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Charge of blood! 赤鬼青鬼連合現る

●海賊
「おらあああ! 死に晒せぇ!」
船上を暴力が荒れ狂う。オニビトの剛腕により叩きつけられた金棒が人を肉塊に変えていく。
「降伏ぅ? んなもん聞くわけねぇだろうが! テメェの土下座にどれだけの価値があるっていうんだ!」
そこに容赦はない。抗った戦士は既に殺され、戦う術のない商人も同じ道をたどる。違いがあるとすれば、商品価値のある奴隷のみ。それさえも不要とあらば殺される。無慈悲な嵐が収まるころには、船の上には暴力の支配者が立っているだけ。
否、彼らと彼らが鎖でつないでいる奴隷のみだ。
「ああ、あああああ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
鎖でつながれた奴隷の一人は、涙を流し謝罪していた。目の前で死んでいった命に対する謝罪だ。
「何泣いているんだ、お前」
「そりゃ無理もねぇぜ、アニキ。自分のせいで死んでいったんだもんなぁ、この船の奴らは」
「はは。ちがいねぇ。お前が俺達を回復させてくれたおかげで、楽に勝てたんだもんなぁ! そりゃお前のせいだわ!」
「わあああああああああ!」
泣き崩れる奴隷。そんな奴隷の鎖を引っ張り、オニビトは口を開く。
「さて、戦いも終わった事だし『メシ』でも食うか」
「へへ。じゃあ俺達も」
オニビト達は自分達が手にしている鎖を引っ張り、奴隷を手繰り寄せる。そしてその牙を突き立て、血を吸い始めた。彼らの種族特性である『吸血』だ。
「若い女の血は格別だな。この怯える表情が最高だぜ」
「こっちの少年もいいわよ。もう壊れてるけど、それでも思い出したように体が震えるの」
「親子を食うのもいいぜ。騙されてると知らずに互いを庇い合って。騙されたって知ったときのあの顔ときたら!」
その時のことを思い出し、大笑いするオニビト達。
繋がれた奴隷達は、自分達もいずれそうなるのか、と絶望の表情を浮かべる。自分達が生かされているのは、彼らにとって有用だから。治癒術が魔術が射撃術があったから。前で戦う彼らの補助をし、血を吸われるためだけに生かされている。
海を荒らすオニビトの海賊達。彼らの名は――
●自由騎士
「『赤鬼青鬼連合』――それが彼らの名前よ」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。その声には怒りの感情が含まれていた。
「オニビトだけで形成された海賊よ。規模こそスカンディナ海賊団には劣るけど、種族特性を生かした『吸血』用の奴隷を伴って戦うやり方は商人達から恐れられているわ」
話を聞けば聞くほど、残酷な話しか聞こえない。海賊の支援を強いられる奴隷も、彼らのやり方も。
「貴方達には通商連の船の護衛として乗り込んでもらうわ。乗り込んできた奴らを迎撃して頂戴」
彼らの巡回ルートは通商連の情報網と、階差演算装置により分かっている。イ・ラプセルに向かう船に犠牲が出る前に叩き潰すのだ。
「戦いになれば、彼らが連れている奴隷も戦いに加わるわ。恐怖で支配されているので、説得は無理だと思う。アクアディーネ様の権能なら殺すことはないけど……」
言ってミズーリは言葉を止める。『不要』となった者に対し、オニビト達がどのような態度をとるか。それを思い出して身を震わせた。
「戦闘員を倒せば、船にいるのは奴隷だけよ。押さえることは難しくないわ。
危なくなったら撤退することも考えてね」
ミズーリの声に送られて、自由騎士達は船に足を向けた。
「おらあああ! 死に晒せぇ!」
船上を暴力が荒れ狂う。オニビトの剛腕により叩きつけられた金棒が人を肉塊に変えていく。
「降伏ぅ? んなもん聞くわけねぇだろうが! テメェの土下座にどれだけの価値があるっていうんだ!」
そこに容赦はない。抗った戦士は既に殺され、戦う術のない商人も同じ道をたどる。違いがあるとすれば、商品価値のある奴隷のみ。それさえも不要とあらば殺される。無慈悲な嵐が収まるころには、船の上には暴力の支配者が立っているだけ。
否、彼らと彼らが鎖でつないでいる奴隷のみだ。
「ああ、あああああ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
鎖でつながれた奴隷の一人は、涙を流し謝罪していた。目の前で死んでいった命に対する謝罪だ。
「何泣いているんだ、お前」
「そりゃ無理もねぇぜ、アニキ。自分のせいで死んでいったんだもんなぁ、この船の奴らは」
「はは。ちがいねぇ。お前が俺達を回復させてくれたおかげで、楽に勝てたんだもんなぁ! そりゃお前のせいだわ!」
「わあああああああああ!」
泣き崩れる奴隷。そんな奴隷の鎖を引っ張り、オニビトは口を開く。
「さて、戦いも終わった事だし『メシ』でも食うか」
「へへ。じゃあ俺達も」
オニビト達は自分達が手にしている鎖を引っ張り、奴隷を手繰り寄せる。そしてその牙を突き立て、血を吸い始めた。彼らの種族特性である『吸血』だ。
「若い女の血は格別だな。この怯える表情が最高だぜ」
「こっちの少年もいいわよ。もう壊れてるけど、それでも思い出したように体が震えるの」
「親子を食うのもいいぜ。騙されてると知らずに互いを庇い合って。騙されたって知ったときのあの顔ときたら!」
その時のことを思い出し、大笑いするオニビト達。
繋がれた奴隷達は、自分達もいずれそうなるのか、と絶望の表情を浮かべる。自分達が生かされているのは、彼らにとって有用だから。治癒術が魔術が射撃術があったから。前で戦う彼らの補助をし、血を吸われるためだけに生かされている。
海を荒らすオニビトの海賊達。彼らの名は――
●自由騎士
「『赤鬼青鬼連合』――それが彼らの名前よ」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。その声には怒りの感情が含まれていた。
「オニビトだけで形成された海賊よ。規模こそスカンディナ海賊団には劣るけど、種族特性を生かした『吸血』用の奴隷を伴って戦うやり方は商人達から恐れられているわ」
話を聞けば聞くほど、残酷な話しか聞こえない。海賊の支援を強いられる奴隷も、彼らのやり方も。
「貴方達には通商連の船の護衛として乗り込んでもらうわ。乗り込んできた奴らを迎撃して頂戴」
彼らの巡回ルートは通商連の情報網と、階差演算装置により分かっている。イ・ラプセルに向かう船に犠牲が出る前に叩き潰すのだ。
「戦いになれば、彼らが連れている奴隷も戦いに加わるわ。恐怖で支配されているので、説得は無理だと思う。アクアディーネ様の権能なら殺すことはないけど……」
言ってミズーリは言葉を止める。『不要』となった者に対し、オニビト達がどのような態度をとるか。それを思い出して身を震わせた。
「戦闘員を倒せば、船にいるのは奴隷だけよ。押さえることは難しくないわ。
危なくなったら撤退することも考えてね」
ミズーリの声に送られて、自由騎士達は船に足を向けた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.オニビト5名の打破
どくどくです。
そろそろ残虐成分を。
●敵情報
・赤鬼青鬼連合(×10)
オニビトだけで構成された海賊です。彼らは五番隊。五人の戦闘員と、その奴隷。後は船を動かす奴隷で構成されています。実際に戦うのは戦闘員とその奴隷になります。
『鬼○○○』とナンバリングされたキャラクターが奴隷になります。暴力に屈しているため戦闘中の説得は不可能です。連合のオニビトが全滅すれば、奴隷達は降伏します。
・キリシマ
赤い目をしたオニビトです。男性。重戦士。アニキと呼ばれるリーダー格。金棒を持ち、先陣を切って突き進みます。
『吸血』『ライジングスマッシュ Lv3』『バーサーク Lv2』『ウォークライ Lv3』『死肉の盾』『ハップライト』『アイアムロウ! 急』等を活性化しています。
・トミナガ
青い目をしたオニビトです。女性。サブリーダー。投斧をつかうガンナーです。
『吸血』『ウェッジショット Lv3』『バレッジファイヤ Lv2』『サテライトエイム Lv3』『ドラグノフ』『死肉の盾』『腐女子』等を活性化しています。
・手下(×3)
連合の手下です。男性。格闘スタイルです。ブレードナックルを手にしています。
『吸血』『鉄山靠 Lv3』『柳凪 Lv2』『死肉の盾』『ライト 急』等を活性化しています。
スキル説明:死肉の盾
自分が所有している奴隷が戦闘不能になった時に自動で発動します。動かなくなった奴隷を盾にすることで回避力がアップします。
・鬼008
『鬼008』の烙印が押された奴隷です。元は神職者の女性。キリシマの奴隷です。
『サンタフェの奇跡 Lv2』『ハーベストレイン Lv3』『クリアカース Lv2』を活性化しています。
・鬼062
『鬼062』の烙印が押された奴隷です。元は貴族の少年。トミナガの奴隷です。
『ジウスドラの函 Lv3』『マナウェーブ Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』等を活性化しています。
・鬼125~127
それぞれ『鬼125』『鬼126』『鬼127』の烙印が押された奴隷です。三つ子のアウトロー兄妹弟。それぞれの『手下』の奴隷です。銃を持たされています。
『ダブルシェル Lv2』等を活性化しています。
●場所情報
イ・ラプセル北西の海。商戦を装い、連合を待っている形です。数度砲撃した後、白兵戦を仕掛けてくることは解っていますので、そこを迎撃してください。
時刻は夜。明かりなどは船にカンテラが装着しています。足場や広さは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『キリシマ』『手下(×3)』が。敵後衛に『トミナガ』『鬼008』『鬼062』『鬼125』『鬼126』『鬼127』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
そろそろ残虐成分を。
●敵情報
・赤鬼青鬼連合(×10)
オニビトだけで構成された海賊です。彼らは五番隊。五人の戦闘員と、その奴隷。後は船を動かす奴隷で構成されています。実際に戦うのは戦闘員とその奴隷になります。
『鬼○○○』とナンバリングされたキャラクターが奴隷になります。暴力に屈しているため戦闘中の説得は不可能です。連合のオニビトが全滅すれば、奴隷達は降伏します。
・キリシマ
赤い目をしたオニビトです。男性。重戦士。アニキと呼ばれるリーダー格。金棒を持ち、先陣を切って突き進みます。
『吸血』『ライジングスマッシュ Lv3』『バーサーク Lv2』『ウォークライ Lv3』『死肉の盾』『ハップライト』『アイアムロウ! 急』等を活性化しています。
・トミナガ
青い目をしたオニビトです。女性。サブリーダー。投斧をつかうガンナーです。
『吸血』『ウェッジショット Lv3』『バレッジファイヤ Lv2』『サテライトエイム Lv3』『ドラグノフ』『死肉の盾』『腐女子』等を活性化しています。
・手下(×3)
連合の手下です。男性。格闘スタイルです。ブレードナックルを手にしています。
『吸血』『鉄山靠 Lv3』『柳凪 Lv2』『死肉の盾』『ライト 急』等を活性化しています。
スキル説明:死肉の盾
自分が所有している奴隷が戦闘不能になった時に自動で発動します。動かなくなった奴隷を盾にすることで回避力がアップします。
・鬼008
『鬼008』の烙印が押された奴隷です。元は神職者の女性。キリシマの奴隷です。
『サンタフェの奇跡 Lv2』『ハーベストレイン Lv3』『クリアカース Lv2』を活性化しています。
・鬼062
『鬼062』の烙印が押された奴隷です。元は貴族の少年。トミナガの奴隷です。
『ジウスドラの函 Lv3』『マナウェーブ Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』等を活性化しています。
・鬼125~127
それぞれ『鬼125』『鬼126』『鬼127』の烙印が押された奴隷です。三つ子のアウトロー兄妹弟。それぞれの『手下』の奴隷です。銃を持たされています。
『ダブルシェル Lv2』等を活性化しています。
●場所情報
イ・ラプセル北西の海。商戦を装い、連合を待っている形です。数度砲撃した後、白兵戦を仕掛けてくることは解っていますので、そこを迎撃してください。
時刻は夜。明かりなどは船にカンテラが装着しています。足場や広さは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『キリシマ』『手下(×3)』が。敵後衛に『トミナガ』『鬼008』『鬼062』『鬼125』『鬼126』『鬼127』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
3個
7個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年12月15日
2018年12月15日
†メイン参加者 8人†
●
「……わたくし、奴隷の方達には一切攻撃しないことを宣言しますわ」
戦い前、『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は苦難の末に皆に宣言する。自分の中にある何かが、奴隷への攻撃を許さないのだ。
この宣言が、勝敗を分ける決定打となる――
●
「Ooooooggreeeee!」
黒い鎧兜を纏い、奇声を上げる『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。そこに理性は見られず、瞳こそ見えないが、鋭い殺気をオニビト達に飛ばしていることはわかる。その意思を理解できるものは、ここにはいない。
「人の尊厳を踏みにじるのは、神だろうと鬼だろうと赦さない」
赤銅色と青銅色の籠手を装着して、『水の国の騎士』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はオニビト達を睨む。奴隷を連れ、その肉体と精神をいたぶることを楽しみとする海賊達。そのような奴らが息をしているだけでも怒りがこみあげてくる。
「容赦なくこてんぱんにしてやるよ!」
元気よく拳を振り上げる『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。無法者にも色々いるのは知っている。中には気の合う人もいるのだが、この手合いは仲良くできそうにない。拳を握り、構えを取った。
「このようなことが……」
胸中に去来する何かを堪えるようにジュリエットは胸に手を当てる。この痛みの正体は解らない。正義かもしれない。偽善かもしれない。ただの怒りなのかもしれない。だけどそれは確かにあった。
「これが、こんなものが今ある世界の形なのか!?」
激昂する『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)。奴隷達の表情に生気はない。ただ自分の鎖を持つオニビトだけを見ていた。彼らにとってそこだけが世界。それ以外の事を考える思考さえ暴力で奪われているのだ。
「さて、街のお巡りさんから前線豚に戻る時間ですかね」
太刀を握り『異邦のサムライ』サブロウ・カイトー(CL3000363)は唇を湿らせる。かつてアマノホカリで勢力争いをしていた頃の自分を思い出す。戦いにこそ負けたが、あの頃の牙が削がれたわけではない。外道に生きる道無しと瞳を向ける。
「あの世でいままで殺した人達に詫びなさい」
言って構えを取る『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。己の快楽で人を殺す海賊。そして捕らえた者の尊厳を奪い、弄るように楽しむオニビト達。彼らに慈悲など与えない。力の限りぶっ飛ばす。
「やる気満々に殺意剥き出しなようで何より……まあ、私から言うことは特に何もないです」
そういう手合いは履いて捨てるほど見てきましたので、とばかりに手を振る『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。悪路のままに進む輩はたくさんいる。今更彼らに言うべきことなど何もない。邪魔だから倒す。ただそれだけだ。
「はっはっは! 威勢がいいなぁ。俺達を倒すってか」
「そういう奴らがどうなったか、教えてやれよ。なあ?」
「……っ!? こ、こうして……皆さんの奴隷に、なって……ます……」
鎖を引き、奴隷達に問いかけるオニビト達。オニビトの暴力から逃れたいが一心で、思い出したくない自らの顛末を口にする奴隷。その表情を見て、オニビト達は更に大笑いした。
「そういうこった。使えるようなら奴隷にしてやるよ」
「アタシは可愛い坊やがいれば可愛がってあげるんだけどね、残念」
言いながら、オニビト達もそれぞれの武器を構える。奴隷ものろのろと戦いの準備を始めた。
南部海域を荒らす海賊、赤鬼青鬼連合五番隊。それを討伐すべく、自由騎士達は戦いに挑む。
●
「海賊は死んでも構わないわよね……」
言いながらライカは体内のリミッターを外していく。神経に魔力の道を通し、筋肉に力を注ぎ込んでいく。動くと思ったときにはすでに動作は終わっている。思考すら追いつけない速度の領域。激しい怒りが最速への道を生み出していく。
倒れるように走り、キリシマに向かう。生じた速度を拳に乗せて、真っ直ぐに叩きつける。当たったことを体が確認するよりも先に、もう片方の腕を振りかぶり、さらにもう一撃。不殺の権能を外した殺意のこもった連撃が繰り出される。
「キリシマ、貴様は絶対に赦さない」
「機械腕風情が粋がるなよ。もう片方の手も捥いで機械にしてやろうか?」
「いいですね。貴方の腕も切り裂いてあげましょう」
言いながらカスカが刃を振るう。その一閃は風の如く。カスカにとって目の前の敵は斬るべき相手以上の感情を持ちえない。剣に生き、剣に死ぬ。世の倫理よりも、己の道のままに進む。ただそれだけだ。
船の甲板に両足をつけ、つま先を八の字に開く。大事なのは力の流れ。敵に向けたつま先の方に重心を傾け、すり足で半歩踏み込むと同時に『妖刀・逢瀬切乱丸 序』を振るう。横薙ぎ、逆袈裟、唐竹。三筋の剣線が同時に走り、キリシマを傷つける。
「早い早い。悪くねぇなあ。同じオニビトのよしみだ。俺達の元に来ないか?」
「遅い遅い。悪いですが、ナンパはお断りです。一昨日来てください」
「ええ、お帰り願いましょう。この世からね」
太刀を手にしてサブロウが吼える。そこにあるのは街中を警邏するお巡りさんではなく、血の滾った狂犬の如きサムライ。サメのように笑い、トラのように俊敏に獲物を狩る肉食獣。その太刀が振るわれるたびに、血飛沫が舞う。
連合の一人に目を向け、一気に距離を詰める。ブレードナックルが振るわれるのを目にしながら、僅かに身をかがめた。武器で受けるような愚は犯さない。そんな時間すら惜しいとばかりに動き、通り抜け様に太刀を振るう。
「あくまで捕縛を目指したいですが、その過程で力加減を誤っても致し方ありませんよね」
「あっはっは。ますます気に入った! そっちこそ死ぬなよ! いい兄弟酒が飲めそうだからなぁ!」
「成程ね。オニビト同士は優遇するんだ」
キリシマの言葉を聞きながらエルシーは納得したように頷く。名前からして同族意識が強い海賊なのだろうとは思っていたが、まさか敵を勧誘しようとは。とはいえ敵対するなら容赦しないのは同じのようだ。
とある遺跡から発掘した籠手。紅龍の名を冠する武具を手にエルシーがキリシマに向かう。キリシマの金棒の動きを意識して、その死角に回ろうと足を運ぶ。生まれた隙を逃すことなく踏み込んで、紅蓮の一撃を叩き込む。
「ああ、そうさ。お前らノウブルは殺すか食うかだ。悦ばせてくれるなら生かしてやってもいいぜ」
「ゲスだね。そう言ってられるのも今のうちよ」
「全力でぶっ叩く!」
拳を突き出し、カーミラが叫ぶ。銀色のポニーテールが、体の動きに合わせて軽く揺れた。眼前のオニビトを見やり、呼吸を整える。強く拳を握って、甲板をしっかり踏みしめる。繰り返してきた拳法の基礎が、心を落ち着かせていく。
深く踏み込み、強く打つ。単純にして拳の極。それを意識しているのか、カーミラの動きは直線的だ。全身の筋肉を使い、常に全力で真っ直ぐ突き進む。最短距離を全力で。突き出された拳はオニビトの腹を穿つ。
「海賊を先に倒しちゃえば奴隷も利用されないよね?」
「倒せればなぁ。だがンなことは無理なんだよ!」
「Slaaaaaaaasssssshhhhhhhhhhhh!」
金切り音に近い叫び声をあげるナイトオウル。『偽聖剣「アスカロン」』を肩に担ぐように構え、ゆったりとオニビトに迫る。狂気に満ちた叫び声と動きは見る者を畏怖さえ、その狂気に引きずり込まれていく。
奇声を上げ、武器を振り回すナイトオウル。ヘルムに隠された顔が如何なる表情を浮かべているかはわからない。怒っているのか、泣いているのか、それとも笑っているのか。狂おしいほどの激情をぶつけるように、ナイトオウルは周囲のオニビトを切り刻んでいく。
「Kiiillllll! Yoooooooooooooooooou!」
「何あいつ、狂ってるの? 鎖つけた方がいいんじゃない?」
「僕らの仲間を侮蔑しないでもらおうか」
女のオニビトの罵詈を制するアダム。今のナイトオウルと言葉を交わすことは難しいが、それでも自由騎士の仲間として尊敬している。全てを知らずに悪態をつかれるのは、腹に据えかねるものがあった。……まあ、平時の彼がどうかと言う意見はさておき。
背筋をまっすぐに伸ばし、腕を広げてマントを翻す。その背後にジュリエットを隠し、敵を睨む。武器の射線と視界、武器の間合と移動距離。これらすべてを垣根とする防御の構え。盾の吸血鬼から教えてもらった人を守る術。
「僕は自由騎士アダム・クランプトン。奴隷を解放し投降してくれないか。今ならばまだ誰も傷付かずに済む」
「はっ! ただで奴隷を解放しろとかお前ら強盗か!? 大体、投降すれば俺達は縛り首だ。当然こいつらもな」
「……っ!」
奴隷を引っ張るオニビトを見て、ジュリエットは言葉を詰まらせる。経緯はどうあれ、奴隷達は海賊行為に加担している。このまま海賊を倒しても、彼らもまた法の下に断罪されるだろう。
「貴方達、わたくしの声を聞いてください!
貴方方は恐怖という枷を嵌められた被害者。そんな貴方達と戦うことを、わたくしは望みません。わたくしは、貴方達を救いたいのです。身も、心も!」
ジュリエットは魔力を練り上げる事を止め、オニビトの奴隷達に声をかけていた。
「わたくしは、皆さんの人としての尊厳を守るためにここに来たのです。皆さんの心と身体を縛り付ける海賊達は、わたくし達が必ず打ち倒します
救いを求めるのであれば、どうか、その願いをわたくし達に託してください!」
凛としたジュリエットの声が戦場の動きを止める。だが――
返答とばかりに放たれた奴隷からの銃弾。乾いた拒絶の音が、ジュリエットの胸を揺さぶった。
「そういうこった、優しい騎士様! 救いなんざねぇんだよ!」
キリシマの突撃が自由騎士を穿ち、トミナガの斧が降り注ぐ。
「Aaagggg……!」
「まだ負けてられないよ……!」
「絶対に赦さない……!」
赤鬼青鬼連合の攻撃を受け、ナイトオウルとエルシーとライカがフラグメンツを削られる。
「流石手練れだね……!」
トミナガの手斧と奴隷の魔力を受けて、アダムが膝をつく。フラグメンツを燃やして何とか耐え、防御の構えを取り直す。
自由騎士も赤鬼青鬼連合も、双方傷は軽くない。そしてその決着がつくのは、僅かな差によるものとなるだろう。
戦いの天秤は、いまだ大きく揺れていた。
●
自由騎士達はオニビト達のリーダーであるキリシマを中心的に狙っていた。前衛に立つ重戦士で攻撃の要であることもあるが、何よりもその在り方が自由騎士達の怒りを買っていた。
だからこそ――
「おい、庇え」
キリシマは自由騎士達の行動に柔軟に対応できた。手下たちの奴隷に交代で庇うように指示したのだ。自分が狙われることなど承知の上。そう攻められたらこう攻める。その組み立てができていた。
当然自由騎士も柔軟に対応する。キリシマへの攻撃が有効ではないのなら、攻撃優先順位に従い、ターゲットを変更する。
「仕方ありません。008を倒して回復を止めましょう」
「手下の数を減らして火力を下げる」
「ブロックを突破してトミナガを攻める!」
だが、それがバラバラであった。そうなれば火力も分散し、戦闘が長引いてしまう。意見を統一する時間もなく、自由騎士達はそのまま赤鬼青鬼連合を攻め立てていた。
「我が刃で斬って捨てて護る。 奴隷を傷付けるのが嫌だというお人好しの為に、代わりに私が刃となりましょう」
カスカはオニビト達の回復の要である『鬼008』を狙う。オニビト達は奴隷を庇うという精神はないらしく、カスカの刃はか細い奴隷の腕と肩を薙ぐ。カスカの動きに躊躇はない。ここで倒すことが守る事でもあると言わんがばかりに。
「ちょっと痛いけどごめんね!」
カーミラも『鬼008』に拳を向けていた。一気に駆けて相手に迫り、踏み込むと同時に拳を突き出し打撃を加える。奴隷が嫌々戦わされていることは知っているが、戦場に立つ以上は加減はしない。覚悟が乗った拳を受け、奴隷の身体は崩れ落ちた。
「何故他者を虐げる。そこにどんな意味がある!?」
「意味なんざねぇよ。やりたいようにやってるだけだ」
アダムの問いに、キリシマは鼻で笑うように答える、価値観の違いだ。平和を是とするものと、弱肉強食に生きる者の違い。世界はこうも残酷なのか。
「RuuLoaaaaaaaaaa!」
ナイトオウルの剣がオニビトの喉をつく。そのまま力を込めて柄を動かし、手下の一人の動きを止めた。アクアディーネの権能があるが故に死にはしないだろうと踵を返し、次の敵の元に向かう。奴隷を扱う神の敵を討たんがために。
「人としての尊厳を踏みにじるやつは、アタシが虚無の海に叩き込んであげる」
ライカはキリシマの前に立ち、拳を振るっていた。鎖を破壊できればいいのだが、今のライカの武器では鎖を斬るには不十分だ。やむなくキリシマ本人を攻め立てる。この海賊だけは絶対に赦しておけない。その気迫が彼女を奮い立たせる。
「そんな動きじゃ、私をとらえきれないわよ!」
言って手下のオニビトに拳を叩き込むエルシー。相手のブレードナックルを手甲で受け流して懐に入り、反対側の拳をオニビトの胸に当てる。その距離僅か一インチ。振れると同時に衝撃を加える寸勁と言う技術。重い一打がオニビトを吹き飛ばし、動けなくする。
「ええ、では最後の一匹いただきましょうか」
サブロウは太刀を下し、静かに歩く。まるで住み慣れた家の廊下を歩くような気軽な足取り。その動きに虚を突かれたオニビトはサブロウが通り過ぎるのを許してしまう。血を払うようにサブロウが刀を振ると同時、オニビトが意識を失い崩れ落ちる。
「押されてますわ……! 魔術師の方が厄介ですわね」
回復を行使しながらジュリエットが『鬼062』を見る。時間こそかかるが自由騎士の幸運を奪い去る魔術。この解除に手間を取られ、ジュリエットの回復は滞っていた。魔力の矢を放ち、黙らせればいいのだが――
(それはできません。わたくしの中の何かが、それを許しません)
あくまで信念を曲げないジュリエット。
三人の手下を倒した自由騎士だが、決して無傷でもない。
「力だけはあるようですね……!」
「いやはや、負け戦にするつもりはありませんよ……!」
「最後まで戦うからね!」
カスカ、サブロウ、カーミラの三人が英雄の欠片を失う程の傷を受けていた。そして、
「Guuuuu……Orgeeeee……」
「まず……っ、これ、は……ぁ」
「赦さ、ない……っ!」
既にフラグメンツを削られていたナイトオウルとエルシーとライカが猛攻に耐えきれず倒れ伏す。各個撃破を目指したオニビトと、ターゲットが分散した自由騎士。その差が現れ始めていた。
「これは、拙いか……?」
ジュリエットを守りながら拳を振るうアダムは、倒れていく仲間を前に冷静に戦況を分析していた。仲間を守るため、撤退も視野に入れなければならない。
その分析は正しい。赤鬼青鬼連合も疲弊している。立っているのはキリシマとトミナガ、そしてトミナガの奴隷。オニビトの二人は傷を負っているが、今の自由騎士の戦力では倒すには一手足りない。じりじりと削られていくだけだ。
『鬼062』に魔力が集まる。詠唱を終えた魔術が、解き放たれようとしていた。
『……わたくし、奴隷の方達には一切攻撃しないことを宣言しますわ』
ジュリエットが信念を曲げて奴隷を攻撃していれば、この結果はなかっただろう。
「Ziusu-dra!」
奴隷が生む魔力の洪水が敵を飲み込む――
「アンタ、何を……!?」
キリシマとトミナガ――オニビト達を。
「……え?」
自由騎士達も驚きの声をあげていた。
『鬼062』の震える唇が、かすかに動いて声を紡ぎ出す。
「ぼ……僕達を……助けて、くれますか……?」
奴隷の目は、怯えるように震えながらジュリエットを見ていた。殺されても仕方のない状況の中、奴隷を助けようと声をかけて手を出さなかった騎士に向けて。声だけではなく行動でこちらを救おうとしたその行動に。絶望の中、優しく背中を押してくれたその魂に。
それは奇跡ではない。ジュリエットの信念が生み出した行動の帰結。
ならばその名は『思いの先に』――暗き絶望に光りを灯し、愛しき救いを与える手。
「当然ですわ! わたくし達はその為にここにいるのです! おーっほほほほ!」
胸を張り笑うジュリエット。自信に満ちた笑いが、空気を一掃する。
「くそ、こうなったらこいつも――」
「残念ですね。こちらに背を向けたのが運の尽きです」
「これが最後の一撃だぁ!」
反抗する奴隷を押さえようとするオニビト達に、カスカとカーミラがそれぞれの武器を向ける。
「……くそ、がぁ……!」
死力を尽くした一撃が、オニビト達の最後の体力を削り切った。
●
オニビトが倒れた事でその奴隷達が解放される。海賊船に乗っていた奴隷も同様に。
戦い疲れた自由騎士達はその場に倒れこんだ。赤目のミズビト錬金術師が傷を癒しにやってくる。
「優しい……世界」
気を失う間際、ジュリエットはそう呟く。平等に幸せを享受できる世界。
そんな世界が来るかはわからない。そんな世界は無いのかもしれない。
だがその想いが今日、絶望に苦しむ奴隷を解放したのだ――
「……わたくし、奴隷の方達には一切攻撃しないことを宣言しますわ」
戦い前、『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は苦難の末に皆に宣言する。自分の中にある何かが、奴隷への攻撃を許さないのだ。
この宣言が、勝敗を分ける決定打となる――
●
「Ooooooggreeeee!」
黒い鎧兜を纏い、奇声を上げる『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。そこに理性は見られず、瞳こそ見えないが、鋭い殺気をオニビト達に飛ばしていることはわかる。その意思を理解できるものは、ここにはいない。
「人の尊厳を踏みにじるのは、神だろうと鬼だろうと赦さない」
赤銅色と青銅色の籠手を装着して、『水の国の騎士』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はオニビト達を睨む。奴隷を連れ、その肉体と精神をいたぶることを楽しみとする海賊達。そのような奴らが息をしているだけでも怒りがこみあげてくる。
「容赦なくこてんぱんにしてやるよ!」
元気よく拳を振り上げる『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。無法者にも色々いるのは知っている。中には気の合う人もいるのだが、この手合いは仲良くできそうにない。拳を握り、構えを取った。
「このようなことが……」
胸中に去来する何かを堪えるようにジュリエットは胸に手を当てる。この痛みの正体は解らない。正義かもしれない。偽善かもしれない。ただの怒りなのかもしれない。だけどそれは確かにあった。
「これが、こんなものが今ある世界の形なのか!?」
激昂する『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)。奴隷達の表情に生気はない。ただ自分の鎖を持つオニビトだけを見ていた。彼らにとってそこだけが世界。それ以外の事を考える思考さえ暴力で奪われているのだ。
「さて、街のお巡りさんから前線豚に戻る時間ですかね」
太刀を握り『異邦のサムライ』サブロウ・カイトー(CL3000363)は唇を湿らせる。かつてアマノホカリで勢力争いをしていた頃の自分を思い出す。戦いにこそ負けたが、あの頃の牙が削がれたわけではない。外道に生きる道無しと瞳を向ける。
「あの世でいままで殺した人達に詫びなさい」
言って構えを取る『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。己の快楽で人を殺す海賊。そして捕らえた者の尊厳を奪い、弄るように楽しむオニビト達。彼らに慈悲など与えない。力の限りぶっ飛ばす。
「やる気満々に殺意剥き出しなようで何より……まあ、私から言うことは特に何もないです」
そういう手合いは履いて捨てるほど見てきましたので、とばかりに手を振る『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。悪路のままに進む輩はたくさんいる。今更彼らに言うべきことなど何もない。邪魔だから倒す。ただそれだけだ。
「はっはっは! 威勢がいいなぁ。俺達を倒すってか」
「そういう奴らがどうなったか、教えてやれよ。なあ?」
「……っ!? こ、こうして……皆さんの奴隷に、なって……ます……」
鎖を引き、奴隷達に問いかけるオニビト達。オニビトの暴力から逃れたいが一心で、思い出したくない自らの顛末を口にする奴隷。その表情を見て、オニビト達は更に大笑いした。
「そういうこった。使えるようなら奴隷にしてやるよ」
「アタシは可愛い坊やがいれば可愛がってあげるんだけどね、残念」
言いながら、オニビト達もそれぞれの武器を構える。奴隷ものろのろと戦いの準備を始めた。
南部海域を荒らす海賊、赤鬼青鬼連合五番隊。それを討伐すべく、自由騎士達は戦いに挑む。
●
「海賊は死んでも構わないわよね……」
言いながらライカは体内のリミッターを外していく。神経に魔力の道を通し、筋肉に力を注ぎ込んでいく。動くと思ったときにはすでに動作は終わっている。思考すら追いつけない速度の領域。激しい怒りが最速への道を生み出していく。
倒れるように走り、キリシマに向かう。生じた速度を拳に乗せて、真っ直ぐに叩きつける。当たったことを体が確認するよりも先に、もう片方の腕を振りかぶり、さらにもう一撃。不殺の権能を外した殺意のこもった連撃が繰り出される。
「キリシマ、貴様は絶対に赦さない」
「機械腕風情が粋がるなよ。もう片方の手も捥いで機械にしてやろうか?」
「いいですね。貴方の腕も切り裂いてあげましょう」
言いながらカスカが刃を振るう。その一閃は風の如く。カスカにとって目の前の敵は斬るべき相手以上の感情を持ちえない。剣に生き、剣に死ぬ。世の倫理よりも、己の道のままに進む。ただそれだけだ。
船の甲板に両足をつけ、つま先を八の字に開く。大事なのは力の流れ。敵に向けたつま先の方に重心を傾け、すり足で半歩踏み込むと同時に『妖刀・逢瀬切乱丸 序』を振るう。横薙ぎ、逆袈裟、唐竹。三筋の剣線が同時に走り、キリシマを傷つける。
「早い早い。悪くねぇなあ。同じオニビトのよしみだ。俺達の元に来ないか?」
「遅い遅い。悪いですが、ナンパはお断りです。一昨日来てください」
「ええ、お帰り願いましょう。この世からね」
太刀を手にしてサブロウが吼える。そこにあるのは街中を警邏するお巡りさんではなく、血の滾った狂犬の如きサムライ。サメのように笑い、トラのように俊敏に獲物を狩る肉食獣。その太刀が振るわれるたびに、血飛沫が舞う。
連合の一人に目を向け、一気に距離を詰める。ブレードナックルが振るわれるのを目にしながら、僅かに身をかがめた。武器で受けるような愚は犯さない。そんな時間すら惜しいとばかりに動き、通り抜け様に太刀を振るう。
「あくまで捕縛を目指したいですが、その過程で力加減を誤っても致し方ありませんよね」
「あっはっは。ますます気に入った! そっちこそ死ぬなよ! いい兄弟酒が飲めそうだからなぁ!」
「成程ね。オニビト同士は優遇するんだ」
キリシマの言葉を聞きながらエルシーは納得したように頷く。名前からして同族意識が強い海賊なのだろうとは思っていたが、まさか敵を勧誘しようとは。とはいえ敵対するなら容赦しないのは同じのようだ。
とある遺跡から発掘した籠手。紅龍の名を冠する武具を手にエルシーがキリシマに向かう。キリシマの金棒の動きを意識して、その死角に回ろうと足を運ぶ。生まれた隙を逃すことなく踏み込んで、紅蓮の一撃を叩き込む。
「ああ、そうさ。お前らノウブルは殺すか食うかだ。悦ばせてくれるなら生かしてやってもいいぜ」
「ゲスだね。そう言ってられるのも今のうちよ」
「全力でぶっ叩く!」
拳を突き出し、カーミラが叫ぶ。銀色のポニーテールが、体の動きに合わせて軽く揺れた。眼前のオニビトを見やり、呼吸を整える。強く拳を握って、甲板をしっかり踏みしめる。繰り返してきた拳法の基礎が、心を落ち着かせていく。
深く踏み込み、強く打つ。単純にして拳の極。それを意識しているのか、カーミラの動きは直線的だ。全身の筋肉を使い、常に全力で真っ直ぐ突き進む。最短距離を全力で。突き出された拳はオニビトの腹を穿つ。
「海賊を先に倒しちゃえば奴隷も利用されないよね?」
「倒せればなぁ。だがンなことは無理なんだよ!」
「Slaaaaaaaasssssshhhhhhhhhhhh!」
金切り音に近い叫び声をあげるナイトオウル。『偽聖剣「アスカロン」』を肩に担ぐように構え、ゆったりとオニビトに迫る。狂気に満ちた叫び声と動きは見る者を畏怖さえ、その狂気に引きずり込まれていく。
奇声を上げ、武器を振り回すナイトオウル。ヘルムに隠された顔が如何なる表情を浮かべているかはわからない。怒っているのか、泣いているのか、それとも笑っているのか。狂おしいほどの激情をぶつけるように、ナイトオウルは周囲のオニビトを切り刻んでいく。
「Kiiillllll! Yoooooooooooooooooou!」
「何あいつ、狂ってるの? 鎖つけた方がいいんじゃない?」
「僕らの仲間を侮蔑しないでもらおうか」
女のオニビトの罵詈を制するアダム。今のナイトオウルと言葉を交わすことは難しいが、それでも自由騎士の仲間として尊敬している。全てを知らずに悪態をつかれるのは、腹に据えかねるものがあった。……まあ、平時の彼がどうかと言う意見はさておき。
背筋をまっすぐに伸ばし、腕を広げてマントを翻す。その背後にジュリエットを隠し、敵を睨む。武器の射線と視界、武器の間合と移動距離。これらすべてを垣根とする防御の構え。盾の吸血鬼から教えてもらった人を守る術。
「僕は自由騎士アダム・クランプトン。奴隷を解放し投降してくれないか。今ならばまだ誰も傷付かずに済む」
「はっ! ただで奴隷を解放しろとかお前ら強盗か!? 大体、投降すれば俺達は縛り首だ。当然こいつらもな」
「……っ!」
奴隷を引っ張るオニビトを見て、ジュリエットは言葉を詰まらせる。経緯はどうあれ、奴隷達は海賊行為に加担している。このまま海賊を倒しても、彼らもまた法の下に断罪されるだろう。
「貴方達、わたくしの声を聞いてください!
貴方方は恐怖という枷を嵌められた被害者。そんな貴方達と戦うことを、わたくしは望みません。わたくしは、貴方達を救いたいのです。身も、心も!」
ジュリエットは魔力を練り上げる事を止め、オニビトの奴隷達に声をかけていた。
「わたくしは、皆さんの人としての尊厳を守るためにここに来たのです。皆さんの心と身体を縛り付ける海賊達は、わたくし達が必ず打ち倒します
救いを求めるのであれば、どうか、その願いをわたくし達に託してください!」
凛としたジュリエットの声が戦場の動きを止める。だが――
返答とばかりに放たれた奴隷からの銃弾。乾いた拒絶の音が、ジュリエットの胸を揺さぶった。
「そういうこった、優しい騎士様! 救いなんざねぇんだよ!」
キリシマの突撃が自由騎士を穿ち、トミナガの斧が降り注ぐ。
「Aaagggg……!」
「まだ負けてられないよ……!」
「絶対に赦さない……!」
赤鬼青鬼連合の攻撃を受け、ナイトオウルとエルシーとライカがフラグメンツを削られる。
「流石手練れだね……!」
トミナガの手斧と奴隷の魔力を受けて、アダムが膝をつく。フラグメンツを燃やして何とか耐え、防御の構えを取り直す。
自由騎士も赤鬼青鬼連合も、双方傷は軽くない。そしてその決着がつくのは、僅かな差によるものとなるだろう。
戦いの天秤は、いまだ大きく揺れていた。
●
自由騎士達はオニビト達のリーダーであるキリシマを中心的に狙っていた。前衛に立つ重戦士で攻撃の要であることもあるが、何よりもその在り方が自由騎士達の怒りを買っていた。
だからこそ――
「おい、庇え」
キリシマは自由騎士達の行動に柔軟に対応できた。手下たちの奴隷に交代で庇うように指示したのだ。自分が狙われることなど承知の上。そう攻められたらこう攻める。その組み立てができていた。
当然自由騎士も柔軟に対応する。キリシマへの攻撃が有効ではないのなら、攻撃優先順位に従い、ターゲットを変更する。
「仕方ありません。008を倒して回復を止めましょう」
「手下の数を減らして火力を下げる」
「ブロックを突破してトミナガを攻める!」
だが、それがバラバラであった。そうなれば火力も分散し、戦闘が長引いてしまう。意見を統一する時間もなく、自由騎士達はそのまま赤鬼青鬼連合を攻め立てていた。
「我が刃で斬って捨てて護る。 奴隷を傷付けるのが嫌だというお人好しの為に、代わりに私が刃となりましょう」
カスカはオニビト達の回復の要である『鬼008』を狙う。オニビト達は奴隷を庇うという精神はないらしく、カスカの刃はか細い奴隷の腕と肩を薙ぐ。カスカの動きに躊躇はない。ここで倒すことが守る事でもあると言わんがばかりに。
「ちょっと痛いけどごめんね!」
カーミラも『鬼008』に拳を向けていた。一気に駆けて相手に迫り、踏み込むと同時に拳を突き出し打撃を加える。奴隷が嫌々戦わされていることは知っているが、戦場に立つ以上は加減はしない。覚悟が乗った拳を受け、奴隷の身体は崩れ落ちた。
「何故他者を虐げる。そこにどんな意味がある!?」
「意味なんざねぇよ。やりたいようにやってるだけだ」
アダムの問いに、キリシマは鼻で笑うように答える、価値観の違いだ。平和を是とするものと、弱肉強食に生きる者の違い。世界はこうも残酷なのか。
「RuuLoaaaaaaaaaa!」
ナイトオウルの剣がオニビトの喉をつく。そのまま力を込めて柄を動かし、手下の一人の動きを止めた。アクアディーネの権能があるが故に死にはしないだろうと踵を返し、次の敵の元に向かう。奴隷を扱う神の敵を討たんがために。
「人としての尊厳を踏みにじるやつは、アタシが虚無の海に叩き込んであげる」
ライカはキリシマの前に立ち、拳を振るっていた。鎖を破壊できればいいのだが、今のライカの武器では鎖を斬るには不十分だ。やむなくキリシマ本人を攻め立てる。この海賊だけは絶対に赦しておけない。その気迫が彼女を奮い立たせる。
「そんな動きじゃ、私をとらえきれないわよ!」
言って手下のオニビトに拳を叩き込むエルシー。相手のブレードナックルを手甲で受け流して懐に入り、反対側の拳をオニビトの胸に当てる。その距離僅か一インチ。振れると同時に衝撃を加える寸勁と言う技術。重い一打がオニビトを吹き飛ばし、動けなくする。
「ええ、では最後の一匹いただきましょうか」
サブロウは太刀を下し、静かに歩く。まるで住み慣れた家の廊下を歩くような気軽な足取り。その動きに虚を突かれたオニビトはサブロウが通り過ぎるのを許してしまう。血を払うようにサブロウが刀を振ると同時、オニビトが意識を失い崩れ落ちる。
「押されてますわ……! 魔術師の方が厄介ですわね」
回復を行使しながらジュリエットが『鬼062』を見る。時間こそかかるが自由騎士の幸運を奪い去る魔術。この解除に手間を取られ、ジュリエットの回復は滞っていた。魔力の矢を放ち、黙らせればいいのだが――
(それはできません。わたくしの中の何かが、それを許しません)
あくまで信念を曲げないジュリエット。
三人の手下を倒した自由騎士だが、決して無傷でもない。
「力だけはあるようですね……!」
「いやはや、負け戦にするつもりはありませんよ……!」
「最後まで戦うからね!」
カスカ、サブロウ、カーミラの三人が英雄の欠片を失う程の傷を受けていた。そして、
「Guuuuu……Orgeeeee……」
「まず……っ、これ、は……ぁ」
「赦さ、ない……っ!」
既にフラグメンツを削られていたナイトオウルとエルシーとライカが猛攻に耐えきれず倒れ伏す。各個撃破を目指したオニビトと、ターゲットが分散した自由騎士。その差が現れ始めていた。
「これは、拙いか……?」
ジュリエットを守りながら拳を振るうアダムは、倒れていく仲間を前に冷静に戦況を分析していた。仲間を守るため、撤退も視野に入れなければならない。
その分析は正しい。赤鬼青鬼連合も疲弊している。立っているのはキリシマとトミナガ、そしてトミナガの奴隷。オニビトの二人は傷を負っているが、今の自由騎士の戦力では倒すには一手足りない。じりじりと削られていくだけだ。
『鬼062』に魔力が集まる。詠唱を終えた魔術が、解き放たれようとしていた。
『……わたくし、奴隷の方達には一切攻撃しないことを宣言しますわ』
ジュリエットが信念を曲げて奴隷を攻撃していれば、この結果はなかっただろう。
「Ziusu-dra!」
奴隷が生む魔力の洪水が敵を飲み込む――
「アンタ、何を……!?」
キリシマとトミナガ――オニビト達を。
「……え?」
自由騎士達も驚きの声をあげていた。
『鬼062』の震える唇が、かすかに動いて声を紡ぎ出す。
「ぼ……僕達を……助けて、くれますか……?」
奴隷の目は、怯えるように震えながらジュリエットを見ていた。殺されても仕方のない状況の中、奴隷を助けようと声をかけて手を出さなかった騎士に向けて。声だけではなく行動でこちらを救おうとしたその行動に。絶望の中、優しく背中を押してくれたその魂に。
それは奇跡ではない。ジュリエットの信念が生み出した行動の帰結。
ならばその名は『思いの先に』――暗き絶望に光りを灯し、愛しき救いを与える手。
「当然ですわ! わたくし達はその為にここにいるのです! おーっほほほほ!」
胸を張り笑うジュリエット。自信に満ちた笑いが、空気を一掃する。
「くそ、こうなったらこいつも――」
「残念ですね。こちらに背を向けたのが運の尽きです」
「これが最後の一撃だぁ!」
反抗する奴隷を押さえようとするオニビト達に、カスカとカーミラがそれぞれの武器を向ける。
「……くそ、がぁ……!」
死力を尽くした一撃が、オニビト達の最後の体力を削り切った。
●
オニビトが倒れた事でその奴隷達が解放される。海賊船に乗っていた奴隷も同様に。
戦い疲れた自由騎士達はその場に倒れこんだ。赤目のミズビト錬金術師が傷を癒しにやってくる。
「優しい……世界」
気を失う間際、ジュリエットはそう呟く。平等に幸せを享受できる世界。
そんな世界が来るかはわからない。そんな世界は無いのかもしれない。
だがその想いが今日、絶望に苦しむ奴隷を解放したのだ――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
血肉の盾、使えんかったなぁ……。
以上のような結果になりました。不可能を可能にするのがアニムスということで。
一応言うと、単純にアニムス消費と言うだけではこの結果はありませんでした。キャラクターの信念に沿ったプレイングあっての結果です。
そういう意味も含めて、MVPはゴールドスミス様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
血肉の盾、使えんかったなぁ……。
以上のような結果になりました。不可能を可能にするのがアニムスということで。
一応言うと、単純にアニムス消費と言うだけではこの結果はありませんでした。キャラクターの信念に沿ったプレイングあっての結果です。
そういう意味も含めて、MVPはゴールドスミス様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
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