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End of Edge! 例え勝利に届かずとも!




 1890年12月、イ・ラプセルはパノプティコン攻略の前準備として墓地4133を占拠。
 この地自体に軍事的な拠点はなく、戦術的な意味は高くない。故にパノプティコンも多く兵を置かず、十数名単位を駐屯させていたに過ぎなかった。イ・ラプセルがこの地を占拠した時も、さほど驚きはなかったと言う。
 だが、この地に一瞬で大量の騎士を派兵できるとなればどうだろうか?
 聖霊門。そう呼ばれる大規模魔術。それがそこに建てられていた。かつてシャンバラ内部に一気に兵を送り込んだ魔術。それがそこにあるのだ。
 故にパノプティコンは警戒せざるを得まい。本来の軍事拠点である港町3356と、墓地4113の両方に。現状は港町3356に軍が駐留しているが、ノータイムで全軍を墓地4133に移動し、そこからパノプティコンの拠点を攻めることが出来るのだ。
 迂闊に攻めに出ることはできない。しかし手をこまねいているわけにはいかない。せめてどちらから攻めてくるかが分からなければ、不意を突かれてしまう。戦いにおいて『待ち』が有利な状況は多くないのだから。
 イニシアティブは、イ・ラプセルが握っている。そしてイ・ラプセルの次の一手。それが基地2091を襲う。
 二重の囮を使用して混乱する中、それでも徹底的な管理システムにより立ち直ったパノプティコン軍は防衛と、そして攻勢に出る。
 少数の精鋭で敵に回り込み、敵補給路を寸断する。そのまま背後から敵陣を穿ち、指揮系統を混乱させる。
 無論、任命された者は敵陣で孤立することになる。援護などなく、ただ死ぬまで戦うことを命じられた存在。
 それに命じられたのは――王族1734。元インディオの王族だ。

『ここで成果を上げれば、インディオとの交渉に乗り出すこととしましょう。ええ、土地のことです。彼らと話し合うテーブルを作りますとも』

 そう言ったハイオラクルの王族1687。その言葉を信じるしかもはや道はない。イ・ラプセルもパノプティコン軍と同様の侵略国だ。どちらが話が通じるかと言われれば、どちらも信用はできやしない――が、まだ交渉の余地があるのはパノプティコンだろう。
「ノ・ニ・リ・リ! カ・ク・イ・モ! チ・リ・リ!」
 皆殺しを告げる言語を告げ、王族・1734はイ・ラプセルに気付かれぬように進む。
 火を放ち、逃げ惑う補給部隊。戦意がない兵士が逃げるのを見送りながらパノプティコン軍は破壊工作を開始した。


 それはマキナ=ギアから伝わった通信だ。
 少数のパノプティコン兵が食料や弾薬をストックしている場所を襲撃していると言う。そしてそれは少しずつ司令部に向かっているとの事だ。
 今から引き返せば間に合うだろう。だが、そうなれば基地2091へ参戦することは無理と見ていい。
 司令部にも兵はいる。そちらに任せて、戦果を挙げてもいいだろう。否、そう言った対応の為にある程度の兵を残しているのだからそちらに任せるのが筋だ。
 伝えられる兵士の特徴を聞きながら、貴方は思案する。ここが分水嶺だろう。
 戻るか、あるいは進むか――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
EXシナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
どくどく
■成功条件
1.敵兵の全滅
 どくどくです。
 王族1734最終戦となります。

 この依頼は『DoubleDummy! 裏の裏さえ裏なりし!』と同時期に行われています。その為両依頼に同時参加されていた場合、上記シナリオの依頼参加権利を剥奪させていただきます。
 依頼料の返金などはできませんので、ご了承ください。



●敵情報
・パノプティコン軍突撃部隊
 敵弾薬庫及び司令部に突撃をかけた少数精鋭の兵士達です。王族1734の指示で弾薬庫や食料を積んだ車両を襲いながら移動しています。
 逃げる兵士は追いませんが、挑む者は容赦なく打ち倒しています。
 大陸共通語での会話は不可です。言葉が通じても、説得には応じません。

 彼らは『相互管理』と『一糸連携』と呼ばれる権能を有しています。

相互管理:権能を活性化している者同士は互いの状態が分かり、意思疎通も可能になる。ジャミングなどで妨害されなません。
一糸連携:権能を活性化している者同士が同一ターンに同じスキル(レベルも同じ)を使った場合、それぞれの命中にプラス補正。

・王族1734(×1)
 王族と呼ばれるパノプティコンの最高位の一人。ノウブル。女性19歳。元インディオです。高ランクの祈祷師で、祈祷師スキルで強化した後に原始的な斧で殴ってきます。
『ウンセギラ Lv4』『スカーレッド Lv4』『エスツァナトレヒ Lv3』『ウィワンヤンク・ワチピ Lv4』『ツァジグララル(EX)』を活性化しています。

ツァジグララル(EX): P 家族の守り手にして地獄の使いの女性型精霊。全ての攻撃に【必殺】が付与される。

・騎士0064(×1)
 王族に仕える騎士。キジン(オールモスト)。防御タンク。男性70歳。白髭のおじいちゃん。
『ファランクス Lv4』『ダブルカバーリング』『シールドバッシュ Lv3』等を活性化しています。

・導師0056(×1)
 王族に仕える魔導士。ノウブル。魔導士。女性20歳。容赦なく炎を放ってきます。
『フォーマルハウト Lv3』『アニマ・ムンディ Lv4』『緋文字 Lv3』等を活性化しています。

・工兵0087(×1)
 パノプティコンの工作兵です。ミズビト。ガンナー。男性30歳。投げナイフで攻撃してきます。
『シルバーバレット Lv4』『サテライトエイム Lv4』『ゼロレンジバースト Lv4』等を活性化しています。

・パノプティコン兵(×12)
 王族に仕える兵士です。防御タンク4名。ガンナー5名。魔導士3名。
 それぞれのジョブのランク2までのスキルを活性化しています。

・パノプティコン兵の扱い
 彼らは権能及び国民管理機構により、王族及びアイドーネウスに管理されています。その為、彼らが見た事柄は全てアイドーネウスに筒抜けになります。
 捕虜にするなどした場合も同様で、捕虜の場所はもちろん、捕虜状態で見聞きしたことも全部筒抜けになることが分かっています。
 情報管理の面を含め、彼らを生かして捕らえることはリスクがあると言う事を理解してください。

●場所情報
 イ・ラプセル司令部近くの荒野。今なお燃えている車両と食料があります。
 戦闘開始時、敵前衛に『王族1734』『騎士0064』『パノプティコン兵(防御タンク)(×4)』が、敵後衛に『導師0056』『工兵0087』『パノプティコン兵(魔導士)(×3)』『パノプティコン兵(ガンナー)(×5)』がいます。
 事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
4個  8個  4個  4個
3モル 
参加費
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
10/10
公開日
2021年01月30日

†メイン参加者 10人†




 後方に回り込み、イ・ラプセル軍の兵站を断絶していくパノプティコン軍。少数であるがゆえに機動力があり、少数であるがゆえに消耗が激しい。リーダーである王族1734が判断を誤れば、ほどなく潰えていただろう。そんな無謀な特攻だ。
「終いだ。貴殿の旅路は此処までだ」
 そんなパノプティコン軍の前に『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)を始めとした自由騎士達が立ちふさがる。イ・ラプセルに勝利を。その為には彼らにはここで潰えてもらわなくてはならない。その覚悟を示すように杖を握る。
「断絶する箇所は適切に。それでいて被害は致命的に。面倒なくらいに適材適所だよな」
 元工作員の『罰はその命を以って』ニコラス・モラル(CL3000453)はため息と共に賞賛した。もともとそういう戦いになれていたのだろう。彼女がパノプティコン相手にどう戦っていたかを示すような動き方だ。人を積極的に殺さないのも、混乱を広げる為か。
「ほとんど特攻じゃないか! ……まあ、オレも立場が逆ならそういう作戦に志願しそうだけど」
 相手の動きに命を捨てていると非難する『機盾ジーロン』ナバル・ジーロン(CL3000441)。とはいえ、戦争である以上致し方ないことだ。ましてやナバルは盾を持ち矢弾を受ける役回りだ。性格的な面もあって、無茶しがちなのは否定できない。
「そうね。これは捨て駒だわ。……あの王族が彼女を助けるとは思えないし」
 王族1687の顔を思い出しながら『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はライフルを握りしめた。国を護るために合理的なあの王族なら、容赦なく人を切り捨てるだろう。或いは、こうやってこちらを悩ませることも作戦なのかもしれない。
「ですが我らの勝利の為に彼らを通すわけにはいきません」
 揺るがぬ決意を込めて『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は前に出る。白紙の未来を回避し、次代に繋げる。その為に武器を取り、その為に血で手を染めている。ここで止まるわけにはいかないのだ。
「力があり、覚悟があり、自身を含めた何を犠牲にしても成し遂げんとする利他の精神がある――んですけど……」
 眉に皺を寄せて呟く『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。王族1734の行為は英雄的な行動と言えるだろう。だけどミルトスの中では彼女は『英通ではない』と分析されていた。何かが違う。その『何か』は解らない。
「ま、俺としては強いヤツと戦えるのならそれでいい。互いに引けない状況ならなおのことだ」
 自前の斧を手にして『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は笑みを浮かべた。こちらが負ければ補給路が寸断。司令部も危機に晒される。相手も勝利のためにここは退けない。双方必死にならざるを得まい。ロンベルにとって好ましい状況だった。
「そうだな。共に引けねぇ。インディオ達の為にもな!」
 母親から教えてもらった戦化粧をした『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)が叫ぶ。インディオの化粧の一つだ。王族1734はインディオとパノプティコンの講和の為に。ジーニーはパノプティコン空のインディオ解放のために。双方退けない理由があった。
「……ほんきで、いくよ」
 ノーヴェ・キャトル(CL3000638)は静かに呟く。ここが正念場。それを理解して二刀を握りしめる。パノプティコンの管理国家に捕らわれた王族1734。ノーヴェは彼女と自分を重ねていた。従順で物静か。鏡を見ているようで、だからこそ分かる歪な部分を。
「アナさん……。キリは……」
 アナ――王族1734がインディオの時に名乗っていた名を呟く『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)。敵であることは解っている。倒さなくてはいけない事も理解している。それでも胸にある思いがなくなるわけではなかった。
「カ・ス・チ・モ・セ・リ・イ!」
 王族1734は斧を構えて叫ぶ。パノプティコンの言葉が分からずとも、それが突撃の号令であることは雰囲気から知れた。力づくで突破し、次に進む。ここに現れた自由騎士達は、倒さなければならない敵だと判断して。
 そして彼らはぶつかり合う――


「ん……いくよ、アナ」
 一番最初に動いたのはノーヴェだった。カタールとカランビットを手にして一気に王族1734に迫る。インディオを守るために敢えてパノプティコンに下り、そして今なおインディオの為に尽力する女性。その気持ちを、無駄にはしない。だが、今は戦うしかないのだ。
 色違いの両目で未来を見ながら、ノーヴェは王族1734と相対する。両手の刃で攻め立てながら、時折回り込むように移動する。五秒後の未来の危険を意識しながら戦い、消して王族1734から離れることなく戦い続ける。
「ちゃんと……アナが……頑張った、事……皆、に届いてる……から」
「お覚悟を。例え誰であろうとも、通しはしません」
 いうなりアンジェリカはマキナ=ギアから大きな投擲用の剣を取り出し、両手に構える。同時に意識を集中し、瞳に魔力を集中させた。視力強化、弱点看破、その二つの効果を持つ身体強化。そして脳に伝わる情報。
 その情報を元にアンジェリカは体を動かす。バランスこそ取れているが、大きすぎる投擲用の剣。それを力と技術を組み合わせて投擲する。ゴウ、という音を立てて剣は敵に向かって飛ぶ。重い命中音が戦場を支配した。
「一気に攻め切ります!」
(相手の事情を意識するな……! 今同情すれば喰い破られる!)
 敵の攻撃を受けながらナバルは自らに言い聞かせる。元インディオのパノプティコン王族。同胞を守るために敵に屈した少女。誰かを守るその行為を、今止めようとしている。それが戦争なのだ。だから――今は意識してはいけない。そう何度も繰り返す。
 神の権能により生まれた連携攻撃。ナバルはそれを盾で受け止め、そして槍で弾く。手を抜けば一気に打ち破られそうな猛攻。それを受けながらナバルは歯を食いしばって足で大地を踏みしめる。負けてられないのは、こちらも同じなのだ。
「こちらが侵略者なのは解っている……! だけど、オレは――!」
「背負い過ぎるなよ、ナバル。そういう面倒なのは上の人間に押し付けちまえ」
 ナバルに守られながら回復を施しているニコラスが落ち着いた口調で告げる。正しいこと。間違っていること。人生は選択肢の繰り返しで、間違うことは怖い。だけどそれでも進んでいくしかないのだ。年功者のできる事はその歩みを軽くすることだけ――
 なんて柄じゃねぇな、と頭をかきながらニコラスは魔力を練り上げる。仲間のダメージ具合を確認しながら、厄介なダメージを優先して癒していく。こちらの手が止まれば一気に盛り返される。それだけは防がなければならない。
「とはいえ、無神経でもいられないか。ま、あのお嬢ちゃんに言う事はオジサンにはないかな」
「そうだな。死ぬ事を恐れない。あれはそういう価値観の人間だ。死んでも恨みはしなだろうよ」
 数合王族1734と打ち合ったロンベルがそんな事を言う。ロンベルは戦闘が好きで戦いの最中に死ぬことを恐れはしない戦闘狂。王族1734は死ぬこともまた自然の一部だと思っている自然崇拝者。互いに死を求めているわけではないが、死を恐れていない。
 そんな事はどうでもいい、とロンベルは切り捨てる。彼にとっての重要事項は弱いか強いかのみ。そして目の前の王族は間違いなく『強い』戦士だ。交差する互いの斧。力比べの後に同時に距離を開け、そしてまた打ち合う。
「大したもんだ。存分に楽しもうじゃないか!」
「おおっと、私も混ぜてもらうぜ!」
 王族1734に斧を振り上げるジーニー。自分の身長ほどの巨大な斧を振り上げ、力のままに振り下ろす。五秒後の未来を見ながら、脳内で最適解を導き出して更に斧を振るう。パワー任せに思えてテクニカルな戦術。それがジーニーの戦い方だ。
 肺一杯に空気を取り入れ、そして全身に力を籠める。休んでいる余裕はない。ここで足を止めれば一気に攻め立てられる。虎視眈々と隙を伺う王族1734の瞳がそれを証明していた。この勢いを殺すことなく突き進め、相手を攻め切るのだ。
「このまま攻め切るのみだ! ツァジグララルごと叩き潰す!」
「ツァジグララル、家族の守り手にして地獄の使いか」
 魔術に詳しいテオドールが静かに口を開く。自然ではなく家に宿る精霊。家を守ると同時に、死を看取る存在。相反しているように見えるが、共に生きる以上は、終焉は避けられない。それを宿した王族1734は、さて何を家族とみているのか。
 今はそれを確かめるすべはない。聞いても答えてはくれないだろう。思考を戦闘に移行し、テオドールは魔力を展開する。工程を短縮した魔術術式。それによって生まれた北風の精霊が荒れ狂い、戦場を白く染めていく。
「どうあれ全力で挑まねば勝ちは得られぬだろうよ。まさに正念場か」
「確かに強く、そして覚悟ある人なのですが」
 わからない、とばかりに表情を歪めるミルトス。行為も実力も間違いなく公正に英雄として評される王族1734。しかしミルトスは彼女をどうしても『英雄』と見る事はできなかった。それで手が止まると言うわけではないのだが、それでも気にはなる。
 装甲歩兵に敵兵を阻むように命令した後に、ミルトスは王族1734に向かう。拳に魔力を込め、腕に絡みつくように螺旋の鎖を形成する。大地を踏みしめ、真っ直ぐに拳を突き出した。腕に絡んだ魔力の鎖が、螺旋を描きながら敵を貫くように穿たれる。
「義務感で抱く殺意……いいえ、違いますね。では一体――?」
「彼女達は私達と変わらないわ。互いに信念を抱いて戦っている」
 ライフルを握りしめてアンネリーザが呟く。相手はれっきとした『人間』だ。ただ神に管理されていると言うだけで、自分達とは何も変わらない。そんな人たちに銃口を向けることに抵抗がないとは言わない。
 それでも――ここで止まるわけにはいかない。ここで妥協してしまえばイ・ラプセルの侵攻が止まる。そうなれば世界は白紙に戻る。全てが無に帰す世界を避けるために、アンネリーザは引き金を引くのだ。
「彼女達と自分達の信じるもの。違うのはただそれだけなのに……」
「それでも戦わないといけないんですね……」
 サーベルを握りしめてキリが口を開く。この地に向かったときにその覚悟はしていたつもりだ。それでも迷いはある。彼女とは戦いたくない。それでもその責務を誰かに押し付ける事はしたくはなかった。
 不屈の精神を身に宿し、仲間を守るためにキリはローブを振るう。地下だる欲振り下ろされる武器にローブを絡みつけ、逸らすように力を込めて軌道を変える。仲間に迫る刃や矢弾は全て受け止める。その覚悟を示すようにキリは敵を睨んだ。
「覚悟はあります。それでも……!」
 自分の気持ちに嘘はつけない。キリは震える手を押さえるようにローブを握りしめる。
 自分の気持ちにウソが付けないのは、キリだけではない。自由騎士だけではない。パノプティコン兵士達もまた、同様だ。アイドーネウスに管理された素晴らしい国を護りたい。その為に命を懸けて彼らを廃するのだ。
 互いの武器と魔術が交差する。
「っち、さすがに連携が激しい!」
「キリはまだ、やれます!」
 仲間を庇っていたナバルとキリはパノプティコンの猛攻を受けるが、強い意志で肉体を無理矢理立ち上がらせる。
「……アナ……ッ」
「敵ながら見事……!」
「まだまだァ!」
「痛ぇじゃねぇか。そっくり返してやるよ!」
 ノーヴェ、ミルトス、ジーニー、ロンベルもパノプティコンの攻撃を受けてフラグメンツを燃やすほどのダメージを受ける。
 戦いは終わらない。それを決するのは信念の強さでもない。正義という天秤でもない。
 ただどちらが強いか。どちらが勝つか。勝てば官軍負ければ賊軍。それだけだ――


 パノプティコンは敵であり、イ・ラプセルの自由騎士の立場からすれば倒すべき相手だ。
 それは神の蟲毒と言う理由が大きい。白紙の未来を回避する為に始めた神の蟲毒。各国の神を殺し、その力を得る。そうしなければこの世界に未来はない。
 ならば何の感情も抱かず、ただ滅ぼす相手として接するのが一番だ。個人的な感情を抱くことなく、邪魔な障害物を排除するように。心にフタをして、戦争という非日常から身を護るように。
 だが、そう割り切れないのがヒトであった――
「オラオラァ! こんなもんで終わりじゃないだろうが!」
 ロンベルは戦いそのものを受け入れ、楽しんでいた。相手の素姓や戦う理由など関係ない。そこに強い相手がいるから挑む。自分と同じ同じ斧を使う敵がいるから、戦う。ただそれだけだ。それ以上に意味はなく、必要ない。
「そいつが精霊の力か。大したもんだぜ」
 ロンベルは力を差別しない。力や魔術、そして蒸気……自らの力になる者は何でも取り入れていた。自らが扱いきれるのなら、何でも取り入れて力にする。故に差別はない。ただ強いか弱いか。ロンベルが気にするのはそれだけだ。
「もっと俺に力を見せてみろ! 全部真正面から食い破ってやる!」
「私達の未来のために」
 アンジェリカは剣を投擲しながら息を整える。防御の要を狙った投擲術。王族1734を護らせないように攻撃を繰り返し、その足を止める。消耗は激しいが行動は功を奏していた。
 激しい運動からか、籠った熱が身体を苛む。だがまだ大丈夫。そう自分に言い聞かせて武器を握りしめる。ここで彼らを止めなければ、前線で戦う者達が枯渇する。そうなれば敗走もありうるのだ。白紙の未来が止められないかもしれない。
「そのようなことは、あってはならないのです……!」
「彼女は……いいえ彼女達は……」
 アンネリーザはライフルの引き金を引きながら、自らの心を苛んでいた。相手はパノプティコン兵士で、自分達の敵だ。だけど自分達と同じヒトでもある。ただ国が違うだけで、同じヒトなのだ。なのに――いや、だからこそ戦わなくてはならない。
(解っている……! ここで引き金を引かないといけない事は。それでも――)
 それでも、この心の痛みを消すことはできない。アンネリーザは一発一発毎に自らの心が削れていくのを感じていた。ヒトを殺す。ヒトの未来を奪う。その意味をしっかり心に刻む。その先に多くの幸せがあると信じて。
「我が国の勝利の為、ここで貴殿らには潰えてもらう」
 貴族であるテオドールは既に覚悟が決まっていた。ここでパノプティコン兵士を通してしまえば、迷惑がかかるのは戦場の人間だけではない。出兵までに集めた食料や水。それを供給してくれた国民達。それら全てを裏切ることとなるのだ。
 戦争とは、国家同士の戦いだ。そしてその国家とは前で戦う兵士や騎士だけではない。騎士の武器を作る鍛冶屋、作物を作る農民……。この大陸に住む者は、皆がそれぞれの形で戦っているのだ。その重責をテオドールはしっかりと意識する。
「貴殿らにも背負うものはあるのだろう。だが、それを理解したうえで勝たせてもらう」
「そうだ。勝たなければ意味がない。相手を生かすだの殺すだのは、それからだ……!」
 盾で攻撃を阻みながら、ナバルは歯を食いしばる。投げナイフに込められた足止めの魔力に抗い、仲間に向かう攻撃を受け止める。衝撃で意識が揺れそうになるが、何とか堪えて立ち尽くす。その一撃から敵も必死なのだと言う事が、否応なしに伝わってくる。
 相手がイブリースなら。狂暴な獣で殺すしかないのなら。それならいっそ気は楽だった。敵国の神に管理されて言葉が通じないとはいえ、相手はこちらと同じ人間なのだ。その平和を奪う。その意味を噛みしめながら、ナバルは前に出る。
「やりにくいなぁ、もう!」
(やりにくい……。この人達も、キリと同じで……アナさんに何か気持ちがあるのかも……)
 パノプティコンの国に故郷を滅ぼされたキリは、パノプティコンに復讐するために戦いに参加した。だからパノプティコンの兵士は復讐の対象だった。それは今でも変わらない。彼らは殺してもいいと思っている。それでも――
 言葉まで管理されて会話もできず、理解できない相手。国の為に故郷を滅ぼした相手。だけど彼らもヒトで、誰かを想う気持ちを持っているのではないか? だからこそ共に戦い、だからこそ共に死地に挑む。そんな忠義の高いヒトを、キリは殺す――
「……キリは、パノプティコンに……それでもこの人達は……!」
「ま、アイツラも死は覚悟しているだろうさ。面倒ならスパっとやった方が精神衛生上楽だぜ」
 ため息とともにニコラスは呟く。戦争は命の奪い合いだ。そのフィールドに立った時点で、命の価値は日常と異なる。そんな場所で違う価値観を振りかざすのは辛いだけだ。少なくとも、パノプティコン兵士は自らの命を捨てている。救われたいと思っていない。
「あのお嬢ちゃんはちょっと違うな。戦士になった時点ですでにその覚悟はできているタイプだ。生きたい、っていう意思をまるで感じない。雄々しく戦って死ぬことが戦士の誉れ、って思っている感じか。
 死ぬことを当然として受け入れて、それでいいって思っているタイプだな。彼女だけの誇りなのか、インディオはもともとそういう価値観なのか。そこまでは解らんがね」
 幾多の『死』を見てきたニコラスは王族1734をそう評価する。死を忌み嫌うことはしない。むしろ己の価値観に沿って懸命に生き、その結果死ぬ。死はあくまで結果と割り切っている。
「……成程、そう言う事ですか」
 ニコラスの話を聞いて、ミルトスは王族1734に感じていた違和感の正体に気付く。彼女の行為は確かに『英雄』といえる行動だが、それでもミルトスは彼女をそうとは見れなかった。何のことはない。王族1734は己の生死に意味を見出していないのだ。
 自らが死んだという結果には意味を成さない。ただ自分がどう戦った、という行為のみが重視される。そこに生きようと言う意思は薄弱で、死に抗う事はしない。死を恐れない覚悟は、単に死を受け入れているから。危険を顧みずに目的に邁進するのは、それが生き方だから。――その在り方は、ミルトス自身とよく似ていた。
(私が私自身を『英雄』と見れないように、彼女もそう見れなかったのですね)
「……それは、かわいそう。アナ……ずっと、ひとり……」
 アナの死生観を聞き、ノーヴェは強く武器を握りしめる。目的のために行き、死んでも構わない。その為に敵に屈し、戦いに身を投じ、そして死んでいく。誰にも理解されず、死んでいっても構わない。そう言っているのだ。
 ずっとそうすることが当然で、ずっと誰かに頼ることをしなかったのだろう。ノーヴェには寄り添う双子がいた。だけど彼女は本当に一人で戦ってきたのだ。そしてそのまま死ぬ。それを、当然と受け入れているのだ。
「だ、め……一人ぼっちに、させない」
「確かにな! 自分一人でインディオの未来を背負うんじゃねぇよ!」
 言いながら王族1734に特攻するジーニー。インディオの未来を憂いるのは、彼女だけではない。今この地に生きるインディオ達も、そしてジーニーもそうだ。勝手に一人で背負った勝手に死んでいく。そんな真似はさせやしない。
「おい、王族1734! アナってのは『母親』って意味だろ! インディオの子供を救うために必死になるのは解るけど、ちったぁ周りを見やがれ!」
 ジーニーの言葉に、一瞬身体を振るわせる王族1734。自らの真明。その持つ意味。それを知っているのは、同じ部族のものだけだ。彼女の視線がこちらを向いたことを確認し、ジーニーは声高らかに告げる。
「お前には特別に教えてやるよ! 『アミトラ』、これが私の名前だ! 私はインディオ達と大地を繋ぐ、虹の架け橋となるぜ!」
 アミトラ。インディオの言葉で虹を意味する言葉。ジーニーは自らの覚悟と共にその名を告げる。その道が険しく容易ではない事は知っている。それでも成し遂げる。その意思を伝えるように、斧を振り下ろす。
「……っ!」
 激しく呼吸を整える王族1734。自由騎士の通中攻撃を受け、息絶え絶えの状態だ。それでも折れぬ戦意を示すように、自由騎士を睨みつける。
 戦いは佳境に迫ってきている。
 勝利を勝ち取る確率は、まだどちらにも残っていた。


 自由騎士達は王族1734を集中砲火する。
 それは彼女が最大戦力であることががあげられる。そして彼女を狙うためには彼女を守る防御タンクをどうにかしなければならない。
「行くぞ、キリ!」
「はい!」
 ナバルとキリはそれぞれの武器を構え、防御タンクを押し払うようにしてそのバランスを崩す。相手のバランスさえ崩してしまえば、充分な守りはできない。バランスを崩した隙を狙い、一気に王族に攻撃を集中させる自由騎士達。
「貰ったぜ。インディオの事は私に任せて、大人しく寝てな!」
「……っ!」
 ジーニーの振るう己の一撃を受けて、王族1734は膝をつく。
「よっしゃ――って!?」
 だが、それは敵も同じことが出来ると言う事だ。
「ス・イ・チ・シ・ン!」
 騎士の号令と共に防御タンクが盾を構える。権能によりタイミングをそろえられた盾の一撃が自由騎士達を襲う。ナバルとキリのバランスを崩して防御の隙を生み、ガンナーや魔術師も同時に攻撃を撃ち放つ。
「なんと……!?」
「マジか……!」
「っあ……!」
 ガンナーの矢弾がテオドールとニコラスの体力を奪い、炎の矢がアンネリーザを襲う。それぞれフラグメンツを燃やして耐えるが、被害は軽微とは言えない状況だ。
(パノプティコンの権能による連携攻撃か。初期の技とはいえ、あそこまで精度が上げられるモノなのか……!?)
 権能の存在を忘れていたわけではない。むしろ権能の内容をを知るまでは、誰もがその存在を暴こうとしていた。神の特徴を示すかのような力をオラクルに与える。パノプティコンの兵士がそれを戦術に組み入れるのは、当然だ。
 パノプティコンという群体は、まだ牙を削がれたわけではない。気を抜いたつもりはないが、それを再認識する自由騎士達。
「後は……この人達を倒せば……」
 膝をついた王族1734を見て、ノーヴェは次の目標に向かう。彼女を倒したからと言って、パノプティコンとの戦いが終わったわけではない。ここに居る彼らを倒さなければ戦いは終わらないのだ。武器を握りしめて、戦場を走る。
「くそ、あまり余裕はねぇな」
 仲間を護っているナバルは、その分疲弊が激しい。回復の要であるニコラスを守りながら、敵の防御タンクを相手する。不屈の意志も含め、気力の消費も激しかった。フラグメンツを燃やしながら自分の限界を測る。まだまだいける。行けるはずだ。
「こちらを狙ってくるか……!」
 連続で北風の精霊を召喚するテオドールは、広範囲に足止めを行う厄介然もあって集中的に狙われることとなった。工兵0087の麻痺の効果を乗せられた投げナイフで足止めされる事も多くなる。無論、それ以上に敵を足止めしたがゆえの事であるが。
「こいつを喰らっていきな!」
 斧を振るいながら敵陣を突破しようとするジーニー。度重なるダメージがジーニーを追い込む。だがそれも彼女の狙い。極限に追い込まれたジーニーは狂戦士のスイッチをオンにする。死に際の肉体が爆発的な力を生み出し、戦斧が唸る。
「これでッ!」
 拳を振るい、防御タンクとその背後にいるガンナーを攻撃するミルトス。彼女はパノプティコンの徹底抗戦と連携を予測し、それに合わせた立ち回りを行っていた。常に複数攻撃することを考慮し、足を止めぬように麻痺に対する加護を身に着けて。
「こりゃヤバい、麻痺とかの回復は任せたぜ!」
 度重なるダメージにニコラスはバッドステータスの回復よりも仲間の傷を癒す方に力を注ぐ。切り札の癒しの術も解放し、状況を立て直そうと術を行使する。敵も必死なのは見て取れる。ここで持ちこたえられるかどうかが分水嶺だ。
「は、はい! キリ頑張ります!」
 ニコラスに指示されて、キリは癒しの術を行使する。パノプティコンの攻撃でフラグメンツを燃やしながら、それでも仲間を守るために戦うキリ。気力を振り絞り、何とか動く手足を駆使して動き回る。呼吸する力すら無くなりそうなほどだ。
「大丈夫。騎士を全員落とせば、後衛に雪崩れ込める。そうなれば……」
 混乱する戦況の中、アンネリーザは自分を落ち着かせながらライフルを構える。頭の中で優先順位を定め、そしてその順番を違えないようにする。人数差はあるが、逆に言えば人数を減らせばそれで相手の優位性は消える。
「はっ! 王族以外にも骨のある奴がいるじゃねぇか!」
 ロンベルは笑みを浮かべてパノプティコンの騎士に挑む。王族1734を倒せばあとは雑魚、とまで見下していたわけではないが、それでも予想以上に食らいついてくる。まだまだ楽しめそうだと斧を握りなおした。
「さすがに長期戦になると、厳しいですね」
 パノプティコンの攻撃を受けてフラグメンツを燃やすアンジェリカ。独自の技法で避け続けてはいたが、数を重ねられれば全てを避けられるわけではない。相手の命中精度を賞賛しながら、武器を構えなおす。
 イ・ラプセルもパノプティコンも、共に死力を尽くす。互いの持ちうる能力を最大限に生かして戦い続ける。
 差が生まれたとすれば、個の認識。
 王族1734を先に倒す。それは自由騎士全員の認識だ。その為に防御タンクを妨害し、そして一気呵成に攻め立てる。
 だが、その後の認識は個々で異なっていた。個人個人バラバラで敵を攻め、同時にパノプティコンの権能を深く意識していなかった。ここで相手の数を減らす戦術をとれば、連携による被害をもう少し下げることが出来たかもしれない。
 重ねられる管理国家の攻撃。一つ一つは小技と言ってもいいが、互いの隙を埋めるような連携がその精度を増す。それがじわじわとイ・ラプセルを追い詰めていく。
 無論、自由騎士達もパノプティコンに攻撃を加えていく。個人戦闘力で言えば、パノプティコンの騎士よりも高い実力を持っている。幾多の戦いを乗り越えた彼らは数で押すパノプティコン兵を少しずつ減らしていく。
「……く、ここまでか」
 拮抗が崩れたのは、回復役のニコラスが倒れてから。そして守り手のナバルとキリが倒れ、そこから形勢が押されていく。イ・ラプセルも攻勢に出て盛り返すが、勢いはパノプティコン側に傾きつつあった。一人、また一人と力尽き、倒れていく。
 そして――パノプティコン導師の放った炎が戦場を舐める。その炎を受けて、アンジェリカが倒れ伏す。戦場に立っているのはパノプティコンの導師と魔法兵の二人のみ。彼らは動けなくなったパノプティコン兵士に応急処置をし、特攻を続けようとする。
(……だ、め……。そんな事、したら……)
 ノーヴェは薄れゆく意識の中、その様子を見ていた。自由騎士に打ち勝ったとはいえ、彼らの疲弊は激しい。このまま進軍しても十分な効果を得られずに力尽きるだろう。そのまま囚われ、殺される。
(アナが……つめたいになったら、ざわざわ、する)
 ノーヴェは自分自身にアナを重ねていた。国や立場こそ違うが、黙々と目標に向かって進んでいく彼女。そんな彼女を縛る様々な環境。それが彼女を死に追いやっていく。それは――
(させない……そんな事は、させない、から)
 しかし、体は動かない。力を込めても指を動かすのが限界だ。指にはめたカランビットを手繰り寄せるのが限界だ。それ以上は、無理――
(無理……でも、動く……)
 願いは強く。しかし動かない。動かない。動かない。動かない、動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない……! 当たり前だ。戦い倒れた身体は動かない。ダメージが深く動かない。動くはずがない。何故なら自分は傷つき倒れたから。少しでもいい、僅かでもいい、動いて――
(動く……アナの、為に……)
 動くはずがない。そんな事は解っている。それでも動く。自分の為じゃない。誰かのために。その意思が止まった身体を僅かに動かした。
 星形のブリキ容器を握りしめる。僅かに沸いた力を使い、腕に力を入れる。助けたいと思う気持ちを力に変え、足に力を入れる。ゆらり、と立ち上がるノーヴェ。身体が痛い。怠い。眠い。このまま倒れたい。身体の全てがそう告げている。ノーヴェはそれを押さえ込み、刃を握りしめた。
 ノーヴェの方を振り向くパノプティコン兵士。瀕死の彼女にとどめを刺そうと、呪文を唱える。止まってくれてよかったと思う。距離を離されたら、追う体力はない。もう、僅かしか動けないのだ。
「……必、殺……」
 最小限の動作。一足進んで、刃を振るう。ノーヴェに出来る事は、たったそれだけ。
 たったそれだけの動作で、ノーヴェの刃はパノプティコン兵士達の胸を割き、その意識を刈り取る。それは水面を飛び立つ白鳥のように優雅で、そして無駄のない一閃。
「……アナは……沢山、沢山……頑張って、た……。だ、から……休憩……だ、よ……」
 ふらりと体を揺らしながらノーヴェは倒れ伏す王族1734に声をかける。
「私も……少し……休、憩……」
 そのまま全てを出し切ったかのように、ノーヴェも意識を失った。


 自由騎士達が目を覚ましたのは、自軍のテントだった。
 戦闘を聞きつけたイ・ラプセル軍が、倒れていた自由騎士達とパノプティコン兵士を見つけたのだ。自由騎士達は簡素だが治療を受けて意識を取り戻す。体中が痛むが、動くことはできた。
 そしてパノプティコン兵士達は――
「旧シャンバラ領に送るのは難しいか」
 テオドールは事前に『パノプティコン兵士達は戦略価値の低い旧シャンバラ領に送る』という案を出していた。だが、それは非現実的だと返される。
「あの地域の人間ならアイドーネウスを始めとしたパノプティコン国に情報が漏れても構わない、というのか?」
「そうは言っていない。かの地ならパノプティコンが奪還するのが不可能という理由だ。充分な補填も――」
「金を出すから危険を受け入れろと?」
 そう言われればテオドールも強くは出れない。ただの捕虜ならともかく、パノプティコンに国民登録された者はアイドーネウスに情報が筒抜けになる。その危険性を『金を出すから我慢しろ』と言っているのだ。金で危険を押し付けたと非難されかねない。
 或いは経済的な補填が出来るなら、通商連に預けるのが妥当だったかもしれない。
「そんな!? 彼女達は利用されただけなのよ! なんとか生かしてあげる事はできないの!?」
「彼女達は危険だ。解放する事はできないし、もし逃げられたら誰が取り押さえる? 自由騎士の精鋭でも押さえきれなかったんだろう?」
 パノプティコン兵士達を生かすように意見するアンネリーザ。だが、王族1734の危険性の高さが反対意見を高めていく。ここに居る10名でも辛勝だったのだ。その結果が警戒心を高めていた。
「確認だが……どうしても彼らを生かしたいのか?」
 パノプティコン兵士を捕虜にするのはリスクがある。それは自由騎士達は理解はしている。そのうえで、問いかけるイ・ラプセル騎士。
「アナがつめたいになると……ざわざわする、から」
「……できる限り死なせたくない。彼らだって、オレらと何も変わらないんだから」
「インディオを救う、って言ったんだから当然彼女も救わないとなぁ」
「アクアディーネ様の権能の意味は、こういう事だと思うわ」
「キリは、アナさんとお話がしたいです!」
 ノーヴェ、ナバル、ジーニー、アンネリーザ、キリは積極的に生かしたいと告げる。
「国民の安全が約束されるのなら、か」
「なんつーか、彼女達にそこまで生きたいっていう思いを感じないのよね、オジサン」
「そうなんですよね。まあ私が言えたことではないのですが」
「俺は特に言う事はないぜ。強いて言えば、次は死ぬまでやりたいぐらいか」
「脅威は去りました。後は神の意志にお任せします」
 テオドール、ニコラス、ミルトス、ロンベル、アンジェリカは中立、或いは不干渉といった態度だ。
「……わかった。リスクはあるが、捕虜としてとらえよう」
 今回の功労者をねぎらう意味で、パノプティコン兵士達の処遇が下される。目隠しなどをして情報を可能な限り遮断し、見張りを強化して脱走の危険性を塞ぐ。通常の捕虜よりも厳重に管理される。
 かくしてイ・ラプセルは獅子身中の虫、あるいはトロイの木馬を抱えることになる。


 かくしてイ・ラプセル軍を狙った部隊は止められ、基地2091への支援は滞りなく続く。
 激戦を終えた自由騎士達は仲間達が戦う基地2091を見る。伝令が、信号弾が、マキナ=ギアの連絡が、戦況を伝えてくる。
 そして戦の結果は――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『救いの刃』
取得者: ノーヴェ・キャトル(CL3000638)
『AMITOLA』
取得者: ジーニー・レイン(CL3000647)

†あとがき†

どくどくです。
ぴったり意見が割れたので、この形に。

以上のような結果になりました。
ベリーハードなので、システム面とプレイング面の両方を加味したうえでの判定となります。
パノプティコンも佳境に入りました。こちらの結果を受けて、決戦の判定となります。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済