などは自分にはない。だから、視線に想いを込めた。
 伝わるかどうかはわからないが。
 
 ●
「娘さん、あなたに似てるわね……」
 すでに見えなくなったフリゲイト艦の方向をみながら一言も発しないニコラスにアンネリーザが声をかけた。
 彼女とはヘルメリアと敵対する限りまた出会うことになるだろう。
 だから、彼女は言葉を選ぶ。
「……もっとちゃんと、話ができたら良いのにね」
「……疲れた。今回、ホントに疲れたわ」
 アンネリーザには答えずニコラスはただひとこと、疲れたと言った。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『邂逅する想い』
取得者: ニコラス・モラル(CL3000453)

†あとがき†

親子の邂逅の物語でした。
MVPは己をかけて仲間を守りきったあなたに。

少々相談が足りないように感じました。
個人的行動で仲間と足並みをあわせないという行動は問題はありませんが、その旨を仲間に伝えておかないと連携が叶いません。
またラーニングについても、一人がEXを誘発しても他のみなさんがラーニングするという意志がなければ奏功しません。
こちらも打ち合わせることが重要かなとおもいました。

ご参加ありがとうございました。
FL送付済