MagiaSteam




Web! クモの巣にはご用心!

●幻想種アラクネ
違和感に気付いた時にはすでに遅し。
馬車は完全に糸で絡み取られ、異常を確認しに出た従者も身動き一つとれない状態だった。目に見えないほど細い糸。その糸の粘着性は高く、そして切ろうにも素人ではどうにもならないほどに固い。
「大人しくしてれば痛い目は見ないよ」
そんな笑い声と共に現れる幻想種。クモの下半身を持ち、上半身は女性。それだけでその幻想種の名は知れた。
「アラクネ……」
「物知りだねぇ、お嬢ちゃん。貴族かアカデミー出身かい?
ああ、答えなくていいよ。ヒトとしての身分などどうでもいい。欲しいのはアンタのカラダなんだ」
アラクネは言いながら獲物に迫る。配下のクモに銘じて麻痺毒を首筋に注入し、糸を巻いて拘束する。そのままアラクネは馬車に乗っていた娘を攫い、闇の中に消えていく。
残された従者は、何とか糸から脱出して這う這うの体で街に報告に戻るのであった。
●自由騎士
「てな事件が起きてね。攫われたのは美人の子なんだけど」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はうんうんと頷きながら集まった自由騎士を前に説明する。
「キッシュアカデミーの学生で一六歳。御菓子作りが趣味な真面目な子で……え? そっちはいい? ああ、ごめんごめん。
被害場所とアラクネの生態から大まかな住処は解ってる。ただ流石はクモの下半身を持つだけあって、巣には糸の罠が張り巡らされている。粘性の糸で動きを封じられるんだ。流石クモの幻想種。しかも美人」
糸は壁や床、そして空間にまで設置されており、飛行などで地面から離れても引っかかる。厄介なことだ。
「ただ火や斬撃には弱いらしくてね。燃やしたり斬ったりすれば問題ない。
あとアラクネの眷属もいて蜘蛛が数体彼女を守るように動く。こっちは麻痺系の毒を持ってるみたいなので注意かな。アラクネ自身は糸を放出して、毒で体内から溶かしていく幻想種だ。注意して戦ってね。美人だけど」
「ちょくちょく美形とか挟むのやめろ。姉御に言いつけつぞ」
「止めてください。もうしません。
ともあれ、アラクネを倒してほしいってわけ」
「…………その、攫われた子は……アラクネに……」
「ああ。彼女は攫われた後、着ていた服を脱がされて――」
●攫われた子は……
「きゃーわーいーい! ねえねえ、次はこの服着てみない!」
アラクネが用意したドレスは、貴族が社交界などできる高級シルクの服だった。他にもいろいろな服がハンガーにかけられている。ドレスだけではなく、奇抜で露出度が高そうなものもある。なんだあれ。なんだあれ。
「真面目もいいけど、折角の女の子なんだからオシャレしないと! ああん、素材がいいと色々楽しめるわ!」
「はあ……」
攫われた時にはどうなるかと思ったが、その後ずっとこの調子だ。食事や水はきちんと用意してくれる。攫ったときに見せた威圧する態度はなく、趣味に高じる乙女のようだ。
(着せ替え人形になっている限り命に危険はないけど……逃げるのは無理みたい)
洞窟内に張り巡らされた蜘蛛の糸を突破することはできない。外的要因がなければ、逃げる事はできないのは確かだった。
違和感に気付いた時にはすでに遅し。
馬車は完全に糸で絡み取られ、異常を確認しに出た従者も身動き一つとれない状態だった。目に見えないほど細い糸。その糸の粘着性は高く、そして切ろうにも素人ではどうにもならないほどに固い。
「大人しくしてれば痛い目は見ないよ」
そんな笑い声と共に現れる幻想種。クモの下半身を持ち、上半身は女性。それだけでその幻想種の名は知れた。
「アラクネ……」
「物知りだねぇ、お嬢ちゃん。貴族かアカデミー出身かい?
ああ、答えなくていいよ。ヒトとしての身分などどうでもいい。欲しいのはアンタのカラダなんだ」
アラクネは言いながら獲物に迫る。配下のクモに銘じて麻痺毒を首筋に注入し、糸を巻いて拘束する。そのままアラクネは馬車に乗っていた娘を攫い、闇の中に消えていく。
残された従者は、何とか糸から脱出して這う這うの体で街に報告に戻るのであった。
●自由騎士
「てな事件が起きてね。攫われたのは美人の子なんだけど」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はうんうんと頷きながら集まった自由騎士を前に説明する。
「キッシュアカデミーの学生で一六歳。御菓子作りが趣味な真面目な子で……え? そっちはいい? ああ、ごめんごめん。
被害場所とアラクネの生態から大まかな住処は解ってる。ただ流石はクモの下半身を持つだけあって、巣には糸の罠が張り巡らされている。粘性の糸で動きを封じられるんだ。流石クモの幻想種。しかも美人」
糸は壁や床、そして空間にまで設置されており、飛行などで地面から離れても引っかかる。厄介なことだ。
「ただ火や斬撃には弱いらしくてね。燃やしたり斬ったりすれば問題ない。
あとアラクネの眷属もいて蜘蛛が数体彼女を守るように動く。こっちは麻痺系の毒を持ってるみたいなので注意かな。アラクネ自身は糸を放出して、毒で体内から溶かしていく幻想種だ。注意して戦ってね。美人だけど」
「ちょくちょく美形とか挟むのやめろ。姉御に言いつけつぞ」
「止めてください。もうしません。
ともあれ、アラクネを倒してほしいってわけ」
「…………その、攫われた子は……アラクネに……」
「ああ。彼女は攫われた後、着ていた服を脱がされて――」
●攫われた子は……
「きゃーわーいーい! ねえねえ、次はこの服着てみない!」
アラクネが用意したドレスは、貴族が社交界などできる高級シルクの服だった。他にもいろいろな服がハンガーにかけられている。ドレスだけではなく、奇抜で露出度が高そうなものもある。なんだあれ。なんだあれ。
「真面目もいいけど、折角の女の子なんだからオシャレしないと! ああん、素材がいいと色々楽しめるわ!」
「はあ……」
攫われた時にはどうなるかと思ったが、その後ずっとこの調子だ。食事や水はきちんと用意してくれる。攫ったときに見せた威圧する態度はなく、趣味に高じる乙女のようだ。
(着せ替え人形になっている限り命に危険はないけど……逃げるのは無理みたい)
洞窟内に張り巡らされた蜘蛛の糸を突破することはできない。外的要因がなければ、逃げる事はできないのは確かだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.アラクネの討伐
どくどくです。
原典のアラクネも機織りなので、まあ、その。
●敵情報
・アラクネ(×1)
幻想種。上半身が女性。下半身がクモの幻想種です。ヨアヒム曰く『ボンキュで少しS系のお姉様タイプ』『でもプライベートは乙女』。可愛い女性を攫って、自分の糸で作った服を着せています。
色々アレですが、誘拐罪には変わりありません。
攻撃方法
毒の爪 攻近単 毒を塗った爪で切り裂きます。【ポイズン1】【二連】
蜘蛛糸 魔遠範 細く鋭い糸を飛ばし、皮膚を裂きます。【スクラッチ2】
巣展開 魔遠全 四方八方に糸を飛ばし、相手の動きを封じます。【スロウ2】【ダメージ0】
暗視 P 闇に救う種族。暗闇のペナルティが存在しません。
WEB P 巣の主という優勢者。攻撃命中時、相手のかかっているバッドステータスの数に応じた追加ダメージが発生します。
・ポイズンスパイダー(×5)
大きさ1mほどのクモ。アラクネに従います。
攻撃方法
麻痺牙 攻近単 相手を麻痺させる毒を放ちます。【パラライズ1】【ダメージ0】
糸放出 魔遠単 粘着性のある糸を放出し、転ばします。【ノックB】
・蜘蛛の巣(×1)
キャラクターというよりは、罠。アラクネが張った蜘蛛の糸です。洞窟内に張り巡らされており、目視することはできません。
自由騎士達は常時『行動不能30%』状態になります。飛行しても引っかかります。
行動を消費して巣に【バーン】【スクラッチ】系のBSをもった攻撃をすることで、そのダメージに応じて『行動不能<数値>%』の数値部分を減らすことが出来ます。巣はどの場所からでも狙うことが可能です。減った数値は回復しません。
●場所情報
イ・ラプセルにある洞窟内。洞窟内は暗く、何らかの対策を取らなければ命中と回避にマイナスペナルティが付きます。
なお、攫われた子は戦闘区域の奥にいます。アラクネも大事にしているようです。意図して傷つけようとしない限りは、戦闘に巻き込まれることはありません。
戦闘開始時、敵前衛に『アラクネ』『ポイズンスパイダー(×2)』が。敵後衛に『ポイズンスパイダー(×3)』がいます。
敵陣なので事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
原典のアラクネも機織りなので、まあ、その。
●敵情報
・アラクネ(×1)
幻想種。上半身が女性。下半身がクモの幻想種です。ヨアヒム曰く『ボンキュで少しS系のお姉様タイプ』『でもプライベートは乙女』。可愛い女性を攫って、自分の糸で作った服を着せています。
色々アレですが、誘拐罪には変わりありません。
攻撃方法
毒の爪 攻近単 毒を塗った爪で切り裂きます。【ポイズン1】【二連】
蜘蛛糸 魔遠範 細く鋭い糸を飛ばし、皮膚を裂きます。【スクラッチ2】
巣展開 魔遠全 四方八方に糸を飛ばし、相手の動きを封じます。【スロウ2】【ダメージ0】
暗視 P 闇に救う種族。暗闇のペナルティが存在しません。
WEB P 巣の主という優勢者。攻撃命中時、相手のかかっているバッドステータスの数に応じた追加ダメージが発生します。
・ポイズンスパイダー(×5)
大きさ1mほどのクモ。アラクネに従います。
攻撃方法
麻痺牙 攻近単 相手を麻痺させる毒を放ちます。【パラライズ1】【ダメージ0】
糸放出 魔遠単 粘着性のある糸を放出し、転ばします。【ノックB】
・蜘蛛の巣(×1)
キャラクターというよりは、罠。アラクネが張った蜘蛛の糸です。洞窟内に張り巡らされており、目視することはできません。
自由騎士達は常時『行動不能30%』状態になります。飛行しても引っかかります。
行動を消費して巣に【バーン】【スクラッチ】系のBSをもった攻撃をすることで、そのダメージに応じて『行動不能<数値>%』の数値部分を減らすことが出来ます。巣はどの場所からでも狙うことが可能です。減った数値は回復しません。
●場所情報
イ・ラプセルにある洞窟内。洞窟内は暗く、何らかの対策を取らなければ命中と回避にマイナスペナルティが付きます。
なお、攫われた子は戦闘区域の奥にいます。アラクネも大事にしているようです。意図して傷つけようとしない限りは、戦闘に巻き込まれることはありません。
戦闘開始時、敵前衛に『アラクネ』『ポイズンスパイダー(×2)』が。敵後衛に『ポイズンスパイダー(×3)』がいます。
敵陣なので事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年02月14日
2020年02月14日
†メイン参加者 8人†
●
ほの暗い洞窟をランタンの光が照らす。なだらかな下り坂を下りながら、自由騎士達は今回相手をする幻想種のことを考えていた。
「麻痺毒に関しては対策がある。糸や毒の爪に関しても任せてもらおう」
医者である『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は作戦を確認するように仲間に告げる。相手は怪力で押すタイプではなく、状態異常で攻めてくる相手だ。そうと分かっているのなら、対策は十分に取れる。
「幻想種が起こした誘拐であることには違いない。が……」
タイガ・トウドラード(CL3000434)は眉をひそめて、事件を反芻する。幻想種によるヒトの誘拐。蒸気文明が発達したとはいえ、ヒトに害為す存在に完全に優位に立てたわけではない。社会性のない幻想種による被害は騎士としては放置できないのだ。
「こう、着せ替え人形になっている様は他人事に思えないんですよね」
うんうんと『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は頷いた。貴族の長女という立場は何かと華やかな場所へ赴く事が多い。その度に様々なドレスを用意され、着せられていた。体面的なものもあるが、親の趣味もあったのかもしれない。
「それにしても蜘蛛の巣燃やし放題ですか。いいですね」
「いっぱい燃やせると聞いて飛んできたわ♪」
『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)と 『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)は言ってそれぞれの杖を握りしめる。二人とも幻想種退治が目的であることは忘れているわけではないが、それはそれとして遠慮なく炎を放てるという事に何かしらの感情が動いているのは確かだった。
(ヨアヒムから攫われた少女のスペックは聞いた。……成程、アラクネが誘拐するわけだ)
『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)はヨアヒムから聞いた少女の情報を思い出し、拳を握った。具体的には3サイズ。キッシュ・アカデミー学生服の中に隠された神秘。それを夢想し、無言で拳を握る。
「攫ったけど傷つけてないんですよね? そこまで悪いヒトじゃないのかな?」
指を顎に当てて思案する『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。幻想種はヒトじゃないが、そこは言葉の綾。アラクネの罪状が命を奪うような悪事ではないのは事実だ。まあ、無視が出来ないのも事実だが。
「とりあえず攫われた人は返していただかないといけません」
ティルダの言葉にセアラ・ラングフォード(CL3000634)が言い放つ。情報によれば、命に関わるような目にあっているわけではない。だからといって、このまま放置していいわけでもないのだ。誘拐された少女にも、人間としての生活と言うものがあるのだから。
「団体様かい? 無作法を謝って帰るなら、命だけは見逃してやるよ」
洞窟の奥、暗闇から聞こえてくる声。おそらくアラクネの声だろう。自由騎士達は武器を抜き、迷うことなく洞窟を進む。カンテラの灯りが蜘蛛の下半身を持つ幻想種を映し出した。
交戦の意志を察したアラクネは、薄く笑みを浮かべて爪を構えた。
「アンタらはもうワタシの巣の中。じわりじわりと苦しめてあげるよ!」
舌なめずりをして、アラクネが襲い掛かってくる。
その戦意に応じるように、自由騎士達も武器を振るう。
●
「こんな美しいお姉さんが紡ぐ糸になら絡め取られたい所だが、いまは仕事中。自重しておこう」
一番最初に動いたのはオルパだった。二本のダガーを手に敵陣に踏み込み、同時に刃を振るう。牽制と同時に後衛を守る場所に立ち、後ろに通さない意思を示した。時折引っかかるクモの糸が面倒だが、それは自分の担当ではないと割り切る。
赤い瞳で闇を睨み、呼吸を整える。リズミカルに呼吸を取り、相手が攻撃するタイミングを計るオルパ。どれだけ足があろうとも、攻撃する相手が同じなら固有のクセがある。それを見切り、最良のタイミングで踏み込んだ。翻るダガーが魔力の帯を伴って走る。
「おや、美しいなんて嬉しいね。危険な遊びは趣味じゃないけど付き合ってあげるよ」
「それは光栄。お気に召すよう努力しよう!」
「オルパさーん、火遊びは危険ですよー」
同じヨウセイ族のティルダが声をかける。オルパもその辺りは解っているだろうが、念のため。幻想種を差別するつもりはないが、趣味の為に誘拐を実行できるだけの実力者だ。その倫理観も実力も推して知るべしだろう。
ティルダは目を凝らして周囲を見る。瞳に魔力を通し、周囲を見ればうっすらと見えるアラクネの糸。その糸に向かい、魔力の刃を解き放つ。目に見える刃ではなく、内側から刻まれる呪の刃。それがアラクネの糸を切り裂いていく。
「えと、巣の糸は私が切りますから!」
「あ、こら! 何してくれるんだい!」
「マギアスの腕の見せ所です」
杖を手にしてマリアが頷く。アラクネの糸は切るか燃やすかすれば排除可能だ。そして巣の糸を放置すれば、戦いは不利になる。だから早急に除去する必要があるのだ。そう、これは合理的判断。けして日々のストレスがたまっているとかそういうとではなく。
木生火、火生土。木は燃えて炎を産み、炎は灰を産み土に還す。循環する事象はアマノホカリにおける術の基礎。それを意識しながらマリアは杖から炎を生み出す。炎はクモの巣に燃え移り、緋の破壊を生み出した。
「根っから悪い幻想種ではないのでしょうが、誘拐はいただけません。お縄についてもらいます」
「はん、ワタシのことを調べてきたらしいね!」
「うむ。貴様のことは全て知り尽くしているぞ」
鷹揚に頷くツボミ。事前情報収集は自由騎士団のキモ。得た情報を元に戦術を練り、最終的な戦略的勝利をもぎ取るのだ。クモの麻痺毒対策も、アラクネの糸や毒への対策。ツボミがそれを用意したのも、その情報あってのことだ。
その情報と医学的見地。その二つがツボミの行動方針。仲間を癒し、十全に動かすにはどうすればいいか。何に注意すればいいか。それらを行動指針から見出し、そして実行する。ツボミの魔力が尽きぬ限り、自由騎士達の動きは止まらない。
「クソ忙しいことには変わりないがな。イヤラシイ相手と分かっていたが!」
「成程ね、つまりアンタを倒せば――」
「そうはさせません!」
ツボミを狙う攻撃を塞ぐデボラ。敵の前に立って侵攻を止めながら、同時に仲間を守る。それがこの体の使い道だ。勝利のためにそれぞれの役割を果たす。デボラはその事に躊躇なかった。自由騎士として、そして一人の人間として。
ラージシールドを構え、足を踏ん張る。アラクネの毒の爪を弾き、その体制のまま一気に前に踏み込んだ。盾が巨大な槌のようにアラクネに命中し、アラクネをよろけさせる。生まれた隙は一瞬だけど、その間に仲間達は体制を整えている。
「タイガ様、そちらに敵が向かいました!」
「警告感謝する。承った」
デボラと連携して前衛の防衛ラインを維持するタイガ。個人的に今回の事件は思う所があるが、戦闘自体にそれを持ち込むつもりはない。仲間を守り、幻想種を討つ。先ずそれをやらなければ何も始まらないのだ。
タイガは自分の身長ほどの両手剣を構え、敵の前に立つ。長いリーチで敵をけん制すると同時に剣の腹を使って相手を弾き飛ばす。同時に巨大な剣の腹で相手の攻撃を塞ぎ、仲間を守る壁となっていた。
「ここは通さない。汝らの悪行もここまでだ」
「ありがとうございます、トウドラード様」
自分を守ってくれたタイガに礼をするセアラ。そのまま戦場を見て、深呼吸をするように意識して呼吸を行った。目まぐるしく展開される戦い。互いの戦意がぶつかり合う戦場。それに飲まれないように勇気を振り絞って前を見る。
聖遺物を握りしめ、そこを中心に魔力を練り上げるセアラ。循環するマナと唱えられる呪文。それが因果を律し、セアラの望む魔力を生み出していく。セアラの手から紡がれた魔力の光が仲間達に降り注ぎ、アラクネ達から受けた傷を癒していく。
「皆様、存分に力を振るってくださいませ」
「おっけー。っていうか言われるまでもなく燃やすわよ」
言って笑みを言浮かべるきゐこ。仲間の癒し手たちに星の加護を与え、守りを強化する。その間も巣の方を見てうずうずしていたが、ようやく巣に炎を放てるのかと思うと嬉しくなってくる。フードで目が隠されていても、その感情が伝わってくるようだ。
呪文を唱え、魔力を杖に集める。イメージは強く、そして集中は深く。魔術とは精神の力。即ち――燃やして楽しいと思う心。そのイメージが強い力となり、きゐこの炎は洞窟を煌々と照らす。炎の矢が糸に燃え移り、爆ぜる様に広がっていく。
「火と言えば魔導師にまーかせなさいっ! ばんばん燃やしていくわ!」
「きゃー!? そこ結構苦労した所なのに!」
巣を燃やされて怒りの声をあげるアラクネ。その怒りをぶつけるように、自由騎士に爪を振るう。
幻想種と自由騎士の戦いは、少しずつ加速していく。
●
自由騎士達はまずアラクネの素を取り除くことに心血を注いだ。ティルダが切り裂き、マリアときゐこが焼き払う。三人の活躍により、巣の糸は瞬く間に取り除かれた。
だが、その間は火力不足になる。巣を焼かれまいと躍起になるアラクネ達の攻撃によりデボラが膝を屈していた。
「問題ありません。後はお任せします!」
「健気な騎士様ね。その顔が恥辱に染まるのを想像するとゾクゾクするわぁ」
アラクネの言葉に自由騎士達は『可愛い系のフリフリドレスとか着せるんだろうなぁ』と忖度する。口に出さないのは自由騎士なりの配慮なのだろう。
「麻痺が厄介ですね。先ずはポイズンスパイダーから!」
巣を焼き払った後、マリアは眷属のクモを焼き払うために炎を放つ。別れを意味する古代語を赤きマナで刻み、炎熱の矢を解き放った。確実に一つずつ。熱き炎を放ちながら、冷静さを失わない心こそマリアの神髄だ。
「こ、これでどうですっ!」
ティルダもポイズンスパイダーを中心に狙い、その数を減らそうとする。魔力を込めれば藍色の宝石にほのかな明かりがこもる。シャンバラで生まれた呪術が解き放たれ、毒持つ蜘蛛の一匹ががけいれんと共に動かなくなる。
「デボラさんの分まで、私が護ります」
巨大な剣を構えるタイガ。アラクネやポイズンスパイダーの攻撃は重さこそないが動きに影響が出る。その影響を感じながら、気力を振り絞って敵前に立つ。守ることが騎士の本懐だ。その心はたとえ傷つき倒れても折れないだろう。
「頼むぞ。可能な限り倒れんように配慮するからな」
そんなタイガに声をかけるツボミ。医者としては危険を冒すなというのが正論で、喧嘩や銭湯などもってのほかだ。だが戦いである以上、無傷であることは不可能名のも事実。ならばできる限り癒すのみ。
「華麗なる爪と糸の舞。加虐心の強い艶やかな笑み。噂にたがわぬ美しさだ」
アラクネと真っ向から戦いながら、オルパはそう呟いていた。例えるなら毒が塗られた鋭いナイフ。触れれば毒が回り、しかし目を逸らすことが出来ない。オルパも負けじと刃を振るい、幻想種達を追い詰めていく。
「それじゃあ、一気に燃やすわよ!」
巣を燃やした後、きゐこは一気に魔力を開放させて炎の渦を生み出す。熱波は洞窟内に一気に広がり、敵陣を一気に蹂躙する。炎の波が通り過ぎれば、そこには熱でよろめくアラクネと蜘蛛がいた。アラクネも倒れこそしないが、かなりの影響を受けている。
「これで一安心です」
セアラは仲間を癒し、安堵のため息をつく。アラクネは毒や拘束を受けている相手に対して的確な攻撃を仕掛けてくる。ならばその前にそれらを解除出来れば問題ない。最初は手数不足で追いつかなかったが、数が減ったことで安定して解除が出来る様になっていた。
アラクネの巣を排したことで動きを止められることはなく、自由騎士達は確実にアラクネを追い詰めていく。
「きゃん……!」
ティルダがアラクネの糸に傷つけられて倒れるが、幻想種の攻勢はそこまで。
「下半身が蜘蛛でなければ、本気で口説いていただろうな」
オルパの二刃が翻る。黒と紅の二色が同時に走り、円弧を描きながらアラクネの身体を切り裂いていく。
「お休み、レディ。君が悪夢に悩まされないように、傍にいてあげるさ」
キザな台詞がアラクネの耳に届いたか否か。アラクネは崩れ落ち、そのまま気を失った。
●
誘拐された少女は、洞窟の奥ですぐに見つかった。
「にょわああああ!? あの、今は来ないで! 着替えるまでまってぇぇぇ!」
踏み込んだ瞬間に見た『黒薔薇をイメージさせるゴシックドレス』は見なかったことにしようと配慮する。
「何を言う。君の為に作られたと言っても過言ではない服じゃないか」
オルパは遠慮なく言い放つが、女性陣に引っ張られてしまう。
さて、アラクネだが抵抗する様子は見られなかった。セアラとツボミに治療されたが、戦っても勝てないという事は理解しているようだ。
「さて貴様、私が何をしに来たか分かるか?」
ツボミの問いかけに、アラクネは口元をゆがめて答える。
「は、ワタシも覚悟はできてるよ。首を斬るなり心臓をつくなり一思いに――」
「スカウトしに来たんだよ!」
は? という顔をするアラクネに畳みかけるようにツボミは言葉を続ける。
「こんな見事なデザインと服飾の腕前持って洞窟に引き篭もりとはどう云う了見だ勿体ない!」
「きゃああああああ! やめてえええええ!」
ツボミが洞窟の奥から持ってきた服(作者アラクネ)を見せつけると、悲鳴を上げるアラクネ。あれだ。見られたくない趣味を見られた乙女の反応だ。
「今のがとどめになったわね……。可哀想」
「幻想種が街中でというのは難しいかもしれんが、媒介ぐらいはしてやろう。祭りとかなら何とかなるぞ!」
「無理無理無理ぃ! 超恥ずかしいんですけど!」
かたくなに拒否するアラクネ。そんな彼女にタイガが歩み出る。
「今回、幻想種の討伐という事で私達は赴いたのだが……思うところあって大臣に嘆願書を出した。同じ服作りを趣味としている者として、思う所があったのだ」
タイガが要求したのは、アラクネの減刑だ。要約すれば『誘拐以外の罪がないのだから殺さずともいいのでは? 刑を与える程度に留めてもらえないか』という内容だ。そして帰ってきた内容は、
「『再犯の可能性がなくなり、且つ刑が適切なら減刑を許可する』……私はあなたを生かすつもりでいる。刑に服すという意味も含めて、私達の提案を飲んで服作りをしてもらえないだろうか?」
こちらも要約すれば『提案を飲まなかったら殺す』だ。最も自由騎士にそこまでの意図はない。純粋にアラクネの腕を惜しいと思っての提案だ。
「貴女の作った服はどれも素晴らしい。そして、美しく可憐な少女を着せ替えて楽しむ嗜好、俺は共感している」
オルパは真摯に言葉を紡ぐ。けして相手を辱める意図はなく、純粋に服とその趣味を称えていた。
「それに普段はSなお姉さまなのに、2人きりだと純情乙女とか最高だろうが」
まあ、男としていろいろあるのは否定しないが。後、君とはいい酒が飲めそうだ。
「それに貴様にとっても悪いことではないぞ。人間の祭りにはこういう服を着るものもいるのだ!」
「ちょっとおお! それ賭けに負けて仕方なしにやったヤツだから! しまってええぇ!」
ツボミが懐から出した写真にきゐこが慌てて叫び出す。2019年06月21日(金)公開のひゅのVCのピンナップである。めたたぁ。
「お察しの通り、この緑ローブがモデル本人だ!
貴様ならこの素材をどう扱う?」
「そうね。頭に意識を向けてもらうために帽子を中心としてコーディネイトするわ。可愛い系の帽子か、あるいはカチューシャ。服よりもアクセサリーで個性をだして、靴や指などの先端部分に力を注いで――」
なんかスイッチが入ったのか真剣な面持ちで喋り出すアラクネ。
「やめて! そういうこと言われると調子に乗る人がいるから!」
「安心しろ。私は撮影係だ」
「よく見れば貴方達結構な逸材じゃない……ふふ、ふふふふ!」
言うなりアラクネは糸でマリアとティルダときゐこを糸で絡めて拘束し、洞窟の奥に連れていく。
「あのあのあの……!?」
「戦闘不能なのではなかったのですか!?」
「貴方達がきっちり治してくれたから、大丈夫よ」
「セアラさん!? ツボミさん!?」
治したヒーラー二人も驚きの回復力である。まあ、ギャグパートという事で。
「ヨウセイで呪い系のあなたはゴシックに黒ドレスで。アマノホカリな貴方はこういう着物を。魔術師な貴方は雰囲気ブレイクも含めて七色カラーのこの服を――」
ティルダとマリアときゐこがどんな服を着せられたかは、名誉のために伏せておく。
●
紆余曲折あったが、自由騎士達はアラクネを倒し誘拐された子を開放する。
「そう言えばアラクネは種族名ですよね? お名前は何と仰るのでしょうか?」
「そうね……。テラとかどうかしら」
洋裁を示すテイラー。そこからの引用だとか。
テラは一旦自由騎士預かりになり、減刑の為に様々な服作りに勤しんでいる。そして――
「すばらしい! 私達の為に服を作ってもらえませんか!」
大量生産こそできないが幻想種の紡いだ糸はそれなりに強度と魔力耐性があることから、通商連に目をつけられたという。
後に記録に残らない洋裁師、テラの誕生であった。
ほの暗い洞窟をランタンの光が照らす。なだらかな下り坂を下りながら、自由騎士達は今回相手をする幻想種のことを考えていた。
「麻痺毒に関しては対策がある。糸や毒の爪に関しても任せてもらおう」
医者である『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は作戦を確認するように仲間に告げる。相手は怪力で押すタイプではなく、状態異常で攻めてくる相手だ。そうと分かっているのなら、対策は十分に取れる。
「幻想種が起こした誘拐であることには違いない。が……」
タイガ・トウドラード(CL3000434)は眉をひそめて、事件を反芻する。幻想種によるヒトの誘拐。蒸気文明が発達したとはいえ、ヒトに害為す存在に完全に優位に立てたわけではない。社会性のない幻想種による被害は騎士としては放置できないのだ。
「こう、着せ替え人形になっている様は他人事に思えないんですよね」
うんうんと『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は頷いた。貴族の長女という立場は何かと華やかな場所へ赴く事が多い。その度に様々なドレスを用意され、着せられていた。体面的なものもあるが、親の趣味もあったのかもしれない。
「それにしても蜘蛛の巣燃やし放題ですか。いいですね」
「いっぱい燃やせると聞いて飛んできたわ♪」
『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)と 『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)は言ってそれぞれの杖を握りしめる。二人とも幻想種退治が目的であることは忘れているわけではないが、それはそれとして遠慮なく炎を放てるという事に何かしらの感情が動いているのは確かだった。
(ヨアヒムから攫われた少女のスペックは聞いた。……成程、アラクネが誘拐するわけだ)
『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)はヨアヒムから聞いた少女の情報を思い出し、拳を握った。具体的には3サイズ。キッシュ・アカデミー学生服の中に隠された神秘。それを夢想し、無言で拳を握る。
「攫ったけど傷つけてないんですよね? そこまで悪いヒトじゃないのかな?」
指を顎に当てて思案する『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。幻想種はヒトじゃないが、そこは言葉の綾。アラクネの罪状が命を奪うような悪事ではないのは事実だ。まあ、無視が出来ないのも事実だが。
「とりあえず攫われた人は返していただかないといけません」
ティルダの言葉にセアラ・ラングフォード(CL3000634)が言い放つ。情報によれば、命に関わるような目にあっているわけではない。だからといって、このまま放置していいわけでもないのだ。誘拐された少女にも、人間としての生活と言うものがあるのだから。
「団体様かい? 無作法を謝って帰るなら、命だけは見逃してやるよ」
洞窟の奥、暗闇から聞こえてくる声。おそらくアラクネの声だろう。自由騎士達は武器を抜き、迷うことなく洞窟を進む。カンテラの灯りが蜘蛛の下半身を持つ幻想種を映し出した。
交戦の意志を察したアラクネは、薄く笑みを浮かべて爪を構えた。
「アンタらはもうワタシの巣の中。じわりじわりと苦しめてあげるよ!」
舌なめずりをして、アラクネが襲い掛かってくる。
その戦意に応じるように、自由騎士達も武器を振るう。
●
「こんな美しいお姉さんが紡ぐ糸になら絡め取られたい所だが、いまは仕事中。自重しておこう」
一番最初に動いたのはオルパだった。二本のダガーを手に敵陣に踏み込み、同時に刃を振るう。牽制と同時に後衛を守る場所に立ち、後ろに通さない意思を示した。時折引っかかるクモの糸が面倒だが、それは自分の担当ではないと割り切る。
赤い瞳で闇を睨み、呼吸を整える。リズミカルに呼吸を取り、相手が攻撃するタイミングを計るオルパ。どれだけ足があろうとも、攻撃する相手が同じなら固有のクセがある。それを見切り、最良のタイミングで踏み込んだ。翻るダガーが魔力の帯を伴って走る。
「おや、美しいなんて嬉しいね。危険な遊びは趣味じゃないけど付き合ってあげるよ」
「それは光栄。お気に召すよう努力しよう!」
「オルパさーん、火遊びは危険ですよー」
同じヨウセイ族のティルダが声をかける。オルパもその辺りは解っているだろうが、念のため。幻想種を差別するつもりはないが、趣味の為に誘拐を実行できるだけの実力者だ。その倫理観も実力も推して知るべしだろう。
ティルダは目を凝らして周囲を見る。瞳に魔力を通し、周囲を見ればうっすらと見えるアラクネの糸。その糸に向かい、魔力の刃を解き放つ。目に見える刃ではなく、内側から刻まれる呪の刃。それがアラクネの糸を切り裂いていく。
「えと、巣の糸は私が切りますから!」
「あ、こら! 何してくれるんだい!」
「マギアスの腕の見せ所です」
杖を手にしてマリアが頷く。アラクネの糸は切るか燃やすかすれば排除可能だ。そして巣の糸を放置すれば、戦いは不利になる。だから早急に除去する必要があるのだ。そう、これは合理的判断。けして日々のストレスがたまっているとかそういうとではなく。
木生火、火生土。木は燃えて炎を産み、炎は灰を産み土に還す。循環する事象はアマノホカリにおける術の基礎。それを意識しながらマリアは杖から炎を生み出す。炎はクモの巣に燃え移り、緋の破壊を生み出した。
「根っから悪い幻想種ではないのでしょうが、誘拐はいただけません。お縄についてもらいます」
「はん、ワタシのことを調べてきたらしいね!」
「うむ。貴様のことは全て知り尽くしているぞ」
鷹揚に頷くツボミ。事前情報収集は自由騎士団のキモ。得た情報を元に戦術を練り、最終的な戦略的勝利をもぎ取るのだ。クモの麻痺毒対策も、アラクネの糸や毒への対策。ツボミがそれを用意したのも、その情報あってのことだ。
その情報と医学的見地。その二つがツボミの行動方針。仲間を癒し、十全に動かすにはどうすればいいか。何に注意すればいいか。それらを行動指針から見出し、そして実行する。ツボミの魔力が尽きぬ限り、自由騎士達の動きは止まらない。
「クソ忙しいことには変わりないがな。イヤラシイ相手と分かっていたが!」
「成程ね、つまりアンタを倒せば――」
「そうはさせません!」
ツボミを狙う攻撃を塞ぐデボラ。敵の前に立って侵攻を止めながら、同時に仲間を守る。それがこの体の使い道だ。勝利のためにそれぞれの役割を果たす。デボラはその事に躊躇なかった。自由騎士として、そして一人の人間として。
ラージシールドを構え、足を踏ん張る。アラクネの毒の爪を弾き、その体制のまま一気に前に踏み込んだ。盾が巨大な槌のようにアラクネに命中し、アラクネをよろけさせる。生まれた隙は一瞬だけど、その間に仲間達は体制を整えている。
「タイガ様、そちらに敵が向かいました!」
「警告感謝する。承った」
デボラと連携して前衛の防衛ラインを維持するタイガ。個人的に今回の事件は思う所があるが、戦闘自体にそれを持ち込むつもりはない。仲間を守り、幻想種を討つ。先ずそれをやらなければ何も始まらないのだ。
タイガは自分の身長ほどの両手剣を構え、敵の前に立つ。長いリーチで敵をけん制すると同時に剣の腹を使って相手を弾き飛ばす。同時に巨大な剣の腹で相手の攻撃を塞ぎ、仲間を守る壁となっていた。
「ここは通さない。汝らの悪行もここまでだ」
「ありがとうございます、トウドラード様」
自分を守ってくれたタイガに礼をするセアラ。そのまま戦場を見て、深呼吸をするように意識して呼吸を行った。目まぐるしく展開される戦い。互いの戦意がぶつかり合う戦場。それに飲まれないように勇気を振り絞って前を見る。
聖遺物を握りしめ、そこを中心に魔力を練り上げるセアラ。循環するマナと唱えられる呪文。それが因果を律し、セアラの望む魔力を生み出していく。セアラの手から紡がれた魔力の光が仲間達に降り注ぎ、アラクネ達から受けた傷を癒していく。
「皆様、存分に力を振るってくださいませ」
「おっけー。っていうか言われるまでもなく燃やすわよ」
言って笑みを言浮かべるきゐこ。仲間の癒し手たちに星の加護を与え、守りを強化する。その間も巣の方を見てうずうずしていたが、ようやく巣に炎を放てるのかと思うと嬉しくなってくる。フードで目が隠されていても、その感情が伝わってくるようだ。
呪文を唱え、魔力を杖に集める。イメージは強く、そして集中は深く。魔術とは精神の力。即ち――燃やして楽しいと思う心。そのイメージが強い力となり、きゐこの炎は洞窟を煌々と照らす。炎の矢が糸に燃え移り、爆ぜる様に広がっていく。
「火と言えば魔導師にまーかせなさいっ! ばんばん燃やしていくわ!」
「きゃー!? そこ結構苦労した所なのに!」
巣を燃やされて怒りの声をあげるアラクネ。その怒りをぶつけるように、自由騎士に爪を振るう。
幻想種と自由騎士の戦いは、少しずつ加速していく。
●
自由騎士達はまずアラクネの素を取り除くことに心血を注いだ。ティルダが切り裂き、マリアときゐこが焼き払う。三人の活躍により、巣の糸は瞬く間に取り除かれた。
だが、その間は火力不足になる。巣を焼かれまいと躍起になるアラクネ達の攻撃によりデボラが膝を屈していた。
「問題ありません。後はお任せします!」
「健気な騎士様ね。その顔が恥辱に染まるのを想像するとゾクゾクするわぁ」
アラクネの言葉に自由騎士達は『可愛い系のフリフリドレスとか着せるんだろうなぁ』と忖度する。口に出さないのは自由騎士なりの配慮なのだろう。
「麻痺が厄介ですね。先ずはポイズンスパイダーから!」
巣を焼き払った後、マリアは眷属のクモを焼き払うために炎を放つ。別れを意味する古代語を赤きマナで刻み、炎熱の矢を解き放った。確実に一つずつ。熱き炎を放ちながら、冷静さを失わない心こそマリアの神髄だ。
「こ、これでどうですっ!」
ティルダもポイズンスパイダーを中心に狙い、その数を減らそうとする。魔力を込めれば藍色の宝石にほのかな明かりがこもる。シャンバラで生まれた呪術が解き放たれ、毒持つ蜘蛛の一匹ががけいれんと共に動かなくなる。
「デボラさんの分まで、私が護ります」
巨大な剣を構えるタイガ。アラクネやポイズンスパイダーの攻撃は重さこそないが動きに影響が出る。その影響を感じながら、気力を振り絞って敵前に立つ。守ることが騎士の本懐だ。その心はたとえ傷つき倒れても折れないだろう。
「頼むぞ。可能な限り倒れんように配慮するからな」
そんなタイガに声をかけるツボミ。医者としては危険を冒すなというのが正論で、喧嘩や銭湯などもってのほかだ。だが戦いである以上、無傷であることは不可能名のも事実。ならばできる限り癒すのみ。
「華麗なる爪と糸の舞。加虐心の強い艶やかな笑み。噂にたがわぬ美しさだ」
アラクネと真っ向から戦いながら、オルパはそう呟いていた。例えるなら毒が塗られた鋭いナイフ。触れれば毒が回り、しかし目を逸らすことが出来ない。オルパも負けじと刃を振るい、幻想種達を追い詰めていく。
「それじゃあ、一気に燃やすわよ!」
巣を燃やした後、きゐこは一気に魔力を開放させて炎の渦を生み出す。熱波は洞窟内に一気に広がり、敵陣を一気に蹂躙する。炎の波が通り過ぎれば、そこには熱でよろめくアラクネと蜘蛛がいた。アラクネも倒れこそしないが、かなりの影響を受けている。
「これで一安心です」
セアラは仲間を癒し、安堵のため息をつく。アラクネは毒や拘束を受けている相手に対して的確な攻撃を仕掛けてくる。ならばその前にそれらを解除出来れば問題ない。最初は手数不足で追いつかなかったが、数が減ったことで安定して解除が出来る様になっていた。
アラクネの巣を排したことで動きを止められることはなく、自由騎士達は確実にアラクネを追い詰めていく。
「きゃん……!」
ティルダがアラクネの糸に傷つけられて倒れるが、幻想種の攻勢はそこまで。
「下半身が蜘蛛でなければ、本気で口説いていただろうな」
オルパの二刃が翻る。黒と紅の二色が同時に走り、円弧を描きながらアラクネの身体を切り裂いていく。
「お休み、レディ。君が悪夢に悩まされないように、傍にいてあげるさ」
キザな台詞がアラクネの耳に届いたか否か。アラクネは崩れ落ち、そのまま気を失った。
●
誘拐された少女は、洞窟の奥ですぐに見つかった。
「にょわああああ!? あの、今は来ないで! 着替えるまでまってぇぇぇ!」
踏み込んだ瞬間に見た『黒薔薇をイメージさせるゴシックドレス』は見なかったことにしようと配慮する。
「何を言う。君の為に作られたと言っても過言ではない服じゃないか」
オルパは遠慮なく言い放つが、女性陣に引っ張られてしまう。
さて、アラクネだが抵抗する様子は見られなかった。セアラとツボミに治療されたが、戦っても勝てないという事は理解しているようだ。
「さて貴様、私が何をしに来たか分かるか?」
ツボミの問いかけに、アラクネは口元をゆがめて答える。
「は、ワタシも覚悟はできてるよ。首を斬るなり心臓をつくなり一思いに――」
「スカウトしに来たんだよ!」
は? という顔をするアラクネに畳みかけるようにツボミは言葉を続ける。
「こんな見事なデザインと服飾の腕前持って洞窟に引き篭もりとはどう云う了見だ勿体ない!」
「きゃああああああ! やめてえええええ!」
ツボミが洞窟の奥から持ってきた服(作者アラクネ)を見せつけると、悲鳴を上げるアラクネ。あれだ。見られたくない趣味を見られた乙女の反応だ。
「今のがとどめになったわね……。可哀想」
「幻想種が街中でというのは難しいかもしれんが、媒介ぐらいはしてやろう。祭りとかなら何とかなるぞ!」
「無理無理無理ぃ! 超恥ずかしいんですけど!」
かたくなに拒否するアラクネ。そんな彼女にタイガが歩み出る。
「今回、幻想種の討伐という事で私達は赴いたのだが……思うところあって大臣に嘆願書を出した。同じ服作りを趣味としている者として、思う所があったのだ」
タイガが要求したのは、アラクネの減刑だ。要約すれば『誘拐以外の罪がないのだから殺さずともいいのでは? 刑を与える程度に留めてもらえないか』という内容だ。そして帰ってきた内容は、
「『再犯の可能性がなくなり、且つ刑が適切なら減刑を許可する』……私はあなたを生かすつもりでいる。刑に服すという意味も含めて、私達の提案を飲んで服作りをしてもらえないだろうか?」
こちらも要約すれば『提案を飲まなかったら殺す』だ。最も自由騎士にそこまでの意図はない。純粋にアラクネの腕を惜しいと思っての提案だ。
「貴女の作った服はどれも素晴らしい。そして、美しく可憐な少女を着せ替えて楽しむ嗜好、俺は共感している」
オルパは真摯に言葉を紡ぐ。けして相手を辱める意図はなく、純粋に服とその趣味を称えていた。
「それに普段はSなお姉さまなのに、2人きりだと純情乙女とか最高だろうが」
まあ、男としていろいろあるのは否定しないが。後、君とはいい酒が飲めそうだ。
「それに貴様にとっても悪いことではないぞ。人間の祭りにはこういう服を着るものもいるのだ!」
「ちょっとおお! それ賭けに負けて仕方なしにやったヤツだから! しまってええぇ!」
ツボミが懐から出した写真にきゐこが慌てて叫び出す。2019年06月21日(金)公開のひゅのVCのピンナップである。めたたぁ。
「お察しの通り、この緑ローブがモデル本人だ!
貴様ならこの素材をどう扱う?」
「そうね。頭に意識を向けてもらうために帽子を中心としてコーディネイトするわ。可愛い系の帽子か、あるいはカチューシャ。服よりもアクセサリーで個性をだして、靴や指などの先端部分に力を注いで――」
なんかスイッチが入ったのか真剣な面持ちで喋り出すアラクネ。
「やめて! そういうこと言われると調子に乗る人がいるから!」
「安心しろ。私は撮影係だ」
「よく見れば貴方達結構な逸材じゃない……ふふ、ふふふふ!」
言うなりアラクネは糸でマリアとティルダときゐこを糸で絡めて拘束し、洞窟の奥に連れていく。
「あのあのあの……!?」
「戦闘不能なのではなかったのですか!?」
「貴方達がきっちり治してくれたから、大丈夫よ」
「セアラさん!? ツボミさん!?」
治したヒーラー二人も驚きの回復力である。まあ、ギャグパートという事で。
「ヨウセイで呪い系のあなたはゴシックに黒ドレスで。アマノホカリな貴方はこういう着物を。魔術師な貴方は雰囲気ブレイクも含めて七色カラーのこの服を――」
ティルダとマリアときゐこがどんな服を着せられたかは、名誉のために伏せておく。
●
紆余曲折あったが、自由騎士達はアラクネを倒し誘拐された子を開放する。
「そう言えばアラクネは種族名ですよね? お名前は何と仰るのでしょうか?」
「そうね……。テラとかどうかしら」
洋裁を示すテイラー。そこからの引用だとか。
テラは一旦自由騎士預かりになり、減刑の為に様々な服作りに勤しんでいる。そして――
「すばらしい! 私達の為に服を作ってもらえませんか!」
大量生産こそできないが幻想種の紡いだ糸はそれなりに強度と魔力耐性があることから、通商連に目をつけられたという。
後に記録に残らない洋裁師、テラの誕生であった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
火力高すぎだろうがー! もう少し……もう少し……うう。
異常のような結果になりました。巣、2ターン目で完全消滅。
ギミックバトルは大好きなので、ちょくちょく出していければいいなぁ、と思います。
MVPは大臣に嘆願書を出したトウドラード様へ。
貴女の行動あってのこの結末です。
それではまた、イ・ラプセルで。
…………おや、カジノの様子が……?
火力高すぎだろうがー! もう少し……もう少し……うう。
異常のような結果になりました。巣、2ターン目で完全消滅。
ギミックバトルは大好きなので、ちょくちょく出していければいいなぁ、と思います。
MVPは大臣に嘆願書を出したトウドラード様へ。
貴女の行動あってのこの結末です。
それではまた、イ・ラプセルで。
…………おや、カジノの様子が……?
FL送付済