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Queen! ヘルメリア貴族の一般的な趣味!

●貴族の館で
鞭が肉を叩く音。そして痛みに悶える悲鳴。
深夜の闇を否定する明るい部屋の元、一糸まとわぬ姿のマザリビトへの調教が行われていた。
「痛い? だけどそれもすぐにキモチヨクなるわ。この鞭が、褒美のように思えてくるのよ」
その女性は興奮するように今まで痛めつけたマザリビトに指を伸ばし、肌についた鞭の傷跡を優しくなでた。革製の手袋の感覚が敏感になった奴隷の肌を刺激する。ぞくぞくするような感覚がマザリビトを襲う。
「貴方の体、貴方の心、貴方の痛み、貴方の快楽。全て私のもの。全部全部、私に染めてあげる」
ヘルメリアの亜人の運命は劣悪だ。
ヘルメリア軍に入り、機械の身体と言う枷を得て危険な任務と引き換えにある程度の安寧を得るか。奴隷協会によりノウブルに逆らえなくなるまで心身を削られるか。ヘルメリア国に怯えて隠れて生きるか。貴族等に捕まり二度と日の目を見ないか――このマザリビトのように。
「そう、その目よ。その反抗の目。それが少しずつ折れてくるのがたまらないわ。だけど全部無駄。ここからは逃れられない。優秀な番犬がいるんだもの」
部屋に鎮座する機械。複数の腕に取り付けられたそれと同等の武装の数。一たび動き始めれば、人を肉片にするなど容易い事だろう。そのマザリビトにも理解できた。
「さあ、女王様とお呼び。自ら奴隷になると誓うのなら、慈悲をくれてあげるわ」
必死にノウブルの誘いを拒むマザリビト。しかし度重なる調教で心が少しずつ折れてきていることは、自分でも分かっていた。
●フリーエンジン
「さて、『アイオロスの球』と呼ばれる存在なのですが」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。
『アイオロスの球』……ヘルメリアの蒸気を供給する巨大発”蒸”機である。それはヘルメリアの心臓部であり、そこを押さえることでヘルメリアへの交渉を行おう、と言うのがフリーエンジンの目的でもあった。武力による奴隷解放が無理である以上、こういった手法を取るしかないのだ。
「場所は解らないという話だったが、その情報が分かったのか」
「いえ、情報だけならこれだけあります」
コーリナーは束になった羊皮紙を複数、机の上に置いた。その数は優に百を超える。その一枚一枚に情報が書かれていた。『ノースグレイの軍施設内にある研究施設内』『山の中にある正体不明の工場』『街中にある灯台の地下』『三丁目のペットの名前がタマ』……。
「……これ、全部が『アイオロスの球』の情報なのか?」
「木を隠すなら森、と言いますがまさか木を隠すために森を作るとは。いやはや、お金がかかる隠蔽工作です」
ジョンはお手上げ、とばかりに肩をすくめた。全部を調査するには膨大な人手が必要になるだろう。自由騎士達もうんざりしていた。
「とりあえず馬鹿馬鹿しい情報は除いて、フリーエンジン活動に沿った情報から潰していきましょう……という事でこちらの館をお願いします。貴族の道楽で亜人を館に捕えているようで」
その亜人をどうしている、とは言わなかった。種族多彩な自由騎士に色々配慮したのだろう。聞けば教えてくれるだろうが。
よろしくお願いします、と頭を下げるコーリナーに頷き、自由騎士達は館に向かった。
鞭が肉を叩く音。そして痛みに悶える悲鳴。
深夜の闇を否定する明るい部屋の元、一糸まとわぬ姿のマザリビトへの調教が行われていた。
「痛い? だけどそれもすぐにキモチヨクなるわ。この鞭が、褒美のように思えてくるのよ」
その女性は興奮するように今まで痛めつけたマザリビトに指を伸ばし、肌についた鞭の傷跡を優しくなでた。革製の手袋の感覚が敏感になった奴隷の肌を刺激する。ぞくぞくするような感覚がマザリビトを襲う。
「貴方の体、貴方の心、貴方の痛み、貴方の快楽。全て私のもの。全部全部、私に染めてあげる」
ヘルメリアの亜人の運命は劣悪だ。
ヘルメリア軍に入り、機械の身体と言う枷を得て危険な任務と引き換えにある程度の安寧を得るか。奴隷協会によりノウブルに逆らえなくなるまで心身を削られるか。ヘルメリア国に怯えて隠れて生きるか。貴族等に捕まり二度と日の目を見ないか――このマザリビトのように。
「そう、その目よ。その反抗の目。それが少しずつ折れてくるのがたまらないわ。だけど全部無駄。ここからは逃れられない。優秀な番犬がいるんだもの」
部屋に鎮座する機械。複数の腕に取り付けられたそれと同等の武装の数。一たび動き始めれば、人を肉片にするなど容易い事だろう。そのマザリビトにも理解できた。
「さあ、女王様とお呼び。自ら奴隷になると誓うのなら、慈悲をくれてあげるわ」
必死にノウブルの誘いを拒むマザリビト。しかし度重なる調教で心が少しずつ折れてきていることは、自分でも分かっていた。
●フリーエンジン
「さて、『アイオロスの球』と呼ばれる存在なのですが」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。
『アイオロスの球』……ヘルメリアの蒸気を供給する巨大発”蒸”機である。それはヘルメリアの心臓部であり、そこを押さえることでヘルメリアへの交渉を行おう、と言うのがフリーエンジンの目的でもあった。武力による奴隷解放が無理である以上、こういった手法を取るしかないのだ。
「場所は解らないという話だったが、その情報が分かったのか」
「いえ、情報だけならこれだけあります」
コーリナーは束になった羊皮紙を複数、机の上に置いた。その数は優に百を超える。その一枚一枚に情報が書かれていた。『ノースグレイの軍施設内にある研究施設内』『山の中にある正体不明の工場』『街中にある灯台の地下』『三丁目のペットの名前がタマ』……。
「……これ、全部が『アイオロスの球』の情報なのか?」
「木を隠すなら森、と言いますがまさか木を隠すために森を作るとは。いやはや、お金がかかる隠蔽工作です」
ジョンはお手上げ、とばかりに肩をすくめた。全部を調査するには膨大な人手が必要になるだろう。自由騎士達もうんざりしていた。
「とりあえず馬鹿馬鹿しい情報は除いて、フリーエンジン活動に沿った情報から潰していきましょう……という事でこちらの館をお願いします。貴族の道楽で亜人を館に捕えているようで」
その亜人をどうしている、とは言わなかった。種族多彩な自由騎士に色々配慮したのだろう。聞けば教えてくれるだろうが。
よろしくお願いします、と頭を下げるコーリナーに頷き、自由騎士達は館に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.敵の全滅
どくどくです。
大丈夫、まだ全年齢の範疇だ……!
●敵情報
・『女王様』マージョリー・アイオロス
ノウブル。二十代後半女性。ヘルメリアの貴族です。亜人を屈服させて自分の奴隷にするのが趣味です。なおヘルメリアの貴族では一般的な趣味だったりします。自ら亜人を狩る投げナイフガンナー。
なお、アイオロス姓はヘルメリア貴族では割と一般的な姓との事。
『ピンポイントシュート Lv3』『バレッジファイヤ Lv2』『サテライトエイム Lv2』等を活性化しています。
・クラリス
蒸気稼働型拷問具。複数の腕に拷問具をつけた2mほどの縦型機械です。反抗的な奴隷を『痛める』のが目的です。
六本の足を持ち、自律的に移動可能です。
攻撃方法
捕縛用銃 攻遠単 逃げる亜人を捕まえる為に、毒をしみこませた銃を撃ちます。【パラライズ1】【ポイズン2】
焼きごて 攻近単 焼き印を押してきます。【バーン2】【アンガー1】溜1
回転鋸刃 攻近範 回転して人体を切断する刃です。【スクラッチ1】【二連】反動1
蒸気機械 P 精神的な攻撃は無意味です。【コンフェ】系、【ヒュプノス】系無効。
・私兵(×5)
マージョリーに雇われた私兵です。重戦士のランク1までのスキルを使います。
●場所情報
貴族の館。その一室。様様な拷問具が置かれている部屋で、『アイオロスの球』は地下室にあるらしいとか。また、マージョリーに屈した奴隷は部屋の奥に居るようです。時刻は夜ですが、館内の為明かりなどの心配は不要です。
戦闘開始時、敵前衛に『私兵(×5)』『クラリス』が、敵後衛に『マージョリー』がいます。
スピード重視の為、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
大丈夫、まだ全年齢の範疇だ……!
●敵情報
・『女王様』マージョリー・アイオロス
ノウブル。二十代後半女性。ヘルメリアの貴族です。亜人を屈服させて自分の奴隷にするのが趣味です。なおヘルメリアの貴族では一般的な趣味だったりします。自ら亜人を狩る投げナイフガンナー。
なお、アイオロス姓はヘルメリア貴族では割と一般的な姓との事。
『ピンポイントシュート Lv3』『バレッジファイヤ Lv2』『サテライトエイム Lv2』等を活性化しています。
・クラリス
蒸気稼働型拷問具。複数の腕に拷問具をつけた2mほどの縦型機械です。反抗的な奴隷を『痛める』のが目的です。
六本の足を持ち、自律的に移動可能です。
攻撃方法
捕縛用銃 攻遠単 逃げる亜人を捕まえる為に、毒をしみこませた銃を撃ちます。【パラライズ1】【ポイズン2】
焼きごて 攻近単 焼き印を押してきます。【バーン2】【アンガー1】溜1
回転鋸刃 攻近範 回転して人体を切断する刃です。【スクラッチ1】【二連】反動1
蒸気機械 P 精神的な攻撃は無意味です。【コンフェ】系、【ヒュプノス】系無効。
・私兵(×5)
マージョリーに雇われた私兵です。重戦士のランク1までのスキルを使います。
●場所情報
貴族の館。その一室。様様な拷問具が置かれている部屋で、『アイオロスの球』は地下室にあるらしいとか。また、マージョリーに屈した奴隷は部屋の奥に居るようです。時刻は夜ですが、館内の為明かりなどの心配は不要です。
戦闘開始時、敵前衛に『私兵(×5)』『クラリス』が、敵後衛に『マージョリー』がいます。
スピード重視の為、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年08月10日
2019年08月10日
†メイン参加者 8人†
●
「お邪魔します!」
言葉と同時に扉を蹴り破る『南方舞踏伝承者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。そして繰り広げられている惨状に嫌悪感を示した。虐げるノウブルと虐げられるマザリモノ。この国で普通に行われている差別そのものに・
「随分といいご趣味をお持ちで」
マージョリーの様子を見て『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は頭を掻きながらつぶやいた。とはいえ、ヘルメリアの貴族ではまだましな方だ。少なくとも命を奪おうとしているわけではないのだから。
「これだからノウブルは……」
ノウブルに対する嫌悪感を口にする『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。イ・ラプセルが特殊なだけであって、亜人を下に見る価値観は一般的だ。だからと言って、この状況を認めるつもりは全くない。
「悪しき者には神の制裁を」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈り、そして武器を構える。如何にこの国では趣味の範囲だとはいえ、他者を傷つけ尊厳を奪う事を良しとするつもりはない。罪には罰を。
「ヘルメリアで生まれていたらこういう価値観に染まっていたと思うとぞっとするな」
ため息と共に言葉を放つ『百花の騎士』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。人の価値観は環境によって培われる。イ・ラプセルの環境からすれば以上でも、この国ではこれが普通なのだ。だからこそ、恐ろしい。
「趣味は趣味だ。倒錯的だがそれ自体はアリだろうよ」
うんうんと頷く『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。そういった趣味自体はイ・ラプセルの花街でも見る事が出来る。だが趣味の強要は良くない。行われているのが暴力行為なら医者の出番だ。
「何をするにしても、ここを制圧しないとね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は落ち着いた口調で告げる。マザリビトへの虐待には怒りを感じるが、その感情を表には出さない。冷静に判断を下すことが、錬金術師なのだから。
「そうね。やることは多いわ。ちゃっちゃと片付けましょう」
籠手の動きを確認するように動かしながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が頷いた。奴隷解放にアイオロスの球の捜索。それ以外に何か見つかればそれでよし。この国では犯罪である以上、スマート且つスピーディにことを進めなくては。
「侵入者!? お前達、やっておしまい!」
マージョリーの言葉と同時に『趣味』を観察していた私兵たちが動き出す。同時に拷問用の機械も動き出した。
「まー、警備もザルだしぶっちゃけ外れだとは思うが」
「フリーエンジンとしては見過ごせないわよね」
そんなことを言いながら、女王に鉄槌を下すべく自由騎士達は武器を構えた。
●
「行きますわ。神罰を与えましょう」
一番最初に動いたのはアンジェリカだ。『断罪と救済の十字架』と『贖罪と解放の大剣』を手にして、拷問機械に向かって距離を詰める。寸暇を惜しんで学んだ蒸気機関の知識を駆使し、その動きを読み取っていく。
頭の中で機械の設計図を描き、力の伝達を想像するアンジェリカ。エンジンの動力を伝える歯車の連結。そこを狙うように持っている武器を叩きつけた。一度で駄目なら二度、二度で駄目なら三度。繰り返される一撃がクラリスに衝撃を加えていく。
「斯様な罪を犯す以上、相応の罰を与えます」
「罰? はっ、マザリモノを甚振って何が悪いの。こいつは私のモノなのよ」
「ふざけるな! マザリモノはモノじゃない!」
マージョリーの言葉に声をあげて叫ぶカーミラ。亜人に対する差別から逃れるためにイ・ラプセルにやってきて、その正しさを知った。ノウブルだからと言って亜人を下等と見下して理由はない。
怒りを拳に溜めるように強く握りしめる。そのまま裂帛と共に拳を突き出した。的確に繰り出される拳は衝撃となって敵に伝わり、気の流れを乱していく。めまいに似た感覚と共に私兵たちはその動きを止める。
「今だよ! やっちゃって!」
「ええ。任せなさい!」
カーミラに続くようにエルシーが躍り出る。緋色の髪がふわりと揺れ、その揺れが重量に従って降りる頃にはエルシーは私兵に接敵していた。朦朧とした意識の中で防御姿勢を取ろうとする敵にエルシーは容赦なく拳を突き出す。
足を強く踏みしめ、その力を拳に伝える。そのイメージを保ちながら腰をひねって拳を突き出すエルシー。格闘技術の基礎にして理想形。数千数万と繰り返した拳の一撃。無駄のない動きと速度によって繰り出された一撃が私兵を吹き飛ばす。
「そのまま寝てなさい。命だけは奪わないであげるわ」
「盗人猛々しいね! 偉そうな口が利けるのも今のうちよ!」
「いや、まったく。盗人であることには変わりない」
肩をすくめるニコラス。このヘルメリアに置いて、奴隷は物である。それを奪うという行為は強盗であり、奴隷を壊す行為は器物破損である。ヘルメリアに住んでいた亜人のニコラスはそれを良く知っていた。……言葉通り、身をもって。
頭を振って思考を戦闘に戻すニコラス。敵の動き。味方の動き。それを冷静に見やる。大きく呼吸をして頭の中をクリアにして、癒しの術式を解き放つ。放たれた魔力は傷ついた仲間の痛みを緩和し、傷を塞いでいく。
「でもまあ偉そうな口は最後まで利けるかもよ」
「特段会話するつもりもないがな」
冷たい声でアリスタルフが言い放つ。マージョリーの趣味が如何にヘルメリア貴族の一般的な趣味であったとしても、自分の感性で受け入れられないのは間違いない。暴力で相手を屈服させて従わせる。そんな愉悦を良しとするつもりはない。
私兵の攻撃を警棒で受け止め、その懐にもぐりこむようにアリスタルフは歩を進める。身をかがめ、立ち上がるように重心を移動させてその背中を私兵に叩きつける。突き抜けた衝撃がその背後に居るマージョリーにまで届いた。
「趣味が悪い。そこの六本足の機械も虫のようだ」
「潔癖症には理解できんだろうな」
然もありなん、とツボミは肩をすくめた。趣味は嗜好は人それぞれ。自分が良いと思うものを否定されることもよくある話だ。だからこそ話し合う事に意味があり、そうやって新たな文化が開けていくのだ。まあ、マージョリーの趣味はツボミも一言言いたいのだが。
肩の動き、呼吸、足の震え。仲間が発する身体からのサインを見ながらツボミは呪文を唱える。見逃してしまいそうな小さな動きだが、医者のツボミからすれば立派な信号だ。疲弊の大きい仲間に向けて術を解き放ち、傷を癒していく。
「だが、絶対優位と時間無制限の保証の上で延々強要し続けるのはなあ……空しくならんか?」
「はん! 力と時間を用意できないモノのいいわけね!」
「確かに生まれついての差っていうのはあるわな」
怒りを堪えるようにウェルスが呟く。顔が見えないように包帯でぐるぐる巻きにしていることもあって、ぐもったような声になっている。相手には聞き取りにくいだろうが相手に言葉を聞いてほしいわけではないので、どうでもいい。
私兵の一人を足止めしながら、銃で拷問機械を狙うウェルス。複数あるアームの一つ、焼きごてに標準を合わせ、引き金を引いた。一発目でアームの可動部を潰し、二発目で熱を伝える配管を壊す。トドメとばかりに先端についている印を砕いた。
「だがそれもこういう形で吹き飛ぶ。運が悪かったな」
「全くだ。女王気取りもここまでだ」
ウェルスの言葉にうんと頷くマグノリア。ヘルメリアの法を盾にして弱者を弄り、それが自分の力だと勘違いをしている女王様。しかしそれもここまでだ。ノウブルだからと言って人を虐げていい理由はない。それを教えてやらなくては。
マグノリアの脳内で一つの図形が展開される。それは錬金術が生み出す毒物。その毒物の効果を逆転させるように図形を反転させる。そのイメージを固定したまま魔力を凝縮し、仲間の元に解き放つ。体内で活性化する錬金術が仲間を賦活化していく。
「これまでの行為を反省してもらおう」
「お前達こそ、この私に歯向かったことを後悔させてやる!」
歯ぎしりと共に叫ぶマージョリー。しかし相手の強さを前に、その声に焦りが含まれていた。
戦いは少しずつ加速していく。
●
数で勝るマージョリー達だが、自由騎士達はその差を練度と技術で埋める。
「どりゃー!」
「これでどうだい?」
カーミラのきのこもった一撃と、マグノリアの魔術で足止めされた私兵達は数を生かして後衛に向かう事もできず、また拷問機械クラリスは複数の自由騎士によって攻撃を受けている。
「ああああ!? なんてことするのさ!」
アンジェリカの一撃で動かなくなる拷問機械。マージョリー側最大の戦力が沈黙したことで、自由騎士達の勢いが増す。
「素人が金と権力で無理やり虐げるというのは、その辺の狒々親父と変わらんなあ。美学がない」
魔力を練りながら、ぷんすかと怒るツボミ。怒るポイントが他人と違う気もするが、まあそれはそれ。敵の攻撃から受けるダメージを癒しながら、そりゃその道のプロとは違うかとと肩をすくめた。
「行くぞ」
前衛の一人を伏し、道が開いた瞬間にアリスタルフが一気に距離を詰める。捻るように足に力を込め、爆発するように力を開放して踏み込む。そのまま拳を突き出し、勢いのままにマージョリーに叩きつける。
「見えてるわよ」
マージョリーから放たれたナイフを、手甲で弾くエルシー。怯えて逃げる亜人相手ならいざ知らず、百戦錬磨の自由騎士相手にはマージョリーは役者不足だ。次にどこに投げてくるのか、その視線を追えばすぐに予測できる。
「許さないぞ! ぶっとばーす!」
カーミラもマージョリーに突撃し、その拳を振るう。国が違えば常識は違う。だからと言って、マージョリーがやっていることを許すつもりはない。容赦のない一撃がマージョリーに叩き込まれる。
「マザリモノを痛ぶって女王気取り……余程普段が冴えないんだね、君」
マグノリアはマージョリーの行動と言動を直で見て、そう結論を下す。権力こそあるがそれに相応するだけの実績を持たない。それ故に弱い立場の者に暴力を振るい、自分自身を安堵させる。そんな仮面をかぶっている女性だ。
「あいててて……! おじさんに集中砲火はきついなぁ」
マージョリーのナイフを受けて膝をつくニコラス。回復役という事で狙われたのだろう。戦闘行為の続行は難しいが、趨勢はほぼ見えた。仲間に後を任せ、そのまま腰を下ろした。少し休憩したら、アイオロスの球の捜索開始だ。
「さて女王様。そろそろ降伏のセリフを考えておいた方がいいぜ」
銃を撃ちながらウェルスがマージョリーに告げる。私兵をほぼ排し、拷問機械も沈黙している。マージョリー自身は健闘している方だが、それも時間の問題だ。降伏を進めるのは優しさではない。ここで揺さぶりをかけて、後の交渉を有利に運ぶ為だ。
「ええ。私達フリーエンジンも無駄な暴力は好みません。平和的な解決が一番です」
言いながら微笑むアンジェリカ。手にした武器は血に染まり、多くの私兵を伏してきた。マージョリーの所業には怒りしか感じないが、それでも平和的に済むならそれに越したことはない。
「奴隷専門の盗賊が偉そうに!」
気丈にマージョリーが叫ぶが、自分が劣勢なのは理解していた。自由騎士達はダメージを受けているものの、倒れる気配はまるでない。私兵もほぼ倒れ、自分を守る盾が無い。一気呵成に攻め立てられる。
「これで終わりだぁ!」
よろめくマージョリーにカーミラが迫る。拳で打撃を加えた後に足を払うように蹴りを放つ。バランスを崩したマージョリーにカウンターを合わせるように、頭の角を立ち上がるように突き出した。
「どうだ! 今まで差別されてきた亜人達の痛み、思い知ったか!」
腰に手を当て、貴族を見下ろすカーミラ。返事なくマージョリーは気を失い、地面に崩れ落ちていた。
●
戦い終わり、傷の具合を確認する自由騎士達。その後にそれぞれの行動に移る。
「よいしょ」
アンジェリカは破壊された拷問機械の焼きごて部分をもぎ取り、それを火であぶる。それをマージョリーに近づけさせながら、笑顔を浮かべた。
「さて。今更ですが我々はフリーエンジンです。平和的に話し合いましょう」
「突然人の家に入り込んで暴力奮っておいて、平和的とか何!?」
「貴方が亜人達にしてきた事よりは平和的ですわ」
笑顔を崩さず応えるアンジェリカ。
「一応この辺りの政務を担ってる貴族様か。それなりに情報が得られたな」
書類を纏めながらウェルスが頷く。憲兵隊の巡回ルートやここ数か月の地方の動き。その辺りは今後の活動に役立ちそうだ。
「さて。隠し金庫とそのカギ、それと罠の有無も教えてもらおうか? それ以外のことを喋ると、聞こえの悪い耳に弾丸を撃ち込むぜ」
「し、執務室に金庫が。カギは机の引き出しに」
状況が状況なだけに、素直にしゃべるマージョリー。
「そう言えば、アイオロス性ってことは『アイオロスの球』の関係者か何かか?」
「私は知らない。大叔母様が関与したとか言う伝承もあるけど、だったらこんな所でこんな生活はしていないわよ」
国の動力源を摘みだした関係者が、地方の領主と言うのは流石にありえないか。嘘は言ってないだろうなと、声色で判断するウェルス。
「しかし貴女もツイてないわね。ヘルメリアじゃ普通の趣味に興じていただけなのに、こんな目に遭うんだから」
言いながらエルシーは鞭を手にしてマージョリーに話しかける。そのまま床に鞭を振るった。
「まぁ、ぜんぜん気の毒とは思わないけどね」
言いながらさらに鞭を振るう。コツがつかめてきたのか、少しずつマージョリーの近くを床を打ちながら、
「他にも知っていることがあったら言った方がいいわよ。新しい何かに目覚める前に」
「見下ろされる気分はどうだ?」
アリスタルフはマージョリーを見降ろしながら、冷たく声を放つ。一片の同情もない嫌悪の瞳。
「お前に女王の素質はない。せいぜい地べたに這いつくばって己の行いを悔い、許しを乞うのがお似合いだ。欲の詰まったメス豚が」
まるで物を見るかのようなアリスタルフの瞳。それが今まで眠っていたマージョリーの何かを目覚めさせる。
「は、はい。なんでも言う事を聞きます。おゆるしくださぁい!」
「どうやらソッチの素質があったようだな。色々気苦労があったのかもしれんなぁ」
ツボミはそんな様子を見ながら、マージョリーの『趣味』で弄ばれた亜人達を治療していた。傷痕が酷いが、致命的な傷を負った者は少ない。どちらかと言うと精神的な喪失が大きかった。
「新たなモンに目覚めた、と言うよりは暴力による精神の摩耗か。『村』に送って療養させるのが一番だな」
心の傷は薬で治る類ではない。暴力のない場所で静養させた方がいい。
そして地下に向かったカーミラとニコラスとマグノリアは――
「んじゃ、開けるぜ」
地下室の鍵を開けたニコラスが見たのは、巨大なボイラーと大量の水が入ったタンク。おそらくこの館の蒸気を賄うものだろうが、規模からして国全部の蒸気を算出できるとは思えない。
「まあ、予想通り外れか。ここで見つかればよかったんだけどね」
マグノリアは肩をすくめて首を振った。国のエネルギーを生み出す物が、こんな所にあるはずがない。それは分かってはいたのだが。
「でもさー。これを大きくしたのがその『アイオロスの球』ってことなんじゃないかな?」
首をかしげてそんなことを言うカーミラ。蒸気のことはよくわからないけど、同じ蒸気を生み出す物なら何かの関係があるかもしれない。
「機械を大きくしたものとかか?」
「単純な巨大化なのか、機械を足し算するのかわからないけど」
ジョン・コーリナーは言った。『木を隠すために森を作った』と。壮大な偽装工作だと。
だがその偽装工作自体がパーツを隠すための偽装だというのなら。無駄と思って諦めさせるための手法だというのなら。
「……数多くある情報の中に、『アイオロスの球』の情報の断片がある……?」
自由騎士達はゴウゴウと唸る機械を見ながら、そう呟く。
古ぼけた機械には、製作者を示す『アイオロス』のマークが描かれていた。
そして自由騎士達は速やかに撤退する。門扉に『フリーエンジン参上!』と書かれた看板が掲げられ、それを見た歯車騎士団たちが苦虫を噛むことになるだろう。
館で得た金品類や情報などはフリーエンジンに譲渡され、新たな奴隷解放の活動として役立つこととなる。
アイオロスの球こそなかったが、そこに囚われた奴隷を開放できた。虐げられた亜人達は新たな光となって未来のこの地を照らすのだ。その日が来るまで、今は傷を癒してもらおう。
今は俯く亜人達が顔をあげられる日々。その第一歩こそが、自由騎士達の最大の報酬だった。
「お邪魔します!」
言葉と同時に扉を蹴り破る『南方舞踏伝承者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。そして繰り広げられている惨状に嫌悪感を示した。虐げるノウブルと虐げられるマザリモノ。この国で普通に行われている差別そのものに・
「随分といいご趣味をお持ちで」
マージョリーの様子を見て『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は頭を掻きながらつぶやいた。とはいえ、ヘルメリアの貴族ではまだましな方だ。少なくとも命を奪おうとしているわけではないのだから。
「これだからノウブルは……」
ノウブルに対する嫌悪感を口にする『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。イ・ラプセルが特殊なだけであって、亜人を下に見る価値観は一般的だ。だからと言って、この状況を認めるつもりは全くない。
「悪しき者には神の制裁を」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈り、そして武器を構える。如何にこの国では趣味の範囲だとはいえ、他者を傷つけ尊厳を奪う事を良しとするつもりはない。罪には罰を。
「ヘルメリアで生まれていたらこういう価値観に染まっていたと思うとぞっとするな」
ため息と共に言葉を放つ『百花の騎士』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。人の価値観は環境によって培われる。イ・ラプセルの環境からすれば以上でも、この国ではこれが普通なのだ。だからこそ、恐ろしい。
「趣味は趣味だ。倒錯的だがそれ自体はアリだろうよ」
うんうんと頷く『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。そういった趣味自体はイ・ラプセルの花街でも見る事が出来る。だが趣味の強要は良くない。行われているのが暴力行為なら医者の出番だ。
「何をするにしても、ここを制圧しないとね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は落ち着いた口調で告げる。マザリビトへの虐待には怒りを感じるが、その感情を表には出さない。冷静に判断を下すことが、錬金術師なのだから。
「そうね。やることは多いわ。ちゃっちゃと片付けましょう」
籠手の動きを確認するように動かしながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が頷いた。奴隷解放にアイオロスの球の捜索。それ以外に何か見つかればそれでよし。この国では犯罪である以上、スマート且つスピーディにことを進めなくては。
「侵入者!? お前達、やっておしまい!」
マージョリーの言葉と同時に『趣味』を観察していた私兵たちが動き出す。同時に拷問用の機械も動き出した。
「まー、警備もザルだしぶっちゃけ外れだとは思うが」
「フリーエンジンとしては見過ごせないわよね」
そんなことを言いながら、女王に鉄槌を下すべく自由騎士達は武器を構えた。
●
「行きますわ。神罰を与えましょう」
一番最初に動いたのはアンジェリカだ。『断罪と救済の十字架』と『贖罪と解放の大剣』を手にして、拷問機械に向かって距離を詰める。寸暇を惜しんで学んだ蒸気機関の知識を駆使し、その動きを読み取っていく。
頭の中で機械の設計図を描き、力の伝達を想像するアンジェリカ。エンジンの動力を伝える歯車の連結。そこを狙うように持っている武器を叩きつけた。一度で駄目なら二度、二度で駄目なら三度。繰り返される一撃がクラリスに衝撃を加えていく。
「斯様な罪を犯す以上、相応の罰を与えます」
「罰? はっ、マザリモノを甚振って何が悪いの。こいつは私のモノなのよ」
「ふざけるな! マザリモノはモノじゃない!」
マージョリーの言葉に声をあげて叫ぶカーミラ。亜人に対する差別から逃れるためにイ・ラプセルにやってきて、その正しさを知った。ノウブルだからと言って亜人を下等と見下して理由はない。
怒りを拳に溜めるように強く握りしめる。そのまま裂帛と共に拳を突き出した。的確に繰り出される拳は衝撃となって敵に伝わり、気の流れを乱していく。めまいに似た感覚と共に私兵たちはその動きを止める。
「今だよ! やっちゃって!」
「ええ。任せなさい!」
カーミラに続くようにエルシーが躍り出る。緋色の髪がふわりと揺れ、その揺れが重量に従って降りる頃にはエルシーは私兵に接敵していた。朦朧とした意識の中で防御姿勢を取ろうとする敵にエルシーは容赦なく拳を突き出す。
足を強く踏みしめ、その力を拳に伝える。そのイメージを保ちながら腰をひねって拳を突き出すエルシー。格闘技術の基礎にして理想形。数千数万と繰り返した拳の一撃。無駄のない動きと速度によって繰り出された一撃が私兵を吹き飛ばす。
「そのまま寝てなさい。命だけは奪わないであげるわ」
「盗人猛々しいね! 偉そうな口が利けるのも今のうちよ!」
「いや、まったく。盗人であることには変わりない」
肩をすくめるニコラス。このヘルメリアに置いて、奴隷は物である。それを奪うという行為は強盗であり、奴隷を壊す行為は器物破損である。ヘルメリアに住んでいた亜人のニコラスはそれを良く知っていた。……言葉通り、身をもって。
頭を振って思考を戦闘に戻すニコラス。敵の動き。味方の動き。それを冷静に見やる。大きく呼吸をして頭の中をクリアにして、癒しの術式を解き放つ。放たれた魔力は傷ついた仲間の痛みを緩和し、傷を塞いでいく。
「でもまあ偉そうな口は最後まで利けるかもよ」
「特段会話するつもりもないがな」
冷たい声でアリスタルフが言い放つ。マージョリーの趣味が如何にヘルメリア貴族の一般的な趣味であったとしても、自分の感性で受け入れられないのは間違いない。暴力で相手を屈服させて従わせる。そんな愉悦を良しとするつもりはない。
私兵の攻撃を警棒で受け止め、その懐にもぐりこむようにアリスタルフは歩を進める。身をかがめ、立ち上がるように重心を移動させてその背中を私兵に叩きつける。突き抜けた衝撃がその背後に居るマージョリーにまで届いた。
「趣味が悪い。そこの六本足の機械も虫のようだ」
「潔癖症には理解できんだろうな」
然もありなん、とツボミは肩をすくめた。趣味は嗜好は人それぞれ。自分が良いと思うものを否定されることもよくある話だ。だからこそ話し合う事に意味があり、そうやって新たな文化が開けていくのだ。まあ、マージョリーの趣味はツボミも一言言いたいのだが。
肩の動き、呼吸、足の震え。仲間が発する身体からのサインを見ながらツボミは呪文を唱える。見逃してしまいそうな小さな動きだが、医者のツボミからすれば立派な信号だ。疲弊の大きい仲間に向けて術を解き放ち、傷を癒していく。
「だが、絶対優位と時間無制限の保証の上で延々強要し続けるのはなあ……空しくならんか?」
「はん! 力と時間を用意できないモノのいいわけね!」
「確かに生まれついての差っていうのはあるわな」
怒りを堪えるようにウェルスが呟く。顔が見えないように包帯でぐるぐる巻きにしていることもあって、ぐもったような声になっている。相手には聞き取りにくいだろうが相手に言葉を聞いてほしいわけではないので、どうでもいい。
私兵の一人を足止めしながら、銃で拷問機械を狙うウェルス。複数あるアームの一つ、焼きごてに標準を合わせ、引き金を引いた。一発目でアームの可動部を潰し、二発目で熱を伝える配管を壊す。トドメとばかりに先端についている印を砕いた。
「だがそれもこういう形で吹き飛ぶ。運が悪かったな」
「全くだ。女王気取りもここまでだ」
ウェルスの言葉にうんと頷くマグノリア。ヘルメリアの法を盾にして弱者を弄り、それが自分の力だと勘違いをしている女王様。しかしそれもここまでだ。ノウブルだからと言って人を虐げていい理由はない。それを教えてやらなくては。
マグノリアの脳内で一つの図形が展開される。それは錬金術が生み出す毒物。その毒物の効果を逆転させるように図形を反転させる。そのイメージを固定したまま魔力を凝縮し、仲間の元に解き放つ。体内で活性化する錬金術が仲間を賦活化していく。
「これまでの行為を反省してもらおう」
「お前達こそ、この私に歯向かったことを後悔させてやる!」
歯ぎしりと共に叫ぶマージョリー。しかし相手の強さを前に、その声に焦りが含まれていた。
戦いは少しずつ加速していく。
●
数で勝るマージョリー達だが、自由騎士達はその差を練度と技術で埋める。
「どりゃー!」
「これでどうだい?」
カーミラのきのこもった一撃と、マグノリアの魔術で足止めされた私兵達は数を生かして後衛に向かう事もできず、また拷問機械クラリスは複数の自由騎士によって攻撃を受けている。
「ああああ!? なんてことするのさ!」
アンジェリカの一撃で動かなくなる拷問機械。マージョリー側最大の戦力が沈黙したことで、自由騎士達の勢いが増す。
「素人が金と権力で無理やり虐げるというのは、その辺の狒々親父と変わらんなあ。美学がない」
魔力を練りながら、ぷんすかと怒るツボミ。怒るポイントが他人と違う気もするが、まあそれはそれ。敵の攻撃から受けるダメージを癒しながら、そりゃその道のプロとは違うかとと肩をすくめた。
「行くぞ」
前衛の一人を伏し、道が開いた瞬間にアリスタルフが一気に距離を詰める。捻るように足に力を込め、爆発するように力を開放して踏み込む。そのまま拳を突き出し、勢いのままにマージョリーに叩きつける。
「見えてるわよ」
マージョリーから放たれたナイフを、手甲で弾くエルシー。怯えて逃げる亜人相手ならいざ知らず、百戦錬磨の自由騎士相手にはマージョリーは役者不足だ。次にどこに投げてくるのか、その視線を追えばすぐに予測できる。
「許さないぞ! ぶっとばーす!」
カーミラもマージョリーに突撃し、その拳を振るう。国が違えば常識は違う。だからと言って、マージョリーがやっていることを許すつもりはない。容赦のない一撃がマージョリーに叩き込まれる。
「マザリモノを痛ぶって女王気取り……余程普段が冴えないんだね、君」
マグノリアはマージョリーの行動と言動を直で見て、そう結論を下す。権力こそあるがそれに相応するだけの実績を持たない。それ故に弱い立場の者に暴力を振るい、自分自身を安堵させる。そんな仮面をかぶっている女性だ。
「あいててて……! おじさんに集中砲火はきついなぁ」
マージョリーのナイフを受けて膝をつくニコラス。回復役という事で狙われたのだろう。戦闘行為の続行は難しいが、趨勢はほぼ見えた。仲間に後を任せ、そのまま腰を下ろした。少し休憩したら、アイオロスの球の捜索開始だ。
「さて女王様。そろそろ降伏のセリフを考えておいた方がいいぜ」
銃を撃ちながらウェルスがマージョリーに告げる。私兵をほぼ排し、拷問機械も沈黙している。マージョリー自身は健闘している方だが、それも時間の問題だ。降伏を進めるのは優しさではない。ここで揺さぶりをかけて、後の交渉を有利に運ぶ為だ。
「ええ。私達フリーエンジンも無駄な暴力は好みません。平和的な解決が一番です」
言いながら微笑むアンジェリカ。手にした武器は血に染まり、多くの私兵を伏してきた。マージョリーの所業には怒りしか感じないが、それでも平和的に済むならそれに越したことはない。
「奴隷専門の盗賊が偉そうに!」
気丈にマージョリーが叫ぶが、自分が劣勢なのは理解していた。自由騎士達はダメージを受けているものの、倒れる気配はまるでない。私兵もほぼ倒れ、自分を守る盾が無い。一気呵成に攻め立てられる。
「これで終わりだぁ!」
よろめくマージョリーにカーミラが迫る。拳で打撃を加えた後に足を払うように蹴りを放つ。バランスを崩したマージョリーにカウンターを合わせるように、頭の角を立ち上がるように突き出した。
「どうだ! 今まで差別されてきた亜人達の痛み、思い知ったか!」
腰に手を当て、貴族を見下ろすカーミラ。返事なくマージョリーは気を失い、地面に崩れ落ちていた。
●
戦い終わり、傷の具合を確認する自由騎士達。その後にそれぞれの行動に移る。
「よいしょ」
アンジェリカは破壊された拷問機械の焼きごて部分をもぎ取り、それを火であぶる。それをマージョリーに近づけさせながら、笑顔を浮かべた。
「さて。今更ですが我々はフリーエンジンです。平和的に話し合いましょう」
「突然人の家に入り込んで暴力奮っておいて、平和的とか何!?」
「貴方が亜人達にしてきた事よりは平和的ですわ」
笑顔を崩さず応えるアンジェリカ。
「一応この辺りの政務を担ってる貴族様か。それなりに情報が得られたな」
書類を纏めながらウェルスが頷く。憲兵隊の巡回ルートやここ数か月の地方の動き。その辺りは今後の活動に役立ちそうだ。
「さて。隠し金庫とそのカギ、それと罠の有無も教えてもらおうか? それ以外のことを喋ると、聞こえの悪い耳に弾丸を撃ち込むぜ」
「し、執務室に金庫が。カギは机の引き出しに」
状況が状況なだけに、素直にしゃべるマージョリー。
「そう言えば、アイオロス性ってことは『アイオロスの球』の関係者か何かか?」
「私は知らない。大叔母様が関与したとか言う伝承もあるけど、だったらこんな所でこんな生活はしていないわよ」
国の動力源を摘みだした関係者が、地方の領主と言うのは流石にありえないか。嘘は言ってないだろうなと、声色で判断するウェルス。
「しかし貴女もツイてないわね。ヘルメリアじゃ普通の趣味に興じていただけなのに、こんな目に遭うんだから」
言いながらエルシーは鞭を手にしてマージョリーに話しかける。そのまま床に鞭を振るった。
「まぁ、ぜんぜん気の毒とは思わないけどね」
言いながらさらに鞭を振るう。コツがつかめてきたのか、少しずつマージョリーの近くを床を打ちながら、
「他にも知っていることがあったら言った方がいいわよ。新しい何かに目覚める前に」
「見下ろされる気分はどうだ?」
アリスタルフはマージョリーを見降ろしながら、冷たく声を放つ。一片の同情もない嫌悪の瞳。
「お前に女王の素質はない。せいぜい地べたに這いつくばって己の行いを悔い、許しを乞うのがお似合いだ。欲の詰まったメス豚が」
まるで物を見るかのようなアリスタルフの瞳。それが今まで眠っていたマージョリーの何かを目覚めさせる。
「は、はい。なんでも言う事を聞きます。おゆるしくださぁい!」
「どうやらソッチの素質があったようだな。色々気苦労があったのかもしれんなぁ」
ツボミはそんな様子を見ながら、マージョリーの『趣味』で弄ばれた亜人達を治療していた。傷痕が酷いが、致命的な傷を負った者は少ない。どちらかと言うと精神的な喪失が大きかった。
「新たなモンに目覚めた、と言うよりは暴力による精神の摩耗か。『村』に送って療養させるのが一番だな」
心の傷は薬で治る類ではない。暴力のない場所で静養させた方がいい。
そして地下に向かったカーミラとニコラスとマグノリアは――
「んじゃ、開けるぜ」
地下室の鍵を開けたニコラスが見たのは、巨大なボイラーと大量の水が入ったタンク。おそらくこの館の蒸気を賄うものだろうが、規模からして国全部の蒸気を算出できるとは思えない。
「まあ、予想通り外れか。ここで見つかればよかったんだけどね」
マグノリアは肩をすくめて首を振った。国のエネルギーを生み出す物が、こんな所にあるはずがない。それは分かってはいたのだが。
「でもさー。これを大きくしたのがその『アイオロスの球』ってことなんじゃないかな?」
首をかしげてそんなことを言うカーミラ。蒸気のことはよくわからないけど、同じ蒸気を生み出す物なら何かの関係があるかもしれない。
「機械を大きくしたものとかか?」
「単純な巨大化なのか、機械を足し算するのかわからないけど」
ジョン・コーリナーは言った。『木を隠すために森を作った』と。壮大な偽装工作だと。
だがその偽装工作自体がパーツを隠すための偽装だというのなら。無駄と思って諦めさせるための手法だというのなら。
「……数多くある情報の中に、『アイオロスの球』の情報の断片がある……?」
自由騎士達はゴウゴウと唸る機械を見ながら、そう呟く。
古ぼけた機械には、製作者を示す『アイオロス』のマークが描かれていた。
そして自由騎士達は速やかに撤退する。門扉に『フリーエンジン参上!』と書かれた看板が掲げられ、それを見た歯車騎士団たちが苦虫を噛むことになるだろう。
館で得た金品類や情報などはフリーエンジンに譲渡され、新たな奴隷解放の活動として役立つこととなる。
アイオロスの球こそなかったが、そこに囚われた奴隷を開放できた。虐げられた亜人達は新たな光となって未来のこの地を照らすのだ。その日が来るまで、今は傷を癒してもらおう。
今は俯く亜人達が顔をあげられる日々。その第一歩こそが、自由騎士達の最大の報酬だった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
ちがうんだきいてくれ「Q」は単語数が多くないから自然とこういう単語も必要になるわけでこれはしかたのないことなんだ。
まあ、こういう女王様にしたのはどくどくなのですが。
以上のような結果になりました。焼きごて潰されたらダメージ的に押し切れん。
最初はマージョリーは鞭で攻撃するキャラにしようかと思ってたのですが、ここまでヘイト稼いでるんだから前に出たらフルボッコじゃん、という事で後ろに。どのみちフルボッコなのですが。
MVPは焼きごて破壊に尽力したライヒトゥーム様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
ちがうんだきいてくれ「Q」は単語数が多くないから自然とこういう単語も必要になるわけでこれはしかたのないことなんだ。
まあ、こういう女王様にしたのはどくどくなのですが。
以上のような結果になりました。焼きごて潰されたらダメージ的に押し切れん。
最初はマージョリーは鞭で攻撃するキャラにしようかと思ってたのですが、ここまでヘイト稼いでるんだから前に出たらフルボッコじゃん、という事で後ろに。どのみちフルボッコなのですが。
MVPは焼きごて破壊に尽力したライヒトゥーム様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
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