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【機神抹殺】Ego! そこに正義が無くとも――

●ヘルメスは語る。
「いいね。確かに僕を殺せれば『人機融合装置』の効果はなくなる『かもしれない』。
だけど僕を殺せば権能は確実になくなる。そうなると、融合した彼らの命を維持できなくなるだろうね」
●ドジソン兄妹
『ロンディアナ』が変形し、そこに住む国民を『食らわれた』時、多くの歯車騎士団は混乱し、そして憤った。怒りのままに神の元に向かう騎士達にヘルメスはそう語ったのだ。
これにより騎士達は矛を下すこととなった。勝っても得られる物は何もない『かもしれない』。その虚しさに戦意が折れたのだ。騎士として守るべきものが民であるならば、その民が助からない『かもしれない』ことが出来ようか。
結果、牙を折られたかのように歯車騎士団達は『ロンディアナ』に戻る。そして無機物に融合したヒト達のメンテナンスに従事することとなった。ノウブルはまだ耐性があるが、亜人奴隷はメンテナンスなしでは半月程で命を落とす。一度キジン化手術をした者は、二度目の機械融合に精神に異常をきたすこともあるのだ。
蒸気騎士マリオン・ドジソンもその一人だ。民を守るために騎士となり、槍の技術を磨いてきた。外敵と戦い排することで、ヘルメリアに住む者を幸せにできると信じていた。
だが――それはヘルメリアの神により打ち砕かれた。今できる事はその神の権能を使って機械融合されたヒトの命を長らえさせるだけ。そしてその中には――
「にいサマ」
家に入ったマリオンに声をかけたのは、一人の少女だった。その半身は蓄音機と融合しており、肩からは蓄音機のスピーカーが生えている。先ほどの声も肉声ではなくどこか機械めいた声だ。
「キャロル、元気だったか?」
キャロル・ドジソン。マリオンの妹であり、唯一の肉親。マリオンがまだ騎士として膝を折らない最後の絆。
「ふふ、元気ヨ。煤煙が薄いみたイネ」
喘息。それは工場排煙過多のヘルメリアで生まれた人間がかなりの確率で患う病気だった。満足に呼吸が出来ず、酷い時には声を出すことも困難となる。
「にいサマ、ふふ。にいサマ」
皮肉な話だ。キャロル・ドジソンは機械融合して初めて咳をすることなく兄を呼ぶことが出来るようになった。
『キャロルのような、ヘルメリアに住む弱者を守ろう』
それがマリオンの原点。槍を振るう理由だった。
そんな折に、町に衝撃が走る。音の方を見ると、城のような何かが落下し、そこから見覚えのある者達が飛び出てきた。
「にいサマ、あれハ……?」
「――自由騎士。……そうか、彼らが来たのか」
何処か予想していたかのようにマリオンは状況を把握する。彼らはヘルメス打倒を諦めない。そんな確信めいた何かがマリオンの心の中にあった。
「行ってくる。――彼らを止める」
「……なんデ? にいサマは、ヘルメスが憎イんでしょう?」
「もしヘルメスが倒されれば、キャロルを――この町の人達を救えなくなるかもしれない」
だから、戦う。その為の槍なのだ。
たとえその戦いに自分の求めた未来がなくとも――
●歯車騎士団
ロンディアナ議会に繋がる一本道。構造上、ここを封鎖されれば大きく回り道せざるを得ない場所。マリオンを始めとした歯車騎士は、そこに陣を敷く。
「試作品のモデル『Ja』……蒸気タービンのリミッターを解除してのモードだ。負荷も大きく命中精度も下がるぞ」
「ああ、いざという時の切り札だ。そこまでしないと自由騎士達には勝てない」
マリオンは蒸気騎士の鎧を着こみ、自由騎士達が来るだろう方向を見る。亜人解放を謳い、自らの正義を貫こうとする水の国の騎士。
(ヘルメリア国の正義は折れた。彼らの正義は折れない。だけど――)
マリオンは槍を構える。ヘルメリア国はもはや形骸化した。ヘルメスの玩具となったこの『ロンディアナ』に国の誇りはない。だが――
「それでも守るべきものはある。だからこの槍は、折れない! ホワイトラビット、起動!」
●『キャロル』
「にいサマ、にいサマ!」
キャロルは駆ける。兄が戦っている戦場に。
走るたびに胸が苦しい。心臓の鼓動が体を痛めつける。それでもなお走った。ここで何もしないでいるのは、もっと苦しいから。
「ワタシ、にいサマが、どこか行くのハ、嫌……ズット、いてほしいのニ!」
だけど体は限界で。呼吸すら満足にできない身体なのに。それでも前に足搔こうと喘いで。足は止まり、手をあげる力もなく、道の真ん中でキャロルは呼吸を繰り返す。こぼれる涙は、ただ地面を濡らすだけ。
『かわいそうなキャロル。神である僕が力を貸してあげよう』
そんなキャロルの耳に、そんな声が聞こえる。
『二度目の融合になるけど、仕方ないよね。そうしないと、弱い君は自由騎士に勝てない。兄の足手まといになるだけだからね』
「……あなた、は……ヘルメス神……? いや、ああああああああああ!」
『喘息で苦しかったんだろう? 汚い空気をたっぷり吐き出して綺麗な空気を沢山吸い込むんだ。ああ、いいことをすると気持ちがいいなぁ』
嗤う神は、消える。残されたのは二重の融合にあえぐ少女のみ。
「兄さま、……兄さま、ずっとそばに……私、兄さまの隣に……!」
もう胸は苦しくない。もう体は痛くない。足りないのは、ただ一つ。それを邪魔するものがいるなら、排除するのみだ。二度目のキジン化は彼女の精神を激しく追い込むこととなった。
「にいさま、にいさま! 嗚呼、貴方だけがいれば、キャロルは幸せです!」
かくして、戦場は混迷を極める――
「いいね。確かに僕を殺せれば『人機融合装置』の効果はなくなる『かもしれない』。
だけど僕を殺せば権能は確実になくなる。そうなると、融合した彼らの命を維持できなくなるだろうね」
●ドジソン兄妹
『ロンディアナ』が変形し、そこに住む国民を『食らわれた』時、多くの歯車騎士団は混乱し、そして憤った。怒りのままに神の元に向かう騎士達にヘルメスはそう語ったのだ。
これにより騎士達は矛を下すこととなった。勝っても得られる物は何もない『かもしれない』。その虚しさに戦意が折れたのだ。騎士として守るべきものが民であるならば、その民が助からない『かもしれない』ことが出来ようか。
結果、牙を折られたかのように歯車騎士団達は『ロンディアナ』に戻る。そして無機物に融合したヒト達のメンテナンスに従事することとなった。ノウブルはまだ耐性があるが、亜人奴隷はメンテナンスなしでは半月程で命を落とす。一度キジン化手術をした者は、二度目の機械融合に精神に異常をきたすこともあるのだ。
蒸気騎士マリオン・ドジソンもその一人だ。民を守るために騎士となり、槍の技術を磨いてきた。外敵と戦い排することで、ヘルメリアに住む者を幸せにできると信じていた。
だが――それはヘルメリアの神により打ち砕かれた。今できる事はその神の権能を使って機械融合されたヒトの命を長らえさせるだけ。そしてその中には――
「にいサマ」
家に入ったマリオンに声をかけたのは、一人の少女だった。その半身は蓄音機と融合しており、肩からは蓄音機のスピーカーが生えている。先ほどの声も肉声ではなくどこか機械めいた声だ。
「キャロル、元気だったか?」
キャロル・ドジソン。マリオンの妹であり、唯一の肉親。マリオンがまだ騎士として膝を折らない最後の絆。
「ふふ、元気ヨ。煤煙が薄いみたイネ」
喘息。それは工場排煙過多のヘルメリアで生まれた人間がかなりの確率で患う病気だった。満足に呼吸が出来ず、酷い時には声を出すことも困難となる。
「にいサマ、ふふ。にいサマ」
皮肉な話だ。キャロル・ドジソンは機械融合して初めて咳をすることなく兄を呼ぶことが出来るようになった。
『キャロルのような、ヘルメリアに住む弱者を守ろう』
それがマリオンの原点。槍を振るう理由だった。
そんな折に、町に衝撃が走る。音の方を見ると、城のような何かが落下し、そこから見覚えのある者達が飛び出てきた。
「にいサマ、あれハ……?」
「――自由騎士。……そうか、彼らが来たのか」
何処か予想していたかのようにマリオンは状況を把握する。彼らはヘルメス打倒を諦めない。そんな確信めいた何かがマリオンの心の中にあった。
「行ってくる。――彼らを止める」
「……なんデ? にいサマは、ヘルメスが憎イんでしょう?」
「もしヘルメスが倒されれば、キャロルを――この町の人達を救えなくなるかもしれない」
だから、戦う。その為の槍なのだ。
たとえその戦いに自分の求めた未来がなくとも――
●歯車騎士団
ロンディアナ議会に繋がる一本道。構造上、ここを封鎖されれば大きく回り道せざるを得ない場所。マリオンを始めとした歯車騎士は、そこに陣を敷く。
「試作品のモデル『Ja』……蒸気タービンのリミッターを解除してのモードだ。負荷も大きく命中精度も下がるぞ」
「ああ、いざという時の切り札だ。そこまでしないと自由騎士達には勝てない」
マリオンは蒸気騎士の鎧を着こみ、自由騎士達が来るだろう方向を見る。亜人解放を謳い、自らの正義を貫こうとする水の国の騎士。
(ヘルメリア国の正義は折れた。彼らの正義は折れない。だけど――)
マリオンは槍を構える。ヘルメリア国はもはや形骸化した。ヘルメスの玩具となったこの『ロンディアナ』に国の誇りはない。だが――
「それでも守るべきものはある。だからこの槍は、折れない! ホワイトラビット、起動!」
●『キャロル』
「にいサマ、にいサマ!」
キャロルは駆ける。兄が戦っている戦場に。
走るたびに胸が苦しい。心臓の鼓動が体を痛めつける。それでもなお走った。ここで何もしないでいるのは、もっと苦しいから。
「ワタシ、にいサマが、どこか行くのハ、嫌……ズット、いてほしいのニ!」
だけど体は限界で。呼吸すら満足にできない身体なのに。それでも前に足搔こうと喘いで。足は止まり、手をあげる力もなく、道の真ん中でキャロルは呼吸を繰り返す。こぼれる涙は、ただ地面を濡らすだけ。
『かわいそうなキャロル。神である僕が力を貸してあげよう』
そんなキャロルの耳に、そんな声が聞こえる。
『二度目の融合になるけど、仕方ないよね。そうしないと、弱い君は自由騎士に勝てない。兄の足手まといになるだけだからね』
「……あなた、は……ヘルメス神……? いや、ああああああああああ!」
『喘息で苦しかったんだろう? 汚い空気をたっぷり吐き出して綺麗な空気を沢山吸い込むんだ。ああ、いいことをすると気持ちがいいなぁ』
嗤う神は、消える。残されたのは二重の融合にあえぐ少女のみ。
「兄さま、……兄さま、ずっとそばに……私、兄さまの隣に……!」
もう胸は苦しくない。もう体は痛くない。足りないのは、ただ一つ。それを邪魔するものがいるなら、排除するのみだ。二度目のキジン化は彼女の精神を激しく追い込むこととなった。
「にいさま、にいさま! 嗚呼、貴方だけがいれば、キャロルは幸せです!」
かくして、戦場は混迷を極める――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.『歯車騎士団』『キャロル』の打破(生死問わず)
どくどくです。
滅びゆく国の騎士達。彼らの無駄な抵抗です。それでも彼らは――
●敵情報
★歯車騎士団
ヘルメリアのオラクル騎士団です。ヘルメスの権能は『最初のターンに一度だけ自分専用の付与が先んじて出来る』『短命化したノウブル以外のキジンの寿命を長引かせることが出来る』です。
戦う理由は『機械融合された民を守る』ことで結果として(いろいろ不本意ではありますが)ヘルメスを守ることになります。言葉は通じますが、説得は無意味です。希望や可能性、根拠のないかもしかではゆらぎもしないでしょう。
・『熱血槍』マリオン・ドジソン
歯車騎士団『蒸気騎士』。階級は四等。無駄に熱い騎士です。全身を蒸気鎧で覆っています。自由騎士の言い分は理解していますが、それを踏まえたうえで最後までヘルメリアの騎士であろうとします。
拙作『【機国開戦】Jesus! 自由騎士、全滅!?』を始めとして、どくどくのヘルメリアシナリオに出ていますが、未読でも問題ありません。倒すべき敵には変わりはありません。
『キャロル』参入後は、『キャロル』を守るように行動します。
ホワイトラビット 攻遠単 型式R767-W・飛翔式突撃機構。特殊配合された水を瞬間気化し、蒸気圧によって突撃槍を射出します。【ノックB】
クイーンオブハート 自付 型式Sys-QoH・塗布式対魔装甲。対魔エーテル塗料を装甲表面に展開し魔導への抵抗力を劇的に高めます。【魔導耐性】【浮遊】自分に【グラビティ1】
ジャヴァウォック 攻近単 型式Model-“Ja”・超極式粉砕機構。蒸気タービンの制御を解除して、限界を超えた出力を実現します。【防御無視】【三連撃】自分の【防御-16%】【HP5%消費】
EXスキル:熱き叫び 自付 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 攻撃力とドラマ上昇。
・『ゴリラマッスル』コンラッド・ウォートン
キジン(オールモスト)男性。歯車騎士団。階級は四等。機械腕で殴ってくる格闘家です。パワーファイターらしく、力で押してきます。
拙作『【デザイア!】UndergroundBattle!』に出ています。知らずとも敵の一人の認識で問題ありません。
『キャロル』参入後は、『キャロル』も敵とみなして行動します。
『獅子吼 Lv3』『龍氣螺合 Lv4』『鉄山靠 Lv2』等を活性化しています。
・『ライトフェンサー』ライラ・ジェファーソン
ノウブル女性。歯車騎士団。階級は四等。由緒正しいヘルメリアフェンシング使い。魔すら斬り返すと言われたジェファーソン流の正統伝統者。
拙作『【デザイア!】UndergroundBattle!』に出ています。知らずとも敵の一人の認識で問題ありません。
『キャロル』参入後は、『キャロル』も敵とみなして行動します。
『ファランクス Lv2』『バーチカルブロウ Lv2』『リフレクト Lv3』『フルカウンター Lv3』等を活性化しています。
・『鉄球翁』ロベルト・バトウィン
ノウブル男性。元歯車騎士団。100歳を超えて退役してましたが、一大事と参戦しました。刺付き鉄球で戦う重戦士。
『キャロル』参入後は、『キャロル』も敵とみなして行動します。
『テンペスト Lv3』『バーサーク Lv3』『ウォーモンガー Lv4』を活性化しています。
・『我が身は神に捧げし』メリッサ・ブルース
キジン(ハーフ)女性。歯車騎士団。階級は三等。元々ヘルメスに傾倒しており、この状況も神の所業と喜んで受け入れています。改造銃で戦うガンナー。
『キャロル』参入後は、神に作られた『キャロル』を守るべく戦います。
『シルバーバレット Lv3』『サテライトエイム Lv3』『ゼロレンジバースト Lv4』
★『キャロル』
キャロル・ドジソンが二度の融合の後に暴走したものです。蓄音機と銃器が融合されており、背中の拡声器から音をだし口の銃から毒ガスを放ちます。また肉体強化されており、イブリースに匹敵するほどの体力を持っています。
戦闘開始から5ターン後に敵後衛に配置されます。
兄であるマリオン・ドジソン以外すべてを殺そうとします。
攻撃方法
音圧ブレス 魔遠範 音による振動で体力を奪います。
悲しい歌声 魔遠単 悲哀に満ちた歌声で気勢を削ぎます。【ブレイク2】
圧縮煤煙 魔遠貫2 黒く煤けた吐息を放ちます。(100%、50%)【ポイズン2】
呼吸困難 P 一定確率(初期10%)で行動不能になります。ブレイクでも解除できません。
にいさま P マリオンが戦闘不能になると魔法力が+20%され、呼吸困難の行動不能率が+20%されます。マリオンが死亡するとさらに魔法力と行動不能率+20%されます。
●支援行動
『ティダルト』から以下の支援を受けることが出来ます。
フィールド効果:守れ、フランケン!
『ティダルト』からの支援です。メアリーが作った蒸気人形が皆を守ってくれます。
この戦いの間キャラのレベル×10点の追加HPが付与されます。この追加HPは回復できません。ダメージは追加HPから減少され、0になれば破壊されます。オーバーしたダメージはキャラが受けます。
●場所情報
ヘルメリア首都ロンディアナ内。議会場に通じる道。周りに人はなく、明るさや足場広さなどは戦闘に影響しません。
戦闘開始時、敵前衛に『マリオン』『コンラッド』『ライラ』『ロベルト』が、敵後衛に『メリッサ』がいます。5ターン経過すると、敵後衛に『キャロル』が追加されます。
急いでいるため事前付与は不可とします。
----------------------------------------------------------------------
「この共通タグ【機神抹殺】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【機神抹殺】Dawn! 時代の夜明けの鐘が鳴る!』に軍勢が雪崩れ込みます」
----------------------------------------------------------------------
皆様のプレイングをお待ちしています。
滅びゆく国の騎士達。彼らの無駄な抵抗です。それでも彼らは――
●敵情報
★歯車騎士団
ヘルメリアのオラクル騎士団です。ヘルメスの権能は『最初のターンに一度だけ自分専用の付与が先んじて出来る』『短命化したノウブル以外のキジンの寿命を長引かせることが出来る』です。
戦う理由は『機械融合された民を守る』ことで結果として(いろいろ不本意ではありますが)ヘルメスを守ることになります。言葉は通じますが、説得は無意味です。希望や可能性、根拠のないかもしかではゆらぎもしないでしょう。
・『熱血槍』マリオン・ドジソン
歯車騎士団『蒸気騎士』。階級は四等。無駄に熱い騎士です。全身を蒸気鎧で覆っています。自由騎士の言い分は理解していますが、それを踏まえたうえで最後までヘルメリアの騎士であろうとします。
拙作『【機国開戦】Jesus! 自由騎士、全滅!?』を始めとして、どくどくのヘルメリアシナリオに出ていますが、未読でも問題ありません。倒すべき敵には変わりはありません。
『キャロル』参入後は、『キャロル』を守るように行動します。
ホワイトラビット 攻遠単 型式R767-W・飛翔式突撃機構。特殊配合された水を瞬間気化し、蒸気圧によって突撃槍を射出します。【ノックB】
クイーンオブハート 自付 型式Sys-QoH・塗布式対魔装甲。対魔エーテル塗料を装甲表面に展開し魔導への抵抗力を劇的に高めます。【魔導耐性】【浮遊】自分に【グラビティ1】
ジャヴァウォック 攻近単 型式Model-“Ja”・超極式粉砕機構。蒸気タービンの制御を解除して、限界を超えた出力を実現します。【防御無視】【三連撃】自分の【防御-16%】【HP5%消費】
EXスキル:熱き叫び 自付 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 攻撃力とドラマ上昇。
・『ゴリラマッスル』コンラッド・ウォートン
キジン(オールモスト)男性。歯車騎士団。階級は四等。機械腕で殴ってくる格闘家です。パワーファイターらしく、力で押してきます。
拙作『【デザイア!】UndergroundBattle!』に出ています。知らずとも敵の一人の認識で問題ありません。
『キャロル』参入後は、『キャロル』も敵とみなして行動します。
『獅子吼 Lv3』『龍氣螺合 Lv4』『鉄山靠 Lv2』等を活性化しています。
・『ライトフェンサー』ライラ・ジェファーソン
ノウブル女性。歯車騎士団。階級は四等。由緒正しいヘルメリアフェンシング使い。魔すら斬り返すと言われたジェファーソン流の正統伝統者。
拙作『【デザイア!】UndergroundBattle!』に出ています。知らずとも敵の一人の認識で問題ありません。
『キャロル』参入後は、『キャロル』も敵とみなして行動します。
『ファランクス Lv2』『バーチカルブロウ Lv2』『リフレクト Lv3』『フルカウンター Lv3』等を活性化しています。
・『鉄球翁』ロベルト・バトウィン
ノウブル男性。元歯車騎士団。100歳を超えて退役してましたが、一大事と参戦しました。刺付き鉄球で戦う重戦士。
『キャロル』参入後は、『キャロル』も敵とみなして行動します。
『テンペスト Lv3』『バーサーク Lv3』『ウォーモンガー Lv4』を活性化しています。
・『我が身は神に捧げし』メリッサ・ブルース
キジン(ハーフ)女性。歯車騎士団。階級は三等。元々ヘルメスに傾倒しており、この状況も神の所業と喜んで受け入れています。改造銃で戦うガンナー。
『キャロル』参入後は、神に作られた『キャロル』を守るべく戦います。
『シルバーバレット Lv3』『サテライトエイム Lv3』『ゼロレンジバースト Lv4』
★『キャロル』
キャロル・ドジソンが二度の融合の後に暴走したものです。蓄音機と銃器が融合されており、背中の拡声器から音をだし口の銃から毒ガスを放ちます。また肉体強化されており、イブリースに匹敵するほどの体力を持っています。
戦闘開始から5ターン後に敵後衛に配置されます。
兄であるマリオン・ドジソン以外すべてを殺そうとします。
攻撃方法
音圧ブレス 魔遠範 音による振動で体力を奪います。
悲しい歌声 魔遠単 悲哀に満ちた歌声で気勢を削ぎます。【ブレイク2】
圧縮煤煙 魔遠貫2 黒く煤けた吐息を放ちます。(100%、50%)【ポイズン2】
呼吸困難 P 一定確率(初期10%)で行動不能になります。ブレイクでも解除できません。
にいさま P マリオンが戦闘不能になると魔法力が+20%され、呼吸困難の行動不能率が+20%されます。マリオンが死亡するとさらに魔法力と行動不能率+20%されます。
●支援行動
『ティダルト』から以下の支援を受けることが出来ます。
フィールド効果:守れ、フランケン!
『ティダルト』からの支援です。メアリーが作った蒸気人形が皆を守ってくれます。
この戦いの間キャラのレベル×10点の追加HPが付与されます。この追加HPは回復できません。ダメージは追加HPから減少され、0になれば破壊されます。オーバーしたダメージはキャラが受けます。
●場所情報
ヘルメリア首都ロンディアナ内。議会場に通じる道。周りに人はなく、明るさや足場広さなどは戦闘に影響しません。
戦闘開始時、敵前衛に『マリオン』『コンラッド』『ライラ』『ロベルト』が、敵後衛に『メリッサ』がいます。5ターン経過すると、敵後衛に『キャロル』が追加されます。
急いでいるため事前付与は不可とします。
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「この共通タグ【機神抹殺】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【機神抹殺】Dawn! 時代の夜明けの鐘が鳴る!』に軍勢が雪崩れ込みます」
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皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
4個
8個
4個
4個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年03月26日
2020年03月26日
†メイン参加者 10人†
●
「混沌とした戦場に颯爽現れし真紅の稲妻! スピンキー・フリスキー!」
拳を振り上げ、『にゃんにゃんにゃん↑↑』スピンキー・フリスキー(CL3000555)は戦場に躍り出る。戦争や神などに興味はないが、そこに戦わなくてはいけない相手がいるのなら、戦いに挑む。それがスピンキー・フリスキーだ。
「そう……ここで、立ち塞がるんだね」
待ち構える歯車騎士団を前に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は静かに呟く。彼らが戦う理由は理解できる。たとえ国という体制が崩壊した要るとはいえ、彼らは騎士として『ヒト』を守ろうとしているのだ。
「ガチガチの石頭だな。まあ、予想通りともいえるか」
肩をすくめる『罰はその命を以って』ニコラス・モラル(CL3000453)。ヘルメスの言葉を信用するつもりはない。だが歯車騎士団がそれに従ってしまうのは納得がいった。そして目の前の騎士もそうするだろうという事を。
「貴方達も私達と同じ。大事な人のために戦うのね」
言いながら銃を構える『弾丸に願いを宿す』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)。戦争自体は国と国の戦いだが、そこにいるのは人同士。ならば同じ理由で戦う人間がいてもおかしくはない。それでも、銃を構える。
「誰だって譲れないものがあって、だからこそ争いは起こるのでしょう」
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は前を見る。目の前には譲れないもののために戦う騎士。相手が戦う意思を持つのなら、同じく戦う意志をもって挑むのみ。それを示すように拳を握る。
「……はい。今は歩みを止めずに進みましょう」
ミルトスの言葉に頷く『祈りは強く』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。迷いはない。そんな感情は戦うことを決めた時に捨ててきた。たとえ彼らの気持ちを摘むことになろうとも、この歩みを止めるわけにはいかないのだ。
「民を思う気持ちは理解できるけど、それは袋小路よ。事態は好転しないわ」
歯車騎士団の現状を理解しながら、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はぴしゃりと言い放つ。ヘルメスに付き従う限り、彼らと『ロンディアナ』に住む民に未来はない。そんな事は彼らだってわかっているのに。
「ヘルメス……イカレてるわね」
短く言い放ち、武器を構える『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)。傍若無人な神。その行為は常に自分中心で、他の『ヒト』がどれだけ苦しもうが気に留めない。こうして歯車騎士団達が苦しみながら戦う様さえも、彼の娯楽なのだ。
「ヘルメリア崩し、最終局面……か」
口にした後で苦い顔をする『二人の誓い』ザルク・ミステル(CL3000067)。自ら望んだ大戦だが、国を守ろうとする騎士を見て複雑な気分になる。ヘルメリア憎しで生きてきたとは言え、立場が『違わなければ』歯車側に立っていたのは自分なのかもしれない。
「これで最後の戦いになるといいのだけどね、ドジソン君」
大振りの青い指揮杖を手に『パツィフィスト・ゲベート』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は頷く。マリオン・ドジソンと相対するのもこれで何度めか。長く続いた因縁もこれで終わりにしたいものである。
「多くは語らない。歯車騎士団の名にかけて、ここで自由騎士達を足止めする!」
宣誓と共にそれぞれの武器を構える歯車騎士団。もはや国などなく、勝利のヴィジョンもない。それでも彼らは守るべきものの為に立ち上がる。
遠くで爆音が響く。その合図を皮切りに二国の騎士はぶつかり合った。
●
「参ります」
言いながら戦場を走るアンジェリカ。手にした武器を握りしめ、真っ直ぐにロベルトの方に向かう。鉄球を持つ老人の間合いを測るように数度武器でけん制し、そして一気に間合いに入りこむ。
自由騎士より一手先に付与できる歯車騎士の権能。ロベルトにかけられた付与を外した後に、アンジェリカは武器を振りかぶった。踏み込み、腰の回転、そして腕に力を込める。流れる様な力の流動。それが生み出すパワーが老騎士を穿つ。
「迷いない一撃。さすがここまで攻め入るだけのことはある」
「そちらも引くつもりはないようですわね。ならば!」
「ああ、今日ここで因縁に決着をつけてやる!」
言って銃を構えるザルク。歯車騎士団。それは彼の村を滅ぼしたプロメテウスを保持する者。ザルクはその復讐のために自由騎士になったといっても過言ではないのだ。怒りは強く、しかし動作は冷静に。込める弾丸に復讐の炎を乗せて。
『CWTスペシャル』『カスタムリボルバー』……構えた二挺拳銃はもはやザルクの手足同然。敵と味方の位置を把握し、次にどう動くかを予測する。相手が動くその先に向けて銃口を構え、迷うことなく引き金を引いた。
「お前達もヘルメスみたいな悪党だったらもっと気楽だったんだけどな!」
「不敬な! ヘルメス様の御心を理解できぬ愚か者は脳漿ぶちまけて死ね!」
「神が子供なら、それを信じる者も子供ね」
ヘルメス信望者メリッサの言葉に冷たく言葉を返すライカ。思考の方向が神に従う事であり、物事を多角面から見る事を放棄している。シャンバラの時はミトラースの力が在ったから仕方ないが、自主的にヘルメスに傾倒されるともはや言葉もない。
どうせもいい、とメリッサから目を逸らしてライカはレイピアを持つ歯車騎士に向かう。細く柔らかい剣。だがそれは柔軟に攻撃を受け流す刃でもある。ライカはその防御に速度をもって挑む。受け流しきれないほどの手数。何度も、何度も漆黒の籠手を振るう。
「早く倒れてくれないかしら」
「まだまだ倒れるわけにはいかぬよ。敵国の勇士」
「騎士マリオン・ドジソン、お相手させてもらいます」
蒸気鎧の前に立つミルトス。今更投降を促すつもりはない。今更覚悟を問う必要はない。互いに譲れない道があるのだから。互いに認められない道があるのだから。善悪ではない。正邪でもない。ただそれだけのことなのだ。
重装甲のマリオンを前にミルトスは躊躇なく近づく。一閃するマリオンの槍を身をかがめて回し、そこから跳ね上がるようにマリオンに拳を叩きつける。硬い鎧の感覚を感じながら、ミルトスは何度も攻撃を繰り返す。
「ヘルメスを放置はできません。この惨状を見て、あなたも同じ想いを抱いたはず」
「否定はしない! だがそれでも――!」
「うっせぇぇぇぇ! 神とか戦争とかどうでもいいんじゃああああ!」
身も蓋もなく叫ぶスピンキー。実際、世情などどこ吹く風のスピンキーがここに来た理由はただ一つ。目の前の男と再戦しに来ただけだ。熱い魂と熱い叫びを持つ騎士。それと戦うためだけに。
叫ぶと同時に真っ直ぐに敵陣に走るスピンキー。ネコの腕を振りかぶり、力の限りに叩き込んだ。単純にして明解。それゆえに力強い一撃。そこには確かに迷いない一つの信念があった。熱い信念を叩きつける為に、スピンキーはここに立つ。
「俺は負けない! 拳でも! クソデカボイスでも!」
「ならばこれはこの槍をもってそれに応えよう! ホワイトラビット!」
「なんというか、この状況でも絶好調だネ、彼」
叫ぶマリオンを見ながらアクアリスは頷いた。ヘルメリアを守る騎士。だが今のヘルメリアはもはや国としての形を成していない。それでもなおその熱気は失われていない事に思わず感心していた。敵としては面倒な相手ではあるが。
激しく攻防を繰り返す味方を見ながらアクアリスは周囲のマナを取り入れる術式を展開する。マナの切れ目が回復の切れ目。潤沢に取り入れたマナを治癒の力に変え、呪文と共に放出する。淡い光が仲間達を包み込み、傷を癒していく。
(とはいえ、流石に妹の惨状を知れば……)
「そいつは口にするなよ。言ってもアイツは信じちゃくれないし、もう未来も変わらない」
アクアリスが喉元まで出かかった言葉を察し、ニコラスが声をかける。水鏡の予知は正確だ。そしてもうそれは手遅れとなった事だ。そこに手を伸ばす時間も余裕もなかった。もう、救えない事なのだ。――それを告げるのも、年長の務め。
胸の痛みを吐き出すようにため息をつき、ニコラスは軽く手を叩く。意味はない。気持ちを切り替える程度の小さな儀式だ。その後に魔力を展開し、癒しの術式を展開する。出し惜しみをする余裕などない。彼らの覚悟はそれだけ高いのだから。
「どうあれ負けるわけにはいかないってね」
「そうね。ここで歯車騎士団の動きを止めないと、ヘルメスを倒せないわ!」
ニコラスの言葉に頷くエルシー。ヘルメリアという国を玩具のように扱い、そこに住む国民を弄ぶヘルメス。彼をこのまま放置できない。彼らは間違いなくヘルメス討伐の邪魔をしてくるだろう。その刃を、ここで止めなくてはいけない。
機械の腕を持つコンラッドの攻撃を受け流すエルシー。コンラッドの一撃の重みに迷いはなく、その技巧に奢りはない。だがそれはエルシーも同じだ。一打毎に呼気を整え、隙を逃さず足を動かす。もっと速く、もっと強く。思考よりも早く、体は動く。
「最後までヘルメスの駒として踊り続ける。それが誇りある歯車騎士団の選択ってわけね」
「どう受け取ろうが構わん。それが我々の選択だ」
「そうね。貴方達は家族や民のために戦う。……私達と同じように」
コンラッドの言葉に胸が締め付けられる思いを感じるアンネリーザ。亜人に対する態度こそ違えど、彼らは自分達と同じ『ヒト』で同じように大事な誰かを守るために武器を持っているのだ。だからこそ諦めず、だからこそ胸が痛い。
それでも。胸の痛みを無視することなく、アンネリーザは銃を構える。この痛みに慣れる事はない。慣れたくなんてない。それでも銃口は乱れないのは、アンネリーザにも大事な誰かがいるから。引き金を引くのは、その為に。
「分かっている、分かっているわ。それでも皆が幸せになることを望むのは、間違っているの……?」
「まだ、終わってないよ。皆が幸せになれる可能性は、あるかもしれない」
救えない命がある。手が届かない人がいる。そうと分かっていてもマグノリアはそう言い放つ。錬金術は可能性を追い求める学問だ。その学徒が簡単に可能性を決めつけるつもりはない。僅かでも可能性があるなら、それを追求するのみ。
その為にも今は此処を征しなければならない。複数の薬品を試験管の中で混ぜて、魔力を込めると同時にふたを開けて薬品を展開するマグノリア。鋼より伝わる音。そう意味づけられた錬金術の力が解放され、歯車騎士団の守りを削いでいく。
「『ロンディアナ』に巻き込まれ、強制的に融合させれられた人達を救う為には、彼等の力が必要だ。ヘルメスを倒し、権能を奪えればそれも可能だ」
「権能を奪う?」
「君達がヘルメスを殺せば権能は消えるだろうけど、他の神のオラクルが倒せばその権能は消えずにそのオラクルが使えるようになるんだ」
マグノリアの言葉を聞き、しかしそれでも歯車騎士団の動きは止まらない。戦いの熱もあるが、真偽が分からない事が大きかった。
「それがすべて真実だとしても、今まで敵国だったものを信じれるはずがない! 事実、お前達は反奴隷組織と通じてでヘルメリア国民を攻撃してき――」
「にいさま」
それは、破壊と共に現れた。
音による衝撃波。煤煙を濃縮した毒素を吐く存在。奇妙に歪に曲がった体躯。それでもそこから発する力は強く、狂暴的だった。
「キャロ、ル……!」
歯車騎士団でその姿に反応したのは、ただ一人。長く付き添った兄、マリオン・ドジソン。
「ああなってしまっては、もう元に戻る事なんてできない……」
自由騎士達もマキナ=ギアによる通信である程度は聞かされていたが、それでも目の前の少女――だった何かは異常だった。二度目の人機融合。歪んだ肉体と精神。それでも家族を求める純粋な心。ヘルメスの性格を顕したかのような、何か。
「……ヘルメスぅ! 貴方という人は、どこまで腐っているのっ!」
きっとこの状況を玉座で見て嗤っているのだろう。それを思い、自由騎士の怒りは爆発する。だが今は――
「くっ! 双方を撃破する体制を取れ!」
「これも已む無しか。さすがに敵国と手を結ぶ余裕はないしな」
「やれやれ。老骨をこき使うとはな」
『キャロル』と自由騎士の双方を責めるコンラッドとライラとロベルト。
「く、おおおおおおおお!」
「おお、素晴らしきかなヘルメス神! これこそが人が次の世界に至るための姿という事なのですね!」
『キャロル』を守るために動くマリオンとメリッサ。
「にいさまの、てき。ぜんぶこわせば、またわたしといっしょにすごせますね」
『キャロル』はマリオン以外の全てを破壊すべく、その力を振るう。
「……わかっちゃいたけど、ここで踏ん張るしかないね」
その中でニコラスは静かにため息をつく。自由騎士にも、ここで退く選択肢はない。
それぞれの想いを乗せ、戦場は混迷していく。
●
『キャロル』参戦後、陣営は大きく三つに分かれる。
『キャロル』を守る方向で動くものと、『キャロル』と自由騎士を倒そうとする歯車騎士。そして自由騎士。
「流石は歯車騎士。だがこちらも負けてはいられないのでな」
緑の服を着た貴族が呪術を解き放つ。相手の強さを認め、しかし臆さず視線を向ける。ここで終わらせなければならない。その意思を込めて。
「イ・ラプセルの権能を用いれば、確実に彼女を生きたまま無力化できますよ」
「断わる。『生きたまま無力化』がその後のキャロルの安全とイコールにはならない!」
アンジェリカの言葉に首を横に振るマリオン。今ここで生きて無力化できることと、その後の生命や身柄の保証とは一致しない。それは他の自由騎士の動きを見ても分かる。
「そうね。殺すわ」
そこは譲らないとライカは『キャロル』に向かって走る。歯車騎士団は『キャロル』に向かうライカを止めようとせず、そのままライカは『キャロル』の前にたどり着く。両手の甲剣を振るい、速度で相手を攻撃していく。
「ヒトを馬鹿にしてるような作りね。まるでキメラ。これで生きてるって言うの?」
「いきてます。きゃろるはいきてますよ。ほら、せきもあまりしてないし、こんなにからだがかるい」
「イカれてるわね。こんなのを作るイカレた神が造世界なんて、地獄でしょうね」
二重の融合で歪んだ『キャロル』に唾棄するライカ。そのまま斬撃を叩き込んでいく。
「そうだな。こいつはあんまりだ。救えないにもほどがある」
舌打ちし、『キャロル』に銃口を向けるザルク。ヘルメリアの喘息の辛さは知っている。碌に外に出る事もできず、衰弱死することだって珍しくない。それから解放されたキャロルのセリフは、痛ましい。……だが、素人目に見てももう彼女は『ヒト』じゃない。
(二度目の融合か。精神の壊れっぷりはヤツ以上だ。いや、これが普通なのか)
ザルクはかつてプロメテウスと融合した歯車騎士の事を思い出す。まだ自我を保っていた彼と異なり、『キャロル』は完全に元の自我があるように見えない。ただ一つの望みの為だけに彼女は動いている。
「くそ、こいつらみたいなやつは嫌いじゃないんだがな!」
「ですが迷っている余裕はありません。正直、手は足りてません」
ロベルトと相対しながらザルクに応えるアンジェリカ。勿論、ザルクがこの場で迷うはずなどないと分かっている。嵐のように攻め立てるロベルトを前に攻めが満足に進まないアンジェリカは少しずつ焦りを感じていた。
とはいえそれはロベルトも同じだった。アンジェリカの武器の動きに誘導され、精神が乱されることも度々だ。互いが互いの妨害工作で十全に攻めきれずにいる。そして硬直状態は互いに臨むような状況ではないのだが――
「『キャロル』を倒すまで共闘しましょう、と言っても聞いてはくれないのでしょうね」
「うむ。背を預けるに値する人徳なのは理解できるが、それが出来るような割り切りはできん」
残念、とアンジェリカは諦める。どうあれ倒さねばならない相手だ。そう割り切ってそのまま攻め立てる。
「アレがヘルメスのやり口よ! こんな事を続けていて本当にいいの!?」
『キャロル』の方を指差し、エルシーは叫ぶ。人を人と思わない所業。ああなることを分かったうえで力を与えたヘルメス。その叫びに歯車騎士団の誰もが口を噤んだ。あれが正しい事なんて誰も思わない。だが、それでも。
「まだ、キャロルは生きている! 生きている!」
その空気を吹き飛ばしたのは、マリオンだった。最も絶望しているマリオンはだからこそ希望の糸にすがるようにその事実を口にする。
「それでいいの! 妹をいいように弄られ、愉悦に浸ってるヘルメスを許せるの!?」
「それでも! ……それでも、守るべきモノがある!」
その『守るべきモノ』を汚されてもなお、マリオン・ドジソンは槍を折らない。可能性などなくても、未来が絶望だとしても、それでも。
「生憎と俺には家族なんていないから、その悲しみは解らん!」
叫ぶマリオンを前に、はっきり言い放つスピンキー。
「五体満足でキジンじゃないから、病気の苦しみも分からん! だからおっちゃんの気持ちも妹の気持ちも分からん!」
当然だ。痛みはその本人のもの。傷はその本人のもの。それを浅慮に理解できると言うのは、その人の人生を見下すのに等しい。理解できなくて当然で、理解しようと話し合うしかない。痛みを知ったふりをして、傷を深めてしまうこともあるのだ。
「だがそれでもおっちゃんが戦うと言うのなら、俺も戦う! この熱い魂で! このくそデカボイスで! こいやおっちゃん! うなあああああああああ!」
「お前達が引かぬ限り、俺の槍も止まらん! おおおおおおおお!」
「カラ元気かね、ありゃ。しかしまあ、カラでも元気が出るんだから若いって恐ろしいわ」
マリオンの様子を見てニコラスが苦笑する。実際の所、『キャロル』を罵倒して罷免することで、マリオンの怒りの矛先を向けることはできたのだろう。だがそれは誰もしなかったし、できなかった。
(まあ確かにステラを罵倒されちゃ、俺だって怒り狂うわな)
いまだ意識を取り戻さない娘のことを思い、ニコラスは頭を掻く。まだ生きている。その希望にすがるマリオンを愚かだと言う事はできない。それが家族と言うものなのだ。逆の立場なら、自分も命を投げ出していただろう。
「……ま、それでもやんなきゃいけないのがつらい立場か。おじざん、楽していきたいんだけどねぇ」
「彼女の精神と肉体を元に戻す方法は無い。苦しませずに殺すべきです」
はっきりと事実を口にするミルトス。狂暴化して暴れまわる『キャロル』。それを放置すれば多くの命が失われる。あんなものがヘルメスとの戦いに乱入されれば、それだけで大惨事だ。
(……それでも彼女に『救い』がないかを求めるのは、弱さなのでしょうか)
『キャロル』は戦う事を知らない子供だ。戦う術を持つ騎士が己の意志で戦い、散ることは構わない。だけど戦う術だけを与えられた子供が戦いの中で散ることは――それでも、それでも。
「現状は理解していますね、騎士マリオン・ドジソン。貴方の妹を殺します。貴方の願いを、未来を砕きます」
それでも。ミルトスは口にした。口にして、覚悟する。私は兄を慕うだけの力在る子供を殺す。その意味を強く心に刻んで。
「私達がヘルメリアを攻めたから、彼らはこうなったの……? ヘルメスを刺激しなければ……二人は幸せに過ごせてたの……?」
二重の融合で歪んが『キャロル』とそれに寄り添うマリオンを見ながらアンネリーザは呟く。兄を慕い名を呼ぶ『キャロル』と妹を守ろうとする兄。ヘルメスが動いても二人の関係は変わらない。ならばこの惨状は。そこまで思い、首を振る。
(違う。ただ先延ばしになっただけ。ヘルメスがいる限り、この結果はいずれ起きる事……!)
飽きた。そんな理由で『ロンディアナ』を動かしてヘルメリアの民達を巻き込むヘルメス。この結果は必定だったのだろう。誰もが幸せになってほしいと願っても、その願いはかなわない。皮肉にも、それが神の意志なのだ。
「ヘルメス……あんまりよ! あまりにも救われない!」
「元に戻る可能性はゼロではない、と思いたいけどね……」
必死に思考を繰り返すマグノリア。キジンから人に戻った例などない。故に人機融合装置から融合された機械を取り除くすべもない。それは何度も繰り返された結論だ。混合ワインを元の二つに分けるような。無茶な話だ。
「精神に関しては、まだマリオンを慕っていることもあるから修復はできるかもしれない。医療の範疇に含まれるけど……」
時間をかければ何かしらの希望が見つかるのだろう。だがその時間が圧倒的に足りなかった。だからこそ、人は研究を続けるのだ。今救えなかった後悔を繰り返さないように、未来の希望につなげる為に。
「技術はある。上手く無力化できれば、あるいは」
「それを為すにしても、肝心のドジソンくんががんじがらめだからネ」
ため息をつくようにアクアリスが呟く。ヘルメリアという国の為に戦う騎士。敵国としては邪魔なばかりだ。
「ジャスティン・ライルズに対する見解の相違を見た時、キミは何を思った? ライルズを殺したのは自由騎士だったのか、キミには真実を確認できるだけの能力もあったハズだ」
「……何をいきなり」
「妹の病を重んじて工業排気の少ない国に移り住むこともできた。それをしなかったのはこの国を守るという気概があったからだろうネ。
だけど民を守る為、騎士道を貫く為、正しくあろうとする為、そう自分を押し込めて何もしなかった結果がこれだよ」
アクアリスの言葉に、マリオンは何も言葉を帰さない。それを悔いるつもりもなければ、そういう未来があったのも確かだ。全てを投げ捨て、妹の為だけに生きる生き方。だけどそれは――
「まあボクが自分勝手で他人をあまり想えない性格だから言えるんだけどね、この意見は。
でもこのままだと妹くん以外にももっと大事なモノを失ってしまう。キミに今必要なのは、区切りをつけるコトじゃないカナ」
アクアリスの言葉にマリオンは瞑目するように刹那足を止め――槍を改めて構えなおす。そう言われて止まるような性格なら、ずっと前に止まっている。
「残念。やはり決着はつけないといけないか」
言葉では止まらない。そんな事は解っている。
互いの大事な物の為に、騎士達は戦い続ける。
●
『キャロル』参戦後、自由騎士達の火力は『キャロル』とマリオンに向かう。それは『キャロル』を脅威と定め、最優先排除目的に設定したからだ。元々マリオンを狙っていたミルトスとエルシーとスピンキーに加え、ライカとザルクとマグノリアの計六名が『キャロル』打倒に向かう。
その動きに対し、『キャロル』を守ろうとするマリオンは――
「リミッター解除! 唸れジャヴァウォック!」
攻撃を仕掛ける為に近づいた自由騎士に向かい、蒸気鎧を暴走させながらの一撃を叩き込む。魔獣の牙を思わせる猛攻が自由騎士達を襲う。そしてメリッサの銃弾と『キャロル』の音波が『キャロル』を狙う六人に襲い掛かった。
「ガードしない……?」
自由騎士達は『キャロル』を狙えばマリオンが庇うと思った。妹を守るために。
むしろ逆だ。兄は妹を守るために、妹を傷つける相手を排除に向かった。彼は盾の騎士ではなく、槍の騎士なのだ。
「ええ、ええ! ヘルメス様の御業を破壊などさせません!」
狂信的に銃を撃つメリッサ。彼女も自由騎士に肉薄し、至近距離で銃を撃つ。そのメリッサ自身も『キャロル』の音波に巻き込まれて傷だらけなのだが、むしろそれをヘルメスの技のすばらしさと受け止めている。
そして六名が『キャロル』に矛先を向けたこともあり、歯車騎士団への攻撃手が激減する。アンジェリカとアンネリーザの二人では、ライラの防御陣形の元で戦う歯車騎士団を完全に打ち崩すには手数不足だ。しかし歯車騎士団もニコラスとアクアリスの回復を受ける自由騎士を完全に削り切れない。
戦場は激しく攻め合いながら、互いの体力と魔力が奪われていく。
「おっちゃん! これで決着だ!」
徹頭徹尾マリオンに挑んでいたスピンキーが叫ぶ。既にフラグメンツは削られ、満身創痍だ。腕を振り上げる事も難しいほどの疲労の中で、己の中の何かを燃やしながら拳を握る。
「俺はわからん! 神とか、戦争とか、そんなもんは一切わからん!
だけど熱い魂は解る! おっちゃんが持っている魂は知っている! そいつは俺も持っている! それだけあれば戦える!」
叫ぶ。声を出すだけでも体力が奪われ、倒れそうになるけど叫ぶ。それはスピンキーの魂の叫び。身体が、心が、スピンキーと言う存在を決定づける何かが持っている存在と言う熱量。それを拳に収縮させていく。
「みゃおおおおおおおおん!」
「……くっ。なんて熱い一撃……許してくれ、キャロル」
スピンキーの拳を受けて、マリオンは倒れ伏す。
「にい、さま? あああああああああ!」
動かなくなった兄を見て、気が触れたように叫ぶ『キャロル』。激しく呼吸を繰り返し、攻撃もより激しくなった。戦場全ての者達がその脅威の前に体力を奪われていく。
「流石は歯車騎士の精鋭ですわ」
「ええ。彼らも人を守る騎士だったわ」
肩で息をしながらアンジェリカとアンネリーザが呟く。ようやく歯車騎士達を伏し、『キャロル』の方に武器を向ける。だが、
「ぐっ……すまん。先に倒れるわ」
『キャロル』の音波を受けたニコラスが倒れたことで自由騎士側の継戦能力が崩れる。回復の柱が消えたことで『キャロル』に押され始めた。
(思ったよりも疲弊が激しい。『キャロル』を倒すのは難しいかも……。三すくみのバランスを取り損ねた? マリオンが庇うと勘違いしてその攻撃を度外視していた? いや、それは些事だ。最大の原因は――)
倒れ伏すマリオン・ドジソン。そして動かない兄を前に暴れる『キャロル』。
自由騎士達は『キャロル』の行動を縛るためにマリオンを先に倒し、精神的揺さぶりをかけた。そうすることで彼女の呼吸困難を増加させるために。
だがそれが目的なら、マリオンは完全に殺して呼吸困難を最大限に起こさせるべきだったのだ。中途半端に刺激したことにより、威力が増した攻撃に晒されることになる。
一人、また一人と倒れていく自由騎士達。『キャロル』の疲弊も激しいが、力で押し切るのは無理だという事は明白だった。
「それが最大効率と分かっていても、だれもドジソンくんを殺そうとしなかった。その辺りは自由騎士の甘さだよネ。――僕も含めてなんだけど」
押されつつある中、アクアリスは静かにため息をついた。誰もが『キャロル』を脅威に思いながら、しかし最後にすがった肉親への愛を壊そうとしなかった。
「キャロル・ドジソン。キミを助けることはできない」
それは事実だ。二重の機械融合、喘息、壊れた精神。零れ落ちたモノを拾う事はできない。
「だからボクに出来る事はこれぐらいだ。兄と話をしてきてくれ」
アクアリスは『キャロル』とマリオンに『糸』を繋げる。それは彼女が活性化しているテレパスの繫がり。それをドジソン兄妹に繋げたのだ。一時的かつ短時間だが、他人に技術を付与して使用させる。アクアリスが起こした奇跡は、それだけ。
『にいさま』『キャロル』
今二人は、精神的に会話をしている。すれ違い、狂い、神に運命を惑わされ、それでも途切れなかった思い。もはやそれが元に戻らなくとも、二人の絆は確かにそこにあるのだ。
「これでキミが前を見てくれるのなら、ボクの命なんか安いもんさ」
こぼ、と血を吐きそうになるアクアリス。魔法技能の供与。常識外の行使はそれなりに負担がある。それを悟られないように血を飲み込んだ。
「……誰もが皆、幸せになれればいいのに」
悲しげにつぶやくアンネリーザ。そのままゆっくりとライフルを構え、動かない『キャロル』に銃口を向ける。夢見る様に精神で会話をする『キャロル』。……苦しまずに殺せるのなら、今しかないだろう。せめてもの、救い。
乾いた銃声が響き、無防備に立つ『キャロル』は倒れる。
その顔は、愛する家族に看取られたかのように穏やかなものだった。
●
アクアディーネの権能もあり、歯車騎士団は皆生存していた。
「私達はヘルメスを必ず倒す! 貴方達はどうするつもり!? 一緒に来る? それとも戦後復興の為に尽力する?」
傷を回復した自由騎士達はヘルメスを倒すために動き出す。誘うようなエルシーの言葉に、首を振って武器を収める。今は答えが出せない。その表情がそう語っていた。
「…………」
マリオンはキャロルの遺骸を抱え、一礼して背中を向ける。その動作が彼の気持ちすべてを語っていた。
(ボクはキミが好きだよ、ドジソンくん。嫌なヤツだと思ってたケド、それは羨望の裏返しだったのかも)
その背中を見ながら、アクアリスは静かに思う。心臓が少し跳ね上がり、鼓動を大事にするように胸に手を当てた。
「ヘルメス。決着をつけてやるぜ」
誰かが言った言葉に頷く自由騎士達。異論などあろうものか。その為にここまでやってきたのだから。
ヘルメリアの夜明けは、近い――
「混沌とした戦場に颯爽現れし真紅の稲妻! スピンキー・フリスキー!」
拳を振り上げ、『にゃんにゃんにゃん↑↑』スピンキー・フリスキー(CL3000555)は戦場に躍り出る。戦争や神などに興味はないが、そこに戦わなくてはいけない相手がいるのなら、戦いに挑む。それがスピンキー・フリスキーだ。
「そう……ここで、立ち塞がるんだね」
待ち構える歯車騎士団を前に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は静かに呟く。彼らが戦う理由は理解できる。たとえ国という体制が崩壊した要るとはいえ、彼らは騎士として『ヒト』を守ろうとしているのだ。
「ガチガチの石頭だな。まあ、予想通りともいえるか」
肩をすくめる『罰はその命を以って』ニコラス・モラル(CL3000453)。ヘルメスの言葉を信用するつもりはない。だが歯車騎士団がそれに従ってしまうのは納得がいった。そして目の前の騎士もそうするだろうという事を。
「貴方達も私達と同じ。大事な人のために戦うのね」
言いながら銃を構える『弾丸に願いを宿す』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)。戦争自体は国と国の戦いだが、そこにいるのは人同士。ならば同じ理由で戦う人間がいてもおかしくはない。それでも、銃を構える。
「誰だって譲れないものがあって、だからこそ争いは起こるのでしょう」
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は前を見る。目の前には譲れないもののために戦う騎士。相手が戦う意思を持つのなら、同じく戦う意志をもって挑むのみ。それを示すように拳を握る。
「……はい。今は歩みを止めずに進みましょう」
ミルトスの言葉に頷く『祈りは強く』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。迷いはない。そんな感情は戦うことを決めた時に捨ててきた。たとえ彼らの気持ちを摘むことになろうとも、この歩みを止めるわけにはいかないのだ。
「民を思う気持ちは理解できるけど、それは袋小路よ。事態は好転しないわ」
歯車騎士団の現状を理解しながら、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はぴしゃりと言い放つ。ヘルメスに付き従う限り、彼らと『ロンディアナ』に住む民に未来はない。そんな事は彼らだってわかっているのに。
「ヘルメス……イカレてるわね」
短く言い放ち、武器を構える『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)。傍若無人な神。その行為は常に自分中心で、他の『ヒト』がどれだけ苦しもうが気に留めない。こうして歯車騎士団達が苦しみながら戦う様さえも、彼の娯楽なのだ。
「ヘルメリア崩し、最終局面……か」
口にした後で苦い顔をする『二人の誓い』ザルク・ミステル(CL3000067)。自ら望んだ大戦だが、国を守ろうとする騎士を見て複雑な気分になる。ヘルメリア憎しで生きてきたとは言え、立場が『違わなければ』歯車側に立っていたのは自分なのかもしれない。
「これで最後の戦いになるといいのだけどね、ドジソン君」
大振りの青い指揮杖を手に『パツィフィスト・ゲベート』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は頷く。マリオン・ドジソンと相対するのもこれで何度めか。長く続いた因縁もこれで終わりにしたいものである。
「多くは語らない。歯車騎士団の名にかけて、ここで自由騎士達を足止めする!」
宣誓と共にそれぞれの武器を構える歯車騎士団。もはや国などなく、勝利のヴィジョンもない。それでも彼らは守るべきものの為に立ち上がる。
遠くで爆音が響く。その合図を皮切りに二国の騎士はぶつかり合った。
●
「参ります」
言いながら戦場を走るアンジェリカ。手にした武器を握りしめ、真っ直ぐにロベルトの方に向かう。鉄球を持つ老人の間合いを測るように数度武器でけん制し、そして一気に間合いに入りこむ。
自由騎士より一手先に付与できる歯車騎士の権能。ロベルトにかけられた付与を外した後に、アンジェリカは武器を振りかぶった。踏み込み、腰の回転、そして腕に力を込める。流れる様な力の流動。それが生み出すパワーが老騎士を穿つ。
「迷いない一撃。さすがここまで攻め入るだけのことはある」
「そちらも引くつもりはないようですわね。ならば!」
「ああ、今日ここで因縁に決着をつけてやる!」
言って銃を構えるザルク。歯車騎士団。それは彼の村を滅ぼしたプロメテウスを保持する者。ザルクはその復讐のために自由騎士になったといっても過言ではないのだ。怒りは強く、しかし動作は冷静に。込める弾丸に復讐の炎を乗せて。
『CWTスペシャル』『カスタムリボルバー』……構えた二挺拳銃はもはやザルクの手足同然。敵と味方の位置を把握し、次にどう動くかを予測する。相手が動くその先に向けて銃口を構え、迷うことなく引き金を引いた。
「お前達もヘルメスみたいな悪党だったらもっと気楽だったんだけどな!」
「不敬な! ヘルメス様の御心を理解できぬ愚か者は脳漿ぶちまけて死ね!」
「神が子供なら、それを信じる者も子供ね」
ヘルメス信望者メリッサの言葉に冷たく言葉を返すライカ。思考の方向が神に従う事であり、物事を多角面から見る事を放棄している。シャンバラの時はミトラースの力が在ったから仕方ないが、自主的にヘルメスに傾倒されるともはや言葉もない。
どうせもいい、とメリッサから目を逸らしてライカはレイピアを持つ歯車騎士に向かう。細く柔らかい剣。だがそれは柔軟に攻撃を受け流す刃でもある。ライカはその防御に速度をもって挑む。受け流しきれないほどの手数。何度も、何度も漆黒の籠手を振るう。
「早く倒れてくれないかしら」
「まだまだ倒れるわけにはいかぬよ。敵国の勇士」
「騎士マリオン・ドジソン、お相手させてもらいます」
蒸気鎧の前に立つミルトス。今更投降を促すつもりはない。今更覚悟を問う必要はない。互いに譲れない道があるのだから。互いに認められない道があるのだから。善悪ではない。正邪でもない。ただそれだけのことなのだ。
重装甲のマリオンを前にミルトスは躊躇なく近づく。一閃するマリオンの槍を身をかがめて回し、そこから跳ね上がるようにマリオンに拳を叩きつける。硬い鎧の感覚を感じながら、ミルトスは何度も攻撃を繰り返す。
「ヘルメスを放置はできません。この惨状を見て、あなたも同じ想いを抱いたはず」
「否定はしない! だがそれでも――!」
「うっせぇぇぇぇ! 神とか戦争とかどうでもいいんじゃああああ!」
身も蓋もなく叫ぶスピンキー。実際、世情などどこ吹く風のスピンキーがここに来た理由はただ一つ。目の前の男と再戦しに来ただけだ。熱い魂と熱い叫びを持つ騎士。それと戦うためだけに。
叫ぶと同時に真っ直ぐに敵陣に走るスピンキー。ネコの腕を振りかぶり、力の限りに叩き込んだ。単純にして明解。それゆえに力強い一撃。そこには確かに迷いない一つの信念があった。熱い信念を叩きつける為に、スピンキーはここに立つ。
「俺は負けない! 拳でも! クソデカボイスでも!」
「ならばこれはこの槍をもってそれに応えよう! ホワイトラビット!」
「なんというか、この状況でも絶好調だネ、彼」
叫ぶマリオンを見ながらアクアリスは頷いた。ヘルメリアを守る騎士。だが今のヘルメリアはもはや国としての形を成していない。それでもなおその熱気は失われていない事に思わず感心していた。敵としては面倒な相手ではあるが。
激しく攻防を繰り返す味方を見ながらアクアリスは周囲のマナを取り入れる術式を展開する。マナの切れ目が回復の切れ目。潤沢に取り入れたマナを治癒の力に変え、呪文と共に放出する。淡い光が仲間達を包み込み、傷を癒していく。
(とはいえ、流石に妹の惨状を知れば……)
「そいつは口にするなよ。言ってもアイツは信じちゃくれないし、もう未来も変わらない」
アクアリスが喉元まで出かかった言葉を察し、ニコラスが声をかける。水鏡の予知は正確だ。そしてもうそれは手遅れとなった事だ。そこに手を伸ばす時間も余裕もなかった。もう、救えない事なのだ。――それを告げるのも、年長の務め。
胸の痛みを吐き出すようにため息をつき、ニコラスは軽く手を叩く。意味はない。気持ちを切り替える程度の小さな儀式だ。その後に魔力を展開し、癒しの術式を展開する。出し惜しみをする余裕などない。彼らの覚悟はそれだけ高いのだから。
「どうあれ負けるわけにはいかないってね」
「そうね。ここで歯車騎士団の動きを止めないと、ヘルメスを倒せないわ!」
ニコラスの言葉に頷くエルシー。ヘルメリアという国を玩具のように扱い、そこに住む国民を弄ぶヘルメス。彼をこのまま放置できない。彼らは間違いなくヘルメス討伐の邪魔をしてくるだろう。その刃を、ここで止めなくてはいけない。
機械の腕を持つコンラッドの攻撃を受け流すエルシー。コンラッドの一撃の重みに迷いはなく、その技巧に奢りはない。だがそれはエルシーも同じだ。一打毎に呼気を整え、隙を逃さず足を動かす。もっと速く、もっと強く。思考よりも早く、体は動く。
「最後までヘルメスの駒として踊り続ける。それが誇りある歯車騎士団の選択ってわけね」
「どう受け取ろうが構わん。それが我々の選択だ」
「そうね。貴方達は家族や民のために戦う。……私達と同じように」
コンラッドの言葉に胸が締め付けられる思いを感じるアンネリーザ。亜人に対する態度こそ違えど、彼らは自分達と同じ『ヒト』で同じように大事な誰かを守るために武器を持っているのだ。だからこそ諦めず、だからこそ胸が痛い。
それでも。胸の痛みを無視することなく、アンネリーザは銃を構える。この痛みに慣れる事はない。慣れたくなんてない。それでも銃口は乱れないのは、アンネリーザにも大事な誰かがいるから。引き金を引くのは、その為に。
「分かっている、分かっているわ。それでも皆が幸せになることを望むのは、間違っているの……?」
「まだ、終わってないよ。皆が幸せになれる可能性は、あるかもしれない」
救えない命がある。手が届かない人がいる。そうと分かっていてもマグノリアはそう言い放つ。錬金術は可能性を追い求める学問だ。その学徒が簡単に可能性を決めつけるつもりはない。僅かでも可能性があるなら、それを追求するのみ。
その為にも今は此処を征しなければならない。複数の薬品を試験管の中で混ぜて、魔力を込めると同時にふたを開けて薬品を展開するマグノリア。鋼より伝わる音。そう意味づけられた錬金術の力が解放され、歯車騎士団の守りを削いでいく。
「『ロンディアナ』に巻き込まれ、強制的に融合させれられた人達を救う為には、彼等の力が必要だ。ヘルメスを倒し、権能を奪えればそれも可能だ」
「権能を奪う?」
「君達がヘルメスを殺せば権能は消えるだろうけど、他の神のオラクルが倒せばその権能は消えずにそのオラクルが使えるようになるんだ」
マグノリアの言葉を聞き、しかしそれでも歯車騎士団の動きは止まらない。戦いの熱もあるが、真偽が分からない事が大きかった。
「それがすべて真実だとしても、今まで敵国だったものを信じれるはずがない! 事実、お前達は反奴隷組織と通じてでヘルメリア国民を攻撃してき――」
「にいさま」
それは、破壊と共に現れた。
音による衝撃波。煤煙を濃縮した毒素を吐く存在。奇妙に歪に曲がった体躯。それでもそこから発する力は強く、狂暴的だった。
「キャロ、ル……!」
歯車騎士団でその姿に反応したのは、ただ一人。長く付き添った兄、マリオン・ドジソン。
「ああなってしまっては、もう元に戻る事なんてできない……」
自由騎士達もマキナ=ギアによる通信である程度は聞かされていたが、それでも目の前の少女――だった何かは異常だった。二度目の人機融合。歪んだ肉体と精神。それでも家族を求める純粋な心。ヘルメスの性格を顕したかのような、何か。
「……ヘルメスぅ! 貴方という人は、どこまで腐っているのっ!」
きっとこの状況を玉座で見て嗤っているのだろう。それを思い、自由騎士の怒りは爆発する。だが今は――
「くっ! 双方を撃破する体制を取れ!」
「これも已む無しか。さすがに敵国と手を結ぶ余裕はないしな」
「やれやれ。老骨をこき使うとはな」
『キャロル』と自由騎士の双方を責めるコンラッドとライラとロベルト。
「く、おおおおおおおお!」
「おお、素晴らしきかなヘルメス神! これこそが人が次の世界に至るための姿という事なのですね!」
『キャロル』を守るために動くマリオンとメリッサ。
「にいさまの、てき。ぜんぶこわせば、またわたしといっしょにすごせますね」
『キャロル』はマリオン以外の全てを破壊すべく、その力を振るう。
「……わかっちゃいたけど、ここで踏ん張るしかないね」
その中でニコラスは静かにため息をつく。自由騎士にも、ここで退く選択肢はない。
それぞれの想いを乗せ、戦場は混迷していく。
●
『キャロル』参戦後、陣営は大きく三つに分かれる。
『キャロル』を守る方向で動くものと、『キャロル』と自由騎士を倒そうとする歯車騎士。そして自由騎士。
「流石は歯車騎士。だがこちらも負けてはいられないのでな」
緑の服を着た貴族が呪術を解き放つ。相手の強さを認め、しかし臆さず視線を向ける。ここで終わらせなければならない。その意思を込めて。
「イ・ラプセルの権能を用いれば、確実に彼女を生きたまま無力化できますよ」
「断わる。『生きたまま無力化』がその後のキャロルの安全とイコールにはならない!」
アンジェリカの言葉に首を横に振るマリオン。今ここで生きて無力化できることと、その後の生命や身柄の保証とは一致しない。それは他の自由騎士の動きを見ても分かる。
「そうね。殺すわ」
そこは譲らないとライカは『キャロル』に向かって走る。歯車騎士団は『キャロル』に向かうライカを止めようとせず、そのままライカは『キャロル』の前にたどり着く。両手の甲剣を振るい、速度で相手を攻撃していく。
「ヒトを馬鹿にしてるような作りね。まるでキメラ。これで生きてるって言うの?」
「いきてます。きゃろるはいきてますよ。ほら、せきもあまりしてないし、こんなにからだがかるい」
「イカれてるわね。こんなのを作るイカレた神が造世界なんて、地獄でしょうね」
二重の融合で歪んだ『キャロル』に唾棄するライカ。そのまま斬撃を叩き込んでいく。
「そうだな。こいつはあんまりだ。救えないにもほどがある」
舌打ちし、『キャロル』に銃口を向けるザルク。ヘルメリアの喘息の辛さは知っている。碌に外に出る事もできず、衰弱死することだって珍しくない。それから解放されたキャロルのセリフは、痛ましい。……だが、素人目に見てももう彼女は『ヒト』じゃない。
(二度目の融合か。精神の壊れっぷりはヤツ以上だ。いや、これが普通なのか)
ザルクはかつてプロメテウスと融合した歯車騎士の事を思い出す。まだ自我を保っていた彼と異なり、『キャロル』は完全に元の自我があるように見えない。ただ一つの望みの為だけに彼女は動いている。
「くそ、こいつらみたいなやつは嫌いじゃないんだがな!」
「ですが迷っている余裕はありません。正直、手は足りてません」
ロベルトと相対しながらザルクに応えるアンジェリカ。勿論、ザルクがこの場で迷うはずなどないと分かっている。嵐のように攻め立てるロベルトを前に攻めが満足に進まないアンジェリカは少しずつ焦りを感じていた。
とはいえそれはロベルトも同じだった。アンジェリカの武器の動きに誘導され、精神が乱されることも度々だ。互いが互いの妨害工作で十全に攻めきれずにいる。そして硬直状態は互いに臨むような状況ではないのだが――
「『キャロル』を倒すまで共闘しましょう、と言っても聞いてはくれないのでしょうね」
「うむ。背を預けるに値する人徳なのは理解できるが、それが出来るような割り切りはできん」
残念、とアンジェリカは諦める。どうあれ倒さねばならない相手だ。そう割り切ってそのまま攻め立てる。
「アレがヘルメスのやり口よ! こんな事を続けていて本当にいいの!?」
『キャロル』の方を指差し、エルシーは叫ぶ。人を人と思わない所業。ああなることを分かったうえで力を与えたヘルメス。その叫びに歯車騎士団の誰もが口を噤んだ。あれが正しい事なんて誰も思わない。だが、それでも。
「まだ、キャロルは生きている! 生きている!」
その空気を吹き飛ばしたのは、マリオンだった。最も絶望しているマリオンはだからこそ希望の糸にすがるようにその事実を口にする。
「それでいいの! 妹をいいように弄られ、愉悦に浸ってるヘルメスを許せるの!?」
「それでも! ……それでも、守るべきモノがある!」
その『守るべきモノ』を汚されてもなお、マリオン・ドジソンは槍を折らない。可能性などなくても、未来が絶望だとしても、それでも。
「生憎と俺には家族なんていないから、その悲しみは解らん!」
叫ぶマリオンを前に、はっきり言い放つスピンキー。
「五体満足でキジンじゃないから、病気の苦しみも分からん! だからおっちゃんの気持ちも妹の気持ちも分からん!」
当然だ。痛みはその本人のもの。傷はその本人のもの。それを浅慮に理解できると言うのは、その人の人生を見下すのに等しい。理解できなくて当然で、理解しようと話し合うしかない。痛みを知ったふりをして、傷を深めてしまうこともあるのだ。
「だがそれでもおっちゃんが戦うと言うのなら、俺も戦う! この熱い魂で! このくそデカボイスで! こいやおっちゃん! うなあああああああああ!」
「お前達が引かぬ限り、俺の槍も止まらん! おおおおおおおお!」
「カラ元気かね、ありゃ。しかしまあ、カラでも元気が出るんだから若いって恐ろしいわ」
マリオンの様子を見てニコラスが苦笑する。実際の所、『キャロル』を罵倒して罷免することで、マリオンの怒りの矛先を向けることはできたのだろう。だがそれは誰もしなかったし、できなかった。
(まあ確かにステラを罵倒されちゃ、俺だって怒り狂うわな)
いまだ意識を取り戻さない娘のことを思い、ニコラスは頭を掻く。まだ生きている。その希望にすがるマリオンを愚かだと言う事はできない。それが家族と言うものなのだ。逆の立場なら、自分も命を投げ出していただろう。
「……ま、それでもやんなきゃいけないのがつらい立場か。おじざん、楽していきたいんだけどねぇ」
「彼女の精神と肉体を元に戻す方法は無い。苦しませずに殺すべきです」
はっきりと事実を口にするミルトス。狂暴化して暴れまわる『キャロル』。それを放置すれば多くの命が失われる。あんなものがヘルメスとの戦いに乱入されれば、それだけで大惨事だ。
(……それでも彼女に『救い』がないかを求めるのは、弱さなのでしょうか)
『キャロル』は戦う事を知らない子供だ。戦う術を持つ騎士が己の意志で戦い、散ることは構わない。だけど戦う術だけを与えられた子供が戦いの中で散ることは――それでも、それでも。
「現状は理解していますね、騎士マリオン・ドジソン。貴方の妹を殺します。貴方の願いを、未来を砕きます」
それでも。ミルトスは口にした。口にして、覚悟する。私は兄を慕うだけの力在る子供を殺す。その意味を強く心に刻んで。
「私達がヘルメリアを攻めたから、彼らはこうなったの……? ヘルメスを刺激しなければ……二人は幸せに過ごせてたの……?」
二重の融合で歪んが『キャロル』とそれに寄り添うマリオンを見ながらアンネリーザは呟く。兄を慕い名を呼ぶ『キャロル』と妹を守ろうとする兄。ヘルメスが動いても二人の関係は変わらない。ならばこの惨状は。そこまで思い、首を振る。
(違う。ただ先延ばしになっただけ。ヘルメスがいる限り、この結果はいずれ起きる事……!)
飽きた。そんな理由で『ロンディアナ』を動かしてヘルメリアの民達を巻き込むヘルメス。この結果は必定だったのだろう。誰もが幸せになってほしいと願っても、その願いはかなわない。皮肉にも、それが神の意志なのだ。
「ヘルメス……あんまりよ! あまりにも救われない!」
「元に戻る可能性はゼロではない、と思いたいけどね……」
必死に思考を繰り返すマグノリア。キジンから人に戻った例などない。故に人機融合装置から融合された機械を取り除くすべもない。それは何度も繰り返された結論だ。混合ワインを元の二つに分けるような。無茶な話だ。
「精神に関しては、まだマリオンを慕っていることもあるから修復はできるかもしれない。医療の範疇に含まれるけど……」
時間をかければ何かしらの希望が見つかるのだろう。だがその時間が圧倒的に足りなかった。だからこそ、人は研究を続けるのだ。今救えなかった後悔を繰り返さないように、未来の希望につなげる為に。
「技術はある。上手く無力化できれば、あるいは」
「それを為すにしても、肝心のドジソンくんががんじがらめだからネ」
ため息をつくようにアクアリスが呟く。ヘルメリアという国の為に戦う騎士。敵国としては邪魔なばかりだ。
「ジャスティン・ライルズに対する見解の相違を見た時、キミは何を思った? ライルズを殺したのは自由騎士だったのか、キミには真実を確認できるだけの能力もあったハズだ」
「……何をいきなり」
「妹の病を重んじて工業排気の少ない国に移り住むこともできた。それをしなかったのはこの国を守るという気概があったからだろうネ。
だけど民を守る為、騎士道を貫く為、正しくあろうとする為、そう自分を押し込めて何もしなかった結果がこれだよ」
アクアリスの言葉に、マリオンは何も言葉を帰さない。それを悔いるつもりもなければ、そういう未来があったのも確かだ。全てを投げ捨て、妹の為だけに生きる生き方。だけどそれは――
「まあボクが自分勝手で他人をあまり想えない性格だから言えるんだけどね、この意見は。
でもこのままだと妹くん以外にももっと大事なモノを失ってしまう。キミに今必要なのは、区切りをつけるコトじゃないカナ」
アクアリスの言葉にマリオンは瞑目するように刹那足を止め――槍を改めて構えなおす。そう言われて止まるような性格なら、ずっと前に止まっている。
「残念。やはり決着はつけないといけないか」
言葉では止まらない。そんな事は解っている。
互いの大事な物の為に、騎士達は戦い続ける。
●
『キャロル』参戦後、自由騎士達の火力は『キャロル』とマリオンに向かう。それは『キャロル』を脅威と定め、最優先排除目的に設定したからだ。元々マリオンを狙っていたミルトスとエルシーとスピンキーに加え、ライカとザルクとマグノリアの計六名が『キャロル』打倒に向かう。
その動きに対し、『キャロル』を守ろうとするマリオンは――
「リミッター解除! 唸れジャヴァウォック!」
攻撃を仕掛ける為に近づいた自由騎士に向かい、蒸気鎧を暴走させながらの一撃を叩き込む。魔獣の牙を思わせる猛攻が自由騎士達を襲う。そしてメリッサの銃弾と『キャロル』の音波が『キャロル』を狙う六人に襲い掛かった。
「ガードしない……?」
自由騎士達は『キャロル』を狙えばマリオンが庇うと思った。妹を守るために。
むしろ逆だ。兄は妹を守るために、妹を傷つける相手を排除に向かった。彼は盾の騎士ではなく、槍の騎士なのだ。
「ええ、ええ! ヘルメス様の御業を破壊などさせません!」
狂信的に銃を撃つメリッサ。彼女も自由騎士に肉薄し、至近距離で銃を撃つ。そのメリッサ自身も『キャロル』の音波に巻き込まれて傷だらけなのだが、むしろそれをヘルメスの技のすばらしさと受け止めている。
そして六名が『キャロル』に矛先を向けたこともあり、歯車騎士団への攻撃手が激減する。アンジェリカとアンネリーザの二人では、ライラの防御陣形の元で戦う歯車騎士団を完全に打ち崩すには手数不足だ。しかし歯車騎士団もニコラスとアクアリスの回復を受ける自由騎士を完全に削り切れない。
戦場は激しく攻め合いながら、互いの体力と魔力が奪われていく。
「おっちゃん! これで決着だ!」
徹頭徹尾マリオンに挑んでいたスピンキーが叫ぶ。既にフラグメンツは削られ、満身創痍だ。腕を振り上げる事も難しいほどの疲労の中で、己の中の何かを燃やしながら拳を握る。
「俺はわからん! 神とか、戦争とか、そんなもんは一切わからん!
だけど熱い魂は解る! おっちゃんが持っている魂は知っている! そいつは俺も持っている! それだけあれば戦える!」
叫ぶ。声を出すだけでも体力が奪われ、倒れそうになるけど叫ぶ。それはスピンキーの魂の叫び。身体が、心が、スピンキーと言う存在を決定づける何かが持っている存在と言う熱量。それを拳に収縮させていく。
「みゃおおおおおおおおん!」
「……くっ。なんて熱い一撃……許してくれ、キャロル」
スピンキーの拳を受けて、マリオンは倒れ伏す。
「にい、さま? あああああああああ!」
動かなくなった兄を見て、気が触れたように叫ぶ『キャロル』。激しく呼吸を繰り返し、攻撃もより激しくなった。戦場全ての者達がその脅威の前に体力を奪われていく。
「流石は歯車騎士の精鋭ですわ」
「ええ。彼らも人を守る騎士だったわ」
肩で息をしながらアンジェリカとアンネリーザが呟く。ようやく歯車騎士達を伏し、『キャロル』の方に武器を向ける。だが、
「ぐっ……すまん。先に倒れるわ」
『キャロル』の音波を受けたニコラスが倒れたことで自由騎士側の継戦能力が崩れる。回復の柱が消えたことで『キャロル』に押され始めた。
(思ったよりも疲弊が激しい。『キャロル』を倒すのは難しいかも……。三すくみのバランスを取り損ねた? マリオンが庇うと勘違いしてその攻撃を度外視していた? いや、それは些事だ。最大の原因は――)
倒れ伏すマリオン・ドジソン。そして動かない兄を前に暴れる『キャロル』。
自由騎士達は『キャロル』の行動を縛るためにマリオンを先に倒し、精神的揺さぶりをかけた。そうすることで彼女の呼吸困難を増加させるために。
だがそれが目的なら、マリオンは完全に殺して呼吸困難を最大限に起こさせるべきだったのだ。中途半端に刺激したことにより、威力が増した攻撃に晒されることになる。
一人、また一人と倒れていく自由騎士達。『キャロル』の疲弊も激しいが、力で押し切るのは無理だという事は明白だった。
「それが最大効率と分かっていても、だれもドジソンくんを殺そうとしなかった。その辺りは自由騎士の甘さだよネ。――僕も含めてなんだけど」
押されつつある中、アクアリスは静かにため息をついた。誰もが『キャロル』を脅威に思いながら、しかし最後にすがった肉親への愛を壊そうとしなかった。
「キャロル・ドジソン。キミを助けることはできない」
それは事実だ。二重の機械融合、喘息、壊れた精神。零れ落ちたモノを拾う事はできない。
「だからボクに出来る事はこれぐらいだ。兄と話をしてきてくれ」
アクアリスは『キャロル』とマリオンに『糸』を繋げる。それは彼女が活性化しているテレパスの繫がり。それをドジソン兄妹に繋げたのだ。一時的かつ短時間だが、他人に技術を付与して使用させる。アクアリスが起こした奇跡は、それだけ。
『にいさま』『キャロル』
今二人は、精神的に会話をしている。すれ違い、狂い、神に運命を惑わされ、それでも途切れなかった思い。もはやそれが元に戻らなくとも、二人の絆は確かにそこにあるのだ。
「これでキミが前を見てくれるのなら、ボクの命なんか安いもんさ」
こぼ、と血を吐きそうになるアクアリス。魔法技能の供与。常識外の行使はそれなりに負担がある。それを悟られないように血を飲み込んだ。
「……誰もが皆、幸せになれればいいのに」
悲しげにつぶやくアンネリーザ。そのままゆっくりとライフルを構え、動かない『キャロル』に銃口を向ける。夢見る様に精神で会話をする『キャロル』。……苦しまずに殺せるのなら、今しかないだろう。せめてもの、救い。
乾いた銃声が響き、無防備に立つ『キャロル』は倒れる。
その顔は、愛する家族に看取られたかのように穏やかなものだった。
●
アクアディーネの権能もあり、歯車騎士団は皆生存していた。
「私達はヘルメスを必ず倒す! 貴方達はどうするつもり!? 一緒に来る? それとも戦後復興の為に尽力する?」
傷を回復した自由騎士達はヘルメスを倒すために動き出す。誘うようなエルシーの言葉に、首を振って武器を収める。今は答えが出せない。その表情がそう語っていた。
「…………」
マリオンはキャロルの遺骸を抱え、一礼して背中を向ける。その動作が彼の気持ちすべてを語っていた。
(ボクはキミが好きだよ、ドジソンくん。嫌なヤツだと思ってたケド、それは羨望の裏返しだったのかも)
その背中を見ながら、アクアリスは静かに思う。心臓が少し跳ね上がり、鼓動を大事にするように胸に手を当てた。
「ヘルメス。決着をつけてやるぜ」
誰かが言った言葉に頷く自由騎士達。異論などあろうものか。その為にここまでやってきたのだから。
ヘルメリアの夜明けは、近い――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
重傷
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
そうか。この状況だとルートは(いろいろメモった)
以上のような結果になりました。意外とサクサクかけたのは、やはりプレイングのおかげかと。
歯車騎士団は武器を下ろし、戦後どうするかは各々の思想のままとなります。いや、こいつらが決戦に出てきて、仮にヘルメス倒したら色々マズいんで!
MVPは色々乙女だったブルースフィア様に。
ヘルメリア戦もあと一歩です。この結果が皆様の景気づけになれば幸いです。
それではまた、イ・ラプセルで。
そうか。この状況だとルートは(いろいろメモった)
以上のような結果になりました。意外とサクサクかけたのは、やはりプレイングのおかげかと。
歯車騎士団は武器を下ろし、戦後どうするかは各々の思想のままとなります。いや、こいつらが決戦に出てきて、仮にヘルメス倒したら色々マズいんで!
MVPは色々乙女だったブルースフィア様に。
ヘルメリア戦もあと一歩です。この結果が皆様の景気づけになれば幸いです。
それではまた、イ・ラプセルで。
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