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【IFストーリー】マギスチ・ヘルメリア編

●1818年、ヘルメリアにて
ここは蒸気国家ヘルメリア。その首都、ロンディアナ。蒸気文明の最先端と言っても過言ではない。
先日、南方にてヴィスマルクが飛行船によりイ・ラプセルを襲撃したと聞いた。スパイによる情報収集は継続中だが、あの島国は先ほど王が崩御したばかり。混乱する小国がヴィスマルクの侵攻を止められるとは思えない。
とまれ、隙を見せればヴィスマルクが襲撃を仕掛けてくる情勢だ。油断はできないだろう。国家を守る蒸気騎士――『あなた』のことだ――は、国の平和を守るため、今日も任務にいそしんでいる。
昨今、奴隷解放組織が活動をしているという。国家により管理された財産を破壊し、自らのものにしようとする悪辣な組織だ。その活動は小規模なものだが、油断なく任務に当たってほしい。そう『蒸気王』から言葉を賜った。
まあ『あなた』がその奴隷解放組織の人間なのだが。
ディファレンスエンジンを始めとした様々な蒸気機械。国の為にそれを整備し、そして新たな発明をする。それが『あなた』の仕事だ。
発明が認められれば昇進も夢ではない。いずれ『あなた』が新たな時代を担う技師になるかもしれない。その為にも、今は知識を深めるのだ。
ヘルメス。ヘルメリア島に古くからいる神。時代の王に仕え、そして助言する存在。
どこか気さくで、どこか人間臭い。この前などは『イ・ラプセルの文化を真似てみたけど、どう?』とか言って、水着に着替えたりしていた。
『あなた』は彼をどう思っているのだろうか? 称えてもいい。友として接してもいい。愛を語ってもいい。
ここは蒸気国家ヘルメリア。その首都、ロンディアナ。蒸気文明の最先端と言っても過言ではない。
『もし』貴方がここで生まれ、或いは流れ着いたのなら、果たしてどのような物語を刻んでいたのだろうか?
ここは蒸気国家ヘルメリア。その首都、ロンディアナ。蒸気文明の最先端と言っても過言ではない。
先日、南方にてヴィスマルクが飛行船によりイ・ラプセルを襲撃したと聞いた。スパイによる情報収集は継続中だが、あの島国は先ほど王が崩御したばかり。混乱する小国がヴィスマルクの侵攻を止められるとは思えない。
とまれ、隙を見せればヴィスマルクが襲撃を仕掛けてくる情勢だ。油断はできないだろう。国家を守る蒸気騎士――『あなた』のことだ――は、国の平和を守るため、今日も任務にいそしんでいる。
昨今、奴隷解放組織が活動をしているという。国家により管理された財産を破壊し、自らのものにしようとする悪辣な組織だ。その活動は小規模なものだが、油断なく任務に当たってほしい。そう『蒸気王』から言葉を賜った。
まあ『あなた』がその奴隷解放組織の人間なのだが。
ディファレンスエンジンを始めとした様々な蒸気機械。国の為にそれを整備し、そして新たな発明をする。それが『あなた』の仕事だ。
発明が認められれば昇進も夢ではない。いずれ『あなた』が新たな時代を担う技師になるかもしれない。その為にも、今は知識を深めるのだ。
ヘルメス。ヘルメリア島に古くからいる神。時代の王に仕え、そして助言する存在。
どこか気さくで、どこか人間臭い。この前などは『イ・ラプセルの文化を真似てみたけど、どう?』とか言って、水着に着替えたりしていた。
『あなた』は彼をどう思っているのだろうか? 称えてもいい。友として接してもいい。愛を語ってもいい。
ここは蒸気国家ヘルメリア。その首都、ロンディアナ。蒸気文明の最先端と言っても過言ではない。
『もし』貴方がここで生まれ、或いは流れ着いたのなら、果たしてどのような物語を刻んでいたのだろうか?
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.蒸気国家ヘルメリアを楽しむ
どくどくです。
イフストーリー! 『もし』マギスチのスタートがヘルメリアだったら?
●説明
あなたはヘリメリア国家の騎士団『蒸気騎士団』の一員です。
大陸北西部に位置する島国で、始まりの蒸気国家にして今なお最先端の蒸気技術を誇っています。軍事力こそヴィスマルクに劣りますが、それでも技術は最先端です。
そんな国を守る騎士――なのですが、もしかしたら裏切り者かもしれません。『奴隷』を良く思わない奴隷解放組織かもしれませんし、他国のスパイかもしれません。その辺りは自由です。
時代は暫定的にマギスチ開始時の1818年としていますが、その辺りは自由です。イ・ラプセルに攻められている時代でもいいですし、そもそも歴史改変してこちらからイ・ラプセルを攻めても構いません。『あなた』がヘルメスを倒してもいいです。イフなので、どうぞご自由に。他PCとの整合性が取れない場合は、別ルートということで。
まあ、そんなお遊びシナリオです。お気楽にご参加ください。
★設定いろいろ
・蒸気文明
蒸気機関をベースにいろいろできます。ラジヲもあります。電話がギリギリ。日本の大正時代あたりを想定して頂ければ幸いです。但し『あなた』が新たな発明をする事は止められません。個人用の空飛ぶ蒸気機械ってロマンですよね!
・歯車騎士団
『あなた』が所属する騎士団です。一等がトップ(蒸気王)で、二等が大将、三等が大佐、四等が大尉、五等が新兵から曹長相当です。なお、亜人は全て『兵站軍』と呼ばれる雑務や事務、その他危険地域での特殊任務になります。差別? はい、そうですよ。
これらの扱いに反抗するために『奴隷解放組織』に力を貸す者もいるとか。
・『蒸気王』チャールズ・バベッジ
国のトップです。歯車騎士団の『あなた』は手続きをとれば(亜人でも)会見可能です。様々な意見を交わしたり、発明品を提示したり、そう言った会話は可能です。
国の為になるならいろいろな意見を取り入れるタイプの王です。
・ヘルメス
ヘルメリアの神です。性格は本編参照。トリックスターで常に面白いことがないかを探しています。その為、結構気さくに『あなた』と接してきます。
・ロンディアナ
ヘルメリアの首都。常に蒸気の排煙や工場の煙が立ち上って視界は悪いですが、都市としては大きく反映しています。様々なものが手に入るでしょう『奴隷』を含めて。
光あるところに影あり。街に潜む悪党や、それらが起こす事件。それは絶え間ありません。歯車騎士団の任務はそう言った者達への対応も含みます。
●場所情報
ヘルメルアのどこか。そして何時か。
活動場所は必ずしもロンディアナである必要性はないです。そしてあなたの立場も歯車騎士団である必要性はないです。市民でもいいですし、一介の技師でもいいです。通りすがった旅人でもいいですし、なんなら奴隷でも構いません。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
ようこそヘルメリアへ。
ここは蒸気時代最先端。混沌と混乱、そして人の心が浮き彫りになった都市。
イフストーリー! 『もし』マギスチのスタートがヘルメリアだったら?
●説明
あなたはヘリメリア国家の騎士団『蒸気騎士団』の一員です。
大陸北西部に位置する島国で、始まりの蒸気国家にして今なお最先端の蒸気技術を誇っています。軍事力こそヴィスマルクに劣りますが、それでも技術は最先端です。
そんな国を守る騎士――なのですが、もしかしたら裏切り者かもしれません。『奴隷』を良く思わない奴隷解放組織かもしれませんし、他国のスパイかもしれません。その辺りは自由です。
時代は暫定的にマギスチ開始時の1818年としていますが、その辺りは自由です。イ・ラプセルに攻められている時代でもいいですし、そもそも歴史改変してこちらからイ・ラプセルを攻めても構いません。『あなた』がヘルメスを倒してもいいです。イフなので、どうぞご自由に。他PCとの整合性が取れない場合は、別ルートということで。
まあ、そんなお遊びシナリオです。お気楽にご参加ください。
★設定いろいろ
・蒸気文明
蒸気機関をベースにいろいろできます。ラジヲもあります。電話がギリギリ。日本の大正時代あたりを想定して頂ければ幸いです。但し『あなた』が新たな発明をする事は止められません。個人用の空飛ぶ蒸気機械ってロマンですよね!
・歯車騎士団
『あなた』が所属する騎士団です。一等がトップ(蒸気王)で、二等が大将、三等が大佐、四等が大尉、五等が新兵から曹長相当です。なお、亜人は全て『兵站軍』と呼ばれる雑務や事務、その他危険地域での特殊任務になります。差別? はい、そうですよ。
これらの扱いに反抗するために『奴隷解放組織』に力を貸す者もいるとか。
・『蒸気王』チャールズ・バベッジ
国のトップです。歯車騎士団の『あなた』は手続きをとれば(亜人でも)会見可能です。様々な意見を交わしたり、発明品を提示したり、そう言った会話は可能です。
国の為になるならいろいろな意見を取り入れるタイプの王です。
・ヘルメス
ヘルメリアの神です。性格は本編参照。トリックスターで常に面白いことがないかを探しています。その為、結構気さくに『あなた』と接してきます。
・ロンディアナ
ヘルメリアの首都。常に蒸気の排煙や工場の煙が立ち上って視界は悪いですが、都市としては大きく反映しています。様々なものが手に入るでしょう『奴隷』を含めて。
光あるところに影あり。街に潜む悪党や、それらが起こす事件。それは絶え間ありません。歯車騎士団の任務はそう言った者達への対応も含みます。
●場所情報
ヘルメルアのどこか。そして何時か。
活動場所は必ずしもロンディアナである必要性はないです。そしてあなたの立場も歯車騎士団である必要性はないです。市民でもいいですし、一介の技師でもいいです。通りすがった旅人でもいいですし、なんなら奴隷でも構いません。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
ようこそヘルメリアへ。
ここは蒸気時代最先端。混沌と混乱、そして人の心が浮き彫りになった都市。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
0個
0個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
6日
6日
参加人数
10/∞
10/∞
公開日
2021年08月29日
2021年08月29日
†メイン参加者 10人†
●
「メンテナンス、終了しました。蒸気王」
「大儀である。楽にしてよい」
『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)は一礼し、蒸気機器メンテナンス用の道具をしまう。目の前にはこのヘルメリアの王にして、技術の最高峰である『蒸気王』チャールズ・バベッジがいた。
「ふふ、ではそのように」
たまきの地位は、公的には王専用メンテナンス技師だ。複雑な蒸気機械と医学の見地。その両方を持っている人材はヘルメリアでも少ない。たまきが抜擢されたのは、ある意味当然の結果といえよう。
だが、技師と機械という関係だけではない。
「もうすぐアフタヌーンティーだな。予定は大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
チャールズとたまきは、ともにごとの茶会を楽しむほどの仲である。(公的には秘密だが)女性である蒸気王と、女性の技師であるたまき。女性同士のお茶会だ。
「いつもご苦労様です」
「全くだ。この時間だけは気が緩まる。ヴィスマルクの侵攻と国内の問題。平和とはいいがたい」
「ではこの時間は有能な騎士様に問題ごとを預けて、別のお話をしましょう。そうですね、恋の話などはどうでしょうか? ヘルメス様との関係とか」
「それはそれで頭痛の種だがな」
「こういうことに頭を悩ませるのが、普通の女性なのですよ」
王と技師のお茶会。それは鉄と蒸気の国に咲いた二輪の花――
「また奴隷解放組織による破壊行為か。まったく」
『重縛公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は度重なる報告書を前に頭を抱える。貴族として国内の問題を取り仕切るテオドールが耳にするのは、反奴隷を掲げる集団と国外からの圧力だ。
「戦争は亜人達に任せるとして、国内の問題は深刻だな」
言って息を吐くテオドール。奴隷の労働力により経済を回しているのがヘルメリアだ。土地の開墾、建築、向上による産業、蒸気機器の作製など様々だ。
遠くイ・ラプセルでは新王が奴隷解放政策を打ち出したが、それは亜人のマンパワーをなくして『自由騎士』と呼ばれる軍隊を生み出したに過ぎない。要は産業を捨てて軍事に走ったのをクリーンに表現しただけだ。となれば次のイ・ラプセルの行動は――
「……いや、かの国のことは今はいい。現状懸念すべきは奴隷解放組織か。
言い分は理解するが、やり方が強引だ」
テオドールとてヘルメリアのノウブル。奴隷を扱うこともあるし、話をすることもある。情がわく気持ちも理解はできよう。だが、暴力を持って体制に歯向かうのなら、相応の態度は必要だ。
「私自らが動くことはなさそうだが、最悪はその可能性も考慮したほうがいいな」
魔術師としても名高いテオドール。彼が前線に出ることはないとみていた。ヘルメリアには有能な歯車騎士団もいる。だが、歯車騎士団が対抗できないのなら――
「そのようなことなど、ないとは思うがな」
窓の外を見る。排煙で染まる灰色の空。それを見て、テオドールは最悪の状況を想定していた。
「作戦名『ダヴィンチの翼』、任務開始だ」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はそう告げると同時に、イグニションガンを差し込み、引き金を引いた。バシュ、という蒸気音とともにエンジンが起動し、自らが登場している機械が動き出す。
「プロメテウス/アデル、出るぞ」
プロメテウス。それはヘルメリアが誇る蒸気式人型機動兵器。そのナンバリングはAからGまで存在し、今なお生産中だ。大きさ四mの二足歩行兵器で、Aナンバーはその最高峰である。
自らの名前をそのナンバリングにあてたアデル。彼はそれを認められるほどの実力を持っているのだ。蒸気王より『クィーン・エンジン』を賜り、それにより機動力も大きく増した。高速機動による一撃必殺。それがプロメテウス/アデルの真価だ。
「エイダー隊が陽動に成功している今が好機だ。
目標はヴィスマルク・ラウエンブルク級強襲揚陸飛空艇リューベック。カタパルト射出による直接移乗攻撃を仕掛ける」
目標は空を支配するヴィスマルクの飛空艇。飛空艇からの砲撃が嵐のように降る中、アデルはカタパルトにより射出される。甲板の上に着地し、目の前の敵に目を向ける。
「やはり来たか、アデル。積年の決着をここでつけようか」
「つまらんセリフだな、ザクソン。だがここで終わりにしたいのはこちらもだ」
アデルの前に現れたのは、プロメテウスを模した機動兵器。複数の『チャイルドギア』を使用したヴィスマルクの最新兵器だ。
「すべてのスペックにおいて、こいつはプロメテウスを凌駕している。アデル、お前に勝ち目はない!」
「スペックの高さが勝利に直結すると思うな。だから貴様は俺に勝てないのだ」
「ほざけ! 展開しろ『ニーダーザクセン』!」
「『クィーン・エンジン』フレーム開放。蒸気圧145%を維持。これより敵機ザクソンと交戦に入る」
飛空艇の甲板上で交差する二機。激しい金属音が響き合う。
いまここに『ダヴィンチの翼』の雌雄を決するといっても過言ではない蒸気兵器同士の戦いが始まった――
●
「これで終わりよ!」
『幽世を望むもの』猪市 きゐこ(CL3000048)の炎が工場に広がる。同時にフリーエンジンの代表が作り出した車輪状の機械が戦場を蹂躙した。
「Perfect! これぞ完全勝利! 圧倒的な火力、圧倒的な蹂躙! すなわち、塵すら残さぬ破壊! おお、話には聞いていたがこれが魔法か」
「ふふん、蒸気機械はただ固いだけとか思ってたけど、まさかここまで爆発するなんてね。さすがだわ! この調子でどんどん破壊していきましょう!」
がし、と手を組むきゐことフリーエンジン代表。自爆大好き技師と魔法ハッピートリガーが手を組むとこうなる、という好例であった。
「っていうかマナ使わないでいいのはすごいわよね。これ、魔法の杖とかに組み込んだらどうなるのかしら? 折り畳みマジックスタッフ? いいえ、レティーナさんのマジックンハンドと組み合わせて四本腕魔術? あ、いけるかも。二本腕じゃ使えない魔術いけるかも!?」
「Yes! 魔法の推進力を使った加速装置はどうだ! 燃料タンクを外せるから軽量化にもなる! そして浮いた空間に火薬を詰めれば!」
「腕が増えればアマノホカリの仁王とかが使ってた術式行けるわよね。あー、スコープ系で魔眼を拡散とか超遠距離から飛ばすとかできれば最高じゃない!? そうそう、レティーナさんニンジャとかにならない? 隠密得意みたいだし。よし決定、なれ」
きゐこは魔術と蒸気機械を組みわせることに精を出し、同時にアマノホカリで生み出したコネを利用してヘリメリア島にいち早くアマノホカリスタイルを確立させた。これにより奴隷解放組織の動きはより激しくなるのであった。
「なんだかすごいことになってますね。いえ、戦力強化は嬉しいことなのですが」
そんな様子を見ながら『はくばにのったおじさま(幻想)』デボラ・コーリナー(CL3000511)は溜息を吐いた。理由はきゐこと代表の暴走――ではない。あれはもうしばらくしたら自爆しておとなしくなるだろう。5、4、さ――あ、思ったより早かった。
「もー、ここのところずっと留守番じゃないですかー! そりゃ隠密任務に向かないのは事実ですけど!」
デボラはいろいろあってジョンと出会い、奴隷解放組織に入ってなんやかんやあって苗字が同じになる関係になりました。それ自体はとても幸せだけど、奴隷解放組織の任務で同行する機会は少ない。
「そりゃティダルトの防衛は重要ですよ。移動中に幻想種に襲われたことだって何度かありますし、荒野のキャンプ中だって安全確保は大事です。私がこの手の任務に適しているのは間違いありませんけど!」
出立前に夫と交わした会話を思い出す。
「デボラ、この任務は貴方にしかできないのです。私たちが返ってくる『家』を守るために、その力を。
愛する妻を盾にするのは男として忸怩たる思いですが、それでも貴女に願うしかないのです」
手を取って、真摯な瞳でそういわれてしまえばデボラの心も揺らぐものだ。だがそれはそれ。別れてばかりは寂しいのだ。
「決めました! 次の任務の時はわがままを言います! 絶対ついていきますからね、ジョン!」
強く心に誓うデボラ。奴隷解放組織は今日も平和です。
●
「あらあらあらこれは我らが神ヘルメス様じゃないですかー! ご機嫌麗しゅー♪」
三つ編み美少女『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が媚び媚びの声で現れた相手に話しかける。
「我ら兵站軍は皆皆様の便利な道具ですからねー? 運搬、伝達、調達、調査に慰安まで〜♪ 何でも致しますよー♪」
「いや、君そんなキャラじゃないだろう。僕を笑い殺したいのなら納得だけど」
苦笑しながらその相手――ヘルメリアの神ヘルメスは答える。その態度を見て、スッとツボミは目を細めた。
「ち、これだから苦手なんですよ貴方、営業が通じない。可愛げがないったら。ペッ」
「ちなみにうまく騙せたら何をするつもりだったんだ?」
「んなもん、コネつなぐにきまっとろうが。媚びと情報で生き抜くためには、何はなくとも『こいつは自分に対して安全だ』と思わせないとやってれんのだ」
「いや大変だね、マザリモノ。この国じゃ、兵站軍に入るか奴隷になるかしかないからね。こんな国に誰がしたのやら」
お前だお前、というツッコミをすんでのところで止めるツボミ。この神様がこの国の裏でいろいろ暗躍しているのは知っている。わざと平和をかき乱し、起こる事件を楽しんでいることも。
「こんな社会体制なんて壊したくならないかい? いま、奴隷解放組織は結構活発化しているみたいだけど」
「つまり、戦力比的にはまだまだ奴隷解放組織は戦力不足だから、協力者を求めてる、と」
「話が早いね。チャールズももう少し遊びがあってもいいと思うんだけど。締め付けすぎると面白くない」
「王としては正しいがな。とりあえず不満を持ってる輩に話を振ってみる。二週間……いや、十日後に結果を伝える」
「期待しているよ。それじゃ」
言って空気に溶けるように消えるヘルメス。その後を見ながら、ツボミは再度唾を吐いた。
「まいどありだ。クズ神野郎。けっ」
「この海賊団に熊は二人もいらないと思わねぇか、新人よぉ」
『経済の父』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は甲板の上で入ってきたばかりの新人海賊にそんなことを言っていた。
赤髭海賊団。二大海賊の一つである海賊団だが、それがヘルメリアの私掠海賊であることは、裏の情報を知るものならだれもが知っていた。ヘルメリアの領海内に入っても攻撃されることはなく、ヘルメリアに敵対する相手を主に狙うのだ。
「いずれこの船はモーガンじゃなくてこの俺が仕切ることになる。ウェルス海賊団とでも言おうか? そして二大海賊じゃなく、海賊といえばウェルス海賊団とばかりにこの海を制覇してやるよ」
言いながら新人の口を押えて、彼の耳を銃で撃つウェルス。ほかに人がいないのか、銃声を聞きつけてやって来る者はいない。この程度の『小言』は海賊では日常茶飯事ということもある。
「てな反乱がおきるから、それをつくように攻めてくるように『お前の依頼主』に伝えてくれや。できれば選りすぐりの美女を中心にした部隊とかでよ」
言って次は指を折る。相手の反論など聞く耳持たない。この新人がスパイなのは、裏が取れている。嘘をついて煙に巻くなんて言うことはさせない。そんな余裕を与えるほど甘くはない。
「なあ頼むぜ。正気を保つのが大変なんだ。略奪してもいいところはモーガンに持ってかれちまう。こういうことがないと気が苦しそうなんだ。頼むぜ。
ああ、もちろんうまくいったらおまえにも儲けはあるぜ。俺が飽きた女を一番にくれてやる。好きにしていいぜ。欲を吐き出してもいいし、盾にしてもいい。なんなら奴隷に売ってもいい。文字通り、お前のものだ。悪くないだろ?」
指の関節を一つずつ折った後で、銃口を押し付ける。痛みで返事ができない新人は恐怖で顔がゆがむが、それを気にするととなくウェルスは引き金を引いた。
「なあ頼むぜ。指が残っている間に、な」
「つまらない。もう情報を吐いたの?」
『水の癒し』ステラ・モラル(CL3000709)は目的の情報を吐いた相手をつまらなそうに見下した。拷問開始から一三時間経過。その程度で根を上げるなど、面白くない。その感情を隠すことなく表情にのせるステラ。
「最初はあれだけ恋人は守るって宣言しておいて、あっさり痛みに屈しちゃって。ああ、可哀そう。貴方の恋人はもう日の目を見ることはないわ。貴方が受けた以上の拷問を受けて、みじめに哀れに死んでいくの。ふふ、何なら特等席で見せてあげようかしら」
ステラが情報を聞き出そうとした相手は、自分の主であるネッドに敵対する歯車騎士団の一派だ。曰く、イ・ラプセルと友好条例を結ぼうと奔走していたとか。その政治的な意図はともかく、大事なのはただ一つ。
「私は絶対ネッド様を裏切らない。なぜなら私はネッド様を愛しているから。貴方のように噓の愛じゃない。どんなことがあっても、あの人を裏切らない。ふふ、ふふふふふ」
兵站軍の汚泥の中から自分を救ってくれたあの人。このヘルメリアで消費されるだけの亜人である自分に価値を見出してくれたあの人。そうだ、私はこの人に使えるために生まれてきたのだ。この体も、この能力も、この魂も、すべて。
「この忠義が愛の絆。この首輪が愛の証! 誰も否定はさせない。奴隷解放だなんてさせない。私とネッド様の関係に介入なんてさせない! イ・ラプセルなんて小国はすぐに滅びるのよ。あなたとあなたの恋人の関係のように!」
嗤う。
特別な関係を守れなかった相手を、ヴィスマルクに攻められて滅びるイ・ラプセルを。そして自らを祝福するようにステラは笑う。
「ネッド様、次の任務は何ですか? あの奴隷解放組織? それとも他国のスパイ? ああ、モーガン一派の横暴もいいかも止めないといけませんね? 貴方のためならステラは何でもします。だから、だからだからだから!
だから、もっと殺させてください! 貴方への愛を証明するために、貴方の邪魔者を殺します!」
殺すことが愛の証明。殺した分だけ愛してくれる。
ステラはそう信じて、今日もヘルメリアの暗部に生きる。
「さすがにヘルメリアも馬鹿じゃないってことだな」
『野に放たれた虎』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は言って手持ちの斧で追っ手にとどめを刺す。仲間に通達される前に息の根を止めたので、この間者が持っている情報はここで止まったはずだ。
シャンバラのスパイ。それが今のロンベルの立場だ。ヘルメリア島内に侵入し、内部情報を伝達せよ。
敵国内に潜入するという任務だが、シャンバラから送られた数は少ない。なぜなら、シャンバラは蒸気機器などを忌み嫌っているからだ。神ミトラース様が伝えた魔法を至上とするこの国では、最新の機械など湯気で動かす遊びのようなもの。マナ満ちるこの世界においてわざわざ水を沸騰させる手間がもったいない。そういう理由でヘルメリアに近づく者は少なかった。
「だからこそ、神への忠義を示せるのだがな」
唇を笑みに変えるロンベル。楽な道を進むことなど誰にでもできる。神ミトラースのために苦行をすすむ。つらく苦しい道だからこそ、得られる信仰もあるのだ。この身すべて、神のために。
亜人がヘルメリア内に侵入し、その住民になることは難しくない。兵站軍になるか、あるいは誰かの奴隷になるか。だが白き神のオラクルであるロンベルは、オーラの色で敵国兵であることがばれるため兵站軍に入ることは不可能だ。それに、
(ミトラース様以外に首を垂れるのは業腹だ)
そんな理由でロンベルが選んだのは、そのどれでもない形だ。奴隷のふりをして侵入し、奴隷商人を殺して自由を得た。その後に独自に行動している。おかげで追われる身となったが、だからこそ得られる情報もあった。
「都市の地図に間者の連絡方法。蒸気騎士とやらの情報も目新しいな。
まったく、こんな程度でシャンバラをどうにかできると思っているのかね」
伝達用の魔道具を使い、得た情報を本国に送る。ここで戻っても任務成功だが、まだまだいけるとロンベルは踏んでいた。より深く敵の懐に潜り、そしてもっとクリティカルな情報を得るのだ。
「すべては白きミトラース神の為に。われは神とともにあり」
●
「ん……。今日もいい天気ですね」
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は伸びをして、ヘルメリアの空を見上げる。今日も灰色の空が広がっていた。ヘルメリアのいつもの光景。平和なロンディアナの日常の始まりだ。
「無事に戦争が終わって、よかったです」
五つの国による戦争は終わりを告げた。騎士ではないロザベルは何も知らないが、歯車騎士団はこの世界を生み出した創造新を踏破したという。その経緯は知らないが、ヘルメリアが平和なのは彼らの働きなのだということは理解している。
「時計塔。タワーブリッジ。そして大陸横断鉄道。蒸気機器は偉大です」
戦争を経験していないこともあり、ロザベルはヘルメリアの暗部を知らない。奴隷に関する扱いも疑問を抱かず、蒸気文明を発達していく上での重要な労働力という認識しかない。ただヘルメリアの蒸気文明が世界を大きく支えることは知っている。
世界の時間を示す時計塔。蒸気技術の粋を集めて作り出されたこの時計は、十万年に一秒のずれもないといわれている。どんなことがあっても正確に時を刻み続けることができる時計だ。ヘルメリア島と大陸をつなぐタワーブリッジ。そしてタワーブリッジから延びる大陸横断鉄道。
すべての文化はヘルメリアから始まり、そしてこれからも続いていく。窓から見えるそれらの建築物は、それを思わせる光景だ。
「今日も頑張りましょう」
そしてロザベルはそんなヘルメリアを支える技師の一人。結婚話も出てきてはいたが、今は蒸気技術を学ぶことが大事とばかりに、そういった付き合いは二の次にしている。技師に男性はいるが、それこそ技術の話しかしない相手だ。
時計塔の鐘が鳴る。その音を合図にするように、ロザベルの一日は始まるのであった。
「メンテナンス、終了しました。蒸気王」
「大儀である。楽にしてよい」
『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)は一礼し、蒸気機器メンテナンス用の道具をしまう。目の前にはこのヘルメリアの王にして、技術の最高峰である『蒸気王』チャールズ・バベッジがいた。
「ふふ、ではそのように」
たまきの地位は、公的には王専用メンテナンス技師だ。複雑な蒸気機械と医学の見地。その両方を持っている人材はヘルメリアでも少ない。たまきが抜擢されたのは、ある意味当然の結果といえよう。
だが、技師と機械という関係だけではない。
「もうすぐアフタヌーンティーだな。予定は大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
チャールズとたまきは、ともにごとの茶会を楽しむほどの仲である。(公的には秘密だが)女性である蒸気王と、女性の技師であるたまき。女性同士のお茶会だ。
「いつもご苦労様です」
「全くだ。この時間だけは気が緩まる。ヴィスマルクの侵攻と国内の問題。平和とはいいがたい」
「ではこの時間は有能な騎士様に問題ごとを預けて、別のお話をしましょう。そうですね、恋の話などはどうでしょうか? ヘルメス様との関係とか」
「それはそれで頭痛の種だがな」
「こういうことに頭を悩ませるのが、普通の女性なのですよ」
王と技師のお茶会。それは鉄と蒸気の国に咲いた二輪の花――
「また奴隷解放組織による破壊行為か。まったく」
『重縛公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は度重なる報告書を前に頭を抱える。貴族として国内の問題を取り仕切るテオドールが耳にするのは、反奴隷を掲げる集団と国外からの圧力だ。
「戦争は亜人達に任せるとして、国内の問題は深刻だな」
言って息を吐くテオドール。奴隷の労働力により経済を回しているのがヘルメリアだ。土地の開墾、建築、向上による産業、蒸気機器の作製など様々だ。
遠くイ・ラプセルでは新王が奴隷解放政策を打ち出したが、それは亜人のマンパワーをなくして『自由騎士』と呼ばれる軍隊を生み出したに過ぎない。要は産業を捨てて軍事に走ったのをクリーンに表現しただけだ。となれば次のイ・ラプセルの行動は――
「……いや、かの国のことは今はいい。現状懸念すべきは奴隷解放組織か。
言い分は理解するが、やり方が強引だ」
テオドールとてヘルメリアのノウブル。奴隷を扱うこともあるし、話をすることもある。情がわく気持ちも理解はできよう。だが、暴力を持って体制に歯向かうのなら、相応の態度は必要だ。
「私自らが動くことはなさそうだが、最悪はその可能性も考慮したほうがいいな」
魔術師としても名高いテオドール。彼が前線に出ることはないとみていた。ヘルメリアには有能な歯車騎士団もいる。だが、歯車騎士団が対抗できないのなら――
「そのようなことなど、ないとは思うがな」
窓の外を見る。排煙で染まる灰色の空。それを見て、テオドールは最悪の状況を想定していた。
「作戦名『ダヴィンチの翼』、任務開始だ」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はそう告げると同時に、イグニションガンを差し込み、引き金を引いた。バシュ、という蒸気音とともにエンジンが起動し、自らが登場している機械が動き出す。
「プロメテウス/アデル、出るぞ」
プロメテウス。それはヘルメリアが誇る蒸気式人型機動兵器。そのナンバリングはAからGまで存在し、今なお生産中だ。大きさ四mの二足歩行兵器で、Aナンバーはその最高峰である。
自らの名前をそのナンバリングにあてたアデル。彼はそれを認められるほどの実力を持っているのだ。蒸気王より『クィーン・エンジン』を賜り、それにより機動力も大きく増した。高速機動による一撃必殺。それがプロメテウス/アデルの真価だ。
「エイダー隊が陽動に成功している今が好機だ。
目標はヴィスマルク・ラウエンブルク級強襲揚陸飛空艇リューベック。カタパルト射出による直接移乗攻撃を仕掛ける」
目標は空を支配するヴィスマルクの飛空艇。飛空艇からの砲撃が嵐のように降る中、アデルはカタパルトにより射出される。甲板の上に着地し、目の前の敵に目を向ける。
「やはり来たか、アデル。積年の決着をここでつけようか」
「つまらんセリフだな、ザクソン。だがここで終わりにしたいのはこちらもだ」
アデルの前に現れたのは、プロメテウスを模した機動兵器。複数の『チャイルドギア』を使用したヴィスマルクの最新兵器だ。
「すべてのスペックにおいて、こいつはプロメテウスを凌駕している。アデル、お前に勝ち目はない!」
「スペックの高さが勝利に直結すると思うな。だから貴様は俺に勝てないのだ」
「ほざけ! 展開しろ『ニーダーザクセン』!」
「『クィーン・エンジン』フレーム開放。蒸気圧145%を維持。これより敵機ザクソンと交戦に入る」
飛空艇の甲板上で交差する二機。激しい金属音が響き合う。
いまここに『ダヴィンチの翼』の雌雄を決するといっても過言ではない蒸気兵器同士の戦いが始まった――
●
「これで終わりよ!」
『幽世を望むもの』猪市 きゐこ(CL3000048)の炎が工場に広がる。同時にフリーエンジンの代表が作り出した車輪状の機械が戦場を蹂躙した。
「Perfect! これぞ完全勝利! 圧倒的な火力、圧倒的な蹂躙! すなわち、塵すら残さぬ破壊! おお、話には聞いていたがこれが魔法か」
「ふふん、蒸気機械はただ固いだけとか思ってたけど、まさかここまで爆発するなんてね。さすがだわ! この調子でどんどん破壊していきましょう!」
がし、と手を組むきゐことフリーエンジン代表。自爆大好き技師と魔法ハッピートリガーが手を組むとこうなる、という好例であった。
「っていうかマナ使わないでいいのはすごいわよね。これ、魔法の杖とかに組み込んだらどうなるのかしら? 折り畳みマジックスタッフ? いいえ、レティーナさんのマジックンハンドと組み合わせて四本腕魔術? あ、いけるかも。二本腕じゃ使えない魔術いけるかも!?」
「Yes! 魔法の推進力を使った加速装置はどうだ! 燃料タンクを外せるから軽量化にもなる! そして浮いた空間に火薬を詰めれば!」
「腕が増えればアマノホカリの仁王とかが使ってた術式行けるわよね。あー、スコープ系で魔眼を拡散とか超遠距離から飛ばすとかできれば最高じゃない!? そうそう、レティーナさんニンジャとかにならない? 隠密得意みたいだし。よし決定、なれ」
きゐこは魔術と蒸気機械を組みわせることに精を出し、同時にアマノホカリで生み出したコネを利用してヘリメリア島にいち早くアマノホカリスタイルを確立させた。これにより奴隷解放組織の動きはより激しくなるのであった。
「なんだかすごいことになってますね。いえ、戦力強化は嬉しいことなのですが」
そんな様子を見ながら『はくばにのったおじさま(幻想)』デボラ・コーリナー(CL3000511)は溜息を吐いた。理由はきゐこと代表の暴走――ではない。あれはもうしばらくしたら自爆しておとなしくなるだろう。5、4、さ――あ、思ったより早かった。
「もー、ここのところずっと留守番じゃないですかー! そりゃ隠密任務に向かないのは事実ですけど!」
デボラはいろいろあってジョンと出会い、奴隷解放組織に入ってなんやかんやあって苗字が同じになる関係になりました。それ自体はとても幸せだけど、奴隷解放組織の任務で同行する機会は少ない。
「そりゃティダルトの防衛は重要ですよ。移動中に幻想種に襲われたことだって何度かありますし、荒野のキャンプ中だって安全確保は大事です。私がこの手の任務に適しているのは間違いありませんけど!」
出立前に夫と交わした会話を思い出す。
「デボラ、この任務は貴方にしかできないのです。私たちが返ってくる『家』を守るために、その力を。
愛する妻を盾にするのは男として忸怩たる思いですが、それでも貴女に願うしかないのです」
手を取って、真摯な瞳でそういわれてしまえばデボラの心も揺らぐものだ。だがそれはそれ。別れてばかりは寂しいのだ。
「決めました! 次の任務の時はわがままを言います! 絶対ついていきますからね、ジョン!」
強く心に誓うデボラ。奴隷解放組織は今日も平和です。
●
「あらあらあらこれは我らが神ヘルメス様じゃないですかー! ご機嫌麗しゅー♪」
三つ編み美少女『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が媚び媚びの声で現れた相手に話しかける。
「我ら兵站軍は皆皆様の便利な道具ですからねー? 運搬、伝達、調達、調査に慰安まで〜♪ 何でも致しますよー♪」
「いや、君そんなキャラじゃないだろう。僕を笑い殺したいのなら納得だけど」
苦笑しながらその相手――ヘルメリアの神ヘルメスは答える。その態度を見て、スッとツボミは目を細めた。
「ち、これだから苦手なんですよ貴方、営業が通じない。可愛げがないったら。ペッ」
「ちなみにうまく騙せたら何をするつもりだったんだ?」
「んなもん、コネつなぐにきまっとろうが。媚びと情報で生き抜くためには、何はなくとも『こいつは自分に対して安全だ』と思わせないとやってれんのだ」
「いや大変だね、マザリモノ。この国じゃ、兵站軍に入るか奴隷になるかしかないからね。こんな国に誰がしたのやら」
お前だお前、というツッコミをすんでのところで止めるツボミ。この神様がこの国の裏でいろいろ暗躍しているのは知っている。わざと平和をかき乱し、起こる事件を楽しんでいることも。
「こんな社会体制なんて壊したくならないかい? いま、奴隷解放組織は結構活発化しているみたいだけど」
「つまり、戦力比的にはまだまだ奴隷解放組織は戦力不足だから、協力者を求めてる、と」
「話が早いね。チャールズももう少し遊びがあってもいいと思うんだけど。締め付けすぎると面白くない」
「王としては正しいがな。とりあえず不満を持ってる輩に話を振ってみる。二週間……いや、十日後に結果を伝える」
「期待しているよ。それじゃ」
言って空気に溶けるように消えるヘルメス。その後を見ながら、ツボミは再度唾を吐いた。
「まいどありだ。クズ神野郎。けっ」
「この海賊団に熊は二人もいらないと思わねぇか、新人よぉ」
『経済の父』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は甲板の上で入ってきたばかりの新人海賊にそんなことを言っていた。
赤髭海賊団。二大海賊の一つである海賊団だが、それがヘルメリアの私掠海賊であることは、裏の情報を知るものならだれもが知っていた。ヘルメリアの領海内に入っても攻撃されることはなく、ヘルメリアに敵対する相手を主に狙うのだ。
「いずれこの船はモーガンじゃなくてこの俺が仕切ることになる。ウェルス海賊団とでも言おうか? そして二大海賊じゃなく、海賊といえばウェルス海賊団とばかりにこの海を制覇してやるよ」
言いながら新人の口を押えて、彼の耳を銃で撃つウェルス。ほかに人がいないのか、銃声を聞きつけてやって来る者はいない。この程度の『小言』は海賊では日常茶飯事ということもある。
「てな反乱がおきるから、それをつくように攻めてくるように『お前の依頼主』に伝えてくれや。できれば選りすぐりの美女を中心にした部隊とかでよ」
言って次は指を折る。相手の反論など聞く耳持たない。この新人がスパイなのは、裏が取れている。嘘をついて煙に巻くなんて言うことはさせない。そんな余裕を与えるほど甘くはない。
「なあ頼むぜ。正気を保つのが大変なんだ。略奪してもいいところはモーガンに持ってかれちまう。こういうことがないと気が苦しそうなんだ。頼むぜ。
ああ、もちろんうまくいったらおまえにも儲けはあるぜ。俺が飽きた女を一番にくれてやる。好きにしていいぜ。欲を吐き出してもいいし、盾にしてもいい。なんなら奴隷に売ってもいい。文字通り、お前のものだ。悪くないだろ?」
指の関節を一つずつ折った後で、銃口を押し付ける。痛みで返事ができない新人は恐怖で顔がゆがむが、それを気にするととなくウェルスは引き金を引いた。
「なあ頼むぜ。指が残っている間に、な」
「つまらない。もう情報を吐いたの?」
『水の癒し』ステラ・モラル(CL3000709)は目的の情報を吐いた相手をつまらなそうに見下した。拷問開始から一三時間経過。その程度で根を上げるなど、面白くない。その感情を隠すことなく表情にのせるステラ。
「最初はあれだけ恋人は守るって宣言しておいて、あっさり痛みに屈しちゃって。ああ、可哀そう。貴方の恋人はもう日の目を見ることはないわ。貴方が受けた以上の拷問を受けて、みじめに哀れに死んでいくの。ふふ、何なら特等席で見せてあげようかしら」
ステラが情報を聞き出そうとした相手は、自分の主であるネッドに敵対する歯車騎士団の一派だ。曰く、イ・ラプセルと友好条例を結ぼうと奔走していたとか。その政治的な意図はともかく、大事なのはただ一つ。
「私は絶対ネッド様を裏切らない。なぜなら私はネッド様を愛しているから。貴方のように噓の愛じゃない。どんなことがあっても、あの人を裏切らない。ふふ、ふふふふふ」
兵站軍の汚泥の中から自分を救ってくれたあの人。このヘルメリアで消費されるだけの亜人である自分に価値を見出してくれたあの人。そうだ、私はこの人に使えるために生まれてきたのだ。この体も、この能力も、この魂も、すべて。
「この忠義が愛の絆。この首輪が愛の証! 誰も否定はさせない。奴隷解放だなんてさせない。私とネッド様の関係に介入なんてさせない! イ・ラプセルなんて小国はすぐに滅びるのよ。あなたとあなたの恋人の関係のように!」
嗤う。
特別な関係を守れなかった相手を、ヴィスマルクに攻められて滅びるイ・ラプセルを。そして自らを祝福するようにステラは笑う。
「ネッド様、次の任務は何ですか? あの奴隷解放組織? それとも他国のスパイ? ああ、モーガン一派の横暴もいいかも止めないといけませんね? 貴方のためならステラは何でもします。だから、だからだからだから!
だから、もっと殺させてください! 貴方への愛を証明するために、貴方の邪魔者を殺します!」
殺すことが愛の証明。殺した分だけ愛してくれる。
ステラはそう信じて、今日もヘルメリアの暗部に生きる。
「さすがにヘルメリアも馬鹿じゃないってことだな」
『野に放たれた虎』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は言って手持ちの斧で追っ手にとどめを刺す。仲間に通達される前に息の根を止めたので、この間者が持っている情報はここで止まったはずだ。
シャンバラのスパイ。それが今のロンベルの立場だ。ヘルメリア島内に侵入し、内部情報を伝達せよ。
敵国内に潜入するという任務だが、シャンバラから送られた数は少ない。なぜなら、シャンバラは蒸気機器などを忌み嫌っているからだ。神ミトラース様が伝えた魔法を至上とするこの国では、最新の機械など湯気で動かす遊びのようなもの。マナ満ちるこの世界においてわざわざ水を沸騰させる手間がもったいない。そういう理由でヘルメリアに近づく者は少なかった。
「だからこそ、神への忠義を示せるのだがな」
唇を笑みに変えるロンベル。楽な道を進むことなど誰にでもできる。神ミトラースのために苦行をすすむ。つらく苦しい道だからこそ、得られる信仰もあるのだ。この身すべて、神のために。
亜人がヘルメリア内に侵入し、その住民になることは難しくない。兵站軍になるか、あるいは誰かの奴隷になるか。だが白き神のオラクルであるロンベルは、オーラの色で敵国兵であることがばれるため兵站軍に入ることは不可能だ。それに、
(ミトラース様以外に首を垂れるのは業腹だ)
そんな理由でロンベルが選んだのは、そのどれでもない形だ。奴隷のふりをして侵入し、奴隷商人を殺して自由を得た。その後に独自に行動している。おかげで追われる身となったが、だからこそ得られる情報もあった。
「都市の地図に間者の連絡方法。蒸気騎士とやらの情報も目新しいな。
まったく、こんな程度でシャンバラをどうにかできると思っているのかね」
伝達用の魔道具を使い、得た情報を本国に送る。ここで戻っても任務成功だが、まだまだいけるとロンベルは踏んでいた。より深く敵の懐に潜り、そしてもっとクリティカルな情報を得るのだ。
「すべては白きミトラース神の為に。われは神とともにあり」
●
「ん……。今日もいい天気ですね」
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は伸びをして、ヘルメリアの空を見上げる。今日も灰色の空が広がっていた。ヘルメリアのいつもの光景。平和なロンディアナの日常の始まりだ。
「無事に戦争が終わって、よかったです」
五つの国による戦争は終わりを告げた。騎士ではないロザベルは何も知らないが、歯車騎士団はこの世界を生み出した創造新を踏破したという。その経緯は知らないが、ヘルメリアが平和なのは彼らの働きなのだということは理解している。
「時計塔。タワーブリッジ。そして大陸横断鉄道。蒸気機器は偉大です」
戦争を経験していないこともあり、ロザベルはヘルメリアの暗部を知らない。奴隷に関する扱いも疑問を抱かず、蒸気文明を発達していく上での重要な労働力という認識しかない。ただヘルメリアの蒸気文明が世界を大きく支えることは知っている。
世界の時間を示す時計塔。蒸気技術の粋を集めて作り出されたこの時計は、十万年に一秒のずれもないといわれている。どんなことがあっても正確に時を刻み続けることができる時計だ。ヘルメリア島と大陸をつなぐタワーブリッジ。そしてタワーブリッジから延びる大陸横断鉄道。
すべての文化はヘルメリアから始まり、そしてこれからも続いていく。窓から見えるそれらの建築物は、それを思わせる光景だ。
「今日も頑張りましょう」
そしてロザベルはそんなヘルメリアを支える技師の一人。結婚話も出てきてはいたが、今は蒸気技術を学ぶことが大事とばかりに、そういった付き合いは二の次にしている。技師に男性はいるが、それこそ技術の話しかしない相手だ。
時計塔の鐘が鳴る。その音を合図にするように、ロザベルの一日は始まるのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
イフストーリーだから、やりたい放題でした。おもにどくどくが。
MVPはそういう展開もありか、と思わせてくれた方々に。ダーク路線もありはあり?
ロンディアナで、また会いましょう。
イフストーリーだから、やりたい放題でした。おもにどくどくが。
MVPはそういう展開もありか、と思わせてくれた方々に。ダーク路線もありはあり?
ロンディアナで、また会いましょう。
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