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Temptation! 三兄弟を篭絡せよ!

●
「おう、いいムネしてるなねーちゃん! ちょっとこっちこいや!」
「俺たちはヴィスマルク軍とつながりがあるんだぞ! ちょっとはサービスしろ!」
「逆らう奴はVFの実験体にしてやるぞ。なんてなー! あーっはっは!」
言って豪快に笑う男達。彼らはボーレンダー商会と呼ばれる商人一家の三兄弟である。
彼らの横暴を見る人達は露骨に嫌悪感を示すのだが、口に出すことはできない。彼らがヴィスマルク軍御用達の商人であることは紛れもない事実なのだ。
弾丸、衣服、食料といった物から様々な用途の奴隷までヴィスマルク軍とやり取りをしている。そのやり方も悪辣で、他の商会を力づくで押さえ込んで利益を独占しているという。
そして最近の売れ筋ナンバーワンは、アッティーン系の薬草だ。なんでも兵士に与える強化剤を作る材料で、前線に送る兵士を支える為だと言う名目でかなり非合法な手段でかき集めているという。――それでも供給不足なのが現状なのだが。
ともあれ、そんな立場を利用してやりたい放題。ヴィスマルク軍が背後にいる事を強調して好き放題である。彼らが失墜することを祈っているヴィスマルク民は多いが、軍に強く貢献する彼らが失墜することはない事も理解している。
だが彼らが大きなヘマを侵せば、軍から干されて威光を失うだろう。
たとえば、最大の取引である強化剤の材料を供給できなくなったとか――
●
「皆さんは『フェアボーテネフリュヒテ』というお薬を知っていますか?」
『六つ穴』レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)の言葉に、数名の自由騎士達は表情を曇らせた。
フェアボーテネフリュヒテ――通称『VF』。アッティーンと呼ばれる薬草を蒸留させて作った薬品で、強大な力を得ることができる薬品だ。副作用として使用者の寿命を大きく削る。ヴィスマルク軍は捨て駒同然に亜人に投与し、戦争に導入しているという。
先の自由騎士の作戦でアッティーンの流れは大きく止まった。その甲斐あって、フェアボーテネフリュヒテの生産は大きく減じているという。
だが、完全に断ったわけではない。そのルートを握っているのが、
「ボーレンダー商会。彼らがヴィスマルク軍にアッティーンを供給しています」
つまり彼らの積み荷を押さえれば、『VF』をヴィスマルク軍が作ることはできなくなるのだ。ただ、
「……問題はアッティーンをどこに保管しているのかわからない、という事ですけど」
「力づくで聞くというのは?」
「ヴィスマルク兵を呼ばれてお縄です」
水鏡の予知も万能ではない。知りたいことを教えてもらえるわけではないのだ。
「幸いなことに、彼らは色事に弱いみたいです。なので……」
レティーナの作戦はこうだ。
彼らを誘惑して――男女や種族を問わないらしい――警戒心を解き、酒を飲ませる。散々酔わせたところでアッティーンの事を尋ね、マキナ=ギアでそれを伝えて別動隊が潜入する。
つまり、誘惑する側と盗みに入る側の二パーティに分かれるのである。
「大丈夫です。私も手伝います」
「あーしもいるよー」
元ヘルメリアの工作兵に鍛えられたネズミのケモノビトのレティーナと、褐色ぽよんたゆんなダンサーアミナが名乗りを上げる。誘惑潜入ともに問題ないメンバーだ。
もちろん、二人だけでは成功におぼつかないだろう。
貴方はこの作戦に――
「おう、いいムネしてるなねーちゃん! ちょっとこっちこいや!」
「俺たちはヴィスマルク軍とつながりがあるんだぞ! ちょっとはサービスしろ!」
「逆らう奴はVFの実験体にしてやるぞ。なんてなー! あーっはっは!」
言って豪快に笑う男達。彼らはボーレンダー商会と呼ばれる商人一家の三兄弟である。
彼らの横暴を見る人達は露骨に嫌悪感を示すのだが、口に出すことはできない。彼らがヴィスマルク軍御用達の商人であることは紛れもない事実なのだ。
弾丸、衣服、食料といった物から様々な用途の奴隷までヴィスマルク軍とやり取りをしている。そのやり方も悪辣で、他の商会を力づくで押さえ込んで利益を独占しているという。
そして最近の売れ筋ナンバーワンは、アッティーン系の薬草だ。なんでも兵士に与える強化剤を作る材料で、前線に送る兵士を支える為だと言う名目でかなり非合法な手段でかき集めているという。――それでも供給不足なのが現状なのだが。
ともあれ、そんな立場を利用してやりたい放題。ヴィスマルク軍が背後にいる事を強調して好き放題である。彼らが失墜することを祈っているヴィスマルク民は多いが、軍に強く貢献する彼らが失墜することはない事も理解している。
だが彼らが大きなヘマを侵せば、軍から干されて威光を失うだろう。
たとえば、最大の取引である強化剤の材料を供給できなくなったとか――
●
「皆さんは『フェアボーテネフリュヒテ』というお薬を知っていますか?」
『六つ穴』レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)の言葉に、数名の自由騎士達は表情を曇らせた。
フェアボーテネフリュヒテ――通称『VF』。アッティーンと呼ばれる薬草を蒸留させて作った薬品で、強大な力を得ることができる薬品だ。副作用として使用者の寿命を大きく削る。ヴィスマルク軍は捨て駒同然に亜人に投与し、戦争に導入しているという。
先の自由騎士の作戦でアッティーンの流れは大きく止まった。その甲斐あって、フェアボーテネフリュヒテの生産は大きく減じているという。
だが、完全に断ったわけではない。そのルートを握っているのが、
「ボーレンダー商会。彼らがヴィスマルク軍にアッティーンを供給しています」
つまり彼らの積み荷を押さえれば、『VF』をヴィスマルク軍が作ることはできなくなるのだ。ただ、
「……問題はアッティーンをどこに保管しているのかわからない、という事ですけど」
「力づくで聞くというのは?」
「ヴィスマルク兵を呼ばれてお縄です」
水鏡の予知も万能ではない。知りたいことを教えてもらえるわけではないのだ。
「幸いなことに、彼らは色事に弱いみたいです。なので……」
レティーナの作戦はこうだ。
彼らを誘惑して――男女や種族を問わないらしい――警戒心を解き、酒を飲ませる。散々酔わせたところでアッティーンの事を尋ね、マキナ=ギアでそれを伝えて別動隊が潜入する。
つまり、誘惑する側と盗みに入る側の二パーティに分かれるのである。
「大丈夫です。私も手伝います」
「あーしもいるよー」
元ヘルメリアの工作兵に鍛えられたネズミのケモノビトのレティーナと、褐色ぽよんたゆんなダンサーアミナが名乗りを上げる。誘惑潜入ともに問題ないメンバーだ。
もちろん、二人だけでは成功におぼつかないだろう。
貴方はこの作戦に――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ボーレンダー商会の誰かを誘惑し、アッティーンの情報を聞き出す
2.ボーレンダー商会からアッティーンを奪い取る
3.潜入していることがばれないようにする
2.ボーレンダー商会からアッティーンを奪い取る
3.潜入していることがばれないようにする
どくどくです。
ハニートラップとか潜入作戦に必要だからね。仕方ないね(キリッ!
●説明っ!
場所はヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。そこに潜入した自由騎士達はヴィスマルク兵に気付かれないようにしながら女神モリグナを討つ戦いの前準備を進めます。
兵士を強化する薬品『フェアボーテネフリュヒテ』。その材料をヴィスマルク軍に供給しているボーレンダー商会。彼らの積み荷から材料を奪う事で、ヴィスマルク軍は『フェアボーテネフリュヒテ』を作れなくなり、その兵力は一気に減じます。
ですが、その材料――アッティーンがどこにあるかはわかりません。なので酒場で飲んでいるボーレンダー商会を誘惑し、その場所を聞きだす必要があります。
彼らは色事に弱いですが、商売のことを簡単には喋りません。なので酒を飲ませながら適度に彼らを喜ばせる必要があります。喜ばせ方は三兄弟によって異なりますので、お好きなお方を攻略してください。
誘惑とは言いましたが、興味がある話を持ち掛ければ乗ってきますので、えっちぃ方向に限定する必要はありません。プレイングは自由です。だけどえっちぃ方向でもいいのよ?
誰か一人が口を割れば、その後は潜入部隊がそこを強襲します。
推測される障害は、
『見張り(数や装備不明。誘惑組の情報で分かるかも)』
『警報装置(詳細不明。音系の罠と思われる)』
『アッティーンを納めている箱の形状(これが分からないと、発見できない者とします)』
誘惑組の成果によっては、更に何かわかるかもしれません。
●敵情報
・エードゥアルト・ボーレンダー
ノウブル男性。二六才。長男。あくどい商人です。『女性』『体系:豊満』『種族:ノウブル』に興味を示します。
・ラルフ・ボーレンダー
ノウブル男性。二〇歳。次男。計算高いサディスト。自分の頭脳を自慢するタイプ。『高INT』『魔法系スキル』『蒸気技術』等に興味を示します。
・アードリアン・ボーレンダー
ノウブル男性。一六才。三男。ワルびたいお年ごろ。お酒は飲めないけど、雰囲気で酔います。『年上』『高い名声』『薬』等に興味を示します。
●NPC
NPCは命令されなければ『アミナ:誘惑』『レティーナ:潜入』で動きます。相談卓内で指示されれば、指示された方向で動きます。
自由騎士が全員潜入、あるいは全員誘惑となってもNPCが開いた穴をふさぎます。お好きなパートを選んでください。
・アミナ・ミゼット(nCL3000051)
イ・ラプセルより南方から来た褐色肌のダンサー。お色気、運動何でもござれ。
・レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)
ヘルメリア出身の元奴隷。ガジェット使い。お色気、潜入等可能です。
●プレイングについて
依頼の形式上、情報が不明瞭な状態でプレイングを書いて頂く事になります。
そういったこともあり、誘惑や潜入などに際して基本的に好意的に解釈します(敵が予想より多かったので、突撃はやめて一旦引き下がる……など)。活性化スキルや方向性などを示していただければ十分です。
●場所情報
ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。その中間層ともいえる場所の酒場。一番奥のテーブルで三人は飲んでいます。
暴れない限りはヴィスマルク兵に見つかることはありません。技能程度なら問題なし。身バレ対策はプレイングに書かずともしているモノとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
ハニートラップとか潜入作戦に必要だからね。仕方ないね(キリッ!
●説明っ!
場所はヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。そこに潜入した自由騎士達はヴィスマルク兵に気付かれないようにしながら女神モリグナを討つ戦いの前準備を進めます。
兵士を強化する薬品『フェアボーテネフリュヒテ』。その材料をヴィスマルク軍に供給しているボーレンダー商会。彼らの積み荷から材料を奪う事で、ヴィスマルク軍は『フェアボーテネフリュヒテ』を作れなくなり、その兵力は一気に減じます。
ですが、その材料――アッティーンがどこにあるかはわかりません。なので酒場で飲んでいるボーレンダー商会を誘惑し、その場所を聞きだす必要があります。
彼らは色事に弱いですが、商売のことを簡単には喋りません。なので酒を飲ませながら適度に彼らを喜ばせる必要があります。喜ばせ方は三兄弟によって異なりますので、お好きなお方を攻略してください。
誘惑とは言いましたが、興味がある話を持ち掛ければ乗ってきますので、えっちぃ方向に限定する必要はありません。プレイングは自由です。だけどえっちぃ方向でもいいのよ?
誰か一人が口を割れば、その後は潜入部隊がそこを強襲します。
推測される障害は、
『見張り(数や装備不明。誘惑組の情報で分かるかも)』
『警報装置(詳細不明。音系の罠と思われる)』
『アッティーンを納めている箱の形状(これが分からないと、発見できない者とします)』
誘惑組の成果によっては、更に何かわかるかもしれません。
●敵情報
・エードゥアルト・ボーレンダー
ノウブル男性。二六才。長男。あくどい商人です。『女性』『体系:豊満』『種族:ノウブル』に興味を示します。
・ラルフ・ボーレンダー
ノウブル男性。二〇歳。次男。計算高いサディスト。自分の頭脳を自慢するタイプ。『高INT』『魔法系スキル』『蒸気技術』等に興味を示します。
・アードリアン・ボーレンダー
ノウブル男性。一六才。三男。ワルびたいお年ごろ。お酒は飲めないけど、雰囲気で酔います。『年上』『高い名声』『薬』等に興味を示します。
●NPC
NPCは命令されなければ『アミナ:誘惑』『レティーナ:潜入』で動きます。相談卓内で指示されれば、指示された方向で動きます。
自由騎士が全員潜入、あるいは全員誘惑となってもNPCが開いた穴をふさぎます。お好きなパートを選んでください。
・アミナ・ミゼット(nCL3000051)
イ・ラプセルより南方から来た褐色肌のダンサー。お色気、運動何でもござれ。
・レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)
ヘルメリア出身の元奴隷。ガジェット使い。お色気、潜入等可能です。
●プレイングについて
依頼の形式上、情報が不明瞭な状態でプレイングを書いて頂く事になります。
そういったこともあり、誘惑や潜入などに際して基本的に好意的に解釈します(敵が予想より多かったので、突撃はやめて一旦引き下がる……など)。活性化スキルや方向性などを示していただければ十分です。
●場所情報
ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。その中間層ともいえる場所の酒場。一番奥のテーブルで三人は飲んでいます。
暴れない限りはヴィスマルク兵に見つかることはありません。技能程度なら問題なし。身バレ対策はプレイングに書かずともしているモノとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
1個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2021年06月14日
2021年06月14日
†メイン参加者 6人†
●
「もっと酒持ってこい! 料理もな!」
酒が入って気分が高ぶっていることもあり、ボーレンダー三兄弟の声とテンションはどんどん高まっていく。
「お酒のお代わりお持ちしましたー!」
ウェイトレスの制服を着た『ろりっぱい!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)がジョッキを手にやってくる。笑顔と豊満な胸を強調するように近づいていく。なんちゅー称号だよと思ったけど、つけたのどくどくでした。
動きやすさというよりは女性らしさを強調するフリフリでギリギリな制服。カーミラがこれを着ると、胸や太ももが強調されていた。給仕に変装するのは作戦上ありで、その上で自らの武器を最前面に出すことになり、更にありありである。
「あの、お隣よろしいでしょうか……?」
おずおずとした表情で『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)がラルフの隣に座る。誘惑等は苦手だが、それでもアッティーンの流通は止めなくてはいけない。VFの作製を止める為に、覚悟を決めた。
探るようなラルフの視線。それを前に怯えないように意識するたまき。酒に酔ってはいるが、手放しでこちらを受け入れるほど相手も愚かではない。上手く話を合わせて、相手の気分をさらに高めなくては。
「ふふ、私もいいかしら。今夜はいい男と飲みたい気分なの」
同時にラルフの隣に座る『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。ノウブルに見えるように変装し、『暴力的な男性に殴られた』傷を自ら付けている。弱みを見せる事で相手を上機嫌にさせ、口を軽くする。ヘルメリアの工作員時代でもよく使った手た。
ヘルメリアの平和を維持するために、暗部に居たステラ。イ・ラプセルはその手管を使うようには言わないが、こういう依頼であるなら仕方ない。必要なのは情報だ。刃や魔法では成し得ない戦いが始まる。
「ネーネー、同業者ヨネ? 噂は聞いてるヨー」
胸元を強調したチャイナドレスを着た『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)がアードリアンに迫る。少しお酒を入れて、陽気な商人を装って――装ってるというか素?――近づいていく。
相手の目線が商売人のそれと、年上に弱い少年の入り混じったものになる。ルーは商売人として相手の表情を読むのに慣れている。最初の一打は上手くいった。さてこのまま流れを掴めるか否か。口八丁手八丁は商売人の基本だ。
「アードリアン・ボーレンダーさんですよね? 凄い凄い本物です! 一度お会いして見たかったんですよー!」
三つ編み、素朴な服、上目使い。そんな三連撃を決めながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)がおだてに入る。性的に篭絡するのは色々あって無理という事なので、おだてて情報を引き出すつもりだ。
相手の性格と話題の方向性は掴んでいる。ツボミ自身も医者なので、薬学に関する知識はそれなりに持っている。脳内で会話の流れを組み立てながら、アードリアンを見た。戸惑いながらも、雰囲気にのまれそうなそんな顔だ。
「暫くは、待機かな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はマキナ=ギアの通信をオンにした状態で酒場近くで待機していた。マキナ=ギアの通信を誰かに見られれば厄介なことになる。離れすぎず、近すぎず。怪しまれない場所に潜伏しながら、耳に意識を傾ける。
ボーレンダー商会の倉庫。軍の倉庫よりは警備は甘いだろうが、それでも見つかれば厄介なことになる。ヴェスドラゴンに潜伏している以上、余計な騒ぎを起こせば今後の活動が不利になる。静かに、そして速やかに動かなくてはならない。
●
「ねーねー、お客さん、いっぱい注文して景気がいいね! 軍人さんかなぁ?」
「たくさん飲んでるのに酔わないなんて、すごーい。あーし驚きー」
エードゥアルトに寄りかかったのは、カーミラとアミナだ。給仕の服のままカーミラはエードゥアルトに寄りかかる。胸の谷間が見えるような位置取りをして、相手の視線がこちらの胸を見たのを確認する。やっぱりかー、と心の中で納得しながら酒を注いだ。
「軍人じゃねーよ。その軍人に物を売っている商人だ」
「へー! じゃあ軍人さんより偉いんだ。だって軍人さんもご飯食べないと何もできないし」
「がはは。そうだな。よし、もっとこっちよれ。ケモノビトだけど気に入ったぞ、オマエ」
エードゥアルトはカーミラの誉め言葉と、押し付けられる胸の感覚に気分を良くしたのか、上機嫌である。わっかりやすー、と周囲の自由騎士は呆れるが実際の所はここがスタートラインなのだ。相手に気にられ、上手く情報を引き出せるか。
「じゃあそのお薬を作るのが高く売れるんだー」
「まあな、ヴィスマルクの平和は俺たちが守っていると言っても過言じゃねぇ。にしてもでけぇなあ」
カーミラを抱き寄せ、服の上からその豊満な胸に手を伸ばすエードゥアルト。
「んっ。でもそんな重要なモノ、誰かに取られたりしないのかな?」
「そりゃ狙われるさ。だから金に物言わせて厳重な警備をしてるんだよ」
「へー。でっかい金庫とか? あ、もしかしてゴーレムみたいに襲ってくるとか?」
「子供だなぁ。胸はでかいのに。訓練された犬が近くに隠れてて、迂闊に近づけば喰い殺されるって寸法さ」
会話の度にセクハラ発言しながら胸を触ってくるエードゥアルト。その度にカーミラは身をよじらせたりしている。その反応を楽しむように口が軽くなるエードゥアルト。
結局犬の種類とか数とか、その辺りまでべらべら喋るのであった。
●
「コーヒー豆、聞いたことがあります。最近よく売れていると」
「ほお、目が高いな。いい豆農家を見つけてな。後は工場と機械があれば大量に作れるんだが」
「あ、でしたらヘルメリアでその手の機械を見たことがあります。再現できますよ」
「本当か!? なんでヘルメリアの機械に詳しいんだ?」
「私と一緒にヘルメリアから流れてきたのよ。なんならあそこのお話しましょうか?」
たまきとステラはラルフと話をしていた。こちらは色仕掛けと言うよりは蒸気機械やヘルメリアの情報などを餌にして会話を継続している形だ。実際に機械技術に詳しいたまきと、ヘルメリアで長年生活していたステラである。商人の気を引く蒸気機械の話題は事欠かない。
「円形のローラーとそれを豆を砕く為の刃。大きさを統一するために数度に分けてのカッティングが――」
「蒸気戦車のギア切り替えに使われるのがこのシステムで、テコの原理を利用した――」
「脱着可能にすることでメンテナンスも容易になり、長く使用することが出来ます。あとは――」
「階段そのものをベルトコンベアのようにすることで建物内の上下移動が容易になるわ。ロンディアナの一部で運用されていて――」
「……なるほど」
たまきの蒸気技術の深さと、ステラのヘルメリア情報&セクシーな魅せ方。二人の持ちうる技術と知性の高さはラルフの予想以上だった。最初は気弱そうで劣情を誘う女性二人だったので適当に遊んでやろうと思ったが、むしろ興味が高まった。
「ところで、先ほどお耳にはさんだ『VF』? たしかアッティーン系の薬品だと」
場が温まったのを見計らって、たまきが話題を振る。マキナ=ギア、スイッチオン。
「ああ、お前達に特別に教えてやる。今、ヴィスマルクとイ・ラプセルが戦争をしているだろう? その切り札的な薬品なんだ」
よく知っている。その言葉を喉元で抑え込む自由騎士。
「すごーい。そんな重要な薬品を扱っているだなんて」
「まあな。前まではかなり流通していたんだが、一気に数が減ってな。お陰で仕入れるのに一苦労だぜ。ま、俺の頭脳があるからなんとか仕入れることが出来たんだ」
「まあ。でも保存とか大変じゃないですか? 薬草は、鮮度が重要と聞きますし」
たまきの言葉に指を振るラルフ。分かってないなぁ、素人は。そう言いたげな顔だ。――実際は保存方法からアッティーンの保管場所を聞き出そうとする自由騎士に乗せられているわけだが。
「ウチが保有している港の倉庫に、温度と湿度を一定に保てる場所があるんだ。そこなら鮮度は充分保てるのさ」
「温度と湿度、ですか。となるとかなり大掛かりな機械で管理されているんですね。冷風を送る送風機に、湿った風を生むボイラー。あとは温度を閉じ込める壁……」
指折り告げるたまき。ラルフの倉庫を誉めるように言いながら、倉庫の特徴を潜入組に伝えているのである。
「でもそんな重要なモノなら、盗まれたりしないかしら?」
「当然犯罪対策も充分さ。兄貴は犬だけで十分だって言ってるけど、犬が眠らされた時用にダミーの鍵穴を作ってるのさ。見せかけのカギ穴を弄れば、そこから毒矢が飛び出るって寸法だ」
「流石、頭いいわね。それで本当の鍵穴は別の場所にあるのかしら?」
ステラの問いに自慢げに答えるラルフ。ステラ自身は『まあ、素人レベルかな』と心の中で酷評していた。
「ああ、本当の鍵穴は――」
こうしてべらべらと喋るあたりも含めて。
●
アードリアン・ボーレンダー、十六歳。ワルぶるお年ごろ。年上や有名人やクスリ(意味深)に興味津々。幸か不幸か、金と権力がワルぶる心を加速させ、実現させていた。
そんな彼に迫ったのは、
「アタシは薬を扱ってるのヨー。といっても、虫除けとか、気付けとか、そういうフツーのだけど」
「あ、私は薬師をしてますマンダリンって言います。錬金術は使えませんけど、そのかわり医学知識も多少はあるんですよ!」
薬を扱うチャイナ商人ルーと、医学を嗜むツボミ……ではなくマンダリンである。
「VF? アッティーンなんてすごいの扱うネー!」
ルーは商売人として話を合わせ、相手が扱う薬品を誉める形で場を盛り上げていた。相手に自慢話をさせ、それを持ち上げる。年上の魅力を使っての誘惑も駆使するなど、持ちうるすべてをもってアードリアンを調子つかせていた。
「実際凄いですよね。アッティーンってあれ、結構危ない薬草じゃないですか。それを上手く儲けに繋げてるのは軽く偉業ですよ」
そしてマンダリンは『医者の知識から』アッティーンを誉めて、そこからアードリアンを褒めたたえていた。アッティーンがどれだけ危なく、そして希少であるかを実際に知っているのだからその言葉に真実味が乗る。ルーと違い誘惑こそないが、実感こもった誉め言葉は自信を底上げする。
「まあそれほどでも? 農家のルートを見つけたのは俺だし。まあ何? 先見の明があるっていうか。ちょっと趣味で繋がってたヤクルートが役立ったっていうか?」
褒めたたえられて、調子づくアードリアン。察するに、彼がアッティーンのルート確保に一躍買ったようである。ほとんど偶然に近い人脈の繫がりのようだが。とまれ、そう言った経緯もあってかアブナイ薬の知識もそれなりにあるようで。
「スゴイネー! アタシもあやかりたいネー。あ、でも保管とか盗難対策とか大変そうネ。その辺りはドウナノ?」
ルーの言葉に、気分がいいアードリアンはべらべらと答える。
「ああ。盗難対策は兄貴達がバッチリやってるからな。具体的には――」
倉庫の見張りとかトラップは他の人達と情報かぶってるので省略。
「スゴイネー。お金かけてるネー。ホント将来有望ネ、アタシも商会で雇ってもらえないカナー? 勿論、一生でもいいのヨ?」
「マジか!? まあ、考えておいてやるよ! でもまあ、今晩はもう少しお互いを知り合ってもいいんじゃないか?」
急接近するルーに、キョドりながらも上位を保とうとするアードリアン。手玉に取られてると気付かないあたりが、まだまだ子供である。
「すごいですね、ボーレンダー商会。あ、でも換気が悪いと薬草は変質するんですけど、大丈夫なんですか?」
「それも問題ないぜ。箱に羊毛で作ったフィルターがあるからな。空気を通して虫を通さないようにするのに苦労したんだぜ」
「うわー。凄いですね! どんな箱か見てみたいです! そのフィルターは何処についているんですか?」
「箱の側面だ。大きさはこれぐらいの箱で、フィルターの大きさはこれぐらい。窓枠はフィルターが外れないように加工してあって――」
上機嫌のアードリアンさん、マンダリンの誘導尋問に見事に引っかかるのであった。
かくして『見張り』『倉庫の場所と特徴』『箱の形状』と言ったボーレンダー商会が保有するアッティーンの情報が、マキナ=ギアを通じて潜入組に伝わるのであった。
●
「全く、大したものだよ」
マキナ=ギアから入ってきた情報を受けて、マグノリアは苦笑する。酒が入っているなどで気が猛っていることもあるだろうが、大事な商品の内容をここまでべらべら喋るというのは如何なものか。
(流石に、ここまで迅速に情報が伝わるとは思っていないだろうしね)
彼らボーレンダー兄弟も、まさか喋ったその場で情報が伝わるとは思ってないのだろう。恐らくは次の日当たりにはアッティーンは輸送され、この倉庫にはない。だからこそあそこまで大口をたたいたのかもしれない。
『番犬』『保温機能付き倉庫』『偽の鍵穴』『フィルター付きの箱』……こと、防犯設備に関してはルーが再確認してくれたこともあり、ほぼ完ぺきな情報である。マグノリアは情報を脳内でまとめ、サポート役のレティーナと一緒に夜の街を走る。
港にある倉庫。そこに横付けされた巨大な蒸気機械。肉屋などにある冷凍庫を作る機械を巨大化したもので、一定室内の熱気を排気することで温度を下げたりするモノだ。ここがボーレンダー商会の倉庫だと辺りをつける。
「犬相手は、これでいいかな」
マグノリアは手製の匂い袋を番犬がいると思われる場所に投げ込む。人間だと少しひるむ程度の匂いだが、嗅覚が強い犬にとっては致命的だ。地面を転がり、耐えきれずに逃げ出してしまう。
その後、倉庫の扉の反対側にある模様から本当の鍵穴を見つけ、その解錠を行う。慣れた手つきでカギ穴をあけるレティーナ。暫くすると心地良い音と共に、扉が開いていく。薬草の鮮度を保つために室内が低温で保たれていたらしく。涼しい風が頬を撫でた。
倉庫内は多くの積み荷があった。棚一つに荷物が三十個ほど。その棚が倉庫内に縦横無尽に並んでいる。何も知らなければここで火災を起こすしか手はない。しかもアッティーンを確実に排除できたかわからないと言う不安付きだ。
「羊毛のフィルター……これか」
歩いて探すこと二十分ほど。マグノリアは目的の箱を見つける。フタと側面四方向に白いフィルターがつけられた箱。空気を通すことで薬草の鮮度を保つための工夫がなされた箱だ。マグノリアはその封を外し、中身を確認する。
「うん。間違いないね」
そこには確かに、アッティーンがあった。似た箱をいくつか見つけ、それら全てから薬草を押収する。偽装の為に、似た形の草を入れて封をし直す。見る人が見ればバレるが、時間ぐらいは稼げるだろう。
かくして一刻も経たぬ間に潜入は完了したのであった。
●
ボーレンダー商会がアッティーン紛失に気付いたのが、それから数日後。酒の勢いやプライドなどもあり、自由騎士……酒場で出会った女性に喋らされたという事は口外されることはなかった。
これによりヴィスマルク軍内でのフェアボーテネフリュヒテ数は極端に減る。すぐに確保しようと商人達は躍起になるが、生産が再開されるのは数か月先になるだろう。
以降、ボーレンダー三兄弟はヴィスマルク軍から見放され、ヴェスドラゴン内での素行もなりを潜めたという。町の人達は安堵すると同時に、あのボーレンダー達が商品を紛失するなんてどういう事だろうと首をひそめたという。
その謎は永遠に解決することはなく、そしてそれ以上の衝撃がヴェスドラゴンを襲う事になる。自由騎士の女神モリグナ襲撃と言う大事件が。
だが、それはまだ先の話――
「もっと酒持ってこい! 料理もな!」
酒が入って気分が高ぶっていることもあり、ボーレンダー三兄弟の声とテンションはどんどん高まっていく。
「お酒のお代わりお持ちしましたー!」
ウェイトレスの制服を着た『ろりっぱい!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)がジョッキを手にやってくる。笑顔と豊満な胸を強調するように近づいていく。なんちゅー称号だよと思ったけど、つけたのどくどくでした。
動きやすさというよりは女性らしさを強調するフリフリでギリギリな制服。カーミラがこれを着ると、胸や太ももが強調されていた。給仕に変装するのは作戦上ありで、その上で自らの武器を最前面に出すことになり、更にありありである。
「あの、お隣よろしいでしょうか……?」
おずおずとした表情で『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)がラルフの隣に座る。誘惑等は苦手だが、それでもアッティーンの流通は止めなくてはいけない。VFの作製を止める為に、覚悟を決めた。
探るようなラルフの視線。それを前に怯えないように意識するたまき。酒に酔ってはいるが、手放しでこちらを受け入れるほど相手も愚かではない。上手く話を合わせて、相手の気分をさらに高めなくては。
「ふふ、私もいいかしら。今夜はいい男と飲みたい気分なの」
同時にラルフの隣に座る『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。ノウブルに見えるように変装し、『暴力的な男性に殴られた』傷を自ら付けている。弱みを見せる事で相手を上機嫌にさせ、口を軽くする。ヘルメリアの工作員時代でもよく使った手た。
ヘルメリアの平和を維持するために、暗部に居たステラ。イ・ラプセルはその手管を使うようには言わないが、こういう依頼であるなら仕方ない。必要なのは情報だ。刃や魔法では成し得ない戦いが始まる。
「ネーネー、同業者ヨネ? 噂は聞いてるヨー」
胸元を強調したチャイナドレスを着た『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)がアードリアンに迫る。少しお酒を入れて、陽気な商人を装って――装ってるというか素?――近づいていく。
相手の目線が商売人のそれと、年上に弱い少年の入り混じったものになる。ルーは商売人として相手の表情を読むのに慣れている。最初の一打は上手くいった。さてこのまま流れを掴めるか否か。口八丁手八丁は商売人の基本だ。
「アードリアン・ボーレンダーさんですよね? 凄い凄い本物です! 一度お会いして見たかったんですよー!」
三つ編み、素朴な服、上目使い。そんな三連撃を決めながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)がおだてに入る。性的に篭絡するのは色々あって無理という事なので、おだてて情報を引き出すつもりだ。
相手の性格と話題の方向性は掴んでいる。ツボミ自身も医者なので、薬学に関する知識はそれなりに持っている。脳内で会話の流れを組み立てながら、アードリアンを見た。戸惑いながらも、雰囲気にのまれそうなそんな顔だ。
「暫くは、待機かな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はマキナ=ギアの通信をオンにした状態で酒場近くで待機していた。マキナ=ギアの通信を誰かに見られれば厄介なことになる。離れすぎず、近すぎず。怪しまれない場所に潜伏しながら、耳に意識を傾ける。
ボーレンダー商会の倉庫。軍の倉庫よりは警備は甘いだろうが、それでも見つかれば厄介なことになる。ヴェスドラゴンに潜伏している以上、余計な騒ぎを起こせば今後の活動が不利になる。静かに、そして速やかに動かなくてはならない。
●
「ねーねー、お客さん、いっぱい注文して景気がいいね! 軍人さんかなぁ?」
「たくさん飲んでるのに酔わないなんて、すごーい。あーし驚きー」
エードゥアルトに寄りかかったのは、カーミラとアミナだ。給仕の服のままカーミラはエードゥアルトに寄りかかる。胸の谷間が見えるような位置取りをして、相手の視線がこちらの胸を見たのを確認する。やっぱりかー、と心の中で納得しながら酒を注いだ。
「軍人じゃねーよ。その軍人に物を売っている商人だ」
「へー! じゃあ軍人さんより偉いんだ。だって軍人さんもご飯食べないと何もできないし」
「がはは。そうだな。よし、もっとこっちよれ。ケモノビトだけど気に入ったぞ、オマエ」
エードゥアルトはカーミラの誉め言葉と、押し付けられる胸の感覚に気分を良くしたのか、上機嫌である。わっかりやすー、と周囲の自由騎士は呆れるが実際の所はここがスタートラインなのだ。相手に気にられ、上手く情報を引き出せるか。
「じゃあそのお薬を作るのが高く売れるんだー」
「まあな、ヴィスマルクの平和は俺たちが守っていると言っても過言じゃねぇ。にしてもでけぇなあ」
カーミラを抱き寄せ、服の上からその豊満な胸に手を伸ばすエードゥアルト。
「んっ。でもそんな重要なモノ、誰かに取られたりしないのかな?」
「そりゃ狙われるさ。だから金に物言わせて厳重な警備をしてるんだよ」
「へー。でっかい金庫とか? あ、もしかしてゴーレムみたいに襲ってくるとか?」
「子供だなぁ。胸はでかいのに。訓練された犬が近くに隠れてて、迂闊に近づけば喰い殺されるって寸法さ」
会話の度にセクハラ発言しながら胸を触ってくるエードゥアルト。その度にカーミラは身をよじらせたりしている。その反応を楽しむように口が軽くなるエードゥアルト。
結局犬の種類とか数とか、その辺りまでべらべら喋るのであった。
●
「コーヒー豆、聞いたことがあります。最近よく売れていると」
「ほお、目が高いな。いい豆農家を見つけてな。後は工場と機械があれば大量に作れるんだが」
「あ、でしたらヘルメリアでその手の機械を見たことがあります。再現できますよ」
「本当か!? なんでヘルメリアの機械に詳しいんだ?」
「私と一緒にヘルメリアから流れてきたのよ。なんならあそこのお話しましょうか?」
たまきとステラはラルフと話をしていた。こちらは色仕掛けと言うよりは蒸気機械やヘルメリアの情報などを餌にして会話を継続している形だ。実際に機械技術に詳しいたまきと、ヘルメリアで長年生活していたステラである。商人の気を引く蒸気機械の話題は事欠かない。
「円形のローラーとそれを豆を砕く為の刃。大きさを統一するために数度に分けてのカッティングが――」
「蒸気戦車のギア切り替えに使われるのがこのシステムで、テコの原理を利用した――」
「脱着可能にすることでメンテナンスも容易になり、長く使用することが出来ます。あとは――」
「階段そのものをベルトコンベアのようにすることで建物内の上下移動が容易になるわ。ロンディアナの一部で運用されていて――」
「……なるほど」
たまきの蒸気技術の深さと、ステラのヘルメリア情報&セクシーな魅せ方。二人の持ちうる技術と知性の高さはラルフの予想以上だった。最初は気弱そうで劣情を誘う女性二人だったので適当に遊んでやろうと思ったが、むしろ興味が高まった。
「ところで、先ほどお耳にはさんだ『VF』? たしかアッティーン系の薬品だと」
場が温まったのを見計らって、たまきが話題を振る。マキナ=ギア、スイッチオン。
「ああ、お前達に特別に教えてやる。今、ヴィスマルクとイ・ラプセルが戦争をしているだろう? その切り札的な薬品なんだ」
よく知っている。その言葉を喉元で抑え込む自由騎士。
「すごーい。そんな重要な薬品を扱っているだなんて」
「まあな。前まではかなり流通していたんだが、一気に数が減ってな。お陰で仕入れるのに一苦労だぜ。ま、俺の頭脳があるからなんとか仕入れることが出来たんだ」
「まあ。でも保存とか大変じゃないですか? 薬草は、鮮度が重要と聞きますし」
たまきの言葉に指を振るラルフ。分かってないなぁ、素人は。そう言いたげな顔だ。――実際は保存方法からアッティーンの保管場所を聞き出そうとする自由騎士に乗せられているわけだが。
「ウチが保有している港の倉庫に、温度と湿度を一定に保てる場所があるんだ。そこなら鮮度は充分保てるのさ」
「温度と湿度、ですか。となるとかなり大掛かりな機械で管理されているんですね。冷風を送る送風機に、湿った風を生むボイラー。あとは温度を閉じ込める壁……」
指折り告げるたまき。ラルフの倉庫を誉めるように言いながら、倉庫の特徴を潜入組に伝えているのである。
「でもそんな重要なモノなら、盗まれたりしないかしら?」
「当然犯罪対策も充分さ。兄貴は犬だけで十分だって言ってるけど、犬が眠らされた時用にダミーの鍵穴を作ってるのさ。見せかけのカギ穴を弄れば、そこから毒矢が飛び出るって寸法だ」
「流石、頭いいわね。それで本当の鍵穴は別の場所にあるのかしら?」
ステラの問いに自慢げに答えるラルフ。ステラ自身は『まあ、素人レベルかな』と心の中で酷評していた。
「ああ、本当の鍵穴は――」
こうしてべらべらと喋るあたりも含めて。
●
アードリアン・ボーレンダー、十六歳。ワルぶるお年ごろ。年上や有名人やクスリ(意味深)に興味津々。幸か不幸か、金と権力がワルぶる心を加速させ、実現させていた。
そんな彼に迫ったのは、
「アタシは薬を扱ってるのヨー。といっても、虫除けとか、気付けとか、そういうフツーのだけど」
「あ、私は薬師をしてますマンダリンって言います。錬金術は使えませんけど、そのかわり医学知識も多少はあるんですよ!」
薬を扱うチャイナ商人ルーと、医学を嗜むツボミ……ではなくマンダリンである。
「VF? アッティーンなんてすごいの扱うネー!」
ルーは商売人として話を合わせ、相手が扱う薬品を誉める形で場を盛り上げていた。相手に自慢話をさせ、それを持ち上げる。年上の魅力を使っての誘惑も駆使するなど、持ちうるすべてをもってアードリアンを調子つかせていた。
「実際凄いですよね。アッティーンってあれ、結構危ない薬草じゃないですか。それを上手く儲けに繋げてるのは軽く偉業ですよ」
そしてマンダリンは『医者の知識から』アッティーンを誉めて、そこからアードリアンを褒めたたえていた。アッティーンがどれだけ危なく、そして希少であるかを実際に知っているのだからその言葉に真実味が乗る。ルーと違い誘惑こそないが、実感こもった誉め言葉は自信を底上げする。
「まあそれほどでも? 農家のルートを見つけたのは俺だし。まあ何? 先見の明があるっていうか。ちょっと趣味で繋がってたヤクルートが役立ったっていうか?」
褒めたたえられて、調子づくアードリアン。察するに、彼がアッティーンのルート確保に一躍買ったようである。ほとんど偶然に近い人脈の繫がりのようだが。とまれ、そう言った経緯もあってかアブナイ薬の知識もそれなりにあるようで。
「スゴイネー! アタシもあやかりたいネー。あ、でも保管とか盗難対策とか大変そうネ。その辺りはドウナノ?」
ルーの言葉に、気分がいいアードリアンはべらべらと答える。
「ああ。盗難対策は兄貴達がバッチリやってるからな。具体的には――」
倉庫の見張りとかトラップは他の人達と情報かぶってるので省略。
「スゴイネー。お金かけてるネー。ホント将来有望ネ、アタシも商会で雇ってもらえないカナー? 勿論、一生でもいいのヨ?」
「マジか!? まあ、考えておいてやるよ! でもまあ、今晩はもう少しお互いを知り合ってもいいんじゃないか?」
急接近するルーに、キョドりながらも上位を保とうとするアードリアン。手玉に取られてると気付かないあたりが、まだまだ子供である。
「すごいですね、ボーレンダー商会。あ、でも換気が悪いと薬草は変質するんですけど、大丈夫なんですか?」
「それも問題ないぜ。箱に羊毛で作ったフィルターがあるからな。空気を通して虫を通さないようにするのに苦労したんだぜ」
「うわー。凄いですね! どんな箱か見てみたいです! そのフィルターは何処についているんですか?」
「箱の側面だ。大きさはこれぐらいの箱で、フィルターの大きさはこれぐらい。窓枠はフィルターが外れないように加工してあって――」
上機嫌のアードリアンさん、マンダリンの誘導尋問に見事に引っかかるのであった。
かくして『見張り』『倉庫の場所と特徴』『箱の形状』と言ったボーレンダー商会が保有するアッティーンの情報が、マキナ=ギアを通じて潜入組に伝わるのであった。
●
「全く、大したものだよ」
マキナ=ギアから入ってきた情報を受けて、マグノリアは苦笑する。酒が入っているなどで気が猛っていることもあるだろうが、大事な商品の内容をここまでべらべら喋るというのは如何なものか。
(流石に、ここまで迅速に情報が伝わるとは思っていないだろうしね)
彼らボーレンダー兄弟も、まさか喋ったその場で情報が伝わるとは思ってないのだろう。恐らくは次の日当たりにはアッティーンは輸送され、この倉庫にはない。だからこそあそこまで大口をたたいたのかもしれない。
『番犬』『保温機能付き倉庫』『偽の鍵穴』『フィルター付きの箱』……こと、防犯設備に関してはルーが再確認してくれたこともあり、ほぼ完ぺきな情報である。マグノリアは情報を脳内でまとめ、サポート役のレティーナと一緒に夜の街を走る。
港にある倉庫。そこに横付けされた巨大な蒸気機械。肉屋などにある冷凍庫を作る機械を巨大化したもので、一定室内の熱気を排気することで温度を下げたりするモノだ。ここがボーレンダー商会の倉庫だと辺りをつける。
「犬相手は、これでいいかな」
マグノリアは手製の匂い袋を番犬がいると思われる場所に投げ込む。人間だと少しひるむ程度の匂いだが、嗅覚が強い犬にとっては致命的だ。地面を転がり、耐えきれずに逃げ出してしまう。
その後、倉庫の扉の反対側にある模様から本当の鍵穴を見つけ、その解錠を行う。慣れた手つきでカギ穴をあけるレティーナ。暫くすると心地良い音と共に、扉が開いていく。薬草の鮮度を保つために室内が低温で保たれていたらしく。涼しい風が頬を撫でた。
倉庫内は多くの積み荷があった。棚一つに荷物が三十個ほど。その棚が倉庫内に縦横無尽に並んでいる。何も知らなければここで火災を起こすしか手はない。しかもアッティーンを確実に排除できたかわからないと言う不安付きだ。
「羊毛のフィルター……これか」
歩いて探すこと二十分ほど。マグノリアは目的の箱を見つける。フタと側面四方向に白いフィルターがつけられた箱。空気を通すことで薬草の鮮度を保つための工夫がなされた箱だ。マグノリアはその封を外し、中身を確認する。
「うん。間違いないね」
そこには確かに、アッティーンがあった。似た箱をいくつか見つけ、それら全てから薬草を押収する。偽装の為に、似た形の草を入れて封をし直す。見る人が見ればバレるが、時間ぐらいは稼げるだろう。
かくして一刻も経たぬ間に潜入は完了したのであった。
●
ボーレンダー商会がアッティーン紛失に気付いたのが、それから数日後。酒の勢いやプライドなどもあり、自由騎士……酒場で出会った女性に喋らされたという事は口外されることはなかった。
これによりヴィスマルク軍内でのフェアボーテネフリュヒテ数は極端に減る。すぐに確保しようと商人達は躍起になるが、生産が再開されるのは数か月先になるだろう。
以降、ボーレンダー三兄弟はヴィスマルク軍から見放され、ヴェスドラゴン内での素行もなりを潜めたという。町の人達は安堵すると同時に、あのボーレンダー達が商品を紛失するなんてどういう事だろうと首をひそめたという。
その謎は永遠に解決することはなく、そしてそれ以上の衝撃がヴェスドラゴンを襲う事になる。自由騎士の女神モリグナ襲撃と言う大事件が。
だが、それはまだ先の話――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
……あまり人来ないと思ったけど、満員になってビックリ。
以上のような結果になりました。何だこの……この、惨状は。
こんなんべらべら喋るしかないやないかー。
MVPはめっちゃ迷いましたが、いろんな意味でベストマッチだったシェーファー様に。
アードリアンさんの心に色々残ったんじゃないでしょうか。淡い恋心とか、年上チャイナ属性とか、
それではまた、イ・ラプセルで。
……あまり人来ないと思ったけど、満員になってビックリ。
以上のような結果になりました。何だこの……この、惨状は。
こんなんべらべら喋るしかないやないかー。
MVPはめっちゃ迷いましたが、いろんな意味でベストマッチだったシェーファー様に。
アードリアンさんの心に色々残ったんじゃないでしょうか。淡い恋心とか、年上チャイナ属性とか、
それではまた、イ・ラプセルで。
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