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Invisible! 収容所潜入ミッション!

●
――ドルヒ収容所(ラーゲリ)。
ヴィスマルク南方に位置する収容所で、北方ほどの苛烈さこそないがヴィスマルクが侵略した国の重要人物や反抗勢力者などが収容されている場所である。
此処に送られた収容者の末路は三つ。鉄道で北方の収容所に送られて、冷える大地での強制労働か、軍役に服して雑兵として扱われるか、拷問と強制労働の末に土に還るか。
「いやはや。アミナさんが踊りの技術を教えてくれたおかげで、時間が稼げましたね」
ドルヒ収容所に送られたジョン・コーリナー(nCL3000046)は拷問で傷ついた体を起こしながらそう言った。ヘルメリアの諜報部で生き、反奴隷組織の実行犯として暗躍していた身だ。この程度の拷問はまだ耐えられる。
とはいえ、他の者はそうでもない。アミナ・ミゼット(nCL3000051)は傷が快癒すると同時に、ダンサーの技術を伝授することを条件に安全を確保させた。そしてもう一人――
「包帯がない? 仕方ない。マントを切って代用しよう。湯を沸かして洗った後に使用するんだぞ。あと清潔な水は常に確保しておこう」
そしてサイラス・オーニッツ(nCL3000012)はと言うと、医者の技術をアピールして収容所内の怪我人を癒していた。収容者だけではなくヴィスマスク兵士も癒しているため、兵士も表立っては何も言わない。
「私の方は後回しでいいですよ。まだ余裕はありますので」
「キミもガジェット技術を売ればいいだろうに……と、こうなることを考慮して、あの時はガジェットを持っていなかったのか」
「ええ、まあ。しかし楽観はできませんね。兵士の話を聞く限りでは、来週あたりに大輸送があるようです。そうなれば北の収容所に送られて強制労働でしょう。
それまでに『外』で動きがあればいいのですが」
ジョンは痛む箇所を押さえて、ため息をつく。
当たり前だが、中からの脱出は不可能だ。武器もなく、兵士の数も多い。脱走を塞ぐために兵士達は目を光らせ、お手上げである。
だが兵士の目は『収容所内』に向けられている。それ以外の場所で騒動が起きれば、隙は生まれるかもしれない。
●
派手な音が響き、戦闘音が聞こえる。
ドルヒ収容所を攻めている自由騎士達と収容所を守るヴィスマルク兵との戦闘音だ。兵士達の視線があちらに向かっている間に、こちらは収容所に潜入して中に居る人達を解放しなければならない。最低でも、イ・ラプセルから捕らわれた者達だけは。
その為に超えなければならない事項が、三つある。
一つは侵入。高さ3mの収容所の壁を気付かれずに越え、中に侵入すること。誰か侵入すれば、見張りの隙をついて扉を開けて誘導は可能だ。
もう一つは鍵の捜索。収容所の牢屋を封鎖する鍵がある場所を探し、それを奪取するのだ。
最後に囚人たちの解放。ドルヒ収容所に収容されている囚人を解放するなら、それなりの騒ぎを起こす必要がある。火事のような派手な騒ぎ等だ。囚人たちを説得して暴れさせてもいいだろう。攻められている状況なら、隙に乗じて全員逃げることもできるはずだ。
とはいえ、最後のは必須条件ではない。最低限、イ・ラプセルの囚人だけ解放できればいい。
作戦はできるだけ隠密に、そして大胆な行動と発想が求められる。剣や銃では解決できないスマートさが。
貴方はこの作戦に――
――ドルヒ収容所(ラーゲリ)。
ヴィスマルク南方に位置する収容所で、北方ほどの苛烈さこそないがヴィスマルクが侵略した国の重要人物や反抗勢力者などが収容されている場所である。
此処に送られた収容者の末路は三つ。鉄道で北方の収容所に送られて、冷える大地での強制労働か、軍役に服して雑兵として扱われるか、拷問と強制労働の末に土に還るか。
「いやはや。アミナさんが踊りの技術を教えてくれたおかげで、時間が稼げましたね」
ドルヒ収容所に送られたジョン・コーリナー(nCL3000046)は拷問で傷ついた体を起こしながらそう言った。ヘルメリアの諜報部で生き、反奴隷組織の実行犯として暗躍していた身だ。この程度の拷問はまだ耐えられる。
とはいえ、他の者はそうでもない。アミナ・ミゼット(nCL3000051)は傷が快癒すると同時に、ダンサーの技術を伝授することを条件に安全を確保させた。そしてもう一人――
「包帯がない? 仕方ない。マントを切って代用しよう。湯を沸かして洗った後に使用するんだぞ。あと清潔な水は常に確保しておこう」
そしてサイラス・オーニッツ(nCL3000012)はと言うと、医者の技術をアピールして収容所内の怪我人を癒していた。収容者だけではなくヴィスマスク兵士も癒しているため、兵士も表立っては何も言わない。
「私の方は後回しでいいですよ。まだ余裕はありますので」
「キミもガジェット技術を売ればいいだろうに……と、こうなることを考慮して、あの時はガジェットを持っていなかったのか」
「ええ、まあ。しかし楽観はできませんね。兵士の話を聞く限りでは、来週あたりに大輸送があるようです。そうなれば北の収容所に送られて強制労働でしょう。
それまでに『外』で動きがあればいいのですが」
ジョンは痛む箇所を押さえて、ため息をつく。
当たり前だが、中からの脱出は不可能だ。武器もなく、兵士の数も多い。脱走を塞ぐために兵士達は目を光らせ、お手上げである。
だが兵士の目は『収容所内』に向けられている。それ以外の場所で騒動が起きれば、隙は生まれるかもしれない。
●
派手な音が響き、戦闘音が聞こえる。
ドルヒ収容所を攻めている自由騎士達と収容所を守るヴィスマルク兵との戦闘音だ。兵士達の視線があちらに向かっている間に、こちらは収容所に潜入して中に居る人達を解放しなければならない。最低でも、イ・ラプセルから捕らわれた者達だけは。
その為に超えなければならない事項が、三つある。
一つは侵入。高さ3mの収容所の壁を気付かれずに越え、中に侵入すること。誰か侵入すれば、見張りの隙をついて扉を開けて誘導は可能だ。
もう一つは鍵の捜索。収容所の牢屋を封鎖する鍵がある場所を探し、それを奪取するのだ。
最後に囚人たちの解放。ドルヒ収容所に収容されている囚人を解放するなら、それなりの騒ぎを起こす必要がある。火事のような派手な騒ぎ等だ。囚人たちを説得して暴れさせてもいいだろう。攻められている状況なら、隙に乗じて全員逃げることもできるはずだ。
とはいえ、最後のは必須条件ではない。最低限、イ・ラプセルの囚人だけ解放できればいい。
作戦はできるだけ隠密に、そして大胆な行動と発想が求められる。剣や銃では解決できないスマートさが。
貴方はこの作戦に――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ドルヒ収容所内にいるイ・ラプセルの囚人の解放
どくどくです。
深く、静かに進行せよ――!
この依頼は『Jailattack! ドルヒ収容所陽動作戦!』と同時期に発生しています。その為、片側の依頼に入られた方はこちらの依頼に参加することはできません。
参加費などの返還はできませんので、ご了承のほどお願いいたします。
●説明!
ドルヒ収容所に捕らえられたイ・ラプセルの人間を救う作戦です。陽動として正面から収容所を攻め、その隙をついて侵入していきます。こちら側は潜入側です。
●障害
・収容所の壁
ドルヒ収容所を取り巻く壁です。高さは3m。陽動作戦が行われているため、見張りの数は減っていますが皆無ではありません。工夫なしで物質透過や飛行などで侵入すれば、見つかる可能性はあります。
誰か一人が壁を超えられたら、中から扉を開けて(見張りの兵士は『倒す』宣言だけで倒せます)、全員を招き入れれます。
・鍵捜索
収容所内に入り、牢屋の鍵を探します。鍵がある部屋には兵士が3名常駐しており、これを音を立てずに倒すか、どうにかして移動させる必要があります。
兵士達は何かあれば警報を鳴らすでしょう。
・囚人解放
イ・ラプセルの囚人を見つけることはそう難しくありません。すぐに全員見つかるでしょう。最低限彼らを。望むのなら捕らわれている囚人全てをここから逃がします。
囚人たちを解放するために、大きな騒ぎを起こします。火災などの災害や、囚人に暴動を起こさせると言った人災などです。派手に騒動を起こし、その隙に逃げだします。
陽動作戦に手を取られているため、ヴィスマルク兵も突如発生した災害に対処しずらいです。
★状況の補足
細かい状況(兵士が何人いる? 廊下の長さは? 見張りの頻度は?)を説明すると情報量が多くなり、その理解に時間がとられます。その為、提示する情報量自体は少なめとなっています。
その為、書かれていない事に関して、STは基本的に好意的に受け取ります。(スキルなどを使って)見張りを確認して行動する、と書かれていれば見張りに見つかることはありません。ですがいきなりここに都合のいいNPC(アレイスター等)が現れることはありません。
要はその方法(意訳すればプレイング)が重要となります。
●場所情報
ヴィスマルク領、ドルヒ収容所西門付近。時刻は夜。依頼開始時点で、肉眼で見える範囲にヴィスマルク兵はいません。
皆様のプレイングをお待ちしています。
深く、静かに進行せよ――!
この依頼は『Jailattack! ドルヒ収容所陽動作戦!』と同時期に発生しています。その為、片側の依頼に入られた方はこちらの依頼に参加することはできません。
参加費などの返還はできませんので、ご了承のほどお願いいたします。
●説明!
ドルヒ収容所に捕らえられたイ・ラプセルの人間を救う作戦です。陽動として正面から収容所を攻め、その隙をついて侵入していきます。こちら側は潜入側です。
●障害
・収容所の壁
ドルヒ収容所を取り巻く壁です。高さは3m。陽動作戦が行われているため、見張りの数は減っていますが皆無ではありません。工夫なしで物質透過や飛行などで侵入すれば、見つかる可能性はあります。
誰か一人が壁を超えられたら、中から扉を開けて(見張りの兵士は『倒す』宣言だけで倒せます)、全員を招き入れれます。
・鍵捜索
収容所内に入り、牢屋の鍵を探します。鍵がある部屋には兵士が3名常駐しており、これを音を立てずに倒すか、どうにかして移動させる必要があります。
兵士達は何かあれば警報を鳴らすでしょう。
・囚人解放
イ・ラプセルの囚人を見つけることはそう難しくありません。すぐに全員見つかるでしょう。最低限彼らを。望むのなら捕らわれている囚人全てをここから逃がします。
囚人たちを解放するために、大きな騒ぎを起こします。火災などの災害や、囚人に暴動を起こさせると言った人災などです。派手に騒動を起こし、その隙に逃げだします。
陽動作戦に手を取られているため、ヴィスマルク兵も突如発生した災害に対処しずらいです。
★状況の補足
細かい状況(兵士が何人いる? 廊下の長さは? 見張りの頻度は?)を説明すると情報量が多くなり、その理解に時間がとられます。その為、提示する情報量自体は少なめとなっています。
その為、書かれていない事に関して、STは基本的に好意的に受け取ります。(スキルなどを使って)見張りを確認して行動する、と書かれていれば見張りに見つかることはありません。ですがいきなりここに都合のいいNPC(アレイスター等)が現れることはありません。
要はその方法(意訳すればプレイング)が重要となります。
●場所情報
ヴィスマルク領、ドルヒ収容所西門付近。時刻は夜。依頼開始時点で、肉眼で見える範囲にヴィスマルク兵はいません。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2020年09月21日
2020年09月21日
†メイン参加者 6人†
●
「さーて、捕らわれのお姫様を助けに行きますか」
言って柔軟体操を始める『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。正面門の方から聞こえる戦いの音を聞きながら、笑みを浮かべていた。表でドンパチしている間に侵入する。こういうスリル溢れるシチュエーションは大好物だ。
「助けたらお礼に何してもらおうかな。楽しみだねぇ」
「お礼が出来る状態ならいいけど。拷問されてるみたいだからねぇ」
クイニィーの言葉にため息をつきながら『何やってんだよお父さん』ニコラス・モラル(CL3000453)は呟いた。ヘルメリアでの裏工作の経験。そこで見た拷問具を思い出す。脳みそと口以外はどうなっても構わないというコンセプトだ。
「最悪、カタクラフトかね。サイラスの旦那はマザリモノだからそうもいかないだろうが」
「ま、その時はその時だ。今は目の前の事に努力しようぜ」
『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は不安を払うようにそう言い放つ。実際、その懸念はあったが今はそれを気にしてもどうしようもない。現状、水鏡の情報で生きていることが確認されているのだ。
「潜入に失敗すれば、最悪俺たちも囚人の仲間入りだ。そうならない様にしなくちゃな」
「そうね。ここは敵地なんだから」
拳を握り、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は頷く。地の利も数もヴィスマルクが有利な状況だ。このチャンスも表で陽動を行っているからこその間隙。おそらく二度目はない。その事を心に刻む。
「戦いは最低限。隠密優先でいかなくちゃね」
「そうそう。演劇だと空から颯爽と侵入とかもあるんだけどね」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)はこの前観劇した話の内容を思い出す。難攻不落の城に現れる怪盗。虜の姫様を助け、手にしたレイピアで敵を討つ。それはそれで浪漫だが、今求められているのはそうではないのは解っている。
「気付かれずに潜入して、最後は派手に。……うーん、劇としては盛り上がりにかけるかな?」
「そこは仲間との感動の再開と言うシチュエーションで補うであります」
言って小さく頷くフリオ・フルフラット(CL3000454)。ドルヒ収容所に捕らわれている仲間達。作戦の為に危険を買って出てくれた人達を見捨てることなどできようか。彼らを救いだし、作戦を完全に終わらせるのだ。
「仲間が身を削って繋いでくれたこの機会……きっと、成し遂げましょうね」
頷き、収容所の壁を見る自由騎士達。
ミッションスタートの鐘は、静かに彼らの心の中に鳴り響いた。
●
「壁の向こうに見張りがいたら終わりだな」
「だね。見つかったらお終いだもんね」
ニコラスとカノンは瞳に魔力を宿し、壁の向こうを見る。迂闊に物質透過で中に入れば、巡回する見張りに見つかる可能性がある。見張りがいないタイミングはしっかり見張らないといけない。
「壁の向こうには誰もいないけど……誰も見ていないか、って言われると難しいな」
「陽動の方に兵士が向かってるけど、見張り台にはそれっぽい人がいるからねー」
陽動作戦が功を奏しているのか、兵士の数は少ない。だが見張りが皆無なのと言われるとそうでもない。注意は間違いなく陽動の方に向いてはいるが、見張り台に居る兵士がこちらを振り向かないとは限らない。
「んじゃ、あたしの出番だね」
言ってクイニィーは作製したホムンクルスを塀の中に投げ入れる。放物線を描くホムンクルスはそのまま塀の中に入り、中の様子を魂の繫がりを通してクイニィーに伝える。そのまま見張り台の兵士に近づき、その会話を聞く。
『イ・ラプセルがちょっかいかけに来たのか』
『戦車持ってきたみたいだけど、むしろお陰で不意を打たれずに済んだな。すぐに逃げ帰るさ』
『だな。どうやら居残り残業は終わりそうだ。朝からずっとなんで眠いぜ』
『俺もだ』
クイニィーは得た会話を仲間に伝え、見張りの集中力が落ちていることを確認する。音さえ押さえれば、何とかなりそうだ。
「じゃあ、行ってくるわ」
「それでは行くであります」
エルシーとフリオは、言って壁に向かう。エルシーはロープを壁に引っかけてから昇り、フリオは一気に跳躍して壁の上からロープを下す。二人は収容所内に足をつけ、周囲を確認する。闇を見通すエルシーの眼鏡で見渡すが、衛兵などがこちらに向かってくる様子はない。
「大丈夫よ」
マキナ=ギアを通して仲間に連絡を入れる。二人は周囲を警戒しながら仲間全員がロープを伝って降りてくるのを待った。
「第一段階突破ね。あとは――」
自由騎士達は見張りの隙を縫うようにして建物内に侵入する。途中で巡回する兵士を見つけるがやり過ごし、見つからずに倒せそうと判断したら不意を突いて倒す。
「悪いわね」
「使える者は使わせてもらうよ」
「ヴィスマルクの兵士って煙草臭い……」
倒した兵士から制服と兵装を奪い、ヴィスマルク兵に扮する自由騎士達。汗臭かったり煙草臭かったりと不満はあるが、これでイ・ラプセルの侵入がばれる可能性は大きく減った。
勿論、万全ではない。顔を見られれば怪しまれるし、ヴィスマルク兵しか知らない符牒で問われれば露呈しかねない。あくまで遠目から誤魔化せる程度の扮装だ。
「次は牢屋の鍵か」
「あたしが開けて回るってのは? エンペラーキー持ってる人はそれ使ってもいいし」
「それでもいいが、囚人全員を助けるとなると総出でやった方がいいだろう」
クイニィーの疑問に答えるニコラス。
イ・ラプセルの囚人だけを助けるならそれほど手間はかからないが、囚人全員となるとかなり手間になる。解放した囚人達に手伝ってもらうためにも、鍵はあった方がいい。
自由騎士達は警備室に足を運んだ。
●
鍵開けできるクイニィーとウェルス、そしてフリオは先行して牢屋に進み、そうでない者は鍵を管理する部屋に向かう。
「牢の近くにあると思うのよね。そうじゃないといろいろ不便だし」
というエルシーの予想通り、地下牢に下る階段の近くに管理室はあった。仲では兵士が話をしている。
「レイズ2枚。外大丈夫か?」
「レイズ2枚。さあな? 何かあればだれか飛び込んでくるだろう。それまでは見張りだ」
「俺は降り。そうだな。イ・ラプセルも流石に無駄だと気付いて帰るだろうよ」
中では三人の兵士がポーカーをしながら談話していた。
「鍵は……部屋の奥だな」
「警報用の装置も近くにある」
透視で部屋の中を見るニコラスとカノン。鍵を取るには、どうやっても見張りの前に姿を見せる必要がある。
「どうする? 殴って解決する?」
拳を握って小声で仲間と相談するエルシー。時間が惜しまれる状況では、素早い判断が望まれる。策がないなら力づくでいく。何もなく手をこまねいているよりは、その方がいいのは確かだ。
「三人いっぺんか。兵の練度によるけど、失敗した時のリターンが怖いな」
ニコラスは顎に手を当てて思考する。警報装置を壊すか、とも考えたが兵士はそれを止めるだろう。上手く不意を突かなければならない。部屋に入っていきなりの奇襲、で破壊で着なければお終いだ。
「ん。じゃあカノンが行くね!」
カノンは変装用の化粧をしていた。それで素性を誤魔化し、奪った兵士の衣装でヴィスマルク兵に成りすますつもりだ。ノックを二度して、部屋に入る。エルシーとニコラスもカノンに続いて中に入る。
「お? 交代の時間には早いけどどうしたんだ?」
「仕事が早く終わって間が開いたんでな。俺たちも混ぜてくれよ」
適当な理由をでっちあげるニコラス。とっさの二枚舌を信じたのか、ヴィスマルク兵の視界はカードを置いてあるテーブルに向く。適当に椅子を引き寄せ、座るように促した。
「いいぜ。楽しもうか」
「何ならその身体で払ってもらっても……ゴバハァ!?」
エルシーのセクシーな身体に鼻の下を伸ばした兵士に、見事な鉄拳が叩き込まれる。まあ台詞を言う前に殴るつもりだったので、都合がいいと言えば都合がいい。そのまま済し崩すように自由騎士達は襲い掛かる。
「な、お前らいったい!?」
「暫く大人しくしていてね」
倒して縛り上げた兵士達に猿轡をかませるカノン。そのまま牢屋の鍵を探し当て、懐に収める。ひと段落したが、安心はできない。交代時間になれば新しい兵士がやってくる。それまでにどうにかしなければ。
「急ぐぜ。時は金なりだ」
ニコラスの言葉に頷くエルシーとカノン。周囲を警戒しながら階段を下りる。
そして牢屋に先行していたフリオとクイニィーとウェルス。見張りを沈黙させて、かび臭い地下牢を進む。
「こういう風体の奴らを見なかったか?」
「……あんたらは?」
「おおっと、こいつは報酬の先払いだ。ヴィスマルクに見つからないうちに食べてくれ」
ウェスルの保存食を材料とした交渉により、捕まったイ・ラプセル囚人の居場所はすぐに見つかった。
「予期せぬ来訪だな」
「およ? 鬼驚き」
「外で何やら爆撃音がすると思いましたが、そう言う事だったんですね」
そこには先の作戦で囚われていたイ・ラプセルの囚人達がいた。
「…………よかったであります……!」
思わず出そうになる涙をぐっとこらえるフリオ。下手をすれば救出することが出来ず、別の意味で涙を流すことになっていたかもしれない。拷問などで心折れて敵対してだとか、殺されて還リビトとしてだとか。どくどくSTはこっそり舌打ちしていた――メタ終了。
「はろー、ジョン先生! クイニィーちゃんが助けに来たよー!」
手をあげて声をあげるクイニィー。とはいえ、ここは敵地。響くほどの大声ではない。慣れた動きで指先を動かし、牢屋の扉を開ける。囚人服は血にまみれているが、動くには支障がなさそうだ。それを確認して、言葉を重ねる。
「早速だけど、一働きしてもらうよ。派手に行くためにね」
「ほほう。何か案があるようですね。乗りましょう」
にやりと笑ったクイニィーの表情を見て、同じく笑みを浮かべるジョン。
フリオが連絡を取った自由騎士達と合流し、脱出までの行動をすり合わせる。奪ってきた鍵を分配し、最後の行動を開始する。
●
「やっぱりあったか」
ウェルスは一人、とある場所を探していた。他の囚人とは別の場所にあると思われる女性用の部屋だ。
「捕虜を道具ぐらいにしか思っていないヴィスマルクならあると思ったぜ。夜のお相手用の美女達を収めた部屋が」
リネン室から持ってきた毛布を手に、ウェルスは牢屋の鍵を開ける。中には女性だけではなく男性の捕虜もいたが、まあそれは些末だ。入ってきたウェルスに中に居た者達は警戒するように体を震わせる。
「おおっと、俺はヴィスマルクじゃない。イ・ラプセルの者だ。お前らを救いに来たぜ」
突然の言葉に呆然とする囚人達。
「救う?」
「ここから出て、自由にしてやる。その後は故郷に帰るなりどこかに逃げるなり好きにしろ。
何ならイ・ラプセルに亡命できるように伝手を作ってもいいぜ」
ウェルスの言葉が信頼できないのか、捕虜達の反応は薄い。だがそれを予想していたのか、ウェルスは言葉を続ける。
「もうすぐ捕虜達の暴動が起きる。それに乗じて逃げるんだ。
でかい『祭り』の始まりだぜ」
「逃げろ逃げろー!」
「西門が開いているらしいぞ! そこから逃げるんだー!」
「正面は戦争だ! そっちには近づくなー!」
地下牢から上がる声。雪崩れるように逃げていく囚人達。
「さぁ、君達はもう自由だよ! 早く外に出るんだ! 不当に拘束され抑圧された恨み、発散するチャンスだよ!」
囚人達を煽るクイニィー。牢屋の鍵を開けながら、中に居る人達を扇動して回る。ジョンにも説得を手伝ってもらい、効率よく暴動を起こせるように手伝ってもらった。
「火は分かりやすい恐怖の象徴です。混乱を生むにはうってつけかと」
「おー、さすが先生! あそこの部屋とかも燃やしても問題ないかな?」
「問題ないかと。大火災にならないように、注意は必要ですね。私達が逃げ損ねてしまいます」
知的興味心マシマシのクイニィーと、元スパイのジョンが悪だくみをするとこうなるのであった。
「成程! では遠く離れた場所に火災を起こせばいいのでありますね!」
何かを納得したフリオは、自らに換装された砲を撃ち放ち、収容所の別場所を爆破する。煙が上がって、そこに兵士達が集まっていく。陽動作戦も相まって、兵たちの統率はバラバラだ。それを通眼で見ながら、移動するフリオ。
「場所を特定されないために、移動してから次弾砲撃であります!」
こうやって次継ぐと砲撃で混乱を生んでいうフリオ。目的は場を乱すだけなので、敢えて誰もいない場所を狙って撃っていた。逃げるのとは逆の方向に兵士が集まれば、こちらも行動がしやすい。
「混乱させりゃいいんなら、基本は情報かく乱かね」
ニコラスはヴィスマルクの軍帽をかぶり、騒ぎに気付いた兵士達に話しかける。出来るだけ切羽詰まったような表情と様子で、混乱を生むように端的な言葉で。相手に判断させる間など与えない。重要なのは情報のコントロールをこちらが握ることだ。
「た、大変だ! 囚人達が逃げた! ヤ、ヤツの仕業だ!」
「ヤツ?」
「分かんないのか!? ああ、ちくしょうお前じゃ話にならない! 早く援軍を呼んできてくれ! 『ヤツ』で話が通じるヤツをな!」
混乱のままに走りだすヴィスマルク兵。それを見て安堵の息を撫でおろすニコラス。
「俺はヴィスマルクなんでもううんざりだー!」
ヴィスマルクの軍服を着たまま、逃げる囚人達を守るように動くカノン。それを聞いたヴィスマルク兵が銃を向けようとするが、それより先にカノンが叫ぶ。
「お前達もこのこの国には不満が多いっていってたろ!? 一緒に戦おうぜ!」
「え? 確かに言ってたけど、実際に逆らうのは――」
「貴様、我が国に対する叛意を持っていたのか!」
「お、お前だって出世できないって嘆いていたじゃないか! 貴族に嫌われてとかなんとか!」
「そ、それとこれとは関係ない! ともかくそこのケモノビトもろとm――」
「隙ありぱーんち!」
そんな会話の隙をついて、カノンは兵士に殴り掛かっていた。
「あれは……イ・ラプセルの名誉将軍!」
「『緋色の拳』がこんな所に……!」
兵士達は囚人達を誘導するエルシーの姿を見て驚きの声をあげる。その声に応えるように拳を振るい、兵士達の注目を引きつけていた。
「私はここに居るわ! イ・ラプセルの名誉将軍を討ち取りたいものは前に出なさい!」
「いいだろう。ドルヒ収容所所長であるこの私の鞭さばきを見せてやる。音よりも早い私の鞭を避けきれるかな」
「避けてみせるわ。そしてみんなを守る!」
――この後、エルシーと収容所所長の戦いは苛烈を極め、エルシーが勝利を収める。常に戦場にあり続けるエルシーが紙一重で勝利を収めた形だ。
「貴方も強かったけど、こっちも負けられないの」
●
かくして、囚人脱出の暴動の混乱を突く形で脱出する自由騎士達。
逃げ出した囚人達はそれぞれの故郷や近くの村々に紛れるように消えていく。彼らがどうなるかまでは、イ・ラプセルが関与することではない。
「いやはや、助かりました。ありがとうございます」
「ありありー」
「イ・ラプセルの患者を癒さなくてはな」
そして助けられたイ・ラプセルの囚人達もそれぞれの言葉を放ちながら、レガート砦に運ばれる。元気そうに振舞っているが、囚人として扱われた日々のダメージは浅くはない。休養が必要なのは確かだ。
マキナ=ギアで正面で戦っている仲間に通信を入れ、その後に撤退する自由騎士達。
歴史上の解釈としては『ドルヒ収容所を襲撃したイ・ラプセルは兵力差により攻略を断念』とある。その際に起きた火災で囚人が逃げた件との関連性はないモノとされる――仮にも一国家が他国の犯罪者逃亡に加担した等と言う事があれば大汚名である。捕虜を逃がしたヴィスマルクは名誉の為に、これらの関連性は秘されることとなった。
ともあれ、ドルヒ収容所潜入ミッションは幕を閉じる。
その功績はけして表には出ないが、これにより多くの人間が救われた――
「さーて、捕らわれのお姫様を助けに行きますか」
言って柔軟体操を始める『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。正面門の方から聞こえる戦いの音を聞きながら、笑みを浮かべていた。表でドンパチしている間に侵入する。こういうスリル溢れるシチュエーションは大好物だ。
「助けたらお礼に何してもらおうかな。楽しみだねぇ」
「お礼が出来る状態ならいいけど。拷問されてるみたいだからねぇ」
クイニィーの言葉にため息をつきながら『何やってんだよお父さん』ニコラス・モラル(CL3000453)は呟いた。ヘルメリアでの裏工作の経験。そこで見た拷問具を思い出す。脳みそと口以外はどうなっても構わないというコンセプトだ。
「最悪、カタクラフトかね。サイラスの旦那はマザリモノだからそうもいかないだろうが」
「ま、その時はその時だ。今は目の前の事に努力しようぜ」
『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は不安を払うようにそう言い放つ。実際、その懸念はあったが今はそれを気にしてもどうしようもない。現状、水鏡の情報で生きていることが確認されているのだ。
「潜入に失敗すれば、最悪俺たちも囚人の仲間入りだ。そうならない様にしなくちゃな」
「そうね。ここは敵地なんだから」
拳を握り、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は頷く。地の利も数もヴィスマルクが有利な状況だ。このチャンスも表で陽動を行っているからこその間隙。おそらく二度目はない。その事を心に刻む。
「戦いは最低限。隠密優先でいかなくちゃね」
「そうそう。演劇だと空から颯爽と侵入とかもあるんだけどね」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)はこの前観劇した話の内容を思い出す。難攻不落の城に現れる怪盗。虜の姫様を助け、手にしたレイピアで敵を討つ。それはそれで浪漫だが、今求められているのはそうではないのは解っている。
「気付かれずに潜入して、最後は派手に。……うーん、劇としては盛り上がりにかけるかな?」
「そこは仲間との感動の再開と言うシチュエーションで補うであります」
言って小さく頷くフリオ・フルフラット(CL3000454)。ドルヒ収容所に捕らわれている仲間達。作戦の為に危険を買って出てくれた人達を見捨てることなどできようか。彼らを救いだし、作戦を完全に終わらせるのだ。
「仲間が身を削って繋いでくれたこの機会……きっと、成し遂げましょうね」
頷き、収容所の壁を見る自由騎士達。
ミッションスタートの鐘は、静かに彼らの心の中に鳴り響いた。
●
「壁の向こうに見張りがいたら終わりだな」
「だね。見つかったらお終いだもんね」
ニコラスとカノンは瞳に魔力を宿し、壁の向こうを見る。迂闊に物質透過で中に入れば、巡回する見張りに見つかる可能性がある。見張りがいないタイミングはしっかり見張らないといけない。
「壁の向こうには誰もいないけど……誰も見ていないか、って言われると難しいな」
「陽動の方に兵士が向かってるけど、見張り台にはそれっぽい人がいるからねー」
陽動作戦が功を奏しているのか、兵士の数は少ない。だが見張りが皆無なのと言われるとそうでもない。注意は間違いなく陽動の方に向いてはいるが、見張り台に居る兵士がこちらを振り向かないとは限らない。
「んじゃ、あたしの出番だね」
言ってクイニィーは作製したホムンクルスを塀の中に投げ入れる。放物線を描くホムンクルスはそのまま塀の中に入り、中の様子を魂の繫がりを通してクイニィーに伝える。そのまま見張り台の兵士に近づき、その会話を聞く。
『イ・ラプセルがちょっかいかけに来たのか』
『戦車持ってきたみたいだけど、むしろお陰で不意を打たれずに済んだな。すぐに逃げ帰るさ』
『だな。どうやら居残り残業は終わりそうだ。朝からずっとなんで眠いぜ』
『俺もだ』
クイニィーは得た会話を仲間に伝え、見張りの集中力が落ちていることを確認する。音さえ押さえれば、何とかなりそうだ。
「じゃあ、行ってくるわ」
「それでは行くであります」
エルシーとフリオは、言って壁に向かう。エルシーはロープを壁に引っかけてから昇り、フリオは一気に跳躍して壁の上からロープを下す。二人は収容所内に足をつけ、周囲を確認する。闇を見通すエルシーの眼鏡で見渡すが、衛兵などがこちらに向かってくる様子はない。
「大丈夫よ」
マキナ=ギアを通して仲間に連絡を入れる。二人は周囲を警戒しながら仲間全員がロープを伝って降りてくるのを待った。
「第一段階突破ね。あとは――」
自由騎士達は見張りの隙を縫うようにして建物内に侵入する。途中で巡回する兵士を見つけるがやり過ごし、見つからずに倒せそうと判断したら不意を突いて倒す。
「悪いわね」
「使える者は使わせてもらうよ」
「ヴィスマルクの兵士って煙草臭い……」
倒した兵士から制服と兵装を奪い、ヴィスマルク兵に扮する自由騎士達。汗臭かったり煙草臭かったりと不満はあるが、これでイ・ラプセルの侵入がばれる可能性は大きく減った。
勿論、万全ではない。顔を見られれば怪しまれるし、ヴィスマルク兵しか知らない符牒で問われれば露呈しかねない。あくまで遠目から誤魔化せる程度の扮装だ。
「次は牢屋の鍵か」
「あたしが開けて回るってのは? エンペラーキー持ってる人はそれ使ってもいいし」
「それでもいいが、囚人全員を助けるとなると総出でやった方がいいだろう」
クイニィーの疑問に答えるニコラス。
イ・ラプセルの囚人だけを助けるならそれほど手間はかからないが、囚人全員となるとかなり手間になる。解放した囚人達に手伝ってもらうためにも、鍵はあった方がいい。
自由騎士達は警備室に足を運んだ。
●
鍵開けできるクイニィーとウェルス、そしてフリオは先行して牢屋に進み、そうでない者は鍵を管理する部屋に向かう。
「牢の近くにあると思うのよね。そうじゃないといろいろ不便だし」
というエルシーの予想通り、地下牢に下る階段の近くに管理室はあった。仲では兵士が話をしている。
「レイズ2枚。外大丈夫か?」
「レイズ2枚。さあな? 何かあればだれか飛び込んでくるだろう。それまでは見張りだ」
「俺は降り。そうだな。イ・ラプセルも流石に無駄だと気付いて帰るだろうよ」
中では三人の兵士がポーカーをしながら談話していた。
「鍵は……部屋の奥だな」
「警報用の装置も近くにある」
透視で部屋の中を見るニコラスとカノン。鍵を取るには、どうやっても見張りの前に姿を見せる必要がある。
「どうする? 殴って解決する?」
拳を握って小声で仲間と相談するエルシー。時間が惜しまれる状況では、素早い判断が望まれる。策がないなら力づくでいく。何もなく手をこまねいているよりは、その方がいいのは確かだ。
「三人いっぺんか。兵の練度によるけど、失敗した時のリターンが怖いな」
ニコラスは顎に手を当てて思考する。警報装置を壊すか、とも考えたが兵士はそれを止めるだろう。上手く不意を突かなければならない。部屋に入っていきなりの奇襲、で破壊で着なければお終いだ。
「ん。じゃあカノンが行くね!」
カノンは変装用の化粧をしていた。それで素性を誤魔化し、奪った兵士の衣装でヴィスマルク兵に成りすますつもりだ。ノックを二度して、部屋に入る。エルシーとニコラスもカノンに続いて中に入る。
「お? 交代の時間には早いけどどうしたんだ?」
「仕事が早く終わって間が開いたんでな。俺たちも混ぜてくれよ」
適当な理由をでっちあげるニコラス。とっさの二枚舌を信じたのか、ヴィスマルク兵の視界はカードを置いてあるテーブルに向く。適当に椅子を引き寄せ、座るように促した。
「いいぜ。楽しもうか」
「何ならその身体で払ってもらっても……ゴバハァ!?」
エルシーのセクシーな身体に鼻の下を伸ばした兵士に、見事な鉄拳が叩き込まれる。まあ台詞を言う前に殴るつもりだったので、都合がいいと言えば都合がいい。そのまま済し崩すように自由騎士達は襲い掛かる。
「な、お前らいったい!?」
「暫く大人しくしていてね」
倒して縛り上げた兵士達に猿轡をかませるカノン。そのまま牢屋の鍵を探し当て、懐に収める。ひと段落したが、安心はできない。交代時間になれば新しい兵士がやってくる。それまでにどうにかしなければ。
「急ぐぜ。時は金なりだ」
ニコラスの言葉に頷くエルシーとカノン。周囲を警戒しながら階段を下りる。
そして牢屋に先行していたフリオとクイニィーとウェルス。見張りを沈黙させて、かび臭い地下牢を進む。
「こういう風体の奴らを見なかったか?」
「……あんたらは?」
「おおっと、こいつは報酬の先払いだ。ヴィスマルクに見つからないうちに食べてくれ」
ウェスルの保存食を材料とした交渉により、捕まったイ・ラプセル囚人の居場所はすぐに見つかった。
「予期せぬ来訪だな」
「およ? 鬼驚き」
「外で何やら爆撃音がすると思いましたが、そう言う事だったんですね」
そこには先の作戦で囚われていたイ・ラプセルの囚人達がいた。
「…………よかったであります……!」
思わず出そうになる涙をぐっとこらえるフリオ。下手をすれば救出することが出来ず、別の意味で涙を流すことになっていたかもしれない。拷問などで心折れて敵対してだとか、殺されて還リビトとしてだとか。どくどくSTはこっそり舌打ちしていた――メタ終了。
「はろー、ジョン先生! クイニィーちゃんが助けに来たよー!」
手をあげて声をあげるクイニィー。とはいえ、ここは敵地。響くほどの大声ではない。慣れた動きで指先を動かし、牢屋の扉を開ける。囚人服は血にまみれているが、動くには支障がなさそうだ。それを確認して、言葉を重ねる。
「早速だけど、一働きしてもらうよ。派手に行くためにね」
「ほほう。何か案があるようですね。乗りましょう」
にやりと笑ったクイニィーの表情を見て、同じく笑みを浮かべるジョン。
フリオが連絡を取った自由騎士達と合流し、脱出までの行動をすり合わせる。奪ってきた鍵を分配し、最後の行動を開始する。
●
「やっぱりあったか」
ウェルスは一人、とある場所を探していた。他の囚人とは別の場所にあると思われる女性用の部屋だ。
「捕虜を道具ぐらいにしか思っていないヴィスマルクならあると思ったぜ。夜のお相手用の美女達を収めた部屋が」
リネン室から持ってきた毛布を手に、ウェルスは牢屋の鍵を開ける。中には女性だけではなく男性の捕虜もいたが、まあそれは些末だ。入ってきたウェルスに中に居た者達は警戒するように体を震わせる。
「おおっと、俺はヴィスマルクじゃない。イ・ラプセルの者だ。お前らを救いに来たぜ」
突然の言葉に呆然とする囚人達。
「救う?」
「ここから出て、自由にしてやる。その後は故郷に帰るなりどこかに逃げるなり好きにしろ。
何ならイ・ラプセルに亡命できるように伝手を作ってもいいぜ」
ウェルスの言葉が信頼できないのか、捕虜達の反応は薄い。だがそれを予想していたのか、ウェルスは言葉を続ける。
「もうすぐ捕虜達の暴動が起きる。それに乗じて逃げるんだ。
でかい『祭り』の始まりだぜ」
「逃げろ逃げろー!」
「西門が開いているらしいぞ! そこから逃げるんだー!」
「正面は戦争だ! そっちには近づくなー!」
地下牢から上がる声。雪崩れるように逃げていく囚人達。
「さぁ、君達はもう自由だよ! 早く外に出るんだ! 不当に拘束され抑圧された恨み、発散するチャンスだよ!」
囚人達を煽るクイニィー。牢屋の鍵を開けながら、中に居る人達を扇動して回る。ジョンにも説得を手伝ってもらい、効率よく暴動を起こせるように手伝ってもらった。
「火は分かりやすい恐怖の象徴です。混乱を生むにはうってつけかと」
「おー、さすが先生! あそこの部屋とかも燃やしても問題ないかな?」
「問題ないかと。大火災にならないように、注意は必要ですね。私達が逃げ損ねてしまいます」
知的興味心マシマシのクイニィーと、元スパイのジョンが悪だくみをするとこうなるのであった。
「成程! では遠く離れた場所に火災を起こせばいいのでありますね!」
何かを納得したフリオは、自らに換装された砲を撃ち放ち、収容所の別場所を爆破する。煙が上がって、そこに兵士達が集まっていく。陽動作戦も相まって、兵たちの統率はバラバラだ。それを通眼で見ながら、移動するフリオ。
「場所を特定されないために、移動してから次弾砲撃であります!」
こうやって次継ぐと砲撃で混乱を生んでいうフリオ。目的は場を乱すだけなので、敢えて誰もいない場所を狙って撃っていた。逃げるのとは逆の方向に兵士が集まれば、こちらも行動がしやすい。
「混乱させりゃいいんなら、基本は情報かく乱かね」
ニコラスはヴィスマルクの軍帽をかぶり、騒ぎに気付いた兵士達に話しかける。出来るだけ切羽詰まったような表情と様子で、混乱を生むように端的な言葉で。相手に判断させる間など与えない。重要なのは情報のコントロールをこちらが握ることだ。
「た、大変だ! 囚人達が逃げた! ヤ、ヤツの仕業だ!」
「ヤツ?」
「分かんないのか!? ああ、ちくしょうお前じゃ話にならない! 早く援軍を呼んできてくれ! 『ヤツ』で話が通じるヤツをな!」
混乱のままに走りだすヴィスマルク兵。それを見て安堵の息を撫でおろすニコラス。
「俺はヴィスマルクなんでもううんざりだー!」
ヴィスマルクの軍服を着たまま、逃げる囚人達を守るように動くカノン。それを聞いたヴィスマルク兵が銃を向けようとするが、それより先にカノンが叫ぶ。
「お前達もこのこの国には不満が多いっていってたろ!? 一緒に戦おうぜ!」
「え? 確かに言ってたけど、実際に逆らうのは――」
「貴様、我が国に対する叛意を持っていたのか!」
「お、お前だって出世できないって嘆いていたじゃないか! 貴族に嫌われてとかなんとか!」
「そ、それとこれとは関係ない! ともかくそこのケモノビトもろとm――」
「隙ありぱーんち!」
そんな会話の隙をついて、カノンは兵士に殴り掛かっていた。
「あれは……イ・ラプセルの名誉将軍!」
「『緋色の拳』がこんな所に……!」
兵士達は囚人達を誘導するエルシーの姿を見て驚きの声をあげる。その声に応えるように拳を振るい、兵士達の注目を引きつけていた。
「私はここに居るわ! イ・ラプセルの名誉将軍を討ち取りたいものは前に出なさい!」
「いいだろう。ドルヒ収容所所長であるこの私の鞭さばきを見せてやる。音よりも早い私の鞭を避けきれるかな」
「避けてみせるわ。そしてみんなを守る!」
――この後、エルシーと収容所所長の戦いは苛烈を極め、エルシーが勝利を収める。常に戦場にあり続けるエルシーが紙一重で勝利を収めた形だ。
「貴方も強かったけど、こっちも負けられないの」
●
かくして、囚人脱出の暴動の混乱を突く形で脱出する自由騎士達。
逃げ出した囚人達はそれぞれの故郷や近くの村々に紛れるように消えていく。彼らがどうなるかまでは、イ・ラプセルが関与することではない。
「いやはや、助かりました。ありがとうございます」
「ありありー」
「イ・ラプセルの患者を癒さなくてはな」
そして助けられたイ・ラプセルの囚人達もそれぞれの言葉を放ちながら、レガート砦に運ばれる。元気そうに振舞っているが、囚人として扱われた日々のダメージは浅くはない。休養が必要なのは確かだ。
マキナ=ギアで正面で戦っている仲間に通信を入れ、その後に撤退する自由騎士達。
歴史上の解釈としては『ドルヒ収容所を襲撃したイ・ラプセルは兵力差により攻略を断念』とある。その際に起きた火災で囚人が逃げた件との関連性はないモノとされる――仮にも一国家が他国の犯罪者逃亡に加担した等と言う事があれば大汚名である。捕虜を逃がしたヴィスマルクは名誉の為に、これらの関連性は秘されることとなった。
ともあれ、ドルヒ収容所潜入ミッションは幕を閉じる。
その功績はけして表には出ないが、これにより多くの人間が救われた――