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《オラトリオ1820》オラトリオ・オデッセイ



オラトリオ・オデッセイ。

 それは神がこの大地に降り立った軌跡を祝うまつりだ。
 創造神はこの世界に自分の体を10に分けて実在なる神を与えた。
 創造神は一週間かけて神を作った。神は一週間かけてこの世界を知った。
 12月24日から年があけ、1月7日までの間。
 人々は神の誕生を祝う。
 それはイ・ラプセルだけではなく他の国でも同じ、大きな祭になる。
 ヴィスマルクの女神などは、この戦争のさなかだというのに、オラトリオオデッセイのために休戦を発布したというほどだ。
 去年に引き続きオラトリオ・オデッセイの間は停戦協定が結ばれた。
 神の誕生を祝うという行事はどの国にとっても尊いものなのだ。
 
 イ・ラプセルにおいては、12月24日から豪華な料理をたべたりプレゼントの交換が盛んにおこなわれる。イベントだって盛り沢山だ。
 最初の日に恋人とともに過ごし愛を確かめ合ったり、オデッセイを祝うデコレーションツリーを立ててたりと、街は華やかに彩られる。

 王城でもダンスパーティや祝賀会だって開かれる。
 誕生祝賀会は年末の12月31日の昼頃からあける新年1月1日の昼まで丸一日をかけて祝う形になる。
 
 君たち自由騎士には去年と同じく祝賀会のチケットが送られている。
 それをどう扱っても君たち次第である。

 予知された未来における最後のオラトリオ・オデッセイ。
 その先の未来は誰にももう、わからない。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常σ
■成功条件
1.オラトリオ・オデッセイを楽しむ。
 ねこたぢまです。
 最後のオラトリオ・オデッセイです。
 時間軸は12/24~1/1の昼まで。
 豪華なパーティをどうぞ。

 大変申し訳ありませんが、たぢまのスケジュールの都合で、出発日がかなり先になっております。
 リプレイをおまたせしますがご了承くださいませ。

 アクアディーネ様はお誕生日用のドレス姿です。
 ダンスホール中央には綺羅びやかな大きなデコレーションツリーが飾られています。真っ白なツリーの頂上には星がかざられています。
 その他いろいろなオーナメントもかざられています。欲しい方はもっていってもかまいません。

 ダンスをしたり、貴族とお話したり、豪華なお食事をたべたりとおもいおもいの時間をすごしてください。
 アクアディーネのお誕生日を祝うと女神様は喜ばれると思います。
 (もちろんしなくても構いません。御用があれば御用を最優先してください)


 元老院の政治家のお歴々。
 基本的にどの派閥の方々もいらっしゃいますが、エドワード・クラウス派と穏健派が多いです。
 ノイマン派のみなさんも我が物顔でデコレーションツリー周辺にいらっしゃいます。
 基本的に彼らは談笑しておりますのでお話してくださって構いません。


 エドワード・イ・ラプセル
 クラウス・フォン・プラテス
 
 イ・ラプセルの王と宰相様です。どんな人物かは皆様の知るとおりで多少の無礼はなんとも思いません。
 エドワードは下記ダンスに誘えばきてくれます(社交ダンスの腕はそれなりです)
 談笑にも応じてくれますのでご自由にどうぞ。聞きたいことがあればご遠慮無く。

 アクアディーネ
 この日だけは神殿ではなく王城にきています。
 ですが周辺警護はかなり厚くなっています。
 ホール奥の玉座に据わっています。ダンスのお誘いはちょっと難しいです。

 ブランディーヌ・イ・ラプセル
 前王妃です。エドワードのお母さんです。穏やかな方です。

 クレマンティーヌ・イ・ラプセル
 エドワードの妹さんです。恥ずかしがり屋の王女です。
 今年は少しだけ勇気をだしてダンスホールにいます。

 
 アルブレヒト・キッシェ
 穏健派筆頭。 わりと朗らかなひとがらのキッシェ・アカデミーの現学長です。

 オスカー・フォン・ノイマン
 奴隷制復活を求める派閥の筆頭です。貴族主義ですので、基本的にノウブルとしか話しませんが亜人でも自由騎士なら話すでしょう。
 亜人の方は辛辣なことを言われる可能性があります。

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 彼らと話す話さないは自由です。

 その他参加NPC

 フレデリック・ミハイロフ
 アクアディーネの警護にあたっています。不埒者は逮捕されます。

 ヨアヒム・マイヤー
 バーバラ・キュプカー
 クラウディア・フォン・プラテス
 ダンスしたりご飯たべてます。おしゃべりも歓迎。


 佐クラ・クラン・ヒラガ
 ミズーリ・メイヴェン
 カシミロさんたちと談笑しています。誘われればダンスにも参加します。
 ミズーリさんはともかく佐クラは相当ダンスは下手くそです。

 アンセム・フィンディング
 めっちゃ端っこで早く帰りたい。

 ムサシマル・ハセ倉
 アーウィン・エピ
 もりもり食ってます。
  ムサシマルは食うことに忙しいです。ダンス? そこにいるどヘタレミミズクが踊るっていってるでござる。
 アーウィンは誘えばダンスには応じます。色気づいたのかダンスの練習はしてたようです。

 アレイスター・クローリー
 呼べば出てくるしダンスもできますが、アクアディーネはちょっと嫌な顔をするかもしれません。

 マリアンナ・オリヴェル
 パーヴァリ・オリヴェル
 吾語STにお借りしてきました。吾語STの監修ははいります。

 

 基本的に亜人組は政治家の近くには近づかないように配慮はしています。
 
・できること。
 基本的にあっちもこっちもと行くよりは、一つに集中したほうがよいリプレイになると思います。
 希望のタグを最初に記入してください。
 タグでチェックをかけているのでご協力いただけると執筆しやすいです。
 内容は去年と同じになります。

 王城での服装は基本的には礼服でお願いします。礼服がない場合は貸出もあります。
 どうしても礼服は着ないということも可能ですが、貴族の心象はあまりよくないです。
 王城の時間軸は12/31~1/1昼になります。

 【食事】
 豪華な食事が用意されています。お土産に持ち帰りは少しならかまいません。

 【ダンス】
 貴族のみなさんやNPCとダンスしたり、PCの皆様同士でダンスしたりしてお楽しみください。
 
 【談笑】
 貴族のみなさんやNPC、PCたちと楽しく会話をしてみてください。
 何かを尋ねれば答えれることであれば答えてくれます。
 貴族のみなさんは身分にとてもこだわりますので、ご注意を。(エドワード・クラウス派のみなさん(ご家族も含む)はそこまで気にはしませんが、貴族に話しかけるということはどういうことかをご注意ください)

 【警備】
 警備はいつだって必要なのです。

 【他】
 別に王城のダンスパーティで遊ばなくてもいいんですよ?
 王城以外もアデレードあたりの町並みはとても賑やかにバザーが行われていたりしています。
 アデレードの中央には王城とおなじようなツリーが立てられています。(待ち合わせ場所としてメジャーです)
 アデレードにはアルヴィダ・スカンディナもいるかもしれません。
 ちょっと遠出して、メモリアに会いに行ってもかまいません。
 カシミロさんと13番はオラトリオの商売をされています。
 クローリーは呼べば来るかもです。今年は王城にもお邪魔するていどに空気は読んでません。

 このタグは王城以外で何かをしたいかたはどうぞご自由にお使いくださいませ。

 また、おひとりさま参加だけど、NPCにかまってもらいたい。でもそういうのちょっとはずかしい……という方は、EXにかまってほしいと書いていただければ参加NPC(運営(担当がちょころっぷ)NPC+ねこてんNPC)はだいたいだせますのでこっそりお声がけください。
 こちらが勝手に構いに行ったという体でかかせていただきます。呼ばれなければ大人しくしてます。
 また、誰に話しかけられるかわからないけどそういう出会いもいいよね! という方はEXにランダム希望といれていただいたら、誰かは絶対にかまってくれます。

 ですが、上記のパーティにいるNPC以外は【他】タグでおねがいします。



●イベントシナリオのルール

・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  0個  1個
6モル 
参加費
50LP
相談日数
37日
参加人数
26/100
公開日
2021年02月04日

†メイン参加者 26人†

『天を癒す者』
たまき 聖流(CL3000283)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『祈りは歌にのせて』
サーナ・フィレネ(CL3000681)
『教会の勇者!』
サシャ・プニコフ(CL3000122)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)



 宴もたけなわ。
 王城では人々の歓声が聞こえる。
 ことさらそれが大きく感じるのは、これが最後になるかもしれない神の誕生を祝う宴であるだろうからということもあるのだろうか。
 世界の終わり。
 それを知る、知らぬに者に関わらず近づいてくることは間違いないのだ。
 
 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はその右腕に生まれたばかりのわが子を抱き、妻とともにエドワード・イ・ラプセルの玉座に向かう。
「ああ、ベルヴァルド卿、そのこがティエリーだね? 君によく似た賢そうな子だ」
 気安くかけられるエドワードの声にテオドールは頷いた。
「ティエリーに、水の国の祝福あらんことを」
 エドワードの隣のアクアディーネが微笑み祝福を生まれたばかりの命に与える。ティエリーはアクアディーネの水色の髪を面白そうにひっぱるものだからテオドールとその妻は目を白黒させて狼狽する。
「ふふ、かまわないわ。この大切な命を抱かせていただいていいかしら?」
「はい、もちろん。アクアディーネ様」
 女神は愛おしそうに小さな命を抱きしめる。その手つきに危うさはない。この千と821年。彼女はなんども新しい命をだきしめてきたのだ。
 人の身では想像もつかないその時間。永劫の時間の糸。
 それも今途切れるやもしれぬ今。
「いつ切れるか分からぬ運命の糸を憂いて、自身の人としての幸せを諦めなくていいのではないでしょうか。
脈々とその歴史は続いてきたのですし、次代はそうでないかもしれない。それは希望にはなりえませんか?」
 テオドールは遠い未来を見つめるようにはっきりとそうつぶやく。もちろんいつだってはぐらかす誰かさんにむけたものだ。
「それは私が君たちにできる道筋だからね。
 諦めてなんかいないよ、私にとっては君たちが希望だ」
 王の言葉になんとも拗らせたお方だとテオドールは苦笑した。
「こんな世界にうまれてきてくれてありがとう」
 小さな女神の祝福の言葉はテオドールには聞こえなかった。

「今年も新年を迎えられた事、誠に喜ばしく思います」
 アクアディーネの前でペコリとお辞儀するのはミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。
「この先はきっと、私の想像もしていないような事がこの先待っているのでしょうけれど、きっと大丈夫だと信じます」
 ミルトスのそんな心強い言葉に女神は微笑んでありがとうございますと返す。
「それと!」
 ミルトスは以前女神に伝えた努力目標は今なお継続中であることをもういちど宣言する。
 そうすることで自分もまた改めてそう思えるから。
「アクアディーネ様。私は終わらない戦いのためには戦いません」
 蠱毒の終わりが戦いの終わりではないとミルトスは気づいている。そのさきの戦いを制してこそ本当の終わりがくるのだ。
 どんな結末が待っていようとも。少女は終わらせることを誓う。
「ミルトス……」
「私、この世界の全てを愛しているんです。だからこそ。何も捨てることができないんだとおもいます」
 言ってミルトスは不敬であるとわかっていながらぎゅっと女神の手をにぎる。あなたもそのなかにはいっているのだといわんがばかりに。
「ありがとう。ミルトス。本当にあなたは強い子になったわ」
 そういって女神は嬉しそうに微笑んだ。

 
 王にエスコートされて、なれないステップを踏むのはセアラ・ラングフォード(CL3000634)。
 女神にお祝いの言葉を捧げた彼女がちらちらエドワードを見るものだから、女神が気を利かせて、王にセアラをエスコートしろと命じたのだ。
「あのっ」
 王の優雅なステップは慣れないセアラを踊りやすくエスコートしてくれる。
「なんだい?」
「神の蠱毒に勝利したら何がおきるのか、エドワード陛下のお言葉で自由騎士のみんなにお話してください」
「ああ、それは当然だよ。
 ただ、成されなければなにがおきるかは私にもまだはっきりとはわからないんだ。推測はできるけれど」
「わからないんですか?」
「ああ、蠱毒はあくまでも前哨戦でしかない。私もあの魔道士にそこまでしか聞いていない」
「私は――
 エドワード様とアクアディーネ様が好きです!
 神の蠱毒に勝利してみんなが未来を謳歌する未来。みんなです。みんな。そのなかにお二人もはいっています。
 わがままでしょうか?」
 セアラは涙がこみ上げそうになるのを必死で我慢して笑みを浮かべた。
「いや、ありがとう。セアラはやさしいんだね」
「わがままついでに。約束をしてください。
 来年もどうか、ダンスのお相手をさせてください!」
 エドワードは優しく微笑む。肯定も、否定もしない。
「絶対、絶対約束ですから」
 セアラは自分に言い聞かせるように繰り返した。

 宴の席の端っこ。たまき 聖流(CL3000283)とアンセム・フィンディング。小さな恋が芽生えた二人は食事をしながら話題を弾ませる。
「アンセムさんはこのお祭りの元になったお話を知っていらっしゃいますか……?」
「神様が七日かけて世界に降り立ったってやつ?」
「はい。地にいなかったということは神様は空からやってきたのでしょうか?」
「考えたことなかった」
「創造神は空にいらっしゃった?」
「なんかそんなイメージ、ある、ね」
「雲の上よりもっと上でしょうか? どんな世界があるのでしょうか?」
「お月さまよりもっと上? 宇宙?」
「想像するだけでドキドキしちゃいますね……
 アンセムさんは未来の事を、考えた事はありますか……?」
「うーん、あんまり」
「どんな未来にしたいですか?」
 アンセムはたまきの言葉にすこし考えて赤くなって顔をそむけた。たまきはそれが可愛らしくてふふ、と笑う。
「私はアンセムさんも安心して過ごせる未来が作りたいです! いえ、作ります」
「う、うん。そか。ふうん。そうか。そうなると、いいかも」
 何度も頷くアンセムがたまきには愛おしく感じる。彼と同じ未来を思い描いていたのであれば幸せだ。
「そうだ」
 たまきはこのあとのマシーナリーとしての作業のプランを話し始める。それには彼が必要だ。
 ボディパーツへのペイントのデザインの話。その話をはじめるとアンセムの瞳が輝き始める。
 そうだ。たまきはこんな彼が本当に愛おしくてたまらないのだ。

 ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は緊張した面持ちでアクアディーネのもとに立つ。
「ア、アクアディーネ様、お誕生日おめでとうございます! 今日という日をお祝い出来る事を嬉しく思います」
「ありがとう、ティルダ」
 女神は嬉しそうに微笑んでくれた。ティルダはそれがとても誇らしく嬉しく思う。
 ヨウセイたちを助けてくれた神様。神様は怖いものだと思っていたのに本当は全然違った。
「来年も、再来年も、皆で一緒にお祝い出来る事を祈ってますし、そう出来る様に頑張りますっ!!」
 だから、願いを口にする。
 そうあってほしいと願って。
「ほんとうにありがとう。優しい子、ティルダ」
 そういって頬に伸ばされた手は優しくて。
 でも、その瞳は悲しそうにも見えた。

「あらあら、不機嫌な顔。そんなに嫌なことでもあった?」
 振り向かずともわかる。バーバラ・キュプカーだ。
 ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は元老院のお歴々の挨拶回りに奔走してきたばかり。
 上役にはクラウス派の弱みはないのかと突かれ、クラウス派とは皮肉の応酬。中立派にいたってはのらりくらりと躱される。
 どの派閥の古狸どもも一筋縄ではいかないことに疲れていた矢先に苦手な女と出逢えば盛大に溜息と舌打ちもしたくなる。
「何のようだ」
 それでも同じ自由騎士として無視はしない程度にはわきまえてはいる。
「旗色変わらず。たぬきのおじさまがたに遊ばれたわね。知ってる? あの人達わかってやってるわよ? かわいい気骨のある小僧がきたって」
 それが態度にでていたのだろうか? 女はニヤニヤしながらからかってくる。こういうところが嫌いなのだ。
「旗色を変える事がどういう事か分からないからそういう事が言えるんだ、尻軽が」
「失礼ね。じいさまたちのお話を聞いていいかんじに調整するのも「お役目」だもの」
「声かけてキたのはこんなやり取りをするためか?」
「うん、じいさまたちが楽しそうにあなたのことを話していたから、今どんな顔してるか見物にきたのよ。あ、なんならお酒をお注ぎいたしましょうか? 美味しいお酒を美女と飲めるっていうのもいいでしょ?」
 シャンパンのグラスをこちらに傾けながら笑う女が忌々しい。それでも受け取るとライモンドはグラスを飲み干す。
「誰が美女だ。誰が」
「わたしにきまってるじゃない!」
 ライモンドはもう一度大きく舌打ちした。

「初めまして我が女神アクアディーネ様。
 わたくしはエリシア・ブーランジェと申します。……わたくしだけが知る。わたくしにとって無二の英雄の家系の者ですわ」
 エリシア・ブーランジェ(CL3000661)はえっへんと胸をはる。
 そんなエリシアに女神はきょとんとした顔をする。
「今はもう一人の身ですので、御神を奉る修道院でシスターをしております
 けれど……此度の戦の中で。自由騎士としての働きを主眼、本懐とさせても貰っております」
「そう、嬉しいわ。エリシア。あなたもきっと英雄になるのでしょうね」
 言って笑う女神の瞳には切なげな光が宿る。
 ああ、会ってわかる。この女神は優しい女神なのだ。「英雄」になるということはなまなかではない。そうなるために戦う過程で命を落とすこともある。彼女はエリシアを肯定しながらもエリシアが傷つくことに憂いているのだ。
 英雄というのは平凡で普通のヒトだったくせに自分のために命を迷わずすてたあの兄のようなヒトのことを言うのだとエリシアは思う。そんなふうに自分がなれるのかどうかはわからない。
 けれど、だからこそなろうと思う。誰も知らない私だけの英雄。その背中を追い続ける。
「ええ! そのとおりですわ!
 此処に誓いますわ。わたくしは……いいえ。
 私は、私の意志と望みで。最後迄この戦いに携わります。御赦し下さい」
 ふわりと温かい手がエリシアの手を包み込む。
「ええ、あなたの未来が輝かしいものでありますように」
 女神は未来の英雄に祈る。
 
 女神にお祝いの言葉を伝えたルエ・アイドクレース(CL3000673)は王城の中を散策する。
 それっぽくとかたっ苦しい挨拶に、女神はいつもどおりでいいのよと笑顔で言われたからすこし気恥ずかしかった。
 そういえば女神様のドレス姿かわいかったなと思いながら歩いていると、この場には似合わない陰気なローブ姿の男を壁際に見つけた。
「やあ、アレイスター」
「やあ、ルエ・アイドクレース。息災だったかい?」
「おかげさまで」
 アレイスター・クローリーに挨拶するがそこで言葉が止まる。アレイスターはルエを追い払う様子もないので、隣に立ちふと思いついたことをルエは口にした。
「アレイスターはこの時期、神様みんなにお祝いにいってんの?」
「だいたい追い返されるけどね。青猫ちゃんもいやーな顔してたよ」
「そりゃ自業自得だな。
 神様も随分減って寂しくなったりしないのか?」
「いいや、そんなことはないよ。いいきみだ」
「俺は結構こういうの好きだから、来年もこんなふうに祝えるといいなと思うけどアレイスターは?」
「さあね。
 白紙の未来がどうなるか次第だろうね。僕ぁカミサマなんてものは嫌いさ。
 全部まとめて消えてなくなっちまえばいいと思ってるんだぜ?」
 そういったクローリーがやけに老人のようにおもえて、そうかとしかルエは答えることができなかった。

 壁を飾る花になるのはエルシー・スカーレット(CL3000368)。
 貸衣装でかりたドレスはちょっと奮発したし、髪型も可愛くまとめてメイクだってきめてきた。
 事実数人の貴族に誘いの声もかけられたけど、断った。そういう気分じゃないし踊りたいのはたったひとり。
 それにエドワード王の凛々しい姿を眺めていたかったから。
(やっぱりかっこいいなあ)
 王族らしい優雅な所作はレディたちとのダンスからもわかる。
(私も陛下とダンスができたら、なんて、高望みしすぎよね!)
 見つめ続けていたらなんとはなしにエドワードと目があった気がした。
(あれ? 陛下がこっちにくる?)
「誰かとおもったらエルシーだったんだね。今日はいつもより綺麗だね」
「えっ?! ひゃ、ひゃい、陛下」
「綺麗な花がそんなところで咲いているのはもったいないよ。
 名誉将軍閣下、よろしければ私とダンスをおどっていただけませんか?」
「あわわわ! えっと!! えっとその! エルシーでいいです。おどって、ください」
 心臓が大きく跳ね回る。将軍と呼ばれようが小娘なのだ。自分は。
「少しはダンスがうまくなったかな? エルシー」
「あ、足はふまないようにがんばりましゅう!!」
 エドワードの卒のないエスコートにエルシーは必死に追いついていくのでやっとだった。
(この手、暫くあらえないわっ!)
 
「まったく、アデルさんはしかたないひとね!」
 マリアンナ・オリヴェルはドヤ顔でアデル・ハビッツ(CL3000496)にそう言った。
「ああ、こういう場所は何していいかわからん」
 今日は非番だと言いつけられたアデルはせっかくだからと宴に送り出された。だがどうにも気が乗らない。王城の前でうろうろしているところをマリアンナに捕獲されたのだ。
 ああいう宴でどうすればいいのかわからないとアデルがマリアンナにこぼせば問答無用で宴席につれてこられた。
 なんとも居心地が悪い。
「お前のやりたいことに付き合う。だから教えてくれ」
「ほんとうにしかたないひとだわ」
 そういってアデルの手を引っ張るマリアンナは上機嫌だ。
 マリアンナ本人とて田舎(ティルナ・ノグ)からでてきたお登りさんだ。けれどこういったことは女子のほうが馴染むのも早い。あっという間にイ・ラプセルの都会の流儀も理解した。
「まずはダンスがしたいわ!」
「俺は、その」
「わかんないのよね? ならまずは実践」
 アデルはぎくしゃくしながらも見様見真似でダンスらしきものを踊る。
「下手くそね。こんなステップでも一緒に踊ってあげる私に感謝してほしいわ」
 そういって生意気に笑う彼女を見るのは存外に不快ではなかった。
「まあ、その何だ。
 お前には本当に感謝してるんだ」
「ん?」
「あの層からお前の両親、ヨウセイ達を助けたあの任務で、俺は戦う理由を見つけた。
 戦争など無いほうが良いに決まっている。神の蠱毒など俺も未だに信じられん」
「それを言うならあなたより私や兄や仲間たちのほうが感謝してるわよ? 戦争がないほうがいいっていうのは同感」
「だが戦いは避けられん。なら少しでもマシな未来のために戦うと気づかせてくれたのはお前達だ」
「そんな大したことはしてないけど」
「明日俺は死ぬかもしれん。だから礼だけは言っておきたかった」
 とん、っとマリアンナがアデルに抱きつくように体を寄せる。
「お、おい?」
「音楽がかわったのよ。この音楽ではこういうダンスになるの!」
「そうか」
「バカ、死ぬとかそういうのこういう場所でいわないでよ」
 マリアンナは頬を膨らませてそう言った。
「すまん」
「謝らないで」
「恐縮だ」
「バカ」

 こんなふうにめかしこむのははじめてだ。
 自分にはこんなキラキラした世界は似合わないと思っていた。だから避けていた。
 勝手に先読みして保険をかけているだけと言われたらいいわけもできない。
 だけど、一歩踏み出してみた――たぶんこういうのを勇気というのだろう。
 いや、自棄というのが近いのかもしれない。非時香・ツボミ(CL3000086)はおっかなびっくり踏み出すことにしたのだ。
「――私とも踊ってくれるか?」
 誰かに誘われダンスをしてきたらしいアーウィン・エピのタキシードの裾をひっぱりツボミは精一杯の誘いをかける。
「ん? なんだバカ医者……か?」
「文句があるか?」
 振り向き驚くアーウィンに反射的にツボミ睨みつけながらかえす。いや、だからだめなのだ。こういうときは――。
「その、綺麗にしてもらった。似合うか?」
 ツボミはいままでずっと「真夜中の独り歩き」をしていた。それは安心だから。誰とも会わないから。拒否だってされないから。害することも害されることも、嫌われたり蔑まれたりも疎まれたりもしない。なぜなら「独り」だから。
 真っ昼間が羨ましいと思わなかった。そのはずだった。おひさまのむこうには誰かがいる。その誰かは拒否するし害するし嫌われるし蔑むし疎まれもする。ツボミというパーソナルは「否定」が怖かった。だから精一杯の虚勢で最初から求めていないふりをして、保険をかけてきた。
 でも、それだけでは足りなくなったのだ。ひなたのむこうの「誰か」を見つけた。その時に気づいた。自分はずっと寂しかったのだと。
 そう思ったきっかけが大嫌いな「否定」だったなんて笑い話にもならない。
「えっと、こういうときは――なんていうんだっけか」
「お前の言葉が欲しい」
 困惑でもいい、否定でもいい、戸惑いだって呆れだっていい。
「私をどう思う?」
 目の前の青年は困惑をした顔を浮かべ頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。せっかくきめた髪型がむだになるぞ、と突っ込みそうになったけど我慢する。口にしてしまえはきっといつもどおりの悪口の応酬だ。それじゃダメなのだ。
「その、わかんねえけど、かわいいとおもう」
 こんどはツボミがキョトンとする。「綺麗」ではなくて「かわいい」。
 ああ、なるほど、なるほど、そうか。頬がにやけそうになるのを必死で耐える。
「ありがとう。アーウィン」
 ツボミはアーウィンに手を伸ばしエスコートを促す。少しだけバツのわるいような照れた顔でアーウィンはその手をとるとダンスを踊り始める。
 なるほど、去年観察していたときよりはうまくなったみたいだなとツボミは微笑んだ。
「足踏むなよ?」
「ああ、気をつけるさ」
 きっと照れ隠しなのだろうアーウィンのつっけんどんな言葉にツボミは微笑んで答えた。

 人目を避けつつお肉を貪るのはナバル・ジーロン(CL3000441)。
 礼服とかはよくわからなかったけどいつもよりはいい服できた。
 場違いなのはまあわかっている。でもこの場には普段食べることのできない高級料理が揃っているのだ。たとえ厚顔無恥と呼ばれようがきにしない。
 事実めちゃくちゃ美味しかった。お土産に包んでと頼みもした。
 苦笑しつつも料理人はその食いっぷりに感じ入ったのか冷めても美味しいものを中心に詰め込んでくれた。
 お腹いっぱい満足なナバルがふと目をあげるとクレマンティーヌの姿。
 ナバルがにっこり笑って手をふればぱたぱたと近寄ってくる。
「お姫さんひさしぶり」
「ナバルさん、ごきげんよう。お料理は美味しいですか?」
「めちゃくちゃうめえ。お姫さん毎日こんなの食べてるのか。いいなあ」
「普段はもう少し質素ですよ? 今日のは私にとってもごちそうです」
「そうだ、これ!」
 ナバルはにししとわらって腕のミサンガをみせる。
「あっ」
 それは王女にとっても少しだけ甘酸っぱい思い出のもの。
「あのときのこと忘れてないぜ?」
 その言葉に王女は真っ赤になってしまう。自分のワガママで起こした迷惑のお話。それは年を重ねた少女にとって思い返せば恥ずかさに悶そうになるできごと。でも大切な思い出。
「私ももってますけど、その話はその……ナバルさんの意地悪っ!」
「ごめんごめん! お姫さん!」
 
「おにくおにく!!」
 一番乗りでお皿をもってシェフの前にたつのはサシャ・プニコフ(CL3000122)。
「恒例のお肉パーティだぞ!」
 かなりの誤解があるがサシャにとっては関係ない。
 このお呼ばれは毎年楽しみにしていることの一つだ。
「たっぷりほしいんだよね?」
 シェフのおじさんとも顔見知りになった。美味しそうにたくさん食べるサシャのことはお気に入りらしい。
「うん! いっぱいぜんぶ食べるんだぞ! お残しはしないんだぞ!」
 色気より食い気。少しは年齢を重ねたというのに変わらない少女にシェフは苦笑する。
「できたてだよ。サシャ」
「しってたんだぞ! だからきたんだぞ!」
「サシャにはかなわないな」
 いって盛り付けてもらったおにくは美味しい部分がたっぷり。
 シェフが説明するがサシャの耳にはきっと入っていないのだろう。

 そんなサシャの食いっぷりをみれば、慣れない礼服姿の月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)もお腹の虫が鳴く。
 政治には興味がないがどんな上役がいるのかくらいは確認しようと観察してはいたのだが、退屈になってきたところだ。
 そんなとき折よく薫るお肉の匂いが漂ってくればそちらに気が向くのは仕方がない。
「ヨツカもいいか?」
 サシャに声をかければ彼女は快く頷いた。
「サシャはおねえさんだからわけてあげるんだぞ!」
 いいつつもサシャの目はヨツカのお肉に釘付けなのは内緒。
 お腹が膨れれば余裕もでてくるというもの。
 俯瞰してみれば国王派、ノイマン派の間を取り持つように中立派が動いているのがなんとはなく解る。
「ふむ、やっぱりヨツカにはよくわからん」
 けれど、お肉の味はよかったのだけはわかる。

「ミズーリ、踊らないか?」
 ニコラス・モラル(CL3000453)はエスコートの手をミズーリ・メイヴェンに向ける。
「娘さんにおこられるわよ?」
「そこは内緒で」
「どうしようかしらね」
 クスクス笑いながらミズーリはニコラスの手をとる。
 基本は外さない。お店のオーナーの顔に泥は塗らないようにとそのあたりのマナーは熟知している。
「この先どうなるんだろうな
 ヴィスマルクとパノプティコンを倒して、それから」
「なるようにしかならないと思うわ。だから自分のできることをやるわね」
「まあ、残る残らないに関わらず通商連は安泰だろうね」
「そうね、どうころぼうと私達通商連の商売をする場所はあるもの」
「こんな話はつまらないっていわれるかとおもった」
「あら、私の根本は商人よ。お金の話は大好きよ」
 そういって女は強かに笑う。
「まいったまいった。そんな話より口説くことにするさ」
「それはいりません!」
 曲調が変わり、ニコラスはぐいとミズーリの腰を引き寄せる。
「もう!」
「いやいや、おじさんのせいじゃない。音楽がかわればダンスもかわるだろう?」
「ほんとに仕方のないおじさんね」

「西園寺は女の子ですが、私でもダンスのお相手は可能でしょうか?」
 海・西園寺(CL3000241)がクレマンティーヌ・イ・ラプセルにエスコートを申し出る。
「はい、もちろん。
 少し男性とのダンスにはつかれていたところだから」
 王女は海の手をとりかるくお辞儀する。
「ふふ。初めてティーヌに会ったのも此処でしたね」
 正しくはカーテンの後ろですけど、と付け足せば王女はぷくりと頬をふくらませる。それが可愛くて海は微笑んだ。
 あの頃はふたりとも恥ずかしくてダンスなんてできなかった。
 けれどこの数年は二人の少女を変えた。お互いの立場がもつ矜持と努力。
 ずっとぬいぐるみを抱く少女のままではいられないのだ。
 きっとふたりともぬいぐるみを卒業することになるだろう。それが大人になるということ。
 それはすこしだけ寂しいことにも思える。
 騎士と王女と。二人の親友同士の道は別れていく。それでも。
 過去と、今とそして未来。
 重なっていく思い出は宝箱に詰め込んだ宝石のように輝く。
「ぬいぐるみ、大切にしてくれてありがとう」
 こぼれた思いは感傷的だったけれど。
「あの子はずっと大事にするわ。大人になっても」
 王女の言葉は望んでいた以上のもので、海は泣き出しそうになるのを必死にこらえた。
 
 ダンスホールの悲喜こもごも。
 そんな彼らを眺めるのはリュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)にとって楽しいもの。
 壁にもたれ、流れる音楽に弦楽器の音を重ねていく。
 深まる音楽に気づいたものは演者に敬意をしめしてウインクを送る。
 自分の音楽が姫君を口説くきっかけになればそれもまた一興。
「ままならない世の中だけど」
 そのとおりだ。世界はままならない。
 だが、こういった人々の営みを見ているときっとなんとかなるだろうという思いが湧いてくるのも否めない。
 笑みをうかべ世界を愛する青年に麗しい貴族の姫君が声をかけてくる。
「お嬢さん、一曲いかがですか?」
 そう誘えば姫君は頬を薔薇色にそめて頷いた。

「おつかれさま」
 警備の仕事を黙々とこなしていたフロレンシス・ルベル(CL3000702)にバーバラ・キュプカーが話しかける。
「ああ、バーバラさん、おつかれさまです」
 フロレンシスは手渡された温かい飲み物を飲み干しぺこりとお辞儀する。
「まったくこんなお祭りの日だっていうのにお仕事ってやになるわよね」
「いえ、それがわたしの仕事ですから」
「そのわりには色んなものをちらちら眺めていたわよ」
 指摘されてフロレンシスは口ごもる。耳のさきっぽが少し熱い。初めての王城のきらびやかさに心が引かれているのもまた真実だ。
「ねえ、ヨアヒム! フロレンシスと当番かわりなさいよ!」
 運悪くバーバラの目についたヨアヒムはげぇ!! と叫ぶものの、フロレンシスの当番を交代する事になった。
「あの……」
「いいのいいの、どうせあいつナンパしてたんだから気にしないで」
 そんなことより、とバーバラはフロレンシスの手をひく。
「子供はね、すこしくらいわがままでいいの。あのケーキお腹いっぱい食べるわよ」
「あわわ」
 表情はそれほどに動かさなかったけれど。フロレンシスの瞳は宝石のようなケーキと同じくらい輝いていた。

 アデレードの酒場では管をまくデボラ・ディートヘルム(CL3000511)の姿。
「あんた、飲み過ぎじゃないかい? 逃亡兵さん」
 呆れたように、水のはいったグラスを押し付けてくるのは女海賊アルヴィダ・スカンディナ。
「いいじゃないですかー。おまつりですよーー」
 宴で見たくもない元婚約者と鉢合わせてしまった彼女は気まずくてドレス姿のままアデレードまで逃亡、顔見知りのアルヴィダを相手に飲みながらの愚痴大会がはじまったのだ。
 なんともこの場にそぐわない衣装のご令嬢の愚痴は尽きない。
「だってしかたないじゃないですかー。あそこにいて男の品定め? 惨めじゃないですかー! わたしをすてたこんやくしゃのまえでですよ~~~! 無理! 無理よりのムリムリ!
 じゃあ逆に選ばれる方に?
 そんなの無理無理です~~~~~~~」
「てか、あんた好きな男がいるんだろ? ここにいると自由騎士の噂はよくながれてくるからね」
 呆れた顔のアルヴィダはあれこれと世話をやいてくれる。これで案外世話焼きなのだ。
「うわ~~~~~ん。おしたいしてますって伝えることなんてできませんよ~~!
 あちらだって立場があるし、わたしだってーーー!!」
「うわー、めんどくさい」
「ねえ、あるびださん。これ相手を押し倒してきせいじじつつくって」
「んなっ!?」
 アルヴィダはデボラの言葉に真っ赤になる。
「だめだめ、姐さんそういうのによわいから。んなことより、デボラちゃん、俺と付き合わない?」
「こら! カーラント! てめえ!」
「うわーん、好みじゃないもん~~~~わたしがおしたいするのはひとりですうう~~」
「傷つく~~~」
 逃げた女がドレス姿で管を巻く。なんともかんとも。
 酒場の海賊も荒くれ者たちが次から次へとデボラに求婚を仕掛けるが全員千切っては投げていく。
 そう、乙女の心はただひとりのもの。泥酔していてもそれはかわらない。

「団長、本気の手合わせをお願いします」
 アダム・クランプトン(CL3000185)は外に連れ出したフレデリック・ミハイロフに一礼するとそう願う。
「おいおい、宴の席だぞ」
「だから、です。この後は戦争で団長も忙しくて僕にかまっている時間はないでしょうから?」
 アダムの真剣な瞳に断ることは無理だと思ったフレデリックはため息をついて渋々承諾する。
 結果。
 フレデリックの辛勝だった。もし何か一つでも状況がかわっていたらひっくり返りかねない結果だ。
「強くなったな、アダム。まあなんとか団長としての矜持は保たれたか」
 剣を杖にフレデリックが大きくため息をつく。事実何度ひやっとしたかわからない。生意気だった少年がここまで男になっているとは思わなかった。そしてそれがとても誇らしくフレデリックは思う。
「団長、知ってますか。
 僕は他国から白騎士と呼ばれているみたいなんです」
「ほう、たしかにその名を冠するに値するだろうな」
「白騎士ってね、僕が好きだったおとぎ話の主人公と同じ名前なんです。
 少し恥ずかしいけれど、でも――勇気をもらえてます」
「そうか」
 大の字に倒れたアダムは星空を見上げる。この星空はヴィスマルクともつながっているのだ。
「ヴィスマルクの思想は僕の信念とは相容れません」
「だろうな」
「だからといって彼らを否定するつもりもありません」
「どうするつもりだ?」
「彼らの流儀に則ることにしました」
「力で押さえつけるのか?」
「はい。彼らの力を上回って強くなって問答無用で守ってみせます。誰一人死なせません」
「また大きなユメを持ったもんだな」
「団長より強くなって団長も守ります」
 そういったアダムをフレデリックはつま先で小突く。
「あいたっ」
「生意気だぞ、若造。それは俺に勝ってからにしろ」
 まるで、やんちゃな息子をみているような、そんな笑みをフレデリックは浮かべていた。

「あなたが教えてくれた『ダァト』に関連する事だ
 僕達はもうすぐそこへ到達する」
 マグノリア・ホワイト(CL3000242)はアカデミーのアルブレヒト・キッシュに詰め寄る。
「まだ、だよ。マグノリア
 まだその前に必要なことがある。君は賢いが拙速だ。
 到達には手順が必要だ。その手順を踏まずに一足飛びはできない」
「アクアディーネとエドワードは――」
 その先を思いマグノリアはぐっと拳を握り込む。
「彼らを助けたいんだ。あなた達……現在の最高の頭脳と知識の粋と共に作りたい。……あなたが、もう諦めてしまっていないのなら」
 マグノリアの目は真剣だ。
「マグノリア、君は焦りすぎだ。
 我々は君たちのための最善は尽くしている。しかしまずは神の蠱毒を達成しなくてはいけない。
 そのためには他の神々を倒さなくてはいけない。
 私とて何が起こるかはわからないよ。
 何を、何のために、どうやって。その具体的な道筋がない今、我が国の叡智をあつめても意味などはない」
「でも――大切なものの命の危機」なら……どの国も、派閥も、種族も関係ない」
「理想はそうだろう。しかしそれは無理な話だ。それが可能であれば白紙の未来を知った時点で残りの神々は手を取り合う道もあった。しかしそれは叶わなかった。世界は動き出した。
 たったひとりが抵抗しても、たとえ奇跡に願ったとしてもかなわない」
「……万が一の保険もほしいんだ」
「私達にいまできることはないよ。すまないね」
 アルブレヒトの言葉にマグノリアは唇を噛んだ。

 バザーは色とりどり、キラキラが溢れている。
 少し前の自分であれば、こんな素敵な場所に足を踏み入れることはなかっただろう。
 ナーサ・ライラム(CL3000594)はスカートを翻しながら周囲を見渡す。
 イ・ラプセルの国民はヨウセイである自分を差別なんかしない。笑顔でりんごをすすめてくれたりする。
 それは自由騎士だからという理由もあるのかもしれないが、それでもこの優しい国がどんどん好きになっていくのがわかる。
 去年よりもきっときっと。
 だから来年も好きになれるために頑張ろうと心の火が灯る。
「これおいくらですか?」
 たくさんの商品のなかでみつけた素敵なブローチ。
 お花がモチーフのそれはまるで宝物のように輝いていた。
「ああ、言い値でいいよ。俺が買うから」
 頭の上から聞こえた言葉はヨアヒム・マイヤーのもの。
「ええっ?!」
 店主はブローチを包むとヨアヒムに手渡す。
 (まあ、お買い物は早いものがちなのでいいんですけど……)
「はい、オラトリオプレゼントだよ。ナーサちゃん」
 ラッピングされたブローチをヨアヒムはナーサに手渡す。
「ええ? そんな、だめですよ」
「ほしそうに見てたから、プレゼントしたくなったのさ。素直にもらってくれると嬉しいかな?」
 ナーサはヨアヒムとラッピングを何度も見比べる。
「カッコつけさせてよ」
「あ、あ、ありがとうございます!」
 ナーサはブローチを胸に抱きしめ何度も頭をさげた。
 
 サーナ・フィレネ(CL3000681)は療養施設に足を向ける。
 療養所ではお祝いの宴というにはささやかな会が開かれていた。
 子どもたちはそんなお祝いにどう反応していいのかわからなくて、おどおどしていたのでサーナは歌をうたってみることにした。
 すると子どもたちは少しだけ笑顔を浮かべる。しかしそれだけだ。積極的に何かをしようとはしない。
 普通なら笑って今日のお祭りにはしゃいで美味しいものを思う存分口にする年齢だというのに。サーナの心はきゅっと締め付けられる気持ちになる。
「バザーでお菓子、たくさん買ってきたから」
 まだ動けない子供も少なくはない。医者にきいて少しくらいならお菓子を食べてもいいと了解も得ている。
「おねえちゃん、ありがとう。おいしい、ね」
 嬉しそうに飴玉を口の中で転がす少年の足は動けるようになっても不自由は残ると聞いた。
 サーナは少年を抱きしめる。
「よかったね」
 果たして本当に彼は幸せなのかと自問自答するが答えはでない。
 だけれども。こんなふうに戦争の犠牲になる子供がこれ以上増えないようにとサーナは思う。
「おねえちゃん、さっきの。おうた? っていうのもういっかいききたい」
 細い手の少女がねだる。
 こんな小さな要求が嬉しかった。何もかもを奪われた子供だったとしても「しあわせ」を得ようと手を伸ばしてくれることがとても嬉しかった。
「うん、おねえちゃんがおうたおしえてあげるね?」
 サーナの歌声を真似する子どもたち。
 その歌声にサーナは少しだけ、ほんの少しだけ救われた気がした。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『今は遠き英雄』
取得者: エリシア・ブーランジェ(CL3000661)
特殊成果
『フロイライン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ナーサ・ライラム(CL3000594)
『おいしいごはん』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ナバル・ジーロン(CL3000441)
FL送付済