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【IFストーリー】バッドエンドって本当ですか?

●
「これが、神の力」
創造神の力を得たサイラス・オーニッツ(nCL3000012)はその力を理解する。世界そのものを俯瞰し、数値化し、自らの思うままに扱える能力。世界を遊戯版のようにとらえ、コマを進めるように支配できる力。
「これが、世界の知識。世界の意味。そして生命の神秘。なるほど」
そしてその力をもって、生命というものを理解する。生命活動に必要な知識、生命活動を止める要因。病魔――微生物やウィルスといった存在。あらゆる生命体が病気に苦しむことのない世界を作るにはどうすればいいか。
「簡単なことだ。すべての生命を箱に包めばいい。絶対不可侵の瓶の中。すべての生命を守るゆりかごを作ればいい」
創造神サイラスは即座にそれを実行する。全ての生命をフラスコの中に入れ、密封する。空気もフィルターを通して浄化し、中にいる生命が退屈しないように夢を見せる。適度な刺激を与えて運動させ、肉体が滅びぬように工夫する。
すべての生命体は、『フラスコの中の生命』として無病息災で永遠に生きる存在となった――
「いえーい! 元気してた、イ・ラプセルのみんな!」
アミナ・ミゼット(nCL3000051)はヴィスマルクに侵攻してくる自由騎士の前に立ちふさがり、元気よく告げた。
「あーしは元気いっぱいだよ。VFっていうクスリで常時パリピ! アゲアゲでマジサイコー! 後でみんなにも打ってあげるね!」
ヴィスマルク侵攻の際につかまったアミナは、ヴィスマルクの収容所で激しい拷問を受け、そしてとある薬品の実験として利用される。強靭な肉体を持つアミナだったが、精神は破壊されてヴィスマルクに洗脳されてしまった。
そして今、ヴィスマルクの投薬人間兵器としてイ・ラプセルの前に立ちふさがったのだ。彼女に拉致されたイ・ラプセルの軍人はクスリを投与され、自由騎士を阻む敵となる。その毒牙にかかったものはは日を追うごとに増していく。
「みんなもあーしと一緒に気持ちよくなろーよ。VFマジオススメ!」
南国諸島で鍛えられた肉体と命を削る薬で増幅された暴力。それが自由騎士たちを襲う。
「……はい。ご主人様、レティーナはどんな命令でも聞きます」
レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)は主の命令に抑揚のない声で答える。その態度が気に入らなかったのか、拳を振るわれて地面を転がった。。それでも悲鳴を上げないレティーナ。それが日常となり、そして抵抗する気力さえない。
かつて、ヘルメリアの奴隷を解放しようという動きがあった。イ・ラプセルの力を得て、その活動は国を揺るがすほどまでとなった。
しかし、そこまでだった。いち早く動いたヘルメリアは社会的にイ・ラプセルを封殺。支援を失った奴隷解放組織は一網打尽となり、レティーナは奴隷として『再教育』された。
思考することさえ罪。亜人はノウブルに従うのが当たり前。痛みをもってそれを肉体と精神に刻まれた。そしてあらゆるノウブルの道具として使われた。
「……はい。ご主人様、レティーナはどんな命令でも聞きます」
もう、この言葉以外の言語はしゃべることができない。この言葉さえも、どういう意味なのかを理解していない。
考える、という行為すら思い出せない――
「ああ、ヘルメス」
メアリー・シェリー(nCL3000066) はヘルメリアの神、ヘルメスに跪く。かつて愛した神。それに捨てられ、荒野をさまよった彼女。遊びとばかりに利用され、怒るべき相手なのだというのに。
「キミの力が欲しいんだ。イ・ラプセルを裏切ってくれないか?」
突然そう言われて、体の芯から震えてしまった。理性ではまた利用されると分かっていながら、それでも逆らうことはできなかった。
「メアリー、愛してるよ。僕のために汚れてくれるキミが、いとおしい」
そうして神のために汚れた。穢れた。汚泥に塗れた。この罪悪感が神からの愛。メアリーはそうやって愛におぼれていく。
そうして多くの人を殺し、失われた労働力はメアリーが作った人形で賄った。生き残った千にも満たないヒト族は、メアリーが用意した区域で寄り添うように生きている。ヘルメスはその行為を喜び、メアリーはさらにヘルメリアを発展させていく。
そして世界はメアリーの作ったヘルメリアの人形部隊が統一した。そしてメアリーは――
「ああ、ヘルメス。愛してる。貴方を愛してる!」
メアリー・シェリー(nCL3000066) はヘルメリアの神、ヘルメスに跪いていた。愛という罪に溺れるように。
●
自由騎士は神の蟲毒に勝利し、創造神を滅して未来を勝ち取った。それはゆるぎない事実だ。
しかし、そうならなかった可能性もある。戦いはいつだってぎりぎりで、薄氷を踏むような道程だった。力がわずかでも足らなければ、結果は変わっていただろう。
これはもしかしたらあり得た未来。今の未来に届かなかった、もしもの未来。
しかし、もしかしたらあり得た未来――
「これが、神の力」
創造神の力を得たサイラス・オーニッツ(nCL3000012)はその力を理解する。世界そのものを俯瞰し、数値化し、自らの思うままに扱える能力。世界を遊戯版のようにとらえ、コマを進めるように支配できる力。
「これが、世界の知識。世界の意味。そして生命の神秘。なるほど」
そしてその力をもって、生命というものを理解する。生命活動に必要な知識、生命活動を止める要因。病魔――微生物やウィルスといった存在。あらゆる生命体が病気に苦しむことのない世界を作るにはどうすればいいか。
「簡単なことだ。すべての生命を箱に包めばいい。絶対不可侵の瓶の中。すべての生命を守るゆりかごを作ればいい」
創造神サイラスは即座にそれを実行する。全ての生命をフラスコの中に入れ、密封する。空気もフィルターを通して浄化し、中にいる生命が退屈しないように夢を見せる。適度な刺激を与えて運動させ、肉体が滅びぬように工夫する。
すべての生命体は、『フラスコの中の生命』として無病息災で永遠に生きる存在となった――
「いえーい! 元気してた、イ・ラプセルのみんな!」
アミナ・ミゼット(nCL3000051)はヴィスマルクに侵攻してくる自由騎士の前に立ちふさがり、元気よく告げた。
「あーしは元気いっぱいだよ。VFっていうクスリで常時パリピ! アゲアゲでマジサイコー! 後でみんなにも打ってあげるね!」
ヴィスマルク侵攻の際につかまったアミナは、ヴィスマルクの収容所で激しい拷問を受け、そしてとある薬品の実験として利用される。強靭な肉体を持つアミナだったが、精神は破壊されてヴィスマルクに洗脳されてしまった。
そして今、ヴィスマルクの投薬人間兵器としてイ・ラプセルの前に立ちふさがったのだ。彼女に拉致されたイ・ラプセルの軍人はクスリを投与され、自由騎士を阻む敵となる。その毒牙にかかったものはは日を追うごとに増していく。
「みんなもあーしと一緒に気持ちよくなろーよ。VFマジオススメ!」
南国諸島で鍛えられた肉体と命を削る薬で増幅された暴力。それが自由騎士たちを襲う。
「……はい。ご主人様、レティーナはどんな命令でも聞きます」
レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)は主の命令に抑揚のない声で答える。その態度が気に入らなかったのか、拳を振るわれて地面を転がった。。それでも悲鳴を上げないレティーナ。それが日常となり、そして抵抗する気力さえない。
かつて、ヘルメリアの奴隷を解放しようという動きがあった。イ・ラプセルの力を得て、その活動は国を揺るがすほどまでとなった。
しかし、そこまでだった。いち早く動いたヘルメリアは社会的にイ・ラプセルを封殺。支援を失った奴隷解放組織は一網打尽となり、レティーナは奴隷として『再教育』された。
思考することさえ罪。亜人はノウブルに従うのが当たり前。痛みをもってそれを肉体と精神に刻まれた。そしてあらゆるノウブルの道具として使われた。
「……はい。ご主人様、レティーナはどんな命令でも聞きます」
もう、この言葉以外の言語はしゃべることができない。この言葉さえも、どういう意味なのかを理解していない。
考える、という行為すら思い出せない――
「ああ、ヘルメス」
メアリー・シェリー(nCL3000066) はヘルメリアの神、ヘルメスに跪く。かつて愛した神。それに捨てられ、荒野をさまよった彼女。遊びとばかりに利用され、怒るべき相手なのだというのに。
「キミの力が欲しいんだ。イ・ラプセルを裏切ってくれないか?」
突然そう言われて、体の芯から震えてしまった。理性ではまた利用されると分かっていながら、それでも逆らうことはできなかった。
「メアリー、愛してるよ。僕のために汚れてくれるキミが、いとおしい」
そうして神のために汚れた。穢れた。汚泥に塗れた。この罪悪感が神からの愛。メアリーはそうやって愛におぼれていく。
そうして多くの人を殺し、失われた労働力はメアリーが作った人形で賄った。生き残った千にも満たないヒト族は、メアリーが用意した区域で寄り添うように生きている。ヘルメスはその行為を喜び、メアリーはさらにヘルメリアを発展させていく。
そして世界はメアリーの作ったヘルメリアの人形部隊が統一した。そしてメアリーは――
「ああ、ヘルメス。愛してる。貴方を愛してる!」
メアリー・シェリー(nCL3000066) はヘルメリアの神、ヘルメスに跪いていた。愛という罪に溺れるように。
●
自由騎士は神の蟲毒に勝利し、創造神を滅して未来を勝ち取った。それはゆるぎない事実だ。
しかし、そうならなかった可能性もある。戦いはいつだってぎりぎりで、薄氷を踏むような道程だった。力がわずかでも足らなければ、結果は変わっていただろう。
これはもしかしたらあり得た未来。今の未来に届かなかった、もしもの未来。
しかし、もしかしたらあり得た未来――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ありえなかった終わりを示す
悪堕ちは一般性癖。
●説明っ!
このシナリオは、皆様のバッドエンドを描くシナリオです。
皆様の努力の結果、この世界は未来を進む事になりました。これはとても誇らしいことです。皆様の未来に幸あらんことを。
それはそれとして、そうならなかった未来。どこかで歯車があわずに負けてしまった未来の自分をプレイングに書いてください。
敗北してヒトとして扱われない未来があったかもしれません。
イ・ラプセルを裏切り、敵として自由騎士に相対する未来があったかもしれません。
他国の神に忠義を誓う、あるいはその力を取り入れ(イフシナリオなんで何でもありです)て新たな国を興したかもしれません。
新たな創造神となり、世界を作り替えたかもしれません。
イフシナリオなんで何をどうしても構いません。適当な理屈をつければ、ステータス以上の能力を得てもいいです。あなたが幸せになろうが不幸になろうが、自由です。時系列もご自由に。悪徳の限りをつくしても構いませんが、マスタリングはさせていただきます。マギアスティームは全年齢!
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
●説明っ!
このシナリオは、皆様のバッドエンドを描くシナリオです。
皆様の努力の結果、この世界は未来を進む事になりました。これはとても誇らしいことです。皆様の未来に幸あらんことを。
それはそれとして、そうならなかった未来。どこかで歯車があわずに負けてしまった未来の自分をプレイングに書いてください。
敗北してヒトとして扱われない未来があったかもしれません。
イ・ラプセルを裏切り、敵として自由騎士に相対する未来があったかもしれません。
他国の神に忠義を誓う、あるいはその力を取り入れ(イフシナリオなんで何でもありです)て新たな国を興したかもしれません。
新たな創造神となり、世界を作り替えたかもしれません。
イフシナリオなんで何をどうしても構いません。適当な理屈をつければ、ステータス以上の能力を得てもいいです。あなたが幸せになろうが不幸になろうが、自由です。時系列もご自由に。悪徳の限りをつくしても構いませんが、マスタリングはさせていただきます。マギアスティームは全年齢!
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
0個
0個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
6日
6日
参加人数
9/∞
9/∞
公開日
2021年09月18日
2021年09月18日
†メイン参加者 9人†

●
「いや、これはそういうことなんだろうなぁ」
『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)……の体の中に入った『何か』は今自分がどうなっているかを確認した。どうやら自分じゃない体に憑依したようである。しかもそれが自分の娘ときたもんだ。
「戻る体は死んでるし、ステラの精神は……どうなってるんだ?」
ステラの父親は言ってから現状を正確に把握しようと思考する。
仮説1、ステラの精神は眠っている状態である。叩けば起きるかもしれない。
仮説2、ステラの精神は弾かれてどこか行った。最悪死んでる。
仮説3、父親と思ってる自分は、実はステラの裏人格である。
……まあいいや。気にしたら負け。ステライン父親は言って考えることをやめた。とにかく現状を受け止め、生きるしかない。
しっかし自分の娘ながら胸大きいなぁ。お父さんは心配だぞ。そんなことを言いながら胸をもむステライン父親。
かくして『TS転生、自分の娘!? ~悲運を歩む娘を救うため、時代を遡ってパパが行く。本作ルートで不幸にした男は没落したけど今更土下座しても遅いんだよ!』が始まるのであった。
ステラ本人からすれば、バッドエンドである。
●
『キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト! キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト!』
『キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト! キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト!』
それは神を讃える言葉。パノプティコンの神、アイドーネウスを讃える言葉。
それを聞きながら『亜人嫌いの』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は悦に浸っていた。今日ここに、パノプティコンが世界を制圧したのだ。
転機はイ・ラプセルとの戦いのさなかだ。イ・ラプセルに捕らわれた王族1734と来モンドが結託し、内部からイ・ラプセルを崩壊させたのだ。王族1734からパノプティコンに情報が伝わり、パノプティコンの軍が内部で混乱しているイ・ラプセルを強襲。主軸である自由騎士は崩壊し、そしてその勢いのままパノプティコンは世界を統一したのだ。
「今やアイドーネウス様は世界全てを管理なさる存在。咎たるマザリモノは大地へ還し、恵みとしよう。より厳格により機能的に社会を構築していこう」
そしてライモンドもその管理下にあった。自ら望んでシステムに参入し、世界をより効率的に運営するために管理の一端を担う。ライモンドは神の一部。神はライモンドの一部。すべてが一つ。すべてが世界。世界は『平等』に管理されるのだ。
「世界に生きる者は全て『私』の愛の元に永劫に幸せに暮らすのだ」
完璧なる神の管理。完璧なる『私』の管理。世界は今日も、愛に満ちている。
●
日の射さない牢屋の中。『名誉将軍』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は力なくうなだれていた。
ヴィスマルクとの戦いに負け、捕らわれの身となったテオドール。見張りの話によればイ・ラプセル軍は総崩れになり、そして滅亡したという。その言葉を聞いてからどれだけの時間がたっただろうか? もはや日にちの感覚もない。
「生きているか?」
薄暗い牢屋の中に聞こえてくる声。その声を忘れるはずがない。テオドールの前に立ちふさがり、全力を尽くした相手。ヴェルナー・シュトルム・ヴィンター。テオドールの終生のライバル……だった男だ。
二人の決着はついた。敗者は暗き牢屋の中に、勝者は栄光の元に。見れば腕章も大佐から少将になっている。自分を討ち取った勲功からというのなら、さて喜んでいいのやら。
「ああ、生き恥をさらしているよ」
「では恥の上塗りをさせてもらおう。――カタリーナ・ベルヴァルドとの婚約を為しえた。二か月後にカタリーナはヴィンターを名乗ってもらう」
カタリーナ・メイマール。それはテオドールの妻。それを娶ったと告げた。神のもとに誓った永遠の誓いを破らせ、自分の夫を捕らえた敵国の男になびく。それがどれだけの屈辱なるだろうか。それがどれだけ彼女を辱めるだろうか。
「……そうか」
カタリーナの気持を思いながら、テオドールは顔を伏せる。敗者はすべてを失う。自分だけではない。自分にかかわったものも不幸になる。どうせ不幸になるのなら、この男に奪われるほうがまだマシだ。
妻のことは愛している。できるならこの手で抱きしめたい。
……しかしもうそれはかなわない。妻を奪われ、その痛みに苦しみながら生かされる。それが自分の刑罰とばかりに、生かされている。
●
スラムの中、デボラ・コーリナー(CL3000511)はいた。
助けたい人がいた。助けようと努力した人がいた。だけどそれは間に合わず、その遺体を見た時に何かが壊れた。戦う理由。剣を振るう理由。それがぶつりと音を立てて壊れた。
その日から、デボラは自由騎士の輪から消えた。イ・ラプセルを離れ、騎士の地位を捨て、何もかもを捨ててどことも言えないスラムにいた。
「…………」
一人でいると、苦しみが増した。失った人の名を何度もつぶやき、それでも胸の穴は埋まらない。埋まるはずなんてない。むしろ無残なあの人の遺体を思い出し、穴はどんどん大きくなる。そのたびに叫び、嘆き、あたりのものを破壊し。しかしそんなことをしても穴が埋まるはずがない。この穴を埋めるのは、あの人の声と、温もりしかないのだから。
「あああああああああああ!」
非合法なクスリに身を任せることもあった。男の欲望にはけ口になることもあった。自暴自棄になって、肉体の痛みで心の痛みをごまかそうとした。吐きながら、泣きながら、叫びながら、感情に翻弄されながら、ただ苦しい気持ちから解放されたかった。
「あああ、あああああああああ」
あの人を守れなかった盾なんていらない。あの人をつかめなかった手なんていらない。あの人を追いかけられなかった足なんていらない。あの人の名前を呼べない口なんていらない。あの人の事を見ることができない目なんていらない。いらない、いらない、いらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい――
「あ、はははは」
わかってる。いまかんじているのはあのひとじゃない。幻覚? 薬による妄想? 夢? あのひとはもういない。もういないひとはここにはいない。うそだってわかってる。だけど、あのひとはここにいる。ああ、そっか。ここにいたんだね。
「あはははははははははは」
●
「負けか。まあそれもいいだろうよ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は世界とともに消滅していく自分を認識しながら静かに肩をすくめた。アインソフオウル。創造神が世界を滅ぼすため行った行為。これにより、世界と一緒に自分たちは消えていく。この行為を止めるために戦ってきたのだが、それはかなわなかった。
「貴様の作ったビオトープだ。貴様の望む様に作り直そうとするのは別に間違いではない」
ツボミは嘘偽りなくそう言い放った。自分達が戦うのは、死にたくなかっただけだ。正しいから戦ったのではない。消えたくなかったから正しいのだ。人間は争い、汚れている。そういわれれば否定はできない。人間の醜い面などいくらでも見ている。それを消したいというのは、十分に理解できる。
「……だが、なあ。最後に一つ位負け惜しみを言わせろよ」
創造神を見ながら、ツボミは口を開く。もう何もできることはない。あと少し負け惜しみを言えば、自分は消えてしまうだろう。自分にできる最後の事だと理解しながら、その言葉を放つ。
「次の世界に人は作らない。それは、争いを生み得る一定以上の知性を作らないと言う意味だろ? それだと、なあ……貴様、ひとりぼっちじゃ無いのか?」
「…………」
創造神からの言葉はない。だが想像はできる。それでもいい。もう汚いものは見たくない。これ以上誰かを見ていると、心が壊れそうだ。
幾星霜も人を、世界をよくしようと悩み、苦しみ、慈悲を与え、神を与え、どうにかよくしようと頑張った結果が孤独を選ぶこと。そんなのあまりにも悲しすぎる。傷つかないために他人を排斥し、孤独の中で生きていく。それはあまりにも、悲しすぎる。
永遠の孤独。永遠の虚無。だがそれを選ばせたのは、人の業。争い続けて世界を醜く変貌させた人類の歴史なのだ。何度も繰り返しても争い続けるヒトのカルマ。
そうだと分かっていても、ツボミは思わざるをえまい。これから孤独を味わうこの創造神(こども)の行く末を。もうそれに手を指し伸ばしてやることはできないけど、それでもどうにかしたいと思ってしまう。
「なあ、平気か――」
その言葉を最後に、ツボミは世界ごと消えた。
●
ここがどこで、それまで自分が何をしていたのか。『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)は思い出せない。
ただ、自分が死にかけていることだけは理解していた。戦いの末か、何かの事故か、病気か、陰謀に巻き込まれたか、老いたからか、もう何もわからない。ただ十数秒後に訪れる死を回避する手段はない事だけははっきりと分かった。
手足を動かそうとしても力がこもらない。首を動かすことさえも難しい。目の前はかすんでもう像を結ぶことはない。耳から聞こえてくるのはわけのわからない耳鳴りのような音。口の中はぬめりとした液体が支配している。
「ごほっ」
液体を吐き出し、呼吸する。それだけで、重労働。肺に吸い込んだ空気は穴の開いた袋のごとく抜けていく。それどころか痛みすら訴えてきた。呼吸するだけで寿命が縮み、死に一歩近づく。
「……ナバル……スズカ……」
愛しい人の名をつぶやく。それだけでさらに生きている時間が減ったが、それでも口にしたことで助かるような気がした。せめてその二人に手を取ってもらえれば、安らかに眠れる。そんな願いを込めてのつぶやき。
しかしそんなささやかな願いすら、エイラには許してもらえない。呼びかけに答える声はなく、言葉は空虚に消え去り、命は静かに燃え尽きていく。
看取る人もなく、誰かに手を取ってもらえるわけでもなく、ただ孤独に死んでいく。それが当然とばかりに、無慈悲に命は消えていく。
だれか、だれか、おねがい、だから、ねえ、だれか、だれか――
●
ヘルメリアの国防を担う歯車騎士団。最新鋭の蒸気武器を有する軍に流れる噂があった。
滅ぼした国の人間を『鹵獲』し、兵器開発の素体としているという。男性は兵器の威力と効果を試すための的となり、女性は兵士たちの慰み者になるという。
それはどの世界でも囁かれるつまらない噂だ。取るに足らない罵詈雑言。証拠もなく言われ続ける誹謗中傷。
だが逆に言えば、どの世界のどの時代の軍隊でもささやかれ、その実情を疑われる事例。
「『袋№201』の経過報告ですが、おおむね順調です」
歯車騎士団の一人が、敬礼のまま告げる。報告書はない。これは表沙汰にならない事例だからだ。公式な記録のない事の報告。
「『鹵獲』時点より右目と左腕および両脚が欠損していましたが、臓器類は健康そのもの。『生産』には支障のない個体です」
「精神状態は?」
「喪失ランク2。『行為』に対する反応はありますが、それ以外は全くの無反応。従順且つ忠誠的です」
「水国の騎士階級とは言えども、度重なる『教育』には耐えきれなかったか。せいぜいヘルメリアの役に立ってもらおう」
言って男はにやりと笑う。冷徹な軍人の笑いではなく、欲望を隠さない下卑な笑み。
「では私も遊ばせてもらおうか。ヘルメス様に感謝だな」
男が向かう先は、報告された『袋№201』を収容している部屋。そこにはかつては『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)と呼ばれていた女性が、唯一残った右腕で膨れ上がったお腹を愛おしげに撫でていた。
「いとしや、わが、こ」
虚ろな左目のまま、ただお腹を愛おし気に撫でていた――
●
「突撃するぞ。イ・ラプセルを殲滅する」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はヴィスマルクの飛行船から部下に指令を出していた。第100歩兵大隊。ヴィスマルクの外国人部隊。その副隊長であるアデルは隊長であるフォートシャフトから名を受け、降下作戦を担う。
つい先日国王が崩御したイ・ラプセル。その混乱をつくように強襲作戦は実施された。フェアリーコア――小型幻想種から魔力を奪い、兵器の動力にするバッテリー――のスイッチを入れる。部下を冷徹に見まわし、言葉をつづけた。
「強襲揚陸飛空艇が強行着陸態勢に入った。総員、戦闘準備。着地後、即座に打って出る。あの高台を抑えるぞ」
この戦いで部下がどれだけ生き残るかなどわからない。イ・ラプセルは小国だが、無能ではない。新王は急増のオラクル騎士団を結成し、こちらにあたらせるという情報が入っている。
「作戦はさっき告げた通りだ。本隊が来るまでに町を鎮圧し、橋頭保にする。死体は拾わん。生き延びて帰りたければ戦って勝て」
死が隣り合わせの外国人部隊。亜人や外国人がヴィスマルクで生きていくには兵士になるか、ラーゲリで労働力になるか、憲兵隊におびえてスラムで生きていくしかない。兵士になって勲功を得れば、部下をまとめてヴィスマルク国民として認めてもらえる。これはそのための戦いだ。
「降下開始。敵兵確認。第100歩兵大隊第二部隊、出るぞ!」
アデルは掛け声とともに先陣を切り、イ・ラプセル騎士団に突撃する。彼を慕うように――それが生き延びる最適解だからなのか、本当にアデルを慕っているかは様々だが――第100歩兵部隊の部下達はアデルに続いて武器を振るう。
どのような状況であったとしても、アデル・ハビッツは兵士であった。
●
「なんで……」
『明日への導き手』フリオ・フルフラット(CL3000454)は目の前の現実に、心が折れた。
かつてフリオを助けてくれたエリック・エッカート。自分を救ってくれたエリックはその後行方不明になった。死体は見つからなかったが、生存は絶望的だった。
そんなエリックが生きていた。敵国、ヴィスマルクの兵士として。
ヴィスマルクの虐殺部隊。行く先々で村を襲い、物資を奪い、人々を奴隷として突き進む極悪非道の部隊。『ナーレン』と呼ばれるその部隊を率いていた相手こそが、彼だったのだ。
「奪え! 殺せ! 壊せ! 生きていれば労働力として使い潰せ!」
かつて自分を助けてくれたエリックはもういない。ヴィスマルクに洗脳され、イ・ラプセルを荒らすならず者としてここにいる。自由騎士であるフリオはこれを止めないといけない。いけない、のに。
「や、めて」
「やめる? ハハ、面白いことを言うな。こんな気持ちのいい事をやめられるかよ。戦う気がないんなら、おとなしくしてな。聞き分けのいい奴隷は嫌いじゃないぜ」
「やめて」
「騎士様を辱めたい奴はいくらでもいるからな。そいつらを満たした後は戦闘奴隷として前線に立ってもらうぜ。もっとも、壊れなければだがな」
「やめてええええええええええ!」
壊れた。フリオの中で何かが壊れた。それが何なのかを、今のフリオは認識できない。壊れたものは戻らない。元の形が何なのかなんかわからない。それをとても大事にしていたのに、その形を思い出すこともできない。
気が付けば、フリオは血の海の中で力なく崩れ落ちていた。誇りをすべて失ったかのように笑い、剣を持つことは二度とできなかった。
ああ、わたしは、なんで、たたかっていたんだろう? なんのために、けんをにぎったのだろう?
きれいなものは、もうもどらない――
●
それは幾多あった可能性の一つ――
「いや、これはそういうことなんだろうなぁ」
『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)……の体の中に入った『何か』は今自分がどうなっているかを確認した。どうやら自分じゃない体に憑依したようである。しかもそれが自分の娘ときたもんだ。
「戻る体は死んでるし、ステラの精神は……どうなってるんだ?」
ステラの父親は言ってから現状を正確に把握しようと思考する。
仮説1、ステラの精神は眠っている状態である。叩けば起きるかもしれない。
仮説2、ステラの精神は弾かれてどこか行った。最悪死んでる。
仮説3、父親と思ってる自分は、実はステラの裏人格である。
……まあいいや。気にしたら負け。ステライン父親は言って考えることをやめた。とにかく現状を受け止め、生きるしかない。
しっかし自分の娘ながら胸大きいなぁ。お父さんは心配だぞ。そんなことを言いながら胸をもむステライン父親。
かくして『TS転生、自分の娘!? ~悲運を歩む娘を救うため、時代を遡ってパパが行く。本作ルートで不幸にした男は没落したけど今更土下座しても遅いんだよ!』が始まるのであった。
ステラ本人からすれば、バッドエンドである。
●
『キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト! キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト!』
『キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト! キ・ラ・シ・ク・イ・リ・セ・ナ・ト!』
それは神を讃える言葉。パノプティコンの神、アイドーネウスを讃える言葉。
それを聞きながら『亜人嫌いの』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は悦に浸っていた。今日ここに、パノプティコンが世界を制圧したのだ。
転機はイ・ラプセルとの戦いのさなかだ。イ・ラプセルに捕らわれた王族1734と来モンドが結託し、内部からイ・ラプセルを崩壊させたのだ。王族1734からパノプティコンに情報が伝わり、パノプティコンの軍が内部で混乱しているイ・ラプセルを強襲。主軸である自由騎士は崩壊し、そしてその勢いのままパノプティコンは世界を統一したのだ。
「今やアイドーネウス様は世界全てを管理なさる存在。咎たるマザリモノは大地へ還し、恵みとしよう。より厳格により機能的に社会を構築していこう」
そしてライモンドもその管理下にあった。自ら望んでシステムに参入し、世界をより効率的に運営するために管理の一端を担う。ライモンドは神の一部。神はライモンドの一部。すべてが一つ。すべてが世界。世界は『平等』に管理されるのだ。
「世界に生きる者は全て『私』の愛の元に永劫に幸せに暮らすのだ」
完璧なる神の管理。完璧なる『私』の管理。世界は今日も、愛に満ちている。
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日の射さない牢屋の中。『名誉将軍』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は力なくうなだれていた。
ヴィスマルクとの戦いに負け、捕らわれの身となったテオドール。見張りの話によればイ・ラプセル軍は総崩れになり、そして滅亡したという。その言葉を聞いてからどれだけの時間がたっただろうか? もはや日にちの感覚もない。
「生きているか?」
薄暗い牢屋の中に聞こえてくる声。その声を忘れるはずがない。テオドールの前に立ちふさがり、全力を尽くした相手。ヴェルナー・シュトルム・ヴィンター。テオドールの終生のライバル……だった男だ。
二人の決着はついた。敗者は暗き牢屋の中に、勝者は栄光の元に。見れば腕章も大佐から少将になっている。自分を討ち取った勲功からというのなら、さて喜んでいいのやら。
「ああ、生き恥をさらしているよ」
「では恥の上塗りをさせてもらおう。――カタリーナ・ベルヴァルドとの婚約を為しえた。二か月後にカタリーナはヴィンターを名乗ってもらう」
カタリーナ・メイマール。それはテオドールの妻。それを娶ったと告げた。神のもとに誓った永遠の誓いを破らせ、自分の夫を捕らえた敵国の男になびく。それがどれだけの屈辱なるだろうか。それがどれだけ彼女を辱めるだろうか。
「……そうか」
カタリーナの気持を思いながら、テオドールは顔を伏せる。敗者はすべてを失う。自分だけではない。自分にかかわったものも不幸になる。どうせ不幸になるのなら、この男に奪われるほうがまだマシだ。
妻のことは愛している。できるならこの手で抱きしめたい。
……しかしもうそれはかなわない。妻を奪われ、その痛みに苦しみながら生かされる。それが自分の刑罰とばかりに、生かされている。
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スラムの中、デボラ・コーリナー(CL3000511)はいた。
助けたい人がいた。助けようと努力した人がいた。だけどそれは間に合わず、その遺体を見た時に何かが壊れた。戦う理由。剣を振るう理由。それがぶつりと音を立てて壊れた。
その日から、デボラは自由騎士の輪から消えた。イ・ラプセルを離れ、騎士の地位を捨て、何もかもを捨ててどことも言えないスラムにいた。
「…………」
一人でいると、苦しみが増した。失った人の名を何度もつぶやき、それでも胸の穴は埋まらない。埋まるはずなんてない。むしろ無残なあの人の遺体を思い出し、穴はどんどん大きくなる。そのたびに叫び、嘆き、あたりのものを破壊し。しかしそんなことをしても穴が埋まるはずがない。この穴を埋めるのは、あの人の声と、温もりしかないのだから。
「あああああああああああ!」
非合法なクスリに身を任せることもあった。男の欲望にはけ口になることもあった。自暴自棄になって、肉体の痛みで心の痛みをごまかそうとした。吐きながら、泣きながら、叫びながら、感情に翻弄されながら、ただ苦しい気持ちから解放されたかった。
「あああ、あああああああああ」
あの人を守れなかった盾なんていらない。あの人をつかめなかった手なんていらない。あの人を追いかけられなかった足なんていらない。あの人の名前を呼べない口なんていらない。あの人の事を見ることができない目なんていらない。いらない、いらない、いらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい――
「あ、はははは」
わかってる。いまかんじているのはあのひとじゃない。幻覚? 薬による妄想? 夢? あのひとはもういない。もういないひとはここにはいない。うそだってわかってる。だけど、あのひとはここにいる。ああ、そっか。ここにいたんだね。
「あはははははははははは」
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「負けか。まあそれもいいだろうよ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は世界とともに消滅していく自分を認識しながら静かに肩をすくめた。アインソフオウル。創造神が世界を滅ぼすため行った行為。これにより、世界と一緒に自分たちは消えていく。この行為を止めるために戦ってきたのだが、それはかなわなかった。
「貴様の作ったビオトープだ。貴様の望む様に作り直そうとするのは別に間違いではない」
ツボミは嘘偽りなくそう言い放った。自分達が戦うのは、死にたくなかっただけだ。正しいから戦ったのではない。消えたくなかったから正しいのだ。人間は争い、汚れている。そういわれれば否定はできない。人間の醜い面などいくらでも見ている。それを消したいというのは、十分に理解できる。
「……だが、なあ。最後に一つ位負け惜しみを言わせろよ」
創造神を見ながら、ツボミは口を開く。もう何もできることはない。あと少し負け惜しみを言えば、自分は消えてしまうだろう。自分にできる最後の事だと理解しながら、その言葉を放つ。
「次の世界に人は作らない。それは、争いを生み得る一定以上の知性を作らないと言う意味だろ? それだと、なあ……貴様、ひとりぼっちじゃ無いのか?」
「…………」
創造神からの言葉はない。だが想像はできる。それでもいい。もう汚いものは見たくない。これ以上誰かを見ていると、心が壊れそうだ。
幾星霜も人を、世界をよくしようと悩み、苦しみ、慈悲を与え、神を与え、どうにかよくしようと頑張った結果が孤独を選ぶこと。そんなのあまりにも悲しすぎる。傷つかないために他人を排斥し、孤独の中で生きていく。それはあまりにも、悲しすぎる。
永遠の孤独。永遠の虚無。だがそれを選ばせたのは、人の業。争い続けて世界を醜く変貌させた人類の歴史なのだ。何度も繰り返しても争い続けるヒトのカルマ。
そうだと分かっていても、ツボミは思わざるをえまい。これから孤独を味わうこの創造神(こども)の行く末を。もうそれに手を指し伸ばしてやることはできないけど、それでもどうにかしたいと思ってしまう。
「なあ、平気か――」
その言葉を最後に、ツボミは世界ごと消えた。
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ここがどこで、それまで自分が何をしていたのか。『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)は思い出せない。
ただ、自分が死にかけていることだけは理解していた。戦いの末か、何かの事故か、病気か、陰謀に巻き込まれたか、老いたからか、もう何もわからない。ただ十数秒後に訪れる死を回避する手段はない事だけははっきりと分かった。
手足を動かそうとしても力がこもらない。首を動かすことさえも難しい。目の前はかすんでもう像を結ぶことはない。耳から聞こえてくるのはわけのわからない耳鳴りのような音。口の中はぬめりとした液体が支配している。
「ごほっ」
液体を吐き出し、呼吸する。それだけで、重労働。肺に吸い込んだ空気は穴の開いた袋のごとく抜けていく。それどころか痛みすら訴えてきた。呼吸するだけで寿命が縮み、死に一歩近づく。
「……ナバル……スズカ……」
愛しい人の名をつぶやく。それだけでさらに生きている時間が減ったが、それでも口にしたことで助かるような気がした。せめてその二人に手を取ってもらえれば、安らかに眠れる。そんな願いを込めてのつぶやき。
しかしそんなささやかな願いすら、エイラには許してもらえない。呼びかけに答える声はなく、言葉は空虚に消え去り、命は静かに燃え尽きていく。
看取る人もなく、誰かに手を取ってもらえるわけでもなく、ただ孤独に死んでいく。それが当然とばかりに、無慈悲に命は消えていく。
だれか、だれか、おねがい、だから、ねえ、だれか、だれか――
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ヘルメリアの国防を担う歯車騎士団。最新鋭の蒸気武器を有する軍に流れる噂があった。
滅ぼした国の人間を『鹵獲』し、兵器開発の素体としているという。男性は兵器の威力と効果を試すための的となり、女性は兵士たちの慰み者になるという。
それはどの世界でも囁かれるつまらない噂だ。取るに足らない罵詈雑言。証拠もなく言われ続ける誹謗中傷。
だが逆に言えば、どの世界のどの時代の軍隊でもささやかれ、その実情を疑われる事例。
「『袋№201』の経過報告ですが、おおむね順調です」
歯車騎士団の一人が、敬礼のまま告げる。報告書はない。これは表沙汰にならない事例だからだ。公式な記録のない事の報告。
「『鹵獲』時点より右目と左腕および両脚が欠損していましたが、臓器類は健康そのもの。『生産』には支障のない個体です」
「精神状態は?」
「喪失ランク2。『行為』に対する反応はありますが、それ以外は全くの無反応。従順且つ忠誠的です」
「水国の騎士階級とは言えども、度重なる『教育』には耐えきれなかったか。せいぜいヘルメリアの役に立ってもらおう」
言って男はにやりと笑う。冷徹な軍人の笑いではなく、欲望を隠さない下卑な笑み。
「では私も遊ばせてもらおうか。ヘルメス様に感謝だな」
男が向かう先は、報告された『袋№201』を収容している部屋。そこにはかつては『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)と呼ばれていた女性が、唯一残った右腕で膨れ上がったお腹を愛おしげに撫でていた。
「いとしや、わが、こ」
虚ろな左目のまま、ただお腹を愛おし気に撫でていた――
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「突撃するぞ。イ・ラプセルを殲滅する」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はヴィスマルクの飛行船から部下に指令を出していた。第100歩兵大隊。ヴィスマルクの外国人部隊。その副隊長であるアデルは隊長であるフォートシャフトから名を受け、降下作戦を担う。
つい先日国王が崩御したイ・ラプセル。その混乱をつくように強襲作戦は実施された。フェアリーコア――小型幻想種から魔力を奪い、兵器の動力にするバッテリー――のスイッチを入れる。部下を冷徹に見まわし、言葉をつづけた。
「強襲揚陸飛空艇が強行着陸態勢に入った。総員、戦闘準備。着地後、即座に打って出る。あの高台を抑えるぞ」
この戦いで部下がどれだけ生き残るかなどわからない。イ・ラプセルは小国だが、無能ではない。新王は急増のオラクル騎士団を結成し、こちらにあたらせるという情報が入っている。
「作戦はさっき告げた通りだ。本隊が来るまでに町を鎮圧し、橋頭保にする。死体は拾わん。生き延びて帰りたければ戦って勝て」
死が隣り合わせの外国人部隊。亜人や外国人がヴィスマルクで生きていくには兵士になるか、ラーゲリで労働力になるか、憲兵隊におびえてスラムで生きていくしかない。兵士になって勲功を得れば、部下をまとめてヴィスマルク国民として認めてもらえる。これはそのための戦いだ。
「降下開始。敵兵確認。第100歩兵大隊第二部隊、出るぞ!」
アデルは掛け声とともに先陣を切り、イ・ラプセル騎士団に突撃する。彼を慕うように――それが生き延びる最適解だからなのか、本当にアデルを慕っているかは様々だが――第100歩兵部隊の部下達はアデルに続いて武器を振るう。
どのような状況であったとしても、アデル・ハビッツは兵士であった。
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「なんで……」
『明日への導き手』フリオ・フルフラット(CL3000454)は目の前の現実に、心が折れた。
かつてフリオを助けてくれたエリック・エッカート。自分を救ってくれたエリックはその後行方不明になった。死体は見つからなかったが、生存は絶望的だった。
そんなエリックが生きていた。敵国、ヴィスマルクの兵士として。
ヴィスマルクの虐殺部隊。行く先々で村を襲い、物資を奪い、人々を奴隷として突き進む極悪非道の部隊。『ナーレン』と呼ばれるその部隊を率いていた相手こそが、彼だったのだ。
「奪え! 殺せ! 壊せ! 生きていれば労働力として使い潰せ!」
かつて自分を助けてくれたエリックはもういない。ヴィスマルクに洗脳され、イ・ラプセルを荒らすならず者としてここにいる。自由騎士であるフリオはこれを止めないといけない。いけない、のに。
「や、めて」
「やめる? ハハ、面白いことを言うな。こんな気持ちのいい事をやめられるかよ。戦う気がないんなら、おとなしくしてな。聞き分けのいい奴隷は嫌いじゃないぜ」
「やめて」
「騎士様を辱めたい奴はいくらでもいるからな。そいつらを満たした後は戦闘奴隷として前線に立ってもらうぜ。もっとも、壊れなければだがな」
「やめてええええええええええ!」
壊れた。フリオの中で何かが壊れた。それが何なのかを、今のフリオは認識できない。壊れたものは戻らない。元の形が何なのかなんかわからない。それをとても大事にしていたのに、その形を思い出すこともできない。
気が付けば、フリオは血の海の中で力なく崩れ落ちていた。誇りをすべて失ったかのように笑い、剣を持つことは二度とできなかった。
ああ、わたしは、なんで、たたかっていたんだろう? なんのために、けんをにぎったのだろう?
きれいなものは、もうもどらない――
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それは幾多あった可能性の一つ――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
きみたちえげつないな。どくどくでもここまでやらないぞ!(うっきうきしながら執筆)
FL送付済