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【デザイア!】今宵貴方とボナペティ

●
貴方にとって、奴隷とはなんですか?
――そうね、食用かしら? あら、どうして眉を顰めるの? 奴隷なんてヒトではないわ。ヒト以下の家畜。
貴方だって、家畜を、牛さんとか、豚さんを屠殺して、引き裂いて、細切れにして腑分けして食べるのでしょう?
わたしのそれも同じこと。
家畜を料理しているだけに過ぎないわ。まあ、奴隷は牛さんたちより値がはるからすぐに屠殺なんてできないのだけれども。
できる限りゆっくりと新鮮なままで生きたまま腑分けしていかないといけないの。
たとえば、指先からゆっくりと刻んで、シチュウに入れて煮込んだり。しってる? 指はなんと! 10本もあるのよ!
足も合わせれば20本。でも足は短いし少ないのよね。ああ、足といえばレッグを豪快に焼くのが美味しいのよね。
指を切っている最中奴隷の鳴き声がうるさければ声帯をちぎり取れば静かになるのよ。屠殺場のブタさんだってあんなに騒がないのに。奴隷ってほんと厄介ね。
脳みそは蒸気鍋でヴァプールしてベリィソォスでいただくのが一番美味しいかしらね。
ああ、でもミズヒトなら生きたまま頭蓋にキリを通して新鮮な脳髄液で味付けした髪なんてジュレにしたほうがいいかしら
。
そういえばヨウセイという奴隷も新しく新入荷したんですって?
長い耳をおろし金でミンチにしたら、どんな味になるのかしら?
それともポアレ鍋でオリーブ油を熱して、表面カリッと中はふんわりにするのもいいわね。
ああ、よその国の調理方法はこの国では馴染みがないかもしれないわね。
だってこの国の料理なんて切って、潰して、湯がいて。
雑なのよ。せっかくの奴隷(そざい)丁寧に料理しないと、もったいないでしょう?
だからね、私はこの国に革命を起こすのよ。
奴隷こそが食用として最高の素材であることを知らしめないと。
スレイブマーケット、たのしみだわ。たのしみだわ。
どんな奴隷(しょくざい)が用意されているのかしら。
貴方もいかがかしら?
眼球いりのソォダ。どうぞ、ボナペティ。
●
「あまり気分のいい話じゃないんだけど」
口元を抑えながら、クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が演算室に集まったあなた達に切り出す。
「フィラメント・ザカリテ婦人。
ヘルメリアの貴族(ノウブル)の一人。
彼女はその……言いにくいのだけれども、奴隷を食用にしているの。
みんなは今月末のスレイブマーケットの話はしってるよね? 彼女はそこで奴隷を大量に仕入れるつもりみたい。もちろん食用として。
あの国では奴隷には人権はないよ。
どのように扱われるかは皆も知ってると思う。でもね、そのなかでもこれは最悪。
倫理的にも悖ると思う。
それなりに有力な貴族だからたぶん他の人達も思うことがあっても手が出せないんだろうね。
彼女を放置したらきっと……だからね、なんとかしてほしいんだ
それに、彼女を抑えることができたら、きっとヘルメリアの攻略にも繋がると思うから!」
そう言ってあなた達を観るクラウディアの瞳は少し潤んでいた。
貴方にとって、奴隷とはなんですか?
――そうね、食用かしら? あら、どうして眉を顰めるの? 奴隷なんてヒトではないわ。ヒト以下の家畜。
貴方だって、家畜を、牛さんとか、豚さんを屠殺して、引き裂いて、細切れにして腑分けして食べるのでしょう?
わたしのそれも同じこと。
家畜を料理しているだけに過ぎないわ。まあ、奴隷は牛さんたちより値がはるからすぐに屠殺なんてできないのだけれども。
できる限りゆっくりと新鮮なままで生きたまま腑分けしていかないといけないの。
たとえば、指先からゆっくりと刻んで、シチュウに入れて煮込んだり。しってる? 指はなんと! 10本もあるのよ!
足も合わせれば20本。でも足は短いし少ないのよね。ああ、足といえばレッグを豪快に焼くのが美味しいのよね。
指を切っている最中奴隷の鳴き声がうるさければ声帯をちぎり取れば静かになるのよ。屠殺場のブタさんだってあんなに騒がないのに。奴隷ってほんと厄介ね。
脳みそは蒸気鍋でヴァプールしてベリィソォスでいただくのが一番美味しいかしらね。
ああ、でもミズヒトなら生きたまま頭蓋にキリを通して新鮮な脳髄液で味付けした髪なんてジュレにしたほうがいいかしら
。
そういえばヨウセイという奴隷も新しく新入荷したんですって?
長い耳をおろし金でミンチにしたら、どんな味になるのかしら?
それともポアレ鍋でオリーブ油を熱して、表面カリッと中はふんわりにするのもいいわね。
ああ、よその国の調理方法はこの国では馴染みがないかもしれないわね。
だってこの国の料理なんて切って、潰して、湯がいて。
雑なのよ。せっかくの奴隷(そざい)丁寧に料理しないと、もったいないでしょう?
だからね、私はこの国に革命を起こすのよ。
奴隷こそが食用として最高の素材であることを知らしめないと。
スレイブマーケット、たのしみだわ。たのしみだわ。
どんな奴隷(しょくざい)が用意されているのかしら。
貴方もいかがかしら?
眼球いりのソォダ。どうぞ、ボナペティ。
●
「あまり気分のいい話じゃないんだけど」
口元を抑えながら、クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が演算室に集まったあなた達に切り出す。
「フィラメント・ザカリテ婦人。
ヘルメリアの貴族(ノウブル)の一人。
彼女はその……言いにくいのだけれども、奴隷を食用にしているの。
みんなは今月末のスレイブマーケットの話はしってるよね? 彼女はそこで奴隷を大量に仕入れるつもりみたい。もちろん食用として。
あの国では奴隷には人権はないよ。
どのように扱われるかは皆も知ってると思う。でもね、そのなかでもこれは最悪。
倫理的にも悖ると思う。
それなりに有力な貴族だからたぶん他の人達も思うことがあっても手が出せないんだろうね。
彼女を放置したらきっと……だからね、なんとかしてほしいんだ
それに、彼女を抑えることができたら、きっとヘルメリアの攻略にも繋がると思うから!」
そう言ってあなた達を観るクラウディアの瞳は少し潤んでいた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ザカリテ婦人を倒す
たぢてんです。ボナペティ。
有力貴族のザカリテ婦人を倒してください。
どのように扱うかはおまかせします。
奴隷は助ける必要はありません。全員救いだすには相当の工夫が必要でしょう。
この共通タグ【デザイア!】依頼は、連動イベントのものになります。この依頼の成功数により八月末に行われる【デザイア!】決戦の状況が変化します。成功数が多いほど、状況が有利になっていきます。
■フィラメント・ザカリテ
ノウブル・重戦士
夫には先立たれた未亡人です。35歳ほど。
たおやかで品のあるロングヘアを結い上げている、すこし薹のたった美しい女性です。黒いドレスを纏っています。
地方領主の仕事を夫にかわり代行しています。それなりに有能です。夫がヘルメリア軍事関係にもつながっていたため蒸気騎士へのコネもあります。
ちなみに現在夫は行方不明として処理され、死亡とされています。
人柄はOPの通り。奴隷に対する価値観についてはきっと話が通じないでしょう。
ランク2までのスキルを使います。体力高め、火力も高め。バレッジファイアとウェッジショットも使えます。
基本的に後衛で守られていますが盾がいなくなれば本人も前衛で戦います。
■蒸気騎士
ヘルメリアの最新鋭兵器であるバトルスタイルです。
ランク2までのスキルは一通りつかえます。
■バスター、ガーディアン、ドクター
基本的に婦人を守るように動きます。ドクターは最後衛、ガーディアンが常にガード。バスターは露払いという動きです。
2Fの蒸気騎士はアタッカーとして動きます。
ランク2までのスキルは基本的につかってきます。
エネミーの練度はそれほど低くはありません。
■ロケーション■
地方領主の館になります。入り口には2人ほどの門番(蒸気騎士)がいます。
内部には13人ほどの使用人と5人ほどの蒸気騎士とバスター、ガーディアン、片腕がなく頭に包帯をまいたミズヒトのドクターのが駐留しています。戦闘員はみなオラクルです。使用人は一般人ですが多少の戦闘行為に対応はできます。(1~2ターン足止めはできるということです)
基本的に
3階建て+地下室の館です。
どのように侵入しても構いません。
門前で騒ぎを起こせば、歯車騎士団を呼ばれることになるでしょう。(15ターン後に20人の蒸気騎士がきます。表で騒ぎを起こさなければ大丈夫です)
15ターン以内に屋敷内部の敵をすべて倒すことはかなり難しいでしょう。
20人の蒸気騎士が到着した時点で状況はどうあれ、その時点で逃げないと捕まってしまいます。
内部で騒ぎを起こせば門番は内部に気づき合流します。(音以外でも使用人が呼びに来るなどが考えられます)
蒸気騎士は、1Fに2人、3Fに1人、2Fに2人、バスターとガーディアンとドクターはザカリテ婦人の直ぐ側にいます。
使用人は1Fに3人、2Fに4人、3Fに4人、地下室に2人います。
地下室には6人ほどの体のどこかを欠損した奴隷がいます。
助けても助けなくてもかまいません。一人では動けないものが3人ほどいます(足がありません)
地下室の入り口には2人の使用人がいます。戦闘行為が起これば大声で助けを呼びます。
ザカリテ婦人は2F の部屋のどこかにいますが、どの部屋にいるかは確認しないとわかりません。
部屋の割り振り
場所一つに向かうごとにエンカウント判定があります。
■地下室 階段をおりて広間になっています。その奥に奴隷のいる檻があります。使用人に見つからずに奴隷に接触はできません。
■1F 入ってすぐに広いホール、吹き抜けの大階段(2F、3Fに向かうには通る必要があります。大階段でエンカウントした場合は下記ルールの上下2F以上の合流ターン数が-2されます)、食堂、厨房(エンカウント率高)、ロビーがあります。厨房には裏口があります。
■2F 吹き抜け大階段、部屋が6つ。
■3F 吹き抜け大階段、客室が4つ。
工夫すればエンカウント率は下げることができます。
合流ルール
そのフロアにいる使用人、及び戦闘員は発見された次のターンに合流します。(門番は1F扱いです)
そのフロアの上下1Fにいる戦闘員は戦闘開始3ターン後に合流します
2F以上差のあるフロアの戦闘員は合流に6ターンかかります。
ただし、地下の場合は警戒されているので、次のターンに1Fの戦闘員が合流します。
(例:1Fで事を起こした場合は2Fの戦闘員が3ターン後に合流、6ターン後に3Fの戦闘員が合流となります)
婦人については他の戦闘員の動きと同じになります。
ザカリテ婦人は死を覚悟したとき、屋敷を爆破し燃やすことでしょう。
屋敷の爆破が叶えば5ターンで火の海になります。6ターン目には屋敷は崩壊するので巻き込まれたらただではすみません。
(具体的にはフラグメント-20)
■ムサシマルとアーウィンがお手伝いします。
どのように動かすかは卓で【ムサシマル指示】【アーウィン指示】で指定してください。
特になければ邪魔しないように戦います。
ムサシマルはてへぺろ急とハイバラ破、アーウィンは鋭聴力とハイバラ序を活性化しています。
スキルはランク2まで使えます。
有力貴族のザカリテ婦人を倒してください。
どのように扱うかはおまかせします。
奴隷は助ける必要はありません。全員救いだすには相当の工夫が必要でしょう。
この共通タグ【デザイア!】依頼は、連動イベントのものになります。この依頼の成功数により八月末に行われる【デザイア!】決戦の状況が変化します。成功数が多いほど、状況が有利になっていきます。
■フィラメント・ザカリテ
ノウブル・重戦士
夫には先立たれた未亡人です。35歳ほど。
たおやかで品のあるロングヘアを結い上げている、すこし薹のたった美しい女性です。黒いドレスを纏っています。
地方領主の仕事を夫にかわり代行しています。それなりに有能です。夫がヘルメリア軍事関係にもつながっていたため蒸気騎士へのコネもあります。
ちなみに現在夫は行方不明として処理され、死亡とされています。
人柄はOPの通り。奴隷に対する価値観についてはきっと話が通じないでしょう。
ランク2までのスキルを使います。体力高め、火力も高め。バレッジファイアとウェッジショットも使えます。
基本的に後衛で守られていますが盾がいなくなれば本人も前衛で戦います。
■蒸気騎士
ヘルメリアの最新鋭兵器であるバトルスタイルです。
ランク2までのスキルは一通りつかえます。
■バスター、ガーディアン、ドクター
基本的に婦人を守るように動きます。ドクターは最後衛、ガーディアンが常にガード。バスターは露払いという動きです。
2Fの蒸気騎士はアタッカーとして動きます。
ランク2までのスキルは基本的につかってきます。
エネミーの練度はそれほど低くはありません。
■ロケーション■
地方領主の館になります。入り口には2人ほどの門番(蒸気騎士)がいます。
内部には13人ほどの使用人と5人ほどの蒸気騎士とバスター、ガーディアン、片腕がなく頭に包帯をまいたミズヒトのドクターのが駐留しています。戦闘員はみなオラクルです。使用人は一般人ですが多少の戦闘行為に対応はできます。(1~2ターン足止めはできるということです)
基本的に
3階建て+地下室の館です。
どのように侵入しても構いません。
門前で騒ぎを起こせば、歯車騎士団を呼ばれることになるでしょう。(15ターン後に20人の蒸気騎士がきます。表で騒ぎを起こさなければ大丈夫です)
15ターン以内に屋敷内部の敵をすべて倒すことはかなり難しいでしょう。
20人の蒸気騎士が到着した時点で状況はどうあれ、その時点で逃げないと捕まってしまいます。
内部で騒ぎを起こせば門番は内部に気づき合流します。(音以外でも使用人が呼びに来るなどが考えられます)
蒸気騎士は、1Fに2人、3Fに1人、2Fに2人、バスターとガーディアンとドクターはザカリテ婦人の直ぐ側にいます。
使用人は1Fに3人、2Fに4人、3Fに4人、地下室に2人います。
地下室には6人ほどの体のどこかを欠損した奴隷がいます。
助けても助けなくてもかまいません。一人では動けないものが3人ほどいます(足がありません)
地下室の入り口には2人の使用人がいます。戦闘行為が起これば大声で助けを呼びます。
ザカリテ婦人は2F の部屋のどこかにいますが、どの部屋にいるかは確認しないとわかりません。
部屋の割り振り
場所一つに向かうごとにエンカウント判定があります。
■地下室 階段をおりて広間になっています。その奥に奴隷のいる檻があります。使用人に見つからずに奴隷に接触はできません。
■1F 入ってすぐに広いホール、吹き抜けの大階段(2F、3Fに向かうには通る必要があります。大階段でエンカウントした場合は下記ルールの上下2F以上の合流ターン数が-2されます)、食堂、厨房(エンカウント率高)、ロビーがあります。厨房には裏口があります。
■2F 吹き抜け大階段、部屋が6つ。
■3F 吹き抜け大階段、客室が4つ。
工夫すればエンカウント率は下げることができます。
合流ルール
そのフロアにいる使用人、及び戦闘員は発見された次のターンに合流します。(門番は1F扱いです)
そのフロアの上下1Fにいる戦闘員は戦闘開始3ターン後に合流します
2F以上差のあるフロアの戦闘員は合流に6ターンかかります。
ただし、地下の場合は警戒されているので、次のターンに1Fの戦闘員が合流します。
(例:1Fで事を起こした場合は2Fの戦闘員が3ターン後に合流、6ターン後に3Fの戦闘員が合流となります)
婦人については他の戦闘員の動きと同じになります。
ザカリテ婦人は死を覚悟したとき、屋敷を爆破し燃やすことでしょう。
屋敷の爆破が叶えば5ターンで火の海になります。6ターン目には屋敷は崩壊するので巻き込まれたらただではすみません。
(具体的にはフラグメント-20)
■ムサシマルとアーウィンがお手伝いします。
どのように動かすかは卓で【ムサシマル指示】【アーウィン指示】で指定してください。
特になければ邪魔しないように戦います。
ムサシマルはてへぺろ急とハイバラ破、アーウィンは鋭聴力とハイバラ序を活性化しています。
スキルはランク2まで使えます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
8日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年08月30日
2019年08月30日
†メイン参加者 8人†
●
「ヒトを家畜のように食べるなんて、その価値観はわからないし、わかりたくもないわね」
ザカリテ婦人の屋敷の裏口の様子を伺いながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が呟く。
「……生命の価値観はヒト夫々」
「んー、モノホン天然なのか悪趣味愉悦なのかは分からんがなんにしろ、尖ったねーちゃんだな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)と『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)がエルシーに答える。
まずは目指すは地下室への階段。
マグノリアの目星に加え、『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)の推測、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)のリュンケウスの瞳によって、厨房の地下に『食料庫』があると確定される。と、同時に厨房には二人の使用人がいることも確認された。
「さしずめ高級食材といったところだろうか。理解したくないものだ」
テオドールは吐き捨てるようにそう言う。
「他の部屋から回り込むか? 領主殿」
「今は君たちと同じく自由騎士だ。今は領主はやめてくれたまえ。とまれ、どちらにせよ使用人のいる厨房に入るという工程は避けられない。音を消して直接侵入するほうがよいだろう」
アデルの問にテオドールが答える。
「じゃあ、ちょちょいと開けちゃおう!」
鍵があれば鍵になるのがあたしの信条。『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)はしっぽを振りながら指先をくるりと回した。
厨房の裏口の鍵が開かれる音はオーディオエフェクトによって聞こえない。
突然の『来客』による使用人の悲鳴もまた聞こえない。
彼らは迅速に使用人を気絶させると、地下に向かう。
クイニィーはアデルたちが使用人を対処している間に生成したホムンクルスを床下に放つ。ザカリテ婦人は危険時には自爆を選ぶという。ならば屋敷のどこかに爆弾は在るはず。起爆装置までは見つからないだろうし、排除することは専門的な知識がなければ難しいだろうが(そもそもホムンクルスにはそんなことはできないだろうし)何処にあるかを見つけることができたらソレだけで御の字だ。
「ホムちゃんよろしくね」
「アタシはアタシにやれることをする」
『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は思う。生まれた国、思想が違うもの。根本的解釈が違うなら、あいつらにとってこれは正常。ただその価値観が相容れないだけだ。善悪を勝手にこっちが決めるのは烏滸がましい。
自らの奥底に眠る遺伝子を揺り起こし速度をあげた彼女は吹き抜けの階段に向かう。
しばらくして厨房の外から喧騒の気配が伝わってきた。
アデルとエルシーは地下室の入り口で待機し、残りの者たちが地下の奴隷たちと接触するため地下に降りる。
『貴様ら、なにものだ』
と、地下室の見張りの使用人が叫んだのだろうが音にはならない。厨房の使用人と同じく気絶させ制圧すると、アデルは一端オーディオエフェクトを停止する。『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)の声が奴隷に聞こえなくては意味がない。
クイニィーによって地下牢の鍵が開けられる。突然の闖入者に彼ら6人の食材奴隷たちは体を寄せ合い怯えた。
「大丈夫だ。助けが遅くなってしまい、本当にすまない」
アダムがゆっくりと奴隷たちに話しかけた。アダムの柔らかなオーラに奴隷は目を向ける。
「だが安心してほしい、僕たちが君たちを助ける。もう俯く必要はないんだ。君たちはヒトとして希望をもっていいんだよ」
その言葉に奴隷たちはほろほろと涙をこぼした。
ツボミが奴隷たちの怪我の治療をしようと前に出るが特に目立つ外傷はない。それなりに食材として大事に扱われているのだろう。健康状態も悪くはない。――もちろん失われた部位については取り戻すことはできない。ヘルメリアのカタフラクトであれば亜人にもつけることができるのだろう。しかしソレは諸刃の剣。そもそもにおいて自分がそれを為すことは不可能だ。
そのくそったれな事実にツボミは誰にも気付かれないように舌打ちした。
「よし、貴様ら早速脱出するぞ。時間は少ない。キビキビいくぞ!」
「エピ卿はそちらのイヌのケモノビトを、ムサシマル嬢はソラビトを運んでいってくれたまえ」
「わかった」
「りょでござる。てへぺろ」
ツボミとテオドールが指示をかければアーウィン・エピとムサシマル・ハセ倉が応答する。
「フリーエンジンのものに回収保護は前もって相談しておいた。できる限り見つからないように接触しろ。今のご主人さまはアダムだ」
「え? 僕かい?」
「当たり前だ。アーウィンとムサシマルは亜人だ。フラフラしてたらこいつらも捕まる。キジンのお前が主人で奴隷の移動の最中とでも言えばいい。この国にとって奴隷はノウブルの所有物だ。人のものにとやかく言う奴は少なかろ」
ツボミの言葉にアダムは頷く。
彼にとっての奴隷とは夢見ることができないものだ。衣食住、それを得ることでヒトは夢見る事ができる。
だからアダムは思った。この世界すべての奴隷に夢を見せたいと。それが自分の為すべき『革命』なのだと。
屋敷を出てフリーエンジンのもとで彼らがデザイアになることができれば俯いた彼らもきっと――きっと夢をみることができるだろう。
「わかった、任せてほしい」
アダムは一人の奴隷を担ぎ上げ地下室の階段を登った。
60秒で戻ってくることは不可能だが、退避先があるのであれば地下室に待機させるよりは安心だろうとテオドールも判断する。戦闘が厳しくはなるだろうが仕方ない。
婦人が爆破物を起動させた場合脱出させるのに奴隷を運ぶ猶予を考えれば時間はかかっても先に退避させておいたほうが後顧の憂いはなくなる。
●
ライカは中央階段を走る。当然だがすぐに使用人に気づかれ、戦闘員が招集される。
「釣れた」
ライカはそのまま階段にいる使用人をすり抜け二階に走っていく。使用人の叫び声が屋敷内に響く。
二階は大階段から廊下が続き6つの部屋が3つずつ向かい合わせに在る形だ。ライカは一番手前のドアを開くが婦人は居ない。
反対側のドアから二人の蒸気騎士が現れる。
「何者だ!?」
「さあね」
婦人は更に奥の部屋にいるのだろう。蒸気騎士がその先を通すまいと立ちはだかる。ライカは影狼で突破しようとするが、明確に2名の敵が進行上でブロックしている場合には突破することはできない。
「チッ」
ライカは舌打ちすると、大階段に戻り三階に向かう。吹き抜けの階段の下には蒸気騎士たちが集まってきている。
●
「ライカの陽動は?」
ツボミが尋ねれば、ライカとテレパスをつなげていたアデルが答える。
「とりあえず気は引けたようだが……まずいな。階段で囲まれているようだ。今はバレッジファイヤの牽制で耐えているようだが長くはもたないだろう。囲まれてしまったら、いくらライカの回避が高くても多すぎる攻撃の前ではいつまでも避けきれるものではない」
奴隷たちの移動は始まったばかりだ。とはいえライカを放置もできない。
「ねえ。ホムちゃんが爆弾の場所みつけたよ。大階段にあるみたい。まあ屋敷の中心だしそりゃそうか」
クイニィーがけらけら笑いながらそう言う。
「じゃあ、もう、いっそのこと私達も戦いにいきましょう!」
エルシーが拳を手のひらにぶつけ妖艶に微笑む。色々難しいことを考えるよりは荒事のほうが得意だしわかりやすい。
「そうするしかないようだな」
「戦闘場所は中央階段のホールなら退路も確保できると思うよ」
テオドールとマグノリアも意見を述べる。
「はいはい、決定! じゃあ、アダムさっさと出ていって! 厨房の出口にアイアンロックかけちゃうから」
クイニィーが追い払うようにアダムを急かす。ロックの必要はないだろうがもしものときの備えだ。
「じゃあ、いつものお得意でいきましょう!」
エルシーがそう言うと彼らは厨房から飛び出す。
●
「ライカ! 飛び降りろ!! 俺が受け止める」
三階に向かう階段の途中で囲まれたライカは階下からのアデルの声に目を向ける。
マグノリアは足元でタップを踏み、大渦海域のタンゴのリズムでライカの周りの敵を足止めする。数人の蒸気騎士には足止め効果がそもそもにおいて見込まれていないようだが伏兵の存在に蒸気騎士たちが浮足立つことにより隙が生まれる。
その隙にライカは階段からアデルに向かって飛び降りれば、アデルが受け止める。それなり以上の衝撃に腕が少々しびれるが、余計なことはいわない。言うわけにはいかない程度にはアデルとて弁えている。
「全く、世話のやける姉貴分だ」
「……ありがと」
ライカは短く礼をいうと、ツボミの回復に身を委ねる。正直ギリギリだったのは確かだ。
「おちつきなさいませ」
遅れて黒髪を結い上げたドレス姿の美女が現れる。部下を引き連れたザカリテ婦人である。
一番うしろに控えているミズビトのドクターが怯えながら消耗した蒸気騎士たちを回復する。
「賊の侵入程度で狼狽えて、それでも誇り高き蒸気騎士なのかしら?」
その言葉に蒸気騎士たちは改めて身構える。
状況は階下、ホールに飛び込んできた自由騎士たち7人と二階から一階の階段付近に集まる蒸気騎士たち9人が相対する形になる。残る使用人たちは戦闘に参加する意志はないようで退避しているようだ。
とはいえエルシーはイェソドのセフィラを意識し不意打ちには警戒する。
人数の有利はあちら、状況がそうさせたとはいえ上階からの攻撃が仕掛けられるのもあちらである。
「フリーエンジン……ではありませんね。
イ・ラプセルの自由騎士? 死んだはずではなくて? 生き返ったのならもう一度退治すればいいだけ。
――あら、珍しいマザリモノが2つにケモノビト? 美味しそうな食材を配達してくださったの? ありがとう。
あのマザリモノはハクタクかしら? 央華の幻想種。薬になるときいたけれど。ほしいわ。ほしいわ」
言って舌なめずりしながら二階の吹き抜けから覗き込む婦人にツボミは舌を出し、マグノリアは眉を顰め、クイニィーは少々下品なハンドサインを送る。
「煽られるな、アダムたちが戻ってくる前に削るぞ」
未だしびれる腕をふりながらアデルがジョルトランサーを構えた。
蒸気騎士のスキルは未だ未解明だ。どんな攻撃がくるかわからない。飛び込んでくる蒸気騎士たちに向かって自由騎士たちは油断なく構える。
「む……」
テオドールは普段にくらべ、自らが放つケイオスゲイトの手応えが薄いことに気づく。
「ライカ、彼らはなにか特殊なことをしていたかね?」
「わからない。けど鎧の色が少し変わっているかも。あと浮遊もしてるみたい」
「タンゴが効かなかったのはその所為みたいだね」
ライカの答えにマグノリアが合点がいったと呟く。
彼らの作戦では最初にドクターを狙うつもりだった。しかし未知の強化をしている蒸気騎士も放置はできない。
「厄介だな」
「それは織り込み済みだろう、ハビッツ卿」
「そのとおりだ。俺は鎧の色の違うやつの付与を剥がす。狙いは予定通りだ」
「まって……! その前に。
ねえ、君。何故、君はザカリテ婦人に体を与えてまで仕えているの……? 自由にはなりたくないの?」
マグノリアはドクターに声をかける。その言葉に婦人に睨まれたミズビトのドクターはビクリと肩をすくませた。
けれど、けれど。
マグノリアは見た。ドクターの口が『タスケテ』と動いたことに。マグノリアは頷くとツボミにアンチトキシスを付与する。
「長丁場になりそうだから」
「だな、では貴様ら、存分に戦え。なあに多少の怪我は爆発してでもなおしてやる!」
「縁起の悪いこといわないでよう!」
スパルトイで骨騎士を生成しながらクイニィーがツッコミをいれた。
状況は一進一退で進んでいく。まだアダムたちは戻ってこない。
ソレにドクターが助けを求めている以上攻撃はできない。回復行為は止められないが助けを求めているものを無視できるような彼らではない。彼らは狙いをドクターから婦人にシフトする。案の定ガーディアンが防御してくるがそれは織り込み済みだ。
「ザカリテさん、今日は私が貴女を喰い千切っちゃうわよ?」
エルシーの鉄山靠が目の前の蒸気騎士ごと防御するガーディアンに届く。
「アタシにもアンチトキシスを」
魔導力が枯渇しかけのライカがマグノリアに要請すれば、マグノリアは頷く。
ミズビトは防御するガーディアンの回復にかかりっきりになっている。となれば、全体攻撃で削っていく役目を果たすのは自分だ。今婦人に影狼で近接しようとしたところで蒸気騎士に阻まれてしまうだろう。
優雅に笑い守られながらバレッジファイアを連発するザカリテ婦人の余裕の表情が恨めしい。
両者は激しく衝突する。
二階から降りてきたバスターの高火力の攻撃ににアデルは一度膝を突くが欠片を燃やし立ち上がる。
「俺は『ヒトの尊厳』の為に、ただお前を撃ち貫くと決めた」
アデルはザカリテ婦人を睨みつけそう宣言する。
蒸気騎士の巨大なブレードに叩き切られエルシーもまた膝をついて、再度立ち上がる。
「マグノリア! 回復のフォローを」
「わかってる」
戦いの天秤はゆっくりと、だが確実に婦人の側に傾いていく。
「あのこ、ハクタクの子は殺しちゃだめよ。全部大事に食べるんだから」
婦人が余裕の笑みを浮かべる。
「うげ、勘弁してくれ」
ハクタクが薬になるのはまことしやかに囁かれてはいるが自分はマザリモノだ。あの父上ならまだしも自分には薬効などないぞといったところで無駄だろうとツボミはうんざりとする。
「またせたね!」
息を切らせたアダムが腕部蒸気鎧装をガンモードに変形させ戦場に蒸気変形・連射の型を降らせながら飛び込んでくる。その後ろにはアーウィンとムサシマルと、手伝いにきたヨウセイの少女が着いてくる。
「奴隷たちは?」
クイニィーの問いかけにアダムは無言で頷く。
現段階においてこの場に立っているものは満身創痍とはいえ、自由騎士が11人。そのうち4人は無傷だ。対する敵は7人にまで数を減じている。
ならば――。
「ここからは攻勢だ!」
テオドールが叫ぶ。
「了解、それにしても重役出勤ってやつかしら? アダム」
「勘弁してくれエルシーさん、僕だって急いだから婦人に世界に向き合ってもらうために持ってきたあんぱんを落としてきちゃったんだから。奴隷より美味しいものは在るんだって!」
「あんぱん? 世界? まあいいわ。じゃあ、その分働いてもらうわよ!」
「もちろんさ!」
エルシーは傷だらけながら笑顔で友人に軽口を叩いた。アダムはそんな彼女の前に立つ。
形勢逆転の状況。婦人側に傾いていた天秤は今度は自由騎士側に傾いていく。
「面倒だが貴様には捕虜になって貰う。血に飢えた評判ばかりでは協力者が募れんな。安心しろ。女性は丁重に扱わにゃならん」
ツボミが追い詰められて行く婦人に殺すつもりはないと含め宣言する。
生理的な嫌悪感はあるが下手に殺すと寧ろ婦人への支持者が生まれかねない。それは止めておきたいところだ。生かせて彼女の思想そのものを貶める。
「甘いわね。ツボミ。アタシは、ただ相容れないから、赦せないから殺すだけ」
言ってライカは影狼で一気に距離を詰める。今やガーディアンは倒れた。千載一遇の機会を見逃したりはしない。
婦人が殺される理由は簡単。ただ、ザカリテとアタシが相容れず、アタシが貴様を赦せないから。
「おい、まて!」
ツボミの制止も聞かずライカは刃になる。
「捕虜? 捕虜ですって? 誇り高きノウブルのわたくしがマザリモノの下に下れと? ふざけるな!!
ふざけてもらっちゃ困るわ!」
婦人が一歩下がり、かちりと奥歯に仕込んでおいた爆破物のスイッチを押す。
「ライカ! 下がれ!」
「アタシはあいつを殺す!!」
アデルが危険を察し声を上げるがライカは聞かない。アデルは舌打ちをしてライカをタックルで止める。
「離せ!」
本当に世話のかかる姉貴分だ。
刹那――。
爆発音と振動がおこり中央階段が崩れていく。その噴煙の向こうで婦人が笑って、そして消えた。
「アデル離せ、あいつを殺さないと!」
アデルはボカボカと頭をライカに殴られる。彼は最後まで残るつもりだったがライカを退避させなければ崩れ行く屋敷に巻き込まれかねない。奴隷たちは引き渡されているのだから残る必要などない。
「君……!」
呆然とする傷だらけのミズビトのドクターの袖をマグノリアは引張りつれだす。
「安心して! ココを切り抜ければ三食昼寝付きの生活が待ってるわ!」
マグノリアとドクターを守りながらエルシーが笑めばドクターは涙をこぼして頷く。
「残り時間はない! 撤退だ!」
テオドールの指示に、あいさーとすでに逃げ出していたクイニィーが遠くで答えた。
「すごい逃げ足だ」
「ソレに私たちもあやかるとするぞ」
呆然とするアダムにツボミがニヤリと微笑んでアダムの袖を引いて促した。
自由騎士たちが全員屋敷から飛び出した直後に屋敷は崩壊する。
生き残った蒸気騎士たちが逃げれたかどうかは定かではない。
「ああ、聞きそびれちゃったな、色々なこと」
マグノリアが崩落する屋敷を見ながらそう呟いた。
「ヒトを家畜のように食べるなんて、その価値観はわからないし、わかりたくもないわね」
ザカリテ婦人の屋敷の裏口の様子を伺いながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が呟く。
「……生命の価値観はヒト夫々」
「んー、モノホン天然なのか悪趣味愉悦なのかは分からんがなんにしろ、尖ったねーちゃんだな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)と『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)がエルシーに答える。
まずは目指すは地下室への階段。
マグノリアの目星に加え、『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)の推測、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)のリュンケウスの瞳によって、厨房の地下に『食料庫』があると確定される。と、同時に厨房には二人の使用人がいることも確認された。
「さしずめ高級食材といったところだろうか。理解したくないものだ」
テオドールは吐き捨てるようにそう言う。
「他の部屋から回り込むか? 領主殿」
「今は君たちと同じく自由騎士だ。今は領主はやめてくれたまえ。とまれ、どちらにせよ使用人のいる厨房に入るという工程は避けられない。音を消して直接侵入するほうがよいだろう」
アデルの問にテオドールが答える。
「じゃあ、ちょちょいと開けちゃおう!」
鍵があれば鍵になるのがあたしの信条。『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)はしっぽを振りながら指先をくるりと回した。
厨房の裏口の鍵が開かれる音はオーディオエフェクトによって聞こえない。
突然の『来客』による使用人の悲鳴もまた聞こえない。
彼らは迅速に使用人を気絶させると、地下に向かう。
クイニィーはアデルたちが使用人を対処している間に生成したホムンクルスを床下に放つ。ザカリテ婦人は危険時には自爆を選ぶという。ならば屋敷のどこかに爆弾は在るはず。起爆装置までは見つからないだろうし、排除することは専門的な知識がなければ難しいだろうが(そもそもホムンクルスにはそんなことはできないだろうし)何処にあるかを見つけることができたらソレだけで御の字だ。
「ホムちゃんよろしくね」
「アタシはアタシにやれることをする」
『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は思う。生まれた国、思想が違うもの。根本的解釈が違うなら、あいつらにとってこれは正常。ただその価値観が相容れないだけだ。善悪を勝手にこっちが決めるのは烏滸がましい。
自らの奥底に眠る遺伝子を揺り起こし速度をあげた彼女は吹き抜けの階段に向かう。
しばらくして厨房の外から喧騒の気配が伝わってきた。
アデルとエルシーは地下室の入り口で待機し、残りの者たちが地下の奴隷たちと接触するため地下に降りる。
『貴様ら、なにものだ』
と、地下室の見張りの使用人が叫んだのだろうが音にはならない。厨房の使用人と同じく気絶させ制圧すると、アデルは一端オーディオエフェクトを停止する。『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)の声が奴隷に聞こえなくては意味がない。
クイニィーによって地下牢の鍵が開けられる。突然の闖入者に彼ら6人の食材奴隷たちは体を寄せ合い怯えた。
「大丈夫だ。助けが遅くなってしまい、本当にすまない」
アダムがゆっくりと奴隷たちに話しかけた。アダムの柔らかなオーラに奴隷は目を向ける。
「だが安心してほしい、僕たちが君たちを助ける。もう俯く必要はないんだ。君たちはヒトとして希望をもっていいんだよ」
その言葉に奴隷たちはほろほろと涙をこぼした。
ツボミが奴隷たちの怪我の治療をしようと前に出るが特に目立つ外傷はない。それなりに食材として大事に扱われているのだろう。健康状態も悪くはない。――もちろん失われた部位については取り戻すことはできない。ヘルメリアのカタフラクトであれば亜人にもつけることができるのだろう。しかしソレは諸刃の剣。そもそもにおいて自分がそれを為すことは不可能だ。
そのくそったれな事実にツボミは誰にも気付かれないように舌打ちした。
「よし、貴様ら早速脱出するぞ。時間は少ない。キビキビいくぞ!」
「エピ卿はそちらのイヌのケモノビトを、ムサシマル嬢はソラビトを運んでいってくれたまえ」
「わかった」
「りょでござる。てへぺろ」
ツボミとテオドールが指示をかければアーウィン・エピとムサシマル・ハセ倉が応答する。
「フリーエンジンのものに回収保護は前もって相談しておいた。できる限り見つからないように接触しろ。今のご主人さまはアダムだ」
「え? 僕かい?」
「当たり前だ。アーウィンとムサシマルは亜人だ。フラフラしてたらこいつらも捕まる。キジンのお前が主人で奴隷の移動の最中とでも言えばいい。この国にとって奴隷はノウブルの所有物だ。人のものにとやかく言う奴は少なかろ」
ツボミの言葉にアダムは頷く。
彼にとっての奴隷とは夢見ることができないものだ。衣食住、それを得ることでヒトは夢見る事ができる。
だからアダムは思った。この世界すべての奴隷に夢を見せたいと。それが自分の為すべき『革命』なのだと。
屋敷を出てフリーエンジンのもとで彼らがデザイアになることができれば俯いた彼らもきっと――きっと夢をみることができるだろう。
「わかった、任せてほしい」
アダムは一人の奴隷を担ぎ上げ地下室の階段を登った。
60秒で戻ってくることは不可能だが、退避先があるのであれば地下室に待機させるよりは安心だろうとテオドールも判断する。戦闘が厳しくはなるだろうが仕方ない。
婦人が爆破物を起動させた場合脱出させるのに奴隷を運ぶ猶予を考えれば時間はかかっても先に退避させておいたほうが後顧の憂いはなくなる。
●
ライカは中央階段を走る。当然だがすぐに使用人に気づかれ、戦闘員が招集される。
「釣れた」
ライカはそのまま階段にいる使用人をすり抜け二階に走っていく。使用人の叫び声が屋敷内に響く。
二階は大階段から廊下が続き6つの部屋が3つずつ向かい合わせに在る形だ。ライカは一番手前のドアを開くが婦人は居ない。
反対側のドアから二人の蒸気騎士が現れる。
「何者だ!?」
「さあね」
婦人は更に奥の部屋にいるのだろう。蒸気騎士がその先を通すまいと立ちはだかる。ライカは影狼で突破しようとするが、明確に2名の敵が進行上でブロックしている場合には突破することはできない。
「チッ」
ライカは舌打ちすると、大階段に戻り三階に向かう。吹き抜けの階段の下には蒸気騎士たちが集まってきている。
●
「ライカの陽動は?」
ツボミが尋ねれば、ライカとテレパスをつなげていたアデルが答える。
「とりあえず気は引けたようだが……まずいな。階段で囲まれているようだ。今はバレッジファイヤの牽制で耐えているようだが長くはもたないだろう。囲まれてしまったら、いくらライカの回避が高くても多すぎる攻撃の前ではいつまでも避けきれるものではない」
奴隷たちの移動は始まったばかりだ。とはいえライカを放置もできない。
「ねえ。ホムちゃんが爆弾の場所みつけたよ。大階段にあるみたい。まあ屋敷の中心だしそりゃそうか」
クイニィーがけらけら笑いながらそう言う。
「じゃあ、もう、いっそのこと私達も戦いにいきましょう!」
エルシーが拳を手のひらにぶつけ妖艶に微笑む。色々難しいことを考えるよりは荒事のほうが得意だしわかりやすい。
「そうするしかないようだな」
「戦闘場所は中央階段のホールなら退路も確保できると思うよ」
テオドールとマグノリアも意見を述べる。
「はいはい、決定! じゃあ、アダムさっさと出ていって! 厨房の出口にアイアンロックかけちゃうから」
クイニィーが追い払うようにアダムを急かす。ロックの必要はないだろうがもしものときの備えだ。
「じゃあ、いつものお得意でいきましょう!」
エルシーがそう言うと彼らは厨房から飛び出す。
●
「ライカ! 飛び降りろ!! 俺が受け止める」
三階に向かう階段の途中で囲まれたライカは階下からのアデルの声に目を向ける。
マグノリアは足元でタップを踏み、大渦海域のタンゴのリズムでライカの周りの敵を足止めする。数人の蒸気騎士には足止め効果がそもそもにおいて見込まれていないようだが伏兵の存在に蒸気騎士たちが浮足立つことにより隙が生まれる。
その隙にライカは階段からアデルに向かって飛び降りれば、アデルが受け止める。それなり以上の衝撃に腕が少々しびれるが、余計なことはいわない。言うわけにはいかない程度にはアデルとて弁えている。
「全く、世話のやける姉貴分だ」
「……ありがと」
ライカは短く礼をいうと、ツボミの回復に身を委ねる。正直ギリギリだったのは確かだ。
「おちつきなさいませ」
遅れて黒髪を結い上げたドレス姿の美女が現れる。部下を引き連れたザカリテ婦人である。
一番うしろに控えているミズビトのドクターが怯えながら消耗した蒸気騎士たちを回復する。
「賊の侵入程度で狼狽えて、それでも誇り高き蒸気騎士なのかしら?」
その言葉に蒸気騎士たちは改めて身構える。
状況は階下、ホールに飛び込んできた自由騎士たち7人と二階から一階の階段付近に集まる蒸気騎士たち9人が相対する形になる。残る使用人たちは戦闘に参加する意志はないようで退避しているようだ。
とはいえエルシーはイェソドのセフィラを意識し不意打ちには警戒する。
人数の有利はあちら、状況がそうさせたとはいえ上階からの攻撃が仕掛けられるのもあちらである。
「フリーエンジン……ではありませんね。
イ・ラプセルの自由騎士? 死んだはずではなくて? 生き返ったのならもう一度退治すればいいだけ。
――あら、珍しいマザリモノが2つにケモノビト? 美味しそうな食材を配達してくださったの? ありがとう。
あのマザリモノはハクタクかしら? 央華の幻想種。薬になるときいたけれど。ほしいわ。ほしいわ」
言って舌なめずりしながら二階の吹き抜けから覗き込む婦人にツボミは舌を出し、マグノリアは眉を顰め、クイニィーは少々下品なハンドサインを送る。
「煽られるな、アダムたちが戻ってくる前に削るぞ」
未だしびれる腕をふりながらアデルがジョルトランサーを構えた。
蒸気騎士のスキルは未だ未解明だ。どんな攻撃がくるかわからない。飛び込んでくる蒸気騎士たちに向かって自由騎士たちは油断なく構える。
「む……」
テオドールは普段にくらべ、自らが放つケイオスゲイトの手応えが薄いことに気づく。
「ライカ、彼らはなにか特殊なことをしていたかね?」
「わからない。けど鎧の色が少し変わっているかも。あと浮遊もしてるみたい」
「タンゴが効かなかったのはその所為みたいだね」
ライカの答えにマグノリアが合点がいったと呟く。
彼らの作戦では最初にドクターを狙うつもりだった。しかし未知の強化をしている蒸気騎士も放置はできない。
「厄介だな」
「それは織り込み済みだろう、ハビッツ卿」
「そのとおりだ。俺は鎧の色の違うやつの付与を剥がす。狙いは予定通りだ」
「まって……! その前に。
ねえ、君。何故、君はザカリテ婦人に体を与えてまで仕えているの……? 自由にはなりたくないの?」
マグノリアはドクターに声をかける。その言葉に婦人に睨まれたミズビトのドクターはビクリと肩をすくませた。
けれど、けれど。
マグノリアは見た。ドクターの口が『タスケテ』と動いたことに。マグノリアは頷くとツボミにアンチトキシスを付与する。
「長丁場になりそうだから」
「だな、では貴様ら、存分に戦え。なあに多少の怪我は爆発してでもなおしてやる!」
「縁起の悪いこといわないでよう!」
スパルトイで骨騎士を生成しながらクイニィーがツッコミをいれた。
状況は一進一退で進んでいく。まだアダムたちは戻ってこない。
ソレにドクターが助けを求めている以上攻撃はできない。回復行為は止められないが助けを求めているものを無視できるような彼らではない。彼らは狙いをドクターから婦人にシフトする。案の定ガーディアンが防御してくるがそれは織り込み済みだ。
「ザカリテさん、今日は私が貴女を喰い千切っちゃうわよ?」
エルシーの鉄山靠が目の前の蒸気騎士ごと防御するガーディアンに届く。
「アタシにもアンチトキシスを」
魔導力が枯渇しかけのライカがマグノリアに要請すれば、マグノリアは頷く。
ミズビトは防御するガーディアンの回復にかかりっきりになっている。となれば、全体攻撃で削っていく役目を果たすのは自分だ。今婦人に影狼で近接しようとしたところで蒸気騎士に阻まれてしまうだろう。
優雅に笑い守られながらバレッジファイアを連発するザカリテ婦人の余裕の表情が恨めしい。
両者は激しく衝突する。
二階から降りてきたバスターの高火力の攻撃ににアデルは一度膝を突くが欠片を燃やし立ち上がる。
「俺は『ヒトの尊厳』の為に、ただお前を撃ち貫くと決めた」
アデルはザカリテ婦人を睨みつけそう宣言する。
蒸気騎士の巨大なブレードに叩き切られエルシーもまた膝をついて、再度立ち上がる。
「マグノリア! 回復のフォローを」
「わかってる」
戦いの天秤はゆっくりと、だが確実に婦人の側に傾いていく。
「あのこ、ハクタクの子は殺しちゃだめよ。全部大事に食べるんだから」
婦人が余裕の笑みを浮かべる。
「うげ、勘弁してくれ」
ハクタクが薬になるのはまことしやかに囁かれてはいるが自分はマザリモノだ。あの父上ならまだしも自分には薬効などないぞといったところで無駄だろうとツボミはうんざりとする。
「またせたね!」
息を切らせたアダムが腕部蒸気鎧装をガンモードに変形させ戦場に蒸気変形・連射の型を降らせながら飛び込んでくる。その後ろにはアーウィンとムサシマルと、手伝いにきたヨウセイの少女が着いてくる。
「奴隷たちは?」
クイニィーの問いかけにアダムは無言で頷く。
現段階においてこの場に立っているものは満身創痍とはいえ、自由騎士が11人。そのうち4人は無傷だ。対する敵は7人にまで数を減じている。
ならば――。
「ここからは攻勢だ!」
テオドールが叫ぶ。
「了解、それにしても重役出勤ってやつかしら? アダム」
「勘弁してくれエルシーさん、僕だって急いだから婦人に世界に向き合ってもらうために持ってきたあんぱんを落としてきちゃったんだから。奴隷より美味しいものは在るんだって!」
「あんぱん? 世界? まあいいわ。じゃあ、その分働いてもらうわよ!」
「もちろんさ!」
エルシーは傷だらけながら笑顔で友人に軽口を叩いた。アダムはそんな彼女の前に立つ。
形勢逆転の状況。婦人側に傾いていた天秤は今度は自由騎士側に傾いていく。
「面倒だが貴様には捕虜になって貰う。血に飢えた評判ばかりでは協力者が募れんな。安心しろ。女性は丁重に扱わにゃならん」
ツボミが追い詰められて行く婦人に殺すつもりはないと含め宣言する。
生理的な嫌悪感はあるが下手に殺すと寧ろ婦人への支持者が生まれかねない。それは止めておきたいところだ。生かせて彼女の思想そのものを貶める。
「甘いわね。ツボミ。アタシは、ただ相容れないから、赦せないから殺すだけ」
言ってライカは影狼で一気に距離を詰める。今やガーディアンは倒れた。千載一遇の機会を見逃したりはしない。
婦人が殺される理由は簡単。ただ、ザカリテとアタシが相容れず、アタシが貴様を赦せないから。
「おい、まて!」
ツボミの制止も聞かずライカは刃になる。
「捕虜? 捕虜ですって? 誇り高きノウブルのわたくしがマザリモノの下に下れと? ふざけるな!!
ふざけてもらっちゃ困るわ!」
婦人が一歩下がり、かちりと奥歯に仕込んでおいた爆破物のスイッチを押す。
「ライカ! 下がれ!」
「アタシはあいつを殺す!!」
アデルが危険を察し声を上げるがライカは聞かない。アデルは舌打ちをしてライカをタックルで止める。
「離せ!」
本当に世話のかかる姉貴分だ。
刹那――。
爆発音と振動がおこり中央階段が崩れていく。その噴煙の向こうで婦人が笑って、そして消えた。
「アデル離せ、あいつを殺さないと!」
アデルはボカボカと頭をライカに殴られる。彼は最後まで残るつもりだったがライカを退避させなければ崩れ行く屋敷に巻き込まれかねない。奴隷たちは引き渡されているのだから残る必要などない。
「君……!」
呆然とする傷だらけのミズビトのドクターの袖をマグノリアは引張りつれだす。
「安心して! ココを切り抜ければ三食昼寝付きの生活が待ってるわ!」
マグノリアとドクターを守りながらエルシーが笑めばドクターは涙をこぼして頷く。
「残り時間はない! 撤退だ!」
テオドールの指示に、あいさーとすでに逃げ出していたクイニィーが遠くで答えた。
「すごい逃げ足だ」
「ソレに私たちもあやかるとするぞ」
呆然とするアダムにツボミがニヤリと微笑んでアダムの袖を引いて促した。
自由騎士たちが全員屋敷から飛び出した直後に屋敷は崩壊する。
生き残った蒸気騎士たちが逃げれたかどうかは定かではない。
「ああ、聞きそびれちゃったな、色々なこと」
マグノリアが崩落する屋敷を見ながらそう呟いた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
お疲れさまでした。
機転をきかせていたあなたにMVPを。
話をつけていたおかげでスムーズに脱出も叶いました。
少々プレイングにばらつきが見られましたがこのような結果になりました。
奴隷はドクター含め全員デザイアとなりました。
婦人は崩落に巻き込まれて死亡しております。
ご参加誠にありがとうございました!
機転をきかせていたあなたにMVPを。
話をつけていたおかげでスムーズに脱出も叶いました。
少々プレイングにばらつきが見られましたがこのような結果になりました。
奴隷はドクター含め全員デザイアとなりました。
婦人は崩落に巻き込まれて死亡しております。
ご参加誠にありがとうございました!
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