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麻薬組織を一網打尽せよ!

●
戦争と平和は表裏一体であり、戦争が終われば世界は平和になる――
というのは幻想だ。戦争が終わったらそれまでの苦労はリセットされ、新しい時代になれば皆が幸せになれる。そう信じて戦わせるためのモチベーションでしかない。
戦争という事実は否定できず、そこで起きた悲劇はなかったことにはできない。苦労を忘れるということは脳の記憶をすべてなくすことであり、それは医学的に見ても異常なことだ。普通の人間は過去を忘れることができず、悲劇を乗り越えて前に進める人間はそういった言語に騙されるか、あるいは過去を乗り越えられるだけの何かがあるに過ぎない。
それは勝利に酔うという精神的なごまかしだったり、戦争で得た利益だったりする。あるいは共に支えあう相方だったり、戦いの中で得た満足だったりする。そういった支えが戦争の悲惨さに勝れば、平和な時代に順応することもできるだろう。
そういったものを万人が得られるわけではない。事、敗戦国はそういった人の比率が多い。これまで得てきた安寧を失い、名誉を失い、利得を失い、地位を失い、身体部位や財産を失い、住処を失い――マイナスがどれだけ多かろうと、それを取り戻す手段はない。それが現実だ。
そういった人間はどうなるか? 世を儚んで命を絶つか、不満を爆発させて暴れるか。極論すればその二極。つまるに世界が悪いと結論付けての自傷か破壊。それもまた戦争の傷跡であった。
だがすべての人間がそこまで極端でもない。ほとんどの人間がそうなる前にブレーキがかかる。それは悪いことはできないという倫理観だったり、死を恐れる精神だったりと様々だ。だが、不満は解消されない。失ったものは戻らず、心の痛みは生きている限り自分を苛んでいく。
この痛みを解消する薬があるなら、それに頼りたい。誰だってそう思う。そして悪魔がささやくように、その『クスリ』は広がっていくのであった。
●
かつて『VF』と呼ばれる薬があった。
フェアボーテネフリュヒテ。寿命を削り、超人的な力を得る薬。アッティーンと呼ばれる果実を蒸留して作られる薬で、ヴィスマルクの兵士に使用されていたものである。
その製造ルートはヴィスマルク制圧時に抑えることはできたが、その責任者を捕らえるには至らなかった。ヴィスドラゴンでの決戦時にはすでに逃亡していたという。その後、ソフ00等により世界が混乱し、追跡を十分に行えなかったという。
ダミアン・ユンガー。彼は地下に潜り、中毒性のある向精神薬――ありていに言えば麻薬を製造し、そしてばらまいていた。ヴィスマルクの元兵士を従えて、非合法な商売を行っていた。
「もっと、もっとクスリを売ってくれ!」
「だったらカネ持ってきなぁ! 金がない? なら身体でも売るんだな」
「あそこの店襲って、金庫から盗んでくればいいじゃねーか」
「うううううう……」
かくして共和制の発展の裏で、その組織は利益を得ていた。戦争で奪われ、しかし暴れることなく生きようとする『普通』の人の心をからめとって。
「全く、戦争様様だ。エドワードが戦争してくれたおかげで大儲けだっぜ!」
「はっはっは。何なら俺たちが起こそうか? ネオ・ヴィスマルクとかテロ組織作ってよぉ!」
「薬の研究ができるなら私はどうでもいい」
「ユンガー先生はストイックだねぇ。まあ、おかげで俺たちも金儲けできるってもんよ!」
平和の世界のはざまで、弱者を嘲笑う声が木霊した。
調査の結果、その麻薬組織の情報をつかみとる。ヴィスマルク郊外の廃村。そこで多くの奴隷を使い、麻薬を生み出しているという。
選出された自由騎士たちは、逃亡経路封鎖を確認してそこを襲撃する。
戦争と平和は表裏一体であり、戦争が終われば世界は平和になる――
というのは幻想だ。戦争が終わったらそれまでの苦労はリセットされ、新しい時代になれば皆が幸せになれる。そう信じて戦わせるためのモチベーションでしかない。
戦争という事実は否定できず、そこで起きた悲劇はなかったことにはできない。苦労を忘れるということは脳の記憶をすべてなくすことであり、それは医学的に見ても異常なことだ。普通の人間は過去を忘れることができず、悲劇を乗り越えて前に進める人間はそういった言語に騙されるか、あるいは過去を乗り越えられるだけの何かがあるに過ぎない。
それは勝利に酔うという精神的なごまかしだったり、戦争で得た利益だったりする。あるいは共に支えあう相方だったり、戦いの中で得た満足だったりする。そういった支えが戦争の悲惨さに勝れば、平和な時代に順応することもできるだろう。
そういったものを万人が得られるわけではない。事、敗戦国はそういった人の比率が多い。これまで得てきた安寧を失い、名誉を失い、利得を失い、地位を失い、身体部位や財産を失い、住処を失い――マイナスがどれだけ多かろうと、それを取り戻す手段はない。それが現実だ。
そういった人間はどうなるか? 世を儚んで命を絶つか、不満を爆発させて暴れるか。極論すればその二極。つまるに世界が悪いと結論付けての自傷か破壊。それもまた戦争の傷跡であった。
だがすべての人間がそこまで極端でもない。ほとんどの人間がそうなる前にブレーキがかかる。それは悪いことはできないという倫理観だったり、死を恐れる精神だったりと様々だ。だが、不満は解消されない。失ったものは戻らず、心の痛みは生きている限り自分を苛んでいく。
この痛みを解消する薬があるなら、それに頼りたい。誰だってそう思う。そして悪魔がささやくように、その『クスリ』は広がっていくのであった。
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かつて『VF』と呼ばれる薬があった。
フェアボーテネフリュヒテ。寿命を削り、超人的な力を得る薬。アッティーンと呼ばれる果実を蒸留して作られる薬で、ヴィスマルクの兵士に使用されていたものである。
その製造ルートはヴィスマルク制圧時に抑えることはできたが、その責任者を捕らえるには至らなかった。ヴィスドラゴンでの決戦時にはすでに逃亡していたという。その後、ソフ00等により世界が混乱し、追跡を十分に行えなかったという。
ダミアン・ユンガー。彼は地下に潜り、中毒性のある向精神薬――ありていに言えば麻薬を製造し、そしてばらまいていた。ヴィスマルクの元兵士を従えて、非合法な商売を行っていた。
「もっと、もっとクスリを売ってくれ!」
「だったらカネ持ってきなぁ! 金がない? なら身体でも売るんだな」
「あそこの店襲って、金庫から盗んでくればいいじゃねーか」
「うううううう……」
かくして共和制の発展の裏で、その組織は利益を得ていた。戦争で奪われ、しかし暴れることなく生きようとする『普通』の人の心をからめとって。
「全く、戦争様様だ。エドワードが戦争してくれたおかげで大儲けだっぜ!」
「はっはっは。何なら俺たちが起こそうか? ネオ・ヴィスマルクとかテロ組織作ってよぉ!」
「薬の研究ができるなら私はどうでもいい」
「ユンガー先生はストイックだねぇ。まあ、おかげで俺たちも金儲けできるってもんよ!」
平和の世界のはざまで、弱者を嘲笑う声が木霊した。
調査の結果、その麻薬組織の情報をつかみとる。ヴィスマルク郊外の廃村。そこで多くの奴隷を使い、麻薬を生み出しているという。
選出された自由騎士たちは、逃亡経路封鎖を確認してそこを襲撃する。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ダミアンの討伐(生死は問わない)
どくどくです。
戦争は終わった後が厄介な話パート……忘れたわ!
●敵情報
・『アールツナイ』ダミアン・ユンガー(×1)
元ヴィスマルクの研究者。『VF』と呼ばれる薬を作り、亜人に投与する計画を立案・実行した人間。錬金術スタイル。30代男性。元の階級は中佐(相当)。
薬の研究に傾倒し、それさえできれば善悪は問わないタイプのマッドサイエンティスト。どのように人間が壊れるかも結果の一部として受け止め、そのことに心を動かすことなく次の研究に進みます。理性のブレーキはあるけど、作動させない悪。
『象形寓意の書 Lv5』『ティンクトラの雫 Lv4』『ミラーニューロン』等を活性化しています。
・『不良騎士』ザシャ・ブラッハー(×1)
キジン(ハーフ)。三〇代男性。オラクル。蒸気騎士スタイル。元の階級は軍曹。戦い大好き殺すの大好きな憲兵でした。戦後にユンガーと出会い、荒事担当としてユンガーの右腕になりました。
『バンダースナッチ Lv4』『クイーンオブハート Lv4』『ドーマウス Lv5』等を活性化しています。
・『紅化粧』ボタン・コチョウ(×1)
オニビト。二〇代女性。オラクルです。ジョブはサムライ。元の階級は一等兵。アマノホカリから流れてきたモノです。血に濡れた自分は美しい、という歪んだ美意識を持ってます。戦争を忘れられず、戦を求めて闇に潜りました。
『吸血』『飛燕血風 Lv5』『心眼 Lv4』『星眼八咫烏 Lv4』等を活性化しています。
・『押収物 №10865』コンスタンツェ(×1)
ヨウセイ。10代女性。オラクルです。ジョブはダンサー。階級はなし。シャンバラ戦役の際にヴィスマルクに捕まり、奴隷を経てブラッハーの憲兵隊に押収されました。戦いの度にこき使われ、心は既に摩耗しています。命令に逆らう気力はありません。
『自然共感』『二重螺旋のボレロ Lv4』『タイムスキップ Lv5』『ツイスタータップ Lv4』等を活性化しています。
・チンピラ(×3)
元ヴィスマルク兵。軍を退役し、まともに働く気力もなく組織に参入しました。
『ピンポイントシュート Lv3』等を活性化しています。
敵の一部は拙作『Working! ヴィスマルクの勤勉な憲兵!』から出ています。該当作を知っている必要はありません。元ヴィスマルク兵が悪党になったという認識で問題ありません。
●場所情報
ヴィスマルク郊外の廃村。山に囲まれた場所で麻薬のもととなる植物を、奴隷(違法)を使って栽培しています。ユンガーたちがのいる建物に突撃する形です。
村は完全包囲しますので、敵が逃亡できません。自由騎士を正面突破して逃げようとしてきます。
戦闘開始時、敵前衛に『ザシャ』『ボタン』『コンスタンツェ』が、敵後衛に『ダミアン』『チンピラ(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
戦争は終わった後が厄介な話パート……忘れたわ!
●敵情報
・『アールツナイ』ダミアン・ユンガー(×1)
元ヴィスマルクの研究者。『VF』と呼ばれる薬を作り、亜人に投与する計画を立案・実行した人間。錬金術スタイル。30代男性。元の階級は中佐(相当)。
薬の研究に傾倒し、それさえできれば善悪は問わないタイプのマッドサイエンティスト。どのように人間が壊れるかも結果の一部として受け止め、そのことに心を動かすことなく次の研究に進みます。理性のブレーキはあるけど、作動させない悪。
『象形寓意の書 Lv5』『ティンクトラの雫 Lv4』『ミラーニューロン』等を活性化しています。
・『不良騎士』ザシャ・ブラッハー(×1)
キジン(ハーフ)。三〇代男性。オラクル。蒸気騎士スタイル。元の階級は軍曹。戦い大好き殺すの大好きな憲兵でした。戦後にユンガーと出会い、荒事担当としてユンガーの右腕になりました。
『バンダースナッチ Lv4』『クイーンオブハート Lv4』『ドーマウス Lv5』等を活性化しています。
・『紅化粧』ボタン・コチョウ(×1)
オニビト。二〇代女性。オラクルです。ジョブはサムライ。元の階級は一等兵。アマノホカリから流れてきたモノです。血に濡れた自分は美しい、という歪んだ美意識を持ってます。戦争を忘れられず、戦を求めて闇に潜りました。
『吸血』『飛燕血風 Lv5』『心眼 Lv4』『星眼八咫烏 Lv4』等を活性化しています。
・『押収物 №10865』コンスタンツェ(×1)
ヨウセイ。10代女性。オラクルです。ジョブはダンサー。階級はなし。シャンバラ戦役の際にヴィスマルクに捕まり、奴隷を経てブラッハーの憲兵隊に押収されました。戦いの度にこき使われ、心は既に摩耗しています。命令に逆らう気力はありません。
『自然共感』『二重螺旋のボレロ Lv4』『タイムスキップ Lv5』『ツイスタータップ Lv4』等を活性化しています。
・チンピラ(×3)
元ヴィスマルク兵。軍を退役し、まともに働く気力もなく組織に参入しました。
『ピンポイントシュート Lv3』等を活性化しています。
敵の一部は拙作『Working! ヴィスマルクの勤勉な憲兵!』から出ています。該当作を知っている必要はありません。元ヴィスマルク兵が悪党になったという認識で問題ありません。
●場所情報
ヴィスマルク郊外の廃村。山に囲まれた場所で麻薬のもととなる植物を、奴隷(違法)を使って栽培しています。ユンガーたちがのいる建物に突撃する形です。
村は完全包囲しますので、敵が逃亡できません。自由騎士を正面突破して逃げようとしてきます。
戦闘開始時、敵前衛に『ザシャ』『ボタン』『コンスタンツェ』が、敵後衛に『ダミアン』『チンピラ(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2021年09月27日
2021年09月27日
†メイン参加者 5人†
●
「あの時の結果が、ここまでの被害を生み出しているなんて……」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は胸に手を当てて、悔やむような表情を浮かべた。麻薬組織の主要人物はかつてセアラが相対したヴィスマルクの憲兵隊だ。あの時交戦したときに拘束できれば今の結果はなかったかもしれない。そう思うと後悔に苛まれる。
だが、どれだけ後悔しても過去は変わらない。ならば今彼らを捕らえて、未来の被害を防ぐしかない。彼らの悪事をここで断ち、誰もが苦しむことのない未来を創るのだ。それはどれだけ困難な事か。それでも。
(合理的に見れば、薬で苦しみを紛らすことは悪い事ではないのだけど)
口には出さず、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は心の中で呟いた。同じ錬金術師であるダミアンの思考は理解できないものではない。欲するものがいるから薬を作る。それは薬学を学ぶものとして納得できるものであった。
ダミアンの経歴を調べてみたが、特筆すべき点はない。ヴィスマルク生まれの平民。成り上がるために軍人になり、そして薬学に傾倒した。上手く出世できたのは倫理を無視するやり方が時代にかみ合ったに過ぎない。
(コンスタンツェ、まだ、生きてた……)
討伐リストの中に含まれているヨウセイの名前を見て、『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は胸に痛みを感じた。ヴィスマルクに囚われた同族。あの日手を伸ばして、助けることができなかった子。
あれからどんな目にあったのだろうか? それを想像して、さらに胸の痛みは広がった。戦争が終わってヴィスマルクの逃走兵に道具のように扱われ、悪事の片棒を担わされている。敵対する相手ではあるけど、できるなら助けたい。
「できうる限り捕縛、と行きたいがな」
『戦争を記す者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375) は眉を顰める。かつてあったアクアディーネの不殺の権能はもう存在しない。殺さずに相手を捕らえるということが容易ではない。
無論、手を抜くつもりはない。ここで彼らの活動を断つことは第一義だ。殺さずに捕らえることができればそれに越したことはないが、罪状を考えれば彼らが日の目を見ることはない。余罪によっては死罪もありうるのだ。
「そうだね。とにかく懲らしめないと!」
こぶしを握って『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が叫ぶ。戦争で弱った人の心に付け入り、彼らを食い物にして金を稼ぐ麻薬組織。彼らの麻薬で弱者はさらに奪われ、無残に人生を散らしていく。そんなことが許されていいはずがない。
人々に笑顔を。それがカノンの望みであり、戦う理由だ。戦争で暗く落ち込んだ人たちに笑顔を取り戻すのは、麻薬というクスリではなく人と人との繋がりだ。笑顔を取り戻すために、拳を握って戦いに挑む。
準備は万端だ。時間に合わせて襲撃を開始する。自由騎士の五人は首魁達がいる場所に一直線に突撃した。
「自由騎士だと!?」
慌てふためく声。動揺しながらも麻薬組織達も対応していく。
自由騎士は容赦なく、その力を振るい始めた。
●
「…………!」
最初に動いたのは、サーナだ。持ち前の素早さを生かして敵の前に立ちふさがり、刃を振るう。近くで戦うコンスタンツェはボロボロの服と包帯。そしてこれまでの暴力を思わせる傷ついた身体でサーナを止めるように動く。武器らしい武器は、腕にハメられた手錠と足かせ。その姿だけでも、彼女がどのような扱いを受けたかが伝わってくる。
叫びたい気持ちをこらえるサーナ。少し住んでいる場所が違っただけで自分は自由騎士で英雄になり、彼女はヴィスマルクの残兵として扱われる。刃を重ねながらサーナは胸の痛みに苛まれていた。助けるために倒さないといけない。この矛盾に耐えながらコンスタンツェを連れまわしたザシャに刃を突き立てる。
「貴方は許しません。ここで倒します」
「クソ、焼きが回ったか? いや、まだここを逃げれば何とかなる」
「無理だな。この村は完全に包囲してある。それ以前に、ここを突破などさせぬよ」
逃げ道を模索するザシャに対し、テオドールが冷たく言い放つ。悪党に情けをかけるつもりはない。麻薬密売の罪状は重く、それにより生まれた被害は大きい。社会に大きな影響を及ぼした彼らを放置すれば、法の信頼性が疑われるのだ。信賞必罰。賞罰は行為に対して正しく行わねばならぬのだ。
孤独と病の精霊に願い、敵の動きを封じていく。抵抗など許さない。その意思を示すように精霊は動く。錬金術師のダミアンを主体に封じ込め、敵の動きを制限していく。この麻薬組織が成立しているのは、ダミアンの頭脳だ。それをここで止めて新たな被害を止める。それが未来を託されたテオドールの使命でもあった。
「汝らに逃げ道はない。大人しく捕縛されるなら恩赦もあろう。二度と陽の目は見れぬだろうがな」
「真っ平御免だぜ。なあ、アガリの半分やるから見逃してくれよ!」
「うん。典型的な悪党だね!」
チンピラの言葉を聞きながら、カノンはうんうんと頷いた。どこかの台本で見たことのあるような、典型的な悪党が許しを請うセリフ。それを受け入れるような人は誰もいない。奇を狙ったお話なら見逃すこともあるだろうが、カノンをはじめとした自由騎士たちはそんなことはない。しっかり罪を償ってもらおう。
向き直るのはオニビトのサムライ。刀を振るって戦うサムライに迫り、強く拳を振るう。イメージするは馬に乗った騎士。ジョルトのごとく強く迫り、ランスのように鋭く拳を突き出す。瞬間的に全身の筋肉を使って踏み込んで、まっすぐに拳を相手に叩き込んだ。これまで培った戦いの技量が乗った一打。
「カノンがしっかり懲らしめてやる!」
「面白い。死に際の花、咲かせてもらおうか」
「全ては生きてこそ、です」
オニビトのサムライが放った言葉を否定するセアラ。死人は何も生み出さない。新しい何かを作り出すのは、いつだって生きた人間だ。アクアディーネは自ら滅びを選んで、未来を生み出した。その覚悟を否定はしないけど、それでも自ら死を選ぶことに何も感じないわけにはいかなかった。
傷ついた仲間を癒すために魔力を展開するセアラ。聖遺物を手にして戦場を見回し、呪文を唱える。生まれた癒しの力が光となって仲間たちに降り注ぎ、麻薬組織達から受けたダメージを癒していく。魔術の癒しは一時的な効果。これが終わればきちんとした治療が必要になる。仲間の受けた傷の場所を記憶しながら、次の行動に移る。
「人の弱さにつけ入るあなたたちを逃しはしません」
「弱さを生む戦争を引き起こしたのは、ほかならぬイ・ラプセルだ」
「それは責任転嫁だね。それに戦争はヴィスマルクが発端だ」
ダミアンの言葉を即座に否定するマグノリア。確かにイ・ラプセルは神の蟲毒のために戦争を起こし、これに勝利した。この戦争により最も利を得たのは間違いなくイ・ラプセルだろう。弱者を生み出す要因となったということは否定しないが、そこで麻薬組織が跋扈したのは間違いなくダミアンに問題がある。
味方の状況を見ながらマグノリアは動きを変化させる。治癒を基軸にして、余裕があれば攻撃に転じる。相手のほうが数が多いので多人数を対処できる術式を展開して敵の数を少しずつ減らしていく。戦争を勝ち抜いた自由騎士たち。その筆頭ともいえるマグノリアの戦い方は、この戦いにおいても健在だった。
「どうあれ、ここでキミは終わりだ。研究成果があるなら教えてもらいたいね」
「断る。精魂込めて生み出した研究結果だ。処分されると分かっているのに何故渡すと思う?」
それは確かに、とマグノリアは納得した。逆の立場なら自分だって断っただろう。
数で乗り切ろうとする麻薬組織と、これまでの経験を生かして戦う自由騎士達。
両者の戦いは、少しずつ加速していく。
●
この麻薬組織は元ヴィスマルク軍が結成した急増組織。ダミアンの麻薬作製技術に暴力的な軍人が寄り添った形だ。言ってしまえば利害の一致でつながっているにすぎず、崇高な目的などない。今必死になっているのも、捕まれば一生刑務所暮らしでそれを避けたいだけに過ぎない。
対し、自由騎士達には明確な目的がある。戦争で弱った人間を食い物にする者たちを許さない。戦争の犠牲者を見過ごせない。戦争に加担した自由騎士達だからこそ、許せない相手だった。
「血に濡れてようが濡れてなかろうが、他人を食い物にして喜ぶような奴が美しくなる事なんてありえないんだよ!」
カノンはボタンに向けて拳を振るう。美の感覚は様々だ。だが他人を虐げるような人間が美しいなどとは思えない。
「他人の苦しみなど知らんな。むしろ他人が苦しみもがくからこそ、私の刃と血化粧が映えるというものよ」
「そんなのは演劇でもごめんだね!」
拳と刀が交差する。戦闘経験はほぼ互角。己にしか興味を持たぬボタンと、他人を思いやるカノン。決して相容れぬ者同士のぶつかり合いは、少しずつカノンが押し始める。
踏み込み、拳を突き立てる。踏み込み、刃で斬りかかる。拳の間合い。刀の間合い。互いの間合いをイメージし、その間合いギリギリの場所で力を込める。思うより先に体は動く。繰り返された鍛錬。くぐってきた死線。それがカノンを動かしていく。
「素晴らしい、これぞ死闘。オニビトとして興奮するだろう?」
「ふざけるな! 同じオニビトとしてこんなことに加担しているお前なんか、早く倒して忘れたいね!」
血化粧に酔うボタンをはっきりと否定するカノン。同じ種族で戦いに身を寄せていたとしても、その在り方は異なっていた。ボタンはただ闘争を。そしてカノンは闘争の先にある笑顔を。
戦争の傷をいやすのは麻薬ではない。明るい話とおいしいご飯だ。カノンはそう信じて、まっすぐに拳を突き出す。
「ダミアン・ユンガー。貴公の活動はここで終わりだ」
魔力で戦局を操作しながらテオドールがダミアンに語り掛ける。どうあれダミアンに未来はない。奇跡的なことが起きてここを逃げ通せたとしても、すぐに追撃がかかる。国境を超える事はできず、追いつめられるだけだ。
「私は薬を作っただけだ。それに堕ちていったのは弱い人間だろう」
「責任転嫁も甚だしいな。このようなクスリを作ればどうなるかなど、貴公の頭なら理解できたはずだ」
テオドールの言葉に頷くダミアン。
「無論だ。弱いものは自ら脱落していく。素晴らしいシステムとは思わないか? 手を下すことなく、役立たずを駆逐できるのだから」
「それこそ愚行だ。弱いから、役に立たないから切り捨てていいのなら、最後の一人になるまで争うことになるだろう」
「合理的な考えは錬金術師として理解するよ」
テオドールの会話に割り込むようにマグノリアが声をかける。錬金術は学問だ。合理的に物事を考え、その考察をもとに行動する。その思想自体はマグノリアも納得できる。自由騎士に入る以前のマグノリアなら、そう考えていたかもしれない。
「だけどその一側面だけで物事を見るのは間違っている。立場を変え、見識を広めるのも大事だと思うけど」
「一つの視点を極めることも重要だ」
「そうだね。それは否定しないよ。それもまた一つの道だ。
だから君を捕まえるのは、あくまで僕等の都合だ。君の研究も破棄させてもらうよ」
自由騎士として、錬金術師として、ダミアンの所業は認めるわけにはいかない。社会の不安を煽るように弱者を食らうクスリを生み出す錬金術師。同じ錬金術師として許すわけにはいかない。この世界は、この未来は、神ではなくヒトが紡いでいくと決めたのだから。
「その責任は負わないとね」
「……はい。そうですね」
マグノリアの言葉にうなずくセアラ。アクアディーネが守った未来。アクアディーネが守った世界。創造神は絶望したが、ヒトなら大丈夫だと任されたこの世界。それを乱そうとするのなら、託されたものとして止めなければならない。
「確かに戦争は多くの悲劇を生みました。財産や家族を奪われた人たちがいて、そこから目を逸らすつもりはありません。
ですが、このクスリを野放しにはできません」
「奇麗事で心の傷は癒す? ご高説で誤魔化す? いいねぇ、『勝者』はそういうことができて。お前たちがどれだけ『敗者』にやさしく語りかけたとしても、嫉妬をかき乱されて傷口を広げるだけだ!」
セアラの言葉にザシャは哄笑を返す。上から見下ろすように言葉を投げかけても、下にいる人間には届かない。奪われた事実は変わらず、それにより得をした人間の言葉など聞きたくもない。
「いいじゃねぇか、クスリでキズを癒しても。楽だし簡単だ。ダミアン先生の言葉じゃないが、勝手に死んでくれるんだからよぉ。お前たちも楽だろ? 恨んで嫉妬する輩が自滅してくれるんだ。
残るのは『勝者』とそれに寄り添ったヤツだけだ。お前たちを恨むやつはいない。チヤホヤ讃えてくれるヤツしかいないぜ」
「私はそんなことは望みません。戦争で傷ついた人たちを癒すと決めたんです。
それが神の蟲毒を戦い抜いた私の、第二の戦いなんです」
ザシャの言葉に毅然とした態度で答えるセアラ。戦争で傷ついた人がいるなら、それを癒すために戦おう。アクアディーネが守った未来をよりよくするために。つらく苦しい戦いだけど、それでも――
(コンスタンツェ……)
サーナは『押収物 №10865』と呼ばれた戦闘奴隷を見下ろす。矢面に出された彼女は地面に倒れ伏している。心配するそぶりを見せればザシャに人質に利用されかねない。それを考慮して何も言えずにいた。
生きてはいる。だけど傷口は浅くはない。早く治療を行わねば命に危険があるかもしれない。それを気にしながらサーナは刃を振るう。
「最後まで役立たずのヨウセイだったな、畜生」
唾を吐きかねないザシャの罵倒。散々こき使って挙句のセリフがこれだ。許すつもりなど毛頭ない。
「貴方は許しておけません」
「それはこっちのセリフだ。小遣い稼ぎをつぶしやがって。この奴隷だってもう少し遊べたのに、勿体ねぇ」
「奴隷制度は撤廃されました。その罪も償ってもらいます」
「はん。俺の物を俺が使って何が悪い」
もういい喋るな。サーナの怒りが突剣に乗る。ヨウセイを道具としてしか見ていないヒト。そんな人間を許すことはできない。こんな人間がいるから、ヨウセイは虐げられていくのだ。
自由騎士達の攻めは確実に麻薬組織達を追い詰めていく。一人、また一人と自由騎士達の攻撃の前に倒れ、その勢いを失っていく。
「これで終わりだよ!」
最後に残ったダミアンにカノンが迫る。後衛職であるダミアン以外はすべて倒れた。もはや彼を守るものは何もない。カノンの拳はただまっすぐに、ダミアンに叩きつけられる。
「弱くたって人は笑顔になれる。カノンたちがそれを証明してみせるよ!」
迷いなく突き出された拳が、麻薬組織の要であるダミアンをうがち、地に付した。
●
廃村内にいた麻薬組織の残党は誰一人逃がすことなく捕らえられ、強制労働させせられていた人達も無事に救出することができた。
そして幹部たちの捕縛も滞りなく終了する。何名かは死亡したが、主要たるダミアンやザシャなどは生きていた。抵抗する気力も体力もなく、輸送される。
「怪我人をこちらにお願いします」
セアラは捕らわれた奴隷達の傷を癒していた。彼らは睡眠時間もろくにないほどの過酷な労働だった。肉体的にも精神的にも摩耗し、セアラの治療が遅れれば後遺症が残っていたものもいただろう。
「行くところがないなら、カノンのところに来る?」
カノンは行く先のない奴隷を劇団に誘う。演技力だけではなく、力仕事も一つな世界だ。人出はいくらあっても足りやしない。もちろん強制はしない。だがこういう道もあるという誘いは、未来が見えないモノにはありがたかった。
「これが最後か。……できれば、ダミアンの脳内の記憶も処分したいけど」
麻薬組織内の資料をすべて燃やしたマグノリアは、捕縛されているダミアンを見る。過剰量の薬を投与すれば命を奪うことは可能だろう。もっとも殺すつもりがあるなら乱戦で殺してもよかったし、仲間も生かそうとした事を考慮して思考を押さえた。どのみちもう日の目は見れまい。
「彼女は利用されていただけなんです!」
サーナはコンスタンツェの減刑を求めていた。法を正しく照らし合わせれば、コンスタンツェもダミアンやザシャと同じく麻薬組織の幹部として裁かれる。だがそれはあまりにも悲しすぎると、必死で訴えた。囚われ、自由を奪われ、罪を負うなんて救われない。
「私も同意だ。犯罪を強要されたのなら、幾ばくかの恩赦があってもいいのでは?」
テオドールも同様にコンスタンツェの減刑を求める。彼の場合は彼女の境遇に対する同情ではなく、法の公平性からくる意見だ。犯罪者にも事情がある。杓子定規に罪状と刑罰を当てはめるだけでは、正しい裁きはできない。無慈悲なルールでは、人を守れないのだ。
結果、コンスタンツェの刑はかなり軽くなったという。
戦争が終わっても、すぐに平和は訪れない。
それでも日は上る。希望なくとも生きていかなくてはならない。
そんな人たちに希望を与えることこそ、世界を良くしていく事なのだ。
「あの時の結果が、ここまでの被害を生み出しているなんて……」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は胸に手を当てて、悔やむような表情を浮かべた。麻薬組織の主要人物はかつてセアラが相対したヴィスマルクの憲兵隊だ。あの時交戦したときに拘束できれば今の結果はなかったかもしれない。そう思うと後悔に苛まれる。
だが、どれだけ後悔しても過去は変わらない。ならば今彼らを捕らえて、未来の被害を防ぐしかない。彼らの悪事をここで断ち、誰もが苦しむことのない未来を創るのだ。それはどれだけ困難な事か。それでも。
(合理的に見れば、薬で苦しみを紛らすことは悪い事ではないのだけど)
口には出さず、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は心の中で呟いた。同じ錬金術師であるダミアンの思考は理解できないものではない。欲するものがいるから薬を作る。それは薬学を学ぶものとして納得できるものであった。
ダミアンの経歴を調べてみたが、特筆すべき点はない。ヴィスマルク生まれの平民。成り上がるために軍人になり、そして薬学に傾倒した。上手く出世できたのは倫理を無視するやり方が時代にかみ合ったに過ぎない。
(コンスタンツェ、まだ、生きてた……)
討伐リストの中に含まれているヨウセイの名前を見て、『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は胸に痛みを感じた。ヴィスマルクに囚われた同族。あの日手を伸ばして、助けることができなかった子。
あれからどんな目にあったのだろうか? それを想像して、さらに胸の痛みは広がった。戦争が終わってヴィスマルクの逃走兵に道具のように扱われ、悪事の片棒を担わされている。敵対する相手ではあるけど、できるなら助けたい。
「できうる限り捕縛、と行きたいがな」
『戦争を記す者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375) は眉を顰める。かつてあったアクアディーネの不殺の権能はもう存在しない。殺さずに相手を捕らえるということが容易ではない。
無論、手を抜くつもりはない。ここで彼らの活動を断つことは第一義だ。殺さずに捕らえることができればそれに越したことはないが、罪状を考えれば彼らが日の目を見ることはない。余罪によっては死罪もありうるのだ。
「そうだね。とにかく懲らしめないと!」
こぶしを握って『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が叫ぶ。戦争で弱った人の心に付け入り、彼らを食い物にして金を稼ぐ麻薬組織。彼らの麻薬で弱者はさらに奪われ、無残に人生を散らしていく。そんなことが許されていいはずがない。
人々に笑顔を。それがカノンの望みであり、戦う理由だ。戦争で暗く落ち込んだ人たちに笑顔を取り戻すのは、麻薬というクスリではなく人と人との繋がりだ。笑顔を取り戻すために、拳を握って戦いに挑む。
準備は万端だ。時間に合わせて襲撃を開始する。自由騎士の五人は首魁達がいる場所に一直線に突撃した。
「自由騎士だと!?」
慌てふためく声。動揺しながらも麻薬組織達も対応していく。
自由騎士は容赦なく、その力を振るい始めた。
●
「…………!」
最初に動いたのは、サーナだ。持ち前の素早さを生かして敵の前に立ちふさがり、刃を振るう。近くで戦うコンスタンツェはボロボロの服と包帯。そしてこれまでの暴力を思わせる傷ついた身体でサーナを止めるように動く。武器らしい武器は、腕にハメられた手錠と足かせ。その姿だけでも、彼女がどのような扱いを受けたかが伝わってくる。
叫びたい気持ちをこらえるサーナ。少し住んでいる場所が違っただけで自分は自由騎士で英雄になり、彼女はヴィスマルクの残兵として扱われる。刃を重ねながらサーナは胸の痛みに苛まれていた。助けるために倒さないといけない。この矛盾に耐えながらコンスタンツェを連れまわしたザシャに刃を突き立てる。
「貴方は許しません。ここで倒します」
「クソ、焼きが回ったか? いや、まだここを逃げれば何とかなる」
「無理だな。この村は完全に包囲してある。それ以前に、ここを突破などさせぬよ」
逃げ道を模索するザシャに対し、テオドールが冷たく言い放つ。悪党に情けをかけるつもりはない。麻薬密売の罪状は重く、それにより生まれた被害は大きい。社会に大きな影響を及ぼした彼らを放置すれば、法の信頼性が疑われるのだ。信賞必罰。賞罰は行為に対して正しく行わねばならぬのだ。
孤独と病の精霊に願い、敵の動きを封じていく。抵抗など許さない。その意思を示すように精霊は動く。錬金術師のダミアンを主体に封じ込め、敵の動きを制限していく。この麻薬組織が成立しているのは、ダミアンの頭脳だ。それをここで止めて新たな被害を止める。それが未来を託されたテオドールの使命でもあった。
「汝らに逃げ道はない。大人しく捕縛されるなら恩赦もあろう。二度と陽の目は見れぬだろうがな」
「真っ平御免だぜ。なあ、アガリの半分やるから見逃してくれよ!」
「うん。典型的な悪党だね!」
チンピラの言葉を聞きながら、カノンはうんうんと頷いた。どこかの台本で見たことのあるような、典型的な悪党が許しを請うセリフ。それを受け入れるような人は誰もいない。奇を狙ったお話なら見逃すこともあるだろうが、カノンをはじめとした自由騎士たちはそんなことはない。しっかり罪を償ってもらおう。
向き直るのはオニビトのサムライ。刀を振るって戦うサムライに迫り、強く拳を振るう。イメージするは馬に乗った騎士。ジョルトのごとく強く迫り、ランスのように鋭く拳を突き出す。瞬間的に全身の筋肉を使って踏み込んで、まっすぐに拳を相手に叩き込んだ。これまで培った戦いの技量が乗った一打。
「カノンがしっかり懲らしめてやる!」
「面白い。死に際の花、咲かせてもらおうか」
「全ては生きてこそ、です」
オニビトのサムライが放った言葉を否定するセアラ。死人は何も生み出さない。新しい何かを作り出すのは、いつだって生きた人間だ。アクアディーネは自ら滅びを選んで、未来を生み出した。その覚悟を否定はしないけど、それでも自ら死を選ぶことに何も感じないわけにはいかなかった。
傷ついた仲間を癒すために魔力を展開するセアラ。聖遺物を手にして戦場を見回し、呪文を唱える。生まれた癒しの力が光となって仲間たちに降り注ぎ、麻薬組織達から受けたダメージを癒していく。魔術の癒しは一時的な効果。これが終わればきちんとした治療が必要になる。仲間の受けた傷の場所を記憶しながら、次の行動に移る。
「人の弱さにつけ入るあなたたちを逃しはしません」
「弱さを生む戦争を引き起こしたのは、ほかならぬイ・ラプセルだ」
「それは責任転嫁だね。それに戦争はヴィスマルクが発端だ」
ダミアンの言葉を即座に否定するマグノリア。確かにイ・ラプセルは神の蟲毒のために戦争を起こし、これに勝利した。この戦争により最も利を得たのは間違いなくイ・ラプセルだろう。弱者を生み出す要因となったということは否定しないが、そこで麻薬組織が跋扈したのは間違いなくダミアンに問題がある。
味方の状況を見ながらマグノリアは動きを変化させる。治癒を基軸にして、余裕があれば攻撃に転じる。相手のほうが数が多いので多人数を対処できる術式を展開して敵の数を少しずつ減らしていく。戦争を勝ち抜いた自由騎士たち。その筆頭ともいえるマグノリアの戦い方は、この戦いにおいても健在だった。
「どうあれ、ここでキミは終わりだ。研究成果があるなら教えてもらいたいね」
「断る。精魂込めて生み出した研究結果だ。処分されると分かっているのに何故渡すと思う?」
それは確かに、とマグノリアは納得した。逆の立場なら自分だって断っただろう。
数で乗り切ろうとする麻薬組織と、これまでの経験を生かして戦う自由騎士達。
両者の戦いは、少しずつ加速していく。
●
この麻薬組織は元ヴィスマルク軍が結成した急増組織。ダミアンの麻薬作製技術に暴力的な軍人が寄り添った形だ。言ってしまえば利害の一致でつながっているにすぎず、崇高な目的などない。今必死になっているのも、捕まれば一生刑務所暮らしでそれを避けたいだけに過ぎない。
対し、自由騎士達には明確な目的がある。戦争で弱った人間を食い物にする者たちを許さない。戦争の犠牲者を見過ごせない。戦争に加担した自由騎士達だからこそ、許せない相手だった。
「血に濡れてようが濡れてなかろうが、他人を食い物にして喜ぶような奴が美しくなる事なんてありえないんだよ!」
カノンはボタンに向けて拳を振るう。美の感覚は様々だ。だが他人を虐げるような人間が美しいなどとは思えない。
「他人の苦しみなど知らんな。むしろ他人が苦しみもがくからこそ、私の刃と血化粧が映えるというものよ」
「そんなのは演劇でもごめんだね!」
拳と刀が交差する。戦闘経験はほぼ互角。己にしか興味を持たぬボタンと、他人を思いやるカノン。決して相容れぬ者同士のぶつかり合いは、少しずつカノンが押し始める。
踏み込み、拳を突き立てる。踏み込み、刃で斬りかかる。拳の間合い。刀の間合い。互いの間合いをイメージし、その間合いギリギリの場所で力を込める。思うより先に体は動く。繰り返された鍛錬。くぐってきた死線。それがカノンを動かしていく。
「素晴らしい、これぞ死闘。オニビトとして興奮するだろう?」
「ふざけるな! 同じオニビトとしてこんなことに加担しているお前なんか、早く倒して忘れたいね!」
血化粧に酔うボタンをはっきりと否定するカノン。同じ種族で戦いに身を寄せていたとしても、その在り方は異なっていた。ボタンはただ闘争を。そしてカノンは闘争の先にある笑顔を。
戦争の傷をいやすのは麻薬ではない。明るい話とおいしいご飯だ。カノンはそう信じて、まっすぐに拳を突き出す。
「ダミアン・ユンガー。貴公の活動はここで終わりだ」
魔力で戦局を操作しながらテオドールがダミアンに語り掛ける。どうあれダミアンに未来はない。奇跡的なことが起きてここを逃げ通せたとしても、すぐに追撃がかかる。国境を超える事はできず、追いつめられるだけだ。
「私は薬を作っただけだ。それに堕ちていったのは弱い人間だろう」
「責任転嫁も甚だしいな。このようなクスリを作ればどうなるかなど、貴公の頭なら理解できたはずだ」
テオドールの言葉に頷くダミアン。
「無論だ。弱いものは自ら脱落していく。素晴らしいシステムとは思わないか? 手を下すことなく、役立たずを駆逐できるのだから」
「それこそ愚行だ。弱いから、役に立たないから切り捨てていいのなら、最後の一人になるまで争うことになるだろう」
「合理的な考えは錬金術師として理解するよ」
テオドールの会話に割り込むようにマグノリアが声をかける。錬金術は学問だ。合理的に物事を考え、その考察をもとに行動する。その思想自体はマグノリアも納得できる。自由騎士に入る以前のマグノリアなら、そう考えていたかもしれない。
「だけどその一側面だけで物事を見るのは間違っている。立場を変え、見識を広めるのも大事だと思うけど」
「一つの視点を極めることも重要だ」
「そうだね。それは否定しないよ。それもまた一つの道だ。
だから君を捕まえるのは、あくまで僕等の都合だ。君の研究も破棄させてもらうよ」
自由騎士として、錬金術師として、ダミアンの所業は認めるわけにはいかない。社会の不安を煽るように弱者を食らうクスリを生み出す錬金術師。同じ錬金術師として許すわけにはいかない。この世界は、この未来は、神ではなくヒトが紡いでいくと決めたのだから。
「その責任は負わないとね」
「……はい。そうですね」
マグノリアの言葉にうなずくセアラ。アクアディーネが守った未来。アクアディーネが守った世界。創造神は絶望したが、ヒトなら大丈夫だと任されたこの世界。それを乱そうとするのなら、託されたものとして止めなければならない。
「確かに戦争は多くの悲劇を生みました。財産や家族を奪われた人たちがいて、そこから目を逸らすつもりはありません。
ですが、このクスリを野放しにはできません」
「奇麗事で心の傷は癒す? ご高説で誤魔化す? いいねぇ、『勝者』はそういうことができて。お前たちがどれだけ『敗者』にやさしく語りかけたとしても、嫉妬をかき乱されて傷口を広げるだけだ!」
セアラの言葉にザシャは哄笑を返す。上から見下ろすように言葉を投げかけても、下にいる人間には届かない。奪われた事実は変わらず、それにより得をした人間の言葉など聞きたくもない。
「いいじゃねぇか、クスリでキズを癒しても。楽だし簡単だ。ダミアン先生の言葉じゃないが、勝手に死んでくれるんだからよぉ。お前たちも楽だろ? 恨んで嫉妬する輩が自滅してくれるんだ。
残るのは『勝者』とそれに寄り添ったヤツだけだ。お前たちを恨むやつはいない。チヤホヤ讃えてくれるヤツしかいないぜ」
「私はそんなことは望みません。戦争で傷ついた人たちを癒すと決めたんです。
それが神の蟲毒を戦い抜いた私の、第二の戦いなんです」
ザシャの言葉に毅然とした態度で答えるセアラ。戦争で傷ついた人がいるなら、それを癒すために戦おう。アクアディーネが守った未来をよりよくするために。つらく苦しい戦いだけど、それでも――
(コンスタンツェ……)
サーナは『押収物 №10865』と呼ばれた戦闘奴隷を見下ろす。矢面に出された彼女は地面に倒れ伏している。心配するそぶりを見せればザシャに人質に利用されかねない。それを考慮して何も言えずにいた。
生きてはいる。だけど傷口は浅くはない。早く治療を行わねば命に危険があるかもしれない。それを気にしながらサーナは刃を振るう。
「最後まで役立たずのヨウセイだったな、畜生」
唾を吐きかねないザシャの罵倒。散々こき使って挙句のセリフがこれだ。許すつもりなど毛頭ない。
「貴方は許しておけません」
「それはこっちのセリフだ。小遣い稼ぎをつぶしやがって。この奴隷だってもう少し遊べたのに、勿体ねぇ」
「奴隷制度は撤廃されました。その罪も償ってもらいます」
「はん。俺の物を俺が使って何が悪い」
もういい喋るな。サーナの怒りが突剣に乗る。ヨウセイを道具としてしか見ていないヒト。そんな人間を許すことはできない。こんな人間がいるから、ヨウセイは虐げられていくのだ。
自由騎士達の攻めは確実に麻薬組織達を追い詰めていく。一人、また一人と自由騎士達の攻撃の前に倒れ、その勢いを失っていく。
「これで終わりだよ!」
最後に残ったダミアンにカノンが迫る。後衛職であるダミアン以外はすべて倒れた。もはや彼を守るものは何もない。カノンの拳はただまっすぐに、ダミアンに叩きつけられる。
「弱くたって人は笑顔になれる。カノンたちがそれを証明してみせるよ!」
迷いなく突き出された拳が、麻薬組織の要であるダミアンをうがち、地に付した。
●
廃村内にいた麻薬組織の残党は誰一人逃がすことなく捕らえられ、強制労働させせられていた人達も無事に救出することができた。
そして幹部たちの捕縛も滞りなく終了する。何名かは死亡したが、主要たるダミアンやザシャなどは生きていた。抵抗する気力も体力もなく、輸送される。
「怪我人をこちらにお願いします」
セアラは捕らわれた奴隷達の傷を癒していた。彼らは睡眠時間もろくにないほどの過酷な労働だった。肉体的にも精神的にも摩耗し、セアラの治療が遅れれば後遺症が残っていたものもいただろう。
「行くところがないなら、カノンのところに来る?」
カノンは行く先のない奴隷を劇団に誘う。演技力だけではなく、力仕事も一つな世界だ。人出はいくらあっても足りやしない。もちろん強制はしない。だがこういう道もあるという誘いは、未来が見えないモノにはありがたかった。
「これが最後か。……できれば、ダミアンの脳内の記憶も処分したいけど」
麻薬組織内の資料をすべて燃やしたマグノリアは、捕縛されているダミアンを見る。過剰量の薬を投与すれば命を奪うことは可能だろう。もっとも殺すつもりがあるなら乱戦で殺してもよかったし、仲間も生かそうとした事を考慮して思考を押さえた。どのみちもう日の目は見れまい。
「彼女は利用されていただけなんです!」
サーナはコンスタンツェの減刑を求めていた。法を正しく照らし合わせれば、コンスタンツェもダミアンやザシャと同じく麻薬組織の幹部として裁かれる。だがそれはあまりにも悲しすぎると、必死で訴えた。囚われ、自由を奪われ、罪を負うなんて救われない。
「私も同意だ。犯罪を強要されたのなら、幾ばくかの恩赦があってもいいのでは?」
テオドールも同様にコンスタンツェの減刑を求める。彼の場合は彼女の境遇に対する同情ではなく、法の公平性からくる意見だ。犯罪者にも事情がある。杓子定規に罪状と刑罰を当てはめるだけでは、正しい裁きはできない。無慈悲なルールでは、人を守れないのだ。
結果、コンスタンツェの刑はかなり軽くなったという。
戦争が終わっても、すぐに平和は訪れない。
それでも日は上る。希望なくとも生きていかなくてはならない。
そんな人たちに希望を与えることこそ、世界を良くしていく事なのだ。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
本シナリオを持ちまして、どくどくのマギアスティームでの活動を終了させていただきます。
やりたいことはまだまだありましたが、時間などを考えればこのあたりが限界。加えてこれ以上は蛇足になるでしょう。
三年というリミットが定められ戦争という特殊な環境下でのPBWですが、いかがだったでしょうか? 楽しんでいただけたのならSTとしてこれ以上の喜びはありません。
これからもキャラクター達は、あなたたちが守ったこの世界で生きていきます。その成長を語ることはできませんが、その未来が素晴らしいものであることを祈っています。
道はこれからも続いていきます。
皆様が勝ち得た未来に、幸あれ――
やりたいことはまだまだありましたが、時間などを考えればこのあたりが限界。加えてこれ以上は蛇足になるでしょう。
三年というリミットが定められ戦争という特殊な環境下でのPBWですが、いかがだったでしょうか? 楽しんでいただけたのならSTとしてこれ以上の喜びはありません。
これからもキャラクター達は、あなたたちが守ったこの世界で生きていきます。その成長を語ることはできませんが、その未来が素晴らしいものであることを祈っています。
道はこれからも続いていきます。
皆様が勝ち得た未来に、幸あれ――
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