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Maverick! 異端を排除しめでたしめでたし!



●異端を恐れるのは人の業
 人は異端を恐れる。
 当然だ。人は自分の常識に照らし合わせて物事を判断する。太陽は東から昇り、物は上から下に落ちる。魔法も蒸気機関もそれらの法則に置いて正しい存在だ。自分では理解できなくとも誰かがそうなのだと証明できればそれで納得できる。
 だが、理解できなければ? 誰も理解できずに、ただ事実だけある。それを『あるがまま』に受け入れられるものはいない。それはおかしいと攻撃される。
 否、攻撃しなければ自分の『常識』が間違っているということになる。それは耐えられない。それを認めてしまえば、自分の足元が崩れ落ちる。何を基準に判断し、生きていけばいいのかわからなくなるのだ。
 だから人は非常識を恐れ、そして攻撃する。そうすることで『異端』を排除したのだと安心できる。自分の『常識』は正しく、間違った相手を『正しく』導くことが出来たのだ。めでたしめでたし。
 人は異端を恐れる。いつの時代も、何千年経っても、変わることなく――

 それは呪い――現在の知識でいう所の、悪質な風邪のようなモノだった。
 村人全てが高熱を出して寝込む中、一人の少女は熱を出すことなく村人達を看病した。その看護の甲斐あって村人の半数は助かったが、助からなかった村人もいる。
 助かった村人が最初にしたことは――看護した少女を弾圧することだった。
『お前がもっと頑張ればうちの子供は助かったのに!』
『いや、お前がこの呪いをかけたんだろう!』
『違う? お前だけ元気なのがその証拠だ!』
『殺せ! 呪いをかけた魔女を殺せ!』
 その少女が助かったのは、祖母の教えであるアクアディーネ様の象徴である水で手を洗う風習――これも現代知識でいう所の衛生的行動――を行っていただけなのに。だけど誰もそれを理解できない。出来るはずがない。その知識は『異端』だから。
 だってその少女だけが助かるなんて『異常』だから。『異常』なものは排除しないと。
 こうして村を呪った少女は名前を剥奪され、村人の恨みを受けた。村はずれの小屋に閉じ込められ、そのまま衰弱死する。小屋は燃やされ、土をかぶせられた。墓すら建てられず、ただ土山だけが残った。
 呪いはその後訪れることはなく、村人達は平和を取り戻したのでした。その後、村はどうにか復興し、平和な日常が戻ってくる。めでたしめでたし。
 それから三年後――

●自由騎士
 毒のイブリースが発生した、という水鏡の情報を受けて自由騎士達はその村を訪れる。
 かつて村を襲った魔女。その姿をかたどったイブリース。近寄る者に高熱を出す呪いを振りまき、毒のように相手を苦しめるという。
「ああ、自由騎士様! どうか私達を救ってください!」
「あの魔女が、村を呪った魔女が現れたのです! イブリースとなるほど性悪な女が!」
 村人達はこぞって自由騎士達に助けを乞う。自分達は正しく、あの女が間違っている。そう心の底から信じていた。あの排斥は正しく、異端は滅びるのが当然なのだと。

 さあ、ここからは自由騎士達の物語だ。
 村を呪う悪辣なイブリースを廃し、村人を救ってめでたしめでたしと話をしめる物語――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
どくどく
■成功条件
1.全イブリースの排除
 どくどくです。
 こういうOPはすらすらできちゃうどくどくです。

●敵情報
・名前のない少女(×1)
 イブリース。分類するなら還リビト。あるいは『呪い』のイブリース。プレイヤー知識でいえば『風邪』のイブリース。
 半透明の白いガス状の物質が、少女の形をとっています。その姿はかつて村を呪った少女のようであると村人は言っています。

攻撃方法
発熱 魔遠単 高熱と倦怠感が体を襲います。【ポイズン2】【ブレイク1】
発汗 魔遠全 呼吸が乱れ、酷く汗が流れます。【ダメージ0】【カース1】
疲労 魔近範 少女の近くに寄ると、正体不明の気だるさに見舞われます。【不安】
気体  P  ガス状態の為、物理的にダメージを与えにくいです。常に【攻耐】。魔法ダメージは防御を抜けた後に2倍になります。

・『呪い』(×5)
 紫色の人型の土人形。少女が村人にかけた呪いが物理的に形どったものです。

攻撃方法
泥手 攻近単 土の手で殴り、毒を振りまきます。【ポイズン1】
泥玉 攻遠単 泥の玉を投げ、毒を振りまきます。【ポイズン1】HP消費

●NPC
・村人(×20)
 村人達です。三年前の悲劇を乗り越えて、現在村の再建させるために奮闘しています。その矢先に悲劇を想起させるイブリースが現れました。
 戦闘になれば、自動で戦闘範囲外まで逃げだします。
 ありえない事だとは思いますが、自由騎士が攻撃すれば一撃で倒れます。

★備考
 この時代は細菌がまだ発見されておらず、病気の知識教育も不十分です。その為、村人に現在医学の知識を説いても「はあ……?」となるだけです。
 例えるなら『すべての生物は隕石によって飛来したたんぱく質から生まれたのだ。なので、皆は隕石を崇めよ!』等という証明不能なトンデモ論なのだと思ってください。
『村人が少女を私刑で殺した』あたりまでは水鏡などの情報で知っていても構いませんし、それなりの理由(キャラ設定など)があれば、三年前のことが呪いではなく病気なのだと気付いても問題ありません。

●場所情報
 イ・ラプセルのとある村。人口20人ぐらい。時刻は昼。
 戦闘開始時、敵前衛に『『呪い』(×5)』が、後衛に『名前のない少女(×1)』がいます。
 事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
2モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年10月04日

†メイン参加者 8人†




「人の念と言うのは恐ろしいものだな」
 少女の姿を見て、『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は小さく呟いた。かつてこの村で起きた悲劇。あの姿はその時村人に殺された『少女』に似ているだけの、別物だ。『そうあってほしい』と思った人間が象ったモノだ。
「呪い、なのでしょうね。魔法的ではなく、正しい意味での」
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は一度瞑目し、そして目を開く。人が人を恨み、負を押し付ける。その想いこそが真の呪い。そうすることで村人は生きる気力を得た。押し付けられた者は死に絶え、灰となって消えた。……そして今、イブリース化する。
「イブリースは倒さないとな」
 感情を押さえたように平坦な声で呟き、『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は銃を構える。過去はどうあれ、今目の前にいるのはイブリースだ。それが村人を殺そうというのなら、それは止めなければならない。
「そうですね。悲しい事ですが、それは事実です」
 祈るように手を合わせ『過去の自身を超えし者』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は目を閉じた。過去にこの村であったことを知り、それに似たイブリースが出た。因果関係は分からないが、今やるべきはイブリース退治だ。
「他者の理解、か」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は静かに口を開く。誰もが自分以外を完全に理解できない。自分と大きく違うと分かれば、排除される。それはマザリビトであるマグノリア自身も経験していることだ。
「……ま、仕方ない。そう言う事もある」
 医者である『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はため息とともに、そう言い放つ。理解されない者は仕方ない。人は自分の主観を大事にする知性ある生き物だ。そこを攻めてもどうしようもない事は、ツボミもその師匠も知っている。
「そうですね。キリも村人と同じように怖がると思います。でも……」
 水鏡の話を聞いた『復讐の意味は』キリ・カーレント(CL3000547)は静かにそれを認める。多くの人が苦しむ中で一人だけ元気な子がいれば、その異常性を疑ってしまう。それでも献身的に看病した人を殺すというのは、やはり納得できるものではない。
「そうね。でもあんな人たちでも『彼女』が守った命なのよ」
 天哉熾 ハル(CL3000678)は言って武器に手をかける。『彼女』は死んだ。目の前にいるのはイブリースだ。そして『彼女』は村人を救おうと頑張った。ならば村人を襲おうとするイブリースは排除しなくてはならない。『彼女』の想いを守るために。
「お願いします、自由騎士様! あの女を倒してください!」
「イブリースになった魔女を倒して、私達を救ってください!」
 すがるように自由騎士に言葉を放つ村人達。そこにあるのは純粋な恐怖か、或いは『少女』を私刑で葬った罪から目を背ける為か。それはもしかしたら、村人自身にもわからない事なのかもしれない。
 どうあれ、イブリースは排除しなければならない。自由騎士達は武器を構え、敵に向ける。
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 声にもならない叫び声。その咆哮と共にイブリースは自由騎士達に迫る。
 自由騎士とイブリース、その戦いの火ぶたが切って落とされた。


「こんな戦いは、一気に決めて終わらせるぜ」
 言ってウェルスは両手に銃を構える。水鏡は正しく過去や未来を移す。だが真実は分からない。もしかしたら少女は本当に呪いをかけたのかもしれない。だが、ウェルスは自分の感覚を信じる。少女はただの犠牲者で、そうならばこの戦いはただの前座だ。
 ウェルスは自らの体内に魔力を通し、マナの循環を効率化する。指先まで行き通った魔力を銃に注ぎ込み、そして弾丸に纏わせた。魔を廃する銀の弾丸。その伝承を宿した弾丸が撃ち放たれた。
「お前は邪魔だ。あの子の想いを無駄にするんじゃねぇ」
「キリは、皆を守ります!」
 ローブをひるがえし、キリは叫ぶ。村人達への感情は複雑だが、少なくとも死んでほしいとは思わない。村人も、そして仲間も守る。『少女』が守ろうとした平和な日常を壊したいなどとは思わなかった。
 ローブを口に当て、深く呼吸を行うキリ。イブリースの毒には効果は薄いかもしれないが、それでも用心するに越したことはない。そのままサーベルを振るって土人形をけん制しながら、仲間を守るように動き回る。
「キリは、貴方が頑張ったことを知っています! 友達になってほしいです!」
「それは『彼女』の墓前で伝えなさい。あれはただのイブリースだ」
 キリの言葉にそう告げるテオドール。『彼女』は死んだ。その魂は虚無の海へと還っている。だからあそこにいるのはただのイブリースだ。『彼女』に似ただけのただの魔物。そこに感情を抱くことはない。抱くならば彼女を死に至らしめた――
 いや、と首を振ってテオドールは意識を切り替える。今は領民をイブリースから救うことが先決だ。魔力で編み出した冷たい茨をイブリース達に向け、解き放つ。白き拘束がイブリース達の動きを止めた。
「イ・ラプセルの領民は誰も傷つけさせやせぬ」
「そうね。ここであの人達が死んだら、『あの子』が報われないもんね」
 刀を振るいながらハルが呟く。『あの子』は村人を守ろうとした。その村人に弾圧される結果になったけど、『あの子』が願ったのは村人達の死ではない。ならばその想いは守ろう。守った意味が消えてしまうのは、ハルもいやだから。
 刀に魔力を通し、土人形に迫るハル。裂帛と共に踏み入り、力を奪う魔力を込めた一刀を振り払った。刃に込められた魔力が相手の生命力を喰らい、ハルに力を与えてくれる。その感覚に身震いしながら、次の目標を見定めた。
「さあ、次はどいつかしら?」
「包囲後、殲滅します」
 盾兵隊に命令を出しながらロザベルは蒸気騎士鎧を起動させる。経緯はどうあれ、助けを求められたのなら応えるだけだ。過去を責めてもどうしようもなく、ましてや村人達に非があるかと言われれば、少し難しい話になる。
 ともあれ今はイブリース退治に専念しよう。土人形の足を止め、砲を向ける。味方を巻き込まないように注意しながらタービンを回して武装を起動。狙いを定めて、撃ち放った。爆発と火炎がイブリースを包み込む。
「このまま攻め落とします」
「うん。イブリースは排除しなくちゃ」
 様々な想いを胸に抱き、マグノリアは呟く。自由騎士として、マグノリア一個人として。ヒトを殺すイブリースは放置はできない。異端として殺された存在は看過できない。『彼』はこんな人間でも愛したのだから。
『少女』の動きを警戒しながら錬金術を解き放つマグノリア。仲間が呪いで動けなくなればそれを解除し、イブリースを常に弱体化させるために『劣化』の概念は維持し続ける。出来るだけ早くイブリースを廃し、浄化するのだ。
「……今は、こういう形でしか君を救えない。ごめんね」
「誰も彼もが悲劇を生まぬように必死なのに、悲劇は起きる。やるせないな」
 ため息をつくツボミ。村人とて『呪い』がなければ少女を恨みはしなかっただろう。同じ村の一員として、平和に過ごしていたのだろう。ただ一つの悲劇が歯車を狂わせた。それは人の弱さゆえ。それが分かるだけに、やるせない。
 どうしようもない。そう何度もつぶやきながら、戦いに意識を向けるツボミ。そうしなければ悲観的になる自分を奮い立たせ、魔力を解き放つ。『少女』が生み出す倦怠感を打ち払い、仲間達を健常な状態に戻していく。
「医療が人を救うのではなく、人を追いやったというのは……いや、言うまい」
 三年前の悲劇と今のイブリースの因果関係は不明だ。だが、無関係と断じてしまうほどに自由騎士も割り切れはしない。心に何かを抱えながら、自由騎士達は武器を振るい続ける。その動きに、精神程のよどみはない。攻撃を積み重ね、イブリースを一体ずつ打破していく。
「消えなさい、イブリース。アタシはこの後、いろいろやることがあるの」
 ハルは言って、最後に残った『少女』に向かって刀を振りかぶる。刀に魔力を通し、刃ではなく魔をもって接する。
「消えなさい。貴方はただのイブリース。ただの毒霧よ」
 一閃する刃が、イブリースを両断する。その斬撃が、煙を晴らすようにイブリースを浄化した。


 かくしてイブリースは潰え、村人は平和を取り戻した。
 村を呪う悪辣なイブリースを廃し、村人を救ってめでたしめでたしと話をしめる――前に、自由騎士達はもう少しだけやりたいことがあった。
「イブリースは完全に消滅した。今後似た様な症状が発生した場合、原因は恐らく別口だ。早合点せずにちゃんと王都に相談を寄越す事を薦める」
 ツボミは村人の健康を確認しながら、そう告げる。早合点、の時点で何名かが体を振るえわせたのを見逃さなかった。『少女』を殺した事に対し、思う所がないわけではないのだろう。それをいまさら指摘するつもりはない。
(まあ、それをしたところでどうにもならん。全く、世の中は不条理と言う事か)
 救った相手に恨まれる。そんな事は医者であるツボミなら何度も経験している。人間は皆、行動に感謝を返せるほど善良ではない。そんな事は分かっているし、経験している。それでも追わざるを得まい。兎角世は不条理なのだと。
「異端を排することで安寧を得る、か」
 テオドールは村人達の様子を見て、そう呟いた。恨みを何処かに向け、その精神性を維持することで不満から逃れる。それは支配者としての手段の一つだ。その効果の高さはテオドールも知っている。史実において、それが行われた例も知っている。
(……だが、愚かしいことだ。感情を絞った先に起きることなど、誰もが分かるはずなのに)
 感情や思いを統一すると言う事は、多様性をなくすことだ。不測の時において短絡的な行動しかできなくなる。その結果が、三年前の悲劇なのだろう。彼女を擁護する意見がもう少しあれば、悲劇は防げていたかもしれないのに。
「……そうでありますね。病死の悲劇はヘルメリアの方が酷かった」
 ロザベルは故郷の衛生を思い出し、小さくため息をつく。蒸気機関の煤煙が空を支配するあの国では、喘息による死亡率が高かった。薬は高く、貧乏人はマスクを飼うことさえできずに死んでいく。それが当たり前の国。
(あの『少女』のような悲劇もイブリースも発生していて、それでも栄華を求めたのがあの国)
 蒸気機関の発展の為に、人を切り捨てた国。それがヘルメリア。病床者は当然のように切り捨てられ、或いは汚れた者とばかりに病院とは名ばかりの建物に収容される。イ・ラプセルに来て初めてそれが異常だと知らされたぐらいだ。
「それが人間なのだ、と『彼』は知ったうえで愛することが出来る、のかな」
 マグノリアの脳裏には、一人の男が浮かんでいた。どこか斜に構えた道化師のような魔術師。時折現れてはこちらに接しながら、しかしどこかでこちらを試すように見ている。その根底にあるのは、人間に対する愛情なのだろう。
(人間の本質を知りながら……それでも人間を愛する『彼』……どれだけの想いがそこにあるのだろうか……?)
 長く人間を見続けて、多くの絶望と別れを知っている『彼』。その傷は想像すらできないほどだろう。それでも『彼』は人間を見捨てず、絶望しないで見続けているのだ。……そこにどんな感情があるのか、マグノリアには想像もできない。
「あのイブリースが女の子に見えた? ふーん、アタシにはただの煙にしか見えなかったけど。
アンタ達の気の所為なんじゃない? イブリースより怖いモノでも見えちゃってたみたいだし」
 ハルは村人達にそう言い放つ。一部の村人達は蒼白になるが、言葉を返すことはない。自分達を助けてもらった自由騎士様の言葉だから強く否定はしないが、掘り返されたくない部分に触れてほしくない。そんな表情だ。
「無意識にでも責められるくらいなら、ソレに報いる様な事……今からしてもいいんじゃない?
 アンタ達が今、この町を再建出来てるのは誰に繋げて貰った『力』だと思う?」
 ハルの言葉を受けても、村人達は動かない。当然だ。人は簡単に変わらない。あれは呪いをかけた悪い魔女だからと思わなければ生きていられない。これ以上の追及は精神を追い込んで殺しかねないと判断して、ハルは言葉を止めた。それこそこの村を救った少女の意に反する。
「あの、アクアディーネ様の象徴である水で手を洗う事を勧めます」
 キリは話を逸らすように別の話題を出す。少女が三年前の事件で無事だった理由。農作業で汚れた土を洗い流した作業。それを村人達に進める。女神様の象徴なら……と納得する村人も少なくない。
(村の人達が怖がるのは理解できます。それでも、あの子の想いが全部消えてしまうのは悲しいから)
 人は異端を恐れる。キリもそれは理解できる。それでも少女は村を救おうと必死に頑張ったのだ。それが全部報われない結果になったとはいえ、その想いだけは絶やしてはならない。それがキリが出来る唯一の『救い』なのだから。
「よし、見つけた」
 ウェルスは少女は死んだと思われる場所に行って土を掘り返す。遺骨と思われる白い欠片を見つけ、そこに宿っていただろう魂の残渣に語りかける。
「お嬢に起きた事は水鏡で見た。詳細は分からないけど、俺はお嬢を信じるぜ」
 魂の残渣は、礼を言うようにかすかに振るえた。
「お嬢の名前を教えてくれ。墓碑に刻んでやる」
 リディア。そんなかすかな声が、ウェルスの耳に聞こえてくる。そして、
「むらのみんなは、げんき、ですか?」
「ああ、元気だぜ」
 霊の声にウェルスは感情を押さえた声で応える。
「よかった。むらのみんなが、げんきで。わたし、うれしい」
 そして霊の声は聞こえなくなる。ウェルスは言いようのない感情を押し殺すように奥歯を噛みしめ、骨を袋に入れる。
「…………少しはましな所で弔ってやるよ」
 こんな放置された場所ではなく、共同墓地で。きちんと名前を刻んで弔おう。ウェルスは骨を袋に入れて、仲間と合流した。


 かくして事件は終焉を迎える。
 村を襲ったイブリースは退治され、村には日常が戻ってくる。それはよくあるイブリース退治のハッピーエンドだ。誰も死者はなく、自由騎士達は称賛され、イ・ラプセルの平和は維持された。

「……ま、しょうがない」
 帰りの車の中、ツボミは静かに言い放つ。全てのやるせなさを内包し、吐露するように。
 自由騎士の誰もが、それに同意するように言葉を発しなかった。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
めでたしめでたし。

補足として、1800年代時代の医療について。
ナイチンゲールが生まれたのが1820年、そこから彼女が従事するクリミア戦争が1854年に始まり、そこで非衛生な扱いを受けている兵士達を看護します。
その後、1860年にナイチンゲール看護学校を創立し、そこで『統計学』により学術的に看護という行為を専門家以外にもわかるように視覚化しました。

なもんで、治療と衛生が学問として流布し始めるのはこの時代からとなります。
まあ、魔法のあるこの世界には別の『看護師』がこれらの行為を行うのかもしれません。まあ、それは別の話。

MVPは彼女の声を聴いたライヒトゥーム様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済