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僕達は歩いていく

●
神の蟲毒は終わった。
五柱の神の思惑をかけた戦争は終わりを告げ、人は神の手から離れて未来を得た。
その未来は、神の庇護なき荒野の道。約束されていない道。
しかし人はそれを選んだ。自由騎士はその未来を勝ち取った。
この先、どんな道が待っているかなど知りようがない。未来を見る水鏡階差運命演算装置も、神なき今いずれ力を失うだろう。
この先に待つ未来を予知することなどできない。
例えば、家庭を持った平和な未来かもしれない。
例えば、あてもなく旅に出る未来かもしれない。
例えば、亡人を思って生きる未来かもしれない。
例えば、民と土地を統治する未来かもしれない。
例えば、商売に生きる慌しい未来かもしれない。
例えば、新たな土地を目指す未来かもしれない。
例えば、戦の傷を癒していく未来かもしれない。
例えば、覇道に目覚めた戦の未来かもしれない。
例えば、悪を進む血と暴力の未来かもしれない。
例えば、俗世を離れ霞を食う未来かもしれない。
例えば――
戦いは終われど、人生はまだ終わらない。この戦争も『あなた』という人生(ものがたり)のほんの一エピソード。未来という道はまだまだ先に続いていく。
創造神との戦いを終えた『あなた』はどのような未来を歩むのだろうか?
僕達は歩いていく――
神の蟲毒は終わった。
五柱の神の思惑をかけた戦争は終わりを告げ、人は神の手から離れて未来を得た。
その未来は、神の庇護なき荒野の道。約束されていない道。
しかし人はそれを選んだ。自由騎士はその未来を勝ち取った。
この先、どんな道が待っているかなど知りようがない。未来を見る水鏡階差運命演算装置も、神なき今いずれ力を失うだろう。
この先に待つ未来を予知することなどできない。
例えば、家庭を持った平和な未来かもしれない。
例えば、あてもなく旅に出る未来かもしれない。
例えば、亡人を思って生きる未来かもしれない。
例えば、民と土地を統治する未来かもしれない。
例えば、商売に生きる慌しい未来かもしれない。
例えば、新たな土地を目指す未来かもしれない。
例えば、戦の傷を癒していく未来かもしれない。
例えば、覇道に目覚めた戦の未来かもしれない。
例えば、悪を進む血と暴力の未来かもしれない。
例えば、俗世を離れ霞を食う未来かもしれない。
例えば――
戦いは終われど、人生はまだ終わらない。この戦争も『あなた』という人生(ものがたり)のほんの一エピソード。未来という道はまだまだ先に続いていく。
創造神との戦いを終えた『あなた』はどのような未来を歩むのだろうか?
僕達は歩いていく――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.勝ち得た未来を進め
どくどくです。
本編終わり! 無駄に文字数奪われる(自分で選んだ)アルファベット縛りから解放ヤッター!
●説明!
創造神との戦いを終え、本当の意味での自由な未来を得た人々。
その未来はどうなるのだろうか? というイベシナです。戦いを終えたキャラたちがどうなっていくのか。それをプレイングに書いてください。
基本的には『何でもあり』です。
旅に出てもいいですし、店を持ってもいいでしょう。領土を与えられてもいいぐらいの勲功はありますし、覚悟があるなら国を興すのもアリです。研究に明け暮れてもいいですし。武を極めてもいいでしょう。
敢えて動乱を起こすのも認めますし、悪の道を進むのもアリです。全年齢の枠から外れない限りは描写いたします。
互いの同意があれば結ばれるのも問題ありません。どくどく担当のNPCはご自由に。公式および他STのNPCはどくどくがコンセンサスを取って判断します。
★禁止事項
未来の話とはいえ、限度がある事はご了承ください。歴史を知っているかのように歴史の要人を殺したり、現在知識(原子力や遺伝工学など)を持ち出してくるのは禁止です。また現在の公序良俗に照らし合わせ、そういった事例に引っかかるような表現については一切描写は致しません。
★未来を描くに至っての基本設定。
寿命はおおよそ200才位(最大で250才までとします)。
1821年8月にエドワード・イ・ラプセルは王政を廃止。共和制を提案し、政治は王族による物ではなく、選挙で選ばれた民による民主制に移行していきます。それらの準備が整った後にイ・ラプセル王国の歴史は幕を閉じ、領土は諸侯(望むなら自由騎士も領土を得れます)達が治める各国代表が集まる共和制としての歴史が始まります。
マザリモノも子供を埋めるようになりました。マザリモノ同士の子供は、互いの親の因子(現在知識でいうDNA情報)の混ぜ合わせ。つまり純粋ノウブルだったり、どちらかの親と同じだったり、マザリモノ同士のキメラだったり。
マナはいずれ枯渇しますが、貴方達が生きている間はなくなる事はありません。神秘はいずれ消え去り機械文明が台頭し、貴方達が最後の魔法使いになります。
ホメオスタシスの呪いから解放されて、文明は発展していきます。病気の原因が細菌やウィルスだと分かり、40年後には水力発電所が設立されます。各国を繋ぐ大陸横断鉄道も作られ、流通と旅は快適になっていきます。
基本的には現在の歴史とおおまかには差異はないとおもってもかまいません。第一次世界大戦が神の蟲毒に値します。
どの程度の未来かを書き分ける為に、四つに分類させていただきます。
【1】近未来(五十年後まで):近しい未来です。それでも状況はかなり変わっているでしょう。
【2】一世紀(二百年後まで):人生の活躍を終えて、引退する頃です。
【3】三世紀(五百年後まで):当人は死亡しており、その功績や残した物を語る形です。
【4】伝説(千年以上):当人を知る者もなく、故人の伝承のみが残っています。
●場所情報
この世界のどこかです。好きに設定してください。どれだけ無茶でも、あるといえばあります。遥か未来に宇宙に進出している未来が『ない』なんて誰に言えましょうか。その未来を得たのは、貴方達です。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
本編終わり! 無駄に文字数奪われる(自分で選んだ)アルファベット縛りから解放ヤッター!
●説明!
創造神との戦いを終え、本当の意味での自由な未来を得た人々。
その未来はどうなるのだろうか? というイベシナです。戦いを終えたキャラたちがどうなっていくのか。それをプレイングに書いてください。
基本的には『何でもあり』です。
旅に出てもいいですし、店を持ってもいいでしょう。領土を与えられてもいいぐらいの勲功はありますし、覚悟があるなら国を興すのもアリです。研究に明け暮れてもいいですし。武を極めてもいいでしょう。
敢えて動乱を起こすのも認めますし、悪の道を進むのもアリです。全年齢の枠から外れない限りは描写いたします。
互いの同意があれば結ばれるのも問題ありません。どくどく担当のNPCはご自由に。公式および他STのNPCはどくどくがコンセンサスを取って判断します。
★禁止事項
未来の話とはいえ、限度がある事はご了承ください。歴史を知っているかのように歴史の要人を殺したり、現在知識(原子力や遺伝工学など)を持ち出してくるのは禁止です。また現在の公序良俗に照らし合わせ、そういった事例に引っかかるような表現については一切描写は致しません。
★未来を描くに至っての基本設定。
寿命はおおよそ200才位(最大で250才までとします)。
1821年8月にエドワード・イ・ラプセルは王政を廃止。共和制を提案し、政治は王族による物ではなく、選挙で選ばれた民による民主制に移行していきます。それらの準備が整った後にイ・ラプセル王国の歴史は幕を閉じ、領土は諸侯(望むなら自由騎士も領土を得れます)達が治める各国代表が集まる共和制としての歴史が始まります。
マザリモノも子供を埋めるようになりました。マザリモノ同士の子供は、互いの親の因子(現在知識でいうDNA情報)の混ぜ合わせ。つまり純粋ノウブルだったり、どちらかの親と同じだったり、マザリモノ同士のキメラだったり。
マナはいずれ枯渇しますが、貴方達が生きている間はなくなる事はありません。神秘はいずれ消え去り機械文明が台頭し、貴方達が最後の魔法使いになります。
ホメオスタシスの呪いから解放されて、文明は発展していきます。病気の原因が細菌やウィルスだと分かり、40年後には水力発電所が設立されます。各国を繋ぐ大陸横断鉄道も作られ、流通と旅は快適になっていきます。
基本的には現在の歴史とおおまかには差異はないとおもってもかまいません。第一次世界大戦が神の蟲毒に値します。
どの程度の未来かを書き分ける為に、四つに分類させていただきます。
【1】近未来(五十年後まで):近しい未来です。それでも状況はかなり変わっているでしょう。
【2】一世紀(二百年後まで):人生の活躍を終えて、引退する頃です。
【3】三世紀(五百年後まで):当人は死亡しており、その功績や残した物を語る形です。
【4】伝説(千年以上):当人を知る者もなく、故人の伝承のみが残っています。
●場所情報
この世界のどこかです。好きに設定してください。どれだけ無茶でも、あるといえばあります。遥か未来に宇宙に進出している未来が『ない』なんて誰に言えましょうか。その未来を得たのは、貴方達です。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
0個
1個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
29/∞
29/∞
公開日
2021年08月10日
2021年08月10日
†メイン参加者 29人†

●1821年~1871年
「さて、行くか」
とあるペストマスクの医者は戦争が終結した後も医者を続けた。戦争で傷ついた人を癒すために、その人生を捧げた。トレードマークのペストマスクはそのままにして、日々コートと帽子を変えていたという。
帽子のブランド名は『バーリフェルト』。
かの『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)の立ち上げたブランドである。
「僕に付き合うことなんてないのに。空は綺麗だよ」
「そうだね。だけど決めたんだ。決めたんだ。キミと一緒に僕も地下牢に住む」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はアレイスター・クローリーと共に地下牢で生活していた。
事の発端は『戦犯』であるアレイスター自身が自分の罪を償う為とイ・ラプセルの地下牢に身を投じたことだ。不老不死ではなくなったアレイスターは、もうここがゴールだと終の場所に暗く日の当たらない地下牢を選んだ。
そして、マグノリアはそれに付き合うと決めた。その心情はマグノリアにしか理解できない。ただ言える事は、マグノリアはアレイスターの為に残りの人生全てを捧げるのだという覚悟だ。未知の未来を見たいと言ったアレイスターの為に外の様子を伝え、時には何日もアレイスターの側を離れることなく。
「確かに一緒にいてもいいと言ったけど、君も物好きだよね。せっかく拓かれた未来なのにね?」
「これは僕の我儘だよ。キミを看取るか、あるいは看取られるまで傍にいたいんだ」
「何年先の話になる事やら。カビが生えてチーズになるよ」
人生を終えるつもりのアレイスターの心がここにはなくとも、マグノリアは自らの意思でここにいる。
教会の鐘が鳴る。ヘルメリア制の、自動鐘突き機の鐘の音。
「ここに二人を夫婦と認めよう」
神父の宣言の後に『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)はジョン・コーリナーと共に赤い絨毯を歩いていた。
「行きましょう、デボラ」
「は、はい」
デボラが着ているのは、純白のウェディングドレス。隣に歩くジョンの白いタキシードに合わせた一品だ。カタクラフト部分が見えないように工夫されたいドレスを着て、デボラは教会を進む。
「まさかあんなところでプロポーズの練習をされているとは思いもしませんでした」
「あ、あれは……! まさか聞かれているとは」
教会で愛を誓い合った二人。その決定打となったのは、デボラがプロポーズの練習をしている所にジョンがやってきたことだ。そこからは電撃的に進み、今結ばれた形となった。
「とはいえ、暫くは平和とは言えない日々です。お互い忙しいでしょうがよろしくお願いします」
「はい! それでその……」
顔を赤らめ、小さな声でデボラは続けた。
「二人の、こ、子供が欲し……後でお話します!」
愛する人の腕を掴み、二人きりになったら勇気を出すぞと気合を入れるデボラだった。
――それはただの噂話。
新体制の社会の裏で他者を虐げるヒトを守るために暗躍する存在がいるという。
曰く、私腹を肥やす承認を切った部芸人。
曰く、食べる物に困った人達に米を配る農夫の主。
曰く、旧体制の権力を平謝りさせる元王女。
どれもこれも信ぴょう性に欠けるが、ただその噂があるところに一人のマザリモノがいるという。
「次の仕事は……工場の不法廃棄を暴け、か。了解了解」
『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)はハトから渡された紙をちぎって燃やす。灰を踏みつぶして完全に証拠を消してから、命令にあった工場の元に向かう。
戦いが終わっても、エイラは戦っていた。正義に目覚めた、というわけではない。妖怪の血が滾ったのか、はたまた血と鉄の世界という沼につかり過ぎたのか。
(こういう形で縛ってもらわないと、オレは妖怪になっちまうからな。自由気ままに生きてれば、末は母様のようになる)
かつて相対した母を思い出す。同じ血が流れているなら、同じ結末になってもおかしくない。だから――自分を律する主が必要だった。
「それでも駄目な時は、介錯仕ろうかね。オレがオレでいれる間に、信用できる者に頼んどくか」
流ちょうに大陸共通語を喋りながら、エイラは『信用できる相手』を思い浮かべる。
さて、化生の血は如何なる物語を紡ぐだろうか。
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はマリアンナ・オリヴェルと結ばれ、平和な日々を過ごした――
「……となれば苦労はないか」
アデルは膨大な書類を前に沈痛なため息をついた。
王政から共和制に移行するにあたり、様々な問題が発生する。利権や責任問題から始まり、軍役、法律、警察権などの国防問題。関税や流通などの経済問題。その他、人員配置等を含めたこまごまとした組織関係。とかく解決しなければならない問題は多かった。
ニルヴァンの名誉将軍。各戦場での様々な活躍。そう言った功績もありアデルは軍の退役を認めてもらえなかった。
「俺は傭兵上がりなんだがな」
「アデルがいるだけで退役を踏みとどまる人もいるわ」
「俺は重石か」
そう言った一面もあったが、やはり実地の経験は大きい。軍の中にいてその才能や人格を見てきたアデルだからこそ言える意見もあり、それらはかなり参考になったという。
「全く、戦争が終わってからの方が忙しいとはな。碌に家に戻れん」
そうぼやくアデル。退役後は何処で店をもってゆっくりしたいものだ、と大きくため息をついた。
「それでは行ってきますね」
『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)は荷物を掲げ、両親に旅立ちの挨拶を告げた。
ここはティルナノーグ。シャンバラの妖精郷と呼ばれた場所。シャンバラ戦役の後、傷の言えたヨウセイ達はそれぞれの故郷に戻った。ナーサの両親も同様にティルナノーグに戻ってきていた。
「もう行くのかい?」
「はい。世界をもっと見てみたいんです」
両親の言葉に笑顔で答えるナーサ。
世界は広い。戦争で多くの国をめぐったけど、それはまだ世界の一部だ。まだまだ見ていない場所はたくさんある。
「何時かマナは消え、世界は大きく変わるでしょう。その時にヨウセイがどうなるのか、世界がどうなるのか。それは解りません。
だけど、道はそこにあります。知らない世界がそこにあるのなら、行ってみたいんです」
自由騎士が選んだ未知の世界。神の保証はなく、魔法の加護もない未来。
だけど、そこにはきっと何かがあるのだ。
「マナが消えてもヨウセイと自然の繋がりは消えないはずです。きっとこれからも、ヨウセイは自然と共にあるでしょう」
――ナーサの予測が正しいと証明されるのは、この後さらに数十年後。彼女自身が記した書物により明らかになる。
歌声は風に乗り、人の心に届く。
『闇払う歌姫の声』秋篠 モカ(CL3000531)は戦争の後、『アイドル』として歌を歌い、踊り、そして奏でていた。世界中をめぐり、街の舞台や村の公園、街道の休憩所、そう言った人の集まる場所で歌を披露していた。
「モカだ!」
「歌姫モカだ!」
世界を流浪し一ヶ所に留まらないモカだが、その名声は高く行く先々で喜ばれていた。世界を巡る旅にモカの歌は増えていく。喜びの歌、祭りの歌、曲、輪舞曲、楽しいリズムもあれば、悲しい曲もある。その全てが感激を持って受け入れられた。
モカの後に続く者も多く現れた。モカの歌声に感化されたもの。モカの活躍に憧れた者。モカの背中を追いかけたい者。或いはモカの努力と才能に嫉妬した者。多くの『アイドル』が生まれ、その数だけのドラマが生まれていた。
「では、次の曲です。遠い昔に存在した『プレールの歌』を」
それはかつて存在した村で生まれた曲。紆余曲折あって一度失われ、そして複数の人達により再現された曲。
それは今も、『アイドル』モカの持ち歌として広く伝わっていた。
「どうです? モカさんの歌は」
蒸気ラジヲから流れるモカの歌声。『プレールの歌』を流しながら『意思を継ぐもの』ビジュ・アンブル(CL3000712)は目の前の墓に語りかける。
神殿音楽隊という戦闘向けではない部隊所属のビジュ。実際荒事は得意ではなく、数後の戦闘でカタクラフトは新品に換装。医者からはこっぴどく叱られる事となった。それでも、かなえたい願いがあったのだ。
「あれから色々ありました。今日はその報告です」
プレール村にある墓に語りかけるようにビジュはここ数年の報告を行う。創造神との戦いを終え、激変する世界。自由騎士の面々がどうなったかと、世界がどう変わったか。それを優しく語る。
「村の緑は少しずつ戻りつつあります。いつかはここに、人が戻ってくるでしょう」
言ってからビジュはここで眠る者が愛用していがギターを取り出し、曲を奏でる。
「私もこの歌をあなたに捧げます。この歌が多くの人に届き、そしてその心を癒さんことを」
奏でられるプレールの歌。この村で生まれ、人の手により潰え、しかし多くの努力で蘇った曲。
旋律は風にのり、人の心に届く――
ここは軍の訓練所。そこにある教室の一つ。今日も新兵への教育が行われていた。
「今日は――なんか気分が乗らないんで自習」
『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)は教壇の上でそう言い放ち、教室を去ろうとする。生徒達の驚きの声を感じながら教室の扉を開け――そこにいた上官に気付いて回れ右する。
「実戦ではこういう予測不能の事もあるので、心構えは必須っす」
それっぽいことを言うが、きっと誤魔化せないだろう。言い訳を考えながら、目の前のヒヨッコたちに何を言うか頭を悩ませる。
意外な事に、それはすぐ出てきた。
「騎士ってのは、戦う仕事。兵卒ってのは、指示に従う仕事。だから銃弾に例えるのは正しいんす。理由も結果も知ったこっちゃない。これが基本」
あまりと言えばあまりの言葉に新兵達の顔が歪む。それを確認した後に、ジャムは続けた。
「でも銃弾になったのと、銃弾を続けてるのは自分の意志。そこの責任と自由だけは自分持ち。それだけは忘れちゃ駄目。
そこから逃げようが、続けようがそれも自由。好きに生きるっすよ、ヒヨッコ共。どーせ世界はクソなんすから」
「そろそろ頃合いだな」
『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は言うや否やのタイミングで身を隠し、逃亡する。
戦争が終わってもロンベルの気性は変わらない。強者を求め、喧嘩を続ける。今までは戦争で敵がいたから見過ごしてもらった所があるが、戦争が終わって平和になった今では喧嘩っ早い性格は疎まれる。
自分を押さえに来る奴と殴り合うのもいいが、それならいっそもっと強い奴と戦いたい。そう言えば北の果てに巨人がいるって話を聞いたことがある。アマノホカリは消失したが、央華大陸には喧嘩家を集めた『リョウザンパク』とか言う場所もあるとか。
「刀と鎧があればいいさ。喰いもんは……途中で盗賊なり幻想種なりから奪うか。
さて、何処に行こうかね。満足させてくれよな」
まだ見ぬ強者を求め、ロンベルは虎の口を笑みに変えた。獰猛な、肉食獣の笑み。食欲ではなく、戦闘欲を満たしてくれる相手を求めてロンベルは歩を進める。
――公式の記録に、これ以降ロンベル・バルバロイトの名が残る事はなかった。
「王様世話になったわね! 私自由騎士やめるからよろしく♪」
『幽世を望むもの』猪市 きゐこ(CL3000048)は創造神との戦いの後、そう言ってそれまでの地位を返却した。引退に伴う報酬だけ受け取り、社会的な立場は全て捨てたという。
「領土とか要らないわよ。あ、でも研究施設がもらえるなら良かったかも」
とはきゐこ本人の弁である。彼女は街の裏に居を構え、魔導の研究にいそしんだという。創造神を失い、新たなマナが発生することがなくなったこの世界。緩やかに消えていく魔法の記録を書き留め、後世に残すつもりのようだ。
「魔導書のリストはこんな所ね。後は……お金稼ぎに小説とか書いてみようかしら。私たちの活躍とか。面白おかしく書いて後世に名を残すのもいいかもね」
我ながら名案、とばかりにきゐこは自伝を含めた神の蟲毒の記録を書き始める。当人たちからすれば過去の編纂。遠い未来からすれば荒唐無稽な物語。そんな記録を記し、そして自分の活躍も記す。
「そうそう。アマノホカリ時代の事も書いておこうっと。何処から書こうかしら?」
筆が乗ったきゐこの執筆は止まらない。後の歴史学者が『キーコ文書』としてこの時代の様式を知る重要文献として取り扱うなど、この時誰も想像できなかった。
「ありがとうございます」
『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)はシャンバラの一角でアクセサリー屋を営んでいた。自分で作ったものを売り、その儲けは自分の生活費とヨウセイの生活保護に当てていた。とはいえ、
「余計なお世話だったかもしれませんね」
ティルダが思うほど、ヨウセイは生活に困窮していなかった。シャンバラ戦役後、多くのヨウセイがそれぞれの故郷に帰って自分達の村の復興にいそしんだ。イ・ラプセルの保護などもあり、その生活は少しずつ安定していった。
ヴィスマルクなどに奴隷として捕らわれていたヨウセイ達もその多くを救いだし、その支援は続いている。何よりも、ヨウセイ達自身が自分の足で生きようとしていた。森に帰る者、蒸気文明に溶け込もうとする者、様々だ。
「ミトラース、ヨウセイは幸せになります。貴方の愛などなくとも」
それはティルダの復讐。ミトラースの支配から離れ、幸せになったヨウセイ達。その歩みが、かつてヨウセイを虐げた神への復讐なのだ――
「ままー。これなにー?」
娘からかけられた声に『復讐を終えた死霊術師』アルミア・ソーイ(CL3000567)は振り向き驚愕する。愛しい娘が手にするその本は――
『よお、ずいぶん幸せそうじゃねえか! 愛しい人と結ばれて、ハッピーエンドとは驚いた! てっきりフラれて落ち込んでオレを頼るかと思ってたんだけどな!』
死霊術教化書。またの名を、バカでもわかる死霊術。その幻聴がアルミアの耳に届く。
「フラれてません!」
『いやだってあの男だしなあ。あっちにフラフラこっちにフラフラ――おぶぅ!』
アルミアの恨みのこもった一撃が書物に叩き込まれる。
「ねえねえ。これままのまほうのほんなの? なんかしゃべってくるんだけど」
「っ!? その本の声が聞こえたの!?」
「うん。まほうのことをおしえてくれるって。ままみたいにりっぱなまほうつかいになるね」
『いい才能を持ってるぜ、お前の娘。これなら一流の死霊術師になれる!』
「わーい」
「その本は、駄目だから……っ」
倉庫の奥の奥に突っ込み、存在すら忘却したあの本。それを娘が受け継いだなんて……。
母と娘、そしてイカれた魔導書。これらが生み出す未来がどうなるかは、また別の物語――
「ヤー、これで大手を振って行商人が出来るゾー!」
大空の下で伸びをしながら『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)は蒸気自動車に乗る。街から街へと運ぶ定期便。それに乗って当てもなく行商をするルー。
「一つの街で構えるよりも、いろんなところにお手軽に安いお薬を。コレヨネー」
そんなモットーの元、ルーは旅の薬商人を行っていた。家族がいれば居を構えたところだが、今は何もない独り身だ。自由であることの利点を生かし、やれることをやろう。そう思って旅に出たのだ。
「新しい学を取り入れ、薬も常にアップデート。最新の薬を、手に入りやすい場所で。
……カダちゃんもきっと望んでたよね、多分」
思いだすのは、央華大陸の神と呼ばれた存在。ソフ00にて相対し、人類の敵となった存在。反転した神は人に病魔もたらす存在だったが、そうでないならきっとこういう事をしたかったのだろう。
「今日は東に、明日は西。さあ、大陸を回るわヨ!
新しい薬と、才覚溢れるイケメンを求めて! あ、年下でもいイイネ!」
ルーの旅は続く――
●1871年~2021年
禁酒法――
端的に言えば『アルコールを含む飲料の製造と販売の停止』する法律だ。酩酊による犯罪が多発し、同時に酒類を売る犯罪者に対する規制が目的だった。これにより酒類は絶たれ、悪党の収入は減るだろう――という目論見は大きく外れることとなる。
人々は酒を求める為に違法に国の垣根を超え、酒を求めるヒトは密売という形で悪党に与する。警察の目の届かぬ場所にバーが生まれ、犯罪者の温床となった。結果として法施行前よりも悪党は栄えたのである。
「ほんに。目まぐるしい世の中。人の欲望に限りなく、いつの世もそれに溺れる者ばかり」
その時代の流れで裏社会を取り収めた『胡蝶の望み』誡メ・巴蛇・ヒンドレー(CL3000118)は物憂げに呟いた。こうなる事は解っていた、とばかりに裏社会を牛耳り、情報を操り裏社会の秩序を操っていた。
「姐さん、お仕事終わりました」
そしてそんな誡メの傍らには『分相応の願い』咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)がいた。誡メが座して全てを操る首魁なら、咎メは暴力で支配する裏社会の武の象徴。徒手空拳から刃物に銃。ありとあらゆる暴力をもってもめ事を収める役割だ。
「お疲れ。次は――」
目まぐるしく動く裏社会。多くの欲望が蠢くこの世界で、動きを止めている余裕などない。一手遅れれば出し抜かれ、情けをかければ寝首をかかれる。悪行の坩堝、暴力の見本市。だけどそんな場所だからこそ艶やかに咲く華がある。この場所だからこそ、色濃く写る紅がある。
これは悪が栄える時代。そんな汚濁の時代に咲いた二輪の華の物語――
カーテンを開け、そこから朝日が室内を照らす。
「おはようございます、あなた」
「うん、おはよう。たまき」
今日も昇る朝日を感じながら『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)は長く一緒に歩んできたアンセム・フィンディングを見た。共に年を取ったが、だからこそ理解できることもある。仕草から伝えたい事、言いたい事。それを察してたまきは机の上の筆をとった。
「今日は何を書きますか?」
「そうだね……孫達の朝を書きたい」
文化が発展し、ボタン一つで日常を記録できる時代。
それでもアンセムは筆をとり、絵を描くことを止めなかった。そしてたまきはそんなアンセムと共にずっと歩いてきた。
「おじいちゃん、絵を描くのー!」
「これ、私達? 動かない方がよかった?」
「大丈夫よ。おじいちゃんは、貴方達が動いても覚えているから」
たまきは孫たちの頭を撫でながらそう言う。アンセムはただ一心不乱に筆を動かし、脳裏に浮かぶ光景を書く。
『ふふ、変わらないわね。あの時私を描いてくれた時のように』
たまきは壁にかけてある絵を見る。アンセムがたまきをモデルに描いた絵。たまきにとって、一生の宝物。
「一生、傍にいますから」
それはたまきがあの日掲げた誓い。その誓いは続き、それに見合うだけの幸せを手に入れた。
きっとこれからも。
かつて亜人差別があった。
当時はそれが当然の風習だったが、価値観が変われば評価が裏返るのもまた歴史の流れ。ノウブル至上主義は歴史の中でも唾棄される行為となる。その辺かに受け入れられない者は、ウィンリーフと呼ばれる自治区に逃げるように足を運んだという。
『亜人嫌いの街』と揶揄されるその自治区は、かつて『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)が考案したノウブルだけの街。かつての五国戦争の報酬でライモンドが得た領地。
ノウブル至上主義が迫害されることを予想していたのか、はたまたただの偶然か。この自治区は結果として時代についていけない多くのノウブル達を受け入れ、発達していった。僅か一代で都市と呼んでも差し支えない大きさに発展した街。住民たちは亜人の社会進出を受け入れられない者達だが、その怒りが暴力となる事はなかった。
「礼節をもたぬ者はノウブルの恥さらしだ。ノウブルの誇りを忘れるな」
ライモンドが強く亜人に対する暴力行為を封じたからである。これにより、ノウブルの暴動は押さえられ、どくどくのアフターネタが一つ消え……げふんげふん。ともあれ大きな事件は回避されたのである。
そして亜人嫌いであるはずの彼の傍らには、一人のソラビトの女性がいたという。彼女は常にライモンドに送られたネックレスを付けていた。
――それが婚約の証であることは、二人しか知らない事実。
「店を部下に任せて、悠々とした佐クラと幸せ結婚ライフ~。田舎に引っ込んで、ゆったり過ごすぜ」
と、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は言ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「ライヒトゥームさん、関税の事でもめてるんで助けてください!」
「おい、ウェルス! 大陸横断鉄道の件で繋ぎを取りたい相手がいるんだ! ツラ貸してくれ」
「新型通信機器のデモンストレーションなんだけど、どうもスパイが紛れ込んでるらしいのよね。ちょっと調査してくれない?」
「まことに申し訳ありませんが、新貨幣に関していろいろご意見いただければ」
「祭りといえばアンタ! 酒と食べ物の流通と会場設立のノウハウを教えていただければ!」
「詐欺集団の『シラサギ』『クロサキ』のコンビが出たって――」
ウェルスの元に舞い込んでくる幾多の案件。商人として自由騎士として多くの事件を解決してきたウェルスを頼って、多くの商人や兵士が駆けこんでくる。
「おお、おう……わかった。これが終わったら引退だな」
その度にウェルスはそう言っては顔を出し、意見して事件を解決する。そしてその度に発生する事件や案件を頼られ、また引退が伸びていく。
「お前ら、俺にばっかり頼るんじゃねぇ!」
なんだかんだで面倒見がいいのか、ウェルスはこの後二百歳になるまで部隊の表裏で動き続けたという。その働きがなければ今の経済はなく、或いはどこかで破綻していたとまで言われるほどだ。
「ちくしょう、今度こそ引退して嫁と平和に過ごすからな!」
ウェルスの叫び声は、まだまだ続きそうだ。
「知ってる? このゲームは実話がもとになってるんだよ」
「ウソ言わないでくださいよ。これって『キーコ文書』と『キーコ黙示録』がネタでしょ?」
『明日を繋いだ拳』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は曾孫たちが遊ぶゲームを見ながら、そんな事を言う。曾孫(もうすぐ成人)はカーミラの言葉に胡乱気な表情を浮かべる。
ゲームの名前は『MaGearSteam』。魔法と蒸気文明が交わる時代の戦争の話だ。かつての賢者が書いたとされる『キーコ文書』と『キーコ黙示録』を元に作られているとか。
「大体ひいおばあちゃん、自分でも頭はあまりよくないって言ってたじゃないか」
「ホントだってー。あ、この子。初見は敵だけど仲間になって南方舞踏を手に入れるキーになるから。とりあえずぶん殴って倒して」
「ただの蛮族じゃないですか、この子」
「あ、酷いなー。本人が聞いたら……大笑いするかな、うん」
今ここにはいない友人の事を思い出し、カーミラは笑みを浮かべる。きっとどこかで変わらず走り続けているのだろう。自分と同じように。
「鉄塊将軍は強いけど、うまく倒せば隠し必殺技が覚えられるよ」
「ムリムリ! 上手くどころか普通に倒せないからこんなの!」
曾孫の悲鳴を聞きながら、当時の戦いを回顧する。
あの日は遠い過去。だけど今でも忘れ得ぬ輝かしい時代。
その時代を走り抜けた証は、心の中で輝いている。
●2021年~
「~♪」
とある南方部族の娘は、戦争終結後に自分の島に帰り、部族たちと共に踊り続けた。
後にその踊りは時代を象徴する文化となり、東方舞踏で有名な『鬼神楽』蔡 狼華(CL3000451)の舞と比べられるほどになったという。
太陽のような激しい踊りと、水面のような静かな舞。相反する踊り子が、かつて同じ騎士団に所属していたという事実はあまり知られていないようだ。
1800年代を知る資料として歴史家が真っ先に挙げるのはベルヴァルド録だろう。
これは『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が記したとされる記録書で、当時の戦争の記録をまとめ上げたものだ。当時テオドールが在籍していた国の資料はもちろん、他国の識者の意見を聞き集めて他国の記録もまとめ上げ、同時に議論をして多角的に互いの国の意見を交わしたとされる。
その成果もあって、当時勝利国であるイ・ラプセル国だけが高く持ち上げられた差別的な資料ではなく、そのことがベルヴァルド録の信頼性を高めているとされている。
また、テオドール・ベルヴァルドと言えば大陸横断鉄道に多く出資し、同時に飛空船の民営化に大きく貢献した。これらの発達は大陸のインフラストラクチャーを発達させ、経済を大きく発展させたとされている。
ここまで広く世に貢献したベルヴァルドの一族だが――当時の貴族にしては珍しく――妻はただ一人だけで、その家系は広く広まらなかった。妾の類をもたず、テオドール・ベルヴァルドの代で生まれた子供は十人に満たない。血統を重んじる貴族の発想と相反するが、それを悔やむ資料は存在しない。
なお、今なおベルヴァルドの一族は大陸に存在する。かつてのベルヴァルド領地――元イ・ラプセルに、改築を重ねて今なおその館と血族は存続している。
アデレードを中心とした海路。それをモラル海路と呼ぶ。
かつて『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)と呼ばれた女史が切り拓いた海路で、潮の流れや岩礁の有無などを徹底的に調べ上げ、灯台などで海路から外れることなきように船を導く施設を設立した。この海路によりロンディアナの蒸気機械を他国に輸送でき、同時に当時戦争の傷跡が残っていたロンディアナの復興も大きく進んだ。
「いずれ空路にとってかわられるだろうけど」
と、海路を確立させたステラは言ったが、空路は風や空を行く幻想種などの不安定要素も多く、保険の意味も含めてこの海路が途絶える事はなかったという。人は安全な海路を得て発展し、その貢献者であるステラ女史を『海の女神』と崇めたという。――当時の彼女が聞けば、一笑に伏していたかもしれない。女神は私じゃない、とばかりに。
そんなステラ女史は、子沢山であったことでも有名である。一時期は仕事に没頭していた彼女だが、ある日療養所で知り合った男性と結婚。その後も一ヶ所に留まらず、多忙な人生だったと記録されている。
『母はきっと、罪を償いたいんだと思います。きっと戦争の時に何かあってそれを雪ごうと働いていました』
その息子の一人は母のことをそう言っていた。
『奪っただけ、次に繋げたい。母はいつも、そう言ってました』
侵した罪が雪がれたか、否か。それは彼女にしかわからない。
『近代農業の父』と呼ばれた男がいる。
その名を『平和を愛する農夫』ナバル・ジーロン(CL3000441)。
当時魔力による気候操作や大地の活力増加などに依存していた農耕を一変すべく活動し、世界各国を回って土や気候の調査を行ったという。マナ枯渇が深刻化したころにはそのデータはまとめ上げられ、懸念されていた食料危機による暴動を寸でのところで止めたとされている。
長年集めたデータを基にしてその土地に適した作物を供給、同時に畜産業等を活用した多毛作の確立。後に遺伝子工学により正しさが証明された品種改良法の手法。土地や各農作物に適した肥料の選別法。水質調査による作物の味の変化。農具の改良。災害時の復興マニュアル。その他数え上げればきりがないほどの、農業の基礎を生み出したとされる。
これら理論の確率が広く伝わった背景には、かのジーロン氏の人柄もあったとされる。暴力を好まず、ただ誠意をもって人に接する。虫も殺せないような優しさに人は惹かれ、その人格故に神格化されている。彼を祀る神社も存在し、収穫時にはジーロンに供物をささげる農家も少なくない。また多産の神としても崇められているとか。
かつては万難を退けた騎士だという記録もあるが、信ぴょう性は薄い。農業への多大な貢献もあるが、記録が正しければ当時のジーロン氏は十八歳。まだ若き彼が戦争で活躍できたとはとても思えず、これは記録が交差したものだというのが専門家の意見として有力だ。
この優しい顔をした銅像の彼が、鍬ではなく盾と槍を持ち戦争に身を投じたなど冗談にも程がある――
「本日は皆様方、お集まりいただき感謝の極み。
今宵は共和制発足から三百年という歴史ある日。それを祝して我らイスルギ劇団は――」
ここはとある劇場。かつてイ・ラプセルと言う国があった場所に作られ、そして今は大陸有数の巨大な劇場だ。その歴史は深く、共和制が掲げられた年に作られ、そして発展していったという。今では数千単位の観客を入れることが可能な大きさとなっていた。
「ふっ! ふっ!」
そんな激情の一角で、体を動かす少女がいた。拳を突き出し、蹴りを放つ。その挙動一つ一つが精錬されており、素人が見ても一朝一夕ではない動きだと分かるほどだ。
「今日も精がでますね、カナンさん」
「ええ。舞は武に通ず、逆もまた然り。曾お婆様の教えです」
そう答えるのは、カナン・イスルギ。かつてこの地で活躍し、この劇場を作るのに一役買った『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)の曾孫だ。その活躍を称えられ、劇場には彼女の銅像が存在していた。
「曾お婆様は私が幼い頃に亡くなりましたけど、その意志は継いでいます」
当時、まだ大きくなかった所属劇団を率いて世界中を回り、劇場を設立した。孤児院などの慰問を行いながら劇団の質を高め、死ぬまで演劇に貢献した曾祖母。今の演劇は彼女の活躍あってだと、誰もが口をそろえるという。
「曾お婆様、私も頑張ります。精一杯楽しんで、みんなを笑顔にして見せます」
まず自分が楽しみ、そして他人を楽しませよ。曾祖母の教えは、正しく次代に受け継がれていた。
「それでは開幕です! 第一演目は――!」
寄せては返す波の音。イ・ラプセル島の近郊にある小さな島。
そこがアーリオ・オーリオ事業団の始まりの地であることを知る者は、今は多くはない。今の事業団員でさえ、その事実を知る者は少ないのだ。
かつて『勝利の輝き』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)がそこに作った孤児院。最初は戦災孤児を癒すことを目的としたその施設で教育を受けた子供達は、世間に出るや否や頭角を示した。
その才能を発揮して財を成し、そしてその財をもって虐げられる者達を救済した。そしてその子達に教育を施す。当時まだ低かった識字率を大きく上昇させ、また貴族にしか与えられない高い教養を広く世間に伝えたのだ。
それは共和制として自由を尊ぶ風習になった世の流れとうまく噛み合った結果かもしれない。だが一番の理由は子供達の才能や施された教育による部分だろう。師に教え得られた恩を返すように、教育という種は広がっていく。
識字率が高まれば危険な標識を避けることができ、また危険を伝えることができる。会話が出来れば議論を交わし、様々な意見を吸収する事が出来る。知識は世界の本質を言語化したもので、それを知るからこそ進める道がある。あの建物はどうして倒れないのか? 性別にはどんな意味があるのか? 法とは? 国とは? ヒトとは? それを知る足掛かりになる。
広く教育が伝播し、そして経済は発展する。そして島の卒業者はアーリオ・オーリオ事業団を擁立する。これまで以上に広く、教育の輪を広げる為に――
そして教育を語るには欠かせない存在となったアーリオ・オーリオ事業団。その事業擁立者は記録に残っているが、彼らを教育した者は歴史には残っていない。
ただ『聖女』という名前だけが残っているという。
●遥かなる未来で
とある地域に三つ目婆の民話がある。その名前は『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。
なんでもその婆さんは大酒のみで怒りんぼで我儘でうんちくを垂れるという絵に描いたような迷惑な存在だったという。近所の子供につまらない怪談を聞かせては泣かせ、暴れて隣人に迷惑をかける事は日常茶飯事。
挙句に酒のツケは溜めこむ、隙あらば食い逃げする、借金は踏み倒す、整理整頓なんてしないので書簡はどこに行ったか分からない。誰も彼もが眉をひそめ、ため息をつく放蕩ぶりである。
ただまあ、それは逆に言えばそんな婆さんでもため息をつかれる人が沢山いるわけで。
その医術の腕は神がかり。魔術が途絶えた時代でも変わらずその腕前を披露していたという。曰く『婆さんにかかれば死神も呆れて逃げ帰る』そうだ。
そんな婆さん、一丁前に伴侶がいたとか子供がいたとか。その辺りは文献によって様々だ。となりにいる人物もミミズクのケモノビトだったりクマのケモノビトだったりカタクラフトの女騎士だったりとバラバラである。
ただ共通しているのは、その周りには必ず人の輪があった事。そして人に囲まれ、どこか楽しげな表情を浮かべている事である。
星々を行きかう時代――
ホメオスタシスの呪いから解放された人類は、ついに星の重力からも解放される。しかしやんぬるかな。人の業からは逃れられない。財と名誉を求め、人は人と争い続ける。
強力な重力波の影響により光線類やレーダーがまともに機能しないリルデリア宙域。ここでは中距離からの砲撃や至近距離からの武器攻撃で戦うしかない。
宇宙船『鉄腕婆』号もまた、そう言った改造を施された船だった。船の前部に二対の格闘戦アームを携え、至近距離用の探査レーダとしてウサギの耳に似た短距離レーダーを装備していた。
「先輩知ってました? この『鉄腕婆』の名前は私のご先祖様なんです! その名前は『明日への導き手』フリオ・フルフラット(CL3000454)! 別名『蒸気兎』とも呼ばれ、悪いことをすると飛んでくるそうです!」
「へー。そいつはすごいすごい。どこのクスリをキめやがったんだこの娘は」
「本当ですよ! こないだ実家の物置の片付けしてたら色々出てきたんですって! むかーしの女神様由来の指輪とか、手記とか」
「手記ってペーパー記録なんざよく残ってたな。年代もんだぞ」
「昔のものを大事にする家系ですから! もうすぐ先輩も知ることになりますからね」
「は?」
「私赤ちゃんできました!」
――会話が止まった。
「だ――」
「誰の、とか聞いたらぶっ飛ばしますからね」
――また会話が止まった。無言で踵を返す音。
「あ。何処行くんですか先輩! ねえ、先輩。先輩。ぱぱー。あ。崩れ落ちた。ぱーぱー」
――人の業は、どの時代でも変わらない。
『一番槍』瑠璃彦 水月(CL3000449)と言う者がいた。
彼がいつの時代に生まれたかと言うのは定かではない。記録を信じるなら1800年代生まれで奇跡的な長寿である。当人も『いやあ、奇跡を使って寿命を延ばしたのでありますよ』等と言っているが、眉唾モノである。瑠璃彦の血を継ぐ者がその名前を名乗っていると考えるのが妥当だ。
水月は旅人だった。ありとあらゆる場所に出没し、様々な出会いを果たした。その交友は広く、そして様々な年代の者がいた。老若男女、その幅は大きい。
とある老人は『水月は何時までも若いなあ。その姿を見てると昔を思い出すよ』と言っており、とある青年は『産湯から成人式まで世話になった』と言っている。一ヶ所に長くとどまるかと思えば、急にどこかに消えてしまう。本当に気まぐれと言っていい存在だ。
「未来を全身で感じる、なんとも贅沢なことでしょうか」
あたかもかなり昔から生きてきたかのような言葉を放った水月。その没年もわからない。いつの間にか人の前から消えていった。
実はまだ生きており、私達の知らないどこかを旅しているのだろうか? 水月と言う存在は本当に不老不死で、世界が終わるまで旅を続けるのだろうか?
それは何という奇跡。未来にむかう旅人――
●
戦いは終われど、人生はまだ終わらない。この戦争も『あなた』という人生(ものがたり)のほんの一エピソード。未来という道はまだまだ先に続いていく。
僕達は歩いていく――
ヒトが得た、見えないけど確かにあるこの道を――
「さて、行くか」
とあるペストマスクの医者は戦争が終結した後も医者を続けた。戦争で傷ついた人を癒すために、その人生を捧げた。トレードマークのペストマスクはそのままにして、日々コートと帽子を変えていたという。
帽子のブランド名は『バーリフェルト』。
かの『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)の立ち上げたブランドである。
「僕に付き合うことなんてないのに。空は綺麗だよ」
「そうだね。だけど決めたんだ。決めたんだ。キミと一緒に僕も地下牢に住む」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はアレイスター・クローリーと共に地下牢で生活していた。
事の発端は『戦犯』であるアレイスター自身が自分の罪を償う為とイ・ラプセルの地下牢に身を投じたことだ。不老不死ではなくなったアレイスターは、もうここがゴールだと終の場所に暗く日の当たらない地下牢を選んだ。
そして、マグノリアはそれに付き合うと決めた。その心情はマグノリアにしか理解できない。ただ言える事は、マグノリアはアレイスターの為に残りの人生全てを捧げるのだという覚悟だ。未知の未来を見たいと言ったアレイスターの為に外の様子を伝え、時には何日もアレイスターの側を離れることなく。
「確かに一緒にいてもいいと言ったけど、君も物好きだよね。せっかく拓かれた未来なのにね?」
「これは僕の我儘だよ。キミを看取るか、あるいは看取られるまで傍にいたいんだ」
「何年先の話になる事やら。カビが生えてチーズになるよ」
人生を終えるつもりのアレイスターの心がここにはなくとも、マグノリアは自らの意思でここにいる。
教会の鐘が鳴る。ヘルメリア制の、自動鐘突き機の鐘の音。
「ここに二人を夫婦と認めよう」
神父の宣言の後に『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)はジョン・コーリナーと共に赤い絨毯を歩いていた。
「行きましょう、デボラ」
「は、はい」
デボラが着ているのは、純白のウェディングドレス。隣に歩くジョンの白いタキシードに合わせた一品だ。カタクラフト部分が見えないように工夫されたいドレスを着て、デボラは教会を進む。
「まさかあんなところでプロポーズの練習をされているとは思いもしませんでした」
「あ、あれは……! まさか聞かれているとは」
教会で愛を誓い合った二人。その決定打となったのは、デボラがプロポーズの練習をしている所にジョンがやってきたことだ。そこからは電撃的に進み、今結ばれた形となった。
「とはいえ、暫くは平和とは言えない日々です。お互い忙しいでしょうがよろしくお願いします」
「はい! それでその……」
顔を赤らめ、小さな声でデボラは続けた。
「二人の、こ、子供が欲し……後でお話します!」
愛する人の腕を掴み、二人きりになったら勇気を出すぞと気合を入れるデボラだった。
――それはただの噂話。
新体制の社会の裏で他者を虐げるヒトを守るために暗躍する存在がいるという。
曰く、私腹を肥やす承認を切った部芸人。
曰く、食べる物に困った人達に米を配る農夫の主。
曰く、旧体制の権力を平謝りさせる元王女。
どれもこれも信ぴょう性に欠けるが、ただその噂があるところに一人のマザリモノがいるという。
「次の仕事は……工場の不法廃棄を暴け、か。了解了解」
『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)はハトから渡された紙をちぎって燃やす。灰を踏みつぶして完全に証拠を消してから、命令にあった工場の元に向かう。
戦いが終わっても、エイラは戦っていた。正義に目覚めた、というわけではない。妖怪の血が滾ったのか、はたまた血と鉄の世界という沼につかり過ぎたのか。
(こういう形で縛ってもらわないと、オレは妖怪になっちまうからな。自由気ままに生きてれば、末は母様のようになる)
かつて相対した母を思い出す。同じ血が流れているなら、同じ結末になってもおかしくない。だから――自分を律する主が必要だった。
「それでも駄目な時は、介錯仕ろうかね。オレがオレでいれる間に、信用できる者に頼んどくか」
流ちょうに大陸共通語を喋りながら、エイラは『信用できる相手』を思い浮かべる。
さて、化生の血は如何なる物語を紡ぐだろうか。
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はマリアンナ・オリヴェルと結ばれ、平和な日々を過ごした――
「……となれば苦労はないか」
アデルは膨大な書類を前に沈痛なため息をついた。
王政から共和制に移行するにあたり、様々な問題が発生する。利権や責任問題から始まり、軍役、法律、警察権などの国防問題。関税や流通などの経済問題。その他、人員配置等を含めたこまごまとした組織関係。とかく解決しなければならない問題は多かった。
ニルヴァンの名誉将軍。各戦場での様々な活躍。そう言った功績もありアデルは軍の退役を認めてもらえなかった。
「俺は傭兵上がりなんだがな」
「アデルがいるだけで退役を踏みとどまる人もいるわ」
「俺は重石か」
そう言った一面もあったが、やはり実地の経験は大きい。軍の中にいてその才能や人格を見てきたアデルだからこそ言える意見もあり、それらはかなり参考になったという。
「全く、戦争が終わってからの方が忙しいとはな。碌に家に戻れん」
そうぼやくアデル。退役後は何処で店をもってゆっくりしたいものだ、と大きくため息をついた。
「それでは行ってきますね」
『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)は荷物を掲げ、両親に旅立ちの挨拶を告げた。
ここはティルナノーグ。シャンバラの妖精郷と呼ばれた場所。シャンバラ戦役の後、傷の言えたヨウセイ達はそれぞれの故郷に戻った。ナーサの両親も同様にティルナノーグに戻ってきていた。
「もう行くのかい?」
「はい。世界をもっと見てみたいんです」
両親の言葉に笑顔で答えるナーサ。
世界は広い。戦争で多くの国をめぐったけど、それはまだ世界の一部だ。まだまだ見ていない場所はたくさんある。
「何時かマナは消え、世界は大きく変わるでしょう。その時にヨウセイがどうなるのか、世界がどうなるのか。それは解りません。
だけど、道はそこにあります。知らない世界がそこにあるのなら、行ってみたいんです」
自由騎士が選んだ未知の世界。神の保証はなく、魔法の加護もない未来。
だけど、そこにはきっと何かがあるのだ。
「マナが消えてもヨウセイと自然の繋がりは消えないはずです。きっとこれからも、ヨウセイは自然と共にあるでしょう」
――ナーサの予測が正しいと証明されるのは、この後さらに数十年後。彼女自身が記した書物により明らかになる。
歌声は風に乗り、人の心に届く。
『闇払う歌姫の声』秋篠 モカ(CL3000531)は戦争の後、『アイドル』として歌を歌い、踊り、そして奏でていた。世界中をめぐり、街の舞台や村の公園、街道の休憩所、そう言った人の集まる場所で歌を披露していた。
「モカだ!」
「歌姫モカだ!」
世界を流浪し一ヶ所に留まらないモカだが、その名声は高く行く先々で喜ばれていた。世界を巡る旅にモカの歌は増えていく。喜びの歌、祭りの歌、曲、輪舞曲、楽しいリズムもあれば、悲しい曲もある。その全てが感激を持って受け入れられた。
モカの後に続く者も多く現れた。モカの歌声に感化されたもの。モカの活躍に憧れた者。モカの背中を追いかけたい者。或いはモカの努力と才能に嫉妬した者。多くの『アイドル』が生まれ、その数だけのドラマが生まれていた。
「では、次の曲です。遠い昔に存在した『プレールの歌』を」
それはかつて存在した村で生まれた曲。紆余曲折あって一度失われ、そして複数の人達により再現された曲。
それは今も、『アイドル』モカの持ち歌として広く伝わっていた。
「どうです? モカさんの歌は」
蒸気ラジヲから流れるモカの歌声。『プレールの歌』を流しながら『意思を継ぐもの』ビジュ・アンブル(CL3000712)は目の前の墓に語りかける。

神殿音楽隊という戦闘向けではない部隊所属のビジュ。実際荒事は得意ではなく、数後の戦闘でカタクラフトは新品に換装。医者からはこっぴどく叱られる事となった。それでも、かなえたい願いがあったのだ。
「あれから色々ありました。今日はその報告です」
プレール村にある墓に語りかけるようにビジュはここ数年の報告を行う。創造神との戦いを終え、激変する世界。自由騎士の面々がどうなったかと、世界がどう変わったか。それを優しく語る。
「村の緑は少しずつ戻りつつあります。いつかはここに、人が戻ってくるでしょう」
言ってからビジュはここで眠る者が愛用していがギターを取り出し、曲を奏でる。
「私もこの歌をあなたに捧げます。この歌が多くの人に届き、そしてその心を癒さんことを」
奏でられるプレールの歌。この村で生まれ、人の手により潰え、しかし多くの努力で蘇った曲。
旋律は風にのり、人の心に届く――
ここは軍の訓練所。そこにある教室の一つ。今日も新兵への教育が行われていた。
「今日は――なんか気分が乗らないんで自習」
『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)は教壇の上でそう言い放ち、教室を去ろうとする。生徒達の驚きの声を感じながら教室の扉を開け――そこにいた上官に気付いて回れ右する。
「実戦ではこういう予測不能の事もあるので、心構えは必須っす」
それっぽいことを言うが、きっと誤魔化せないだろう。言い訳を考えながら、目の前のヒヨッコたちに何を言うか頭を悩ませる。
意外な事に、それはすぐ出てきた。
「騎士ってのは、戦う仕事。兵卒ってのは、指示に従う仕事。だから銃弾に例えるのは正しいんす。理由も結果も知ったこっちゃない。これが基本」
あまりと言えばあまりの言葉に新兵達の顔が歪む。それを確認した後に、ジャムは続けた。
「でも銃弾になったのと、銃弾を続けてるのは自分の意志。そこの責任と自由だけは自分持ち。それだけは忘れちゃ駄目。
そこから逃げようが、続けようがそれも自由。好きに生きるっすよ、ヒヨッコ共。どーせ世界はクソなんすから」
「そろそろ頃合いだな」
『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は言うや否やのタイミングで身を隠し、逃亡する。
戦争が終わってもロンベルの気性は変わらない。強者を求め、喧嘩を続ける。今までは戦争で敵がいたから見過ごしてもらった所があるが、戦争が終わって平和になった今では喧嘩っ早い性格は疎まれる。
自分を押さえに来る奴と殴り合うのもいいが、それならいっそもっと強い奴と戦いたい。そう言えば北の果てに巨人がいるって話を聞いたことがある。アマノホカリは消失したが、央華大陸には喧嘩家を集めた『リョウザンパク』とか言う場所もあるとか。
「刀と鎧があればいいさ。喰いもんは……途中で盗賊なり幻想種なりから奪うか。
さて、何処に行こうかね。満足させてくれよな」
まだ見ぬ強者を求め、ロンベルは虎の口を笑みに変えた。獰猛な、肉食獣の笑み。食欲ではなく、戦闘欲を満たしてくれる相手を求めてロンベルは歩を進める。
――公式の記録に、これ以降ロンベル・バルバロイトの名が残る事はなかった。
「王様世話になったわね! 私自由騎士やめるからよろしく♪」
『幽世を望むもの』猪市 きゐこ(CL3000048)は創造神との戦いの後、そう言ってそれまでの地位を返却した。引退に伴う報酬だけ受け取り、社会的な立場は全て捨てたという。
「領土とか要らないわよ。あ、でも研究施設がもらえるなら良かったかも」
とはきゐこ本人の弁である。彼女は街の裏に居を構え、魔導の研究にいそしんだという。創造神を失い、新たなマナが発生することがなくなったこの世界。緩やかに消えていく魔法の記録を書き留め、後世に残すつもりのようだ。
「魔導書のリストはこんな所ね。後は……お金稼ぎに小説とか書いてみようかしら。私たちの活躍とか。面白おかしく書いて後世に名を残すのもいいかもね」
我ながら名案、とばかりにきゐこは自伝を含めた神の蟲毒の記録を書き始める。当人たちからすれば過去の編纂。遠い未来からすれば荒唐無稽な物語。そんな記録を記し、そして自分の活躍も記す。
「そうそう。アマノホカリ時代の事も書いておこうっと。何処から書こうかしら?」
筆が乗ったきゐこの執筆は止まらない。後の歴史学者が『キーコ文書』としてこの時代の様式を知る重要文献として取り扱うなど、この時誰も想像できなかった。
「ありがとうございます」
『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)はシャンバラの一角でアクセサリー屋を営んでいた。自分で作ったものを売り、その儲けは自分の生活費とヨウセイの生活保護に当てていた。とはいえ、
「余計なお世話だったかもしれませんね」
ティルダが思うほど、ヨウセイは生活に困窮していなかった。シャンバラ戦役後、多くのヨウセイがそれぞれの故郷に帰って自分達の村の復興にいそしんだ。イ・ラプセルの保護などもあり、その生活は少しずつ安定していった。
ヴィスマルクなどに奴隷として捕らわれていたヨウセイ達もその多くを救いだし、その支援は続いている。何よりも、ヨウセイ達自身が自分の足で生きようとしていた。森に帰る者、蒸気文明に溶け込もうとする者、様々だ。
「ミトラース、ヨウセイは幸せになります。貴方の愛などなくとも」
それはティルダの復讐。ミトラースの支配から離れ、幸せになったヨウセイ達。その歩みが、かつてヨウセイを虐げた神への復讐なのだ――
「ままー。これなにー?」
娘からかけられた声に『復讐を終えた死霊術師』アルミア・ソーイ(CL3000567)は振り向き驚愕する。愛しい娘が手にするその本は――
『よお、ずいぶん幸せそうじゃねえか! 愛しい人と結ばれて、ハッピーエンドとは驚いた! てっきりフラれて落ち込んでオレを頼るかと思ってたんだけどな!』
死霊術教化書。またの名を、バカでもわかる死霊術。その幻聴がアルミアの耳に届く。
「フラれてません!」
『いやだってあの男だしなあ。あっちにフラフラこっちにフラフラ――おぶぅ!』
アルミアの恨みのこもった一撃が書物に叩き込まれる。
「ねえねえ。これままのまほうのほんなの? なんかしゃべってくるんだけど」
「っ!? その本の声が聞こえたの!?」
「うん。まほうのことをおしえてくれるって。ままみたいにりっぱなまほうつかいになるね」
『いい才能を持ってるぜ、お前の娘。これなら一流の死霊術師になれる!』
「わーい」
「その本は、駄目だから……っ」
倉庫の奥の奥に突っ込み、存在すら忘却したあの本。それを娘が受け継いだなんて……。
母と娘、そしてイカれた魔導書。これらが生み出す未来がどうなるかは、また別の物語――
「ヤー、これで大手を振って行商人が出来るゾー!」
大空の下で伸びをしながら『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)は蒸気自動車に乗る。街から街へと運ぶ定期便。それに乗って当てもなく行商をするルー。
「一つの街で構えるよりも、いろんなところにお手軽に安いお薬を。コレヨネー」
そんなモットーの元、ルーは旅の薬商人を行っていた。家族がいれば居を構えたところだが、今は何もない独り身だ。自由であることの利点を生かし、やれることをやろう。そう思って旅に出たのだ。
「新しい学を取り入れ、薬も常にアップデート。最新の薬を、手に入りやすい場所で。
……カダちゃんもきっと望んでたよね、多分」
思いだすのは、央華大陸の神と呼ばれた存在。ソフ00にて相対し、人類の敵となった存在。反転した神は人に病魔もたらす存在だったが、そうでないならきっとこういう事をしたかったのだろう。
「今日は東に、明日は西。さあ、大陸を回るわヨ!
新しい薬と、才覚溢れるイケメンを求めて! あ、年下でもいイイネ!」
ルーの旅は続く――
●1871年~2021年
禁酒法――
端的に言えば『アルコールを含む飲料の製造と販売の停止』する法律だ。酩酊による犯罪が多発し、同時に酒類を売る犯罪者に対する規制が目的だった。これにより酒類は絶たれ、悪党の収入は減るだろう――という目論見は大きく外れることとなる。
人々は酒を求める為に違法に国の垣根を超え、酒を求めるヒトは密売という形で悪党に与する。警察の目の届かぬ場所にバーが生まれ、犯罪者の温床となった。結果として法施行前よりも悪党は栄えたのである。
「ほんに。目まぐるしい世の中。人の欲望に限りなく、いつの世もそれに溺れる者ばかり」
その時代の流れで裏社会を取り収めた『胡蝶の望み』誡メ・巴蛇・ヒンドレー(CL3000118)は物憂げに呟いた。こうなる事は解っていた、とばかりに裏社会を牛耳り、情報を操り裏社会の秩序を操っていた。
「姐さん、お仕事終わりました」
そしてそんな誡メの傍らには『分相応の願い』咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)がいた。誡メが座して全てを操る首魁なら、咎メは暴力で支配する裏社会の武の象徴。徒手空拳から刃物に銃。ありとあらゆる暴力をもってもめ事を収める役割だ。
「お疲れ。次は――」
目まぐるしく動く裏社会。多くの欲望が蠢くこの世界で、動きを止めている余裕などない。一手遅れれば出し抜かれ、情けをかければ寝首をかかれる。悪行の坩堝、暴力の見本市。だけどそんな場所だからこそ艶やかに咲く華がある。この場所だからこそ、色濃く写る紅がある。
これは悪が栄える時代。そんな汚濁の時代に咲いた二輪の華の物語――
カーテンを開け、そこから朝日が室内を照らす。
「おはようございます、あなた」
「うん、おはよう。たまき」
今日も昇る朝日を感じながら『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)は長く一緒に歩んできたアンセム・フィンディングを見た。共に年を取ったが、だからこそ理解できることもある。仕草から伝えたい事、言いたい事。それを察してたまきは机の上の筆をとった。
「今日は何を書きますか?」
「そうだね……孫達の朝を書きたい」
文化が発展し、ボタン一つで日常を記録できる時代。
それでもアンセムは筆をとり、絵を描くことを止めなかった。そしてたまきはそんなアンセムと共にずっと歩いてきた。
「おじいちゃん、絵を描くのー!」
「これ、私達? 動かない方がよかった?」
「大丈夫よ。おじいちゃんは、貴方達が動いても覚えているから」
たまきは孫たちの頭を撫でながらそう言う。アンセムはただ一心不乱に筆を動かし、脳裏に浮かぶ光景を書く。
『ふふ、変わらないわね。あの時私を描いてくれた時のように』
たまきは壁にかけてある絵を見る。アンセムがたまきをモデルに描いた絵。たまきにとって、一生の宝物。
「一生、傍にいますから」
それはたまきがあの日掲げた誓い。その誓いは続き、それに見合うだけの幸せを手に入れた。
きっとこれからも。
かつて亜人差別があった。
当時はそれが当然の風習だったが、価値観が変われば評価が裏返るのもまた歴史の流れ。ノウブル至上主義は歴史の中でも唾棄される行為となる。その辺かに受け入れられない者は、ウィンリーフと呼ばれる自治区に逃げるように足を運んだという。
『亜人嫌いの街』と揶揄されるその自治区は、かつて『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)が考案したノウブルだけの街。かつての五国戦争の報酬でライモンドが得た領地。
ノウブル至上主義が迫害されることを予想していたのか、はたまたただの偶然か。この自治区は結果として時代についていけない多くのノウブル達を受け入れ、発達していった。僅か一代で都市と呼んでも差し支えない大きさに発展した街。住民たちは亜人の社会進出を受け入れられない者達だが、その怒りが暴力となる事はなかった。
「礼節をもたぬ者はノウブルの恥さらしだ。ノウブルの誇りを忘れるな」
ライモンドが強く亜人に対する暴力行為を封じたからである。これにより、ノウブルの暴動は押さえられ、どくどくのアフターネタが一つ消え……げふんげふん。ともあれ大きな事件は回避されたのである。
そして亜人嫌いであるはずの彼の傍らには、一人のソラビトの女性がいたという。彼女は常にライモンドに送られたネックレスを付けていた。
――それが婚約の証であることは、二人しか知らない事実。
「店を部下に任せて、悠々とした佐クラと幸せ結婚ライフ~。田舎に引っ込んで、ゆったり過ごすぜ」
と、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は言ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「ライヒトゥームさん、関税の事でもめてるんで助けてください!」
「おい、ウェルス! 大陸横断鉄道の件で繋ぎを取りたい相手がいるんだ! ツラ貸してくれ」
「新型通信機器のデモンストレーションなんだけど、どうもスパイが紛れ込んでるらしいのよね。ちょっと調査してくれない?」
「まことに申し訳ありませんが、新貨幣に関していろいろご意見いただければ」
「祭りといえばアンタ! 酒と食べ物の流通と会場設立のノウハウを教えていただければ!」
「詐欺集団の『シラサギ』『クロサキ』のコンビが出たって――」
ウェルスの元に舞い込んでくる幾多の案件。商人として自由騎士として多くの事件を解決してきたウェルスを頼って、多くの商人や兵士が駆けこんでくる。
「おお、おう……わかった。これが終わったら引退だな」
その度にウェルスはそう言っては顔を出し、意見して事件を解決する。そしてその度に発生する事件や案件を頼られ、また引退が伸びていく。
「お前ら、俺にばっかり頼るんじゃねぇ!」
なんだかんだで面倒見がいいのか、ウェルスはこの後二百歳になるまで部隊の表裏で動き続けたという。その働きがなければ今の経済はなく、或いはどこかで破綻していたとまで言われるほどだ。
「ちくしょう、今度こそ引退して嫁と平和に過ごすからな!」
ウェルスの叫び声は、まだまだ続きそうだ。
「知ってる? このゲームは実話がもとになってるんだよ」
「ウソ言わないでくださいよ。これって『キーコ文書』と『キーコ黙示録』がネタでしょ?」
『明日を繋いだ拳』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は曾孫たちが遊ぶゲームを見ながら、そんな事を言う。曾孫(もうすぐ成人)はカーミラの言葉に胡乱気な表情を浮かべる。
ゲームの名前は『MaGearSteam』。魔法と蒸気文明が交わる時代の戦争の話だ。かつての賢者が書いたとされる『キーコ文書』と『キーコ黙示録』を元に作られているとか。
「大体ひいおばあちゃん、自分でも頭はあまりよくないって言ってたじゃないか」
「ホントだってー。あ、この子。初見は敵だけど仲間になって南方舞踏を手に入れるキーになるから。とりあえずぶん殴って倒して」
「ただの蛮族じゃないですか、この子」
「あ、酷いなー。本人が聞いたら……大笑いするかな、うん」
今ここにはいない友人の事を思い出し、カーミラは笑みを浮かべる。きっとどこかで変わらず走り続けているのだろう。自分と同じように。
「鉄塊将軍は強いけど、うまく倒せば隠し必殺技が覚えられるよ」
「ムリムリ! 上手くどころか普通に倒せないからこんなの!」
曾孫の悲鳴を聞きながら、当時の戦いを回顧する。
あの日は遠い過去。だけど今でも忘れ得ぬ輝かしい時代。
その時代を走り抜けた証は、心の中で輝いている。
●2021年~
「~♪」
とある南方部族の娘は、戦争終結後に自分の島に帰り、部族たちと共に踊り続けた。
後にその踊りは時代を象徴する文化となり、東方舞踏で有名な『鬼神楽』蔡 狼華(CL3000451)の舞と比べられるほどになったという。
太陽のような激しい踊りと、水面のような静かな舞。相反する踊り子が、かつて同じ騎士団に所属していたという事実はあまり知られていないようだ。
1800年代を知る資料として歴史家が真っ先に挙げるのはベルヴァルド録だろう。
これは『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が記したとされる記録書で、当時の戦争の記録をまとめ上げたものだ。当時テオドールが在籍していた国の資料はもちろん、他国の識者の意見を聞き集めて他国の記録もまとめ上げ、同時に議論をして多角的に互いの国の意見を交わしたとされる。
その成果もあって、当時勝利国であるイ・ラプセル国だけが高く持ち上げられた差別的な資料ではなく、そのことがベルヴァルド録の信頼性を高めているとされている。
また、テオドール・ベルヴァルドと言えば大陸横断鉄道に多く出資し、同時に飛空船の民営化に大きく貢献した。これらの発達は大陸のインフラストラクチャーを発達させ、経済を大きく発展させたとされている。
ここまで広く世に貢献したベルヴァルドの一族だが――当時の貴族にしては珍しく――妻はただ一人だけで、その家系は広く広まらなかった。妾の類をもたず、テオドール・ベルヴァルドの代で生まれた子供は十人に満たない。血統を重んじる貴族の発想と相反するが、それを悔やむ資料は存在しない。
なお、今なおベルヴァルドの一族は大陸に存在する。かつてのベルヴァルド領地――元イ・ラプセルに、改築を重ねて今なおその館と血族は存続している。
アデレードを中心とした海路。それをモラル海路と呼ぶ。
かつて『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)と呼ばれた女史が切り拓いた海路で、潮の流れや岩礁の有無などを徹底的に調べ上げ、灯台などで海路から外れることなきように船を導く施設を設立した。この海路によりロンディアナの蒸気機械を他国に輸送でき、同時に当時戦争の傷跡が残っていたロンディアナの復興も大きく進んだ。
「いずれ空路にとってかわられるだろうけど」
と、海路を確立させたステラは言ったが、空路は風や空を行く幻想種などの不安定要素も多く、保険の意味も含めてこの海路が途絶える事はなかったという。人は安全な海路を得て発展し、その貢献者であるステラ女史を『海の女神』と崇めたという。――当時の彼女が聞けば、一笑に伏していたかもしれない。女神は私じゃない、とばかりに。
そんなステラ女史は、子沢山であったことでも有名である。一時期は仕事に没頭していた彼女だが、ある日療養所で知り合った男性と結婚。その後も一ヶ所に留まらず、多忙な人生だったと記録されている。
『母はきっと、罪を償いたいんだと思います。きっと戦争の時に何かあってそれを雪ごうと働いていました』
その息子の一人は母のことをそう言っていた。
『奪っただけ、次に繋げたい。母はいつも、そう言ってました』
侵した罪が雪がれたか、否か。それは彼女にしかわからない。
『近代農業の父』と呼ばれた男がいる。
その名を『平和を愛する農夫』ナバル・ジーロン(CL3000441)。
当時魔力による気候操作や大地の活力増加などに依存していた農耕を一変すべく活動し、世界各国を回って土や気候の調査を行ったという。マナ枯渇が深刻化したころにはそのデータはまとめ上げられ、懸念されていた食料危機による暴動を寸でのところで止めたとされている。
長年集めたデータを基にしてその土地に適した作物を供給、同時に畜産業等を活用した多毛作の確立。後に遺伝子工学により正しさが証明された品種改良法の手法。土地や各農作物に適した肥料の選別法。水質調査による作物の味の変化。農具の改良。災害時の復興マニュアル。その他数え上げればきりがないほどの、農業の基礎を生み出したとされる。
これら理論の確率が広く伝わった背景には、かのジーロン氏の人柄もあったとされる。暴力を好まず、ただ誠意をもって人に接する。虫も殺せないような優しさに人は惹かれ、その人格故に神格化されている。彼を祀る神社も存在し、収穫時にはジーロンに供物をささげる農家も少なくない。また多産の神としても崇められているとか。
かつては万難を退けた騎士だという記録もあるが、信ぴょう性は薄い。農業への多大な貢献もあるが、記録が正しければ当時のジーロン氏は十八歳。まだ若き彼が戦争で活躍できたとはとても思えず、これは記録が交差したものだというのが専門家の意見として有力だ。
この優しい顔をした銅像の彼が、鍬ではなく盾と槍を持ち戦争に身を投じたなど冗談にも程がある――
「本日は皆様方、お集まりいただき感謝の極み。
今宵は共和制発足から三百年という歴史ある日。それを祝して我らイスルギ劇団は――」
ここはとある劇場。かつてイ・ラプセルと言う国があった場所に作られ、そして今は大陸有数の巨大な劇場だ。その歴史は深く、共和制が掲げられた年に作られ、そして発展していったという。今では数千単位の観客を入れることが可能な大きさとなっていた。
「ふっ! ふっ!」
そんな激情の一角で、体を動かす少女がいた。拳を突き出し、蹴りを放つ。その挙動一つ一つが精錬されており、素人が見ても一朝一夕ではない動きだと分かるほどだ。
「今日も精がでますね、カナンさん」
「ええ。舞は武に通ず、逆もまた然り。曾お婆様の教えです」
そう答えるのは、カナン・イスルギ。かつてこの地で活躍し、この劇場を作るのに一役買った『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)の曾孫だ。その活躍を称えられ、劇場には彼女の銅像が存在していた。
「曾お婆様は私が幼い頃に亡くなりましたけど、その意志は継いでいます」
当時、まだ大きくなかった所属劇団を率いて世界中を回り、劇場を設立した。孤児院などの慰問を行いながら劇団の質を高め、死ぬまで演劇に貢献した曾祖母。今の演劇は彼女の活躍あってだと、誰もが口をそろえるという。
「曾お婆様、私も頑張ります。精一杯楽しんで、みんなを笑顔にして見せます」
まず自分が楽しみ、そして他人を楽しませよ。曾祖母の教えは、正しく次代に受け継がれていた。
「それでは開幕です! 第一演目は――!」
寄せては返す波の音。イ・ラプセル島の近郊にある小さな島。
そこがアーリオ・オーリオ事業団の始まりの地であることを知る者は、今は多くはない。今の事業団員でさえ、その事実を知る者は少ないのだ。
かつて『勝利の輝き』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)がそこに作った孤児院。最初は戦災孤児を癒すことを目的としたその施設で教育を受けた子供達は、世間に出るや否や頭角を示した。
その才能を発揮して財を成し、そしてその財をもって虐げられる者達を救済した。そしてその子達に教育を施す。当時まだ低かった識字率を大きく上昇させ、また貴族にしか与えられない高い教養を広く世間に伝えたのだ。
それは共和制として自由を尊ぶ風習になった世の流れとうまく噛み合った結果かもしれない。だが一番の理由は子供達の才能や施された教育による部分だろう。師に教え得られた恩を返すように、教育という種は広がっていく。
識字率が高まれば危険な標識を避けることができ、また危険を伝えることができる。会話が出来れば議論を交わし、様々な意見を吸収する事が出来る。知識は世界の本質を言語化したもので、それを知るからこそ進める道がある。あの建物はどうして倒れないのか? 性別にはどんな意味があるのか? 法とは? 国とは? ヒトとは? それを知る足掛かりになる。
広く教育が伝播し、そして経済は発展する。そして島の卒業者はアーリオ・オーリオ事業団を擁立する。これまで以上に広く、教育の輪を広げる為に――
そして教育を語るには欠かせない存在となったアーリオ・オーリオ事業団。その事業擁立者は記録に残っているが、彼らを教育した者は歴史には残っていない。
ただ『聖女』という名前だけが残っているという。
●遥かなる未来で
とある地域に三つ目婆の民話がある。その名前は『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。
なんでもその婆さんは大酒のみで怒りんぼで我儘でうんちくを垂れるという絵に描いたような迷惑な存在だったという。近所の子供につまらない怪談を聞かせては泣かせ、暴れて隣人に迷惑をかける事は日常茶飯事。
挙句に酒のツケは溜めこむ、隙あらば食い逃げする、借金は踏み倒す、整理整頓なんてしないので書簡はどこに行ったか分からない。誰も彼もが眉をひそめ、ため息をつく放蕩ぶりである。
ただまあ、それは逆に言えばそんな婆さんでもため息をつかれる人が沢山いるわけで。
その医術の腕は神がかり。魔術が途絶えた時代でも変わらずその腕前を披露していたという。曰く『婆さんにかかれば死神も呆れて逃げ帰る』そうだ。
そんな婆さん、一丁前に伴侶がいたとか子供がいたとか。その辺りは文献によって様々だ。となりにいる人物もミミズクのケモノビトだったりクマのケモノビトだったりカタクラフトの女騎士だったりとバラバラである。
ただ共通しているのは、その周りには必ず人の輪があった事。そして人に囲まれ、どこか楽しげな表情を浮かべている事である。
星々を行きかう時代――
ホメオスタシスの呪いから解放された人類は、ついに星の重力からも解放される。しかしやんぬるかな。人の業からは逃れられない。財と名誉を求め、人は人と争い続ける。
強力な重力波の影響により光線類やレーダーがまともに機能しないリルデリア宙域。ここでは中距離からの砲撃や至近距離からの武器攻撃で戦うしかない。
宇宙船『鉄腕婆』号もまた、そう言った改造を施された船だった。船の前部に二対の格闘戦アームを携え、至近距離用の探査レーダとしてウサギの耳に似た短距離レーダーを装備していた。
「先輩知ってました? この『鉄腕婆』の名前は私のご先祖様なんです! その名前は『明日への導き手』フリオ・フルフラット(CL3000454)! 別名『蒸気兎』とも呼ばれ、悪いことをすると飛んでくるそうです!」
「へー。そいつはすごいすごい。どこのクスリをキめやがったんだこの娘は」
「本当ですよ! こないだ実家の物置の片付けしてたら色々出てきたんですって! むかーしの女神様由来の指輪とか、手記とか」
「手記ってペーパー記録なんざよく残ってたな。年代もんだぞ」
「昔のものを大事にする家系ですから! もうすぐ先輩も知ることになりますからね」
「は?」
「私赤ちゃんできました!」
――会話が止まった。
「だ――」
「誰の、とか聞いたらぶっ飛ばしますからね」
――また会話が止まった。無言で踵を返す音。
「あ。何処行くんですか先輩! ねえ、先輩。先輩。ぱぱー。あ。崩れ落ちた。ぱーぱー」
――人の業は、どの時代でも変わらない。
『一番槍』瑠璃彦 水月(CL3000449)と言う者がいた。
彼がいつの時代に生まれたかと言うのは定かではない。記録を信じるなら1800年代生まれで奇跡的な長寿である。当人も『いやあ、奇跡を使って寿命を延ばしたのでありますよ』等と言っているが、眉唾モノである。瑠璃彦の血を継ぐ者がその名前を名乗っていると考えるのが妥当だ。
水月は旅人だった。ありとあらゆる場所に出没し、様々な出会いを果たした。その交友は広く、そして様々な年代の者がいた。老若男女、その幅は大きい。
とある老人は『水月は何時までも若いなあ。その姿を見てると昔を思い出すよ』と言っており、とある青年は『産湯から成人式まで世話になった』と言っている。一ヶ所に長くとどまるかと思えば、急にどこかに消えてしまう。本当に気まぐれと言っていい存在だ。
「未来を全身で感じる、なんとも贅沢なことでしょうか」
あたかもかなり昔から生きてきたかのような言葉を放った水月。その没年もわからない。いつの間にか人の前から消えていった。
実はまだ生きており、私達の知らないどこかを旅しているのだろうか? 水月と言う存在は本当に不老不死で、世界が終わるまで旅を続けるのだろうか?
それは何という奇跡。未来にむかう旅人――
●
戦いは終われど、人生はまだ終わらない。この戦争も『あなた』という人生(ものがたり)のほんの一エピソード。未来という道はまだまだ先に続いていく。
僕達は歩いていく――
ヒトが得た、見えないけど確かにあるこの道を――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『戦争を記す者』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『それもまた、愛』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『とある三つ目の婆』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『盾の花嫁』
取得者: デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
『罪を雪ぐ人』
取得者: ステラ・モラル(CL3000709)
『鉄腕婆』
取得者: フリオ・フルフラット(CL3000454)
『近代農業の父』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
『妖の忍』
取得者: エイラ・フラナガン(CL3000406)
『永遠の大女優』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『アーリオ・オーリオの聖女』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『愛する人と共に』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)
『共和制の功労者』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『アイドル』
取得者: 秋篠 モカ(CL3000531)
『智を求める旅人』
取得者: ナーサ・ライラム(CL3000594)
『癒しの歌を奏でよう』
取得者: ビジュ・アンブル(CL3000712)
『夜に咲く謀略の紅華』
取得者: 誡メ・巴蛇・ヒンドレー(CL3000118)
『夜に咲く暴力の紅華』
取得者: 咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)
『不良教官』
取得者: ジャム・レッティング(CL3000612)
『亜人嫌いの』
取得者: ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)
『経済の父』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『野に放たれた虎』
取得者: ロンベル・バルバロイト(CL3000550)
『未来の旅人』
取得者: 瑠璃彦 水月(CL3000449)
『キーコ』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『老いてなお元気!』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『ヨウセイの復讐者』
取得者: ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)
『お母さんは死霊術師』
取得者: アルミア・ソーイ(CL3000567)
『央華薬行商人』
取得者: ルー・シェーファー(CL3000101)
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『それもまた、愛』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『とある三つ目の婆』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『盾の花嫁』
取得者: デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
『罪を雪ぐ人』
取得者: ステラ・モラル(CL3000709)
『鉄腕婆』
取得者: フリオ・フルフラット(CL3000454)
『近代農業の父』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
『妖の忍』
取得者: エイラ・フラナガン(CL3000406)
『永遠の大女優』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『アーリオ・オーリオの聖女』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『愛する人と共に』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)
『共和制の功労者』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『アイドル』
取得者: 秋篠 モカ(CL3000531)
『智を求める旅人』
取得者: ナーサ・ライラム(CL3000594)
『癒しの歌を奏でよう』
取得者: ビジュ・アンブル(CL3000712)
『夜に咲く謀略の紅華』
取得者: 誡メ・巴蛇・ヒンドレー(CL3000118)
『夜に咲く暴力の紅華』
取得者: 咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)
『不良教官』
取得者: ジャム・レッティング(CL3000612)
『亜人嫌いの』
取得者: ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)
『経済の父』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『野に放たれた虎』
取得者: ロンベル・バルバロイト(CL3000550)
『未来の旅人』
取得者: 瑠璃彦 水月(CL3000449)
『キーコ』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『老いてなお元気!』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『ヨウセイの復讐者』
取得者: ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)
『お母さんは死霊術師』
取得者: アルミア・ソーイ(CL3000567)
『央華薬行商人』
取得者: ルー・シェーファー(CL3000101)
†あとがき†
貴方達の未来に、幸あれ――
FL送付済