MagiaSteam




Punish! 交差する正義と治安、そして正義!

●憲兵隊のお仕事
ヘルメリア陸軍憲兵科。端的に言えばヘルメリアの警察機構を司る組織である。
そこに増えつつある書類を見て、憲兵隊はうんざりとした声をあげていた。
「『奴隷強奪事件増加中!』……か」
「最近増えましたね、その手の事件。なんていうんでしたっけ、フリーヘンジンでしたか?」
「フリーエンジンな。ったく、俺達の仕事増やしやがって」
「ペース上がって来てますよね。前まではそれほどでもなかったのに」
憲兵隊の人間は、フリーエンジンと先月攻め込もうとしたイ・ラプセルの自由騎士が手を組んだことなど想像すらできない。彼らが湾岸で沈んだという報告は国中の人間が知っている。
「で、どうします? 一応捜索はしますけど、奴隷泥棒ぐらいじゃあまり捜査費降りませんよ」
「分かってるよ。でも八月には『スレイブマーケット』もあるんだ。不安は消しておかないと『協会』に嫌味言われちまう。
とりあえず『犯人』を用意しておくか」
「へーい。適当な亜人見繕ってきまーす。あと中央公園の使用許可書ですね」
数日後――
顔に布をかぶせられた十数名の亜人が街の中央公園に歩かされていた。
罪状は『連続奴隷強奪』『器物破損』『暴行』……要するにフリーエンジンの罪状だ。そして彼らはフリーエンジンとは全く無関係の奴隷である。
「彼らは事あろうか我々ノウブルに逆らい奴隷を強奪した亜人である! よってここに刑を執行する!」
そのまま彼らは絞首台に歩かされる。
この先にある運命を知りながら、しかし何の抵抗もできずに。
●フリーエンジン
「――という事が行われるようです」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は書類を手にして自由騎士達に説明を開始する。
「絞首台に陣取る歯車騎士団の数は一〇名。しかし襲撃を察知すれば街中から騎士団は増えてくるでしょう」
街はヘルメリアのホームグラウンドだ。そこで乱闘を起こせば、当然のように治安部隊が動き出す。
「素早く制圧し、そして逃げる。これが肝要です。退路は私が確保しておきますので、気兼ねなく戦ってください。
前までなら諦めていた案件です。正直、勝率は五分五分と言った所でしょう。それでもやってもらえますか?」
ジョンの言葉に、貴方は――
「……あとこれは未確認情報なのですが、蒸気騎士の一人が現場にいるようです。
ですが、憲兵隊ともめているらしく――」
●憲兵隊と騎士と
「罪を犯していない者を処刑するなど、あってはならない!」
蒸気騎士の鎧を着たまま、怒りの声をあげて憲兵隊に詰め寄るものがいた。
「何を言っている。罪状はきちんとここに――」
「それが偽造だという事は解っている! 如何に亜人とはいえ、罪科のないものを法で裁くなどと言う暴挙、見過ごすわけにはいかない!
罪科を裁く者は、常に中立でなければならない! 何物にも利用されてはいけないのだ!
「あー、面倒だなぁ。こいつはきちんと軍の許可を取ってある『仕事』なんだ。邪魔立てするなら、本部を通して上から言ってくれ」
「く! だったら蒸気伝書鳩を――」
「その伝書鳩も憲兵隊のモノだから、使うなら本部を通してくれ。
あと言うまでもないけど、その蒸気槍をこっちに向けたら反逆罪だからな」
蒸気騎士――マリオン・ドジソンは憲兵隊の態度に怒りつつも、その正当性にぐうの音も出なかった。
ヘルメリア陸軍憲兵科。端的に言えばヘルメリアの警察機構を司る組織である。
そこに増えつつある書類を見て、憲兵隊はうんざりとした声をあげていた。
「『奴隷強奪事件増加中!』……か」
「最近増えましたね、その手の事件。なんていうんでしたっけ、フリーヘンジンでしたか?」
「フリーエンジンな。ったく、俺達の仕事増やしやがって」
「ペース上がって来てますよね。前まではそれほどでもなかったのに」
憲兵隊の人間は、フリーエンジンと先月攻め込もうとしたイ・ラプセルの自由騎士が手を組んだことなど想像すらできない。彼らが湾岸で沈んだという報告は国中の人間が知っている。
「で、どうします? 一応捜索はしますけど、奴隷泥棒ぐらいじゃあまり捜査費降りませんよ」
「分かってるよ。でも八月には『スレイブマーケット』もあるんだ。不安は消しておかないと『協会』に嫌味言われちまう。
とりあえず『犯人』を用意しておくか」
「へーい。適当な亜人見繕ってきまーす。あと中央公園の使用許可書ですね」
数日後――
顔に布をかぶせられた十数名の亜人が街の中央公園に歩かされていた。
罪状は『連続奴隷強奪』『器物破損』『暴行』……要するにフリーエンジンの罪状だ。そして彼らはフリーエンジンとは全く無関係の奴隷である。
「彼らは事あろうか我々ノウブルに逆らい奴隷を強奪した亜人である! よってここに刑を執行する!」
そのまま彼らは絞首台に歩かされる。
この先にある運命を知りながら、しかし何の抵抗もできずに。
●フリーエンジン
「――という事が行われるようです」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は書類を手にして自由騎士達に説明を開始する。
「絞首台に陣取る歯車騎士団の数は一〇名。しかし襲撃を察知すれば街中から騎士団は増えてくるでしょう」
街はヘルメリアのホームグラウンドだ。そこで乱闘を起こせば、当然のように治安部隊が動き出す。
「素早く制圧し、そして逃げる。これが肝要です。退路は私が確保しておきますので、気兼ねなく戦ってください。
前までなら諦めていた案件です。正直、勝率は五分五分と言った所でしょう。それでもやってもらえますか?」
ジョンの言葉に、貴方は――
「……あとこれは未確認情報なのですが、蒸気騎士の一人が現場にいるようです。
ですが、憲兵隊ともめているらしく――」
●憲兵隊と騎士と
「罪を犯していない者を処刑するなど、あってはならない!」
蒸気騎士の鎧を着たまま、怒りの声をあげて憲兵隊に詰め寄るものがいた。
「何を言っている。罪状はきちんとここに――」
「それが偽造だという事は解っている! 如何に亜人とはいえ、罪科のないものを法で裁くなどと言う暴挙、見過ごすわけにはいかない!
罪科を裁く者は、常に中立でなければならない! 何物にも利用されてはいけないのだ!
「あー、面倒だなぁ。こいつはきちんと軍の許可を取ってある『仕事』なんだ。邪魔立てするなら、本部を通して上から言ってくれ」
「く! だったら蒸気伝書鳩を――」
「その伝書鳩も憲兵隊のモノだから、使うなら本部を通してくれ。
あと言うまでもないけど、その蒸気槍をこっちに向けたら反逆罪だからな」
蒸気騎士――マリオン・ドジソンは憲兵隊の態度に怒りつつも、その正当性にぐうの音も出なかった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.『スケープゴート』を死なせずに脱出させる
どくどくです。
正義、治安、そして軍隊。
●敵情報
・憲兵隊(×10~)
オラクル、ノウブル。正式名称は歯車騎士団陸軍憲兵科。最初は四等の現場指揮官4名と、五等の新兵6名で構成されています。
戦闘開始と同時に警報が街中に鳴り、5ターンごとに四等1人と五等3人の憲兵隊が敵後衛に乱入してきます。
・四等憲兵
そこそこ経験を積んだ現場指揮官です。ガンナーのランク2までのスキルを活性化しています。
・五等憲兵
現場配属間もない新兵です。とはいえ訓練はつんでいるためけして弱い相手ではありません。ランク1までの軽戦士のスキルを活性化しています。
・『熱血槍』マリオン(×1)
ノウブル。歯車騎士団。厳めしい蒸気機関で動く鎧を着た騎士です。罪なき者を裁くことに反対ですが、軍務には従います。そのため、自由騎士の乱入には対応します。
なおここでマリオンに自由騎士生存がバレても、上層部は全く信用しません。むしろ海軍の業務に逆らった言い訳と切って捨てられるでしょう。
街中なので派手な武装は使わず、先端射出による遠距離攻撃可能(ノックバック付与)な蒸気槍『ホワイトラビット』とのみで戦います。
●NPC
『スケープゴート』
フリーエンジンの代わりに処刑されそうになっている奴隷達です。十数名いますが、一塊のキャラとして扱います。ある程度のダメージを受けると、死亡します。
手錠でつながれて布で顔を覆われているため、その状態を解除しないと身動き一つとれません。声すら聞こえないでしょう。テレパスなどで語りかけても味方とさえ認識できません。同エンゲージに移動し、行動を消費することで全員の拘束を解くことが出来ます。そうすれば自発的に行動できます。
弱っているため走ることが出来ず、行動は通常移動しかできません。全員を抱えて移動するなら、最低でも五人は必要でしょう。彼らが『味方後衛』から移動をして戦闘圏外に出る事が出来れば、依頼は成功となります。
当たり前ですが、歯車騎士団は彼らを逃がすまいと(最悪は逃亡罪の名目で殺そうと)します。
●場所情報
ヘルメリアの街『サウスコート』。その中央公園。そこに作られた絞首台近くで戦います。時刻は昼。広さや足場は戦場に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『五等憲兵(×6)』『マリオン』、敵後衛に『四等憲兵(×4)』『スケープゴート』がいます。
事前付与は急いでいるため、不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
正義、治安、そして軍隊。
●敵情報
・憲兵隊(×10~)
オラクル、ノウブル。正式名称は歯車騎士団陸軍憲兵科。最初は四等の現場指揮官4名と、五等の新兵6名で構成されています。
戦闘開始と同時に警報が街中に鳴り、5ターンごとに四等1人と五等3人の憲兵隊が敵後衛に乱入してきます。
・四等憲兵
そこそこ経験を積んだ現場指揮官です。ガンナーのランク2までのスキルを活性化しています。
・五等憲兵
現場配属間もない新兵です。とはいえ訓練はつんでいるためけして弱い相手ではありません。ランク1までの軽戦士のスキルを活性化しています。
・『熱血槍』マリオン(×1)
ノウブル。歯車騎士団。厳めしい蒸気機関で動く鎧を着た騎士です。罪なき者を裁くことに反対ですが、軍務には従います。そのため、自由騎士の乱入には対応します。
なおここでマリオンに自由騎士生存がバレても、上層部は全く信用しません。むしろ海軍の業務に逆らった言い訳と切って捨てられるでしょう。
街中なので派手な武装は使わず、先端射出による遠距離攻撃可能(ノックバック付与)な蒸気槍『ホワイトラビット』とのみで戦います。
●NPC
『スケープゴート』
フリーエンジンの代わりに処刑されそうになっている奴隷達です。十数名いますが、一塊のキャラとして扱います。ある程度のダメージを受けると、死亡します。
手錠でつながれて布で顔を覆われているため、その状態を解除しないと身動き一つとれません。声すら聞こえないでしょう。テレパスなどで語りかけても味方とさえ認識できません。同エンゲージに移動し、行動を消費することで全員の拘束を解くことが出来ます。そうすれば自発的に行動できます。
弱っているため走ることが出来ず、行動は通常移動しかできません。全員を抱えて移動するなら、最低でも五人は必要でしょう。彼らが『味方後衛』から移動をして戦闘圏外に出る事が出来れば、依頼は成功となります。
当たり前ですが、歯車騎士団は彼らを逃がすまいと(最悪は逃亡罪の名目で殺そうと)します。
●場所情報
ヘルメリアの街『サウスコート』。その中央公園。そこに作られた絞首台近くで戦います。時刻は昼。広さや足場は戦場に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『五等憲兵(×6)』『マリオン』、敵後衛に『四等憲兵(×4)』『スケープゴート』がいます。
事前付与は急いでいるため、不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
3個
7個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年07月31日
2019年07月31日
†メイン参加者 8人†
●
「僕達の行動の結果がこうした形になってしまうとはね」
『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は悔いるように拳を握る。自分の行動の結果、無関係な亜人に恐怖を与えてしまった事を後悔していた。だが今は足を止めている余裕はない。今できる事を行わなくては。
「こうやって奴隷達を利用されてしまうと、私達は動かざるを得ないですね」
二刀を手に『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はため息をつく。無辜の存在が国の悪意によって失われる。そのような事をアリアは認めることはできなかった。例えそれが枷になると分かっていても。
「私達の身代わりで処刑されそうになっているわけだから、見捨てるわけにはいかないわね」
うん、と頷き『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は籠手を装着する。敵国の街中。憲兵隊の数は多く、逃がすべき対象は敵陣の中。不利な事ばかりだが、だからと言って諦めるつもりはない。
「しかし同じヘルメリアの軍人でもああも違うものか」
言い争いをしている蒸気騎士と憲兵隊を見ながら『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は思考する。奴隷を当然とする国でも、その扱いは千差万別と言った所か。
「あの齟齬を上手く使えれば……まあ時間がなかったかな、今回は」
『博学の君』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は冷静に状況を見定め、その後で肩をすくめる。時間さえかければ仲たがいを起こさせるなり不意打ちをするなりの策はできただろう。無理なものは無理、と諦める。
「どうしてこのような事が出来るのでしょうか……許せません!」
小さく、しかししっかりと怒りの声をあげる『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)。知識があり会話もできる相手を自分より下に見て、あまつさえ無実の罪を着せて殺すなんで。それをおかしいと思わないのが許せなかった。
「このような非道が許されていいわけがありません……」
祈るように手を組み合わせて『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は涙を流す。これがヘルメリアの治安で、ヘルメリアの平和なのだ。亜人の命を何とも思わない社会。それ自体に涙する。
「……ま、それがヘルメリアなんだよな」
不条理に怒る自由騎士達を見て、ため息をつく『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。亜人の命はノウブルのモノ。どう扱われるかはノウブル次第。そうすることで発展した蒸気機関国家。繁栄はノウブルの為に――
作戦を再確認し、タイミングを計る自由騎士。武器を抜き、処刑台に向かう奴隷の方に走る。
「――襲撃か!」
歯車騎士団の一人が気付き、警報が鳴る。処刑を見に来た人たちは蜘蛛の子を散らすように離れ、憲兵隊と蒸気騎士はそれぞれの武器を構える。
罪なき亜人を救う戦いの火蓋が、きって落とされた。
●
「来るぞ! 訓練通りに行け!」
歯車騎士団の号令と共に五等憲兵の動きが増す。自由騎士の行動よりも一手先に自己強化を完了させ、戦闘に移行した。
「なんだ!? あの付与の早さは!」
「歯車騎士団全員があのタイミングで動いた。推測じゃが、あれは権能のようじゃな」
「シャンバラの『神の寵愛』のようなものか」
予想外の事に驚く自由騎士だが、今更足を止める余裕はない。作戦通りに動き出す。
「救いましょう……一人でも多く!」
アンジェリカの叫びは自由騎士の叫びそのもの。そのまま『断罪と救済の十字架』と『贖罪と解放の大剣』を手に歯車騎士団に疾駆する。そのまま武器を構えて力強く踏み込んだ。裂帛の叫びと共に旋風のような一撃を見舞う。
「罪なき者に咎を与える……! それが国を治める騎士のやることですか!」
「奴隷はモノなんだ。こういう事に利用していいんだよ」
「悲しすぎます……! 正しい心を持ちながら、しかしその足が亜人を虐げる方を向くなんて! 貴方達もこの社会の在り方の犠牲者なのです!」
奴隷を良しとし、物同然に扱う。それがまかり通る社会の倫理に染まった兵士達。それを見て、アンジェリカは悔やむように涙を流す。
「そんな世界は間違っている……!」
アダムは目の前の現実に苦虫を潰したような表情を浮かべる。憲兵隊は間違いなく『善性』で国を守ろうとしている。その守るべき対象の中に、亜人のことはない。それを考慮できない間違いを、アダムは許容できなかった。
アダムのキジンボディか撃ち放たれる弾丸。それは雨のように戦場に振り、歯車騎士団を傷つけていく。視界の端に処刑されそうになる奴隷達が見えた。彼らはこの国の希望となる。そんな彼らを無実の罪で殺させやしない。
「大人しく道を開けるなら傷つけはしない! だが、邪魔立てするなら――」
「そう言われて、はいそうですかとと通すわけがないだろうが!」
「なら押し通すまでよ」
流れるような動きでエルシーが憲兵隊の懐にもぐりこむ。慌てて距離を開けようとする憲兵隊を追うように体重を移動させ、拳を突き出した。どん、と言う音と共に衝撃を伝え、その後ろに居る四等憲兵隊を巻き込んで打撃を加えた。
「貴様、その動き、その籠手! まさかあの時の自由騎士――!」
エルシーの動きに蒸気騎士マリオンは何かに気付いたかのように声をあげる。
「他人のそら似……と言ってごまかせる状況じゃなさそうね。そうよ、あんな攻撃じゃ私を海の藻屑にするのは到底無理ってことよ!」
「犯罪組織に身を預けたか! 生きるためとはいえ騎士としてあまりに苦渋の選択! 投降するなら捕虜として貴国に送還することもできる! 大人しく拳を引け!」
「ふむ、敵を心配するとはこやつ掛け値なしの騎士じゃな。……ま、エルシーがノウブルだからじゃろうが」
マリオンの言葉を聞き、シノピリカはむぅと考える。敵国の中にも自分に似た軍人気質の者がいることは、やや好感が持てた。とはいえ現状的であることには変わりない。マリオンの足を止めるように真正面に立ち、軍刀を振るう。
「我が名は……そう、シノとでも名乗っておこうか! 自由を愛する謎の女騎士、シノである! 見知り置け!」
「蒸気騎士マリオン! 自由の為に治安を乱すことは許されない!」
「うむ、その信念見事なり! 汝が治安を求めるなら無実の者に刃を向けるのは留まってほしい!」
「無論! このマリオンの槍はヘルメリアの民を守るためにある!」
打ち交わされる言葉と武器。激しい剣戟と正義がぶつかり合う。
「そこまで強い正義を抱いているのに、どうしてそれを亜人の方に向けられないんですか!」
声を張り上げてマリオンに叫ぶフーリィン。まるで馬車馬を扱うように亜人を酷使するヘルメリア。少し目を向ければ多くの涙と血を見る事が出来る。そして亜人本人さえもそれを仕方ないと諦める状況。フーリィンはそれを認める事が出来なかった。
「彼らはノウブルと同じように物を考えて、言葉を交わせて、手を取り合う事が出来るんです!」
「だからこそ奴隷と言う立場で彼らを受け入れ、社会に組み込んでいるんだ!」
「何故亜人を平等に扱おうと思わないのですか! 自分の大事なヒトが、そのように扱われたら悲しいと思わないのですか!」
「無駄だぜ、嬢ちゃん。それがこの国なんだ」
フーリィンの言葉を止めるニコラス。気持ちは充分に理解できるが、その言葉が届くならこんなことにはなっていない。平等を切り捨て、富む者がさらに富を蓄える。それをいまさら切り捨てられはしないのだ。
「スレイブマーケットに向けての治安安定。その為にこんな芝居を打ったわけか」
「まさか本当にフリーエンジンが現れるとはな。戦力を増したと思っていたが、のこのこやってくるとは思わなかったぞ!」
「全くだ。おじさんは楽したいんだけどね」
歯車騎士団と言い合いながらニコラスは時計と戦況を確認する。増援が来るタイミングと、敵の疲弊具合。そこから奴隷達救出のタイミングを計っていた。
「殲滅ペースは早いけど、増援までには間に合わないかな」
冷静に状況を見ながら判断するアクアリス。作戦の目的を念頭に置き、その為に何が必要なのかを計算する。感情に流されることなく現実的に物事を判断する。それが自分の役割だと自分自身に言い聞かせた。
戦場を注視しながら、周囲のマナを体内に取り入れる。そのマナを用いて回復の術式を展開し、それを解き放った。白く優しい波動がアクアリスを中心に展開され、自由騎士の者達を癒していく。
「救出タイミングはおおよそ一分後かな。さて、そこからスピード勝負だ」
「上手く行くよう、頑張りましょう」
刃を振るいながらアリアは頷く。相手は国の騎士団。けして舐めてかかれる相手ではない。長く戦えば疲弊して力尽きるのはこちらの方だ。呼吸を整えながらしかし足を止めずにアリアは戦場を舞う。
両手の剣に意識を向け、マナを纏わせる。蒼のマナと白のマナ。二種のマナを同時に扱いながら、舞うように戦場を駆け抜ける。見る者を魅了する動きと鮮烈な一撃。アリアの動きは歯車騎士団の敵意を一瞬奪い、その場に足止めする。
「私達の邪魔はさせません! 彼らは解放させてもらいます!」
「そうはいくか! お前らを捕まえて縛り首にしてやる!」
アリアの言葉に答える憲兵達。本物のフリーエンジンを捕らえる事が出来れば、それに越したことはない。
戦いは信念と共に激化していく。
●
「テロリストを一掃しろ!」
歯車騎士団の練度は決して低くはない。少なくとも山賊海賊などとは比較にならないほどの訓練を積んでいる。その攻撃が自由騎士達を襲う。その銃弾がアンジェリカ、アリア。そして回復を行うアクアリスとフーリィンのフラグメンツを削る。
「そのまま倒れるなら、騎士として汝の身柄を約束しよう!」
そしてマリオンの一撃でシノピリカも膝をつく。シノピリカは断わるとばかりにフラグメンツを燃やして立ち上がり、軍刀を構えなおした。
だが、自由騎士達も負けてはいない。憲兵隊の数名を伏し、処刑される奴隷達への道を開く。
「アダム、ニコラスさん、行って! ここは私達に任せて!」
「そいつはどっちかが死にそうな流れだなぁ」
「一度言ってみたかったのよ!」
そんな会話をしながらエルシーは親指を立て、ニコラスとアダムは奴隷達の元に向かう。ニコラスは針金を用いて慣れた手つきで手錠を外していく。
「無実の罪を君達に着せる事になってしまい、本当にすまない」
アダムは奴隷を守りながら、真摯に言葉を放つ。
「今だけはどうか僕達に君達を救わせて欲しい。どうか、頼む」
「見ての通り、俺も亜人でな。動揺するのは分かるが、死ぬよりかはマシって思って付いてきちゃくれないか?」
動揺する奴隷達にニコラスが言葉を重ねた。
「……ま、俺も似た境遇だったわけよ。それでもこうして立っている。お前達だってできるさ」
二人の言葉に促されるように奴隷達はよたよたと移動を始める。
「逃がすな! テロリストごと撃て!」
歯車騎士団の火力はアダムとニコラスに向けられる。激しい銃弾でニコラスは意識を失い、アダムのフラグメンツも削られた。だらり、とアダムの機械の左腕が垂れる。
「ニコラスさん!」
アダムは倒れたニコラスを抱えながら戦うが、増援の歯車騎士団に阻まれる形で退路を失う。この数を突破しない限り、逃げ場はない状況だ。
「兎に角回復だ。あそこで彼に倒れられたら希望も何もない」
アクアリスはアダムに向けて回復術式を放つ。奴隷を守る要となるアダムが倒れれば、勝機はない。残酷だが奴隷達の何人かを見捨ててでも仲間の身柄は確保しなくてはいけない。その判断は最悪になる前に下さなければいけないと自分に言い聞かせた。
「足は止めてみせます!」
アリアは魔力の渦を放って歯車騎士団の動きを制限する。これでアダムと奴隷達を足止めすることはできなくなったが、それでも攻撃はできる。アリア自身も歯車騎士団に深く傷つけられ、油断できない状況となっていた。
「彼らに手出しは……させ、ない……!」
最後まで奴隷を庇っていたアダムだが、蒸気騎士が射出した槍の先端を受けて気を失う。キジンの四肢は遠目で見ても分かるほどに破損し、頭から血を流している。それでも一歩も引くことなく、奴隷達を守り続けていたのだ。
「私が入るわ! アダムとニコラスさんをお願い!」
奴隷と自由騎士の身柄を確保しようとする歯車騎士団に割ってはいるエルシー。他の仲間に倒れた自由騎士を運ぶように指示しながら、エルシーは奴隷達を守るように立ち回る。激しい一撃でフラグメンツが削られるが、それでも闘志は揺るがない。
「ええい、数が多い! まとめて伏してくれよう!」
最前線で憲兵隊を留めているシノピリカが愚痴るように叫ぶ。広範囲を攻撃する動きでまとめて歯車騎士団を攻撃するが、殲滅には至らない。肩で息をしながら自分自身を鼓舞するように声をあげる。
「主よ。願わくば慈悲を……!」
祈るように呟いて、武器を振るうアンジェリカ。三連撃の攻撃は強力だがその分気力を削る。マナをかき集める魔具で少しずつ気力は回復するが、それでも十分とは言えない。このタイミングで大技が出せないことは悔やまれると自戒するアンジェリカ。
「少し無理をします!」
フーリィンは言って自分自身の体調維持に使っている魔力を削り、味方を強く癒していく。貧血に似た倦怠感が体を襲うが、何とか足を踏みとどまって耐えた。しばらくは辛いだろうなぁ、と他人事のように思いながらそれでも戦況を維持できたことを喜んでいた。
少しずつだが、奴隷達は自由騎士の示す方向に走っていく。そして逃がすまいと歯車騎士団も攻撃の手を休めずにいた。
「あ、もう……!」
「く……っ! ここまで、ですか」
「は、ぅ……」
奴隷達を守っていたエルシーと、憲兵隊を相手していたアンジェリカとアリアが銃弾を受けて気を失う。だがその間に奴隷達は何とか戦闘圏外に脱出していた。同時に戦場に煙幕が投げ込まれ、憲兵隊の視界を奪う。
「こっちだ!」
「追手は僕が足止めするよ」
サポートに来ていたクマのケモノビトとマザリモノの錬金術師のサポートで退路を確保する。自由騎士達は倒れている者達を抱え、走り出す。
「蒸気騎士マリオン! このような理不尽がまかり通って良いのか!? 無実の者に全てを押し付け、知らぬ顔をする! 亜人だからと、ただそれだけの理由で!」
去り際にシノピリカがマリオンに向かって叫ぶ。
「無辜の民が処罰されなかったことは感謝する! だが汝らの所業を騎士として赦すわけにはいかない! 犯罪に怯え、夜も眠れぬ民を安堵させるためにも!」
(うーん、言い分はすっげー理解できるのぅ。と言うか、ワシら盗人スーパー猛々しいな)
マリオンの答えに心の中で呟くシノピリカ。逆の立場なら自分だってそう言うだろう。
「誰かの犠牲を、当たり前だと思わないで! 亜人だって、生きているんです!」
気を失いそうになるほどのめまいの中、フーリィンが振り返ってマリオンに向かって叫ぶ。
「言われるまでもない! だからこそ彼らを生かすために奴隷制度が――」
「いいえ、いいえ! そんなことしなくてもいいんです! ノウブルが上で、亜人が下じゃなくてもいいんです! 身分なんてなくても、私たちは手を取り合えるんです!」
届かない事は分かっていた。理解されない事は分かっていた。それでもフーリィンは叫びたかった。声をあげて、そんなことはおかしいと。
風が吹き、煙幕が晴れる。
そこにはもう、自由騎士達の姿はなかった。
●
奴隷達に幾分かの傷はあるが、それでも致命的な傷を負っている者はいなかった。
自由騎士側の損傷は激しい。奴隷を庇ったアダムとエルシーは深手を負い、他の者も決して軽くはない。全員がフラグメンツを削られており、一手戦術を誤れば崩壊の危機もあった。最悪、身柄を拘束されていただろう。
それでも、自由騎士の働きにより奴隷達を救い出すことが出来た。
「デザイア――君達はもう奴隷じゃない。ヘルメリアの希望となるんだ」
助けられた亜人達は、その意味をまだ理解はしていないだろう。だがいずれ分かる時が来る――
「自由騎士はあの海峡の戦いで敗退した。ヘルメリア内に居るわけがない」
歯車騎士団の上層部は、マリオンの報告を一蹴した。
「しかし!」
「いいか、ドジソン四等。あの戦いにおいて蒸気騎士の優位性は確立された。シャンバラを討ち滅ぼし、ミトラースを討ったオラクル兵団を壊滅させたことが看板となっているのだ。
それが為されていない、となれば蒸気騎士の立場は悪くなる。それにより予算が減れば、蒸気鎧増産の計画もなくなってしまうのだ」
「ヘルメリアに不安の種が入り込んでいるのですよ!」
「不安? 所詮は奴隷解放組織に頼る程度の人数だ。歯車騎士団に対抗できる数ではない。
いずれ居場所を突き止め、まとめて殲滅すればいい。以上だ。それよりも憲兵隊の方から来た苦情の方が――」
(わかってはいたが、駄目か……! 彼らは早急に手を打たないと、大事になるというのに!)
上司の小言を聞きながら、マリオンは自由騎士に対し危機感を抱いていた。それは根拠のない勘のようなものだ。だが、それの危機感を拭い去ることはできなかった。
自由騎士達はヘルメリアを揺るがしかねない。その想いを――
「僕達の行動の結果がこうした形になってしまうとはね」
『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は悔いるように拳を握る。自分の行動の結果、無関係な亜人に恐怖を与えてしまった事を後悔していた。だが今は足を止めている余裕はない。今できる事を行わなくては。
「こうやって奴隷達を利用されてしまうと、私達は動かざるを得ないですね」
二刀を手に『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はため息をつく。無辜の存在が国の悪意によって失われる。そのような事をアリアは認めることはできなかった。例えそれが枷になると分かっていても。
「私達の身代わりで処刑されそうになっているわけだから、見捨てるわけにはいかないわね」
うん、と頷き『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は籠手を装着する。敵国の街中。憲兵隊の数は多く、逃がすべき対象は敵陣の中。不利な事ばかりだが、だからと言って諦めるつもりはない。
「しかし同じヘルメリアの軍人でもああも違うものか」
言い争いをしている蒸気騎士と憲兵隊を見ながら『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は思考する。奴隷を当然とする国でも、その扱いは千差万別と言った所か。
「あの齟齬を上手く使えれば……まあ時間がなかったかな、今回は」
『博学の君』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は冷静に状況を見定め、その後で肩をすくめる。時間さえかければ仲たがいを起こさせるなり不意打ちをするなりの策はできただろう。無理なものは無理、と諦める。
「どうしてこのような事が出来るのでしょうか……許せません!」
小さく、しかししっかりと怒りの声をあげる『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)。知識があり会話もできる相手を自分より下に見て、あまつさえ無実の罪を着せて殺すなんで。それをおかしいと思わないのが許せなかった。
「このような非道が許されていいわけがありません……」
祈るように手を組み合わせて『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は涙を流す。これがヘルメリアの治安で、ヘルメリアの平和なのだ。亜人の命を何とも思わない社会。それ自体に涙する。
「……ま、それがヘルメリアなんだよな」
不条理に怒る自由騎士達を見て、ため息をつく『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。亜人の命はノウブルのモノ。どう扱われるかはノウブル次第。そうすることで発展した蒸気機関国家。繁栄はノウブルの為に――
作戦を再確認し、タイミングを計る自由騎士。武器を抜き、処刑台に向かう奴隷の方に走る。
「――襲撃か!」
歯車騎士団の一人が気付き、警報が鳴る。処刑を見に来た人たちは蜘蛛の子を散らすように離れ、憲兵隊と蒸気騎士はそれぞれの武器を構える。
罪なき亜人を救う戦いの火蓋が、きって落とされた。
●
「来るぞ! 訓練通りに行け!」
歯車騎士団の号令と共に五等憲兵の動きが増す。自由騎士の行動よりも一手先に自己強化を完了させ、戦闘に移行した。
「なんだ!? あの付与の早さは!」
「歯車騎士団全員があのタイミングで動いた。推測じゃが、あれは権能のようじゃな」
「シャンバラの『神の寵愛』のようなものか」
予想外の事に驚く自由騎士だが、今更足を止める余裕はない。作戦通りに動き出す。
「救いましょう……一人でも多く!」
アンジェリカの叫びは自由騎士の叫びそのもの。そのまま『断罪と救済の十字架』と『贖罪と解放の大剣』を手に歯車騎士団に疾駆する。そのまま武器を構えて力強く踏み込んだ。裂帛の叫びと共に旋風のような一撃を見舞う。
「罪なき者に咎を与える……! それが国を治める騎士のやることですか!」
「奴隷はモノなんだ。こういう事に利用していいんだよ」
「悲しすぎます……! 正しい心を持ちながら、しかしその足が亜人を虐げる方を向くなんて! 貴方達もこの社会の在り方の犠牲者なのです!」
奴隷を良しとし、物同然に扱う。それがまかり通る社会の倫理に染まった兵士達。それを見て、アンジェリカは悔やむように涙を流す。
「そんな世界は間違っている……!」
アダムは目の前の現実に苦虫を潰したような表情を浮かべる。憲兵隊は間違いなく『善性』で国を守ろうとしている。その守るべき対象の中に、亜人のことはない。それを考慮できない間違いを、アダムは許容できなかった。
アダムのキジンボディか撃ち放たれる弾丸。それは雨のように戦場に振り、歯車騎士団を傷つけていく。視界の端に処刑されそうになる奴隷達が見えた。彼らはこの国の希望となる。そんな彼らを無実の罪で殺させやしない。
「大人しく道を開けるなら傷つけはしない! だが、邪魔立てするなら――」
「そう言われて、はいそうですかとと通すわけがないだろうが!」
「なら押し通すまでよ」
流れるような動きでエルシーが憲兵隊の懐にもぐりこむ。慌てて距離を開けようとする憲兵隊を追うように体重を移動させ、拳を突き出した。どん、と言う音と共に衝撃を伝え、その後ろに居る四等憲兵隊を巻き込んで打撃を加えた。
「貴様、その動き、その籠手! まさかあの時の自由騎士――!」
エルシーの動きに蒸気騎士マリオンは何かに気付いたかのように声をあげる。
「他人のそら似……と言ってごまかせる状況じゃなさそうね。そうよ、あんな攻撃じゃ私を海の藻屑にするのは到底無理ってことよ!」
「犯罪組織に身を預けたか! 生きるためとはいえ騎士としてあまりに苦渋の選択! 投降するなら捕虜として貴国に送還することもできる! 大人しく拳を引け!」
「ふむ、敵を心配するとはこやつ掛け値なしの騎士じゃな。……ま、エルシーがノウブルだからじゃろうが」
マリオンの言葉を聞き、シノピリカはむぅと考える。敵国の中にも自分に似た軍人気質の者がいることは、やや好感が持てた。とはいえ現状的であることには変わりない。マリオンの足を止めるように真正面に立ち、軍刀を振るう。
「我が名は……そう、シノとでも名乗っておこうか! 自由を愛する謎の女騎士、シノである! 見知り置け!」
「蒸気騎士マリオン! 自由の為に治安を乱すことは許されない!」
「うむ、その信念見事なり! 汝が治安を求めるなら無実の者に刃を向けるのは留まってほしい!」
「無論! このマリオンの槍はヘルメリアの民を守るためにある!」
打ち交わされる言葉と武器。激しい剣戟と正義がぶつかり合う。
「そこまで強い正義を抱いているのに、どうしてそれを亜人の方に向けられないんですか!」
声を張り上げてマリオンに叫ぶフーリィン。まるで馬車馬を扱うように亜人を酷使するヘルメリア。少し目を向ければ多くの涙と血を見る事が出来る。そして亜人本人さえもそれを仕方ないと諦める状況。フーリィンはそれを認める事が出来なかった。
「彼らはノウブルと同じように物を考えて、言葉を交わせて、手を取り合う事が出来るんです!」
「だからこそ奴隷と言う立場で彼らを受け入れ、社会に組み込んでいるんだ!」
「何故亜人を平等に扱おうと思わないのですか! 自分の大事なヒトが、そのように扱われたら悲しいと思わないのですか!」
「無駄だぜ、嬢ちゃん。それがこの国なんだ」
フーリィンの言葉を止めるニコラス。気持ちは充分に理解できるが、その言葉が届くならこんなことにはなっていない。平等を切り捨て、富む者がさらに富を蓄える。それをいまさら切り捨てられはしないのだ。
「スレイブマーケットに向けての治安安定。その為にこんな芝居を打ったわけか」
「まさか本当にフリーエンジンが現れるとはな。戦力を増したと思っていたが、のこのこやってくるとは思わなかったぞ!」
「全くだ。おじさんは楽したいんだけどね」
歯車騎士団と言い合いながらニコラスは時計と戦況を確認する。増援が来るタイミングと、敵の疲弊具合。そこから奴隷達救出のタイミングを計っていた。
「殲滅ペースは早いけど、増援までには間に合わないかな」
冷静に状況を見ながら判断するアクアリス。作戦の目的を念頭に置き、その為に何が必要なのかを計算する。感情に流されることなく現実的に物事を判断する。それが自分の役割だと自分自身に言い聞かせた。
戦場を注視しながら、周囲のマナを体内に取り入れる。そのマナを用いて回復の術式を展開し、それを解き放った。白く優しい波動がアクアリスを中心に展開され、自由騎士の者達を癒していく。
「救出タイミングはおおよそ一分後かな。さて、そこからスピード勝負だ」
「上手く行くよう、頑張りましょう」
刃を振るいながらアリアは頷く。相手は国の騎士団。けして舐めてかかれる相手ではない。長く戦えば疲弊して力尽きるのはこちらの方だ。呼吸を整えながらしかし足を止めずにアリアは戦場を舞う。
両手の剣に意識を向け、マナを纏わせる。蒼のマナと白のマナ。二種のマナを同時に扱いながら、舞うように戦場を駆け抜ける。見る者を魅了する動きと鮮烈な一撃。アリアの動きは歯車騎士団の敵意を一瞬奪い、その場に足止めする。
「私達の邪魔はさせません! 彼らは解放させてもらいます!」
「そうはいくか! お前らを捕まえて縛り首にしてやる!」
アリアの言葉に答える憲兵達。本物のフリーエンジンを捕らえる事が出来れば、それに越したことはない。
戦いは信念と共に激化していく。
●
「テロリストを一掃しろ!」
歯車騎士団の練度は決して低くはない。少なくとも山賊海賊などとは比較にならないほどの訓練を積んでいる。その攻撃が自由騎士達を襲う。その銃弾がアンジェリカ、アリア。そして回復を行うアクアリスとフーリィンのフラグメンツを削る。
「そのまま倒れるなら、騎士として汝の身柄を約束しよう!」
そしてマリオンの一撃でシノピリカも膝をつく。シノピリカは断わるとばかりにフラグメンツを燃やして立ち上がり、軍刀を構えなおした。
だが、自由騎士達も負けてはいない。憲兵隊の数名を伏し、処刑される奴隷達への道を開く。
「アダム、ニコラスさん、行って! ここは私達に任せて!」
「そいつはどっちかが死にそうな流れだなぁ」
「一度言ってみたかったのよ!」
そんな会話をしながらエルシーは親指を立て、ニコラスとアダムは奴隷達の元に向かう。ニコラスは針金を用いて慣れた手つきで手錠を外していく。
「無実の罪を君達に着せる事になってしまい、本当にすまない」
アダムは奴隷を守りながら、真摯に言葉を放つ。
「今だけはどうか僕達に君達を救わせて欲しい。どうか、頼む」
「見ての通り、俺も亜人でな。動揺するのは分かるが、死ぬよりかはマシって思って付いてきちゃくれないか?」
動揺する奴隷達にニコラスが言葉を重ねた。
「……ま、俺も似た境遇だったわけよ。それでもこうして立っている。お前達だってできるさ」
二人の言葉に促されるように奴隷達はよたよたと移動を始める。
「逃がすな! テロリストごと撃て!」
歯車騎士団の火力はアダムとニコラスに向けられる。激しい銃弾でニコラスは意識を失い、アダムのフラグメンツも削られた。だらり、とアダムの機械の左腕が垂れる。
「ニコラスさん!」
アダムは倒れたニコラスを抱えながら戦うが、増援の歯車騎士団に阻まれる形で退路を失う。この数を突破しない限り、逃げ場はない状況だ。
「兎に角回復だ。あそこで彼に倒れられたら希望も何もない」
アクアリスはアダムに向けて回復術式を放つ。奴隷を守る要となるアダムが倒れれば、勝機はない。残酷だが奴隷達の何人かを見捨ててでも仲間の身柄は確保しなくてはいけない。その判断は最悪になる前に下さなければいけないと自分に言い聞かせた。
「足は止めてみせます!」
アリアは魔力の渦を放って歯車騎士団の動きを制限する。これでアダムと奴隷達を足止めすることはできなくなったが、それでも攻撃はできる。アリア自身も歯車騎士団に深く傷つけられ、油断できない状況となっていた。
「彼らに手出しは……させ、ない……!」
最後まで奴隷を庇っていたアダムだが、蒸気騎士が射出した槍の先端を受けて気を失う。キジンの四肢は遠目で見ても分かるほどに破損し、頭から血を流している。それでも一歩も引くことなく、奴隷達を守り続けていたのだ。
「私が入るわ! アダムとニコラスさんをお願い!」
奴隷と自由騎士の身柄を確保しようとする歯車騎士団に割ってはいるエルシー。他の仲間に倒れた自由騎士を運ぶように指示しながら、エルシーは奴隷達を守るように立ち回る。激しい一撃でフラグメンツが削られるが、それでも闘志は揺るがない。
「ええい、数が多い! まとめて伏してくれよう!」
最前線で憲兵隊を留めているシノピリカが愚痴るように叫ぶ。広範囲を攻撃する動きでまとめて歯車騎士団を攻撃するが、殲滅には至らない。肩で息をしながら自分自身を鼓舞するように声をあげる。
「主よ。願わくば慈悲を……!」
祈るように呟いて、武器を振るうアンジェリカ。三連撃の攻撃は強力だがその分気力を削る。マナをかき集める魔具で少しずつ気力は回復するが、それでも十分とは言えない。このタイミングで大技が出せないことは悔やまれると自戒するアンジェリカ。
「少し無理をします!」
フーリィンは言って自分自身の体調維持に使っている魔力を削り、味方を強く癒していく。貧血に似た倦怠感が体を襲うが、何とか足を踏みとどまって耐えた。しばらくは辛いだろうなぁ、と他人事のように思いながらそれでも戦況を維持できたことを喜んでいた。
少しずつだが、奴隷達は自由騎士の示す方向に走っていく。そして逃がすまいと歯車騎士団も攻撃の手を休めずにいた。
「あ、もう……!」
「く……っ! ここまで、ですか」
「は、ぅ……」
奴隷達を守っていたエルシーと、憲兵隊を相手していたアンジェリカとアリアが銃弾を受けて気を失う。だがその間に奴隷達は何とか戦闘圏外に脱出していた。同時に戦場に煙幕が投げ込まれ、憲兵隊の視界を奪う。
「こっちだ!」
「追手は僕が足止めするよ」
サポートに来ていたクマのケモノビトとマザリモノの錬金術師のサポートで退路を確保する。自由騎士達は倒れている者達を抱え、走り出す。
「蒸気騎士マリオン! このような理不尽がまかり通って良いのか!? 無実の者に全てを押し付け、知らぬ顔をする! 亜人だからと、ただそれだけの理由で!」
去り際にシノピリカがマリオンに向かって叫ぶ。
「無辜の民が処罰されなかったことは感謝する! だが汝らの所業を騎士として赦すわけにはいかない! 犯罪に怯え、夜も眠れぬ民を安堵させるためにも!」
(うーん、言い分はすっげー理解できるのぅ。と言うか、ワシら盗人スーパー猛々しいな)
マリオンの答えに心の中で呟くシノピリカ。逆の立場なら自分だってそう言うだろう。
「誰かの犠牲を、当たり前だと思わないで! 亜人だって、生きているんです!」
気を失いそうになるほどのめまいの中、フーリィンが振り返ってマリオンに向かって叫ぶ。
「言われるまでもない! だからこそ彼らを生かすために奴隷制度が――」
「いいえ、いいえ! そんなことしなくてもいいんです! ノウブルが上で、亜人が下じゃなくてもいいんです! 身分なんてなくても、私たちは手を取り合えるんです!」
届かない事は分かっていた。理解されない事は分かっていた。それでもフーリィンは叫びたかった。声をあげて、そんなことはおかしいと。
風が吹き、煙幕が晴れる。
そこにはもう、自由騎士達の姿はなかった。
●
奴隷達に幾分かの傷はあるが、それでも致命的な傷を負っている者はいなかった。
自由騎士側の損傷は激しい。奴隷を庇ったアダムとエルシーは深手を負い、他の者も決して軽くはない。全員がフラグメンツを削られており、一手戦術を誤れば崩壊の危機もあった。最悪、身柄を拘束されていただろう。
それでも、自由騎士の働きにより奴隷達を救い出すことが出来た。
「デザイア――君達はもう奴隷じゃない。ヘルメリアの希望となるんだ」
助けられた亜人達は、その意味をまだ理解はしていないだろう。だがいずれ分かる時が来る――
「自由騎士はあの海峡の戦いで敗退した。ヘルメリア内に居るわけがない」
歯車騎士団の上層部は、マリオンの報告を一蹴した。
「しかし!」
「いいか、ドジソン四等。あの戦いにおいて蒸気騎士の優位性は確立された。シャンバラを討ち滅ぼし、ミトラースを討ったオラクル兵団を壊滅させたことが看板となっているのだ。
それが為されていない、となれば蒸気騎士の立場は悪くなる。それにより予算が減れば、蒸気鎧増産の計画もなくなってしまうのだ」
「ヘルメリアに不安の種が入り込んでいるのですよ!」
「不安? 所詮は奴隷解放組織に頼る程度の人数だ。歯車騎士団に対抗できる数ではない。
いずれ居場所を突き止め、まとめて殲滅すればいい。以上だ。それよりも憲兵隊の方から来た苦情の方が――」
(わかってはいたが、駄目か……! 彼らは早急に手を打たないと、大事になるというのに!)
上司の小言を聞きながら、マリオンは自由騎士に対し危機感を抱いていた。それは根拠のない勘のようなものだ。だが、それの危機感を拭い去ることはできなかった。
自由騎士達はヘルメリアを揺るがしかねない。その想いを――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
ふっと思い至ってHardを出すどくどくの悪癖。
以上のような結果になりました。
結構ギリギリのバランスでした。一手違えば結果も違ったでしょう。
MVPは鍵開け用にスキルを用意したモラル様に。ここで時間短縮できなかったら、ダメージはもう少し大きかったでしょう。
それではまた、イ・ラプセルで。
ふっと思い至ってHardを出すどくどくの悪癖。
以上のような結果になりました。
結構ギリギリのバランスでした。一手違えば結果も違ったでしょう。
MVPは鍵開け用にスキルを用意したモラル様に。ここで時間短縮できなかったら、ダメージはもう少し大きかったでしょう。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済