MagiaSteam
Echidna! 大蛇? いいえ、うわばみです



●WheatBarleyRye!
 豊穣祭ウィート・バーリィ・ライ――
 イ・ラプセルの祭の一つで、豊穣祭の名の通り年度の作物を祝っての祭りである。事、水質のいいこの国の作物は質が高く、麦やビールはそれを目的に他国から来賓者が訪れるほどだ。
 そしてそんな質のいいものだから、当然それを狙うものがいるわけで……。

●蛇女達の酒宴
「かんぱーい!」「うぇーい!」「やー!」
 三つの樽が掲げられ、その中にあったエールが口の中に注がれる。ものすごい速度でエールを飲み干し、三匹の女性型幻想種は美味しそうに息を吐いた。
「うわ、本当にうまいわ! 人間やるじゃん!」
「もうこれだけあれば何もいらない! うへへへへ、もういっぱーい!」
「ああん、あたしもー」
 三匹の幻想種は襲った馬車からエールの樽を運び、蓋を叩き割って一気飲みする。あれよあれよと樽が空になっていく。
「暑くなってきたわー。服なんか脱いじゃえー!」
「いえーい! あたしもー」
「スカート邪魔ー」
 興が乗った幻想種達は来ている服を脱ぎ捨てる。人化の魔術も解除し、本来の姿に変化した。赤、青、緑の爬虫類の鱗。鋭い爪と牙。妖艶な――んだろうけどほろ酔いの表情。
 全長6mほどの蛇の魔物、エキドナに。

●自由騎士
「てな幻想種が出るのよ」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は集まった自由騎士を前に説明を開始する。
「ウィート・バーリィ・ライの為に作られたエールを運ぶ馬車。それを襲ってエールをその場で飲んで酒宴をするの。馬車の御者は無事なんだけど、宴会に付き合わされて二日酔い」
 言って肩をすくめるバーバラ。目的はあくまで酒で、人を襲ったりすることはない。むしろ明るいノリで酒を勧めたりするのだが、まあ元々強奪した酒なので盗人猛々しいというかなんというか。
「で、あまりにひどいんでお灸を据えようと。でも勘がいいのか、こちらの捜索の網を潜り抜けて動き回っているのよ。
 なので囮作戦に変更。エール樽を運ぶ馬車内に潜んで、襲い掛かってきたらそこを押さえるの。ある程度エールを飲ませて弱ったところを襲ってもいいし、一滴も飲ませない戦闘でもいいわ」 
 相手を酔わせることのメリットとデメリットがある。それを考慮して作戦を立てるのがいいだろう。
「頼んだわよ。ウィート・バーリィ・ライのエールを飲み干された、なんてことのないようにね!」
 背中を叩いて送り出すバーバラ。自由騎士達はそれに押されるように樽を乗せた馬車に歩き出した。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.エキドナ3体の打破
 どくどくです。
 Drink Or Die――飲むか、死ぬか。

●敵情報
・エキドナ(×3)
 幻想種。上半身女性、下半身蛇。蛇部分は5mほどあります。
 WBRのエールを求めて、荷馬車を襲います。逆にエール以外は興味がなく、飲む邪魔さえしなければ一緒に酒に誘います――そして二日酔いにさせる迷惑な酒のみです。
 飲めば飲むほど弱くなりますので、敢えて飲ませるのもありです。

攻撃方法
格闘 攻近単 拳による攻撃です。結構重い。【ノックB】
尻尾 攻遠範 尻尾を使った攻撃です。周囲を一掃します。
魔術 魔遠単 人間では発音できない音域での魔法です。悪酔いする魔法のようです。【バーン1】【ポイズン2】
巨体  P  尻尾を含めて巨体な種族です。ブロックに2名必要。
酩酊  P  ビール樽を一つ開けるごとに、酔っぱらって『行動不能率が10%増加(最大30%まで)』、服を脱いで『各防御力が10%減少(最大30%まで)』、酔えば酔うほど強くなり『各攻撃力が10%増加(最大30%まで)』します。

●場所情報
 イ・ラプセルの首都サンクディゼールに繋がる公道。そこを走る馬車の中に潜んでもらいます。エキドナはエールの樽にしか興味を持ちませんので、潜伏はほぼ成功します。
 馬車に樽は10個あり、エキドナ一人がエール樽を1つ飲み干すのに30秒かかります。樽にエール以外の物を仕込むとバレますので、厳禁です。
 自由騎士は好きなタイミングで攻撃(あるいは不意打ち)しても構いません。事前付与もお好きなだけどうぞ。足場や明るさなどは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『エキドナ(×3)』がいます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/8
公開日
2019年10月15日

†メイン参加者 6人†




 馬車の中で息をひそめる自由騎士達は、迫る幻想種の姿を確認する。
「さすがに6mの幻想種は守備範囲外だな」
 上半身1mが女性で、下半身5mが蛇。そんな彼女達の姿を見てウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はうんと頷く。守備範囲内だったらどうするんだろう、という仲間の視線に気づかないふりをして、マキナ=ギアから武器を取り出す。
「豊穣祭のエールを狙うとはな。高く評価してくれることは嬉しいが」
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はエールが入った樽を撫でながらそう呟いた。自国の生産品を良いものとみてくれること自体は喜ばしいが、盗難を赦すわけにはいかない。これらはこのイ・ラプセル皆の物なのだ。
「俺も酒飲みだし飲みてぇ気持ちは分かるが、だからって盗んだ酒で乾杯ってのはいただけねぇなぁ」
 うんうん、と頷く『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)。イ・ラプセルのエールは美味いし、それを飲みたいという気持ちは理解できる。だがそれとこれとは別問題だ。きっちり引導を渡してやるとアンは銃を構える。
「ええ。気持ちはわかるわ。それをいち早く飲みたいという気持ちもね」
 同じく頷きながら『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が同意する。喉を通るエールの感覚。体内に広がるアルコールの熱。そして訪れる高揚感。豊穣祭の為に作られた一品だ。それを欲しがる気持ちはすごく理解できる。
「お待ちなさい! ここにあるお酒は豊穣祭のためのモノ! 街の人達が楽しみに待っているお酒なのよ!」
 やってきたエキドナの前に颯爽と現れる『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。囮作戦とはいえこの幻想種に一滴たりとも酒は飲ませない。それが酒好きの矜持だった。他の酒好きの為に拳を握る。
「はい。この酒は皆様が呑まれる大切な商品です! 強奪されれば他の人にいきわたらなくなります!」
 そして空樽の中に潜んでいた『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が中から蓋を開ける様に飛び出てくる。働かざるもの食うべからず。幻想種であっても、対価は必要だ。唯で酒を飲ませるわけにはいかない。
「まさか……貴方達も酒の強奪を!? あたし達と同じことを考える人間がいただなんて!」
「違う!」
「でも酒好きそうな雰囲気が」
「そうだけど違う!」
 一部酒好き自由騎士からのツッコミが入ったのちに、
「ふふーん。やる気? 悪いけど素面だから手加減できないわよ」
「酔っても手加減できないけどねー」
「大人しくお酒を飲ませるなら、痛い目見ずに済むわ。っていうか飲ませろー」
 と、戦闘隊形に入るエキドナ三人。自由騎士も素早く陣形を形成し、武器を構える。
 ウィート・バーリィ・ライのエールをめぐって、自由騎士と幻想種が相対する。


「ま、酒は好きだが戦いの方が好きなんでね。何で素面で戦ってもらうよ!」
 エキドナに銃を構えて叫ぶアン。彼女は戦いを求めて自由騎士に参入している。美味しい酒よりも血肉躍る程強い相手との戦いを求めていた。銃を向けた時のエキドナの反応をみて、アンは悪くないとほほ笑んだ。
 意識するのはかつてはなった軌跡の弾道。その感覚を思い出すようにアンは精神を集中させる。自分と敵以外を空白で塗り飛ぶし、ただ弾丸が敵を貫くイメージだけを強く抱く。放たれた弾丸は龍の牙の如く鋭く進み、ヘビのウロコを貫いていく。
「酒もいいが、戦いに酔うってのも悪くねぇだろう?」
「やばーん。痛いのやーよ」
「平和的っていうのはいい事だと思うけどね」
 エキドナの反応を見て、アンネリーザは苦笑する。積極的に人を襲わない幻想種。そういう意味では共存できそうな相手ではあった。だが酒を強奪するのはいただけない。酒には限りがある。ここで飲まれれば、誰かが飲めなくなるのだから。
 ライフルを構え、心を落ち着かせるように深呼吸する。スコープを覗きながら、もう片方の目で戦場全てを俯瞰するように見る。全体像と細かな標準。この二つあっての狙撃術。アンネリーザは心乱すことなく引き金を引いた。
「イ・ラプセルのエールは本当に美味しいわよね! 分かるわ! 私も大好き! でもね、人には人のルールがあるのよ」
「人化の魔術が使えるのだ。人のルールは熟知しているはずだが」
 貴族でもあり魔術師でもあるテオドールが確認するように問いかける。人と接する必要があるから、人になる魔術を学んだのだろう。ならばある程度、人のルールは理解しているはずだ。そうでなければ目立ってしまうのだから。
 問いかけると同時に『アルボス・サピエンティア』に魔力を通した。杖の先端にある宝玉が魔力を受けて赤紫色に変化していく。テオドールの周辺が低温に包まれ、吹雪となってエキドナを包み込んだ。激しい低温が幻想種の動きを止める。
「知ってるけど美味しいんだもん!」
「ふむ。理性が押さえきれなかったと言った所か」
「ヘビは嗅覚が高いらしいからな。彼女達からすればエールの匂いが通り過ぎるのを感じて我慢できなかったという所か」
 うんうんと頷くウェルス。コボルトなどの犬に似た幻想種とかも、そういう悩みを持つらしい。目の前を美味し匂いが通過していく辛さは納得できるが、だからと言って盗みを許すわけにはいかないが。
 馬車の御者の安全を確認した後、ウェルスは魔力を展開する。仲間の傷を確認しながら癒しの術を行使し、深手を負ったものから順に癒していく。酒で酔っていないとはいえ、幻想種の攻撃は放置していいほど浅くもない。
「ま、死なない程度に痛い目にあってもらうぜ。それが嫌なら尻尾を巻いて帰りな」
「むぅ。ここまで来て我慢できないもん!」
「ええ。その気持ちはわかります。ご馳走を前に耐える苦しみは、辛かったでしょう」
 優しい声でアンジェリカがエキドナに語りかける。飢えて苦しむ辛さ。そんな状態で目の前に料理が運ばれていく。そうなれば魔がさすこともあるだろう。……まあ、アンジェリカはまだ未成年なので、酒でもそうなのかはわからないが。
 優しく語りながら、しかし相手への攻撃の手は緩めない。手になじんだ武器を持ち、エキドナに迫るアンジェリカ。体の中心めがけて、全力で武器を叩きつける。重戦士の基礎にして極技ともいえる一撃が、エキドナに放たれた。
「だからこそ、神は慈愛を与えます。反省する機会と言う慈愛を」
「お前達にタダで飲ませるエールは一滴たりともないわ!」
 ぴしゃり、と言い放つエルシー。酒が好きなのはいい。だけど強奪することは許さない。子のエールは職人たちが試行錯誤し、毎日環境を整え、苦労の末に作り出された一品なのだ。それを対価なしで得ようなど許せるものではない。
『古き紅竜の籠手』を振るい、エキドナに接近戦を挑むエルシー。長い尻尾の動きを目に止めながら、ステップを踏んで攻め続ける。身をかがめて尻尾の攻撃をかわし、起き上がる運きと共に下から拳を突き上げた。
「貴女達がお酒が大好きなのと同じように、このお酒が大好きで心待ちに人達がいるのよ!」
「そんな! 私達はその人たちのお酒を奪ってたの!? まあ、でも美味しいし。いっか」
「美味しいには勝てないよねー」
「ねー」
 エキドナ達に反省する気はないようである。自由騎士もこれで大人しくなるとは思っていない。落胆することなく、武器を構える。
 戦いは少しずつ、熱を帯びて加速していく。


 緩そうな性格に見えるエキドナだが、いざ戦いになれば戦術を組み立てて行動してくる。
「あのクマが回復。安定して火力出すのが赤毛のノウブルと片翼の銃使い、キツネの子は運次第できっついのが来るわね」
「んー。行動封じてくる緑毛ノウブルが個人的にきらーい。顔は好みなんだけどー」
「後、手や尾を狙ってくるあの帽子ソラビトもうざーい」
 エキドナ達はうんと頷き、後衛を中心に攻撃を仕掛けることになった。一人がアンジェリカに魔術を放って疑似的に悪酔いさせ、残りの二人が尾で後衛を一気に攻める戦術だ。
「ううう。これが二日酔いと言うものなのですね……」
「こんな程度で負けてられないわ!」
 魔術による抵抗力が低いアンジェリカがエキドナの魔術でフラグメンツを削られ、アンネリーザが尻尾で吹き飛ばされてフラグメンツを失う。
「休む暇なしか。やれやれ忙しいこって」
 エキドナの猛攻を前にウェルスは回復にひっきりなしだった。余裕があれば攻撃を仕掛けることも考えていたが、どうやらその余裕はないようだ。魔術で痛みを打ち消しながら、心を乱すことなく術を展開し続ける。
「相応に戦い慣れているようだな。下手な強盗よりは厄介ではあるが」
 戦術の要を後衛組と判断し、攻撃をそちらに向ける。その手腕にテオドールは感心した。確かに厄介ではあるが、自由騎士もまた修羅場を潜り抜けている。魔術でエキドナの動きを封じながら、次の手を考える。
「貴女達とは飲み比べで勝負をつけたかったわね!」
 ライフルの引き金を引きながら、アンネリーザが叫ぶ。相手が酒好きなら、酒の勝負で決着をつけたかった。だが今は相対する立場。何よりも自分の飲む分がなくなるかもしれないのだ。故に彼女達の暴挙を許してはおけない。
「アンタらに飲ませる酒はないよ。鉛弾をたらふく喰らってきな!」
 移動を繰り返しながらアンが銃弾を放つ。動きながら銃を撃てば、標準がぶれる。しかし同じ場所に留まれば相手のいい的だ。攻撃と防御。そのバランスを経験と勘で見極め、引き金を引く。アンはそうやって戦い、生きてきた。
「ついに使うときが来たようね。私の酔拳、とくと拝むがいいわ!」
 言うなりエルシーはもっていた酒を口にして一気に飲み干す。体が熱くなると同時によろけるような動きで翻弄するように相手を攻め始める。相手に動きを読ませず、隙をつくように攻める。央華にある『形』の型の一つ――酔拳だ。実物見たことないけど。
「祭りの邪魔はさせません。そこに直りなさい!」
 言って武器を振るうアンジェリカ。立て続けに振るわれる攻撃がエキドナを追い詰める。一撃目で逃げ道を封じ、二撃目で防御の腕を使わせて、そして三度目で無防備な部分に打撃を加える。修道女の十字架はチェスのように正確に相手を攻撃していく。
 幻想種が戦い慣れているとはいえ、それはあくまで必要時に戦うだけ。常に戦火に身を置いている自由騎士とは戦いの経験値が違う。
「やーん!」「きゅー!」
 ましてやこの戦いは自由騎士にとっては国の祭りを守るという騎士の本懐でもある。酒を飲みたいというだけのエキドナとは戦うモチベーションが違う。経験と戦意の差から少しずつエキドナは追い詰められていく。
「ここまでか……」
「やるねぇ。だけどまあ、勝ちは貰ったよ」
 テオドールとアンがエキドナの尻尾で払われて膝をつくが、エキドナ達の攻勢もそこまで。
「わーん。やばいやばいやばーい!」
「これで終わりよ。エールが飲みたかったらおとなしく豊穣祭に参加しなさい」
 最後のエキドナに向かってエルシーが迫る。最後の抵抗とばかりに放った尻尾の一撃を跳躍してかわし、その勢いを殺さずにエキドナにキックを叩きつけた。もんどりうって倒れる幻想種に、腕を組んで言葉を続ける。
「お酒好きは皆仲間よ。だから酒も分かち合いましょう」
 その言葉が聞こえたか否か。エキドナはそのまま背中から倒れ、気を失った。


 戦い終わって、自由騎士達は応急処置を行った後にエキドナに詰め寄った。
「まあ、ただの害獣なら殺処分。強盗なら牢屋にぶち込むわけなんだがな」
 ウェルスは脅すようにエキドナに言い放つ。バーバラからのオーダーは『灸を据える』という事だ。要はエール強奪の再発がなくなればいい。そういう意味ではウェルスの方法も間違いではない。
「死者は出てないし、飲んだ代金だけ社会奉仕ってことでいいんじゃないか?」
 他の自由騎士もその処置に納得する。彼女達が貨幣等を持っているようには思えない。人間に対して敵対的ではなく、戦闘力などを考えれば適した仕事はあるだろう。商人としては経済が回れば万々歳だ。
「はいはーい! 酒蔵の番人とかやりまーす!」
「……次盗んだら問答無用で首刎ねるぞ」
「えー?」
 まあ、反省の色があるようには見えないが。
「どうやら反省が足りないようですわね」
 そんなエキドナ達の態度を見て、アンジェリカが前に出る。悪い子を叱るシスターモードだ。
「先ずはそこに並んで正座しなさい!」
「私たち下半身ヘビなんだけど――」
「せ・い・ざ!」
「ひゃあああい!」
 アンジェリカの勢いに負けて、人化の術を使って下半身を人間の者にして正座するエキドナ達。
「先ずは迷惑をかけた御者への謝罪です。そして今まで飲んだエールに対して!」
 びしっと指差すアンジェリカの説教にはーい、と頭を下げるエキドナ達。人間社会の構造と倫理観はさておき、強奪が悪い事と言う自覚はあったようだ。
「どうだね。君達も豊穣祭に参加しては。人の姿を保って迷惑さえかけないのなら、大歓迎だ」
 説教のころ合いを見計らってテオドールが声をかける。迷惑な相手ではあるが悪人ではない。見張り等の事前準備も必要だろうが、WBRを楽しんでもらえる相手がいるのは好ましい。
「酔うと術解けて尻尾出ちゃうけどいい?」
「……まあ、仮装行列の一つととれなくもないだろう」
 暴れなければどうにかなる。そう言い聞かせるテオドール。
「そうね。国王様も悪いようには言わないと思うわ。珍しいとは思うだろうけど」
 国王の顔を思い出しながらエルシーが言う。亜人に分け隔てなく接するあの国王なら、人間寄りの幻想種を嫌悪したりはしないだろう。アクアディーネもおそらくは同意見のはずだ。
「豊穣祭にはエールの他にも美味しい酒があるんだから。アマノホカリのお米のお酒とか」
「コメ?」「なにそれ?」「ああん、エール以外のお酒ものーみーたーいー」
 エルシーの言葉に、エキドナも興味津々と言った感じである。
「ああ、お米が分からないか。ともあれWBRまでのお楽しみよ。
 あと酔って騒ぐのはいいけど、ほどほどにね」
「そうそう、暴れたくなったら迷惑かからない場所に行きな。俺が相手してやるから」
 にぃ、と唇をあげてアンが挑発するように口を開く。祭りを楽しむ者の邪魔にならないのなら、いくらでも相手してやる。
「今度はその尻尾も撃ち落としてやるさ」
「ふーんだ。こっちこそお酒を飲んだ時のエキドナパンチを喰らわせてやるんだから」
「おもしろい。酔ったときの方が強いってんならなお歓迎だ」
 火花を散らすアンとエキドナ。周りの自由騎士は迷惑のかからない範囲でな、と宥めていた。
「あぁ、そうだ。君らの名前を聞くのを忘れていたな。
 人化の魔術を使えるなら便宜上持っているのではないかな?」
 テオドールに言われて、きょとんとするエキドナ達。まさか名前を聞かれるとは思わなかったようだ。
「アイナー」「アイニよー」「アイノぉ」
 どこか間延びした様子で三人のエキドナは自由騎士に名乗る。自由騎士達も、それに答える様に名前を返した。


 さて、後日談だ。
 エキドナ達は護衛と他の幻想種への交渉という形でこれまで飲んだエールの補填を行う事となった。イ・ラプセルが平和とはいえ、城や町の外に出れば危険がないわけではない。その備えがあるというのは、輸送の面で大きなメリットとなった。
 最初は不信感を持たれた彼女達だが、自由騎士の保証もあったこともあって商人達も受け入れることとなった。結果を出してくれるのなら問題ない、という割り切りもあったのだろう。
 なお、自由騎士達は商人達にある一つのことを厳命した。
『彼女達に酒を運ばせるな』
 首をひねる商人達だが、どうやらそれは守られているようだ。

 ウィート・バーリィ・ライまであと少し。
 今年の豊穣祭は、どのような盛り上がりを見せるのだろうか――

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
プレイングと台風がぶつかったので心配していましたが、皆様ご無事で何よりです。

以上のような結果になりました。
酒を飲ませると回避が下がるのでBSを入れやすくなるのですが、その分火力が面倒なことになるので一長一短。パーティの構成次第を見ればいい選択だったのでしょう。
まあ、「お前に酒は飲まさん!」という意図をプレイングからひしひしと感じましたが。
MVPは紳士的に名前を聞いてきたベルヴァルド様に。皆様エキドナを『敵』ではなく一個人として扱ってくれましたが、その中での対応が一番だったという事で。

ともあれ傷を癒してください。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済