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Ray! 混戦必至!サンショクエイを浄化せよ!

●南の海の事件
唐突ではあるが、信仰の話をさせてもらおう。
『神』と呼ばれる動植物の枠外が存在するこの世界においても、信仰や宗教は存在する。
シャンバラは言うまでもなくミトラースを一神教として崇める国家であり、パノプティコンも信仰とは異なるがアイドーネウスを頂点とした組織である。だがそれら以外の――この世界における『神』以外を――信仰する者もいる。
対象は自然や長命の幻想種などである。蒸気機関が闇を照らし始めたこの時代でもやはり自然と共に生きる者もは存在し、人前に姿を見せなくなったドラゴンを何十代にわたって奉じる村もある。
これらは信仰というよりは自然などに対する敬意の延長である。特別な権能などなくともそれらに対する尊敬と畏怖は消え去ることはなく、形こそ違えど祈りの対象となるのである。
だが如何に崇められようともそれらはこの世界に存在する動植物や現象であり――イブリース化する可能性を含んでいるのだ。
「ゾーエ様がお怒りになられた!」
「落ち着いてください!」
ここはイ・ラプセルより南方にある海域。いくつもの小さな島が浮かぶ海域の海で、一匹のエイがイブリースとなって暴れていた。そしてそれを止めようとするミズビト達。止めると言っても武器を持たず、何とか説得しようとしているのだ。だがその効果はなく、魚はついにその囲みを破って逃げ出してしまう。
そしてそれ以降、週に二度ほどのペースで魚イブリースによる被害が通商連に上がってくる。襲われるなら仕方ないと傭兵を雇って迎撃に出ようとすると――
「ゾーエ様を殺さないで!」
「私達のゾーエ様に傷をつけないでください!」
と、多くのミズビト達が止めに入ってきた。何のことかと理由を聞いてみると――
●イ・ラプセル
「そのゾーエ様というのは、そのミズビト達の『神』のような存在なの」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は通商連から聞いた話を自由騎士達に告げる。
「アクアディーネ様と違って、集落を守る守り神みたいな存在ね。長年生きていることもあってそれなりの大きさよ。通商連が倒そうとしても止められたみたい。
で、先の事件でイブリース浄化の事を聞いていた通商連が私達に話を持ってきたの」
なるほど。納得する自由騎士達。
イブリース化した存在は、殺すしか止める手段がない。だがアクアディーネの権能なら殺すことなくイブリース化を解除できるのだ。
「問題は二つ。イブリース化したことで身体能力も凶暴性も増していること。
そしてもう一つは、そのイブリースを倒そうとする存在がいる事よ。ミズビト達も止めようと話をしたんだけど、仲間を攻撃されて聞く耳もたないの」
つまり、その存在に先にイブリースを倒さなければならないのだ。相手の強さによるが単純なイブリース退治とはいかないようだ。
「で、その相手なんだけど――」
●女傑部族
「あーしらを襲うとか、マジおこ! とりまぶっころ!」
「はげどー!」
南方諸島にある好戦的な女傑部族。褐色の肌と水着のような際どい衣装。あと異文化独特の言語。つい先日釣りをしていた仲間がエイのイブリースに襲われたため、仇を討つために立ち上がったのだ。
彼女達を乗せた小舟が、イブリースに近づいていく。
唐突ではあるが、信仰の話をさせてもらおう。
『神』と呼ばれる動植物の枠外が存在するこの世界においても、信仰や宗教は存在する。
シャンバラは言うまでもなくミトラースを一神教として崇める国家であり、パノプティコンも信仰とは異なるがアイドーネウスを頂点とした組織である。だがそれら以外の――この世界における『神』以外を――信仰する者もいる。
対象は自然や長命の幻想種などである。蒸気機関が闇を照らし始めたこの時代でもやはり自然と共に生きる者もは存在し、人前に姿を見せなくなったドラゴンを何十代にわたって奉じる村もある。
これらは信仰というよりは自然などに対する敬意の延長である。特別な権能などなくともそれらに対する尊敬と畏怖は消え去ることはなく、形こそ違えど祈りの対象となるのである。
だが如何に崇められようともそれらはこの世界に存在する動植物や現象であり――イブリース化する可能性を含んでいるのだ。
「ゾーエ様がお怒りになられた!」
「落ち着いてください!」
ここはイ・ラプセルより南方にある海域。いくつもの小さな島が浮かぶ海域の海で、一匹のエイがイブリースとなって暴れていた。そしてそれを止めようとするミズビト達。止めると言っても武器を持たず、何とか説得しようとしているのだ。だがその効果はなく、魚はついにその囲みを破って逃げ出してしまう。
そしてそれ以降、週に二度ほどのペースで魚イブリースによる被害が通商連に上がってくる。襲われるなら仕方ないと傭兵を雇って迎撃に出ようとすると――
「ゾーエ様を殺さないで!」
「私達のゾーエ様に傷をつけないでください!」
と、多くのミズビト達が止めに入ってきた。何のことかと理由を聞いてみると――
●イ・ラプセル
「そのゾーエ様というのは、そのミズビト達の『神』のような存在なの」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は通商連から聞いた話を自由騎士達に告げる。
「アクアディーネ様と違って、集落を守る守り神みたいな存在ね。長年生きていることもあってそれなりの大きさよ。通商連が倒そうとしても止められたみたい。
で、先の事件でイブリース浄化の事を聞いていた通商連が私達に話を持ってきたの」
なるほど。納得する自由騎士達。
イブリース化した存在は、殺すしか止める手段がない。だがアクアディーネの権能なら殺すことなくイブリース化を解除できるのだ。
「問題は二つ。イブリース化したことで身体能力も凶暴性も増していること。
そしてもう一つは、そのイブリースを倒そうとする存在がいる事よ。ミズビト達も止めようと話をしたんだけど、仲間を攻撃されて聞く耳もたないの」
つまり、その存在に先にイブリースを倒さなければならないのだ。相手の強さによるが単純なイブリース退治とはいかないようだ。
「で、その相手なんだけど――」
●女傑部族
「あーしらを襲うとか、マジおこ! とりまぶっころ!」
「はげどー!」
南方諸島にある好戦的な女傑部族。褐色の肌と水着のような際どい衣装。あと異文化独特の言語。つい先日釣りをしていた仲間がエイのイブリースに襲われたため、仇を討つために立ち上がったのだ。
彼女達を乗せた小舟が、イブリースに近づいていく。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースを浄化する
2.女傑部族にイブリースを倒させない。
2.女傑部族にイブリースを倒させない。
どくどくです。
この依頼は『ブレインストーミングスペース#1 猪市 きゐこ(CL3000048) 2018年08月18日(土) 23:32:17&カスカ・セイリュウジ(CL3000019) 2018年08月18日(土) 23:40:10』の発言を元に作られました。
●敵情報
・ゾーエ(×1)
イブリース。元はエイです。イブリース化する前でも8mほどあり、イブリース化してさらに大きさが増しています。サンショクエイと呼ばれ、尾びれの針から毒を、触れれば電撃を、頭には鋭い角が生えて、それぞれが強力な武器となっています。
アクアディーネの権能で浄化すれば、殺すことなく元に戻すことが出来ます。倒した人が『鉄血の心』を活性化させていたり、自由騎士以外のキャラクターが倒したらその限りではありません。
幻想種ではないので、適切な技能無しでは意思疎通が出来ません。
攻撃方法
おおなみ 攻遠全 大きく体を揺らし、大きな波を起こします。『水棲親和』を活性化させていれば効きません。【ショック】【スロウ1】【ダメージ0】
どくばり 攻遠単 長い尾を伸ばし、針を刺してきます。【ポイズン2】
びりびり 魔近範 皮膚から電気を放ちます。
つのさし 攻近貫 巨大な角で突き刺してきます。(貫通レート:前衛100%、後衛50%)
おおきい P 巨体です。ノックバック不可。味方ガード不可。HPにプラス修正、回避にマイナス修正がつきます。
●NPC
・女傑部族(×4)
イ・ラプセル南方の島に住む褐色女戦士の部族です。あと露出度高め。非情に好戦的で、仲間を攻撃されたこともありイブリース絶対ころすウーマンになっています。そのため説得は不可能です。
PC達とほぼ同時にイブリースに遭遇します。
拙作『Fruits! たわわに実った果実のために!』に出ていますが、知らずとも問題ありません。事戦いになれば、知り合いでも親友でも容赦はしませんので。
彼女達の生死は依頼の成否に関係ありません。
アミナ(×1)
部族のリーダー的存在です。一〇代女性。種族はノウブル。獣の骨を加工して作った格闘武器を手に戦う格闘スタイルです。
『龍氣螺合 Lv2』『震撃 Lv3』『鉄山靠 Lv2』『豪鬼』『剛撃 序』『陽炎 序』『マジ卍』『縄張り 破』等を活性化しています。
戦士系女傑(×2)
部族の戦士です。一〇代女性。種族はノウブル。サメの歯がついた棍棒を手に戦う重戦士スタイルです。
『ウォーモンガー Lv2』『バッシュ Lv3』『命活 序』『マジ卍』『ミートハンマー』等を活性化しています。
呪術系女傑(×1)
部族の祈祷師です。一〇代女性。種族はノウブル。人形を手に戦う錬金術スタイルです。
『スパルトイ Lv3』『パナケア Lv2』『マジ卍』『釣り上手』等を活性化しています。
・ミズビト部族『ゾーエ』
南方海域で群れを成すミズビト達です。総数40名ほど。ゾーエの名前が村の名前になっています。
基本的に温厚で、戦闘力はありません。自由騎士達に一縷の望みをかけています。
●場所情報
イ・ラプセルより南方の海。通商連から船を借りて、イブリースの元に向かいます。船の上からイブリースを攻撃します(船の上からでも攻撃できる程度に巨大なイブリースなのです)。時刻は昼。
敵陣営は海となっているので、敵陣営側に進もうとするなら『水棲親和』『飛行』などが必要になります。また3ターンかけて小舟を出すこともできます。
時刻は昼。足場や広さは戦闘に支障がないものとします。
戦闘開始時、敵後衛に『アミナ(×1)』『戦士系女傑(×2)』『呪術系女傑(×1)』が、敵前衛に『ゾーエ(×1)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。ホムンクルスも作成可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
この依頼は『ブレインストーミングスペース#1 猪市 きゐこ(CL3000048) 2018年08月18日(土) 23:32:17&カスカ・セイリュウジ(CL3000019) 2018年08月18日(土) 23:40:10』の発言を元に作られました。
●敵情報
・ゾーエ(×1)
イブリース。元はエイです。イブリース化する前でも8mほどあり、イブリース化してさらに大きさが増しています。サンショクエイと呼ばれ、尾びれの針から毒を、触れれば電撃を、頭には鋭い角が生えて、それぞれが強力な武器となっています。
アクアディーネの権能で浄化すれば、殺すことなく元に戻すことが出来ます。倒した人が『鉄血の心』を活性化させていたり、自由騎士以外のキャラクターが倒したらその限りではありません。
幻想種ではないので、適切な技能無しでは意思疎通が出来ません。
攻撃方法
おおなみ 攻遠全 大きく体を揺らし、大きな波を起こします。『水棲親和』を活性化させていれば効きません。【ショック】【スロウ1】【ダメージ0】
どくばり 攻遠単 長い尾を伸ばし、針を刺してきます。【ポイズン2】
びりびり 魔近範 皮膚から電気を放ちます。
つのさし 攻近貫 巨大な角で突き刺してきます。(貫通レート:前衛100%、後衛50%)
おおきい P 巨体です。ノックバック不可。味方ガード不可。HPにプラス修正、回避にマイナス修正がつきます。
●NPC
・女傑部族(×4)
イ・ラプセル南方の島に住む褐色女戦士の部族です。あと露出度高め。非情に好戦的で、仲間を攻撃されたこともありイブリース絶対ころすウーマンになっています。そのため説得は不可能です。
PC達とほぼ同時にイブリースに遭遇します。
拙作『Fruits! たわわに実った果実のために!』に出ていますが、知らずとも問題ありません。事戦いになれば、知り合いでも親友でも容赦はしませんので。
彼女達の生死は依頼の成否に関係ありません。
アミナ(×1)
部族のリーダー的存在です。一〇代女性。種族はノウブル。獣の骨を加工して作った格闘武器を手に戦う格闘スタイルです。
『龍氣螺合 Lv2』『震撃 Lv3』『鉄山靠 Lv2』『豪鬼』『剛撃 序』『陽炎 序』『マジ卍』『縄張り 破』等を活性化しています。
戦士系女傑(×2)
部族の戦士です。一〇代女性。種族はノウブル。サメの歯がついた棍棒を手に戦う重戦士スタイルです。
『ウォーモンガー Lv2』『バッシュ Lv3』『命活 序』『マジ卍』『ミートハンマー』等を活性化しています。
呪術系女傑(×1)
部族の祈祷師です。一〇代女性。種族はノウブル。人形を手に戦う錬金術スタイルです。
『スパルトイ Lv3』『パナケア Lv2』『マジ卍』『釣り上手』等を活性化しています。
・ミズビト部族『ゾーエ』
南方海域で群れを成すミズビト達です。総数40名ほど。ゾーエの名前が村の名前になっています。
基本的に温厚で、戦闘力はありません。自由騎士達に一縷の望みをかけています。
●場所情報
イ・ラプセルより南方の海。通商連から船を借りて、イブリースの元に向かいます。船の上からイブリースを攻撃します(船の上からでも攻撃できる程度に巨大なイブリースなのです)。時刻は昼。
敵陣営は海となっているので、敵陣営側に進もうとするなら『水棲親和』『飛行』などが必要になります。また3ターンかけて小舟を出すこともできます。
時刻は昼。足場や広さは戦闘に支障がないものとします。
戦闘開始時、敵後衛に『アミナ(×1)』『戦士系女傑(×2)』『呪術系女傑(×1)』が、敵前衛に『ゾーエ(×1)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。ホムンクルスも作成可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年09月19日
2018年09月19日
†メイン参加者 8人†
●
「ミズヒトとしては、どうにかゾーエ様を殺させずに浄化したいところですね」
言って頷く『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)。ミズビトに慕われるエイ。彼らの気持ちを思えば殺さずに済むならそうしたい。その為にも女傑部族にとどめを刺させるわけにはいかないのだ。
「アミナさんたちがゾーエ様を倒しちゃう前にこっちで浄化するしかないね」
ナックルを握りしめ『いっぽいっぽすすむみち』リサ・スターリング(CL3000343)が声をあげる。色々大変な状況だが、持ち前の楽観的な性格が『どうにかなるよ!』と背中を押してくれる。やれることを全力でやる。ただそれだけだ。
「彼の神様を必ずや、殺すことなく綺麗さっぱり浄化して御覧にいれますわ! おーっほほほほほ!」
手のひらを口に当て『ライバルは女海賊』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)が大きく笑う。ジュリエットも状況は理解しているし、女傑部族を軽視しているわけではない。それでもなおこちらが勝つと宣言し、自らに気合を入れる。
「彼女達とはできうる限り共闘と行きたいね」
女傑部族を見ながら『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が兜を嵌める。状況は三すくみ。彼女達もゾーエを狙う。だがとどめを刺す前に動かなくてはいけない。その見極めが重要だ。……あとそろそろ秋なんだからもっと厚着を。
「人が大切にするものは、人それぞれ。私は、その大切なものを守る為に自由騎士になったんだもの」
帽子の位置を治しながら『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が気合を入れる。ミズビト達がゾーエを思う気持ちも、女傑部族が仇を取りたいと思う気持ちも理解できる。それを上手く守れるだろうか。
「ああいう手合いは嫌いではないのですが、さて」
どうしたものか、と思案する『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。仲間を襲われてゾーエに挑む女傑部族。その意地は嫌いではないが通されては困るのだ。
「アクアディーネ様の恩寵と陛下のご威光を、南洋の海にもあまねく行き渡らせ――落ちる落ちる海に落ちるー!?」
船が揺れてバランスを崩した
『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が何とか縁に捕まり難を逃れる。体の半分が機械であるシノピリカが海に落ちれば、浮かぶのは容易ではない。顔を青ざめながらなんとか立ち上がる。
「アミナたちと競争だね!」
女傑部族に手を振りながら『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が笑みを浮かべる。以前殴り合ったこともあり、カーミラはアミナの事を戦友だと思っている。こういう状況じゃなければ、再戦を挑みたいとさえ思っていた。
「手伝い? あざましー!」
「あいつ等と戦えるとかあげぽよじゃん」
武器を構える自由騎士を同じゾーエを倒す仲間だと思ったのか、女傑部族は手を振る。独特の文化言語故に意味はよく分からないが、笑顔としぐさから共闘を喜んでいるのは確かなようだ。
ゾーエが威嚇するように口を開き、尻尾を振り乱す。並走する船両方を認識し、敵とみなしたようだ。
イブリース、女傑部族、そして自由騎士。三種三様の想いを込めて海戦は幕を開ける。
●
「いっくぞー!」
「おっけー! ゾーエ様の浄化を頑張るよ!」
元気よく拳を振り上げカーミラとリサがゾーエに迫る。ウシとイヌのケモノビトはそろって拳を握り、巨大なイブリースに挑む。その大きさに驚きはするが足を止めることなく、ケモノビトの身体能力をフルに生かして立ち向かう。
「先ずはわたしから!」
リサの拳がゾーエを捕らえる。魚介類特有の柔らかい感触が拳を通じて伝わってくる。肌に拳を当てると同時に体内に巡らせた『龍』を爆発させ、足をしっかり踏みしめて拳を突き出す。爆発的な衝撃がリサの拳からゾーエに伝わった。ゾーエの身体が大きいこともあり相手がよろけた様子はないが、確実にダメージは入っている。
「私もまっけないぞー! どりゃー!」
衝撃で揺らぐゾーエに追い打ちをかけるようにカーミラが宙を舞う。体を大きくのけぞらして、背筋に力を込めた。落下と同時に頭の角をゾーエに叩き込むように頭突きを振るう。落下エネルギーが加味された獣の一撃が、イブリースを打つ。自身の肉体全てを視野に入れた格闘動作。亡き両親の見様見真似だが、それなりに様になっていた。
繰り返されるケモノビトの殴打。しかし巨大化したイブリースはまだ揺らぐことはない。
「私はゾーエの体力を削るわ。その隙に――」
「援護は任せました」
スナイパーライフルを手にアンネリーザが告げ、それを受けてカスカが頷く。言葉短く互いのやるべきことを理解した二人は、頷くと同時に動き出す。アンネリーゼは膝をつき、安定したライフル射撃の構えを。カスカは船を出し女傑部族に向かう準備を。
「今浄化してあげるわ」
ゾーエの気を引くようにアンネリーゼが銃を構え、引き金を引く。着弾でゾーエの巨体がかすかに震え、それを見届けた後にライフル再装填の動作に入る。残存火薬を排出し、新たな火薬を詰め、弾丸を棒で詰め込む。その後に構え、引き金を引く。流れるように動作を繰り返し、ゾーエに弾丸を打ち込んでいく。
「いつぞやぶりですかね。少しをお話を。イブリース化についてです」
カスカは女傑部族の小舟に乗り込み、そう告げる。話しながらもゾーエから目を離さず、隙あらば一閃振るい浄化を進めていく。
「イブリース化はオラクルでない貴女がたにとっても他人事じゃありません。我々の権能ならばほぼ無傷で救い出すことが可能です。
我々がとどめを刺すことでエイのイブリース化を浄化して、救うことが出来ます」
「? で?」
「なのであのエイに貴方達がトドメ刺されては困るんですよね。そんなことされたら今後貴女がたが同じ目に遭っても協力する気が失せそうですし……。
此処で少しだけ我々に譲って協力を得られる縁を得るか。それとも一時の意地だけの為に身内同士で殺し合う可能性に一生怯えながら生き続けるか。よく考えてみてください」
端的に言えば、カスカはイブリースの浄化を盾に交渉しているのだ。『お前らを助けてやるから、今は見逃せ』というものである。
「? 戦って死ぬのとか別に怖くないっしょ」
「イブリースになろうがなるまいが、殴ればリアルガチで死ぬっし」
しかしその恫喝にも似た言葉を、女傑部族はあっさり跳ねのけた。
(あ。死生観の違いですね、これは……。彼らは戦いの中で死ぬことを怖いと思っていない人たちでした)
ため息を吐くカスカ。前提条件を読み違えた、と肩をすくめる。身内同士で殴り合って殺し合うのも彼女達には怯えることではないのだ。諦めてゾーエへの攻撃に意識を傾ける。
「肌を見せるばかりが女性の魅力ではありませんのよ! 女性なら身だしなみに気を使ってはいかがかしら? そう、わたくしのように!」
「そうだね。出来ればもう少し肌を覆ってほしいかな」
水着もかくやとばかりの女傑部族の格好に対抗するようにジュリエットが胸を張り、アダムがそれに同意するように頷いた。アダムの同意を得たことでさらなる自信を得たのか、ジュリエットは高笑いをして胸を張る。
「さあ皆さん! このわたくしが援護します! 怪我など気にせずに戦ってください!」
ばさぁ、とマントを翻しジュリエットが叫ぶ。彼女が着飾る『乙女の騎士服』はピンクを基調とした彼女だけの衣装。金細工などの細かな意匠が豪華さを感じさせると同時に、戦闘の動きを阻害しない機能美を含んでいる。彼女の魔力が空気に混ざって冷気となり、氷細工の監獄と化す。攻撃にさえ豪華さを。それがジュリエットと言う自由騎士だ。
「感謝するよ。それじゃあ!」
鎧兜を身にまとい、アダムがゾーエに迫る。動くたびに鎧が金属音を立て、その重量を示すかのように足音が響く。金属の拳を強く握りしめ、ゾーエに向かって振り上げる。この拳は誰かを救うために。拳の重さはキジン化した現実の重さと、何かを救いたいアダムの心の重さ。たとえそれが困難でも成し遂げるという強い一打。
「うーん。まだまだ体力はありそうですね。女傑部族と共闘しても持久戦になりそうです」
「よいよい。その方がやりがいがある。民の安寧を守るための自由騎士、艱難辛苦を乗り越えて見せよう!」
ゾーエの体力を探りながらエミリオが頬をかき、むしろ気合が入ったとシノピリカが吼える。ミズビト達の守り神を守るためにやらなければならない条件はけして楽ではない。だからこそ、気合を入れて挑まなくては。
「自分たちの獲物だから手を出すな、というタイプじゃなさそうですね」
女傑部族を見ながらエミリオが口を開く。むしろ彼女達は共闘を喜んでいる節があった。共闘も途中までと思うと少し心が重くなるが、それは後で謝ろうと心に誓う。ライフルを構え、ゾーエに向かい狙いを定める。戦闘中でも揺らぐことのないエミリオの精神。落ち着いた心の一撃が、ゾーエの体に傷を穿つ。
「そんな復讐心で動く輩ではないじゃろう。仲間を傷つけられた怒りはあろうがな」
一度拳をかわしたことがあるシノピリカは、女傑部族の性格を理解していた。よく言えば自由奔放、悪く言えば戦闘狂。その価値観がこちらと異なる程度の良き隣人だ。だが今は完全に味方とは言えない状況なのだ。女傑部族を一瞥した後にゾーエに視線を移す。軍刀を抜き放ち、鋭い一撃をイブリースに振り下ろす。
オオオオオオオオオ……!
自由騎士と女傑部族。その攻撃を黙って受けているイブリースではない。近寄る者に雷撃を放ち、毒針が突き立てられる。波が船を揺らし、鋭い角が猛威を振るう。
「あいたぁ!?」
「まだまだー!」
波に足を取られている隙を突かれる形で、リサとカーミラが電撃を受ける。カーミラは英雄の欠片を使ってなんとか立ち上がるが、リサはそのまま崩れ落ちる。
「……っ!? ここまで尾が届くなんて……!」
長い尾の先についた毒針に刺され、アンネリーザが意識を失いかける。フラグメンツを燃やして意識を保ち、ライフルを杖に立ち上がる。
「やばたん! リース倒れた!」
「まだまだ。ガチめでゴー!」
女傑部族の方も戦士の一人が倒れたらしく、アミナがそれを鼓舞している。
「予想はしてましたが、女傑部族をいきなり排除していたらかなりハードな展開になっていましたね」
「ああ。だけど浄化のためには彼女達をあのままにはしておけない」
ゾーエに挑む女傑部族。味方には違いないが、彼女達にとどめを刺させるわけにはいかない。説得も通じない以上は、取りうる手段は限られてくる。
三すくみの闘いは、それぞれの思いを含んで加速していく。
●
自由騎士達はゾーエの体力を事細かに観察しながら、戦いを進めていた。体力が落ちてきた所作を見逃すまいと目を凝らす。
「動きが鈍ってきたよ!」
「ええ、こちらもスキャンしました。あともう少しです」
カーミラとエミリオがその異変に気付く。その言葉を受けて、シノピリカとエミリオが動く。小舟を出して、女傑部族の方へと向かった。他の自由騎士達も視野を女傑部族に向ける。
「待てい! 先にカスカも言ったがイブリースのトドメはこちらが貰うぞ!」
堂々と立つシノピリカ。軍刀を手に宣言し、一気に斬りかかる
「そっちの都合なんてあーしら知らねーし。……っと!」
「ふむ。こちらの攻撃を予測していたか。流石と褒めておこう」
「そーいうつもりなら、こっちもガンアゲで行くよ!」
「どんとこい! やはり言葉よりも拳の方が通じるのぅ!」
女傑部族の攻撃対象を引き受けるシノピリカ。これにより女傑部族からゾーエに対する攻撃は大きく減ることになる。
「事が終わったらいくらでも弁明しますので。ごめんなさい」
ミズビトならではの水中の機動力を生かして近づくエミリオ。龍の牙の名を持つ人形を作りだし、女傑部族に襲わせる。
「ちょ、あーしが使うのと同じじゃん! あれやばぽよよ!」
「できれば穏便にしたいのですがゾーエ様のトドメは……って、あまり怒ってない?」
「まじやばだから、あーしが相手するね!」
「むしろ闘争心に火をつけましたかぁ……」
エミリオの術が、相手側の錬金術師の対抗心を煽る形となった。喜々として同じ術を放ってくる。
「むぅ。ちょっと羨ましいかも! っとりゃあ!」
シノピリカと女傑部族の殴り合いを見ながらカーミラはそう呟く。自分もむこうに行きたいなぁ、と思うが本来の目的を忘れるわけにもいかない。尻尾の一刺しをガントレットで弾き、お返しとばかりに拳をゾーエに叩き込む。
「悪いけど僕も邪魔させてもらうよ」
言って強く拳を握るアダム。力を拳に集中させ、貫くように打ち出した。衝撃を相手の中に留める打撃ではなく、衝撃を槍の様に飛ばす技。それはイブリースと、その向こうのアミナを打つ。
「吸血も考えないといけませんね、これは……」
呼吸を整えながらカスカが呟く。自分にできる最大攻撃を連続で放てば、その疲弊は大きい。気力が尽きればその気力回復も考えないといけないだろう。その限界が来るまで一気に突き進むのみ。回転するように刀を振るい、イブリースの肉を裂いた。
「皆様、無茶はなさらないで……ああ、もう! あの女傑部族のおかげで手が回りませんわ!」
混戦となった戦場でジュリエットはひたすら回復に回っていた。ゾーエの攻撃だけではなく女傑部族達までこちらに攻撃するようになったのだ。目が回りそうな状況の中、どうにか回復を続けていく。
「先に女傑部族を押さえる……? いいえ、この隙にイブリースを撃った方がいいわね!」
女傑部族の猛攻を受ける見方を見ながらアンネリーザは静かに思考する。ゾーエと女傑部族の攻撃を受けている面々は、下手をすると倒れかねない。女傑部族を倒せば楽にはなるだろうが、今は目的最優先だ。イブリース化を解除すれば、こちらの目的は達する。
ゾーエ、女傑部族、そして自由騎士。三者の攻撃が交錯し、それを受け止める音が海上に響く。
「まさか僕が膝を屈するとは……! だけどまだだよ!」
「まだまだじゃ! この程度では倒れんぞ!」
激しい攻防の中でアダムとシノピリカが英雄の欠片を削られる。
「あ、僕はもう無理なんで。まかせますね」
エミリオが微笑みながら倒れ込む。女傑部族の人形遣いは倒したが、ゾーエの電撃に耐えきれなかった形だ。
女傑部族もアミナを除きすべて倒れていた。そしてそのアミナも這う這うの体だが、その瞳には闘志の炎が宿っている。
「卍やばたにえんじゃん! どちゃくそきゅんきゅんしてきた!」
「うむ、言葉の意味は良く解らんがまだまだやる気のようじゃな」
「大したものですわ。ですがそろそろ終わりです!」
女傑部族の攻撃を引き付けている間に、自由騎士達は充分なダメージをイブリースに与えていた。言葉だけではなく女傑部族を攻撃し、上手く気を引いたのが功を奏したようだ。
「いーくーよー!」
甲板で体をひねり、力を蓄えるカーミラ。引き絞った金に気を一気に解放して駆けだし、牛の角を突き立てるように突撃する。衝突の瞬間に跳躍して身をひねり、角を抉り込ませるように突き立てた。
「やああああああああああ!」
叫び声と共に叩きつけられるカーミラの一撃。その一撃が暴れるイブリースを沈黙させ、浄化した。
なお――
「うー……つらたん……」
「ようやく倒れたか……危なかったのぅ」
ゾーエ浄化後もアミナが暴れ続け、シノピリカが倒れそうになった事を追記しておく。
●
「ありがとうございます、騎士様!」
「ゾーエ様を救って頂き、感謝します!」
戦い終わり、ミズビト達から感謝の言葉を受ける自由騎士達。
サポートでやってきた自由騎士は後処理とばかりに怪我人を収容する。
「ところでこのエイって食えるのk……むぎゅ!?」
「くえ、クエは冬まで待った方がおいしいよなぁ! はっはっは!」
迂闊な事を言いかけた全身鎧のキジンを、クマのケモノビトが押さえ誤魔化す場面もあったが。
「確かにゾーエは貴方達の仲間を傷つけたかも知れないけれど、あれは病気みたいなもの。もうすっかり病気は治ったから、襲う事は無いわ」
「……りょ」
アンネリーザが女傑部族たちにイブリース化が解けたことを告げる。仲間を襲ったことは事実だが、イブリース化の影響だから許してほしい、と。族長のアミナは倒れた状態のまま、短く返す。よくわからないが、言葉の雰囲気的に承諾したようだ。
「さっきはああは言いましたが、身内の意地だけで考えなしに突っ込むその根性は嫌いじゃありませんよ。私も同じ立場なら同じようにしたでしょう」
納刀し、傷をいやしてもらいながらカスカが告げる。敵だから嫌い、と言うわけではない。立場と好き嫌いは別物だ。
「色々とすまなかった。君達には君達の流儀があったというのにそれを邪魔してしまって」
「いいんでね? あーしら負けたんだし」
頭を下げて謝罪するアダム。だがアミナはあっさりとそう帰した。勝者の意見を通すのが道理。それが彼女達の流儀なのだ。
「上手くいってよかったね!」
目を覚ましたリサが結末を聞いて笑顔を浮かべる。かなりの大混戦だったが死亡者はなく、遺恨も残らなかった。自由騎士が目指した勝利の形である。
自由騎士達を祝福するように、潮風が優しく吹いていた。
「ミズヒトとしては、どうにかゾーエ様を殺させずに浄化したいところですね」
言って頷く『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)。ミズビトに慕われるエイ。彼らの気持ちを思えば殺さずに済むならそうしたい。その為にも女傑部族にとどめを刺させるわけにはいかないのだ。
「アミナさんたちがゾーエ様を倒しちゃう前にこっちで浄化するしかないね」
ナックルを握りしめ『いっぽいっぽすすむみち』リサ・スターリング(CL3000343)が声をあげる。色々大変な状況だが、持ち前の楽観的な性格が『どうにかなるよ!』と背中を押してくれる。やれることを全力でやる。ただそれだけだ。
「彼の神様を必ずや、殺すことなく綺麗さっぱり浄化して御覧にいれますわ! おーっほほほほほ!」
手のひらを口に当て『ライバルは女海賊』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)が大きく笑う。ジュリエットも状況は理解しているし、女傑部族を軽視しているわけではない。それでもなおこちらが勝つと宣言し、自らに気合を入れる。
「彼女達とはできうる限り共闘と行きたいね」
女傑部族を見ながら『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が兜を嵌める。状況は三すくみ。彼女達もゾーエを狙う。だがとどめを刺す前に動かなくてはいけない。その見極めが重要だ。……あとそろそろ秋なんだからもっと厚着を。
「人が大切にするものは、人それぞれ。私は、その大切なものを守る為に自由騎士になったんだもの」
帽子の位置を治しながら『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が気合を入れる。ミズビト達がゾーエを思う気持ちも、女傑部族が仇を取りたいと思う気持ちも理解できる。それを上手く守れるだろうか。
「ああいう手合いは嫌いではないのですが、さて」
どうしたものか、と思案する『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。仲間を襲われてゾーエに挑む女傑部族。その意地は嫌いではないが通されては困るのだ。
「アクアディーネ様の恩寵と陛下のご威光を、南洋の海にもあまねく行き渡らせ――落ちる落ちる海に落ちるー!?」
船が揺れてバランスを崩した
『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が何とか縁に捕まり難を逃れる。体の半分が機械であるシノピリカが海に落ちれば、浮かぶのは容易ではない。顔を青ざめながらなんとか立ち上がる。
「アミナたちと競争だね!」
女傑部族に手を振りながら『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が笑みを浮かべる。以前殴り合ったこともあり、カーミラはアミナの事を戦友だと思っている。こういう状況じゃなければ、再戦を挑みたいとさえ思っていた。
「手伝い? あざましー!」
「あいつ等と戦えるとかあげぽよじゃん」
武器を構える自由騎士を同じゾーエを倒す仲間だと思ったのか、女傑部族は手を振る。独特の文化言語故に意味はよく分からないが、笑顔としぐさから共闘を喜んでいるのは確かなようだ。
ゾーエが威嚇するように口を開き、尻尾を振り乱す。並走する船両方を認識し、敵とみなしたようだ。
イブリース、女傑部族、そして自由騎士。三種三様の想いを込めて海戦は幕を開ける。
●
「いっくぞー!」
「おっけー! ゾーエ様の浄化を頑張るよ!」
元気よく拳を振り上げカーミラとリサがゾーエに迫る。ウシとイヌのケモノビトはそろって拳を握り、巨大なイブリースに挑む。その大きさに驚きはするが足を止めることなく、ケモノビトの身体能力をフルに生かして立ち向かう。
「先ずはわたしから!」
リサの拳がゾーエを捕らえる。魚介類特有の柔らかい感触が拳を通じて伝わってくる。肌に拳を当てると同時に体内に巡らせた『龍』を爆発させ、足をしっかり踏みしめて拳を突き出す。爆発的な衝撃がリサの拳からゾーエに伝わった。ゾーエの身体が大きいこともあり相手がよろけた様子はないが、確実にダメージは入っている。
「私もまっけないぞー! どりゃー!」
衝撃で揺らぐゾーエに追い打ちをかけるようにカーミラが宙を舞う。体を大きくのけぞらして、背筋に力を込めた。落下と同時に頭の角をゾーエに叩き込むように頭突きを振るう。落下エネルギーが加味された獣の一撃が、イブリースを打つ。自身の肉体全てを視野に入れた格闘動作。亡き両親の見様見真似だが、それなりに様になっていた。
繰り返されるケモノビトの殴打。しかし巨大化したイブリースはまだ揺らぐことはない。
「私はゾーエの体力を削るわ。その隙に――」
「援護は任せました」
スナイパーライフルを手にアンネリーザが告げ、それを受けてカスカが頷く。言葉短く互いのやるべきことを理解した二人は、頷くと同時に動き出す。アンネリーゼは膝をつき、安定したライフル射撃の構えを。カスカは船を出し女傑部族に向かう準備を。
「今浄化してあげるわ」
ゾーエの気を引くようにアンネリーゼが銃を構え、引き金を引く。着弾でゾーエの巨体がかすかに震え、それを見届けた後にライフル再装填の動作に入る。残存火薬を排出し、新たな火薬を詰め、弾丸を棒で詰め込む。その後に構え、引き金を引く。流れるように動作を繰り返し、ゾーエに弾丸を打ち込んでいく。
「いつぞやぶりですかね。少しをお話を。イブリース化についてです」
カスカは女傑部族の小舟に乗り込み、そう告げる。話しながらもゾーエから目を離さず、隙あらば一閃振るい浄化を進めていく。
「イブリース化はオラクルでない貴女がたにとっても他人事じゃありません。我々の権能ならばほぼ無傷で救い出すことが可能です。
我々がとどめを刺すことでエイのイブリース化を浄化して、救うことが出来ます」
「? で?」
「なのであのエイに貴方達がトドメ刺されては困るんですよね。そんなことされたら今後貴女がたが同じ目に遭っても協力する気が失せそうですし……。
此処で少しだけ我々に譲って協力を得られる縁を得るか。それとも一時の意地だけの為に身内同士で殺し合う可能性に一生怯えながら生き続けるか。よく考えてみてください」
端的に言えば、カスカはイブリースの浄化を盾に交渉しているのだ。『お前らを助けてやるから、今は見逃せ』というものである。
「? 戦って死ぬのとか別に怖くないっしょ」
「イブリースになろうがなるまいが、殴ればリアルガチで死ぬっし」
しかしその恫喝にも似た言葉を、女傑部族はあっさり跳ねのけた。
(あ。死生観の違いですね、これは……。彼らは戦いの中で死ぬことを怖いと思っていない人たちでした)
ため息を吐くカスカ。前提条件を読み違えた、と肩をすくめる。身内同士で殴り合って殺し合うのも彼女達には怯えることではないのだ。諦めてゾーエへの攻撃に意識を傾ける。
「肌を見せるばかりが女性の魅力ではありませんのよ! 女性なら身だしなみに気を使ってはいかがかしら? そう、わたくしのように!」
「そうだね。出来ればもう少し肌を覆ってほしいかな」
水着もかくやとばかりの女傑部族の格好に対抗するようにジュリエットが胸を張り、アダムがそれに同意するように頷いた。アダムの同意を得たことでさらなる自信を得たのか、ジュリエットは高笑いをして胸を張る。
「さあ皆さん! このわたくしが援護します! 怪我など気にせずに戦ってください!」
ばさぁ、とマントを翻しジュリエットが叫ぶ。彼女が着飾る『乙女の騎士服』はピンクを基調とした彼女だけの衣装。金細工などの細かな意匠が豪華さを感じさせると同時に、戦闘の動きを阻害しない機能美を含んでいる。彼女の魔力が空気に混ざって冷気となり、氷細工の監獄と化す。攻撃にさえ豪華さを。それがジュリエットと言う自由騎士だ。
「感謝するよ。それじゃあ!」
鎧兜を身にまとい、アダムがゾーエに迫る。動くたびに鎧が金属音を立て、その重量を示すかのように足音が響く。金属の拳を強く握りしめ、ゾーエに向かって振り上げる。この拳は誰かを救うために。拳の重さはキジン化した現実の重さと、何かを救いたいアダムの心の重さ。たとえそれが困難でも成し遂げるという強い一打。
「うーん。まだまだ体力はありそうですね。女傑部族と共闘しても持久戦になりそうです」
「よいよい。その方がやりがいがある。民の安寧を守るための自由騎士、艱難辛苦を乗り越えて見せよう!」
ゾーエの体力を探りながらエミリオが頬をかき、むしろ気合が入ったとシノピリカが吼える。ミズビト達の守り神を守るためにやらなければならない条件はけして楽ではない。だからこそ、気合を入れて挑まなくては。
「自分たちの獲物だから手を出すな、というタイプじゃなさそうですね」
女傑部族を見ながらエミリオが口を開く。むしろ彼女達は共闘を喜んでいる節があった。共闘も途中までと思うと少し心が重くなるが、それは後で謝ろうと心に誓う。ライフルを構え、ゾーエに向かい狙いを定める。戦闘中でも揺らぐことのないエミリオの精神。落ち着いた心の一撃が、ゾーエの体に傷を穿つ。
「そんな復讐心で動く輩ではないじゃろう。仲間を傷つけられた怒りはあろうがな」
一度拳をかわしたことがあるシノピリカは、女傑部族の性格を理解していた。よく言えば自由奔放、悪く言えば戦闘狂。その価値観がこちらと異なる程度の良き隣人だ。だが今は完全に味方とは言えない状況なのだ。女傑部族を一瞥した後にゾーエに視線を移す。軍刀を抜き放ち、鋭い一撃をイブリースに振り下ろす。
オオオオオオオオオ……!
自由騎士と女傑部族。その攻撃を黙って受けているイブリースではない。近寄る者に雷撃を放ち、毒針が突き立てられる。波が船を揺らし、鋭い角が猛威を振るう。
「あいたぁ!?」
「まだまだー!」
波に足を取られている隙を突かれる形で、リサとカーミラが電撃を受ける。カーミラは英雄の欠片を使ってなんとか立ち上がるが、リサはそのまま崩れ落ちる。
「……っ!? ここまで尾が届くなんて……!」
長い尾の先についた毒針に刺され、アンネリーザが意識を失いかける。フラグメンツを燃やして意識を保ち、ライフルを杖に立ち上がる。
「やばたん! リース倒れた!」
「まだまだ。ガチめでゴー!」
女傑部族の方も戦士の一人が倒れたらしく、アミナがそれを鼓舞している。
「予想はしてましたが、女傑部族をいきなり排除していたらかなりハードな展開になっていましたね」
「ああ。だけど浄化のためには彼女達をあのままにはしておけない」
ゾーエに挑む女傑部族。味方には違いないが、彼女達にとどめを刺させるわけにはいかない。説得も通じない以上は、取りうる手段は限られてくる。
三すくみの闘いは、それぞれの思いを含んで加速していく。
●
自由騎士達はゾーエの体力を事細かに観察しながら、戦いを進めていた。体力が落ちてきた所作を見逃すまいと目を凝らす。
「動きが鈍ってきたよ!」
「ええ、こちらもスキャンしました。あともう少しです」
カーミラとエミリオがその異変に気付く。その言葉を受けて、シノピリカとエミリオが動く。小舟を出して、女傑部族の方へと向かった。他の自由騎士達も視野を女傑部族に向ける。
「待てい! 先にカスカも言ったがイブリースのトドメはこちらが貰うぞ!」
堂々と立つシノピリカ。軍刀を手に宣言し、一気に斬りかかる
「そっちの都合なんてあーしら知らねーし。……っと!」
「ふむ。こちらの攻撃を予測していたか。流石と褒めておこう」
「そーいうつもりなら、こっちもガンアゲで行くよ!」
「どんとこい! やはり言葉よりも拳の方が通じるのぅ!」
女傑部族の攻撃対象を引き受けるシノピリカ。これにより女傑部族からゾーエに対する攻撃は大きく減ることになる。
「事が終わったらいくらでも弁明しますので。ごめんなさい」
ミズビトならではの水中の機動力を生かして近づくエミリオ。龍の牙の名を持つ人形を作りだし、女傑部族に襲わせる。
「ちょ、あーしが使うのと同じじゃん! あれやばぽよよ!」
「できれば穏便にしたいのですがゾーエ様のトドメは……って、あまり怒ってない?」
「まじやばだから、あーしが相手するね!」
「むしろ闘争心に火をつけましたかぁ……」
エミリオの術が、相手側の錬金術師の対抗心を煽る形となった。喜々として同じ術を放ってくる。
「むぅ。ちょっと羨ましいかも! っとりゃあ!」
シノピリカと女傑部族の殴り合いを見ながらカーミラはそう呟く。自分もむこうに行きたいなぁ、と思うが本来の目的を忘れるわけにもいかない。尻尾の一刺しをガントレットで弾き、お返しとばかりに拳をゾーエに叩き込む。
「悪いけど僕も邪魔させてもらうよ」
言って強く拳を握るアダム。力を拳に集中させ、貫くように打ち出した。衝撃を相手の中に留める打撃ではなく、衝撃を槍の様に飛ばす技。それはイブリースと、その向こうのアミナを打つ。
「吸血も考えないといけませんね、これは……」
呼吸を整えながらカスカが呟く。自分にできる最大攻撃を連続で放てば、その疲弊は大きい。気力が尽きればその気力回復も考えないといけないだろう。その限界が来るまで一気に突き進むのみ。回転するように刀を振るい、イブリースの肉を裂いた。
「皆様、無茶はなさらないで……ああ、もう! あの女傑部族のおかげで手が回りませんわ!」
混戦となった戦場でジュリエットはひたすら回復に回っていた。ゾーエの攻撃だけではなく女傑部族達までこちらに攻撃するようになったのだ。目が回りそうな状況の中、どうにか回復を続けていく。
「先に女傑部族を押さえる……? いいえ、この隙にイブリースを撃った方がいいわね!」
女傑部族の猛攻を受ける見方を見ながらアンネリーザは静かに思考する。ゾーエと女傑部族の攻撃を受けている面々は、下手をすると倒れかねない。女傑部族を倒せば楽にはなるだろうが、今は目的最優先だ。イブリース化を解除すれば、こちらの目的は達する。
ゾーエ、女傑部族、そして自由騎士。三者の攻撃が交錯し、それを受け止める音が海上に響く。
「まさか僕が膝を屈するとは……! だけどまだだよ!」
「まだまだじゃ! この程度では倒れんぞ!」
激しい攻防の中でアダムとシノピリカが英雄の欠片を削られる。
「あ、僕はもう無理なんで。まかせますね」
エミリオが微笑みながら倒れ込む。女傑部族の人形遣いは倒したが、ゾーエの電撃に耐えきれなかった形だ。
女傑部族もアミナを除きすべて倒れていた。そしてそのアミナも這う這うの体だが、その瞳には闘志の炎が宿っている。
「卍やばたにえんじゃん! どちゃくそきゅんきゅんしてきた!」
「うむ、言葉の意味は良く解らんがまだまだやる気のようじゃな」
「大したものですわ。ですがそろそろ終わりです!」
女傑部族の攻撃を引き付けている間に、自由騎士達は充分なダメージをイブリースに与えていた。言葉だけではなく女傑部族を攻撃し、上手く気を引いたのが功を奏したようだ。
「いーくーよー!」
甲板で体をひねり、力を蓄えるカーミラ。引き絞った金に気を一気に解放して駆けだし、牛の角を突き立てるように突撃する。衝突の瞬間に跳躍して身をひねり、角を抉り込ませるように突き立てた。
「やああああああああああ!」
叫び声と共に叩きつけられるカーミラの一撃。その一撃が暴れるイブリースを沈黙させ、浄化した。
なお――
「うー……つらたん……」
「ようやく倒れたか……危なかったのぅ」
ゾーエ浄化後もアミナが暴れ続け、シノピリカが倒れそうになった事を追記しておく。
●
「ありがとうございます、騎士様!」
「ゾーエ様を救って頂き、感謝します!」
戦い終わり、ミズビト達から感謝の言葉を受ける自由騎士達。
サポートでやってきた自由騎士は後処理とばかりに怪我人を収容する。
「ところでこのエイって食えるのk……むぎゅ!?」
「くえ、クエは冬まで待った方がおいしいよなぁ! はっはっは!」
迂闊な事を言いかけた全身鎧のキジンを、クマのケモノビトが押さえ誤魔化す場面もあったが。
「確かにゾーエは貴方達の仲間を傷つけたかも知れないけれど、あれは病気みたいなもの。もうすっかり病気は治ったから、襲う事は無いわ」
「……りょ」
アンネリーザが女傑部族たちにイブリース化が解けたことを告げる。仲間を襲ったことは事実だが、イブリース化の影響だから許してほしい、と。族長のアミナは倒れた状態のまま、短く返す。よくわからないが、言葉の雰囲気的に承諾したようだ。
「さっきはああは言いましたが、身内の意地だけで考えなしに突っ込むその根性は嫌いじゃありませんよ。私も同じ立場なら同じようにしたでしょう」
納刀し、傷をいやしてもらいながらカスカが告げる。敵だから嫌い、と言うわけではない。立場と好き嫌いは別物だ。
「色々とすまなかった。君達には君達の流儀があったというのにそれを邪魔してしまって」
「いいんでね? あーしら負けたんだし」
頭を下げて謝罪するアダム。だがアミナはあっさりとそう帰した。勝者の意見を通すのが道理。それが彼女達の流儀なのだ。
「上手くいってよかったね!」
目を覚ましたリサが結末を聞いて笑顔を浮かべる。かなりの大混戦だったが死亡者はなく、遺恨も残らなかった。自由騎士が目指した勝利の形である。
自由騎士達を祝福するように、潮風が優しく吹いていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
アミナ達がどの世代のギャル語使ってるとか、考えたら負け(目逸らした
以上の結果になりました。
早い段階で女傑部族を攻めるかと思ったのですが、被害を考えればこれがベストだったのかもしれません。
MVPはその女傑部族の気を一番引いたゼッペロン様に。
そろそろ世界の流れが変わりつつあります。皆様の活躍が世界をどう変えていくのか、期待しながら筆を置くとしましょう。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済