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【水機激突】TearUp! 戦場を裂く赤熊の牙!

●赤髭海賊団
イ・ラプセルとヘルメリア。その両者がぶつかる戦場を見る者がいた。
「おうおう。派手にやってるぜ」
赤髪を荒野の風に吹かし、精悍ともいえる肉体を持つケモノビト。『赤髭海賊団』の首魁、ヘンリー・モーガン。
「イ・ラプセルの補給部隊の場所はあちらです」
「一気に奪ってやりましょう!」
部下達はそれぞれの武器を構えて声をあげる。それに答える様にモーガンも大砲を掲げた。
「よしお前ら、略奪の開始だ! イ・ラプセルの補給部隊を襲って、食料と金を奪いつくせ! 敵は殺せ! 降参した奴は連れ帰って奴隷にしろ!
『赤髭海賊団』の恐怖をイ・ラプセルの奴らに刻み込んでやれ!」
赤の蹂躙が、始まる――
●イ・ラプセル
「補給部隊を襲う亜人集団だ。『赤髭海賊団』とみて間違いないだろう」
報告の声に、緊張が走る。
『赤髭海賊団』――二大海賊の一派で、公ではないがヘルメリアとのつながりがあることは明白だ。先の海戦でもあからさまにイ・ラプセルに矛先を向けていた。今回も間違いなくヘルメリアから指示されたのだろう。
だが陸に上がった海賊は怖くない。海賊の恐怖は操船技術と地の利による不意打ちだ。来ると分かっていれば対策は取れる。イ・ラプセルは冷静に補給部隊に迫る亜人集団に向けて兵士を差し向け――
「あれは……ヘンリー・モーガン!?」
「首魁自身が出てきたのか! ここで討ちとってくれる!」
彼らが見たのは、赤い髪をしたクマのケモノビトだ。巨大な砲で護衛部隊を混乱させ、同時に幹部クラスの海賊達が一気に攻め入る。
たかが海賊。そう侮っていたイ・ラプセル騎士団は思わぬ攻撃に撤退を余儀なくさせられた。
●貴方は――
戦場で戦う自由騎士達がその煙を見たのは、偶然だった。
遠くにいる補給部隊。そこから伸びる黒い煙。何かしらの異常事態が起きたことは明白だ。
貴方はこれを無視することが出来る。補給部隊の警護に割り当てられた騎士がいる。彼らがどうにかすると割り切って、前線に出る事もできる。
同時に補給部隊に向かって走ることもできる。蒸気自動車を使えば、すぐにつくことが出来るだろう。運が良ければ、補給部隊の護衛と合流できる。
貴方の選択は――
●二大海賊、その一角
「待ちなクマ公! あたしを差し置いてそいつらとやり合おうなんて、許しやしないよ!」
朗々とその声は戦場に響き渡る。
「ったく、あたしじゃなくクマ公と仲がいいなんて言われちゃ、黙ってられないね!」
二大海賊の一角、スカンディナ海賊団。その主、アルヴィダ・スカンディナ(nCL3000041)。義か友情かはたまた私情か。シニカルな笑みを浮かべて戦場に足を踏み入れる――
イ・ラプセルとヘルメリア。その両者がぶつかる戦場を見る者がいた。
「おうおう。派手にやってるぜ」
赤髪を荒野の風に吹かし、精悍ともいえる肉体を持つケモノビト。『赤髭海賊団』の首魁、ヘンリー・モーガン。
「イ・ラプセルの補給部隊の場所はあちらです」
「一気に奪ってやりましょう!」
部下達はそれぞれの武器を構えて声をあげる。それに答える様にモーガンも大砲を掲げた。
「よしお前ら、略奪の開始だ! イ・ラプセルの補給部隊を襲って、食料と金を奪いつくせ! 敵は殺せ! 降参した奴は連れ帰って奴隷にしろ!
『赤髭海賊団』の恐怖をイ・ラプセルの奴らに刻み込んでやれ!」
赤の蹂躙が、始まる――
●イ・ラプセル
「補給部隊を襲う亜人集団だ。『赤髭海賊団』とみて間違いないだろう」
報告の声に、緊張が走る。
『赤髭海賊団』――二大海賊の一派で、公ではないがヘルメリアとのつながりがあることは明白だ。先の海戦でもあからさまにイ・ラプセルに矛先を向けていた。今回も間違いなくヘルメリアから指示されたのだろう。
だが陸に上がった海賊は怖くない。海賊の恐怖は操船技術と地の利による不意打ちだ。来ると分かっていれば対策は取れる。イ・ラプセルは冷静に補給部隊に迫る亜人集団に向けて兵士を差し向け――
「あれは……ヘンリー・モーガン!?」
「首魁自身が出てきたのか! ここで討ちとってくれる!」
彼らが見たのは、赤い髪をしたクマのケモノビトだ。巨大な砲で護衛部隊を混乱させ、同時に幹部クラスの海賊達が一気に攻め入る。
たかが海賊。そう侮っていたイ・ラプセル騎士団は思わぬ攻撃に撤退を余儀なくさせられた。
●貴方は――
戦場で戦う自由騎士達がその煙を見たのは、偶然だった。
遠くにいる補給部隊。そこから伸びる黒い煙。何かしらの異常事態が起きたことは明白だ。
貴方はこれを無視することが出来る。補給部隊の警護に割り当てられた騎士がいる。彼らがどうにかすると割り切って、前線に出る事もできる。
同時に補給部隊に向かって走ることもできる。蒸気自動車を使えば、すぐにつくことが出来るだろう。運が良ければ、補給部隊の護衛と合流できる。
貴方の選択は――
●二大海賊、その一角
「待ちなクマ公! あたしを差し置いてそいつらとやり合おうなんて、許しやしないよ!」
朗々とその声は戦場に響き渡る。
「ったく、あたしじゃなくクマ公と仲がいいなんて言われちゃ、黙ってられないね!」
二大海賊の一角、スカンディナ海賊団。その主、アルヴィダ・スカンディナ(nCL3000041)。義か友情かはたまた私情か。シニカルな笑みを浮かべて戦場に足を踏み入れる――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ヘンリー・モーガンの打破
どくどくです。
赤髭海賊団、本気の蹂躙です。
●敵情報
・ヘンリー・モーガン
赤ひげが特徴的なクマのケモノビト。二大海賊団の一つ『赤髭海賊団』のトップです。
巨大な体と相応の力をもち、『ルーク・ブレイカー』と呼ばれる大砲を使ってきます。
『動物交流』『スーサイドフィーバー Lv3』『スカーレッド Lv3』『オーバーロード Lv3』『海賊の流儀(EX)』『スキルガンナー』『ハップライト』『アイアムロウ! 急』『縄張り 急』等を活性化しています。
EX:海賊の流儀 自付 アウトローの技法。ロールクラス『貴族』『騎士』に攻撃が命中した時追加ダメージが発生し、【必殺】扱いとなる。
・『ダメージ代行屋』宇多川・サチコ
アマノホカリから渡来してきたオニビトの女性です。ダメージを肩代わりする商売をしているとか。フレーバー程度にドジっ子です。
『吸血』『パリィング Lv3』『ファランクス Lv3』『バーチカルブロウ Lv3』『アイアスの盾』『てへぺろ きゅー』『バナナの皮』等を活性化しています。
・『ヨーガ伝承者』シャシ・ゴーシュ
東方から来たウシのケモノビト。男性。質素な着物を着ています。ヨーガと呼ばれる独特の思想を持ち、己を鍛え上げる事のみに執着しています。
『動物交流』『獅子吼 Lv3』『羅刹破神』『影狼 Lv3』『明鏡止水』『悟り』『無表情』等を活性化しています。
・『最弱流サムライ』トウドウ・イワシノスケ
東方から来たミズビト。男性。最弱流なる剣術を用いる軽戦士。一宿一飯の義により海賊の助けをします。
『水棲親和』『ヒートアクセル Lv4』『ラピッドジーン Lv4』『リンドブルム』『ホットスプリング』『釣り上手』等を活性化しています。
・『ダークヨウセイ』シャルミナ
元奴隷のヨウセイ。モーガンに買われて海賊になりました。奴隷から解放してもらった経緯により、モーガンに強く依存しています。肌を黒く染めて淫靡な紋様を体に刻み、弓を用いてレンジャーの技法を使います。
『自然共感』『森の賢人 Lv2』『アローレイン Lv3』『ホークアイ Lv3』『星刻の射手』『生執着』『セクシー』等を活性化しています。
・海賊(×6)
赤髭海賊団員です。種族は様々。ノウブルも稀にいます。カトラスを持ち、軽戦士のランク1のスキルまでを使ってきます。
・奴隷(×6)
海賊達に逆らえない奴隷です。元デザイア。攻撃はしませんが、壁となって自由騎士達を阻みます。命令されれば味方ガードで誰かを庇う事もします。
海賊の暴力におびえているため、説得は不可能です。
●味方NPC
◆スカンディナ海賊団
ねこてんCWから『入れろ』と指令がありました。イエスマム。ライバルの海賊団と自由騎士が関係あると聞いて、怒りのままに参戦です。
行動は配置は相談卓で示していただければそのように動きます。何も指示がなければ、海賊らしく好き勝手に動きます。
・『スカンディナ海賊団キャプテン』アルヴィダ・スカンディナ
非公式ですがイ・ラプセルと関係のある海賊です。名目上の理由は『ここでクマ公を討つチャンス』とのこと。
『飛行』『バトリングラム Lv3』『ブレイクゲイト Lv4』『ラピッドジーン Lv3』『リンドブルム』等を活性化しています。
・スカンディナ海賊(×5)
スカンディナ海賊団です。種族はノウブル。ジョブはガンナーです。ランク1までのスキルを使います。
●フィールド効果:エイト・ポーン
プロメテウス/フォースから射出された広域殲滅兵器です。戦場全てに特殊な音を発し、敵兵の動きを阻害します。
イ・ラプセル軍のキャラは、FBが毎ターン1ずつ増加していきます。
●場所情報
ヘルメリア南部。イ・ラプセル補給部隊の一軍。既に襲撃を受けており、亜人盗賊は略奪を開始している所です。
戦闘開始時、敵後衛に『モーガン』『サチコ』『シャルミナ』『奴隷(×3)』が、敵前衛に『シャシ』『イワシノスケ』『海賊(×6)』『奴隷(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。
「この共通タグ【水機激突】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【水機激突】Unbeatable! 無敵の蒸気兵団!』に軍勢が雪崩れ込みます」
皆様のプレイングをお待ちしています。
赤髭海賊団、本気の蹂躙です。
●敵情報
・ヘンリー・モーガン
赤ひげが特徴的なクマのケモノビト。二大海賊団の一つ『赤髭海賊団』のトップです。
巨大な体と相応の力をもち、『ルーク・ブレイカー』と呼ばれる大砲を使ってきます。
『動物交流』『スーサイドフィーバー Lv3』『スカーレッド Lv3』『オーバーロード Lv3』『海賊の流儀(EX)』『スキルガンナー』『ハップライト』『アイアムロウ! 急』『縄張り 急』等を活性化しています。
EX:海賊の流儀 自付 アウトローの技法。ロールクラス『貴族』『騎士』に攻撃が命中した時追加ダメージが発生し、【必殺】扱いとなる。
・『ダメージ代行屋』宇多川・サチコ
アマノホカリから渡来してきたオニビトの女性です。ダメージを肩代わりする商売をしているとか。フレーバー程度にドジっ子です。
『吸血』『パリィング Lv3』『ファランクス Lv3』『バーチカルブロウ Lv3』『アイアスの盾』『てへぺろ きゅー』『バナナの皮』等を活性化しています。
・『ヨーガ伝承者』シャシ・ゴーシュ
東方から来たウシのケモノビト。男性。質素な着物を着ています。ヨーガと呼ばれる独特の思想を持ち、己を鍛え上げる事のみに執着しています。
『動物交流』『獅子吼 Lv3』『羅刹破神』『影狼 Lv3』『明鏡止水』『悟り』『無表情』等を活性化しています。
・『最弱流サムライ』トウドウ・イワシノスケ
東方から来たミズビト。男性。最弱流なる剣術を用いる軽戦士。一宿一飯の義により海賊の助けをします。
『水棲親和』『ヒートアクセル Lv4』『ラピッドジーン Lv4』『リンドブルム』『ホットスプリング』『釣り上手』等を活性化しています。
・『ダークヨウセイ』シャルミナ
元奴隷のヨウセイ。モーガンに買われて海賊になりました。奴隷から解放してもらった経緯により、モーガンに強く依存しています。肌を黒く染めて淫靡な紋様を体に刻み、弓を用いてレンジャーの技法を使います。
『自然共感』『森の賢人 Lv2』『アローレイン Lv3』『ホークアイ Lv3』『星刻の射手』『生執着』『セクシー』等を活性化しています。
・海賊(×6)
赤髭海賊団員です。種族は様々。ノウブルも稀にいます。カトラスを持ち、軽戦士のランク1のスキルまでを使ってきます。
・奴隷(×6)
海賊達に逆らえない奴隷です。元デザイア。攻撃はしませんが、壁となって自由騎士達を阻みます。命令されれば味方ガードで誰かを庇う事もします。
海賊の暴力におびえているため、説得は不可能です。
●味方NPC
◆スカンディナ海賊団
ねこてんCWから『入れろ』と指令がありました。イエスマム。ライバルの海賊団と自由騎士が関係あると聞いて、怒りのままに参戦です。
行動は配置は相談卓で示していただければそのように動きます。何も指示がなければ、海賊らしく好き勝手に動きます。
・『スカンディナ海賊団キャプテン』アルヴィダ・スカンディナ
非公式ですがイ・ラプセルと関係のある海賊です。名目上の理由は『ここでクマ公を討つチャンス』とのこと。
『飛行』『バトリングラム Lv3』『ブレイクゲイト Lv4』『ラピッドジーン Lv3』『リンドブルム』等を活性化しています。
・スカンディナ海賊(×5)
スカンディナ海賊団です。種族はノウブル。ジョブはガンナーです。ランク1までのスキルを使います。
●フィールド効果:エイト・ポーン
プロメテウス/フォースから射出された広域殲滅兵器です。戦場全てに特殊な音を発し、敵兵の動きを阻害します。
イ・ラプセル軍のキャラは、FBが毎ターン1ずつ増加していきます。
●場所情報
ヘルメリア南部。イ・ラプセル補給部隊の一軍。既に襲撃を受けており、亜人盗賊は略奪を開始している所です。
戦闘開始時、敵後衛に『モーガン』『サチコ』『シャルミナ』『奴隷(×3)』が、敵前衛に『シャシ』『イワシノスケ』『海賊(×6)』『奴隷(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。
「この共通タグ【水機激突】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【水機激突】Unbeatable! 無敵の蒸気兵団!』に軍勢が雪崩れ込みます」
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
4個
8個
4個
4個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年02月01日
2020年02月01日
†メイン参加者 10人†
●
赤髭海賊団、十七名。
スカンディナ海賊団、六名。
そして自由騎士、十二名。
赤髭海賊団はヘルメリアの命でイ・ラプセルの物資を奪うために。そしてその物資を己の海賊団の活動で使うために。
スカンディナ海賊団はライバル海賊団を討つために。そして気に入った相手がいる国を助けるために。
自由騎士は――
「海賊同士のぶつかり合いか……。面白そうだね」
三種の団体が混ざり合う状況を見て、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は微笑んだ。海賊団たちと面識はないが、海賊団が奪っていった奴隷達には興味がある。今ここで彼らを解放し、救うのだ。
「折角の二大海賊のぶつかり合いなんだ……景気良くいきたいね」
「確かに派手さには欠けるな。海賊相手なのにバリスタも大砲もないとはな!」
赤髭海賊団を見ながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は口を開く。海戦では必須も言える大砲やバリスタ。折角の海賊船なのにそれがないのは地味と言えよう。陸に上がった海賊故仕方ないのだが。
「大丈夫? 宮仕え長くて野生忘れかけてない?」
「こいつらで散々野生発散しちまってな。中々楽しめたぜ」
「……っ! 絶対許さないから!」
ツボミの言葉に奴隷達の鎖を引っ張るモーガン。奴隷達の怯えを見て、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は怒りの声をあげた。海賊達が奴隷達に何をしたか。その怯え方から想像に難くない。
「絶対解放してあげるからね!」
(……あれが逆らう事を諦めた者の目や。うちにはようわかる)
『艶師』蔡 狼華(CL3000451)は口を閉ざして武器を握りしめる。焦点の合わない濁った眼。あるのは主の暴力を避けるためにどうすればいいかを思うだけ。狼華はそれを良く知っている。二度と見たくないから――
「せやな。そないな盾使わんとあかんとか、『ダメージ代行屋』さん信用されとらへんの?」
「えへへー。精進いたしますー」
「ふざけるな! 人が傷ついているのに……!」
サチコのおどけた言葉に怒りの声をあげる 『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)。『護る』という事を商売とし、そして傷ついている奴隷を守ろうとしない彼女。ナバルの信念がその在り方を許せなかった。
「お前達のようなものを産む国なんかあっちゃいけないんだ……!」
「落ち着けナバル。つまらん挑発に乗るな」
怜悧に言葉を放つ『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)。激しい感情が力になることもある。だがその方向性を誤れば綻びとなるのだ。今はわずかな綻びすら惜しい。歴戦の傭兵の戦術眼がそう判断していた。
「陸に上がった海賊ほど愚かな者はないな。海に戻れると思うなよ」
「お前らこそ、イ・ラプセルに戻れると思うなよ」
「戻るとも。向こうには妻がいるのでね」
蒸気自動車の扉を閉め、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が言い放つ。祖国に残した者の為に。この国で苦しむ者の為に。祖国の勝利の為に。貴族としてテオドールは海賊達の前に立ち、睨みつけた。
「しかし予想通り現れたな赤髭海賊団。首魁自らと言うのが意外なだけだ」
「そうだな。ここで殺しておけば後腐れない」
瞳に殺意を乗せてウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は言い放つ。ヘルメリアに従う私掠海賊。亜人を奴隷にして扱うヘルメリアに組する連中を許すつもりはない。赤髭海賊団は誰一人生かして帰るつもりはなかった。
「ついでにこの厄介な音をどう我慢してるかも聞かせてもらうぜ」
「そうね。地味に堪えるのよね」
眉をひそめて『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が言う。エイトポーンから発せられる音に苛立ちを感じるのか、微妙に動きにブレが出る。今は気にするレベルではないが、苛立ちが蓄積すれば致命的な失敗を招きかねない。
「ま、速攻でやれば問題ないわね」
「ええ。いつものことです」
祈りのポーズを取る『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。いついかなる時もやるべきことは変わらない。敵を打ち倒し、自らの道を示す。祈りは自分ではなく相手の為。全ての魂に救済を。
「貴方達の魂が正しくセフィロトの海に向かいますように」
「聖職者が殺す宣言か。まあ、それはこちらも同じだがな」
アンジェリカの言葉に苦笑するモーガン。殺意を隠すつもりがないのはこちらも同じだ。
「皆様、頑張ってください……!」
「海賊風情に蹂躙されるつもりはない」
サポートでやってきたノウブルのヒーラーが杖を持ち、ノウブルのレンジャーがコンポジットボウを手にする。仲間と国を守るために信念と共に武器を手にした。
遠くで号砲が響く。
その音が合図となって、海賊と自由騎士達はぶつかり合う。
●
「大将首が居やがるぞ! 誰が仕留めるか、早い者勝ちだな!」
自由騎士達はモーガンに向けて武器を向け、『赤髭海賊団の首魁を狙う』と告げる
「負けてられないねぇ! 行くよ野郎ども!」
その意図を察したアルヴィダとスカンディナ海賊団は、一斉にモーガンを狙う。その攻撃を奴隷とサチコが庇う事になり、赤髭海賊団側の動きが足止めされた。
そして自由騎士達はその隙を逃すことなく、展開していく。
「慈悲も慈愛も不要です」
最初に動いたのはアンジェリカだ。真っすぐ敵陣に突っ込み、巨大な武器を振るう。重戦士とは思えぬ速度で敵陣に入り込むと同時に、重戦士の名に恥じぬ一撃を振るう。海賊相手に神の愛は不要、とばかりに薙ぎ払う。
振りぬいたアンジェリカの『断罪と救済の十字架』。その重量を殺すことなく身体を回転させ、さらに追撃を行う。自らの身体を軸とし、足をしっかり踏みしめて腰を回転させる。二連の重打が海賊達を穿つ。
「略奪行為をとやかく言うつもりはありません。これは戦争ですから。弱肉強食、弱いものが負けるのです」
「分かってるじゃねえか。なら恨みっこなしだぜ!」
「賊は品性があらへんなぁ。そないなこと、口にせぇへんとあかんの?」
嘲るように口元を覆って狼華が言葉を放つ。弱肉強食という自然の摂理。それはどれだけ文明が発展しても変わらない。その上でどれだけ優雅に、どれだけ雅に振舞えるかだ。勝つだけではなく、勝って美しく在るのが大事なのだ。
小太刀と短刀を手にして狼華は敵の前衛に迫る。ふわり、と狼華の着ている服が舞うと同時に二刃が稲妻の軌跡で煌いた。複雑怪奇な二重の刃の動き。不規則に見えてしかし美しくもある斬撃。それが海賊達を斬り刻んでいく。
「昂るわぁ……もっとうちの事楽しませておくれやす!」
「好き勝手はさせないよ!」
モーガンを指差し、カノンが宣言する。補給部隊を守るのは戦争において重要なことだ。だがそれ以上に、捕らえた奴隷を盾にするような事は許してはおけない。怒りの感情を込めて、カノンは拳を強く握りしめる。
踏み込みと同時に体内の『気』を活性化させ、呼吸を整える。体内をめぐる龍の流れ。踏み込んだ足の角度、腰の捻り、肩と腕の軌跡。それら全てが『武』と呼ばれる事象。正しい型から繰り出されたカノンの一撃が、海賊の胸を穿つ。
「海賊なんかカノンが蹴散らしてやるんだから! 待っててね!」
「ああ、すぐに助けてやるぜ」
鎖に繋がれた奴隷達を見てウェルスが口を開く。先の海戦で連れ去れた彼ら。六人という数を、多いと取るか少ないと取るかは関係ない。モノ扱いされる亜人がいるのなら、手を差し出すのがウェルスと言うケモノビトの行動理念だ。
視覚強化のガジェットを扱い、銃を構える。片方の目で戦場全体を見ながら、ガジェットを通して敵を詳細に見る。二つの情報を掛け合わせ、最適な銃撃を行うのがスナイパーだ。ウェルスは殺意を乗せて海賊を撃ち抜いていく。
「デザイア達を救出したら容赦はしないぜ」
「流石に甘くはないか」
先だって敵陣に突入しようとしたアデルだが、それに反応したモーガンの動きに合わせて身を引くこととなった。自分が準備を放棄して動けるという事は、相手も準備を放棄して動けるということだ。あと一歩、踏み込んでいれば接敵する前に撃たれていただろう。
改めて槍を構えて敵陣に迫るアデル。狙うべきは海賊達が盾にしている奴隷達。彼らを無力化し、憂いを無くして戦いに挑む。キジンの体の出力を上げ、全力の一撃を叩き込んだ。確かな手ごたえが槍から伝わり、奴隷の一人が気を失ったように倒れ込む。
「容赦ないなぁ、自由騎士。……って生きてるのかよ」
「安心しろ。お前達は生かさない。後顧の憂いを無くすためにもな」
「お前達に引っ掻き回されるのはこれで終わりだ!」
モーガンとアデルのやり取りを継ぐようにナバルが声をあげる。先の海戦に限らず、赤髭海賊団が世情をひっかきまわした事件は多い。ここで彼らを打ち倒し、二度と海賊被害を出さないようにしなくては。
ライオットシールドを前に構え、槍を握りしめるナバル。砲撃、剣戟、打撃……様々なパターンを想像しながら、それらが来た時にどうするかをイメージする。大事なのそのイメージ。あらゆる攻撃に素早く対応し、盾を掲げて守るために。
「ええと……よろしく頼むぜ、スカンク海賊団さん!」
「よーし、クマ公ぶっ殺したら次はあんただね」
「奴がいないからって不機嫌になるな」
激昂しかけたアルヴィダを制するツボミ。『ベ、別に期待なんか――』と叫びそうになる女海賊を適当にあしらいながら、ツボミは戦場を眺めていた。医者として騎士として、やるべきことをやらなくてはいけない。まあ、それはそれとしてアルヴィダはからかうが。
『九矛目』を手にして魔力を練り上げるツボミ。医療魔術は一時しのぎだが、今はその一時が欲しい状況だ。医療の知識で怪我の具合を測り、治療を必要とされる順番を頭の中で並べる。その順番に従い、ツボミは仲間を癒していく。
「戦い事態は単純明快だな。奪う海賊と護る騎士。正義だのなんだのがないだけ気軽なものだ」
「他国に攻め入って人を殺す騎士様には、そういう緩衝材が必要なんだとよ」
「そのように正義を扱っていることを否定はせぬ」
ツボミとモーガンのやり取りに言葉を挟むテオドール。戦争は人が死ぬ。その重荷を受け止められず、心を病む者も少なくない。戦争における正義はそういった精神的負担を軽減するためにあると言ってもいいだろう。貴族の立場から、それはよく分かる。
犠牲になるものがいるからこそ、負けるわけにはいかない。テオドールは練り上げた魔力を展開する。単音節部分省略、四音節を略語で高速化、発動言語を簡略。ある魔術師の技法を活用し、時間を狭めて呪文を発動させる。冷たき虚無が、海賊達を襲った。だがシャルミナにむかった呪詛は――
「やはり奴隷に庇わせたか。卑劣な」
「当然だろう。奴隷を使わないイイコちゃんは大変だねぇ! あっはっは!」
「下種な笑い方ね。セクシーな体が台無しよ」
嗤うシャルミナに指差して、エルシーが冷たく告げる。同じ褐色のセクシー美女だが、淫靡ともとれる在り方は健康的なエルシーとは対照的だった。今はこれ以上相手をしている余裕はない、とばかりに視線を切り替える。
目の前にはウシのケモノビト。ヨーガと呼ばれる特殊な思想を持つ武道家だ。エルシーは一人で彼を相手していた。引き付ける様に挑発し、拳を交えていく。交差する拳から相手の強さが伝わってくる。それを感じながら、エルシーもまた己の武を突きつけていく。
「貴方の相手は、この私よ!」
「これも運命。ヨーガの拳でその魂を海に送ろう」
「東方の思想自体には興味があるけど……いまは無理かな」
聞いたことのないヨーガと呼ばれる東方の考え方。その存在にマグノリアは少し興味を引かれたが、今はそれを追求している余裕はない。いつか東方に向かうことがあれば明らかになるのだが、何時になる事か。
マグノリアは魔力を練り上げ、戦場全てに広がるように展開する。海賊の足元を押さえる様に蠢く魔力の水。それは海賊達の動きを封じ、同時に体力を奪っていく。モーガンはそれを回避するが、初見の海賊達はそれに動きを取られてしまう。
「さぁ、アルヴィダ・スカンディナ。 何方のチームが先に目的であるヘンリー・モーガン打倒を達成出来るか……『勝負』といこうじゃないか」
「はん! いい啖呵だね。面白いから乗ってやるよ!」
「その勝負はドローだ。俺達が勝つからな」
マグノリアの言葉に二大海賊の首魁が笑みを浮かべる。アヴィルダは猛禽類を思わせる鋭い笑みを。モーガンは肉食獣を思わせる獰猛な笑みを。
戦いは少しずつ激化していく。
●
自由騎士達は先ず奴隷達の無力化を狙った。アクアディーネの権能を使って命を奪わず戦闘不能にし、海賊達に利用されることを防ぐ。
だが、自由騎士側も無傷とはいかない。
「きついなぁ。もう少し優しゅうしてくれてもええのに」
「これぐらいじゃ、負けないよ!」
「この傷は皆を守った証なんだ!」
前衛で戦う狼華とカノン、そして後衛を守るナバルがフラグメンツを削られるほどのダメージを負った。
「成程な。わざわざ優先して攻撃した挙句全員生きてる、って言うのがお前らの神様の御業ってやつか」
その様子を見て、モーガンは自由騎士達の狙いと特性を看破する。元々ここで使い潰す予定だった奴隷でその情報が得られたのならいいメリットだと含み笑いをした。
「好きに推測してな。どの道此処で殺してお終いだ」
ウェルスは冷たく言い放ち、銃を撃ち放つ。相手はヘルメリアの社会を受け入れ、それを得利用して立場を得ている海賊だ。話し合う事などなく、妥協する点もない。ただの敵として殺すだけだ。
「いい殺気だ。そういう奴を飼いならすのも悪くない。狂犬の心が折れる音程、心地良い事はないからな」
ウェルスの殺気を受け止め、笑みを浮かべるモーガン。悪趣味が、と舌打ちしてその言葉を受け流すウェルス。返事とばかりに引き金を引いた。
「前から思っておったのだが……貴様エロくない? どっちかっていうと受けっぽいのだが」
そんなモーガンの様子を見てツボミがそう呟く。筋肉質の体を見せるような衣装。胸毛と二の腕の毛などがツボミの心に響いたらしい。
「なんだ、そういう趣味か? 俺はどちらでもイケるぜ」
「うわ、セクハラ。海賊はこれだから困る。まあ、こっちもセクハラしているのだが」
言って肩をすくめるツボミ。
「興味があるならいつでも来な。腕のいい奴は朝でも夜でも歓迎だぜ」
「熱烈なラブコールだがお断りさせてもらおうか。患者が待っているのでな」
「お、大人の会話……!」
ツボミとモーガンの会話に唾を飲むナバル。純粋な若者には少し刺激が強かったようだ。
「なんやったらウチが夜のお相手してあげよーか?」
「いらねぇよ!? っていうか敵だろうが、アンタ!」
そんなナバルに声をかけてきたのは敵の盾役であるサチコだった。あまりに場違いな誘いに、思わず素で返すナバル。
「そないこと言わんと。同じ守り手同士、気ぃ合うんちゃう? お安くするで?」
「合・わ・な・い! 俺の盾は金で買われたりしないんだ!」
「そやったら何の目的で盾持って人守るん? 『正義』とか言うんやったら、軍人なんか皆人殺しやで?」
「――それは、」
一瞬心臓を掴まれたような表情をしたナバルだが、盾を握りしめてはっきりと答える。
「まだ答えは出ない。今はこの国の在り方を正すためだ!」
「そういう事だ、海賊。前途ある若者をたぶらかすのはご遠慮願いたい」
ナバルの答えを聞き、テオドールが深々と頷いて告げる。
「正しい答えなどない。もしかしたら後の歴史で我々は簒奪者と記されているかもしれない。あるいは強国に無様に挑んだ愚かな国と書かれるかもしれない。だがそれは後の歴史家の評価だ」
テオドールは過去の歴史を記した書物に目を通したことがある。その中には個人の評価を含んだ平等ではない目線もあった。それ自体は仕方のない事なのだろう。
「今を生きる私達は、今正しいと思う事をするだけにすぎない。大事な物の為に手を血に染める覚悟はある」
「貴族様は高尚だな。だったら俺達海賊は自由気ままに暴れるだけだ」
「他人の自由を奪っておいて、そんな言い草をするなんて!」
モーガンの言葉に怒りの声をあげるカノン。鎖でつながれた奴隷を指差し、拳を振りあげる。
「こんなに怯えるまで痛めつけて、自由を奪っておいて何が自由気ままだ!」
「弱ければそうなるんだ。文句があるなら力を示しな」
「力で支配したら、笑顔になんかなれないんだよ! 皆で笑って過ごせるのが一番なのに!」
劇団で活動するカノンは、演劇を通して多くの笑顔を見てきた。それは格闘術では生み出せないものだ。暴力によって人を支配できることは知っている。だけどそれよりも笑顔で喜んでくれる方がいいに決まっているのだ。
「なんだ、笑顔の方がいいのか? だったらいいクスリがあるぜ。いい笑顔になれてシアワセな気分になる奴がな」
「そういう事じゃなくて!」
「確かに……気分を高揚させるクスリは、あるね」
モーガンの言葉に頷くマグノリア。錬金術の知識の一環としてそういった麻薬の知識は持っている。実際に使用するかどうかはともかく。
「ヘンリー・モーガン……個人的な因縁はないけど……まあ、あまり長い付き合いにはなりそうもないかな。ここで倒させてもらうよ」
「確かに長い付き合いにはなりそうもないな。お前を捕らえて、売りさばいて終わりだ。珍しい親のマザリモノは、それなりに高く売れるんでな」
マグノリアの言葉に品定めをするように一瞥してから答えるモーガン。
「ヘルメリアの奴隷制度は……すでに崩壊したんじゃないかい?」
「まあな。お陰で奴隷の売買が大変だ。伝手で知っているのは奴隷協会の残党か、ヴィスマルクあたりか」
肩をすくめるモーガン。手間こそかかるが奴隷の売買自体は不可能ではないらしい。
「ふん。奴隷協会の残党? 醜く燻るとかほんま雅に欠けるわ」
モーガンの言葉に露骨に嫌悪感を示す狼華。消え去る時はきれいさっぱり消え去る。消え去ったことに執着する様は美しきないと唾棄した。
「奪うんはうちのほうや。あんさんらには血の一滴すら渡さへんで」
「はっ! その顔が負けて屈辱に染まると思うとゾクゾクするわ」
唇をなぞるようにしてほほ笑む狼華。その声に反応するようにシャルミナが笑う。
「涙を流して許しを請う表情を見ると、すっきりするからね。今のうちに吼えてな!」
「ははーん? あんさん、そないな経験したことあるんやね。大口叩いて負けて泣き叫んで奴隷になったクチか。
自分と同じ傷持つもんが増えると、安心するんやねぇ。甘露甘露」
「……殺すっ! その顔を刻んで、苦しませながら殺してやる!」
狼華の指摘に渋面するシャルミナ。溜飲が下ったとばかりに口元を覆う狼華。
「世は無常だ。欲に塗れることがなければ斯様な悲劇も生まれなかったろうに」
シャルミナの声を聞きながらシャシが呟く。
「欲に塗れて犯罪してる海賊の味方してる人の言うセリフじゃないわよ」
「狩猟行為に善悪はない。器以上の財を蓄える行為こそが悪なのだ」
エルシーの言葉にそんな言葉を返すシャシ。ヨーガの思想らしいが、はっきり言ってよくわからない。
「その技術の研鑽、見事。ここまで腕を鍛え上げるのに多くの戦を経験してきたのだろう」
エルシーの実力を認めるシャシ。
「故に勝利の後、その身を清らかな炎で焼き払うと約束しよう。汝が何者にも辱められぬように」
「遠慮するわ。気遣ってくれるんだろうけど、負けるつもりはないわよ!」
ぶつかり合う拳と拳。互いの息遣いが届くほどの距離で、二人は攻防を続ける。フラグメンツを燃やしながら、エルシーはシャシと肉薄していた。
「重い一打に素早い動き。いやはや、大したものでござるな自由騎士は」
アンジェリカと攻防を繰り広げるイワシノスケは刀を手にそう言い放つ。
「拙者最弱ゆえ、二つの技しか使えぬ。手数の差で追い込まれてしまうでござるよ」
「謙遜ですか? 少なくとも、私には簡単に打ち倒せるとは思えません」
イワシノスケに言葉を返すアンジェリカ。相手を侮るようなことはしない。その実力を見極め、その上で戦いに挑む。情報に基づいて練られた戦術こそがアンジェリカの真の刃だ。
「いやいや。今なお自分の弱さを実感しているでござるよ。さてどう巻き返したものか」
「ふふ、負けるつもりはないようですね。ええ、そうでなくては」
強き者が生き残り、弱い者が死ぬ。それは自然の摂理だ。勝つ者はいつだって勝つことを諦めぬ者。アンジェリカはフラグメンツを燃やし、武器を手にして踏み込んでいく。
「とはいえ軽戦士の相手は重戦士には荷が重い気がしなくもないですが……!」
「相性の問題だ。サポートはするから何とかしろ」
『ジョルトランサー改』を振るい、海賊達を一掃しながらアデルが叫ぶ。アンジェリカやエルシーに可能な限り海賊を向かわせないようにしながら戦っていた。海賊達の攻撃でフラグメンツを削られるほどの傷を負ったが、まだまだ負けぬと武器を握りしめる。
「前回は海、今回は陸、か。ホーム&アウェイ方式とは、とんだフェアプレイ精神だな、海賊共」
「陸に上がった海賊が弱い、って油断したか?」
「まさか。海の上じゃないから負けた、と言い訳されるのが嫌なだけだ」
言い訳しても見逃さないがな、と告げるアデル。ここでモーガンを押さえ、赤髭海賊団を一気に押し込む。そうすればヘルメリアの戦力は大きき減衰するだろう。
「そうだな。陸に上がった海賊に負けたとあっちゃ、国を守る騎士も台無しだ。ここぞとばかりにヴィスマルクあたりに攻められる――おおっと、もう攻められていたか」
「軽口もそこまでだ。自由騎士を舐めるなよ」
ぶつかり合う互いの思想。当たり前だが会話と呼ぶには敵愾心が強く混ざったやり取りだ。モーガンが軽口を叩けるのも、確かにこれまでだった。
前衛で壁となっている海賊達が倒れ、前衛を突破する自由騎士が増えてくる。自分の首に直接刃が届くようになれば、自然と軽口も減るだろう。
王手まであと一歩。しかし自由騎士達の疲弊も軽視できない。
戦いは確実に、終局へと向かっていく。
●
「はっ! 自由騎士共、来るならこいや!」
これまで砲弾を討ち続けてきたモーガンは、その筒を鈍器のように振り回して迫る敵を打ち据えていく。殴りつけた相手から赤い生気を吸い取り、自らの活力にしている。
「死にな、クマ公!」
遠距離から攻撃を仕掛けてきたアルヴィダも海賊前衛を突破できる状況になれば一気に接近する。レイピアを振るい、高速の剣舞を叩き込んだ。
「これでもくらいやがれ!」
モーガンに迫ったのはアルヴィダだけではない。今が好機とばかりに至近距離用の弾倉を銃に装着したウェルスも一気に距離を詰める。銃口をモーガンに押し当て、躊躇なく引き金を引いた。
「起きろ。お前がいなくなれば後衛が瓦解する」
ツボミは後衛の盾となって倒れたナバルに術式を施す。ナバルの意識を強制的に起こし、身体の傷を一気に癒す。激しく魔力を消費するが、それに見合うだけの価値はある。切り札の一つを斬ったことを強く意識しながら、ツボミは治療の順番を練り直す。
「さんきゅ、先生! まだまだ負けないぞ!」
起き上がったナバルは盾を構えて、守りの体制に入る。自分の後ろにいる者は誰も傷つけさせない。この傷は誰かを守った証なのだ。呼吸を整え、足を踏ん張る。敵の砲撃に負けるものかと大声を上げ、盾を握りしめた。
「ドジっ子だからってカノンはきゅんと来ないからね!」
カノンはモーガンではなく、同じオニビトであるサチコを狙っていた。モーガンを狙った攻撃を受けていたこともあり、疲弊して足もフラフラだ。かといって油断するつもりはない。確実に蹴りを叩き込んでいく。
「本音を言うとね、貴方の拳法に興味はあるわ。余裕がないのが残念だけど!」
柔軟に動き回るシャシの闘法。ヨーガと呼ばれた東の拳法にはエルシーも興味があった。だが教授してもらう時間はない。相手が海賊に組しなければその余裕はあったのかもしれない。今はただ、拳を通してその力を探るのみだ。
「生憎と俺は追い込まれてからが本番でな」
モーガンの打撃を受けたアデルの身体から蒸気が噴き出す。全関節の駆動が増し、全身に熱がこもってきた。身体に負荷をかけ、出力を増すモードに移行する。一気に勝負を決める為、アデルは熱に意識を奪われながら槍を振るう。
「考える事はどちらも同じか」
テオドールはシャルミナの動きを見ながらうなりをあげる。自分がナバルの盾に守られながら術を放つように、シャルミナもサチコの守りを外れることなく立ち回っている。放たれるヨウセイの魔技を止めるのは、テオドール一人では時間がかかりそうだ。
「ようやく……倒れて、くれましたか……っ」
肩で息をしながら、アンジェリカが倒れたイワシノスケを見やる。無力化できたことには違いないが、こちらの疲弊も激しい。勝利の余韻に浸っている余裕はない。呼吸を整え、次の目標に向かう。
「あんさんの血ぃ、ええ味しとるんやろうなぁ」
狼華はシャルミナに迫り、それを守ろうとするサチコの血を吸い上げる。喉を嚥下する血の感覚。体内に染みわたる赤い活力。それが全身を駆け巡る感覚に恍惚とする狼華。微熱に酔うように狼華は微笑んだ。
「流石に無傷とは……行かないか」
モーガンからの攻撃を受けて、マグノリアはフラグメンツを削られる。攻撃に回復にと勤しんできたが、その比重は少しずつ回復の方に移行していく。ここが堪え処とモーガンの攻撃を凌ぐために錬金術を駆使していく。
自由騎士の作戦を纏めると『奴隷を戦闘不能にした後に前衛の海賊を減らし』『敵後衛に突撃可能となったらモーガンを狙う』だ。
そして最初の行程において、自由騎士達はスカンディナ海賊団に敵前衛ではなくモーガンを狙うように指示した。それは捕らわれた奴隷達を殺させない為だ。だが――結果として火力を分散することとなった。
総合的に与えるダメージこそ変わらないが、前衛突破にはその分時間がかかってしまう。通常ならそれは些細なことだが、この状況で時間をかける事で有利になる者がいる。
「くっ……!」
打たれた腹部を押さえ、膝を屈するウェルス。脳内に響くエイト・ポーンの音に苛立ちを感じながら、積み重なる苛立ちに狙いが上手く定まらないでいた。
それは他の自由騎士、そしてスカンディナ海賊団も同じだ。時間をかければかけるほどエイト・ポーンの発する音の影響は積み重なり、それが攻撃に影響してくる。対し赤髭海賊団はその影響を受けていない。その差により少しずつ赤髭海賊団が戦局を押し返していく。
「お前らは退きな!」
戦闘不能になった仲間に下がるように指示するアルヴィダ。そのアルヴィダ自身も動きに障害が出ていた。
「そろそろ頃合いだな」
好機と見たモーガンが巨砲からグレネード弾を放つ。自らを巻き込む炎の蹂躙。それが自由騎士達を飲み込み、体力を奪っていく。熱波と爆音が戦場を支配し、紅の天幕が晴れれば――
「後はお前らだけだ」
戦場に立っているのは、ナバルに庇われたツボミとテオドールとマグノリア。そしてフラグメンツを削って意識を保ってウェルスの四名だけだ。
対し赤髭海賊団側はモーガン、サチコ、シャルミナ、そしてシャシが残っていた。自由騎士達の攻撃を受けてかなりのダメージを負っているが、それでも戦闘は可能だろう。
「紙一重だったな。俺達をここまで追い込んだのは、褒めてやるぜ」
勝負あったな、とモーガンは砲を自由騎士の方に向ける。よろつきながらもシャシも拳を構え、シャルミナも魔力の矢を番えた。ツボミとテオドールはダメージが少ないが、自由騎士4名では今の赤髭海賊団の4人を押し切るだけの火力はない。勝負ありだ。
「そうだな。勝負ありだ」
言って肩をすくめるツボミ。
「直接的な戦闘になれば私は事実上詰みだ。それ自体はまあ仕方のない事なのだろうよ。医者と言うのはいつだって人間ではなく病気と闘うものだから」
「大人しく降伏するか? だったら境遇は考えてやっても――」
「バーカバーカ! そんなわけあるか! 海賊に生殺与奪剣握られるとかそれこそ人生詰みだろうが。そんな事はお前ら自身がよく知っているだろうに!
私が言いたいのはだな、この状況こそ医者の独壇場という事だ。戦闘行為ではなく、傷つく患者がたくさんいる時こそが医者の戦場なのだ!」
ツボミはこの戦いの間ずっと見てきた。誰がどこを傷つけられ、どのように倒れたかを。そしてイメージしていた。その傷はどうすれば塞ぐことが出来るのか。それを知っているのなら、後は行動するだけだ。
魔力で構成された白い糸が地面を走り、円を描きながら広がっていく。糸は自由騎士やスカンディナ海賊団に触れるとヘビのように隆起して傷口に迫り、縫い留める様に傷を塞いでいく。同時に自らを構成する魔力そのものを身体に染みわたらせ、活力を与えていく。
ハクタク――ツボミの親の幻想種。それは央華大陸に置いて医学の祖と言える帝に病魔を教えたとされる幻想種。あらゆる鬼神災厄を人に伝えた万物を知る聖獣。
その伝承が正しいかどうかはわからない。
だが、ツボミの起こした奇跡は全ての傷を癒していた。あたかも伝説のハクタクの如く。そしてその奇跡により――
「勝負あり、だ」
告げるツボミの言葉にモーガンは押し黙る。倒した自由騎士達が起き上がり、武器を構えていた。傷は全て癒え、エイト・ポーンの影響もすべて消え去っている。この人数を覆すだけの火力は、今の赤髭海賊団にはない。
「……はっ、上等じゃねぇか!」
それでも心折れずに挑んできたのは、海賊なりの矜持だろうか。しかしそれも僅かな抵抗。
「これで終いだ海賊達。悲嘆の荒波に呑まれよ」
テオドールの放つ魔力が呪詛となり、身体を蝕む痛みとなる。自らの業に潰されるように、赤髭海賊団は全員倒れ伏した。
●
医療魔術は一時的な効果しか持たない。ツボミの起こした奇跡も医療魔術をベースにしていることもあり、その効果が切れれば鋭い痛みが襲ってくるだろう。自由騎士達は体が動ける間に赤髭海賊団を拘束し、奴隷となっていた者達の治癒を行う。なお治療対象には、
「殺すのは後でも出来るが、私の仕事は今しか出来ん。邪魔をするな」
というツボミの意見により赤髭海賊団も含まれていた。何名かの自由騎士は何か言いたそうにしたが、今回の戦果を鑑みて口をつぐんだ。彼女が身を張らなければ、二度と彼らは日の目を見れなかったかもしれないのだ。
「そうだな、どの道海賊は縛り首だ」
言って槍を納めるアデル。後顧の憂いを断つなら今ここで倒すべきだが、モーガンを始めとした赤髭海賊団は逃げる術も体力もないだろう。残党処理が残っているが、赤髭海賊団の力は大きく削いだと言っても過言ではない。
「……これか」
ウェルスは赤髭海賊団が耳付近につけている器具を手にする。僅かに振動する耳当てだ。おそらくこれをつけていると、エイト・ポーンの影響を免れることが出来るようだ。流石に今から量産や調律している余裕ないだろう。
「もう君達は自由だよ」
奴隷達を治療しながらカノンは優しく告げる。その言葉が届いたかどうかはわからない。だが彼らがこれ以上海賊に苦しめられることはもうないのだ。それだけでも充分だろう。後は傷を癒し、そして――戦いに勝つのみだ。
「アジトの場所を吐いてもらうわよ。今まで奪ったおたからすべて没収させてもらうわ」
エルシーは縛られた赤髭海賊団たちにそう告げる。これは略奪ではない。法の下の徴収だ。海賊行為によって盗まれたものを没収し、それを世間に還元する。ヘルメリア戦役の補填になればいいなぁ、という気持ちがないわけでもないが。
「赤髭海賊団とスカンディナ海賊団、三つ巴の戦闘になり自由騎士に討たれて赤髭海賊団は壊滅。スカンディナ海賊団は機を見て撤退。シナリオとしてはこんな所か」
テオドールはアルヴィダと交渉していた。海賊とのつながりを表ざたにはできない。誰も見ていない間に裏口を合わせる必要があった。この辺りは貴族の領域だ。互いに得をするようにしながら、妥協点を見出していく。
「これであんさんらは奴隷以下。醜く足搔いて滑り落ちて。十三階段まで一直線や」
薄く笑みを浮かべ、狼華が海賊達に告げる。彼らが日の目を見る事はないだろう。薄暗い牢獄の中、死刑執行まで怯えて暮らすだけだ。自業自得とはまさにこのこと。他者を虐げて弄んだもの相手に、狼華は容赦なかった。
「……でも、まだこの国がよくなったわけじゃないんだよな」
沈痛な表情でナバルが告げる。ヘルメリアの私掠海賊こと赤髭海賊団の襲撃を止め、その首魁を捕らえて力を削いだ。だがそれはヘルメリアの一部でしかない。奴隷売買をシステム化したヘルメリアと言う国は、いまだ健在だ。
「うん……そうだね。ここからが正念場だ」
ナバルの言葉に頷くマグノリア。この戦いが山場の一つであることは確かだ。だが乗り越えなくてはならない戦いはまだ残されている。その戦いに勝利しなければ、ヘルメリアに住む者を救うことなどできやしないだろう。
「はい。共に未来を切り開きましょう」
頷き、そして祈るアンジェリカ。やるべきことは変わらない。今を懸命に戦い、未来を切り開く。それはアクアディーネの御心のままに。不遇な未来が待ち構えていようとも、それを変えることが出来るのだ。これまでもそうしてきた、そしてこれからも。
煤けた空気を含んだ風が吹く。ヘルメリアの灰の匂いを乗せた乾いた風が。
戦いは終わり、そして新たな戦いに赴く自由騎士達。
激突する二国の命運は、いまなお天秤の上で揺れていた――
赤髭海賊団、十七名。
スカンディナ海賊団、六名。
そして自由騎士、十二名。
赤髭海賊団はヘルメリアの命でイ・ラプセルの物資を奪うために。そしてその物資を己の海賊団の活動で使うために。
スカンディナ海賊団はライバル海賊団を討つために。そして気に入った相手がいる国を助けるために。
自由騎士は――
「海賊同士のぶつかり合いか……。面白そうだね」
三種の団体が混ざり合う状況を見て、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は微笑んだ。海賊団たちと面識はないが、海賊団が奪っていった奴隷達には興味がある。今ここで彼らを解放し、救うのだ。
「折角の二大海賊のぶつかり合いなんだ……景気良くいきたいね」
「確かに派手さには欠けるな。海賊相手なのにバリスタも大砲もないとはな!」
赤髭海賊団を見ながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は口を開く。海戦では必須も言える大砲やバリスタ。折角の海賊船なのにそれがないのは地味と言えよう。陸に上がった海賊故仕方ないのだが。
「大丈夫? 宮仕え長くて野生忘れかけてない?」
「こいつらで散々野生発散しちまってな。中々楽しめたぜ」
「……っ! 絶対許さないから!」
ツボミの言葉に奴隷達の鎖を引っ張るモーガン。奴隷達の怯えを見て、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は怒りの声をあげた。海賊達が奴隷達に何をしたか。その怯え方から想像に難くない。
「絶対解放してあげるからね!」
(……あれが逆らう事を諦めた者の目や。うちにはようわかる)
『艶師』蔡 狼華(CL3000451)は口を閉ざして武器を握りしめる。焦点の合わない濁った眼。あるのは主の暴力を避けるためにどうすればいいかを思うだけ。狼華はそれを良く知っている。二度と見たくないから――
「せやな。そないな盾使わんとあかんとか、『ダメージ代行屋』さん信用されとらへんの?」
「えへへー。精進いたしますー」
「ふざけるな! 人が傷ついているのに……!」
サチコのおどけた言葉に怒りの声をあげる 『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)。『護る』という事を商売とし、そして傷ついている奴隷を守ろうとしない彼女。ナバルの信念がその在り方を許せなかった。
「お前達のようなものを産む国なんかあっちゃいけないんだ……!」
「落ち着けナバル。つまらん挑発に乗るな」
怜悧に言葉を放つ『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)。激しい感情が力になることもある。だがその方向性を誤れば綻びとなるのだ。今はわずかな綻びすら惜しい。歴戦の傭兵の戦術眼がそう判断していた。
「陸に上がった海賊ほど愚かな者はないな。海に戻れると思うなよ」
「お前らこそ、イ・ラプセルに戻れると思うなよ」
「戻るとも。向こうには妻がいるのでね」
蒸気自動車の扉を閉め、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が言い放つ。祖国に残した者の為に。この国で苦しむ者の為に。祖国の勝利の為に。貴族としてテオドールは海賊達の前に立ち、睨みつけた。
「しかし予想通り現れたな赤髭海賊団。首魁自らと言うのが意外なだけだ」
「そうだな。ここで殺しておけば後腐れない」
瞳に殺意を乗せてウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は言い放つ。ヘルメリアに従う私掠海賊。亜人を奴隷にして扱うヘルメリアに組する連中を許すつもりはない。赤髭海賊団は誰一人生かして帰るつもりはなかった。
「ついでにこの厄介な音をどう我慢してるかも聞かせてもらうぜ」
「そうね。地味に堪えるのよね」
眉をひそめて『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が言う。エイトポーンから発せられる音に苛立ちを感じるのか、微妙に動きにブレが出る。今は気にするレベルではないが、苛立ちが蓄積すれば致命的な失敗を招きかねない。
「ま、速攻でやれば問題ないわね」
「ええ。いつものことです」
祈りのポーズを取る『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。いついかなる時もやるべきことは変わらない。敵を打ち倒し、自らの道を示す。祈りは自分ではなく相手の為。全ての魂に救済を。
「貴方達の魂が正しくセフィロトの海に向かいますように」
「聖職者が殺す宣言か。まあ、それはこちらも同じだがな」
アンジェリカの言葉に苦笑するモーガン。殺意を隠すつもりがないのはこちらも同じだ。
「皆様、頑張ってください……!」
「海賊風情に蹂躙されるつもりはない」
サポートでやってきたノウブルのヒーラーが杖を持ち、ノウブルのレンジャーがコンポジットボウを手にする。仲間と国を守るために信念と共に武器を手にした。
遠くで号砲が響く。
その音が合図となって、海賊と自由騎士達はぶつかり合う。
●
「大将首が居やがるぞ! 誰が仕留めるか、早い者勝ちだな!」
自由騎士達はモーガンに向けて武器を向け、『赤髭海賊団の首魁を狙う』と告げる
「負けてられないねぇ! 行くよ野郎ども!」
その意図を察したアルヴィダとスカンディナ海賊団は、一斉にモーガンを狙う。その攻撃を奴隷とサチコが庇う事になり、赤髭海賊団側の動きが足止めされた。
そして自由騎士達はその隙を逃すことなく、展開していく。
「慈悲も慈愛も不要です」
最初に動いたのはアンジェリカだ。真っすぐ敵陣に突っ込み、巨大な武器を振るう。重戦士とは思えぬ速度で敵陣に入り込むと同時に、重戦士の名に恥じぬ一撃を振るう。海賊相手に神の愛は不要、とばかりに薙ぎ払う。
振りぬいたアンジェリカの『断罪と救済の十字架』。その重量を殺すことなく身体を回転させ、さらに追撃を行う。自らの身体を軸とし、足をしっかり踏みしめて腰を回転させる。二連の重打が海賊達を穿つ。
「略奪行為をとやかく言うつもりはありません。これは戦争ですから。弱肉強食、弱いものが負けるのです」
「分かってるじゃねえか。なら恨みっこなしだぜ!」
「賊は品性があらへんなぁ。そないなこと、口にせぇへんとあかんの?」
嘲るように口元を覆って狼華が言葉を放つ。弱肉強食という自然の摂理。それはどれだけ文明が発展しても変わらない。その上でどれだけ優雅に、どれだけ雅に振舞えるかだ。勝つだけではなく、勝って美しく在るのが大事なのだ。
小太刀と短刀を手にして狼華は敵の前衛に迫る。ふわり、と狼華の着ている服が舞うと同時に二刃が稲妻の軌跡で煌いた。複雑怪奇な二重の刃の動き。不規則に見えてしかし美しくもある斬撃。それが海賊達を斬り刻んでいく。
「昂るわぁ……もっとうちの事楽しませておくれやす!」
「好き勝手はさせないよ!」
モーガンを指差し、カノンが宣言する。補給部隊を守るのは戦争において重要なことだ。だがそれ以上に、捕らえた奴隷を盾にするような事は許してはおけない。怒りの感情を込めて、カノンは拳を強く握りしめる。
踏み込みと同時に体内の『気』を活性化させ、呼吸を整える。体内をめぐる龍の流れ。踏み込んだ足の角度、腰の捻り、肩と腕の軌跡。それら全てが『武』と呼ばれる事象。正しい型から繰り出されたカノンの一撃が、海賊の胸を穿つ。
「海賊なんかカノンが蹴散らしてやるんだから! 待っててね!」
「ああ、すぐに助けてやるぜ」
鎖に繋がれた奴隷達を見てウェルスが口を開く。先の海戦で連れ去れた彼ら。六人という数を、多いと取るか少ないと取るかは関係ない。モノ扱いされる亜人がいるのなら、手を差し出すのがウェルスと言うケモノビトの行動理念だ。
視覚強化のガジェットを扱い、銃を構える。片方の目で戦場全体を見ながら、ガジェットを通して敵を詳細に見る。二つの情報を掛け合わせ、最適な銃撃を行うのがスナイパーだ。ウェルスは殺意を乗せて海賊を撃ち抜いていく。
「デザイア達を救出したら容赦はしないぜ」
「流石に甘くはないか」
先だって敵陣に突入しようとしたアデルだが、それに反応したモーガンの動きに合わせて身を引くこととなった。自分が準備を放棄して動けるという事は、相手も準備を放棄して動けるということだ。あと一歩、踏み込んでいれば接敵する前に撃たれていただろう。
改めて槍を構えて敵陣に迫るアデル。狙うべきは海賊達が盾にしている奴隷達。彼らを無力化し、憂いを無くして戦いに挑む。キジンの体の出力を上げ、全力の一撃を叩き込んだ。確かな手ごたえが槍から伝わり、奴隷の一人が気を失ったように倒れ込む。
「容赦ないなぁ、自由騎士。……って生きてるのかよ」
「安心しろ。お前達は生かさない。後顧の憂いを無くすためにもな」
「お前達に引っ掻き回されるのはこれで終わりだ!」
モーガンとアデルのやり取りを継ぐようにナバルが声をあげる。先の海戦に限らず、赤髭海賊団が世情をひっかきまわした事件は多い。ここで彼らを打ち倒し、二度と海賊被害を出さないようにしなくては。
ライオットシールドを前に構え、槍を握りしめるナバル。砲撃、剣戟、打撃……様々なパターンを想像しながら、それらが来た時にどうするかをイメージする。大事なのそのイメージ。あらゆる攻撃に素早く対応し、盾を掲げて守るために。
「ええと……よろしく頼むぜ、スカンク海賊団さん!」
「よーし、クマ公ぶっ殺したら次はあんただね」
「奴がいないからって不機嫌になるな」
激昂しかけたアルヴィダを制するツボミ。『ベ、別に期待なんか――』と叫びそうになる女海賊を適当にあしらいながら、ツボミは戦場を眺めていた。医者として騎士として、やるべきことをやらなくてはいけない。まあ、それはそれとしてアルヴィダはからかうが。
『九矛目』を手にして魔力を練り上げるツボミ。医療魔術は一時しのぎだが、今はその一時が欲しい状況だ。医療の知識で怪我の具合を測り、治療を必要とされる順番を頭の中で並べる。その順番に従い、ツボミは仲間を癒していく。
「戦い事態は単純明快だな。奪う海賊と護る騎士。正義だのなんだのがないだけ気軽なものだ」
「他国に攻め入って人を殺す騎士様には、そういう緩衝材が必要なんだとよ」
「そのように正義を扱っていることを否定はせぬ」
ツボミとモーガンのやり取りに言葉を挟むテオドール。戦争は人が死ぬ。その重荷を受け止められず、心を病む者も少なくない。戦争における正義はそういった精神的負担を軽減するためにあると言ってもいいだろう。貴族の立場から、それはよく分かる。
犠牲になるものがいるからこそ、負けるわけにはいかない。テオドールは練り上げた魔力を展開する。単音節部分省略、四音節を略語で高速化、発動言語を簡略。ある魔術師の技法を活用し、時間を狭めて呪文を発動させる。冷たき虚無が、海賊達を襲った。だがシャルミナにむかった呪詛は――
「やはり奴隷に庇わせたか。卑劣な」
「当然だろう。奴隷を使わないイイコちゃんは大変だねぇ! あっはっは!」
「下種な笑い方ね。セクシーな体が台無しよ」
嗤うシャルミナに指差して、エルシーが冷たく告げる。同じ褐色のセクシー美女だが、淫靡ともとれる在り方は健康的なエルシーとは対照的だった。今はこれ以上相手をしている余裕はない、とばかりに視線を切り替える。
目の前にはウシのケモノビト。ヨーガと呼ばれる特殊な思想を持つ武道家だ。エルシーは一人で彼を相手していた。引き付ける様に挑発し、拳を交えていく。交差する拳から相手の強さが伝わってくる。それを感じながら、エルシーもまた己の武を突きつけていく。
「貴方の相手は、この私よ!」
「これも運命。ヨーガの拳でその魂を海に送ろう」
「東方の思想自体には興味があるけど……いまは無理かな」
聞いたことのないヨーガと呼ばれる東方の考え方。その存在にマグノリアは少し興味を引かれたが、今はそれを追求している余裕はない。いつか東方に向かうことがあれば明らかになるのだが、何時になる事か。
マグノリアは魔力を練り上げ、戦場全てに広がるように展開する。海賊の足元を押さえる様に蠢く魔力の水。それは海賊達の動きを封じ、同時に体力を奪っていく。モーガンはそれを回避するが、初見の海賊達はそれに動きを取られてしまう。
「さぁ、アルヴィダ・スカンディナ。 何方のチームが先に目的であるヘンリー・モーガン打倒を達成出来るか……『勝負』といこうじゃないか」
「はん! いい啖呵だね。面白いから乗ってやるよ!」
「その勝負はドローだ。俺達が勝つからな」
マグノリアの言葉に二大海賊の首魁が笑みを浮かべる。アヴィルダは猛禽類を思わせる鋭い笑みを。モーガンは肉食獣を思わせる獰猛な笑みを。
戦いは少しずつ激化していく。
●
自由騎士達は先ず奴隷達の無力化を狙った。アクアディーネの権能を使って命を奪わず戦闘不能にし、海賊達に利用されることを防ぐ。
だが、自由騎士側も無傷とはいかない。
「きついなぁ。もう少し優しゅうしてくれてもええのに」
「これぐらいじゃ、負けないよ!」
「この傷は皆を守った証なんだ!」
前衛で戦う狼華とカノン、そして後衛を守るナバルがフラグメンツを削られるほどのダメージを負った。
「成程な。わざわざ優先して攻撃した挙句全員生きてる、って言うのがお前らの神様の御業ってやつか」
その様子を見て、モーガンは自由騎士達の狙いと特性を看破する。元々ここで使い潰す予定だった奴隷でその情報が得られたのならいいメリットだと含み笑いをした。
「好きに推測してな。どの道此処で殺してお終いだ」
ウェルスは冷たく言い放ち、銃を撃ち放つ。相手はヘルメリアの社会を受け入れ、それを得利用して立場を得ている海賊だ。話し合う事などなく、妥協する点もない。ただの敵として殺すだけだ。
「いい殺気だ。そういう奴を飼いならすのも悪くない。狂犬の心が折れる音程、心地良い事はないからな」
ウェルスの殺気を受け止め、笑みを浮かべるモーガン。悪趣味が、と舌打ちしてその言葉を受け流すウェルス。返事とばかりに引き金を引いた。
「前から思っておったのだが……貴様エロくない? どっちかっていうと受けっぽいのだが」
そんなモーガンの様子を見てツボミがそう呟く。筋肉質の体を見せるような衣装。胸毛と二の腕の毛などがツボミの心に響いたらしい。
「なんだ、そういう趣味か? 俺はどちらでもイケるぜ」
「うわ、セクハラ。海賊はこれだから困る。まあ、こっちもセクハラしているのだが」
言って肩をすくめるツボミ。
「興味があるならいつでも来な。腕のいい奴は朝でも夜でも歓迎だぜ」
「熱烈なラブコールだがお断りさせてもらおうか。患者が待っているのでな」
「お、大人の会話……!」
ツボミとモーガンの会話に唾を飲むナバル。純粋な若者には少し刺激が強かったようだ。
「なんやったらウチが夜のお相手してあげよーか?」
「いらねぇよ!? っていうか敵だろうが、アンタ!」
そんなナバルに声をかけてきたのは敵の盾役であるサチコだった。あまりに場違いな誘いに、思わず素で返すナバル。
「そないこと言わんと。同じ守り手同士、気ぃ合うんちゃう? お安くするで?」
「合・わ・な・い! 俺の盾は金で買われたりしないんだ!」
「そやったら何の目的で盾持って人守るん? 『正義』とか言うんやったら、軍人なんか皆人殺しやで?」
「――それは、」
一瞬心臓を掴まれたような表情をしたナバルだが、盾を握りしめてはっきりと答える。
「まだ答えは出ない。今はこの国の在り方を正すためだ!」
「そういう事だ、海賊。前途ある若者をたぶらかすのはご遠慮願いたい」
ナバルの答えを聞き、テオドールが深々と頷いて告げる。
「正しい答えなどない。もしかしたら後の歴史で我々は簒奪者と記されているかもしれない。あるいは強国に無様に挑んだ愚かな国と書かれるかもしれない。だがそれは後の歴史家の評価だ」
テオドールは過去の歴史を記した書物に目を通したことがある。その中には個人の評価を含んだ平等ではない目線もあった。それ自体は仕方のない事なのだろう。
「今を生きる私達は、今正しいと思う事をするだけにすぎない。大事な物の為に手を血に染める覚悟はある」
「貴族様は高尚だな。だったら俺達海賊は自由気ままに暴れるだけだ」
「他人の自由を奪っておいて、そんな言い草をするなんて!」
モーガンの言葉に怒りの声をあげるカノン。鎖でつながれた奴隷を指差し、拳を振りあげる。
「こんなに怯えるまで痛めつけて、自由を奪っておいて何が自由気ままだ!」
「弱ければそうなるんだ。文句があるなら力を示しな」
「力で支配したら、笑顔になんかなれないんだよ! 皆で笑って過ごせるのが一番なのに!」
劇団で活動するカノンは、演劇を通して多くの笑顔を見てきた。それは格闘術では生み出せないものだ。暴力によって人を支配できることは知っている。だけどそれよりも笑顔で喜んでくれる方がいいに決まっているのだ。
「なんだ、笑顔の方がいいのか? だったらいいクスリがあるぜ。いい笑顔になれてシアワセな気分になる奴がな」
「そういう事じゃなくて!」
「確かに……気分を高揚させるクスリは、あるね」
モーガンの言葉に頷くマグノリア。錬金術の知識の一環としてそういった麻薬の知識は持っている。実際に使用するかどうかはともかく。
「ヘンリー・モーガン……個人的な因縁はないけど……まあ、あまり長い付き合いにはなりそうもないかな。ここで倒させてもらうよ」
「確かに長い付き合いにはなりそうもないな。お前を捕らえて、売りさばいて終わりだ。珍しい親のマザリモノは、それなりに高く売れるんでな」
マグノリアの言葉に品定めをするように一瞥してから答えるモーガン。
「ヘルメリアの奴隷制度は……すでに崩壊したんじゃないかい?」
「まあな。お陰で奴隷の売買が大変だ。伝手で知っているのは奴隷協会の残党か、ヴィスマルクあたりか」
肩をすくめるモーガン。手間こそかかるが奴隷の売買自体は不可能ではないらしい。
「ふん。奴隷協会の残党? 醜く燻るとかほんま雅に欠けるわ」
モーガンの言葉に露骨に嫌悪感を示す狼華。消え去る時はきれいさっぱり消え去る。消え去ったことに執着する様は美しきないと唾棄した。
「奪うんはうちのほうや。あんさんらには血の一滴すら渡さへんで」
「はっ! その顔が負けて屈辱に染まると思うとゾクゾクするわ」
唇をなぞるようにしてほほ笑む狼華。その声に反応するようにシャルミナが笑う。
「涙を流して許しを請う表情を見ると、すっきりするからね。今のうちに吼えてな!」
「ははーん? あんさん、そないな経験したことあるんやね。大口叩いて負けて泣き叫んで奴隷になったクチか。
自分と同じ傷持つもんが増えると、安心するんやねぇ。甘露甘露」
「……殺すっ! その顔を刻んで、苦しませながら殺してやる!」
狼華の指摘に渋面するシャルミナ。溜飲が下ったとばかりに口元を覆う狼華。
「世は無常だ。欲に塗れることがなければ斯様な悲劇も生まれなかったろうに」
シャルミナの声を聞きながらシャシが呟く。
「欲に塗れて犯罪してる海賊の味方してる人の言うセリフじゃないわよ」
「狩猟行為に善悪はない。器以上の財を蓄える行為こそが悪なのだ」
エルシーの言葉にそんな言葉を返すシャシ。ヨーガの思想らしいが、はっきり言ってよくわからない。
「その技術の研鑽、見事。ここまで腕を鍛え上げるのに多くの戦を経験してきたのだろう」
エルシーの実力を認めるシャシ。
「故に勝利の後、その身を清らかな炎で焼き払うと約束しよう。汝が何者にも辱められぬように」
「遠慮するわ。気遣ってくれるんだろうけど、負けるつもりはないわよ!」
ぶつかり合う拳と拳。互いの息遣いが届くほどの距離で、二人は攻防を続ける。フラグメンツを燃やしながら、エルシーはシャシと肉薄していた。
「重い一打に素早い動き。いやはや、大したものでござるな自由騎士は」
アンジェリカと攻防を繰り広げるイワシノスケは刀を手にそう言い放つ。
「拙者最弱ゆえ、二つの技しか使えぬ。手数の差で追い込まれてしまうでござるよ」
「謙遜ですか? 少なくとも、私には簡単に打ち倒せるとは思えません」
イワシノスケに言葉を返すアンジェリカ。相手を侮るようなことはしない。その実力を見極め、その上で戦いに挑む。情報に基づいて練られた戦術こそがアンジェリカの真の刃だ。
「いやいや。今なお自分の弱さを実感しているでござるよ。さてどう巻き返したものか」
「ふふ、負けるつもりはないようですね。ええ、そうでなくては」
強き者が生き残り、弱い者が死ぬ。それは自然の摂理だ。勝つ者はいつだって勝つことを諦めぬ者。アンジェリカはフラグメンツを燃やし、武器を手にして踏み込んでいく。
「とはいえ軽戦士の相手は重戦士には荷が重い気がしなくもないですが……!」
「相性の問題だ。サポートはするから何とかしろ」
『ジョルトランサー改』を振るい、海賊達を一掃しながらアデルが叫ぶ。アンジェリカやエルシーに可能な限り海賊を向かわせないようにしながら戦っていた。海賊達の攻撃でフラグメンツを削られるほどの傷を負ったが、まだまだ負けぬと武器を握りしめる。
「前回は海、今回は陸、か。ホーム&アウェイ方式とは、とんだフェアプレイ精神だな、海賊共」
「陸に上がった海賊が弱い、って油断したか?」
「まさか。海の上じゃないから負けた、と言い訳されるのが嫌なだけだ」
言い訳しても見逃さないがな、と告げるアデル。ここでモーガンを押さえ、赤髭海賊団を一気に押し込む。そうすればヘルメリアの戦力は大きき減衰するだろう。
「そうだな。陸に上がった海賊に負けたとあっちゃ、国を守る騎士も台無しだ。ここぞとばかりにヴィスマルクあたりに攻められる――おおっと、もう攻められていたか」
「軽口もそこまでだ。自由騎士を舐めるなよ」
ぶつかり合う互いの思想。当たり前だが会話と呼ぶには敵愾心が強く混ざったやり取りだ。モーガンが軽口を叩けるのも、確かにこれまでだった。
前衛で壁となっている海賊達が倒れ、前衛を突破する自由騎士が増えてくる。自分の首に直接刃が届くようになれば、自然と軽口も減るだろう。
王手まであと一歩。しかし自由騎士達の疲弊も軽視できない。
戦いは確実に、終局へと向かっていく。
●
「はっ! 自由騎士共、来るならこいや!」
これまで砲弾を討ち続けてきたモーガンは、その筒を鈍器のように振り回して迫る敵を打ち据えていく。殴りつけた相手から赤い生気を吸い取り、自らの活力にしている。
「死にな、クマ公!」
遠距離から攻撃を仕掛けてきたアルヴィダも海賊前衛を突破できる状況になれば一気に接近する。レイピアを振るい、高速の剣舞を叩き込んだ。
「これでもくらいやがれ!」
モーガンに迫ったのはアルヴィダだけではない。今が好機とばかりに至近距離用の弾倉を銃に装着したウェルスも一気に距離を詰める。銃口をモーガンに押し当て、躊躇なく引き金を引いた。
「起きろ。お前がいなくなれば後衛が瓦解する」
ツボミは後衛の盾となって倒れたナバルに術式を施す。ナバルの意識を強制的に起こし、身体の傷を一気に癒す。激しく魔力を消費するが、それに見合うだけの価値はある。切り札の一つを斬ったことを強く意識しながら、ツボミは治療の順番を練り直す。
「さんきゅ、先生! まだまだ負けないぞ!」
起き上がったナバルは盾を構えて、守りの体制に入る。自分の後ろにいる者は誰も傷つけさせない。この傷は誰かを守った証なのだ。呼吸を整え、足を踏ん張る。敵の砲撃に負けるものかと大声を上げ、盾を握りしめた。
「ドジっ子だからってカノンはきゅんと来ないからね!」
カノンはモーガンではなく、同じオニビトであるサチコを狙っていた。モーガンを狙った攻撃を受けていたこともあり、疲弊して足もフラフラだ。かといって油断するつもりはない。確実に蹴りを叩き込んでいく。
「本音を言うとね、貴方の拳法に興味はあるわ。余裕がないのが残念だけど!」
柔軟に動き回るシャシの闘法。ヨーガと呼ばれた東の拳法にはエルシーも興味があった。だが教授してもらう時間はない。相手が海賊に組しなければその余裕はあったのかもしれない。今はただ、拳を通してその力を探るのみだ。
「生憎と俺は追い込まれてからが本番でな」
モーガンの打撃を受けたアデルの身体から蒸気が噴き出す。全関節の駆動が増し、全身に熱がこもってきた。身体に負荷をかけ、出力を増すモードに移行する。一気に勝負を決める為、アデルは熱に意識を奪われながら槍を振るう。
「考える事はどちらも同じか」
テオドールはシャルミナの動きを見ながらうなりをあげる。自分がナバルの盾に守られながら術を放つように、シャルミナもサチコの守りを外れることなく立ち回っている。放たれるヨウセイの魔技を止めるのは、テオドール一人では時間がかかりそうだ。
「ようやく……倒れて、くれましたか……っ」
肩で息をしながら、アンジェリカが倒れたイワシノスケを見やる。無力化できたことには違いないが、こちらの疲弊も激しい。勝利の余韻に浸っている余裕はない。呼吸を整え、次の目標に向かう。
「あんさんの血ぃ、ええ味しとるんやろうなぁ」
狼華はシャルミナに迫り、それを守ろうとするサチコの血を吸い上げる。喉を嚥下する血の感覚。体内に染みわたる赤い活力。それが全身を駆け巡る感覚に恍惚とする狼華。微熱に酔うように狼華は微笑んだ。
「流石に無傷とは……行かないか」
モーガンからの攻撃を受けて、マグノリアはフラグメンツを削られる。攻撃に回復にと勤しんできたが、その比重は少しずつ回復の方に移行していく。ここが堪え処とモーガンの攻撃を凌ぐために錬金術を駆使していく。
自由騎士の作戦を纏めると『奴隷を戦闘不能にした後に前衛の海賊を減らし』『敵後衛に突撃可能となったらモーガンを狙う』だ。
そして最初の行程において、自由騎士達はスカンディナ海賊団に敵前衛ではなくモーガンを狙うように指示した。それは捕らわれた奴隷達を殺させない為だ。だが――結果として火力を分散することとなった。
総合的に与えるダメージこそ変わらないが、前衛突破にはその分時間がかかってしまう。通常ならそれは些細なことだが、この状況で時間をかける事で有利になる者がいる。
「くっ……!」
打たれた腹部を押さえ、膝を屈するウェルス。脳内に響くエイト・ポーンの音に苛立ちを感じながら、積み重なる苛立ちに狙いが上手く定まらないでいた。
それは他の自由騎士、そしてスカンディナ海賊団も同じだ。時間をかければかけるほどエイト・ポーンの発する音の影響は積み重なり、それが攻撃に影響してくる。対し赤髭海賊団はその影響を受けていない。その差により少しずつ赤髭海賊団が戦局を押し返していく。
「お前らは退きな!」
戦闘不能になった仲間に下がるように指示するアルヴィダ。そのアルヴィダ自身も動きに障害が出ていた。
「そろそろ頃合いだな」
好機と見たモーガンが巨砲からグレネード弾を放つ。自らを巻き込む炎の蹂躙。それが自由騎士達を飲み込み、体力を奪っていく。熱波と爆音が戦場を支配し、紅の天幕が晴れれば――
「後はお前らだけだ」
戦場に立っているのは、ナバルに庇われたツボミとテオドールとマグノリア。そしてフラグメンツを削って意識を保ってウェルスの四名だけだ。
対し赤髭海賊団側はモーガン、サチコ、シャルミナ、そしてシャシが残っていた。自由騎士達の攻撃を受けてかなりのダメージを負っているが、それでも戦闘は可能だろう。
「紙一重だったな。俺達をここまで追い込んだのは、褒めてやるぜ」
勝負あったな、とモーガンは砲を自由騎士の方に向ける。よろつきながらもシャシも拳を構え、シャルミナも魔力の矢を番えた。ツボミとテオドールはダメージが少ないが、自由騎士4名では今の赤髭海賊団の4人を押し切るだけの火力はない。勝負ありだ。
「そうだな。勝負ありだ」
言って肩をすくめるツボミ。
「直接的な戦闘になれば私は事実上詰みだ。それ自体はまあ仕方のない事なのだろうよ。医者と言うのはいつだって人間ではなく病気と闘うものだから」
「大人しく降伏するか? だったら境遇は考えてやっても――」
「バーカバーカ! そんなわけあるか! 海賊に生殺与奪剣握られるとかそれこそ人生詰みだろうが。そんな事はお前ら自身がよく知っているだろうに!
私が言いたいのはだな、この状況こそ医者の独壇場という事だ。戦闘行為ではなく、傷つく患者がたくさんいる時こそが医者の戦場なのだ!」
ツボミはこの戦いの間ずっと見てきた。誰がどこを傷つけられ、どのように倒れたかを。そしてイメージしていた。その傷はどうすれば塞ぐことが出来るのか。それを知っているのなら、後は行動するだけだ。
魔力で構成された白い糸が地面を走り、円を描きながら広がっていく。糸は自由騎士やスカンディナ海賊団に触れるとヘビのように隆起して傷口に迫り、縫い留める様に傷を塞いでいく。同時に自らを構成する魔力そのものを身体に染みわたらせ、活力を与えていく。
ハクタク――ツボミの親の幻想種。それは央華大陸に置いて医学の祖と言える帝に病魔を教えたとされる幻想種。あらゆる鬼神災厄を人に伝えた万物を知る聖獣。
その伝承が正しいかどうかはわからない。
だが、ツボミの起こした奇跡は全ての傷を癒していた。あたかも伝説のハクタクの如く。そしてその奇跡により――
「勝負あり、だ」
告げるツボミの言葉にモーガンは押し黙る。倒した自由騎士達が起き上がり、武器を構えていた。傷は全て癒え、エイト・ポーンの影響もすべて消え去っている。この人数を覆すだけの火力は、今の赤髭海賊団にはない。
「……はっ、上等じゃねぇか!」
それでも心折れずに挑んできたのは、海賊なりの矜持だろうか。しかしそれも僅かな抵抗。
「これで終いだ海賊達。悲嘆の荒波に呑まれよ」
テオドールの放つ魔力が呪詛となり、身体を蝕む痛みとなる。自らの業に潰されるように、赤髭海賊団は全員倒れ伏した。
●
医療魔術は一時的な効果しか持たない。ツボミの起こした奇跡も医療魔術をベースにしていることもあり、その効果が切れれば鋭い痛みが襲ってくるだろう。自由騎士達は体が動ける間に赤髭海賊団を拘束し、奴隷となっていた者達の治癒を行う。なお治療対象には、
「殺すのは後でも出来るが、私の仕事は今しか出来ん。邪魔をするな」
というツボミの意見により赤髭海賊団も含まれていた。何名かの自由騎士は何か言いたそうにしたが、今回の戦果を鑑みて口をつぐんだ。彼女が身を張らなければ、二度と彼らは日の目を見れなかったかもしれないのだ。
「そうだな、どの道海賊は縛り首だ」
言って槍を納めるアデル。後顧の憂いを断つなら今ここで倒すべきだが、モーガンを始めとした赤髭海賊団は逃げる術も体力もないだろう。残党処理が残っているが、赤髭海賊団の力は大きく削いだと言っても過言ではない。
「……これか」
ウェルスは赤髭海賊団が耳付近につけている器具を手にする。僅かに振動する耳当てだ。おそらくこれをつけていると、エイト・ポーンの影響を免れることが出来るようだ。流石に今から量産や調律している余裕ないだろう。
「もう君達は自由だよ」
奴隷達を治療しながらカノンは優しく告げる。その言葉が届いたかどうかはわからない。だが彼らがこれ以上海賊に苦しめられることはもうないのだ。それだけでも充分だろう。後は傷を癒し、そして――戦いに勝つのみだ。
「アジトの場所を吐いてもらうわよ。今まで奪ったおたからすべて没収させてもらうわ」
エルシーは縛られた赤髭海賊団たちにそう告げる。これは略奪ではない。法の下の徴収だ。海賊行為によって盗まれたものを没収し、それを世間に還元する。ヘルメリア戦役の補填になればいいなぁ、という気持ちがないわけでもないが。
「赤髭海賊団とスカンディナ海賊団、三つ巴の戦闘になり自由騎士に討たれて赤髭海賊団は壊滅。スカンディナ海賊団は機を見て撤退。シナリオとしてはこんな所か」
テオドールはアルヴィダと交渉していた。海賊とのつながりを表ざたにはできない。誰も見ていない間に裏口を合わせる必要があった。この辺りは貴族の領域だ。互いに得をするようにしながら、妥協点を見出していく。
「これであんさんらは奴隷以下。醜く足搔いて滑り落ちて。十三階段まで一直線や」
薄く笑みを浮かべ、狼華が海賊達に告げる。彼らが日の目を見る事はないだろう。薄暗い牢獄の中、死刑執行まで怯えて暮らすだけだ。自業自得とはまさにこのこと。他者を虐げて弄んだもの相手に、狼華は容赦なかった。
「……でも、まだこの国がよくなったわけじゃないんだよな」
沈痛な表情でナバルが告げる。ヘルメリアの私掠海賊こと赤髭海賊団の襲撃を止め、その首魁を捕らえて力を削いだ。だがそれはヘルメリアの一部でしかない。奴隷売買をシステム化したヘルメリアと言う国は、いまだ健在だ。
「うん……そうだね。ここからが正念場だ」
ナバルの言葉に頷くマグノリア。この戦いが山場の一つであることは確かだ。だが乗り越えなくてはならない戦いはまだ残されている。その戦いに勝利しなければ、ヘルメリアに住む者を救うことなどできやしないだろう。
「はい。共に未来を切り開きましょう」
頷き、そして祈るアンジェリカ。やるべきことは変わらない。今を懸命に戦い、未来を切り開く。それはアクアディーネの御心のままに。不遇な未来が待ち構えていようとも、それを変えることが出来るのだ。これまでもそうしてきた、そしてこれからも。
煤けた空気を含んだ風が吹く。ヘルメリアの灰の匂いを乗せた乾いた風が。
戦いは終わり、そして新たな戦いに赴く自由騎士達。
激突する二国の命運は、いまなお天秤の上で揺れていた――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
あれ、モーガン生きてる? まあすぐに縛り首か。
以上のような結果となりました。
海賊キャラは楽しんで設定を考えました。再登場は……ないわな、うん。
なお赤髭海賊団自体は残党が残っています。ヘルメリアのアフターネタと思ってください。
戦いは佳境に向かっています。
皆様の戦いが未来を切り開くことを願って、筆を置く事としましょう。
……その戦いを描いているの私なんですがね、とかいうツッコまれそうですが!
それでは、イ・ラプセルで。
あれ、モーガン生きてる? まあすぐに縛り首か。
以上のような結果となりました。
海賊キャラは楽しんで設定を考えました。再登場は……ないわな、うん。
なお赤髭海賊団自体は残党が残っています。ヘルメリアのアフターネタと思ってください。
戦いは佳境に向かっています。
皆様の戦いが未来を切り開くことを願って、筆を置く事としましょう。
……その戦いを描いているの私なんですがね、とかいうツッコまれそうですが!
それでは、イ・ラプセルで。
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