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【レガート砦】SpyMisson! 欺き欺かれて――



●レガート砦
「キミがイ・ラプセルからの亡命者か?」
「あ、はい。レティーナっていいます」
 レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)は机を挟んで座って言う男に向かって、愛想笑いを浮かべる。ヴィスマルク軍人の制服を着た男性キジン。見た目の年齢は30後半ほどだろうか? がっしりした体躯と強面ともいえる顔。一言で言えばスキがない。
 モーリッツ・ディークマン。階級は大佐。このレガート砦の責任者だ。レティーナは脳内で情報を再確認し、口を開く。
「あの、ぼーめー? 戦争のない場所に行きたいんですけど、そのヴィスマルクさんは強いから守ってくれるんですよね?」
「どうだろうな。役立たずを囲う余裕はないぞ」
「あ。大丈夫です! 元ヘルメリアの奴隷なので、いろいろできます。機械とかもメンテ出来ます」
「……ふむ」
 ディークマンの機械の義眼が射貫くようにレティーナを見る。沈黙が場を支配した。精神的に重い時間が流れ、それを破ったのはディークマンだ。
「情報があると聞いたが?」
「はい! イ・ラプセルのお人がニルヴァンから離れて国境沿いで滞在しているそうです。物見櫓を作るとかで」
「確かだろうな?」
「う、嘘は言いませんよ。疑うなら調べてください、場所は――」
 ウソではない。実際にイ・ラプセルはそこに物見櫓を作っているのだ。――レティーナの信頼を高めるための、失敗前提の作戦だ。
「分かった。調べてみよう。嘘だった場合はその場で射殺する」
「ありがとうございます。……あの、それでですね。実はこちら側に来たい人がまだいまして。その人達も色々あってイ・ラプセルを裏切りたい人達で――」

●反客為主(客ヲ返シテ主ト為ス)
 時間は遡る――
「皆さんには『イ・ラプセルを裏切ったオラクル』になってもらいます。
 あ、実際に裏切るんじゃなくて、そういうフリをするという事で」
 レティーナがレガート砦に潜入する前に、自由騎士達は打ち合わせをしていた。
「所属に関しては傭兵と偽ることも考えましたが、バレた時のリカバリーが怖いので最初からばらしておいたほうがいいです。オラクルであることはすぐにばれますし、印の色も調べられれば一発です。隠さずに堂々とした方が、まだ成功率は高まります」
 レティーナの言葉に不安を感じる自由騎士達。秘密を暴露することは、情報戦において敗北なのでは? だがそれは逆である。こちらから情報をコントロールして出せる状況こそが大事なのだ。致命的な情報さえ漏らさなければ、再起はできる。その致命的というのは――
「はい。レガート砦内のヴィスマルク軍人から信頼を得て、砦の弱点を得るためです」
 それがこの作戦の目的。そうやって情報を得て、橋頭保としてレガート砦を確保するのだ。だが、当然一筋縄ではいかない。先ず懐に入ることが重要なのだ。
「だが……自由騎士だとばらして、ヴィスマルクが信用するわけがないとおもうぞ?」
 相手も馬鹿ではない。国を裏切った相手を言葉通りに信用はしないだろう。
「はい。なので『手土産』が必要です。イ・ラプセルで進行中の作戦を止めて、その重要人物を捕らえれば、最低限の信頼は得られます。――あくまで最低限ですけど」
 レティーナが見せた紙には、ヴィスマルク国境で作成中の物見櫓と、それに携わる人たちの名前が書かれていた。
『作戦指揮者:ジョン・コーリナー』
『従軍医師:サイラス・オーニッツ』
『護衛兼肉体労働:アミナ・ミゼット』
 その他、作業員達の名前である。
「……これ、当人たちは知っているのか?」
「勿論です。拷問されるかも、という所まで含めて。あと捕らわれる際にヴィスマルク兵に殺されるかも、という所まで含めて了承しています。
『皆様が無辜の民を犠牲にすることに難色を示されたので、その分人数の価値をあげてカバーしました』……というのが先生の言葉です」
 レティーナが言う『先生』というのはジョンのことである。
「色々思う所はあると思いますが、そういう作戦だと割り切ってください。
 大丈夫です。失敗したら別の案をするだけですから」
 それはヴィスマルクの村を焼くか、大軍を囮に封鎖作戦をするかだ。そちらはそちらで気が重い。
 こうして、レガート砦攻略の楔を打つための作戦が、動き出す――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
交渉
担当ST
どくどく
■成功条件
1.ヴィスマルクから一定の信頼を得る
 どくどくです。
 このシリーズは全3回のシリーズ物です。そこで得られた情報を元に、ヴィスマルク領レガート砦攻略を行うことになります。
 本シナリオ参加時、次回同タグの依頼の参加優先権が得られます。

●説明っ!
 レガート砦の情報を得るために、イ・ラプセルで軍事経験のある傭兵として近づこうとします。その為に一定の信頼獲得の必要があります。
 潜入組の信頼を確保するために、ジョン・コーリナーを始めとした自由騎士達はヴィスマルク国境沿いに物見櫓を建てようとしています。敢えて密告して襲撃させ、傭兵として潜入する自由騎士達の信用度をあげる為に。
 ただし、下手をすれば信用を得ることはできません。ヴィスマルクの軍人が監視しているからです。彼らに疑われないように戦ってください。

●イ・ラプセルNPC
 亜人平等という非現実的なスローガンで亜人達をこき使う悪辣非道なイ・ラプセルの自由騎士です。本気の抵抗を示す意味も含めて、アニムス復活してきます。
 戦闘後の状態により、『点数』が変化します。

・ジョン・コーリナー(点数:生存5/死亡5/逃亡-10)
 ノウブル男性。物見櫓作製の責任者です。故に重要度は高いです。ガジェット使いですがあえて使わずにガンナーとして投げナイフで戦います。
 戦闘開始から21ターン以上経過すると(これ以上留まると不自然なため)逃亡します。
『ウェッジショット Lv3』『ブレイクゲイト Lv3』『サテライトエイム Lv3』等を活性化しています。

・サイラス・オーニッツ(点数:生存2/死亡6/逃亡-5)
 ノウブル男性。ペストマスクをつけた従軍医師です。医療用の手斧でぶった切ってきます。医者とは? ペスト医師軍団という装甲歩兵相応(ブロック4名)と共に戦います。
 参加者側自由騎士の戦闘不能者が6名を超えると(これ以上留まると不自然なため)逃亡します。
『ハーベストレイン Lv4』『リバースドレイン Lv3』『スカーレッド Lv3』等を活性化しています。

・アミナ・ミゼット(点数:生存7/死亡1/逃亡-7)
 ノウブル女性。褐色の南国部族です。ダンサーの伝え手という事でそれなりに重要度高め。彼女が生存してヴィスマルクに捕まった場合、展開次第でヴィスマルクにダンサースキルが伝授される可能性があります。
 基本的に逃亡しませんが、参加者側が指示すれば(不自然じゃないように)逃亡します。
 仲間の南方部族という歩兵隊相応(ブロック3名)と共に戦います。
『獅子吼 Lv3』『影狼 Lv3』『サンシャインダンス Lv4』等を活性化しています。

・工作員(×5)(一人につき 生存1/死亡1/逃亡-1)
 物見櫓を作っていた工作員です。重要度は高くありませんが、逃がして好ましいものでもありません。
 戦闘開始と同時に逃げだします。HPに1点でもダメージを受ければ死亡します。
 砦潜入作戦内容の事は知らないため、拷問されても致命的な情報が洩れる事はありません。

※NPCが装備している兵士達は、特に言及がなければ上手く逃げおおすことができます。点数には影響しません。

●ヴィスマルクNPC
・オットー・ベルネット(×1)
 ヴィスマルク軍人。オラクル。曹長。30代男性。蒸気騎士スタイル。モットーは『遊びの間に仕事をする』。仕事態度は適当ですが、見るべきところは見ています。
 役割は参加者自由騎士達の見張りです。戦闘は基本(参加者の)自由騎士達に任せますが、点数が-10以下になると味方前衛にやって来て参戦します。彼の攻撃には明確な殺意があります。
『ヴォーパルソード Lv3』『ウォークライ Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。

・ヴィスマルク兵(×5)
 ベルネットの部下です。非オラクル。ベルネットの参戦と同時に味方後衛に配置されて、攻撃を開始します。彼らの攻撃には明確な殺意があります。
『ダブルシェル Lv2』『サテライトエイム Lv2』を活性化しています。

・レティーナ・フォルゲン
 ベルネットに付き添うネズミのケモノビト。戦闘には参加しません。
 点数が-20以下になった瞬間に、参加者自由騎士達に活を入れる名目でヴィスマルク兵に殺されます。「こうなりたくなかったら、気合入れてやりやがれ!」……という感じに。

●点数
 ヴィスマルク兵の信頼を数値化したモノです。戦闘終了時にこの点数が0以上ならベルネットの信頼を得て、依頼成功です。点数が高ければ、次のシナリオに有利な影響があります。
 重要NPCの戦闘終了時の状態により増減します。生存と死亡は戦闘不能になったタイミングで加点。逃亡は、逃亡が成立した瞬間に減少されます。
 また、2ターン毎に1点減少します。参加者自由騎士がヴィスマルク兵を攻撃、或いは行動を阻止するたびに5点減少され、一人でも殺せばその時点で依頼失敗です。
 とはいえ普通に戦って倒せばまず負けませんし、点数もマイナスにはなりません。難しく考える必要はありませんよ。ああ、なんて優しいSTなんでしょう!

●NPCの死亡について
 どくどくは皆様のプレイングに照らし合わせて、粛々と結果を書くだけです。

●場所情報
 イ・ラプセルとヴィスマルクの国境付近にある草原。時刻は夜。未完成の物見櫓に灯る明かりが光源となります。戦闘行為に大きなマイナス修正はありませんが、逃亡にプラス修正が付きます。
 戦闘開始時、敵前衛に『アミナ(ブロック数合計4名)』『サイラス(ブロック数合計5名)』が、敵後衛に『ジョン』「工作兵(×5)』がいます。ヴィスマルク兵達は、最初は戦闘範囲外で参加者自由騎士達の戦いっぷりを監視しています。
 事前付与は不可。ちんたらやってたら逃げられるという事で。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  4個  4個
7モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2020年06月26日

†メイン参加者 8人†




「喉を焼く薬は止めた方がいいでしょう」
 作戦前に出された『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)の提案に、ジョンはそう助言する。
「ヴィスマルクは『情報を話す可能性がある』から生かすので、そうでないなら容赦なく命を奪いかねません。最前線の軍事拠点が私達を治療するリソースを割くかどうかの判断は五分五分でしょう。事、回復役であるオーニッツ氏は今後のことを考えて容赦なく処断されかねません」
 四肢切断用の斧を振るうペストマスクが回復役と思われるかどうかはともかく、ジョンの意見には説得力がある。ニコラスはしゃーない、と納得した。


「どうせ戦うなら、勝てそうな方につくのが利口ってもんでしょ」
『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)はヴィスマルクの兵士達にそう告げる。ミズビトであるルエは何処に行ってもノウブルに差別される。亜人平等を謳うイ・ラプセルでも戦いに駆り出されるのだ。ならば勝てる側につくのは道理だ。
「イ・ラプセルよりもヴィスマルクの方が装備が充実してそうですし」
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)もヴィスマルクにそう言い放つ。元ヘルメリア人で蒸気騎士であるロザベルはその生まれもあって蒸気機関の扱いに長けている。そういった技術の軍事需要が高い国につくのは道理であった。
「傭兵だからな。雇用期間が切れれば次のクライアントを探すまでだ」
 ヴィスマルク兵に冷徹に告げる 『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)。これまでイ・ラプセルに尽くしてきたのは傭兵として金を積まれたからであり、その契約が終わった以上は尽くす義理もない。むしろイ・ラプセル時代の実績はアピール材料になる。
「雇い主の顔を立てて成果を見せてきたが……いよいよ駄目だな、あの国は。ヴィスマルクとパノプティコンの両国を相手に二正面作戦をする腹らしい。流石にこれ以上付き合いきれん」
 無茶な作戦を敢行する国を見限る。傭兵としてもっともらしい理由だった。
「騎士の忠義に生きる事が、命を救ってくれるわけでもありませんので」
 フリオ・フルフラット(CL3000454)の言葉は、彼女自身が抱いたことのあることだ。戦争は人が死ぬ。高潔な精神性が、死から自分を守ってくれるわけではない。それはフリオ自信が十分に理解していた。
「優しいだけじゃ満たされないからです。そうゆう風に、育てられたんです」
 言って楽器を握る『虚実の世界、無垢な愛』蔡 狼華(CL3000451)。残酷な世界で生きるには精神もそれに染まらなくてはいけない。そんなヒトが平和な世界で順応できるはずがない。狼華の言葉は、ヴィスマルク兵にも納得できた。
「ヴィスマルクは実力主義なんだろう? 俺の性分に合ってるんでね」
 扱いなれた銃を振るい、『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は笑みを浮かべる。強いヤツと戦いたい。元より国への忠義などなく、それだけが目的で軍役についていたのだ。ならば実力が認められる場所に行くのは当然の流れであった。
「徹底的にやりますよ」
 魔力増幅用の指輪を身につけながら『か弱いうさぎさんですよぉ』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は頷いた。錬金術は人体も研究範囲。その壊し方なら十分に理解している。言葉通り、徹底的にやるつもりだ。
「おーおー、大したもんだ。期待してるぜ」
 見張りに来ているベルネットはイ・ラプセルのやる気をみて頷いていた。最も、素直に受け取ったわけでもないだろう。一定の距離感と疑惑を感じる声質。
 だがそれは正しい。自由騎士達もヴィスマルクに与するつもりはない。侵入作戦のための演技だ。
 かくして、レガート砦攻略の布石を打つべく、自由騎士達は仲間の自由騎士達に挑む。


「敵襲です。作業員の人達は逃げてください!」
「逃がさへんよ」
 真っ先に敵陣に切り込んだのは狼華だ。立ちはだかるアミナに向かい、笑みを浮かべる。ヴィスマルク兵の前では見せなかった口調で語りかけ、間合いを測るように足を動かす。本気で倒すところを見せないと、ヴィスマルク達に疑われかねない。
 そういうった建前もあるが、狼華はアミナと本気でやり合いたいという欲望もあった。南方海域の踊り子とアマノホカリの舞。どちらが踊り手として上なのか。ここで白黒つけよう。リズムに合わせて三味線を奏で、それに合わせて攻撃を加えていく。
「お手並み拝見、と行きましょか」
「やるんなら本気でいくよっ!」
「これも仕事だ。結果的にだます形になったが、謝罪はしない」
 サイラスが動くより先にアデルがその動きを制するように立ちまわる。サイラスが指揮するペストマスク集団に囲まれないように動き回り、槍を振るって戦況をコントロールする。どうされれば一番困るか。歴戦のアデルからすれば、手に取るようにわかる。
 視覚、聴覚、嗅覚……五感をフルに活性化させ、相手の動きを追う。大事なのは一瞬の情報。そしてそこから相手がどう動くかを予測すること。至近距離での攻防は情報の読み合いだ。コンマ5秒ですら遅いと呼ばれる時間の中、アデルは愛用の槍を振るう。
「裏切り者には容赦はしない。新しい検体が増えれば医学も発展するしな」
「酷い医者もいたモノだ。やはりあの国を裏切って正解だったようだな」
「ええ。危うく実験動物にされる所でしたわ」
 アデルの言葉に同調するようにティラミスが頷く。ノウブルの医者が非人道的な実験をケモノビトに施す。そんな都市伝説は何処にでもある。ましてやサイラスは見た目が怪しい相手だ。そんなデマを流されても文句が言えない。
 体内で循環する魔力を一点に集中させる。大事なのは強いイメージ。鋭く貫くような円錐の形をイメージし、魔力を解き放っていく。螺旋を描く魔力は先細る様に鋭くなり、その先端で貫くようにティラミスは魔力を解き放つ。
「でも残念。検体にされるのはサイラスさんです」
「戦いに負けて生きてるんだ。文句は言わせねぇぜ」
 言って笑みを浮かべるアン。アンにとって戦いは生死を分けるものだ。勝者は顔をあげて生き残り、敗者は地に伏して死に絶える。その覚悟あっての戦場だ。容赦なく殺してもいいが、今は生かすのが作戦だ。
 息を吸い、そして吐く。それだけでアンの体内全てが『決闘』の状態に入れ替わる。目に映る敵すべてを見ると同時に銃を握った手が動く。矢次の銃声が戦場に響いた。一秒にも満たない間に撃たれた十回近くの発砲音。生きるために戦うアンが得た、神速の早撃ち。
「先ずはあいさつ代わりだ。とっときな!」
「まさか……一瞬で全員を倒すなんて……!」
「よそ見をしている余裕はないよ」
 驚くサイラスに切りかかるルエ。仲間に剣を向けるのは正直気が重いが、そういう作戦であるため仕方なかった。全部終わったら謝罪しに行こう。それまでは心が痛むがヴィスマルクの為に戦うしかない。
 倒すなら回復役から。そのセオリーに従ってルエはサイラスに切りかかる。魔力を練って自らの影を立体化させ、『アイス・ファルシオン』に纏わせる。影に宿った魔力が刃に纏わりつき、強化された剣をサイラスに向けて振るう。
「手は抜かない。不殺の権能を持っている俺達が倒した方がいいだろうしな」
「というわけでやってやります!」
 いうなりサイラスに接近するロザベル。自由騎士に入団してまだ間もない状況での裏切りは気が引けるが、逆に名前があまり有名ではないから自由に動けるという事もある。名声は一長一短。それを自覚してどうするかが問題だ。
 サイラスを逃さないように追い込みながら、蒸気騎士の駆動系にある弁を開放していく。暴走するかのように加速していくタービン。それが臨界を突破し、サイラスを巻き込んでロザベルともども大爆発を起こした。
「安全装置解除! オールライフチェンジド! エクスプロージョン!」
「一気に決着をつけるであります!」
 爆発で一気に体力を削られたサイラスにフリオが向かう。弱った状態の回復を放置するのは、流石に怪しまれる。ここで一気に倒し切り、流れをこちらに引き寄せるのだ。時間をかければヴィスマルクが参入しかねないため、速攻あるのみだ。
 武器を手にして一気に敵陣に迫り、息を吸う。足の位置、腰の位置、肩の位置、腕の位置。その全てが一つとなって同時に力を伝達させる。文字通り、体全てで討ち放つフリオの一撃はまさに嵐の如く。吹き荒れる烈風が敵陣で荒れ狂った。
「イ・ラプセルのサイラス・オーニッツ、討ち取ったであります!」
「んじゃ、次はアミナだな。その前に回復しとくぜ」
 倒れ伏したサイラスを確認し、ニコラスは頷いた。ここで冷静に処置しておかなければ、裏切り行為を疑われかねない。毒を食らわば皿まで。ヘルメリア時代の工作兵の経験が生きていた。心の中に一枚壁を置いて、冷静な自分で判断する。
 戦場を見回して最も傷ついているロザベルを癒すべく魔力を展開する。『不浄の鍵剣』を握りしめ、空気中のマナを取り入れて自分の体内のマナと組み合わせた。ニコラスの混合する魔力が癒しの力となって解き放たれる。
「完全回復……とまではいかなくても、一時しのぎにはなりそうだな」
 ぶつかり合う自由騎士達。勝利の天秤は、大きく揺れていた。


 自由騎士達は初手から全力で攻めていた。時間経過がヴィスマルクに強さを示すこともあり、その動きは手際よい。
「ぐ……っ! まだ、だ」
「さすが、アミナさんでありますね」
 ルエとフリオがアミナの一撃を受けて膝をつく。ルエはフラグメンツを燃やして立ち上がり、フリオはそのまま崩れ落ちる。
「ここまで、ですか」
 そして自らを中心に爆発を起こしたロザベルはジョンのナイフを受けて意識を刈り取られる。回復こそ受けたが、やはり自爆のダメージは大きかったようだ。
「未来を先読みして……ってそれは卑怯だと思います!」
 未来視を使って行動を先読みして戦うティラミスは、突如目の前に迫ったアミナの手のひらの未来に驚く。『未来を読む』相手への対策として、視界を塞いで情報を制限したのだ。ならばその手のひらを押さえればいい……と考えているころには時間は経過している。
「野生の戦術か。そういうのが一番恐ろしいんだよなっと!」
 アミナの戦術に笑みを浮かべるアン。蒸気機関に頼らない戦いをするアミナは、アンの常識外の動きを平気でやってくれる。弾丸を避ける為に地に伏せ、そのまま獣のように身を伏せて疾駆する。やりにくい、からこそ戦いがいがある。
「もとより加減のできる相手ではない。囲んで逃げ道を塞いで攻め立てる」
 動き回ることで的を絞らせないアミナに対し、冷静に対処するアデル。アミナやジョンがこちらを知っているように、こちらも二人の戦術は熟知している。動く範囲を制限し、追い詰めるのだ。
「すまんなぁ。少し血ぃいただくで」
 動き回るアミナの背後をとった狼華はそのまま足を払ってアミナのバランスを崩して、抱える。そのまま口を開けて、アミナの首筋にかみついた。鋭い牙がアミナの頸動脈に突き刺さり、生命力あふれる血液を吸い上げる。吸血の脱力感で、アミナは気を失った。
「動きを封じさせてもらうよ」
 低温の刃を振るうルエ。魔力を刃に乗せ、ジョンに向かって刃を振るう。魔剣士の力が刀身からジョンに流れ込み、無明の奈落となって動きを封じる。焦るな、と自分に言い聞かせながら呼吸を整えた。
「んじゃ、俺も攻めさせてもらうよ」
 これ以上の回復は不要と判断したニコラスは、魔力の矢を放ってジョンに攻撃を仕掛ける。できるだけ相手を早く倒し、ヴィスマルクからの信頼を得る。ここで不審に思われれば囮になる者達の犠牲が無駄になるからだ。
「これは……逃げるタイミングを逸しましたね」
 投げナイフを振るいながら、ジョンがそんなことを言う。周りは完全に囲まれ、逃亡することは難しい。勿論そういう演技なのだが。ともあれ自由騎士達は確実に相手を追い込んでいく。
「これでお終いだよ」
 大型拳銃を構えたアンが終わりを宣言する。言葉を放った時にはすでに引き金は引かれており、弾丸はジョンの腹部に命中していた。衝撃でよろめく相手を見ながら、アンは銃口から昇る煙を吹いて消した。
「悪くなかったよ。次はタイマンでやってみたいね」
 満足したというアンの笑み。その言葉が、戦いの終了を告げた。


 戦いが終わったのを確認し、ヴィスマルク兵がやってくる。
「すげーなお前ら。もう終わったのか。しかも全員ひっ捕らえたか」
 蒸気騎士の鎧をガシャガシャ揺らしながら歩いてくるベルネット。倒れている面々を見たあとで、自由騎士の方を見て笑みを浮かべる。好意的な表情はかなりの信頼を得たようだ。
「ところで、なんでこの女だけボロボロなんだ?」
 そんな中、ベルネットはアミナだけが大怪我を負っているのをティラミスに問い詰めた。ティラミスが執拗に痛めつけているのを遠くから見ていたのだ。
「予想以上に抵抗が激しかったので。念入りにやっておきました」
 本当はダンサースキルがヴィスマルクに伝わるのを恐れての行動なのだが、それを口に出すわけにはいかない。ティラミスは疑われないように言葉を紡ぐ。事実、アミナの抵抗は激しかったわけだし。
「この女には教えてもらうことがあったらしいんだけど、これじゃなぁ……」
 重傷を負ったアミナを見て『これはどうしようもねぇな』と渋い表情を浮かべた後に、
「ま、そういうことなら仕方ないか。『抵抗できないように』身体を痛め続けておかないとな」
 ベルネットの言葉にヴィスマルク兵たちが下卑た笑いを浮かべる。南方舞踏を教えることが出来ない無価値な『女』をどう扱うか。その笑みが証明していた。
「イ・ラプセルは亜人等をこき使う国です。捕虜を使い潰すよりは、身柄が無事なら交渉の材料になる事も多いと思います」
「わーってるわーってる。殺しやしないって」
 フリオが助け舟を出すが、ベルネットは受け流すように同意する。どの道、捕虜をどう扱うかはヴィスマルクが決める事だ。これ以上の口出しは疑いを増すことになりかねない。
「よし、撤退だ。櫓に火を放って、こいつらは回収。モタモタすんなよ!」
 ベルネットの指示の下、ヴィスマルク兵が破壊活動を開始する。
 その間に捕虜を縛って護送車に乗せ、自由騎士達はベルネットの蒸気自動車で護送される。これも監視の一環なのだろう。
「いやー、お前らホント凄いわ! 容赦ないうえに強いし、すぐに出世できるんじゃねぇか。
 何人かはコッチでも名前が聞こえてるぜ。大したモンだ」
 アデルやニコラス、そして狼華の名前はヴィスマルクにも伝わっていたようだ。それを確認し、膝を叩いて喜ぶベルネット。
「そんな、ヴィスマルクにはかなわないですぅ」
 言いながらヴィスマルク兵に抱き着くティラミス。豊満な胸を押し付け、その反応を測っていた。ケモノビトの色仕掛けに反応したのは、ごく一部かな、という感触だ。
「海軍……竜牙艦隊のロミルダ・アンテスを知っているか?」
 そんな中、アンがベルネットに問いかける。
「ああ。ラッパ銃のキジンねーさんか。今は新型兵器の護衛をしてるんだったか。そいつがどうした?」
「いや、生きているならそれでいい。いずれ決着をつけなくちゃな」
 満足した、とばかりに手を振るアン。脳裏に浮かぶヴィスマルク海軍大尉に言葉なく笑みを浮かべていた。
「お前らほど強かったらすぐに軍に入れるぜ。裏切りモンや傭兵団が成り上がるのもよくある事だからな」
「フォートシャフト傭兵団、とかか?」
 ベルネットの言葉に反応するアデル。彼を知る者なら、その言葉にいつも以上の熱がこもっていることに気付いただろう。
「おう。やたら仕事をこなす傭兵団だったからな。運が良ければ顔ぐらいは見れるかもしれないぜ」
「そうか。それは楽しみだ」
 言ってアデルは沈黙する。それ以上語ることはない。言葉通り、会えるのが楽しみだ。
 自動車はレガート砦の門をくぐり、その中に入る。

 ――自由騎士達は一定の信頼は得た。
 ここからが、作戦本番である。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
総点数10点。十分な信頼を得たので、次回の捜索範囲が大幅に増します。
どくどくの想定は『工作員は逃がして、ヴィスマルク介入するかしないかぐらいで誰かを倒す』だったので、ベルネット待ちぼうけ。

MVPは裏切りに際して一番納得できる理由を提示したハビッツ様に。
ですよねー、って納得してしまいました。

ともあれ潜入開始です。
皆様の頑張りに期待しています。
FL送付済