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アデレード港町復興作業

●争いの爪痕
「あら……やっぱりここ、酷くやられちゃってるわね」
先の戦いで傷ついたアデレードの街を見て、『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は深いため息をついた。
無事に戦いを乗り切ったものの、その爪痕は至る所にみられ、街全体を見ても未だに痛々しい部分が多く見られている。
そして、特に酷い被害を受けているのがこの区画だった。
住民達が住む住宅街、避難は済んでいたために人の被害はなかったものの、その住居には至る所で痛手を受けている。
家によっては完全に崩れてしまっているものもあり、このままでは自身の家で休むこともままならないところも多いだろう。
「おーい、こっちの修理を手伝ってくれ!」
「いや待てよ、まだこっちが終わってねぇ!」
「何言ってるんだい! 先に私の家の約束だろう!?」
ああだこうだ。住民達は精力的に復興作業に望んではいるものの、この状況をまとめきれてはおらず、どこもかしこも言い争いが絶えず、復興の進行度は絶望的と言えるだろう。
「やっぱり、みんな余裕がないみたいね」
自らの暮らす街が傷つき、ボロボロになってしまっている今、住民達にはどうしても心に余裕がないのだろう。
早く元通りの暮らしに戻りたい、日常に帰りたいとはやる気持ちが彼らの足を引っ張っている。
誰もが早く元の生活に戻りたいと思っているのにうまくいかない、非常に難しい問題をアデレードは今抱えていた。
●頼られるのは
「と、まぁそんな状況なのよ」
住宅街を一望できる場所で、バーバラは君達に向けてそう零した。
「復興自体の人手が足りてないっていうのもあるんだけど、やっぱりみんな焦ってる。心に余裕を作ってあげて、その上でうまくみんなを導いてあげて欲しいのよね」
あはは、と乾いた笑いを浮かべながらバーバラは続ける。
「あたし達も色々と忙しくってね、依頼って形でこの復興の手伝いをみんなにしてもらいたいのよ」
やり方は特に問わない。
悩みを聞いてあげる、復興作業のやり方を整えてあげる、復興そのものを手伝ってあげる。
方法はここに集まってくれた人たちに任せたいと告げて、バーバラはニッと笑う。
「勿論、終わったら打ち上げしよっか。あ、でも未成年飲酒はダメよ?」
せっかく皆を導く立場になるんだから、ちゃんと模範になる様に、と指摘しながらバーバラは君達に復興個所の見取り図を渡してくる。
「それじゃ、お願いね。皆で笑って作業を終えられるようにがんばりましょ」
依頼を受けた君達は、どうやって作業を始めていくかを話し合うことになる。
無事にアデレードの街は復興作業を終えられるのか、それは君達の行動にかかっているだろう。
「あら……やっぱりここ、酷くやられちゃってるわね」
先の戦いで傷ついたアデレードの街を見て、『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は深いため息をついた。
無事に戦いを乗り切ったものの、その爪痕は至る所にみられ、街全体を見ても未だに痛々しい部分が多く見られている。
そして、特に酷い被害を受けているのがこの区画だった。
住民達が住む住宅街、避難は済んでいたために人の被害はなかったものの、その住居には至る所で痛手を受けている。
家によっては完全に崩れてしまっているものもあり、このままでは自身の家で休むこともままならないところも多いだろう。
「おーい、こっちの修理を手伝ってくれ!」
「いや待てよ、まだこっちが終わってねぇ!」
「何言ってるんだい! 先に私の家の約束だろう!?」
ああだこうだ。住民達は精力的に復興作業に望んではいるものの、この状況をまとめきれてはおらず、どこもかしこも言い争いが絶えず、復興の進行度は絶望的と言えるだろう。
「やっぱり、みんな余裕がないみたいね」
自らの暮らす街が傷つき、ボロボロになってしまっている今、住民達にはどうしても心に余裕がないのだろう。
早く元通りの暮らしに戻りたい、日常に帰りたいとはやる気持ちが彼らの足を引っ張っている。
誰もが早く元の生活に戻りたいと思っているのにうまくいかない、非常に難しい問題をアデレードは今抱えていた。
●頼られるのは
「と、まぁそんな状況なのよ」
住宅街を一望できる場所で、バーバラは君達に向けてそう零した。
「復興自体の人手が足りてないっていうのもあるんだけど、やっぱりみんな焦ってる。心に余裕を作ってあげて、その上でうまくみんなを導いてあげて欲しいのよね」
あはは、と乾いた笑いを浮かべながらバーバラは続ける。
「あたし達も色々と忙しくってね、依頼って形でこの復興の手伝いをみんなにしてもらいたいのよ」
やり方は特に問わない。
悩みを聞いてあげる、復興作業のやり方を整えてあげる、復興そのものを手伝ってあげる。
方法はここに集まってくれた人たちに任せたいと告げて、バーバラはニッと笑う。
「勿論、終わったら打ち上げしよっか。あ、でも未成年飲酒はダメよ?」
せっかく皆を導く立場になるんだから、ちゃんと模範になる様に、と指摘しながらバーバラは君達に復興個所の見取り図を渡してくる。
「それじゃ、お願いね。皆で笑って作業を終えられるようにがんばりましょ」
依頼を受けた君達は、どうやって作業を始めていくかを話し合うことになる。
無事にアデレードの街は復興作業を終えられるのか、それは君達の行動にかかっているだろう。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.最低限の復興を完了させる。
初めまして、シナリオを担当させていただきますSTのトビネコです。
今回皆様に任せられたのは復興作業とのその人々のサポートになります。
とにもかくにもボロボロになっている住宅街の家の復興を行うのが主になりますが、方法や手段は皆様にお任せされております。
住民達は自分たちの住む場所を直す為に全力で取り組んでいますが、どうにもまとまらず空回りしている為、ここをどうにか手助けしてあげるとよいでしょう。
●復興範囲
皆様に任せられた作業の地点は住宅街の住居になります。
完全に倒壊してしまった住居はどうしようもないとしても、ある程度形の直っている住居は早く修復し、生活ができるようにしたいという状況です。
家の件数は何十件もありますが、幸い人手は多くある為、うまく回せば日が暮れるまでに最低限の修復は終わり、彼らは自身の家に帰ることができるでしょう。
一応期限は設けられてはいませんが、なるべく早く戻れることに越したことはありません。
復興作業に使われる資材や機材は既に準備されており、これらは自由に扱っていいとの事です。
また、復興の支援場所として簡易的に建設されたキャンプもあり、無料で食事の提供や慰安活動などを行っている場所もあるようです。
しかしこちらに関しては人手が足りておらず、あまり効果的に使えてはいないようです。
●現在の状況
天候は快晴、作業開始の日時は朝10時ぐらいからとなっており、皆様の参加は10時からのタイミングになっています。
作業道具は現場に用意されておりますが、必要であれば皆様が外部から装備やアイテムを持ち込むことは可能です。
キャンプ施設には料理に使われるであろう食材や調味料の類は一通りそろっています。
こちらも自由に扱っていただいて構いません。
また、復興作業の終わりの目途がつき次第、バーバラが簡単な打ち上げの準備をしているようです。
※準備以外にも彼女は忙しく、復興中に彼女は姿を見せません。
こちらの参加は任意ですが、復興作業にはあまり関わらない部分になりますのでご注意ください。
現状の説明は以上となります。
どうか皆様の手で無事に復興作業を終えられるよう、うまくお手伝いをしてあげてください。
今回皆様に任せられたのは復興作業とのその人々のサポートになります。
とにもかくにもボロボロになっている住宅街の家の復興を行うのが主になりますが、方法や手段は皆様にお任せされております。
住民達は自分たちの住む場所を直す為に全力で取り組んでいますが、どうにもまとまらず空回りしている為、ここをどうにか手助けしてあげるとよいでしょう。
●復興範囲
皆様に任せられた作業の地点は住宅街の住居になります。
完全に倒壊してしまった住居はどうしようもないとしても、ある程度形の直っている住居は早く修復し、生活ができるようにしたいという状況です。
家の件数は何十件もありますが、幸い人手は多くある為、うまく回せば日が暮れるまでに最低限の修復は終わり、彼らは自身の家に帰ることができるでしょう。
一応期限は設けられてはいませんが、なるべく早く戻れることに越したことはありません。
復興作業に使われる資材や機材は既に準備されており、これらは自由に扱っていいとの事です。
また、復興の支援場所として簡易的に建設されたキャンプもあり、無料で食事の提供や慰安活動などを行っている場所もあるようです。
しかしこちらに関しては人手が足りておらず、あまり効果的に使えてはいないようです。
●現在の状況
天候は快晴、作業開始の日時は朝10時ぐらいからとなっており、皆様の参加は10時からのタイミングになっています。
作業道具は現場に用意されておりますが、必要であれば皆様が外部から装備やアイテムを持ち込むことは可能です。
キャンプ施設には料理に使われるであろう食材や調味料の類は一通りそろっています。
こちらも自由に扱っていただいて構いません。
また、復興作業の終わりの目途がつき次第、バーバラが簡単な打ち上げの準備をしているようです。
※準備以外にも彼女は忙しく、復興中に彼女は姿を見せません。
こちらの参加は任意ですが、復興作業にはあまり関わらない部分になりますのでご注意ください。
現状の説明は以上となります。
どうか皆様の手で無事に復興作業を終えられるよう、うまくお手伝いをしてあげてください。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
1個
5個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年06月11日
2018年06月11日
†メイン参加者 8人†
●
ボロボロになった住宅街。
所々でああだこうだと良い争いが発生しており、中々作業に進展はない。
まだ自分の家には当分戻れそうもないのが、彼のやる気をどんどんと削ぎ取っていく。
「おはようございます!!」
そんな鬱々とした気分を吹き飛ばしたのは、『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)の気持ち良いぐらいの挨拶だった。
「あ、ここにこれ広げてもいいですか?」
「あ、ああ、構わないけど」
抱えてきた紙をアラドが広げれば、住宅街を復旧させるためのスケジュールや手順など、様々なものをまとめたものが記されていた。
「早く家を修復できるようにね、この紙のように作ってほしいんだ」
アラドの広げた紙をその場に集まった面々が覗き込む。
「心配いらないよ。旦那は朝からずーっと頑張ってまとめてくれたから。それに俺も手伝ったし、そんなに不安なものじゃないはずだよ」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が迷う住民達にそう告げれば、彼らはわかったと頷き、スケジュールを見始める。
助け舟を出してくれたウェルスにアラドはにこりと返す。
「細かい調整は現場で出来るし、何よりやることが沢山あるの」
スケジュールを見始めてくれた人たちに向け、アラドは真摯に向きなおる。
「みんなが手伝ってくれれば、それだけ一気にいっぱい直せるんだけど……」
喧嘩をしてちゃそれもできない、だから協力してほしい。
「だから、手伝ってください。お願いします!」
そんな思いを込めて、アラドは頭を下げた。
すると、彼らはそれぞれ「勿論だ」とか、「俺達も負けられない」等と言葉を新たに、作業の意を苦を高めだしてくれた。
ここの彼らはきっと大丈夫だろう。そう思ったウェルスがふと視線を逸らすと、まだまだ問題点は見えた。
少し離れた場所で言い争いをする一団。
作業工程や順序でもめている彼らはあまりに熱が入りすぎている、どうにかしてこちらの事を伝えたいが、どうしたものかとウェルスが頭を抱えようとすると、リュリュ・ロジェ(CL3000117)がそこへ一歩踏み出していくのが見えた。
「一日でも早く元の生活に戻りたい気持ちは分かる。だが、ここで揉め続けていても家が戻ってくるわけがないだろう?」
はっきりと、揉め合いをする一団に向けてリュリュは言い切った。
危ないから避難だけをさせて、安全になったから戻して、それで後は全て彼らに任せるというわけにもいかない。
そう思っている彼だからこそ、それ以上に続く言葉があった。
「……言い難いことだが、自由騎士団だけではこの街を直しきれない」
自分達の力が足りていない、だからこそ頼みたい。
「元の生活に戻るために、どうか皆の力を貸してもらえないだろうか?」
リュリュがそういう頃には、揉め合いをする人々の姿は無くなっていた。
「……ああ、すまなかった。そうだよな、あんた達だって頑張ってくれたんだ」
「……ありがとう」
「うん、うまくいったみたいで何よりなんだぞ」
大人同士のいざこざが解決される様子を見ていたサシャ・プニコフ(CL3000122)は安心した。
「みんなも大人たちみたいに頑張るんだぞ。わからなかったらサシャが教えるぞ」
大人たちのいざこざで不安を覚えていたが、サシャのお陰でやる事を迷わず活動できるだろう。
「あ、でも危ないところに近づいたらダメだぞ」
「はーい!」
サシャが注意するれば、子供たちは一斉に返事をした。
小さなものを運んだり必要な部品を運んだりと、サシャの言葉通り子供達もこの住宅街で必要な力となっていく。
「はい、注目。サシャ君もありがとうね」
ペルナ・クラール(CL3000104)はパンパンと両手を鳴らし、声帯拡張で広げた声を周囲に響かせ、注目を一斉に集める。
「皆が早く自分のお家で休みたい気持ちはとってもわかるんだ。皆も話を聞いてくれたし、わかってくれて嬉しいよ」
既に彼らの気持ちは真っ直ぐ修復に向けられている。
「みんなで一致団結して、私達と一緒に作業を終わらせよう」
ペルナの言葉に、おー、という言葉とともに至る所で拳が突きあがった。
「という事で最初の作業は……腹が減っては何とやら、だよね」
時刻はそろそろ昼に差し掛かる。
●
「ふぅ……」
作業現場で、『女騎士の忌み子』ネラ・チャイカ(CL3000022)は一息ついた。
武芸一辺倒で生きてきた彼女はこういう時どういうふうに動けばいいか、という知識は少ない。
自分に出来る事と言えば肉体労働であり、小柄でありつつもその筋力を活かし作業用の木材の運搬を只管に行っていた。
「ネラ嬢、その木材は昼からすぐに使いたいからあっちの方に頼めるか?」
「わかった、直ぐに持っていくよ」
アラドの傍でスケジュールと作業工程の一覧を見ていたウェルスがネラに頼むと、傍にまとまっていた木材を抱え、昼からの作業現場への運搬を始めていく。
「……ん?」
道中、文字通り凄まじい叫び合いの声が聞こえてきた。
「なんで俺の家が壊されなきゃならねぇんだ!」
あまりに被害の大きい住居は取り壊すことになっているという話をネラは聞いていた。
家の前で行われている言い争いは家を壊す事に納得できない者達によるものなのだろう。
「待ってくれ、どうか矛を収めてくれないか?」
ネラは運んでいた木材をその場において話しかけに走った。
「取り壊しとはいっても、完全に修復するわけじゃないんだ。新たに一度……」
「なんで壊されなきゃいけないんだよ!!」
説得しようにも、中々相手は話を聞いてくれない。
ちゃんと修復するために一度取り壊す、という事なのだがなかなか理解が出来ないのだろう。
ネラが悩み始めた瞬間、目の前に緩い顔をした小さな人型が飛び込んできた。
「そこの人達、ちょっと待った~!」
「え、え?」
ネラはもちろん、言い争いをしていた二人の男たちも驚き、言い争いが止まると同時に駆け寄ってきた『マザり鴉』アガタ・ユズリハ(CL3000081)が自ら作り出したスパルトイをひょいと掴んでひっこめた。
「まぁ、落ち着いてよ。ちゃんと話を聞けばきっと納得できると思うよ?」
「話って言っても……」
「ほら、炊き出しの方からいい匂いがしてこない?」
アガタが自分のペースで話を勧めれば、男はう、と言葉に詰まる。
「……すみません、気持ちが落ち着いていないのもわかります。でも、この状態での取り壊しは復旧の工程を早く進める為に必要なんです」
「……本当に、か?」
「はい、本当です。必ずあなたの家は元に戻します」
落ち着いた男はようやくネラの話を聞き入れ、頷く。
「それじゃあ後で私の特性メニューをふるまっちゃおう、キャンプに来たら是非来てね」
不敵に笑うとアガタはキャンプの方へと向かっていく。
●
復興作業が行われている住宅街の傍に簡易建設されたキャンプ。
「あー、待って待って。まだできてないから!」
そんなキャンプを切り盛りをしているのはユラ・キリシマ(CL3000012)だった。
このキャンプで食事を作り、皆の気持ちを後押しする重要な位置についていた。
とはいえ、このキャンプ地もしっかりまとめ切られているわけでもない。
「だめだぞ! 邪魔しちゃってるぞ!」
そこへ子供たちをまとめあげているサシャがやってきた。
「サシャさん。おかげで助かりました」
「大丈夫だぞ。でもちょっと言いすぎたぞ……」
子供は感情に素直、悪いと言われて落ち込んでいる子もいた。
悪いと思えばしっかり反省するし、いいと思う事を褒められれば喜ぶ。
「ううん、大丈夫。でもそうだね……皆、お手伝いしてもらっていい?」
ユラがそう切り出せば、子供たちは「え?」と顔をあげる。
「私も手が足りてなくって、ジャガイモの皮むきをお願いできる?」
「皮むきをするんだぞ?」
「うん、サシャ君もわかる?」
もともと昼過ぎからはキャンプを手伝うつもりだったサシャは任せるんだぞ、と自身の胸を叩く。
「あれ、どうしたの?」
どうにも、料理の仕方がわからない、子供がいるようだった。
どうしたものかと困りかけたユラの目に、あたふたとする老婆の姿が目に留まった。
「あ、お婆さん。どうしたんですか?」
「ああ、お姉さん。何か出来る事はないかい?」
そんな老婆の姿を見て、ユラはそうだと思いついた。
「じゃあ、お婆さん。この子達に皮むきのやり方を教えてあげてくれません?」
「あらあら、皮むきかい?」
ややゆったりとしているものの、老婆は微笑むとすぐに了承してくれた。
「ええ、お願いしてもいいですか?」
「大丈夫よ。ありがとうねぇ」
すぐに子供達に向きなおると、慣れた手つきで皮むきの方法を教え始めていく。
「よかった。後はー……」
「ジャガイモ剥けたぞ! 次はどうする!」
「あ、じゃあニンジンとタマネギもお願い!」
あっという間に大量にあったジャガイモは皮を剥かれた状態でやってきた。
こうなるとゆっくり作っていられないなと思いながらも、ユラはカレーを作る鍋の様子を見に走った。
キャンプ地に設営されたテーブルには多くの作業者が集まり、作られたカレーを食べて笑顔を作り上げている。
「やぁやぁ、作業はどうだい?」
「あ、アガタさん」
休憩を兼ねて休みながらも、昼からの予定を確認する騎士団の面々の元にやってきたアガタはカレー以外のメニューを持っていた。
「錬丹術士の養生メニュー! どう、これもいい匂いでしょ?」
「おー……これはいい香り、元気が出そう」
「本当だぞ、何を使ったんだぞ?」
ウェルスが香りに花をひくつかせ、サシャが興味津々に意識を向ける。
「ニンニクと……ローズマリーかな?」
「おや、ペルナちゃんさすがだねぇ」
ふふ、と笑いながらペルナは食事を続ける。
「そういうわけでネラちゃん。お待ちどうさま」
「あ、いただくよ」
あっさりと空にしたカレーの皿をどかし、ネラはパンケーキをぱくり、ぱくぱくと小柄な体格に見合わずに食べていく。
「いい食べっぷりですよね、作り甲斐があります」
ユラはその様子を見ながら微笑む。
「………う」
そんなテーブルの隅で、インドア派のリュリュはカレーを食べぐったりとしていた。
中々にこの復興作業は体を酷使する。このままでは筋肉痛になりそうだし、パナケアで治せるかなと思いながらもリュリュはそっとテーブルに置かれたパンケーキを口にした。
疲れた体に、中々効く。そんな感想を抱きながらも、午後からの作業に向けて各々は英気を養っていった。
●
今、アデレード港町の住宅街は意欲に満ちた人々であふれていた。
焦る気持ちも、妬む気持ちもなくなり今住民達の目指す先はこの住宅街の復興のみ。
「うん、よし」
現場を監督していたアラドは満足そうに頷いた。
もっと喧嘩も起きると思っていたが、午後になればもうそんなことをしている人たちの姿はどこにもない。
「あ、そこは手を抜いちゃダメ」
ふと、アラドの目に粗く加工された木材が目に留まった。
「急ぐ気持ちはわかるけど。丁寧にやろう、ね?」
はっきり言い聞かせるようにアラドが告げれば、作業員は急ぎ木材を再度修正用の場所へと運び直す。
「ふぅ……」
「どうしたの?」
木材運びに戻ってきたネラが大きなため息をついたのを、アラドは見逃さなかった。
「あ、ええとね。皆作業に集中してくれてるんだけど……どうしても、自分の家が後回しになるのが不満だっていう人がいるみたいで」
「じゃあ、ルールを設けようか」
「ルール?」
そんな二人の話を聞いて現れたペルナがそんな提案をあげた。
「先に修理してもらえる家は、代わりに他の家が修理できるまで皆の休憩所や寝床として使わせてもらう、っていう事」
初日から多くの人が屋根のある場所で眠れるようにする、という為の提案だった。
「成程、それは良いと思う」
「よかった。じゃあ……さっそく皆に伝えてくるね」
「あ、僕も行くよ」
このスケジュールよりも早く修復作業は終わるのかもしれないと、アラドは少し期待を抱いていた。
「あいたっ」
が、少しばかり周りに意識を向け過ぎていたのか、木材に足を引っかけてつい転んでしまう。
周りで人々が心配するが、特に怪我もなかったアラドはてへぺろ、と小さく舌を出して笑いかけた。
まだ小さな建物だが、一軒建物が修復を終えかけていた。
「……よ、し。案外やれるな」
リュリュは飛行しながら作業を進め意外と動けることにテンションをあげていた。
「あいてっ!?」
「おい、大丈夫か?」
そんな折に、屋根部分で作業をしていた男が一人、自身の指に釘を突き刺してしまっていた。
「いやいや、大丈夫。このぐらいなら……」
「何を言っている、少し見せてみろ」
強がる男性を見て、リュリュはそっとパナケアを行使する。
見る見るうちに傷が癒えていき、男は驚いた様子で瞬きをした。
「これでよし。だが、少し疲れているだろう、ここはやっておくから君は先に休んでくれ」
リュリュがそういうと、男はでも……と食い下がる。
「私もそんなに体力は持たないから、直ぐに交代できるようにしておいてほしいだけだよ」
それに、簡易的に傷は治したが、ここでの治療だけじゃまだ完全とは言えない。
だから一旦休憩に入って、治療に専念しているアラドやユラ達にもう一度見てもらって欲しい、と念を押す。
「……わかった、すぐ戻るよ」
「ああ、頼むよ」
納得してくれた男が戻っていくのを見て安心したリュリュだった。
「おーい、旦那。木材をあげるぞー」
「あ、ちょっと待ってくれ、先に彼の治療と……あと釘もなくなっている」
ウェルスが木材を抱えてあげようとしたが、先に降りてくる男に手を貸してサポートしていると、小道具が足りなくなったことを知ったサシャが小箱を抱えてひょいひょいと梯子を上っていく。
「サシャが持ってきたんだぞ!」
「っと、ありがとう。ついでにここ、抑えててくれるか?」
サシャが木材を抑え、リュリュは金づちを振るう。
「あと少しだな」
梯子を上ってきたウェルスも同じように作業を進めていた。
「後はそこを打ち込めば……」
「よし、任せろ」
リュリュの指さした場所でウェルスが作業を進めていく。
十数分黙々と作業を進めたころだろうか、建物の屋根は綺麗に完成していた。
「完成だ!」
たった一つ、小さな建物一つだったが、ついに一つ復興が終わったのだ。
中心となって作業していた彼らが咄嗟に叫んでしまった言葉を聞いて、住民達は一斉に喜びの声をあげた。
●
アデレートの街の住宅街は見る見るうちに復興を進めていった。
初日はまだまだ穴のある住宅街だったが、二日目、三日目と進むにつれて住宅街はどんどん修復を進めていく。
そして四日目の夕方ごろに、最後の家の修復が、ついに完成した。
港町の広場。簡易キャンプ地として使われていた場所では、今多くの人々が集まって打ち上げとして大いに食べ、飲み、笑いあっていた。
「みんな、お疲れ様!」
くいっ、と抱えたジュースを飲む。
「……くぅ」
と、同時に意識が飛んでいる。
「おっと……寝てしまったか、ペルナは……」
「おや、ちょっと私はいま料理を味わうのが楽しくって、またあとで教えてあげるよ」
料理に舌鼓を打ちながら、ウェルスが治療の技術を教えてもらいたいという事を察していたペルナはそう言った。
今は折角皆で楽しむ機会、真面目な話は後でいいじゃないか、と思っているのもあった。
「ウェルス、蜂蜜ジュースだぞ!」
「お?」
気が付けばサシャがどこからか黄金色のジュースを持ってきてくれていた。
サシャ本人は疲れた時に効くという事を知っていたが、ウェルスの見た目からして蜂蜜が好きかのかどうかという事が気になっていたようだ。
「う、うめぇ……こんなにうまいなんて…」
特に自分がクマのケモノビトだからというわけではないはずなのに、この黄金の液体に惹かれる。
「うぇーい、楽しんでるーーーー!?」
そんな二人の元に、両手にジョッキを持ったユラが突撃してきた。
妙にアルコール臭い。
「うわぁ、酔っ払いだぞ!?」
がしっと捕まえられたサシャは必死にその腕から逃げようと足掻く。
「へへへ、いやーよかった。カレーをたくさん作ってみんなを笑顔にした甲斐もあったぁ」
割とお酒が回っており、呂律もギリギリだがユラは満足感に満ち溢れていた。
「は、はは、楽しんでるな」
そんな様子をぐったりした様子で見ているリュリュの姿があった。
筋肉痛で、全身がひたすらに、痛い。
皆と一緒に楽しみたいが、頑張りすぎて中々こればかりはうまくいかないようだ。
「おや、ロジェちゃん筋肉痛? 元気の出る黒々としたお茶があるんだけど飲む?」
「ありがたい、実は体のあちこちが……茶を貰えるならいただ……」
アガタがスッと差し出したお茶は、色が妙に黒い。
「なあ、これは飲める液体か? 味はまともだろうな? 信じて飲むぞ?」
「大丈夫大丈夫」
ぐいっとリュリュはお茶を飲む。
「………疲れすぎてて味がわからない」
「あー、残念。折角色々入れたんだけどなぁ」
何を入れたんだ、と突っ込みたかったがこれ以上突っ込む気力もなくなっていた。
だが、気が付けば彼らの周りには人だかりができていた。
彼らは皆感謝していた。自分達の為に頑張ってくれた彼らに、だから今日という日を共に祝いたくて疲れなんて忘れて、一緒に騒ごうとやってきたのだ。
だから、彼らとこの街に、乾杯!
ボロボロになった住宅街。
所々でああだこうだと良い争いが発生しており、中々作業に進展はない。
まだ自分の家には当分戻れそうもないのが、彼のやる気をどんどんと削ぎ取っていく。
「おはようございます!!」
そんな鬱々とした気分を吹き飛ばしたのは、『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)の気持ち良いぐらいの挨拶だった。
「あ、ここにこれ広げてもいいですか?」
「あ、ああ、構わないけど」
抱えてきた紙をアラドが広げれば、住宅街を復旧させるためのスケジュールや手順など、様々なものをまとめたものが記されていた。
「早く家を修復できるようにね、この紙のように作ってほしいんだ」
アラドの広げた紙をその場に集まった面々が覗き込む。
「心配いらないよ。旦那は朝からずーっと頑張ってまとめてくれたから。それに俺も手伝ったし、そんなに不安なものじゃないはずだよ」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が迷う住民達にそう告げれば、彼らはわかったと頷き、スケジュールを見始める。
助け舟を出してくれたウェルスにアラドはにこりと返す。
「細かい調整は現場で出来るし、何よりやることが沢山あるの」
スケジュールを見始めてくれた人たちに向け、アラドは真摯に向きなおる。
「みんなが手伝ってくれれば、それだけ一気にいっぱい直せるんだけど……」
喧嘩をしてちゃそれもできない、だから協力してほしい。
「だから、手伝ってください。お願いします!」
そんな思いを込めて、アラドは頭を下げた。
すると、彼らはそれぞれ「勿論だ」とか、「俺達も負けられない」等と言葉を新たに、作業の意を苦を高めだしてくれた。
ここの彼らはきっと大丈夫だろう。そう思ったウェルスがふと視線を逸らすと、まだまだ問題点は見えた。
少し離れた場所で言い争いをする一団。
作業工程や順序でもめている彼らはあまりに熱が入りすぎている、どうにかしてこちらの事を伝えたいが、どうしたものかとウェルスが頭を抱えようとすると、リュリュ・ロジェ(CL3000117)がそこへ一歩踏み出していくのが見えた。
「一日でも早く元の生活に戻りたい気持ちは分かる。だが、ここで揉め続けていても家が戻ってくるわけがないだろう?」
はっきりと、揉め合いをする一団に向けてリュリュは言い切った。
危ないから避難だけをさせて、安全になったから戻して、それで後は全て彼らに任せるというわけにもいかない。
そう思っている彼だからこそ、それ以上に続く言葉があった。
「……言い難いことだが、自由騎士団だけではこの街を直しきれない」
自分達の力が足りていない、だからこそ頼みたい。
「元の生活に戻るために、どうか皆の力を貸してもらえないだろうか?」
リュリュがそういう頃には、揉め合いをする人々の姿は無くなっていた。
「……ああ、すまなかった。そうだよな、あんた達だって頑張ってくれたんだ」
「……ありがとう」
「うん、うまくいったみたいで何よりなんだぞ」
大人同士のいざこざが解決される様子を見ていたサシャ・プニコフ(CL3000122)は安心した。
「みんなも大人たちみたいに頑張るんだぞ。わからなかったらサシャが教えるぞ」
大人たちのいざこざで不安を覚えていたが、サシャのお陰でやる事を迷わず活動できるだろう。
「あ、でも危ないところに近づいたらダメだぞ」
「はーい!」
サシャが注意するれば、子供たちは一斉に返事をした。
小さなものを運んだり必要な部品を運んだりと、サシャの言葉通り子供達もこの住宅街で必要な力となっていく。
「はい、注目。サシャ君もありがとうね」
ペルナ・クラール(CL3000104)はパンパンと両手を鳴らし、声帯拡張で広げた声を周囲に響かせ、注目を一斉に集める。
「皆が早く自分のお家で休みたい気持ちはとってもわかるんだ。皆も話を聞いてくれたし、わかってくれて嬉しいよ」
既に彼らの気持ちは真っ直ぐ修復に向けられている。
「みんなで一致団結して、私達と一緒に作業を終わらせよう」
ペルナの言葉に、おー、という言葉とともに至る所で拳が突きあがった。
「という事で最初の作業は……腹が減っては何とやら、だよね」
時刻はそろそろ昼に差し掛かる。
●
「ふぅ……」
作業現場で、『女騎士の忌み子』ネラ・チャイカ(CL3000022)は一息ついた。
武芸一辺倒で生きてきた彼女はこういう時どういうふうに動けばいいか、という知識は少ない。
自分に出来る事と言えば肉体労働であり、小柄でありつつもその筋力を活かし作業用の木材の運搬を只管に行っていた。
「ネラ嬢、その木材は昼からすぐに使いたいからあっちの方に頼めるか?」
「わかった、直ぐに持っていくよ」
アラドの傍でスケジュールと作業工程の一覧を見ていたウェルスがネラに頼むと、傍にまとまっていた木材を抱え、昼からの作業現場への運搬を始めていく。
「……ん?」
道中、文字通り凄まじい叫び合いの声が聞こえてきた。
「なんで俺の家が壊されなきゃならねぇんだ!」
あまりに被害の大きい住居は取り壊すことになっているという話をネラは聞いていた。
家の前で行われている言い争いは家を壊す事に納得できない者達によるものなのだろう。
「待ってくれ、どうか矛を収めてくれないか?」
ネラは運んでいた木材をその場において話しかけに走った。
「取り壊しとはいっても、完全に修復するわけじゃないんだ。新たに一度……」
「なんで壊されなきゃいけないんだよ!!」
説得しようにも、中々相手は話を聞いてくれない。
ちゃんと修復するために一度取り壊す、という事なのだがなかなか理解が出来ないのだろう。
ネラが悩み始めた瞬間、目の前に緩い顔をした小さな人型が飛び込んできた。
「そこの人達、ちょっと待った~!」
「え、え?」
ネラはもちろん、言い争いをしていた二人の男たちも驚き、言い争いが止まると同時に駆け寄ってきた『マザり鴉』アガタ・ユズリハ(CL3000081)が自ら作り出したスパルトイをひょいと掴んでひっこめた。
「まぁ、落ち着いてよ。ちゃんと話を聞けばきっと納得できると思うよ?」
「話って言っても……」
「ほら、炊き出しの方からいい匂いがしてこない?」
アガタが自分のペースで話を勧めれば、男はう、と言葉に詰まる。
「……すみません、気持ちが落ち着いていないのもわかります。でも、この状態での取り壊しは復旧の工程を早く進める為に必要なんです」
「……本当に、か?」
「はい、本当です。必ずあなたの家は元に戻します」
落ち着いた男はようやくネラの話を聞き入れ、頷く。
「それじゃあ後で私の特性メニューをふるまっちゃおう、キャンプに来たら是非来てね」
不敵に笑うとアガタはキャンプの方へと向かっていく。
●
復興作業が行われている住宅街の傍に簡易建設されたキャンプ。
「あー、待って待って。まだできてないから!」
そんなキャンプを切り盛りをしているのはユラ・キリシマ(CL3000012)だった。
このキャンプで食事を作り、皆の気持ちを後押しする重要な位置についていた。
とはいえ、このキャンプ地もしっかりまとめ切られているわけでもない。
「だめだぞ! 邪魔しちゃってるぞ!」
そこへ子供たちをまとめあげているサシャがやってきた。
「サシャさん。おかげで助かりました」
「大丈夫だぞ。でもちょっと言いすぎたぞ……」
子供は感情に素直、悪いと言われて落ち込んでいる子もいた。
悪いと思えばしっかり反省するし、いいと思う事を褒められれば喜ぶ。
「ううん、大丈夫。でもそうだね……皆、お手伝いしてもらっていい?」
ユラがそう切り出せば、子供たちは「え?」と顔をあげる。
「私も手が足りてなくって、ジャガイモの皮むきをお願いできる?」
「皮むきをするんだぞ?」
「うん、サシャ君もわかる?」
もともと昼過ぎからはキャンプを手伝うつもりだったサシャは任せるんだぞ、と自身の胸を叩く。
「あれ、どうしたの?」
どうにも、料理の仕方がわからない、子供がいるようだった。
どうしたものかと困りかけたユラの目に、あたふたとする老婆の姿が目に留まった。
「あ、お婆さん。どうしたんですか?」
「ああ、お姉さん。何か出来る事はないかい?」
そんな老婆の姿を見て、ユラはそうだと思いついた。
「じゃあ、お婆さん。この子達に皮むきのやり方を教えてあげてくれません?」
「あらあら、皮むきかい?」
ややゆったりとしているものの、老婆は微笑むとすぐに了承してくれた。
「ええ、お願いしてもいいですか?」
「大丈夫よ。ありがとうねぇ」
すぐに子供達に向きなおると、慣れた手つきで皮むきの方法を教え始めていく。
「よかった。後はー……」
「ジャガイモ剥けたぞ! 次はどうする!」
「あ、じゃあニンジンとタマネギもお願い!」
あっという間に大量にあったジャガイモは皮を剥かれた状態でやってきた。
こうなるとゆっくり作っていられないなと思いながらも、ユラはカレーを作る鍋の様子を見に走った。
キャンプ地に設営されたテーブルには多くの作業者が集まり、作られたカレーを食べて笑顔を作り上げている。
「やぁやぁ、作業はどうだい?」
「あ、アガタさん」
休憩を兼ねて休みながらも、昼からの予定を確認する騎士団の面々の元にやってきたアガタはカレー以外のメニューを持っていた。
「錬丹術士の養生メニュー! どう、これもいい匂いでしょ?」
「おー……これはいい香り、元気が出そう」
「本当だぞ、何を使ったんだぞ?」
ウェルスが香りに花をひくつかせ、サシャが興味津々に意識を向ける。
「ニンニクと……ローズマリーかな?」
「おや、ペルナちゃんさすがだねぇ」
ふふ、と笑いながらペルナは食事を続ける。
「そういうわけでネラちゃん。お待ちどうさま」
「あ、いただくよ」
あっさりと空にしたカレーの皿をどかし、ネラはパンケーキをぱくり、ぱくぱくと小柄な体格に見合わずに食べていく。
「いい食べっぷりですよね、作り甲斐があります」
ユラはその様子を見ながら微笑む。
「………う」
そんなテーブルの隅で、インドア派のリュリュはカレーを食べぐったりとしていた。
中々にこの復興作業は体を酷使する。このままでは筋肉痛になりそうだし、パナケアで治せるかなと思いながらもリュリュはそっとテーブルに置かれたパンケーキを口にした。
疲れた体に、中々効く。そんな感想を抱きながらも、午後からの作業に向けて各々は英気を養っていった。
●
今、アデレード港町の住宅街は意欲に満ちた人々であふれていた。
焦る気持ちも、妬む気持ちもなくなり今住民達の目指す先はこの住宅街の復興のみ。
「うん、よし」
現場を監督していたアラドは満足そうに頷いた。
もっと喧嘩も起きると思っていたが、午後になればもうそんなことをしている人たちの姿はどこにもない。
「あ、そこは手を抜いちゃダメ」
ふと、アラドの目に粗く加工された木材が目に留まった。
「急ぐ気持ちはわかるけど。丁寧にやろう、ね?」
はっきり言い聞かせるようにアラドが告げれば、作業員は急ぎ木材を再度修正用の場所へと運び直す。
「ふぅ……」
「どうしたの?」
木材運びに戻ってきたネラが大きなため息をついたのを、アラドは見逃さなかった。
「あ、ええとね。皆作業に集中してくれてるんだけど……どうしても、自分の家が後回しになるのが不満だっていう人がいるみたいで」
「じゃあ、ルールを設けようか」
「ルール?」
そんな二人の話を聞いて現れたペルナがそんな提案をあげた。
「先に修理してもらえる家は、代わりに他の家が修理できるまで皆の休憩所や寝床として使わせてもらう、っていう事」
初日から多くの人が屋根のある場所で眠れるようにする、という為の提案だった。
「成程、それは良いと思う」
「よかった。じゃあ……さっそく皆に伝えてくるね」
「あ、僕も行くよ」
このスケジュールよりも早く修復作業は終わるのかもしれないと、アラドは少し期待を抱いていた。
「あいたっ」
が、少しばかり周りに意識を向け過ぎていたのか、木材に足を引っかけてつい転んでしまう。
周りで人々が心配するが、特に怪我もなかったアラドはてへぺろ、と小さく舌を出して笑いかけた。
まだ小さな建物だが、一軒建物が修復を終えかけていた。
「……よ、し。案外やれるな」
リュリュは飛行しながら作業を進め意外と動けることにテンションをあげていた。
「あいてっ!?」
「おい、大丈夫か?」
そんな折に、屋根部分で作業をしていた男が一人、自身の指に釘を突き刺してしまっていた。
「いやいや、大丈夫。このぐらいなら……」
「何を言っている、少し見せてみろ」
強がる男性を見て、リュリュはそっとパナケアを行使する。
見る見るうちに傷が癒えていき、男は驚いた様子で瞬きをした。
「これでよし。だが、少し疲れているだろう、ここはやっておくから君は先に休んでくれ」
リュリュがそういうと、男はでも……と食い下がる。
「私もそんなに体力は持たないから、直ぐに交代できるようにしておいてほしいだけだよ」
それに、簡易的に傷は治したが、ここでの治療だけじゃまだ完全とは言えない。
だから一旦休憩に入って、治療に専念しているアラドやユラ達にもう一度見てもらって欲しい、と念を押す。
「……わかった、すぐ戻るよ」
「ああ、頼むよ」
納得してくれた男が戻っていくのを見て安心したリュリュだった。
「おーい、旦那。木材をあげるぞー」
「あ、ちょっと待ってくれ、先に彼の治療と……あと釘もなくなっている」
ウェルスが木材を抱えてあげようとしたが、先に降りてくる男に手を貸してサポートしていると、小道具が足りなくなったことを知ったサシャが小箱を抱えてひょいひょいと梯子を上っていく。
「サシャが持ってきたんだぞ!」
「っと、ありがとう。ついでにここ、抑えててくれるか?」
サシャが木材を抑え、リュリュは金づちを振るう。
「あと少しだな」
梯子を上ってきたウェルスも同じように作業を進めていた。
「後はそこを打ち込めば……」
「よし、任せろ」
リュリュの指さした場所でウェルスが作業を進めていく。
十数分黙々と作業を進めたころだろうか、建物の屋根は綺麗に完成していた。
「完成だ!」
たった一つ、小さな建物一つだったが、ついに一つ復興が終わったのだ。
中心となって作業していた彼らが咄嗟に叫んでしまった言葉を聞いて、住民達は一斉に喜びの声をあげた。
●
アデレートの街の住宅街は見る見るうちに復興を進めていった。
初日はまだまだ穴のある住宅街だったが、二日目、三日目と進むにつれて住宅街はどんどん修復を進めていく。
そして四日目の夕方ごろに、最後の家の修復が、ついに完成した。
港町の広場。簡易キャンプ地として使われていた場所では、今多くの人々が集まって打ち上げとして大いに食べ、飲み、笑いあっていた。
「みんな、お疲れ様!」
くいっ、と抱えたジュースを飲む。
「……くぅ」
と、同時に意識が飛んでいる。
「おっと……寝てしまったか、ペルナは……」
「おや、ちょっと私はいま料理を味わうのが楽しくって、またあとで教えてあげるよ」
料理に舌鼓を打ちながら、ウェルスが治療の技術を教えてもらいたいという事を察していたペルナはそう言った。
今は折角皆で楽しむ機会、真面目な話は後でいいじゃないか、と思っているのもあった。
「ウェルス、蜂蜜ジュースだぞ!」
「お?」
気が付けばサシャがどこからか黄金色のジュースを持ってきてくれていた。
サシャ本人は疲れた時に効くという事を知っていたが、ウェルスの見た目からして蜂蜜が好きかのかどうかという事が気になっていたようだ。
「う、うめぇ……こんなにうまいなんて…」
特に自分がクマのケモノビトだからというわけではないはずなのに、この黄金の液体に惹かれる。
「うぇーい、楽しんでるーーーー!?」
そんな二人の元に、両手にジョッキを持ったユラが突撃してきた。
妙にアルコール臭い。
「うわぁ、酔っ払いだぞ!?」
がしっと捕まえられたサシャは必死にその腕から逃げようと足掻く。
「へへへ、いやーよかった。カレーをたくさん作ってみんなを笑顔にした甲斐もあったぁ」
割とお酒が回っており、呂律もギリギリだがユラは満足感に満ち溢れていた。
「は、はは、楽しんでるな」
そんな様子をぐったりした様子で見ているリュリュの姿があった。
筋肉痛で、全身がひたすらに、痛い。
皆と一緒に楽しみたいが、頑張りすぎて中々こればかりはうまくいかないようだ。
「おや、ロジェちゃん筋肉痛? 元気の出る黒々としたお茶があるんだけど飲む?」
「ありがたい、実は体のあちこちが……茶を貰えるならいただ……」
アガタがスッと差し出したお茶は、色が妙に黒い。
「なあ、これは飲める液体か? 味はまともだろうな? 信じて飲むぞ?」
「大丈夫大丈夫」
ぐいっとリュリュはお茶を飲む。
「………疲れすぎてて味がわからない」
「あー、残念。折角色々入れたんだけどなぁ」
何を入れたんだ、と突っ込みたかったがこれ以上突っ込む気力もなくなっていた。
だが、気が付けば彼らの周りには人だかりができていた。
彼らは皆感謝していた。自分達の為に頑張ってくれた彼らに、だから今日という日を共に祝いたくて疲れなんて忘れて、一緒に騒ごうとやってきたのだ。
だから、彼らとこの街に、乾杯!