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Dead or Dance!? 歌い踊れや海賊達!



●海賊による襲撃
 曲刀が翻り、血飛沫が舞う。
 倒れた男につきつけられる刃先が、戦いの勝敗を決した。
「くっ……これが奴らの実力なのか……! 海賊風情と侮っていたが……」
 曲刀の切っ先を見ながら、男は悔しそうに臍を噛む。剣の扱いには自信があったし、仲間との連携もうまくやれた。だが彼らはその上を行ったのだ。こちらの剣技も連携も真正面から撃ち砕かれたのだ。
「チェックメイト。実に有意義な時間だったよ、ミスター。さて敗北者である貴方達には二つの選択肢がある」
「生き恥をさらすか、殺されるかか? 好きにしろ。生きて帰ってもこの傷じゃ剣は持てない。傭兵以外で今更食っていくことなんざ――」
「デッドオアダンス! 死ぬか踊るかを!」
「できやし――はい?」
 突きつけられた選択肢に疑問符を浮かべる傭兵。しかしそんな疑問符など関係なく、円月刀を持った男は指を鳴らす。同時に背後で控えていた海賊たちが楽器を奏で始めた。それに合わせて踊り始める海賊達。
<ワン! ツー! スリー! ハイ!>
<憐れ~。剣を持てぬ悲劇の傭兵~>
<しかし~。生きる為には戦わねばならぬ~>
<海賊の下っ端~。剣をブラシに変えての船掃除~>
<そこから始まる~。快進撃~>
 え? え? 戸惑う男に差し出される手。それは先ほどまで死闘を演じた海賊からの物だった。
<さあ~。第二の人生を~>
<歩むか死ぬか、選ぶのだ~>
 お、おう……。その場のノリと言うか、悲愴に更けていたのが馬鹿らしくなったのか。男は海賊の手を取り――体が勝手に動き出す。音楽に合わせて、海賊船に向かって歩を進めだした。
<進め~、我ら無敵の海賊~>
<踊れ~、我ら享楽の海賊~>
<歌え~、音ある限り、何処までも~>
 海賊達は四時間かけて踊りながら商戦から略奪したという。
 歌い踊りながら戦う海賊集団。彼らの名は――

●自由騎士
「『ダンシング・シミター』――それが彼らの名前よ」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。その声には呆れの感情が含まれていた。
「ショーテルをもう少し肉厚にした曲刀と楽器持ちで構成された海賊達よ。規模こそスカンディナ海賊団には劣るけど、優れた武技とよくわからないノリで困惑させる戦い方から、通商連でも危険度が高いと言われているわ」
 聞けば聞くほど、脅威が薄れていく海賊である。まあやってることは商船からの略奪行為で、シャンバラとの戦いを控えている現状、物資確保の意味も含めて放置出来ないのは事実だ。
「貴方達には通商連の船の護衛として乗り込んでもらうわ。乗り込んできた奴らを迎撃して頂戴」
 彼らの巡回ルートは通商連の情報網と、階差演算装置により分かっている。イ・ラプセルに向かう船に犠牲が出る前に叩き潰すのだ。
「戦いになれば一糸乱れぬ連携と楽器による困惑と睡眠を駆使して攻め立ててくるわ。あと、よくわからないけど音楽に合わせて踊りたくなるみたい……?」
 ミズーリ自身もよくわからない、と言う顔で説明を付け加える。強く意思を保てば耐えられるのだが、よくわからない何かに操られるように踊ってしまうらしい。
「前衛を倒せば、彼らは撤退するわ。とはいえかなりの手練れなので気を付けてね」
 ミズーリの声に送られて、自由騎士達は船に足を向けた。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.海賊との戦いに勝利する(敵の撤退も勝利とみなします)
 どくどくです。
 最大の敵はいつだって文字数。タイトルカツカツだー!

●敵情報
・ダンシング・シミター(×8)
 三日月刀と楽器を持つ人と亜人で構成された海賊団です。非オラクル。バックダンサーとかたくさんいますが、実際に戦うのは八名のみ。
 三日月刀を持つ海賊を全員倒せば、撤退します。勿論逃さないようにすることもできますが、そうなれば彼らも抵抗するでしょう。

・ハシーム・スライマーン
 海賊のリーダーです。30代男性。ノウブル軽戦士。頭にターバンを巻き、三日月刀を持っています。高い剣技を有しますが、だれにも仕える気はなく踊りと享楽に更けています。着替えながら踊ります。
『コンフュージョンセル Lv3』『ブレイクゲイト Lv2』『ラピッドジーン Lv3』『スピードスタア』『テーマソング』『早着替え』等を活性化しています。

・ナディア・サイード
 海賊のサブリーダー。24歳女性。ミズビトの錬金術師。リラを持ち、歌いながら踊ります。
『水棲親和』『アンチトキシス Lv3』『スパルトイ Lv2』『歌姫』『アイドルオーラ 急』等を活性化しています。

・三日月刀海賊(×3)
 三日月刀を持つ海賊です。種族はソラビト。軽戦士です。アクロバティックに踊ります。
『飛行』『デュアルストライク Lv2』『ヒートアクセル Lv2』『シンクロ』などを活性化しています。

・演奏隊(×3)
 アコーディオンを持つ海賊です。種族は馬のケモノビト。蹄でタップダンスとかしながら踊ります。魔導士です。
『動物交流』『アイスコフィン Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』『シンクロ』等を活性化しています。

●特殊ルール
 プレイング、もしくはEXプレイングに【覚悟完了】と書かれたキャラクターは、何故か彼らのノリに合わせて踊りながら戦うことになります。踊ることによるステータス的な不利益はありません。

●場所情報
 イ・ラプセル北東の海。商戦を装い、海賊を待っている形です。海賊は名乗りを上げた後に白兵戦を仕掛けてくることは解っていますので、そこを迎撃してください。
 時刻は昼。足場や広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『ハシーム』『三日月刀海賊(×3)』が。敵後衛に『ナディア』『演奏隊(×3)』がいます。
 事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2018年12月16日

†メイン参加者 8人†




 CAST
『イ・ラプセル自由騎士』
『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
蔡 狼華(CL3000451)
『イ・ラプセル自由騎士団』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
『お菓子大好き』シア・ウィルナーグ(CL3000028)
『エルローの歌姫』カノン・イスルギ(CL3000025)
『孤高の技巧屋』虎鉄・雲母(CL3000448)
『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)
ダリアン オブゼタード(CL3000458)

『ダンシングシミター』
ハシーム・スライマーン
ナディア・サイード
その他、海賊達


シノピリカ:<歌って踊れる自由騎士、すなわちワシへの挑戦じゃな!>
(軍刀を海賊に向ける)
ボルカス:<これは油断ならん。王都サンクディゼールのダンス、見せつけてくれる!>
(槍を構え、気合を入れる)
シア:<シミターとレイピア、どっちが強いか手合わせしてみたいよ!>
(両手のレイピアを振り回し、ポーズを決める)
カノン<アーティストとして役者としてカノンも負けていられないね!>
(ステップを踏みながら現れ、ターンアンドポーズ)
ランスロット<海賊行為、許すまじ!>
(大剣を床に突き刺し、憮然と構える)

(軽快な音楽)

<我ら、ダンシングシミター。踊る海賊~>
<如何なる者も~、我が演奏を止められぬ~>
<くるがいい~、自由騎士~>
<この演奏と~>
<剣舞で~>
<お前達を乗り越える~>

シノピリカ:<見事な踊りじゃ~、じゃが我らも負けられぬ~>
ボルカス:<如何なる相手でも~、自慢の槍で貫くぞ~>
シア:<ボクの剣を~、受けて見ろ~>
カノン:<カノンの声に~、聞きほれろ~>
ランスロット:<海賊行為~、許すまじ~>

(そして武器を構える海賊と自由騎士。静寂。そして――)

「なんていうか、妙な海賊やなぁ……歌と踊りと剣舞が得意って」
 目の前のミュージカル風な出来事を見ながら狼華は呆れたように肩をすくめた。世界は広いとはいえ、こういう海賊がいるとは想像もできなかった。どうあれ彼らを拿捕し、海域を守らなくては。
「こりゃまた面倒だ。冷静に対応しないとな」
 頭を掻きながら雲母は言葉を放つ。前衛過多の攻勢であるため、回復が自分一人で行うことになる。その分制圧速度は早いだろうから、単騎接戦になる。上手く攻撃を挟めれば速度を加速できるが、さてさて。
(なんか……なんか思っていたのと違う……!)
 踊り出す自由騎士と海賊を見てダリアンは衝撃の表情を浮かべていた。確かに踊り出してしまうかもと聞いていたが、こうなってしまうとは。どうあれ相手は海賊。海を荒らす悪党だ。ここで倒しておかなくては。
<ワン! ツー! スリー! ハイ!>
 音楽隊が激しい曲を奏でだす。その曲に合わせるように両者はぶつかり合った。


「ほな、行きましょか」
 小太刀と短刀を手に狼華が戦場をかける。体内に魔力の糸を通し、全身に細かな力を伝えていく。ごく僅かに脳からの伝達能力を活性化させる魔力。それを全身に施せば、命令からのタイムラグは目に見えて変わってくる。
 両手を垂らし、無防備に海賊に迫る狼華。迫る三日月刀を体を逸らして躱す。重心をずらすことなく身をひねった状態から、右手の小太刀が振るわれた。逆袈裟に振るわれる一閃が海賊の胴を薙ぐ。
「うちがたーっぷり楽しませてあげるわ。よろしゅうな」
「OKボーイ。楽しむのはお互い様さ!」
「リズムのキレが甘い。まだまだ要修行だな」
 海賊達の演奏を聞きながらダリアンは評価を下す。音楽家の次男坊だった彼は、音楽に触れる機会が多かった。今でこそ楽器を捨てて剣を取ったが、それでも楽器の類を捨てたわけではない。いつか、きっと。
 手にした『鉛奏プロムナード』が回転する。風を切るたびに音が鳴り、振るう度に譜が流れる。ダリアンの武技に合わせて旋律は展開し、そして一つの楽曲となる。曲に乗せられた魔力が仲間に届き、精神的な苛みを癒していく。
「音楽に徹していればそれなりの楽師になれたのだろうがな」
「それはお互い様かな。そちらも一門の楽師とお見受けするが?」
「音楽に関しては素人だが、道具の手入れが入念なのは解るぜ」
 海賊の楽器を見ながら雲母は頷いた。如何なる道具も使用すれば摩耗する。楽器のように毎日使われる物は特にそうだ。音に劣化やブレがないのは適切なメンテナンスを行っている証拠。畑違いでも、それは解る。
 だからと言って、情けをかけるつもりはない。海賊を逃せば海の被害も増える。傷ついた仲間に駆け寄り、魔力を解放する。万能の癒しと歌われた淡い光が仲間を包み、海賊達から受けた傷を塞いでいく。
「『神は細部に宿る』……道具に対する真摯さは確かに聞かせてもらったぜ」
「ふふん。では存分に聞きほれてもらおうか」
「その前にボクと勝負だよ!」
 シアがリーダーのハシームの前に向かい、レイピアを構える。音楽隊の曲がアップテンポなリズムに変わった。
 二本のレイピアを構えるシア。三日月刀を構えるハシーム。踏み込みは同時。交差する三本の刃。レイピアの軽さを活かした直線と速度のシアの剣舞。曲刀のそりを利用した回るようなハシームの剣舞。剣戟の加速と共に曲のリズムが加速する。そして――互いの首にそれぞれの刃がつきつけられた。
「見事。かなりの戦場を抜けた技だ」
「ありがと。そっちも、ね!」
 力を込めて、シアとハシームは互いを突き飛ばし距離を取る。
「HEY HEY 我ら自由騎士! HIPでHOPな バトルの開幕!♪」
 ヒップホップなノリでカノンがハシームに迫る。
「バトル開幕。海賊海戦。自由騎士にも気分維持。踊る海賊踊る君ら」
「踊るカノン、踊る海賊。その海賊旗に解雇通知。海賊やめて、お縄につきな」
「お縄勘弁、俺らアンチェイン。鎖でつなぐの無理だぜイエアー!」
「イエス! だったら実力行使。実は好機。役者の箔をあげる為、カノンの舞をご披露だ!」
 ラップバトル終了と同時に動き出すカノンとハシーム。キレのいい動きで動き回るカノン。リズミカルの甲板を蹴り、打撃を加えていく。
「そちらがアウトローなダンスで来るのなら、こちらは都会ダンスだ!」
 ボルカスが槍を手にハシームに迫る。音楽は弦楽器を中心とした厳かなものとなっていた。それに合わせるようにハシームは早着替えし、礼服風に姿を変える。
 互いに一礼し、そして手を取る。法と無法。騎士と海賊。相対するものとはいえ踊りの前に礼をかわすのはマナーだ。ウイスク、リバースターン、ベーシックウィーブ。たゆまぬ鍛錬と基礎を重ねた者同士の即興の舞。そのまま離れ、一礼する。
「中々やるようだな。強敵が相手なら王都ポールダンスの封印を解かざるを得まい……!」
「いやその必要はない。何故なら俺がいるからだ」
 きりっとした表情でランスロットが割って入る。騎士の家系として生まれ、騎士として育てられた鋼の心。その鉄心あれば――
「器用な連中だ、海賊にしておくには惜しい……だがこの俺がこの程度の事で惑うと思うなッ!」
「まどってるまどってる」
 音楽に合わせて華麗なステップを踏むランスロット。びしっと指差し、ポーズを決める事も忘れない。
「この程度で俺の剣を止めることはできない!」
 ハシームに肉薄し、両手剣を振るうランスロット。剣戟が二度響き、海賊を押し返す。そのまま真顔でターンし、額に手を当てて一秒溜め、両手の指で海賊を指す。
「踊るなど解せぬ話だ。そのような無駄な事をする騎士などいない」
「ここにおるぞ!」
 華麗な足さばきで躍り出るシノピリカ。機械の足で甲板を蹴って音を響かせ、回りながら移動する。これぞゼッペロン家に代々伝わる牛串音頭。牛の串を食べる喜びと食物への感謝を表す踊りだ。
「官憲の手に落ちた海賊の末路と言えば、縛りっ首と相場は決まっておるが……しかし、死なせるには惜しい連中よ」
「そちらこそ。国の枠組みに収めるには惜しい動き。願わくば同胞として受け入れたいところ」
「じゃがしかし!」
「だがしかし!」
「「譲れぬものがここにある!」」
 シノピリカとハシームは互いに自分の胸に手を当て、譲れぬ信念を踊りに込める。
「……あ、ワシ罪一等を減じてとかそういう流れだったんじゃが」
「……え? こっちも仲間になるなら新しいバトルスタイルとかそういう流れだったんだけど」
「海賊スタイル……だと!? いや、ワシら騎士じゃし無理じゃ」
 メタイメタい。ともあれ道は別たれた。
 騎士と海賊。音楽に合わせて戦いは加速していく。


 自由騎士達はリーダーのハシームを集中的に攻撃していた。それは単純に彼がダンシングシミターの最大戦力であるということもある。
「喰らえ!」
 回転しながら振るわれるボルカスの槍がシミターを弾き飛ばし、ハシームを地に伏す。そして、
「リーダーは捕らえた。殺されたくなければ投降しろ!」
「まさか頭置いて逃げるなんちゅーかっこ悪い事はせぇへんよね?」
 ハシームの喉元に武器を突き立て、海賊達に降伏勧告を行う自由騎士達。
「卑劣~、なんたる行為~」
「戦闘不能者を人質ととか~、STがPCにやったらひんしゅく間違いなしの行為~」
「きたない~、さすがきしきたない~」
「これが戦術というものだ」
 海賊からの罵倒を涼しい風で受け流すランスロット。いや、割と正当な……まあいいや。
「どの道俺達は投降すれば縛り首~、ならば最後まで戦うのみ~」
「ダンシングシミターの歌は~、だれにも止められないんだ~」
「あ、リーダー。戸棚の酒、貰っときますから」
 言って斬りかかってくる海賊達。自由騎士達も諦めて戦闘に戻る。
「ならばサブリーダーのおぬしから叩く! エンタメ性を保てるのはその歌唱とオーラあってと見た!」
 海賊の前衛を突破してシノピリカが後衛の音楽隊に迫る。リーダーの次に強い者を叩く。戦術的にも理にかなっていた。海賊の音楽に合わせるようにステップを踏み、軍刀を振った後に決めポーズ。ブラボーと言う声がどこからか聞こえてきそうだった。
「しかしまあ、見た目がええ子も多いしなぁ。少しぐらいつまみ食いしても分からんとちゃう? ……あかん?」
 倒れ伏した海賊の方を見ながら狼華は唇に手を当て、舌で指を舐める。妖艶じみた表情で相手を見ながら、ねだるように仲間を見た。無論、狼華なりの冗談だ。色仕掛けをしながら、攻撃の手は休めることはない。……何割が冗談かは狼華にしかわからないが。
「踊りにかける気迫、それは認めてやろう。だがしかし海賊として挑むなら騎士としてそれを阻む!」
 海賊たちの主張を受け止め、それを受け止めるボルカス。見事な踊り、見事な舞。しかし海賊として生きるのなら、イ・ラプセルの民を守る騎士として許しておくわけにはいかない。この槍は楽師の夢を砕く傲慢な槍。重い一撃が叩き込まれる。
「ヒャッハー! 無駄な抵抗はやめて大人しく降伏しろー!」
 どっちが悪党なんだろう、と思いながらもノリノリでシアはレイピアを振るう。いや、やっていることは降伏勧告で無駄な流血を避ける行為なんだけど。銀閃が煌めき、血飛沫が舞う。しなるレイピアはシアの動きに合わせて柔軟に動いていた。
「歌って踊ってバトるのも結構たのしー!」
 演奏隊の音楽に合わせて、気ままに体を動かすカノン。教会でも音楽に触れる機会が多く、劇団に属することもあってか音楽に合わせて体を動かすことに抵抗がない。それが海賊の奏でる者であっても差別することなくカノンは動き回っていた。
「やれやれ、手一杯だなおい!」
 動き回る自由騎士達を癒すために奔走する雲母。パナケアって近距離なのよね。船の上で踊りながら戦う仲間の元に向かい、踊りが止まった隙を伺って手を触れて術式を展開する。右に左にと雲母は大忙しであった。
「逃げても無駄だ。この船の大砲がお前達を狙っているからな。我ら自由騎士は空をも飛んで追いかけるぞ」
 低い声で威圧するように告げるランスロット。いや待って。大砲で撃ち出すっていやいや待って。自由騎士全員で無言でツッコんだ。当のランスロットはそれを涼しい顔でいなす。冗談なのか本気なのか。その表情からは読み取れなかった。
「よし、捕縛完了。次はどいつだ」
 ダリアンは戦闘不能になった海賊たちを一人ずつ縛って拿捕していた。どの道動くことはできないが、何かの可能性で動くかもしれない。どの道、悪党を捕まえないといけないのは事実だ。次の海賊を拿捕するために、武器を手にした。
 雲母の回復を基点に、順調に攻める自由騎士達。サブリーダーを倒してしまえば、戦力的な不安は大きく減る。逃がさないように包囲し、確実に攻め続ける。
「これで最後! ワン、ツー、アタック!」
 すでに音楽隊は全員倒れたが、踊ることを止めることなくカノンが最後の海賊に迫る。ステップを踏みながら相手の背後に回り込み、バックステップの動きで背中を叩きつけるように打撃を加えた。
「勝利のポーズだVサイン! さーインパクト求めて、も1つV!」
 最後までノリノリのカノンであった。


 それから数時間後、赤目のミズビト錬金術師に傷を癒してもらい陸に戻った自由騎士達は――
「「「「「「「「ボルカス先輩のおごりで」」」」」」」
「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」
「……うむ。好きなだけやってくれ」
 何かを諦めたかのように、ボルカスは頷き、杯を傾ける。戦い終わっての祝賀会だ。相談の流れで、何故かボルカスが奢るということになってしまった。まあ当人も納得しているし良しとしよう。
 割とどうでもいい心理として、稼いだお金でパーティを開くというのは『仕事した結果で楽しんでもらえる=努力が認められた』という労働意欲の増加に繋がるとか。事、無趣味でお金の使い道がない独身男性はこの傾向が――閑話休題。
「お酒お酒ー!」
「20歳以下はジュースねー」
「トキパメバルのカルパッチョおねがーい!」
「リゾットはチーズ多めで!」
「ゲンブニワトリの丸焼き二つじゃ! 今宵は特盛モードでいくぞ!」
「カノンお腹すいたー! 踊り疲れたー!」
 好き勝手注文する自由騎士達。ボルカスは注文を聞くたびに脳内で数字を計算し、今月の食費を再計算していた。大丈夫、まだ根菜類で給料日まで保つ。
「あ、今のをぜんぶ八人分で!」
 さらば根菜類。こんにちは菜っ葉スープ。給料日までよろしく。
「しかし皆、見事な踊りっぷりじゃったな」
「ボクも陸に戻るまでもう一回踊ることになるなんて思わなかったよ。面白い海賊さんだったね」
「ふふ、うちもおいしいもん頂きました」
「久しぶりにうまいタバコが吸えたぜ。仕事終わりの一服は最高だな」
「しかし王都ポールダンスを披露できなかったのが残念だ」
 自由騎士達は海域から陸に戻るまでの間、降伏したダンシングシミターの提案でもう一曲踊っていた。曰く、『どうせ俺たち縛り首、最後の宴をさせてくれ!』とのことだ。
「まあ普通に略奪してるし、結構な重傷を負わせたりしてるし。所業を見ればそう思うのも当然じゃからな」
「流石にいきなり自由騎士に入れ、ともいくまい。犯した罪はきっちりと清算してもらわねばならんからな」
「ほな、縛り首?」
「いや、減刑の申請が通った。禁固五十年。強制労働として『音楽による施設等の慰問』と言うところに落ち着いた。
 要するに、首輪付きの囚人音楽隊だ。働きに応じてさらなる減刑も考慮するらしい」
 海賊の末路としては異例だが、元より異色な海賊だ。当人たちも喜んで受け入れたという。国としても腕のいい楽師を安手で確保できたこともあり、双方得な流れになった。
 ……法を順守すべき騎士団長は些か渋い顔をしていたが『前例がないわけでもないし』と自らを納得させていたという。
「よーし、それじゃ改めて――」
「快勝、おめでとう! かんぱーい!」
 カン! と八つのグラスが重ねられる。料理が運ばれ、祝賀会が始まった。

 かくして、海域を荒らす海賊が一つ消えた。
 海の平和が守られ、商業は滞ることなく行われていく。そして、
「塀の中からこんにちは! おれたちゃ愉快な囚人楽師!」
「ダンシングシミターの音楽会、始まるよー!」
 今日もどこかで囚人服の音楽隊が躍っていた。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『牛串の舞』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『都会ダンサー』
取得者: ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
『レイピア二刀の舞』
取得者: シア・ウィルナーグ(CL3000028)
『ヒップホップダンサー』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『無骨騎士ダンサー』
取得者: ランスロット・カースン(CL3000391)

†あとがき†

どくどくです。
 踊りはそれぞれのキャラに合わせたつもりです。

 以上のような結果になりました。
 割とノリノリで書いたこともあり、キャラ崩壊してるかもですが、それを含めての【覚悟完了】。どくどくわるくない。
 ナディアぐらいは逃げられるかなぁ、と思いましたが人質かよオイとばかりに逃げられませんでした。さすがきしきたない。
 MVPは祝賀会お疲れさまでしたギルトバーナー様に。給料日まで頑張ってください。

 それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済