MagiaSteam




Immortal!? 不死の守護者に安寧を

●イ・ラプセルのどこかで
幽霊列車(ゲシュペント)の汽笛が鳴る――
●首都サンクディゼールに続く街道にて
「ミーの名前は『ネズミ公爵』ノーマン・B・ウィスター!
この度『生体エンジン』によって起動するラーケン三十三号にて、自由騎士団にリベンジを果たすべく進行中デース!」
大量のネズミが回す歯車を動力にして動く大きさ三メートルの乳母車っぽい何かがイ・ラプセルの街道を走っていた。車の先端には木製の盾っぽい板があり、盾には鋭い角のような突起物がいくつも生えていた。
「前回のような採伐を主体としたラーケン三十二号とは違い、こちらは機動力に特化した戦闘スタイル! 高速で迫る衝角の突撃! 何人たりともこのウィスター公爵の歩みを止めることはできぬおわぎょわああああああ!?」
突如襲った衝撃で動きが止まる乳母車。見ればイ・ラプセルの軍服を着た者が銃剣を手に突撃してきたのだ。真正面から体当たり受ける形となり、その軍人は明らかに轢殺寸前の状態に陥っている。高速で走る車に自らの危険を顧みずに突撃してきたのだ。衝角に体を貫かれてはいるが、折れた足が車輪に絡まり動きを止めていた。
そしてそこをめがけて幾多の銃剣が乳母車に突き刺さる。何度も何度も何度も何度も。反撃など恐れない。戦略など必要ない。危険など顧みない。ただ敵を討つためだけの突撃。
――訂正しなければならない部分が一つだけあった。
最初に突撃してきた男は轢殺されていない。何故なら、もう死んでいるからだ。
「これは……還リヒトデスか!? ひぃ、へーるぷみー!」
死人の兵士を前にウィスター公爵はラーケン三十三号を動かしていたネズミと共に、脱兎のごとく逃げ出す。
「あれ、ミーの出番これだけ!? リアリィ!? おーぼーえーてーろー……ろー……ろぉ……ぉ……」
遠く消え去るネズミの声。
そして還リヒトの兵士は身を隠すために近くの洞窟に戻る。イ・ラプセルの街道を守るために――
●騎士達に浄化の刃を
「先のヴィスマルク戦で無念を遂げたイ・ラプセル騎士団正規兵。それが還リヒトとなったようだ」
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ (nCL3000012)は集まったオラクルたちに向けて説明を開始する。
予備知識として、イ・ラプセルの国防組織――軍隊の事だが――はイ・ラプセル騎士団という。国王エドワードをトップとして『正規兵』『魔導兵団』『自由騎士団』の三つに分かれる。今回還リヒトとなったのは『正規兵』と呼ばれる者達だ。
「彼らはサンクディゼールに続く街道を守るよう命令された騎士達だ。彼らの奮闘あってアデレードを占拠したヴィスマルク兵が首都を襲うことはなかった。だが、彼らの多くは殉職してしまった。
海戦後に私も治療に携わったのだがね。残念ながら手が及ばずという状態だった」
鳥のようなマスクからぐもった声が響く。首を振る動作の後に、言葉を続ける。
「彼らは街道を通る全ての者に攻撃を仕掛けてくる。旅人や商人などお構いなしだ。
何よりも還リヒトの存在を看過するわけにはいかない。イブリースは病魔だ。病気に冒された彼らを見過ごすわけにはいかない。共に治療に向かおうではないか」
たとえそれが国を守った英雄だとしても――否、国を守った彼らだからこそ不名誉な行動をさせるわけにはいかないのだ。
自由騎士達は頷き、現場に向かった。
幽霊列車(ゲシュペント)の汽笛が鳴る――
●首都サンクディゼールに続く街道にて
「ミーの名前は『ネズミ公爵』ノーマン・B・ウィスター!
この度『生体エンジン』によって起動するラーケン三十三号にて、自由騎士団にリベンジを果たすべく進行中デース!」
大量のネズミが回す歯車を動力にして動く大きさ三メートルの乳母車っぽい何かがイ・ラプセルの街道を走っていた。車の先端には木製の盾っぽい板があり、盾には鋭い角のような突起物がいくつも生えていた。
「前回のような採伐を主体としたラーケン三十二号とは違い、こちらは機動力に特化した戦闘スタイル! 高速で迫る衝角の突撃! 何人たりともこのウィスター公爵の歩みを止めることはできぬおわぎょわああああああ!?」
突如襲った衝撃で動きが止まる乳母車。見ればイ・ラプセルの軍服を着た者が銃剣を手に突撃してきたのだ。真正面から体当たり受ける形となり、その軍人は明らかに轢殺寸前の状態に陥っている。高速で走る車に自らの危険を顧みずに突撃してきたのだ。衝角に体を貫かれてはいるが、折れた足が車輪に絡まり動きを止めていた。
そしてそこをめがけて幾多の銃剣が乳母車に突き刺さる。何度も何度も何度も何度も。反撃など恐れない。戦略など必要ない。危険など顧みない。ただ敵を討つためだけの突撃。
――訂正しなければならない部分が一つだけあった。
最初に突撃してきた男は轢殺されていない。何故なら、もう死んでいるからだ。
「これは……還リヒトデスか!? ひぃ、へーるぷみー!」
死人の兵士を前にウィスター公爵はラーケン三十三号を動かしていたネズミと共に、脱兎のごとく逃げ出す。
「あれ、ミーの出番これだけ!? リアリィ!? おーぼーえーてーろー……ろー……ろぉ……ぉ……」
遠く消え去るネズミの声。
そして還リヒトの兵士は身を隠すために近くの洞窟に戻る。イ・ラプセルの街道を守るために――
●騎士達に浄化の刃を
「先のヴィスマルク戦で無念を遂げたイ・ラプセル騎士団正規兵。それが還リヒトとなったようだ」
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ (nCL3000012)は集まったオラクルたちに向けて説明を開始する。
予備知識として、イ・ラプセルの国防組織――軍隊の事だが――はイ・ラプセル騎士団という。国王エドワードをトップとして『正規兵』『魔導兵団』『自由騎士団』の三つに分かれる。今回還リヒトとなったのは『正規兵』と呼ばれる者達だ。
「彼らはサンクディゼールに続く街道を守るよう命令された騎士達だ。彼らの奮闘あってアデレードを占拠したヴィスマルク兵が首都を襲うことはなかった。だが、彼らの多くは殉職してしまった。
海戦後に私も治療に携わったのだがね。残念ながら手が及ばずという状態だった」
鳥のようなマスクからぐもった声が響く。首を振る動作の後に、言葉を続ける。
「彼らは街道を通る全ての者に攻撃を仕掛けてくる。旅人や商人などお構いなしだ。
何よりも還リヒトの存在を看過するわけにはいかない。イブリースは病魔だ。病気に冒された彼らを見過ごすわけにはいかない。共に治療に向かおうではないか」
たとえそれが国を守った英雄だとしても――否、国を守った彼らだからこそ不名誉な行動をさせるわけにはいかないのだ。
自由騎士達は頷き、現場に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リヒト9体の殲滅
どくどくです。
なんかネズミっぽい人がいた気がしますが、気のせいです。シナリオ内では全く出てきません。
●敵情報
・還リヒト(×9)
イ・ラプセルを守るために戦い散った兵士達。彼らが還リヒトになりました。生前は首都を守るために街道沿いに塹壕を掘って戦っていましたが、その塹壕も埋められています。今はゲリラ的に洞窟に潜み、街道に人影があれば襲い掛かるようです。
腐りかけたリビングデッド系と、幽鬼状のゴースト系の混成部隊です。
・リーダー(×1)
オールモストのキジンでした。その上にプレートメイルを着て、巨大な両手剣を持っています。生前は重戦士スタイルだったようです。
攻撃方法
バッシュLv2 攻近単 同名のスキル参照
ウォーモンガーLv1 自 同名のスキル参照
・リビングデッド(×6)
銃剣を持つ兵士です。元は軽戦士スタイルでした。
攻撃方法
ラピッドジーンLv1 自 同名のスキル参照
ブレイクゲイトLv2 攻遠単 同名のスキル参照
・ゴースト(×2)
肉体を失った幽霊です。物理攻撃は届きますが、効果は薄いです(データ的に防御力高めで抗魔力低めです)。生前は魔術師スタイルでした。
攻撃方法
マナウェーブLv1 自 同名のスキル参照
緋文字Lv2 魔遠単 同名のスキル参照
●NPC
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ (nCL3000012)
ペストマスクをつけた医者です。元兵士達のデータはサイラスからもらいました。
特に指示がなければ、後衛で回復役として動きます。こうしてほしいという行動があれば、相談宅で示してください(指示によるプレイングの文字数軽減処置です)。
●場所情報
イ・ラプセル首都サンクディゼールに続く街道。出現地点に足を踏み入れれば、突撃してきます。彼らが潜んでいる洞窟は知っているため、不意打ちは受けません。
戦闘開始時、敵前衛に『リーダー(×1)』『リビングデッド(×4)』が。後衛に『リビングデッド(×2)』『ゴースト(×2)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。ホムンクルス形成も可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
なんかネズミっぽい人がいた気がしますが、気のせいです。シナリオ内では全く出てきません。
●敵情報
・還リヒト(×9)
イ・ラプセルを守るために戦い散った兵士達。彼らが還リヒトになりました。生前は首都を守るために街道沿いに塹壕を掘って戦っていましたが、その塹壕も埋められています。今はゲリラ的に洞窟に潜み、街道に人影があれば襲い掛かるようです。
腐りかけたリビングデッド系と、幽鬼状のゴースト系の混成部隊です。
・リーダー(×1)
オールモストのキジンでした。その上にプレートメイルを着て、巨大な両手剣を持っています。生前は重戦士スタイルだったようです。
攻撃方法
バッシュLv2 攻近単 同名のスキル参照
ウォーモンガーLv1 自 同名のスキル参照
・リビングデッド(×6)
銃剣を持つ兵士です。元は軽戦士スタイルでした。
攻撃方法
ラピッドジーンLv1 自 同名のスキル参照
ブレイクゲイトLv2 攻遠単 同名のスキル参照
・ゴースト(×2)
肉体を失った幽霊です。物理攻撃は届きますが、効果は薄いです(データ的に防御力高めで抗魔力低めです)。生前は魔術師スタイルでした。
攻撃方法
マナウェーブLv1 自 同名のスキル参照
緋文字Lv2 魔遠単 同名のスキル参照
●NPC
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ (nCL3000012)
ペストマスクをつけた医者です。元兵士達のデータはサイラスからもらいました。
特に指示がなければ、後衛で回復役として動きます。こうしてほしいという行動があれば、相談宅で示してください(指示によるプレイングの文字数軽減処置です)。
●場所情報
イ・ラプセル首都サンクディゼールに続く街道。出現地点に足を踏み入れれば、突撃してきます。彼らが潜んでいる洞窟は知っているため、不意打ちは受けません。
戦闘開始時、敵前衛に『リーダー(×1)』『リビングデッド(×4)』が。後衛に『リビングデッド(×2)』『ゴースト(×2)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。ホムンクルス形成も可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2018年07月27日
2018年07月27日
†メイン参加者 7人†

●
「私達は良い。あの戦争に医者として参加し、貴様の言う通り手が及ばなかった以上……つまりこれは請け負った仕事のツケで後始末だ」
出発前、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)にそう語りかける。
「だが他の奴らは……どう言い繕った所でキツい気分だろうさ。
だからサイラス、ほんとに頼むよ。私の様な常から戯けた奴より、貴様の様な奴が拙く言った方が良いんだ。その方がさ、少しは気が逸れるだろう」
「…………還リヒト、か」
鬱積した想いを吐き出すように『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)は依頼の内容を反芻していた。その表情は何かを堪えるかのように暗く、二律背反に悩むように重かった。還リヒトを単純に倒して終わり、と割り切れない顔だ。
「正規兵か。騎士階級なんていけ好かないが、死んじまえば皆一緒だ」
クールに『戦場《アウターヘヴン》の落し子』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)は言い捨てる。財産や地位は死後の世界に持っていけない。ならば生前の階級など意味を為さないのだ。そう告げるルシアスのため息は、少し重かった。
「このままにはして置けませんね。ボク達の手でしっかりセフィロトの海に還してあげなければ」
祈るように『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は還リヒトのことを想う。国を守るために散った正規兵。彼らがいなければ先の戦争の戦禍はさらに広がっていただろう。それがこのような形で蘇ろうとは。
「せっかく眠ってたところを叩き起こされて、死後も働かされる……こりゃ悪夢だろうなぁ」
通商連の偉い人でもそこまではしないぞ、と愚痴る『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。どのみち戦争はもう終わったのだ。この道を守る意味はもうない。ゆっくり眠ってもらわなくては。
「騎士団として楽にしてあげられるなら、しっかり浄化してあげないとね!」
『見習い騎士』シア・ウィルナーグ(CL3000028)はレイピアを握りしめて、自らを鼓舞するように拳を振り上げる。自由騎士とは異なる所属の騎士達だが、イ・ラプセルを守った騎士達だ。捨て置ける道理はない。
「そうですね。それは最低条件でしょう」
シアの言葉に頷く『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。還リヒトを倒す。それは当然やらなくてはならないことだ。そしてそれ以上に何かを掴まなくてはいけない。増え続ける還リヒトの事件に関する何かを。
そして――
「皆、がんばってねー。女神アクアディーネも応援してるから」
と、ペストマスクに黒マントをつけた長身の御仁……当人の言を信じるなら女神アクアディーネが戯言をのたまっていた。笑気ガスを使って声のトーンを高くして女性のよう……かなり強引だけど男性特有の声の低さを消していた。
念のため言うが、アクアディーネの体格や声とは似ても似つかないものである。
重い沈黙ののち、ようやくと言った感じでウェルスが口を開く。
「……何やってんだ、サイラスの旦那」
「ふ。このペストマスクとマントの中が、実は女神アクアディーネじゃないという証拠はないですわ」
「いや。アクアディーネ様、アクア神殿から出れないから!」
「ひどっ! 戦う前から全体フリーズ喰らうとか!」
総スカン総ツッコミである。
「ともあれこの女神アクアディーネが後ろから癒してあげるから、皆は戦いに集中してね。えへ」
「…………うわー。じぶんでたのんどいてこれはないわ」
ぶりっこポーズをするペストマスクを見ながら、ツボミは頭を抱えていた。冒頭のシリアスを返せ。
「さあ、みんな。そろそろ還リヒトが出る場所よ。戦いの準備をして!」
アクアディーネ(自称)の声にマキナ=ギアから武器を取り出す自由騎士達。ツッコミどころ満載だけど、もう色々疲れたのと還リヒトが出たことで意識を切り替える。
自由騎士VS還リヒト。その戦いが始まる。
●
「行きます」
一番槍となったのはカスカだ。還リヒトの気を引くためにヴィスマルクの旗を掲げて、距離を詰める。相手が生前狙っていた相手を装うことで、他の自由騎士に攻撃が向くことを避けるためだ。
刀の柄に手をかけ、抜刀する。同時に冷たい風が吹いた気がした。抜けば玉散る氷の刃。アマノホカリで作られた精緻な造形の剣が、冷たい風を想起させた。その想いを基点に気を放ち、幻惑の吹雪を相手に見せる。精神が肉体に直結し、還リヒトの動きが止まる。
「……ヴィスマルクの旗にはあまり反応していないみたいですね」
「『ここを守る』事に固持しているみたいね。もう相手がだれであっても関係ないみたい」
「あ、そのキャラ貫くんだ。あはは……」
サイr……アクアディーネ(自称)の声に頬をかくシア。もしかしたら気に入っているのかも、とポーズまで決めるペストマスクを見てそう思う。ともあれ今は還リヒトだ、と意識を切り替えてレイピアを握る。
レイピアを構え、プレートメイルの還リヒトの前に立つシア。円を描くように移動しながら、鎧の隙間を探っていく。剣を振り上げる瞬間に開く関節部分。そこをめがけてレイピアを突き刺した。細く鋭い貫く一刺しが還リヒトの動きを止める。
「可哀想。どうしてこんなことになったんだろう」
「ああ。後のことは俺たちに任せて、ゆっくりしててくれ」
こちらを攻める還リヒトを前に、悲しい表情を浮かべるウェルス。生前は勇敢な兵士だったのだろう。だがその勇敢さが仇になるなんて酷すぎる。もう起こされることがないように、浄化して眠らせてやるのが一番だ。
銃に火薬を詰めて、弾丸を入れる。弾丸に込められた紋様は『氷』。棒を銃口に突っ込み、火薬を固めるように強く押した。その後に銃口をゴーストに向け、引き金を引く。弾丸はゴーストに命中し、紋様が起動して氷の魔術が展開された。
「特性の魔道弾だ。材料が高くて連発出来ないのが難点だが……」
「ゴーストの動きを封じてくれれば、あとはこちらがやる」
言ってリビングデッドの前に立つルシアス。バスタードソードを手に声をあげて還リヒトの気を引く。死を経て脳が崩壊している還リヒトたち。おそらく生前のように連携攻撃はしないはずだ。ならばまず数を減らすことが大事だ。
腰を下ろし、体に力を入れる。キジン化した身体が熱を持ち、蒸気を排出する。傭兵として戦争で戦い肉体を失い、その結果得た機械の肉体。今ではそれがルシアスの武装の一部となっていた。還リヒトの攻撃を弾きながら振るわれる剣が、相手の胴に食い込む。
「やはり愚直だな。目の前にいる者に攻撃を加えてくるといったところか」
「油断はできませんよ。イブリース化して力を増しているようです」
ごくり、とつばを飲み込みサブロウタ。イブリースになることで、元の動植物よりも力を増す。還リヒトも同じなのだろう。死ぬことで肉体的な強さは劣るだろうが、イブリース化してその欠損分を補ったのかもしれない。
推測はともあれ、今はやるべきことをやるのみだ。魔導書を手にして魔力を解放していく。神秘の知識に従い、リズムよく呪文を唱えて魔力を展開した。淡い光が仲間に降り注ぎ、還リヒトから受けた傷を癒していく。
「回復はお任せくださいっ」
「分かりました。では私は!」
長さの異なる剣を手にアリアは戦場を駆け回る。相手は最近増えつつある還リヒト。その顔を見ながら、嫌悪感に苛まれる。彼らがもし生きていたら……もうありえない可能性を想像してしまう。人の『死』を見るのは戦い慣れた自由騎士でも辛いのだ。
それでも、と唇を結んでアリアは走る。クナイで相手の武器をけん制するように打ち払うと同時、ショートソードで還リヒトの喉を突く。痛みを感じないのか、還リヒトの動きは止まらない。振るわれる武器を跳躍して交わし、アリアは二刀を構えなおす。
「これ以上、貴方達に凶行を犯させません!」
「まあ私は基本的にろくでなしだがね」
肩をすくめるツボミ。ろくでなしというのは医術の発展を先行し、倫理を無視する事を指しているのだろう。そう呼ばれることを拒絶もしないし、考え方を改めるつもりはない。医術のために身を捧げ、そして突き進む。
仲間の傷口を見て状況を察し、術を展開する。出来れば縫いたい傷口だが、その余裕がないので一時的に魔術で塞ぐ。ツボミの言霊に乗った魔力が仲間の傷に触れ、痛みを打ち消すと同時に少しずつふさがっていく。
「己が使命や職責を通す者の事は尊敬するさ。死してもならば尚の事だ」
「はい。国を守った彼らに安らかな眠りを与えましょう」
ペストマスクの奥からアクアディーネ(自称)が祈るような声を出す。
「言ってることはまともなんだが……!」
「誰だよサイラスにあんなこと頼んだのは!」
「誰も反対しなかっただろうが!」
アクアディーネ(自称)が喋るたびに、言いようのない不快感が自由騎士達を襲う。だって身長180センチのペストマスクが裏声で乙女にしゃべるのだ。何処からツッコミを入れればいいか、わからない。
「皆、還リヒトはまだ倒れてないわ! 頑張りましょう!」
腕を振り上げて自由騎士達を鼓舞するアクアディーネ(自称)。
「ああ、もう……」
色々諦めて還リヒトに武器を向ける自由騎士達。
死者を葬る戦いは、まだ終わらない。
●
自由騎士八人に対し、還リヒトの数は九体。
わずか一体向こうが数で上回るとはいえ、数の優位性はその分選択肢が広がる。そしてその中には『力押し』というものがある。
「数で圧してきたか……後衛まで攻め込まれるぞ!」
「早く数を減らさないと!」
数で前衛のブロックを突破し、その武器を後衛まで届かせる還リヒト達。
「あいたたた……! 流石に厳しいですね」
「ボクはこんな程度じゃ負けないよ!」
還リヒトの猛攻撃を喰らい、サブロウタとシアが英雄の欠片を削られる。
「死んだのに元気だな、畜生!」
体力で劣るツボミも、還リヒトの攻撃で膝をつきそうになる。英雄の欠片を燃やしてなんとか立ち上がった。
「これでどうだっ!」
シアの二刀が翻る。しなやかなレイピアは相手の攻撃を受け流すのに長け、そして小回りが利く。攻撃と防御、攻撃と攻撃、防御と防御。二本のレイピアの役割を状況によって入れ替えながら、リビングデッドを削っていく。
「後のことは任せてゆっくり眠りな」
言葉と同時に放たれた氷結の魔術がゴーストを凍らせる。これで終わりだ、とばかりにウェルスが杖を向けると同時、氷は砕け散って夏の熱気に溶けて消えた。そこにはもう死霊はいない。魂は無事、セフィロトの海に還ったのだろう。
「とにかく手数を減らさなくてはいけませんね」
カスカはダメージよりも敵の手数を減らす方に従事していた。鞘でリビングデッドの肘を小突いて動きを阻害したり、踏み出した足を払って攻めを牽制したり。還リヒトの『優勢』を崩すことで被害を減らしていた。
「死してなおこの世界を彷徨うなんて、悲しすぎます……」
死んだ者はセフィロトの海に還る。それがこの世界の死生観だ。サブロウタは正しい環に乗れなかった兵士達を憐れんでいた。せめてこの癒しの術がが死者に届けばと思う。仲間を癒しながら、その慈悲の心で祈っていた。
「そうだな。今は手早く片づけよう」
医者であるツボミは、還リヒト自体への態度は簡素である。イブリース同様倒すべき相手。そのスタンスを隠すことはない。だが態度が簡素であることと、無感情である事は違う。『九矛目』を握り、癒しの術を解き放つ。
「よし。次だ」
リビングデッドの一体を倒し、頷くルシアス。バスタードソードを振るい、こびりついた血肉を払う。息つく暇などあるはずがない。この身は剣であり盾。それが軍務についた自分の役割なのだ。敵がいる限り、全力で突き進む。
「っ……! まだ、です!」
リビングデッドの遠当てを喰らい、体勢を崩すアリア。攻撃で服の胸部近くが破れ、そこを押さえるように腕を回す。呼吸を整えながらリズムを計り、アリアは再び走り出す。この動きこそが自分の最大の武器。足が動く限り、止まるつもりはない。
数の優勢で攻める還リヒトだが、その数が減れば優勢はなくなる。そうなれば戦術だって攻める自由騎士側に戦いの流れは向き始める。一体、また一体と還リヒトの数が減っていく。
「騎士道なんて柄じゃないが――」
最後に残った騎士の還リビトに立ち向かうルシアス。真正面から相手に立ち向かい、その攻撃を受けていた。『生きる』ことを重視する傭兵らしからぬ行為かもしれないが、それでもそうすべきだと言う思いがあった。
「この街道を守って散ったおまえの『死』に、敬意を払ってやる」
ルシアスのバスタードソードが振り上げられる。動きが鈍った還リヒトにこれをかわすだけの余力はない。
斬撃が肩から腰に向けて振るわれる。その衝撃に耐えきれず、騎士の鎧は崩れ落ちた。
●
倒された還リヒトは集められ、担架に乗せられる。
「彼らはこの先の共同墓地に弔われたというのは、間違いないんだな」
「ああ。私……サイラスさんが死亡届を書いたので間違いありません」
というペストマスクの女神アクアディーネ(自称)の情報に従い、彼らを元の共同墓地に運んでいた。それ程遠くなかったこともあり、たどり着いた自由騎士達は穴掘り用のスコップを手に彼らを葬る穴を掘っていた。
「所で医者のお二方。お二人は還リヒトをどう思っているのですか?」
カスカは作業の合間にツボミとサイラスに問いかける。
「「死体のイブリース化現象」」
二人の医者は澱むことなく同時に答える。
「動植物や物質がイブリースになるんだ。死体がイブリース化してもおかしくない」
「成程。ありがとうございます」
軽く頭を下げ、作業を再開するカスカ。剣客は戦うのみ。そういうことを考える頭を守るために戦うのだ。
「サイラスさん」
「私は女神アクア――」
「あ。もういいです」
裏声を出そうとするサイラスを制するアクア。
「この状況、何とかしたいんです。生ある人々死した人々、双方のために」
一息ついたのちに、アクアはサイラスに問いかける。
「魔素や瘴気と言った還リヒトを生み出す『何か』を意図的に発生させることはできますか?」
「ゲシュペンストがそれを放っている可能性はある。だが推測以上ではないな」
「他には――」
繰り返されるアクアの質問。しかし決定的な何かを掴むには至らなかった。
「……駄目だな。死後の時間が経ちすぎている」
霊に語りかけようとしたウェルスは首を振って諦める。ヴィスマルク戦が二ヶ月前。彼らが死んだ時期がその辺りだから、流石に霊は消え去っていた。
「国を守るために戦った戦友、か」
ルシアスは酒瓶を開け、墓石に傾ける。琥珀色の液体がゆっくりと墓石に注がれていた。感傷だな、と苦笑しながらも酒瓶が空になるまでルシアスはそうしていた。
「ゆっくり眠ってくれ。英雄達」
埋葬が終わった後、ツボミは花束を供える。職務を全うする者には敬意を表する。それが他人を傷つける兵士であっても変わらない。彼らの働きがあって今があるのだから。
その気持ちは他の自由騎士達も変わらない。それぞれの形で、騎士達を弔っていた。
増え続ける還リヒトの事件。
自由騎士達が感じる不安は、ある日突然現実化するのであった――
●
それとは別の話になるが、街角でサイラスが首をひねっていた。何があったかと尋ねてみたら、
「最近アクアディーネ様の態度が些か冷たいような気がするのだが……何か聞いていないか?」
アクアディーネ様、水鏡で見ていたようです。
「私達は良い。あの戦争に医者として参加し、貴様の言う通り手が及ばなかった以上……つまりこれは請け負った仕事のツケで後始末だ」
出発前、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)にそう語りかける。
「だが他の奴らは……どう言い繕った所でキツい気分だろうさ。
だからサイラス、ほんとに頼むよ。私の様な常から戯けた奴より、貴様の様な奴が拙く言った方が良いんだ。その方がさ、少しは気が逸れるだろう」
「…………還リヒト、か」
鬱積した想いを吐き出すように『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)は依頼の内容を反芻していた。その表情は何かを堪えるかのように暗く、二律背反に悩むように重かった。還リヒトを単純に倒して終わり、と割り切れない顔だ。
「正規兵か。騎士階級なんていけ好かないが、死んじまえば皆一緒だ」
クールに『戦場《アウターヘヴン》の落し子』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)は言い捨てる。財産や地位は死後の世界に持っていけない。ならば生前の階級など意味を為さないのだ。そう告げるルシアスのため息は、少し重かった。
「このままにはして置けませんね。ボク達の手でしっかりセフィロトの海に還してあげなければ」
祈るように『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は還リヒトのことを想う。国を守るために散った正規兵。彼らがいなければ先の戦争の戦禍はさらに広がっていただろう。それがこのような形で蘇ろうとは。
「せっかく眠ってたところを叩き起こされて、死後も働かされる……こりゃ悪夢だろうなぁ」
通商連の偉い人でもそこまではしないぞ、と愚痴る『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。どのみち戦争はもう終わったのだ。この道を守る意味はもうない。ゆっくり眠ってもらわなくては。
「騎士団として楽にしてあげられるなら、しっかり浄化してあげないとね!」
『見習い騎士』シア・ウィルナーグ(CL3000028)はレイピアを握りしめて、自らを鼓舞するように拳を振り上げる。自由騎士とは異なる所属の騎士達だが、イ・ラプセルを守った騎士達だ。捨て置ける道理はない。
「そうですね。それは最低条件でしょう」
シアの言葉に頷く『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。還リヒトを倒す。それは当然やらなくてはならないことだ。そしてそれ以上に何かを掴まなくてはいけない。増え続ける還リヒトの事件に関する何かを。
そして――
「皆、がんばってねー。女神アクアディーネも応援してるから」
と、ペストマスクに黒マントをつけた長身の御仁……当人の言を信じるなら女神アクアディーネが戯言をのたまっていた。笑気ガスを使って声のトーンを高くして女性のよう……かなり強引だけど男性特有の声の低さを消していた。
念のため言うが、アクアディーネの体格や声とは似ても似つかないものである。
重い沈黙ののち、ようやくと言った感じでウェルスが口を開く。
「……何やってんだ、サイラスの旦那」
「ふ。このペストマスクとマントの中が、実は女神アクアディーネじゃないという証拠はないですわ」
「いや。アクアディーネ様、アクア神殿から出れないから!」
「ひどっ! 戦う前から全体フリーズ喰らうとか!」
総スカン総ツッコミである。
「ともあれこの女神アクアディーネが後ろから癒してあげるから、皆は戦いに集中してね。えへ」
「…………うわー。じぶんでたのんどいてこれはないわ」
ぶりっこポーズをするペストマスクを見ながら、ツボミは頭を抱えていた。冒頭のシリアスを返せ。
「さあ、みんな。そろそろ還リヒトが出る場所よ。戦いの準備をして!」
アクアディーネ(自称)の声にマキナ=ギアから武器を取り出す自由騎士達。ツッコミどころ満載だけど、もう色々疲れたのと還リヒトが出たことで意識を切り替える。
自由騎士VS還リヒト。その戦いが始まる。
●
「行きます」
一番槍となったのはカスカだ。還リヒトの気を引くためにヴィスマルクの旗を掲げて、距離を詰める。相手が生前狙っていた相手を装うことで、他の自由騎士に攻撃が向くことを避けるためだ。
刀の柄に手をかけ、抜刀する。同時に冷たい風が吹いた気がした。抜けば玉散る氷の刃。アマノホカリで作られた精緻な造形の剣が、冷たい風を想起させた。その想いを基点に気を放ち、幻惑の吹雪を相手に見せる。精神が肉体に直結し、還リヒトの動きが止まる。
「……ヴィスマルクの旗にはあまり反応していないみたいですね」
「『ここを守る』事に固持しているみたいね。もう相手がだれであっても関係ないみたい」
「あ、そのキャラ貫くんだ。あはは……」
サイr……アクアディーネ(自称)の声に頬をかくシア。もしかしたら気に入っているのかも、とポーズまで決めるペストマスクを見てそう思う。ともあれ今は還リヒトだ、と意識を切り替えてレイピアを握る。
レイピアを構え、プレートメイルの還リヒトの前に立つシア。円を描くように移動しながら、鎧の隙間を探っていく。剣を振り上げる瞬間に開く関節部分。そこをめがけてレイピアを突き刺した。細く鋭い貫く一刺しが還リヒトの動きを止める。
「可哀想。どうしてこんなことになったんだろう」
「ああ。後のことは俺たちに任せて、ゆっくりしててくれ」
こちらを攻める還リヒトを前に、悲しい表情を浮かべるウェルス。生前は勇敢な兵士だったのだろう。だがその勇敢さが仇になるなんて酷すぎる。もう起こされることがないように、浄化して眠らせてやるのが一番だ。
銃に火薬を詰めて、弾丸を入れる。弾丸に込められた紋様は『氷』。棒を銃口に突っ込み、火薬を固めるように強く押した。その後に銃口をゴーストに向け、引き金を引く。弾丸はゴーストに命中し、紋様が起動して氷の魔術が展開された。
「特性の魔道弾だ。材料が高くて連発出来ないのが難点だが……」
「ゴーストの動きを封じてくれれば、あとはこちらがやる」
言ってリビングデッドの前に立つルシアス。バスタードソードを手に声をあげて還リヒトの気を引く。死を経て脳が崩壊している還リヒトたち。おそらく生前のように連携攻撃はしないはずだ。ならばまず数を減らすことが大事だ。
腰を下ろし、体に力を入れる。キジン化した身体が熱を持ち、蒸気を排出する。傭兵として戦争で戦い肉体を失い、その結果得た機械の肉体。今ではそれがルシアスの武装の一部となっていた。還リヒトの攻撃を弾きながら振るわれる剣が、相手の胴に食い込む。
「やはり愚直だな。目の前にいる者に攻撃を加えてくるといったところか」
「油断はできませんよ。イブリース化して力を増しているようです」
ごくり、とつばを飲み込みサブロウタ。イブリースになることで、元の動植物よりも力を増す。還リヒトも同じなのだろう。死ぬことで肉体的な強さは劣るだろうが、イブリース化してその欠損分を補ったのかもしれない。
推測はともあれ、今はやるべきことをやるのみだ。魔導書を手にして魔力を解放していく。神秘の知識に従い、リズムよく呪文を唱えて魔力を展開した。淡い光が仲間に降り注ぎ、還リヒトから受けた傷を癒していく。
「回復はお任せくださいっ」
「分かりました。では私は!」
長さの異なる剣を手にアリアは戦場を駆け回る。相手は最近増えつつある還リヒト。その顔を見ながら、嫌悪感に苛まれる。彼らがもし生きていたら……もうありえない可能性を想像してしまう。人の『死』を見るのは戦い慣れた自由騎士でも辛いのだ。
それでも、と唇を結んでアリアは走る。クナイで相手の武器をけん制するように打ち払うと同時、ショートソードで還リヒトの喉を突く。痛みを感じないのか、還リヒトの動きは止まらない。振るわれる武器を跳躍して交わし、アリアは二刀を構えなおす。
「これ以上、貴方達に凶行を犯させません!」
「まあ私は基本的にろくでなしだがね」
肩をすくめるツボミ。ろくでなしというのは医術の発展を先行し、倫理を無視する事を指しているのだろう。そう呼ばれることを拒絶もしないし、考え方を改めるつもりはない。医術のために身を捧げ、そして突き進む。
仲間の傷口を見て状況を察し、術を展開する。出来れば縫いたい傷口だが、その余裕がないので一時的に魔術で塞ぐ。ツボミの言霊に乗った魔力が仲間の傷に触れ、痛みを打ち消すと同時に少しずつふさがっていく。
「己が使命や職責を通す者の事は尊敬するさ。死してもならば尚の事だ」
「はい。国を守った彼らに安らかな眠りを与えましょう」
ペストマスクの奥からアクアディーネ(自称)が祈るような声を出す。
「言ってることはまともなんだが……!」
「誰だよサイラスにあんなこと頼んだのは!」
「誰も反対しなかっただろうが!」
アクアディーネ(自称)が喋るたびに、言いようのない不快感が自由騎士達を襲う。だって身長180センチのペストマスクが裏声で乙女にしゃべるのだ。何処からツッコミを入れればいいか、わからない。
「皆、還リヒトはまだ倒れてないわ! 頑張りましょう!」
腕を振り上げて自由騎士達を鼓舞するアクアディーネ(自称)。
「ああ、もう……」
色々諦めて還リヒトに武器を向ける自由騎士達。
死者を葬る戦いは、まだ終わらない。
●
自由騎士八人に対し、還リヒトの数は九体。
わずか一体向こうが数で上回るとはいえ、数の優位性はその分選択肢が広がる。そしてその中には『力押し』というものがある。
「数で圧してきたか……後衛まで攻め込まれるぞ!」
「早く数を減らさないと!」
数で前衛のブロックを突破し、その武器を後衛まで届かせる還リヒト達。
「あいたたた……! 流石に厳しいですね」
「ボクはこんな程度じゃ負けないよ!」
還リヒトの猛攻撃を喰らい、サブロウタとシアが英雄の欠片を削られる。
「死んだのに元気だな、畜生!」
体力で劣るツボミも、還リヒトの攻撃で膝をつきそうになる。英雄の欠片を燃やしてなんとか立ち上がった。
「これでどうだっ!」
シアの二刀が翻る。しなやかなレイピアは相手の攻撃を受け流すのに長け、そして小回りが利く。攻撃と防御、攻撃と攻撃、防御と防御。二本のレイピアの役割を状況によって入れ替えながら、リビングデッドを削っていく。
「後のことは任せてゆっくり眠りな」
言葉と同時に放たれた氷結の魔術がゴーストを凍らせる。これで終わりだ、とばかりにウェルスが杖を向けると同時、氷は砕け散って夏の熱気に溶けて消えた。そこにはもう死霊はいない。魂は無事、セフィロトの海に還ったのだろう。
「とにかく手数を減らさなくてはいけませんね」
カスカはダメージよりも敵の手数を減らす方に従事していた。鞘でリビングデッドの肘を小突いて動きを阻害したり、踏み出した足を払って攻めを牽制したり。還リヒトの『優勢』を崩すことで被害を減らしていた。
「死してなおこの世界を彷徨うなんて、悲しすぎます……」
死んだ者はセフィロトの海に還る。それがこの世界の死生観だ。サブロウタは正しい環に乗れなかった兵士達を憐れんでいた。せめてこの癒しの術がが死者に届けばと思う。仲間を癒しながら、その慈悲の心で祈っていた。
「そうだな。今は手早く片づけよう」
医者であるツボミは、還リヒト自体への態度は簡素である。イブリース同様倒すべき相手。そのスタンスを隠すことはない。だが態度が簡素であることと、無感情である事は違う。『九矛目』を握り、癒しの術を解き放つ。
「よし。次だ」
リビングデッドの一体を倒し、頷くルシアス。バスタードソードを振るい、こびりついた血肉を払う。息つく暇などあるはずがない。この身は剣であり盾。それが軍務についた自分の役割なのだ。敵がいる限り、全力で突き進む。
「っ……! まだ、です!」
リビングデッドの遠当てを喰らい、体勢を崩すアリア。攻撃で服の胸部近くが破れ、そこを押さえるように腕を回す。呼吸を整えながらリズムを計り、アリアは再び走り出す。この動きこそが自分の最大の武器。足が動く限り、止まるつもりはない。
数の優勢で攻める還リヒトだが、その数が減れば優勢はなくなる。そうなれば戦術だって攻める自由騎士側に戦いの流れは向き始める。一体、また一体と還リヒトの数が減っていく。
「騎士道なんて柄じゃないが――」
最後に残った騎士の還リビトに立ち向かうルシアス。真正面から相手に立ち向かい、その攻撃を受けていた。『生きる』ことを重視する傭兵らしからぬ行為かもしれないが、それでもそうすべきだと言う思いがあった。
「この街道を守って散ったおまえの『死』に、敬意を払ってやる」
ルシアスのバスタードソードが振り上げられる。動きが鈍った還リヒトにこれをかわすだけの余力はない。
斬撃が肩から腰に向けて振るわれる。その衝撃に耐えきれず、騎士の鎧は崩れ落ちた。
●
倒された還リヒトは集められ、担架に乗せられる。
「彼らはこの先の共同墓地に弔われたというのは、間違いないんだな」
「ああ。私……サイラスさんが死亡届を書いたので間違いありません」
というペストマスクの女神アクアディーネ(自称)の情報に従い、彼らを元の共同墓地に運んでいた。それ程遠くなかったこともあり、たどり着いた自由騎士達は穴掘り用のスコップを手に彼らを葬る穴を掘っていた。
「所で医者のお二方。お二人は還リヒトをどう思っているのですか?」
カスカは作業の合間にツボミとサイラスに問いかける。
「「死体のイブリース化現象」」
二人の医者は澱むことなく同時に答える。
「動植物や物質がイブリースになるんだ。死体がイブリース化してもおかしくない」
「成程。ありがとうございます」
軽く頭を下げ、作業を再開するカスカ。剣客は戦うのみ。そういうことを考える頭を守るために戦うのだ。
「サイラスさん」
「私は女神アクア――」
「あ。もういいです」
裏声を出そうとするサイラスを制するアクア。
「この状況、何とかしたいんです。生ある人々死した人々、双方のために」
一息ついたのちに、アクアはサイラスに問いかける。
「魔素や瘴気と言った還リヒトを生み出す『何か』を意図的に発生させることはできますか?」
「ゲシュペンストがそれを放っている可能性はある。だが推測以上ではないな」
「他には――」
繰り返されるアクアの質問。しかし決定的な何かを掴むには至らなかった。
「……駄目だな。死後の時間が経ちすぎている」
霊に語りかけようとしたウェルスは首を振って諦める。ヴィスマルク戦が二ヶ月前。彼らが死んだ時期がその辺りだから、流石に霊は消え去っていた。
「国を守るために戦った戦友、か」
ルシアスは酒瓶を開け、墓石に傾ける。琥珀色の液体がゆっくりと墓石に注がれていた。感傷だな、と苦笑しながらも酒瓶が空になるまでルシアスはそうしていた。
「ゆっくり眠ってくれ。英雄達」
埋葬が終わった後、ツボミは花束を供える。職務を全うする者には敬意を表する。それが他人を傷つける兵士であっても変わらない。彼らの働きがあって今があるのだから。
その気持ちは他の自由騎士達も変わらない。それぞれの形で、騎士達を弔っていた。
増え続ける還リヒトの事件。
自由騎士達が感じる不安は、ある日突然現実化するのであった――
●
それとは別の話になるが、街角でサイラスが首をひねっていた。何があったかと尋ねてみたら、
「最近アクアディーネ様の態度が些か冷たいような気がするのだが……何か聞いていないか?」
アクアディーネ様、水鏡で見ていたようです。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
サイラスの小粋なジョークは如何だったでしょうか?
MVPはそんな一文を追加した非時香様に。
還リヒト関連も収縮に向かっております。
この戦いの末に皆様がどのような成長を遂げるのか。STとしては楽しみです。
……まさかLV10パッシブが間に合うとはなぁ……。最速でフリーズとか……(ぐぬぬ!
ともあれお疲れ様です。先ずは傷を癒してください。
それではまた、イ・ラプセルで。
サイラスの小粋なジョークは如何だったでしょうか?
MVPはそんな一文を追加した非時香様に。
還リヒト関連も収縮に向かっております。
この戦いの末に皆様がどのような成長を遂げるのか。STとしては楽しみです。
……まさかLV10パッシブが間に合うとはなぁ……。最速でフリーズとか……(ぐぬぬ!
ともあれお疲れ様です。先ずは傷を癒してください。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済