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Working! ヴィスマルクの勤勉な憲兵!

●
ヴィスマルクの警察機構は、軍隊が担っている。
軍隊と警察機構が同じというのはこの時代では特に珍しいことではない。犯罪者を捕らえる為に必要なのは法よりも力だった以上、強い力を持つ軍隊が治安を守るというのは当然の流れだった。
法を守る機構と軍隊が同じというのは、力による抑止力というメリットが大きい。軍隊に逆らえばどうなるのか。それを恐れて犯罪を止める人は多いだろう。懲罰や強制労働、目に見えない所での拷問。真偽はともあれ、そう言った恐怖で犯罪が止まるなら楽なものだ。
当然デメリットも存在する。権力を一極化することで、暴走を止める機構がなくなることだ。当然軍内部機構による監視はあるのだろうが、それも組織によって様々だ。厳しく監視する機構もあれば、賄賂を払えば見逃す機構もある。
「おい、お前人さらいの仲間だろう?」
「『スラムに居て』『ボロ布纏って』……よし、条件にあってるな」
ヴィスマルク軍隊は、後者である。クーデターなどの反乱には厳しいが、国家の為という名目があるならある程度お目こぼしもある。例えば『スラムに居るだろう人さらいを探し出す』という名目があるなら。
この憲兵隊はその名目のもとで動いていた。どちらかと言えば、どうとでも取れる証言を元にスラム住民を殴っているというの方が正しい。
こんなやり方で人さらいを見つけられるはずがない。それはスラム住民も、そして他ならぬ憲兵隊さえも理解していた。憲兵隊は人さらいを見つけるつもりはなく、ただその名目でスラム住民を殴りに来たのだと誰もが知っていた。
だが、誰も逆らえない。それは単純な実力という意味もあるが、彼らはヴィスマルク軍なのだ。ヴィスマルク市民はその恐ろしさを生まれた時から身に染みて知っている。逆らおうという気が起きるはずがなかった。
「ひぃぃぃぃ!? 俺、そんなの知らないですよ!」
「なら何か知ってること吐け。知らないなら人さらいを庇った仲間だ。嘘教えても仲間だ。ほれ、どうだ?」
「そそそそんなぁ……」
「はい、仲間決定。オラァ!」
硬い何かで人の頭を殴る音。そして人が倒れる音。
「隠し立てしてると痛い目見るわ。俺達も国民を傷つける事はあまりしたくないのよ」
「そうそう。栄えあるヴィスマルク軍だからな。でも手掛かりがないなら、この辺り一帯皆殺しにしなくちゃいけないから」
「だなぁ。皆殺しの方が早いもんなぁ。そうする?」
そうしよっか。まるで飲み屋を決めるかのような気軽さで頷き、武器を抜くヴィスマルク兵。そして――血の宴が始まった。悲鳴が止んだのち、ヴィスマルク兵は物憂げにため息をつく。
「あー、俺達勤勉だよな。だからボーナスぐらい貰ってもいいよな」
「だな。お、こいつら結構いい服着てるじゃん。こっちは指輪持ってるぜ」
「おいおい。人さらいの情報手に入らなかったじゃないか。どうすんだよ」
「しゃーない、次行くか」
こうしてヴィスマルク兵――兵士の中でもあまりの素行の悪さでスラム地域の憲兵に更迭された者達が移動する。
次の目標は――
●
さて、状況を確認しよう。
自由騎士達は女神モリグナを討つべくヴィスマルクの首都、ヴェスドラゴンに潜伏中だ。橋の封鎖や敵が使う薬品原料を奪い取ったりと、こまごまとした作戦をこなしながら機を狙っている。それが整うまで、自由騎士の存在はヴィスマルクにバレてはいけない。不意打ちであることが肝要なのだ。
そしてヴィスマルク軍の憲兵隊が自由騎士の活動を察知したのか、スラム周囲を探索している。スラムに居る人間に暴力を振るっては答えないと惨殺するという雑な捜査だ。ここに隠れている自由騎士までたどり着く可能性は五分五分と言った所だろう。
無視して通り過ぎるのを待つのが確率的には一番安全だ。周辺のスラム民は被害を受けるが、それで『この辺りに人はいない』と思ってくれれば幸いだろう。
捜査を止める為に襲ってもいい。好戦的な連中だ。すぐに逃げはしないだろう。そしてそういった素行の悪さもあって、スラムで殺されても追跡調査がかかる確率は低い。
貴方の判断は――
ヴィスマルクの警察機構は、軍隊が担っている。
軍隊と警察機構が同じというのはこの時代では特に珍しいことではない。犯罪者を捕らえる為に必要なのは法よりも力だった以上、強い力を持つ軍隊が治安を守るというのは当然の流れだった。
法を守る機構と軍隊が同じというのは、力による抑止力というメリットが大きい。軍隊に逆らえばどうなるのか。それを恐れて犯罪を止める人は多いだろう。懲罰や強制労働、目に見えない所での拷問。真偽はともあれ、そう言った恐怖で犯罪が止まるなら楽なものだ。
当然デメリットも存在する。権力を一極化することで、暴走を止める機構がなくなることだ。当然軍内部機構による監視はあるのだろうが、それも組織によって様々だ。厳しく監視する機構もあれば、賄賂を払えば見逃す機構もある。
「おい、お前人さらいの仲間だろう?」
「『スラムに居て』『ボロ布纏って』……よし、条件にあってるな」
ヴィスマルク軍隊は、後者である。クーデターなどの反乱には厳しいが、国家の為という名目があるならある程度お目こぼしもある。例えば『スラムに居るだろう人さらいを探し出す』という名目があるなら。
この憲兵隊はその名目のもとで動いていた。どちらかと言えば、どうとでも取れる証言を元にスラム住民を殴っているというの方が正しい。
こんなやり方で人さらいを見つけられるはずがない。それはスラム住民も、そして他ならぬ憲兵隊さえも理解していた。憲兵隊は人さらいを見つけるつもりはなく、ただその名目でスラム住民を殴りに来たのだと誰もが知っていた。
だが、誰も逆らえない。それは単純な実力という意味もあるが、彼らはヴィスマルク軍なのだ。ヴィスマルク市民はその恐ろしさを生まれた時から身に染みて知っている。逆らおうという気が起きるはずがなかった。
「ひぃぃぃぃ!? 俺、そんなの知らないですよ!」
「なら何か知ってること吐け。知らないなら人さらいを庇った仲間だ。嘘教えても仲間だ。ほれ、どうだ?」
「そそそそんなぁ……」
「はい、仲間決定。オラァ!」
硬い何かで人の頭を殴る音。そして人が倒れる音。
「隠し立てしてると痛い目見るわ。俺達も国民を傷つける事はあまりしたくないのよ」
「そうそう。栄えあるヴィスマルク軍だからな。でも手掛かりがないなら、この辺り一帯皆殺しにしなくちゃいけないから」
「だなぁ。皆殺しの方が早いもんなぁ。そうする?」
そうしよっか。まるで飲み屋を決めるかのような気軽さで頷き、武器を抜くヴィスマルク兵。そして――血の宴が始まった。悲鳴が止んだのち、ヴィスマルク兵は物憂げにため息をつく。
「あー、俺達勤勉だよな。だからボーナスぐらい貰ってもいいよな」
「だな。お、こいつら結構いい服着てるじゃん。こっちは指輪持ってるぜ」
「おいおい。人さらいの情報手に入らなかったじゃないか。どうすんだよ」
「しゃーない、次行くか」
こうしてヴィスマルク兵――兵士の中でもあまりの素行の悪さでスラム地域の憲兵に更迭された者達が移動する。
次の目標は――
●
さて、状況を確認しよう。
自由騎士達は女神モリグナを討つべくヴィスマルクの首都、ヴェスドラゴンに潜伏中だ。橋の封鎖や敵が使う薬品原料を奪い取ったりと、こまごまとした作戦をこなしながら機を狙っている。それが整うまで、自由騎士の存在はヴィスマルクにバレてはいけない。不意打ちであることが肝要なのだ。
そしてヴィスマルク軍の憲兵隊が自由騎士の活動を察知したのか、スラム周囲を探索している。スラムに居る人間に暴力を振るっては答えないと惨殺するという雑な捜査だ。ここに隠れている自由騎士までたどり着く可能性は五分五分と言った所だろう。
無視して通り過ぎるのを待つのが確率的には一番安全だ。周辺のスラム民は被害を受けるが、それで『この辺りに人はいない』と思ってくれれば幸いだろう。
捜査を止める為に襲ってもいい。好戦的な連中だ。すぐに逃げはしないだろう。そしてそういった素行の悪さもあって、スラムで殺されても追跡調査がかかる確率は低い。
貴方の判断は――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.憲兵隊の全滅(生死は問わない)
どくどくです。
犯罪行為を許さないお巡りさんのお話です(すっごくいい笑顔で)
●敵情報
・ヴィスマルク軍憲兵隊
スラムを守る治安部隊です。ですがその実情はスラムに住む人間を他の地域に逃がさない為の組織です。
自由騎士をスラムの雑魚だと思っているため逃亡の可能性はなく、同時に死亡したとしても鼻つまみ者なので誰も調べようとはしません。
スラムに居る人間を見たら殺していい、と思っているので基本的に交渉は通じません。『へっへっへ、人さらいの情報があるんですよ』と話を持ちかけた瞬間には既に撃たれているでしょう。その後蹴って動けなくしてから交渉するタイプです。
全員オラクルで、以下の権能を活性化しています。
勇猛:戦女神の名において、戦場では常に勇敢であれ。(精神系のBS抵抗力+15% 防御力+3% 防御無視無効・魔抵抗無視無効)
苛烈:戦女神の名において、苛烈であれ。(単体攻撃力が+10%)
・『不良騎士』ザシャ・ブラッハー(×1)
キジン(ハーフ)。三〇代男性。オラクルです。ジョブは蒸気騎士。階級は軍曹。戦い大好き殺すの大好き。あまりの残忍さに軍法会議を受けて更迭されました。スラムの住民なら殴ってもいいという理由でスラム地区の憲兵になってます。
『バンダースナッチ Lv4』『クイーンオブハート Lv4』『ドーマウス Lv5』等を活性化しています。
・『死者を繰る』ロータル・ヴァイツ(×1)
ケモノビト(クモ)。四〇代男性。オラクルです。ジョブは呪術師。階級は伍長。死体を使った研究をしており、その為に戦場に居ました。色々あって更迭されました。スラムの住民なら隙にしていいという理由で憲兵になっています。
『動物交流』『ネクロフィリア』『トロメーア Lv4』『因果逆転 Lv5』等を活性化しています。
・『医拳士』アポロニア・リューデル(×1)
ノウブル。二〇代女性。オラクルです。ジョブは格闘スタイル。階級は一般軍医。医療の知識で人体構造を知り尽くし、的確に急所を突くタイプ。拷問大好き痛い顔見るの大好き。腕のいい軍医だけど、色々あって更迭されました。
『獅子吼 Lv4』『影狼 Lv4』『柳凪 Lv5』等を活性化しています。
・『紅化粧』ボタン・コチョウ(×1)
オニビト。二〇代女性。オラクルです。ジョブはサムライ。階級は一等兵。アマノホカリから流れてきたモノです。血に濡れた自分は美しい、という歪んだ美意識で戦場に立っています。
『吸血』『飛燕血風 Lv5』『心眼 Lv4』『星眼八咫烏 Lv4』等を活性化しています。
・『押収物 №10865』コンスタンツェ(×1)
ヨウセイ。10代女性。オラクルです。ジョブはダンサー。階級はなし。シャンバラ戦役の際にヴィスマルクに捕まり、奴隷を経て憲兵隊に押収されました。戦いの度にこき使われ、心は既に摩耗しています。憲兵隊の命令に逆らう気力はありません。
『自然共感』『二重螺旋のボレロ Lv4』『タイムスキップ Lv5』『ツイスタータップ Lv4』等を活性化しています。
・ヴィスマルク兵(×3)
ブラッハーに従う兵隊です。全員ノウブル軽戦士。階級は二等兵。
軽戦士ランク2までのスキルを活性化しています。
●場所情報
ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。そのスラム地区。戦闘音を聞いて人がやってくる可能性はありません。理由は、お察しください。
戦闘開始時、敵前衛に『アポロニア』『ボタン』『コンスタンツェ』『ヴィスマルク兵(×3)』が、敵後衛に『ロータル』『ザシャ』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
犯罪行為を許さないお巡りさんのお話です(すっごくいい笑顔で)
●敵情報
・ヴィスマルク軍憲兵隊
スラムを守る治安部隊です。ですがその実情はスラムに住む人間を他の地域に逃がさない為の組織です。
自由騎士をスラムの雑魚だと思っているため逃亡の可能性はなく、同時に死亡したとしても鼻つまみ者なので誰も調べようとはしません。
スラムに居る人間を見たら殺していい、と思っているので基本的に交渉は通じません。『へっへっへ、人さらいの情報があるんですよ』と話を持ちかけた瞬間には既に撃たれているでしょう。その後蹴って動けなくしてから交渉するタイプです。
全員オラクルで、以下の権能を活性化しています。
勇猛:戦女神の名において、戦場では常に勇敢であれ。(精神系のBS抵抗力+15% 防御力+3% 防御無視無効・魔抵抗無視無効)
苛烈:戦女神の名において、苛烈であれ。(単体攻撃力が+10%)
・『不良騎士』ザシャ・ブラッハー(×1)
キジン(ハーフ)。三〇代男性。オラクルです。ジョブは蒸気騎士。階級は軍曹。戦い大好き殺すの大好き。あまりの残忍さに軍法会議を受けて更迭されました。スラムの住民なら殴ってもいいという理由でスラム地区の憲兵になってます。
『バンダースナッチ Lv4』『クイーンオブハート Lv4』『ドーマウス Lv5』等を活性化しています。
・『死者を繰る』ロータル・ヴァイツ(×1)
ケモノビト(クモ)。四〇代男性。オラクルです。ジョブは呪術師。階級は伍長。死体を使った研究をしており、その為に戦場に居ました。色々あって更迭されました。スラムの住民なら隙にしていいという理由で憲兵になっています。
『動物交流』『ネクロフィリア』『トロメーア Lv4』『因果逆転 Lv5』等を活性化しています。
・『医拳士』アポロニア・リューデル(×1)
ノウブル。二〇代女性。オラクルです。ジョブは格闘スタイル。階級は一般軍医。医療の知識で人体構造を知り尽くし、的確に急所を突くタイプ。拷問大好き痛い顔見るの大好き。腕のいい軍医だけど、色々あって更迭されました。
『獅子吼 Lv4』『影狼 Lv4』『柳凪 Lv5』等を活性化しています。
・『紅化粧』ボタン・コチョウ(×1)
オニビト。二〇代女性。オラクルです。ジョブはサムライ。階級は一等兵。アマノホカリから流れてきたモノです。血に濡れた自分は美しい、という歪んだ美意識で戦場に立っています。
『吸血』『飛燕血風 Lv5』『心眼 Lv4』『星眼八咫烏 Lv4』等を活性化しています。
・『押収物 №10865』コンスタンツェ(×1)
ヨウセイ。10代女性。オラクルです。ジョブはダンサー。階級はなし。シャンバラ戦役の際にヴィスマルクに捕まり、奴隷を経て憲兵隊に押収されました。戦いの度にこき使われ、心は既に摩耗しています。憲兵隊の命令に逆らう気力はありません。
『自然共感』『二重螺旋のボレロ Lv4』『タイムスキップ Lv5』『ツイスタータップ Lv4』等を活性化しています。
・ヴィスマルク兵(×3)
ブラッハーに従う兵隊です。全員ノウブル軽戦士。階級は二等兵。
軽戦士ランク2までのスキルを活性化しています。
●場所情報
ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。そのスラム地区。戦闘音を聞いて人がやってくる可能性はありません。理由は、お察しください。
戦闘開始時、敵前衛に『アポロニア』『ボタン』『コンスタンツェ』『ヴィスマルク兵(×3)』が、敵後衛に『ロータル』『ザシャ』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2021年06月28日
2021年06月28日
†メイン参加者 6人†
●
「ラズの野郎が女に逃げられたって喚いててな。もうケッサクだったぜ」
「あー、その場に俺がいれば『そいつはもう売られた後だ』って言ってやれたのにな」
「売ったのは軍曹でしょうに」
そんな聞くに堪えない談笑をしながら歩いてくる憲兵隊。その足音を聞きながら、自由騎士達は息をひそめていた。
「品がないわね。ヘルメリアと比べてどっちもどっちよね」
迫ってくる憲兵隊をかつて自分が所属していた組織と比較する『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。調査という名のリンチ。捜索という名の強盗。国家の威光を笠に着たチンピラだ。
組織が大きくなるにつれて、こういった輩は必ず出てくる。ステラもそれは理解していた。だからと言って、こういった輩を見逃せるかというとそうでもない。ミズビトと分からぬようにした変装を再確認し、武器を握りしめる。
「黙っていれば見過ごしてくれるかもしれませんが、見つかった時のリスクが大きいんですよね」
言って肩をすくめる『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。最善は『なにもことを起こさずに、憲兵隊が黙って通り過ぎる』事だ。襲い掛かれば潜入がばれるリスクが発生するのは言われずとも分かっている。
だが、憲兵隊がこちらを見つけた時のリスクは更に大きい。自由騎士だとバレないように変装し、強盗に見せかけて口を封じる。城を攻めるまでの数日間誤魔化せればいいのだ。
「しっかし厄介な連中がうろついたなあ」
頭痛を押さえるようにしながら 『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は呟いた。単純に敵国首都潜入中に憲兵にうろつかれている、という状況も厄介だが、相手の実力と残虐性がそれを輪にかけている。交渉も誤魔化しも意味を成さないだろう。
変装用の布で顔を隠し、強く縛る。冷静にと心を律しながら、拳銃を構えた。ここで相手を沈黙させ、自由騎士の情報をヴィスマルク軍に伝達させないようにする。憲兵の靴音を聞きながら、静かに戦意を高めていく。
「そうだね。とにかく、身バレは防がないと」
変装用のローブを着直しながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷いた。最も優先しなければならない事は、自由騎士の存在を隠すことである。だが、憲兵隊のような人間を放置することはできなかった。
今のマグノリアは、不殺の権能を活性化していない。それは彼らを生かして返すつもりはないと意思表明だ。暴力を振るい、我儘を押し通す。自ら銃を抜く以上、やり返されても文句は言わさない――どの道、死人は喋らないのだが。
「ヨウセイがまた、ヴィスマルクに酷い目に……」
『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は不当に扱われるヨウセイを見ながら奥歯を噛みしめる。シャンバラ戦役の際に、ヘルメリアやヴィスマルクにヨウセイは奪われた。彼らがこれまでどんな扱いを受けてきたか。
それは『押収物 №10865』の表情が物語っていた。憲兵隊の挙動一つに体を震わせ、過呼吸で俯くその視線は何も見ていない。考える事を放棄し、世界に壁を作っている。日々殴れないように怯えて生きている顔だ。
「……そうすることでしか、生きてこれなかったのでしょうね」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう言ってため息をつく。イヤなら逆らえばいい、なんて言えるのは無責任な第三者の意見だ。ヨウセイはシャンバラではエネルギーとして消費されていた。。拘束されてないだけ、ヴィスマルク奴隷の方がマシなのだ。
亜人平等などイ・ラプセル以外の国では戯言だ。セアラはそれを戦争の間に何度も見てきた。その度に心を痛め、そして戦ってきた。この戦争が終われば、そんな世界が変わるかもしれない。或いは変わらないかもしれない。それでも、歩みを止めるわけにはいかない。
セアラがテレパスでカウントを数え、自由騎士全員のタイミングを計る。
3――武器を握りしめる。その瞬間にスイッチが入ったかのように心が入れ替わる。
2――息を吸う。肺にはいる空気を自覚し、その冷たさが体内に染みわたる。
1――息を吐く。浅く、浅く。吸い込んだ空気をできるだけゆっくりと、そして完全に吐き出し――
0――!
●
路地裏の戦いに慣れているのか、憲兵隊の対応も早かった。自由騎士の攻撃に難なく武器を構え、陣形をとる。
「行きます」
一番最初に動いたのは、サーナだった。タッチの差で『押収物 №10865』を押さえ、その前に立ちふさがる。『酷使』された同胞の姿を前に様々な感情が浮かび上がるが、それを押さえ込んで武器を握りしめる。ここで激情に任せて正体を明かせば元も子もない。
『押収物 №10865』の動きを止めながらサーナはエストックに魔力を込める。ヨウセイに伝わる矢の魔術。レンジャーの魔力矢を解き放つ。空に広がる魔力が細かな矢となって雨のように降り注ぐ。冷たい魔力が敵の動きを縫い留めていく。
(助けてあげたいけど……いいえ、助けなきゃ!)
「オラァ、くたばっちまえ!」
わざと荒っぽい声をあげて銃を撃つウェルス。この戦いのキモは敵の全滅で、こちらの素姓を隠すことだ。情報を渡さないために無言を徹するよりも、憲兵隊を憎む無謀なスラム住民を装った方が未だ疑いは残らない。
憲兵隊も『あー、またか』と言った顔をしているのを確認し、小さく頷くウェルス。後はこのまま攻め切るだけだ。ヴィスマルク兵をブロックしながら両手の拳銃を乱射する。乾いた音が路地裏に響き、その度にヴィスマルク兵が苦悶の表情を浮かべる。
(勤務態度を鑑みるに俺の顔を知ってるは思えないが、顔を見せずにやらせてもらうぜ)
「ここで死んでもらうよ」
明確に殺意を口にして、マグノリアが錬金術を解き放つ。ここで彼らを生かしておく選択肢はない。最悪、自由騎士を殺しかねない存在だ。ここで命を絶って禍根を残さないようにしなくては。……だが、憲兵隊に使われている彼女の命だけは奪わない。
打ち鳴らす鋼。響き渡る音叉。マグノリアを中心に広がる波紋。その波紋こそが魔力。劣化の概念を乗せたかすかな音が、憲兵隊たちの動きを鈍くしていく。生命の流れを逆転させ、魔力的な武装を破壊していく。
(コンスタンツェ……かなり疲弊しているようだね。これが最後の戦いになるといいけど)
「では始めましょうか」
拳を構え、コチョウの前に立つミルトス。こちらの構えに反応するように刀を抜いて構える相手を見て、ミルトスは意識を戦闘に移行する。突き刺すような殺気。こちらを殺すことに何の抵抗も持たない東国の戦士の気迫を、ミルトスは肌で感じ取る。
殺すこと、そして殺されること。ミルトスにとって、それは相互理解と言う意味で日常会話と同義だ。ミルトスとコチョウはほぼ同時に動き、籠手と刀を交差させる。風のように素早く迫る刃を手甲で受け流しながら、隙を見出し拳を叩き込む。
(こちらのことを、ただの犯罪集団と受け取ってもらえればいいのですけど)
「ヴィスマルク兵なんだから、いいモノ持ってるんでしょ?」
物捕りに見えるように言葉を放つステラ。実際、軍人の装備は高く売れることを知っている。腕章や勲章、装備の武器に軍服軍靴。手帳の中の情報は売る場所に売れば千金になる。当然だが、そんな追剥みたいなことをするつもりはない。
呼吸を整え、胸に手を当てる。循環するマナを意識しながら、精霊の一人に声をかける。元気を司る精霊はステラの願いにこたえ、彼女の仲間達に活力を与える。悪しき魔力や呪詛に打ち勝つ為の守りの力を。
(自分勝手な奴ら。ただ人を殺したいだけのクズね)
(ヴィスマルク軍も持て余しているんでしょうね……)
テレパスでステラの心の声に応えるセアラ。純粋な実力は高いのだが、とても国を護る態度には見えない。それ故のスラムの憲兵というポストなのだろう。彼らもそれが分かっているのか、欲望のままに動いている。
テレパスを維持しながら魔力を込める。白きマナを指先に纏わせ、雷撃と化して解き放つセアラ。雷撃はまっすぐにヴィスマルク兵に向かって飛び、鋭い一撃となってその体力を奪いとる。
(傷が酷くなったら、癒しに移行します。それまでは、攻めますね)
セアラのテレパスを聞きながら攻め続ける自由騎士達。ヴィスマルク兵を倒し、憲兵隊に着実にダメージを重ねていく。
だが、腐っての彼らはヴィスマルク兵だ。否、ヴィスマルク軍でも鼻つまみにされるぐらいに荒事に通じた連中だ。その牙が自由騎士達に向く。
「……っ! まだ、倒れてられないわ」
「全く、容赦ないわね」
「ここで負けるわけにはいきません」
度重なる憲兵隊の攻撃を受けてサーナ、ステラ、セアラがフラグメンツを削られるほどのダメージを受ける。
「思った以上にやるなあ。こいつらが例の人さらいかもな」
「そう言えばそんなのもあったわね。しっかり拷問させてもらうわ」
任務を忘れていたのか、そんな会話を交わす憲兵隊。日頃の不真面目さが分かろうものだ。
自由騎士と憲兵隊の戦いは佳境に入っていく。
●
自由騎士六名に対し、憲兵隊は八名。
数の上では不利だが、それを補うように連携をとって自由騎士は動いていた。ウェルス、ミルトス、サーナが前に出てヴィスマルク軍を押さえ、後衛のマグノリア、ステラ、セアラが回復と魔術による攻撃を行う。
戦局は、一進一退の攻防となっていた。
(これでもくらいな!)
頃合いを見計らい、ウェルスは特殊な弾丸を撃ち放つ。炸薬と配合した薬をばら撒く弾道で、広がる薬品が周囲一帯を凍らせる。後ろから攻撃をしてくる憲兵隊を冷気で足止めし、その隙に味方をサポートする。
「大人しくしてもらえないかな」
言って魔力の矢を放つマグノリア。二対の矢は相手を惑わすような軌跡で迫り、確実にヴィスマルク兵に傷を重ねていく。同時に仲間が受けた不調を癒し、戦線を維持するために魔力を展開していく。
「流石に手練れですね。なら仕方ありません」
衝撃を『通す』打撃で後衛を狙うミルトスだが、後衛の二人はミルトスの攻撃を受けてからはそれを意識して立ち回る。相手もそれなりに戦闘経験がある人間だ。仕方ないと割り切って、目の前の敵に集中する。
「あなた、名前はなんて言うの? 私はサーナ。ねえ、大丈夫……?」
戦闘の最中、誰にも聞こえないように『押収物 №10865』にささやきかけるサーナ。呼びかけに対する答えはない。ただびくりと震えただけだ。『敵に通じるそぶりを見せれば、どうなるか』……それを叩き込まれた奴隷の反応。それを知り、サーナは怒りを覚える。
「生命逆転の呪いをばら撒いてくるわね……!」
敵呪術師の戦術を感じ取り、ステラはほぞをかんだ。回復術式の効果を逆転させる呪い。それがかかった状態ではヒーラーの支援は逆効果だ。最優先で取り除くが、その分ステラの回復は一手遅れることになる。
「さすがに、攻める余裕はなさそうですね」
ヴィスマルク兵の攻撃を受け、セアラは呼吸を整えるように大きく息を吐く。相手は回復を持たない構成だ。逆に言えば攻め手が多い。数の差もあり、セアラは回復に専念することとなる。
「まだ、だよ……!」
「いい一撃を貰いました。反撃と行きましょう!」
憲兵隊の攻撃を受けて、マグノリアとミルトスがフラグメンツを削られるほどのダメージを受けた。なんとか立ち上がり、武器を握りしめる。
「コチョウがやられるとはな。やるじゃん」
「先生も倒れたか。こりゃ拷問はなしだな」
憲兵隊もヴィスマルク兵やリューデルとコチョウが戦闘不能となっていた。他のメンバーも全体攻撃などでダメージを負っている。このまま攻め続ければ、押し切ることはできるだろう。
このまま攻め続けることが、出来れば――
「……ごめん。ここまで……」
「そんな……っ」
憲兵隊の攻撃を受けて倒れるステラとセアラ。回復を担う二人が倒れたことで、自由騎士達の継戦能力は一気に下がった。
(ヒーラーを落とされた。攻撃を集中させていた……?)
回復役を先に落とす。自由騎士も対人戦闘に際して行っている作戦だ。それを敵にやられた形となる。回復はマグノリアも行えるが、それでも回復量が大きく減ったことに変わりはない。
ヒーラー二人を庇う人間がいれば回避できたかもしれない。だが秘密保持も含めて少人数での作戦決行だ。そこまで余裕がなかったのは事実。それ自体はさほど致命的ではない。事実、憲兵隊の数は残り三名まで減らすことが出来たのだ。あともう少しで、勝利に手が届く。
その一手。せめてこうなる前にあと一人倒せていれば、事態はここまで悪化しなかっただろう。例えば、厄介なバッドステータスをばら撒くヴァイツや『押収物 №10865』、或いはこちらの強化を解除するブラッハーを集中的に攻撃していれば、戦いの流れは変わっていたかもしれない。
倒すべき目標を定め、攻撃を重ねてきた憲兵隊。全体的にダメージを重ねてきた自由騎士。どちらが正しい、というのは状況次第だ。ただ今は、憲兵隊に軍配が上がる形となった。
憲兵隊の攻撃で、マグノリアが戦闘不能になる。
(マズい、か)
(楽観できる状況ではありませんね)
小声で会話するウェルスとミルトス。相手のダメージ具合を考えれば、このまま攻めれば押し切れる可能性はある。
だが、そうならなかった場合どうなるか? どちらかが倒れれば、手の空いた憲兵隊が倒れている自由騎士達を確保しないとは限らないのだ。或いは動けない仲間にトドメをさす可能性もある。自分達が彼らをそうしようとしたように――
大事な事は何だ? 犠牲を強いて彼らを倒すことか? 命を賭けて汚職まみれの憲兵隊を倒すことか?
違う。仲間を守る事。イ・ラプセルの秘密を保持することだ。
思考は刹那。判断は一瞬。そして行動は迅速に。
相手を足止めするようにウェルスが弾丸を撃ち放ち、その間にミルトスが倒れている仲間を回収する。ミルトスが抱えきれなかった仲間をウェスルが抱えて一気に撤退する。
「……ちっ。やられ損かよ!」
鮮やかな撤退を前に舌打ちするブラッハー。追う余裕はないようだ。それを耳にしながら、自由騎士達は撤退した。
●
二度三度、関係ない路地を経由する自由騎士。念のための尾行防止だ。
追ってこない事を再確認し、大きく息を吐いて潜伏場所に戻る。憲兵隊にもダメージは与えた。暫くは追跡調査をする余裕はないだろう。
数日後の城攻めの為に、今は体を癒すことに専念する自由騎士であった。
「スラムでぼろ布纏ったヤツらは犯罪者だ! 公務執行妨害だ!」
「そ、そんなのスラムの何処にでもいまs――うがああああ!」
「口答えする奴らも同罪なんだよ!」
後日、腹いせとばかりにそんな事を叫びながらスラムで暴れまわる憲兵隊。
そして多くの血が流れる――
「ラズの野郎が女に逃げられたって喚いててな。もうケッサクだったぜ」
「あー、その場に俺がいれば『そいつはもう売られた後だ』って言ってやれたのにな」
「売ったのは軍曹でしょうに」
そんな聞くに堪えない談笑をしながら歩いてくる憲兵隊。その足音を聞きながら、自由騎士達は息をひそめていた。
「品がないわね。ヘルメリアと比べてどっちもどっちよね」
迫ってくる憲兵隊をかつて自分が所属していた組織と比較する『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。調査という名のリンチ。捜索という名の強盗。国家の威光を笠に着たチンピラだ。
組織が大きくなるにつれて、こういった輩は必ず出てくる。ステラもそれは理解していた。だからと言って、こういった輩を見逃せるかというとそうでもない。ミズビトと分からぬようにした変装を再確認し、武器を握りしめる。
「黙っていれば見過ごしてくれるかもしれませんが、見つかった時のリスクが大きいんですよね」
言って肩をすくめる『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。最善は『なにもことを起こさずに、憲兵隊が黙って通り過ぎる』事だ。襲い掛かれば潜入がばれるリスクが発生するのは言われずとも分かっている。
だが、憲兵隊がこちらを見つけた時のリスクは更に大きい。自由騎士だとバレないように変装し、強盗に見せかけて口を封じる。城を攻めるまでの数日間誤魔化せればいいのだ。
「しっかし厄介な連中がうろついたなあ」
頭痛を押さえるようにしながら 『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は呟いた。単純に敵国首都潜入中に憲兵にうろつかれている、という状況も厄介だが、相手の実力と残虐性がそれを輪にかけている。交渉も誤魔化しも意味を成さないだろう。
変装用の布で顔を隠し、強く縛る。冷静にと心を律しながら、拳銃を構えた。ここで相手を沈黙させ、自由騎士の情報をヴィスマルク軍に伝達させないようにする。憲兵の靴音を聞きながら、静かに戦意を高めていく。
「そうだね。とにかく、身バレは防がないと」
変装用のローブを着直しながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷いた。最も優先しなければならない事は、自由騎士の存在を隠すことである。だが、憲兵隊のような人間を放置することはできなかった。
今のマグノリアは、不殺の権能を活性化していない。それは彼らを生かして返すつもりはないと意思表明だ。暴力を振るい、我儘を押し通す。自ら銃を抜く以上、やり返されても文句は言わさない――どの道、死人は喋らないのだが。
「ヨウセイがまた、ヴィスマルクに酷い目に……」
『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は不当に扱われるヨウセイを見ながら奥歯を噛みしめる。シャンバラ戦役の際に、ヘルメリアやヴィスマルクにヨウセイは奪われた。彼らがこれまでどんな扱いを受けてきたか。
それは『押収物 №10865』の表情が物語っていた。憲兵隊の挙動一つに体を震わせ、過呼吸で俯くその視線は何も見ていない。考える事を放棄し、世界に壁を作っている。日々殴れないように怯えて生きている顔だ。
「……そうすることでしか、生きてこれなかったのでしょうね」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう言ってため息をつく。イヤなら逆らえばいい、なんて言えるのは無責任な第三者の意見だ。ヨウセイはシャンバラではエネルギーとして消費されていた。。拘束されてないだけ、ヴィスマルク奴隷の方がマシなのだ。
亜人平等などイ・ラプセル以外の国では戯言だ。セアラはそれを戦争の間に何度も見てきた。その度に心を痛め、そして戦ってきた。この戦争が終われば、そんな世界が変わるかもしれない。或いは変わらないかもしれない。それでも、歩みを止めるわけにはいかない。
セアラがテレパスでカウントを数え、自由騎士全員のタイミングを計る。
3――武器を握りしめる。その瞬間にスイッチが入ったかのように心が入れ替わる。
2――息を吸う。肺にはいる空気を自覚し、その冷たさが体内に染みわたる。
1――息を吐く。浅く、浅く。吸い込んだ空気をできるだけゆっくりと、そして完全に吐き出し――
0――!
●
路地裏の戦いに慣れているのか、憲兵隊の対応も早かった。自由騎士の攻撃に難なく武器を構え、陣形をとる。
「行きます」
一番最初に動いたのは、サーナだった。タッチの差で『押収物 №10865』を押さえ、その前に立ちふさがる。『酷使』された同胞の姿を前に様々な感情が浮かび上がるが、それを押さえ込んで武器を握りしめる。ここで激情に任せて正体を明かせば元も子もない。
『押収物 №10865』の動きを止めながらサーナはエストックに魔力を込める。ヨウセイに伝わる矢の魔術。レンジャーの魔力矢を解き放つ。空に広がる魔力が細かな矢となって雨のように降り注ぐ。冷たい魔力が敵の動きを縫い留めていく。
(助けてあげたいけど……いいえ、助けなきゃ!)
「オラァ、くたばっちまえ!」
わざと荒っぽい声をあげて銃を撃つウェルス。この戦いのキモは敵の全滅で、こちらの素姓を隠すことだ。情報を渡さないために無言を徹するよりも、憲兵隊を憎む無謀なスラム住民を装った方が未だ疑いは残らない。
憲兵隊も『あー、またか』と言った顔をしているのを確認し、小さく頷くウェルス。後はこのまま攻め切るだけだ。ヴィスマルク兵をブロックしながら両手の拳銃を乱射する。乾いた音が路地裏に響き、その度にヴィスマルク兵が苦悶の表情を浮かべる。
(勤務態度を鑑みるに俺の顔を知ってるは思えないが、顔を見せずにやらせてもらうぜ)
「ここで死んでもらうよ」
明確に殺意を口にして、マグノリアが錬金術を解き放つ。ここで彼らを生かしておく選択肢はない。最悪、自由騎士を殺しかねない存在だ。ここで命を絶って禍根を残さないようにしなくては。……だが、憲兵隊に使われている彼女の命だけは奪わない。
打ち鳴らす鋼。響き渡る音叉。マグノリアを中心に広がる波紋。その波紋こそが魔力。劣化の概念を乗せたかすかな音が、憲兵隊たちの動きを鈍くしていく。生命の流れを逆転させ、魔力的な武装を破壊していく。
(コンスタンツェ……かなり疲弊しているようだね。これが最後の戦いになるといいけど)
「では始めましょうか」
拳を構え、コチョウの前に立つミルトス。こちらの構えに反応するように刀を抜いて構える相手を見て、ミルトスは意識を戦闘に移行する。突き刺すような殺気。こちらを殺すことに何の抵抗も持たない東国の戦士の気迫を、ミルトスは肌で感じ取る。
殺すこと、そして殺されること。ミルトスにとって、それは相互理解と言う意味で日常会話と同義だ。ミルトスとコチョウはほぼ同時に動き、籠手と刀を交差させる。風のように素早く迫る刃を手甲で受け流しながら、隙を見出し拳を叩き込む。
(こちらのことを、ただの犯罪集団と受け取ってもらえればいいのですけど)
「ヴィスマルク兵なんだから、いいモノ持ってるんでしょ?」
物捕りに見えるように言葉を放つステラ。実際、軍人の装備は高く売れることを知っている。腕章や勲章、装備の武器に軍服軍靴。手帳の中の情報は売る場所に売れば千金になる。当然だが、そんな追剥みたいなことをするつもりはない。
呼吸を整え、胸に手を当てる。循環するマナを意識しながら、精霊の一人に声をかける。元気を司る精霊はステラの願いにこたえ、彼女の仲間達に活力を与える。悪しき魔力や呪詛に打ち勝つ為の守りの力を。
(自分勝手な奴ら。ただ人を殺したいだけのクズね)
(ヴィスマルク軍も持て余しているんでしょうね……)
テレパスでステラの心の声に応えるセアラ。純粋な実力は高いのだが、とても国を護る態度には見えない。それ故のスラムの憲兵というポストなのだろう。彼らもそれが分かっているのか、欲望のままに動いている。
テレパスを維持しながら魔力を込める。白きマナを指先に纏わせ、雷撃と化して解き放つセアラ。雷撃はまっすぐにヴィスマルク兵に向かって飛び、鋭い一撃となってその体力を奪いとる。
(傷が酷くなったら、癒しに移行します。それまでは、攻めますね)
セアラのテレパスを聞きながら攻め続ける自由騎士達。ヴィスマルク兵を倒し、憲兵隊に着実にダメージを重ねていく。
だが、腐っての彼らはヴィスマルク兵だ。否、ヴィスマルク軍でも鼻つまみにされるぐらいに荒事に通じた連中だ。その牙が自由騎士達に向く。
「……っ! まだ、倒れてられないわ」
「全く、容赦ないわね」
「ここで負けるわけにはいきません」
度重なる憲兵隊の攻撃を受けてサーナ、ステラ、セアラがフラグメンツを削られるほどのダメージを受ける。
「思った以上にやるなあ。こいつらが例の人さらいかもな」
「そう言えばそんなのもあったわね。しっかり拷問させてもらうわ」
任務を忘れていたのか、そんな会話を交わす憲兵隊。日頃の不真面目さが分かろうものだ。
自由騎士と憲兵隊の戦いは佳境に入っていく。
●
自由騎士六名に対し、憲兵隊は八名。
数の上では不利だが、それを補うように連携をとって自由騎士は動いていた。ウェルス、ミルトス、サーナが前に出てヴィスマルク軍を押さえ、後衛のマグノリア、ステラ、セアラが回復と魔術による攻撃を行う。
戦局は、一進一退の攻防となっていた。
(これでもくらいな!)
頃合いを見計らい、ウェルスは特殊な弾丸を撃ち放つ。炸薬と配合した薬をばら撒く弾道で、広がる薬品が周囲一帯を凍らせる。後ろから攻撃をしてくる憲兵隊を冷気で足止めし、その隙に味方をサポートする。
「大人しくしてもらえないかな」
言って魔力の矢を放つマグノリア。二対の矢は相手を惑わすような軌跡で迫り、確実にヴィスマルク兵に傷を重ねていく。同時に仲間が受けた不調を癒し、戦線を維持するために魔力を展開していく。
「流石に手練れですね。なら仕方ありません」
衝撃を『通す』打撃で後衛を狙うミルトスだが、後衛の二人はミルトスの攻撃を受けてからはそれを意識して立ち回る。相手もそれなりに戦闘経験がある人間だ。仕方ないと割り切って、目の前の敵に集中する。
「あなた、名前はなんて言うの? 私はサーナ。ねえ、大丈夫……?」
戦闘の最中、誰にも聞こえないように『押収物 №10865』にささやきかけるサーナ。呼びかけに対する答えはない。ただびくりと震えただけだ。『敵に通じるそぶりを見せれば、どうなるか』……それを叩き込まれた奴隷の反応。それを知り、サーナは怒りを覚える。
「生命逆転の呪いをばら撒いてくるわね……!」
敵呪術師の戦術を感じ取り、ステラはほぞをかんだ。回復術式の効果を逆転させる呪い。それがかかった状態ではヒーラーの支援は逆効果だ。最優先で取り除くが、その分ステラの回復は一手遅れることになる。
「さすがに、攻める余裕はなさそうですね」
ヴィスマルク兵の攻撃を受け、セアラは呼吸を整えるように大きく息を吐く。相手は回復を持たない構成だ。逆に言えば攻め手が多い。数の差もあり、セアラは回復に専念することとなる。
「まだ、だよ……!」
「いい一撃を貰いました。反撃と行きましょう!」
憲兵隊の攻撃を受けて、マグノリアとミルトスがフラグメンツを削られるほどのダメージを受けた。なんとか立ち上がり、武器を握りしめる。
「コチョウがやられるとはな。やるじゃん」
「先生も倒れたか。こりゃ拷問はなしだな」
憲兵隊もヴィスマルク兵やリューデルとコチョウが戦闘不能となっていた。他のメンバーも全体攻撃などでダメージを負っている。このまま攻め続ければ、押し切ることはできるだろう。
このまま攻め続けることが、出来れば――
「……ごめん。ここまで……」
「そんな……っ」
憲兵隊の攻撃を受けて倒れるステラとセアラ。回復を担う二人が倒れたことで、自由騎士達の継戦能力は一気に下がった。
(ヒーラーを落とされた。攻撃を集中させていた……?)
回復役を先に落とす。自由騎士も対人戦闘に際して行っている作戦だ。それを敵にやられた形となる。回復はマグノリアも行えるが、それでも回復量が大きく減ったことに変わりはない。
ヒーラー二人を庇う人間がいれば回避できたかもしれない。だが秘密保持も含めて少人数での作戦決行だ。そこまで余裕がなかったのは事実。それ自体はさほど致命的ではない。事実、憲兵隊の数は残り三名まで減らすことが出来たのだ。あともう少しで、勝利に手が届く。
その一手。せめてこうなる前にあと一人倒せていれば、事態はここまで悪化しなかっただろう。例えば、厄介なバッドステータスをばら撒くヴァイツや『押収物 №10865』、或いはこちらの強化を解除するブラッハーを集中的に攻撃していれば、戦いの流れは変わっていたかもしれない。
倒すべき目標を定め、攻撃を重ねてきた憲兵隊。全体的にダメージを重ねてきた自由騎士。どちらが正しい、というのは状況次第だ。ただ今は、憲兵隊に軍配が上がる形となった。
憲兵隊の攻撃で、マグノリアが戦闘不能になる。
(マズい、か)
(楽観できる状況ではありませんね)
小声で会話するウェルスとミルトス。相手のダメージ具合を考えれば、このまま攻めれば押し切れる可能性はある。
だが、そうならなかった場合どうなるか? どちらかが倒れれば、手の空いた憲兵隊が倒れている自由騎士達を確保しないとは限らないのだ。或いは動けない仲間にトドメをさす可能性もある。自分達が彼らをそうしようとしたように――
大事な事は何だ? 犠牲を強いて彼らを倒すことか? 命を賭けて汚職まみれの憲兵隊を倒すことか?
違う。仲間を守る事。イ・ラプセルの秘密を保持することだ。
思考は刹那。判断は一瞬。そして行動は迅速に。
相手を足止めするようにウェルスが弾丸を撃ち放ち、その間にミルトスが倒れている仲間を回収する。ミルトスが抱えきれなかった仲間をウェスルが抱えて一気に撤退する。
「……ちっ。やられ損かよ!」
鮮やかな撤退を前に舌打ちするブラッハー。追う余裕はないようだ。それを耳にしながら、自由騎士達は撤退した。
●
二度三度、関係ない路地を経由する自由騎士。念のための尾行防止だ。
追ってこない事を再確認し、大きく息を吐いて潜伏場所に戻る。憲兵隊にもダメージは与えた。暫くは追跡調査をする余裕はないだろう。
数日後の城攻めの為に、今は体を癒すことに専念する自由騎士であった。
「スラムでぼろ布纏ったヤツらは犯罪者だ! 公務執行妨害だ!」
「そ、そんなのスラムの何処にでもいまs――うがああああ!」
「口答えする奴らも同罪なんだよ!」
後日、腹いせとばかりにそんな事を叫びながらスラムで暴れまわる憲兵隊。
そして多くの血が流れる――
†シナリオ結果†
失敗
†詳細†
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