MagiaSteam
Panopticon! 管理と自由と――




「残存兵力をすべて集めても、イ・ラプセル軍に勝てる見込みはゼロ……ですな」
 パノプティコンのハイオラクルである王族1687は幾度となく繰り返した戦術計算を認める。勝ち筋は幾つかあるが、それは細い糸だ。そしてその行動はすぐに露見して防がれる。防衛のために必要な人材もなく、同時に武装もない。
「彼らの目的がアイドーネウス様でなければ、降伏の道もあったのですが……残念な話です。せめてパノプティコンと言う国の形だけでも残したいのですが、それも無意味。
 となれば残念ながらこうするしかないのでしょうな」
 全てを諦めたように、国民管理機構を通して国民すべてに号令をかける王族1687。
「イ・ラプセルの勢いは止まりません。彼らはアイドーネウス様の命を取るまで止まらないでしょう」
 イ・ラプセルの目的が神殺しである以上、それは妥協できない部分だ。
「そしてアイドーネウス様が亡くなられれば、我らを管理する者はいなくなる。皆様はイ・ラプセルに取り込まれて管理なき自由な生活となります。誰にも干渉されない、解き放たれた生活に。
 それを望む者は今から地域1155を出て、彼らの元に下りなさい。罪には問いません。国民管理機構の枠組みから外すことも約束しましょう。彼らは間違いなく受け入れてくれます。さあ、選択を!」
 その号令から一時間が経過し――国民達は誰一人として地域1155から出る事はなかった。彼らは大きく二つの部類に分かれる。
『イ・ラプセルのような他国を侵略するな国に仕えるつもりはない』
『最後まで国に仕える』『王の忠誠をここに』『我らが神に最後の抵抗を捧げよう』
 イ・ラプセルに対する拒絶と、パノプティコンのために戦う忠義。これは残った兵士達が主だった。
 そして――
『管理されない生活なんて、どうしていいかわからない』
『自由が怖い。隣の人が何かしてくるかもしれない』
 自由に対する恐怖。管理されていない生活に対する不安。これは今まで戦ったことのない国民達の意見だ。
 残存兵力全てを集めても、イ・ラプセルを止める事はできない。
 だが全国民が戦うのなら?


「……パノプティコンの最後の抵抗、のようです」
 イ・ラプセル騎士団の先行部隊が、顔を青ざめながら報告を開始する。
「武器を持ったパノプティコンの兵士達と……非武装のパノプティコン国民が立ちはだかっています」
 彼らが見たのは道の要所要所に兵士と、その穴を埋めるように自らの身体を使って立ちふさがる一般人だ。恐怖に震えながらも、戦場に立っている。
「説得は……無理だろうな」
 戦わない者は殺さない、そう告げたところで言葉が通じない。さらに言えば、神を滅ぼし彼らの生活を壊そうとしているのだ。それを納得させるだけの言葉がない。仮にアクアディーネの権能で殺さずに伏したとしても、自死することは目に見えている。――命よりも管理される今の生活を護りたいのだから。
「……最悪、殺してでも突破するしかないか」
 こういう状況だ。通商連の条約には抵触しないだろう。非難を受ける事もない。少なくともそれを命じた国王は歴史に残るだろうが、兵士達が気に病むことはまるでないのだ。
 何よりも、ここで侵攻を停める事はできない。戦争には準備がかかる。一度撤退するならば、次は何時になるか。
「報告です。パノプティコンの一部に動きが――!」


(国民すべてを巻き込んだ戦争を為した王。吾輩、歴史上最低最悪の王になりますな。しかし、それも一興。全ての業を背負うとしますか。
 ……おや?)
 王族1687は気付く。国民達の中に管理された者とは違う動きがあることを。
 隊長0634――ノウブルの癒し手が、一部の兵を説得する。
 神官0505――ケモノビトの重戦士が、国民の腹を満たして戦意を削ぐ。
 技師0017――ソラビトの技師が、ドローンの制御を操り機能を一部低下させる。
 女優3891――ケモノビトの俳優が、自由の重要性と責任を説く。
 医師0709――ミズビトの医者が、敵も味方も癒し始める。
 労働0547――マザリモノの労働者が、兵士達を傷つけていく。
 労働0638――マザリモノの労働者が、皆と手を取り合おうとしていく。
 理由は分からない。ただ彼らは何かの夢を見たかのような、そんな経験をしたという。その夢の中で何かに影響されただけのパノプティコン国民。その夢での思いが残っていたかもしれない程度だ。
 たった七名の言葉と行動では、何も変わらないだろう。ただの異端として殺されるだけだ。
 だが理由は分からないが、彼らはイ・ラプセルの言葉を解し、それを兵士や国民達に伝ることができる。自由と言うものを知っているからこそ言える言葉があり、それが国民達の心に届けば戦意は削げるかもしれない。
「……それでも、アイドーネウス様を殺すことには変わりはなさそうですが」
 国民管理機構を使い、兵士達と国民を管理する王族1687。アルス・マグナのような破壊力もなく、人機融合装置のような出鱈目な事もできない。できるのはただ国民を管理するのみ。確定型未来予知など、些末なことだ。
「このデウスギアのあり方こそ、アイドーネウス様の在り方。破壊でもなく、人や器物の在り方を変えるでもなく、未来を覗き知るでもなく、今ある国民を正しく管理することがその在り方。
 さてさて、どうなるかわかりませんなぁ。吾輩年甲斐もなく興奮してきましたぞ!」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
国力増強
担当ST
どくどく
■成功条件
1.【王族】エリアの制圧
2.アイドーネウスの殺害
 どくどくです。
 まあ、一般人皆殺しにしてもペナルティなんて何もないんですがね。

 OPに出ているパノプティコン国民七名は、拙作『Management! しあわせなゆりかごのなかで』参照です。依頼参加者本人ではなく、同じ名前の者が何かしらの影響を受けた……程度の国民です。

●敵情報
★【一般人】
 パノプティコンの一般人です。棒きれや板と言った武装とは程遠いものを手にしてイ・ラプセル騎士団に立ち向かいます。
 戦闘力は皆無で、武器を持ったPCなら宣言だけで殺せます。ですが数は多く、戦意も高いです。【非殺】で戦闘不能にしても、根本的な不安が取り除かれなければ戦闘後に死を選びます。
 放置すれば【兵隊】【王族】エリアに乱入し、命を捨ててそこにいる敵の壁になります。具体的には敵全体のHP、防御力、魔抵抗の増加です。一定数を倒す、もしくは説得することでこれら効果を軽減、もしくは無効化できます。

 主張は大きく二種類。
①『管理されない生活なんて、どうしていいかわからない』
 今まで管理されている生活になれていたため、自由と言うものが理解できません。何をしていいのか、何をしなくてはいけないのか、管理されない生活にはどんなことがあるのか。それが分からないから拒絶します。

②『自由が怖い。隣の人が何かしてくるかもしれない』
 管理されない生活は、つまり悪性も管理されないのです。隣の人が良からぬことを企んでいたとしても、わからない。そんな理不尽に巻き込まれるかもしれない。そんな犯罪に対する恐怖です。

フィールドパッシブ能力
神官0505:ケモノビトの神官が料理を振舞い、通訳と同時に全体の説得の成功率をあげます。
女優3891:ケモノビトの俳優が自由の重要性を説き、通訳と同時に①の説得成功率をあげます。
労働0638:マザリモノの労働者が手を取り合って不安を取り除き、通訳と同時に②の説得成功率をあげます。


★【兵隊】
 パノプティコンの兵隊です。主力部隊は先の決戦でほぼ倒れたため、こちらに残ったのは予備兵力です。それでも相応の抵抗を見せます。
 放置すれば【王族】エリアに乱入し、そこにいる自由騎士に攻撃を仕掛けます。ゲーム的には【王族】エリアに居る自由騎士達に解除不可の【不安】【移動不可】のバッドステータスを付与します。一定数を倒す、もしくは説得することでこれら効果を軽減、もしくは無効化できます。
 
・隊長8734
 ノウブル男性。15歳。実勢経験のない、なりたての隊長です。それでも実力ありと判断されての抜擢です。
『ファランクス Lv4』『インデュア Lv3』『バーチカルブロウ Lv3』等を活性化しています。

・兵士7634
 ソラビト女性。16歳。国に忠義を誓う兵士です。命を賭して戦います。
『テンペスト Lv3』『バーサーク Lv3』『ウォーモンガー Lv4』等を活性化しています。

・神官1383
 ケモノビト(ウマ)女性。18歳。アイドーネウスを信仰する神職です。
『旋風腿 Lv4』『影狼 Lv4』『龍氣螺合 Lv4』等を活性化しています。

・パノプティコン兵士(×60)
 地域1155内で陣取る兵士です。重戦士十五名。ガンナー十五名。防御タンク十五名。ヒーラー十五名。
 それぞれランク2までのスキルを活性化しています。

・蒸気ドローン(×20)
 物資や情報を運ぶ蒸気ドローンです。直接的な戦闘力は皆無ですが、多方面から自由騎士達の戦いを観察し、その動きを国民管理機構を通して兵士達に伝えます。
 
物資運搬 P 毎ターンパノプティコン軍のMPが(残存ドローン数×5)回復します。
敵陣観察 P 毎ターンパノプティコン軍のCTが+(残存ドローン数)されます。

フィールドパッシブ能力
隊長0634:ノウブルの癒し手が兵士達を説得する。戦闘開始時、パノプティコン兵士のうち、ガンナー十名とヒーラー十名が戦線離脱します。
技師0017:ソラビトの技師がドローンの性能を低下させる。『物資運搬』『敵陣観察』の修正が半分になります。


★【王族】
 パノプティコン国王『王族1687』とその親衛隊です。彼らの神『アイドーネウス』へ通じる通路を塞いでいます。

・『パノプティコン国王』 王族1687
 パノプティコンのハイオラクル。現在の国王です。魔導の炎と物理の炎の二種類を状況に応じて使い分けています。
 神を守るため、最後の最後まで戦います。

 攻撃方法
乾燥高原 攻遠範 水分を奪う乾いた炎風。【致命】【バーン3】
溶岩創竜 魔遠全 魔を喰らいつくす竜の炎。【魔力流転】【バーン2】
背水の陣 遠味全 追い詰められれば強くなる指揮能力。HP20%以下の時に使用可能。攻撃力、魔導力上昇。
王の管理 遠味全 国民すべてを管理する王の采配。攻撃、魔導、防御、魔抗上昇。

・ノスフェラトゥ兵(×10)
 王族を護る護衛兵です。ノスフェラトゥと呼ばれる青肌の種族です。防御タンク。大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『不死性』を持ち、王族を守ることを最優先に動きます。

不死性:P  HPが0になった時、一度だけ必殺を無効化してHPを全快します。

・パノプティコン兵士(×20)
 王の周りを陣取る兵士です。兵士です。軽戦士十名。魔術師十名。
 それぞれランク2までのスキルを活性化しています。

・アイドーネウス
 パノプティコンを管理する神です。ドクロのような姿をし、通常の言語による会話は不可能です。【王族】の戦場全ての敵を廃することが出来れば、会う事が出来ます。
 戦闘力はなく、神殺しの力を持っていれば宣言だけで殺すことが出来ます。

フィールドパッシブ能力
労働0547:マザリモノの労働者が兵士達を斬りつける。6ターンの間、パノプティコン兵士全員に物理ダメージを与える。

●パノプティコン権能
 彼らは『相互管理』と『一糸連携』と呼ばれる権能を有しています。

相互管理:権能を活性化している者同士は互いの状態が分かり、意思疎通も可能になる。ジャミングなどで妨害されなません。
一糸連携:権能を活性化している者同士が同一ターンに同じスキル(レベルも同じ)を使った場合、それぞれの命中にプラス補正。

●場所情報
 パノプティコン首都、地域1155。20階の塔。その塔内に内包された街が首都となり、戦場になります。
 
 便宜上、戦場を【一般人】【兵隊】【王族】の3区画に分けます。プレイング、もしくはEXプレイングに行き場所を記載してください。書かれていない場合、孤立して狙われることになります。
 他戦場への移動は可能です。ただし連戦になるので重傷率は高まります。

●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
5個  5個  3個  3個
3モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
27/∞
公開日
2021年04月25日

†メイン参加者 27人†

『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『明日への導き手』
フリオ・フルフラット(CL3000454)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『stale tomorrow』
ジャム・レッティング(CL3000612)


●一般人Ⅰ
 死を受け入れ、自由騎士の前に立ちふさがるパノプティコン市民。壁となって兵の進行を塞ごうと青ざめた顔で立ちふさがっている。
(ここで口を回さなければ立場はないな)
 そんな市民達の前に立つ『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)。政治家としてここで振るうのは武器ではなく、弁説だ。なぎ倒すことは容易だが、それでは禍根を残してしまう。
「自由を恐れるな、とは言わない。
 だがこう考えてほしい。今まで神に頼っていた部分を人が人との繋がりを以って担うのだ。互いに補い、互いを護っていくのだ」
 パノプティコンの管理が完璧だとはいえ、人と人の繫がりが皆無という事はない。ただその繫がりにひと手間を入れるだけでいい。
「今後布かれるであろう法律によって行動の正否は判断できる。その正否はこれまでとそれ程変わらぬものになるだろう」
 それでも不満は残るだろう。これまであった管理という生活の一部がなくなるのだから。法律は刃を向けない理由にはなるが、刃を止める物理的な守りではない。皆がそれを守るという善意を信じるなら法律は要らない。法律は悪意に対する歯止めなのだ。
「無論、問題は起きるだろう。神ではないヒトによる統治。だがそれを乗り越えてこそ、新しい未来が見える。ここで
 これは決して衰退ではない。進歩であり挑戦なのだ!」
「そうであります! ここで身を投げ出す勇気があるなら、新たな人生に立ち向かうであります!」
 声を大にして叫ぶ『鉄腕』フリオ・フルフラット(CL3000454)。通訳を通してではなく自ら学んだパノプティコンの言語。それを蒸気器具で拡大して地域1155の人達に届ける。ここで振るうのは拳ではない。
「確かに絶望するでしょう。これまでの管理が消えてなくなるのですから。生活の在り方が変わり、保証なく投げ出されるのですから。でも命を投げ出すのは短絡的であります!
 貴方達には武器を持つ手があり戦場に立つ脚もある。我々を見据える目もあれば声を聞く耳もある。立ち向かう心もある」
 鋼の四肢を振るい、フリオは叫ぶ。過去の戦いにおいて失った四肢。その際にさらに失った他人の命。喪失の絶望は重く、それでもフリオには手足があった。そこから立ち上がることは辛いことだと知っている。だけど――
「管理から外れたとて、それが失われるわけではないのです。
 命を賭けて立ち上がるのも自由であります!」
「あ、暴れないでください!」
 武器を構える市民を前に『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)は氷の魔術を解き放つ。氷の縛鎖が動きを封じ、低温が暴徒を傷つける。言葉だけでは止まらない者もいる。
「管理された未来は、停滞でしかありません。わたくしは停滞の中で何もせずに死を迎えることは放棄に他ならないと考え、外の世界に身を投じました」
 暴徒の動きが止まったのを見計らって、ナーサは言葉を投げかける。ヨウセイの種族特徴である耳と羽根を見せながら、言葉を続けた。
「亜人だからと言って未来は閉ざされてなんかいません。むしろイ・ラプセルは亜人であってもノウブルと同じように受け入れてくれます!
 知らない世界は怖いかもしれませんが、勇気をもって踏み込めば新しい未来は見えます! 明日の光を、新しい未来の光を皆様と一緒に見たいのです!」
「おー、皆がんばるねー」
 そんな説得の様子を『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は遠くから見ながら、パノプティコン市民に紛れていた。
(要はこの市民が戦線離脱すればいいのよね。だったら……)
 唇を舌で湿らせ、手で頬の筋肉を撫でて緩ませる。市民に紛れたままクイニィーはパノプティコンの言葉で大仰に喋り出す。
「王様は選べと言った。それはもう管理されていない事なんじゃないかな。
 王様も神様ももう私達を見捨てたんだよ! 私達はもう管理されていない……国に見捨てられたんだ!」
 それはパノプティコン国民が持つ不安。王は選べと言った。国民管理機構から外すと言った。それは――捨てるという意味なのだと。
「管理されてない人が隣にいるよ。襲われたらどうしよう? 今は敵国はああしているけど、乱戦になったら機に乗じて襲い掛かってくるよ!」
 クイニィーは不安を煽る。パノプティコン国民が抱いている恐怖を、怯えを、管理されているという隣人への信頼を砕き、そして疑心暗鬼を増幅させる。彼らが手にした武器は、次第に隣人に向けられることとなるだろう。
(しめしめ。これでパノプティコン同士勝手に争って戦線離脱してくれるね。いい仕事した!
 それじゃ、次行こう! どんなこと言って遊ぼうかなー)
 小さく笑みを浮かべ、クイニィーは人と人の狭間を縫うように進んでいく。その行先で、新たな不安を振りまきながら。


●兵隊Ⅰ
「我こそはイ・ラプセル最強の祈祷師……クレヴァニール・シルヴァネールです!」
 宣言と共に『水銀蛇と共に』クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)は『告死銃タナトス』を撃ち放ち、戦場を蹂躙していく。相手はパノプティコンで戦うことを決めた兵士達。戦う意思があるのなら、加減をするのが無礼と言うもの。
「パノプティコンの為に戦う貴君らには敬意を表します! だからこそ、全力を持って挑ませて頂きます!」
 言語は通じないだろうが、気概は通じたはずだ。クレヴァニールは『冥王鎌タルタロス』を振るい、踊るように戦場を突き進む。それは祈祷師の舞。その戦いを太陽に捧げるかのように戦場を駆け巡り、武器を振るっていく。
「自由も管理もその善し悪しを決めるのは、人間! そう、貴方達はアイドーネウス様を選び、私達はアクアディーネ様を選んだ! ただそれだけの違いでしかありません! 私達はただそれが違うだけの、同じ人間なのです!」
「そうだね……君達はアイドーネウスを選んだ。仕えるのも仕えないのも君達の『自由』意志だ」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は言って魔力を解き放つ。錬金術の法則に従い発生した『法則』がパノプティコン兵士を縛り、その力を弱体化させていく。
「そう『自由』だ。僕等は『自由』の名のもとにシャンバラとヘルメリアを滅ぼしてきた。
 そしてこれは君達パノプティコンの『管理』から逸脱する思想……。『思想の自由』は……僕達の掲げる『自由』は、君達に既に侵食しているんだよ。君達がパノプティコンに仕える『自由』を行使した瞬間に、僕等の思想は浸透しているのさ」
 言いながら錬金術を解き放つマグノリア。兵士達がパノプティコンに仕えるという選択をしたこと。それはイ・ラプセルの掲げる思想そのものが浸透した結果だと告げる。彼らの国に対する『忠義』は自分達が浸透させた『自由』の結果なのだと貶めた。
「君達が『管理』ではなく『自由』………いや『ヒトが本来持っている力』……と言った方がいいか……。其れが『出て来た時点で』僕等の勝利なのさ」
「最後まで抵抗する意思やよし。それも軍人の務め」
 武器を持ち挑むパノプティコン兵を見て、『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は頷いた。軍服に袖を通すという事は、その覚悟を背負う事。生きて国民を支える道もあれば、最後まで忠義を通すのもまた道なのだ。
「だがそれは我らも同じ。同情はせぬ、ここで貴卿らの戦争は終いだ」
 杖を振るい、魔力を展開するテオドール。癒し手を中心として呪術を放ち、回復を止めながらパノプティコン兵団を止めていく。最後の最後まで国に尽くす兵士達に礼を尽くすように、最後まで油断せず攻め立てる。
「神を討つ。その為に我らはここにいる。
 その結果貴卿らの生活を壊すことを理解したうえで、突き進む」
 神の蟲毒。白紙の未来。ヒトの未来の為にテオドールは魔力を行使する。
「王族の所にはいかせないよ」
 言って魔力を振るうセーイ・キャトル(CL3000639)。生まれた炎は渦を巻き、宙を舞う蒸気ドローンを巻き込んでいく。各戦場に物資を送る蒸気ドローン。それを落とすことで物資運搬を滞らせる。
「王族に向かった人達やノーヴェ、アタパカさん達やマイナスナンバーの人達との約束の為にも、ここで頑張らないとね!」
 セーイはパノプティコンの戦いで多くの人達を見てきた。精霊の扱いを教えてくれたインディオ。管理から外れたマイナスナンバー。パノプティコンという国家に虐げられた彼らの為にも、ここで手は抜けない。
「何が正しいとかわからないけど、彼らのような人たちを作る国家はあってはならないんだ!」
 国の在り方によって苦しむ人がいるなら、その在り方は間違っている。セーイはその想いを込めて、魔力を解き放つ。青い光が戦場を支配した。

●王族Ⅰ
「これが神殺し……」
 王族のいる間にたどり着いたロザベル・エヴァンス(CL3000685)はそう呟いた。ロザベルが自由騎士に参戦したのはヘルメリア戦役の後。ヘルメス没後だ。なのでこの戦いが神をめぐる初めての戦いと言う事になる。
「いいえ、国の存亡をかけた戦いなのですね。だからこそ、必死になる」
 率いた兵に命令を下しながら自身もパノプティコン兵士と戦うロザベル。砲撃が鳴り響き、炎が敵兵を焼いていく。肌を焼く熱波であっても彼らは止まらない。そんな頃はロザベルも理解していた。
 国の核ともいえる神を守るために必死になって戦う兵士達。その気迫を受け止め、それを砕かんとロザベルも強い意志を込める。
「自由が一番だなんて言えません。自分の意志で決めるのは、辛くて苦しい。
 それでも、私は選びました。その道が自分を傷つけ、そして他人を傷つけるかもしれないと知っていても」
「……そうね。選択の結果がいいことばかりだなんて、ありえないわ」
 俯き答える『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。彼女の父親は、様々な選択の結果で命を落とした。娘である自分をおいて、虚無の海に旅立った。正しい答えなんてないと知っていながら、それでも皆が幸せになれた道はあったのではと思ってしまう。
「……そうね。完璧な答えを出してくれる神がいるのなら、確かにすがりたくなる。
 でも、管理を良しとは思わない。肯定もしないけど否定もしない。言われるまま命令されて人を殺すのは楽だけど」
 ヘルメリアに居た頃を思い出す。言われるままに殺してきたあの頃を。心地良くもあり、同時に今思い出して吐き気を感じる事もあった。管理も自由も、そのバランスが大事なのだ。
「悪いけど、王族もアイドーネウスも障害の一つとしか思ってないわ。
 私の目的は神――創造神よ。そこにたどりつくため礎になってもらうわ」
「はい。私達は神の蟲毒の為に、パノプティコンを侵略します」
 その事実から逃げるつもりはない、とばかりにセアラ・ラングフォード(CL3000634)は言い放つ。侵略。侵入し、奪うとる。その国家が形成していた秩序も平和も物資もすべて、自分達の都合で奪い取る。
(覚悟はしてきました。パノプティコンを滅ぼし、神を殺し、神の蟲毒に勝利する。
 そしてアクアディーネ様の思想が浸透するまでの、何百年かの時間を作ります)
 全ての種族が手を取り合えるような世界。アクアディーネが目指した世界。今はまだ根強い反発があるが、いずれはそれも消えるだろう。いや、消していかなくてはいけない。その為に、多くの者達を排除してきたのだから。
「皆が生きていることに喜びを感じる世界。そんな世界の為に」
 理想は遠く、そして高い。神の蟲毒を終えた後にどうすればいいのかはまだ見えない。そもそも神の蟲毒の先にある者さえ、セアラには見えない。それでも――
「歩いていくと、決めたんです」
「まー、そう言う重ったるいのはあたしのキャラじゃないんでね」
 言いながら引き金を引く『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)。狙う、引き金を引く。狙う、引き金を引く。心を殺し、敵を撃つための兵器と化す。
(与えられた役割に一途でクソ真面目。全くパノプティコンてのは……)
 ため息をつきながらジャムは銃を撃つ。国民すべてが国を動かす歯車たれ。自分の役割をきちんとこなし、全員で社会を回していこう。ジャムからすれば反吐が出る考えだ。
「ホント、反吐が出る。あたしだってそうなんだから」
 命令されて銃を撃つ。戦争で人を殺す。それを良しとする精神に自らを切り替える。パノプティコンの人間と何が違うというのか。
「お仕事お仕事、っと。ま、神様と王様討ち取ればなんとかなるでしょ」
 言って不動の構えを維持し、引き金を引く。アイドーネウスと王族1687を倒せばパノプティコンの戦いは終わる。あとは上の仕事だ。そう割り切って思考を切り替えた。
「そうですそうです。とにかく王様を倒しましょう!」
 王族1687に向けて魔力の炎を解き放ち続ける『轍を辿る』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)。マナを体内に取り込む術式を展開し、運命を乗り越える意思を強く抱く。持ちうる魔力を込めて、パノプティコンを攻撃する。
「ええ、戦争です。危なくて当然です。怪我もします。最悪死にます。そんなのわかってますよー」
 歌うように言いながらエリシアは炎を展開していく。矢弾は戦場の何処にいても飛んでくる。安全地帯なんでどこにもない。エリシアの身体も、既に傷だらけだ。それでも退くことなくエリシアは前に出続けた。
「神殺しは国殺し。この国はアイドーネウスの管理あっての国家。神が死ねば国も死ぬ。様式も文化も根こそぎ消えてしまいます。
 ええ、分かっています。シャンバラやヘルメリアのように、神を倒した後に復興が出来るなんて甘いことはありません。パノプティコンというあり方全てをここで壊します」
 エリシアの言葉は、残酷だが正しい。神が死に、人が残ったとしてもパノプティコンという在り方は完全に消える。管理によって維持された平和な楽園は、もう戻らない。
「私達はその罪を受け止めなければいけません。
 人がいれば国は復興できるとか、生きていればなんとかなるとか。そんな曖昧な誤魔化しで逃げる事は許されないんです。私達は、一つの平和(くに)を壊すのですから」
 エリシアの言葉は、戦闘の音に紛れる。誰かの耳に届いたのかもしれない。届かなかったのかもしれない。
 ただ、国を滅ぼす罪は確かにある――

●一般人Ⅱ
「神がいなくとも人は生きていける。ここを追放されたマイナスナンバー達がそれを証明している」
『機盾ジーロン』ナバル・ジーロン(CL3000441)は声を張り上げ、パノプティコン市民達に語りかけていた。槍を振るえば排除することは容易だろう。言葉で納得させることは困難だろう。それでも、言葉を選んだ。
「彼らは神の庇護を離れた後も、追っ手に追われながらも生きていた」
 マイナスナンバー。その生活は貧困そのものだ。『生きていた』とは言うがそれは死んでいないに過ぎない生活だ。生きる希望もなく、朽ちるまで洞窟で雨風を凌ぐ生活。
 それでも生きている。生活の基盤を壊され、これまでの日常を奪われ、庇護を砕かれ、空腹に苦しみ――それでも『生きて』いる。
(違う。壊すのは奪うのは砕くのは苦しませるのはオレだ。オレ達だ。生きていればいいなんていうのは、オレの傲慢だ。彼らはこれから失う。奪われる。オレ達の都合で。それでも……命までは奪いたくない)
「未来は、必ずオレが繋ぐ。だから命を絶つことはやめてくれ」
 それは説得ではない。懇願だ。殺したくないというナバル自身のワガママだ。綺麗な嘘よりも醜くとも本音で――同じ目線で彼らと対話する。
 だからこそ通じる事もあるだろう。
「未来が見えない不安は解るよ。それでも皆は戦う事を選んだんだ。それも自由の一つだよ!」
 女優3891の側に立ち、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が頷く。劇団で鍛えたよく通る声。背筋を伸ばしてお腹に力を込め、聞く人達に見える位置で。石を投げられる可能性もあるけど、それを恐れては説得にならない。
「そうだよ。もうみんな自由を行使しているんだ。それぞれが自分の命も、未来も、自分で管理する。勿論怖いに決まってるよね」
 正しい道なんてない。間違えれば死ぬかもしれない。今こうして皆の前に立っている事だって、もしかしたら間違いで何も言わずに殺すのが正しいのかもしれない。
 それでも、カノンは説得する方を選んだ。それが自由だ。
「カノンも自由でいる事は怖い。でもそれ以上に喜びが大きいんだ。
 管理されていれば失敗はしないかもしれない。だけどね。失敗したから成長出来る事もある。今日とは違う自分になれる。それは楽しいと思うよ」
 成功も失敗も自分で選んだ結果。それを楽しみ、受け入れるのが自由なのだ。
「神官0505……ですね。お手伝いします」
『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は料理を振舞い、パノプティコンの民を説得している神官0505の元にやって、そう告げる。鉄板の上にチーズを敷き詰め、そこにトウモロコシを乗せて焼いた簡素な料理。恐らくパノプティコンの民が食べる料理なのだろう。
「自由とは責任を伴います。しかしそれは新たな道を選ぶという事です」
 神官0505が作った料理を切り、皿に乗せる。そこに香辛料を塗した。
「料理一つにしても、手間一つで大きく味が変わります。それを食べるのも自由。食べないのもまた自由なのです。
 それに悩むのもまた自由。それは一つの幸福でもあり、選んだ道を進む達成感を得る事もあります」
 言ってから料理を口にするアンジェリカ。咀嚼して飲み込み、言葉を続けた。
「貴方達は管理という揺り籠の中で大事に育てられ続けたのでしょう。しかし雛はやがて成長し飛び立つもの、羽ばたく為の最初の一歩……その背を優しく押しましょう。
 貴方達は今此処に居る時点で、自ら選択する最初の一歩を踏み出しているのですよ」
「流石宗教家だな。じゃあこっちは医者らしくやるか」
 アンジェリカの弁説を遠くで聞きながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はパノプティコン国民と味方の兵士を診ていた。管理社会パノプティコンは健康まで管理する。驚くぐらいにパノプティコンの民は健康だった。
「しかしお前達が不安に思うのもわからんではないがな。お前達は既に選んだんだよ。あの金髪髭王様が言ってただろうが。
『イ=ラプセルに下っても良いし残って戦っても良い』って。そんで貴様等全員『自分で決めて選んだ』んだろーに。それが『自由』だよ」
 ツボミの言葉に、呆然とするパノプティコン市民達。
「奴ぁ多分、わざと貴様等に振って体験させたんだよ。国が負けた時、一人でも自由に適応して生き延びれる奴が増える様にな。
 後、『隣の人が何かしてくるか』って今正に隣の国に攻められてんだろ。今更何言ってんだ。で、立ち向かってるじゃねえか」
 ため息をつくツボミ。
 実際に王族1687がどう思ってその言葉を言ったかなど、ツボミには分からない。出会ったのも数日程度。会話らしい会話はしたが、それで相手の人となりを理解したかと言われれば、そうでもない。
(あいつぁ、ぶっちゃけいけ好かん髭だが……あれはあれで王様だからなぁ。ムカつくけど、そう言う事もあるんじゃないか。わからんけど)
 ツボミは言葉なく頷き、治療を続ける。

 自由騎士達の言葉により、多くのパノプティコン市民は武器を納める。
 無論、いきなりイ・ラプセルの考えに納得できたわけではない。むしろ国が終わる諦念を受け入れ、忘我する者の方が多いだろう。
 それでも、死を選ぶものは確実に減った――

●兵隊Ⅱ
「間に合った様ね……彼女が技師0017!」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は協力してくれる技師0017を見ながら、ライフルを構えた。地域1155内で迷ってしまい、余分なダメージを負ったが些末事だ。
「あなたの協力、無駄にはしないわ!」
 パノプティコンに限らず、皆が行おうとしていることと別のことをやるのは勇気がいる。その勇気に報いるようにアンネリーザは動き出す。
「空はまだ、私達ソラビトの独壇場よ!」
 宙を舞う蒸気ドローン。その動きを見ながらアンネリーザは引き金を引く。スコープを覗く右目と、全体を見る左目。片方に集中するのではなく、両目の情報を脳に伝えて状況を把握する。放たれた弾丸は風を受けてわずかに浮かび――アンネリーザの計算通りの軌跡のままにドローンを貫く。
「ドローンを落としてみんなをサポートするわ!」
「兵站分断は任せた。こちらは敵指揮官を叩く。オーバー!」
 アンネリーザの動きを確認しながら『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が率いる兵団が敵陣を突き進む。敵の攻撃を装甲で受けながら進軍し、隊長8734まで肉薄する。まだ若い隊長ながら的確な防衛陣形だが、それを打ち砕くのが歴戦の傭兵だ。
「国民管理機構は、停滞であり思考停止だ。そこからは人の成長も発展も産まれない」
 隊長8734の指揮は適格だが、型どおりともいえる。実戦を経験していない教科書通りの読みやすい陣形。対してアデルの動きは多くの戦場で培われた柔軟な動き。型どおりの固まった思考と、臨機応変の流動的な動き。両者のぶつかり合いは、思考を止めた者ではなく成長したアデルに軍配が上がる。
「戦争は両当事者の主張を、武力を以て押し付けることだ。勝者が主張し、敗者は押し付けられる。故に負けられない。
 王族の所には行かせない。ここで存分に足止めさせてもらうぞ」
 槍を振るい、敵陣を釘付けにするアデル。蒸気鎧からオーバーヒートの煙を吹き出し、その熱を利用して駆動系の出力を上昇させる。追い込まれてからが本領発揮、とばかりに踏み込んで攻め立てる。
「殺しはしない。死ぬか、新しい生き方を選ぶかは、自分で決めろ」
「ええ。今はただ互いの守るべき者の為に戦うだけよ」
 紅色の鉄甲を振るい、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が戦場を駆ける。赤い髪が流れるように戦場を動き、その先に言るパノプティコン兵士達と拳を構える。連携だって攻める兵士達を崩すように、一人ずつその数を減らしていく。
「数が多いわね。その分連携が厄介だけど……!」
 パノプティコン兵士達は一糸乱れぬ動きで攻めてくる。それは彼らの権能。管理されることで生まれる同調の力。個々の戦闘力は低いが、十人単位で同時に振るわれる武器や魔術は厄介だ。故に、少しずつ数を減らしていくしかない。
「徹底管理された軍隊、か。組織だった動きを止めるなら、最上位の神様を倒すしかないみたいね。
 そうなれば、アクアディーネ様も神の蟲毒に王手ね!」
 神の蟲毒。それのみが世界の白紙化を防ぐ手段。エルシーを始め、自由騎士達はそれを目的として戦ってきた。十柱の神うち、大陸に残ったのは五柱。その中の二柱を討ち取った。残りは二柱。そのうち一柱を、この戦いで――
「白紙の未来が来る前に、決着をつけなくちゃね!」
「ええ。相手にもその覚悟ありと見ました」
 拳を握りしめる『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。相手は自らの神に対する忠義と信仰を見せた。ならばこちらも同じように覚悟を示すことだ。もはや闘争だけを求めはしない。だが、この瞬間だけは相手の意志に応じよう。
「国滅び、神が討たれようとするこの時まで国に準ずるその覚悟。しかと受け止めました」
 自らが率いる部隊に命令を出しながら、ミルトス本人もパノプティコン兵士に戦い挑む。ペースを一定に保ち、防御を優先し、同時に敵を前に退くことない足あさき。集団戦を意識した動きで敵陣を駆け巡る。
「来なさい。その覚悟が未来を築く覚悟であるならば、異なる神を奉じしかし未来を築く覚悟ある私が打ち砕きます。
 未来をけして滅びさせはしません」
 パノプティコンもイ・ラプセルも、根底にあるのは己の神による平和な世界。そこに違いはあれど、正誤はない。ただ勝利した者のみが未来の舵を取る権利を得るだけだ。
 その意味、その重さを充分に理解したうえで、ミルトスは拳を強く握って進軍する――

 自由騎士の戦力はパノプティコン兵士と拮抗する。否、純粋な状況でいえば地理条件や物量などでパノプティコン兵士の方に軍配が上がっただろう。
 それを補うだけの勢いと戦闘経験。それがパノプティコン兵士の動きを釘付けにし、王や神の座への援軍を押し留めていた。

●王族Ⅱ
「援軍は……間に合いそうにありませんか」
 管理している国民の情報。それを確認しながら王族1687はため息をついた。とはいえ、援軍が来たところで自由騎士の勢いを止められるとは思ってはいない。
「誰も傷つけさせはしません!」
 敵前に立ち『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は毅然とした態度をとる。敵の猛攻を武器と盾で受け止めながら、それでも完全には防げないダメージに足がふらつく。それでも、倒れるわけにはいかない。
「最後に踊っていただきましょう! 力尽きるまで! あいにく私は生きて戻る必要があるので、力尽きるのは貴方の方のみですが」
「都合があるからこちらだけ死ね、というのはなんともはや。それが戦争なのですが」
 デボラの言葉に苦笑する王族1687。言葉と同時に放たれる炎が戦場を舐める。デボラは炎の嵐から仲間を護りながら、倒れまいと気力を振り絞った。まだ大丈夫。自分に言い聞かせて、守りを固めていく。
「大した守りですが、守るだけでは戦争には勝てませんよ」
「忠告感謝します。ですが攻める者はいますので!」
「一気に焼き払うわよ!」
 王族1687の動きを見ながら『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)が炎を放つ。追い詰めたとはいえ、この男は油断ならない。戦闘力が、という意味ではなく単に何を考えているのかわからないという意味である。
「未来観による行動の先読み。いやはや、お見事ですよ。ですがそれが視覚によるもの、と分かっているなら手も打てようものです」
「どういう事よ?」
「例えば背後からの不意打ち。私だけを注視して大丈夫ですか? 戦場は危険でいっぱいです。あ、足元に穴が」
「そうやって惑わすのが貴方の手管だっていうのも分かってるのよ!
 むしろそっちは専売特許。敵を言葉で惑わすのは日常茶飯事だったからね!」
 きゐこは魔術師ではあるが、魔術や自分の能力に傾倒しない。不意打ち闇討ちだまし討ち。アマノホカリでは悪行を重ねてきた身分だ。教科書通りの戦術が通用しない相手がいる事なんか、身をもって知っている。
「焼かれる覚悟があるなら、かかってきなさい! そうやって死ぬのも自由の一つよ!」
「ソウダ。王、オマエ『さあ、選択を!』言ッタ。……ドシてだ?」
『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)は魔力の矢を放ちながら、王族1687に問いかける。パノプティコン国民に最後に選ばせた事。それがエイラの心に引っかかっていた。
「何デ決めサセた? 国民にソレをサせ無イがコノ国の約束デ祝福で呪い違ウか。神の意志ハズ違ウか。何故最後の最後、違エた。
 腹芸すルな。本当教エろ。知りタイし、知っトくが。筋」
「はっはっは。それを貴方達が問いますか」
 エイラの問いかけに、笑みを浮かべる王族1687。
「その約束も祝福も呪いも破壊しようとする侵略者が、それを問うとは片腹痛い。アイドーネウス様の意志も、我が国の全ても、その全てを奪いつくす者が我がパノプティコンを語るのですか。
 それは憐憫ですか? 同情ですか? それとも勝者の余裕ですか?」
 エイラに迫る乾燥の風。体力を奪われながら、エイラは真っ直ぐに王族を見る。滅びを理解し、それでも侵略者に抗う王を。
「違ウ。エイラ、納得したいダケ。……モシかシタら、ソレでヨウヤク戦争なル思うカラ」
「理不尽に始まり、理不尽に終わるのがこの世界ですよ。貴方が理解できずとも、時は流れるのです」
「誤魔化スな。エイラの問いに、答えロ」
「ああ、そうでした。降伏すれば貴方達は殺さない。パノプティコンの思想を持った国民を、自国の民として。彼らがアイドーネウス様を奉じ、管理される世界を求めるなら形だけでもパノプティコンは残ると判断したからですよ。
 しかし結果は御覧の通り。せいぜい上から目線で笑ってください」
「……エイラ、は」
 王族1687の言葉を聞いて、エイラの心にどんな感情が生まれたのか。それは誰にもわからない。納得したか、それはありえないと唾棄したか、どうでもいいと吐き捨てたか。
「お前だけは、ああああああああああ!」
 自由騎士達と労働0547が開けた道を縫うようにして『喪失を恐れる復讐者』キリ・カーレント(CL3000547)が突撃する。いつもはローブを振るって仲間を守るキリだが、ここだけは譲れないとばかりに叫びながら。
「プレール村を滅ぼしたお前を、許さない!」
 王族1687の炎を魔力を込めたローブでいなしながら、サーベルを振るうキリ。王族1687だけは逃さないとばかりに足を使い、燃える炎で奪われる体力を気力で補う。
「その理屈でいえば、パノプティコンを滅ぼす貴方達もまた復讐の対象となりますよ」
 傷つきながらも霧にそう言い放つ王族1687。復讐は連鎖する。自分が奪われたから奪い返すのなら、復讐は共に滅びるまで終わらない。どこかで誰かが止めなければ、復讐の連鎖は終わらない。
「それでもいい……!」
 黒い衝動に身をまかせながら、キリは叫ぶ。そんな事は言われなくても分かっている。それでもこの黒い衝動だけは押さえられない。その為だけに旅をして、その為だけに戦ってきたのだ。
「それでも、村を焼いた恨みは――キリの恨みは!」
 叫ぶと同時にキリの魔力が黒い裁ちばさみを象っていく。それはキリが心の中で抱いていた復讐の形。キリ・カーレントにとって守りの形が自らを包むローブであるならば、攻撃の形は鋭い刃物。父と母、その二対を重ねるハサミこそが具現化した殺意の形。
「これで、終わり……! 閉じきって、終わらせるの!」
 生まれた黒のハサミは王族1687の炎を切り裂き、その肉を断つ。口から血を吐いた王族1687は、自らの終わりを察したかのように薄く微笑んだ。
「終わり……ですか。いいえ、貴方は終わりませんよ。パノプティコンを滅ぼしたものとして、その意味を背負っていくのです。
 ……最も、その未来も世界ももうすぐ消えていくのですが……」
 それが末後の言葉。パノプティコン最後の王はそう言って虚無の海へと旅立っていった。
「プルーレ村の皆さん……キリは……キリは……!」
 復讐相手の絶命を確認すると同時に、キリも緊張の糸が解けたかのように崩れ落ちた。

●管理の神
 地域1155最上階――神アイドーネウスがいる場所。
「ここが……神様の、場所?
 神の座にたどり着いたノーヴェ・キャトル(CL3000638)。最上階に行くまでに少し道に迷ってしまい、酔いに似た精神的な負担を負ってしまう。
「神様……」
 アイドーネウスに語りかける。周囲に浮かぶキューブ。時折動き、整理されていく存在。それが国民管理機構であり、それがパノプティコン国民一人一人を管理しているのだと直感で理解する。
(……これに触れて、思念を流せば……国民に思いを伝えることが、出来る?)
 ノーヴェはそう思い試してみたが、反応はない。神造兵器は神の御業。人の技術とは異なる理だ。例え奇跡が起きたとしても、それを操作することは叶わないだろう。ノーヴェは諦めて、アイドーネウスに向き直る。
「神様は……やさしい。だけど、心配性……。
 神様は、ヒトを信じて……くれないの……? 生きてる、こと……だけ、しか……信じない……?」
「カ・ク・イ! ス・イ・ト・ナ・リ・カ! ニ・ト! チ! テ・ラ・ス・リ・シ ラ・ハ! テ・チ・ス・ル!」
 帰って来た言語を理解はできない。だがイメージは確かにノーヴェに伝わってくる。
『人を信じた結果が、今の戦争の世界』
 神の蟲毒を理由に他国に攻め込んだのはイ・ラプセルだ。戦争を始めたのはイ・ラプセルだ。今こうして神を殺そうとしているのは、イ・ラプセルだ。
「……うん、そうだね……。でも、それだけ、じゃない……戦争と平和、どちらもできる……。
 神様が、いなくても……ヒトは歩いて、行ける。ヒト、にも……神様にはない力……があるんだよ……。それを……神様、も…信じてほしい……」
 管理されずとも、人は生きていける。いつか戦争は終わり、平和がやってくる。その為にイ・ラプセルは戦っているのだから。
「その通り! 人は自分で考え、成長し、進化する生物です。何時までも神様におんぶだっこではいけないのです!」
 息絶え絶えになりながらクレヴァニールが神の座に到達する。連戦という事もありクレヴァニールの身体は傷だらけだが、なんとか息を整えながら言葉を続ける。
「悪性を管理する事が出来るアイドーネウス様。貴方は本当に素晴らしい神です! ですが、だからこそ! ここで倒させていただきます! 人類の、未来の為に!」
「そういうこった! お前を倒す。私はこの時のために戦って来たんだ!」
 鋼鉄の斧を振りかぶり『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)がアイドーネウスの前に立つ。パノプティコン兵士も、王の親衛隊も、すべてこの斧で蹴散らしてきた。パノプティコンの神を倒すの為に。
(インディオの皆。マイナスナンバー。…………ようやく約束を果たせそうだぜ)
 ジーニーは瞳を閉じ、進んできた道程を振り返るように回顧する。管理国家に迫害さててきた精霊の民、インディオ。管理国家からはぐれたマイナスナンバー。彼らの為にも、アイドーネウスは倒す。
「今更お前と話すことなんてない! インディオの大地を取り戻すため、ここで神を殺す!」
 言ってアイドーネウスに突撃するジーニー。人に神は殺せない。人が持つあらゆる兵器もあらゆる魔術も神の理には届かない。例え大地を燃やし尽くすドラゴンの炎であったとしても、例え天空から降り注ぐ流星群であったとしても、だ。――唯一の例外、オラクルを除いて。
 ジーニーの身体が風に包まれる。それは北風を司るヤ=オ=ガーの力。風は暴風となり命を奪う冷たい吹雪となる。触れるものを切り刻み、体温を奪い命を絶つ低温の刃。百獣の王でさえ北風の前には身を縮めるしかない。
「人の人生を管理する権利なんて神にだってない! 滅びろぉーっ!」
「――――」
 神の言葉はない。或いはあったかもしれないが、ジーニーの暴風にまぎれて消えた。正に一刀両断。インディオ、マイナスナンバー、そして自由騎士すべての意志が乗ったかのような一撃だった。
 そして――

 宙に浮いていたキューブが揺らぎ、落ちていく。地面に触れるよりも早くチリとなって消えていく。
 それはアイドーネウスが死に、国民管理機構が消えていくということ。それは1800年近く続いた神の管理が終わりを告げたこと。パノプティコンの国民は神の管理が消えたことを知り、嘆き、諦め、そして崩れ落ちる。
 ここに、パノプティコンと言う国は――アイドーネウスの管理は――終わりを告げたのであった。


 自由騎士達の説得が功を奏したのか、六割近くのパノプティコン国民は投降してイ・ラプセルに下る事となった。
 荒野で生活していたインディオやマイナスナンバーと呼ばれるパノプティコンに迫害を受けていた者達もこの報を受ける。彼らをどう扱うかは後の課題と言えよう。
 そう、今はそれよりも大事なことがある。国をとった事後処理を任せなければならないほどの処理が。

 アイン0。
 世界の白紙化。その浸食が始まろうとしているのだから――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『中立なりし医』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『神に愛を説く』
取得者: ノーヴェ・キャトル(CL3000638)
『管理国家解放者』
取得者: セーイ・キャトル(CL3000639)
『管理王を断ちし者』
取得者: キリ・カーレント(CL3000547)
『管理国家解放者』
取得者: エイラ・フラナガン(CL3000406)
『管理国家解放者』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
『管理国家解放者』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『管理国家解放者』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『管理国家解放者』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『管理国家解放者』
取得者: デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
『管理国家解放者』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『管理国家解放者』
取得者: ステラ・モラル(CL3000709)
『管理国家解放者』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『国を滅ぼす意味』
取得者: エリシア・ブーランジェ(CL3000661)
『管理国家解放者』
取得者: フリオ・フルフラット(CL3000454)
『管理国家解放者』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『管理国家解放者』
取得者: ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)
『管理国家解放者』
取得者: ジャム・レッティング(CL3000612)
『管理国家解放者』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『管理国家解放者』
取得者: クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)
『管理国家解放者』
取得者: セアラ・ラングフォード(CL3000634)
『管理国家解放者』
取得者: クイニィー・アルジェント(CL3000178)
『管理国家解放者』
取得者: アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
『管理国家解放者』
取得者: ナーサ・ライラム(CL3000594)
『神落とす北風』
取得者: ジーニー・レイン(CL3000647)
『管理国家解放者』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『管理国家解放者』
取得者: ロザベル・エヴァンス(CL3000685)

†あとがき†

どくどくです。
(……くっそー。二国同時ルートだとアイン0の最中に地域1155攻略だったはずなのに……! 大地に自らを捧げて侵攻を停めるインディオとかで、自由騎士の心を折りながら進めるはずだったのに……!)

蛇足ながらいくつか語らせてもらいます。
イ・ラプセルが自由の国なら、パノプティコンは管理の国。相反するスタイルであるがゆえに『理解できない』ことを強調する意味で特殊な言語を使って交友不可にしました。
パノプティコンNPCとは相容れない。国民管理機構の効果もその影響を受けています。同時に(方向性こそ違うけど)未来予知と言うイ・ラプセルと同じ効果を持っています。
『鏡合わせなんだけど、触れられない』がパノプティコンの基本でした。

王族1687に関しては相容れない国家の窓口役割です。彼を通じてパノプティコンの実情を知らせる役割です。
アイドーネウスの性格に関しては、いつぞやのトップで語ったことが全てです。争う人々に心を痛め、アイドーネウスなりに人間を管理し保護しようとしたにすぎません。その善し悪しは各個人が判断してください。

管理国家パノプティコンはこの戦いをもって消滅します。
いろいろ問題は残っていますが、先ずは体を休めてください。

最後に神を討った貴方に、名誉称号を与えます。
そのロールプレイやキャラクター、そしてプレイングに敬意を表して。


それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済