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Quisling! 裏切りモノの名を受けて



●王族1734
『王族1734』と呼ばれるパノプティコンの女性がいる。
 かつてパノプティコンの反抗勢力であるインディオの戦士で、精霊と交流する術を持っている。地形を利用した戦術や戦闘力でパノプティコン兵に抵抗したが、最後にはとらわれてしまう。
 命を奪われる、という寸前に現パノプティコンの王でありハイオラクルである王族1687に交渉を持ち掛けられた。
「いやお見事でした。まさかあんな形で未来予知を誤魔化すとは。驚きでした。
 その戦術眼は見事なものです。貴方を『王族』に迎え入れますよ」
「……断る」
 何を言っているんだ、という顔で王族1687の誘いを断る彼女。
「もし貴方が『王族』となったのなら、インディオに対する追撃を緩めましょう。これまでの半分……いいえ、四分の一にしましょう。
 このままでは貴方の部族は確実に死に絶えます。しかし、これならあるいはなんとかなるかもしれません」
 王族1687の言葉に、思考する彼女。
 確かにインディオはこのままだとパノプティコン兵に滅ぼされるだろう。その文化や痕跡さえも消え去り、精霊と交信する術は失われる。それは火を見るよりも明らかだった。
 だが、インディオを攻める兵数が減るのなら?
 この王族は嘘をつくかもしれない。だが、ここで死ぬよりは可能性はあるはずだ。
「言っておくが、インディオに矛を向けろと言う命令は聞かないぞ」
「無論。私もそこまで無体ではありません。約束は守りますよ。
 いえ、聞くところによるとイ・ラプセルがシャンバラを滅ぼしたようでして。諸外国に対するけん制のカードが欲しい所なのですよ」
『外国対策に力を注ぎたいから、、国内の反抗勢力は後回しにする』……なまじ愛や正義を謳わない分、信用はおける言葉だ。彼女はそれを受け入れる。
 パノプティコン国民であることを受け入れ、その瞬間に彼女は国民管理機構に組み込まれる。アイドーネウスの形成する管理システムの一翼となり、同時に彼女自身も言語を始めとした様々な制限がかけられる。
「ようこそ。王族1734。貴方には軍事関連を担ってもらいましょう」
 そして、時は流れ――

●自由騎士
 イ・ラプセルが港町3356を占拠してから、一か月近くが経った。
 本国から兵やら食料やらを輸入し、戦争で傷ついた箇所を修復する。そんな最中に、パノプティコン兵が港町の西側に陣取ったのだ。
 イ・ラプセル騎士団は西門に集結し、襲撃に備える。両軍はにらみ合いの形となり、硬直状態となった。
 その隙を縫うように――数名の者達が港町3356に潜入する。『王族1734』を中心とした少数部隊だ。彼らは軍の食糧庫を狙い、火を放った。
 水鏡はギリギリのタイミングでこれを予知。食糧庫の炎を止めるため、港町に居た自由騎士達は動き出すのであった。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.食糧庫の火を消し、被害を押さえる
 どくどくです。
 Qの単語ストックがそろそろ尽きそうの巻。あと20個ぐらい。

●敵情報
・王族1734(×1)
 ノウブル女性。褐色肌を持ち、原始的な斧を持っています。高ランクの祈祷師で、祈祷師スキルで強化した後に斧で殴ってきます。食料庫の火が消えると判断すれば、撤退します。
 インディオを裏切ってパノプティコンに下ったと、一般的には言われています。
 独特の言葉を喋るため、会話はできません。
 OPの情報は知っていて問題ありません。水鏡で知ったとかそんな理由で。

・パノプティコン兵(×7)
 種族や性別は様々。全員軽戦士です。独特の言葉を喋るため、会話はできません。食料庫の火が消えると判断すれば、撤退します。
 ランク2までのスキルを使ってきます。

●オブジェクト
・食糧庫
 港町3356の食糧庫です。イ・ラプセル軍の食料が保管されています。
 シナリオ開始時、潜入したパノプティコン兵士達の暗躍で火の手が上がっています。止めるには【バーン】系以外の攻撃で食糧庫(正確には延焼している箇所)を攻撃して一定以上ダメージを蓄積する必要があります。
 火が完全に消えるまで、食糧庫は燃え続けます。ゲーム的には食糧庫にHPが存在し、『火』という敵を排除しない限りスリップダメージを受け続けます。何もなければ20ターン後には止められなくなるでしょう。
 またパノプティコン兵士や王族1734は、余裕があれば食糧庫に油瓶を投げつけてスリップダメージを増やしていきます。

●場所情報
 港町3356。そこにある食糧庫近く。
 戦闘開始時、敵前衛に『王族1734』『パノプティコン兵士(×3)』『食糧庫』が、敵後衛に『パノプティコン兵士(×4)』がいます。
 事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
4モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年11月03日

†メイン参加者 8人†




「露骨な時間稼ぎだな。とはいえ、無視はできないのも事実か」
 昇る煙を見ながら『海蛇を討ちし者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はやれやれと息を吐く。パノプティコンはイ・ラプセルの侵攻に対して攻勢に出ることなく、あくまで守りに徹している。今回の工作もその一環だろう。
「確かにヴィスマルクとは真逆。防戦に徹するか」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はパノプティコンの国の在り方を考えていた。責められても積極的に進行せず、自らの世界を守ることに固執する。シャンバラやヘルメリアも国防騎士の反撃はあったのに。そういった気配すらない。
「そもそも『戦争』をしているようには見えません。陛下に王族を娶らせようとしたり」
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は『王族1734』を見ながらそんなことを言う。そもそも港町3356も同盟を組めば譲渡してもらえた領土なのだ。そこに何かしらの思惑こそあれど、兵を使った戦いとは程遠い国家である。
「平和主義、とは違うな。あのヒゲはどちらかと言うと刺すときは笑顔で刺してくるタイプだ」
 かつての『王族1687』との会見を思い出す『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。下手に出るような態度に見せかけて、こちらをコントロールしようとする節があった。あの同盟を受け入れていればどうなっていたか。つまらん、と一蹴して現実に意識を戻す。
「細かいことはいいんだよ! 今は殴って勝つ!」
 今この場に居ない王族よりも、目の前の火災。『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はそう叫び、武器を抜き放つ。敵がこちらの街に侵入してきて、破壊工作を行っている。ならばそれを止めるのが先だ。
「未来予知を誤魔化す……今回水鏡での発見が遅れたのは、未来予知の裏をかかれたからか?」
 セーイ・キャトル(CL3000639)は水鏡で得たパノプティコン王族の会話を思い出し、思考に耽る。未来を見ることが出来るデウスギア。その精度は高く、イ・ラプセルの戦略の要となっている。その網をどうやって潜り抜けたのか。
「……アナ……」
 ノーヴェ・キャトル(CL3000638)は『王族1734』が捨てた名前を呟いた。インディオの戦士からパノプティコンの王族となる際に捨てた名前。その名前を言う事にノーヴェにとって何か意味があるのだろう。それは彼女にしかわからない事だ。
(本当は、同郷であるコトを伝えたいんだけど……)
『復讐の意味は』キリ・カーレント(CL3000547)は、胸に思いを閉じ込めてローブを握りしめる。かつて存在した自分の村。炎に消えた村。炎に消えたキリの記憶の中に『王族1734』がいる。今は何もできないけど、それでも。
「ニ・ミ・カ・イ・ス・ソ・イ・セ・カ・ニ・ラ・ミ!」
『王族1734』は自由騎士達の姿を見ると同時に、斧を向ける。その意思を察したパノプティコン兵士達は倉庫への破壊工作を止め、自由騎士への迎撃に入る。
 イ・ラプセルとパノプティコン。両国の兵がぶつかり合う。


「……アナ……行く、よ」
 カランビットとカタールを手にノーヴェは王族1734に迫る。元インディオのパノプティコン王族。そこに至る経緯を知り、しかし言葉にしても意味がないことを理解している。相手は言語すら制限する管理国家。言葉を交わすことすら、難しい。
 王族1734の懐に迫り、二刀を振るう。カランビットで相手の斧の柄を絡めてずらし、カタールを突き刺すようにして攻撃する。力を凌駕する速度。その速度のままに一気に迫る。一打一打に思いを込めて、確実に伝わるように。
「……アナ、は……誰も、うらぎって、ない……」
(今は、彼女に関する情報を見つける。それがアイツへの手助けになる!)
 セーイはノーヴェの動きを気にしながら、王族1734を観察していた。双子の片割れは王族1734に対し、強い思いを抱いている。それが何なのかはわからないが、それが何かしらの突破口になるのかもしれない。
 足のステップで魔力を解き放ち、パノプティコン兵と燃える倉庫に打撃を加えていく。相手の動きを止め、同時にセーイの魔力をぶつけて燃え移りそうな箇所を破壊していく。攻撃を加えながら、敵への観察は怠らない。
「何か特別な力を使っているようには見えない……。じゃあ、予知を誤魔化したのは特殊な能力によるものではない?」
「そういう精霊がいる、っていうわけでもないみたいだしな!」
 斧を構えたジーニーはセーイの意見にそう言って帰す。インディオの特徴的ともいえる祈祷術。それが扱える精霊で予知を誤魔化したと言うのならインディオのブル族もそれを知っているはずだ。だがそんな様子はない。だったら――
 ジーニーは斧を振るい、消火に専念する。燃えている部分と食糧庫近くの壁に向かって巨大な斧を叩きつけ、燃焼部分を削いでいく。事前にかぶった水は既に熱気で飛ばされている。それでも気にすることなくジーニーは斧を振るった。
「だったら、私にも同じことが使えるって事だ! パノプティコンの国民管理機構を超えることが!」
「確かにな。その方が気分がいいぜ」
 ジーニーの言葉に唇を笑みに変えるウェルス。神が誇るデウスギア、絶対と信じているなにかを人間の機知で覆す。それほど爽快な事はないだろう。その方法は未だに見えないが、その可能性は確かに示唆されているのだ。
 だが今は目の前の事例に集中しよう。戦場全体を見回し、二挺の拳銃を構えるウェルス。瞳に強く意識を集中し、パノプティコン兵の持っている油瓶の位置を記憶し、そこに向けて銃を撃ち放っていく。
「これ以上燃やさせやしないぜ」
「そうだな。此処は既にイ・ラプセル領だ。貴公らの好き勝手にはさせぬ」
 魔力を解き放ちながら、テオドールはパノプティコン兵に言い放つ。燃焼部全てを閉鎖する氷の防壁を作ろうとしたが、さすがに範囲が膨大過ぎるので諦めた。油が加えられている以上、氷が解けた水撥ねなどで油が広がりかねない恐れもあるのだ。
 杖をパノプティコン兵に向け、魔力を解き放つ。白の荊が戦場を支配し、相手を拘束する呪いとなって顕現する。鋭い痛みと同時に体内に侵入する魔力の枷。それがパノプティコン兵の動きを縛っていく。
「……しかし、ここまで侵入された理由は何だ? 彼らが知る抜け道があったとでもいうのか?」
「ありえるでしょうね。事実、私達もそれを使って侵入しましたし」
 テオドールの推測にミルトスは頷いた。先にこの街を攻めた際、似たような戦術で敵の目を引いて、その隙に街の要所を攻め落としたのだ。自分達に出来ることが、彼らに出来ない理由はない。勿論その抜け道は既に塞いであるのだが――
 思考しながら消火活動を行うミルトス。湿った布を口に当てながら足を振るい、多くの壁と瓦礫を破壊していく。できるだけ体を低くして煙を吸わないようにしながら、気合を入れて攻撃を加えていく。
「彼女に話が聞ければ、詳細は分かるのかもしれませんが」
「言葉が分からん、というのは辛いもんだな」
 やれやれ、とため息をつくツボミ。同じ人間なのに、意思疎通が出来ない。これほど厄介なものはないなと苛立ちを感じていた。割り切ってしまえば楽なのは分かっているが、そう簡単に割り切れないのもヒトなのだ。
 ツボミは攻撃に参加せず、後方から魔術による治療を行っていた。魔力を練り上げ、傷ついた仲間達を癒していく。魔術による治療は一時的な物とはいえ、生まれた時間は確かに大きい。本格的を治療は後に行う為にも、今は倒れさせるわけにはいかない。
「しっかしクソ真面目と言うか。もう少し肩の力を抜けばいいものを」
「それが出来ないから、今こうなっているのかと思うと……」
 ツボミの言葉を聞きながら、キリは締め付けられるような思いを抱いていた。誰かを守るために己を削り、汚名を受けてしまう。それでも誰かが助かるのなら構わない。……キリはその気持ちを理解できてしまう。だからこそ、もどかしかった。間違っている、と否定できないから。
 仲間を守りながら、王族1734を見るキリ。その瞳に迷いはなく、同時に攻撃に躊躇もない。アイドーネウスに管理されながら、それでも正しいと思うことを貫いているのだ。その想いを受け止める様にキリは相手の斧をローブで絡めとる。
「キリは、負けません! アイドーネウスにも、国民管理機構にも!」
 だからあなたもまけないで、そう思いを込めてキリは叫ぶ。
「我が魂の伴侶(ヒュドラルギュルム)よ……彼の者の動きを封じよ!」
「皆、出し惜しみするなく戦って……ね」
 サポートに来ていた魔剣士のノウブルと錬金術師のマザリモノも、自由騎士達を援護していく。
 イ・ラプセルとパノプティコンの攻防は、少しずつ激化していく。


 自由騎士はパノプティコン兵と火災対応に二分して動いていた。
 パノプティコンにはウェルス、ノーヴェ、キリが対応し、火災にはジーニー、テオドール、ミルトス、セーイが対応。ツボミは一歩引いた場所で回復を行っていた。
 パノプティコン兵は合計八名に対して対応している自由騎士が三名。うち、キリは防御によった構成出会ったこともあり、ダメージはそれほど深くはない。火災を止めようとする自由騎士を中心に、攻撃を行う。
「まだ、まだですっ!」
「楽には勝たせてもらえんか」
「ええ、そうでなくてはね」
 回復役を庇っていたキリが不屈の精神で攻撃に耐え、テオドールとミルトスがフラグメンツを削られる。
「切り替えが早い……違うな、本来はこっちが目的か!」
 油瓶を狙っていたウェルスはパノプティコン兵が火災を大きくすることに拘っていない事に気付く。むしろやってきた自由騎士を倒すことをメインとして動いていた。油瓶をメインに狙っていたこともあり、パノプティコン兵士へ与えたダメージは少ない。
「もしかして予知を『誤魔化す』っていうのは情報過多でこちらを惑わすと言う意味……?」
 セーイは王族1734の動きを見ながら、そう呟いた。大軍を率いて騎士団の目を引きつけたり、油瓶をもって火災を大きくするというポーズをとったり。情報を受け取る側の人間にどれが重要なのかという的を絞らせない戦い方だ。言わば、情報の煙幕。
「予知情報の精度が高く信頼がおける。だからこその一手か」
 頷くテオドール。確かに水鏡の情報は正確で、油瓶をどうにかしなければ危険だったのは確かだ。だが、そちらに捕らわれればその分やれることが減っていく。何もかもをやろうとすれば、それだけ隙が生まれるのだ。
「ええ、ですが――やるべきことは変わりません」
 パノプティコン変死の攻撃をさばきながら、ミルトスは火事を止める為に壁を壊す。少なくとも、自由騎士の主目的は火事を止める方向に向いている。パノプティコン兵を打破する人数がもう少し多ければ、火災は止められなかったかもしれない。
「そうだな。とにかく鎮火が先決だ。治療は任せてもらおう」
 ツボミは全体の状況を見ながら治療を繰り返す。パノプティコン兵の目的が食糧庫の炎上なら、鎮火すれば撤退するはずだ。連戦となるのなら押し切られそうだが、そうでないのなら優先度は低い。今はしのぐのが一番だ。
(……今は何もできないけど、いつかプレールの歌を……)
 息絶え絶えになりながら、キリは王族1734を見る。相手の矢面に立っていることもあり、フラグメンツもすでに削られている。それでも倒れるつもりはなかった。大事な人を守るためにキリは立つ。その中には、目の前の元インディオも含まれていた。
「今していることは……アナがしたいこと、じゃないから……」
 刃を振るいながら言葉を放つノーヴェ。王族1734は仲間のインディオの為に今の居場所に居る。それは彼女の選択だが、彼女がそこに居たいわけではないはずだ。いろいろな物の捕らわれた褐色の祈祷師。そこに何を見たのかは、ノーヴェにしかわからない。
「こいつで終わりだ!」
 自分の身長程の斧を振るうジーニー。その一撃が食糧庫の壁を壊し、延焼している部分を完全に切り離す。炎自体はまだ残っているが、延焼が広がる可能性はほぼ潰えたと見ていいだろう。そのままパノプティコン兵の方に向き直る。
「ス・イ・カ・ス・イ・チ・カ!」
 その空気を察したのか、王族1734は撤退の指示を出す。殿を務めるつもりなのか、指示を出した当人の動きはわずかに遅れる。
(こちらのダメージは深くはないが、楽観はできない。対してあちらのダメージは軽微)
 無理をすれば捕らえられるだろうが、そうなればこちらも数名は大怪我を負うだろう。どの道、始めから目的は食糧庫の消火活動だ。無理はしないと決めていた。
「どりゃ!」
 ジーニーは王族1734に突貫し斧を振り下ろす。受けられることは承知の上だ。挨拶以上の意味はない。
「アイドーネウスは私が始末してやるよ! 先輩は安心して王族ごっこしていな!」
「……ト・カ・チ・ン・ラ・ナ・カ」
 ジーニーの挑発にも似た言葉に、そう返す王族1734。意味は分からないが、静かな圧力を感じる。――言葉を理解する術があったなら『関わるな。別の道を行け』というニュアンスが伝わっただろうか?
 斧同士が交差し、どちらともなく距離を離す。王族1734はその勢いのまま後ろに下がり、
「……アナ」
 撤退する瞬間を狙ってノーヴェが王族1734に抱き着いた。何かを伝えるように、無言で相手の目を見る。オッドアイのノーヴェの瞳と、青の王族1734の瞳が交差した。抱擁は一瞬。だけどその瞬間を大事にするように、強く。
 一秒も経たないうちに、王族1734を始めとしたパノプティコン兵士は現場から姿を消していた。


 その後、自由騎士達は炎は問題なく消し終える。パノプティコン軍の妨害はあったが、主目的である鎮火に人数を裂いたことが大きい。鎮火もパノプティコン打倒も行おうとしていたのなら、手が回っていなかった可能性もある。
「全く……真面目過ぎるのも考え物だな。たまには身勝手なクズ王がいてもいいだろうに」
 撤退する王族1734の表情を見たツボミは、頭を掻いた。あれはこちらを殺すつもりがない目だ。そもそもその気になれば混乱に乗じて街のイ・ラプセル人を殺すこともできたのに。食糧庫を燃やし、やってきた自由騎士を倒す。被害を最小限にする算段だろう。
「言葉が通じないと言うのは面倒ですね。上手くいかないモノです」
 ふう、とため息をつくミルトス。予知のデウスギアを持つ者同士、硬直状態になるのは仕方ない。むしろこういった少人数での潜行及び破壊工作はこちらが好みなのだ。そういう所を含めて、上手くいかないものである。
「しかし情報のトラップとはな。こちらが予知することを前提に動いてくると言うのは厄介だぜ」
 ウェルスは言って頭を掻く。こちらの戦術の要である水鏡の予知。それを基軸に作戦を組み立てるのだが、情報が多すぎればそれだけ処理しなくてはいけないと思う事も増えてくる。水鏡ではなく、それを見る人間への罠と言えよう。
「だが逆に言えば、相手の予知も誤魔化せるということだ」
 言って頷くテオドール。事実、王族1734――当時はアナと呼ばれたインディオはパノプティコンの裏をかいたと言う。如何に騙すかが問題となるが、それでもパノプティコン攻略の糸口はうっすらと見えてきた。
「相手もそれは理解しているだろうから……。上手い作戦を考えないといけないのか」
 港町3356を攻めた際には、マイナスナンバー達と一部のインディオを陽動に使って予知を誤魔化した。同じような手はおそらく通じないだろう。作戦を人任せにするか、あるいは自分で策を考えるか。
「重い一撃だったぜ」
 ジーニーは斧を持っていた手を見ながら、そう呟く。最後に交わした王族1734の一撃を受けた痺れが、未だに残っている。あれは迷いのない心で放った一撃だった。今の道を選んだことを後悔していないと言う真っ直ぐな一打。自然とジーニーは笑みを浮かべていた。
「……アナ……」
 小さく呟くノーヴェ。彼女にはこちらの言いたいことが伝わっただろうか。彼女は誰も裏切っていない。だれも彼女を裏切り者だなんて思っていない。それが伝わってくれればいいのだが。
「…………♪」
 キリはマキナ=ギアから弦楽器を取り出し、奏でると同時にメロディを奏でる。今は亡き故郷の歌。炎に消えたプレールの歌。未だ未熟な演奏だけど、いつかは完璧に歌えるようになりたい。……それを聞かせることが出来る日は、まだ遠い。

 かくして、パノプティコンの破壊工作は防がれた。
 延焼の被害は大きくなく、軍事侵攻に影響はないようだ。迅速かつ的確な判断が功を奏した結果である。
 共に予知により相手の動きを知れるデウスギア。自国の予知の精度を知るがゆえに、迂闊に手を出せない硬直状態。
 だが、進まなければ神の蟲毒は終わらない。
 季節はもう、冬の気配を見せていた――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
 
ブレインストーミングスレッドに以下の投稿をする事で、パノプティコンに策を講じることが出来ます。メタ的に言うと、次のシナリオが決まります。

【抛磚引玉】…インディオの居場所を通商連経由でリークして、兵が減った軍事施設を攻撃する。(メリット:イ・ラプセルの損害は少ない。デメリット:ほぼ確実にインディオは歴史から消える)
【囲魏救趙】…それほど重要ではないパノプティコンの地域を占領し、パノプティコンの狙いを分散させる。(メリット:包囲による敵国の圧力。デメリット:時間と兵の消費)
【遠交近攻】…ヴィスマルク軍人と一時協力し、パノプティコンの兵力を二分する。(メリット:イ・ラプセルの損害は少ない。デメリット:ヴィスマルク側も報酬を得る権利が生まれる)

同タグが5個集まれば、シナリオが展開されます。
また、それ以外にもアイデアがあるのなら考慮します。基本的に好意的に受け入れますが、単純な力押しは予知されて迎撃されると思ってください。
いずれにおいても、期日は11月末日とします。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済