MagiaSteam
No way! 奴隷商人を追い払え!



●奴隷解放の裏側で
 ミッシェル・イ・ラプセルがとった『亜人の奴隷受け入れ』の政策は、実のところ大きく的を外れているものではない。
 国家として目だった生産力――ヘルメリアのような蒸気機関産出能力や、シャンバラ皇国の魔道技術など――がないイ・ラプセルには亜人を受け入れるだけの体制がなかった。結果として溢れる亜人達を『労働力』という形で受け入れざるを得なかったのだ。
 もし彼らをノウブルと同列に受け入れていた場合、食糧問題や経済問題からくる対立が発生しノウブルと亜人での内戦が起きていた可能性が高い。奴隷とはいえ他国に比べ『まだまし』な扱いだったからこそ反乱はなく、国内の均衡は保てたのだ。
 そして王権は移る。エドワード・イ・ラプセルは奴隷制度を廃止し、亜人の身分を保証した。それに際しいくつかの政策も出したのだが――今はこれを語る時ではない。この話で重要なのはノウブルと亜人を同列に扱う形にしたことだ。
 亜人達からすれば立場が向上したのだが、ノウブルの立場からすれば今まで労働力として見ていた者達が自分達と同じ立場に立ったことになる。それ自体を受け入れられたとしても、彼らには恐怖が残った。

「今まで虐げてきた亜人達が、武器を持って襲い掛かってくるのではないか?」
「現王は若い。それゆえの政策なのだが、その性急さについていけぬ者もいる」
「彼らの生活保障のために国税が回されることになる。お陰で軍の予算が――」
「やはり亜人をノウブルが管理する形式の方がうまく社会が回ったのではないか?」
 言い方は様々だが、端的に言えば『前の方がよかった』である。急な改変についていけぬものは必ず存在する。正当性はともかく、そう言った意見自体は想定内であった。
 だが――
「些か『間引き』する必要があるな……。幸か不幸か、連中が内海を探っているらしい」
「ヘルメリアの奴隷狩りか……。ノウブルがさらわれるよりは……」
 国民を『売る』行為に走ることは、予想外であった。

●イ・ラプセル騎士団
「――彼らは既に捕縛済みだ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集まった自由騎士達に説明を開始する。
 今まで亜人達を虐げてきた事実から逃れるために、国民をヘルメリアに『売った』ノウブル達。その身柄は抑えたのだが、問題はまだ残されていた。
「だが彼らが奴隷狩りに受け渡した国民達は見つかっていない。逮捕の一歩前に連れ出されたようだ」
 つまりこのままだと、貴族たちに『売られた』人達は奴隷狩りの『商品』となってしまうのだ。
「急ぎ船に乗り奪還を行う。正規兵が陽動として砲撃を行い、その隙に自由騎士達が船に潜入。国民達を奪還後、撤退だ」
 オラクルは一定距離以上の遠距離攻撃には当たらないという矢避けの加護がある。こういった作戦で流れ弾に当たらないというのは大きな利点だ。
「敵は自分達の所属が分かる者を有してはいないだろうが……おそらくはヘルメリアの奴隷狩りだ。彼らの武装はこちらの物とは異なるだろう。充分に注意て応戦してくれ。
 では作戦開始だ」
 フレデリックの号令と共に、作戦が開始される。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
どくどく
■成功条件
1.イ・ラプセル国民の奪還
 どくどくです。
 スチームパンクの『闇』部分。奴隷商人(仮)暗躍です。
 

●敵情報
・奴隷商人(×4~)
 便宜上『奴隷商人』と書きますが、フレデリックを始めイ・ラプセルの見解ではヘルメリアの息がかかっている奴隷狩りだと推測されています。全員非オラクル。
 最初は正規兵の砲撃に対応していますが、侵入者がいるとわかれば応戦に廻ります。具体的には5ターンごとに二名の援軍(砲撃でダメージを受けています)がやってきます。どのタイプがやってくるかは、ランダムです。
 イ・ラプセルでは見られない蒸気兵器を持っています。キジン化した身体と一体化しているため、鹵獲には時間がかかるでしょう。

攻撃方法
TYPE1 ランサータイプ:蒸気腕に固定した騎乗槍を振り回します。
バッシュ Lv2   攻近単 気合を入れて槍を叩き込みます。
ジェットランサー 攻遠単 槍の先端を蒸気圧で射出します。一戦闘一度のみ。【必殺】
違法改造品     P  粗悪な改良がされたキジンボディです。戦闘中常に『攻UP』 【バーン1(解除不可)】【フリーズ耐性】

TYPE2 ガンナータイプ:蒸気腕に連結した銃で敵を討ちます。
ダブルシェル Lv2 攻遠単 神速の二連撃 【二連】
特殊弾『№34』 攻遠範 高価な炸裂弾を放ちます。一戦闘一度のみ。【バーン1】
違法改造品     P  粗悪な改良がされたキジンボディです。戦闘中常に『攻UP』 【バーン1(解除不可)】【フリーズ耐性】

TYPE3 シーフタイプ:蒸気腕に仕込まれた針で狙ってきます。
ブレイクゲイト Lv2 攻遠単 刃に乗せた気を放ちます。【ブレ1】
奴隷の一刺し 攻近単 懐に入り、小さな毒針を突き刺してきます。一戦闘一度のみ。【ポイズン1】【パラライズ1】【ダメージ0】
違法改造品     P  粗悪な改良がされたキジンボディです。戦闘中常に『攻UP』 【バーン1(解除不可)】【フリーズ耐性】

●場所情報
 奴隷商人の船内。その船倉前。そこまでは戦闘無しで到達できます。広さと明るさ、足場などは戦闘に支障はありません。
 囚われたイ・ラプセルの国民は扉の向こうにいます。船倉見張りの『奴隷商人』を倒して救出してください。鍵がかかっているため、『奴隷商人』を倒して探す必要があります。
 戦闘開始時、敵前衛に『ハンマータイプ(×2)』が、後衛に『ガンナータイプ(×1)』『シーフタイプ(×1)』がいます。また5ターンごとに二名の援軍が『味方後衛』に現れます。挟み撃ちになりますので、十分な対策をしなければ相応の被害が出ます。
 扉の向こうに捕らわれている国民は衰弱しているため、戦場に『奴隷商人』がいる限りは囚われた国民を連れて逃げることはできないでしょう。逆に言えば、戦場全ての『奴隷商人』を排すれば、国民を連れて逃げることができます。
 余裕がないため、事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
18モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
7/8
公開日
2018年08月23日

†メイン参加者 7人†




 砲撃が始まり、それに紛れるように小舟で奴隷商人の船に近づく自由騎士達。
 鍵付きロープで船に潜入し、混乱に紛れて船の中を走っていた。
「うううん……王様が『奴隷解放!』なーんて言っても現実はなかなか変わらないもんだよねぇ」
 ため息をつきながら『もてかわハーレム♡マスター』ローラ・オルグレン(CL3000210)がため息を吐く。改革は重要だが、それにより失うこともある。それを望まない人間は確かにいるのだ。
「ですね。だからと言ってそれを受け入れるわけにはいきません」
 サブロウ・カイトー(CL3000363)はローラの意見に頷く。現実は簡単に変わらない。かといって『変わらない』と諦めるつもりはない。改革はいつだって少しずつ進んでいく。問題を解決しながら、一歩ずつ変えていくしかないのだ。
「奴隷商人……許すわけにはいきません!」
 怒りの炎を燃やす『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)。人を商品扱いし、売買する。尊厳を蔑ろにし、道具のように扱う彼らにアリアは手加減をするつもりはなかった。急いで皆を解放しないと。
「しかし、ヘルメリアのキジンか……」
『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は苦虫を潰したような表情を浮かべる。イ・ラプセルに来る前は傭兵として生きてきたザルク。その経験の中でいろいろな物を見たのだろう。思い出とともに言葉を飲み込み、通路を走る。
「この船もすごいよねー。時間があればもっと見てみたーい!」
 イ・ラプセルでは見られない船の構造に『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)が感嘆する。隠密用に作成された小型高速船。エンジンのリズムと音、そしてギア比など見てみたい所はある。目的を忘れるつもりはないけど、興味深い。
「あっちね。急ぎましょう」
『血に染まる銃姫』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は瞳に魔力を施して壁の向こうを透視する。その情報を先を走るアリアに触れて、情報を伝達する。これは可能な限りクリアに情報を伝える為であって、セクハラなどではない。でも背中のお肌すべすべ。
「さーて、ヘルメリアの蒸気技術を見せてもらいましょうか!」
 未知の技術に興味津々とばかりに『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は微笑んだ。世界は広く、クイニィーの好奇心を満たすものはたくさんある。この目で全てを見て、情報として蓄積するのだ。
 そして目的の船倉にたどり着く。事前情報通り、船倉を守る四人の奴隷商人。自由騎士達に気づいていたのか、既に武装は起動済みだ。
「侵入者だ!」
「イ・ラプセルの国民を返してもらうよ!」
 交差する声。それが開戦の合図。
 異国のキジンと自由騎士。イ・ラプセルの国民をかけた戦いが、今切って落とされた。


「イ・ラプセルの民は返してもらいます!」
 言葉と同時に先駆けるアリア。見張りとの距離を一気に詰め、怒りと共に刃を繰り出す。この扉の向こうで絶望に打ちひしがれている人達。そのことを思うと怒りが増し、自然と武器を持つ手に力がこもる。
 右手もつ剣を相手に向ける。フェイントとは仕掛けた瞬間に九割決まっている。見張りがアリアの剣に気を取られた瞬間、勝利は確定した。流れるようにしゃがみ込み、相手の足を払う。バランスを崩した相手に起き上がりざまに斬りかかった。
「先に言っておきます。投降と降参は受け入れますが、手加減はしませんので」
「クールですねぇ。ですがほぼ同意見です」
 太刀を構えるサブロウ。移住民でありオニビトでもあるサブロウにとって、奴隷問題は他人事ではない。来る国を間違えれば、生活の保障などなかったのだ。尊厳と財産を奪われ、労働を課せられる。それさえ衣食住が在るだけマシなのだから。
 地面を滑るように移動し、見張りにに迫るサブロウ。重心を崩すことなく迫るが肝要。体幹が揺れれば刃筋もぶれ、斬撃も不十分になる。基礎にして剣術の根幹ともいえる足はこび。水面を歩くように軽やかに迫り、風のように刃を振るう。
「ヘルメリアの蒸気技術は世界一ですからね。お帽子とか衣服で、角とか牙とか隠してません? 僕みたいに」
「素直に教えてくれるわけ、ないわよ。あったとしても削るぐらいはするんじゃない?」
 陰鬱な顔をしてローラが答える。彼らは身分を隠してイ・ラプセルで悪行を行っている。身元がばれそうな物は可能な限り無くすはずだ。『奴隷』と思った相手に『人』がどれだけのことをするか。夜の街を知るローラはうんざりするほど知っていた。
 気持ちを切り替えて戦場を見るローラ。傷ついている仲間を見て、その傷具合を判断する。頭の中で治す順番を番号付けながら、魔力を回転させる。癒しの魔力が波動となって、ローラの指から放たれた。痛みが引き、傷口も少しずつふさがっていく。
「でもいいオトコはいるかも?」
「いい男はこんな所で誘拐なんてしないだろうよ」
 銃を片手にザルクは苦笑する。イ・ラプセルの国民を連れ去って得られるのは、金か安全か。その為にその人間の一生を闇に落とそうとするのだ。そんな人間が『いいオトコ』のはずがない。
 銃を握り、意識を集中するザルク。弾を込めながら、心の中で秒針を動かす。一秒ごとに目まぐるしく変わる戦場。弾を打つのではない。相手が動く先に銃口を向け、トリガーを引くのだ。乾いた音と共に放たれた鉛の弾が、キジンの胸に穴をあける。
「鍵を持っているのはお前だな。胸に何か隠しているのがバレバレだぜ」
「ま、外れていてもあたしが開けるけどね!」
 にかっ、と笑みを浮かべるクイニィー。見たところ鍵の構造はそれほど難しくなさそうだ。だが乱戦状態の隙を縫って扉まで近づくのは難しそうだ。見張りも扉へ近づく者を最優先で攻撃する。こっそり紛れて……とはいかない状況だ。
 諦めて見張りの排除を手伝うクイニィー。錬金術により生み出された命なき兵士。人形は主の意志を読み取り、見張りの一人に襲い掛かる。繰り出される剣が蒸気の槍を跳ね上げ、その隙を縫うように剣を一戦した。金属が削れる音が船内に響く。
「はぁー。へルメリアの蒸気技術ってほんとすごーい!」
「まー、あたしはキジンの身体に興味はないんだけどね。乙女の肌みたいに柔らかくないし」
 一部女子を見ながらヒルダが強く頷く。双丘、くびれ、臀部。そのラインを目で追い堪能した。暗くなりがちな奴隷問題。その空気を吹き飛ばそうと、明るくヒルダは笑うように言うのであった。
 ペースを取り戻すように戦場を歩くヒルダ。まるで友人に迫るように見張りに迫り、間合に踏み込んでいく。振るわれる槍をしゃがんで避け、その体制のまま銃を上に突き出した。下から笑顔で敵を見上げ、躊躇なく引き金を引く。
「ガンガン行くわよ!」
「おいらもまけないよ!」
 虹の瞳で戦場を見ながらジーニアスが武器を構える。いったん待機して状況を見ながらジーニアスは動いていた。時に静かに、時に素早く。その時の最適解を求め、その答えに最も近い行動を行うように。
 弱った見張りに向けて武器を向ける。蒸気機構を組み込んだ軽機械剣。ボタンを押すと同時に内部の水が水蒸気化し、一気に噴出される。気化時の膨張を推進力として放たれる飛刃。予想外の速度で飛ぶ刃が見張りを襲う。
「どうだい! 違法改造されたキジンになんか負けないよ!」
 イ・ラプセルで見られるキジン以上に煙を排出する奴隷商人達。その熱気が自身をも蝕むのか、彼らの呼吸は荒い。長期戦には向かない不安定なモノのようだ。
 とはいえ、こちらも時間をかけている余裕はない。自滅を待っていれば援軍がやってくる。時間をかけすぎれば、囚われた人達を救う事ことはできなくなるだろう。それは自由騎士達も重々承知している。国民の救出が最優先事項である以上、出来るだけ速く助け出す必要があるのだ。
 砲撃音が響く船倉の中で、自由騎士と奴隷商人が刃をかわす。


 奴隷商人が使っているのは短期決戦用の違法改造ボディだ。長期戦には向かないが、瞬発的な火力は高い。
「あいたたたた……!」
「これは厳しいですね」
 激しく蒸気を吹き出す奴隷商人たちの攻撃を受けて、ジーニアスとザブロウが苦悶の表情を浮かべる。倒れそうになる戦意を英雄の欠片を燃やして保ち、武器を構えなおす。
「きゃん! ちょっと、いきなり後ろからとか激しすぎるわ!」
 やってきた援軍から集中砲火を喰らい、ローラも大怪我を負う。フラグメントを削りながらなんとか耐え抜いた。
「囲まれた……っ。このままだと……!」
 二刀を振るいながらアリアは焦りを感じていた。ここで自分達が倒れれば、まず間違いなく助けは来ない。武装解除され奴隷として連れていかれるだろう。反抗した自分達は拘束され、そして……。螺旋を描くように悪い考えがアリアの脳内を渦巻いていた。
「この程度は想定内よ! 先ずは救出優先!」
 弾を込めながらヒルダは活を入れる。挟み撃ちされることは想定のうちだ。やるべきことを念頭に入れ、最短距離で突き進む。胸に決意を刻み、臆することなく突き進む。それがヒルダ・アークライトというガンナーだった。
「確かに。急いで突破しますよ!」
 頷いて刀を振るうサブロウ。蒸気腕に取り付けられた槍や銃。合理的に見えるが、手首の柔軟さを欠いた不十分な武器でしかない。時に強く固定し、時に柔らかく曲げる。サブロウの刀が変幻自在に奴隷商人を襲う。
「こいつで決めさせてもらうよ!」
 自ら改造した武器を奴隷商人に向けて、ジーニアスが叫ぶ。扉を守る奴隷商人はあと一人。何とか立っている奴隷商人だが、ただではやられないと銃を向けた。交差する弾丸と刃。一瞬の沈黙の後、ジーニアスは倒れた奴隷商人を見て笑みを浮かべた。
「あたし達はイ・ラプセル自由騎士だよ! 君達を助けに来たんだ!」
 扉を守る敵がいなくなった後にクイニィーが針金と鉄板を使って扉を開ける。中にいるイ・ラプセル国民を見て堂々と宣言した。自由騎士、の名前に喜びの声をあげる人達。とりあえず目的の一つは達した、と息をつくクイニィー。
「あとはこいつらを倒して帰るだけだ! 急ぐぞ!」
 叫びながら銃を撃つザルク。援軍でやってきた奴隷商人は砲撃でダメージを受けていることもあって攻めに精彩を欠く。だが攻めを緩めるつもりはない。ここは敵の船の中。時間をかければさらに援軍がやってくる。その前に――
 状況が挟み撃ちでなくなれば、前衛後衛をスイッチして自由騎士達は攻め始める。元々万全ではない援軍は盛り返した攻めをさばききれず、倒れていく。
「お前ら個人に恨みはねえが――」
 奥歯を噛み、怒りの声をあげるザルク。定期的にメンテナンスを受けなければ過剰な蒸気で身を焼くだろう違法改造ボディ。それは自らの命を人質にした首輪だ。それを強いる組織。そのやり口に反吐が出る。
「――その有様には虫唾が走るんだ。落ちろ!」
 放たれた弾丸。 それはザルクの怒りを示すかのような銃声と共にキジンの身体に打ち込まれ、奴隷商人の意識を刈り取った。


 戦いが終わって、自由騎士達はイ・ラプセル国民を救出する。
「酷い……!」
 囚われた国民を見たアリアの言葉は自由騎士達全員の認識だった。逃げられないように暴力を振るい、足を鎖でつながれている。暴力の跡が色濃く残っている所を見ると、襲撃が始まるまで痛めつけられていたのがわかる。
「駄目ね。自力で歩けそうな人はいないわ」
 一通り国民達を見てローラが首を振る。癒しの術を施しはするが、それは一時しのぎ。骨にダメージが入っていれば歩くことは難しい。なによりも精神的に怯えている人もいる。自分で歩いて逃げるのは難しいだろう。
「全くだ。充分なケアが必要かも」
 クイニィーは机の上に置いてある器具などを見てため息を吐く。刺のついた鈍器や鞭と言った拷問器具だ。ペンチのような肉体破壊を目的としたものもある。目的地に持ち帰るまで、これで反抗心を折るつもりだったのだろう。
「仕方ないね。みんなで担いで帰ろう!」
 言いながら近くにいる人を担ぐジーニアス。もう少しこの蒸気船や倒れている未知の蒸気腕を見ていたいという気持ちはある。だがそこに拘泥して国民を危険にさらすことはできない。
「ふむ確かに。興味はあるのですがねぇ、蒸気技術」
 同意するようにサブロウも頷いた。アマノホカリにもイ・ラプセルにもなかった蒸気技術。戦って分かったことも多いが、扱ってみたくもある。とはいえそれは今ではない。ヘルメリアと本格的に相対することがあるだろう。
「…………ふん」
 様々な感情を胸の中に秘め、ザルクは違法改造のキジンたちを見る。その後でその全てを飲み込むように息を吐いて背を向けた。彼らの一人でも連れて帰れば情報源にもなるのだが、その余裕はない。いずれまた会う時が来れば――
「それじゃ行くわよ。帰り道も気楽じゃなさそうだけどね!」
 壁の向こうを透視しながら、ヒルダは銃を構える。その眼には走ってくる違法改造キジンが写っていた。ここは敵の船の中。帰りはよいよいと行くはずもない。国民を守りながら突破しなければならないのだ。上等じゃない、と笑みを浮かべた。
 他の自由騎士達も武器を構え、戦いに備える。まだまだ戦いはこれからだ。
「3……2……1……GO!」
 自由騎士達の銃声が響き、剣戟が煌めいた――
 
 かくして自由騎士達は奴隷商人に奪われた国民達を奪取することに成功する。
 奴隷商人が乗ってきた船は、砲撃から逃げる形でイ・ラプセル海域を脱する。これ以上追うことは様々な問題から難しく、また目的を達していることよりこの時点で作戦終了となった。
 捕らわれていた国民達は騎士団を始めとした医療関係者により肉体的&精神的なケアを受けている。全員、命に別状はないとのことである。
 通商連を通してヘルメリアに通告をしては見たが、帰ってきたのは十二枚程の書面。色々あるが要約すれば『本国とは無関係』という返答である。違法改造ボディに関しても、ヘルメリアで正式に作られたものではないということである。
 イ・ラプセル騎士団海軍はヘルメリア方面からの警戒網を強めることを決定。その発言自体が示威行為となったのか、かの船を見たという報告は暫く聞かなくなった。


「ふん、小国の分際で! それで勝ったと思うなよ!」
「亜人をあれだけ有しておきながら、財産として使用しないとは狂っている!」
「我々が亜人を活用すれば、国はもっと栄えるというのに!」
「土地もだ。湾岸に工場を立てて内陸で蚕を作れば良いのに。祭りなどで無駄に生産力を消費するなどもったいない!」
「所詮は若き王の道楽。理想に溺れて死にゆく運命よ」
「そうとも。最後に笑うのは世界に広く根付いた蒸気機関の力。『蒸気王』とディファレンスエンジン、そしてヘルメス様の権能!」
「「「――我ら、ヘルメリア王国だ!」」」


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

(あとがきという名のどくどくの一言)
 ピッキングマンがなければ、もう一回増援間に合っていたのに……!
FL送付済