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【贄ノ歯車】Unite! 二人はいつも一緒だから

●ふたりはいつもいっしょだから
ルードルフとルーベルトは双子の兄弟。
どんな時でも一緒でした。生まれた時も、遊ぶ時も、学校に行く時も、農作業する時も。
――ヴィスマルクに誘拐される時も。
彼らは軍人に誘拐され、そしてそのまま『チャイルドギア』と呼ばれる駆動システムに縛り付けられる。物理的且つ化学的に精神を削られ、軍人の言う事に逆らえなくなった二人はそのまま戦車の一部として破壊を繰り返す。
多くの壁を壊し、家を壊し、人を殺し。目を逸らすすらできずにただ命令されるままにそれを繰り返し。
それでも二人はなんとか頑張りました。ここで倒れたら、残された兄弟が一人ぼっちになる。それは絶対にだめだと歯を食いしばり、涙を流しながら頑張りました。
だけど、ルードルフの戦車は敵の攻撃を受け、破壊されてしまいました。『チャイルドギア』に組み込まれたルードルフはそのまま命を失い、残されたルーベルトは最後まですがっていた希望を失い、イブリース化します。
ヴィスマルクも制御不能と判断した戦車を放棄。ルーベルトは一人、荒野を彷徨う戦車となります。しかし、そこに一つの奇跡が起きました。
なんと、ルードルフの魂がイブリース化してルーベルトに寄り添うように顕現したのです。ルーベルトもそれを感じ、鉄の棺桶の中で微笑みました。
そして二人は、今も一緒にいるのでした。
●自由騎士
「とはいえ、放置はできまい」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は言って自由騎士達に話を切り出す。
「『チャイルドギア』が搭載された戦車とイブリースがイ・ラプセル領内に迫りつつある。「然もありなん、鉄の棺桶に閉じ込められて人殺しを強要され、最後の希望すら絶たれたのだから」
淡々と語るクラウス。
『チャイルドギア』――ヴィスマルクが開発した駆動システムだ。120cm以下の子供を手足を拘束した状態で押し込み、薬物などで反抗できなくした状態のまま外部からの命令で動かすものだ。当然子供にかかる精神的負担は大きい。
それでもこれが登用されるのは、戦争孤児などで子供の『大量生産』が可能であることと、単純に駆動システムのコンパクト化が理由なのだろう。合理性を突き詰めればこうなる、という一例だった。
「諸君らにはこれら二つのイブリース対応に当たってもらう」
クラウスは淡々と命を下す。近い年齢を持つ孫を持つ者として思う所はかなりあるが、だからこそ感情に振り回されずに言葉を紡がなければならない。激昂に任せて情報がおろそかになっては、それこそ逆効果だ。
自由騎士達はそれを察して頷き、現場に向かった。
ルードルフとルーベルトは双子の兄弟。
どんな時でも一緒でした。生まれた時も、遊ぶ時も、学校に行く時も、農作業する時も。
――ヴィスマルクに誘拐される時も。
彼らは軍人に誘拐され、そしてそのまま『チャイルドギア』と呼ばれる駆動システムに縛り付けられる。物理的且つ化学的に精神を削られ、軍人の言う事に逆らえなくなった二人はそのまま戦車の一部として破壊を繰り返す。
多くの壁を壊し、家を壊し、人を殺し。目を逸らすすらできずにただ命令されるままにそれを繰り返し。
それでも二人はなんとか頑張りました。ここで倒れたら、残された兄弟が一人ぼっちになる。それは絶対にだめだと歯を食いしばり、涙を流しながら頑張りました。
だけど、ルードルフの戦車は敵の攻撃を受け、破壊されてしまいました。『チャイルドギア』に組み込まれたルードルフはそのまま命を失い、残されたルーベルトは最後まですがっていた希望を失い、イブリース化します。
ヴィスマルクも制御不能と判断した戦車を放棄。ルーベルトは一人、荒野を彷徨う戦車となります。しかし、そこに一つの奇跡が起きました。
なんと、ルードルフの魂がイブリース化してルーベルトに寄り添うように顕現したのです。ルーベルトもそれを感じ、鉄の棺桶の中で微笑みました。
そして二人は、今も一緒にいるのでした。
●自由騎士
「とはいえ、放置はできまい」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は言って自由騎士達に話を切り出す。
「『チャイルドギア』が搭載された戦車とイブリースがイ・ラプセル領内に迫りつつある。「然もありなん、鉄の棺桶に閉じ込められて人殺しを強要され、最後の希望すら絶たれたのだから」
淡々と語るクラウス。
『チャイルドギア』――ヴィスマルクが開発した駆動システムだ。120cm以下の子供を手足を拘束した状態で押し込み、薬物などで反抗できなくした状態のまま外部からの命令で動かすものだ。当然子供にかかる精神的負担は大きい。
それでもこれが登用されるのは、戦争孤児などで子供の『大量生産』が可能であることと、単純に駆動システムのコンパクト化が理由なのだろう。合理性を突き詰めればこうなる、という一例だった。
「諸君らにはこれら二つのイブリース対応に当たってもらう」
クラウスは淡々と命を下す。近い年齢を持つ孫を持つ者として思う所はかなりあるが、だからこそ感情に振り回されずに言葉を紡がなければならない。激昂に任せて情報がおろそかになっては、それこそ逆効果だ。
自由騎士達はそれを察して頷き、現場に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリース二体の打破
どくどくです。
Hardですが楽に勝つ方法は用意してあります。やー、どくどくは優しいSTだなぁ。
●敵情報
・ルーベルト(×1)
大きさ2mほどの衝角付き戦車です。戦車名は『バール』。属性はイブリース。主砲はなく、砦の壁や敵陣を突破するために特化された戦車です。前面に衝角を持ち、突撃してこれを突き刺したりします。
攻撃方法
突撃 攻近貫 突撃して、衝角を突き刺してきます。20m移動可能(100%、75%)
轢殺 攻近範 衝角を伴わない体当り。
副砲 魔遠単 備え付けられた火炎放射器。【バーン2】
動揺 P 自分の攻撃で戦闘不能者をだした時、自分に【パラライズ2】を付与
ふたりはいつもいっしょだから P ルードルフが『死亡(浄化しての戦闘不能も含む)』すると、攻撃力増加、防御力&魔抗力減少、【精無】が付与。Pスキルの『動揺』が解除。
・ルードルフ(×1)
還リビト。10歳男性の幽霊。ルーベルトと一緒に居たいと言う想いで、イブリース化しています。邪魔立てするなら、容赦はしません。
攻撃方法
のろい 魔遠単 自分が殺した相手を霊にして、対象に纏わりつかせます。【カース2】
ほのお 魔遠範 怖い人が燃やせっていうから、燃やさないと。【バーン1】
いたい 魔遠全 痛みに泣き叫ぶ子供の声が、精神を苛みます。【Mアタック50】
うらみ P 多くの人を燃やしたから、自分も燃えるべきなんだ。同じように苦しまないと。【バーン】系のスリップダメージが2倍になります。
ふたりはいつもいっしょだから P ルーベルトが『死亡(不殺による戦闘不能は含まない)』すると、同タイミングで『死亡』する。
・『チャイルドギア』
蒸気騎士を動かすシステム(メタな事を言うと、10才の子供キャラでも重さ百キロ近くの蒸気騎士を動かすことが出来る理由みたいなもの)を転用した駆動システム。
大きさ150cmの正方形で、身長120センチ以下の子供を拘束して押し込みます。子供はヴィスマルクに逆らえないように物理的且つ化学的に調教されており、恐怖におびえる精神が高い闘争本能を生み出します。その狂気ともいえる精神性が高い駆動性を生み出し、命令に従い自動で戦う戦車を完成させました。
●場所情報
イ・ラプセルとヴィスマルクの国境沿い。遮蔽物のない荒野。そこにイブリース化した戦車が彷徨っています。
戦闘開始時、敵前衛に『ルーベルト』が、敵後衛に『ルードルフ』がいます。
事前付与は、一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
Hardですが楽に勝つ方法は用意してあります。やー、どくどくは優しいSTだなぁ。
●敵情報
・ルーベルト(×1)
大きさ2mほどの衝角付き戦車です。戦車名は『バール』。属性はイブリース。主砲はなく、砦の壁や敵陣を突破するために特化された戦車です。前面に衝角を持ち、突撃してこれを突き刺したりします。
攻撃方法
突撃 攻近貫 突撃して、衝角を突き刺してきます。20m移動可能(100%、75%)
轢殺 攻近範 衝角を伴わない体当り。
副砲 魔遠単 備え付けられた火炎放射器。【バーン2】
動揺 P 自分の攻撃で戦闘不能者をだした時、自分に【パラライズ2】を付与
ふたりはいつもいっしょだから P ルードルフが『死亡(浄化しての戦闘不能も含む)』すると、攻撃力増加、防御力&魔抗力減少、【精無】が付与。Pスキルの『動揺』が解除。
・ルードルフ(×1)
還リビト。10歳男性の幽霊。ルーベルトと一緒に居たいと言う想いで、イブリース化しています。邪魔立てするなら、容赦はしません。
攻撃方法
のろい 魔遠単 自分が殺した相手を霊にして、対象に纏わりつかせます。【カース2】
ほのお 魔遠範 怖い人が燃やせっていうから、燃やさないと。【バーン1】
いたい 魔遠全 痛みに泣き叫ぶ子供の声が、精神を苛みます。【Mアタック50】
うらみ P 多くの人を燃やしたから、自分も燃えるべきなんだ。同じように苦しまないと。【バーン】系のスリップダメージが2倍になります。
ふたりはいつもいっしょだから P ルーベルトが『死亡(不殺による戦闘不能は含まない)』すると、同タイミングで『死亡』する。
・『チャイルドギア』
蒸気騎士を動かすシステム(メタな事を言うと、10才の子供キャラでも重さ百キロ近くの蒸気騎士を動かすことが出来る理由みたいなもの)を転用した駆動システム。
大きさ150cmの正方形で、身長120センチ以下の子供を拘束して押し込みます。子供はヴィスマルクに逆らえないように物理的且つ化学的に調教されており、恐怖におびえる精神が高い闘争本能を生み出します。その狂気ともいえる精神性が高い駆動性を生み出し、命令に従い自動で戦う戦車を完成させました。
●場所情報
イ・ラプセルとヴィスマルクの国境沿い。遮蔽物のない荒野。そこにイブリース化した戦車が彷徨っています。
戦闘開始時、敵前衛に『ルーベルト』が、敵後衛に『ルードルフ』がいます。
事前付与は、一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
7個
3個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2020年11月19日
2020年11月19日
†メイン参加者 7人†

●
「……命が軽い時代だな」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は水鏡で聞いた予知の内容を脳内で反芻し、静かに呟いた。戦争とは弱い者の命から失われていく。力在る者に搾取され、そして利用されていくのだ。そんな事は、いやになるほど知っている。
「私達があの二人に対してできることは、あるのでしょうか……?」
拳を強く握りセアラ・ラングフォード(CL3000634)は口を開く。ヴィスマルクに捕らわれた双子。その方割れは命を失い、イブリースとなって共にいる。それは彼らにとって幸せな事なのだろう。……それを、止めなければならないのだ。
「私達がやることは、エゴです。それでも私は……」
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は自分の胸に手を当てて静かに呟く。既に死亡したルードルフ。生きているルーベルト。この二人を止めて、仲を裂くことは正しいのだろうか? そんなことは誰にも決められない。だから、悩んで正しいと思ったことをするだけだ。
「この戦いの先に、未来はあるのでしょうか……?」
憂いを込めた声で『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈りのポーズをとる。未来を担う子供を機械の部品として扱い、血の道を進むヴィスマルク。そんな未来を迎えるわけにはいかないのだ。
「心苦しい案件ではあるが」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は重々しく口を開く。心苦しい案件だが、目を逸らすわけにはいかない。それが貴族と言う立場で、大人と言う存在なのだ。辛いものにふたをしてみないふりはできなかった。
「二人の気持ち次第さ。それが大事だ」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は静かに口を開く。どういう結末になるにせよ、二人の意向を確認しなければならない。生きたいと思うのなら生かす。死にたいと思うのなら死なせてやる。生きていれば何とかなる。そう自分に言い聞かせるように呟いた。
「……そうだね。死を選ぶのなら、殺してあげよう」
ウェルスの言葉に頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。まだ幼い双子を襲った悲劇。ここで人生を終わらせ、共に朽ち果てることも一つの幸せなのだろう。だがそれは此方が決めることではない。その答えを聞いてからでも、遅くはないはずだ。
オオオオオオオオオ……!
怨嗟にも似た、イブリースの声。生きている者を苦しめる慚愧の叫び。それは今まで苦しんできたことに対する声なのか、生きている人間すべてに対する叫び声なのか。それは分からない。
ただ言えることは、イブリースは許してはいけないと言う事だ。呪縛に捕らわれた二人を放置して、めでたしめでたしというわけにはいかない。彼らはこのままだと苦しみから逃れられないのだから。
武器を手にして、自由騎士達は戦いに挑む。
●
「二人の魂に、救いを与えましょう」
アンジェリカは言って武器を手にして駆けだす。先ず狙うは戦車。小型化されたとはいえ、それは鉄の塊。その攻略が容易ではないとは言え臆することはない。これまで培った経験と、そしてそこに捕らわれた者を救わねばならない意思が足を進ませる。
強く、強く武器を握りしめるアンジェリカ。自身の中にある獣の本能を解放させ、ただ真っ直ぐに武器を振るう。適切な角度、適切なタイミング。後は過剰ともいえる速度と力が戦車に叩き込まれ、衝撃が戦車を震わせる。
「過去は変えられません。ですが未来なら」
「どんな未来を選ぶかぐらいは、俺達が示してやらないとな」
言って拳銃を構えるウェルス。子供のころ、ケモノビトと言うだけで差別されてきたウェルス。理不尽な社会に振り回されたからこそ、自分が大人になった時に子供の理不尽を取り除いてやりたい。今ならそれが出来ると、武器を構える。
見ろ。強く意識を集中し、瞳に魔力を集中させる。強化された瞳で戦場を見て、そして戦車を見る。その瞳に映る装甲のつなぎ目部分に銃口を向け、引き金を引いた。連続して叩き込まれる弾丸が、戦車に穿たれる。
「生きていれば可能性がある。生命にはそれだけの価値はあるぜ」
「皮肉だな。その思想は『チャイルドギア』にも当てはまる」
唾棄するようにアデルは言い放つ。一か月の『訓練』で、何の教育も施されていない子供を戦車を駆るほどの兵士とするのだ。軍事的な視点で見れば、これほど効率的な事はない。ただ生命を消耗品としているというだけなのだ。
戦車の攻撃を引き付けるように動きながら、アデルは攻撃を重ねていく。手にした槍を縦横無尽に回転させ、遠心力を加えて戦車に打撃を加えていく。車輪、兵装関係、できうる限り、内部のギアに衝撃を与えないことを意識していた。
「チャイルドギアの火力は知っての通りだ。耐え抜いて、無力化するぞ」
「はい。ダメージは私が癒します」
聖遺物を手に頷くセアラ。主砲のない戦車とはいえ、衝角や副砲の攻撃は侮れない。元より壁や戦陣突破に作られた戦車だ。その突撃力は人など易々と踏み抜き、圧し潰すだろう。油断はできない、と気合を入れる。
仲間の傷を見ながら、癒しの魔力を解き放つセアラ。それと同時に『チャイルドギア』内に居るルーベルトの心境を思う。誰も傷つけたくないのに、傷つけないと酷い目に合うと怯えながら戦わされる。その恐怖はヴィスマルク兵がいない今でも染みついているのだ。
「これが戦争……。これが、人のやる事……なのですね」
「……慣れたくはないですね」
ロザベルは言って武器を構える。人を虐げ、優位に立つ。そんな事はいつの世でも行われてきた。戦いにおいて命が軽いことも、知っているつもりだった。だから『チャイルドギア』の思想も理解はできる。だがこれに慣れてしまえば人として壊れてしまうだろう。
首を振って意識を切り替える。こうはなるまい、と自らを律して剣を構えた。盾兵に命令を出しながら戦車を押しとどめ、真っ直ぐ敵に刃を振るう。螺旋を描く魔力剣の軌跡、それが戦車と背後のイブリースを削っていく。
「二人は死を望むかもしれません。……だとしても私は生きてほしい」
「……そうだね。でも、それも一つの幸せ、だよ」
ロザベルの言葉に頷くマグノリア。二人に死を与える。まだ幼い子供が心の寄る辺を失ったのだ。その喪失感は大きく、それを埋められる保証はない。ならばここで終わりを与えることも一つの慈悲だ。生きていれば希望はあるかもしれないが、同時に絶望もあるのだから。
それでも、それは二人が望んだ時だ。マグノリアは思いを振り切って魔力を展開する。手にした液体に魔力を注ぎ込み、赤光が戦場を照らす。光に含まれた劣化の力が、戦車とイブリースの力を削いでいく。
「彼らが望むままに……。それだけだ」
「うむ。とにかく今はこの戦いを突破せねばならぬ」
マグノリアの言葉に頷くテオドール。相手はイブリース化した兵器、しかもヴィスマルクの戦車だ。油断をすればこちらがやられかねない。こちらの意見を通すにせよ、先ず相手を制圧しなければならないのだ。
手にした武器に魔力を込めて、霊体と化したイブリースに向ける。テオドールの杖から黒い鎖が発せられ、それがイブリースを縛って動きを封じる。鎖に込められた呪いが霊体を縛り、同時にその活力を奪っていく。
「極力助ける。だがその助けがどういう形になるかは、まだわからんよ」
テオドールの言葉の重みは、自由騎士達も理解していた。
命があればいい。そんな物は『生きていれば、いつかはいいことがある』などと言い切れる楽観思考の意見だ。戦時と言う非常事態、周囲を見れば絶望と悲劇だらけ。『チャイルドギア』に組み込まれ、生きているだけでもマシな状況なのだ。
それでも、生きていてほしい。
それがエゴだ。あるいはまだ幼い命を奪いたくないと言う怯えだ。倫理や常識という枠組みからはみ出したくないだけの逃げだ。武器を持ちながら、命を奪いたくないと言う潔癖主義だ。それを違うと真っ向から否定するつもりはない。
だがそれでも助けたい。それこそが、自由騎士。水の女神の慈悲を宿すオラクルなのだ。
こんな時代だからこそ、こんな世界だからこそ。希望を与える騎士となる。その意思をもって彼らは戦いに挑む。
「……くっ」
「気にするな。俺は頑丈だ」
「まだ倒れてはいられません」
前衛で戦うアンジェリカ、アデル、そしてロザベルが戦車の攻撃でフラグメンツを削られる程のダメージを負う。
「容赦ない、ね。それだけ離れたくないんだろうけど」
「はう……!」
マグノリアとセアラも、ルードルフの攻撃を受けて、フラグメンツを燃やす羽目となった。
一進一退の攻防。その戦いは、未だ続いていく。
●
ルードルフとルーベルトは双子の兄弟だ。ルーベルトを殺してしまえば、既に死亡しているルードルフも未練を失ってこの世から消えるだろう。そうすれば、簡単にこのイブリースを廃することが出来る。それどころ、ルードルフを先に殺せば、精神的な寄る辺を失ったルーベルトは心のタガを外してしまう。
だが、自由騎士達は敢えてそれをしなかった。敢えて苦難の道を選び、ルードルフを生かそうとする。
「生きることを望むか否か……。大事なのは、それだけだ」
魔力を展開しながら、マグノリアは呟く。彼らが生きたいか否か。この魔力が薬になるか毒になるかは、それで決まる。もし生きることを望んだのなら、出来る限りのことはしよう。それが自分の使命なのだ。
「確かに死を望むかもしれないが、そうでないのなら生きてもらうぜ!」
拳銃を撃ちながらウェルスは叫ぶ。世界は残酷で、弱ければ奪われる。現に今、自分達はイブリースと言ういびつな存在だが双子の絆を裂こうとしている。死を選ぶことは十分に考えられるだろう。それでも。
「誘拐されてからは、たった一人の肉親だったのだ。それを失えば、その傷は深かろう」
テオドールは額に眉を寄せるような表情で呟いた。ヴィスマルク軍と言う恐怖の世界の中で、ただ頼りに出来た双子の絆。唯一存在した寄る辺を失えば、絶望するのも当然と言えよう。それを理解しながら、呪術でルードルフを浄化する。
「私達を恨みますか……。ええ、それを受け止めましょう」
双子の方割れを失って、最後の理性を失た『チャイルドギア』。その動きを見てアンジェリカは静かに言葉を放つ。泣きながら暴れる子供の精神で、戦車と言う暴威を駆る。その一撃を受けながら、武器を叩きつける。
「廻りて穿て、強襲式廻穿機構……ア・バオ・ア・クゥー」
痛む体を押さえながらロザベルは蒸気騎士の兵装をセットする。それは螺旋を描く塔。回転しながら突き進む破壊兵器。タービンのリミッターを外し、円陣を全開にして塔を回転させ、戦車の昇格に突き刺すように叩き込んだ。角の先端から火花が散る。
「アデルさん……!」
セアラは戦車の突撃を受けて倒れたアデルに手を当て、魔力を注ぎ込む。淡く暖かい光がアデルを包み込み、魔力が生命力に転換されていく。多大な魔力を失うが、ここで出し惜しみをするわけにはいかない。
「助かった。あとひと息頑張るとしよう」
セアラの癒しを受けたアデルは、槍を杖にして起き上がる。失った血液を埋めるように精神を狂わせ、その衝動を力に変えていく。振るわれる槍の攻撃が戦車の装甲に穿たれ、少しずつ削っていく。
ギギギギギギッ、ギギギ……!
それは自由騎士の攻撃で歪んだ機械部位の軋みなのか、或いは片割れを失った双子の怨嗟の音か。戦車は止まることなく自由騎士を攻める。衝角で陣形を貫き、副砲の火炎放射器が人を焼いていく。
「さすがに頑丈だな、まだ動くか」
「ヴィスマルクが自由騎士に対抗するために作ったと思えば、納得ではあるな」
ウェルスとテオドールがフラグメンツを失う程のダメージを受ける。
「救いの手を……」
「ここまで、です」
「やれやれ……だね」
すでにフラグメンツを失っていたアンジェリカとロザベルとマグノリアが、意識を失い、倒れ伏す。
「このままだと……」
セアラは呼吸を整えながら、状況を確認する。自由騎士達は皆フラグメンツを燃やし、体力も残り少ない。現在戦えるのはアデルとウェルスとテオドール。回復役である自分は攻撃できず、三名が倒れれば撤退するしかない。
イブリースは戦車のみだが、中の『チャイルドギア』を傷つけないようにしていることもあり、未だに動きは健在だ。人間で言えば、重要部位を避けて鎧だけ攻撃しているようなものである。あるいはそれなりのダメージを負って限界は近いのかもしれないが、それを測る術はない。
勝敗の天秤はまだ揺れている。
そしてここで撤退すれば、恐らくルーベルトは元には戻らないだろう。双子の方割れがいたからまだ正気を保っていたのに、それを失った状態で一人荒野を彷徨うことになるのだ。今ここが、ルーベルトの精神を留める分水嶺なのだ。
「最後の魔力を……」
セアラは魔力の最後の一欠片を解き放つ。無形の魔力を自らの魂を器として圧縮し、魔力の濃度が増していく。魂で作った器が破壊され、透明な癒しの魔力が解放された。それはさながら、卵から孵った不死鳥が羽を広げるように。これまでの傷を全て癒すかのような光が、自由騎士達に降り注いだ。
「見事だ。その癒しの魔力も優しい思いも、ルーベルトに届くだろう」
傷がいえたテオドールは呪力を展開させる。白の荊が鉄の車に巻き付いて、そこに宿ったイブリースに滅びの力を注ぎ込む。
「今は眠るがいい。イ・ラプセルの貴族の名において、不当に課せられた軍務の解放を宣言する」
魔力がイブリースの力を払い、浄化する。
『チャイルドギア』に薔薇れた少年が気を失うように、戦車も沈黙した。
●
戦い終わり、傷を癒す自由騎士達。セアラが施した回復の余波もあり、ダメージが後に残る者もいないようだ。
自由騎士達は急ぎ『チャイルドギア』を取り外し、中に捕らわれていたルーベルトの拘束を外す。小さく動く唇が、ルードルフの名前を繰り返していた。
「……意識は戻らないか」
救出されたルーベルトが目を覚ます様子はなかった。長い間、機械の一部として組み込まれたのだ。簡単に意識が戻るとは思えない。下手をすると一生このままの可能性がある。彼らはなんの力のない、ただの子供なのだ。
「……ルードルフ、お前はどうなりたい?」
ウェルスは霊魂となったルードルフに問いかける。
「どう……? ルーベルトと一緒に、いたい……離れたくない……」
ウェルスの頭に響いたのは、そんな言葉だった。
『ルーベルト、キミはどうなりたいんだい?』
マグノリアは気を失った子供に触れ、自らが思っている言葉を告げる。……答えは帰ってこない。ルーベルト自身は気を失ったまま答える能力を持っていない。
仮に持っていたとしても――どうなりたい、という漠然とした問いかけでは答えは出ないだろう。ただ望みがあるのなら、双子の片割れと離れたくない。そんなあいまいな答えになる。
「そもそも、ここまで心神喪失した子供相手に問う事自体が難しい話だったな」
アデルは武装をマキナ=ギア内に収め、肩をすくめる。四肢を拘束され、人殺しを強要され、イブリース化するまでの精神的なショックを受け、そして唯一すがっていた肉親を失ったのだ。
そんな状態で自らの生死を問う質問をしたところで、まともな答えが返ってくるはずもない。恐らくは自暴自棄になって、死を選ぶだろう。そんな状態での返答を真に受ける気はない。
「そうですね。体と心が落ち着いてから、改めて聞きましょう」
アンジェリカは言ってルーベルトを担架に乗せる。彼女が連れてきた衛生部隊が応急処置を終え、安全な場所に輸送を始める。魔術による治療はあくまで一時的な物だ。そうやって命を繋いで、病院に搬送してから初めて治療が始まる。
結局、ルーベルトへの質問などは保留となった。だが少なくとも、命だけは取りとめることが出来た。
「こんなことが、いつまで続くのでしょうか……?」
セアラが物悲しそうな口調で呟く。『チャイルドギア』の生産が続く限り、犠牲になる子供達は後を絶たない。自由騎士達が何とか対応してはいるが、それとて氷山の一角なのだ。
「調律施設への破壊工作……果たして、間に合うか」
誰にも聞こえぬように呟くアデル。今イ・ラプセルの密偵達が『チャイルドギア』の出荷元を調べている最中だ。そこへの破壊工作が叶うなら、この連鎖は止められるかもしれない。
――密偵達がドナー工房の情報を持ってきたのは、それから三日後の話だった。
「……命が軽い時代だな」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は水鏡で聞いた予知の内容を脳内で反芻し、静かに呟いた。戦争とは弱い者の命から失われていく。力在る者に搾取され、そして利用されていくのだ。そんな事は、いやになるほど知っている。
「私達があの二人に対してできることは、あるのでしょうか……?」
拳を強く握りセアラ・ラングフォード(CL3000634)は口を開く。ヴィスマルクに捕らわれた双子。その方割れは命を失い、イブリースとなって共にいる。それは彼らにとって幸せな事なのだろう。……それを、止めなければならないのだ。
「私達がやることは、エゴです。それでも私は……」
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は自分の胸に手を当てて静かに呟く。既に死亡したルードルフ。生きているルーベルト。この二人を止めて、仲を裂くことは正しいのだろうか? そんなことは誰にも決められない。だから、悩んで正しいと思ったことをするだけだ。
「この戦いの先に、未来はあるのでしょうか……?」
憂いを込めた声で『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈りのポーズをとる。未来を担う子供を機械の部品として扱い、血の道を進むヴィスマルク。そんな未来を迎えるわけにはいかないのだ。
「心苦しい案件ではあるが」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は重々しく口を開く。心苦しい案件だが、目を逸らすわけにはいかない。それが貴族と言う立場で、大人と言う存在なのだ。辛いものにふたをしてみないふりはできなかった。
「二人の気持ち次第さ。それが大事だ」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は静かに口を開く。どういう結末になるにせよ、二人の意向を確認しなければならない。生きたいと思うのなら生かす。死にたいと思うのなら死なせてやる。生きていれば何とかなる。そう自分に言い聞かせるように呟いた。
「……そうだね。死を選ぶのなら、殺してあげよう」
ウェルスの言葉に頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。まだ幼い双子を襲った悲劇。ここで人生を終わらせ、共に朽ち果てることも一つの幸せなのだろう。だがそれは此方が決めることではない。その答えを聞いてからでも、遅くはないはずだ。
オオオオオオオオオ……!
怨嗟にも似た、イブリースの声。生きている者を苦しめる慚愧の叫び。それは今まで苦しんできたことに対する声なのか、生きている人間すべてに対する叫び声なのか。それは分からない。
ただ言えることは、イブリースは許してはいけないと言う事だ。呪縛に捕らわれた二人を放置して、めでたしめでたしというわけにはいかない。彼らはこのままだと苦しみから逃れられないのだから。
武器を手にして、自由騎士達は戦いに挑む。
●
「二人の魂に、救いを与えましょう」
アンジェリカは言って武器を手にして駆けだす。先ず狙うは戦車。小型化されたとはいえ、それは鉄の塊。その攻略が容易ではないとは言え臆することはない。これまで培った経験と、そしてそこに捕らわれた者を救わねばならない意思が足を進ませる。
強く、強く武器を握りしめるアンジェリカ。自身の中にある獣の本能を解放させ、ただ真っ直ぐに武器を振るう。適切な角度、適切なタイミング。後は過剰ともいえる速度と力が戦車に叩き込まれ、衝撃が戦車を震わせる。
「過去は変えられません。ですが未来なら」
「どんな未来を選ぶかぐらいは、俺達が示してやらないとな」
言って拳銃を構えるウェルス。子供のころ、ケモノビトと言うだけで差別されてきたウェルス。理不尽な社会に振り回されたからこそ、自分が大人になった時に子供の理不尽を取り除いてやりたい。今ならそれが出来ると、武器を構える。
見ろ。強く意識を集中し、瞳に魔力を集中させる。強化された瞳で戦場を見て、そして戦車を見る。その瞳に映る装甲のつなぎ目部分に銃口を向け、引き金を引いた。連続して叩き込まれる弾丸が、戦車に穿たれる。
「生きていれば可能性がある。生命にはそれだけの価値はあるぜ」
「皮肉だな。その思想は『チャイルドギア』にも当てはまる」
唾棄するようにアデルは言い放つ。一か月の『訓練』で、何の教育も施されていない子供を戦車を駆るほどの兵士とするのだ。軍事的な視点で見れば、これほど効率的な事はない。ただ生命を消耗品としているというだけなのだ。
戦車の攻撃を引き付けるように動きながら、アデルは攻撃を重ねていく。手にした槍を縦横無尽に回転させ、遠心力を加えて戦車に打撃を加えていく。車輪、兵装関係、できうる限り、内部のギアに衝撃を与えないことを意識していた。
「チャイルドギアの火力は知っての通りだ。耐え抜いて、無力化するぞ」
「はい。ダメージは私が癒します」
聖遺物を手に頷くセアラ。主砲のない戦車とはいえ、衝角や副砲の攻撃は侮れない。元より壁や戦陣突破に作られた戦車だ。その突撃力は人など易々と踏み抜き、圧し潰すだろう。油断はできない、と気合を入れる。
仲間の傷を見ながら、癒しの魔力を解き放つセアラ。それと同時に『チャイルドギア』内に居るルーベルトの心境を思う。誰も傷つけたくないのに、傷つけないと酷い目に合うと怯えながら戦わされる。その恐怖はヴィスマルク兵がいない今でも染みついているのだ。
「これが戦争……。これが、人のやる事……なのですね」
「……慣れたくはないですね」
ロザベルは言って武器を構える。人を虐げ、優位に立つ。そんな事はいつの世でも行われてきた。戦いにおいて命が軽いことも、知っているつもりだった。だから『チャイルドギア』の思想も理解はできる。だがこれに慣れてしまえば人として壊れてしまうだろう。
首を振って意識を切り替える。こうはなるまい、と自らを律して剣を構えた。盾兵に命令を出しながら戦車を押しとどめ、真っ直ぐ敵に刃を振るう。螺旋を描く魔力剣の軌跡、それが戦車と背後のイブリースを削っていく。
「二人は死を望むかもしれません。……だとしても私は生きてほしい」
「……そうだね。でも、それも一つの幸せ、だよ」
ロザベルの言葉に頷くマグノリア。二人に死を与える。まだ幼い子供が心の寄る辺を失ったのだ。その喪失感は大きく、それを埋められる保証はない。ならばここで終わりを与えることも一つの慈悲だ。生きていれば希望はあるかもしれないが、同時に絶望もあるのだから。
それでも、それは二人が望んだ時だ。マグノリアは思いを振り切って魔力を展開する。手にした液体に魔力を注ぎ込み、赤光が戦場を照らす。光に含まれた劣化の力が、戦車とイブリースの力を削いでいく。
「彼らが望むままに……。それだけだ」
「うむ。とにかく今はこの戦いを突破せねばならぬ」
マグノリアの言葉に頷くテオドール。相手はイブリース化した兵器、しかもヴィスマルクの戦車だ。油断をすればこちらがやられかねない。こちらの意見を通すにせよ、先ず相手を制圧しなければならないのだ。
手にした武器に魔力を込めて、霊体と化したイブリースに向ける。テオドールの杖から黒い鎖が発せられ、それがイブリースを縛って動きを封じる。鎖に込められた呪いが霊体を縛り、同時にその活力を奪っていく。
「極力助ける。だがその助けがどういう形になるかは、まだわからんよ」
テオドールの言葉の重みは、自由騎士達も理解していた。
命があればいい。そんな物は『生きていれば、いつかはいいことがある』などと言い切れる楽観思考の意見だ。戦時と言う非常事態、周囲を見れば絶望と悲劇だらけ。『チャイルドギア』に組み込まれ、生きているだけでもマシな状況なのだ。
それでも、生きていてほしい。
それがエゴだ。あるいはまだ幼い命を奪いたくないと言う怯えだ。倫理や常識という枠組みからはみ出したくないだけの逃げだ。武器を持ちながら、命を奪いたくないと言う潔癖主義だ。それを違うと真っ向から否定するつもりはない。
だがそれでも助けたい。それこそが、自由騎士。水の女神の慈悲を宿すオラクルなのだ。
こんな時代だからこそ、こんな世界だからこそ。希望を与える騎士となる。その意思をもって彼らは戦いに挑む。
「……くっ」
「気にするな。俺は頑丈だ」
「まだ倒れてはいられません」
前衛で戦うアンジェリカ、アデル、そしてロザベルが戦車の攻撃でフラグメンツを削られる程のダメージを負う。
「容赦ない、ね。それだけ離れたくないんだろうけど」
「はう……!」
マグノリアとセアラも、ルードルフの攻撃を受けて、フラグメンツを燃やす羽目となった。
一進一退の攻防。その戦いは、未だ続いていく。
●
ルードルフとルーベルトは双子の兄弟だ。ルーベルトを殺してしまえば、既に死亡しているルードルフも未練を失ってこの世から消えるだろう。そうすれば、簡単にこのイブリースを廃することが出来る。それどころ、ルードルフを先に殺せば、精神的な寄る辺を失ったルーベルトは心のタガを外してしまう。
だが、自由騎士達は敢えてそれをしなかった。敢えて苦難の道を選び、ルードルフを生かそうとする。
「生きることを望むか否か……。大事なのは、それだけだ」
魔力を展開しながら、マグノリアは呟く。彼らが生きたいか否か。この魔力が薬になるか毒になるかは、それで決まる。もし生きることを望んだのなら、出来る限りのことはしよう。それが自分の使命なのだ。
「確かに死を望むかもしれないが、そうでないのなら生きてもらうぜ!」
拳銃を撃ちながらウェルスは叫ぶ。世界は残酷で、弱ければ奪われる。現に今、自分達はイブリースと言ういびつな存在だが双子の絆を裂こうとしている。死を選ぶことは十分に考えられるだろう。それでも。
「誘拐されてからは、たった一人の肉親だったのだ。それを失えば、その傷は深かろう」
テオドールは額に眉を寄せるような表情で呟いた。ヴィスマルク軍と言う恐怖の世界の中で、ただ頼りに出来た双子の絆。唯一存在した寄る辺を失えば、絶望するのも当然と言えよう。それを理解しながら、呪術でルードルフを浄化する。
「私達を恨みますか……。ええ、それを受け止めましょう」
双子の方割れを失って、最後の理性を失た『チャイルドギア』。その動きを見てアンジェリカは静かに言葉を放つ。泣きながら暴れる子供の精神で、戦車と言う暴威を駆る。その一撃を受けながら、武器を叩きつける。
「廻りて穿て、強襲式廻穿機構……ア・バオ・ア・クゥー」
痛む体を押さえながらロザベルは蒸気騎士の兵装をセットする。それは螺旋を描く塔。回転しながら突き進む破壊兵器。タービンのリミッターを外し、円陣を全開にして塔を回転させ、戦車の昇格に突き刺すように叩き込んだ。角の先端から火花が散る。
「アデルさん……!」
セアラは戦車の突撃を受けて倒れたアデルに手を当て、魔力を注ぎ込む。淡く暖かい光がアデルを包み込み、魔力が生命力に転換されていく。多大な魔力を失うが、ここで出し惜しみをするわけにはいかない。
「助かった。あとひと息頑張るとしよう」
セアラの癒しを受けたアデルは、槍を杖にして起き上がる。失った血液を埋めるように精神を狂わせ、その衝動を力に変えていく。振るわれる槍の攻撃が戦車の装甲に穿たれ、少しずつ削っていく。
ギギギギギギッ、ギギギ……!
それは自由騎士の攻撃で歪んだ機械部位の軋みなのか、或いは片割れを失った双子の怨嗟の音か。戦車は止まることなく自由騎士を攻める。衝角で陣形を貫き、副砲の火炎放射器が人を焼いていく。
「さすがに頑丈だな、まだ動くか」
「ヴィスマルクが自由騎士に対抗するために作ったと思えば、納得ではあるな」
ウェルスとテオドールがフラグメンツを失う程のダメージを受ける。
「救いの手を……」
「ここまで、です」
「やれやれ……だね」
すでにフラグメンツを失っていたアンジェリカとロザベルとマグノリアが、意識を失い、倒れ伏す。
「このままだと……」
セアラは呼吸を整えながら、状況を確認する。自由騎士達は皆フラグメンツを燃やし、体力も残り少ない。現在戦えるのはアデルとウェルスとテオドール。回復役である自分は攻撃できず、三名が倒れれば撤退するしかない。
イブリースは戦車のみだが、中の『チャイルドギア』を傷つけないようにしていることもあり、未だに動きは健在だ。人間で言えば、重要部位を避けて鎧だけ攻撃しているようなものである。あるいはそれなりのダメージを負って限界は近いのかもしれないが、それを測る術はない。
勝敗の天秤はまだ揺れている。
そしてここで撤退すれば、恐らくルーベルトは元には戻らないだろう。双子の方割れがいたからまだ正気を保っていたのに、それを失った状態で一人荒野を彷徨うことになるのだ。今ここが、ルーベルトの精神を留める分水嶺なのだ。
「最後の魔力を……」
セアラは魔力の最後の一欠片を解き放つ。無形の魔力を自らの魂を器として圧縮し、魔力の濃度が増していく。魂で作った器が破壊され、透明な癒しの魔力が解放された。それはさながら、卵から孵った不死鳥が羽を広げるように。これまでの傷を全て癒すかのような光が、自由騎士達に降り注いだ。
「見事だ。その癒しの魔力も優しい思いも、ルーベルトに届くだろう」
傷がいえたテオドールは呪力を展開させる。白の荊が鉄の車に巻き付いて、そこに宿ったイブリースに滅びの力を注ぎ込む。
「今は眠るがいい。イ・ラプセルの貴族の名において、不当に課せられた軍務の解放を宣言する」
魔力がイブリースの力を払い、浄化する。
『チャイルドギア』に薔薇れた少年が気を失うように、戦車も沈黙した。
●
戦い終わり、傷を癒す自由騎士達。セアラが施した回復の余波もあり、ダメージが後に残る者もいないようだ。
自由騎士達は急ぎ『チャイルドギア』を取り外し、中に捕らわれていたルーベルトの拘束を外す。小さく動く唇が、ルードルフの名前を繰り返していた。
「……意識は戻らないか」
救出されたルーベルトが目を覚ます様子はなかった。長い間、機械の一部として組み込まれたのだ。簡単に意識が戻るとは思えない。下手をすると一生このままの可能性がある。彼らはなんの力のない、ただの子供なのだ。
「……ルードルフ、お前はどうなりたい?」
ウェルスは霊魂となったルードルフに問いかける。
「どう……? ルーベルトと一緒に、いたい……離れたくない……」
ウェルスの頭に響いたのは、そんな言葉だった。
『ルーベルト、キミはどうなりたいんだい?』
マグノリアは気を失った子供に触れ、自らが思っている言葉を告げる。……答えは帰ってこない。ルーベルト自身は気を失ったまま答える能力を持っていない。
仮に持っていたとしても――どうなりたい、という漠然とした問いかけでは答えは出ないだろう。ただ望みがあるのなら、双子の片割れと離れたくない。そんなあいまいな答えになる。
「そもそも、ここまで心神喪失した子供相手に問う事自体が難しい話だったな」
アデルは武装をマキナ=ギア内に収め、肩をすくめる。四肢を拘束され、人殺しを強要され、イブリース化するまでの精神的なショックを受け、そして唯一すがっていた肉親を失ったのだ。
そんな状態で自らの生死を問う質問をしたところで、まともな答えが返ってくるはずもない。恐らくは自暴自棄になって、死を選ぶだろう。そんな状態での返答を真に受ける気はない。
「そうですね。体と心が落ち着いてから、改めて聞きましょう」
アンジェリカは言ってルーベルトを担架に乗せる。彼女が連れてきた衛生部隊が応急処置を終え、安全な場所に輸送を始める。魔術による治療はあくまで一時的な物だ。そうやって命を繋いで、病院に搬送してから初めて治療が始まる。
結局、ルーベルトへの質問などは保留となった。だが少なくとも、命だけは取りとめることが出来た。
「こんなことが、いつまで続くのでしょうか……?」
セアラが物悲しそうな口調で呟く。『チャイルドギア』の生産が続く限り、犠牲になる子供達は後を絶たない。自由騎士達が何とか対応してはいるが、それとて氷山の一角なのだ。
「調律施設への破壊工作……果たして、間に合うか」
誰にも聞こえぬように呟くアデル。今イ・ラプセルの密偵達が『チャイルドギア』の出荷元を調べている最中だ。そこへの破壊工作が叶うなら、この連鎖は止められるかもしれない。
――密偵達がドナー工房の情報を持ってきたのは、それから三日後の話だった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
FL送付済