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【北方迎撃戦】Worship! 祈る暇は与えない!

●魔女狩りたちの上陸
闇夜に紛れるように、小舟が岸に接舷される。そこから十数名の亜人がイ・ラプセルに足を踏み入れた。
「ここがイ・ラプセルか。思っていたよりも防衛網が薄かったな」
「所詮は奴隷解放と理想を謡っただけの王が治める小国。人が足りないのだろうよ」
「うむ。そもそも我々にはミトラース様のご加護がある。権能も偉大さもアクアディーネなどと言う小娘など比べ物にならぬ」
言って彼らは笑みを浮かべる。ここまでくれば作戦の八割はなった、と言いたげだ。
「作戦の確認だ。我々の目的は聖霊門の再設置。その為の砦建築だ。
理由は不明だが、イ・ラプセルの情報収集能力は高いようだ。すぐに騎士が派遣されるだろう。我々はその露払いがメインとなる」
「邪教の使途か。ゲオルグ様を撤退させた手腕は見事だが、魔女狩りの中でも勇猛果敢を誇る我々を前にどこまで戦えるか」
「ミトラース様に歯向かう愚か者には、死を与えてくれよう」
「我々の侵入に気づいて入るだろうが、軍の派兵にはまだ至っていないはずだ。
ミトラース様への祈りを捧げし後、斥候開始。迎撃ポイントを定め、イ・ラプセル共を待ち受けるのだ」
魔女狩りたちは手を合わせ、祖国の神に祈りを捧げる。これからの作戦を前に、その加護を得ようと。そして神に祈ることで自らを高揚させようと。
時間にすれば数分程度の儀式。
しかし周囲から見れば、それは大きな隙に見える。
●階差演算室
「悪いがそんな余裕は与えてやるつもりはない。魔女狩りが祈りを捧げている隙に襲い掛かるのである」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士に向かいそう告げる。
「階差演算装置が魔女狩りの第二波を予知した。前回の時よりも規模が大きく、未知の術を使うこともある。なので海軍の防衛網にあえて穴を作り、魔女狩人をイ・ラプセルにおびき寄せる形をとったのである。
彼らが密入国に使った船を押さえ、一網打尽にするのだ」
聖霊門を発動させなければ、イ・ラプセルからシャンバラに帰るには船を使うしかない。魔女狩りを閉じ込めて戦力を奪う為に本土での戦いを取ることにしたのだ。海戦では逃げられる可能性が高く、いたちごっこになるのを防ぐための措置である。
「諸君らに相手してもらうのは、魔女狩りの先兵だ。ゲリラ戦に徹されれば厄介だが、運よくミトラースへの祈りを捧げている。そこを叩くのだ」
手を合わせ、一心不乱に命を捧げるミトラース信者達。確かに不意を突くには絶好の機会だろう。
「数は多いが、君たち自由騎士ならうまくやってくれると信じている」
クラウスの声に頷き、自由騎士達は演算室を出た。
闇夜に紛れるように、小舟が岸に接舷される。そこから十数名の亜人がイ・ラプセルに足を踏み入れた。
「ここがイ・ラプセルか。思っていたよりも防衛網が薄かったな」
「所詮は奴隷解放と理想を謡っただけの王が治める小国。人が足りないのだろうよ」
「うむ。そもそも我々にはミトラース様のご加護がある。権能も偉大さもアクアディーネなどと言う小娘など比べ物にならぬ」
言って彼らは笑みを浮かべる。ここまでくれば作戦の八割はなった、と言いたげだ。
「作戦の確認だ。我々の目的は聖霊門の再設置。その為の砦建築だ。
理由は不明だが、イ・ラプセルの情報収集能力は高いようだ。すぐに騎士が派遣されるだろう。我々はその露払いがメインとなる」
「邪教の使途か。ゲオルグ様を撤退させた手腕は見事だが、魔女狩りの中でも勇猛果敢を誇る我々を前にどこまで戦えるか」
「ミトラース様に歯向かう愚か者には、死を与えてくれよう」
「我々の侵入に気づいて入るだろうが、軍の派兵にはまだ至っていないはずだ。
ミトラース様への祈りを捧げし後、斥候開始。迎撃ポイントを定め、イ・ラプセル共を待ち受けるのだ」
魔女狩りたちは手を合わせ、祖国の神に祈りを捧げる。これからの作戦を前に、その加護を得ようと。そして神に祈ることで自らを高揚させようと。
時間にすれば数分程度の儀式。
しかし周囲から見れば、それは大きな隙に見える。
●階差演算室
「悪いがそんな余裕は与えてやるつもりはない。魔女狩りが祈りを捧げている隙に襲い掛かるのである」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士に向かいそう告げる。
「階差演算装置が魔女狩りの第二波を予知した。前回の時よりも規模が大きく、未知の術を使うこともある。なので海軍の防衛網にあえて穴を作り、魔女狩人をイ・ラプセルにおびき寄せる形をとったのである。
彼らが密入国に使った船を押さえ、一網打尽にするのだ」
聖霊門を発動させなければ、イ・ラプセルからシャンバラに帰るには船を使うしかない。魔女狩りを閉じ込めて戦力を奪う為に本土での戦いを取ることにしたのだ。海戦では逃げられる可能性が高く、いたちごっこになるのを防ぐための措置である。
「諸君らに相手してもらうのは、魔女狩りの先兵だ。ゲリラ戦に徹されれば厄介だが、運よくミトラースへの祈りを捧げている。そこを叩くのだ」
手を合わせ、一心不乱に命を捧げるミトラース信者達。確かに不意を突くには絶好の機会だろう。
「数は多いが、君たち自由騎士ならうまくやってくれると信じている」
クラウスの声に頷き、自由騎士達は演算室を出た。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.魔女狩り十三名の戦闘不能
どくどくです。
この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません。
●敵情報
・魔女狩り(×一三)
シャンバラ内に置いてヨウセイを狩る仕事をしています。シャンバラの神、ミトラースの信望者で戦う前や作戦前には祈りを捧げる習慣があります。
ここで貴方達を封じておかないと作戦に支障が出ることが解っているため、逃げることはありません。
・リーダー(×一)
グループのリーダー格。ソラビトの錬金術師です。
『パナケア Lv2』『スパルトイ Lv2』『赤きティンクトラ』『暗視』等を活性化しています。
・サブリーダー(×一)
サブリーダーです。オニヒトのガンナーです。武器はスリングショット。
『サテライトエイム Lv2』『ダブルシェル Lv3』『ドラグノフ』『テレパス 序』等を活性化しています。
近接タイプ(×七)
斥候を行う魔女狩りです。イヌのケモノビトの軽戦士です。武器はナイフ。
『デュアルストライク Lv3』『ラピッドジーン Lv2』『スピードスタア』『韋駄天足』等を活性化しています。
魔術タイプ(×四)
魔術を扱う魔女狩りです。ミズビトの魔道士です。武器はスタッフ。
『緋文字 Lv3』『マナウェーブ Lv2』『ルーンマイスター』『フォーチュンテラー』等を活性化しています。
●場所情報
イ・ラプセル北部の海岸線。魔女狩りの船は近くに係留しています。時刻は夜。広さと足場は戦場に影響しません。
戦闘開始時、魔女狩りは全員前衛でひと固まりになって祈っています。よほどのことがない限り自由騎士の事に気づくことはなく、最初のターンは不意を撃たれて何の行動もできません。
事前付与は好きなだけ可能ですが、時間が経てば気づかれる可能性が増えてきます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません。
●敵情報
・魔女狩り(×一三)
シャンバラ内に置いてヨウセイを狩る仕事をしています。シャンバラの神、ミトラースの信望者で戦う前や作戦前には祈りを捧げる習慣があります。
ここで貴方達を封じておかないと作戦に支障が出ることが解っているため、逃げることはありません。
・リーダー(×一)
グループのリーダー格。ソラビトの錬金術師です。
『パナケア Lv2』『スパルトイ Lv2』『赤きティンクトラ』『暗視』等を活性化しています。
・サブリーダー(×一)
サブリーダーです。オニヒトのガンナーです。武器はスリングショット。
『サテライトエイム Lv2』『ダブルシェル Lv3』『ドラグノフ』『テレパス 序』等を活性化しています。
近接タイプ(×七)
斥候を行う魔女狩りです。イヌのケモノビトの軽戦士です。武器はナイフ。
『デュアルストライク Lv3』『ラピッドジーン Lv2』『スピードスタア』『韋駄天足』等を活性化しています。
魔術タイプ(×四)
魔術を扱う魔女狩りです。ミズビトの魔道士です。武器はスタッフ。
『緋文字 Lv3』『マナウェーブ Lv2』『ルーンマイスター』『フォーチュンテラー』等を活性化しています。
●場所情報
イ・ラプセル北部の海岸線。魔女狩りの船は近くに係留しています。時刻は夜。広さと足場は戦場に影響しません。
戦闘開始時、魔女狩りは全員前衛でひと固まりになって祈っています。よほどのことがない限り自由騎士の事に気づくことはなく、最初のターンは不意を撃たれて何の行動もできません。
事前付与は好きなだけ可能ですが、時間が経てば気づかれる可能性が増えてきます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年10月28日
2018年10月28日
†メイン参加者 8人†
●
(魔女狩りは殺す)
決意を胸に秘め『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)は力を練り上げる。空を飛べば気付かれる可能性が増すため、木陰で息を殺していた。一族を殺された恨みを忘れない。その心が力に変わっていく。
(呼吸を殺し、集中しろ。初手で全てを決める)
心を研ぎ澄ますように『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が銃を構える。光を反射しないように銃に布をかぶせ、森に紛れる新緑のローブをかぶっていた。素早く、静かに、そして最大威力を叩き込む。
(精霊門の設置だけでは飽き足らず、砦まで作ろうとは……本当にやりたい放題ですね!)
声を押さえて『商売繁盛どどんこどん』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は静かに怒る。砦と言っても柵と頑丈な小屋程度の物だろうが、それでもそんなものを設置する時点でケンカを売っているのも同然だ。許しておけるはずがない。
(ネクロマンサーらしい人は……いないわね)
瞳に魔力を施して『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)はシャンバラの魔女狩りを見る。皆白い頭巾で同じように見える。少なくとも階級の違いなどは見られない。命令系統上のリーダーはいる程度だ。
(まじょがりちゃんをぜんぶ倒すぞー。えいえいおー!)
声を出さずに唇だけを動かし、『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は気合を入れる。商人として船の中にある物も気になるが、今は魔女狩り優先だ。闇夜を見通す瞳で魔女狩りを見ながら、武器に手をかける。
(……敵国で暢気に祈るなど、随分と余裕だな)
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は魔女狩りの動きを警戒していた。一心不乱に祈る姿は無防備すぎる。それが彼らの精神統一と高揚のためとはいえ、隙だらけであることは否めない。
(まぁモチベーションとか士気は実際大事だけど……そういうのもっと事前に済ますべきでは? と思ってしまうのは環境の違いなのかしらね)
宗教とかよくわからないわ、と言いたげに肩をすくめる『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)。とはいえそのおかげで準備ができるのだから願ったりである。詠唱に時間がかかるのが難点だが、その効果をご覧あれ。翠のローブの奥で、静かにほほ笑む。
(アレイスター・クローリー……今はその目論見に乗りましょう)
道化師の言葉を思い出しながら『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は意思を固める。色々胡散臭い部分はあるが、現状において利害は反していない。ここで魔女狩りを討ち、シャンバラを追い返すのだ。
「‥…準備は終わったか? それじゃ――」
「待って! 気づかれたわ!」
遠視で魔女狩りを観察していたヒルダが魔女狩りの動向に最初に気づいた。祈りを止め、武器を構えたのだ。
「バレたか……確かに隠密にはあまり気を使ってなかったからな」
それなりに隠密の術を施していれば、もう十数秒は気付かれずにいただろうが致し方ない。それなりに準備が整えれただけでも僥倖と言えよう。
「あそこだ!」
「数で圧し切れ!」
一斉に迫る魔女狩り達。数の不利はあるが、自由騎士達は恐れることなく戦いに挑む。恐怖心を凌駕したのはは国を守る忠誠か、はたまた個人の感情か。
自由騎士と魔女狩りの武器が、海岸で交差する。
●
「いくよー! とりゃー!」
威勢のいいウシのケモノビトの突撃を口火に、戦いは始まった。
「死になさい」
言の葉に殺意を乗せてエルが気を練り上げる。シャンバラはこちらを占領しようとしている。そんな相手に手加減をする理由はない。持ちうる全ての智謀と技術を用い、撃退するのみ。そこに一辺の容赦もない。
手にした銃に全神経を集中させるエル。不要なものはその意識からすべてカットする。周りの景色も、音も、相手の顔も、そして自分自身の感情も。ただ己は敵を屠るだけの炎。冷徹に打ち出される弾丸が、魔女狩りの方を穿つ。
「殺す覚悟があるなら、もちろん殺される覚悟もあるんでしょうね?」
「生かして捕虜にした方が金になるんだがなぁ」
殺意を散らすようにウェルスが口を挟む。戦争において捕虜にした兵士や将軍を金銭でやり取りするのは常套手段だ。一昔前はそれが主流だった時もある。今は仲立ちになる通商連にマージンをとられるのが厳しいのだが。あの業突く商n――閑話休題。
幼いころから愛用している銃を手にし、腰だめに構える。体になじんだ重さと感触。それが戦闘の緊張を消し、ウェルスをリラックスさせていた。放たれた弾丸は天に向かって飛び、爆裂して鉄矢を降らせる。点ではなく面を意識した広範囲攻撃。
「ま、死んでも怨むなよ。手加減するつもりはないけどな」
「できうる限りなら生かして捕えたいですね」
殺人に危機を覚えるロジェ。相手がこちらと話し合いをするつもりがなく、明確に口串に来ている相手であることは理解している。だがそれでも殺人と言う行為に踏み切れない自分がいた。分かってはいる、のだが。
呼吸を整え、武器を握る。精神を集中させて、ハープの弦に手をかける。音律に魔力を乗せて歌うように術式を展開する。ロジェの奏でる優しい音色が戦場に響き、仲間の傷の痛みを止めて傷を防いでいく。
「彼らも貴重な情報源だ。なら無為に殺すのは損だろう」
(なぜミトラースはヨウセイ族を狙うのか……? うーん……)
魔女狩りを見ながらマリアは思考に耽る。ゲオルグのような『狩り=趣味とか性癖』みたいな者はともかく、国を挙げてヨウセイを狙うということは何かの目的があるはずだ。それが分かれば、あるいは何か突破口が見えるかもしれない。
思考に耽っていたのは一瞬。すぐにマリアは意識を戦場に向け、マジックスタッフを構える。マリアの言葉と魔力に呼応するように炎が走る。獣の疾駆のように一気に迫り、魔女狩りに襲い掛かった。緋の一閃が魔女狩りを炎に包む。
「今は目の前の敵を倒さないと」
(早速この技が撃てる機会が来るとは思わなかったわ)
翠のローブの奥でほくそ笑むきゐこ。つい最近開発したばかりの術式だ。このタイミングで攻めてきた魔女狩りは不幸……とは思わないが、ともあれ効果を溜めさせてもらおう。細工は流々、仕掛けは上々、後は仕上げを御覧じろ。
きゐこの掌から波紋が広がるように魔力の意図が展開される。それは八角形の糸の結界。 細く練り上げられた糸そのものがきゐこの魔力。長く練り上げることで強い呪詛を含んだ蜘蛛の糸が魔女狩り達を精神面から苛んでゆく。
「魔導が効きづらいのは聞いてるけど、多少は効くでしょう? 動けなくなって貰うわ!」
「魔導の耐性は高いですが、それが与える副次効果までは効果が及ばないようですね~」
狼狽える魔女狩りを見ながらシェリルは頷いた。炎系の魔法そのものへの耐性はあれど、熱で体力を奪われると言った副次効果まではシャンバラの権能でも防げないようだ。少しずつ突破口が見えてきた、と笑みを浮かべる。
マドウショを振るい、魔力を集中させるシェリル。夜の海岸に光る赤い光。それは熱量をもって顕現し、魔女狩りに向かい真っ直ぐに飛ぶ。終わりを告げる緋の光。シェリルの狙い通りに魔女狩りに命中し、その体力を奪っていく。
「まずは回復役を潰します」
「お祈りの時間は終わったかしら?」
笑みを浮かべてヒルダが歩を進める。両手に構えたブランダーパスを回転させ、城の舞踏会を歩くように優雅に進む。『銃士のドレス』を翻し、恐れるものは何もないとばかりに魔女狩りに迫る。
敵リーダーの方に目をやるヒルダ。そのまま腕を交差するように構え――銃口を後ろに向けて倒れ込むように力を抜いた。両手のブランダーパスが火を吹き、同時に地を蹴るヒルダ。自分自身を弾丸と化し、全身で敵陣を穿った。
「覚えておきなさい魔女狩り。これが前衛ガンナーよ!」
「ナナンもいくよー。やー!」
ツヴァイハンダーを両手で抱え、ナナンが声をあげる。できる事なら誰もいない内に駆け込んで大剣を旋風のように振り回したかったのだが、スタートが遅れて出遅れる。足が速い事と初速が短いことは別の要因なのだ。
交戦状態になった以上大きく剣は振るえないなぁ、とナナンは頷き敵に迫る。魔女狩りに突撃し、その勢いのままに剣を振るった。子供のようなナナンだが、そこに秘められた力は一級の戦士同様。魔女狩りに深く穿たれた傷がそれを示していた。
「『おもち』と一緒に頑張るのだぁ!」
ナナンのポシェットの中にいるハムスターが顔をのぞかせた。
不意こそつけなかったが溜めに溜めた一撃は魔女狩り達の体力を大きく削いでいた。攻撃がリーダーに集中したこともあり、リーダーは何もできずに力尽きる。他の魔女狩りも無傷ではない。
「おのれイ・ラプセルめ!」
「邪教を奉じる者どもめ! ここでミトラース様の鉄槌を下してくれよう!」
いきり立つ魔女狩り達。未だ数の上では自由騎士達を上回り、その士気は高い。
祖国を守る者と、奪う者。相容れぬ両者の闘いは加速していく。
●
初撃で大きな打撃を与えた自由騎士だが、数の上ではまだ魔女狩りの方が多い。一気に攻められれば、回復を行う後衛まで接近を許してしまう。
「あいた~。きついですなぁ」
「……くっ……!」
突撃に耐えきれず、シェリルがフラグメンツを削られた。エルは複数の魔女狩りに攻撃を受け、そのまま意識を失う。
「スキャンしてる余裕なんてないわね……!」
蒼のマナを放ちながらきゐこがぼやく。リーダーをやられて指揮する者がないこともあり、彼らの攻撃はがむしゃらと言ってもいい突貫だった。目の前にいる者を殴る。ただそれだけの戦略。動きを封じるために氷結の魔術を放つ。
「どっかーん!」
轟音と共に大剣が振り下ろされる。ナナンが全力を込めて振り下ろした一撃だ。傷ついた魔女狩りはそれに耐えきれず、そのまま倒れ伏した。ナナンは次の目標を探して、戦場を走る。それは遊び相手を探す子供のよう。
「上から目戦での救いか。余計なお世話だ」
ロジェは魔女狩りの態度に癖癖していた。シャンバラが正しく、イ・ラプセルは間違っている。だから殺しても構わない。そんな態度が全身からにじみ出ていた。そんな彼らであっても、殺すことにはためらいがある。
「どんどん打ち込みますよ~!」
休むことなく炎の弾丸を打ち込むシェリル。シャンバラの権能に高い魔導耐性があることは知っている。それでも構うことなく炎を打ち続けた。魔道衝撃は防げても発生する炎による体力の減衰は防げない。
「そろそろ回復に移行します」
仲間の傷を見て攻撃から回復に術をスイッチするマリア。初手で大打撃を与えたとはいえ、数の不利を覆したわけではない。手数が多ければそれだけ傷も増えてくる。大怪我をしないうちに仲間を癒しに回る。
「おおっと、顔がばれるのは拙いな」
フードを深くかぶりなおし、ウェルスが魔女狩りに向き直る。目立つ風貌――ケモノビトではそうでもないが――故に相手に顔を覚えられることを防ぐためである。無論、それで射撃の精度が落ちるウェルスではない。一匹一匹、確実に数を減らしていく。
「ネクロマンサーはいないみたいね! だったら遠慮なくいくわ!」
ヒルダが笑みを浮かべて銃を構える。この場合の遠慮は『復活しないように倒れた人間を海に落とす』ことである。攻撃をよけるではなく銃で弾き、優雅に急所に弾丸を叩き込む。その姿は戦場の華。敵陣にあって誇り高く輝く戦乙女。
「怯むな! 数で圧せ!」
「ミトラース様の為に!」
活を入れる魔女狩りだが、初手の攻撃で回復役のリーダーを倒された時点で趨勢はほぼ決まっていた。後衛まで迫ることが出来たが、回復役のロジェとマリアを打ち倒すには至らず、経験を積んだ自由騎士達の前に一人また一人と倒れていく。
数の有利がなくなれば、魔女狩りが倒される速度は加速化していく。魔女狩りとてそれは理解しながら、しかし最後まで勝利と神への信仰を失うことなく自由騎士達に挑みかかる。しかし――
「残念ね。ヨウセイばかり相手してきた貴方達とでは、経験が違うのよ!」
魂を凍てつかせる吹雪を放ちながら、きゐこが言う。自由騎士は発足当時からイブリースなどと戦い、還リビトの一軍を迎撃するに至った。神の権能に頼り軍事力に劣るヨウセイばかりと戦って来た魔女狩りとは、経験値が違う。
事実、リーダーを失った彼らの動きは、ただ目の前の敵に攻撃するだけである。烏合の衆と化した魔女狩りに勝ち目などない。
「これでお終いだよっ!」
最後の一人となった魔女狩りにナナンが迫る。とん、と地面を蹴って剣を振り上げ、剣の腹で相手の頭を叩く様に振り下ろした。加減しているように見えるが、剣の重量とナナンの力が落下ベクトルに加わった一撃だ。重い音が戦場に響く。
「勝ったよー! おー!」
最後の魔女狩りが倒れたことを確認し、ナナンは勝鬨の声を上げた
●
そして戦いが終わり、魔女狩りを捕縛する自由騎士達。
一部の自由騎士はその後に船を押さえに向かう。
「船~。砦を作ろうというのだから、それなりの資材があるのでしょうね~」
「……この人達って斥候と強襲部隊みたいだから、そういうのはないんじゃない?」
「…………あ~」
ヒルダの言葉に残念がるシェリル。森に紛れて戦う軍団なら、余計な荷物は持たずに速度特化になるだろう。事実、船の中は金目の物は見られなかった。海路とコンパス、六分儀に望遠鏡。そう言った航海道具とミトラースの祭壇ぐらいだ。
「魔導書っぽいものはなさそうね。船首の像も特に魔力は感じられないし」
「海軍に任せるのだー」
念入りに調べるきゐこだが、本当に魔道と何のかかわりのない船だった。蒸気技術を使っていない今どき珍しいタイプと言うだけだ。ナナンの見立ても同じで、海軍に任せるしかない。
「増援は……なさそうですね。独立した強襲部隊と言った所ですか」
マリアは双眼鏡で海を見ながら安堵の息をつく。こちらも無傷ではない。今強襲されれば撤退を視野に入れて戦うしかないだろう。念のため、引き続き警戒を続ける。
そんな船の傍らで、ウェルスは拘束された自由騎士達に問いかけていた。
「なんでそんなに神を信仰しているんだ?」
「何故お前達はミトラース様を信じない?」
愚問だった。シャンバラ人にとって『神を信じる』ことが常識なのだ。例えるなら『何故生きている?』並に当たり前のことだ。ため息をつき、質問を変えた。
「ミトラースを信じて幸せだったか?」
「我々を飢えから解放し、力を与えてくれたのだ。幸せに決まっている」
帰ってきた答えは、意外にもウェルスに理解できる事だった。生活基盤を支え、他にはない力を与える。幸せかどうかはともかく、実利に伴った恩恵だ。
「死になさい」
そんな中、言葉と共に銃声が響く。目を覚ましたエルが魔女狩りに銃を向けて引き金を引いていた。一人、また一人。
「それ以上は駄目だ」
疲労で出遅れたロジェがエルを止める。エルはそれを強引に振りほどき、さらに引き金を引く。そして――すべての魔女狩りが血に染まった。
「……捕虜にして情報を得ることが出来たかもしれないのに」
「どうせ大した情報は持ってないわ。魔女狩りは殺す。それだけよ」
それこそが自分の戦う理由だ、とばかりにエルは口を開く。そこには一辺のためらいもなく、一辺の迷いもない。
「……なぜ殺すんだ?」
「復讐よ。あたしの血族はこいつらに殺されたわけじゃないけれど。それでもあたしは魔女として『復讐者』として、魔女狩りを生かしておくつもりはない。
復讐が空しいなんて言葉は聞かない。改心するかもなんて都合のいい未来は信じない。生命の重要さなんて身内を惨殺された人間には届かない。
身に纏わりつく恨み。魂を焦がす怒り。それがあたしの行動原理」
それを止めるのなら、相応の意志と行動を示しなさい。エルの瞳が言葉なくそう告げていた。
ロジェは瞑目し、鎮魂と共に思う。殺さぬことを迷う心ではこの決意には勝てない。一人の人間として明確な答えを示さぬ限りは、復讐者の心には届かないと。
同じ人間の心なのだ。ならば差を別つはその想いのみ。
多少のトラブルはあったが、自由騎士達は無事魔女狩り部隊を撃退する。
しかしこれはあくまで敵の攻撃を凌いだに過ぎない。ミトラースへの信仰心がある限り、シャンバラの攻勢は続くに違いない。
ともあれ今は敵の攻勢を凌いだことに喜ぼう。
自由騎士の勝利を祝うように、秋の星座が小さくきらめいた。
(魔女狩りは殺す)
決意を胸に秘め『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)は力を練り上げる。空を飛べば気付かれる可能性が増すため、木陰で息を殺していた。一族を殺された恨みを忘れない。その心が力に変わっていく。
(呼吸を殺し、集中しろ。初手で全てを決める)
心を研ぎ澄ますように『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が銃を構える。光を反射しないように銃に布をかぶせ、森に紛れる新緑のローブをかぶっていた。素早く、静かに、そして最大威力を叩き込む。
(精霊門の設置だけでは飽き足らず、砦まで作ろうとは……本当にやりたい放題ですね!)
声を押さえて『商売繁盛どどんこどん』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は静かに怒る。砦と言っても柵と頑丈な小屋程度の物だろうが、それでもそんなものを設置する時点でケンカを売っているのも同然だ。許しておけるはずがない。
(ネクロマンサーらしい人は……いないわね)
瞳に魔力を施して『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)はシャンバラの魔女狩りを見る。皆白い頭巾で同じように見える。少なくとも階級の違いなどは見られない。命令系統上のリーダーはいる程度だ。
(まじょがりちゃんをぜんぶ倒すぞー。えいえいおー!)
声を出さずに唇だけを動かし、『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は気合を入れる。商人として船の中にある物も気になるが、今は魔女狩り優先だ。闇夜を見通す瞳で魔女狩りを見ながら、武器に手をかける。
(……敵国で暢気に祈るなど、随分と余裕だな)
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は魔女狩りの動きを警戒していた。一心不乱に祈る姿は無防備すぎる。それが彼らの精神統一と高揚のためとはいえ、隙だらけであることは否めない。
(まぁモチベーションとか士気は実際大事だけど……そういうのもっと事前に済ますべきでは? と思ってしまうのは環境の違いなのかしらね)
宗教とかよくわからないわ、と言いたげに肩をすくめる『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)。とはいえそのおかげで準備ができるのだから願ったりである。詠唱に時間がかかるのが難点だが、その効果をご覧あれ。翠のローブの奥で、静かにほほ笑む。
(アレイスター・クローリー……今はその目論見に乗りましょう)
道化師の言葉を思い出しながら『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は意思を固める。色々胡散臭い部分はあるが、現状において利害は反していない。ここで魔女狩りを討ち、シャンバラを追い返すのだ。
「‥…準備は終わったか? それじゃ――」
「待って! 気づかれたわ!」
遠視で魔女狩りを観察していたヒルダが魔女狩りの動向に最初に気づいた。祈りを止め、武器を構えたのだ。
「バレたか……確かに隠密にはあまり気を使ってなかったからな」
それなりに隠密の術を施していれば、もう十数秒は気付かれずにいただろうが致し方ない。それなりに準備が整えれただけでも僥倖と言えよう。
「あそこだ!」
「数で圧し切れ!」
一斉に迫る魔女狩り達。数の不利はあるが、自由騎士達は恐れることなく戦いに挑む。恐怖心を凌駕したのはは国を守る忠誠か、はたまた個人の感情か。
自由騎士と魔女狩りの武器が、海岸で交差する。
●
「いくよー! とりゃー!」
威勢のいいウシのケモノビトの突撃を口火に、戦いは始まった。
「死になさい」
言の葉に殺意を乗せてエルが気を練り上げる。シャンバラはこちらを占領しようとしている。そんな相手に手加減をする理由はない。持ちうる全ての智謀と技術を用い、撃退するのみ。そこに一辺の容赦もない。
手にした銃に全神経を集中させるエル。不要なものはその意識からすべてカットする。周りの景色も、音も、相手の顔も、そして自分自身の感情も。ただ己は敵を屠るだけの炎。冷徹に打ち出される弾丸が、魔女狩りの方を穿つ。
「殺す覚悟があるなら、もちろん殺される覚悟もあるんでしょうね?」
「生かして捕虜にした方が金になるんだがなぁ」
殺意を散らすようにウェルスが口を挟む。戦争において捕虜にした兵士や将軍を金銭でやり取りするのは常套手段だ。一昔前はそれが主流だった時もある。今は仲立ちになる通商連にマージンをとられるのが厳しいのだが。あの業突く商n――閑話休題。
幼いころから愛用している銃を手にし、腰だめに構える。体になじんだ重さと感触。それが戦闘の緊張を消し、ウェルスをリラックスさせていた。放たれた弾丸は天に向かって飛び、爆裂して鉄矢を降らせる。点ではなく面を意識した広範囲攻撃。
「ま、死んでも怨むなよ。手加減するつもりはないけどな」
「できうる限りなら生かして捕えたいですね」
殺人に危機を覚えるロジェ。相手がこちらと話し合いをするつもりがなく、明確に口串に来ている相手であることは理解している。だがそれでも殺人と言う行為に踏み切れない自分がいた。分かってはいる、のだが。
呼吸を整え、武器を握る。精神を集中させて、ハープの弦に手をかける。音律に魔力を乗せて歌うように術式を展開する。ロジェの奏でる優しい音色が戦場に響き、仲間の傷の痛みを止めて傷を防いでいく。
「彼らも貴重な情報源だ。なら無為に殺すのは損だろう」
(なぜミトラースはヨウセイ族を狙うのか……? うーん……)
魔女狩りを見ながらマリアは思考に耽る。ゲオルグのような『狩り=趣味とか性癖』みたいな者はともかく、国を挙げてヨウセイを狙うということは何かの目的があるはずだ。それが分かれば、あるいは何か突破口が見えるかもしれない。
思考に耽っていたのは一瞬。すぐにマリアは意識を戦場に向け、マジックスタッフを構える。マリアの言葉と魔力に呼応するように炎が走る。獣の疾駆のように一気に迫り、魔女狩りに襲い掛かった。緋の一閃が魔女狩りを炎に包む。
「今は目の前の敵を倒さないと」
(早速この技が撃てる機会が来るとは思わなかったわ)
翠のローブの奥でほくそ笑むきゐこ。つい最近開発したばかりの術式だ。このタイミングで攻めてきた魔女狩りは不幸……とは思わないが、ともあれ効果を溜めさせてもらおう。細工は流々、仕掛けは上々、後は仕上げを御覧じろ。
きゐこの掌から波紋が広がるように魔力の意図が展開される。それは八角形の糸の結界。 細く練り上げられた糸そのものがきゐこの魔力。長く練り上げることで強い呪詛を含んだ蜘蛛の糸が魔女狩り達を精神面から苛んでゆく。
「魔導が効きづらいのは聞いてるけど、多少は効くでしょう? 動けなくなって貰うわ!」
「魔導の耐性は高いですが、それが与える副次効果までは効果が及ばないようですね~」
狼狽える魔女狩りを見ながらシェリルは頷いた。炎系の魔法そのものへの耐性はあれど、熱で体力を奪われると言った副次効果まではシャンバラの権能でも防げないようだ。少しずつ突破口が見えてきた、と笑みを浮かべる。
マドウショを振るい、魔力を集中させるシェリル。夜の海岸に光る赤い光。それは熱量をもって顕現し、魔女狩りに向かい真っ直ぐに飛ぶ。終わりを告げる緋の光。シェリルの狙い通りに魔女狩りに命中し、その体力を奪っていく。
「まずは回復役を潰します」
「お祈りの時間は終わったかしら?」
笑みを浮かべてヒルダが歩を進める。両手に構えたブランダーパスを回転させ、城の舞踏会を歩くように優雅に進む。『銃士のドレス』を翻し、恐れるものは何もないとばかりに魔女狩りに迫る。
敵リーダーの方に目をやるヒルダ。そのまま腕を交差するように構え――銃口を後ろに向けて倒れ込むように力を抜いた。両手のブランダーパスが火を吹き、同時に地を蹴るヒルダ。自分自身を弾丸と化し、全身で敵陣を穿った。
「覚えておきなさい魔女狩り。これが前衛ガンナーよ!」
「ナナンもいくよー。やー!」
ツヴァイハンダーを両手で抱え、ナナンが声をあげる。できる事なら誰もいない内に駆け込んで大剣を旋風のように振り回したかったのだが、スタートが遅れて出遅れる。足が速い事と初速が短いことは別の要因なのだ。
交戦状態になった以上大きく剣は振るえないなぁ、とナナンは頷き敵に迫る。魔女狩りに突撃し、その勢いのままに剣を振るった。子供のようなナナンだが、そこに秘められた力は一級の戦士同様。魔女狩りに深く穿たれた傷がそれを示していた。
「『おもち』と一緒に頑張るのだぁ!」
ナナンのポシェットの中にいるハムスターが顔をのぞかせた。
不意こそつけなかったが溜めに溜めた一撃は魔女狩り達の体力を大きく削いでいた。攻撃がリーダーに集中したこともあり、リーダーは何もできずに力尽きる。他の魔女狩りも無傷ではない。
「おのれイ・ラプセルめ!」
「邪教を奉じる者どもめ! ここでミトラース様の鉄槌を下してくれよう!」
いきり立つ魔女狩り達。未だ数の上では自由騎士達を上回り、その士気は高い。
祖国を守る者と、奪う者。相容れぬ両者の闘いは加速していく。
●
初撃で大きな打撃を与えた自由騎士だが、数の上ではまだ魔女狩りの方が多い。一気に攻められれば、回復を行う後衛まで接近を許してしまう。
「あいた~。きついですなぁ」
「……くっ……!」
突撃に耐えきれず、シェリルがフラグメンツを削られた。エルは複数の魔女狩りに攻撃を受け、そのまま意識を失う。
「スキャンしてる余裕なんてないわね……!」
蒼のマナを放ちながらきゐこがぼやく。リーダーをやられて指揮する者がないこともあり、彼らの攻撃はがむしゃらと言ってもいい突貫だった。目の前にいる者を殴る。ただそれだけの戦略。動きを封じるために氷結の魔術を放つ。
「どっかーん!」
轟音と共に大剣が振り下ろされる。ナナンが全力を込めて振り下ろした一撃だ。傷ついた魔女狩りはそれに耐えきれず、そのまま倒れ伏した。ナナンは次の目標を探して、戦場を走る。それは遊び相手を探す子供のよう。
「上から目戦での救いか。余計なお世話だ」
ロジェは魔女狩りの態度に癖癖していた。シャンバラが正しく、イ・ラプセルは間違っている。だから殺しても構わない。そんな態度が全身からにじみ出ていた。そんな彼らであっても、殺すことにはためらいがある。
「どんどん打ち込みますよ~!」
休むことなく炎の弾丸を打ち込むシェリル。シャンバラの権能に高い魔導耐性があることは知っている。それでも構うことなく炎を打ち続けた。魔道衝撃は防げても発生する炎による体力の減衰は防げない。
「そろそろ回復に移行します」
仲間の傷を見て攻撃から回復に術をスイッチするマリア。初手で大打撃を与えたとはいえ、数の不利を覆したわけではない。手数が多ければそれだけ傷も増えてくる。大怪我をしないうちに仲間を癒しに回る。
「おおっと、顔がばれるのは拙いな」
フードを深くかぶりなおし、ウェルスが魔女狩りに向き直る。目立つ風貌――ケモノビトではそうでもないが――故に相手に顔を覚えられることを防ぐためである。無論、それで射撃の精度が落ちるウェルスではない。一匹一匹、確実に数を減らしていく。
「ネクロマンサーはいないみたいね! だったら遠慮なくいくわ!」
ヒルダが笑みを浮かべて銃を構える。この場合の遠慮は『復活しないように倒れた人間を海に落とす』ことである。攻撃をよけるではなく銃で弾き、優雅に急所に弾丸を叩き込む。その姿は戦場の華。敵陣にあって誇り高く輝く戦乙女。
「怯むな! 数で圧せ!」
「ミトラース様の為に!」
活を入れる魔女狩りだが、初手の攻撃で回復役のリーダーを倒された時点で趨勢はほぼ決まっていた。後衛まで迫ることが出来たが、回復役のロジェとマリアを打ち倒すには至らず、経験を積んだ自由騎士達の前に一人また一人と倒れていく。
数の有利がなくなれば、魔女狩りが倒される速度は加速化していく。魔女狩りとてそれは理解しながら、しかし最後まで勝利と神への信仰を失うことなく自由騎士達に挑みかかる。しかし――
「残念ね。ヨウセイばかり相手してきた貴方達とでは、経験が違うのよ!」
魂を凍てつかせる吹雪を放ちながら、きゐこが言う。自由騎士は発足当時からイブリースなどと戦い、還リビトの一軍を迎撃するに至った。神の権能に頼り軍事力に劣るヨウセイばかりと戦って来た魔女狩りとは、経験値が違う。
事実、リーダーを失った彼らの動きは、ただ目の前の敵に攻撃するだけである。烏合の衆と化した魔女狩りに勝ち目などない。
「これでお終いだよっ!」
最後の一人となった魔女狩りにナナンが迫る。とん、と地面を蹴って剣を振り上げ、剣の腹で相手の頭を叩く様に振り下ろした。加減しているように見えるが、剣の重量とナナンの力が落下ベクトルに加わった一撃だ。重い音が戦場に響く。
「勝ったよー! おー!」
最後の魔女狩りが倒れたことを確認し、ナナンは勝鬨の声を上げた
●
そして戦いが終わり、魔女狩りを捕縛する自由騎士達。
一部の自由騎士はその後に船を押さえに向かう。
「船~。砦を作ろうというのだから、それなりの資材があるのでしょうね~」
「……この人達って斥候と強襲部隊みたいだから、そういうのはないんじゃない?」
「…………あ~」
ヒルダの言葉に残念がるシェリル。森に紛れて戦う軍団なら、余計な荷物は持たずに速度特化になるだろう。事実、船の中は金目の物は見られなかった。海路とコンパス、六分儀に望遠鏡。そう言った航海道具とミトラースの祭壇ぐらいだ。
「魔導書っぽいものはなさそうね。船首の像も特に魔力は感じられないし」
「海軍に任せるのだー」
念入りに調べるきゐこだが、本当に魔道と何のかかわりのない船だった。蒸気技術を使っていない今どき珍しいタイプと言うだけだ。ナナンの見立ても同じで、海軍に任せるしかない。
「増援は……なさそうですね。独立した強襲部隊と言った所ですか」
マリアは双眼鏡で海を見ながら安堵の息をつく。こちらも無傷ではない。今強襲されれば撤退を視野に入れて戦うしかないだろう。念のため、引き続き警戒を続ける。
そんな船の傍らで、ウェルスは拘束された自由騎士達に問いかけていた。
「なんでそんなに神を信仰しているんだ?」
「何故お前達はミトラース様を信じない?」
愚問だった。シャンバラ人にとって『神を信じる』ことが常識なのだ。例えるなら『何故生きている?』並に当たり前のことだ。ため息をつき、質問を変えた。
「ミトラースを信じて幸せだったか?」
「我々を飢えから解放し、力を与えてくれたのだ。幸せに決まっている」
帰ってきた答えは、意外にもウェルスに理解できる事だった。生活基盤を支え、他にはない力を与える。幸せかどうかはともかく、実利に伴った恩恵だ。
「死になさい」
そんな中、言葉と共に銃声が響く。目を覚ましたエルが魔女狩りに銃を向けて引き金を引いていた。一人、また一人。
「それ以上は駄目だ」
疲労で出遅れたロジェがエルを止める。エルはそれを強引に振りほどき、さらに引き金を引く。そして――すべての魔女狩りが血に染まった。
「……捕虜にして情報を得ることが出来たかもしれないのに」
「どうせ大した情報は持ってないわ。魔女狩りは殺す。それだけよ」
それこそが自分の戦う理由だ、とばかりにエルは口を開く。そこには一辺のためらいもなく、一辺の迷いもない。
「……なぜ殺すんだ?」
「復讐よ。あたしの血族はこいつらに殺されたわけじゃないけれど。それでもあたしは魔女として『復讐者』として、魔女狩りを生かしておくつもりはない。
復讐が空しいなんて言葉は聞かない。改心するかもなんて都合のいい未来は信じない。生命の重要さなんて身内を惨殺された人間には届かない。
身に纏わりつく恨み。魂を焦がす怒り。それがあたしの行動原理」
それを止めるのなら、相応の意志と行動を示しなさい。エルの瞳が言葉なくそう告げていた。
ロジェは瞑目し、鎮魂と共に思う。殺さぬことを迷う心ではこの決意には勝てない。一人の人間として明確な答えを示さぬ限りは、復讐者の心には届かないと。
同じ人間の心なのだ。ならば差を別つはその想いのみ。
多少のトラブルはあったが、自由騎士達は無事魔女狩り部隊を撃退する。
しかしこれはあくまで敵の攻撃を凌いだに過ぎない。ミトラースへの信仰心がある限り、シャンバラの攻勢は続くに違いない。
ともあれ今は敵の攻勢を凌いだことに喜ぼう。
自由騎士の勝利を祝うように、秋の星座が小さくきらめいた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
そりゃリーダー狙うよね……。一撃でした。
と言うわけで無事撃退です。十分な付与が恐ろしいことになりました。やはり戦闘は火力か。
MVPは隠密に一番力を入れたライヒトゥーム様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
そりゃリーダー狙うよね……。一撃でした。
と言うわけで無事撃退です。十分な付与が恐ろしいことになりました。やはり戦闘は火力か。
MVPは隠密に一番力を入れたライヒトゥーム様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
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