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【禁断ノ果実】Lust! 戦を求めるサムライ!

●スオウのオオガマ
「イ・ラプセル軍人だな」
その男はそう尋ねてはいたが、言葉の端に確信めいた何かを持っていた。カエルの頭を持ち、アマノホカリの着物を着ている。使い古されたボロボロの槍と戦意を隠そうともしない。
ヴィスマルク領とイ・ラプセル領の境界線。敵領地内の偵察の為にそこを通ろうとしたイ・ラプセルの騎士達は訪ねてきた男に警戒の色を強めた。
「な、何のことでしょうか。私達は旅の商人です。戦争に巻き込まれそうなので逃げている所なんですが」
騎士達はとっさにマニュアル的に対応する。それに則した格好や商品も持っている。相手がこちらの素姓を探っている段階ならまだ誤魔化せるだろう。一番困るのは疑念が確信に変わることだ。騒ぎを起こすよりは、下手くそでも誤魔化せればいい。
「無駄だ。――死ね」
だが男は一顧だにせず襲い掛かる。呪力を込めた巨大な槍を振るい、先ずは一人を斬り伏した。返す動きでもう一人を貫く。
騎士達はやむ無しとばかりに隠していた武器を手にする。彼らも熟練の騎士。不意を突かれたからと言って、ただ一人の戦士に後れを取るはずがない。
だが、その戦士はただの戦士ではなかった。
ただの戦士ではありえない程の力を有し、ただの戦士ではありえないほどの技量を示す。そこに慈悲などない。目の前の敵全てを殺す。槍を握った以上、それ以外の選択肢はない。そう全身で告げていた。
「つまらぬ。やはり偵察兵は戦闘にならぬか。始めから戦をする騎士でなければ、この渇きは癒されぬ。
我が『周防』の渇きを癒す者はおらぬと言う事か。海を渡って西国まで訪ね、命脈を削ってまでの契約だというのに――!」
ボロボロの槍――アマノホカリでは十文字槍と呼ばれる一品――を手に唾棄するように告げる男。
その腕には、複数の注射の跡があった。
●イ・ラプセル
ヴィスマルク領にアマノホカリ風のキモノを着た男が暴れており、イ・ラプセル軍の偵察兵を斬り殺している。
その報告を聞いた軍上層部は、その男のもつ突出した戦闘力を強く警戒。自由騎士による討伐部隊の結成を決定する。
相手の強さから昨今ヴィスマルクで使用されているフェアボーテネフリュヒテ――通称『VF』が使用されていることが予想されている。服用者の生命力を削り、絶大な力を発揮する薬品。それを服用しているとなれば、たとえ一人であっても油断のならない相手だ。
充分に注意して当たられよ。敵情報と共にかけられた言葉を受けて、自由騎士達は戦場に向かう。
「イ・ラプセル軍人だな」
その男はそう尋ねてはいたが、言葉の端に確信めいた何かを持っていた。カエルの頭を持ち、アマノホカリの着物を着ている。使い古されたボロボロの槍と戦意を隠そうともしない。
ヴィスマルク領とイ・ラプセル領の境界線。敵領地内の偵察の為にそこを通ろうとしたイ・ラプセルの騎士達は訪ねてきた男に警戒の色を強めた。
「な、何のことでしょうか。私達は旅の商人です。戦争に巻き込まれそうなので逃げている所なんですが」
騎士達はとっさにマニュアル的に対応する。それに則した格好や商品も持っている。相手がこちらの素姓を探っている段階ならまだ誤魔化せるだろう。一番困るのは疑念が確信に変わることだ。騒ぎを起こすよりは、下手くそでも誤魔化せればいい。
「無駄だ。――死ね」
だが男は一顧だにせず襲い掛かる。呪力を込めた巨大な槍を振るい、先ずは一人を斬り伏した。返す動きでもう一人を貫く。
騎士達はやむ無しとばかりに隠していた武器を手にする。彼らも熟練の騎士。不意を突かれたからと言って、ただ一人の戦士に後れを取るはずがない。
だが、その戦士はただの戦士ではなかった。
ただの戦士ではありえない程の力を有し、ただの戦士ではありえないほどの技量を示す。そこに慈悲などない。目の前の敵全てを殺す。槍を握った以上、それ以外の選択肢はない。そう全身で告げていた。
「つまらぬ。やはり偵察兵は戦闘にならぬか。始めから戦をする騎士でなければ、この渇きは癒されぬ。
我が『周防』の渇きを癒す者はおらぬと言う事か。海を渡って西国まで訪ね、命脈を削ってまでの契約だというのに――!」
ボロボロの槍――アマノホカリでは十文字槍と呼ばれる一品――を手に唾棄するように告げる男。
その腕には、複数の注射の跡があった。
●イ・ラプセル
ヴィスマルク領にアマノホカリ風のキモノを着た男が暴れており、イ・ラプセル軍の偵察兵を斬り殺している。
その報告を聞いた軍上層部は、その男のもつ突出した戦闘力を強く警戒。自由騎士による討伐部隊の結成を決定する。
相手の強さから昨今ヴィスマルクで使用されているフェアボーテネフリュヒテ――通称『VF』が使用されていることが予想されている。服用者の生命力を削り、絶大な力を発揮する薬品。それを服用しているとなれば、たとえ一人であっても油断のならない相手だ。
充分に注意して当たられよ。敵情報と共にかけられた言葉を受けて、自由騎士達は戦場に向かう。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.スオウの打破(敵の逃亡も打破とみなす)
どくどくです。
TYAN―BARA―SHOW―TIME!
●敵情報
・スオウ(×1)
マザリモノ(大蝦蟇)。カエルの頭を持ち、アマノホカリの着物を着た者です。重戦士スタイル。
イ・ラプセル軍人を狙い撃ちにしています。遠視の魔力と敵の強さを測り神秘で道を通る者の強さを測り襲い掛かるようで、軍人でない者が被害にあった、と言う報告は受けていません。
サムライスタイルと呼ばれるアマノホカリ独特のスタイルに加え、ヴィスマルクから『VF』と呼ばれる薬品を与えられて肉体強化されています。
一定時間(21ターン)までに決着がつかなかった場合、ヴィスマルク兵の乱入が入り戦闘は中断。逃亡に移ります。
『テンペスト Lv4』『バーサーク Lv3』『リバースドレイン Lv4』『天逆鉾 Lv4』等を活性化しています。
天逆鉾 サムライスタイルのランク2スキル。貫通効果を持つ突き攻撃です。ブレイクの効果を持っています。
●敵情報
ヴィスマルク領。イ・ラプセルとの境界にある山道。そこで待ち構えるようにスオウは待っています。
戦闘開始時、敵前衛に『スオウ』がいます。
事前付与は可能です。敵も行いますので、遠慮なくどうぞ。
皆様のプレイングをお待ちしています。
TYAN―BARA―SHOW―TIME!
●敵情報
・スオウ(×1)
マザリモノ(大蝦蟇)。カエルの頭を持ち、アマノホカリの着物を着た者です。重戦士スタイル。
イ・ラプセル軍人を狙い撃ちにしています。遠視の魔力と敵の強さを測り神秘で道を通る者の強さを測り襲い掛かるようで、軍人でない者が被害にあった、と言う報告は受けていません。
サムライスタイルと呼ばれるアマノホカリ独特のスタイルに加え、ヴィスマルクから『VF』と呼ばれる薬品を与えられて肉体強化されています。
一定時間(21ターン)までに決着がつかなかった場合、ヴィスマルク兵の乱入が入り戦闘は中断。逃亡に移ります。
『テンペスト Lv4』『バーサーク Lv3』『リバースドレイン Lv4』『天逆鉾 Lv4』等を活性化しています。
天逆鉾 サムライスタイルのランク2スキル。貫通効果を持つ突き攻撃です。ブレイクの効果を持っています。
●敵情報
ヴィスマルク領。イ・ラプセルとの境界にある山道。そこで待ち構えるようにスオウは待っています。
戦闘開始時、敵前衛に『スオウ』がいます。
事前付与は可能です。敵も行いますので、遠慮なくどうぞ。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
5/6
5/6
公開日
2021年03月22日
2021年03月22日
†メイン参加者 5人†

●
山道に立つアマノホカリのカエル幻想種とのマザリモノ。十字架のような形をした槍を手に、そこを通る者を待っていた。
「遠路はるばるご苦労さんだな! じゃあ殺し合おうか!」
『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は戦う気満々の相手を前に笑顔を浮かべ、そして武器を構えた。遥か東方からやって来たのに、こんな所でヴィスマルクに見張られながらの戦いを強いられているのだ。その境遇には同情する。
だが、それはそれだ。相手が戦いを望んでおり、ロンベルも戦いを望んでいる。都合がいいとはまさにこのこと。余分な名乗りや口上など要らない。敵同士が出会ったのだ。もはや殺し合うのみ。
「東方からの客人の歓迎会だ。思う存分やろうじゃないか」
「話が分かるな。心地良い殺気だ」
「んー? 戦いたいのならイ・ラプセルに『たのもー』とかしたら幾らでも戦ったのに?」
首をかしげる『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)。マザリモノの目的が戦う事で国の思惑など関係ないというのなら、イ・ラプセルを尋ねれば幾らでも相手をしただろう。戦いが好きな自由騎士はいくらでもいるのに。
だがナナンの発想は各国の内部事情を知っている者の言葉だ。何も知らない東方の流浪人からすれば、戦いを欲するなら戦争の列強に身を寄せる。そこで傭兵として戦争に参加すれば望みはかなう――はずだったのだが。
「別にヴィスマルクを護ってるんじゃないんだよね?」
「そのような国だとは知らなんだな。マザリモノの扱いなど、どの国も同じと思ってた」
「……むしろ我が国の流れが異常なのだがな」
マザリモノの言葉に『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)がぼそりと呟いた。亜人はノウブルや国の駒であり、そして労働力である。これが一般的な考え方だ。むしろ王自ら亜人平等を唱えるイ・ラプセルが異端なのだ。
とはいえ、自国の方針に感情で逆らうのは政治家のやる事ではない。政策に対するメリットとデメリットを並べ、理路整然と反対する。それこそが正しい道筋だろう。例えばヴィスマルクがマザリモノを利用して捨て駒にする戦術。その有用性を示すなどだ。
「まあ、第一目的は『VF』の確保だ。流浪のマザリモノ風情が一人消えたところで問題にはなるまい」
「然り。所詮使い捨ての駒だ。精々油を搾ってくれ。勝てれば、だがな」
「そこまでして戦闘をしたい、っていう気持ちが全然理解できないんだけど……」
死んでも構わないというマザリモノを前に『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は表情を曇らせた。アマノホカリを出てヴィスマルクに着き、生命を削る薬を使ってでも戦いたい。そんな考えはサーナの理解の外だった。
とはいえ、自分の望みが大事と言う気持ちは理解できる。仮にヨウセイの仲間とノウブルとを天秤にかければ、サーナは間違いなくヨウセイの仲間を取る。倫理的に間違っているかもしれないけど、それでも譲れないモノはあるのだ。
「貴方の望みは理解できませんが、倒させてもらいますね。これも戦争ですから」
「それでいい。他人を理解した、など傲慢の一言だ。ましてや敵ならばなおの事」
「とはいえ、拳を通して理解できることもありますよね」
言って構えを取る『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。マザリモノの言う事には納得できるが、同時に戦う事で理解できることもある。培った研鑽や、潜り抜けた修羅場の数。それもまたそのヒトを形成する下地なのだ。
百の鍛錬より一の実戦。ミルトスは多くの戦いを通して、多くの戦士を知った。きっとこのマザリモノのサムライも相応の戦場を経験しているのだろう。構え、足運び、間合いの取り方。戦う前からすでに情報戦は始まっている。
「ただ、強き者との戦いのみを望むのなら、お相手しましょう。私の力と業をもって」
「お相手仕る――」
マザリモノの言葉と同時に、戦場は一変する。風向きや温度が変わったというわけではないが、確かに空気そのものが鋭くなった。
木枯らしが、戦場を薙ぐ。
その風が収まったのを合図に、戦士達は動き出した。
●
「このタイミングならいけますね」
最初に動いたのはサーナだ。背中の羽根を広げて後ろに下がり、愛剣を手にして構えを取る。回復中心に動くとはいえ、相手の攻撃を避けずに棒立ちと言うわけにはいかない。槍を避けながら回復をこなす。倒れない事が回復役の条件だ。
一番最初、誰も傷ついていない事を確認しサーナは魔力を展開する。凍てつく山に住む精霊に語りかけ、敵を凍えさせる縛鎖を形成する。白き風がサーナを中心に吹き荒れ、彼女の思考に従いスオウに絡みつく。
「今です。一気に攻めてください」
「了解だ。東方のマザリモノ如きに後れを取るイ・ラプセルではない」
挑発するように告げるライモンド。相手が怒りを感じてくれれば僥倖だ。判断を誤るか、或いは怒りでこちらに標準を定めるか。どうあれ戦いが有利になればいい。そうでなくとも、マザリモノにしてやられた溜飲が下ると言うものだ。
相手の反応を確かめている余裕はない。スチムマータを戦闘隊形に移行させ、魔力を溜めさせる。ライモンドは騎士ではない。政治家だ。亜人如きの排除は機械人形で十分。ライモンドはただ手を向け、指示するだけ。魔力の光がスオウを穿つ。
「色々後始末が大変だが、まあいい。私がここにいると言う事はそう言う事だからな」
「上の方は大変ですね。心中お察しいたします」
ライモンドの言葉に相づちを打つようにミルトスが告げる。表面上、自由騎士達は他国の領内に侵入して乱暴しているのだ。そこを訴えられれば政治的に痛い目を見る。そう言った厄介事は上に任せるのが一番だ。
なのでミルトスがやるべきことは、この場を制すること。正しい姿勢で息を吸い、呼気と共に身体を動かす。一撃の動きのベクトルを利用して、さらに次の動きへ。円と直線。流れるような体さばきは確実にスオウを追い詰めていく。
「多対一に特化した動き。こういった乱戦の中に身を置いてきた戦士ですね」
「アマノホカリの千国を生きてきた。平和な水に住めない濁ったカエルと嘲笑え」
「おう、笑ってやるぜ。同じ穴の狢だってな!」
スオウの言葉に斧をぶつけるロンベル。シャンバラの魔女狩りとして生きてきたロンベルだが、とても『真っ当な』経歴ではなかった。自由騎士に入ってからも戦いを求め、『真っ当な』騎士とは言い難い素行だ。
だがそれがどうした、と言いたげにロンベルは笑う。そのまま力を込めて斧を振り上げ、そのまま振り下ろす。筋力全てを使っての一撃。何度も何度も繰り返される暴力。それこそが闘争の原点。ロンベルはただ純粋に戦いを楽しんでいた。
「平和なんざどうでもいい。お前の素姓もどうでもいい。生きて戦えるのなら戦え!」
「応。貴殿らの理想や立場など確かにどうでもいい。死ぬまで槍を振るおうぞ」
「ナナンもガンガン行くのだ!」
巨大な金色の剣を振り回すナナン。その小さな体からは想像もつかないほどの力で剣を扱い、敵に切りかかる。よく笑い、よく動き、思うがままに突き進む。その様はまさに子供だが、それでも自由騎士でも上位の戦士。それは実力で示される。
スオウが振り下ろした槍。ナナンはそれを受け止め、そして力で弾き返す。相手の体制が戻るよりも前に剣を戻し、一歩踏み込んで『ナナンの勇者ソード』を振るう。剣はスオウの胸部を裂き、鮮血が大地を染めた。
「見事見事。やはり世界は広い。アマノホカリを出て正解だったか」
「すおうちゃんは、ひとの命を奪うのが好きなのかなぁ? それとも強いひとと闘うのが好きなのかなぁ? おんなじようで違うってナナンは思うんだけどぉ?」
「? 戦う事と命を奪う事は同義。戦場に立つ以上、死の覚悟ありであろう。覚悟なければ疾く逃げるがいい」
ナナンの問いかけに、心底疑問の表情――カエルの表情はよくわからないが――で応えるスオウ。死生観の違いだろう。戦争を長く繰り返して多くの命を奪えば、自然とこうなると言わんがばかりであった。アクアディーネの権能がどれだけ有能かが分かるものである。
フェアボーテネフリュヒテで強化されたスオウ。その槍さばきが自由騎士を襲う。
「避けきれない……!」
「亜人如きが……っ!」
スオウの槍は後衛に居るサーナとライモンドを狙い、その体力を奪う。フラグメンツを削ってどうにか意識を保ち、立ち上がる。
「痛いのだー!」
そして前衛で戦うナナンもまた、スオウの槍でフラグメンツを燃やすほどのダメージを受けた。
だがスオウも無傷ではない。自由騎士達の攻撃を何度も受け、体中傷だらけだ。それでも倒れないのは『VF』の効果ゆえか。
一進一退。両雄の戦いは加速していく。
●
武と武が交差し、魔力が矢となって迸る。
フェアボーテネフリュヒテを投与せずとも、スオウは相応に強かったのだろう。その足さばき等からそれはうかがえる。東方のサムライと呼ばれる槍術は後方の人間にまで傷を与えていた。
「亜人相手に回復をせねばならんとはな」
口惜しそうに呟いて、ライモンドは仲間に癒しの魔術を行使する。亜人は使い捨てるモノ。そこまで言い切るつもりはないが、できる事ならノウブルを優先的に癒したい。これはライモンドならずとも『一般的』なヒトの考えである。
それはスオウの扱いにおいても見て取れる。『VF』を投与するのは基本的に亜人。命を削るという効用もあり、使い捨てていい対象に投与されることが多い。列強ともいえる国だからこそ生まれる廃棄していい命。その在り方にライモンドは何も言及しない。
「ともあれ国益の邪魔となるなら廃さなければならん。国益になるなら癒す。それだけだ」
「戦いとは最適解を求めるものではありません。一瞬技量を超えれば、それで勝機も見えます」
スオウの槍の間合いを測りながらミルトスは呟く。槍の届く範囲。自分の拳の届く範囲。その二つを意識する。間合いが長ければ当然攻撃できる範囲は広く、同時に選択肢が増える。なにをどう理屈付けようが、距離は戦いにおいて大きなファクターなのだ。
だが、それはあくまで有利不利の要因でしかない。大事なのは現実をしっかりと見て、勝機を見出すこと。体を動かし、思考し、そして行動する。最後の最後で生きてくるのは、日々培った努力。ミルトスは牙を研ぐように勝機を待つ。
「戦いこそを楽しみ求める心がある事は認めますが、その渇きは戦いでしか癒せない物なのですか?」
「乾き、か。成程水を求めるように戦いを求める。斯様な部分はあるな。
確かにこの渇きは、戦場においてのみ満たされる。否、戦場にしか生きられぬカエルなのだ」
「理解できません」
スオウの言葉をばっさり切り捨てるサーナ。サーナが戦う理由は、しがらみなどもあるが突き詰めれば仲間のヨウセイの為だ。そんなサーナからすればただ戦う事のみが目的でそうすることでしか生きていけないなんて、理解できるはずがない。
シャンバラのヨウセイ達は力で蹂躙されて、聖櫃の糧となった。戦いで誰かを倒す行為で心が癒される。サーナはそれを認められない。ヨウセイのために戦う自分と、自分の為に戦うスオウ。戦う理由は、正に真逆だった。
「私はヴィスマルクにたくさんいるはずの、ヨウセイの仲間を助けます。その為に戦います」
「同胞の為に戦うか。それもありだろう。理解はできないが」
「守る事をしないスオウチャンには、負けないんだから!」
怒りの声と共に剣を振るうナナン。ナナンに取って戦う事は誰かを守ることだ。イ・ラプセルの為、そこにする人たちの為。国の思惑や、入り乱れる陰謀などどうでもいい。人の笑顔の為に剣を取る。それがナナンだ。
だから誰かを護っていないのに命を奪うスオウは、認められない。ヴィスマルク人ではないのに、ヴィスマルクのために戦うのは駄目な気がする。それを上手く言葉にはできないが、その気持ちを込めて剣を振るう。
「そんなカエルちゃんはやっつける!」
「おうよ。手を抜くつもりはないぜ」
言って唇を笑みに変えるロンベル。鋭い殺意。こちらを殺そうとする槍の動き。それに応えるようにロンベルも斧を振るう。相手の立場、相手の事情、相手の思惑。そんなモノなど関係ない。敵がそこにいる。それだけで十分だ。
滾る血を抑えることなく踏み込み、力を込めて斧を振り降ろす。確かな手ごたえと共に飛び散るスオウの血。相手は確かによろめくが、それでも動きは止まらない。お返しとばかりに振るわれた槍を受けながら、更に斧を振り上げる。
「西にこれほどの豪傑がいたとはな。旅はしてみるものだ」
「もっとだ。もっとやり合おうぜ!」
血で血を洗う戦い。互いの血肉を削り合う総力戦。
「重畳……! これでどうだ!」
「素で強い上に勘がいい。『VF』がなくとも難敵でしたでしょうね」
スオウの攻撃でロンベルとミルトスが膝をつく。フラグメンツを燃やしてなんとか意識を保ち、それぞれの構えを取った。
「くそ……。ここまでか」
猛攻の中、ライモンドが力尽きる。スチムマータもライモンドの動きと同時に停止した。
だが自由騎士は確実にスオウを追い詰めていた。息も荒く出血も激しい。それでも槍を振るう力は変わらない。生命全てを戦うことに費やしている。それはフェアボーテネフリュヒテの効果なのか、はたまたスオウ本人の意思なのか。
戦いの終わりを告げたのは、一発の砲撃音。そして戦場に広がる煙幕。
「なんだ!?」
「ヴィスマルク軍の介入か!」
視界を奪われ、それでもパニックに陥ることなく安全を確保する自由騎士達。『VF』の効果を試している段階のヴィスマルクが『実験体』であるスオウを回収に来たのだ。ここで自由騎士相手に使い潰すよりも、新しい事を試みた方がいいという考えなのだろう。
「くそ、戦いやがれヴィスマルク! テメェらの戦乙女は姑息で臆病な戦い方しかできねぇのか!」
叫ぶロンベル。しかしヴィスマルクからの返事はない。ただ黙々と作業をこなし――煙幕が晴れたころには、スオウの姿はなかった。
地面の赤い染みだけが、戦いの痕跡として残っていた。
●
「くそ、消化不良だぜ」
不満を隠そうとしないロンベル。拳を打ち合わせ、怒りの声を上げていた。どちらかが死ぬまで戦えなかったのが不満、と言うのが如何にも彼らしい理由だ。
「カエルちゃん、お薬続けるのかなぁ……?」
ナナンは言って小首をかしげる。ナナンの価値観からすれば『VF』に頼って強くなるのはズルいことで、それは良くないからやめてほしかった。
「……危ない所でした。ギリギリでしたね」
自分のダメージ具合を再確認し、サーナが息を吐く。もう少し戦いが続いていたら、倒れていただろう。そうなれば戦いの流れは変わっていたかもしれない。
「そうですね。あのまま戦っていたら、どちらが勝っていたか分かりません。いえ、勝つつもりではありますが」
戦いの趨勢を思い出しながらミルトスが告げる。あのまま戦い続ければどうなっていたか。中断された戦いの結果を求めることに意味はない。どちらにせよ、次は勝つまでだ。大きく息を吐き、心を切り替える。
「サンプル採取、ならずか」
小さく息を吐くライモンド。スオウを捕らえてフェアボーテネフリュヒテを手に入れることが目的だったが、それは叶わなかった。亜人を退ける事には成功したのだから、とりあえずの目的は達したと自分を納得させる。
自由騎士達はそれぞれの想いを抱き、帰路につく。
フェアボーテネフリュヒテを使った亜人による被害はなりを潜めるが、未だ脅威は消えたわけではない。
戦争は確かに世界に渦巻いている――
山道に立つアマノホカリのカエル幻想種とのマザリモノ。十字架のような形をした槍を手に、そこを通る者を待っていた。
「遠路はるばるご苦労さんだな! じゃあ殺し合おうか!」
『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は戦う気満々の相手を前に笑顔を浮かべ、そして武器を構えた。遥か東方からやって来たのに、こんな所でヴィスマルクに見張られながらの戦いを強いられているのだ。その境遇には同情する。
だが、それはそれだ。相手が戦いを望んでおり、ロンベルも戦いを望んでいる。都合がいいとはまさにこのこと。余分な名乗りや口上など要らない。敵同士が出会ったのだ。もはや殺し合うのみ。
「東方からの客人の歓迎会だ。思う存分やろうじゃないか」
「話が分かるな。心地良い殺気だ」
「んー? 戦いたいのならイ・ラプセルに『たのもー』とかしたら幾らでも戦ったのに?」
首をかしげる『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)。マザリモノの目的が戦う事で国の思惑など関係ないというのなら、イ・ラプセルを尋ねれば幾らでも相手をしただろう。戦いが好きな自由騎士はいくらでもいるのに。
だがナナンの発想は各国の内部事情を知っている者の言葉だ。何も知らない東方の流浪人からすれば、戦いを欲するなら戦争の列強に身を寄せる。そこで傭兵として戦争に参加すれば望みはかなう――はずだったのだが。
「別にヴィスマルクを護ってるんじゃないんだよね?」
「そのような国だとは知らなんだな。マザリモノの扱いなど、どの国も同じと思ってた」
「……むしろ我が国の流れが異常なのだがな」
マザリモノの言葉に『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)がぼそりと呟いた。亜人はノウブルや国の駒であり、そして労働力である。これが一般的な考え方だ。むしろ王自ら亜人平等を唱えるイ・ラプセルが異端なのだ。
とはいえ、自国の方針に感情で逆らうのは政治家のやる事ではない。政策に対するメリットとデメリットを並べ、理路整然と反対する。それこそが正しい道筋だろう。例えばヴィスマルクがマザリモノを利用して捨て駒にする戦術。その有用性を示すなどだ。
「まあ、第一目的は『VF』の確保だ。流浪のマザリモノ風情が一人消えたところで問題にはなるまい」
「然り。所詮使い捨ての駒だ。精々油を搾ってくれ。勝てれば、だがな」
「そこまでして戦闘をしたい、っていう気持ちが全然理解できないんだけど……」
死んでも構わないというマザリモノを前に『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は表情を曇らせた。アマノホカリを出てヴィスマルクに着き、生命を削る薬を使ってでも戦いたい。そんな考えはサーナの理解の外だった。
とはいえ、自分の望みが大事と言う気持ちは理解できる。仮にヨウセイの仲間とノウブルとを天秤にかければ、サーナは間違いなくヨウセイの仲間を取る。倫理的に間違っているかもしれないけど、それでも譲れないモノはあるのだ。
「貴方の望みは理解できませんが、倒させてもらいますね。これも戦争ですから」
「それでいい。他人を理解した、など傲慢の一言だ。ましてや敵ならばなおの事」
「とはいえ、拳を通して理解できることもありますよね」
言って構えを取る『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。マザリモノの言う事には納得できるが、同時に戦う事で理解できることもある。培った研鑽や、潜り抜けた修羅場の数。それもまたそのヒトを形成する下地なのだ。
百の鍛錬より一の実戦。ミルトスは多くの戦いを通して、多くの戦士を知った。きっとこのマザリモノのサムライも相応の戦場を経験しているのだろう。構え、足運び、間合いの取り方。戦う前からすでに情報戦は始まっている。
「ただ、強き者との戦いのみを望むのなら、お相手しましょう。私の力と業をもって」
「お相手仕る――」
マザリモノの言葉と同時に、戦場は一変する。風向きや温度が変わったというわけではないが、確かに空気そのものが鋭くなった。
木枯らしが、戦場を薙ぐ。
その風が収まったのを合図に、戦士達は動き出した。
●
「このタイミングならいけますね」
最初に動いたのはサーナだ。背中の羽根を広げて後ろに下がり、愛剣を手にして構えを取る。回復中心に動くとはいえ、相手の攻撃を避けずに棒立ちと言うわけにはいかない。槍を避けながら回復をこなす。倒れない事が回復役の条件だ。
一番最初、誰も傷ついていない事を確認しサーナは魔力を展開する。凍てつく山に住む精霊に語りかけ、敵を凍えさせる縛鎖を形成する。白き風がサーナを中心に吹き荒れ、彼女の思考に従いスオウに絡みつく。
「今です。一気に攻めてください」
「了解だ。東方のマザリモノ如きに後れを取るイ・ラプセルではない」
挑発するように告げるライモンド。相手が怒りを感じてくれれば僥倖だ。判断を誤るか、或いは怒りでこちらに標準を定めるか。どうあれ戦いが有利になればいい。そうでなくとも、マザリモノにしてやられた溜飲が下ると言うものだ。
相手の反応を確かめている余裕はない。スチムマータを戦闘隊形に移行させ、魔力を溜めさせる。ライモンドは騎士ではない。政治家だ。亜人如きの排除は機械人形で十分。ライモンドはただ手を向け、指示するだけ。魔力の光がスオウを穿つ。
「色々後始末が大変だが、まあいい。私がここにいると言う事はそう言う事だからな」
「上の方は大変ですね。心中お察しいたします」
ライモンドの言葉に相づちを打つようにミルトスが告げる。表面上、自由騎士達は他国の領内に侵入して乱暴しているのだ。そこを訴えられれば政治的に痛い目を見る。そう言った厄介事は上に任せるのが一番だ。
なのでミルトスがやるべきことは、この場を制すること。正しい姿勢で息を吸い、呼気と共に身体を動かす。一撃の動きのベクトルを利用して、さらに次の動きへ。円と直線。流れるような体さばきは確実にスオウを追い詰めていく。
「多対一に特化した動き。こういった乱戦の中に身を置いてきた戦士ですね」
「アマノホカリの千国を生きてきた。平和な水に住めない濁ったカエルと嘲笑え」
「おう、笑ってやるぜ。同じ穴の狢だってな!」
スオウの言葉に斧をぶつけるロンベル。シャンバラの魔女狩りとして生きてきたロンベルだが、とても『真っ当な』経歴ではなかった。自由騎士に入ってからも戦いを求め、『真っ当な』騎士とは言い難い素行だ。
だがそれがどうした、と言いたげにロンベルは笑う。そのまま力を込めて斧を振り上げ、そのまま振り下ろす。筋力全てを使っての一撃。何度も何度も繰り返される暴力。それこそが闘争の原点。ロンベルはただ純粋に戦いを楽しんでいた。
「平和なんざどうでもいい。お前の素姓もどうでもいい。生きて戦えるのなら戦え!」
「応。貴殿らの理想や立場など確かにどうでもいい。死ぬまで槍を振るおうぞ」
「ナナンもガンガン行くのだ!」
巨大な金色の剣を振り回すナナン。その小さな体からは想像もつかないほどの力で剣を扱い、敵に切りかかる。よく笑い、よく動き、思うがままに突き進む。その様はまさに子供だが、それでも自由騎士でも上位の戦士。それは実力で示される。
スオウが振り下ろした槍。ナナンはそれを受け止め、そして力で弾き返す。相手の体制が戻るよりも前に剣を戻し、一歩踏み込んで『ナナンの勇者ソード』を振るう。剣はスオウの胸部を裂き、鮮血が大地を染めた。
「見事見事。やはり世界は広い。アマノホカリを出て正解だったか」
「すおうちゃんは、ひとの命を奪うのが好きなのかなぁ? それとも強いひとと闘うのが好きなのかなぁ? おんなじようで違うってナナンは思うんだけどぉ?」
「? 戦う事と命を奪う事は同義。戦場に立つ以上、死の覚悟ありであろう。覚悟なければ疾く逃げるがいい」
ナナンの問いかけに、心底疑問の表情――カエルの表情はよくわからないが――で応えるスオウ。死生観の違いだろう。戦争を長く繰り返して多くの命を奪えば、自然とこうなると言わんがばかりであった。アクアディーネの権能がどれだけ有能かが分かるものである。
フェアボーテネフリュヒテで強化されたスオウ。その槍さばきが自由騎士を襲う。
「避けきれない……!」
「亜人如きが……っ!」
スオウの槍は後衛に居るサーナとライモンドを狙い、その体力を奪う。フラグメンツを削ってどうにか意識を保ち、立ち上がる。
「痛いのだー!」
そして前衛で戦うナナンもまた、スオウの槍でフラグメンツを燃やすほどのダメージを受けた。
だがスオウも無傷ではない。自由騎士達の攻撃を何度も受け、体中傷だらけだ。それでも倒れないのは『VF』の効果ゆえか。
一進一退。両雄の戦いは加速していく。
●
武と武が交差し、魔力が矢となって迸る。
フェアボーテネフリュヒテを投与せずとも、スオウは相応に強かったのだろう。その足さばき等からそれはうかがえる。東方のサムライと呼ばれる槍術は後方の人間にまで傷を与えていた。
「亜人相手に回復をせねばならんとはな」
口惜しそうに呟いて、ライモンドは仲間に癒しの魔術を行使する。亜人は使い捨てるモノ。そこまで言い切るつもりはないが、できる事ならノウブルを優先的に癒したい。これはライモンドならずとも『一般的』なヒトの考えである。
それはスオウの扱いにおいても見て取れる。『VF』を投与するのは基本的に亜人。命を削るという効用もあり、使い捨てていい対象に投与されることが多い。列強ともいえる国だからこそ生まれる廃棄していい命。その在り方にライモンドは何も言及しない。
「ともあれ国益の邪魔となるなら廃さなければならん。国益になるなら癒す。それだけだ」
「戦いとは最適解を求めるものではありません。一瞬技量を超えれば、それで勝機も見えます」
スオウの槍の間合いを測りながらミルトスは呟く。槍の届く範囲。自分の拳の届く範囲。その二つを意識する。間合いが長ければ当然攻撃できる範囲は広く、同時に選択肢が増える。なにをどう理屈付けようが、距離は戦いにおいて大きなファクターなのだ。
だが、それはあくまで有利不利の要因でしかない。大事なのは現実をしっかりと見て、勝機を見出すこと。体を動かし、思考し、そして行動する。最後の最後で生きてくるのは、日々培った努力。ミルトスは牙を研ぐように勝機を待つ。
「戦いこそを楽しみ求める心がある事は認めますが、その渇きは戦いでしか癒せない物なのですか?」
「乾き、か。成程水を求めるように戦いを求める。斯様な部分はあるな。
確かにこの渇きは、戦場においてのみ満たされる。否、戦場にしか生きられぬカエルなのだ」
「理解できません」
スオウの言葉をばっさり切り捨てるサーナ。サーナが戦う理由は、しがらみなどもあるが突き詰めれば仲間のヨウセイの為だ。そんなサーナからすればただ戦う事のみが目的でそうすることでしか生きていけないなんて、理解できるはずがない。
シャンバラのヨウセイ達は力で蹂躙されて、聖櫃の糧となった。戦いで誰かを倒す行為で心が癒される。サーナはそれを認められない。ヨウセイのために戦う自分と、自分の為に戦うスオウ。戦う理由は、正に真逆だった。
「私はヴィスマルクにたくさんいるはずの、ヨウセイの仲間を助けます。その為に戦います」
「同胞の為に戦うか。それもありだろう。理解はできないが」
「守る事をしないスオウチャンには、負けないんだから!」
怒りの声と共に剣を振るうナナン。ナナンに取って戦う事は誰かを守ることだ。イ・ラプセルの為、そこにする人たちの為。国の思惑や、入り乱れる陰謀などどうでもいい。人の笑顔の為に剣を取る。それがナナンだ。
だから誰かを護っていないのに命を奪うスオウは、認められない。ヴィスマルク人ではないのに、ヴィスマルクのために戦うのは駄目な気がする。それを上手く言葉にはできないが、その気持ちを込めて剣を振るう。
「そんなカエルちゃんはやっつける!」
「おうよ。手を抜くつもりはないぜ」
言って唇を笑みに変えるロンベル。鋭い殺意。こちらを殺そうとする槍の動き。それに応えるようにロンベルも斧を振るう。相手の立場、相手の事情、相手の思惑。そんなモノなど関係ない。敵がそこにいる。それだけで十分だ。
滾る血を抑えることなく踏み込み、力を込めて斧を振り降ろす。確かな手ごたえと共に飛び散るスオウの血。相手は確かによろめくが、それでも動きは止まらない。お返しとばかりに振るわれた槍を受けながら、更に斧を振り上げる。
「西にこれほどの豪傑がいたとはな。旅はしてみるものだ」
「もっとだ。もっとやり合おうぜ!」
血で血を洗う戦い。互いの血肉を削り合う総力戦。
「重畳……! これでどうだ!」
「素で強い上に勘がいい。『VF』がなくとも難敵でしたでしょうね」
スオウの攻撃でロンベルとミルトスが膝をつく。フラグメンツを燃やしてなんとか意識を保ち、それぞれの構えを取った。
「くそ……。ここまでか」
猛攻の中、ライモンドが力尽きる。スチムマータもライモンドの動きと同時に停止した。
だが自由騎士は確実にスオウを追い詰めていた。息も荒く出血も激しい。それでも槍を振るう力は変わらない。生命全てを戦うことに費やしている。それはフェアボーテネフリュヒテの効果なのか、はたまたスオウ本人の意思なのか。
戦いの終わりを告げたのは、一発の砲撃音。そして戦場に広がる煙幕。
「なんだ!?」
「ヴィスマルク軍の介入か!」
視界を奪われ、それでもパニックに陥ることなく安全を確保する自由騎士達。『VF』の効果を試している段階のヴィスマルクが『実験体』であるスオウを回収に来たのだ。ここで自由騎士相手に使い潰すよりも、新しい事を試みた方がいいという考えなのだろう。
「くそ、戦いやがれヴィスマルク! テメェらの戦乙女は姑息で臆病な戦い方しかできねぇのか!」
叫ぶロンベル。しかしヴィスマルクからの返事はない。ただ黙々と作業をこなし――煙幕が晴れたころには、スオウの姿はなかった。
地面の赤い染みだけが、戦いの痕跡として残っていた。
●
「くそ、消化不良だぜ」
不満を隠そうとしないロンベル。拳を打ち合わせ、怒りの声を上げていた。どちらかが死ぬまで戦えなかったのが不満、と言うのが如何にも彼らしい理由だ。
「カエルちゃん、お薬続けるのかなぁ……?」
ナナンは言って小首をかしげる。ナナンの価値観からすれば『VF』に頼って強くなるのはズルいことで、それは良くないからやめてほしかった。
「……危ない所でした。ギリギリでしたね」
自分のダメージ具合を再確認し、サーナが息を吐く。もう少し戦いが続いていたら、倒れていただろう。そうなれば戦いの流れは変わっていたかもしれない。
「そうですね。あのまま戦っていたら、どちらが勝っていたか分かりません。いえ、勝つつもりではありますが」
戦いの趨勢を思い出しながらミルトスが告げる。あのまま戦い続ければどうなっていたか。中断された戦いの結果を求めることに意味はない。どちらにせよ、次は勝つまでだ。大きく息を吐き、心を切り替える。
「サンプル採取、ならずか」
小さく息を吐くライモンド。スオウを捕らえてフェアボーテネフリュヒテを手に入れることが目的だったが、それは叶わなかった。亜人を退ける事には成功したのだから、とりあえずの目的は達したと自分を納得させる。
自由騎士達はそれぞれの想いを抱き、帰路につく。
フェアボーテネフリュヒテを使った亜人による被害はなりを潜めるが、未だ脅威は消えたわけではない。
戦争は確かに世界に渦巻いている――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
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