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【インディオ】Egoist! 人は自分の幸せのために剣を取る!

●『港町3356』の神殿
パノプティコン寮、港町3356。そこは『物見1109』により今日も平和に管理されていた。
「兵士2588、3011、3191は過労の傾向が見られます。業務を早く切り上げ、休憩を。農民7883と8019は熱中症の兆候があります。屋外の作業時に注意を」
――言葉は都合上、大陸共通語に翻訳してお送りしています。ちなみに『兵士2588、3011、3191、ラ・ヒ・イ・ス・テ・ラ・ス・ノ。イ・チ・ス・リ・ン コ・ス・イ・チ・ノ』となります。閑話休題。
「神官0867は2時間43分後で区画1012に発生するイブリースの対策を。兵長3432は該当地区に住む住民の避難誘導を。魔師5672に無許可実験の可能性あり。早急に対応されたし。商人2338は誕生日おめでとうございます」
その他、港町3356に住む市民全ての情報を知り、それに対する指示を出す。それが『物見』と呼ばれる立ち位置。アイドーネウスのデウスギア。国民管理機構の一端を使用できる街の管理代行者。
「今日もお疲れ様」
数時間にわたる指示を終え、一息つく物見1109に差し出されるお茶。それを出した男に、屈託のない笑顔を見せる物見1109。
「ありがとう。騎士1991。でももう一つあるわ。――マイナスナンバー達が蜂起する」
「そうか」
騎士1991は何の疑いもなく物見1109の言葉に頷いた。それは神の管理に間違いはないという信頼でもあり、同時に物見1109に対する信頼でもあった。
「だけどそれは陽動。――その隙にここに攻め込む者達がいるわ。私を狙って」
だが、次の言葉には体を震わせた。神の管理に間違いはない。だからこそ震えた。ここに攻め入り、物見1109を狙う。そんな未来は――
「大丈夫。『見えた』のは神殿に来るという事だけ。その後までは分からない。
アイドーネウス様の管理は完璧。『見えた』という事は、そこまでは確定的」
――水鏡運命階差演算装置の予知は、多岐にわたる未来の一部を見る。それは未来を湖面のように見て、その水を掬いあげるようなものだ。
――対し、国民管理機構は『国民の未来』を管理することで可能となる確定型未来予知。無限に広がる未来を見て、一つ以外を切り捨てる取捨選択による時間管理法。
「だから――あなたが護って。私の騎士」
「ああ。君を守ろう。愛する人よ」
物見1109と騎士1991は抱き合い、優しく口づけを交わした――
●
高さ1mほどの水路を這うようにして進み、自由騎士達は『港町3356』内に潜入する。
未来を知ることが出来る『物見』。これを倒さなければ、イ・ラプセルの襲撃は先に知られ、対策が打たれてしまう。ただでさえ地の利で不利なのだ。不意打ちが決まらなければ、惨敗を喫する可能性は高くなる。
すでに『港町3356』を攻めるイ・ラプセルの軍勢は出立しているだろう。『物見』を襲うのが早すぎれば国民の目を通じてアイドーネウスに察知され、遅すぎれば『物見』の予知で待ち伏せされる。
陽動となったマイナスナンバー達のおかげで、自由騎士に向かう兵はそう多くない。だが『物見』の住むと言われた神殿には、自由騎士達を待ち構えていたかのようにパノプティコンの兵士が待ち構えていた。そして、自由騎士の背後にも挟撃の形で兵が展開される。
「ト・ナ・ス・ス・イ・ミ・シ・イ・ス ラ・ス シ・イ・チ・カ・ク!」
降伏勧告のようなことを、鎧を着た騎士が叫ぶ。言葉は分からないが、聞き入れるつもりはない。
自由騎士達はパノプティコン軍を突破すべく、前進を開始した。
パノプティコン寮、港町3356。そこは『物見1109』により今日も平和に管理されていた。
「兵士2588、3011、3191は過労の傾向が見られます。業務を早く切り上げ、休憩を。農民7883と8019は熱中症の兆候があります。屋外の作業時に注意を」
――言葉は都合上、大陸共通語に翻訳してお送りしています。ちなみに『兵士2588、3011、3191、ラ・ヒ・イ・ス・テ・ラ・ス・ノ。イ・チ・ス・リ・ン コ・ス・イ・チ・ノ』となります。閑話休題。
「神官0867は2時間43分後で区画1012に発生するイブリースの対策を。兵長3432は該当地区に住む住民の避難誘導を。魔師5672に無許可実験の可能性あり。早急に対応されたし。商人2338は誕生日おめでとうございます」
その他、港町3356に住む市民全ての情報を知り、それに対する指示を出す。それが『物見』と呼ばれる立ち位置。アイドーネウスのデウスギア。国民管理機構の一端を使用できる街の管理代行者。
「今日もお疲れ様」
数時間にわたる指示を終え、一息つく物見1109に差し出されるお茶。それを出した男に、屈託のない笑顔を見せる物見1109。
「ありがとう。騎士1991。でももう一つあるわ。――マイナスナンバー達が蜂起する」
「そうか」
騎士1991は何の疑いもなく物見1109の言葉に頷いた。それは神の管理に間違いはないという信頼でもあり、同時に物見1109に対する信頼でもあった。
「だけどそれは陽動。――その隙にここに攻め込む者達がいるわ。私を狙って」
だが、次の言葉には体を震わせた。神の管理に間違いはない。だからこそ震えた。ここに攻め入り、物見1109を狙う。そんな未来は――
「大丈夫。『見えた』のは神殿に来るという事だけ。その後までは分からない。
アイドーネウス様の管理は完璧。『見えた』という事は、そこまでは確定的」
――水鏡運命階差演算装置の予知は、多岐にわたる未来の一部を見る。それは未来を湖面のように見て、その水を掬いあげるようなものだ。
――対し、国民管理機構は『国民の未来』を管理することで可能となる確定型未来予知。無限に広がる未来を見て、一つ以外を切り捨てる取捨選択による時間管理法。
「だから――あなたが護って。私の騎士」
「ああ。君を守ろう。愛する人よ」
物見1109と騎士1991は抱き合い、優しく口づけを交わした――
●
高さ1mほどの水路を這うようにして進み、自由騎士達は『港町3356』内に潜入する。
未来を知ることが出来る『物見』。これを倒さなければ、イ・ラプセルの襲撃は先に知られ、対策が打たれてしまう。ただでさえ地の利で不利なのだ。不意打ちが決まらなければ、惨敗を喫する可能性は高くなる。
すでに『港町3356』を攻めるイ・ラプセルの軍勢は出立しているだろう。『物見』を襲うのが早すぎれば国民の目を通じてアイドーネウスに察知され、遅すぎれば『物見』の予知で待ち伏せされる。
陽動となったマイナスナンバー達のおかげで、自由騎士に向かう兵はそう多くない。だが『物見』の住むと言われた神殿には、自由騎士達を待ち構えていたかのようにパノプティコンの兵士が待ち構えていた。そして、自由騎士の背後にも挟撃の形で兵が展開される。
「ト・ナ・ス・ス・イ・ミ・シ・イ・ス ラ・ス シ・イ・チ・カ・ク!」
降伏勧告のようなことを、鎧を着た騎士が叫ぶ。言葉は分からないが、聞き入れるつもりはない。
自由騎士達はパノプティコン軍を突破すべく、前進を開始した。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.物見1109の殺害
どくどくです。
敵の強さ、心情、その他もろもろも含めてのベリーハードです。
この依頼は『Fight it Out! 管理国家進撃開始!』と同時進行となっております。その為両依頼に同時参加されていた場合、こちら側の依頼参加権利を剥奪させていただきます。
依頼料の返金などはできませんので、ご了承ください。
●敵情報
・『神槌』騎士1991(×1)
神殿を守る騎士です。ノウブル25歳男性。アイドーネウスを模したメイスと盾を手にした防御タンクです。
大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『インデュア Lv3』『ファランクス Lv3』『サクリファイス Lv2』『シールドバッシュ Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。
・兵士(×5)
神殿を守る兵士です。ノスフェラトゥ男性。青色の肌を持つ種族です。剣を手にした軽戦士です。
大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『不死性』『ピアッシングスラッシュ Lv3』『ラピッドジーン Lv3』『ブレイクゲイト Lv3』等を活性化しています。
不死性:P HPが0になった時、一度だけ必殺を無効化してHPを全快します。
・『鯨斧』兵長0823(×1)
自由騎士の背後をつく兵士の長です。ノウブル50際男性。鯨系幻想種の骨を削って作った斧を手にしています。重戦士。大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『ギアインパクト Lv3』『ウォーモンガー Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。
・兵士(×4)
自由騎士の背後をつく兵士です。ノウブル男性。銃を持ったガンナー。大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
4ターン毎に3名が援軍としてやってきます。
『ウェッジショット Lv3』『サテライトエイム Lv3』『ゼロレンジバースト Lv3』等を活性化しています。
★パノプティコン兵
権能の詳細は不明ですが、管理された動きによる同調攻撃や、精神的なつながりがあることなどが挙げられます。
・物見1109
ノウブル女性。20歳。他の市民と同じような服を着ています。
この戦場にはいません。神殿組の敵を全滅させれば、彼女のいる場所に向かえます。兵士などを使用したブロック過多で強引に突破した場合、背後から総攻撃を受けるでしょう。どうなるかは難易度から想像してください。
彼女を殺さなければ、確実にイ・ラプセルの襲撃を予知されます。気を失わせても、五感を奪ってもです。
●場所状況。
パノプティコン領内『港町3356』内。時刻は夕刻。足場や広さは戦闘に支障はありません。
戦闘開始時、挟み撃ちを受けています。便宜上、味方前衛に接している側を『神殿組』。味方後衛に接している側を『挟撃組』とします。
・簡素な戦況
『挟撃組』 『味方後衛』『味方前衛』 『神殿組』=======『物見1109』
挟撃組は、敵前衛に『兵長0823』が、敵後衛に『兵士(ガンナー)(×4)』が。神殿組は、敵前衛に『騎士1991』『兵士(軽戦士)(×5)がいます。
事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
敵の強さ、心情、その他もろもろも含めてのベリーハードです。
この依頼は『Fight it Out! 管理国家進撃開始!』と同時進行となっております。その為両依頼に同時参加されていた場合、こちら側の依頼参加権利を剥奪させていただきます。
依頼料の返金などはできませんので、ご了承ください。
●敵情報
・『神槌』騎士1991(×1)
神殿を守る騎士です。ノウブル25歳男性。アイドーネウスを模したメイスと盾を手にした防御タンクです。
大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『インデュア Lv3』『ファランクス Lv3』『サクリファイス Lv2』『シールドバッシュ Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。
・兵士(×5)
神殿を守る兵士です。ノスフェラトゥ男性。青色の肌を持つ種族です。剣を手にした軽戦士です。
大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『不死性』『ピアッシングスラッシュ Lv3』『ラピッドジーン Lv3』『ブレイクゲイト Lv3』等を活性化しています。
不死性:P HPが0になった時、一度だけ必殺を無効化してHPを全快します。
・『鯨斧』兵長0823(×1)
自由騎士の背後をつく兵士の長です。ノウブル50際男性。鯨系幻想種の骨を削って作った斧を手にしています。重戦士。大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
『ギアインパクト Lv3』『ウォーモンガー Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。
・兵士(×4)
自由騎士の背後をつく兵士です。ノウブル男性。銃を持ったガンナー。大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。
4ターン毎に3名が援軍としてやってきます。
『ウェッジショット Lv3』『サテライトエイム Lv3』『ゼロレンジバースト Lv3』等を活性化しています。
★パノプティコン兵
権能の詳細は不明ですが、管理された動きによる同調攻撃や、精神的なつながりがあることなどが挙げられます。
・物見1109
ノウブル女性。20歳。他の市民と同じような服を着ています。
この戦場にはいません。神殿組の敵を全滅させれば、彼女のいる場所に向かえます。兵士などを使用したブロック過多で強引に突破した場合、背後から総攻撃を受けるでしょう。どうなるかは難易度から想像してください。
彼女を殺さなければ、確実にイ・ラプセルの襲撃を予知されます。気を失わせても、五感を奪ってもです。
●場所状況。
パノプティコン領内『港町3356』内。時刻は夕刻。足場や広さは戦闘に支障はありません。
戦闘開始時、挟み撃ちを受けています。便宜上、味方前衛に接している側を『神殿組』。味方後衛に接している側を『挟撃組』とします。
・簡素な戦況
『挟撃組』 『味方後衛』『味方前衛』 『神殿組』=======『物見1109』
挟撃組は、敵前衛に『兵長0823』が、敵後衛に『兵士(ガンナー)(×4)』が。神殿組は、敵前衛に『騎士1991』『兵士(軽戦士)(×5)がいます。
事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
6個
6個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年09月01日
2020年09月01日
†メイン参加者 10人†
●
「未来を知る。成程、でしたらこの挟撃も納得です」
進行方向の逆側に現れた相手を見ながら『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は頷いた。立場が逆で予知が出来ていれば、自分達もそうしただろう。相手を囲み、こちらの弱い部分をつく事は。
「ですがまあ、やることは変わりません。押し通すのみです」
膝を曲げて重心を下ろし、『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は構えを取る。潜入に徹していたから仕方ないが、ようやく暴れることが出来る。真っ直ぐに拳を突き出し、呼気を吐く。
「はい。この戦いには未来がかかっています」
未来。その言葉を意識して『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は口を開く。神の蟲毒に勝利しなければ未来はない。その為にも勝利しないといけないのだ。
「おうよ! 邪魔する奴らはぶっ潰す!」
『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は斧を振るいながら獰猛な笑みを浮かべた。アイドーネウスに管理された社会。それがどれだけ幸せだとしても、それは神の家畜同然だ。そんな生き方が正しいなんて、ジーニーは思えない。
「国民や蒸気ドローンを通じて情報を収集して、そして未来を予知する……まさか?」
セーイ・キャトル(CL3000639)はパノプティコンの情報を纏めながら、そう呟いていた。正体不明の国民管理機構。分かっているデウスギアの能力を確認し、そこからその正体を推測しようとする。
(私は……『あたたかい』がいい……だけど、それでは……)
武器を握りしめ、ノーヴェ・キャトル(CL3000638)は前を見る。目の前にはパノプティコンの兵士達。彼らは敵だが、武器を置けば一人の人間だ。それを十分に理解したうえで、武器を握る手に力を込めた。
「村の人達は復讐なんて望んでいない。そんな事は、分かっているけど」
記憶にない村のことを思いながら『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)は息を吐く。復讐は復讐を呼ぶ。殺せば殺意を向けられる。理性ではそうだと分かっていても、それでもこの歩みを止めることはできなかった。黙っていることはできなかった。
「命を奪うあう……ええ、解っています……」
自分を抱きしめるようにして『円卓を継ぐ騎士』たまき 聖流(CL3000283)は言葉を吐く。『命の奪い合いの無い世界』……それを目指すために戦ってきたたまきは、命を奪うという行為を嫌忌する。だからこそ、この場に立っていた。
「……はは、気分悪いや」
立ちふさがる『騎士』を見ながら『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は吐きそうになる。人や日常を守りたい。それはナバルが戦う理由だ。同じ想いを抱いた相手を前にして、矛盾した思いが交差した。
「……戦争、なんですね」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は戦意が入り混じる場所に立ちながら、改めて戦争というモノを実感する。大事な人を守りたい。日常に踏み入る敵国を排除したい。それは自分達と同じ想いなのだ。神の蟲毒に勝利する為に必要だとはわかっている、だけど。
この戦いが、パノプティコン緒戦の趨勢を握ると言っても過言ではない。手加減するつもりもないし、その余裕もない。
物見をめぐる戦いは、いま切って落とされた。
●
「ここで止まるわけにはいきません」
『断罪と救済の十字架』を手に、背後から挟撃するパノプティコン兵士に迫るアンジェリカ。ここまで多くの命を救ってきた。ここまで多くの命を絶ってきた。そこに未来があるのだと信じて。そうやって未来は紡がれるのだと知っているから、この一歩は重い。
敵陣内に入り込み、足をしっかりと踏みしめる。腰を下ろして重心を安定させ、そのまま体を回転させる。周囲に奮われる一撃はまさに豪風。素早く、そして力強く。その一撃によろめくパノプティコン兵士を見ながら、追撃を重ねていく。
「皆様、行きましょう!」
「ん……。アナと、マイナスナンバー達を……『あたたかい』にする、為に……」
頷くノーヴェ。この戦いには様々なものがかかっている。神の蟲毒やイ・ラプセルの未来といった大義的な事だけではなく、パノプティコンの政治で苦しむ人達を救う意味もある。彼らと接したノーヴェは、その想いが強かった。
真っ直ぐに神殿を守るパノプティコン兵士に迫るノーヴェ。神経に魔力を通し、反射神経を増した状態で刃を振るう。呼吸する時間すら惜しむほどの斬撃の嵐。足を止めずに敵陣を駆け回り、刃を振るい続ける。
「貴方達を……『つめたい』に、する……」
(後でフォローが必要かもな……いや、それも勝ってからか)
双子の片割れの動きを見ながらセーイはそんなことを思う。ここが戦場で敵を打ち倒すことが正しい事は間違いない。だが傾倒しすぎれば戻れなくなる。だがここで負ければ意味はない。そんなジレンマがあった。
挟撃され、敵と接した状態で呪文を展開するセーイ。『兵長』の動きを気にしながら、炎の魔術を展開する。精度を高めた炎は戦場を駆け巡り、敵を一気に焼いていく。その消耗にため息をつきながら、まだ止まれないと顔をあげた。
「とにかく勝たなきゃ! 行くぞ!」
「当然だ! ここで勝って、最後はアイドーネウスをぶっ飛ばすぜ!」
神殿を守る騎士達を見ながら『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は叫んだ。すべてを管理するアイドーネウス。そのやり方が正しいなんて思えない。たとえそれが平和であったとしても、そこには自由はないのだから。
巨大な戦斧を振るい、ジーニーは突貫する。ただ真っ直ぐに敵に迫り、力強く武器を振り下ろす。重戦士の基本。基本だからこそどのような状況でも使える技だ。叩きつけられる一撃は力強く戦端を切り拓いていく。
「自分で決めた選択で生きる! それが大事なんだろうが!」
「自分で選ぶ……。はい、そうだと思います」
静かに、だけど確かに想いを込めてたまきが頷く。人生は選択の連続だ。『正しい』選択肢があるなら、それを教えてもらえるなら頼りたくなるのは理解できる。それが穢れを見ないで済むのならなおのことだ。――それでも、その選択肢では見えなくなるものもある。
『命を奪う』……その意味をしっかりと自覚し、たまきは術を行使する。回復だから他人を傷つけていない、と逃げるつもりはない。仲間に罪を押し付けるなんてできやしない。味方の癒しは敵の攻撃も同意なのだと心に刻みながら呪文を唱える。
「私は選びました。これから足搔いていくために。目を背けないと決めました」
「そうだな。ここでやらなきゃ前に進めない。死ぬのはオレの仲間なんだ」
槍から伝わる感覚に精神を揺さぶられながらナバルは自らを鼓舞する。手のひらから伝わるのは、相手を傷つけているという感覚。水の女神の権能がない今、倒れたパノプティコン兵士は二度と立ち上がれないかもしれない。
覚悟はしている。それでもダイレクトに命を奪う感覚は精神に響く。だがここで逃げれば同じことが仲間に襲い掛かる。それを止める為にナバルは踏ん張った。盾で相手の攻撃をさばきながら、横なぎに槍を振るう。
「本当にクソッタレだな、戦争ってやつは!」
「そうですね。だからこそ、騎士はいるのです」
背中越しに聞こえるナバルの声に応えるデボラ。戦争は人を殺す。そんな事は軍服に袖を通した時から覚悟し、そして飲み込んできた。これからも同じように飲み込んでいくのだろう。多くの人達のかけがえのない日常を守るために。
パノプティコン兵士の攻撃を耐えながら、剣を振るうデボラ。愛する人の片眼鏡を胸に、痛みを堪えて仲間を守る。この戦いが未来を決める分岐点。様々な選択の、最後の分かれ道。ここで勝利し、そして明日を掴み取るのだ。
「ここが正念場です。皆様、奮起なさいませ!」
「ええ。大暴れさせていただきます」
言葉と共に踏み入るミルトス。炎神の試練から始まり、二度の交渉。ようやく大暴れできると戦闘に精神が傾倒しているミルトスは我慢の限界だと頷いた。戦う理由はそれだけではない。様々な思いと事情をしっかりと理解し、拳を握る。
硬すぎず、柔らかすぎず。そんな力の入れ具合を維持しながら、呼気を吐くミルトス。構えは武器であり盾。相手との間合いを計り、可能と見れば即座に攻める。足を止める余裕はない。常に攻勢に出て、戦況を支配していく。
「ここを落とせなければマイナスナンバー達は皆殺し。この拳には命が乗っているのです」
「そうですね。負ければ死ぬ人がいる……。それが、戦争」
この戦いのために囮になってくれている人達。それを思いながらセアラは頷く。ここに居る人達はけして人を殺したいわけではない。命を奪いたいわけではない。それでも戦わなくてはならない。武器を交わさなければならない。それが、戦争なのだ。
葛藤は強く、しかし時間は待ってはくれない。傷つく仲間を前に躊躇などしていられない。セアラは聖遺物を握りしめ、呪文を唱える。戦場に似合わない静かな声。その声が紡ぐ癒しの魔術が、光となって仲間を包み込んだ。
「私は、私が出来ることを……」
「はい。キリは皆さんを守ります」
セアラを守るように陣取りながらキリは頷いた。やるべきことをやる。勝利のために大事な事だ。全員が全力を尽くして、それでも届くかどうかわからない。そんな戦いなのだという事は、受け止めた敵の攻撃が理解させてくれる。
ローブで攻撃を受け止めながら、サーベルで敵を切り裂くキリ。赤く染まるサーベルを見ながら、キリは命を奪っていることを自覚する。不殺権能は意図して外した。斬る感覚は命を奪う行為と同意だ。その覚悟を崩さぬよう、心を律する。
「キリはたとえ望まれなくても……!」
様々な思いを込め、戦場に立つ自由騎士達。
だがそれはパノプティコン側も同じだ。言語が通じない相手ではあるが、同じ人間で同じ想いを抱いていることには違いない。その平和をこちらから踏みにじるのだ。
譲れない想い。それを守るために戦場は加速していく。
●
挟撃されている自由騎士は、ダメージが積み重なっていく。デボラとキリとナバルが護り、たまきやセアラが癒してはいる。同時にミルトスとジーニーとノーヴェが神殿を守る騎士を攻め、アンジェリカが挟撃に来た兵士達を攻める。セーイが焔で敵全体を包み込み攻めていた。
それでもなお、敵陣を押し進むにはまだ至らない。神殿を守る騎士達を突破するには、足りなかった。気力を削り、身を削り、フラグメンツを削り、じわじわと追い込まれていく自由騎士達。
「ジャミングで彼らの繫がりを断つことはできない、みたいですね……」
パノプティコン兵士達が精神的に繋がっていると聞いたセアラは、低い可能性にかけて念波妨害の術式を用意してきた。だがそれらが効果を為している様子はない。テレパスとは別手段なのだろう。それが分かっただけでも良しとすべきか。
「これで……返す!」
仲間を守る立場のナバルは自然と攻撃を受ける機会が増えてきた。敵の動きを流れとして捕らえ、その流れを止めるのではなく流す。そして体制を崩してそこに槍を叩き込んだ。守りながら攻める。やれることは何でもやる。そうでなければ勝利はつかめない。
「キリさん……。お疲れでしょうが、お願いします」
パノプティコン兵士達の猛攻を受けて倒れた仲間に、復活の癒しを行使するたまき。そして仲間を守るための結界を展開した。その間癒しの手は止まるが、戦況を立て直せる。ここを上手くしのぎ切り、次に繋げればあるいは。
「ありがとうございます! キリはまだまだ負けません!」
倒れていたキリがたまきの術で立ち上がる。倒れてなんかいられない。ここで耐えなければ、他で戦っているみんなに迷惑がかかる。それだけではない。村を焼いたあの男に復讐が出来なくなる。何が何でも立ち続けなければ――
(私は……ヒト、を……また『つめたい』にする……それ、だけ……)
刃を振るい、神殿側のパノプティコン兵士の一人の命を絶つ。武器から伝わる相手のけいれん。小さく跳ねて、脱力するように崩れ落ちる相手を見ながらノーヴェは次の相手を見る。大切な人を守るために、刃は命を奪うのだ。
(そうか。パノプティコン……アイドーネウスと国民管理機構は――)
一糸乱れぬ敵兵の動きを見て、セーイが一つの結論に到達する。彼らは集団で一つなのだ。管理社会に居る者同士は繋がっており、情報の精度を上げる。それらをアイドーネウスが共有し、一つの『生物』となっている――仮説だが、大きく外れてはいないはずだ。
「お前ら皆をアイドーネウスから解放して、自由ってものを教えてやるんだ!」
息絶え絶えになりながらも戦意を失わないジーニー。神に管理された世界。そんな物は神に変われた家畜と同じだ。それが幸せだとしても、ヒトとして生きているとは思えない。自らの意思で立ち上がり、行動する。それが大事なのだ。
「この戦いには大陸すべての人間の未来がかかっています。負けるわけにはいきません!」
血を流しながらアンジェリカが叫ぶ。神の蟲毒。そのタイムリミット。それが来れば全てが終わる。全ての生物が息絶えた大陸。そんな世界など誰が認められようか。無理無茶無謀は自覚している。それでもここで勝ち、未来を勝ち取らなければならないのだ。
「そうですね。たとえ言葉が通じたとしても、この戦いは避けれません」
理解不能の言葉で喋るパノプティコン兵士を見ながらミルトスは頷く。神の蟲毒という事情もあるが、互いの大事なモノの為に戦っているのだ。譲歩などできようがない。ただ不躾な侵略者呼ばわりされるのは避けたい所ではあった。
「とにかく生きて帰りますよ。やらなくてはいけない事はたくさんあるのですから」
気力と意地でなんとか意識を保っているデボラ。彼女がまだ立てる理由は、この後のことを思えばだ。時間は多くない。やるべきことも多い。ここで足止めを喰らっている時間はないのだ。
挟撃に来たパノプティコン兵士の増援を防ぎながら、同時に神殿を守る騎士達を打つべく展開する自由騎士達。確かに挟撃に来たものを放置すれば、いずれは増援に押しつぶされていただろう。
だが――それを踏まえたうえで神殿側に向ける火力が不足していた。鍛え抜かれた騎士と、防御に秀でたノスフェラトゥを突破するだけの火力が。
「カ・ク・チ・カ・ャ・ト チ・リ・リ」
神殿を守る騎士が告げる。ニュアンス的には勝利宣言だろうか。神殿側のパノプティコン兵士も疲弊しているが、まだ余裕があった。
「わけわかんねぇけど、このままじゃ負けることは分かったぜ」
『騎士』の言葉に笑みを浮かべるナバル。このままだとジリ貧だ。ナバルはそれを理解して走り出す。強引に神殿の守りを突破して、物見に迫るように。
そうはさせじと『騎士』は全力で攻撃を繰り出す。背中から叩き込まれた一撃は、ナバルの体力を大きく削る。死を意識するほどの強烈な一撃。
(これが大事な人を守るための攻撃か。分かっちゃいるけど、キツイよなぁ……!)
背中の灼熱。それは『敵』ではなく自分達の生活や愛する人を守りたいと思う一人のヒトの必死の一撃。その意思、気持ち、そして思いはナバルも理解できる。立場が逆なら、自分だってそうしたのだから。
(このヒトにとっちゃ、オレは国を荒らす『残虐非道な敵兵』か。違いない。心折れそうだけど)
だけど――
「オレにも大事な人はいるんだ!」
痛みを堪え、槍を手にするナバル。『騎士』の喉に向けて、真っ直ぐに槍を突き出した。自分が感じた痛み(おもい)を、真っ直ぐに返すように。
「オレもお前も同じ人間なんだ! 同じ想いを持った、同じ人間なんだ!」
勝利の喜びはない。あるのはただ勝者と敗者。その違いは想いの差――ではない。
「同じ人間の想いに差なんてない……! オレ達が勝ったのは、運がよかっただけなんだ!」
命尽き崩れ落ちる『騎士』。ナバルは誰に向けるでもなく、空を見上げてそう叫んでいた。
●
その後、神殿側の勢力を廃した自由騎士達は、ナバルとキリとアンジェリカを残して神殿内に突入する。
「…………」
自由騎士の姿を見て、息をのむ物見。愛する人の名前を呼ぼうとして――
「その命、貰った!」
躊躇なく振るわれるジーニーの一撃。悲鳴を上げる間もなく、物見の華奢な体は崩れ落ちた。
「彼女を殺したくない、と思うのは傲慢だったのでしょうか……?」
蒼褪めた顔でセアラが呟く。何とかできたのではないか、という想いが今でも止まらない。
「――愛する人を失って生きることは辛いですよ」
そんなセアラに静かに告げるデボラ。だから殺すのが正しい、とは言わない。ただその重さが少しでも和らげば。
その後、港を攻めるイ・ラプセル軍の生んだ混乱に乗じて、自由騎士達はどうにか神殿から撤退する。
サポートに来ていた者達の力を借りてどうにか本陣と合流する。傷ついた体を本陣で癒し、戦いの結果を報告した。
勝った。 物見1109を殺した。
それにより、イ・ラプセルの戦いは有利にするむだろう。物見崩壊により、マイナスナンバー達への追撃も混乱が生まれるだろう。
守るべきものは守った。戦いを制したのだ。だが――
勝鬨の声は上がらない。
自由騎士達は戦いの意味を、命を奪う意味を、強く心に刻んでいた。
「未来を知る。成程、でしたらこの挟撃も納得です」
進行方向の逆側に現れた相手を見ながら『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は頷いた。立場が逆で予知が出来ていれば、自分達もそうしただろう。相手を囲み、こちらの弱い部分をつく事は。
「ですがまあ、やることは変わりません。押し通すのみです」
膝を曲げて重心を下ろし、『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は構えを取る。潜入に徹していたから仕方ないが、ようやく暴れることが出来る。真っ直ぐに拳を突き出し、呼気を吐く。
「はい。この戦いには未来がかかっています」
未来。その言葉を意識して『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は口を開く。神の蟲毒に勝利しなければ未来はない。その為にも勝利しないといけないのだ。
「おうよ! 邪魔する奴らはぶっ潰す!」
『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は斧を振るいながら獰猛な笑みを浮かべた。アイドーネウスに管理された社会。それがどれだけ幸せだとしても、それは神の家畜同然だ。そんな生き方が正しいなんて、ジーニーは思えない。
「国民や蒸気ドローンを通じて情報を収集して、そして未来を予知する……まさか?」
セーイ・キャトル(CL3000639)はパノプティコンの情報を纏めながら、そう呟いていた。正体不明の国民管理機構。分かっているデウスギアの能力を確認し、そこからその正体を推測しようとする。
(私は……『あたたかい』がいい……だけど、それでは……)
武器を握りしめ、ノーヴェ・キャトル(CL3000638)は前を見る。目の前にはパノプティコンの兵士達。彼らは敵だが、武器を置けば一人の人間だ。それを十分に理解したうえで、武器を握る手に力を込めた。
「村の人達は復讐なんて望んでいない。そんな事は、分かっているけど」
記憶にない村のことを思いながら『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)は息を吐く。復讐は復讐を呼ぶ。殺せば殺意を向けられる。理性ではそうだと分かっていても、それでもこの歩みを止めることはできなかった。黙っていることはできなかった。
「命を奪うあう……ええ、解っています……」
自分を抱きしめるようにして『円卓を継ぐ騎士』たまき 聖流(CL3000283)は言葉を吐く。『命の奪い合いの無い世界』……それを目指すために戦ってきたたまきは、命を奪うという行為を嫌忌する。だからこそ、この場に立っていた。
「……はは、気分悪いや」
立ちふさがる『騎士』を見ながら『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は吐きそうになる。人や日常を守りたい。それはナバルが戦う理由だ。同じ想いを抱いた相手を前にして、矛盾した思いが交差した。
「……戦争、なんですね」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は戦意が入り混じる場所に立ちながら、改めて戦争というモノを実感する。大事な人を守りたい。日常に踏み入る敵国を排除したい。それは自分達と同じ想いなのだ。神の蟲毒に勝利する為に必要だとはわかっている、だけど。
この戦いが、パノプティコン緒戦の趨勢を握ると言っても過言ではない。手加減するつもりもないし、その余裕もない。
物見をめぐる戦いは、いま切って落とされた。
●
「ここで止まるわけにはいきません」
『断罪と救済の十字架』を手に、背後から挟撃するパノプティコン兵士に迫るアンジェリカ。ここまで多くの命を救ってきた。ここまで多くの命を絶ってきた。そこに未来があるのだと信じて。そうやって未来は紡がれるのだと知っているから、この一歩は重い。
敵陣内に入り込み、足をしっかりと踏みしめる。腰を下ろして重心を安定させ、そのまま体を回転させる。周囲に奮われる一撃はまさに豪風。素早く、そして力強く。その一撃によろめくパノプティコン兵士を見ながら、追撃を重ねていく。
「皆様、行きましょう!」
「ん……。アナと、マイナスナンバー達を……『あたたかい』にする、為に……」
頷くノーヴェ。この戦いには様々なものがかかっている。神の蟲毒やイ・ラプセルの未来といった大義的な事だけではなく、パノプティコンの政治で苦しむ人達を救う意味もある。彼らと接したノーヴェは、その想いが強かった。
真っ直ぐに神殿を守るパノプティコン兵士に迫るノーヴェ。神経に魔力を通し、反射神経を増した状態で刃を振るう。呼吸する時間すら惜しむほどの斬撃の嵐。足を止めずに敵陣を駆け回り、刃を振るい続ける。
「貴方達を……『つめたい』に、する……」
(後でフォローが必要かもな……いや、それも勝ってからか)
双子の片割れの動きを見ながらセーイはそんなことを思う。ここが戦場で敵を打ち倒すことが正しい事は間違いない。だが傾倒しすぎれば戻れなくなる。だがここで負ければ意味はない。そんなジレンマがあった。
挟撃され、敵と接した状態で呪文を展開するセーイ。『兵長』の動きを気にしながら、炎の魔術を展開する。精度を高めた炎は戦場を駆け巡り、敵を一気に焼いていく。その消耗にため息をつきながら、まだ止まれないと顔をあげた。
「とにかく勝たなきゃ! 行くぞ!」
「当然だ! ここで勝って、最後はアイドーネウスをぶっ飛ばすぜ!」
神殿を守る騎士達を見ながら『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は叫んだ。すべてを管理するアイドーネウス。そのやり方が正しいなんて思えない。たとえそれが平和であったとしても、そこには自由はないのだから。
巨大な戦斧を振るい、ジーニーは突貫する。ただ真っ直ぐに敵に迫り、力強く武器を振り下ろす。重戦士の基本。基本だからこそどのような状況でも使える技だ。叩きつけられる一撃は力強く戦端を切り拓いていく。
「自分で決めた選択で生きる! それが大事なんだろうが!」
「自分で選ぶ……。はい、そうだと思います」
静かに、だけど確かに想いを込めてたまきが頷く。人生は選択の連続だ。『正しい』選択肢があるなら、それを教えてもらえるなら頼りたくなるのは理解できる。それが穢れを見ないで済むのならなおのことだ。――それでも、その選択肢では見えなくなるものもある。
『命を奪う』……その意味をしっかりと自覚し、たまきは術を行使する。回復だから他人を傷つけていない、と逃げるつもりはない。仲間に罪を押し付けるなんてできやしない。味方の癒しは敵の攻撃も同意なのだと心に刻みながら呪文を唱える。
「私は選びました。これから足搔いていくために。目を背けないと決めました」
「そうだな。ここでやらなきゃ前に進めない。死ぬのはオレの仲間なんだ」
槍から伝わる感覚に精神を揺さぶられながらナバルは自らを鼓舞する。手のひらから伝わるのは、相手を傷つけているという感覚。水の女神の権能がない今、倒れたパノプティコン兵士は二度と立ち上がれないかもしれない。
覚悟はしている。それでもダイレクトに命を奪う感覚は精神に響く。だがここで逃げれば同じことが仲間に襲い掛かる。それを止める為にナバルは踏ん張った。盾で相手の攻撃をさばきながら、横なぎに槍を振るう。
「本当にクソッタレだな、戦争ってやつは!」
「そうですね。だからこそ、騎士はいるのです」
背中越しに聞こえるナバルの声に応えるデボラ。戦争は人を殺す。そんな事は軍服に袖を通した時から覚悟し、そして飲み込んできた。これからも同じように飲み込んでいくのだろう。多くの人達のかけがえのない日常を守るために。
パノプティコン兵士の攻撃を耐えながら、剣を振るうデボラ。愛する人の片眼鏡を胸に、痛みを堪えて仲間を守る。この戦いが未来を決める分岐点。様々な選択の、最後の分かれ道。ここで勝利し、そして明日を掴み取るのだ。
「ここが正念場です。皆様、奮起なさいませ!」
「ええ。大暴れさせていただきます」
言葉と共に踏み入るミルトス。炎神の試練から始まり、二度の交渉。ようやく大暴れできると戦闘に精神が傾倒しているミルトスは我慢の限界だと頷いた。戦う理由はそれだけではない。様々な思いと事情をしっかりと理解し、拳を握る。
硬すぎず、柔らかすぎず。そんな力の入れ具合を維持しながら、呼気を吐くミルトス。構えは武器であり盾。相手との間合いを計り、可能と見れば即座に攻める。足を止める余裕はない。常に攻勢に出て、戦況を支配していく。
「ここを落とせなければマイナスナンバー達は皆殺し。この拳には命が乗っているのです」
「そうですね。負ければ死ぬ人がいる……。それが、戦争」
この戦いのために囮になってくれている人達。それを思いながらセアラは頷く。ここに居る人達はけして人を殺したいわけではない。命を奪いたいわけではない。それでも戦わなくてはならない。武器を交わさなければならない。それが、戦争なのだ。
葛藤は強く、しかし時間は待ってはくれない。傷つく仲間を前に躊躇などしていられない。セアラは聖遺物を握りしめ、呪文を唱える。戦場に似合わない静かな声。その声が紡ぐ癒しの魔術が、光となって仲間を包み込んだ。
「私は、私が出来ることを……」
「はい。キリは皆さんを守ります」
セアラを守るように陣取りながらキリは頷いた。やるべきことをやる。勝利のために大事な事だ。全員が全力を尽くして、それでも届くかどうかわからない。そんな戦いなのだという事は、受け止めた敵の攻撃が理解させてくれる。
ローブで攻撃を受け止めながら、サーベルで敵を切り裂くキリ。赤く染まるサーベルを見ながら、キリは命を奪っていることを自覚する。不殺権能は意図して外した。斬る感覚は命を奪う行為と同意だ。その覚悟を崩さぬよう、心を律する。
「キリはたとえ望まれなくても……!」
様々な思いを込め、戦場に立つ自由騎士達。
だがそれはパノプティコン側も同じだ。言語が通じない相手ではあるが、同じ人間で同じ想いを抱いていることには違いない。その平和をこちらから踏みにじるのだ。
譲れない想い。それを守るために戦場は加速していく。
●
挟撃されている自由騎士は、ダメージが積み重なっていく。デボラとキリとナバルが護り、たまきやセアラが癒してはいる。同時にミルトスとジーニーとノーヴェが神殿を守る騎士を攻め、アンジェリカが挟撃に来た兵士達を攻める。セーイが焔で敵全体を包み込み攻めていた。
それでもなお、敵陣を押し進むにはまだ至らない。神殿を守る騎士達を突破するには、足りなかった。気力を削り、身を削り、フラグメンツを削り、じわじわと追い込まれていく自由騎士達。
「ジャミングで彼らの繫がりを断つことはできない、みたいですね……」
パノプティコン兵士達が精神的に繋がっていると聞いたセアラは、低い可能性にかけて念波妨害の術式を用意してきた。だがそれらが効果を為している様子はない。テレパスとは別手段なのだろう。それが分かっただけでも良しとすべきか。
「これで……返す!」
仲間を守る立場のナバルは自然と攻撃を受ける機会が増えてきた。敵の動きを流れとして捕らえ、その流れを止めるのではなく流す。そして体制を崩してそこに槍を叩き込んだ。守りながら攻める。やれることは何でもやる。そうでなければ勝利はつかめない。
「キリさん……。お疲れでしょうが、お願いします」
パノプティコン兵士達の猛攻を受けて倒れた仲間に、復活の癒しを行使するたまき。そして仲間を守るための結界を展開した。その間癒しの手は止まるが、戦況を立て直せる。ここを上手くしのぎ切り、次に繋げればあるいは。
「ありがとうございます! キリはまだまだ負けません!」
倒れていたキリがたまきの術で立ち上がる。倒れてなんかいられない。ここで耐えなければ、他で戦っているみんなに迷惑がかかる。それだけではない。村を焼いたあの男に復讐が出来なくなる。何が何でも立ち続けなければ――
(私は……ヒト、を……また『つめたい』にする……それ、だけ……)
刃を振るい、神殿側のパノプティコン兵士の一人の命を絶つ。武器から伝わる相手のけいれん。小さく跳ねて、脱力するように崩れ落ちる相手を見ながらノーヴェは次の相手を見る。大切な人を守るために、刃は命を奪うのだ。
(そうか。パノプティコン……アイドーネウスと国民管理機構は――)
一糸乱れぬ敵兵の動きを見て、セーイが一つの結論に到達する。彼らは集団で一つなのだ。管理社会に居る者同士は繋がっており、情報の精度を上げる。それらをアイドーネウスが共有し、一つの『生物』となっている――仮説だが、大きく外れてはいないはずだ。
「お前ら皆をアイドーネウスから解放して、自由ってものを教えてやるんだ!」
息絶え絶えになりながらも戦意を失わないジーニー。神に管理された世界。そんな物は神に変われた家畜と同じだ。それが幸せだとしても、ヒトとして生きているとは思えない。自らの意思で立ち上がり、行動する。それが大事なのだ。
「この戦いには大陸すべての人間の未来がかかっています。負けるわけにはいきません!」
血を流しながらアンジェリカが叫ぶ。神の蟲毒。そのタイムリミット。それが来れば全てが終わる。全ての生物が息絶えた大陸。そんな世界など誰が認められようか。無理無茶無謀は自覚している。それでもここで勝ち、未来を勝ち取らなければならないのだ。
「そうですね。たとえ言葉が通じたとしても、この戦いは避けれません」
理解不能の言葉で喋るパノプティコン兵士を見ながらミルトスは頷く。神の蟲毒という事情もあるが、互いの大事なモノの為に戦っているのだ。譲歩などできようがない。ただ不躾な侵略者呼ばわりされるのは避けたい所ではあった。
「とにかく生きて帰りますよ。やらなくてはいけない事はたくさんあるのですから」
気力と意地でなんとか意識を保っているデボラ。彼女がまだ立てる理由は、この後のことを思えばだ。時間は多くない。やるべきことも多い。ここで足止めを喰らっている時間はないのだ。
挟撃に来たパノプティコン兵士の増援を防ぎながら、同時に神殿を守る騎士達を打つべく展開する自由騎士達。確かに挟撃に来たものを放置すれば、いずれは増援に押しつぶされていただろう。
だが――それを踏まえたうえで神殿側に向ける火力が不足していた。鍛え抜かれた騎士と、防御に秀でたノスフェラトゥを突破するだけの火力が。
「カ・ク・チ・カ・ャ・ト チ・リ・リ」
神殿を守る騎士が告げる。ニュアンス的には勝利宣言だろうか。神殿側のパノプティコン兵士も疲弊しているが、まだ余裕があった。
「わけわかんねぇけど、このままじゃ負けることは分かったぜ」
『騎士』の言葉に笑みを浮かべるナバル。このままだとジリ貧だ。ナバルはそれを理解して走り出す。強引に神殿の守りを突破して、物見に迫るように。
そうはさせじと『騎士』は全力で攻撃を繰り出す。背中から叩き込まれた一撃は、ナバルの体力を大きく削る。死を意識するほどの強烈な一撃。
(これが大事な人を守るための攻撃か。分かっちゃいるけど、キツイよなぁ……!)
背中の灼熱。それは『敵』ではなく自分達の生活や愛する人を守りたいと思う一人のヒトの必死の一撃。その意思、気持ち、そして思いはナバルも理解できる。立場が逆なら、自分だってそうしたのだから。
(このヒトにとっちゃ、オレは国を荒らす『残虐非道な敵兵』か。違いない。心折れそうだけど)
だけど――
「オレにも大事な人はいるんだ!」
痛みを堪え、槍を手にするナバル。『騎士』の喉に向けて、真っ直ぐに槍を突き出した。自分が感じた痛み(おもい)を、真っ直ぐに返すように。
「オレもお前も同じ人間なんだ! 同じ想いを持った、同じ人間なんだ!」
勝利の喜びはない。あるのはただ勝者と敗者。その違いは想いの差――ではない。
「同じ人間の想いに差なんてない……! オレ達が勝ったのは、運がよかっただけなんだ!」
命尽き崩れ落ちる『騎士』。ナバルは誰に向けるでもなく、空を見上げてそう叫んでいた。
●
その後、神殿側の勢力を廃した自由騎士達は、ナバルとキリとアンジェリカを残して神殿内に突入する。
「…………」
自由騎士の姿を見て、息をのむ物見。愛する人の名前を呼ぼうとして――
「その命、貰った!」
躊躇なく振るわれるジーニーの一撃。悲鳴を上げる間もなく、物見の華奢な体は崩れ落ちた。
「彼女を殺したくない、と思うのは傲慢だったのでしょうか……?」
蒼褪めた顔でセアラが呟く。何とかできたのではないか、という想いが今でも止まらない。
「――愛する人を失って生きることは辛いですよ」
そんなセアラに静かに告げるデボラ。だから殺すのが正しい、とは言わない。ただその重さが少しでも和らげば。
その後、港を攻めるイ・ラプセル軍の生んだ混乱に乗じて、自由騎士達はどうにか神殿から撤退する。
サポートに来ていた者達の力を借りてどうにか本陣と合流する。傷ついた体を本陣で癒し、戦いの結果を報告した。
勝った。 物見1109を殺した。
それにより、イ・ラプセルの戦いは有利にするむだろう。物見崩壊により、マイナスナンバー達への追撃も混乱が生まれるだろう。
守るべきものは守った。戦いを制したのだ。だが――
勝鬨の声は上がらない。
自由騎士達は戦いの意味を、命を奪う意味を、強く心に刻んでいた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
文字数カツカツです。EXにすべきだったかも。
以上のような結果になりました。自由騎士達の勝利です。
プレイングから各キャラの様々な思いが伝わってきました。それが上手く表現できたのなら、幸いです。
MVPは騎士を倒したジーロン様に。覚悟とプレイングあっての結果です。
それではまた、イ・ラプセルで。
文字数カツカツです。EXにすべきだったかも。
以上のような結果になりました。自由騎士達の勝利です。
プレイングから各キャラの様々な思いが伝わってきました。それが上手く表現できたのなら、幸いです。
MVPは騎士を倒したジーロン様に。覚悟とプレイングあっての結果です。
それではまた、イ・ラプセルで。
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