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Grumble! 不安からくる暴走劇!

●戦争は戦後処理の方が大変と言うお話
シャンバラ平定――と言い難いが、少なくとも戦乱状態は収まった――後、そこに住む人達の生活は一変する。支配した国によるが、奴隷にされたり本国に送られるなど少なくとも以前の生活より悪くなることは変わりなかった。
ヘルメリアとヴィスマルクが支配した管区からは、イ・ラプセルに向けて逃亡する者が増え続ける。両国とも国境線に兵こそ置くが、脱走する者を強く取り締まろうとはしなかった。弾は隣国の為に取っておきたいし、何よりも逃亡させた方が益が出るからだ。
移民。難民による問題。
これらはどの時代に置いても大きな問題を抱えている。人道的には保護するのが正しいのだが、受け入れた国は移民に対し食料や仕事面などの生活保護の為に人や財を割かねばならないからだ。
幸いにしてシャンバラに蓄えがあった食料備蓄や広いシャンバラの土地開墾など、当面の上での経済負担は重くはない。だが異国民を受け入れる問題の一つに民族間の差別問題があった。曰く『シャンバラの民は戦争で負けた国民だ』『負け犬が表通りを歩くな』等だ。
以外に思われるかもしれないが、奴隷制度が存在すればこの問題はすぐに解決する。国が認めた社会的に『立場が下』のグループがいれば、感情はそちらに向けられるのだ。不満を解決するのは満足ではなく、不満をぶつける相手なのだ。
閑話休題。これらを解決するためにイ・ラプセルはやってきた移民達をグループ分けし、別々の管区で保護していた。同時に問題が起きればすぐに動けるよう、騎士達の配置も忘れない。
だが、問題と言うのは意外な所から起こってしまうものである。
●噂と不満と
「友人の嫁から聞いた話だが、子供が行方不明になったらしいな」
「ヘルメリアの奴隷狩りは有名だからな。しかも国内にスパイがたくさんいるらしい」
「なんだって!? そいつらをつるし上げないと国が危ないじゃないか!」
「なんでも先の戦争で保護されたヘルメリアの奴隷がいるらしい。そいつももしかして……!」
「グレイタスからの難民も怪しいぞ。中にスパイが紛れているかもしれない!」
●とある奴隷のお話
『六つ穴』レティーナ・フォルゲンは自由騎士との戦いに負けて、主と共に現在軟禁状態となっている。ニルヴァン砦近くに部屋を与えられていた。その主はと言うと『少し調べることができました』と席を外している。
扉が叩かれ、ドアノブに手をかけるレティーナ。だが複数の気配を扉の外に感じ、怪訝に思って鍵がかかっていることを確認した。主は鍵を持っているし、自由騎士の人なら名乗るぐらいはするはずだ。軟禁状態を見張る為の騎士もいるのだから、あえて自分から出る必要はない。そう思い扉から離れる。
かちゃん。
ドアのロックが外される音。同時に雪崩れ込む複数の人達。
「――――あ」
抵抗しようとするレティーナの意志は、乱入者の姿を見て消失する。ノウブル。長年ノウブルの奴隷としてヘルメリアで生きてきたレティーナにとって、『それ』に逆らう事はできなかった。『先生』がいなければ、彼女はただの奴隷なのだ。
恭順を示すように脱力した彼女を侵入者が捕らえるのに、時間はかからなかった。
●自由騎士
「犯人はイ・ラプセルの貴族達よ。なんでもヘルメリアのスパイを危惧しての行為らしいわ」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は集まった自由騎士に説明を開始する。ため息交じりに言葉を紡いでいく。
「ヘルメリアのスパイを警戒して、国内のヘルメリア出身者やグレイタスからやってきた移民達をつるし上げているみたい。一処に集めて、拷問に近い尋問を行うそうよ」
国を思う気持ちと言うのは誰もが持っている。ヘルメリアのスパイ戦略を恐れ、対策を練ることも間違いではない。或いは彼らが捕らえた中に、たまたま偶然本当に奴隷狩りやスパイがいるかもしれない。――だが、あまりにも一足飛びすぎる。私刑に似たやり方を認めれば、法が崩壊する。
「暴走している彼らを止めてきて。幸い、囚われた人達は今のところ無事みたい。今夜あたりがタイムオーバーね」
なんでも本国から専門の拷問器具が届くのがその時間らしい。今から行けば、間に合う時間だ。
「警備の騎士達も貴族に賛同しているみたい。説得は無理だと思うので、思いっきり殴って目を覚まさせて頂戴」
その日、『六つ穴』を軟禁している部屋を警護していた騎士もグルだったのだ。国の為とは言え、職務怠慢には違いない。
バーバラの言葉に送られて、自由騎士達は走り出した。
シャンバラ平定――と言い難いが、少なくとも戦乱状態は収まった――後、そこに住む人達の生活は一変する。支配した国によるが、奴隷にされたり本国に送られるなど少なくとも以前の生活より悪くなることは変わりなかった。
ヘルメリアとヴィスマルクが支配した管区からは、イ・ラプセルに向けて逃亡する者が増え続ける。両国とも国境線に兵こそ置くが、脱走する者を強く取り締まろうとはしなかった。弾は隣国の為に取っておきたいし、何よりも逃亡させた方が益が出るからだ。
移民。難民による問題。
これらはどの時代に置いても大きな問題を抱えている。人道的には保護するのが正しいのだが、受け入れた国は移民に対し食料や仕事面などの生活保護の為に人や財を割かねばならないからだ。
幸いにしてシャンバラに蓄えがあった食料備蓄や広いシャンバラの土地開墾など、当面の上での経済負担は重くはない。だが異国民を受け入れる問題の一つに民族間の差別問題があった。曰く『シャンバラの民は戦争で負けた国民だ』『負け犬が表通りを歩くな』等だ。
以外に思われるかもしれないが、奴隷制度が存在すればこの問題はすぐに解決する。国が認めた社会的に『立場が下』のグループがいれば、感情はそちらに向けられるのだ。不満を解決するのは満足ではなく、不満をぶつける相手なのだ。
閑話休題。これらを解決するためにイ・ラプセルはやってきた移民達をグループ分けし、別々の管区で保護していた。同時に問題が起きればすぐに動けるよう、騎士達の配置も忘れない。
だが、問題と言うのは意外な所から起こってしまうものである。
●噂と不満と
「友人の嫁から聞いた話だが、子供が行方不明になったらしいな」
「ヘルメリアの奴隷狩りは有名だからな。しかも国内にスパイがたくさんいるらしい」
「なんだって!? そいつらをつるし上げないと国が危ないじゃないか!」
「なんでも先の戦争で保護されたヘルメリアの奴隷がいるらしい。そいつももしかして……!」
「グレイタスからの難民も怪しいぞ。中にスパイが紛れているかもしれない!」
●とある奴隷のお話
『六つ穴』レティーナ・フォルゲンは自由騎士との戦いに負けて、主と共に現在軟禁状態となっている。ニルヴァン砦近くに部屋を与えられていた。その主はと言うと『少し調べることができました』と席を外している。
扉が叩かれ、ドアノブに手をかけるレティーナ。だが複数の気配を扉の外に感じ、怪訝に思って鍵がかかっていることを確認した。主は鍵を持っているし、自由騎士の人なら名乗るぐらいはするはずだ。軟禁状態を見張る為の騎士もいるのだから、あえて自分から出る必要はない。そう思い扉から離れる。
かちゃん。
ドアのロックが外される音。同時に雪崩れ込む複数の人達。
「――――あ」
抵抗しようとするレティーナの意志は、乱入者の姿を見て消失する。ノウブル。長年ノウブルの奴隷としてヘルメリアで生きてきたレティーナにとって、『それ』に逆らう事はできなかった。『先生』がいなければ、彼女はただの奴隷なのだ。
恭順を示すように脱力した彼女を侵入者が捕らえるのに、時間はかからなかった。
●自由騎士
「犯人はイ・ラプセルの貴族達よ。なんでもヘルメリアのスパイを危惧しての行為らしいわ」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は集まった自由騎士に説明を開始する。ため息交じりに言葉を紡いでいく。
「ヘルメリアのスパイを警戒して、国内のヘルメリア出身者やグレイタスからやってきた移民達をつるし上げているみたい。一処に集めて、拷問に近い尋問を行うそうよ」
国を思う気持ちと言うのは誰もが持っている。ヘルメリアのスパイ戦略を恐れ、対策を練ることも間違いではない。或いは彼らが捕らえた中に、たまたま偶然本当に奴隷狩りやスパイがいるかもしれない。――だが、あまりにも一足飛びすぎる。私刑に似たやり方を認めれば、法が崩壊する。
「暴走している彼らを止めてきて。幸い、囚われた人達は今のところ無事みたい。今夜あたりがタイムオーバーね」
なんでも本国から専門の拷問器具が届くのがその時間らしい。今から行けば、間に合う時間だ。
「警備の騎士達も貴族に賛同しているみたい。説得は無理だと思うので、思いっきり殴って目を覚まさせて頂戴」
その日、『六つ穴』を軟禁している部屋を警護していた騎士もグルだったのだ。国の為とは言え、職務怠慢には違いない。
バーバラの言葉に送られて、自由騎士達は走り出した。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ブルーノ・バッロッターリの打破
どくどくです。
悪気が無いからこそ、人は躊躇なく行動できるのです。
●敵情報
『水庭伯』ブルーノ・バッロッターリ
イ・ラプセル貴族。ノウブル男性。四三才。ヘルメリアのスパイ憎しで暴走する貴族です。キッシェ派の魔術師でもあります。二つ名の由来は館にある庭の美しさから。
自由騎士の乱入には驚きますが、自分の正義を曲げるつもりはないようです。彼を倒せば、他の者達は降伏します。
『ユピテルゲイヂ Lv2』『アイスコフィン Lv2』『マナウェーブ Lv3』等を活性化しています。
『執事』ジャコモ・ダリエンツォ
バッロッターリ家に仕える執事です。ノウブル男性。八九才の老齢ですが、年齢に似合わない動きをします。
『影狼 Lv3』『柳凪 Lv3』『ヘッドショット Lv3』等を活性化しています。
『妖刀』サモン
名前だけを名乗る太刀使いです。ブルーノに雇われているようです。
『因果逆転 Lv2』『リバースドレイン Lv2』『ブレイクゲイト Lv2』『デュアルストライク Lv3』等を活性化しています。
・騎士(×4)
ブルーノ配下の騎士達です。ブルーノの行動を受け入れています。
『シールドバッシュ Lv3』『スティールハイ Lv2』『パリィング Lv2』等を活性化しています。
●場所情報
ニルヴァン小管区内。バッロッターリ家が有する家の中。扉を開けたエントランスでの戦闘になります。他の協力者(誘拐犯などの非戦闘要員)や捕らわれた人達は奥の部屋です。
時刻は夕方。明かりや足場などは戦闘に支障がないものとします。
戦闘開始時、敵前衛に『騎士(×4)』『サモン』『ジャコモ』が。敵後衛に『ブルーノ』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
悪気が無いからこそ、人は躊躇なく行動できるのです。
●敵情報
『水庭伯』ブルーノ・バッロッターリ
イ・ラプセル貴族。ノウブル男性。四三才。ヘルメリアのスパイ憎しで暴走する貴族です。キッシェ派の魔術師でもあります。二つ名の由来は館にある庭の美しさから。
自由騎士の乱入には驚きますが、自分の正義を曲げるつもりはないようです。彼を倒せば、他の者達は降伏します。
『ユピテルゲイヂ Lv2』『アイスコフィン Lv2』『マナウェーブ Lv3』等を活性化しています。
『執事』ジャコモ・ダリエンツォ
バッロッターリ家に仕える執事です。ノウブル男性。八九才の老齢ですが、年齢に似合わない動きをします。
『影狼 Lv3』『柳凪 Lv3』『ヘッドショット Lv3』等を活性化しています。
『妖刀』サモン
名前だけを名乗る太刀使いです。ブルーノに雇われているようです。
『因果逆転 Lv2』『リバースドレイン Lv2』『ブレイクゲイト Lv2』『デュアルストライク Lv3』等を活性化しています。
・騎士(×4)
ブルーノ配下の騎士達です。ブルーノの行動を受け入れています。
『シールドバッシュ Lv3』『スティールハイ Lv2』『パリィング Lv2』等を活性化しています。
●場所情報
ニルヴァン小管区内。バッロッターリ家が有する家の中。扉を開けたエントランスでの戦闘になります。他の協力者(誘拐犯などの非戦闘要員)や捕らわれた人達は奥の部屋です。
時刻は夕方。明かりや足場などは戦闘に支障がないものとします。
戦闘開始時、敵前衛に『騎士(×4)』『サモン』『ジャコモ』が。敵後衛に『ブルーノ』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年06月09日
2019年06月09日
†メイン参加者 8人†
●
「バッロッターリ伯、ただちに武装解除して投降せよ!」
扉を開け、開口一番言い放つ『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。エントランスに集まっていた『水庭伯』を始めとした一同は突然の乱入者に驚くが、すぐに緊張の面持ちを浮かべていた。
(こんの忙しい時期に、しかも結果的にとはいえヘルメリアの利敵行為になるような事やりやがって……)
あえて口には出さずに『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は頭を掻いた。別に口にしてもいいが、他の仲間の面子を立てる為にあえて喉元で抑えておく。今はヘルメリアに一分の隙も見せたくないのがザルクの心情だ。
(キッシェ派ってことは、エドワード陛下と対立しているわけじゃないのよね?)
退路を防ぐ位置に移動しながら、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は思考する。当然だが『水庭伯』はイ・ラプセルに反逆の意を示しているわけではない。むしろ国を思っての行動なのだ。だが、これは捨て置けない。
「憂う気持ちは分かりますがねぇ」
『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)は言ってうんうんと頷いた。スパイから国を守りたい。その気持ちは理解できるし、その為に血を流すというのは間違っていない。しかし方法に些か問題があるのは否めない。
「捕らえた民の開放、および武装解除と事情聴取にご協力ください。実力行使による解決はそれこそ他国の思う壺です、どうか!」
自由騎士の勲章を掲げ『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は叫ぶ。これで相手が大人しくなるとは思っていないが、体面は重要だ。相手は自国の貴族。後で問題が無いようにふるまわなくては。
「申し訳ありませんが、伯の行動は国益を損なう可能性があります。国を思ってのことでしょうが、少し落ち着いて頂きたい」
胸に手を当て、真摯に語りかける『活殺自在』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。軍人として貴族に経緯を払い、しかし国益を優先する。その態度を崩すつもりはない。が、任務を放棄した騎士には怒りを感じていた。
(……ま、退ける訳がねぇよな。決心しての事だろうから)
仲間達の言葉に対する相手の反応を見ながら『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は肩をすくめた。自由騎士が武器を持ち戦うように、彼らもまた戦っているのだ。その決意を崩すにはもはや力でしかない。
「武装解除するのはお前達の方だ。七名程度で何が出来るというのか」
『水庭伯』の言葉に怪訝な表情を浮かべる自由騎士達。ななめい? 自由騎士達は各自点呼を取るように確認し――
『クイニィーがいねえ!?』
声を出すことを何とか押さえ、自由騎士達は戦場に向き直った。
「わざわざ戦う必要も無いよね……よっし、とりあえず戦闘はみんなに任せた!」
一方その頃、『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は仲間の口上に気が向いている隙を縫うようにして身を隠し、館の外に出る。ホムンクルスを戦場に置いて状況を確認しながら、気配を消して移動していた。
●
「我々自由騎士がココに来た意味、おわかりでしょう?」
一番最初に動いたのはエルシーだ。緋色の輝く竜の籠手を手にして、真っ直ぐに敵陣に向かっていく。できる限り穏便に解決したいのは事実だが、相手が誘拐を行った時点で話し合いで解決できる領域は既に超えている。ならば騎士として務めを果たすのみだ。
息を吸い、そして吐き出す。一呼吸の間に体をどう動かすかを思考し、そしてそれを追うようにエルシーは動いていく。思うと同時に体が動く。繰り返された鍛錬がそれを可能としていた。叩きつけられる打撃が、護衛とそして後ろに居る貴族を打つ。
「陛下はこのような事を望んでおられません!」
「それは表向きだ。エドワード陛下とてヘルメリアのスパイに頭を悩ませていることには変わりない」
「んなモンはどうでもいいんだよ。ヘルメリアのクソに手出しさせる隙を与えたら本末転倒じゃねーか」
『水庭伯』の主張をばっさり切り捨てるザルク。戦略には様々な側面がある。だが『相手に隙を見せない』ことを考えれば下手なスパイ詮索は逆効果だ。相手はスパイを使いこなすことに長けている国なのだ。
脳内で相手に標準を定め、強く復讐を意識する。心に燃える炎が理性を燃やし、むき出しの本能のままに銃を向ける。心でカウントを唱えると同時に引き金を引き、魔を込めた弾丸を解き放つ。着弾と同時に魔力が解放され、鎖となって騎士を足止めする。
「疑わしきは拷問するとか魔女狩り再開してんじゃねーぞクソが!」
「そうすることで平和が維持できるのなら、それを為すのが貴族の務めだ!」
「覚悟決まってるねぇ……。そういう相手を煽ったって所なんだろうけど」
自分の考えに固持する『水庭伯』の態度に苦笑するニコラス。ヘルメリアからのの危機を煽り、亡命者を始末させる。そうすることで国内の空気を悪くしてしまおうと言う流れだ。『裏』の仕事に慣れたニコラスにはその思考が手に取るようにわかる。問題は――
考察を止め、戦闘に意識を集中する、味方の傷を確認し、魔力を練り上げていく。大気に流れる無形の魔力。それを集わせ、束ねていく。解き放たれた魔力は風となり、味方の体内に入って内側から身体を癒していく。
「民への施しをする事こそがアンタらの役目だろうに」
「無論だ。だからこそ、こうして財を用いてスパイを確保しているのだ」
「可能性で罰してたら最終的には誰でも拷問対象。それにスパイの本命はそんな分かりやすい処には仕掛けません」
冷ややかにリンネは『水庭伯』の言葉を否定する。成程、亡命者に紛れて潜入するスパイはいるのだろう。だがそれは組織の末端程度だ。あるいはそれを囮にして本命のスパイが侵入しているかもしれない。疑い始めればきりがないのだ。
森羅万象。アマノホカリに伝わる言葉を口にするリンネ。森の如く万物が並び行く様。あらゆる現象、世界のあらゆるは意味があり同一だ。両手で円を描きながらマナを集め、世界と同化し、力を借りる癒しの術を解き放つ。
「少し頭を冷やして貰います」
「さて。どちらが頭を冷やすことになるのでしょうな」
「無論、伯の方だ。失礼を承知の上で、その行い止めさせて戴く」
執事の言葉にアリスタルフは静かに答える。相手は自国の貴族で、その行為に暴力をもって答えるのは無礼なのは解っている。だがこれを見過ごしてしまえばより酷い暴力が無辜の民を襲うのだ。それを看過できるアリスタルフではない。
執事の動きを見ながら、タイミングを計るアリスタルフ。かるく手を伸ばしただけの構えだが、隙が見いだせない。歴戦の動きに舌を巻きながら、しかし足を止めず踏み込んだ。衝撃と打撃。二つの技を組み合わせ、一気に畳みかけるアリスタルフ。
(このジャコモという男なかなか出来る……!)
「サモンさんは右側に。一気に斬り崩してくだされ」
「いや、そうはさせぬぞ。用心棒のセンセイ」
アマノホカリの武器を手にしてるサモンの前に立ちふさがるシノピリカ。鋼の腕を突き出し、愛刀のサーベルを垂らすようにして構えた。鋼の腕で攻撃を防ぎ、サーベルで切り崩す。サーベルで攻撃を弾き、機械の腕でねじ伏せる。その二択を前にサモンが止まる。
時間が止まる。緊張が相手以外の感覚を削ぎ、時間が止まったかのような感覚を生む。そう錯覚したのはシノピリカだけだろうか。サモンとシノピリカは同時に踏み込み、そして刃が交差する。負の魔力を込めた刀と、国を守る刀が激しい音を立てた。
「用心棒のセンセイとしては、少し唐突な印象を受けるのう。サモンとやら。ヘルメリアの間諜か?」
「クク。ワシがそうやすやすと口を割ると思ぅたか?」
「思いはしないさ。情報は口以外からも聞けるんでね!」
傷の痛みを魔力で誤魔化しながらウェルスが吼える。自国の騎士と相対する事に関しては、あまり感慨はない。しいて言えば後に騎士間でしこりが残らないか程度だ。事、戦争が控えている状況で内部分裂は避けておきたい。そう考えてしまうのは商人のクセか。
弾倉内の弾丸数を意識しながら、引き金を引く。次の弾丸を用意するタイミングを計るために。弾切れが起きても動揺しないように。全ての行為は次に繋がっている。冷静に、だけど臆病にならずに。ウェルスはそれを意識しながら戦いに挑む。
「まあ、そう簡単に行くとも思わないけどな!」
「理想を語るだけで平和が来ると思うな! 一気に攻め立てろ!」
『水庭伯』の声と共に、騎士達が攻め立てる。前衛を突破した騎士が後衛に迫り、回復役に刃を向けた。
「あいててて……!」
「ケッ、この程度『あの時』に比べりゃ大した傷じゃねぇ!」
ニコラスとザルクが騎士の攻撃を受けてフラグメンツを燃やす。
「きゃん!」
「痛くはないが、それでもキツいもんはキツいか」
「流石は『水庭』の名を冠するお方。見事な魔術です」
前衛で攻撃を受けるエルシーとウェルスとアリスタルフもフラグメンツを削られるほどのダメージを受けた。
同じ国のことを憂う者同士の戦いは、少しずつ加速していく。
「ふふふーん」
クイニィーはホムンクルスから情報を得ながら、館の外を移動していた。適度な窓を見つけ侵入しようとしたが、鍵がかかっていたため断念する。鍵開け用の道具(ぎのう)をもっていなかったことを後悔するが、まあどこかは開いてるだろうと意識を切り替えた。
(窓壊したら音立てちゃうからなぁ。出来るだけ気付かれずに潜入して……)
館の構造を意識しながら移動するクイニィー。すぐに戦場に戻れるように道のりと距離は測っておく。常に思考し、最善を目指す。それが錬金術師。あと謎とか大好き。秘密暴くの大好き。足音を立てずに歩きながらクイニィーは笑みを浮かべていた。
●
正しい、と思う事は戦う原動力となる。傷の痛みや戦況などで折れそうになる心を支えるモチベーションとなるのだ。
「ヘルメリアからこの国を守るのだ!」
と言う『水庭伯』の理念とそれに共感する者達は、それを支えに戦意を保っていた。避難されようともこれでスパイをあぶりだせればわずかでも国を守れるのだ、と言う思いだ。
だが、それは自由騎士とて負けてはいない。このような方法で国を守れたとしても、何の意味もない事なのだ。過剰に犠牲を生んで得る平和に何の意味があるのだろうか。
「逸る気持ちを堪え冷静な行動を以て民に範を示す事こそ、貴族たる者の務めではないのか!」
サモンと刃を重ねながらシノピリカが『水庭伯』に向かって叫ぶ。命を吸う刀にフラグメンツを削られながらも、同国の存在である相手に訴えかける。言葉による説得に意味がないと分かっていても、それでも叫ばざるを得なかった。
「先ずは一人。誘拐を手引きするとは騎士として許しがたき行為だな」
倒れた騎士を見下ろすようにしてアリスタルフは呟いた。他国との戦争で相対したとはいえ、警護対象の誘拐を手助けするなど騎士の名折れだ。守るべき存在が誘拐に加担するなどどのような理由があっても赦すつもりはない。
「まあしかし、抵抗しなかったレティーナ様もそれはそれで問題な気がしますが」
誘拐の経緯を思い出しながらリンネはため息を吐く。相手がノウブルだとわかった瞬間に抵抗を諦めたヘルメリアの奴隷。その在り方には何か言わなくてはいけない。彼女だけが特別なのか、それともヘルメリアの亜人は皆そうなのか。どうあれ、場を制してからだ。
「お嬢か。囚われのお姫様を演じたかったわけでもないだろうに」
ウェルスはレティーナが捕まった時の状況を想像して、そんなことを口にする。だがノウブル不信をもつウェルスには、その気持ちが理解できた。心に刻まれた感情は簡単にはぬぐえない。『道具』として彼女がどんな扱いを受けてきたのだろうか。
「……ま、想像できないってことは幸せだぜ。あそこの亜人の扱いなんざ」
言って肩をすくめるニコラス。人は『道具』に対してどのような扱いをするか。何処まで残酷になれるか。ニコラスはそれを知っている。悪戯で心を壊し、尊厳を壊し、生きている意味を奪い取る。そんな様はいくらでも見てきた。
「――クソだな」
短く、しかし多くの感情を込めてザルクが吐き捨てた。シャンバラは権能で民を従え、ヨウセイを迫害した。ヘルメリアは法をもって『人の意志』で亜人を迫害する。亜人差別を容認し、人の残酷性を浮き彫りにする。それがヘルメリアと言う国なのだ。
「イ・ラプセルも少し前まではそうだったと思うと……ええ、やるせないわね」
ヘルメリアほどではないが、イ・ラプセルも亜人などを奴隷として扱ってきた歴史がある。それを廃止した現王の英断に感謝するエルシー。それがなければもしかすると自分も亜人を迫害していたかもしれない。それが常識なのだから。
ニコラスとリンネが回復に回り、ザルク、エルシー、ウェルス、アリスタルフ、シノピリカの五名で攻める自由騎士。一進一退の戦いの流れは、
「さあ、楽しい薬学のお勉強! この毒に耐えられるかな?」
突如『水庭伯』の背後の扉から現れたクイニィーにより変化する。
「貴様、賊か!?」
「おぉーっと、近づくとバッロッターリ卿に針刺さっちゃうかも。それかぁ、ヒュドラちゃんの毒で苦しみたい?」
暗殺針を突き刺し周囲を脅迫するクイニィー。だが戸惑うことなく『水庭伯』は答えた。
「構わぬ。背後から襲い掛かる卑劣な輩に屈する貴族ではない。それに小娘一人、制しきれぬほど温い世界で生きてきておらぬ!」
自分を中心に魔力を放ち、クイニィーを払う『水庭伯』。
『あ。この形、マズいかも……?』
クイニィーは状況を鑑みて冷や汗を流す。回り込んで不意を突いたのはいいが、味方陣営と敵後衛に分断された形だ。体力的に劣るクイニィーは、集中砲火を受ければそう長くは立っていられない。事実、秒針が半分まわるより早く、『水庭伯』と執事の指弾を受けてクイニィーはフラグメンツを削られていた。
そして一時敵の主力から注意を引けたが、『水庭伯』の言葉ですぐに冷静さを取り戻していた。せめて不意打ちのことを仲間に話していてば、連携してその隙をつくことはできたのだが。
「あー。先に寝るは。あと任せた」
「貴族様は容赦がないな、ったく」
「もー。乱暴なんだから……きゅう」
ニコラス、ウェルス、クイニィーが戦いの中意識を失うが、自由騎士も相手側の騎士を伏しており、『水庭伯』へと傷を重ねていた。
「これで終いだ。不安は解るが、ここで止まっとけ!」
ザルクの二丁拳銃が『水庭伯』に向けられる。他の自由騎士も戦闘中に彼にダメージを与えていたため、ダメージが足に出ていた。何とか避けようと身体を動かすが、ザルクからすれば止まっているも同然の動きだ。
「命だけは奪わねぇでいてやるよ」
両手の銃から放たれた2×3発の弾丸。それが『水庭伯』の意識を刈り取った。
●
戦い終わり、緑の服を着た貴族魔術師が応急処置を行い、意識を取り戻す自由騎士達。
「「せめて相談してからにしろ」」
「てへ。ごめんね」
最初に行ったことは誰にも相談せずにいきなりいなくなったクイニィーへの糾弾だった。当のクイニィーは反省しているのかしていないのかわからない様子で謝罪する。
『水庭伯』が倒れると同時に、執事と騎士達は降伏した。サモンと呼ばれた用心棒は即座に離脱したと言う。
「あの男……おそらくヴィスマルクの間者か」
「だろうね。ヘルメリアにネクロマンサーはいないはずだし」
シノピリカの推測に同意するニコラス。おそらく『水庭伯』を扇動したのは彼だろう。最初はボディーガードとして動き、信を得てから煽ったのだろう。ヘルメリアとイ・ラプセルをぶつける下地づくりの為に。
「スパイが誰かを把握するのは結構ですが……国のことを考え、情報戦を制したいのならばスパイを排除するのではなく、うまく利用してみては?」
『水庭伯』がアリスタルフの進言を受け入れたかどうかは解らない。だが、自由騎士にこれ以上逆らう気はないようだ。
「よぉ、久しぶり。助けたお礼に感謝のキスをしてくれても良いんだぜ?」
「え、はい」
レティーナを助けに行ったウェルスが冗談交じりに言う。ビクビクしながらレティーナが唇を寄せようとしたので、ウェルスは手で制する。無理やりさせている感が半端なかった。
「イ・ラプセルは政策で亜人とノウブルが同等の立場になるよう国策を取っています」
そんな様子を見て、リンネが口を挟む。どうもレティーナは他人の言葉を受け入れすぎる節がある。他人の命令に逆らえない、と言った感じだ。
「なのでもし次同じような事があった場合は相手がノウブルの方であろうと自己主張して欲しいです」
「あ、すごいですね。その、理解は、しているつもり、です、けど」
リンネの言葉にたどたどしく答えるレティーナ。そういう文化だと知っていても、染みついた恐怖が簡単に拭えるはずがない。ヘルメリアの奴隷問題。その根は深そうだな、とリンネは肩をすくめた。
かくして『水庭伯』の暴走は止まり、捕らわれていた者達は解放される。
しかし情報に踊らされる者が完全に潰えたわけではない。戦争と言う空気が人を惑わし、血の宴を開いていく。
時代は少しずつ、血と鉄に塗れていく――
「バッロッターリ伯、ただちに武装解除して投降せよ!」
扉を開け、開口一番言い放つ『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。エントランスに集まっていた『水庭伯』を始めとした一同は突然の乱入者に驚くが、すぐに緊張の面持ちを浮かべていた。
(こんの忙しい時期に、しかも結果的にとはいえヘルメリアの利敵行為になるような事やりやがって……)
あえて口には出さずに『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は頭を掻いた。別に口にしてもいいが、他の仲間の面子を立てる為にあえて喉元で抑えておく。今はヘルメリアに一分の隙も見せたくないのがザルクの心情だ。
(キッシェ派ってことは、エドワード陛下と対立しているわけじゃないのよね?)
退路を防ぐ位置に移動しながら、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は思考する。当然だが『水庭伯』はイ・ラプセルに反逆の意を示しているわけではない。むしろ国を思っての行動なのだ。だが、これは捨て置けない。
「憂う気持ちは分かりますがねぇ」
『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)は言ってうんうんと頷いた。スパイから国を守りたい。その気持ちは理解できるし、その為に血を流すというのは間違っていない。しかし方法に些か問題があるのは否めない。
「捕らえた民の開放、および武装解除と事情聴取にご協力ください。実力行使による解決はそれこそ他国の思う壺です、どうか!」
自由騎士の勲章を掲げ『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は叫ぶ。これで相手が大人しくなるとは思っていないが、体面は重要だ。相手は自国の貴族。後で問題が無いようにふるまわなくては。
「申し訳ありませんが、伯の行動は国益を損なう可能性があります。国を思ってのことでしょうが、少し落ち着いて頂きたい」
胸に手を当て、真摯に語りかける『活殺自在』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。軍人として貴族に経緯を払い、しかし国益を優先する。その態度を崩すつもりはない。が、任務を放棄した騎士には怒りを感じていた。
(……ま、退ける訳がねぇよな。決心しての事だろうから)
仲間達の言葉に対する相手の反応を見ながら『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は肩をすくめた。自由騎士が武器を持ち戦うように、彼らもまた戦っているのだ。その決意を崩すにはもはや力でしかない。
「武装解除するのはお前達の方だ。七名程度で何が出来るというのか」
『水庭伯』の言葉に怪訝な表情を浮かべる自由騎士達。ななめい? 自由騎士達は各自点呼を取るように確認し――
『クイニィーがいねえ!?』
声を出すことを何とか押さえ、自由騎士達は戦場に向き直った。
「わざわざ戦う必要も無いよね……よっし、とりあえず戦闘はみんなに任せた!」
一方その頃、『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は仲間の口上に気が向いている隙を縫うようにして身を隠し、館の外に出る。ホムンクルスを戦場に置いて状況を確認しながら、気配を消して移動していた。
●
「我々自由騎士がココに来た意味、おわかりでしょう?」
一番最初に動いたのはエルシーだ。緋色の輝く竜の籠手を手にして、真っ直ぐに敵陣に向かっていく。できる限り穏便に解決したいのは事実だが、相手が誘拐を行った時点で話し合いで解決できる領域は既に超えている。ならば騎士として務めを果たすのみだ。
息を吸い、そして吐き出す。一呼吸の間に体をどう動かすかを思考し、そしてそれを追うようにエルシーは動いていく。思うと同時に体が動く。繰り返された鍛錬がそれを可能としていた。叩きつけられる打撃が、護衛とそして後ろに居る貴族を打つ。
「陛下はこのような事を望んでおられません!」
「それは表向きだ。エドワード陛下とてヘルメリアのスパイに頭を悩ませていることには変わりない」
「んなモンはどうでもいいんだよ。ヘルメリアのクソに手出しさせる隙を与えたら本末転倒じゃねーか」
『水庭伯』の主張をばっさり切り捨てるザルク。戦略には様々な側面がある。だが『相手に隙を見せない』ことを考えれば下手なスパイ詮索は逆効果だ。相手はスパイを使いこなすことに長けている国なのだ。
脳内で相手に標準を定め、強く復讐を意識する。心に燃える炎が理性を燃やし、むき出しの本能のままに銃を向ける。心でカウントを唱えると同時に引き金を引き、魔を込めた弾丸を解き放つ。着弾と同時に魔力が解放され、鎖となって騎士を足止めする。
「疑わしきは拷問するとか魔女狩り再開してんじゃねーぞクソが!」
「そうすることで平和が維持できるのなら、それを為すのが貴族の務めだ!」
「覚悟決まってるねぇ……。そういう相手を煽ったって所なんだろうけど」
自分の考えに固持する『水庭伯』の態度に苦笑するニコラス。ヘルメリアからのの危機を煽り、亡命者を始末させる。そうすることで国内の空気を悪くしてしまおうと言う流れだ。『裏』の仕事に慣れたニコラスにはその思考が手に取るようにわかる。問題は――
考察を止め、戦闘に意識を集中する、味方の傷を確認し、魔力を練り上げていく。大気に流れる無形の魔力。それを集わせ、束ねていく。解き放たれた魔力は風となり、味方の体内に入って内側から身体を癒していく。
「民への施しをする事こそがアンタらの役目だろうに」
「無論だ。だからこそ、こうして財を用いてスパイを確保しているのだ」
「可能性で罰してたら最終的には誰でも拷問対象。それにスパイの本命はそんな分かりやすい処には仕掛けません」
冷ややかにリンネは『水庭伯』の言葉を否定する。成程、亡命者に紛れて潜入するスパイはいるのだろう。だがそれは組織の末端程度だ。あるいはそれを囮にして本命のスパイが侵入しているかもしれない。疑い始めればきりがないのだ。
森羅万象。アマノホカリに伝わる言葉を口にするリンネ。森の如く万物が並び行く様。あらゆる現象、世界のあらゆるは意味があり同一だ。両手で円を描きながらマナを集め、世界と同化し、力を借りる癒しの術を解き放つ。
「少し頭を冷やして貰います」
「さて。どちらが頭を冷やすことになるのでしょうな」
「無論、伯の方だ。失礼を承知の上で、その行い止めさせて戴く」
執事の言葉にアリスタルフは静かに答える。相手は自国の貴族で、その行為に暴力をもって答えるのは無礼なのは解っている。だがこれを見過ごしてしまえばより酷い暴力が無辜の民を襲うのだ。それを看過できるアリスタルフではない。
執事の動きを見ながら、タイミングを計るアリスタルフ。かるく手を伸ばしただけの構えだが、隙が見いだせない。歴戦の動きに舌を巻きながら、しかし足を止めず踏み込んだ。衝撃と打撃。二つの技を組み合わせ、一気に畳みかけるアリスタルフ。
(このジャコモという男なかなか出来る……!)
「サモンさんは右側に。一気に斬り崩してくだされ」
「いや、そうはさせぬぞ。用心棒のセンセイ」
アマノホカリの武器を手にしてるサモンの前に立ちふさがるシノピリカ。鋼の腕を突き出し、愛刀のサーベルを垂らすようにして構えた。鋼の腕で攻撃を防ぎ、サーベルで切り崩す。サーベルで攻撃を弾き、機械の腕でねじ伏せる。その二択を前にサモンが止まる。
時間が止まる。緊張が相手以外の感覚を削ぎ、時間が止まったかのような感覚を生む。そう錯覚したのはシノピリカだけだろうか。サモンとシノピリカは同時に踏み込み、そして刃が交差する。負の魔力を込めた刀と、国を守る刀が激しい音を立てた。
「用心棒のセンセイとしては、少し唐突な印象を受けるのう。サモンとやら。ヘルメリアの間諜か?」
「クク。ワシがそうやすやすと口を割ると思ぅたか?」
「思いはしないさ。情報は口以外からも聞けるんでね!」
傷の痛みを魔力で誤魔化しながらウェルスが吼える。自国の騎士と相対する事に関しては、あまり感慨はない。しいて言えば後に騎士間でしこりが残らないか程度だ。事、戦争が控えている状況で内部分裂は避けておきたい。そう考えてしまうのは商人のクセか。
弾倉内の弾丸数を意識しながら、引き金を引く。次の弾丸を用意するタイミングを計るために。弾切れが起きても動揺しないように。全ての行為は次に繋がっている。冷静に、だけど臆病にならずに。ウェルスはそれを意識しながら戦いに挑む。
「まあ、そう簡単に行くとも思わないけどな!」
「理想を語るだけで平和が来ると思うな! 一気に攻め立てろ!」
『水庭伯』の声と共に、騎士達が攻め立てる。前衛を突破した騎士が後衛に迫り、回復役に刃を向けた。
「あいててて……!」
「ケッ、この程度『あの時』に比べりゃ大した傷じゃねぇ!」
ニコラスとザルクが騎士の攻撃を受けてフラグメンツを燃やす。
「きゃん!」
「痛くはないが、それでもキツいもんはキツいか」
「流石は『水庭』の名を冠するお方。見事な魔術です」
前衛で攻撃を受けるエルシーとウェルスとアリスタルフもフラグメンツを削られるほどのダメージを受けた。
同じ国のことを憂う者同士の戦いは、少しずつ加速していく。
「ふふふーん」
クイニィーはホムンクルスから情報を得ながら、館の外を移動していた。適度な窓を見つけ侵入しようとしたが、鍵がかかっていたため断念する。鍵開け用の道具(ぎのう)をもっていなかったことを後悔するが、まあどこかは開いてるだろうと意識を切り替えた。
(窓壊したら音立てちゃうからなぁ。出来るだけ気付かれずに潜入して……)
館の構造を意識しながら移動するクイニィー。すぐに戦場に戻れるように道のりと距離は測っておく。常に思考し、最善を目指す。それが錬金術師。あと謎とか大好き。秘密暴くの大好き。足音を立てずに歩きながらクイニィーは笑みを浮かべていた。
●
正しい、と思う事は戦う原動力となる。傷の痛みや戦況などで折れそうになる心を支えるモチベーションとなるのだ。
「ヘルメリアからこの国を守るのだ!」
と言う『水庭伯』の理念とそれに共感する者達は、それを支えに戦意を保っていた。避難されようともこれでスパイをあぶりだせればわずかでも国を守れるのだ、と言う思いだ。
だが、それは自由騎士とて負けてはいない。このような方法で国を守れたとしても、何の意味もない事なのだ。過剰に犠牲を生んで得る平和に何の意味があるのだろうか。
「逸る気持ちを堪え冷静な行動を以て民に範を示す事こそ、貴族たる者の務めではないのか!」
サモンと刃を重ねながらシノピリカが『水庭伯』に向かって叫ぶ。命を吸う刀にフラグメンツを削られながらも、同国の存在である相手に訴えかける。言葉による説得に意味がないと分かっていても、それでも叫ばざるを得なかった。
「先ずは一人。誘拐を手引きするとは騎士として許しがたき行為だな」
倒れた騎士を見下ろすようにしてアリスタルフは呟いた。他国との戦争で相対したとはいえ、警護対象の誘拐を手助けするなど騎士の名折れだ。守るべき存在が誘拐に加担するなどどのような理由があっても赦すつもりはない。
「まあしかし、抵抗しなかったレティーナ様もそれはそれで問題な気がしますが」
誘拐の経緯を思い出しながらリンネはため息を吐く。相手がノウブルだとわかった瞬間に抵抗を諦めたヘルメリアの奴隷。その在り方には何か言わなくてはいけない。彼女だけが特別なのか、それともヘルメリアの亜人は皆そうなのか。どうあれ、場を制してからだ。
「お嬢か。囚われのお姫様を演じたかったわけでもないだろうに」
ウェルスはレティーナが捕まった時の状況を想像して、そんなことを口にする。だがノウブル不信をもつウェルスには、その気持ちが理解できた。心に刻まれた感情は簡単にはぬぐえない。『道具』として彼女がどんな扱いを受けてきたのだろうか。
「……ま、想像できないってことは幸せだぜ。あそこの亜人の扱いなんざ」
言って肩をすくめるニコラス。人は『道具』に対してどのような扱いをするか。何処まで残酷になれるか。ニコラスはそれを知っている。悪戯で心を壊し、尊厳を壊し、生きている意味を奪い取る。そんな様はいくらでも見てきた。
「――クソだな」
短く、しかし多くの感情を込めてザルクが吐き捨てた。シャンバラは権能で民を従え、ヨウセイを迫害した。ヘルメリアは法をもって『人の意志』で亜人を迫害する。亜人差別を容認し、人の残酷性を浮き彫りにする。それがヘルメリアと言う国なのだ。
「イ・ラプセルも少し前まではそうだったと思うと……ええ、やるせないわね」
ヘルメリアほどではないが、イ・ラプセルも亜人などを奴隷として扱ってきた歴史がある。それを廃止した現王の英断に感謝するエルシー。それがなければもしかすると自分も亜人を迫害していたかもしれない。それが常識なのだから。
ニコラスとリンネが回復に回り、ザルク、エルシー、ウェルス、アリスタルフ、シノピリカの五名で攻める自由騎士。一進一退の戦いの流れは、
「さあ、楽しい薬学のお勉強! この毒に耐えられるかな?」
突如『水庭伯』の背後の扉から現れたクイニィーにより変化する。
「貴様、賊か!?」
「おぉーっと、近づくとバッロッターリ卿に針刺さっちゃうかも。それかぁ、ヒュドラちゃんの毒で苦しみたい?」
暗殺針を突き刺し周囲を脅迫するクイニィー。だが戸惑うことなく『水庭伯』は答えた。
「構わぬ。背後から襲い掛かる卑劣な輩に屈する貴族ではない。それに小娘一人、制しきれぬほど温い世界で生きてきておらぬ!」
自分を中心に魔力を放ち、クイニィーを払う『水庭伯』。
『あ。この形、マズいかも……?』
クイニィーは状況を鑑みて冷や汗を流す。回り込んで不意を突いたのはいいが、味方陣営と敵後衛に分断された形だ。体力的に劣るクイニィーは、集中砲火を受ければそう長くは立っていられない。事実、秒針が半分まわるより早く、『水庭伯』と執事の指弾を受けてクイニィーはフラグメンツを削られていた。
そして一時敵の主力から注意を引けたが、『水庭伯』の言葉ですぐに冷静さを取り戻していた。せめて不意打ちのことを仲間に話していてば、連携してその隙をつくことはできたのだが。
「あー。先に寝るは。あと任せた」
「貴族様は容赦がないな、ったく」
「もー。乱暴なんだから……きゅう」
ニコラス、ウェルス、クイニィーが戦いの中意識を失うが、自由騎士も相手側の騎士を伏しており、『水庭伯』へと傷を重ねていた。
「これで終いだ。不安は解るが、ここで止まっとけ!」
ザルクの二丁拳銃が『水庭伯』に向けられる。他の自由騎士も戦闘中に彼にダメージを与えていたため、ダメージが足に出ていた。何とか避けようと身体を動かすが、ザルクからすれば止まっているも同然の動きだ。
「命だけは奪わねぇでいてやるよ」
両手の銃から放たれた2×3発の弾丸。それが『水庭伯』の意識を刈り取った。
●
戦い終わり、緑の服を着た貴族魔術師が応急処置を行い、意識を取り戻す自由騎士達。
「「せめて相談してからにしろ」」
「てへ。ごめんね」
最初に行ったことは誰にも相談せずにいきなりいなくなったクイニィーへの糾弾だった。当のクイニィーは反省しているのかしていないのかわからない様子で謝罪する。
『水庭伯』が倒れると同時に、執事と騎士達は降伏した。サモンと呼ばれた用心棒は即座に離脱したと言う。
「あの男……おそらくヴィスマルクの間者か」
「だろうね。ヘルメリアにネクロマンサーはいないはずだし」
シノピリカの推測に同意するニコラス。おそらく『水庭伯』を扇動したのは彼だろう。最初はボディーガードとして動き、信を得てから煽ったのだろう。ヘルメリアとイ・ラプセルをぶつける下地づくりの為に。
「スパイが誰かを把握するのは結構ですが……国のことを考え、情報戦を制したいのならばスパイを排除するのではなく、うまく利用してみては?」
『水庭伯』がアリスタルフの進言を受け入れたかどうかは解らない。だが、自由騎士にこれ以上逆らう気はないようだ。
「よぉ、久しぶり。助けたお礼に感謝のキスをしてくれても良いんだぜ?」
「え、はい」
レティーナを助けに行ったウェルスが冗談交じりに言う。ビクビクしながらレティーナが唇を寄せようとしたので、ウェルスは手で制する。無理やりさせている感が半端なかった。
「イ・ラプセルは政策で亜人とノウブルが同等の立場になるよう国策を取っています」
そんな様子を見て、リンネが口を挟む。どうもレティーナは他人の言葉を受け入れすぎる節がある。他人の命令に逆らえない、と言った感じだ。
「なのでもし次同じような事があった場合は相手がノウブルの方であろうと自己主張して欲しいです」
「あ、すごいですね。その、理解は、しているつもり、です、けど」
リンネの言葉にたどたどしく答えるレティーナ。そういう文化だと知っていても、染みついた恐怖が簡単に拭えるはずがない。ヘルメリアの奴隷問題。その根は深そうだな、とリンネは肩をすくめた。
かくして『水庭伯』の暴走は止まり、捕らわれていた者達は解放される。
しかし情報に踊らされる者が完全に潰えたわけではない。戦争と言う空気が人を惑わし、血の宴を開いていく。
時代は少しずつ、血と鉄に塗れていく――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
暗い話、たのしー!(駄目なST
以上のような結果になりました。
疑わしきは罰せよ、と言う恐ろしさが分かっていただけたのなら幸いです。まあこんなケースは稀でしょうが。
MVPは用心棒が怪しいと睨んだゼッペロン様に。
冒頭でも書きましたが、戦争は後始末が大変なのです。
これから皆様の戦う先に様々な苦難が待ち受けているでしょうが、ニマニマしながら紡いできます。酷い人だ。
それではまた、イ・ラプセルで。
暗い話、たのしー!(駄目なST
以上のような結果になりました。
疑わしきは罰せよ、と言う恐ろしさが分かっていただけたのなら幸いです。まあこんなケースは稀でしょうが。
MVPは用心棒が怪しいと睨んだゼッペロン様に。
冒頭でも書きましたが、戦争は後始末が大変なのです。
これから皆様の戦う先に様々な苦難が待ち受けているでしょうが、ニマニマしながら紡いできます。酷い人だ。
それではまた、イ・ラプセルで。
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