MagiaSteam
誕生日と、彼らの未来と――。




「いや、そんなことより、騎士団発足のお祝いで十分だよ」
 『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)と、数人の自由騎士に詰め寄られた『イ・ラプセル国王』エドワード・イ・ラプセル(nCL3000002)は後ずさりしながらそう答える。
「だめにきまってるんだよ! 王様!」
「ほら、お祝いごとが重なっているから、ね?」
「重なることは悪いことじゃないもん!」
 その言葉に折れ、エドワードは苦笑いをする。
「そうだな……ではこうしよう。今回の祝いは略式のもので。タイミングもはずしているしね……!」
 エドワードの言葉にクラウディアは大きな瞳を三角形にして睨みつけた。
「いや、こまったな、クラウディア。怒らないでくれ。そういう意味じゃないんだ。
 略式にして、シャンバラの民も呼ぼうと思うんだ。
 王城は無理だけれど、城下町を解放して君たち――自由騎士がどんなことをしているのか見せてあげたいんだ。
 彼らは今、状況が急に変わって不安の中にいると思う。彼らをケアすることも私達の義務だろうとおもうんだ」
 それにはもちろんある一定の条件は付随してしまうことになるけれど、とエドワードは続けた。
 エドワードが示した条件はオラクルは祝福をうけていること。イ・ラプセルに興味のあるもの。王城内への侵入は今現在は不可能といったごくごく当然のものだ。むしろゆるすぎると怒られた程だ。

 現状、権能の呪縛がなくなった元シャンバラ人たちの中の聖堂騎士のうち蒼の女神の祝福を受けたものをを中心に、自由騎士たちのすすめもあり、各々の管区長、もしくは駐在している聖堂騎士たちが便宜上まとめている形になっている。
 聖堂騎士のうち、そうそうに祝福を受けたオラクルに関しては基本的に自由騎士と同じく騎士侯としての立場は約束されている。
 彼らが今後自由騎士として行動するのか国防騎士として行動するのかはまだ未定だが、彼らとて騎士。国という軛が変われど、民を守るためにその身を呈することは間違いないだろう。


 その彼らのうち希望者を招くというのが今回の趣旨である。彼らの移動については現在開発中の飛空艇については空路の準備は整ってはいるが、安全性を確かめるために使用はまだめどが立っていない。
 故に通商連の大型高速輸送船を借り移動するという形になる。

 君たちはアデレードの港につく彼らを――。

 


 
 


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常γ
■成功条件
1.エドワードの誕生日をお祝いする
2.元シャンバラの民にイ・ラプセルのことを教える
 たぢまです。
 令和ですね。なんとなく違和感のある名乗りですが。ねこてんです。というのがしっくりきます。
 普通にエドワードの誕生日忘れていました。

 この依頼はブレインストーミング内
デボラ・ディートヘルム(CL3000511) 2019年04月25日(木) 18:58:06 の発言と
テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
アリア・セレスティ(CL3000222)
エルシー・スカーレット(CL3000368)
アデル・ハビッツ(CL3000496)
ナナン・皐月(CL3000240)
 の押しによって作成されました。名前のでたみなさんが参加する義務はございません。


・できること・
【1】
 エドワードの誕生日のお祝いをする。
 王族のみなさんや宰相、及びちょころっぷ担当NPCは呼べば来ると思います。
 (アルヴィダ始め、メモリアとかアクアディーネはいません)
 ごはんとかは美味しいのあるですよ。本人の希望でわりとフランクなパーティです。

【2】警備とかトラブル解決
 パーティ会場、城下町、アデレードを警備してください。
 どこを警備するかも明記してください。
 できれば一箇所のほうがいい感じです。

【3】シャンバラの皆さんにイ・ラプセルのことをおしえてあげてください。
 城下町には一般人から祝福済みのオラクル、アデレードには祝福を迷ってる聖堂騎士さんもいます。
 一様にして今後について不安そうではあります。

 ちなみに現在祝福済みシャンバラの聖堂騎士さん、オラクルさんは、即日に近い形で挙手された方を一旦、自由騎士のみなさんと一緒にイ・ラプセルにきて祝福をうけて、シャンバラに戻ったという状況の方が多いです。イ・ラプセルに残って自由騎士団、もしくは国防騎士団への転職を求めた方も少なくはありません。

 コンスタンツェ管区長のフレッド・ミカエリスさんがいの一番に挙手したことで、わりとシャンバラオラクルの人たちも気軽に挙手ができるようになったようです。

 今回の渡航にて参加するのは
 コンスタンツェ小管区、グラーニア小管区の方々と一部の大管区の方々になります。
 ちなみに、グラーニア小管区は白銀騎士、ナディア・ナバル(どくどくSTのNPC)とエルネスト・ランベール(神の愛は慈しみ深きで登場)によりわりとまとまっております。
 彼らと話すこともできます。彼ら三人共アクアディーネの祝福を早期にうけています。
(ナディア・ナバルについては、返答はどくどくSTの監修を頂く形になります)

 以上の皆様に話しかける体でプレイングをかけていただけると嬉しいです。
 農業の仕方をおしえたりとか、聖櫃がなくなったあとの常識を教えてあげるとかそういうのでもOKです。
 元シャンバラのみなさんのケアをよろしくおねがいします。


 また、いつもどおりランダムでNPCと絡んでほしい。も問題ないです。


一行目 【1~3】
二行目 同行者(ID)/同行希望NPC/グループ名
三行目 プレイング
 
 の書式でお願いします。

●イベントシナリオのルール

・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  1個  0個
11モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
27/50
公開日
2019年05月18日

†メイン参加者 27人†

『ひまわりの約束』
ナナン・皐月(CL3000240)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『アイドル』
秋篠 モカ(CL3000531)



「王様の好きなものってなんでしょうか?」
「王さまのおたんじょーびだもん、いっぱいお祝いしなきゃだよね!」
 クレマンティーヌ・イ・ラプセルのもとにカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)と海・西園寺(CL3000241)が押しかける。
「お兄様ですか? ……なんでも喜ぶと思います。嫌いな食べ物とかないと思いますし」
「なら、ケーキは? あまくて美味しいの!」
 カーミラの言葉に海も頷く。きっと王様もティーヌから祝われると嬉しいと思う。そのお手伝いがしたいから。
「ではショコラケーキを、ティーヌも一緒に造りませんか?」
 手作りのそれで王様がティーヌをすごいと言ってくれたら嬉しい。王様が笑顔になってくれたら嬉しいし、それにティーヌが喜んでくれたらもっと嬉しいから。
「素敵です」
 その答えに海は口元をほころばせる。
「やったー! いちごをのせてもいい?」
「もちろんです」
「チーズは?」
「それは……どうでしょうか?」
 当日。エドワード・イ・ラプセルの前に少女たちの手作りのケーキが出される。カーミラは主に味見役だ。
「王さま、おたんじょーびおめでとー!
 ケーキをどーぞ! おいしいよ! 味見したもん!」
「これは豪勢なケーキだね。ティーヌも手伝ったのかい?」
 エドワードの言葉に王女は恥ずかしそうに頷く。
「はい、シェフはティーヌです」
「海!」
「王さま、ふーってして!」
 カーミラが嬉しそうに急かす。
 ケーキに蝋燭を立てるのは神暦よりさらに昔、旧古代神時代の月の女神にまつわる。女神のためにケーキを焼いて、月の光を表すために蝋燭に火を灯す。天上に昇る蝋燭の煙が月の女神に願いを届けてくれると信じて。
 神様は直ぐ側にいるけれど。大昔の言い伝えで子供っぽいかもしれないけれども。
 誕生日はその人がこの世界に生まれた奇跡の日。
 海は誕生日の度ワクワクしていた。だからそんな気持ちを王様に思い出してもらいたいから。
「王様、王様じゃなくてエドワードさんとしてお願い事をしてください」
「ああ、ありがとう。君の気持ちはとても嬉しいよ」
 そう言って笑った王様がすこしだけ寂しそうだった。

「さあ、祝杯だ!」
 少し離れた場所ではトミコ・マール(CL3000192)が音頭をとる。
 その音頭にあわせて誕生日を祝う歌が聞こえる。
 その合間ごとに「おにく、おにく」とサシャ・プニコフ(CL3000122)が相槌を打っている。
 いつもは料理を作る立場だけれど、今日のトミコは美味しご飯を食べる方。
 おにくが食べたくてしかたなくてよだれをたらしているサシャにしかたないねと給仕する。おやおや、あっちにもお腹をすかした子がいるじゃないか。
 トミコは皿に大盛りにお肉を盛るとその子に向かう。
 やっぱりいつもどおりだ。
「おにく! お肉! おいわいするぞ!」
 サシャの両手には美味しいお肉が山のよう。

「こんなに食べれないのに困ったな」
 アルビノ・ストレージ(CL3000095)は山のようにもられた食事の皿を目の前に少し苦笑する。
 王を祝ったあと様子をみていたらふくよかな彼女にこの皿を渡されたのだ。
 まったく。
 素敵だね。
 アルビノは皿のお肉を器用に『指』で切り分けると口にした。
 ああ、本当に――素敵だね。

「どうしよう、どどどどどうしよう! 正装じゃないと、だめだよね?」
 エルシー・スカーレット(CL3000368)はフランクなパーティという言葉にだまされない。だって王城よ?
 身だしなみを整えて素敵なドレスもレンタルした。たぶん大丈夫のはず。多分。
 戦場に向かう準備は万端!! 
 あ!? 時間が……! 時間が?! 遅刻しちゃう!
 なんとか馬車を走らせて王城にたどりつく。
「クレマンティーヌ様!お久しぶりです。私、どうですか? おかしくないですか?」
 まずは王様の前に大丈夫か聞いておきたい乙女心。
「ふふ、むしろお姫様みたいに素敵ですよ。あ、エルシー髪飾りがずれています……」
 そんなふうに王女が笑うから、真っ赤になってしまう。ホールを走ったときに髪飾りがずれてしまったのかもしれない。何という痛恨のミス!
「すみませぇん、直してもらっていいですか?」
「はい」
 髪飾りは直してもらった。それじゃ将を討つために! いや、なんか違う。
「へへへ陛下! お誕生日と、自由騎士団設立一周年おめでとうございます!
 不肖エルシー、今後も陛下の剣として任務に邁進する所存です!」
「ああ、エルシーありがとう。今日も一段と綺麗だね」
 エルシーは心の中でガッツポーズをとる。もちろんだ。遅刻しかけたこと以外はぬかりない。サロンの従業員さんにもめちゃくちゃかわいく美人にって何度もいったから。
「あわわわ! その! えっと」
「お礼にダンスを一曲いかがかな?」
 言ってエドワードは秋篠 モカ(CL3000531)にウインクする。
 
 エドワードのためにダンスを踊っていた歌姫は彼を見ていたのだ。その合図がなにを表しているのかわかる。
 演奏隊の音楽が止まった。演奏隊がモカを見て頷く。
 モカの次のダンスの舞台はリラの上。踊る指先から音楽が溢れだしていく。
 彼女は自由騎士になってまだまだ日が浅い。だからこそ、国王に頑張る気持ちを伝えるために心を込めて指先を踊らせる。
 演奏隊の人たちもいきなりソロをやれ、だなんて意地悪にもすぎるけど、でもそれはモカの誕生日を祝う気持ちを汲んでくれたから。
 王様だけじゃなくて、他の来賓たちも楽しそうにモカの指先に合わせてダンスを踊る。
 みんな笑顔で、それがモカには嬉しかった。
「お誕生日、おめでとうございます」
 モカのその気持はきっとエドワードに伝わっただろう。

「国王陛下、お誕生日おめでとうございますぅ。
イ・ラプセル王国と自由騎士団の今後の発展に貢献出来ますよう、尽力する次第でございますぅ!」
 元気よくしましましっぽをふるのはシェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)だ。
 両手の容器に赤い……お米とビーンズの混ぜられたおにぎりのようなものを持っている。
 その視線に気づいたのかシェリルは笑みを深くする。
「これはアマノホカリ由来の、お祝いの席にだされるお赤飯といわれるものですぅ~」
「へえ、初めて見るよ。赤い、おこめなのかい?」
「作り方は省略しますが、この赤い色は邪気を払うといわれますう」
「その葉っぱはなんだい?」
「南天の葉ですぅ。「難(なん)」が「転(てん)」じるという語呂合わせなんですよぉ」
「ああ、アマノホカリはそういう語呂合わせが多いと聞くよ。『コトダマ』っていうんだったっけ?」
「そのとおりですぅ。食べやすいように俵おにぎりにしました!」
「ああ、いただくよ。ナイフとフォークは?」
「手で掴んでぱくりとどうぞ」
 いたずらげにシェリルはくすくすとわらう。おにぎりは手づかみが基本だ。
「手づかみか……なんだか悪いことをしている気分になるね」
 笑ってエドワードは俵おにぎりを口にした。
「他の皆様の分もありますよ~~! い~ぱい炊いてきましたのでぇ、いっぱい食べてくださいねぇ~」

「よー、どうよ。最近」
 ニコラス・モラル(CL3000453)は飾り立てたミズーリ・メイヴェンに声をかける。
「通商連風にいうならぼちぼちよ」
「この前の通商連でかまってやんなくて、拗ねてる?」
「いーえ、お構いなく。静かでよかったわ」
「とかなんとかいっちゃって、寂しかったんじゃないの?」
「あなた陛下にはお祝いしてきたの?」
「あー……陛下の誕生日な、誕生日。めでたいめでたい。
 誕生日といやぁさ……ふーん、俺の見立て通りだな」
 ニコラスはミズーリの口元を見ながらニヤニヤと笑う。
「私の誕生日は9月よ? まあ、もらったからありがたくつかわせてもらったけれども」
 淡桃のリップはつややかにミズーリを彩る。
「ああ、俺の誕生日だったからさ、お嬢ちゃん」
「は? なにそれ? 逆誕生日プレゼント? きいたことないわよ」
「というわけで、お返しくださーい」
「このひと商人よりたちがわるいわね」
「前後半年受付中です~~、なんかくださーい、だめ?」
 かわいこぶって首をかしげるおじさん。
「このひとは……」
「なんてな……いいんだよ別に。顔見れただけで十分だ。でも何かくれるなら貰っとくぜ」
 半眼になったミズーリにニコラスは意地悪げに笑う。
「仕方ないわね」
 言うとミズーリは自らのリボンをほどきニコラスに渡して、べーっと舌をだすと逃げていった。
「あーあー、逃げられちゃった」

「陛下、誕生日おめでとうございます。これからの一年、陛下と愛すべき民に祝福がありますように」
「ありがとう……でもまあ私の誕生日など些末なことだよ」
 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の言葉にエドワードが返せばテオドールの語気が強まる。
「……お気持ちは分かります。戦時下ですし前王が崩御されたのもこの頃ですから。祝うことを避ける気持ちもわかります。しかし、王の誕生日の祝いは民にとって重要なものですよ」
「う……いやそれはそうだけれども」
「あなたがそうであるなら来年もまた皆で詰め寄らせていただきます」
「それは……いやだ」
 まるで子供のような国王にテオドールは少し微笑ましい気分になる。
「ところで、陛下は神の蟲毒に勝利した後なら、見合いの話を考えていただけるのですか?」
「ぐぬぬ、今日の君はなんだかおしが強くないかい?」
「いただけるのですか?」
「あー、考えるよ。うん、考える」
 王の返答にテオドールは普段から思っている不安を吐露する。
 我々の思い描いている未来と王の思い描いている未来は同一だろう。しかしその後は?
「無礼を承知で聞かせて下さい。陛下の描く理想的な未来に王たる貴方はいますか?」
 その言葉に、いる……と思うよ。とさみしげな笑みで彼は答えた。

 
 エドワードに祝辞を述べた二人のポリティシャンは宰相であるクラウス・フォン・プラテスの元に向かう。
「旧シャンバラ領地の復興についてですが、鉱山も多くあり資源は潤沢ではありましょうが、アストラント炭鉱ををヴィスマルクに取られグレイタスの鉱山もへルメリアに狙われている現状、現地人生活の為にも警護を固め資源採掘を推進しては如何だろうか」
 早口でまくしたてるように言うのは、妙齢、と言うには少々とうがたってはいるが、十分以上に若々しく美しい女ポリティシャン、ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)だ。
「レストレンジ、それには金がかかる。性急にことを進めるとして、補填はどうする? 本国国庫からの補填など論外だぞ?」
 彼女を諌めるのはノイマン派の中でも革新派であるライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)だ。
 なにかと彼女の意見には反対意見を出すことが多い。
「資金繰りなど、どうとでもできるだろう。まずは資源を如何に手に入れるかが重要だ」
「この不安定な現状でどうとでも? それはあまりにも無茶だ。もともといた鉱夫は鉱夫として再雇用は決まっている。しかしその賃金の捻出がどれほど懸念事項とわかっているのかね?」
「だが、投資をするだけの益と、資源はそこにあるのだ。農産や酪農も生活に必要な基盤だがさらなる利益のためにグレイタス鉱山に投資はするべきだ。人材はあちらに集めたい」
「ではニルヴァンはどうする? 人材は有限なのだぞ?」
「生活に不満を持つ民を暴徒化させる訳にもいかんだろう。流入してきた民は少なからず不満をいだいているものは多いはずだ」
「良いかね、君たち」
 そこでクラウスがやっと口をはさむ。
「ここがどこか、わかっているのかね? 議論を交わす。大いに結構。しかして時と場所をわきまえることもまた必要だぞ」
 そういわれてもなお二人のポリティシャンがにらみ合いをやめないことにクラウスは大きなため息をついた。


 国王の誕生日とあれば、国中が大騒ぎだろうさ。
 ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)は城下町を警備する。
 浮かれているからこそ、犯罪は起きやすくなるのだ。折しも元シャンバラの民がここにも来ている。蒼の神の祝福をうけているとはいえ、両国の溝は深い。
 ふと悲鳴が聞こえた。
 しかたない。ラメッシュはそちらに向かって走る。
 どうにも不安げな元シャンバラの民に我が国民が難癖をつけたらしい。事件というほど事件ではないが、ラメッシュは二人の意見を聞いて調停する。
「うむ、わが正義は今日も完遂された。む? あちらでも? よし! 正義だ!」

 同じく城下町を警備するのはリュリュ・ロジェ(CL3000117)だ。
 さっきの悲鳴には誰か自由騎士が行ったようだ。うむ。任せておこう。
 ハメを外したり騒ぎをおこすものはどこにでも居るのだなあ。よし、なにかあっても良いようにしておこう。
 彼が地上を担当するなら、自分は高所から様子を見回るのが良さそうだな。
「と、いう名目の空中散歩であった」
 文字通り最近羽根をのばすことはなかったからな。くう~、一人で警備する自分かっこいい。
 ああ、平和だなあ。こんな日がつづけばいいのに。
「こら!!」
 そんな空中散歩を邪魔する声。よくよく知っている声だ。
「……バーバラ」
「はい、バーバラよ」
 両手を腰にあてて眉毛をつりあげているのは同じくソラビトであるバーバラ・キュプカー。
「今日は見回りなんでしょ?」
「こ、こら、耳をひっぱるな! 痛い! 痛い!」
「サボってたのはバレてるわ。だらだらあっちこっちでふらついて! 私の噂の網を舐めないでちょうだい!」
「巡回ルートが私の気分次第なだけだ! なにかあればすぐ駆けつけようともおもってる」
「さっきなにかあったでしょ!」
「そうなのか? まあ思ってはいるんだ。動けるかはべつの話なだけだ」
「開き直るな!」
 あわれ、リュリュくんは強制的にバーバラ姉さんの巡回につきあわされることになったのである。

「王様の誕生日、この祝の日にもし何かあると大変です」
 サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は両手に本を抱えながら王宮内を警備する。
 来賓は多いが怪しいものは居ないようにみえる。
 それでも気ははらないと! 
 少年らしい正義感で、あちらこちらを確認する。そういえばお腹空いたななんて思うけど今は警備中!
 そんな彼にふくよかな女性が食べやすいようにラップした肉を挟んだパンをくれた。
「元気をいただきましたし、今日はいつも以上にしっかりとしないと」
 少年はそのお腹を満たす美味しさにより一層思いを強くするのだった。

 王様も人が良いと言うか何と言うか。だからこそ催しを成功させることが王様へのプレゼントになるだろうと、アリア・セレスティ(CL3000222)はアデレードを警備……とまではいかない程度に巡回する。
 元シャンバラの人達が緊張しては元も子もない。あくまでもこの国がどんな国であるのかを教えたいだけなのだから。
 だからこそ、警戒対象はあくまでも自国民。シャンバラ人だって不安だろう。でもそれ以上に他国の移民が流入したイ・ラプセル人だって不安で然るべきだ。
 ふと騒ぎ声が聞こえアリアはそちらに向かう。
「おー、アリア殿でござるかー」
 いざこざに辟易した顔のムサシマル・ハセ倉が露骨に安堵した顔になる。
 どうにも、肩がぶつかったのに謝らなかっただのどうののよくある諍いだ。あとはよろしく頼むでござると言って逃げ出したムサシマルにため息をつきつつも、アリアはすぐにオーディオエフェクトを使用し周りにいざこざが伝播しないようにする。
 半ば洗脳に近い権能によって支配されてきた国と差別をなくそうとしている国。軋轢は大きい。そのストレスが小さな出来事で諍いに発展するのだ。
「郷に入っては郷に従え、なんて言いませんけど、ごめんなさいは大事ですよ」
 なんて、小柄なアリアとはいえ自由騎士に諭されれば、諍いを起こしていた二人はしぶしぶと謝る。
「今すぐ納得しろとはいいません。けれど、国は変わってもその礎になるのはいつだって民なんです。戦争していたんですもの。すぐに相互理解は難しいですけど、少しずつ、お互いに変わっていけたらいいなって思いますよね。誰だって平和を望んでいるんですから」
 そういったアリアのやさしい笑顔に喧嘩をしていた二人は見惚れるのだった。

 アリアに片手で挨拶したアデル・ハビッツ(CL3000496)が懸念していることはアリアと同じく自国民のシャンバラに対する憎悪と嫌悪の暴発だ。
 アデレードにいるものは半数がアクアディーネの祝福を受けてないものになる。
 だからこそ警備は密にしなくてはいけない。
 ヨウセイの青年が法服をまとう元司祭であったであろう老人に掴みかかっているのが見えた。
 アデルは急いで向かう。
「お前たちは今からアクアディーネの祝福を受けるのだろう? 彼女はこのような種族同士の諍いは求めてはいない」
 ぱん、と軽くヨウセイの青年に足払いをかけ、二人の間に潜り込む。
「ありがとうございます、自由騎士様。この魔女……ヨウセイが難癖を……機械の体……」
「先に俺に暴言をはいたのはお前だろう!」
 彼らとて争いがしたいわけではない。しかしてシャンバラ人は意識していたしていないにかかわらずキジンやヨウセイを強く迫害してきた。その差別は今なお深く根付いているのだ。
 司祭は助けられたにもかかわらず、アデルの機械の体をみて言葉を詰まらせている。
「なにがあったかは問わない。だが、これから両国は一つになっていかなければならない」
 それは国と国が併合して、その先の平和に向けて個人が行うべき努力。
「憎しみを捨てろとはいわない。だがそれを理由に不法を働いてはダメだ」
 その言葉に二人は黙る。
「最悪、罰することになるかもしれない。だがこの国とお前たちと、そして世界の未来(へいわ)のために俺の言葉をきいてほしい」
 それはただの一兵卒の言葉でしかない。説法なんてただの兵隊には難しすぎる。戦場でドンパチやっているほうが楽だとすら思う。それに、戦争を生業にしている自分が平和を説くなど――。
「くそ」
 一言のこしてヨウセイの青年は去っていく。わかっていないわけではないだろう。だがきっと、自分では言葉が届かなかったのかもしれない。
(……マリアンナがいてくれたらもっとヨウセイに言葉が伝わるのだろうが……)
 金髪のヨウセイの少女の顔を思い浮かべ、つい漏らしてしまう思いがアデルにはあった。


「おお! この見目麗しきお姿こそ我らが崇拝すべき青の女神!
 女神を崇めよ! 女神を愛せよ! 女神を讃えよ!
 メ・ガ・ミ!! メ・ガ・ミ!!
 エビバディセイ!! SEEEEEEEEEEEEEEEIyyyyyyyy!!!」
 さっそく黒いやべーやつ、もといナイトオウル・アラウンド(CL3000395)は周囲に女神の写真を配りながらの布教活動だ。
 ぶっちゃけめちゃくちゃドンびかれているがナイトオウルは気にしない。というか気づいてない。
 配っているものが水着写真なので、もうなんていうか違うなんか別の勧誘みたいになってるけど気にしないというか気づいてない。
「いいですか? 他の神もどきより、優れているかをお教えいたしましょう!」
 ナイトオウルのテンションは最高潮だ。過去の敵といえ、わが女神に下ったのであればそれは、同士だ。女神を愛する同士なのである。
「全能で、聡明で、崇高で、秀麗で、神聖で、完璧で、優渥で……!!! そして!!!!!」
 そこまで叫んだところで、シャンバラの民から騒音がひどいと訴えられた自警団がナイトオウルを引きずっていった。
「MMMMMMMMMujoooooooooooooooooooohhhhhhh!!!」
 
「シャンバラ美人とお近づきになるためにナンパするぜ!」
 ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が下心満載の宣言をした、わけでもないがあえてここは記載しておく。
 実際において、ウェルスは元シャンバラ民に対してイ・ラプセルで住むことを望む相手には住居の紹介をして回っている。
 実際において、祝福が終われば、シャンバラのもといた土地に住居があるので、戻るものが多数をしめるが、イ・ラプセルで住むことを望むものも少なくはない。
 元シャンバラ民の流入によってアデレードがさらに賑わえばそれはそれで、いいことだとウェルスは思う。
「……いや、美女をあの手この手で誑かして大人の店に勧誘し、店から貰う紹介料で荒稼ぎするってのも悪くはないんだけどね」
 とはいうもののプレイベアーの本音が漏れることもしばしば。
 彼には『争いを好まない平和主義の紳士的な熊さん』という地位がある。
 ……あるの?
 だから悪いことは隠さなくてはならないのだ。
「なるほどなあ……悪いクマがいたもんだぜ! でも美人を見つけたらおしえてくれ!」
 なんていうのはヨアヒム・マイヤー。
「ヨアヒムの旦那もワルだな。あっちの方に美人さんのケモノビトがいてさ」
「ウェルスこそ。お胸様の大きさはどうだった?」
「旦那は胸派かい?」
 そんなわるいだんしふたりはその数秒後に怖いソラビトのお姉さんに数時間説教されるのであった。

 目抜き通りを歩くのはデボラ・ディートヘルム(CL3000511)。
 先程自由騎士の入団説明をしたところだ。
 そこに、数人の元シャンバラ民を連れてフレッド・ミカエリスが現れる。
 彼は元コンスタンツェ管区長だ。神の消滅をしってすぐに自由騎士に両手をあげて降伏し、アクアディーネの祝福を求めたなんとも要領のよすぎる人物だ。
 しかしてその行動によりほかの者もずいぶんと降伏しやすくなったのは間違いない。
「いかがですか? イ・ラプセルは」
 デボラは彼に尋ねる。
「ええ、女神アクアディーネ様の恩恵のもとなんと良い国か」
 華麗なる掌返しにデボラは苦笑する。まあ、年齢的にはいいおじさまだけれど、好みではないなと少し思って、あのときアレイスター・クローリーにいわれた言葉にちくりとする。
「そういえば、コンスタンツェは大きく海に面していますが漁業は他国と変わらないのですよね」
「ええ、あとは酪農と農業でしょうか? ……お恥ずかしながら酪農はともかくとして農業は一気に世界が変わりました。種をまけば数日で芽吹き収穫ができる、それが常識でしたので」
 フレッドは悪びれもせずそう答える。
「……一旦漁業を奨励し、その間に農業は新たに経験を積むのがいいでしょうね。元来、農業は一年計画で成す事なので」
「なるほど、難しいものですな」
 唸るフレッドは少しだけ可愛いかもとデボラは思う。
「ああ、そうだ。シャンバラにいらっしゃる皆さんにお土産はいかがですか?
 うちのエールは美味しいですよ。他になにかあれば探すのをお手伝いしますので」
「それはありがたいです。ああ、女神アクアディーネに感謝を」

 王様にはバースディカードをおくった!
 だから不安なシャンバラの人たちを安心させるのだ!
 ナナン・皐月(CL3000240)は元気よくアデレードに向かう。
『初めまして! ようこそ! イ・ラプセルへ!』
 なんてかいた大段幕はよく目立った。
 小さな子どもにクッキーをあげれば喜んでくれたのが嬉しかった。
 大段幕をふりながら、家族まるごと港町を案内すればよろこんでくれた。
 ふと、宰相に相談したことを思い出す。
 相談所やお家をつくってあげてほしいといえば、基本的に完全にイ・ラプセルに移住するものは少なくはないが多くもない。
 多くのシャンバラ民は祝福をうけた後もとからあった自宅に帰るのだ。イ・ラプセルへの移住を希望するものは騎士団がすでに斡旋をしている。
 また一般人の職業は概ねシャンバラで就いていた職業に戻るものがほとんどだと聞いた。漁師に農家、商人に騎士などシャンバラの民は職業には就いている。
 解体された騎士団もイ・ラプセル国防騎士団、シャンバラ防衛騎士団として再編成されることになるので失業者が多く出るというわけではない。再編成に対する不満の解消や割り振りはこの後の話になる。
 それに、そもそもにおいて完全にイ・ラプセルに流入されてしまっては土地が足りなくなってしまう。元シャンバラの民はシャンバラの土地でこれからの生活をしていく形になるのだ。
 故にシャンバラ本土をどうするかが重要だとナナンは諭された。

 直接お祝いを言いたいのは山々ではある。
(陛下ー! お誕生日おめでとうございまーす!)
 シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は心の中で王に祝辞を唱えるとエルネスト・ランベールの率いる集団に飛び込んでいく。
 多少の面識はあるから大丈夫とは思いたい。
 でも不安だ。だって自分はキジンなのだから。
 でも、気後れしていてはダメだ。陛下への祝辞より自由騎士の務めを選んだのだから!
「エルネスト殿だったかの? ワシは見ての通りキジンのシノピリカ・ゼッペロンじゃ。今日は貴殿らに説明にきたのじゃ」
「ゼッペロン……!? ニルヴァン城塞のときの……?!」
 彼女の名前にエルネストが構える。いや、構える必要などないのだが、ついぞ敵同士であった彼女を警戒してしまうのは騎士としての性か。
「いやいや、かまえんでくれ」
 機械の両手をふればエルネストの眉がしかめられる。
「あ、ああ、カタフラクトか。ワシとて前線で兵たちと交わり、この身をキジン化せねば理解し難かったであろうからな……」
「失礼した、ゼッペロン殿。やはり我々はキジンもヨウセイも見慣れなくてな」
「しかたあるまい。我が国の国是たる奴隷廃止・万民平等の方針。他国のものには受け入れがたく戸惑うものだと思うのじゃ。
 ケモノであろうとオニであろうとヨウセイであろうと、ヒトはヒト。
 ヒトはその生まれや性質ではなく、ただその行いを以てのみ判断されるべきこと。それがこの国なのじゃ。理解は難しかろうが、それが悪いものではないとわかってくれるとうれしいのじゃ」
 言ってシノピリカは機械の手で握手を求める。
 一瞬の逡巡のあとエルネストは確りとシノピリカの手を握った。
「というわけで、エルネスト殿。ひとまずは……番外地で呑むか!!」
 握手に気をよくしたシノピリカはエルネストをそのまま番外地(ダウンタウン)に引きずっていこうとする。
「お連れの皆様も! 今日はワシのおごりじゃ!」
 
 同じくアンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は国王に挨拶をしたあとアデレードに降り、手持ち無沙汰な元聖堂騎士っぽい人をみつけると声をかける。
「こんにちは、あなたお酒は好き? イ・ラプセルは水の国よ
 うちの国のエールは美味しいんだから! 飲まなきゃ損よ!」
 なんて言っておひさまも高いウチからエールの杯を掲げる。
「え、いまからですか?」
「もっちろん!」
 だってまずはいいところを紹介してこの国を知ってもらいたいから。
 自分たちは彼らから『豊穣』を奪った。
 その『豊穣』が私達にとって、まやかしであったとしても彼らにとってそれは当然の常識だったはずだ。
 しかしその常識はもう存在しない。だから彼らには新しい常識を知ってもらって、そして自分も彼らを知ることが必要だと思う。
 つまりは相互理解というものだ。
 だからその相互理解に一番の方法は『呑み』!
「飲み比べなら負けないから!」
「ええええ?」
 イ・ラプセル女子は強し。またひとり屈強な聖堂騎士が酒場に連れ込まれたのであった。

「王様にお祝いしたし、次はシャンバラの人たちや!」
 アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は忙しい。
 マザリモノとノウブルが話しているのを遠巻きに見ているケモノビトの元シャンバラ人の少女をみかけた彼女はこんにちはと笑顔で話しかける。
 シャンバラ人は彼女の機械の足をみて怯える。
「ああ、怖あらへんよ! 大丈夫、襲わへんし! えっとな、あの二人気になるんやろ?
 イ・ラプセルではな、マザリモノやキジン亜人とノウブルに身分差なくなったんよ。
 王様がな、人種差別なくそうとしてるん。まだ全部が全部うまくいっとらへんけどね」
「……」
 シャンバラ人は答えないが続きを聞きたくないわけではないらしい。逃げようとする様子はもうない。
「すごい不思議な光景やろ? 少しずつなれていったら、差別なんか馬鹿らしくなるよ。
 うちみたいなキジンでもなんもいわれへんし、ケモノビトもマザリモノもなんもいわれへん
 それに、シャンバラ人やってのけものにする人はおらへんし」
 だからね。とアリシアは手をのばす。
「うちといっしょにごはん食べませんか? おいしいとこしっとるよ」
 笑顔で問いかければ、少しだけ緊張をといたケモノビトの少女はうんとうなずいた。

「なんだ、君は……えっとナバル・ジーロンだったか」
 えらく自分に付きまとってくる知らない顔ではない少年にナディア・ナバルは半眼になる。
 戦争が終わってすぐだ。敵味方であったイ・ラプセル人たちはなんとも微妙な距離感であるはずなのだ。
「お! 覚えててくれたのか? すっげえ強かったよな、ナバルさん」
 だけれども戦争は終わった。ナディアらは望んでイ・ラプセルの民となった。祝福だって受けているイ・ラプセルの仲間なのだ。少なくともナバル・ジーロン(CL3000441)という少年はまっすぐにそう思っている。
「そういわれるのはやぶさかではないが。君はその、敵味方だったことを気にしないのか?」
 少々居心地悪そうにナディアは尋ねる。
「うん! まあちょい、複雑なのはわかる。
 でもさ、シャンバラとの戦争はおわった! だから末永く仲良くやっていきたいと思ってるんだ」
 太陽のような笑顔でナバルはまっすぐに言い放つ。
「君は眩しいな」
「だからさ、今すぐは無理だってわかるけど、ちょっとずつでも距離が近づければなって思ってる」
「いや、君ずいぶんと距離が近いぞ。距離を縮めるというのは物理的な話ではないとおもうのだが」
 それほどまでに近くはないのだがナディアにとってはそれなり以上の距離感だったようだ。
「まあいいじゃん! ナバルさん! 今日はその一歩で乾杯、しない?」
 言ってナバルは手を掴む。少しでも早くおすすめの店に連れていきたいのだ。あのお店のジュースは本当に美味しい! 
「おい、君、ナバル君! まってくれ!」
 若干性急ではあるが、ナディアは嫌な気分ではないことに気づく。
「だめ?」
「いいよ、わかった、ついていく。しかしひとつ約束だ。ワリカンだぞ」
 そんな真面目なことをいうナディアにナバルは笑っていいよと答えた。

 アデレードの元聖堂騎士たち――彼らは祝福を受けるのを逡巡していると聞いた。
 アダム・クランプトン(CL3000185)はそんな彼らの悩みの力になればと話しかける。
「こんにちは。僕はアダム・クランプトン。自由騎士だ」
 報告書できいたことのある名前に、聖堂騎士たちは目を向ける。
「よかったら自己紹介してもらってもいいかな?」
 彼らは多少ギクシャクしながらも己の名をなのっていく。そんな彼らにアダムが握手を求めれば、おもっていたよりは皆好意的に握手をしてくれた。握手を拒否したものもいたがそれは仕方ないことだろう。
 軋轢があるのは当たり前だ。簡単に分かり合うことはできないことくらいアダムがわからないわけがない。それでも握手をしてくれたヒトがいたのは嬉しかった。
「僕は貴方達が前に進んでくれればそれでいいんだ。
 祝福を受けてほしいとはおもうけど、前に進むということが必ずしも祝福をうけることでは無いと思う。なんて言ったら怒られるかもしれないけど」
 そう言って笑うアダムの笑顔は年相応のものだ。
「貴方達を縛るものはもうなにもない、目を閉じて、胸に手を当ててゆっくり考えて欲しい。
 貴方達には新しい扉は開かれている。だから自由で、いいんだ」
 彼らの自由への道はイ・ラプセルとは戦う道に繋がっているのかもしれない。それでも良かった。彼らが自由であれば。戦争はまだ続く。彼らから『シャンバラ』を奪ったようにこれからも自分は奪う側に回ることになるだろう。だけど僕は戦争をこれからも続ける。だからどんな結果が齎されても絶対に目をそらさない。
 騎士たちはアダムにいわれるがままに胸に手をあて、目を閉じた。
「なあ、クランプトン卿」
 ややあって、そのうちの一人がアダムに話しかけた。握手を拒否したうちの一人だ。
「アダムでいいよ」
「ではアダム。考えた結果を……俺は自由の身として考えてみた。
 その上で、俺はやっぱり無垢なる国民を守りたいと思った。
 それに必要なのはイ・ラプセルの民となり、祝福を受けることだと思った」
「そう思ってくれたのなら、嬉しいよ」
「握手、いいか?」
「ああ、もちろん!」
 騎士と騎士は強い握手を交わす。それがアダムは嬉しかった。

 不本意ではあるが、自分は神職。いわゆる説法者である。
 まあ、さくっとイ・ラプセルに与したけれど。長いものには巻かれるべきなのだ。うん。
 まそうとなれば元シャンバラ人で神職な自分が悩めるシャンバラの子羊ちゃんを導くのが道理なのだと思う。面倒だけど。
 酒を飲んでたところに引っ張りだされたのはまあ噴飯ものだが、適材適所なんていわれたら従うしかない。
 いや、適材適所なのか? とは思うがロンベル・バルバロイト(CL3000550)は子羊に説法を始める。
 質問なんでもござれ。迷えるものは正しき道に。
 多少怯えた目で見られたのはまあしかたないとして、それにしても――。
「しっかしまぁ、王都なのに亜人どころかシャンバラのやつ等も多く入れるだなんてなぁ。
変な国どころか、無用心にも程があるだろ」
 思わずつぶやいてしまう。
「そうだよな。最初はそう思った」
 その相づちに振り向けばそこにはミミズクのケモノビトの青年が同じ方を見て立っていた。
「あんたは?」
「アーウィン・エピ。あんたと同じよそ者さ。ヴィスマルクだけどな」
「こっちはロンベル・バルバロイトさ、なんでも受け入れるんだな、この国は」
「それがこの国だ。
 おかしな国だよ。常識外にもほどがある。
 でもさ、変革ってのはそうやって常識外からはじまっていくんだって知った」
「なるほどな」
「あんたもそれがわかる日がくるさ。ってわけでお仕事頑張れ」
「あー、お仕事早くおわんねーかなー。酒呑みてぇー。喧嘩してぇー」
「おいおい、ナマグサ坊主ってやつか? 一応神職なんだろ?」
「そうだっけ?」
「まあ、山賊にしかみえねえ」
 アーウィンの言葉にロンベルがちげぇねえと笑った。
 ああ、この国は水鏡だけではない。ひとりひとり、かくとした魂があるんだ。
 そんな国になんてそりゃ、勝てるわけねーわな。
 ロンベルはなんだかおかしくなって大笑いする。
「何だよ! 急に」
「いや、なんでもねえ。まったくもって世は事もなし、って話だ」

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『ミズーリのリボン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ニコラス・モラル(CL3000453)

†あとがき†

参加ありがとうございます。
MVPはなるほどと思わせるプレイングのあなたに。

王様のお誕生日お祝いしてくださってありがとうございます。
来年は忙しくなければ忘れないようにしておきます。
FL送付済