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Nightmare! 悪夢は汝の鏡なり!

●黒く昏い沼の中に堕ちていく……
――こんな夢を見た…………。
●その幻想種の名は――
ナイトメア。
幻想種と呼ばれる中でも、とりわけその生態が不明な存在だ。
黒い馬という説もあれば、馬に乗った悪魔、或いは馬の姿をした悪魔とも言われている。その姿を見た者はいない。何故ならナイトメアは悪夢を持ってのみその存在を知ることが出来るのだから。
そう、ナイトメアは悪夢を見せる。
それは過去に経験した傷痕だったり、今直面している耐えがたい事件だったり、未来の不安を形にした者だったりと様々だ。
人が心を持つ以上、悪夢に怯えない事はできない。恐怖を恐怖と感じなくなった時点で、その精神は壊れてしまったのだから。怖さを認めたうえで立ち上がるのと、怖さを感じないほど壊れたのでは全く意味が異なる。
ともあれ、ナイトメアは万人に悪夢を見せる。死と同じく平等に。男女も、老若も、種族も、身分も、財産も、善悪も関係なく。
当然、貴方にも――
――こんな夢を見た…………。
●その幻想種の名は――
ナイトメア。
幻想種と呼ばれる中でも、とりわけその生態が不明な存在だ。
黒い馬という説もあれば、馬に乗った悪魔、或いは馬の姿をした悪魔とも言われている。その姿を見た者はいない。何故ならナイトメアは悪夢を持ってのみその存在を知ることが出来るのだから。
そう、ナイトメアは悪夢を見せる。
それは過去に経験した傷痕だったり、今直面している耐えがたい事件だったり、未来の不安を形にした者だったりと様々だ。
人が心を持つ以上、悪夢に怯えない事はできない。恐怖を恐怖と感じなくなった時点で、その精神は壊れてしまったのだから。怖さを認めたうえで立ち上がるのと、怖さを感じないほど壊れたのでは全く意味が異なる。
ともあれ、ナイトメアは万人に悪夢を見せる。死と同じく平等に。男女も、老若も、種族も、身分も、財産も、善悪も関係なく。
当然、貴方にも――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.悪夢を見る
どくどくです。
いい悪夢(ユメ)、見たろう?
●説明っ!
貴方は悪夢を見ます。
それは過去経験した酷い事の再現かもしれません。
それは今直面している事件のことかもしれません。
それは未来の不安が形になった物かもしれません。
ともあれあなたは悪夢を見ます。プレイングにその悪夢の内容を書いてください。悪夢は夢です。ありえない恐怖だろうが問題はありません。ピーマン嫌い、とか書くと全世界の人間がピーマンになって追いかけられる夢になります。
コミカルになるかもしれません。シリアスになるかもしれません、それはプレイング次第です。
●禁止事項
禁止事項として二つ。先ずはマギアスティームの時代背景を大きく逸脱する時期は不可です。端的に言えばPCが想像しうる範囲内という事になります。
もう一つはNPCの存在です。夢の中で登場する人物は基本靄がかかったような不明瞭な感じになります。しかしあなたにはそれが誰かわかります。メタな事を言うと、NPCの名前は描写しません。プレイングに書く分には問題ありませんが、リプレイ内では描写はしません。
以上二点をご了承ください。
●場所情報
夢の中。PC自身は普通に就寝しています。
夢の中なので状況はプレイング次第です。禁止事項に引っかからない程度にご自由に設定してください。
皆様のプレイングをお待ちしています。
いい悪夢(ユメ)、見たろう?
●説明っ!
貴方は悪夢を見ます。
それは過去経験した酷い事の再現かもしれません。
それは今直面している事件のことかもしれません。
それは未来の不安が形になった物かもしれません。
ともあれあなたは悪夢を見ます。プレイングにその悪夢の内容を書いてください。悪夢は夢です。ありえない恐怖だろうが問題はありません。ピーマン嫌い、とか書くと全世界の人間がピーマンになって追いかけられる夢になります。
コミカルになるかもしれません。シリアスになるかもしれません、それはプレイング次第です。
●禁止事項
禁止事項として二つ。先ずはマギアスティームの時代背景を大きく逸脱する時期は不可です。端的に言えばPCが想像しうる範囲内という事になります。
もう一つはNPCの存在です。夢の中で登場する人物は基本靄がかかったような不明瞭な感じになります。しかしあなたにはそれが誰かわかります。メタな事を言うと、NPCの名前は描写しません。プレイングに書く分には問題ありませんが、リプレイ内では描写はしません。
以上二点をご了承ください。
●場所情報
夢の中。PC自身は普通に就寝しています。
夢の中なので状況はプレイング次第です。禁止事項に引っかからない程度にご自由に設定してください。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
1個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年12月15日
2019年12月15日
†メイン参加者 8人†
●『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)の夢
リュリュは人を殺さない。もう少し正確に言えば、人を殺すことを良しとしない。敵を憎むことがあっても、殺そうとまでは思わない。
それはリュリュが抱くギリギリのラインだ。女神の権能があるとはいえ、武器を持つ以上は命を奪う可能性は否定できない。権能を放棄すれば命は奪う事はできる。現にそうしている自由騎士も存在している。
例えば、そうやって助けた命がまた悪事を行うかもしれない。あの時殺していれば、その悲劇は防げたのに。その可能性はリュリュも理解している。倒した相手が必ず更生するとは限らないことなど。
目の前には廃墟が並ぶ街。かつて生活があっただろう残滓。
「これは……」
それはリュリュが見逃した悪人の命が起こした暴走。一人の命を救ったことで、数千の無辜の命が奪われた。
『お前はただ惰性で命を見過ごしただけだ』
語りかけるのは自分自身。分かっている。心のどこかでそれを理解しながら、敢えて無視し続けてきた事。
『感謝されてうれしい』『殺さない事で責任を負わない』……そんな理由で行った積み重ねがこの結果。それが悪夢となって目の前で広がっていた。
聞こえてくる爆音、響き渡る悲鳴、失われる命、冷たくなっていく肉体。その感覚がフラッシュバックする。
「たすけて」
非常な運命への懇願。
「どうしてこんなことに!」
濁流のような暴力への疑問。
「なんであいつが生きているんだ!?」
理不尽に対する怒り。
『全て、お前が招いた結果だ。お前が無責任に見逃し、許した結果』
やめてくれ。
『命が大事? お前は殺さない事に酔っていただけだ』
そうかもしれない。
『倫理の高いところから蛮人を見下して、悦に浸っていたいた結果がこれだ』
夢なら覚めてくれ。
荒廃した光景。リュリュが今の覚悟のまま戦った結果、たどり着くのがこの世界なのだ――
●『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)の夢
見慣れない天井。薬品の香。機械音。
デボラはその状況を知っていた。忘れるはずがなかった。肉体を失い、キジンになる手術を受けるその光景を。
貴族としての責務を果たすため、デボラは戦った。戦場に置いて男女の区別なし、とばかりに前に立ち、危険な地域に身を投じていった。硝煙と血の匂いは既に何も感じなくなり、人の死を見ても唇をかんで動揺を抑える事にも慣れていた。
だから、この結果自体には後悔はない。救うべきものは救えたのだ。失ったモノは多いけど、貴族として戦った。体は鋼となるが、まだ立って歩くことはできるのだから。
「デボラ……。無事か?」
憔悴した父は、出来る限り平静を装いながら声をかけてくる。
「もう……無理はしないで……」
泣きながら母は抱きしめてくれた。抱き返した機械の体の感覚が、失った者を思い出させる。
「デボラ様の活躍で、子供達は無事です……! 感謝の言葉もいただいています……!」
ハンカチで目元を押さえながら、使用人たちは報告を続ける。
「――■■■様、は?」
デボラの言葉に、その場にいた人達の表情がこわばった。空気は途端に冷え、誰が先に言うべきかを視線で探り合う。
その雰囲気でデボラは理解した。
彼――婚約者はこの場にはいない。この場に来ることを拒否したのだ、と。
そしてその先に起きる事をデボラは知っていた。当然だ。これは過去の追体験。デボラにとっては忘れられない心の傷。
婚約破棄。機械の身体となったデボラへの返事。そんな相手と結婚してもメリットはない。そういった内容の手紙がディートヘルム家に届いた。
名誉を重視する貴族の価値観は知っている。
だけどあの人だけは違う、と信じていた。信じていたかった。優しい言葉をかけられた日々。多大に支え合おうと婚約を結んだあの言葉。それら全てが虚構だったのだと知らされた。
デボラがあの日失ったのは体の八割と、そして男性を想う心。
あの日、本当に欲しかったものは――
●『叶わぬ願いと一つの希望』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)の夢
「止めて……!」
ティルダはヨウセイだ。かつてシャンバラに多くの同胞を殺され、そして生き延びた。
伸びてくる手はシャンバラの人達がヨウセイを求める手――だったらどれだけよかっただろう。それなら乗り越えた。
『何故、お前は生きている』
『何故、聖櫃にいない?』
『何故、日の当たる場所にいる?』
伸びてくるのはヨウセイの手。ミトラースやシャンバラに奪われたヨウセイの怨嗟。かつての同胞が、ティルダを恨んでいる。その事実が彼女の心を苛んでいた。
「出来るなら、みんなでここに来たかった、です」
ヨウセイの誰も迫害されない未来に。だけどそれは叶わなかった。
「ヒトとして扱ってもらえる幸せな場所に」
皆で笑い、肩を組み、時に怒り。そんな未来があったかもしれないのに。
「わたしは、救えなかった……だからせめて、今いる人を救わなくちゃ……」
『嘘だ』
否定の声は、最も否定してほしくないヨウセイの声をしていた。
「あ。あああああ」
『その力は呪われた魔女狩りの力。ヨウセイを狩った忌まわしき力で何を救う?』
それは村で一緒に育ち、誰よりも大事だった親友だ。
『あたしを散々苦しめた後に殺し、肉体を操って他のヨウセイ達を殺させた忌まわしき魔術……! あの感覚を忘れない……忘れられない! 泣き叫ぶ仲間を殺したあの感覚を!』
「あああああ――!」
分かっている。ネクロマンサーがそういう魔術だと分かっている。
『そんな力で、あんたは何を救うって言うの……?』
「そんな……そんな魔女狩りの力だから……」
泣きながら、精神を絞りながら、ティルダは言葉を紡ぐ。喉が熱い。涙が止まらない。それでも――
「それが、私の復讐だから……!
シャンバラの力で、シャンバラを滅ぼした国に力を貸して……! それが一番の意趣返しになるから……!」
シャンバラの民を殺し尽くせば、復讐はそれで終わりだ。
だけどこの方法なら、ティルダが死ぬまで復讐は続けることが出来る――
●『艶師』蔡 狼華(CL3000451)の夢
見下す目が狼華に突き刺さる。歪んだ笑みが狼華に向けられる。
嗚呼、この表情を知っている。これは愉悦の表情。目の前の獲物を好きにできる者が浮かべる笑みだ。その感情が狼華に向けられている。抗うことなどできるはずがない。武器はなく、逃げようにも籠の中。
だけど狼華を縛る一番強い鎖は目に見えない物。愉悦の表情のさらに奥。長い金髪の女性の存在。
「マダム……嘘、やろ……?」
唇が動き、言葉を紡ぐ。マダム。そう口にするだけで狼華は幸せを感じられた。あの人の傍に居たい。あの人の役に立ちたい。狼華はずっとそう思っていた。自由騎士に入団してもその気持ちは変わらない。マダムとイ・ラプセル。どちらかを取れ、と言われれば迷わずにマダムを取る。
それほどまでに狼華はマダムに心酔していた。だから、信じられなかった。
「なして……そんな顔してるん?」
マダムは嗤っていた。
愉悦の笑みではない。笑みではあるが冷たい表情。売られていくモノを見る目。もはや狼華の姿よりも、この結果どれだけ自分が得をするか。それを楽しむ笑みだ。
「後生やからマダム! うちを捨てんといて! なぁ! 嫌や……嫌だ!」
声は確かにマダムの耳に届いただろう。
だがマダムの心には届かない。競りの開始が始まる鐘がなり、男達の叫ぶ数字がどんどんつり上がっていく。狼華が叫べば叫ぶほど、熱を帯びたように競売は加速していく。
「売られたくない! もう、もうこんなん嫌……!」
競りが完了したのか、狼華が乱暴に籠から出される。拘束されて抵抗できない狼華を引っ張るようにして、男は壇上から離れていく。マダムから、離れていく。
「お願い……僕を捨てないで……」
マダムとの距離が離れていくにつれ、絶望は深くなる。涙で視界が崩れた。それを拭い去る事すらできない。必死になって暴れても、むしろそれを弄ぶかのように男は鎖を引っ張る。
「―――! ―――!」
声にもならない叫び。プライドも何もかもかなぐり捨てて、それでもマダムには届かない。
そして狼華の視界から完全にマダムの姿が消える――
●『断罪執行官』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)の夢
「何故……このような場所にいるのでしょうか……?」
アンジェリカは訳が分からない状況を前にそう呟いていた。
何処ともわからない密林の中。飛び交う羽虫。未知の臭気、聞きなれない野鳥の声、不快感を詰め込んだような蒸した空気、か細い明かりしかない場所。
隣にいるのは誰だろうか? 知り合いのような気もするが、知らない気もする。それが逆に気持ち悪い。そこで並んで何をするのだろうか。
(私は拉致られて……無理やり動物観察をさせられている?)
思い出せるのはそんな内容。何故動物を観察させられているのか? それを思い出すことはできない。何か大いなる意思がそれを思い出すことを妨げていた。
「おい、あれトラじゃないか!?」
か細い明かりの中、光る何かを見つける隣人。今の状態で虎に出会えばまず殺されるだろう。いつもならどうにかなるが、今はどうにかなるとは思えなかった。
「いやシカじゃないの?」
「どう見てもトラだって!」
言い合う二人。小声で言っているかもしれないが、この密林ではそれは大きく響くだろう。ましてや相手は野生の動物だ。ヒトの五感以上の物を持っている可能性は否定できない。
(え?)
そう否定はできない。
こちらが気付いている時点で、向こうに気付かれている可能性は十分にあるのだ。
視認できるほどの距離を一気に跳躍し、隣人に襲い掛かる<検閲削除>。それが何なのかを理解するまでもなく絶命させ、すぐにこちらに襲い掛かる。喉元を走る灼熱。自分の喉の肉が咀嚼される音。それが<検閲削除>に喉を食い破られたと気付いたのは絶命の寸前。
(――なんで?)
ありえない。だってEXプレイングには『●■●■の▲』と書いていたから、そうなるはずはな――え? EXプレイングってなに? 私はアンジェリカ・フォン・ヴァレンタインという一個人で、それ以外の意図なんて――ぷれい・ばい・うぇぶ? まぎあすてぃーむのきゃらくたー? わたしはあんじぇりかというきゃら。
あ。はいごにいるあなたはだあれ――?
●『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)の夢
ただひたすら歩いていた。
昏い暗い道。先の見えない道。
道は一本道ではなく、幾多に分かれて、後に戻ることはできない。この道が正しいのか、確認する余裕もなくまた次の分岐点。そうしてツボミは歩いていく。
そもそも道だって真っ直ぐに歩けない。ドロリとした何かの捕らわれて、倒れてしまいそうになる。体が重く、道を横にそれそうになる。そうすると楽になると分かっているけど、そうすることはできないと自分を叱咤する。
歩く歩く歩く。
急がないと間に合わなくなる。何に? きっと楽しいお祭りに。早く追いつかないと、早くたどり着かないと、間に合わなくなってしまう。
暗く、辛く、そして孤独な道行き、そんな道を歩くのは嫌だ。そんな道を選ぶのは嫌だ。誰かと一緒に歩ければ楽なのかもしれない。誰かに苦労を押し付ければ楽なのかもしれない。そんな事は解っているのに。
ツボミは歩く。ただ一人、その道を。
皆ずっと先に行っているのだろう。ある者は気楽に。ある者は悠々自適に。生まれもったトミヤ種族や身分と言ったアドバンテージ。生まれた国によるステータス。その他いろいろな事象が彼らを加速させ、そのツケが他人に回る。
それを愚痴ったりしない。愚痴る意味はない。……愚痴る余裕もない。
ツボミに出来るととはただ歩く事だけ。
ありとあらゆることに対して臆病に震えながら、ただノロノロと不器用に歩くだけだ。それ以外の歩き方をツボミは知らない。
休んでしまえば楽になる。足を止めれば楽になる。それが一番楽なのだ。こんな寂しい思いをして、必死になって泣きそうになりながら歩くことはない。もうどうせ、追いつけやしないのだと心の底で理解しているのだから――
「阿呆が」
そんな挫折など何度経験しただろうか。そのたびに己に悪態をつき、叱咤して立ち上がる。
道があっているかなんてわからない。
先に進んでいるかが分からない。
早く進まないといけない。
独りぼっちが辛い。
前が見えない。
それでもツボミはこうして歩いていく。これまでも、そしてこれからも。
●『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)の夢
ごうごうと燃える炎。灼熱の赤は血よりも赤い。熱は人の命を吸って燃え上がり、更に周りの命を奪っていく。
人が死んでいく。人が燃えていく。
それがヨツカが見る悪夢。それがいつどこで、どのような経緯で行われたのかはわからない。ヨツカにはその記憶がない。
だけどヨツカは知っている。これは本当にあったこと。ヨツカが忘れているヨツカの過去。
「呵々!」
嗤いながら武器を振るう『それ』。それが何なのかはわからないが、その武器が振るわれるたびに大事な物が奪われていく。
「一つ」
ざくり。ヨツカの心の中にいる、誰かが消える。
「二つ」
ぐしゃり。ヨツカの心の中にいる、何かが潰れる。
「三つ」
ごうごう。ヨツカの中にいる、誰かが燃えて灰となる。
奪われる。殺される。消えてなくなる。それが大事なヒトだと分かっているのに、ヨツカには叫ぶことさえ出来ない。その名前さえ思い出せない。ただそれが悲しい事だけは理解している。
やめろ、とヨツカは叫んだ。
だが『それ』は――誰かさえ思い出せない『それ』はヨツカに向き直り、無造作に腕を振るった。それだけでヨツカは吹き飛び、刀を持つ力さえ失われる。
刀が重い。抜くどころか、持つことさえできそうにない。『それ』に逆らおうと想うだけで、全身に苦痛が走る。悲鳴を上げてのた打ち回りたくなる衝動が湧き上がってくる。恐怖と言う幾多の百足が全身をはいずり回るような、そんな錯覚を覚えた。
ヨツカはそれに必死に耐える。歯を食いしばり、腹部を強く掴み、痛みで恐怖を跳ねのけようともがく。全身に脂汗を流し、精神力を振り絞って立ち上がる。
その努力を嘲笑うかのように、また腕が振るわれる。何度も、何度も立ち上がり、そして吹き飛ばされる。『それ』はヨツカの努力を余興のようにして遊んでいた。立ち上がっている間だけ、他の奴を殺さないでいてやる。そんな遊び。
ごうごうと燃える炎。灼熱の赤は血よりも赤い。熱は人の命を吸って燃え上がり、更に周りの命を奪っていく――
●『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)の夢
「おっと失礼。お嬢さん、お詫びにお茶をご馳走させてください。おいしい紅茶を淹れるお店がすぐそこにあるのです」
「まあ、それは素晴らしいですわ」
オルパがナンパした女性は、振り向くと筋骨隆々の逞しい男の姿に変わっていく。
「ふざけんな! っていうかこれ夢だろうが!?」
「ええ、この夢のような出会い、見過ごすわけにはいかなマッスル!」
「くっそ! 離せこの筋肉ダルマ!」
どうにかこうにか筋肉の拘束をほどき、自由のみとなるオルパ。だがオルパの夢の中は既にマッチョでいっぱいだった。
「聞いたことがあるぞ、悪夢を見せるナイトメア!
でてこい! どうせ悪夢にうなされる人間の精神を喰うとか、そんなところだろう!」
「いや、悪夢を見せるのはただの趣味だ」
オルパの隣に突如現れる黒い馬。幻想種ナイトメア。
「許せねぇ……魔女狩りのトラウマをほじくらなかったのは褒めてやるが、かわいこちゃんをマッチョにしたのは許せねぇ!
今すぐ俺とかわいこちゃんとラブラブになる夢に戻しやがれ!」
「くっくっく。分かっているのか。その手のラブラブイベントな願いはどくどくシナリオ……もとい悪夢の中では『目の前で散々弄ばれて殺される悲運の最期を遂げる』フラグにしかならないのだぞ」
「おのれ……! 貴様の血は何色だ!」
ナイトメアの言葉に激高するオルパ。
「こうなったら夢の中とはいえ許すわけにはいかない! 喰らえナイトメア!」
オルパが放った一撃は漆黒の肉体を貫き、
「ぐわーーーーーー! オルパさんつえー!」
「…………あれ? 勝てた?」
あっさりナイトメアは倒れた。あまりの展開に拍子抜けするオルパ。
「オルパさん……あたし、助けてくれるって、信じて、たのに……」
その身体は可愛い少女の姿となっていく。そう、オルパがナイトメアと思っていたのは実は少女だったのだ。オルパはその事に衝撃を受け――
「騙されるか! お前ナイトメアの変身なんだろうが!」
「――チッ」
「かわいい子ちゃんの顔で舌打ちするな!」
「その慧眼に銘じて、今宵はこの程度で引き下がろう。
だが忘れるな、若人達。悪夢は何処にでも潜んでいる。汝らが過去現代未来に不安を覚える限り、悪夢もまた不滅なのだ――」
なのだ、なのだ、なのだ……リフレインする声に、オルパは毅然とした態度で応えた。
「かわいこちゃんがいる限り、俺のナンパ道もまた不滅だ!」
――おい、アドリブ歓迎だからってはっちゃけ過ぎだろうがどくどく。
●
ああ、夢か。
目覚めた自由騎士達は、それぞれの日常に向かうのであった。
リュリュは人を殺さない。もう少し正確に言えば、人を殺すことを良しとしない。敵を憎むことがあっても、殺そうとまでは思わない。
それはリュリュが抱くギリギリのラインだ。女神の権能があるとはいえ、武器を持つ以上は命を奪う可能性は否定できない。権能を放棄すれば命は奪う事はできる。現にそうしている自由騎士も存在している。
例えば、そうやって助けた命がまた悪事を行うかもしれない。あの時殺していれば、その悲劇は防げたのに。その可能性はリュリュも理解している。倒した相手が必ず更生するとは限らないことなど。
目の前には廃墟が並ぶ街。かつて生活があっただろう残滓。
「これは……」
それはリュリュが見逃した悪人の命が起こした暴走。一人の命を救ったことで、数千の無辜の命が奪われた。
『お前はただ惰性で命を見過ごしただけだ』
語りかけるのは自分自身。分かっている。心のどこかでそれを理解しながら、敢えて無視し続けてきた事。
『感謝されてうれしい』『殺さない事で責任を負わない』……そんな理由で行った積み重ねがこの結果。それが悪夢となって目の前で広がっていた。
聞こえてくる爆音、響き渡る悲鳴、失われる命、冷たくなっていく肉体。その感覚がフラッシュバックする。
「たすけて」
非常な運命への懇願。
「どうしてこんなことに!」
濁流のような暴力への疑問。
「なんであいつが生きているんだ!?」
理不尽に対する怒り。
『全て、お前が招いた結果だ。お前が無責任に見逃し、許した結果』
やめてくれ。
『命が大事? お前は殺さない事に酔っていただけだ』
そうかもしれない。
『倫理の高いところから蛮人を見下して、悦に浸っていたいた結果がこれだ』
夢なら覚めてくれ。
荒廃した光景。リュリュが今の覚悟のまま戦った結果、たどり着くのがこの世界なのだ――
●『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)の夢
見慣れない天井。薬品の香。機械音。
デボラはその状況を知っていた。忘れるはずがなかった。肉体を失い、キジンになる手術を受けるその光景を。
貴族としての責務を果たすため、デボラは戦った。戦場に置いて男女の区別なし、とばかりに前に立ち、危険な地域に身を投じていった。硝煙と血の匂いは既に何も感じなくなり、人の死を見ても唇をかんで動揺を抑える事にも慣れていた。
だから、この結果自体には後悔はない。救うべきものは救えたのだ。失ったモノは多いけど、貴族として戦った。体は鋼となるが、まだ立って歩くことはできるのだから。
「デボラ……。無事か?」
憔悴した父は、出来る限り平静を装いながら声をかけてくる。
「もう……無理はしないで……」
泣きながら母は抱きしめてくれた。抱き返した機械の体の感覚が、失った者を思い出させる。
「デボラ様の活躍で、子供達は無事です……! 感謝の言葉もいただいています……!」
ハンカチで目元を押さえながら、使用人たちは報告を続ける。
「――■■■様、は?」
デボラの言葉に、その場にいた人達の表情がこわばった。空気は途端に冷え、誰が先に言うべきかを視線で探り合う。
その雰囲気でデボラは理解した。
彼――婚約者はこの場にはいない。この場に来ることを拒否したのだ、と。
そしてその先に起きる事をデボラは知っていた。当然だ。これは過去の追体験。デボラにとっては忘れられない心の傷。
婚約破棄。機械の身体となったデボラへの返事。そんな相手と結婚してもメリットはない。そういった内容の手紙がディートヘルム家に届いた。
名誉を重視する貴族の価値観は知っている。
だけどあの人だけは違う、と信じていた。信じていたかった。優しい言葉をかけられた日々。多大に支え合おうと婚約を結んだあの言葉。それら全てが虚構だったのだと知らされた。
デボラがあの日失ったのは体の八割と、そして男性を想う心。
あの日、本当に欲しかったものは――
●『叶わぬ願いと一つの希望』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)の夢
「止めて……!」
ティルダはヨウセイだ。かつてシャンバラに多くの同胞を殺され、そして生き延びた。
伸びてくる手はシャンバラの人達がヨウセイを求める手――だったらどれだけよかっただろう。それなら乗り越えた。
『何故、お前は生きている』
『何故、聖櫃にいない?』
『何故、日の当たる場所にいる?』
伸びてくるのはヨウセイの手。ミトラースやシャンバラに奪われたヨウセイの怨嗟。かつての同胞が、ティルダを恨んでいる。その事実が彼女の心を苛んでいた。
「出来るなら、みんなでここに来たかった、です」
ヨウセイの誰も迫害されない未来に。だけどそれは叶わなかった。
「ヒトとして扱ってもらえる幸せな場所に」
皆で笑い、肩を組み、時に怒り。そんな未来があったかもしれないのに。
「わたしは、救えなかった……だからせめて、今いる人を救わなくちゃ……」
『嘘だ』
否定の声は、最も否定してほしくないヨウセイの声をしていた。
「あ。あああああ」
『その力は呪われた魔女狩りの力。ヨウセイを狩った忌まわしき力で何を救う?』
それは村で一緒に育ち、誰よりも大事だった親友だ。
『あたしを散々苦しめた後に殺し、肉体を操って他のヨウセイ達を殺させた忌まわしき魔術……! あの感覚を忘れない……忘れられない! 泣き叫ぶ仲間を殺したあの感覚を!』
「あああああ――!」
分かっている。ネクロマンサーがそういう魔術だと分かっている。
『そんな力で、あんたは何を救うって言うの……?』
「そんな……そんな魔女狩りの力だから……」
泣きながら、精神を絞りながら、ティルダは言葉を紡ぐ。喉が熱い。涙が止まらない。それでも――
「それが、私の復讐だから……!
シャンバラの力で、シャンバラを滅ぼした国に力を貸して……! それが一番の意趣返しになるから……!」
シャンバラの民を殺し尽くせば、復讐はそれで終わりだ。
だけどこの方法なら、ティルダが死ぬまで復讐は続けることが出来る――
●『艶師』蔡 狼華(CL3000451)の夢
見下す目が狼華に突き刺さる。歪んだ笑みが狼華に向けられる。
嗚呼、この表情を知っている。これは愉悦の表情。目の前の獲物を好きにできる者が浮かべる笑みだ。その感情が狼華に向けられている。抗うことなどできるはずがない。武器はなく、逃げようにも籠の中。
だけど狼華を縛る一番強い鎖は目に見えない物。愉悦の表情のさらに奥。長い金髪の女性の存在。
「マダム……嘘、やろ……?」
唇が動き、言葉を紡ぐ。マダム。そう口にするだけで狼華は幸せを感じられた。あの人の傍に居たい。あの人の役に立ちたい。狼華はずっとそう思っていた。自由騎士に入団してもその気持ちは変わらない。マダムとイ・ラプセル。どちらかを取れ、と言われれば迷わずにマダムを取る。
それほどまでに狼華はマダムに心酔していた。だから、信じられなかった。
「なして……そんな顔してるん?」
マダムは嗤っていた。
愉悦の笑みではない。笑みではあるが冷たい表情。売られていくモノを見る目。もはや狼華の姿よりも、この結果どれだけ自分が得をするか。それを楽しむ笑みだ。
「後生やからマダム! うちを捨てんといて! なぁ! 嫌や……嫌だ!」
声は確かにマダムの耳に届いただろう。
だがマダムの心には届かない。競りの開始が始まる鐘がなり、男達の叫ぶ数字がどんどんつり上がっていく。狼華が叫べば叫ぶほど、熱を帯びたように競売は加速していく。
「売られたくない! もう、もうこんなん嫌……!」
競りが完了したのか、狼華が乱暴に籠から出される。拘束されて抵抗できない狼華を引っ張るようにして、男は壇上から離れていく。マダムから、離れていく。
「お願い……僕を捨てないで……」
マダムとの距離が離れていくにつれ、絶望は深くなる。涙で視界が崩れた。それを拭い去る事すらできない。必死になって暴れても、むしろそれを弄ぶかのように男は鎖を引っ張る。
「―――! ―――!」
声にもならない叫び。プライドも何もかもかなぐり捨てて、それでもマダムには届かない。
そして狼華の視界から完全にマダムの姿が消える――
●『断罪執行官』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)の夢
「何故……このような場所にいるのでしょうか……?」
アンジェリカは訳が分からない状況を前にそう呟いていた。
何処ともわからない密林の中。飛び交う羽虫。未知の臭気、聞きなれない野鳥の声、不快感を詰め込んだような蒸した空気、か細い明かりしかない場所。
隣にいるのは誰だろうか? 知り合いのような気もするが、知らない気もする。それが逆に気持ち悪い。そこで並んで何をするのだろうか。
(私は拉致られて……無理やり動物観察をさせられている?)
思い出せるのはそんな内容。何故動物を観察させられているのか? それを思い出すことはできない。何か大いなる意思がそれを思い出すことを妨げていた。
「おい、あれトラじゃないか!?」
か細い明かりの中、光る何かを見つける隣人。今の状態で虎に出会えばまず殺されるだろう。いつもならどうにかなるが、今はどうにかなるとは思えなかった。
「いやシカじゃないの?」
「どう見てもトラだって!」
言い合う二人。小声で言っているかもしれないが、この密林ではそれは大きく響くだろう。ましてや相手は野生の動物だ。ヒトの五感以上の物を持っている可能性は否定できない。
(え?)
そう否定はできない。
こちらが気付いている時点で、向こうに気付かれている可能性は十分にあるのだ。
視認できるほどの距離を一気に跳躍し、隣人に襲い掛かる<検閲削除>。それが何なのかを理解するまでもなく絶命させ、すぐにこちらに襲い掛かる。喉元を走る灼熱。自分の喉の肉が咀嚼される音。それが<検閲削除>に喉を食い破られたと気付いたのは絶命の寸前。
(――なんで?)
ありえない。だってEXプレイングには『●■●■の▲』と書いていたから、そうなるはずはな――え? EXプレイングってなに? 私はアンジェリカ・フォン・ヴァレンタインという一個人で、それ以外の意図なんて――ぷれい・ばい・うぇぶ? まぎあすてぃーむのきゃらくたー? わたしはあんじぇりかというきゃら。
あ。はいごにいるあなたはだあれ――?
●『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)の夢
ただひたすら歩いていた。
昏い暗い道。先の見えない道。
道は一本道ではなく、幾多に分かれて、後に戻ることはできない。この道が正しいのか、確認する余裕もなくまた次の分岐点。そうしてツボミは歩いていく。
そもそも道だって真っ直ぐに歩けない。ドロリとした何かの捕らわれて、倒れてしまいそうになる。体が重く、道を横にそれそうになる。そうすると楽になると分かっているけど、そうすることはできないと自分を叱咤する。
歩く歩く歩く。
急がないと間に合わなくなる。何に? きっと楽しいお祭りに。早く追いつかないと、早くたどり着かないと、間に合わなくなってしまう。
暗く、辛く、そして孤独な道行き、そんな道を歩くのは嫌だ。そんな道を選ぶのは嫌だ。誰かと一緒に歩ければ楽なのかもしれない。誰かに苦労を押し付ければ楽なのかもしれない。そんな事は解っているのに。
ツボミは歩く。ただ一人、その道を。
皆ずっと先に行っているのだろう。ある者は気楽に。ある者は悠々自適に。生まれもったトミヤ種族や身分と言ったアドバンテージ。生まれた国によるステータス。その他いろいろな事象が彼らを加速させ、そのツケが他人に回る。
それを愚痴ったりしない。愚痴る意味はない。……愚痴る余裕もない。
ツボミに出来るととはただ歩く事だけ。
ありとあらゆることに対して臆病に震えながら、ただノロノロと不器用に歩くだけだ。それ以外の歩き方をツボミは知らない。
休んでしまえば楽になる。足を止めれば楽になる。それが一番楽なのだ。こんな寂しい思いをして、必死になって泣きそうになりながら歩くことはない。もうどうせ、追いつけやしないのだと心の底で理解しているのだから――
「阿呆が」
そんな挫折など何度経験しただろうか。そのたびに己に悪態をつき、叱咤して立ち上がる。
道があっているかなんてわからない。
先に進んでいるかが分からない。
早く進まないといけない。
独りぼっちが辛い。
前が見えない。
それでもツボミはこうして歩いていく。これまでも、そしてこれからも。
●『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)の夢
ごうごうと燃える炎。灼熱の赤は血よりも赤い。熱は人の命を吸って燃え上がり、更に周りの命を奪っていく。
人が死んでいく。人が燃えていく。
それがヨツカが見る悪夢。それがいつどこで、どのような経緯で行われたのかはわからない。ヨツカにはその記憶がない。
だけどヨツカは知っている。これは本当にあったこと。ヨツカが忘れているヨツカの過去。
「呵々!」
嗤いながら武器を振るう『それ』。それが何なのかはわからないが、その武器が振るわれるたびに大事な物が奪われていく。
「一つ」
ざくり。ヨツカの心の中にいる、誰かが消える。
「二つ」
ぐしゃり。ヨツカの心の中にいる、何かが潰れる。
「三つ」
ごうごう。ヨツカの中にいる、誰かが燃えて灰となる。
奪われる。殺される。消えてなくなる。それが大事なヒトだと分かっているのに、ヨツカには叫ぶことさえ出来ない。その名前さえ思い出せない。ただそれが悲しい事だけは理解している。
やめろ、とヨツカは叫んだ。
だが『それ』は――誰かさえ思い出せない『それ』はヨツカに向き直り、無造作に腕を振るった。それだけでヨツカは吹き飛び、刀を持つ力さえ失われる。
刀が重い。抜くどころか、持つことさえできそうにない。『それ』に逆らおうと想うだけで、全身に苦痛が走る。悲鳴を上げてのた打ち回りたくなる衝動が湧き上がってくる。恐怖と言う幾多の百足が全身をはいずり回るような、そんな錯覚を覚えた。
ヨツカはそれに必死に耐える。歯を食いしばり、腹部を強く掴み、痛みで恐怖を跳ねのけようともがく。全身に脂汗を流し、精神力を振り絞って立ち上がる。
その努力を嘲笑うかのように、また腕が振るわれる。何度も、何度も立ち上がり、そして吹き飛ばされる。『それ』はヨツカの努力を余興のようにして遊んでいた。立ち上がっている間だけ、他の奴を殺さないでいてやる。そんな遊び。
ごうごうと燃える炎。灼熱の赤は血よりも赤い。熱は人の命を吸って燃え上がり、更に周りの命を奪っていく――
●『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)の夢
「おっと失礼。お嬢さん、お詫びにお茶をご馳走させてください。おいしい紅茶を淹れるお店がすぐそこにあるのです」
「まあ、それは素晴らしいですわ」
オルパがナンパした女性は、振り向くと筋骨隆々の逞しい男の姿に変わっていく。
「ふざけんな! っていうかこれ夢だろうが!?」
「ええ、この夢のような出会い、見過ごすわけにはいかなマッスル!」
「くっそ! 離せこの筋肉ダルマ!」
どうにかこうにか筋肉の拘束をほどき、自由のみとなるオルパ。だがオルパの夢の中は既にマッチョでいっぱいだった。
「聞いたことがあるぞ、悪夢を見せるナイトメア!
でてこい! どうせ悪夢にうなされる人間の精神を喰うとか、そんなところだろう!」
「いや、悪夢を見せるのはただの趣味だ」
オルパの隣に突如現れる黒い馬。幻想種ナイトメア。
「許せねぇ……魔女狩りのトラウマをほじくらなかったのは褒めてやるが、かわいこちゃんをマッチョにしたのは許せねぇ!
今すぐ俺とかわいこちゃんとラブラブになる夢に戻しやがれ!」
「くっくっく。分かっているのか。その手のラブラブイベントな願いはどくどくシナリオ……もとい悪夢の中では『目の前で散々弄ばれて殺される悲運の最期を遂げる』フラグにしかならないのだぞ」
「おのれ……! 貴様の血は何色だ!」
ナイトメアの言葉に激高するオルパ。
「こうなったら夢の中とはいえ許すわけにはいかない! 喰らえナイトメア!」
オルパが放った一撃は漆黒の肉体を貫き、
「ぐわーーーーーー! オルパさんつえー!」
「…………あれ? 勝てた?」
あっさりナイトメアは倒れた。あまりの展開に拍子抜けするオルパ。
「オルパさん……あたし、助けてくれるって、信じて、たのに……」
その身体は可愛い少女の姿となっていく。そう、オルパがナイトメアと思っていたのは実は少女だったのだ。オルパはその事に衝撃を受け――
「騙されるか! お前ナイトメアの変身なんだろうが!」
「――チッ」
「かわいい子ちゃんの顔で舌打ちするな!」
「その慧眼に銘じて、今宵はこの程度で引き下がろう。
だが忘れるな、若人達。悪夢は何処にでも潜んでいる。汝らが過去現代未来に不安を覚える限り、悪夢もまた不滅なのだ――」
なのだ、なのだ、なのだ……リフレインする声に、オルパは毅然とした態度で応えた。
「かわいこちゃんがいる限り、俺のナンパ道もまた不滅だ!」
――おい、アドリブ歓迎だからってはっちゃけ過ぎだろうがどくどく。
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ああ、夢か。
目覚めた自由騎士達は、それぞれの日常に向かうのであった。