MagiaSteam




Humanity! 叫べ、ヒトとしての尊厳を!

●反乱する二種類の者達
イ・ラプセルがヘルメスを倒し、ヘルメリア島を平定する。これで平和な日常が戻ってくる――等と全てが上手くいくわけがなかった。
ヘルメスに叛意を抱いていた歯車騎士達は矛を収め、新たにアクアディーネの洗礼を受ける。そのほとんどがヘルメスによって機械と融合させられた者の生命を維持するためだ。権能を新たに経て、贖罪とばかりに彼らは機械と融合させられたヘルメリア国民――今はイ・ラプセル国民だが――を癒すことに専念する。
だがその道を選ばない歯車騎士達は少数だがいた。より正確に言えば、かつての既得利権を奪われたくないがためにイ・ラプセルに従わない者達である。ロンディアナにある者は全て我らの者とばかりに兵を集め、イ・ラプセルに楯突く意思を見せていた。
だが、やんぬるかな。彼らは時代の変化を理解できない者達だ。未だにヘルメリアの奴隷制度が生きていると信じ切っていた。
「お前らは盾になれ! ノウブル様の盾になるんだよ!」
鎖を引っ張り、繋がれたソラビトに命令する元歯車騎士。かつては抵抗なく従った亜人達は、微力ながらも抵抗の意志を示して叫んだ。
「い、嫌だ! 僕らはお前達なんかに従わない……!」
奴隷協会を排し、神を討ったイ・ラプセル。その存在が力に反対する意味をヘルメリア国民に見せつけていた。戦う事の意味を、亜人達に教えていたのだ。
「なんだと……!? 俺達に逆らうとどうなるか、わかってるのか!」
「っ……こ、怖くなんかない……! 僕らは、自由なんだ!」
「ふざけるなぁ! 殺す、殺す殺す殺す!」
如何に力に逆らう気持ちがあろうとも、暴力に慣れているのはかつて上だった元軍人。怒りの分もあって、暴力に容赦はなかった。
奴隷に逆らわれて激昂するノウブルの剣が、死体となった亜人に何度も突き刺さる。何度も、何度も、何度も――
●自由騎士
「という状況である」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士達に説明を開始する。
「反乱軍――と言えるほどの規模すらない反イ・ラプセル集団内で、仲間割れが生じる。かつて支配者だったノウブルが、ソラビトに裏切られて怒りのあまりソラビトを殺すという未来だ。
諸君らにはこれに介入してほしい」
具体的にどうしろ、とクラウスは言わなかった。結果はどうあれ、半イ・ラプセル集団を壊滅できればいい。――その為には怒りの矛先をソラビトに向けたまま入念に準備し、疲弊させたところを不意打ちするのが一番なのだが。
「方法は任せる。イ・ラプセルの自由騎士として戦ってくれ」
多くは語らない大臣。それを自由騎士がどう受け取るかは、自由騎士次第という所だ。
「資料は纏めてある。頼んだぞ」
短いながらも信頼を含めたクラウスの言葉に背中を押され、自由騎士達は現場に向かった。
イ・ラプセルがヘルメスを倒し、ヘルメリア島を平定する。これで平和な日常が戻ってくる――等と全てが上手くいくわけがなかった。
ヘルメスに叛意を抱いていた歯車騎士達は矛を収め、新たにアクアディーネの洗礼を受ける。そのほとんどがヘルメスによって機械と融合させられた者の生命を維持するためだ。権能を新たに経て、贖罪とばかりに彼らは機械と融合させられたヘルメリア国民――今はイ・ラプセル国民だが――を癒すことに専念する。
だがその道を選ばない歯車騎士達は少数だがいた。より正確に言えば、かつての既得利権を奪われたくないがためにイ・ラプセルに従わない者達である。ロンディアナにある者は全て我らの者とばかりに兵を集め、イ・ラプセルに楯突く意思を見せていた。
だが、やんぬるかな。彼らは時代の変化を理解できない者達だ。未だにヘルメリアの奴隷制度が生きていると信じ切っていた。
「お前らは盾になれ! ノウブル様の盾になるんだよ!」
鎖を引っ張り、繋がれたソラビトに命令する元歯車騎士。かつては抵抗なく従った亜人達は、微力ながらも抵抗の意志を示して叫んだ。
「い、嫌だ! 僕らはお前達なんかに従わない……!」
奴隷協会を排し、神を討ったイ・ラプセル。その存在が力に反対する意味をヘルメリア国民に見せつけていた。戦う事の意味を、亜人達に教えていたのだ。
「なんだと……!? 俺達に逆らうとどうなるか、わかってるのか!」
「っ……こ、怖くなんかない……! 僕らは、自由なんだ!」
「ふざけるなぁ! 殺す、殺す殺す殺す!」
如何に力に逆らう気持ちがあろうとも、暴力に慣れているのはかつて上だった元軍人。怒りの分もあって、暴力に容赦はなかった。
奴隷に逆らわれて激昂するノウブルの剣が、死体となった亜人に何度も突き刺さる。何度も、何度も、何度も――
●自由騎士
「という状況である」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士達に説明を開始する。
「反乱軍――と言えるほどの規模すらない反イ・ラプセル集団内で、仲間割れが生じる。かつて支配者だったノウブルが、ソラビトに裏切られて怒りのあまりソラビトを殺すという未来だ。
諸君らにはこれに介入してほしい」
具体的にどうしろ、とクラウスは言わなかった。結果はどうあれ、半イ・ラプセル集団を壊滅できればいい。――その為には怒りの矛先をソラビトに向けたまま入念に準備し、疲弊させたところを不意打ちするのが一番なのだが。
「方法は任せる。イ・ラプセルの自由騎士として戦ってくれ」
多くは語らない大臣。それを自由騎士がどう受け取るかは、自由騎士次第という所だ。
「資料は纏めてある。頼んだぞ」
短いながらも信頼を含めたクラウスの言葉に背中を押され、自由騎士達は現場に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.反乱軍10名の打破
どくどくです。
ヘルメリア戦後処理その一。一応『他国』かな? 自国に従わない輩だし。
●敵情報
・反乱軍(×10)
元歯車騎士団です。無色のオラクル。イ・ラプセルに組むするのを良しとせず、反乱を起こそうとしています。
ですがかつて盾にしていた亜人に逆らわれ、激情しています。その為、何もしなければ3ターンはソラビトを攻撃するでしょう。死体になっても、なお。その為、不意打ちは可能です。
なお自由騎士が名乗りを上げるかすれば、怒りの矛先はそちらに向きます。そうなれば不意打ちのチャンスは消えるでしょう。
軽戦士6名、ガンナー4名です。それぞれのランク2までのスキルを活性化しています。
・ソラビト(×20)
元奴隷のソラビトです。男女の比率は1:3。奴隷の首輪をしていますが、反乱軍に従うつもりはありません。
戦闘力は皆無です。1ターンごとに残存する反乱軍の数だけ殺されます。空を飛んで逃げても、遠距離攻撃で殺されます。
彼らの生死は、依頼の成否に影響しません。
●場所情報
元ロンディアナの一角。かつては奴隷の売り買いをする店だった場所。ランタンなどの照明器具があり、明るさや足場などは戦闘に影響しません。
戦闘開始時、敵前衛に『反乱軍(×10)』が、敵後衛に『ソラビト(×20)』がいます。戦闘開始時の段階で、彼らは自由騎士の存在に気付いていません。
急ぐため、事前付与は不可とします(一部権能の効果はこれとは関係なく発揮されます)。
皆様のプレイングをお待ちしています。
ヘルメリア戦後処理その一。一応『他国』かな? 自国に従わない輩だし。
●敵情報
・反乱軍(×10)
元歯車騎士団です。無色のオラクル。イ・ラプセルに組むするのを良しとせず、反乱を起こそうとしています。
ですがかつて盾にしていた亜人に逆らわれ、激情しています。その為、何もしなければ3ターンはソラビトを攻撃するでしょう。死体になっても、なお。その為、不意打ちは可能です。
なお自由騎士が名乗りを上げるかすれば、怒りの矛先はそちらに向きます。そうなれば不意打ちのチャンスは消えるでしょう。
軽戦士6名、ガンナー4名です。それぞれのランク2までのスキルを活性化しています。
・ソラビト(×20)
元奴隷のソラビトです。男女の比率は1:3。奴隷の首輪をしていますが、反乱軍に従うつもりはありません。
戦闘力は皆無です。1ターンごとに残存する反乱軍の数だけ殺されます。空を飛んで逃げても、遠距離攻撃で殺されます。
彼らの生死は、依頼の成否に影響しません。
●場所情報
元ロンディアナの一角。かつては奴隷の売り買いをする店だった場所。ランタンなどの照明器具があり、明るさや足場などは戦闘に影響しません。
戦闘開始時、敵前衛に『反乱軍(×10)』が、敵後衛に『ソラビト(×20)』がいます。戦闘開始時の段階で、彼らは自由騎士の存在に気付いていません。
急ぐため、事前付与は不可とします(一部権能の効果はこれとは関係なく発揮されます)。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年04月19日
2020年04月19日
†メイン参加者 8人†
●
急ぎ現場に向かう自由騎士達。彼らは作戦の最終確認と同時に、相対する元歯車騎士団の事を口にしていた。
「まー……往生際が悪いねぇ」
話を聞いた『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は何とも言えない表情で頭を掻いた。歯車騎士団はヘルメリア攻略の壁の一つだったが、こうも醜態をさらされると言葉もない。人間、堕ちれば堕ちるものなのだろう。
「ヘルメスや蒸気王を倒して平和になりました、なんて都合のいい話はないってことだ」
予想していた、とばかりに『機神殺し』ザルク・ミステル(CL3000067)は肩をすくめる。現実は悪人を倒してめでたしめでたし、と言ったおとぎ話ではない。むしろ戦後をどう収めるかが、戦争の真価なのだ。
「イ・ラプセルの騎士団がソラビトを見捨てた、とあっては後の統治が難しかろう」
うむ、と頷くキース・オーティス(CL3000664)。それは人道的な見地もあるが、エドワード国王が亜人解放を謳っていることもある。王の政策を絵空事にしない為にはここで戦略的優位という理由でソラビトを見捨てるわけにはいかないのだ。
「面倒くさい。細かいことなんざどうでもいい」
ふん、と息を吐く『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。そこに殺されかかっているヒトがいて、それをどうするかと問われれば出来るだけ助けようとするのは当然だ。ヒトは死ぬ。そして死は不可逆だ。医師として、それは嫌になるほど理解している。
「暴力は、連鎖する。だから、それを断ち切らないと……」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は静かに告げる。暴力は連鎖する。暴力を受けた人間は、自分が強くなった時に誰かに暴力を振るう。どこかでそれを断ち切らなければ、悲劇は終わらない。
「自分の意志で立ち上がろうとしてる人達を見捨てる事なんて出来ないよね」
拳を握り『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は頷く。かつてはノウブルの従う以外できなかったヘルメリアの奴隷達。彼らはイ・ラプセルという希望を見て、立ち上がったのだ。その一歩をイ・ラプセルの自由騎士が見捨てるわけにはいかない。
「もうこの国には奴隷なんていないのに……!」
ライフルを握りしめ『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は歯を食いしばる。この国の奴隷制度は崩壊し、それを支えるヘルメリアはない。ただ人の心の中に、差別する心があるだけだ。その事実が、悲しい。
「国が堕ち……神すら牙を剥いた人々に今足りないモノは――」
『ヤバイ、このシスター超ヤバイ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は元歯車騎士団の心を考えていた。信じていた神に裏切られ、国は消えた。頼れる者など何もない彼らの心を埋めなくては、真の解決にはならない。そう、彼らに足りないモノとは――
「なんだと……!? 俺達に逆らうとどうなるか、わかってるのか!」
「っ……こ、怖くなんかない……! 僕らは、自由なんだ!」
通りの向こう側から聞こえてくる声。水鏡が導き出した未来の光景そのままだ。この後殺戮が始まる未来だが、それを変える為に自由騎士達はここに来たのだ。
元歯車騎士団の銃口が動くより先に、自由騎士達は動き出す。
●
「天を見よ地を見よ人を見よ! あまねくパスタがそこにある!」
突如として消えてきた名乗りと音楽に元歯車騎士達は戸惑う。
「世が困窮に陥る時に、湯気と共に現れる! その名は愛と勇気と正義のパスタ仮面! マスクド・パスター参☆上です!」
そこにはアンジェリk――パピヨンマスクをつけた狐のケモノビト『マスクド・パスター』が仁王立ちしていた。メガホンで声を拡大化し、ノリのいいテーマソングを流してパスタを空に掲げるポーズを決めていた。
「おい、アンジェリカ……?」
「愛と勇気と正義のパスタ仮面! マスクド・パスター! です!」
言い切ったよこのシスター。
この空気どうしようという雰囲気からマスクド・パスターへの言及はやめることにした。とりあえず相手の動きは止まったようだし、良し。良し? 空気を入れ替える為に、一泊置いて自由騎士達は続ける。
「ま、冗談はさておきお前らはここで終わりだ!」
言いながら二挺拳銃を討ち放つザルク。乾いた拳銃の音が響き、同時に元歯車騎士達の足元に動きを封じる陣が展開される。
「お前らが求めたヘルメリア。そいつを終わらせたのは俺だ。かかって来いよ、サビ鉄歯車。ヘルメスを殺した俺は此処にいるぜ」
柄じゃねぇな、と思いながら名乗りを上げるザルク。元歯車騎士達の怒りは完全にザルク達自由騎士に向いたようだ。武器をこちらに向けて殺気を飛ばしてくる。奴隷の鎖を捨てて、自由騎士に攻撃を開始する。
「そうだ、ヘルメリアは滅んだ。俺達自由騎士が滅ぼした! 怒りを向けるなら受けて立つぜ!」
「煽るねぇ、ザルク。まあおじさんはいつも通りやらせてもらいますよ」
ザルクの名乗りを聞きながらニコラスは魔力を練り上げる。ニコラスもヘルメリアに対して思う所はあるが、国そのものに関する感情は家族の無事と共にある程度昇華した。あとは故国に対する思いだけだ。――元工作兵としての想い。
その想いをいったん脇に退け、魔力を解き放つ。ニコラスの手から放たれた青のマナは空気に触れると同時に周囲の温度を下げ、低温の風となって解き放たれる。風は元歯車騎士団に纏わりつき、氷の縛鎖となって相手を足止めした。
「気は抜くなよ。腐っても軍人だ。それなりに戦闘経験はあるぜ」
「でもやりすぎると……『心の傷』になってしまうから、注意してね」
念のために、と注意するマグノリア。元歯車騎士達が現状倒すべき相手であることには変わりないが、それでも彼らもヒトであることには変わりはない。反抗心を奪う事に異論はないが、やりすぎてしまうの問題だ。
とはいえ、手加減はできない。指先に魔力を込め、虚空に文字を描くように動かすマグノリア。三次元に描かれる立体的な魔導書。形なき書物はその文字と魔力に従い広がり、元歯車騎士達を傷つけていく。
「君達の命と、同じ……ソラビトも、命を奪わせないよ」
「そうよ! もう誰も死なせはしない!」
ライフルを構えてアンネリーザは叫ぶ。ソラビトの自分が言ってもこの思いは届かないだろう。種族の違い、国の違い、価値観の違い。様々な壁をアンネリーザは感じていた。それでも声を止める事はしない。無駄だと諦めれば、もう誰も叫ばないのだから。
「この分からず屋!この国にもう奴隷はいないのよ! 貴方達軍人が戦うのは国民の為でしょ! 貴方達が今していることは子供の駄々と同じよ!」
「うるせぇ! オレ等から奪ったお前らが偉そうに言うな! 盗人猛々しいんだよ!」
「貴方達の同胞はみな強制的に機人化させられた人達を助けようと動いている。なのに、貴方達はそれすら踏みにじろうとしているのよ!」
「あんな媚びるような真似が出来るか! 蒸気国家を取り戻すんだ!」
聞く耳を持たない元歯車騎士達にアンネリーザは哀しみを覚えた。もう戻らない何かにすがるその姿に。
「盗人猛々しい。なるほど諸君らの立場からすれば、その発言は頷ける」
ワガママともいえる元歯車騎士団の言葉に頷くキース。ただの戯言ではあるが、それでもその一面を無視することはできなかった。極論、戦争は略奪だ。正義や理想などと言った面を無視すれば、国が国土や文化を奪う闘争なのだ。その一面は無視できない。
それでも。冷静に割り切ってキースは二刀を振るう。牽制の為にレイピアで突き、反撃してくる刃をマインゴーシュで受け流す。体制が崩れた相手にレイピアを突き出し、相手の肩を貫いた。
「だがこの暴挙は頷けない。彼らソラビトは我がイ・ラプセルの国民。それを傷つけるなら、自由騎士として立ち塞がろう」
「そうそう。やることは一つだよね!」
キースの言葉に頷くカノン。このソラビトたちは自由騎士の活躍を見て立ち上がろうとした。その勇気を無駄にはしたくない。過去に未練を残す元歯車騎士達を倒し、飛び立とうとするソラビトたちを救うのだ。
柔よく剛を制し、剛よく柔を制する。二極の使い分けこそ格闘の真価。時に攻撃を柔軟にかわし、隙を見出して剛の拳を叩きつける。カノンはそのバランスを経験と格闘センスで見極め、そして繰り広げる。師を信じ、真っ直ぐな鍛錬を摘んだ動きで。
「ほらほら、こっちこっちー!」
「よし、お前らはこっちだ! とりあえず私の後ろに来い!」
混戦の最中、ツボミはソラビトたちに語りかける。自由騎士の目的としては、この反乱の制圧。だがツボミからすればそれを理由にソラビトたちを見捨てることはできなかった。それが目的遂行の為の最適解であっても、最上の答えではないのだから。
やってくるソラビトたちを認識しながら、ツボミは最大限の魔力を込めて癒しの術式を放つ。光が仲間とソラビトたちを包み込み、柔らかな温もりと共に傷を癒していく。どうして、と問いかけるソラビトたちにさも当然とばかりにツボミは答える。
「生憎と私は軍人である前に医者でな。命を救うのは軍務以前の大前提だ」
ツボミだけではない。自由騎士達はそれぞれの信念でソラビトたちを救うために武器を持つ。それが戦う理由だと言わんがばかりに。
「ちょうどいい。お前ら全員殺して、狼煙をあげるぞ!」
吼える元歯車騎士達。何もかも奪われて、その怒りを殺意に帰る。
終わった戦争の残り火。それを消すために自由騎士達は戦いに挑む。
●
ソラビト20人達は救われ、相対するは10名の元歯車騎士。
峠の一つは越えたとはいえ、数の家では相手が有利。同じオラクル同士の戦いにおいて、数の差は大きい。ツボミとニコラスの回復があるが、それでも火力さは覆せない。
「元軍人は伊達ではないか」
「まだまだ負けないぞー!」
元歯車騎士団の猛攻を、前にキースとカノンがフラグメンツを削られるほどのダメージを追う。
「貴方達は勇敢よ。ちゃんと自分の尊厳を守ったもの」
助けたソラビトに声をかけるアンネリーザ。ヘルメリア奴隷の象徴ともいえる黒い首輪。そのカギは元歯車騎士団が持っているのだろう。彼らを倒し、ソラビトたちを真の意味で自由にする。そうすることで、この戦いは終わるのだ。
「復讐するな、とは言わねぇ。俺もそうだったからな。だがお前らはやり方を間違えた!」
言って銃を放つザルク。かつてヘルメリアを憎んだ復讐者は、今はその炎を収めている。故に復讐に燃える彼らを否定するつもりはない。だが暴力で挑むなら暴力で返されるのだ。ましてや意志に反する者を巻き込むのなら許しておけない。
「禍根はここで立たんとな」
言って刃を振るうキース。国への反乱を押さえ、安定を示す。それが騎士である自分の務めだ。宰相のクラウスの信頼を得た以上、それに応えよう。一人一人確実に。イ・ラプセルは暴徒に屈しないと言わんがばかりに威風堂々と立ち尽くす。
「大人しくおねんねしろー!」
カノンは蹴りを放って元歯車騎士団を伏す。ソラビトの奴隷を狙われることを懸念していたが、彼らにその意思はないようだ。それを理解して安堵するようにカノンは攻め立てる。後顧の憂いがなければ、あとは実力を示すのみだ。
「奴隷よりもコッチ優先か。まあ、らしいちゃらしいけど……っと、ここまでか」
攻撃を受けて膝をつくニコラス。元歯車騎士達がソラビトよりも自由騎士を狙うのは、憎しみもあるだろうが奴隷は逃げないという思いがあるのだと理解していた。未だ過去を捨てきれないヘルメリア人ならそう考える。それをニコラスは理解していた。
「ええい、休んでる余裕はないぞ。とっとと起きて手伝え!」
膝をついたニコラスに癒しの術を解き放つツボミ。敵の数は少しずつ減っているとはいえ、癒し手が必要なことには変わりない。戦いの間はもちろん、終わった後も傷を癒してもらわなくてはいけないのだから。
「受けなさい、ジャス! ティス! トルネェェェェェッ! ドォ!」
ポーズを決めて武器を振るうアンジェリk……マスクド・パスター。重量武器の豪風が戦場で荒れ狂い、正義の鉄槌を下す。反動の一ターンの間もポーズを決めて、その姿勢を崩さない。がんばれマスクド・パスター! 僕らのマスクド・パスター!
「現状、『無色』の君達は不要、だ。女神の祝福を受けるのなら、仲立ちはするけど……?」
マグノリアは元歯車騎士に話しかける。今は少しでも戦力が欲しい。それ以前としてマグノリアは彼らの心を救うつもりでいた。自暴自棄になったノウブルとはいえ、心を入れかえれば正しい道に進めるのではないか。そんな思いを込めて。
奴隷に頼って反乱を起こそうとした元歯車騎士団と、奴隷を独り立ちさせようとした自由騎士達。最初は数の差こそあったものの、実力差かそれとも信念の差か。数の優位性は元歯車騎士が倒れるたびに少しずつ失われ、自由騎士達が優位になっていく。
「この程度で倒れるほどやわじゃねぇよ!」
「うん……まだ立てる、よ」
「医者を足蹴にするとか罰当たりだな!」
後衛まで迫った元歯車騎士達にザルク、マグノリア、ツボミがフラグメンツを削られるが、彼らの攻勢はそこまで。
「これで終わりだよ!」
流れるように元歯車騎士の攻撃を避けたカノンが笑みを浮かべる。同時に放たれた拳が、ヘルメリア軍服の腹部に突き刺さる。衝撃が伝わった感覚と、相手が脱力するのが拳から確かに伝わってきた。
「これでソラビトさんたちは自由だね!」
掲げられる拳と宣誓。カノンのその言葉が、戦いの終わりを告げた。
●
「さあ、イイコトしてあげますから大人しくしてください」
「キリキリ歩け!」
サポートにやってきたウサギのケモノビトと幻想種のマザリモノに縛られる元歯車騎士達。そんな彼らにマグノリアが声をかける。
「今すぐは難しいだろうけど……僕は君達ノウブルの全てが『自己以外も守る事が出来る存在』になれると……思っているから。
『奪う』のではなく、『補い合う』……そんな未来が来ると、信じている」
マグノリアの言葉が彼らに届いたかどうかはわからない。ただ彼らは無言で連行されていった。
ともあれ戦いは終わった。ツボミとニコラスは怪我人を癒し、
「勝利のポーズ! パスタ!」
マスクド・パスターは勝利のポーズを決めていた。エンディングテーマと共に勇に向かって去ろうと……したところで仲間に声をかけられる。
「何があったの? 変なパスタでも食べたの?」
「いえ。ヘルメリア人の心に通じる様に、かつてのヘルメリアの正義の使者を真似てみただけです」
お前はヘルメリアを何だと思ってるんだ。
「いまや諸君はイ・ラプセルの大切な同胞。傷つける者がいれば、我々が許さぬ」
ソラビトたちの無事を確認し、キースが告げる。それは国としての言葉でもあり、キース自身の言葉でもあった。国に忠義を誓った以上、キースは国の想いは無視できない。それを含めてのキース・オーティスと言う人間なのだ。
「元ヘルメリア貴族に扇動されるとか、舞い上がりすぎだぜ」
深くため息をつくニコラス。連行される元歯車騎士達に問い詰めた結果、扇動した相手を聞きだすことに成功した。使者を通じての資金援助と情報提供。既得利権を求める存在は少なくはないようだ。心当たりの元貴族を思い出し、ニコラスは肩をすくめた。
「馬鹿の種は尽きないってか。ったく」
ちっ、と舌打ちするザルク。このグループだけではないと思ってはいたが、予想以上に大規模になりそうな事件だ。イ・ラプセルのヘルメリア島統治が簡単ではない事は分かっていたが、それでも人の業には呆れを感じる。
「面倒だな。シャンバラの黒騎士みたいにテロリストに徹されなければいいのだが」
ソラビトの傷を癒しながらうんざりとしたため息をつくツボミ。決まった拠点を持たずに仕掛けては逃げる戦略は少数勢力が大軍に挑むには効率のいいやり方だ。やられる側になって、痛感する。
「貴方達はみんな自由よ。それは誰にも侵される事の無い尊厳そのものよ」
ソラビトたちの首輪を外しながらアンネリーザが言う。ヘルメリアの奴隷制度は既になく、彼らを縛っていたのは個人の欲望だ。それももはや存在しない。首輪を外し、その感覚を十分に味あわせる。彼らを縛る者は、もう何もない。
「何があっても自分の行動の結果に責任を持つ。それが自由だとカノンは思う。皆にその覚悟はあるのかな?」
カノンの問いかけに恐れながらもソラビトたちは頷く。未来に何があるかなんてわからない。何も考えずに生きていける奴隷のままの方が幸せだったかもしれない。それでも彼らは飛び立とうと決心したのだ。その答えを聞いて、カノンも頷いた。
かくして反乱は起きず、ソラビトたちは誰も命を失うことなく救出される。
ソラビトたちが今後どうなるかは誰にもわからない。自由とは繁栄を約束するものではない。何の助けを得られずに、倒れることだってあるのだ。誰の庇護をうけることなく、世間の荒波に飲まれて死ぬ。それもまた自由の側面なのだ。
だがそれが不幸かどうかを決めるのは、自由騎士ではない。イ・ラプセルでもない。自由を選択した彼らなのだ。
籠を飛び立った鳥が幸せかどうかは、飛び立った鳥だけが知っているのだから――
急ぎ現場に向かう自由騎士達。彼らは作戦の最終確認と同時に、相対する元歯車騎士団の事を口にしていた。
「まー……往生際が悪いねぇ」
話を聞いた『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は何とも言えない表情で頭を掻いた。歯車騎士団はヘルメリア攻略の壁の一つだったが、こうも醜態をさらされると言葉もない。人間、堕ちれば堕ちるものなのだろう。
「ヘルメスや蒸気王を倒して平和になりました、なんて都合のいい話はないってことだ」
予想していた、とばかりに『機神殺し』ザルク・ミステル(CL3000067)は肩をすくめる。現実は悪人を倒してめでたしめでたし、と言ったおとぎ話ではない。むしろ戦後をどう収めるかが、戦争の真価なのだ。
「イ・ラプセルの騎士団がソラビトを見捨てた、とあっては後の統治が難しかろう」
うむ、と頷くキース・オーティス(CL3000664)。それは人道的な見地もあるが、エドワード国王が亜人解放を謳っていることもある。王の政策を絵空事にしない為にはここで戦略的優位という理由でソラビトを見捨てるわけにはいかないのだ。
「面倒くさい。細かいことなんざどうでもいい」
ふん、と息を吐く『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。そこに殺されかかっているヒトがいて、それをどうするかと問われれば出来るだけ助けようとするのは当然だ。ヒトは死ぬ。そして死は不可逆だ。医師として、それは嫌になるほど理解している。
「暴力は、連鎖する。だから、それを断ち切らないと……」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は静かに告げる。暴力は連鎖する。暴力を受けた人間は、自分が強くなった時に誰かに暴力を振るう。どこかでそれを断ち切らなければ、悲劇は終わらない。
「自分の意志で立ち上がろうとしてる人達を見捨てる事なんて出来ないよね」
拳を握り『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は頷く。かつてはノウブルの従う以外できなかったヘルメリアの奴隷達。彼らはイ・ラプセルという希望を見て、立ち上がったのだ。その一歩をイ・ラプセルの自由騎士が見捨てるわけにはいかない。
「もうこの国には奴隷なんていないのに……!」
ライフルを握りしめ『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は歯を食いしばる。この国の奴隷制度は崩壊し、それを支えるヘルメリアはない。ただ人の心の中に、差別する心があるだけだ。その事実が、悲しい。
「国が堕ち……神すら牙を剥いた人々に今足りないモノは――」
『ヤバイ、このシスター超ヤバイ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は元歯車騎士団の心を考えていた。信じていた神に裏切られ、国は消えた。頼れる者など何もない彼らの心を埋めなくては、真の解決にはならない。そう、彼らに足りないモノとは――
「なんだと……!? 俺達に逆らうとどうなるか、わかってるのか!」
「っ……こ、怖くなんかない……! 僕らは、自由なんだ!」
通りの向こう側から聞こえてくる声。水鏡が導き出した未来の光景そのままだ。この後殺戮が始まる未来だが、それを変える為に自由騎士達はここに来たのだ。
元歯車騎士団の銃口が動くより先に、自由騎士達は動き出す。
●
「天を見よ地を見よ人を見よ! あまねくパスタがそこにある!」
突如として消えてきた名乗りと音楽に元歯車騎士達は戸惑う。
「世が困窮に陥る時に、湯気と共に現れる! その名は愛と勇気と正義のパスタ仮面! マスクド・パスター参☆上です!」
そこにはアンジェリk――パピヨンマスクをつけた狐のケモノビト『マスクド・パスター』が仁王立ちしていた。メガホンで声を拡大化し、ノリのいいテーマソングを流してパスタを空に掲げるポーズを決めていた。
「おい、アンジェリカ……?」
「愛と勇気と正義のパスタ仮面! マスクド・パスター! です!」
言い切ったよこのシスター。
この空気どうしようという雰囲気からマスクド・パスターへの言及はやめることにした。とりあえず相手の動きは止まったようだし、良し。良し? 空気を入れ替える為に、一泊置いて自由騎士達は続ける。
「ま、冗談はさておきお前らはここで終わりだ!」
言いながら二挺拳銃を討ち放つザルク。乾いた拳銃の音が響き、同時に元歯車騎士達の足元に動きを封じる陣が展開される。
「お前らが求めたヘルメリア。そいつを終わらせたのは俺だ。かかって来いよ、サビ鉄歯車。ヘルメスを殺した俺は此処にいるぜ」
柄じゃねぇな、と思いながら名乗りを上げるザルク。元歯車騎士達の怒りは完全にザルク達自由騎士に向いたようだ。武器をこちらに向けて殺気を飛ばしてくる。奴隷の鎖を捨てて、自由騎士に攻撃を開始する。
「そうだ、ヘルメリアは滅んだ。俺達自由騎士が滅ぼした! 怒りを向けるなら受けて立つぜ!」
「煽るねぇ、ザルク。まあおじさんはいつも通りやらせてもらいますよ」
ザルクの名乗りを聞きながらニコラスは魔力を練り上げる。ニコラスもヘルメリアに対して思う所はあるが、国そのものに関する感情は家族の無事と共にある程度昇華した。あとは故国に対する思いだけだ。――元工作兵としての想い。
その想いをいったん脇に退け、魔力を解き放つ。ニコラスの手から放たれた青のマナは空気に触れると同時に周囲の温度を下げ、低温の風となって解き放たれる。風は元歯車騎士団に纏わりつき、氷の縛鎖となって相手を足止めした。
「気は抜くなよ。腐っても軍人だ。それなりに戦闘経験はあるぜ」
「でもやりすぎると……『心の傷』になってしまうから、注意してね」
念のために、と注意するマグノリア。元歯車騎士達が現状倒すべき相手であることには変わりないが、それでも彼らもヒトであることには変わりはない。反抗心を奪う事に異論はないが、やりすぎてしまうの問題だ。
とはいえ、手加減はできない。指先に魔力を込め、虚空に文字を描くように動かすマグノリア。三次元に描かれる立体的な魔導書。形なき書物はその文字と魔力に従い広がり、元歯車騎士達を傷つけていく。
「君達の命と、同じ……ソラビトも、命を奪わせないよ」
「そうよ! もう誰も死なせはしない!」
ライフルを構えてアンネリーザは叫ぶ。ソラビトの自分が言ってもこの思いは届かないだろう。種族の違い、国の違い、価値観の違い。様々な壁をアンネリーザは感じていた。それでも声を止める事はしない。無駄だと諦めれば、もう誰も叫ばないのだから。
「この分からず屋!この国にもう奴隷はいないのよ! 貴方達軍人が戦うのは国民の為でしょ! 貴方達が今していることは子供の駄々と同じよ!」
「うるせぇ! オレ等から奪ったお前らが偉そうに言うな! 盗人猛々しいんだよ!」
「貴方達の同胞はみな強制的に機人化させられた人達を助けようと動いている。なのに、貴方達はそれすら踏みにじろうとしているのよ!」
「あんな媚びるような真似が出来るか! 蒸気国家を取り戻すんだ!」
聞く耳を持たない元歯車騎士達にアンネリーザは哀しみを覚えた。もう戻らない何かにすがるその姿に。
「盗人猛々しい。なるほど諸君らの立場からすれば、その発言は頷ける」
ワガママともいえる元歯車騎士団の言葉に頷くキース。ただの戯言ではあるが、それでもその一面を無視することはできなかった。極論、戦争は略奪だ。正義や理想などと言った面を無視すれば、国が国土や文化を奪う闘争なのだ。その一面は無視できない。
それでも。冷静に割り切ってキースは二刀を振るう。牽制の為にレイピアで突き、反撃してくる刃をマインゴーシュで受け流す。体制が崩れた相手にレイピアを突き出し、相手の肩を貫いた。
「だがこの暴挙は頷けない。彼らソラビトは我がイ・ラプセルの国民。それを傷つけるなら、自由騎士として立ち塞がろう」
「そうそう。やることは一つだよね!」
キースの言葉に頷くカノン。このソラビトたちは自由騎士の活躍を見て立ち上がろうとした。その勇気を無駄にはしたくない。過去に未練を残す元歯車騎士達を倒し、飛び立とうとするソラビトたちを救うのだ。
柔よく剛を制し、剛よく柔を制する。二極の使い分けこそ格闘の真価。時に攻撃を柔軟にかわし、隙を見出して剛の拳を叩きつける。カノンはそのバランスを経験と格闘センスで見極め、そして繰り広げる。師を信じ、真っ直ぐな鍛錬を摘んだ動きで。
「ほらほら、こっちこっちー!」
「よし、お前らはこっちだ! とりあえず私の後ろに来い!」
混戦の最中、ツボミはソラビトたちに語りかける。自由騎士の目的としては、この反乱の制圧。だがツボミからすればそれを理由にソラビトたちを見捨てることはできなかった。それが目的遂行の為の最適解であっても、最上の答えではないのだから。
やってくるソラビトたちを認識しながら、ツボミは最大限の魔力を込めて癒しの術式を放つ。光が仲間とソラビトたちを包み込み、柔らかな温もりと共に傷を癒していく。どうして、と問いかけるソラビトたちにさも当然とばかりにツボミは答える。
「生憎と私は軍人である前に医者でな。命を救うのは軍務以前の大前提だ」
ツボミだけではない。自由騎士達はそれぞれの信念でソラビトたちを救うために武器を持つ。それが戦う理由だと言わんがばかりに。
「ちょうどいい。お前ら全員殺して、狼煙をあげるぞ!」
吼える元歯車騎士達。何もかも奪われて、その怒りを殺意に帰る。
終わった戦争の残り火。それを消すために自由騎士達は戦いに挑む。
●
ソラビト20人達は救われ、相対するは10名の元歯車騎士。
峠の一つは越えたとはいえ、数の家では相手が有利。同じオラクル同士の戦いにおいて、数の差は大きい。ツボミとニコラスの回復があるが、それでも火力さは覆せない。
「元軍人は伊達ではないか」
「まだまだ負けないぞー!」
元歯車騎士団の猛攻を、前にキースとカノンがフラグメンツを削られるほどのダメージを追う。
「貴方達は勇敢よ。ちゃんと自分の尊厳を守ったもの」
助けたソラビトに声をかけるアンネリーザ。ヘルメリア奴隷の象徴ともいえる黒い首輪。そのカギは元歯車騎士団が持っているのだろう。彼らを倒し、ソラビトたちを真の意味で自由にする。そうすることで、この戦いは終わるのだ。
「復讐するな、とは言わねぇ。俺もそうだったからな。だがお前らはやり方を間違えた!」
言って銃を放つザルク。かつてヘルメリアを憎んだ復讐者は、今はその炎を収めている。故に復讐に燃える彼らを否定するつもりはない。だが暴力で挑むなら暴力で返されるのだ。ましてや意志に反する者を巻き込むのなら許しておけない。
「禍根はここで立たんとな」
言って刃を振るうキース。国への反乱を押さえ、安定を示す。それが騎士である自分の務めだ。宰相のクラウスの信頼を得た以上、それに応えよう。一人一人確実に。イ・ラプセルは暴徒に屈しないと言わんがばかりに威風堂々と立ち尽くす。
「大人しくおねんねしろー!」
カノンは蹴りを放って元歯車騎士団を伏す。ソラビトの奴隷を狙われることを懸念していたが、彼らにその意思はないようだ。それを理解して安堵するようにカノンは攻め立てる。後顧の憂いがなければ、あとは実力を示すのみだ。
「奴隷よりもコッチ優先か。まあ、らしいちゃらしいけど……っと、ここまでか」
攻撃を受けて膝をつくニコラス。元歯車騎士達がソラビトよりも自由騎士を狙うのは、憎しみもあるだろうが奴隷は逃げないという思いがあるのだと理解していた。未だ過去を捨てきれないヘルメリア人ならそう考える。それをニコラスは理解していた。
「ええい、休んでる余裕はないぞ。とっとと起きて手伝え!」
膝をついたニコラスに癒しの術を解き放つツボミ。敵の数は少しずつ減っているとはいえ、癒し手が必要なことには変わりない。戦いの間はもちろん、終わった後も傷を癒してもらわなくてはいけないのだから。
「受けなさい、ジャス! ティス! トルネェェェェェッ! ドォ!」
ポーズを決めて武器を振るうアンジェリk……マスクド・パスター。重量武器の豪風が戦場で荒れ狂い、正義の鉄槌を下す。反動の一ターンの間もポーズを決めて、その姿勢を崩さない。がんばれマスクド・パスター! 僕らのマスクド・パスター!
「現状、『無色』の君達は不要、だ。女神の祝福を受けるのなら、仲立ちはするけど……?」
マグノリアは元歯車騎士に話しかける。今は少しでも戦力が欲しい。それ以前としてマグノリアは彼らの心を救うつもりでいた。自暴自棄になったノウブルとはいえ、心を入れかえれば正しい道に進めるのではないか。そんな思いを込めて。
奴隷に頼って反乱を起こそうとした元歯車騎士団と、奴隷を独り立ちさせようとした自由騎士達。最初は数の差こそあったものの、実力差かそれとも信念の差か。数の優位性は元歯車騎士が倒れるたびに少しずつ失われ、自由騎士達が優位になっていく。
「この程度で倒れるほどやわじゃねぇよ!」
「うん……まだ立てる、よ」
「医者を足蹴にするとか罰当たりだな!」
後衛まで迫った元歯車騎士達にザルク、マグノリア、ツボミがフラグメンツを削られるが、彼らの攻勢はそこまで。
「これで終わりだよ!」
流れるように元歯車騎士の攻撃を避けたカノンが笑みを浮かべる。同時に放たれた拳が、ヘルメリア軍服の腹部に突き刺さる。衝撃が伝わった感覚と、相手が脱力するのが拳から確かに伝わってきた。
「これでソラビトさんたちは自由だね!」
掲げられる拳と宣誓。カノンのその言葉が、戦いの終わりを告げた。
●
「さあ、イイコトしてあげますから大人しくしてください」
「キリキリ歩け!」
サポートにやってきたウサギのケモノビトと幻想種のマザリモノに縛られる元歯車騎士達。そんな彼らにマグノリアが声をかける。
「今すぐは難しいだろうけど……僕は君達ノウブルの全てが『自己以外も守る事が出来る存在』になれると……思っているから。
『奪う』のではなく、『補い合う』……そんな未来が来ると、信じている」
マグノリアの言葉が彼らに届いたかどうかはわからない。ただ彼らは無言で連行されていった。
ともあれ戦いは終わった。ツボミとニコラスは怪我人を癒し、
「勝利のポーズ! パスタ!」
マスクド・パスターは勝利のポーズを決めていた。エンディングテーマと共に勇に向かって去ろうと……したところで仲間に声をかけられる。
「何があったの? 変なパスタでも食べたの?」
「いえ。ヘルメリア人の心に通じる様に、かつてのヘルメリアの正義の使者を真似てみただけです」
お前はヘルメリアを何だと思ってるんだ。
「いまや諸君はイ・ラプセルの大切な同胞。傷つける者がいれば、我々が許さぬ」
ソラビトたちの無事を確認し、キースが告げる。それは国としての言葉でもあり、キース自身の言葉でもあった。国に忠義を誓った以上、キースは国の想いは無視できない。それを含めてのキース・オーティスと言う人間なのだ。
「元ヘルメリア貴族に扇動されるとか、舞い上がりすぎだぜ」
深くため息をつくニコラス。連行される元歯車騎士達に問い詰めた結果、扇動した相手を聞きだすことに成功した。使者を通じての資金援助と情報提供。既得利権を求める存在は少なくはないようだ。心当たりの元貴族を思い出し、ニコラスは肩をすくめた。
「馬鹿の種は尽きないってか。ったく」
ちっ、と舌打ちするザルク。このグループだけではないと思ってはいたが、予想以上に大規模になりそうな事件だ。イ・ラプセルのヘルメリア島統治が簡単ではない事は分かっていたが、それでも人の業には呆れを感じる。
「面倒だな。シャンバラの黒騎士みたいにテロリストに徹されなければいいのだが」
ソラビトの傷を癒しながらうんざりとしたため息をつくツボミ。決まった拠点を持たずに仕掛けては逃げる戦略は少数勢力が大軍に挑むには効率のいいやり方だ。やられる側になって、痛感する。
「貴方達はみんな自由よ。それは誰にも侵される事の無い尊厳そのものよ」
ソラビトたちの首輪を外しながらアンネリーザが言う。ヘルメリアの奴隷制度は既になく、彼らを縛っていたのは個人の欲望だ。それももはや存在しない。首輪を外し、その感覚を十分に味あわせる。彼らを縛る者は、もう何もない。
「何があっても自分の行動の結果に責任を持つ。それが自由だとカノンは思う。皆にその覚悟はあるのかな?」
カノンの問いかけに恐れながらもソラビトたちは頷く。未来に何があるかなんてわからない。何も考えずに生きていける奴隷のままの方が幸せだったかもしれない。それでも彼らは飛び立とうと決心したのだ。その答えを聞いて、カノンも頷いた。
かくして反乱は起きず、ソラビトたちは誰も命を失うことなく救出される。
ソラビトたちが今後どうなるかは誰にもわからない。自由とは繁栄を約束するものではない。何の助けを得られずに、倒れることだってあるのだ。誰の庇護をうけることなく、世間の荒波に飲まれて死ぬ。それもまた自由の側面なのだ。
だがそれが不幸かどうかを決めるのは、自由騎士ではない。イ・ラプセルでもない。自由を選択した彼らなのだ。
籠を飛び立った鳥が幸せかどうかは、飛び立った鳥だけが知っているのだから――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
ヘルメリア戦後処理その一でした。二が触手かよと言われると、まあ、その。
以上のような結果になりました。皆さんの奴隷と言う立場に対する想いが出ていれば幸いです。
自由であることが幸せとは限りません。束縛が不幸とも限りません。それを決めるのは本人で、自由とはその選択肢が増えるだけなのです。
MVPはその意味を問いかけたイスルギ様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
ヘルメリア戦後処理その一でした。二が触手かよと言われると、まあ、その。
以上のような結果になりました。皆さんの奴隷と言う立場に対する想いが出ていれば幸いです。
自由であることが幸せとは限りません。束縛が不幸とも限りません。それを決めるのは本人で、自由とはその選択肢が増えるだけなのです。
MVPはその意味を問いかけたイスルギ様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済