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【南方舞踏伝】Temperance! 限られた舞台の上で!



●南方海域
 南方海域で大陸共通言語が通用する部族が四つある。
 独特な文化を持つ褐色女性の集団、ノウブルの女傑部族。
 ゾーエと呼ばれる巨大なエイを崇めるミズビトのゾーエ族。
 一定海域を旋回しながら過ごすソラビトのぐるぐる族。
 近寄る船に絡みつき、航海を阻む幻想種のナガヘビ族。
 女傑部族とゾーエ族、そしてぐるぐる族と邂逅し、そこで踊りの鍛錬を受ける。太陽のような力強さと霧の穏やかな心と無心の回転。見えそうで見えない踊りの形が少しずつ輪郭を為してくる。
 南方海域に存在したという舞の武闘。そこに至る最後の手がかりナガヘビ族の領域にたどり着けば、海面から20mを超す巨大なヘビ型幻想種が顔を出した。

●ナガヘビ族
「はい。そこのお舟さん。そこで止まってくださいな。
 ここから先はナガヘビ族の領域。人族が欲する者は何もありません。金銀財宝冒険浪漫。そんなものはありません。凪の海があるだけです」
 蛇の頭の部分は人の上半身の形をしていた。男とも女ともとれる中性的な顔立ちで、すらりとした身体は今にも手折れそうな花を想起させる。そして同時に蛇の体が強い生命力を感じさせた。
「なんとなんと。そのような物を求めての来訪とは。珍しいお方で。欲があるやらないのやら。
 そういう事でしたらワタシも一肌脱ぎましょう。ヘビだけに」
 言ってから『あ、これは脱皮と一肌脱ぐをかけた洒落で……面白くないですか、はぅ』と落ち込んだ。その後に、
「踊りとは動きと魅了。すなわち動くことで状況を動かす剣と盾。大事なのはリズムを刻みながら、同時に形に捕らわれない事。
 既に貴方達は、ワタシの術の中。蛇に睨まれた蛙の如し。意識しない己を動かす何かにかけられた鎖」
 ナガヘビ族はまだ何もしていないのに、それを見た者は動けないという感覚に囚われてていた。無意識と呼ばれる何か。後の学問でイドと呼ばれる本能的衝動に訴えかける行動停止命令。
「睨まれて止まるも一つの道。それでも進むも一つの道。舞とはすなわち自己表現。狭められた舞台の上でそれでも己を失わぬこと。
 自由を謡う者は自由を識らず、拘束されし者は拘束を識らず。真を識るはその両を識る者。自由と拘束の中で、貴方達は如何な主張を魅せてくれますか!?」
 手を広げるナガヘビ族。そこに宿る魔力の塊が戦意を示す。
「あ、殺しはしませんが気を失うぐらいに追い詰めるつもりのでよろしく。
 ヘビだけに生殺しで」



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
新天地開拓σ
担当ST
どくどく
■成功条件
1.ナガヘビ族の打破
 どくどくです。
 本シナリオは4回予定のシリーズシナリオ、最終話です。南部海域に分割された踊りの秘伝をすべて集めるのが目的となります。
 シリーズそのものに高い連続性はなく、途中でも違和感なく参加出来ますので宜しくお願いします。

●敵情報
・ナガヘビ族(×1)
 幻想種。海から出ている部分だけでも20mを超す巨体です。戦うのはその頭部である人間部分になります。体を狙ってもいいですが、鱗がめっちゃ固いので推奨しません。伝授が目的なので、攻撃が届かない位置に逃げる事はありません。
 戦闘開始と同時に『杯中蛇影』を使用し、PCの動きを制限します。そのため1ターン目の行動はありません。

 攻撃方法
斗折蛇行 攻近範 「とせつだこう」曲がりくねった軌跡で打ち据えてきます。
蛟竜毒蛇 攻近単 「こうりゅうどくだ」毒素を含む爪で切り裂いてきます。【ポイズン2】
竜蛇之歳 魔遠範 「りょうだのとし」因果を乱し、不運を与えます。【アンラック1】

杯中蛇影 「はいちゅうのだえい」無意識と呼ばれる領域にかけられた拘束術です。戦闘中ずっと持続し、どのような手段でも解除できません。

【『各種スキル名』『キャラクター名』を除くプレイング中のう段(う、く、す、つ、ぬ、ふ、む、ゆ、る。濁音、半濁音、小書き含む)の数】%の確率で行動不能になります。数が100を超えた場合、5%の確率で行動可能になります。

 なお日本語以外でプレイングを書いた場合、日本語に意訳してダメージ計算します。たとえばHPは(ヒットポイント)と訳し、う段の数が1つ追加されます。

●場所情報
 南方海域を進む船の上。時刻は夕方。明かりや足場は戦場に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『ナガヘビ族』がいます。
 事前付与は一度だけ可能とします(この時は、行動不能判定はありません)。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年03月06日

†メイン参加者 8人†




「……ぎぎぎ、動きにくーい! 重り付けての筋トレみたいー!」
 身体を縛るナガヘビ族の術に重さを感じる『元気爆発!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。それでも笑顔を絶やさず動き回ろうとするのは彼女の性格ゆえか。心に課せられた鎖を気にしながら、それでも元気を振りまいていた。
「最後に色々な意味でめんどいのが来たなー。お笑いセンスも微妙だし」
 うはー、という表情で『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)が呟いた。その言葉でナガヘビ族が傷ついていじけてるが、まあ些末事。解除できないモノは仕方ないと割り切って、戦いに挑む。
「ふむこれは……中々興味がありますね。さすが幻想種」
 体にかかる圧力のような何かに『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はむしろ喜びを感じていた。未知なる物事、未知なる領域。新しく知るという行為に喜びを感じる。偶には新天地に足を運ぶのもいいものだ。
「ふむ……確かにこれは未知の領域」
 指先の感覚を確認するようにアデル・ハビッツ(CL3000496)は呟いた。武器や弾丸、魔法などによる攻撃ではない。心に訴えかけるような攻撃。多くの戦場を渡り歩いてきたが、これは初めての感覚だ。
「これはとてもヘビーな戦いだ、蛇だけに」
 腕を組んでうむと頷く瑠璃彦 水月(CL3000449)。『それ私のセリフー!?』とナガヘビ族が訴えているが、まあ些末事。ここまで学んだ踊りの修練を思い出しながら、最後の踊りを学ぶために前に出る。
「……あー。いや、ホントめんどーだなこれ」
 うんざりした口調で『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は呟く。気合を入れなくてはいけないが、気合の入れ方を間違えれば酷い目に合うというかなんというか。どうあれやる事は変わらない。
「杯中蛇影か……そんな制限では俺は止まらせないよ!」
 びし、、と指を立てる『ノラ狗』篁・三十三(CL3000014)。柴犬の耳をぴんとたて、元気よく戦場に挑む。強く拘束を受けている様子もなく、自由気ままに動き回る。しかし見る者が見ればそれは暗殺の技術が含まれていることが分かるだろう。
「……? みんな、うごきにくい?」
 小首をかしげる『リムリィたんけんたいたいちょう』リムリィ・アルカナム(CL3000500)。なんで皆が動きづらそうなのか、まったく理解できないようだ。基本無表情無感情のクールな故に分かりにくいが、動きが制限されている様子はなかった。
「おやおや。予想外に動けるご様子。これはワタシも予想外。そして思わぬやる気。
 卑怯千万と蛇蝎の如く嫌われると思ったのですがねえ。ヘビだけに」
 面倒、厄介。それ以上の開く感情を抱かれなかったことにナガヘビ族は驚いていた。今まで自分達を襲った者は皆恨み言を抱いていたのに。
「では、参りますよ――」
 一礼し、ナガヘビ族が襲い掛かってくる。自由騎士も武器を構えて相対する。
 南方海域の幻想種。失伝した踊りの情報をめぐる最後の戦いが、今始まる。


「気合全開で行くよ!」
『霧雨一文字』と『篠突雨丸』を手に三十三が走る。地元に戻ったり色々寄り道したりしていたが、剣を取れば即座に体が動き出す。身体に染みついたアマノホカリ伝来の体術が三十三の動かしていく。
 身をかがめ、体全体に力を込める。足の裏に力を込め、大地を蹴る様にして一気に駆ける三十三。地面を蹴った勢いを殺すことなく跳躍し、ナガヘビ族に斬りかかる。交差する二本の刃が、幻想種の肌を裂く。
「三十三が一手……『疾風』!」
「カノンも行くよー!」
 腕をぐるぐる回し、カノンが突撃する。戦場を俯瞰するように見ながら、同時に相手の動向を見る。ナガヘビ族の両手を回転させる動きには隙が多いが、逆に言えば誘っているようにも見えた。悩むのは一瞬。隙あらば、打つのみ。
 拳を強く握り、カノンが踏み込む。ガントレットの硬い部分でナガヘビの爪を弾き、攻撃で生じた隙に滑るこむように足を動かす。円を描くような歩法。それは南方諸島で学んだ動き。回転の勢いを乗せた拳が幻想種を穿つ。
「弾けろ! カノンパンチ!」
「ガンガン行くよ!」
 身を縛る拘束を振り払うように力を込めてカーミラが叫ぶ。央華大陸伝来の独特の構えを取り、ナガヘビ族の攻撃に備える。軽く手首を曲げた動物に似た構え。父と母が教えてくれた構えに、カーミラが歩んできた経験が加味された新たな構え。
 体内の気を爆発させるようにして踏み込むカーミラ。呼気と同時に拳を繰り出し、幻想種に一撃喰らわせる。衝撃で揺れるナガヘビ族の隙を逃すことなく跳躍し、右足で飛び蹴りを喰らわせた。吹き飛ぶ幻想種に笑顔で告げるカーミラ。
「踊りは動きと魅了! キラッキラして目立ってビートを刻むようなステップで踊るよ!」
「それもまた踊り。しかし――」
 派手に華麗に踊るカーミラの踊りの隣で、水月が構えを取る。アマノホカリの着物が潮風に吹かれて静かに舞った。カーミラの舞を否定するつもりはない。だが正解は一つだけでないのも確かだ。
 体内の『龍』を活性化させ、構えを取る水月。この南方諸島で学んだ事。力強く、心穏やかに、そして回転の動き。それ即ち変幻自在な流転水護拳の如く。湖面のように穏やかに構え、津波のように激しく攻める。この緩急もまた踊りの一つ。
「あっしのようなのも踊りでござるよ!」
「面倒だが……逆に言うとなるほど強力な力だ」
 心を縛られる淡い感覚に感嘆の声を示すツボミ。攻撃をする気を失わせれば、戦いは起きず平和になる。ある意味強力な防衛策だ。この幻想種はこうやって自分のテリトリを護ってきたのだ。その事実が嬉しくある。
 相手に敬意を評するが、それはそれとして戦いからは気を抜かない。傷ついている仲間を見定め、倒れそうなものから癒しの術を行使する。蛇のような曲がりくねった軌跡の一撃と、毒の爪。油断すれば体力を一気に持っていかれかねない。
「後、残念ながら貴様の洒落はそのー……しょーじきあんま適正無いんでは」
「ツボミ、かなり傷ついたみたいだよ」
 ツボミの一言でのけ反ったナガヘビ族を見ながら、マグノリアが呟いた。幻想種の思考はよくわからないが、人間に照らし合わせれば作った作品の評価が低かったと言った感じだろうか。知性ある幻想種には時折みられる傾向だ。
 幻想種の観察を行いながらマグノリアは錬金術を構築していく。蒼きマナを手のひらに集め、解き放つ。冷たい風が幻想種の周囲で吹き荒れ、大気中の水分を凍らせて動きを封じる。
「しかし面白い。未知の幻想種とは聞いていたがイ・ラプセルの歴史書にはない幻想種だ」
「確かに面白い。だが突破口は見えた」
 槍を構えてアデルが頷く。杯中蛇影は回避不能だが、絶対の拘束ではない。成り立ちを理解し、その網を抜ける様にすれば突破は可能だ。頭の先から足のつま先まで意識を流し込み、一つ一つの動作を正しく行う。基礎を徹底的に鍛える事は万象における極の一歩。
 足を踏みしめ、槍を構える。槍の角度、足の向き、腰の高さ、呼吸、全身の力の振り分け……。意識せず行う行動を、意識してアデルは構える。動作を制御し、より精緻に、より繊細に。突き出された一撃は重く、幻想種に叩き込まれる。
「感謝する、ナガヘビ族。戦技の階梯、一段高みへと登ろう」
「ん、ノリでいくよ」
 無表情かつ無感情にリムリィが口を開く。シャツに描かれた『きょうのてんきは、はれ』の文字が風でそよいで揺れていた。前回の回転が気に入ったのか、そのまま付き合っている。無表情で反応も希薄だが、やるべきことは解っている。
 武器を構え、棒立ちのような構えで前に出るリムリィ。迫る一撃を避けるような事はせず、撃ち返すように武器を振るった。カウンターの要領で相手の攻撃を弾き返し、返す動きで重い一撃を叩きこむ。
「わたし、ぜんえい。ねらい、せんめい。ひとめではんめい。
 どあたまにせんれい。たたきこめぜんれい」
 無表情無感情なローテンションラップ。それでもリムリィ本人はノリノリのようだ。
「あいたたた……。皆様かなりの戦闘経験をお持ちのようで。
 この攻勢が竜頭蛇尾でない事を祈ってますよ! ヘビだけに」
 やっぱりセンスないなぁ、この幻想種。自由騎士全員は同時に同じことを思った。
 とはいえ行動制限がかかっている上に毒と広範囲の攻撃は厄介だ。毒でじわじわと弱らせながら、多人数を攻める。単体で多人数を相手するのに適した動きだ。そう言った戦いに慣れているのだろう。
 だが戦い慣れているのは自由騎士も同じ。相手の戦術のキモを見切り、そこを押さえる事を基軸に自らの戦略を組み立てる。
 幻想種と自由騎士。戦いという舞台の中で、両者は踊り続ける。


「重ーい……!」
「カノンは負けな……い!」
「拘束率は三割強といった所ですか。麻痺術に比べればましな方ですね」
 杯中蛇影。目に見えない枷に縛られ、しばしば動きを止めるカーミラとカノンとマグノリア。それにより攻撃と援護の手が止まる。
 とはいえ相手は一人。自由騎士は八名。攻め手が途切れるという事はなかった。
「やはり後衛を積極的に狙うという事はありませんか」
 水月はナガヘビ族の攻め方を見て、安堵する。南国諸島の者達の闘い方は、勝利重視ではなく個人が楽しむことを重視していた。回復を積極的に狙ったり、集中砲火をするのではない。あくまで踊りを伝授し、そして自分の楽しむための動きだ。
「これが俺の闘い方だ! 三十三の一つ、『残月』!」
 三十三はナガヘビ族の動きを自分の動きに取り入れて動いていた。音を消し、背後から忍び寄る自らの足はこびと、蛇のように曲がりくねった移動方。緩急いれる事で相手のタイミングをずらし、三日月の軌跡で追い詰めていく。
「前に出て叩く。俺の役割はそれだけだ」
 一歩も引くことなくアデルはナガヘビ族に張り付いていた。己の役割を全うする。それこそが自分に出来る使命だ。一人で戦っているのではない。信じられる中もと共に挑み、そして学んでいる。その為に真っ直ぐに、自分自身に出来る事を行っていた。
「きちんとれんけい。なかまとのかんけい。どんなかんけいでも、こわせないかんけい」
 ローテンションのラップを続けるリムリィ。スローモーな動きに見えて、動く時は俊敏な速度になる。自らの領域を護る時には獰猛になるカバの血がそうさせているのだろうか。両手の武器を合体させたハンマーで、回転するように攻め続ける。
「そこ、毒うけてるんだから無理するな!」
 ツボミは回復と治療にひっきりなしだった。毒に不運、そして範囲攻撃。大ダメージを与えてくるタイプではなく、じわじわと逃げ道を塞いでくる攻め方だ。その布石を少しずつ取り除き、戦いを安定させていく。
「折角ここまで来たんだし、最後まで頑張ろう!」
 身を縛る拘束を振り払おうと叫ぶカーミラ。四つの踊り全てを覚え、見せてあげると約束したのだ。籠の中の小鳥は世間を知らないけど、それを不幸だなんて呼ばせやしない。世間を回りそれを友達に伝える為に、カーミラは体を動かす。
「不運なんてカノン自身の力で跳ね返す!」
 振りかかった因果の乱れを、大声で叫んで跳ね返すカノン。運命偶然ツキ場の流れ。どれだけ障害が降りかかって来ても、カノンは足を止めずに突き進む。行動を止めればそれで終わる。行動し続ければ、きっと道は開く。そう信じて。
「蛇系の幻想種……あるいは龍に連なるのかもしれませんね。となればこの術は」
 マグノリアはナガヘビ族を観察し、そんな結論を導く。今は人前に姿を現さなくなったドラゴン。その原因は解らないが、ナガヘビ族のように人を寄せ付けない何かを仕掛け、そこに籠っているのかもしれない。仮説だが、ありえそうな話だ。
 ツボミと三十三とマグノリアの回復に支えられ、自由騎士はナガヘビ族を攻める。
「まだまだ動けるよ!」 
 カーミラがフラグメンツを削られるほどの傷を受けたが、流れは完全に自由騎士が掴んでいた。
「これで終いだ」
 アデルは『ジョルトランサー』を構え、ナガヘビ族に向かって突撃する。機械の体に力を込め、兜の奥から目標を見る。機を逃さず、真っ直ぐに突き進む。それが今まで生き延びてきた傭兵の戦法の一つ。
「良き踊りだった。また一つ、新しき知己を得た」
 槍を振るい、石突で船の甲板を叩く。とん、という音と共にナガヘビ族が崩れ落ちた。


「おー、痛い痛い。見事な動きでした」
 自由騎士に打たれたところを押さえながら、ナガヘビ族が起き上がる。
「ところでナガヘビ殿のお名前は?」
「おにーさんなのかおねーさんなのかも聞きたいな」
「おや、名乗ってませんでしたね。エリディブスと申します。うら若きメスですよ」
 水月と三十三の問いに、胸に手を当てて答えるナガヘビ族。『名乗りなど蛇足ですので、ヘビだけに』というセリフは総スルーされた。
「最後なのだしな。ダベろーぞ。皆を呼べ。経費は騎士団が出すだろう」
 言って南方諸島の四部族を呼び寄せるツボミ。最後に酷い事を言いやがったが、思ってたよりはあっさりと合流できた。そして宴が始まる。
「貴様は私と一緒に呑め。感謝の証だ遠慮すんな」
「これはありがたい。うわばみなんですよ、ワタシ。ヘビだけに」
「ヘビ……かば焼き……いえいえそのようなことは。じゅるり」
「うむ、たまにはこういうのもいいだろう」
 成人しているツボミと水月とマグノリアはナガヘビ族と一緒に酒を飲んでいた。
「踊りの秘伝、きっと戦いにも活かせそーだけどお芝居でも活かせそーかも?」
「いぇーい! ここでこうして、こうだ!」
「これが戦いに昇華されるのか……どんな形になるんだろう!」
「楽しみではある。探索の結果得られた武技がどうなるのか」
 カノンとカーミラと三十三とアデルはナガヘビ族から得た踊りを反芻するように踊っていた。
「ふむ、それを国中に伝えたいのですか。しかし形なき踊りとリズムを正確に伝えるのは大変ですからねえ。伝言ゲームのように途中で歪んでしまうかもしれません。
 かといって大勢で来られてもまた大変。皆が試練を突破できるとも限りませんし」
 皆が得た踊りを国に伝えると聞いて、ナガヘビ族が腕を組む。文字や絵に残らない文化を伝えるのは、容易ではない。事実、自由騎士も各部族に出向いて試練を受けて会得したのだ。
「あなたたちの努力を実らせてあげたいのですが、ワタシの能力ではそれは叶いません。
 ああ、こういう時に音の幻想種であるウタクジラがいればいいのですが」
 ん? 聞きなれた幻想種の名前に顔を見合わせる自由騎士達。
「ウタクジラをご存じないですか。確かに希少種ですからねぇ。仕方ありません。
 あらゆる音を奏で、あらゆる歌を調べると言われた者です。音に魔力を込める空飛ぶクジラ型幻想種。かの者の協力があれば正確に伝達はできるのでしょうが……この広い海のどこに居るのやら。
 いや蛇足でした、ヘビだけに。ともあれ伝えたい人達を連れてきて――」
「うん。その――」
「ウタクジラなら……メモリアは」
「??」
 聞いたことのない固有名詞に首をかしげるナガヘビ族。
 その表情は二秒後に驚きに変わった。

 そしてイ・ラプセルのスペリール湖。そこに住む幻想種に話を告げる。紆余曲折あってそこに居を構えることになったウタクジラだ。
『ええ、だいじょうぶ。いっしょに歌えば伝達はできるわ』
 事情を聞いたメモリア――ウタクジラの名前だ――は自由騎士の言葉に頷き、メロディを奏でる。音が身体にしみわたり、踊りのリズムを正確に伝えていく。踊りは形となり、そして武技へと昇華されていく。
 失われた南方舞踏は、こうしてイ・ラプセル復活したのであった。


 かくして南方諸島の踊りをめぐる旅は終わりを告げる。
 力強く、そして静かで、回転と困惑、そして魅了。多種多様な踊りは単体だけではなく複数の要素を組み合わせ、更なる発展をとげていく。
 それは亜人を人と同等と受け入れたイ・ラプセルの如く。数多の価値観を受け入れ、そして共に歩んでいくが如く。
 手を取り合って進んでいく彼らがどのような歴史を紡いでいくのか。それはまだ水鏡ですら見えない領域だった。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『南方舞踏伝承者』
取得者: 瑠璃彦 水月(CL3000449)
『南方舞踏伝承者』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『南方舞踏伝承者』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『南方舞踏伝承者』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)

†あとがき†

 どくどくです。
Q『なんでう段?』 A『たいていの動詞はう段終わりなので』

 以上のような結果になりました。思ったより行動不能にならねぇなぁ。
 一番苦労したのはう段の数を数える事と、ナガヘビ族のセリフでした。なんでこんなめんどくさい仕様にしたかなぁ、設定作ったやつ出てこい! わたしです。
 MVPはう段が一番少なかったアルカナム様に。いやまいりました。白旗です。

(初回以外は)ギミックバトルだらけの南方諸島の旅はこれで終わりです。
 会得したスキルが皆さまの助けになれば幸いで……(データを確認して)……これで攻められるのかぁ……(ため息)。

 それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済