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【水機激突】Unbeatable!無敵の蒸気兵団!



●ヘルメリアⅠ
 オラトリオオデッセイ終了後、ヘルメリアの首都、ロンディアナは慌しくなる。
 蒸気機関の燃料である木材や鉱石の流通は激しく動き、国防の要である歯車騎士団は寸暇を惜しんで動いている。イ・ラプセルに占領されたヘルメリア南部地方を取り返すべく、戦争の準備をしているのだ。
 そして首都住民であるヘルメリア民はというと、それほど危機感は感じていなかった。電撃作戦ともいえる海戦で南部を制圧されたことは驚きだが、ヘルメリア国内には二基のプロメテウスがある。また、蒸気騎士を始めとした蒸気兵団は健在だ。イ・ラプセルがどれほどの戦力を持とうとも、まず負ける事はないと見ていた。
 そしてその空気は軍上層部でも同じだった。彼我の兵力と言うよりは、純粋にヘルメリア島内であれば地の利はこちらにある。同時に海外に輸送することが難しい蒸気兵団を使えることもある。まず負けはない――
「余、自らが出る」
 だからこそ、『蒸気王』チャールズ・バベッジの言葉は予想外だった。
「なりませぬ! 王自らが出陣するほどの相手では――」
「イ・ラプセルは余、自らが挑まねばならぬ。そう判断したからこその発言だ」
 否定する議会の声を一喝する『蒸気王』。軍の最高司令であり、ヘルメリアの粋を集めて作られた機械の肉体。『蒸気王』はディファレンス・エンジンやプロメテウスと並ぶこの国の最高傑作なのだ。
「プロメテウス/アベルとフォース。国内に残る二基をもって侵略者を滅する。ロンディアナには最低限の防衛を残し、蒸気兵団を敵本陣にぶつけて制圧する」
 端的に言えば、圧倒的な力技である。単純であるがゆえに、対抗策は限られる。そしてその対抗策は――

●イ・ラプセル
「まともにぶつかればこちらが負ける。勝つためには少数による指揮官襲撃しかない」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集まった自由騎士に向けてそう言い放つ。
「敵の蒸気兵団と歯車騎士団、そしてプロメテウスによる妨害。長期戦になればこちらが負けるのは明白だ」
 それは開幕前から予想されたことだ。相手の兵力と技術の差、国外であることによる兵站の確保の難しさ、地の利、そういったすべてを考慮すれば短期で決着をつけるしかない。
「まさか王様自らの出陣とはな。こちらのツボを理解している」
 短期決戦を成し遂げるには、敵の連携の隙をつくしかない。それは命令系統との連絡を絶つのが一番だ。だが、その命令系統その者が現場にいるのではそれは難しい。指揮官が前に居るメリットは、連絡網発達で薄れていくのだが――閑話休題。
 そして同時にチャンスでもある。命令系統の中枢そのものをここで討つことが出来れば、一気に敵軍の連携を断つことが出来る。
「騎士団と連携し、蒸気兵団やプロメテウスを押さえながら敵本陣の『蒸気王』を狙ってくれ。難しいとは思うが、よろしく頼む」
 かくして反逆の一矢が放たれる。だがその一矢は――

●ヘルメリアⅡ
 その一矢は、『蒸気王』も予測していた。
「懸念するのは少数による本部への襲撃。その暇を与えぬようプロメテウスを展開する。
 最大戦力をもって彼らを叩くのだ」
 慢心はない。油断もない。隙もない。弱点もない。
 あるのはただ、智謀と計算。それがヘルメリアの王、チャールズ・バベッジ。王は二〇〇年この国を統治してきた。
 あえて間隙を残し、自由騎士達のルートを確定させる。その退路を断つようにプロメテウスを射出して展開し、挟み撃ちにしてイ・ラプセルの襲撃部隊を断つ。これでチェックメイトだ。
 だがその一手は――

●ヘルメリアⅢ
 だが、その一手は不発に終わる。
「プロメテウス/アベル、ロスト! キュニョーの砲車、反応ありません!」
「どういうことだ!?」
「分かりません! プロメテウス/アベルが自分で動いていなくなったとしか……」
「そんなことがあるか! 責任者を――」
「報告ご苦労。今は論議する時間はない」
 激昂する軍人を制する『蒸気王』。混乱を押さえ、即座に指示を出す。
「アベル射出が出来ぬなら、フォースを本陣に戻せ。蒸気兵団二部隊を反転。襲撃者の横をつけ」
 これがこの状況で出せる最善手か、と『蒸気王』は指示を出す。消えたプロメテウスは後回しだ。今はこの襲撃を押さえる事を考えなくては。イ・ラプセルの逆転の手をここで潰す。
(ヘルメス。貴方は敵国の軍であっても平等に愛するというのか。
 すべての人間から可能性を見出し、育てようとする。そして価値なしとみれば容赦なく切り捨てる。……余であっても汝の眼鏡にかなわぬというのか)
『蒸気王』は一瞬逡巡し、そしてその迷いを断ち切るように王族専用の剣を抜く。
 無敵と呼ばれる蒸気兵団が、イ・ラプセルに牙を向ける。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
国力増強
担当ST
どくどく
■成功条件
1.【蒸気兵団】の打破、或いは進行を止める
2.【プロメテウス】の打破、或いは一定数のダメージを与える
3.【敵本陣】にいる『蒸気王』の打破
 どくどくです。
 ではヘルメリアの本気をお届けしましょう。

●敵情報
【蒸気兵団】
 ヘルメリア軍の主戦力です。押さえきれなかった戦力が『蒸気王』の援軍としてやってきます。

◆蒸気騎士(×20)
 蒸気で動く鎧を着た騎士です。現代の技術でいうパワードスーツ。身長2mほど。
『チェシャキャット』と呼ばれる蒸気で動く回転鋸(近距離 二連)と、『マーチラビット』と呼ばれる炸裂弾(遠距離範囲 三連撃 バーン2 ショック 使用時、回避にマイナス修正)を使ってきます。
『アイオロスの球』の効果により、HPが毎ターン回復していきます。

◆蒸気戦車『アイアンタートル』(×4)
 蒸気機関で動く戦車です。
 硬い装甲(高防御 高HP)を持ち、砲弾(遠距離 防御無視 溜2)を撃ち、履帯(近距離 必殺)で轢いてきます。
『アイオロスの球』の効果により、HPが毎ターン回復していきます。

【プロメテウス】
◆プロメテウス/フォース(×1)
 プロメテウスナンバー6。身長4mの人型防衛型兵器。攻撃武装は最低限ですが、それでも戦力としては侮れません。
 押さえきれなかった場合、【蒸気王】の敵すべての防御力が増加します。

武装:
攻撃武装『ライオンタスク』:獅子の牙を思わせる刃の斬撃(近距離範囲 二連 スクラッチ2)。
防衛装置『エイト・ポーン』:八体の浮遊銃座。近寄るものを銃撃します(遠距離全体 バーン1)。同時に特殊な音波を発し、行動を阻害します(後述)。
修復装置『イグニション』:BSを受けるごとに、HPをロスして回復します。
蒸気供給装置『アイオロス』:『アイオロスの球』より自動で蒸気が供給されます。HPリジェネ。
外部装甲パージⅠ:HPが0になった時、一度だけ戦闘不能を解除して復活できます。HP5割回復。反応速度上昇。防御力減少。
外部装甲パージⅡ:『外部装甲パージⅠ』使用後に使用可能。一度だけ戦闘不能を解除して復活できます。HP1割回復。反応速度上昇。防御力減少。

◆浮遊装甲版『ナイツ』(×3)
 プロメテウスを守る円盤型装甲版です。攻撃はしませんが味方ガードに徹して、プロメテウスを守ります。

【敵本陣】
◆『蒸気王』チャールズ・バベッジ
 ヘルメリア国王。ハイオラクル。全身全てをキジン化したと言われるこの時代最高峰の技術の粋。同時に王自身が『アイオロスの球』と同化しており、軍勢すべてに蒸気を供給しています。
 敵後衛に布陣しています。

攻撃方法
天道虫天道虫 攻遠範 テントウムシを思わせる赤い火球。【バーン3】
ライオンとユニコーン(EX) 攻近範 ユニコーンを討つ獅子の剣戟。【生命逆転】【移動不可】
6ペンスの唄を唄おう 攻遠全 轟音と衝撃波。【ダメージ0】【コンフェ2】【不安】溜1
きらきら星 攻遠全 上空に射出した砲弾が細かな星のような煌めきと共に落ちてくる。
誰が駒鳥を殺したの? P 致命的な損傷を回復する機構。HP0になった時、『アイオロスの球』の機構を一時的に停止して全HP回復します。

◆歯車騎士団(×30)
 ヘルメリアの騎士団。『蒸気王』を守るために編成された部隊です。
『重戦士』×15 『ガンナー』×10 『防御タンク』×5で編成されています。各々それぞれのランク2までのスキルを使います。
 ガンナーは敵後衛に。重戦士と防御タンクは敵前衛に布陣しています。

●フィールド効果:エイト・ポーン
 プロメテウス/フォースから射出された広域殲滅兵器です。戦場全てに特殊な音を発し、敵兵の動きを阻害します。
 イ・ラプセル軍のキャラは、FBが毎ターン1ずつ増加していきます。

★イ・ラプセル援軍
 各自由騎士にはサポートとして騎士団2名が同行します。攻撃には参加しませんが、身を粉にして自由騎士達を守ってくれます。
 これにより各自由騎士はHPに+『貢献値』×2。ブロックできる数が+1されます。

★場所情報
 ヘルメリアの荒野。時刻は昼。空は煙などで煤けていますが明るさや足場などは戦場に支障なし。
 戦場は【蒸気兵団】【プロメテウス】【敵本陣】の三つに分かれます。プレイング、もしくはEXプレイングにどこに行くかを明記してください。書かれていない場合、ランダムな場所に配置されます(人の少ない所に行く、『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
 他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。

●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
6個  6個  4個  4個
13モル 
参加費
50LP
相談日数
9日
参加人数
54/∞
公開日
2020年02月02日

†メイン参加者 54人†

『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『黒砂糖はたからもの』
リサ・スターリング(CL3000343)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『みつまめの愛想ない方』
マリア・カゲ山(CL3000337)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『我戦う、故に我あり』
リンネ・スズカ(CL3000361)
『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『神落とす北風』
ジーニー・レイン(CL3000647)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『鬼神楽』
蔡 狼華(CL3000451)
『永遠のアクトゥール』
コール・シュプレ(CL3000584)
『異邦のサムライ』
サブロウ・カイトー(CL3000363)
『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『望郷のミンネザング』
キリ・カーレント(CL3000547)
『ナニしてたんすか?』
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『未来の旅人』
瑠璃彦 水月(CL3000449)
『stale tomorrow』
ジャム・レッティング(CL3000612)


●蒸気兵団Ⅰ
「あれがヘルメリアの蒸気兵団! いやはや壮観でありますなぁ!」
 遠くを見る様に手を額に当てて『おちゃがこわい』サブロウ・カイトー(CL3000363)は叫ぶ。感心するというよりも敵兵の強さを測るように強さを認め、そしてどうするかを思考した。
「先ずは一人一人確実に、ですな!」
「せやな。きばっていかんと勝てへんで!」
 自らに発破をかける様に『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は叫ぶ。立ち並ぶ蒸気兵団はヘルメリアの技術の粋。だけどイ・ラプセルの技術と自由騎士の実力がそれに劣るとは限らない。
「先ずはこないなかんじでどうや!」
 体内の魔力を指先と機械の脚に集め、舞うようにして放出する。太陽を思わせる明るい舞で自らの動きを増し、そしてアリシアは敵陣に駆け抜けていく。明るく踊るように、しかし鋭い武術のように。アリシアは蒸気兵団の中で舞う。
「うちらがここを押さえるから敵本陣は頼むで!」
「そうっすね。敵本陣よりはこっちの方が死ににくいっすから……おおっと」
 口が滑ったとばかりに口元を押さえる『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)。王様本人や敵の主力兵器よりは安全とはいえ、ここが危険な事には変わりない。だからここに残った、というわけでもないのだが。
「ともあれヘルメリアに負ければ元も子もないっすからね。奴隷か処刑か。あーやだやだ」
 言いながら銃を手にして構えるジャム。狙う、というよりは弾幕を展開するように銃を撃ち、戦場にばらまいていく。一人一人を狙って数を減らすのではなく、戦いの勢いをこちら側に向ける作戦だ。戦いとは相手の嫌がることを如何に押し付けるかである。
「頑張って働きますよー! 他の人達も踏ん張ってー!」
「へいへーい。居残り組は頑張りますよー」
 少々不貞腐れたようにロイ・シュナイダー(CL3000432)が頷く。大事な人と別の戦場になってしまったのが不満のようだ。だがそれをいつまでも引きづっているつもりはない。やるべきことはやらなくては。
「お前達の行進はそこまでだ。ここで足止めさせてもらうぜ!」
 物陰から颯爽と現れるロイ。敵の注目を引くと同時に銃を撃ち放つ。敵に降り注ぐ炎の華。鉛の弾幕が敵戦車を中心に降り注いだ。そのまま戦場を走りながら銃を撃ち、戦車の足止めを中心に動き回る。
「大事な人を先に進ませる為に残って送り出さなきゃなんない俺の気持ち分かる? だから、ハッキリ言って邪魔なんだよ……!」
「『ここは俺に任せて先に行け』……? それって死亡フラg……いやいやいや」
 ロイのセリフに何かを言おうとして、口を塞ぐ『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)。演劇や物語じゃあるまいし、と思考を切り替える。少しでも気弱になった者から死んでいくのが戦場だ。不吉な事は忘れよう。
「吹き荒れろ! 神嵐!」
 カノンは蒸気騎士に突撃すると同時に全力で回し蹴りを放ち、多くの蒸気騎士に打撃を叩き込む。最大級の技を初手に叩き込む。それは正しい戦術だ。そのまま振動を伝える様に打撃を重ね、蒸気騎士や戦車を穿っていく。
「カノンの全力をお見舞いするよ!」
「イ・ラプセルの貴族として、神の蠱毒の勝利の為に……」
 躊躇と逡巡。その後にセアラ・ラングフォード(CL3000634)は顔をあげる。戦争。殺意と暴力の熱気が渦巻く混沌の場所。平和とは真逆の死の世界。それを直視し、そして前に進む。争いごとは嫌いだけど、それでも祖国の勝利のためにと身を奮い立たせた。
「大丈夫。サポートの騎士様もいます。落ち着いて……」
 自らに言い聞かせるように深呼吸し、魔力を展開するセアラ。聖遺物を手にして心を穏やかにし、平常心を保ちながら光を放つ。魔力の光が癒しの力となって自由騎士達の傷に触れる。魔力が痛みを取り除き、そして傷を塞いでいく。
「ナバル様。御守りいただきありがとうございます」
「おう! しっかり護ってやるからな!」
 ガッツポーズをしてセアラに笑顔を見せる『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)。攻撃は激しいが仲間を守るのが盾の務めだ。あと女の子を守るとかちょっとよくね? モテるんじゃね? とかそんなことをこっそり考えてた。男の子だもんね。
「ヘルメリアの人からすればオレ達は侵略者なんだろうけど……!」
 攻撃に耐えながら、ナバルはヘルメリアのことを思う。亜人を道具として見る国。それを『普通』と思う国。そんな国を許すことはできない。それを『価値観の違い』と納得することはどうしてもできなかった。だから今、こうして戦っているのだ。
「後衛のみんなはオレが護る! だからみんなは他の人たちを護ってくれ!」
「頼もしいですね。ではそちらはお任せして私は前に出るとしましょう」
 言って前に出る『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)。ヒーラーとして傷を癒していたが、戦闘の空気に引き寄せられたのか唇を舌で湿らせながら前に出る。手にかんざしのような武器を手にして、無造作に蒸気騎士に近づいていく。
「アイオロスの球による常時回復。それを利用させてもらいましょう」
 まるで馴染みの店にはいるかのように気軽に蒸気騎士の間合にはいるリンネ。虚を突かれたのかあるいはリンネの技術か。対応が遅れた蒸気騎士にリンネは手にしたかんざしを突き刺した、的確に急所を穿ち、生命の流れを乱す。
「蒸気供給その者は止められませんが、生命活動そのものとなれば話は別ですね」
「正直、とっても怖い……けど!」
 ヘルメリアの蒸気兵団を前に『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)は足がすくむのを感じていた。それでも周りには共に戦った仲間達がいる。その事を思いながら一歩踏み出す。歩を進めるたびに、恐怖が和らいでいくのを感じていた。
「ヘルメリアになんか、負けないんだから……!」
 叫ぶと同時に踏み出すリサ。防御の構えを取りながら蒸気騎士に迫り、持ち前の素早さで相手の動きを乱していく。如何に強固な蒸気兵器に身を包んでいても、二本の手足で戦う相手だ。リサの格闘技が通じないはずがない。確実に打撃を積み重ねていく。
「わたしたち自由騎士団の仲間が力を合わせれば、勝てない敵なんていないよ!」
「その通り! たとえ小さな力でも、自分の人生の主人公は自分なのだよ!」
 芝居かかった口調で喋る『永遠のアクトゥール』コール・シュプレ(CL3000584)。相手は二〇〇年の歴史を持つ無敵の蒸気兵団。その奥に控えるは破壊の炎と蒸気の王。嗚呼、人の身で抗うにはなんと強大な存在。我が命運、ここに尽きたりか!
「未熟な自分には過ぎた舞台かもしれない。それでも今、私はここに立っている……少しでも、仲間の力になる為に!」
 パン、と手を叩くコール。その音に魔力を乗せ、手を合わせるという行為に魔術的な意味を込める。接触、祈り、単音節の呪文。コールに向けられた視線は敵意であり殺意。それを受け流すように朗々と口上を述べる。
「御身矮小なれど、導く舞台は人生そのもの! 私の魂を込めた幕開けにしばしお付き合い願い候! 無敵と呼ばれた鋼の兵隊達よ、惑い、惑い、惑い給え! 螺旋と歪曲の天幕。その名を『迷惑舞唱』!」
 コールの口上と共に蒸気兵団を取り巻く大地そのものに魔力が宿る。視界が歪み、地面に幾何学的な紋様が描かれた。五感を狂わし、時間ごとに変化する空間。方向感覚を狂わせ、蒸気兵団を『蒸気王』の元に向かわせない為の空間を展開する。
「王の元へは行かせない……さあ、迷いて惑え、その足を止めろ!」
 魔術に疎い歯車騎士団だが、それでもその意味は理解できる。
 そして同時に『魔法の主を倒せば空間は解除されるだろう』ことも。
 自由騎士と蒸気兵団の戦いは、まだまだ終わらない。

●幕間Ⅰ
 200年前――
 吸血鬼信望国家ヘルメリア。そう呼ばれていた時代において、ノウブルは無価値だった。ヴァルキッシュ王は血に価値を見出し、何処にでもいる種族の血液は文字通り搾り取られて捨てられた。
 そんな時代に『彼女』は生きていた。物音に怯え、町の狂気に震え、それでも正気を保っていた。

●プロメテウスⅠ
「ロイ……」
 遠くで戦っているだろう許嫁のことを思いながらタイガ・トウドラード(CL3000434)は口を開く。共に戦う事も考えたが、騎士としての信念がこの戦場を選んでいた。4mの巨大な鉄の巨人。プロメテウスのいるこの場所に。
「先輩方、私が御守りします」
 タイガは両手剣を構え、防御の構えを取る。敵の弾丸をはじき返し、自分の後ろに立つ者達を守るために。プロメテウスをしっかり見て、攻撃の軌跡を予測して弾き飛ばす。それが自分の選んだ騎士道だ。
「自分に恥じる事の無い様に、全力を尽くすまでだ!」
「久しぶりの仕事が戦争とはな。負けるわけにはいかないか」
 大きく息を吐きながらウィルフレッド・オーランド(CL3000062)は頷く。神の蟲毒。白紙化される未来。そのような事を避ける為にも、今ここで負けるわけにはいかない。ヘルメリアとの勝利さえ、中間地点なのだから。
「俺は無理に庇わなくていい。他の者を優先してくれ」
 防御役の仲間にそう告げて、ウィルフレッドは魔力を練る。強面でいかつい体格にもかかわらず、ウィルフレッドが展開するのは癒しの魔術だ。淡い光がウィルフレッドの掌から広がり、仲間達の傷を癒していく。
「さて。大仕事だな。気合を入れてかかるとしよう」
「魔術師として負けてられませんね~」
 間延びしたように 『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が口を開く。だが声の口調とは裏腹に、シェリルは怒りをもって戦場に立っていた。自らに宿る自然の力。それを否定するのなら魔術師の誇りにかけて許してはおけない。
「一気に撃ち落としますぅ〜!」
 魔力を展開し、自らの上に星を輝かせるシェリル。天空の星の配列を魔法陣の一部とし、自然の力を取り込んで体内の活力を増す。その流れを感じながら、白き稲妻を解き放った。重力場を狂わせるほどの雷撃がプロメテウスの動きを止める。
「自動修復するんでしょうけど、その分エネルギーは削られますからねぇ~」
「ノーヴェは無事かな? いやいや、いまはそれどころじゃないか」
 遠くで戦っているだろう双子のことを思い、我に返るようにセーイ・キャトル(CL3000639)は首を振った。理由はないが、大丈夫だろうと自分を納得させて戦場を見る。目の前にはヘルメリアの象徴たるプロメテウス。他の戦場を機にかける余裕などないのだから。
「それじゃあ『嫌がらせ』だよ!」
 セーイは言って大気中のマナを取り入れる為の呼吸を行う。自然に満ちた力と自分の中にある力。その両方を組み合わせ、炎の矢を生み出した。熱き赤はセーイの思うままに飛来し、プロメテウスの身体に叩きつけられる。
「どれが一番効果があるか、試していくよ」
「強そうなデカブツだね。壊しがいがありそうだ!」
 銃を構えて『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は笑みを浮かべた。アンが求めるのは強い者だ。その範疇は人間だけに留まらない。イブリース、幻想種、そして兵器であるプロメテウス。それらを前にしたときこそ、生きている実感が沸いてくる。
「俺の弾丸にその装甲が意味を成すか、試してやろうじゃないか」
 荒野を走り、プロメテウスを撃つために適した場所を探る。遮蔽物、足場の安定性、斜線……。様々な要素の中から最適解を見つけ、そこを基点にして銃を撃つ。あえてアンは硬くそして強固な部分を狙い、自らの限界に挑む。
「ぶっ壊すなら、当然相手のストロングポイントだろうが。そうでなければ面白くないからね」
「いいね、そういうの! 自由なのはいい事だ!」
 アンの気風のいい言葉を聞きジーニー・レイン(CL3000647)は笑うように頷いた。徹底的に管理されたパノプティコンでは考えられない発想だ。気分を良くしたのかそれとも生来の性格か。真っ直ぐプロメテウスに接近し斧を振るう。
「亜人迫害国家は、ここで叩き潰す!」
 叫びながら斧を叩きつけるジーニー。未来を見る瞳で数秒後の未来を見て、その情報を元にプロメテウスの攻撃を受け止める。金属同士がぶつかり合う音が響き、重量差で吹き飛ばされる。死家事ジーニーは臆することなく再びプロメテウスに近づいていく。
「こいつがヘルメリアの象徴だっていうなら叩き壊すまでだ!」
「無理はなさらないでください……。今、癒します」
 ジーニーの突撃を見ながら『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)は心配そうに声をかける。勇猛果敢でなければ勝てない相手だが、かといって大怪我をしては元も子もない。戦争だからこそ、誰にも死んでほしくはない。
「皆様を癒します。それが私に出来る精一杯のことですから……」
 杖を握りしめ、青の瞳で戦場を見る。その瞳が紫に変わるにつれてたまきの周囲のマナが強く活性化していく。たまきの魔力に影響されたマナが清らかな雨となって戦場に降り注ぐ。それは癒しの雨。世界の優しさを告げるように、仲間達の傷を癒していく。
「この戦いは、私達の方から仕掛けた戦争です……負けられません」
 イ・ラプセルとヘルメリアの戦争。その分水嶺の戦い。
 それはなお激しさを増していく。

●幕間Ⅱ
 狂気の時代の中『彼女』は正気を保ったまま怯え続けた。狂気に捕らわれてしまえば、楽になる。そうと分かっていても狂えなかった。閉塞された時代を切り拓くべく、王ヴァルキッシュを討たんと模索した。
 皮肉にも『彼女』の才能は狂気の時代によって培われた。死にたくない。その一心で『彼女』は時代の特異点というほどの才華となった。魔術は王族が独占していたため、『彼女』が触れることが出来たのは当時卑下されていた蒸気学だった。
『彼女』はその学問を言葉通り死に物狂いで習得し、研鑽していく。

●敵本陣Ⅰ
『蒸気王』チャールズ・バベッジ。ヘルメリアの王にして、蒸気機関を大きく発展させた自体の貢献者。オールモストを超える割合のキジン。
「ようやくここまで来たな」
 その姿を見て『灼熱からの帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)は強く銃を握りしめる。ヘルメリアで生まれ、そして全てを失い、この国そのものに復讐を誓った。その誓いが今、ここで果たされる。
「お初にお目にかかるぜ蒸気王! 俺はザルク・ミステル。この国に生まれ、この国に見捨てられ、この国を破壊するものだ!」
「来るがいい、ザルク・ミステル。余は蒸気王チャールズ・バベッジ。この国を創るものだ」
 語るべきこと名は語り切ったとばかりにザルクは銃を撃ち放つ。『蒸気王』に描かれたヘルメリアのマークを集中して狙うのは、信念か怨みかはたまた無意識か。その気迫の鋭さが一番槍となって、自由騎士達も動き出す』
「道は西園寺が作ります」
『おうじょのともだち』海・西園寺(CL3000241)は銃を構えて敵陣に目を向ける。『蒸気王』を守る歯車騎士団の数は多い。これを排しなければ王を討つことはできないだろう。ならばその道を作る。それが騎士の務めだから。
「ティーヌを守る騎士として、恥じぬ戦いを」
 大型口径の銃を手に、海は銃を撃ち放つ。しっかり狙い、その頭を穿つ。そして一呼吸し、狙って撃つ。戦場の熱い空気を肺に入れながら、心は静かに敵を穿っていく。
(蒸気王は正しく政が出来る人なのに、何故ヘルメスに使われているの?)
 戦う『蒸気王』を見ながら海はそんな疑問を抱く。とても洗脳されているようにも見えない。神だから特別扱いしているのだろうか? あるいは――
「わらわら出てきたなぁ。うちの舞台がみたいんかえ?」
 迫る歯車騎士団に言って笑みを浮かべる『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。敵はヘルメリアの中でも王に使える直属の部隊。けして弱くはない相手だ。だからこそ狼華は笑う。苛烈な戦場で、美しく舞うために。
「うちの目を見て崇めなんし」
「皆さん、頑張ってくださいね!」
『ラビットレディ!』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は後衛から戦う仲間達を支援していた。錬金術の流れをくむ一族の出だが、錬金術に拘りはしない。仲間を守るためにはどんな知識も吸収し、使用するのだ。
「五秒後に来なるから、こっちで!」
 わずかな未来を見ながらティラミスは仲間を癒していく。選択した未来では更なる危機が待ち、更にその未来を見て選択を行う。その未来に勝利の結果が見えるまで、ティラミスは仲間を支援し続ける。いつか、来ると信じて。
「危ないと思ったらお知らせしますからね!」
「ま、危険で言えば『蒸気王』自体が危険だけどな。アレ自身が切り札って言ってもいいか」
 ため息をつくように『罰はその命を以って』ニコラス・モラル(CL3000453)は言い放つ。ヘルメリアの技術の粋の一つ。並の戦士なら一合で切り伏せる強さと、隙のない智謀。気を緩ませている余裕はない。
「解体したくなるが、それは俺の仕事じゃないな」
 そんな余裕もないもんな、と言いながら仲間を癒していくニコラス。歯車騎士団と蒸気王。それらの攻撃で傷ついた仲間を癒すためにニコラスはひっきりなしだった、王の戦いが見れる特等席ではあるが、無料というわけではないようだ。
「もう少し策を重ねていてもおかしくないぜ。用心用心、と」
「まー、私から見ればいい気味だがな。予定が外れてザマァ!」
 挑発のポーズを取りながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は笑みを浮かべる。亜人にとってヘルメリアの名前は恐怖の対象だった。ツボミも放浪時はいつもその影響力に怯えていた。一歩間違えれば、あの奴隷システムの中にいたかもしれないのだ。
「貴様の合理性は至極正しいし、蒸気機関も世界に貢献している。だが私が気に入らない!」
 感情論かよ、という仲間のツッコミを受け流すツボミ。事実そうだから仕方ない。返答の代わりに医療魔術を放ち、戦線復帰を促す。正しい事と、気に入ることは別物なのだ。嫌悪感を押さえて無理に笑顔になるよりは、こうして叫んだ方が健康的でもある。
「あ、お前は少し休んでろ。あとそっちのお前はまだ大丈夫だから後回しな」
「ワカッタ! エイラ、走リ回ル!」
 言って元気よく動き回る『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)。『トーテムポール』を持ち、戦場を右に左に走り回る。射手にとって重要なのは位置を特定されない事。散開し、機を逃さずに撃つ。多くの海を渡っていたエイラは自然とその事を学んでいた。
「鎧重いゴメン! でも頑張ル!」
 エイラはサポートでついてきてくれている騎士二人に告げながら、走り回る。騎士達は重い鎧を苦にも思わないとばかりに指でサインを送り、エイラについて回る。エイラも頷き、歯車騎士団に攻撃を加えていく。
「固まっテる所、狙ウ! 連携崩ス!」
「『たくさん』の人……倒す……。それが……役目」
 途切れ途切れにノーヴェ・キャトル(CL3000638)は言葉を放ち、カタールとカランビットを構える。近寄ってきた蒸気騎士に刃を振るい、鎧の隙間を裂くようにして斬撃を加えていく。まるで水面を飛び立つ鳥が如く静かに、そして気が付けば刃は振るわれていた。
(『あたたかい』……を、感じる……。中に……『ヒト』がいる……)
 刃から伝わる感覚。崩れ落ちる敵の様。それを見てノーヴェは相手も自分と同じ『ヒト』だという事を自覚する。そこに何を感じたかはノーヴェの心の問題だ。ただ、今は戦うしかない。そうすると決めたのだから。
「私の戦う場所は……『ココ』に決めたから……」
「ここで突撃ですよ。ヒャハアアアアアアアア!」
 機を伺っていた『俺様的正義』クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)が武器を構えて突撃する。奇声をあげて相手の反意をくじき、一瞬の隙を生み出し切りかかる。暴力的に見えて、理に適った動き。錬金術師にして貴族のクレヴァニールならではの作戦だ。
「俺様はシルヴァネール公爵家が嫡男、クレヴァニール・シルヴァネールなりぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 デスサイズを振るいながら敵の注目を集め、同時に味方を錬金術でサポートする。目立つことで敵の目をこちらに向け、そして仲間を守るために術を行使する。ワガママで自分勝手を演出しながら、堅実に仲間の為にクレヴァニールは動いていた。
「もふもふさんを迫害するヘルメリアは、滅んで当然なのですぅぅぅぅぅぅぅ!」
「エイダ―さん……」
『悪の尖兵『未来なき絶壁』の』キリ・カーレント(CL3000547)は先ほどまでの戦いを回顧し、そして振り切るように戦場に視線を向けた。時間は戻らない。今は今できる事に集中しなくては。ローブを整え、意識を切り替える。
「グレリーさん、ミルダさん。よろしくお願いします。キリは皆を守ります!」
 サポートの騎士二人に声をかけるキリ。彼らの頷きと同時にキリは後衛のヒーラーを守るために立ち挑む。銃撃や斬撃を前に臆することなく立ちふさがり、ローブを振るって軌跡を変えるようにして攻撃を逸らしていく。
「デザイアの皆さんの泣いた顔、救われた顔を思ったら、引くコトなんて出来ないもの!」
 痛みを堪えながら叫ぶキリ。
 キリだけではない。この戦場に立つすべての者は、それぞれの戦う理由を胸にここに立っている。
 歴史を動かす戦いは、少しずつ加速していく。

●幕間Ⅲ
 それは蟲毒だ。
 吸血鬼信望という壺の中で生み出された時代によって生み出された天才だ。過度なストレス。まるで機械であるかのように異常なほどの感情の剥離。その精神なら機械と同化しても狂うことなく生き続けられるだろう。そんな逸材。
 ヘルメスが『彼女』を見出したのは偶然か、あるいは必然か。

●蒸気兵団Ⅱ
 蒸気音を発しながら、戦車は戦場を蹂躙していく。
「我が名はシノピリカ・ゼッペロン! 蒸気兵団などなにするものぞ!」
『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は軍刀を構えて蒸気兵団に挑む。砲弾や斬撃の中、怯むことなく立ち尽くして仲間を守りながら、同時に退路の確保も忘れない。大声をあげることで仲間を誘導していた。
「ここが歴史の分水嶺! 自由騎士の誉れ、ここに見せてくれよう!」
「サシャ、戦う皆の為に頑張るんだぞ!」
 拳を握り『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は癒しの術を放つ。自らを魔術で強化し、ブーストされた魔力を『HOLY BIBLE』に乗せて解き放つ。共に戦う仲間を守るため、サシャは全力で戦っていた。
「みんなー、勝ったらおにく食べて元気になるんだぞ!」
「蒸気戦車! どうせなら鹵獲したいよねー」
『勇者の悪霊退治』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)は走り回る蒸気戦車を見てニヤリと笑った。背後に積んでいる大型の蒸気エンジン。巨大な砲と頑丈なボディ。兵器としていただけるなら貰いたい。物質透過を使って、戦車の中に侵入する。
「おじゃましまーす! ……ってうわあああ!?」
 戦車の外壁を投下して侵入したジーニアスを待っていたのは、敵兵の手のひらだった。そのまま頭を掴まれ、握りつぶさんとばかりに力を込められる。物質透過スキルはイ・ラプセル専用ではない。当然ヘルメリアも知っているし、その対策も立てているのだ。何とか拘束を外して離脱するジーニアス。
「覚えてろー!」
「はっはっは! 敵の物を盗もうとか、闘いの場でそんなこと考えるからだぜ」
 そんな様子を見て『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)が豪快に笑う。戦いとは命のやり取り。それ以上でも以下でもないのだ。折角の戦争、折角の敵兵。それを十分に楽しまないなんて勿体ない。
「蒸気の鎧で身を守るとか温いんだよ! これでもくらいな!」
 ロンベルは斧に呪詛を振りまき、鍛えられた筋力で振り回す。ただ真っ直ぐ突き進み、斧を大きく薙いで道を切り開いていく。ロンベル自身も無傷ではないが、その痛みすら楽しむように突き進んでいく。
「これが闘いって奴だ! 流血と激痛があるからこそ楽しいってもんだろ、なぁ蒸気野郎ども!」
「私だって……何かできるはず」
『支える者』ドロテア・パラディース(CL3000435)は胸の奥から絞り出すように声を出し、歩を進める。明るく音楽を奏でたいドロテアは、戦争という非日常とは縁が遠かった。だが、目を背けてはいけないとここに立つ。
「音楽で世界が変えられるなら……」
 ドロテアはトランペットを取り出し、大きく息を吸い込んだ。心を穏やかにして魔力と共にトランペットを吹く。高らかと戦場に響き渡るトランペットの音色。旋律が因果を乱し、生まれた低温が蒸気戦車の足を止める。
(皆様、頑張ってください)
「よし。持ち直す余裕が出来そうだ」
 動きが止まった戦車を見ながら『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は小さく息を吐く。敵の位置と味方の位置を把握しながら、冷静沈着に状況を動かしていく。思考する速度こそが錬金術師の根幹だ。
「一度散開。戦車の狙われないようにしながら、仲間達を支援するんだ」
 リュリュ自身も移動しながら指示を出していく。それと同時に魔力を体内で循環させ、癒しの術法を展開していく。今何が出来て、何が最適か。そしてその結果生まれたことで、どんなことが生じるか。予測、実行、研鑽、さらに予測。リュリュはそれを繰り返す。
「攻める方は任せたぞ」
「あいよ。鎧の中が可愛いキティならやる気も出るんだけどな」
 ダガーを構えて『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は答える。煤けた空。黒煙を吐きながら動く戦車。自然を蔑ろにする蒸気機関の発展こそがヘルメルアの文化だ。自然と共に生きてきたヨウセイとは正反対と言えよう。
(いずれ、世界全てがこのようになるのかもしれないけど)
 いずれヒトは自然を捨てるかもしれない。だがそうならないかもしれない。その可能性を信じて、オルパはダガーを握りしめる。蒸気騎士に一気に接近し、鎧の隙間に刃を突き立てる様にして攻めていた。自然を排した蒸気騎士に抗うように。
「頑丈だが、無敵と呼ぶには程遠いな」
「確かに。しかし油断はできないでござる」
 オルパの言葉に『南方舞踏伝承者』瑠璃彦 水月(CL3000449)は頷き、気を引き締める。落ち着いて戦えば対処は可能だ。だが相手がヘルメリアの精鋭であることには違いない。気を緩めれば一気に攻め込まれるだろう。
「蒸気騎士とて中にいるのは人。ならば!」
 言って水月は腰を低くかがめて、半歩足を前に出す。身を固くするのではなく、バネのように衝撃を柔らかく受け止める構えだ。迫る攻撃を避けて近づき、鎧を通して衝撃を内部に伝える様に打撃を放つ。貫通する一打が蒸気騎士を穿った。
「これぞ流転水護拳。二〇〇年程度の歴史では太刀打ちできぬ武の道でござる」
(これは戦争。私は戦争をしている……)
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は銃を握りながら、しっかりとその現実を見た。互いの国の為に武器を取り、そして殺し合う。その現実から目を逸らすことなく、人殺しの為の道具を構える。
(悩んでいる暇はない)
 この戦争を仕掛けたのはイ・ラプセルだ。シャンバラのように『攻められたから攻め返した』という専守防衛ではない。ヘルメリアを侵略し、その価値観を塗り替える。その先に笑顔と平和があると信じて、アンネリーザは引き金を引いた。
「この道が正しいと、信じてる」
 祈りは静かに。乾いた銃声が、戦場に響いた。
 願わくば、その祈りの先に勝利以上の何かがあらんことを。

●幕間Ⅳ
『一度だけ、人機融合装置を使わせてあげよう』
 ヘルメリアの神、ヘルメスは『彼女』にそう語りかける。スラムの底、薄汚れた廃棄工場。アンダーグラウンドで経営している血液売買組織の隠れ蓑。
『ヴァルキッシュの<アルビオン>。これに対抗するために、キミはどうしたい? ノウブル●●●号』
『彼女』に名前などない。あるのはただ、種族と番号だけ。気まぐれで消える消耗品。
 その口は、言葉を紡ぐ。
「アイオロスの球と、私を融合させて」 

●プロメテウスⅡ
 身長4mの鉄の巨人。そしてそれを守護するように展開するエイト・ポーン。
 本土を守る『盾』として製作されたプロメテウス/フォース。その出撃回数は今回も含めて僅か二回。メアリー事変の際には蒸気人形フランケンシュタインを打ち倒している。
「メアリーが屈したプロメテウス。さて、どんなものかな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はプロメテウス/フォースを前にしてそう呟いた。正に鉄壁とも言わんばかりの戦い方だ。ましてや時間が経てばエイト・ポーンの効果で不利になっていく。
「短期決戦が最適解だけど……それをさせない防御力、か。確かに初見だと苦戦しそうだ」
 マグノリアはプロメテウス/フォースをそう評価した。仲間に錬金術で生命力を付与しながら、隙あらば燃えるような薬品を投げつける。サポートの騎士に守られながら、自分のできる事を積み重ねていく。そうしながら、一つの懸念を口にした。
「問題はヘルメスか……どんな手を練っているのやら」
「確かに気にはなりますが、今は目の前の敵に集中しましょう」
 マグノリアの言葉に『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)が答える。ヘルメリアの神、ヘルメス。確かに気にはなるが、目の前の状況は軽視できない。『蒸気王』率いる蒸気兵団。それらはまるでチェスをするかのようにこちらを追い詰めてくる。
「相手は強い。ですがそれを超えていくのが自由騎士です」
 言うと同時にマリアは稲妻を放つ。魔力を体内で高め、マジックスタッフの先に集わせて一気に解き放つ。一度でダメなら二度、二度でダメなら三度。気力の続く限り何度でも撃ち続ける。それが勝利への一歩だと信じているから。
「『蒸気王』の理を打ち崩す。そうしなければ勝ち目はありません」
「はいっ、頑張ります!」
『暁闇のローブ』を翻し『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)が頷いた。ヘルメリアの根幹となっていた亜人の奴隷制度。今はその精度は崩れているが、ヘルメリアがある限りまた復活しないとも限らない。
「ど、奴隷制度を復活なんかさせませんっ。あんな目をした人を、もう……!」
 ヘルメリア国内で見た奴隷たちの目。それを思い出しながら、ティルダは呪詛を展開する。シャンバラで生まれて、ヨウセイを苦しめた術法。それを用いて世界を変える。それがティルダの最大の復讐だ。だが今ここに立つのはそれだけではない。
「誰も悲しい思いなんか、させませんっ!」
「はい。その為に私達は戦っているのですから」
 ティルダの言葉に頷く『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)。蒼と翠の双剣を構え、プロメテウスの側面や背面に回り込み、斬り込んでいく。背中に目でもついているのでは、と思う相手の反応速度だがそれでもかまわずに攻め立てる。
「一撃だけ、私に力を貸して下さい。アレを叩き落します」
 アリアを守る国防騎士に声をかけ、了承を得ると同時にかけるアリア。銃弾に耐えながらエイト・ポーンの一つに向かって跳躍し、翠の剣を振るう。剣は蛇のように伸びてポーンに絡みつき、振り下ろして地面に叩きつける。
「これで戦況が変わればいいのだけど……」
「変わるとも。努力は無駄にならない。僕はそう信じているよ」
 剣を構えて『真なる騎士の路』アダム・クランプトン(CL3000185)が口を開く。行動したことは無駄にはならない。例え失敗しても、行動しなかった事よりはマシだ。この戦争も、未だ悩み続けていることには変わりはないのだけど――
(それでも戦わなければいけないと言うのなら、騎士として仲間を守る盾となろう)
 戦争。神の蟲毒。現在進行形で失われている命。そこに疑問を抱かないアダムではない。しかしそれでも自分は騎士なのだ。迷っている間に仲間が傷つくのなら、たとえ迷いながらでも仲間を守ろう。掲げた剣に誓いを込めて、敵の凶弾を弾き飛ばす。
「来るがいいプロメテウス。我は騎士。守る者なり!」
「そちらは任せる。俺達は突撃だ」
 アダムの守りを見た後に『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は槍を構えてプロメテウスに肉薄する。敵の特性を理解し、役割を分担してチームとして攻め立てる。護りは仲間に任せ、アデルは槍の如く的に突撃した。
「攻撃あるのみだ。何があってもうろたえず、こちらの陣形を動かせ」
 追随する国防騎士にそう告げて、アデルはプロメテウスに槍を振るう。プロメテウスを守るナイツごと吹き飛ばそうと横なぎに槍を払い、最後の防壁を打ち払う。そしてプロメテウス本体を前に足を踏みしめ、全駆動に力を籠める。
「全弾もっていけ! アヴァランチ・アサルト!」
「ええ、全てを捧げましょう」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈るよう呟いた。たとえ相手が鋼の巨人でも臆することなく前に出る。その目には、絶望の色はない。そうすることが当然であるかのように、巨大な敵に挑む。
「予想通り、頑丈にできていますね」
 アンジェリカはプロメテウス本体ではなく、宙に浮かぶエイト・ポーンやプロメテウスを守るナイツを狙っていた。他の仲間達を支援するためだ。だが距離などの問題のよりエイト・ポーン全てを倒すのは難しい。それでも――
「それでも――」
 祈りは強く。戦いの経験は確かに。
 強い精神力が高い集中力を産み、積み重ねた経験が相手のウィークポイントを見抜く。何処をどうすれば効率よく破壊できるか。重戦士の経験がそれを見出していた。その一点を見抜き、そして穿つ。
「――形あるなら壊せない事はない。これも女神の御業です」
 破壊される四つ目のエイト・ポーン。戦場に響く音はまだ消えないが、それでもその影響はかなり減じたはずだ。
「犠牲となった者の為にも、踏み越えてきた者の為にも。前に進ませてもらいます。
 例え立ち塞がるのが鋼鉄の巨人であったとしても」
 拮抗する自由騎士とプロメテウス。敵の巨人を倒すには至らないが、その進軍は充分に止まっていた。
 生まれた時間はわずか数分。しかし戦争において、千金ともいえる時間――

●幕間Ⅴ
 そして『彼女』は蒸気を生み出す機関『アイオロスの球』と融合した。そして『彼女』は無敵の蒸気兵団を結成。自らが生み出した蒸気で兵団を駆使し、その火力で圧し潰すようにヴァルキッシュ時代を終わらせる。
 だけど王座とて『彼女』の安寧の場所ではなかった。妬みや嫉みが『彼女』を蹴落とそうとしていることが分かった。
 隙を見せないように、性別を隠した。全機械化し、武力を得た。そして――名を得た。
「余の名は、『蒸気王』チャールズ・バベッジ。ヘルメリアの国民よ。暴君は潰えた。
 これよりヘルメリアは更なる発展を迎えるだろう!」
 その言葉を真実にするために、蒸気技術を発展させた。そうしなければ、欲望をむき出しにした者達に殺されると思った。その恐怖から逃れる様にディファレンスエンジン、プロメテウス、その他さまざまな蒸気兵器や蒸気機関を生み出した。
 その為に亜人を酷使し、それが奴隷協会のシステムとなった。今や『蒸気王』を怯えさせるものはいないと言っても過言ではない。

 それでも『彼女』は怯えている。怯えこそが『蒸気王』の原動力なのだから。鋼鉄でそれを隠し、権力でそれを隠し、それでも消える事はない。
 ヘルメスはその怯えを知り――
 
●敵本陣Ⅱ
「イサクラ部隊、未帰還です。イ・ラプセルに拿捕された模様!」
「ゴルマー部隊も応答在りません! 自由騎士の介入を確認!」
「補給部隊を襲撃していた『CODE:RED』も沈黙しています!」
「プロメテウス/アベルの所在確認! ロンディアナ近くで廃棄されているとの事!」
 次々と本陣に入ってくる報告。それはヘルメリア部隊が自由騎士に負けた報告ばかりであった。
「蒸気兵団、完全に足止めされています! データ以上の戦力です!」
「プロメテウス/フォースのナイトポーン、ナンバー2、5、7、8が破損! フォース自体も満足に動けない模様!」
「ヘルメリアの粋を集めた蒸気騎士やプロメテウスが、こうも敗戦続きとは……」
「良い。余の見立てが甘かった。それだけだ」
 嘆く部下に声をかける『蒸気王』。技術者や開発者は悪くはない。イ・ラプセルを侮ったつもりはない。ただ予想以上に彼らが強かっただけだ。
「今は堪えよ。自由騎士部隊は的確な情報の元に襲撃している。その上で短期決戦を仕掛けているという事は、それ以外に勝ちの目がないことの証左だ。
 時間を立てて立て直せ。しばし粘れば終わりと思えば楽になる」
 的確な指示を出し、『蒸気王』自身も剣を振るう。
「敵の質も数も上ときたか。だがそれで勝てると思うなよ」
 言ってウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は歯車騎士団に銃を撃つ。相手がどれだけ強かろうが、勝利とは直結しない。勝つ者はあくまで勝つための戦略を練ってきた者だ。強さはファクターの一つだが、それ自体が勝利への道ではない。
「旦那達は任務続行が難しくなったら逃げてくれ。命の捨て時は今じゃない」
「……いいえ。それはライヒトゥーム殿も同じです」
 護衛の騎士にそう告げたウェルスだが、騎士達は首を振ってそれを拒絶する。
「命を捨てる事と、命を賭ける事は違います。
 ライヒトゥーム殿は何のために命を賭すのですか? 今、命を削ってまで成し遂げたいことはヘルメリアを蹂躙したいだけなのですか?」
 続いた騎士の言葉にウェルスは口を紡ぐ。ヘルメリアは憎い。全て殺してやりたいほどだ。だがそれでは命を捨てて戦う特攻兵と変わらない。そして信念なき行動に、奇跡は起こらない。
「『蒸気王』自ら出られるとはな。見事な、これ以上無い手だ」
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は『蒸気王』の戦略にそう言葉を返した。自由騎士を脅威とみなし、最大戦力を持ってくる。もしここに『蒸気王』がいなければ、イ・ラプセルは苦労なく進軍できただろう。
「智に富み、そして武を有する。理想の王の一人ではあるが、かとって負けてられまい」
『蒸気王』の実力を認め、その上で勝つ。テオドールは油断なく魔力を練り上げていた。シャンバラで得たネクロマンサー魔術。術自体に善悪はない。使う者の心次第だ。詠唱時間を短縮された魔術が展開され、敵陣を穿つ。
「その轟音は撃たせぬ。こちらも背負ったものがあるのでな」
「いっぱい倒すよー!」
『ツヴァイハンダー』を手にして『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)が歯車騎士団に突撃する。幼い肉体に似合わない巨大な剣を持ち、時折ガジェットの爆弾を放ちながら敵陣を突き進んでいく。
「突撃ナナンなのだ!」
 援護してくれる騎士と共にナナンは歯車騎士団を押し込んでいく。力押しだけとおもいきや、体の力を抜いて衝撃を受け流すことで身を守り、相手の攻撃をいなしていく。それは本能かそれとも経験則か。ナナンは戦闘の最適解を選び、戦っていた。
「カーミラちゃん、いっけー!」
「いっくぞおおお!」
 雄たけびを上げながら『薔薇の谷の騎士』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は拳を振るう。刃物や銃器の類を一切持たないカーミラだが、鍛えられた拳と技術は充分な武器となっていた。蒸気文明最高峰の歯車騎士団相手に引けを取らない動きだ。
「どけどけー! どんな防御力も無意味だよ!」
 ガーディアンの盾にカーミラは拳を当て、足の踏み込みと腰の回転で、盾を通して衝撃を送り込む。1インチの隙間さえあれば打撃は通せる。央華における寸打と呼ばれる技法の応用だ。鋼鉄の守りさえ、カーミラの拳を止めることはできない。
「どうだ! 私はまだまだ倒れないよ!」
「無理はなさらないでください。今、癒します」
『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)は癒し手としてこの場で戦っていた。『蒸気王』に挑む戦士達の傷を癒し、戦いを支える為に。亜人を迫害するヘルメリア。その体制を崩すために危険を冒して戦いに挑む。
「ヘルメリアに生きる亜人の自由と尊厳を取り戻すために、微力を尽くします」
 亜人の自由。それはイ・ラプセルでは当然のように守られていること。それを支える事はレオンティーナの願いでもある。その道はけして楽ではないと知っているけど、この魔力はその為にあると信じていた。
「神よ、我らに癒しを。てへぺろ☆」
「その呪文はどうかと……いいえ、効果があるなら問題ありません!」
 レオンティーナの呪文を聞きながら『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は何かを言いかけて飲み込んだ。結果が十分なら問題はない。癒し手の前に立ち、守るのがデボラの役目。真っ直ぐに敵陣を見て、盾を構えた。
「進軍! 防衛体制を続けながら、踏み込みます!」
 声をあげて歩を進めるデボラ。自由騎士が『蒸気王』に押し込めば、自然と後衛の回復部隊も前に出る。デボラはそれを守るように進軍し、銃弾と刃の領域に踏み込んでいく。作戦の要である回復役を守るため、デボラは機械の肉体を使って盾となる。
「私に出来る事は、自分の役割を果たすだけです。他の人が決めてくれると信じています」
「そうそう。攻めるのは私に任せなさい!」
 言って胸を張る『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)。緑のフードにその身と顔を隠し、魔力の炎を解き放つ。奴隷商人と種族差別が嫌いなきゐこにとってヘルメリアはツーアウトだった。奴隷狩りを異端狩りとみなせば、スリーアウトか。
「一気に薙ぎ払うわよ! 覚悟しなさい歯車騎士!」
『緑鬼魔杖』を振るい、魔力を展開するきゐこ。呪文による因果の歪曲。指と杖の動きによる陣の形成。炎を意味する単語を混ぜ、自然を揺らす呪文。魔により生まれた炎の波が、戦場全てに覆いかぶさるように展開していく。
「覚悟しなさい『蒸気王』! ……所でヘルメスは何処にいるのかしら? 首都?」
「かもねー。でも今は『蒸気王』をばらしてみたい!」
 味方の影に隠れながら『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は『蒸気王』に目を向けていた。『蒸気王』に接近するような愚は侵さない。観察するなら先ずは遠くから。近づかないとわからないことが出来るまでは、距離を取る。
「流石ヘルメリアだよね。でも機械であるなら当然継ぎ目もあるんだしっと」
 クイニィーは『蒸気王』に劣化を施す錬金術を放つ。蒸気技術の知識をベースに、相手が弱いであろう箇所を攻撃していく。神秘のベールをはぐように、『蒸気王』のパーツを削いでいく。そしてクイニィーが目にしたのは――球の中に浮かぶ、一人の女性だった
「女性!? うわ、『蒸気王』って女性だったの!」
「驚きではありますが、かといって『蒸気王』の評価が変わるわけではありません」
 動揺を抑える様に『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が口を開く。相手の正体がどうあれ、この戦況を生み出したのは『蒸気王』だ。ならばその首を取るまで。
「『蒸気王』までの道は作ります」
 ミルトスは拳を握って呼吸を整える。『蒸気王』までの道を遮る歯車騎士団に向かい突撃し、呼気と共に拳を振るった。周りにいる味方の動きを意識しながら、出来るだけ多くの敵を打ち倒さんと体を動かす。自らが狙われることもカウンターのチャンスと割り切って。
「行ってください。ここを逃せば勝機は消えます!」
「はじめまして、蒸気王。自由騎士エルシー、お初お目にかかります!」
 ミルトスが開いた道を進む『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。龍の力を宿した籠手を握り、一気にチャールズ・バベッジに迫る。振るわれた剣の痛みに耐えながら、大地を踏みしめて拳を振るう。
「皆の努力を無駄にはしないわ。ここで王を討ち、この戦いを終わらせる!」
『蒸気王』に密着するようにしながらエルシーは拳を振るう。ここまで様々な自由騎士達が戦ってきた。ただひたすら前に。その結果、この拳は『蒸気王』に届く。それを無駄にすることはできない。勝負を決めるのは、今この瞬間だ。
「くらえ、スカーレット・インパクト!」
「見事だ。だが余を倒すには至らない。
 コマンド『誰が駒鳥を殺したの?』――全蒸気供給を一時的に中断。エンジン再起動」
 エルシーの攻撃を前に屈するかに見えた『蒸気王』だが、『アイオロスの球』の機構を一時的に停止し、自分自身の復活に用いる。
「エイト・ポーンの妨害が蓄積すれば、汝らの勢いも止まる。そうなれば汝らの進軍はお終いだ。
 自由騎士余よ汝らは勇猛果敢だ。神の蟲毒を推し進め、世界を掬おうとする意志は見事であった。だが意志だけで世界は変わらない」
 王の剣が近寄る自由騎士を裂き、生まれた炎がイ・ラプセルの騎士達を焼く。プロメテウスほどの殲滅力こそないが、『蒸気王』自身も自らを戦場に宛がうほどのスペックを有していることにはかわりない。
「せめてもの情けだ。誇りある死か、囚人となるかを選ばせてやろう」
「そのどっちもお断りだー!」
『蒸気王』の言葉に割り込んだのは『おにくくいたい』マリア・スティール(CL3000004)だ。二枚の盾で歯車騎士団を押しとどめながら『蒸気王』に語りかける。
「確かに長期戦になればオレらの負けだ。そしてアンタはそれを狙ってる。
 だったら長期戦にさせなければオレらの勝ち! どうだ!」
「然り。されど汝らにその策はない。アルス・マグナなりの破壊系デウスギアがあれば一打逆転はあろう。だが汝らにそれに類する兵器がない事は知っている」
 マリアの言葉に冷静に返す『蒸気王』。理路整然とした声。もはや決定された事柄を語るかのような、抑揚のない声。
「ばっきゃろー! 兵器なんかなくても、根性でどうにかするんだよ!」
「精神論か。どれだけ叫んでも余の策略を超える事はな――」
『蒸気王』の言葉が途中で止まる。マリアはそこに動揺の感情を見た。
「伝説の義賊、ロビンの死を原典とした詩か。確かに王としちゃあ、望ましい展開だよな!」
 弓の名手とも言われた義賊ロビン。王に逆らい民を救った義賊の死は、王族からすれば好ましい。駒鳥(クックロビン)を殺したのは誰か?
「『誰が駒鳥を殺したの?』の機能停止……! このようなことがあるはずが!?」
「英雄(ロビン)は死んでない! だから詩は始まらない! そういう事だ!
 ここで倒れておけ、『蒸気王』チャールズ・バベッジ!」
 マリアの起こした奇跡は、物理的な介入ではない。魔術的な介入ではない。
 皆が共有する『詩』と呼ばれる概念に介入し、そこから名前を通じて『蒸気王』の持つ機能を停止させたのだ。『アイオロスの球』を破壊したのではなく、機械のスイッチを入れても何も起きなかった。言葉にすればただそれだけだ。
 だが非物質的観点から見れば、大きな歪曲事象だ。
『詩』というキーワードを通じてヒトが意識できない領域――阿頼耶識と呼ばれる意識の深層にまで歪みを発生させる。駒鳥を殺したというエピソード自体を全人類から十数秒の間、マリアの解釈通りに認識させた。結果『誰が駒鳥を殺したのか?』に関する認識が<死>んだのだ。名前が<死>ぬことで、名付けられた物の意味も同様に存在しなくなる。
 当のマリア・スティール自身にその自覚はない。誰もその事に気付かない。誰がどう見ても、偶々マリアとの会話の途中で『蒸気王』が不慮の故障で膝をついたとしか見えないだろう。
 だが『蒸気王』とマリアだけは、理解こそできないが知っている。このやり取りこそが駒鳥を殺した雀の矢であることを。
「まさか……このようなことが……! 死ぬ……のは……!」
 膝を屈し、そのまま動かなくなる『蒸気王』。
「よっしゃあああああああああああああ!」
 勝鬨をあげるマリアの雄叫びが、この戦いの終わりを告げた。

●終戦。そして――
『蒸気王』瓦解により、歯車騎士団は浮足立つ。同時に『アイオロスの球』からの供給が途絶えたことで、歯車騎士団は混乱に陥った。
「逃げろー!」
「王を連れて撤退しろ!」
「ロンディアナまで退けー!」
 混乱の中、歯車騎士団の将軍たちが指示を出し、撤退を促す。自由騎士達を始めとしたイ・ラプセル騎士団は戦闘不能者の治療に一部を残し、まだ動ける者達は追撃隊としてロンディアナまで攻め込み――

「――なんだ、あれは……!?」

 ロンディアナまで迫ったイ・ラプセル騎士団達はそこにある光景に絶句する。
 蒸気機関により街の隅々まで蒸気が供給されるヘルメリアの首都、ロンディアナ。
 街の八方向から生えているクモのような脚。巨大な歯車が牙のように回転し、首都に逃げようとする歯車騎士団を――

「食った……のか?」

 歯車騎士団達もその首都の変貌にパニックを起こして逃げようとするが、大地ごと『それ』の歯車のような口に飲み込まれてしまう。逃げ延びた蒸気兵団も、プロメテウス/フォースも、王軍も。
 それは巨大な虫のようだった。あるいは巨大な蒸気機関だった。全体から黒煙を発し、ヤドガリのように『ロンディアナ』を背負った何か。
 今まで敵対していた歯車騎士団を一瞬で壊滅させた『それ』。このまま突撃すれば、食われた歯車騎士団の二の舞だろう。
『それ』はイ・ラプセルの騎士など気付かぬように北上していく。それを追う事もできたが……。
「……撤退だ」
 誰かが発したその言葉に、異論を発する者はいなかった。

 ――その日、ヘルメリアの首都、ロンディアナは地図上から消えた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『祈りは強く』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『王の顔を暴きし者』
取得者: クイニィー・アルジェント(CL3000178)
『戦場に舞う楽団』
取得者: コール・シュプレ(CL3000584)
『英雄は殺させない』
取得者: マリア・スティール(CL3000004)

†あとがき†

...to be Continued
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