MagiaSteam




【機児解放】ZAP! 貫け炎機の無敵装甲!

●ヴィスマルク軍人
戦車乗りを一人育成するのに、五年はかかる。
兵士としての基礎知識と体力を身に着けるのと同時に、狭い車内でパニックに陥らない為の精神的な訓練。指令の言葉に合わせて動く反応速度。これらが下地になるまでが五年。
――だが『チャイルドギア』はそれを一か月で為してしまう。『賞味期限』は短いが、その分数を増やせばいいと割り切ることもできる。
戦車を即戦力として扱いたいヴィスマルクからすれば、これに反対する理由はない。計画は数多の反対意見を押し切って勧められた。多くの反対者は『他国の子供を使う』『戦災孤児を使用する』などの意見と肉体的精神的社会的な恫喝で押し黙った。この時代、自分の家族と子供を持つ軍人は多いのだ。誰とて、自分の子供は守りたい。
ウルリーケ・アイゲンラウホ軍曹もまた、同様に屈した軍人だ。女性ながらに戦車に乗ると言い出し、多くの経験を乗り越えてエースの座を得た。そうして得た立場をヘルメリアから来た非人道的な駆動システムに奪われたのだ。
(いや、それはいい。新技術に負けると言う事自体は栄枯盛衰。時代の流れだ)
負けた者は奪われる。自分がそうしてきたように、自分もそうなる。だが、『チャイルドギア』は許せなかった。未来ある子供を閉じ込め、戦いを強要するなどあってはならなかった。
だが、アイゲンラウボは血の一滴まで軍人だった。上が良しとした決定を感情で否定はできなかった。
だから、上告した。あのようなものはなくとも、ヴィスマルク軍人は結果を出すと。
しかし、レガート砦を奪われたことでその上告は棄却された。イ・ラプセル相手に手段は選ぶな。勝利こそ、戦乙女の求めるモノなのだ。
こうして『チャイルドギア』計画は動き出す。だが、アイゲンラウボはまだ諦めるつもりはなかった。プロメテウスのパイロットに志願し、耐え忍んだ。
そして、イ・ラプセルが攻めてくる。時は来たりと、声高らかに宣言する。
「イ・ラプセルの決戦兵器を打ち砕き、ヴィスマルク軍人の力を示そう! 拷問の末に生まれる兵器ではなく、人の努力による訓練こそ勝利への王道と示そう!
戦乙女に勝利を捧げ、『チャイルドギア』の不要を示すのだ! 勝利を、勝利を!」
そして、『プロメテウス/ファッケル』は起動する。イ・ラプセルの決戦兵器を止める為に。
――ヴィスマルクに住む、多くの子供を守るために。
●自由騎士
貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』。
遠距離と近距離の二種類の貫通兵器を持つ二足歩行の兵器だ。プロメテウスの装甲を貫通することを目的としている。それに搭乗した自由騎士と、そして随行する自由騎士達は一路『プロメテウス/ファッケル』の元に向かっていた。
「火炎放射器を主武器とする兵器、だそうだ」
先行部隊からの情報から、プロメテウスの詳細を聞く自由騎士達。そして――
「ジャヴァウォック――防御を無視する技でも傷つけられないらしい」
「魔法も同様だ。装甲と何かしらの力――ヴィスマルクの権能で傷がつけられそうにない」
圧倒的な火力と、厚い装甲。そして乗り手の実力によりイ・ラプセル騎士団はその進行を止めることが出来ないと言う。
だが、それを止める為に作られたのが『ベガ』だ。
自由騎士達はプロメテウス/ファッケルを止める為に、動き出す。
戦車乗りを一人育成するのに、五年はかかる。
兵士としての基礎知識と体力を身に着けるのと同時に、狭い車内でパニックに陥らない為の精神的な訓練。指令の言葉に合わせて動く反応速度。これらが下地になるまでが五年。
――だが『チャイルドギア』はそれを一か月で為してしまう。『賞味期限』は短いが、その分数を増やせばいいと割り切ることもできる。
戦車を即戦力として扱いたいヴィスマルクからすれば、これに反対する理由はない。計画は数多の反対意見を押し切って勧められた。多くの反対者は『他国の子供を使う』『戦災孤児を使用する』などの意見と肉体的精神的社会的な恫喝で押し黙った。この時代、自分の家族と子供を持つ軍人は多いのだ。誰とて、自分の子供は守りたい。
ウルリーケ・アイゲンラウホ軍曹もまた、同様に屈した軍人だ。女性ながらに戦車に乗ると言い出し、多くの経験を乗り越えてエースの座を得た。そうして得た立場をヘルメリアから来た非人道的な駆動システムに奪われたのだ。
(いや、それはいい。新技術に負けると言う事自体は栄枯盛衰。時代の流れだ)
負けた者は奪われる。自分がそうしてきたように、自分もそうなる。だが、『チャイルドギア』は許せなかった。未来ある子供を閉じ込め、戦いを強要するなどあってはならなかった。
だが、アイゲンラウボは血の一滴まで軍人だった。上が良しとした決定を感情で否定はできなかった。
だから、上告した。あのようなものはなくとも、ヴィスマルク軍人は結果を出すと。
しかし、レガート砦を奪われたことでその上告は棄却された。イ・ラプセル相手に手段は選ぶな。勝利こそ、戦乙女の求めるモノなのだ。
こうして『チャイルドギア』計画は動き出す。だが、アイゲンラウボはまだ諦めるつもりはなかった。プロメテウスのパイロットに志願し、耐え忍んだ。
そして、イ・ラプセルが攻めてくる。時は来たりと、声高らかに宣言する。
「イ・ラプセルの決戦兵器を打ち砕き、ヴィスマルク軍人の力を示そう! 拷問の末に生まれる兵器ではなく、人の努力による訓練こそ勝利への王道と示そう!
戦乙女に勝利を捧げ、『チャイルドギア』の不要を示すのだ! 勝利を、勝利を!」
そして、『プロメテウス/ファッケル』は起動する。イ・ラプセルの決戦兵器を止める為に。
――ヴィスマルクに住む、多くの子供を守るために。
●自由騎士
貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』。
遠距離と近距離の二種類の貫通兵器を持つ二足歩行の兵器だ。プロメテウスの装甲を貫通することを目的としている。それに搭乗した自由騎士と、そして随行する自由騎士達は一路『プロメテウス/ファッケル』の元に向かっていた。
「火炎放射器を主武器とする兵器、だそうだ」
先行部隊からの情報から、プロメテウスの詳細を聞く自由騎士達。そして――
「ジャヴァウォック――防御を無視する技でも傷つけられないらしい」
「魔法も同様だ。装甲と何かしらの力――ヴィスマルクの権能で傷がつけられそうにない」
圧倒的な火力と、厚い装甲。そして乗り手の実力によりイ・ラプセル騎士団はその進行を止めることが出来ないと言う。
だが、それを止める為に作られたのが『ベガ』だ。
自由騎士達はプロメテウス/ファッケルを止める為に、動き出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.プロメテウスパイロット『ウルリーケ・アイゲンラウホ』の撃破
どくどくです。
決戦兵器により、難易度が一つ下がっています。こんちくしょう。
●敵情報
・プロメテウス/ファッケル(×1)
人型兵器。大きさ4m。十の指先から放たれる炎が主武器の兵器です。キャラクターとして扱います。
厚い装甲で砲撃や魔術を防ぎ、それらを貫通する技巧を戦乙女の加護――権能で無効化します。なので基本的にダメージを与えることはできません。『ベガ』の『アン=ナスル』『アル=ワーキ』が命中したターンのみ、ダメージを与えることが出来ます。
HPが0になったら動きを止め、アイゲンラウボが戦場に現れます。
攻撃方法
フランメ 攻遠範 指先から放たれた炎が、戦場を焼きます。【バーン2】
トローベン 魔遠範 熱波を解き放ち、体力を奪います。【バーン1】【Mアタック100】
ヴェルメラウホ 魔遠全 熱い煙幕を張り、目標の動きを封じます。【ダメージ0】【バーン1】【不安】
ゾンネンシュヴェールト 攻近単 斬撃兵器。熱したブレードで切り裂きます。【六連】【バーン1】
破壊兵器 P ブロックに九名、或いは『ベガ』一体が必要になります。
権能
勇猛:戦女神の名において、戦場では常に勇敢であれ。(精神系のBS抵抗力+15% 防御力+3% 防御無視無効・魔抵抗無視無効)
苛烈:戦女神の名において、苛烈であれ。(単体攻撃力が+10%)
・『軍靴で刻め、炎の祝福(アインエッシェルング・ツートリンケン)』(×2)
プロメテウス/ファッケルが有する兵装です。別キャラクターとして扱います。
大きさ3mほどの空中を浮遊する火炎放射器です。アイゲンラウボが戦闘不能になれば、自動的に機能停止します。
攻撃方法
ほのお 攻遠単 可燃性液体と共に炎を放ちます。【バーン3】
もえろ 魔遠単 内蔵された聖遺物を通し、怨念を込めた炎を展開します。【バーン1】【パラライズ1】
あつい 強化 HP30%以下で自動発動。自爆するほどの高熱を発し、火力をあげます。曰く、暴走モード。攻撃力&魔導力+25%。自身に【バーン3】。
浮遊能力 P 常に【浮遊】状態です。
・ウルリーケ・アイゲンラウホ(×1)
ヴィルマルク軍人。ノウブル女性。25才。階級は軍曹。プロメテウス/ファッケルのHPが0になると、戦場に現れます。
『チャイルドギア』には思う所はあるが、軍人という立場故に逆らずにいました。イ・ラプセル騎士団を廃することで『チャイルドギア』計画を止めようとしています。説得は不可。自由騎士の敗退こそが彼女の望みです。
蒸気騎士スタイル。ワイヤーを用いて戦います。
『ジャヴァウォック Lv3』『クイーンオブハート Lv3』『マッドハッター Lv4』『勇猛』『苛烈』等を活性化しています。
●兵装
・貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』
拙作『Weapon! 女神に恥じぬ兵器を作れ!』にて完成した兵器です。身長4mの人型兵器。近接と遠距離の貫通兵器を有します。
この貫通兵器でプロメテウスの装甲を貫いたターンのみ、プロメテウス/ファッケルにダメージを与えることが出来ます。
この兵装にPCの一人が乗り込むことが出来ます。その場合、貫通兵器の命中はそのキャラクターの数値が適応されます(CTとFBは10で固定になります)。誰も乗り込まない場合、名無しの騎士が搭乗します。
搭乗者を交代する場合、降りる人と乗る人がそれぞれ行動を必要とします。
スキルの使用は可能ですが、その場合『アン=ナスル』『アル=ワーキ』の貫通効果は使用しなかった者とみなします。
スペック
アン=ナスル 攻近単 装甲貫通に特化した兵器。火薬で杭を打ち出し、装甲を貫通します。命中80 攻撃力:搭乗者の2.5倍 CT10 FB10 使用回数6回
アル=ワーキ 攻遠単 装甲貫通に特化した砲撃。二重の弾薬で、命中箇所からゼロ距離で弾丸を放ちます。命中75 攻撃力:搭乗者の2倍 CT10 FB10 使用回数10回
HP:搭乗者の5倍(ドラマ復活、フラグメンツ復活、スキルによる戦闘不能回復は不可)
防御力&魔抵抗:搭乗者の2倍
反応速度:50
※搭乗者が活性化している非戦スキルは、スペックに影響する可能性があります。
自陣防衛防御戦車『デネブ』
自陣防衛防御戦車。巨大な盾を乗せた戦車です。自陣を守るように折り畳みの盾を展開します。
安全な治療場所を生み出すことで、自由騎士の重傷率を軽減します。
●場所情報
荒野。ドナー基地前。時刻は昼。明かりや広さ、足場などは戦場に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『プロメテウス/ファッケル』が、敵後衛に『軍靴で刻め、炎の祝福(×2)』がいます。
事前付与は不可とします。
※注意
この共通タグ【機児解放】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【機児解放】Agony! 苦悶の機械を破壊せよ!』に軍勢が雪崩れ込みます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
決戦兵器により、難易度が一つ下がっています。こんちくしょう。
●敵情報
・プロメテウス/ファッケル(×1)
人型兵器。大きさ4m。十の指先から放たれる炎が主武器の兵器です。キャラクターとして扱います。
厚い装甲で砲撃や魔術を防ぎ、それらを貫通する技巧を戦乙女の加護――権能で無効化します。なので基本的にダメージを与えることはできません。『ベガ』の『アン=ナスル』『アル=ワーキ』が命中したターンのみ、ダメージを与えることが出来ます。
HPが0になったら動きを止め、アイゲンラウボが戦場に現れます。
攻撃方法
フランメ 攻遠範 指先から放たれた炎が、戦場を焼きます。【バーン2】
トローベン 魔遠範 熱波を解き放ち、体力を奪います。【バーン1】【Mアタック100】
ヴェルメラウホ 魔遠全 熱い煙幕を張り、目標の動きを封じます。【ダメージ0】【バーン1】【不安】
ゾンネンシュヴェールト 攻近単 斬撃兵器。熱したブレードで切り裂きます。【六連】【バーン1】
破壊兵器 P ブロックに九名、或いは『ベガ』一体が必要になります。
権能
勇猛:戦女神の名において、戦場では常に勇敢であれ。(精神系のBS抵抗力+15% 防御力+3% 防御無視無効・魔抵抗無視無効)
苛烈:戦女神の名において、苛烈であれ。(単体攻撃力が+10%)
・『軍靴で刻め、炎の祝福(アインエッシェルング・ツートリンケン)』(×2)
プロメテウス/ファッケルが有する兵装です。別キャラクターとして扱います。
大きさ3mほどの空中を浮遊する火炎放射器です。アイゲンラウボが戦闘不能になれば、自動的に機能停止します。
攻撃方法
ほのお 攻遠単 可燃性液体と共に炎を放ちます。【バーン3】
もえろ 魔遠単 内蔵された聖遺物を通し、怨念を込めた炎を展開します。【バーン1】【パラライズ1】
あつい 強化 HP30%以下で自動発動。自爆するほどの高熱を発し、火力をあげます。曰く、暴走モード。攻撃力&魔導力+25%。自身に【バーン3】。
浮遊能力 P 常に【浮遊】状態です。
・ウルリーケ・アイゲンラウホ(×1)
ヴィルマルク軍人。ノウブル女性。25才。階級は軍曹。プロメテウス/ファッケルのHPが0になると、戦場に現れます。
『チャイルドギア』には思う所はあるが、軍人という立場故に逆らずにいました。イ・ラプセル騎士団を廃することで『チャイルドギア』計画を止めようとしています。説得は不可。自由騎士の敗退こそが彼女の望みです。
蒸気騎士スタイル。ワイヤーを用いて戦います。
『ジャヴァウォック Lv3』『クイーンオブハート Lv3』『マッドハッター Lv4』『勇猛』『苛烈』等を活性化しています。
●兵装
・貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』
拙作『Weapon! 女神に恥じぬ兵器を作れ!』にて完成した兵器です。身長4mの人型兵器。近接と遠距離の貫通兵器を有します。
この貫通兵器でプロメテウスの装甲を貫いたターンのみ、プロメテウス/ファッケルにダメージを与えることが出来ます。
この兵装にPCの一人が乗り込むことが出来ます。その場合、貫通兵器の命中はそのキャラクターの数値が適応されます(CTとFBは10で固定になります)。誰も乗り込まない場合、名無しの騎士が搭乗します。
搭乗者を交代する場合、降りる人と乗る人がそれぞれ行動を必要とします。
スキルの使用は可能ですが、その場合『アン=ナスル』『アル=ワーキ』の貫通効果は使用しなかった者とみなします。
スペック
アン=ナスル 攻近単 装甲貫通に特化した兵器。火薬で杭を打ち出し、装甲を貫通します。命中80 攻撃力:搭乗者の2.5倍 CT10 FB10 使用回数6回
アル=ワーキ 攻遠単 装甲貫通に特化した砲撃。二重の弾薬で、命中箇所からゼロ距離で弾丸を放ちます。命中75 攻撃力:搭乗者の2倍 CT10 FB10 使用回数10回
HP:搭乗者の5倍(ドラマ復活、フラグメンツ復活、スキルによる戦闘不能回復は不可)
防御力&魔抵抗:搭乗者の2倍
反応速度:50
※搭乗者が活性化している非戦スキルは、スペックに影響する可能性があります。
自陣防衛防御戦車『デネブ』
自陣防衛防御戦車。巨大な盾を乗せた戦車です。自陣を守るように折り畳みの盾を展開します。
安全な治療場所を生み出すことで、自由騎士の重傷率を軽減します。
●場所情報
荒野。ドナー基地前。時刻は昼。明かりや広さ、足場などは戦場に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『プロメテウス/ファッケル』が、敵後衛に『軍靴で刻め、炎の祝福(×2)』がいます。
事前付与は不可とします。
※注意
この共通タグ【機児解放】依頼は、連動イベントのものになります。依頼が失敗した場合、『【機児解放】Agony! 苦悶の機械を破壊せよ!』に軍勢が雪崩れ込みます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
4個
8個
4個
4個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年12月24日
2020年12月24日
†メイン参加者 10人†
●
大きさ4mの鋼の体。燃える炎を思わせる赤を基調とした装飾。追従する二機の武装。
プロメテウス/ファッケル。かつてヘルメリアで考案され、ヴィスマルクに技術が移されて生み出された人型兵器。火炎放射による施設破壊及び兵士駆逐を目的とされたモノ。
「プロメテウス……か」
様々な思いを込めて『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)はその名を口にした。かつてその名に復讐を刻んだザルク。だがその復讐は既に果たされている。だからこれは新たな戦いだ。気持ちを再確認し、銃のグリップを握る。
「また凄い物を出してきたねー」
正に人のように動くプロメテウスを前に、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は感嘆の声をあげる。事実、技術としては素晴らしいものだ。だがそれは敵だけではない。こちらも同様に兵装を生み出しているのだ。
「そうですね。この短期間でここまで仕上げていただいて技術者の方々には感謝しかないですね」
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はプロメテウスから目を離さずに言葉を放つ。目の前に立ちはだかる紅き機兵。イ・ラプセルの新型兵器があって初めて、勝ちの目が出てくる。それを作ってくれた技術者には感謝しかない。
貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』。装甲貫通兵器を有するプロメテウスに匹敵する大きさを持つ二足歩行兵器。
自陣防衛防御戦車『デネブ』。盾を展開する走行車両。自由騎士達を守る防壁。
「俄仕込みの操縦だが、ベガも俺もこの日の為に牙を研いできた。プロメテウスを貫く為に」
ベガに乗り込んだ『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は機体内でそう告げる。プロメテウスの厚い装甲。そしてヴィスマルクの戦乙女の加護。これを突破しない事には勝ち目はない。全てはベガを駆るアデルにかかっているのだ。その圧力を受けながら、前を向く。
「敵はプロメテウス。それを駆るのは歴戦の軍人。相手にとって不足なしです!」
『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)は敵を前に気合を入れるように叫ぶ。敵パイロットの素姓は水鏡の情報で知っている。敵としてまわれば厄介な相手だが、それでも臆することなく武器を構えた。
「非道と理解しながら、勝利せねば義を通せぬか」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は敵軍人の在り方をそう評する。国と言う数多の人の想いが交錯し、流動するモノの中で自分の正義を押し通す方法は少ない。この軍人にとっては、この場での勝利がそれなのだ。
「それが戦争……。はい、勝つことでしか己を示せないのですね」
テオドールの言葉に応えるようにセアラ・ラングフォード(CL3000634)は頷いた。多くの血、多くの死。平和とはその上に成り立っている。今を生きる人間に出来るのは、その犠牲をできるだけ少なくすることだ。……そこに目をつぶれば、楽になれるのだけど。
「その覚悟は、軍服に袖を通す時に刻んでいる」
短く、しかしはっきりと『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)は言葉を放った。護る覚悟、奪う覚悟。武を振るう覚悟、武を振るわれる覚悟。傷つけない為に傷つける。矛盾かもしれないが、矛盾していない事。それは既に――
「君が真正面以外から挑む強さを持っていれば……」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はウルリーケが搭乗するプロメテウスを見ながら、そう呟く。根っからの軍人ゆえの行動だろうが、それ以外にも戦い方はあったはずだ。それを選ばず、戦う道を選んだことを悔やんだ。
「行きましょう。未来を勝ち取るために」
手を合わせて『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈るように囁いた。未来。この戦いの趨勢がこの大陸に住む子供の未来を決める。或いは未来を奪う。その意味を強く心に刻み、武器を手にした。
「イ・ラプセル国所属、自由騎士とお見受けする。
我が名はウルリーケ・アイゲンラウホ。所属は鋼炎機甲団、階級は軍曹。我が機体はヴィスマルクが生み出した決戦兵器プロメテウス/ファッケル!
貴君らの主張、想いは理解しているつもりだ。その意志、その高潔、その道義、敬意に値する。故に降伏勧告はしない。私は私の全てをもって、貴君らに応えよう!」
宣言と共に動き出す炎の蹂躙兵器。言葉から感じる意志は強く、そして鋭い。戦意は更に先鋭的なのだろう。
自由騎士はそれを受けながら、武器を構える。ウルリーケの言うように、自由騎士にも戦う理由がある。ここで引くわけにはいかないのだ。
鋼と鋼が動き出し、人の思いが交錯する――
●
「行くぞ、ベガ」
言いながら操縦幹を動かすアデル。デネブの盾を銃架にして銃を固定し、同時にデネブを守る盾として展開する。この戦いはベガが落とされれば勝ち目はなくなる。そうならない為の策でもあった。
短期間の訓練ではあるが、ベガはアデルが案を出した兵器だ。ある程度の構造は理解しているし、搭乗の感覚は掴んでいる。武器を振るう様に、ベガを自らの肉体の延長線とイメージし、狙い、構え、そして撃つ。イメージは確かに、弾丸は確かに敵機を穿つ。
「プロメテウス。お前を廃し、チャイルドギアを過去のものとする」
「それはこちらも同じだ。イ・ラプセルを打ち倒し、悪しきギアの不要を説く」
「共に引けぬ身、ならば言の葉に乗せるは互いの戦意のみです」
貫通砲弾の命中を確認し、動き出すアンジェリカ。同じ『チャイルドギア』をなくそうとするものだが、その立場も手段も違う。敵を廃する事により目的を達しようとするかぎり、手を結ぶことはできないのだ。
奮起し、武器を構えるアンジェリカ。咆哮と共に全身に力を込め、手にした武器で砲撃が命中した場所に打撃を加える。背骨を幹として開店するように振るわれる三連撃。繰り返される打撃が、岩を砕くよう雨の如く叩き込まれる。
「共に求める者が勝利なら、全力で挑む事こそが礼節。私達の道、譲りはしません」
「共に退けない身だ。悲しいものだな、軍人というのは」
グローリアは『忍冬・真打』を手に戦いに挑む。グローリア自身は軍人だが、軍人になりたかったわけではない。目的のためには軍人になるしかなかったのだ。誰かを護りたい。誰かを救いたい。ただそれだけだ。だからこそ、相手の言い分も理解できる。
それを踏まえたうえで、グローリアはプロメテウスに刃を振るう。戦う事。そうすることでしか平和を生み出せない存在。それが軍人なのだ。その為に体を鍛え、その為に戦に挑む。高速で振るわれる刃に、ためらいはない。信念のままに真っ直ぐ刃は敵を裂く。
「矜持を示せ。その全てを受け止め、刃を振るおう」
「戦乙女に捧げた我が身、我が義、我が道。その全てをもって貴君らを討つ!」
「勝つのはカノン達だ!」
叫びと共に拳を討ち放つカノン。チャイルドギアを生み出すヴィスマルクを止めるためにここまでやってきた。ここで勝たなければ、プロメテウスは砦の方に向かい、敵少将を逃がすために参戦するだろう。それはここで止めなければならない。
ベガの貫通団の衝撃で揺らいでいる隙を逃すことなく近づき。連続で拳を叩き込むカノン。踏み込みと同時に腰を曲げ、身体を回転させるようにしてフックを討ち放つ。回転の力が加わった一撃が人型兵器の内部を揺らす。
「先ずは足を潰す。足を刈るのは戦いの基本だね!」
「好機を逃さず最大限を叩き込む。それがフルフラットの戦技であります!」
フリオが『戦闘用蒸気鎧装Fleuret』を起動ささせ、一気に距離を詰める。間合いを保ちながらベガの攻撃を待ち、装甲を突破できたと判断できれば一気に迫る。最大威力を最高の時に。一撃必殺こそが彼女の戦術。
瞳に魔力を込め、戦場全てを見る。同時に狙うべき場所に意識を集中し、しっかり見据える。視界全てと狙うべき場所。マクロとミクロを同時に見ることが、射撃の基本。軍人としての基礎的なことを忠実に守り、フリオは敵に向かい砲撃する。
「一気に叩き込むであります!」
「一気呵成に叩き込むぜ!」
フリオに続くようにザルクも動く。相手はプロメテウス。その脅威は身をもって知っている。その軍事力を、勝利の為に子供を犠牲にする国が有しているのだ。防衛用に使われなければどうなっていたか。
慣れ親しんだ銃を手にザルクは動く。ベガが与えた装甲への傷。その傷へ弾丸を当てる為に適した場所に。数歩でその場所にたどり着き、二挺の銃を構えると同時に引き金を引く。人差し指すら通らない小さなヒビ。ザルクの弾丸はそれを穿ち、更に傷を広げていく。
「硬い装甲だが、それぐらいじゃイ・ラプセルは止まらないぜ」
「装甲兵団、前に!」
ミルトスは率いる兵団に指示を出し、自らもプロメテウスを止めるべく挑む。勝ち目は多くない。むしろ負ける可能性の方がはっきりと見える。だからこそ、ミルトスは己を鼓舞する。勝つために。そしてその後の未来を得るために。
息を吸い、背筋を伸ばし、しっかり足を踏ん張る。打撃は拳で打つにあらず、腰で打つにあらず。踏み込み、腰の回転、空の回転、腕の捻り、打ち出す拳の角度。それら全てで打ち放つ。即ち、ミルトスが撃ち込んできた鍛錬全てが繋がり、この一打となるのだ。
「過去でも未来でもなく、今この瞬間の闘争。ウルリーケ・アイゲンラウホ。ここで貴方を打ち倒す!」
「我らは我らの義をもって貴君に相対する。我らは我らの勝利を以て、その非道を示す」
言って魔力を練り上げるテオドール。イ・ラプセルの貴族として、テオドールは自国の正義を示す。それが他国にとっては非常識であることなど、問題ではない。示すはイ・ラプセルの正義。ヴィスマルクが力でそれを示すなら、勝利を示して応じよう。
杖を手にして、魔力を解き放つテオドール。呪い、怨嗟、恨み辛み。負の感情が形を成し、白い茨となって戦場を疾駆する。狙いはプロメテウスの背後にある火炎放射兵装。その動きを封じ、こちらへの攻撃を減らすのが目的だ。
「こちらも幾多の戦場を乗り越えてきた。易々と勝てる相手と思うな」
「そうだね……。その強さは『イ・ラプセルならでは』の強さだ。君たちの強さと、方向性は違う」
錬金術を展開しながら、マグノリアが言葉を放つ。シャンバラではヨウセイを救い、ヘルメリアでは亜人奴隷を開放する。弱き者を救うのがイ・ラプセルの強さだ。だから今回もその為に動く。救い、そして自由を与える為に。
回復と攻撃。マグノリアは状況を見て、適した方に動いていた。味方のダメージが大きい時は回復に。好機とみなせば攻撃に。魔力を展開し、矢のように鋭くする。番えた魔力の矢を解き放ち、プロメテウスの傷を広げていく。
「僕は負けないよ。ここで君を倒し、チャイルドギアを止めて見せる」
「はい。この戦いの後に、子供達を救ってみせます」
頷くセアラ。戦いは、人が死ぬのは好きじゃない。だけど戦わなければ平和は手に入らない。だから今ここでセアラは戦い、後の平和の礎となるのだ。この戦争の跡に平和があると信じ、歩を進める。
展開するのは癒しの魔術。白き光を解き放ち、仲間達の傷を癒していく。回復をする際、仲間の傷や仲間の苦痛を見る。傷で苦しむ仲間を見て何も感じず、冷静に術を行使できれば心は楽になる。だけどセアラにそれはできなかった。傷を癒す。その意味から逃げはしない。
「きっと子供達が受けた傷は、魔法だけでは癒せないものでしょう。それでも私は――」
癒し手として、そこから逃げるわけにはいかない。その決意を持って戦場に立っていた。
「敵ながら見事。我が機体はその決意毎、貴君らを打ち砕く!」
ウルリーケが叫び、プロメテウスから炎が放たれる。
「さすがはプロメテウスか……」
「この程度で、倒れはしません」
「けっ、この程度で倒れてられねぇんだよ」
「……く、はぁ……!」
荒れ狂う炎がテオドール。アンジェリカ、ザルク、そしてセアラのフラグメンツを燃やす。
一進一退。ベガによる装甲破壊で、僅かではあるが後手に回る自由騎士が押されている状況だ。だがそれは戦術上仕方のない後手で、同時に後手に回るからこそ取れる戦い方もある。
戦局は激しく荒れていた。勝利の女神は、未だどちらにもほほ笑む可能性がある――
●
二機の人型兵器が交錯し、人の想いがぶつかる合う。
共にチャイルドギアを認めぬ者同士、しかし国という垣根の違いから手を取ることが出来ない。相対する国であること。勝利の形が違う事。そして何よりも、歩んできた歴史の違い。重なってきた二国の因縁は、この場で氷解できるものではない。
「ウルリーケ……君がチャイルドギアに反対している事は理解している。その為にこの戦いに身を投じた事も。
でも、君は手段を間違えた。戦う以外にも国の流れを変えることが出来たはずだ」
悲し気に告げるマグノリア。大きな流れを変えることが難しいことは知っているが、それでも平和的な解決策はあったのではないか? それが出来なかったウルリーケに思う所はあるようだ。
「戦う以外の手段を選んだものは、皆屈した。
ある者は自分の子供を使われると脅され、ある者は子供を誘拐されそうになり、ある者は家を荒らされた。正しさよりも家族の安寧を選び、国家に屈した。
手段を間違えた、か。成程、貴国からの視点ではそうなのだろう。皆が家族を見捨てて戦えば、貴国に迷惑は掛からなかったのだからな」
返ってきたウルリーケの言葉は痛烈だった。チャイルドギアのことを責められるのは受け入れる。だが、戦う理由と意味を否定されるのなら黙ってはいられない。
「貴方はチャイルドギアを許せないのは同じでも、ヴィスマルク軍人としてカノン達と戦うって事だよね」
拳を振るいながら、カノンが問いかける。ヴィスマルクも一枚岩ではない。チャイルドギアに反対する軍人もいる。カノンもそんなヴィスマルク軍人に出会った。
「そうだ。貴君らがチャイルドギアに怒りを感じていることは知っている。だが軍人として汝らの進軍を許すつもりはない」
「うん、それでいい。カノン達は貴方を倒して先へ進む。そして子供達を救う為に戦うよ。
信じて欲しい。仕える神と国が違ってもその思いだけは貴方と同じだと」
言ってカノンは強く拳を握る。言葉に乗せた想いと共に、拳を振るう。
「軍人として、プロメテウスを廃する。それ以外に語ることはない」
ベガに登場しているアデルが語る言葉は少ない。チャイルドギアを止めること。この戦いに勝つこと。相手がこの件に関してどう思おうが、関係ない。傭兵として、自由騎士として、やるべきことが決まっているのならそれを邁進するだけだ。
その為に最大効率を求め、その為に不要なものを切り捨てる。それが自分が戦場で学んだ戦争の勝利法。ただアデルは『不要』と切り捨てる事項がそれを学んだ相手よりも幅広い。仲間も、子供も、そして勝利もすべて『必要』だ。それを切り捨てたりはしない。
「ならばこちらもそれに応えよう。軍人として貴君らを廃する」
「ヴィスマルクが勝利すればチャイルドギアの必要性はなくなりますが、それが今苦しんでいる子供達を救う事にはならないと、貴女はもう理解しているはずです」
プロメテウスに挑みながら、問いかけるミルトス。今現在チャイルドギアに搭載されている子供達。ウルリーケが勝利しただけで全ての子供を救うことは無理だろう。
「それでも、戦うのですね。何の為に?」
「決まっている。貴国がヴィスマルクを滅ぼさんとする敵だからだ。
成程、貴国らが勝利すればより多くのチャイルドギアを廃することが出来るかもしれない。多くの子供を救えるかもしれない。
だが、軍人として他国の蹂躙を赦すわけにはいかない。貴国らの進軍は多くの国民を不安にさせる。多くの民が眠れぬ夜を迎える。軍人として、国を護る矛として、それを認めるわけにはいかない!」
譲れぬ信念。譲れぬ国防の意志。ミルトスにはそれがどう映っただろうか。頭の赤体愚者か、或いは譲れぬ思い持つ英雄か。
「然り。それが軍人。それが国に仕える剣」
ウルリーケの言葉に頷くテオドール。貴族としてその信念は理解できる。国を護るために、身を投じること。現実に苦しみながら、それでも国に仕えること。
「勝利を捧げねば道を通せぬのも道理か。何とも矛盾した事だな。貴国に限ったことではないが、かくも国家は難物。有象無象の魔物とはよく言ったものだ。
同情も妥協も不要だ。互いにな。勝利したものが我を通せる。戦争の常だ」
「否定はしない。我らヴィスマルクもそうして来た。その理を我らだけ免れる道理はない」
テオドールの言葉に肯定の言葉を返すウルリーケ。戦争とは、交渉の一部だ。勝った国が負けた国に自らの我を通す。それは有史以来――人が武器を持ってから行われていた行為だ。それを否定はしない。
「戦争……この戦いの後に、平和が訪れるのでしょうか……?」
呟くセアラ。長く続く戦争。神の蟲毒と呼ばれる終わりの見えない戦い。本当に平和など訪れるのだろうか? セアラが疑問に思っても仕方のない事だ。ましてやチャイルドギアと言ったモノを見せつけられては。
「人が人である以上、戦いは終わらない。戦いの規模は兵器の発達と共に大きくなり、いずれは人が制御できぬほどの兵器が生み出されるだろう」
ウルリーケの答えは、ある意味現実味を帯びていた。鉄砲や蒸気機関の発達で加速化した兵器の強さ。それに伴い増加する死亡率。歯止めがなくなれば、世界全てを燃やす炎となるだろう。
「……それでも、平和は訪れると信じたいです。
戦争を行うのが人なら、戦争を止めるのも人なのですから」
絞り出すように、セアラは応える。人が残酷なことを知っている。同時に人が優しいことも知っている。だからいずれは――
「あんたを始めとして、ヴィスマルクにもチャイルドギアに否定的な人間は少なくないって事か。まあ、まともな感性をしていればそうなるよな」
ウルリーケのの言葉を聞き、ザルクは苦笑する。ヴィスマルクにもいろいろな人間がいる。子供を犠牲にする機械に全員が賛同するわけもない。ただ、賛同する人間に力があったのでそうなった、というだけだ。
「だが、それはそれだ。きっちりプロメテウスを止めさせてもらう。あんたには関係ないが、色々因縁があってね」
「ヘルメリア人か。多くは問わぬ。わが愛機を潰すというのなら、それに応えるのみだ」
ザルクのカタクラフトからザルクの事を推測したのだろう。ウルリーケの答えは簡潔だった。ザルクも、それでいい、とばかりに笑みを浮かべて銃弾を放つ。
「悲しいな軍人。私もおまえも、悲しいまでに軍人だ」
グローリアは剣を振るいながら静かにそう告げる。軍と言う枠組みに入り、そこから逃れることが出来ない。否、そこに居ることで誰かを護れるのだから、敢えてその道を選んだのだ。グローリアも、ウルリーケも。
「私はひとりでも多くの人間が戦場に立たずに済むような世界にしたいんだ。
だから退けない。退くわけにはいかない」
「理想だな。戦いがある以上、誰かが戦場に立たねばならぬ。そしてその戦火は多くを巻き込むだろう。
私は戦火を素早く鎮火する。その為に武器を取る」
戦争に巻き込まれる人間を減らしたい軍人。戦争を受け入れ、できるだけ早く終わらせることで犠牲を減らしたい軍人。共に平和のために武器を取り、理想を求める軍人と現実に足搔く軍人。理解はすれど、手は取り合えない。
「あなたの軍人としての意地は見せて頂きました!」
状況が許せば敬礼しそうな勢いで、フリオが叫ぶ。力強い一撃、折れぬ意志。加減なく攻め立てる動きと同様に、逃げることなく進んでくる気迫。そういった『強さ』を感じ取ったフリオ。
「ですが意地があるのはこちらも同じであります! 軍曹殿を倒し、我々の意地を通させてもらうであります!」
「来るがいい。貴殿の矜持を受け止めよう。その上で戦乙女に勝利を捧げよう」
相手の戦意を受け止め、その上で勝つ。ウルリーケはそう答えた。相手を意に介さないのではなく、難敵と認めたうえで打ち砕くと。それはたゆまぬ努力によって得られた強さゆえの発言でもある。
だが、努力なら自由騎士も重ねてきた。多くの戦いを乗り越えてきた。
譲れぬモノを持つ者同士の戦いは、少しずつ終わりに近づいていく。
●
自由騎士達はプロメテウス/ファッケルを中心に攻撃を加えていく。
その装甲と権能によりダメージを与えられる機会が少ないこともあり、ベガを用いたリソースをそちらに費やしたのだ。
だが、プロメテウスはただ黙って攻撃されるだけの兵器ではない。煙幕を張ってから炎を浴びせ、近づいてきた者には刃を振るう。『軍靴で刻め、炎の祝福』による強烈な炎も無視できない。
「まだまだ、ですっ!」
「これは、厳しいね……」
「あちちち……!」
「負けられない。負けられない!」
ミルトスが不屈の意志で致命的な攻撃を受けながらも耐え抜き、マグノリア、カノン、グローリアがフラグメンツを削られるほどの傷を負う。
だが、プロメテウス一点集中の作戦が功を奏した。ベガの杭打機が直撃し、プロメテウスが膝をつき、動きを止める。胴部のハッチが開き、ウルリーケが降り立った。
「動け、アインエッシェルング・ツートリンケン」
ウルリーケの指示に従うように、『軍靴で刻め、炎の祝福』が動き出す。同時にワイヤーを手にしたウルリーケが自由騎士に戦いを挑んでくる。
「逃げる気はなしか」
「当然だ。貴君らを廃し、チャイルドギアを止める。この機を逃すつもりはない」
「コッチが勝ってもチャイルドギアは止めるつもりだがな」
そうと分かっていても、軍人としての矜持は譲れないのだろう。蹂躙しようとする者を許さない。その意地が。
「抜かせはしない」
ウルリーケが動き出すより先にグローリアがオニビトの力を開放してその動きを止める。圧倒的な『気』を受けて動くを止めるウルリーケ。止められるのは僅か一時。だが戦闘と言う時間においては千金ともいえる時間。
「ここで決めるであります!」
その一瞬を逃さないとばかりにフリオが動く。カタクラフトと蒸気鎧をフル稼働させ、暴走状態のまま突撃する。暴走する技術とフルフラット家の戦闘技術全てを乗せた捨て身の一撃。高熱の一撃がウルリーケを襲う。
「見事な覚悟だ。だが、狙いが甘かったな」
高熱の中から現れるウルリーケ。全力を尽くしたフリオは、そのまま倒れ伏す。オニビトの威圧は動きを一瞬止めるだけだ。攻撃をさばくことは不可能ではない。
「そうかい。だったら普通に撃ち抜くだけだ!」
ウルリーケに向かって弾丸を撃ち放つザルク。避けられたとはいえノーダメージではないはずだ。一気に畳み込み、ここで打ち倒す。こちらの疲弊も激しい。ここで決めておかないと、押し切られる可能性がある。
「フリオさん、今起こしますね」
戦闘不能になったフリオを起こすために、前に出て回復を行うセアラ。セアラ自身も体力を疲弊し、さらに言えば前衛に立つには心許ない総部ではある。だがここで躊躇している余裕はない。一手の遅れが致命的になるのだ。
「倒れるまで、何度もこの腕を振るうだけです」
アンジェリカは自らにそう言い聞かせて武器を振るう。六閃の光がウルリーケを襲う。腕を動かすたびに傷が痛み、炎で焼かれた跡が疼く。それでもアンジェリカは動きを止めない。ここで勝利しなければ、イ・ラプセルの未来はないのだから。
「さすがに……攻撃に回っている余裕はない、ね」
疲弊する仲間達を見て、マグノリアは回復に移行する。『炎の祝福』が生み出す炎。ウルリーケの攻撃。どれもこれもが疲弊した自由騎士からすれば致命傷だ。回復を止めて攻勢に出れば、一気に瓦解しかねない。
「これで……どうだ!」
カノンはウルリーケに向かい、拳を突き出す。正拳突きに必要な四動作『後ろ足の引き上げ』『前足の重心移動』『腰の回転』『背中の筋肉を用いて肘を引く』動作を同時に行う。傍目には気が付けば放たれたかのように見える突き。それが叩き込まれた。
「回復が不足しているか……? いや、今は攻め時か」
テオドールは状況を見ながら、攻守をスイッチしていた。四つのマジックリングで待機からマナを吸収しながら、得たマナを即座に術式に転換する。今は守る鬨ではない。攻め時だ。そう判断し、魔力の矢を解き放つ。
「貴女の相手は私です!」
ウルリーケの前に立ち、気を引くミルトス。相手は一人だが、こちらの疲弊具合を考慮すれば回復を狙われれば一気に瓦解しかねない。そうなる前に彼女の攻撃だけでも引き付けておく必要がある。
「ここまでか。だが――!」
『炎の祝福』の攻撃を受け、ベガが動かなくなる。アデルはマキナ=ギアから武装を取り出し、ベガのコックピットハッチを開けて外に躍り出た。脱出の際にアデルはベガに拳をぶつけ、ねぎらいの意を示す。その後で戦場に躍り出た。
「ここからが本番だ。行くぞ!」
「疲弊した身でよく耐えた。だが――吼えよ、アインエッシェルング・ツートリンケン!」
ウルリーケの言葉に応じ、二機の火炎放射器が浮遊する。
自由騎士達はウルリーケを倒すために彼女に、そして彼女が駆るプロメテウス/ファッケルに火力を集中した。付随兵器である『軍靴で刻め、炎の祝福』を無視して。
付随兵器にはテオドールの広範囲魔法や、ミルトスの貫通攻撃でダメージは蓄積されているが、それでも倒すには至らない。ウルリーケをを倒せば『炎の祝福』も止まると言う算段だったのだろう。
だが付随兵器が与える高熱と、呪いの炎は軽視できる者ではなかった。高熱は一気に体力と攻撃力を奪い、呪いの炎は体力と同時に動きも封じる。そしてそれを回復するために回復役は魔力を費やすこととなる。
この作戦のキモは、こちらがが倒れるより前にウルリーケを倒せるか否かだ。それだけの実力と気迫があれば、それも可能だったのだろう。だが――
「う、あ……!」
回復役のセアラが熱波で力尽きたことで、流れは一気に傾く。ウルリーケの攻撃と『炎の祝福』の炎が次々と自由騎士の体力を奪っていく。
気が付けば残っているのは、アデルとグローリアとミルトスの三人。皆フラグメンツを燃やしており、疲弊も激しい。
無論、ウルリーケも同様に疲弊激しいのだが、幾分かの余裕があった。戦乙女の権能に護られたゆえの、紙一重の余裕が。
「貴君らの勇士は長く語り継ごう。トドメだ」
ウルリーケのワイヤーが飛ぶ。不可視の糸が自由騎士達の意識を刈るために舞い、
「――言ったはずだ。私はひとりでも多くの人間が戦場に立たずに済むような世界にしたいと」
だがその攻撃は赤い閃光により阻まれた。硬く編まれたワイヤーは高速の斬撃で切り刻まれ、地面に落ちている。
それがグローリアが放った一閃なのだと、誰も気づかなかった。気が付けば赤光が走り、グローリアが刃を横なぎに構えていたのだ。
「……超高速の斬撃。アマノホカリには斯様な達人がいると聞いたことがあるが。
いいや、違うか。国を思う心。誰かを護りたいと言う心。それが力を生んだと言う事か」
「さてな。私には分からない。だけど言えることはただ一つだ。
私は退けない。退くわけにはいかないんだ」
言ってグローリアは動きを止める。既に意識がないのか、立ったまま気を失っていた。仲間を守るように、膝折れることなく。
「見事。だが勝敗は変わらない。戦乙女に勝利を捧げよう!」
「はい、勝敗は変わりません。グローリアさんが繋いだ一瞬で、勝敗は決しました」
纏わりつく炎を払うように、ミルトスがウルリーケの懐に入る。既に気力なく、あるのは鍛え抜かれた拳のみ。
「まだ、立てるのか。貴君は!?」
驚愕を隠せないウルリーケ。
ミルトスはベガに搭乗していたわけではなく、始めから身一つでプロメテウスの矢面に立っていた。その攻撃を受け、今の今まで耐え抜いたのだ。
それは彼女だけが炎に対する対策を講じ、そして最後まで立ち尽くす為に鍛錬たゆまず――そして何よりも、この戦いに勝つ強い意志を貫いたが故。
これは奇跡ではない。ミルトス・ホワイトカラントの日々たゆまぬ鍛錬が生み出した結果だ。
「あの一撃を受けていれば危なかったですが――」
ミルトスの攻撃に身を構えるウルリーケ。だがミルトスの身体は思うより先に動いていた。身体を固めたウルリーケの側面に回るように足を動かし、下方向に向けて背中から体当りをぶつけた。
「…………っ、はぁ……っ!」
予想外の方向と角度からの一撃を受け、地面に転がるウルリーケ。受け身も取れず、二半回転ほど地面を転がった。そのままうつ伏せになり動かなくなる。
「ウルリーケ・アイゲンラウホ軍曹。討ち取らせていただきました!」
起きぬ相手に拳を突き出し、最後まで油断することなくミルトスは勝利を宣言した。
●
サポートに来ていたマザリモノの錬金術師が皆を癒す。誰も彼もが大きく疲弊していた。デネブがなければ、致命的な傷を受けた者もいたかもしれない。それほどの戦いだった。
「修理が必要だな。プロメテウスと共に回収しよう」
テオドールは言ってマキナ=ギアで連絡を取る。動かなくなったベガとプロメテウスを回収させ、今後の戦いに生かすのだ。完全修理はできなくとも、何かしらの兵器に流用はできるはずだ。
「好きにしろ。ただしヴィスマルク軍の不利益になることは話さない」
捕縛したウルリーケはイ・ラプセルの捕虜となる。自死する事はなさそうだが、それでも軍人の矜持は失っていないようだ。ヴィスマルクの内情を喋るつもりはなさそうである。
傷がいえた自由騎士達は、次の戦いに向かう。ここで止まるわけにはいかない。チャイルドギアを廃するまで、もうひと頑張りだ。
ドナー基地を守るプロメテウス/ファッケル。それを倒したことにより、基地攻略は大聞く進む。
それは、子供を贄にする兵器の廃止に、一歩近づいた事でもあった――
大きさ4mの鋼の体。燃える炎を思わせる赤を基調とした装飾。追従する二機の武装。
プロメテウス/ファッケル。かつてヘルメリアで考案され、ヴィスマルクに技術が移されて生み出された人型兵器。火炎放射による施設破壊及び兵士駆逐を目的とされたモノ。
「プロメテウス……か」
様々な思いを込めて『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)はその名を口にした。かつてその名に復讐を刻んだザルク。だがその復讐は既に果たされている。だからこれは新たな戦いだ。気持ちを再確認し、銃のグリップを握る。
「また凄い物を出してきたねー」
正に人のように動くプロメテウスを前に、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は感嘆の声をあげる。事実、技術としては素晴らしいものだ。だがそれは敵だけではない。こちらも同様に兵装を生み出しているのだ。
「そうですね。この短期間でここまで仕上げていただいて技術者の方々には感謝しかないですね」
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はプロメテウスから目を離さずに言葉を放つ。目の前に立ちはだかる紅き機兵。イ・ラプセルの新型兵器があって初めて、勝ちの目が出てくる。それを作ってくれた技術者には感謝しかない。
貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』。装甲貫通兵器を有するプロメテウスに匹敵する大きさを持つ二足歩行兵器。
自陣防衛防御戦車『デネブ』。盾を展開する走行車両。自由騎士達を守る防壁。
「俄仕込みの操縦だが、ベガも俺もこの日の為に牙を研いできた。プロメテウスを貫く為に」
ベガに乗り込んだ『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は機体内でそう告げる。プロメテウスの厚い装甲。そしてヴィスマルクの戦乙女の加護。これを突破しない事には勝ち目はない。全てはベガを駆るアデルにかかっているのだ。その圧力を受けながら、前を向く。
「敵はプロメテウス。それを駆るのは歴戦の軍人。相手にとって不足なしです!」
『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)は敵を前に気合を入れるように叫ぶ。敵パイロットの素姓は水鏡の情報で知っている。敵としてまわれば厄介な相手だが、それでも臆することなく武器を構えた。
「非道と理解しながら、勝利せねば義を通せぬか」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は敵軍人の在り方をそう評する。国と言う数多の人の想いが交錯し、流動するモノの中で自分の正義を押し通す方法は少ない。この軍人にとっては、この場での勝利がそれなのだ。
「それが戦争……。はい、勝つことでしか己を示せないのですね」
テオドールの言葉に応えるようにセアラ・ラングフォード(CL3000634)は頷いた。多くの血、多くの死。平和とはその上に成り立っている。今を生きる人間に出来るのは、その犠牲をできるだけ少なくすることだ。……そこに目をつぶれば、楽になれるのだけど。
「その覚悟は、軍服に袖を通す時に刻んでいる」
短く、しかしはっきりと『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)は言葉を放った。護る覚悟、奪う覚悟。武を振るう覚悟、武を振るわれる覚悟。傷つけない為に傷つける。矛盾かもしれないが、矛盾していない事。それは既に――
「君が真正面以外から挑む強さを持っていれば……」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はウルリーケが搭乗するプロメテウスを見ながら、そう呟く。根っからの軍人ゆえの行動だろうが、それ以外にも戦い方はあったはずだ。それを選ばず、戦う道を選んだことを悔やんだ。
「行きましょう。未来を勝ち取るために」
手を合わせて『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈るように囁いた。未来。この戦いの趨勢がこの大陸に住む子供の未来を決める。或いは未来を奪う。その意味を強く心に刻み、武器を手にした。
「イ・ラプセル国所属、自由騎士とお見受けする。
我が名はウルリーケ・アイゲンラウホ。所属は鋼炎機甲団、階級は軍曹。我が機体はヴィスマルクが生み出した決戦兵器プロメテウス/ファッケル!
貴君らの主張、想いは理解しているつもりだ。その意志、その高潔、その道義、敬意に値する。故に降伏勧告はしない。私は私の全てをもって、貴君らに応えよう!」
宣言と共に動き出す炎の蹂躙兵器。言葉から感じる意志は強く、そして鋭い。戦意は更に先鋭的なのだろう。
自由騎士はそれを受けながら、武器を構える。ウルリーケの言うように、自由騎士にも戦う理由がある。ここで引くわけにはいかないのだ。
鋼と鋼が動き出し、人の思いが交錯する――
●
「行くぞ、ベガ」
言いながら操縦幹を動かすアデル。デネブの盾を銃架にして銃を固定し、同時にデネブを守る盾として展開する。この戦いはベガが落とされれば勝ち目はなくなる。そうならない為の策でもあった。
短期間の訓練ではあるが、ベガはアデルが案を出した兵器だ。ある程度の構造は理解しているし、搭乗の感覚は掴んでいる。武器を振るう様に、ベガを自らの肉体の延長線とイメージし、狙い、構え、そして撃つ。イメージは確かに、弾丸は確かに敵機を穿つ。
「プロメテウス。お前を廃し、チャイルドギアを過去のものとする」
「それはこちらも同じだ。イ・ラプセルを打ち倒し、悪しきギアの不要を説く」
「共に引けぬ身、ならば言の葉に乗せるは互いの戦意のみです」
貫通砲弾の命中を確認し、動き出すアンジェリカ。同じ『チャイルドギア』をなくそうとするものだが、その立場も手段も違う。敵を廃する事により目的を達しようとするかぎり、手を結ぶことはできないのだ。
奮起し、武器を構えるアンジェリカ。咆哮と共に全身に力を込め、手にした武器で砲撃が命中した場所に打撃を加える。背骨を幹として開店するように振るわれる三連撃。繰り返される打撃が、岩を砕くよう雨の如く叩き込まれる。
「共に求める者が勝利なら、全力で挑む事こそが礼節。私達の道、譲りはしません」
「共に退けない身だ。悲しいものだな、軍人というのは」
グローリアは『忍冬・真打』を手に戦いに挑む。グローリア自身は軍人だが、軍人になりたかったわけではない。目的のためには軍人になるしかなかったのだ。誰かを護りたい。誰かを救いたい。ただそれだけだ。だからこそ、相手の言い分も理解できる。
それを踏まえたうえで、グローリアはプロメテウスに刃を振るう。戦う事。そうすることでしか平和を生み出せない存在。それが軍人なのだ。その為に体を鍛え、その為に戦に挑む。高速で振るわれる刃に、ためらいはない。信念のままに真っ直ぐ刃は敵を裂く。
「矜持を示せ。その全てを受け止め、刃を振るおう」
「戦乙女に捧げた我が身、我が義、我が道。その全てをもって貴君らを討つ!」
「勝つのはカノン達だ!」
叫びと共に拳を討ち放つカノン。チャイルドギアを生み出すヴィスマルクを止めるためにここまでやってきた。ここで勝たなければ、プロメテウスは砦の方に向かい、敵少将を逃がすために参戦するだろう。それはここで止めなければならない。
ベガの貫通団の衝撃で揺らいでいる隙を逃すことなく近づき。連続で拳を叩き込むカノン。踏み込みと同時に腰を曲げ、身体を回転させるようにしてフックを討ち放つ。回転の力が加わった一撃が人型兵器の内部を揺らす。
「先ずは足を潰す。足を刈るのは戦いの基本だね!」
「好機を逃さず最大限を叩き込む。それがフルフラットの戦技であります!」
フリオが『戦闘用蒸気鎧装Fleuret』を起動ささせ、一気に距離を詰める。間合いを保ちながらベガの攻撃を待ち、装甲を突破できたと判断できれば一気に迫る。最大威力を最高の時に。一撃必殺こそが彼女の戦術。
瞳に魔力を込め、戦場全てを見る。同時に狙うべき場所に意識を集中し、しっかり見据える。視界全てと狙うべき場所。マクロとミクロを同時に見ることが、射撃の基本。軍人としての基礎的なことを忠実に守り、フリオは敵に向かい砲撃する。
「一気に叩き込むであります!」
「一気呵成に叩き込むぜ!」
フリオに続くようにザルクも動く。相手はプロメテウス。その脅威は身をもって知っている。その軍事力を、勝利の為に子供を犠牲にする国が有しているのだ。防衛用に使われなければどうなっていたか。
慣れ親しんだ銃を手にザルクは動く。ベガが与えた装甲への傷。その傷へ弾丸を当てる為に適した場所に。数歩でその場所にたどり着き、二挺の銃を構えると同時に引き金を引く。人差し指すら通らない小さなヒビ。ザルクの弾丸はそれを穿ち、更に傷を広げていく。
「硬い装甲だが、それぐらいじゃイ・ラプセルは止まらないぜ」
「装甲兵団、前に!」
ミルトスは率いる兵団に指示を出し、自らもプロメテウスを止めるべく挑む。勝ち目は多くない。むしろ負ける可能性の方がはっきりと見える。だからこそ、ミルトスは己を鼓舞する。勝つために。そしてその後の未来を得るために。
息を吸い、背筋を伸ばし、しっかり足を踏ん張る。打撃は拳で打つにあらず、腰で打つにあらず。踏み込み、腰の回転、空の回転、腕の捻り、打ち出す拳の角度。それら全てで打ち放つ。即ち、ミルトスが撃ち込んできた鍛錬全てが繋がり、この一打となるのだ。
「過去でも未来でもなく、今この瞬間の闘争。ウルリーケ・アイゲンラウホ。ここで貴方を打ち倒す!」
「我らは我らの義をもって貴君に相対する。我らは我らの勝利を以て、その非道を示す」
言って魔力を練り上げるテオドール。イ・ラプセルの貴族として、テオドールは自国の正義を示す。それが他国にとっては非常識であることなど、問題ではない。示すはイ・ラプセルの正義。ヴィスマルクが力でそれを示すなら、勝利を示して応じよう。
杖を手にして、魔力を解き放つテオドール。呪い、怨嗟、恨み辛み。負の感情が形を成し、白い茨となって戦場を疾駆する。狙いはプロメテウスの背後にある火炎放射兵装。その動きを封じ、こちらへの攻撃を減らすのが目的だ。
「こちらも幾多の戦場を乗り越えてきた。易々と勝てる相手と思うな」
「そうだね……。その強さは『イ・ラプセルならでは』の強さだ。君たちの強さと、方向性は違う」
錬金術を展開しながら、マグノリアが言葉を放つ。シャンバラではヨウセイを救い、ヘルメリアでは亜人奴隷を開放する。弱き者を救うのがイ・ラプセルの強さだ。だから今回もその為に動く。救い、そして自由を与える為に。
回復と攻撃。マグノリアは状況を見て、適した方に動いていた。味方のダメージが大きい時は回復に。好機とみなせば攻撃に。魔力を展開し、矢のように鋭くする。番えた魔力の矢を解き放ち、プロメテウスの傷を広げていく。
「僕は負けないよ。ここで君を倒し、チャイルドギアを止めて見せる」
「はい。この戦いの後に、子供達を救ってみせます」
頷くセアラ。戦いは、人が死ぬのは好きじゃない。だけど戦わなければ平和は手に入らない。だから今ここでセアラは戦い、後の平和の礎となるのだ。この戦争の跡に平和があると信じ、歩を進める。
展開するのは癒しの魔術。白き光を解き放ち、仲間達の傷を癒していく。回復をする際、仲間の傷や仲間の苦痛を見る。傷で苦しむ仲間を見て何も感じず、冷静に術を行使できれば心は楽になる。だけどセアラにそれはできなかった。傷を癒す。その意味から逃げはしない。
「きっと子供達が受けた傷は、魔法だけでは癒せないものでしょう。それでも私は――」
癒し手として、そこから逃げるわけにはいかない。その決意を持って戦場に立っていた。
「敵ながら見事。我が機体はその決意毎、貴君らを打ち砕く!」
ウルリーケが叫び、プロメテウスから炎が放たれる。
「さすがはプロメテウスか……」
「この程度で、倒れはしません」
「けっ、この程度で倒れてられねぇんだよ」
「……く、はぁ……!」
荒れ狂う炎がテオドール。アンジェリカ、ザルク、そしてセアラのフラグメンツを燃やす。
一進一退。ベガによる装甲破壊で、僅かではあるが後手に回る自由騎士が押されている状況だ。だがそれは戦術上仕方のない後手で、同時に後手に回るからこそ取れる戦い方もある。
戦局は激しく荒れていた。勝利の女神は、未だどちらにもほほ笑む可能性がある――
●
二機の人型兵器が交錯し、人の想いがぶつかる合う。
共にチャイルドギアを認めぬ者同士、しかし国という垣根の違いから手を取ることが出来ない。相対する国であること。勝利の形が違う事。そして何よりも、歩んできた歴史の違い。重なってきた二国の因縁は、この場で氷解できるものではない。
「ウルリーケ……君がチャイルドギアに反対している事は理解している。その為にこの戦いに身を投じた事も。
でも、君は手段を間違えた。戦う以外にも国の流れを変えることが出来たはずだ」
悲し気に告げるマグノリア。大きな流れを変えることが難しいことは知っているが、それでも平和的な解決策はあったのではないか? それが出来なかったウルリーケに思う所はあるようだ。
「戦う以外の手段を選んだものは、皆屈した。
ある者は自分の子供を使われると脅され、ある者は子供を誘拐されそうになり、ある者は家を荒らされた。正しさよりも家族の安寧を選び、国家に屈した。
手段を間違えた、か。成程、貴国からの視点ではそうなのだろう。皆が家族を見捨てて戦えば、貴国に迷惑は掛からなかったのだからな」
返ってきたウルリーケの言葉は痛烈だった。チャイルドギアのことを責められるのは受け入れる。だが、戦う理由と意味を否定されるのなら黙ってはいられない。
「貴方はチャイルドギアを許せないのは同じでも、ヴィスマルク軍人としてカノン達と戦うって事だよね」
拳を振るいながら、カノンが問いかける。ヴィスマルクも一枚岩ではない。チャイルドギアに反対する軍人もいる。カノンもそんなヴィスマルク軍人に出会った。
「そうだ。貴君らがチャイルドギアに怒りを感じていることは知っている。だが軍人として汝らの進軍を許すつもりはない」
「うん、それでいい。カノン達は貴方を倒して先へ進む。そして子供達を救う為に戦うよ。
信じて欲しい。仕える神と国が違ってもその思いだけは貴方と同じだと」
言ってカノンは強く拳を握る。言葉に乗せた想いと共に、拳を振るう。
「軍人として、プロメテウスを廃する。それ以外に語ることはない」
ベガに登場しているアデルが語る言葉は少ない。チャイルドギアを止めること。この戦いに勝つこと。相手がこの件に関してどう思おうが、関係ない。傭兵として、自由騎士として、やるべきことが決まっているのならそれを邁進するだけだ。
その為に最大効率を求め、その為に不要なものを切り捨てる。それが自分が戦場で学んだ戦争の勝利法。ただアデルは『不要』と切り捨てる事項がそれを学んだ相手よりも幅広い。仲間も、子供も、そして勝利もすべて『必要』だ。それを切り捨てたりはしない。
「ならばこちらもそれに応えよう。軍人として貴君らを廃する」
「ヴィスマルクが勝利すればチャイルドギアの必要性はなくなりますが、それが今苦しんでいる子供達を救う事にはならないと、貴女はもう理解しているはずです」
プロメテウスに挑みながら、問いかけるミルトス。今現在チャイルドギアに搭載されている子供達。ウルリーケが勝利しただけで全ての子供を救うことは無理だろう。
「それでも、戦うのですね。何の為に?」
「決まっている。貴国がヴィスマルクを滅ぼさんとする敵だからだ。
成程、貴国らが勝利すればより多くのチャイルドギアを廃することが出来るかもしれない。多くの子供を救えるかもしれない。
だが、軍人として他国の蹂躙を赦すわけにはいかない。貴国らの進軍は多くの国民を不安にさせる。多くの民が眠れぬ夜を迎える。軍人として、国を護る矛として、それを認めるわけにはいかない!」
譲れぬ信念。譲れぬ国防の意志。ミルトスにはそれがどう映っただろうか。頭の赤体愚者か、或いは譲れぬ思い持つ英雄か。
「然り。それが軍人。それが国に仕える剣」
ウルリーケの言葉に頷くテオドール。貴族としてその信念は理解できる。国を護るために、身を投じること。現実に苦しみながら、それでも国に仕えること。
「勝利を捧げねば道を通せぬのも道理か。何とも矛盾した事だな。貴国に限ったことではないが、かくも国家は難物。有象無象の魔物とはよく言ったものだ。
同情も妥協も不要だ。互いにな。勝利したものが我を通せる。戦争の常だ」
「否定はしない。我らヴィスマルクもそうして来た。その理を我らだけ免れる道理はない」
テオドールの言葉に肯定の言葉を返すウルリーケ。戦争とは、交渉の一部だ。勝った国が負けた国に自らの我を通す。それは有史以来――人が武器を持ってから行われていた行為だ。それを否定はしない。
「戦争……この戦いの後に、平和が訪れるのでしょうか……?」
呟くセアラ。長く続く戦争。神の蟲毒と呼ばれる終わりの見えない戦い。本当に平和など訪れるのだろうか? セアラが疑問に思っても仕方のない事だ。ましてやチャイルドギアと言ったモノを見せつけられては。
「人が人である以上、戦いは終わらない。戦いの規模は兵器の発達と共に大きくなり、いずれは人が制御できぬほどの兵器が生み出されるだろう」
ウルリーケの答えは、ある意味現実味を帯びていた。鉄砲や蒸気機関の発達で加速化した兵器の強さ。それに伴い増加する死亡率。歯止めがなくなれば、世界全てを燃やす炎となるだろう。
「……それでも、平和は訪れると信じたいです。
戦争を行うのが人なら、戦争を止めるのも人なのですから」
絞り出すように、セアラは応える。人が残酷なことを知っている。同時に人が優しいことも知っている。だからいずれは――
「あんたを始めとして、ヴィスマルクにもチャイルドギアに否定的な人間は少なくないって事か。まあ、まともな感性をしていればそうなるよな」
ウルリーケのの言葉を聞き、ザルクは苦笑する。ヴィスマルクにもいろいろな人間がいる。子供を犠牲にする機械に全員が賛同するわけもない。ただ、賛同する人間に力があったのでそうなった、というだけだ。
「だが、それはそれだ。きっちりプロメテウスを止めさせてもらう。あんたには関係ないが、色々因縁があってね」
「ヘルメリア人か。多くは問わぬ。わが愛機を潰すというのなら、それに応えるのみだ」
ザルクのカタクラフトからザルクの事を推測したのだろう。ウルリーケの答えは簡潔だった。ザルクも、それでいい、とばかりに笑みを浮かべて銃弾を放つ。
「悲しいな軍人。私もおまえも、悲しいまでに軍人だ」
グローリアは剣を振るいながら静かにそう告げる。軍と言う枠組みに入り、そこから逃れることが出来ない。否、そこに居ることで誰かを護れるのだから、敢えてその道を選んだのだ。グローリアも、ウルリーケも。
「私はひとりでも多くの人間が戦場に立たずに済むような世界にしたいんだ。
だから退けない。退くわけにはいかない」
「理想だな。戦いがある以上、誰かが戦場に立たねばならぬ。そしてその戦火は多くを巻き込むだろう。
私は戦火を素早く鎮火する。その為に武器を取る」
戦争に巻き込まれる人間を減らしたい軍人。戦争を受け入れ、できるだけ早く終わらせることで犠牲を減らしたい軍人。共に平和のために武器を取り、理想を求める軍人と現実に足搔く軍人。理解はすれど、手は取り合えない。
「あなたの軍人としての意地は見せて頂きました!」
状況が許せば敬礼しそうな勢いで、フリオが叫ぶ。力強い一撃、折れぬ意志。加減なく攻め立てる動きと同様に、逃げることなく進んでくる気迫。そういった『強さ』を感じ取ったフリオ。
「ですが意地があるのはこちらも同じであります! 軍曹殿を倒し、我々の意地を通させてもらうであります!」
「来るがいい。貴殿の矜持を受け止めよう。その上で戦乙女に勝利を捧げよう」
相手の戦意を受け止め、その上で勝つ。ウルリーケはそう答えた。相手を意に介さないのではなく、難敵と認めたうえで打ち砕くと。それはたゆまぬ努力によって得られた強さゆえの発言でもある。
だが、努力なら自由騎士も重ねてきた。多くの戦いを乗り越えてきた。
譲れぬモノを持つ者同士の戦いは、少しずつ終わりに近づいていく。
●
自由騎士達はプロメテウス/ファッケルを中心に攻撃を加えていく。
その装甲と権能によりダメージを与えられる機会が少ないこともあり、ベガを用いたリソースをそちらに費やしたのだ。
だが、プロメテウスはただ黙って攻撃されるだけの兵器ではない。煙幕を張ってから炎を浴びせ、近づいてきた者には刃を振るう。『軍靴で刻め、炎の祝福』による強烈な炎も無視できない。
「まだまだ、ですっ!」
「これは、厳しいね……」
「あちちち……!」
「負けられない。負けられない!」
ミルトスが不屈の意志で致命的な攻撃を受けながらも耐え抜き、マグノリア、カノン、グローリアがフラグメンツを削られるほどの傷を負う。
だが、プロメテウス一点集中の作戦が功を奏した。ベガの杭打機が直撃し、プロメテウスが膝をつき、動きを止める。胴部のハッチが開き、ウルリーケが降り立った。
「動け、アインエッシェルング・ツートリンケン」
ウルリーケの指示に従うように、『軍靴で刻め、炎の祝福』が動き出す。同時にワイヤーを手にしたウルリーケが自由騎士に戦いを挑んでくる。
「逃げる気はなしか」
「当然だ。貴君らを廃し、チャイルドギアを止める。この機を逃すつもりはない」
「コッチが勝ってもチャイルドギアは止めるつもりだがな」
そうと分かっていても、軍人としての矜持は譲れないのだろう。蹂躙しようとする者を許さない。その意地が。
「抜かせはしない」
ウルリーケが動き出すより先にグローリアがオニビトの力を開放してその動きを止める。圧倒的な『気』を受けて動くを止めるウルリーケ。止められるのは僅か一時。だが戦闘と言う時間においては千金ともいえる時間。
「ここで決めるであります!」
その一瞬を逃さないとばかりにフリオが動く。カタクラフトと蒸気鎧をフル稼働させ、暴走状態のまま突撃する。暴走する技術とフルフラット家の戦闘技術全てを乗せた捨て身の一撃。高熱の一撃がウルリーケを襲う。
「見事な覚悟だ。だが、狙いが甘かったな」
高熱の中から現れるウルリーケ。全力を尽くしたフリオは、そのまま倒れ伏す。オニビトの威圧は動きを一瞬止めるだけだ。攻撃をさばくことは不可能ではない。
「そうかい。だったら普通に撃ち抜くだけだ!」
ウルリーケに向かって弾丸を撃ち放つザルク。避けられたとはいえノーダメージではないはずだ。一気に畳み込み、ここで打ち倒す。こちらの疲弊も激しい。ここで決めておかないと、押し切られる可能性がある。
「フリオさん、今起こしますね」
戦闘不能になったフリオを起こすために、前に出て回復を行うセアラ。セアラ自身も体力を疲弊し、さらに言えば前衛に立つには心許ない総部ではある。だがここで躊躇している余裕はない。一手の遅れが致命的になるのだ。
「倒れるまで、何度もこの腕を振るうだけです」
アンジェリカは自らにそう言い聞かせて武器を振るう。六閃の光がウルリーケを襲う。腕を動かすたびに傷が痛み、炎で焼かれた跡が疼く。それでもアンジェリカは動きを止めない。ここで勝利しなければ、イ・ラプセルの未来はないのだから。
「さすがに……攻撃に回っている余裕はない、ね」
疲弊する仲間達を見て、マグノリアは回復に移行する。『炎の祝福』が生み出す炎。ウルリーケの攻撃。どれもこれもが疲弊した自由騎士からすれば致命傷だ。回復を止めて攻勢に出れば、一気に瓦解しかねない。
「これで……どうだ!」
カノンはウルリーケに向かい、拳を突き出す。正拳突きに必要な四動作『後ろ足の引き上げ』『前足の重心移動』『腰の回転』『背中の筋肉を用いて肘を引く』動作を同時に行う。傍目には気が付けば放たれたかのように見える突き。それが叩き込まれた。
「回復が不足しているか……? いや、今は攻め時か」
テオドールは状況を見ながら、攻守をスイッチしていた。四つのマジックリングで待機からマナを吸収しながら、得たマナを即座に術式に転換する。今は守る鬨ではない。攻め時だ。そう判断し、魔力の矢を解き放つ。
「貴女の相手は私です!」
ウルリーケの前に立ち、気を引くミルトス。相手は一人だが、こちらの疲弊具合を考慮すれば回復を狙われれば一気に瓦解しかねない。そうなる前に彼女の攻撃だけでも引き付けておく必要がある。
「ここまでか。だが――!」
『炎の祝福』の攻撃を受け、ベガが動かなくなる。アデルはマキナ=ギアから武装を取り出し、ベガのコックピットハッチを開けて外に躍り出た。脱出の際にアデルはベガに拳をぶつけ、ねぎらいの意を示す。その後で戦場に躍り出た。
「ここからが本番だ。行くぞ!」
「疲弊した身でよく耐えた。だが――吼えよ、アインエッシェルング・ツートリンケン!」
ウルリーケの言葉に応じ、二機の火炎放射器が浮遊する。
自由騎士達はウルリーケを倒すために彼女に、そして彼女が駆るプロメテウス/ファッケルに火力を集中した。付随兵器である『軍靴で刻め、炎の祝福』を無視して。
付随兵器にはテオドールの広範囲魔法や、ミルトスの貫通攻撃でダメージは蓄積されているが、それでも倒すには至らない。ウルリーケをを倒せば『炎の祝福』も止まると言う算段だったのだろう。
だが付随兵器が与える高熱と、呪いの炎は軽視できる者ではなかった。高熱は一気に体力と攻撃力を奪い、呪いの炎は体力と同時に動きも封じる。そしてそれを回復するために回復役は魔力を費やすこととなる。
この作戦のキモは、こちらがが倒れるより前にウルリーケを倒せるか否かだ。それだけの実力と気迫があれば、それも可能だったのだろう。だが――
「う、あ……!」
回復役のセアラが熱波で力尽きたことで、流れは一気に傾く。ウルリーケの攻撃と『炎の祝福』の炎が次々と自由騎士の体力を奪っていく。
気が付けば残っているのは、アデルとグローリアとミルトスの三人。皆フラグメンツを燃やしており、疲弊も激しい。
無論、ウルリーケも同様に疲弊激しいのだが、幾分かの余裕があった。戦乙女の権能に護られたゆえの、紙一重の余裕が。
「貴君らの勇士は長く語り継ごう。トドメだ」
ウルリーケのワイヤーが飛ぶ。不可視の糸が自由騎士達の意識を刈るために舞い、
「――言ったはずだ。私はひとりでも多くの人間が戦場に立たずに済むような世界にしたいと」
だがその攻撃は赤い閃光により阻まれた。硬く編まれたワイヤーは高速の斬撃で切り刻まれ、地面に落ちている。
それがグローリアが放った一閃なのだと、誰も気づかなかった。気が付けば赤光が走り、グローリアが刃を横なぎに構えていたのだ。
「……超高速の斬撃。アマノホカリには斯様な達人がいると聞いたことがあるが。
いいや、違うか。国を思う心。誰かを護りたいと言う心。それが力を生んだと言う事か」
「さてな。私には分からない。だけど言えることはただ一つだ。
私は退けない。退くわけにはいかないんだ」
言ってグローリアは動きを止める。既に意識がないのか、立ったまま気を失っていた。仲間を守るように、膝折れることなく。
「見事。だが勝敗は変わらない。戦乙女に勝利を捧げよう!」
「はい、勝敗は変わりません。グローリアさんが繋いだ一瞬で、勝敗は決しました」
纏わりつく炎を払うように、ミルトスがウルリーケの懐に入る。既に気力なく、あるのは鍛え抜かれた拳のみ。
「まだ、立てるのか。貴君は!?」
驚愕を隠せないウルリーケ。
ミルトスはベガに搭乗していたわけではなく、始めから身一つでプロメテウスの矢面に立っていた。その攻撃を受け、今の今まで耐え抜いたのだ。
それは彼女だけが炎に対する対策を講じ、そして最後まで立ち尽くす為に鍛錬たゆまず――そして何よりも、この戦いに勝つ強い意志を貫いたが故。
これは奇跡ではない。ミルトス・ホワイトカラントの日々たゆまぬ鍛錬が生み出した結果だ。
「あの一撃を受けていれば危なかったですが――」
ミルトスの攻撃に身を構えるウルリーケ。だがミルトスの身体は思うより先に動いていた。身体を固めたウルリーケの側面に回るように足を動かし、下方向に向けて背中から体当りをぶつけた。
「…………っ、はぁ……っ!」
予想外の方向と角度からの一撃を受け、地面に転がるウルリーケ。受け身も取れず、二半回転ほど地面を転がった。そのままうつ伏せになり動かなくなる。
「ウルリーケ・アイゲンラウホ軍曹。討ち取らせていただきました!」
起きぬ相手に拳を突き出し、最後まで油断することなくミルトスは勝利を宣言した。
●
サポートに来ていたマザリモノの錬金術師が皆を癒す。誰も彼もが大きく疲弊していた。デネブがなければ、致命的な傷を受けた者もいたかもしれない。それほどの戦いだった。
「修理が必要だな。プロメテウスと共に回収しよう」
テオドールは言ってマキナ=ギアで連絡を取る。動かなくなったベガとプロメテウスを回収させ、今後の戦いに生かすのだ。完全修理はできなくとも、何かしらの兵器に流用はできるはずだ。
「好きにしろ。ただしヴィスマルク軍の不利益になることは話さない」
捕縛したウルリーケはイ・ラプセルの捕虜となる。自死する事はなさそうだが、それでも軍人の矜持は失っていないようだ。ヴィスマルクの内情を喋るつもりはなさそうである。
傷がいえた自由騎士達は、次の戦いに向かう。ここで止まるわけにはいかない。チャイルドギアを廃するまで、もうひと頑張りだ。
ドナー基地を守るプロメテウス/ファッケル。それを倒したことにより、基地攻略は大聞く進む。
それは、子供を贄にする兵器の廃止に、一歩近づいた事でもあった――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
くそぅ、決戦にプロメテウス持ち込めると思ったのに……! 炎で焼けると思ったのにぃ!(地団駄
以上のような結果になりました。ベガは半壊。デネブは防御用なので、まだ運用可能です。プロメテウス等は鹵獲されました。
ウルリーケは逃げ延びて次の戦いに生かせそうなキャラなのですが、キャラ的に逃げないよなぁコイツ……。ということでここで捕まりました。
戦いはまだ続きます。ですが、難関の一つを超えたのは事実です。
皆様、チャイルドギア廃止まであと一歩です。それまでよろしくお願いします。
それではまた、イ・ラプセルで。
くそぅ、決戦にプロメテウス持ち込めると思ったのに……! 炎で焼けると思ったのにぃ!(地団駄
以上のような結果になりました。ベガは半壊。デネブは防御用なので、まだ運用可能です。プロメテウス等は鹵獲されました。
ウルリーケは逃げ延びて次の戦いに生かせそうなキャラなのですが、キャラ的に逃げないよなぁコイツ……。ということでここで捕まりました。
戦いはまだ続きます。ですが、難関の一つを超えたのは事実です。
皆様、チャイルドギア廃止まであと一歩です。それまでよろしくお願いします。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済