MagiaSteam
狂おしく咲く花のように




「お集まりいただき恐悦至極。諸君らに頼みたいことがある」
 『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は、演算室にオラクルが揃ったことを確認すると、ゆっくりと切り出した。
「諸君らに向かってほしい場所はとある無人島である。危険な幻想種が移動をしており、それを迎え撃って欲しい」
 現れる幻想種は『花獣(かじゅう)』と呼ばれている、全身に食人花を寄生させた、巨大な蜥蜴を思わせる幻想種だ。この魔物は通った場所に、寄生する花の種をまき散らす。すなわち、食人花が蔓延ることになり、生態系は破壊されてしまうのだ。もちろん、人間など住めなくなってしまうことだろう。
「過去にも何度か姿を現して、人の住んでいた島を放棄することになった。もちろん、当時の人的被害は決して少なくない」
 それだけ、強力な幻想種だったということだ。加えて、一度棲み処を決めると少なくとも10数年は動かない。であれば、過去の諸国が放置という態度を取るのも致し方ない所だ。
 しかし、だからと言って今回も同じ選択肢を取る必要はない。自由騎士たちは幻想種とも十分戦い得るだけの力を手にしている。
「今回、幻想種が向かう先にあるのは、アーリオ・オーリオという島だ」
 アーリオ・オーリオ島という名前に聞き覚えがある自由騎士もいた。
 自由騎士の1人、アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が通商連から購入した島だ。平和な島で危険な魔物もいない。そこで、戦争による犠牲者の為の診療所、及び学びの地になるべく、現在着々と準備が進められている。
 そんな所へ『花獣』はやって来ようとしている。
 しかも、アーリオ・オーリオ島は『花獣』にとって適した環境だ。『花獣』がこの島に来れば、自分の棲み処に変えてしまうことだろう。
「前回の活動からの期間は短く、このタイミングで動くのは予想外ではあった。しかし、予測のおかげで幻想種の移動経路は掴めている。経路上にある無人島で奴を迎え撃って欲しい」
 水鏡の予測によって、無人島に姿を現すところで戦うことができる。今なら、被害を広げる前に止めることが可能だ。
「質問はあるかね? なければ説明は以上だ。良い報告を期待しておるよ」


 巨獣は海の中から顔を上げ、今まで自分が棲んでいた大地を一度だけ振り向いた。人間であれば安堵のため息をついていた所だ。
 せっかく、心地よい場所だったが、あの場にいる訳にはいかなかった。
 この巨獣は人間のように言葉を持っていない。そのため、具体的に理解してはいないが、あの場にいては遠からず自身が滅びに飲み込まれることを確かに感じたのだ。だからこそ、一刻も早く棲み処を離れる必要があった。
 実のところ、今もまだ身に迫る危険の予感が消えた訳ではない。だからこそ、早く次の棲み処を見つけねばならない。
 かくて、巨獣は海を疾る。
 自身の安息の場を求めて。
 その途中に何があろうと、気にするに及ばない。道を阻むものなど、塵芥のように砕いて進めばよいのだから。
 全ては自分の命と、そしてそれを彩る花を輝かせるため。
 巨獣にとって、世界とは全てが自分のために存在しているものなのだ。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
KSK
■成功条件
1.幻想種の討伐
こんばんは。
にわかに訪れた怪獣ブーム、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は巨大な怪物と戦っていただければと思います。深いこと考えず、殴り合うシンプルなシナリオとなります。

このシナリオはアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)に関係するシナリオですが、当人の参加を強要するものではありません。

●戦場
 とある無人島の海岸。
 邪魔するものはありません。

●幻想種
 ・花獣
  全身に食人花を寄生させ、10m程度の蜥蜴を思わせる姿をしている。
  知恵は多少回るが、人語は介さない。臆病であるのと同時に、極めて獰猛な性質を持っている。
  【ライジングスマッシュ】【バーサーク】【ギアインパクト】と同等のスキルを使用可能です。
  1体います。

 ・食人花
  花獣に寄生する花。自立行動し、花獣を守るように動きます。
  【スロウ2】を与える遠距離単体攻撃を行います。
  5体います。

●アーリオ・オーリオ島について
 イ・ラプセル近郊にある無人島。今回の戦いの場所とは違います。
 知らなくても問題はありません。
 戦争による犠牲者の為の診療所、及び学びの地とするべく開発が進められている。

 経緯などは『ギルド』→『公式ギルド「ラウンジ」』からいける『『アーリオ・オーリオ島』#1』(https://cl3.chocolop.net/bbs.php?id=406)を参照して頂ければ幸いです。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
2モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2021年05月09日

†メイン参加者 6人†




 その日の波は大きく荒れていた。
 強風が吹いていたわけではない。
 巨大な厄災が蠢いていたからだ。
 巨獣は海の水をかき分けて、陸を目指す。近く起きるだろう滅びから逃げるために。他の生き物、全てを踏みつけても生き残るつもりだった。
 だが、そんな巨獣は知らなかった。
 強大な力を持つ幻想種を恐れぬものが、倒しうる存在がいるということを。
「なるほど、聞きしに勝るとはこのことか。大したものだな」
 上陸した幻想種の姿を確認し、『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は杖を手に呟く。
 現れた怪物を恐れての発言ではない。事前に得た情報と、現場で得た情報をすり合わせた上での所感だ。
 敵を恐れず、かと言って、侮らない。
 戦うに当たって必要なのは、敵に対する正しい理解だ。そこを怠れば、自分たちに訪れるのは死と敗北だ。
「上陸させる訳にも、引き返させる訳にもいかぬか。ならば滅ぼすのみ」
 敵を分析した上で、勇気を以って、その道を進む。テオドールは今までもそうしてきたし、今回も同じだ。如何に強大な相手であっても、戦いが避けられぬ相手である以上、退くという選択肢は存在しない。
 そして巨獣もまた、目の前に現れた自由騎士たちを敵と認識したのだろう。体に根付いていた草木が見る間に花開き、自由騎士たちへと襲い掛かってきたのだ。
 獲物を求めて狂ったように蠢く花にはおぞましい美があった。そんな正気を削るような光景に対して、むしろ愉しそうに牙を剥く獣がいた。
 『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)である。
「変な生態してる割に勘の良いトカゲだな。だが、おかげで良いサンドバッグになる」
 過去に多くの人の命を喰らってきた魔獣も、この男にとっては殴りやすい的に過ぎない。
 獣の本能を開放すると、ロンベルは食人花の群れへと踊りこんでいく。ミルトラルズ鋼製の巨大な双刃斧を力任せに一振りすると、軽く花が吹き飛んでいく。シンプルな一撃だが、それだけに防ぎようのない攻撃だ。その姿は、まさに闘神の如しだ。
「花獣か……名前の割に物騒極まる生態しとるな、オイ」
 それは戦いの様子を複数の目で眺める『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)の正直な感想だった。
 幻想種も、ものによっては上手く共存できる例もある。しかしこいつは論外だ。たしかにこれと人間が同じ場所で暮らすのは難しい。
 それ以上に頭を悩ませているのが、これを起こした原因。あの神々の蟲毒に相違はない。そういう意味で、ただの無人島が問題ならこいつに明け渡すのが、賢い選択だろう。
 しかし、そうもいかない理由があった。
「島の一つ。戦への影響は少なかろうとも、今を戦い続けるにゃ後の希望が必須なのだ。でなきゃ心が持たんわ。その1つであるアーリオ・オーリオ島をポシャらせる訳には行かん」
「ええ、護る為に、目の前の脅威に対処しましょう。ここを乗り越えられない程度では…そう遠くない未来、起こるであろう厄災には打ち勝てないのですから」
 『サルーテ・コン・ラ・パスタ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)もまた、ツボミの言葉に頷くと、巨大な十字架を掲げる。彼女が用い、多くの戦いを経てきた武器だ。
 そう、巨獣の目指すのはアーリオ・オーリオ島。現在、多くの自由騎士の手によって開拓が進められ、戦争による犠牲者を癒し、未来を作るための場所ができつつある場所だ。
 この戦いは危険な幻想種を倒すためのものではない。
 自由騎士たちにとっては、希望を守るための戦いなのだ。
「かわいそう、とは思いません、真剣勝負です……!」
 巨獣と食人花の前に立って、『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)は凛然と叫ぶ。
 敵の集中攻撃を許さないために、わざと気を引くように動いているのだ。
 キリもまた、アーリオ・オーリオ島に希望を託している者の1人である。あの島の海を感じて、その儚さと尊さをその体で味わってきたのだ。
 巨獣があの島に行ったら、間違いなく、あの景色は破壊されてしまうことだろう。それだけは決して許すわけにいかない。
「アーリオ・オーリオ島には近付かせませんし、この島もこれ以上は荒らさせません……!」
「マーチラビット・アクティブ! 射出します!」
 動きを止めた食人花の頭上へ、盛大に炎が炸裂する。
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)の放った炸裂弾だ。予想通りに敵面の効果を上げている。
 あえて前に出ることで、的を取りづらくする戦法にリスクはあったが、ロザベル自身のタフさは決して低くない。カタクラフトの性能頼りの戦闘スタイルは相変わらずだが、蒸気鎧装の硬さがそれを可能とさせていた。
 視界の奥で巨獣が咆哮を上げる。
 しかし、ロザベルはそれを意に介さない。
「意思疎通も出来ない分気が楽です」
 ロザベルはクールに次の攻撃に移るのだった。


 原則として言うのなら、大きいということは強いということだ。
 しかし、この場に来た自由騎士たちにとって、その言葉は当てはまらない。
 巧みに巨獣が攻撃しづらい位置取りを取ることで、その力を抑え込んだのだ。その上で、自身は最大のパフォーマンスを発揮する。
 ヒトが巨大な幻想種と戦うに当たっては、見本のような戦法である。
「ふむ、この巨体であれば問題はないか」
 テオドールが杖を一振りすると、現れるのは孤独と病の精霊ヤックスだ。たとえ強大な幻想種であっても、病という災厄から逃げることは出来ない。巨獣の力は確実に蝕まれていく。
 普段であれば仲間を巻き込みかねない、扱いの難しい術だが、これほど大きな相手であれば心配は無用だ。敵の動きを封じ、味方の損害を減らす。この手のシンプルな相手には、非常に有効な戦術だ。
 それに、多少被害が出ても問題はない。
 ツボミを中心に現れた半透明の触手が自由騎士たちの体に絡みつき、その傷を癒していく。パッと見には、巨獣の新たな攻撃かとも思われない危険な絵面だ。
 もちろん、違う。これはツボミが得意とする回復術式である。こう見えても疑似的な触診を行い、精密治療を瞬時にやってのける優れものなのだ。
 複雑かつかなり器用なことをやってはいるのだが、ツボミ内心には別の思いもあった。
(危険を避け、安住の地を求める。生物としちゃあ至って普通の事をしとるんだがな……)
 巨獣のありようについて、ツボミとしては思う所もある。言ってしまえば、巨獣もまた創造神の犠牲者だ。しかし、今の状況、全てにおいてそれどころではない。
「貴様は怒って良い。だが結果は変わらんし、変えさせん。すまんな」
「さぁ、攻撃の番ですよー!」
 キリは砂に足を取られそうになるのを慌てて立て直すと、
 理不尽な災厄の襲来に悲しむ、怒る、それは幻想種の猛威に襲われる人間としては当然の権利だろう。
 しかし、自由騎士たちの胸にあるのは巨獣への哀れみ、いやもっと複雑な感情だった。
 それこそが、自由騎士の強さなのかもしれない。
「今です」
 だからこそ、キリだってしもやけ覚悟でフリーズボムを投げつける。
 攻撃を行って姿勢が崩れた直後の巨獣は、それを真正面から受けてしまった。炸裂弾で火をつけられていた巨獣は苦しそうに呻く。
 いつの間にやら、巨獣をよろうようにしていた食人花も数を減らしていた。そこを突いて、獣の本能を剥き出しにしたアンジェリカは圧倒的なスピードで距離を詰める。
「この先へは通しません、人々の生活を護る為に」
 贖罪と解放の大剣が唸りを上げて、巨獣の鱗から肉にかけてを切り裂く。これですら尋常の技ではない。普段のアンジェリカからは想像もつかない姿だ。
 しかし、攻撃はこれで終わらなかった。
 すぐさま裏の一刀が閃き、巨獣の骨にまで達する。これこそ表裏快刀乱麻断ち。表裏の斬撃を奥義とする脅威の技だ。
 さしもの巨獣と言えども、苦痛の悲鳴を上げる。
「無人島であった間なら問題なかった可能性もありますが……こうなってしまった以上は仕方がありません」
 いつかこの幻想種とヒトは決着をつけなくてはいけない宿命にあった。巨獣の移動に関して、直接の原因は世界の滅びだ。だが、それがなくてもいつか戦いは起きていたし、場合によっては無辜の民が被害にあっていた。
 間の悪い偶然かもしれない。だが、自分がこの場に立った以上やらねばならない。
 巨獣の動きを冷静に見定めていたロザベルは、自身の力を一点に集中する。
「オールインワン起動、強制冷却まで10秒、全力でいきます!」
 ロザベルが間合いを詰めたのは一瞬の出来事だった。そして、放たれるゼロ距離から渾身の砲撃。
 狂える獣の攻撃が鎮まる。
 その隙を見過ごすほど、ロンベルは甘い男ではなかった。
「お前さんを生かす理由も無いし、思いっきりヤっちまうぜ。しっかり止めは刺す、逃がしはしない」
 巨獣の前に立ち、大地を踏みしめる。
 巨獣に恨みがあるわけではない。
 島を守りたいわけでもない。
「後、なんか他の奴らが食うらしいから覚悟しとけ、うん」
 ここに来たのは、単に真っ向から叩きのめせる相手がいるからというだけ。強い敵と戦えば、さらに自分は強くなれる。
「ってわけで死んでもらうぜ」
 ロンベルが放つのは斧による、極めてシンプルな攻撃だ。すなわち、膂力に任せて全力で振り回す。技とすら言えない単純な攻撃。しかし、彼の力で行えば、それは必殺の一撃と変わる。巨大な幻想種といった相手には、こうした純然たる暴力こそが有効だ。
 そして、無人島に巨獣の断末魔が響き、直後それをかき消さんばかりに虎は勝利の咆哮を上げるのだった。


 戦いが終わって、無人島は静けさを取り戻した。すなわち、アーリオ・オーリオ島も守られたということだ。
 テオドールは戦いの場に、食人花の種が残っていないかの確認を念入りに行っていた。うっかり、持ち帰ってしまいましたで済む相手ではない。以前、巨獣が棲んでいたという島は今も食人花が蔓延っているということだが……そちらは、長らく無人島になっている以上、今すぐ対処が必要な物ではないだろう。
 それより目下、自由騎士達は別の問題に直面していた。
「いえ、その……確かに奪った命に敬意を持つ事も、貴重な幻想種を無駄にしないという事も理解はできるのですが。食べ……るのですか?」
「え、マジで? マジか。そうか。無意味に殺すだけよかある意味行儀が良いかも知れんし、別に構わんが」
「食べられるのかしら、これ……」
 そう、アンジェリカの手によって巨獣はその姿を「蜥蜴肉パスタ ~花弁を添えて~」に変えていた。鱗を含めて硬い皮膚が多く、見た目に比べると可食部は少なかったが、それにしたって肉はそこそこの量がある。一部は燻製などにして、開拓地に持ち帰ることになった。
「えぇきっと大丈夫、自身の腕を信じましょう。パスタの可能性は無限大、その可能性を引き出すのはヒトの役目なのですから」
「毒見はキリが引き受けましょう……!」
 悲壮な覚悟で挑むキリだったが、思いの外に真っ当な料理になっていた。無二の珍味という程ではなかったが、その場合はもっと早い段階で狩られていたのかもしれない。
 この間にも、滅びの刻は近づいていた。この時間が終われば、また次の戦いが待っている。
 だからこそ、自由騎士達はこの安息の時間を楽しむのだった。



†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済