MagiaSteam
宝の海で亡者が嗤う




 暗く湿った洞窟の奥底にぼんやりと明かりが灯る。
 ランプに灯したのは、軍服風の衣装に身を包んだ骸骨だった。そんなものが自然に動くはずなどない。邪悪な力によって死の法則を捻じ曲げた存在、還リビトと呼ばれる存在だ。
「「宝……オレ様ノ、宝……」」
 ゆらめく灯に照らされて、輝きを放つのは金銀や宝石に飾られた財宝の数々だ。薄汚れてこそいるが金貨や銀貨もそこかしこに転がっており、決して少なくない額であることは素人目にも明らかだ。
「「オレ様ノ宝、誰ニモヤルモノカ……」」
 宝への妄執こそが、還リビトをこの地に縛り付けるものだった。
 イブリース化は負の感情、より原始的な欲望に結びつくと言われている。であれば、この屍が邪悪な生を得るのは、いかにも当然の話であった。
「「ソウダ、俺様ノ宝……モット、モット……」」
 そして、人の欲望とは限りの無いものだ。たとえ命を失っていようと、関係ないのだ。満足感などつかの間の安息でしかなかった。
 だから骸骨は再び髑髏の旗を掲げる。
 劫掠と略奪の航海に向けて。


「今日のお話は商売のおはなし。通商連からの依頼よ」
 『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は、談話室に自由騎士が揃ったことを確認すると、優雅に切り出した。
「通商連が航路として利用している航路近辺の岬で、還リビトが発見されたの。あなた達にお願いしたいのは、その討伐ね」
 現れた還リビトは不可思議な魔力で難破した船を直し、島から移動しようとしている。一旦移動してしまえば、その機動力を以って自由に動く、危険な存在と変わってしまうだろう。そうなる前に対処しなくてはいけない。
 頭目の還リビトも強力だが、取り巻きの還リビトも油断できる弱さではないようだ。十分気を付ける必要があるだろう。
「すでに近くの漁村の漁師にも被害が出ているの。これ以上手が付けられなくなる前にどうにかしたいわ」
 ちなみに、還リビトは宝を貯め込んでおり、それは回収されることになる。だが、希望があれば一部もらうことも可能だ。
 戦いの勲章として持っても悪くないかもしれない。
「説明は以上よ。また無事に顔を見せてね」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
KSK
■成功条件
1.幽霊海賊の討伐
こんばんは。
波濤の先に、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は海賊とチャンチャンバラバラやりましょう。

●戦場
 イ・ラプセル近海にある岬の洞窟の中。
 通商連の用意した船に乗って向かいます。宝が惜しいためか、還リビトがここから逃亡することはありません。
 暗がりで足も滑るため、何らかの対策は必要でしょう。

●還リビト
 どうやら、過去にこの海域で活躍した海賊がイブリース化したものと思われます。極めて貪欲で、死してなお財宝を集めようとします
 ・髑髏の海賊
  リーダー格の還リビト。【ライジングスマッシュLv2】【バッシュLv2】を用います。
  1体います。

 ・髑髏の水兵
  髑髏の海賊に従う還リビトです。【ダブルシェル Lv1】を用いるものが3体、【ヒートアクセル Lv1】を用いるものが2体います。

●報酬について
 金銭的な報酬は原則として回収された上で、国庫に入ることになります。その中から皆様への金銭的な報酬も捻出されることになります
 もし気に入った装飾品やお宝があれば、通商連との相談の上で受け取ることも可能です。その場合、特殊効果なし、特殊フレーバーなしのアクセサリを得ることが出来ます。
 受け取りたい方はExプレイングにて、希望するアイテムのテクスチャをご記入ください。詳細に決めても構いませんし、特になければこちらで設定いたします。主に以下のものがあります。
1. 古い記念硬貨
2. 聖印
3. 装飾品(首飾り・髪飾り・指輪・腕輪等)
4. その他思いつくものがあれば
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2019年08月14日

†メイン参加者 6人†




 執着は苦を生む。
 誰が言った言葉であろうか? だが、還リビトと呼ばれる存在の哀しみを表現するうえで、これほどふさわしい言葉はないだろう。
「我が名はアダム・クランプトン! 貴殿らの宝、私が貰い受ける!」
 暗い洞窟の中へ『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)の郎々とした声が響き渡る。
 相手が賊であろうと、死人であろうと、アダムにとっては「誇りを持って挑むべき相手」に他ならない。それが彼の選んだ騎士としての生き方だ。
 世にはアダムの生き方を笑うものもいるだろう。だが、その姿は人々が物語に夢見る白騎士そのものだ。そして、白騎士は山吹色に輝く剣を手に、還リビトへと切りかかる。
 自由騎士たちの前に現れたのは、いかにも海賊といった装束に身を包んだ還リビトたちだった。実際、生前はそのようなものだったのだろう。手には錆びついた剣や銃が握られており、凶悪に光を放つ。
「ふむふむ、まさに金の亡者というべきイブリース! しかしそれゆえシンプルですな」
 しかし、そんなものに恐れをなす『南方舞踏伝承者』瑠璃彦 水月(CL3000449)ではなかった。仲間たちに癒しの加護を与えると、構えを取り冷静に還リビトの攻撃を迎え撃つ。
 元より、敵の先手を取るよりは後手から崩すことが得意なのだ。還リビトの斬撃を流れる水のごとき体術でいなし、そのまま後背を取った。
「生憎と今のあっしはものすごく硬くなっていましてな……遠慮なく殴って浄化してお宝いただきですぞ!」
 そこから、後ろへ控えていた還リビトへと打撃を見舞う。瑠璃彦の打撃は外部よりもむしろ内部を破壊するものだ。銃を持つ還リビトの姿勢が大きく揺れる。
 その状況でも生者への憎しみから銃口を向ける還リビト。
 だが、その引き金が引かれるより早く、この瞬間にタイミングを合わせて宙から躍りかかる影があった。
 『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)だ。
 静かなステップから速度を上げていき、放たれた蒼と翠の刃は弧を描きながら還リビトへと襲い掛かる。
 この嵐の中では、歴戦の戦士ですら自由に動くことは叶わない。
「幽霊船の次は海賊ですか……」
 一方でアリアの内心は複雑であった。
 大規模な戦いの後で還リビトが現れやすいのは、当然の道理である。それは人知れず溜まっていた残留思念を浄化する機会にも繋がっている。
 だが、このような事件も起きるわけで、一概に喜べるものではない。
「理屈は分かっているけど、やるせないですね……うーん、複雑です」
 多くの還リビトに接してきたアリアであるが、いや、接している彼女だからこそ、このジレンマからは中々解放されない。
 一方で、還リビトと初めて戦う『まだ炎は消えないけど』キリ・カーレント(CL3000547)の心中はそれどころではなかった。
 還リビトの現れる原理は理解している。
 だが、実際に目の前にしてみると、死んだはずの人が動くというあり得ない筈の事態へ、本能的に震えてしまう。
「でも皆さんとなら、絶対に成し遂げられるもの。弱気はダメ」
 自分で自分の頬をピシリと叩き、キリは還リビトとの距離を測る。敵に対する恐れも、言い方を変えれば慎重さだ。
「キリ、先は任せるぞ」
 そこへ激励するように声をかけたのは、『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)だ。彼との付き合いが浅いものであれば、現実主義者らしからぬ行動に驚くことだろう。
 だが実の所、アデルの行動になんら不思議なことはない。
 アデルにとって重要なことは生き残ることであり、そのためだったらどんな手でも用いる男である。むしろ、仲間の激励で状況が有利に進むのなら安いものだ。
 牽制がてら杭を撃ち放つアデル。
 骨に撃ち込まれた杭へ、続けざまに杭が突き刺さる。二重の衝撃に還リビトの体勢が崩れた。それをキリは見逃さない。
 キリの手元に現れたのは、大きなにんじんを思わせる魔力の剣。
 自由騎士たちの攻撃が始まり崩れた還リビトの隊列へ、タイミングを合わせて抉りこむように突撃を仕掛ける。
 隙が出来た所へ畳みかけるようにして、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が踏み込み、正拳突きを叩き込んだ。
「すぐに眠らせてあげるわ。ちょっと手荒い事になるけれど、そこは勘弁してね」
 エルシーの拳を覆う籠手は古竜の皮を用いた強靭なものだ。彼女の技の威力を十分以上に威力を発揮させてくれる。幾度にも渡って痛打を浴びている以上、還リビトであっても耐えられるようなものではない。明らかに動きを鈍らせる。
 と、そこへ首魁の還リビトの斬撃が襲い来た。巨体から繰り出される攻撃は強力なものだ。
「中々やるじゃない」
 エルシーはその一撃を受け流し、不敵に笑みを浮かべる。
「お宝ゲットもそうだけど、還リビトを安らかな眠りにつかせるのも、神職としての務めよね」


 還リビトの攻撃は予想以上に苛烈なものだった。個々の耐久力も決して低くはないため、自由騎士たちの体力は地道に着実に奪われていった。並の傭兵などを向けていたのなら、あるいは犠牲と新たな還リビトが増える結果に終わっていたことだろう。
「船の上よりは、まだ戦いやすい」
 だが、ここに来たのは「並みの傭兵」ではなかった。
 戦場に余裕があると見るや、アデルは前線に立ち、剣を握る還リビトへ突撃槍を振るう。
「陸に上がった海賊、といったところか。出航した幽霊海賊船が戦場だったなら、もう少し苦戦したかもしれないな」
 自分のやっていることも大概海賊だ。兜の下で皮肉な笑みを浮かべるアデルは、確実に生存への道筋を見据えていた。
 たしかに、自由騎士たちの消耗は決して少ないとは言えないだろう。しかし、還リビト達も確実に数を減らしていた。
「やらせませんから!」
 普段積極的に動くことの少ない少女なので勘違いされやすいが、実の所キリは結構なお転婆なのである。ここぞという時の思い切りは良いし、目的を果たす時の行動力はいっそ貪欲と言っていいレベルだ。
 還リビトの刺突を受け流し、キリがカウンター気味に切りつけると、それでまた1体砕け散る。
 次第に数を減じていく部下を目にして、還リビトの首魁は今なお壮健であった。その姿にアダムはふと自分を顧みる。
(彼が財宝に執着しているように、僕自身も『優しい世界』に執着している、か)
 アダムが抱えているものも、究極的には人を救いたいという「欲望」だ。どうしても、還リビトとどの程度の差があるのかと思ってしまう。
(それでも僕は、この執着を捨て去る事は出来そうにない)
 心に浮かんだ迷いを振り切り、今はこの哀れな還リビトを救うことに思考を切り替えるアダム。彼の望みへ従うようにして、腕部蒸気鎧装がガンモードへと形を変える。
「これ以上被害を増やさない為にも……死した後にまで、彼等が執着に苛まれないためにも!」
 洞窟の中で弾丸が炸裂し、還リビト達が砕けていく。
 爆煙の中で還リビトの首魁は刹那、自由騎士たちの姿を見失い、財宝を庇うように立つ。
 その瞬間、煙の向こう側から拳を振り上げて跳躍したのはエルシーだった。
「ハッ!」
 裂帛の気合と共に叩き込まれた一撃によって、還リビトの巨体が揺らぐ。
「死んだあとにまでお宝に執着するなんてね。人間の欲って限りがないわね」
 全身を走る衝撃に耐えようとする還リビトだが、それを見逃してくれる自由騎士ではない。勝機とばかり吶喊したアデルがランサーの爆発機能を解き放つ。
「野心と共に、風と散るがいい」
 強烈な一撃を浴びた還リビトの首魁は、もはやこれまでとばかりに手当たり次第に刃を振るう。自棄気味の攻撃ではあるが、逆にかえって近寄りがたい状況だ。そもそも、自由騎士たちの怪我だって浅くはない。
 だが、その状態は意外なほど早く終わりを告げる。
「ほー、やっぱりこれが気になるんですな」
 還リビトの動きが鈍くなったのは、瑠璃彦の持つ高価な腕輪が目に入ってしまったからだ。自分の宝を守りたいだけでなく、人の宝も奪いたいのだ。
 瑠璃彦が持っているのは、以前ギルドでの接客中、常連の貴族におねだりして手に入れた金細工の腕輪だ。
 普通の人間ならさすがにこれに気を取られるようなこともあるまい。だが、強い執着に我を支配された、文字通りの亡者にはてきめんの効果を発揮した。
「簡単に奪えると思わない方がいいですぞ」
 迫って来る還リビトに対して、瑠璃彦は全身の力を集中し、拳から弾丸のごとく解き放つ。
 その衝撃にさしもの還リビトも転倒し、辺りに財宝をぶちまける。
 宙に舞う輝く宝たちは、幻想的な光景を作り上げた。
「貴方達が航海する海は、もう此岸にはありません」
 倒れた還リビトの後ろにスッと影が差す。
 アリアだ。
 還リビトは己の財宝を奪られると思ったのだろうか。自分の身を挺して、宝を覆うようにする。
 この時、アリアの心に再び憐憫の情が湧いたことを責められるものはいないだろう。元々、悪人が相手であっても会心の余地があると信じている娘だ。虚偽の降伏であっても受け入れてしまう所もある。
 だからこの時、アリアに刃を震わせたのは、還リビトへの怒りではなく、還リビトへの慈しみだった。
「大丈夫。今度はセフィロトの海が貴方達を迎え入れてくれるから」
 その優しい風に抱かれるようにして、還リビトは塵へと帰っていった。


「それにしてもすっごいお宝ね。金貨や銀貨がたくさん!」
 戦いを終えて、財宝の山を目にため息をつくエルシー。あれ程までに海賊が執着していたのもむべなるかなと言ったほどだ。
「でもこの量をどうやって……」
 言葉とは裏腹に、実際どうなるのかに気が付いてしまい、キリはぶるっと体を震わせる。
 一応、確認できている限り倒したとは言え、還リビトが拠点として使っていた場所だ。まだまだ還リビトが残っていないとも限らない。それに首魁の性質を考えれば、罠があってもおかしくないだろう。
 そんな所で活動するために、ある程度の腕前が求められるのは当然のことだ。
「なに、大したことではないさ。民の笑顔こそが一番の宝だよ」
 アダムは全身の傷もなんのその。早速、回収作業に取り掛かる。彼自身の報酬は最低限にして、その分を被害者の補てんに充てているよう交渉をしていた。つまり、彼自身の報酬はここにある額からすると雀の涙だが、彼の笑顔に曇りはない。
「これは一日がかり、でしょうか……」
 そこまで清廉に慣れないキリとしては、覚悟を決めるしかなかった。

 数刻経って回収も終わり、エルシーは祈りを捧げていた。1日がかりにならずに済んだのは不幸中の幸いだ。
「今度こそ、どうか安らかに眠ってください。お宝は、生きている私達が有効に使ってあげるから」
 ちょっと聞くだけだと聖職者らしからぬ発言だが、エルシーは回収した財宝の一部を孤児院の運営資金として使わせるよう交渉している。万物は流転する、と言った所か。
「この辺りから奪われたものも、返せそうね」
 被害の目録と見比べながらアリアは息をつく。補償はあるかもしれないが、中には当人にとって大事なものもあるだろう。
 と、そんな中で最後にアデルが引きずり出したのは、1つの朽ちた海賊旗だった。今回の還リビトの持ち物としては、およそ金銭的価値などないものだ。
 アデルはそれが最後であることを確認すると、その場にそっと突き立てた。
 それは海に再び漕ぎ出すことなく消えていった海賊たちの墓標であるかのように、戦いを終えた自由騎士たちを見送るのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『航路開通の記念金貨』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)
『古びたアミュレット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)
『楽譜・『潮騒の歌』』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:キリ・カーレント(CL3000547)
『ラプセル・ワイン(年代物)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:瑠璃彦 水月(CL3000449)
FL送付済