MagiaSteam
ブリリアントグリーンとシザーハンズ




「緑を……お願いする、です」
『芸術は爆発』アンセム・フィンディング(nCL3000009)が集ったメンバーに伝えたのはそれだけだった。


 頭上に『?』が浮かぶメンバーが眠い目をこすりながら半起半寝のアンセムから何とか聞き出せたのはこんな内容だった。
 イ・ラプセルの西の鉱山にイブリース化した大蠍が住み着いてしまい、鉱夫たちが仕事が出来ずに困っている。しかもその影響で絵の具を作るための鉱石も採る事が出来なくなり、絵を生業にした芸術家達にも影響が出ているので退治して欲しい、と。

 ならすぐにも倒して鉱石を採ってくれば一件落着、という訳にはいかないらしい。
 大蠍の襲撃を受け、鉱山内から命からがら逃げてきた鉱夫に更に詳しく話を聞いいた限りの情報はこうだ。
 鉱山の中は3階層に分かれており、大蠍は2階層の最奥にいる可能性が高い事。
 現在はイブリース化した大蠍が暴れた事による影響で明かりが全く無く、真っ暗である事。
 大蠍が強力な毒を持っている事。
 そして何よりも問題なのがイブリース化の影響か、大蠍の鋏状の前脚は非常に硬化しており、鉱夫が起死回生で使用した爆薬もその硬い鋏でガードされ傷一つ付かなかったという事。
 これらに何らかの対応をしなければ大蠍を倒すことなど到底不可能だというのだ。

「鉱山の中には鉱石を地上に上げるための昇降機やトロッコ、人力だがクレーンもある。アイツの鋏はめちゃくちゃ硬いが、本来蠍の外殻はそんなに硬いもんじゃねぇ。何とかあの鋏を封じられればいいんだが……。このままじゃこの鉱山で仕事もできねぇ。あんたら自由騎士団さんの力をどうか貸してくれ」
 鉱夫達は集ったメンバーに深々と頭を下げた。彼らにとってもここは生命線。やすやすとモンスターに手渡す訳にもいかない。だが今の彼らにはなす術が無いのだ。


「それじゃ……くれぐれもよろしく、なのです」
 そんな深刻な状況を意にも解せず崩れ落ちるように夢の世界へ旅立ったアンセムを横目に見ながら、メンバーは深い深呼吸をして鉱山内部へ足を踏み入れるのであった。

「あ、ボクの欲しい鉱石は……ね。見た目は普通の石だけど少量の熱と魔力を持って、る──むにゃ」

 今まさに坑道へ進まんとするメンバーに聞こえたのは実に説明じみた寝言だった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
資源発掘α
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.鉱山内に住み着いた大蠍の討伐
2.絵の具の材料となる鉱石の取得
始めまして麺大好き麺二郎です。今日の麺は素麺でした。
この度マギアスチームにてSTの末席にて活動させていただく事となりました。
よろしくお願いいたします。

以下依頼詳細になります。

●討伐対象
『大蠍』 識別名「シザーハンズ」。全長8mほどに巨大化した蠍。鋏状の前足がイブリース化で非常に強固になっており、鋏自体にはほぼダメージが通らない。
大鋏  攻近単 強力な鋏で攻撃します。
毒液撒 攻近範 尻尾から近距離範囲に毒液を撒き散らします。【ポイズン1】
岩投げ 攻遠範 尻尾で回りにある岩を掴み投げつけます。近距離に敵がいない場合のみ使用します。
鋏で掴む 攻近単 両の鋏で掴みます。掴まれた対象は行動不能になりますが、対象を掴んでいる間は鋏を防御に使いません。
毒注入 攻近単 鋏でつかんだ相手に尻尾の毒液を直接流し込みます。【パラライズ1】【ポイズン1】

●ロケーション
場所はイ・ラプセル西の鉱山。
鉱山の入り口に着いたメンバーがアンセム(眠い)と内部から逃げてきた鉱夫達から話を聞き、いざ鉱山内へ入るところからスタートします。

鉱山内の明かりは全て破壊され真っ暗ですが、かなり広く暗さに対応できれば行動に制限が出る事はありません。
ただし鉱山内であることには変わりは無いのであまりにも大きな破壊行動をした場合崩落する恐れがあります。

●ロケーション内設備
鉱山内には以下の設備があり、利用することが可能です。
・昇降機 
 かなりの重量をのせて地上階まで運べる大型のものです。動力源も壊されておらず利用可能。現在は地上階に設置されています。安全装置をはずすことで急速に下降させることが可能です。
・トロッコ
 同じ階層内を移動するのに使う2,3人程度が乗れるトロッコです。かなり頑丈なためちょっとそっとの衝撃では壊れません。
・クレーン
 てこの原理を利用した人力のクレーンです。車輪が付いていて移動することが可能です。


成功への重要なポイントは
・明かりの確保
・大蠍の鋏、毒への対処
・アンセムが必要としている鉱石の見つけ方
となります。

皆様のご参加お待ちしております。
EXには皆さんの好きな麺類を。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
21モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2018年06月19日

†メイン参加者 4人†



●静寂の中、歩は進む

「うむむ…鉱山が機能しなければ、蒸気で動くワシの鎧装もピンチじゃてのう。」
『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は少し困った顔をしてそう言った。彼女はこれまで戦歴の中で幾多の傷を負い、今はその体の50%を機械化するに至ったキジンのハーフだ。蒸気鎧装で身体機能を補う彼女にとっても大蠍出現による鉱山の機能停止は他人事ではない。2つに束ねられた美しいブロンドの髪を揺らしながら、真剣な面持ちで皆とともにまずは第2階層を目指す。
「ま、分野は違えど同じアーティストとして困ってる画家さんを見捨てる訳にもいかないし……蠍がいたら鉱夫さんもお仕事出来ないしね!」
ぴょこぴょこと体の割りに大きめの角を揺らしながら『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)はその称号が表すとおりの表情で、カンテラの明かりの範囲以外では漆黒の闇となった鉱山の中で皆の気持ちを明るく照らしていた。
 もちろん周囲の警戒は怠らない。カンテラによる物理的な視界確保の二人とは違い、彼女は暗視を駆使している。明かりの届かない範囲まで見渡せるのは彼女ただ一人。なすべき役割は十二分に理解している。
「ポイズンある所にアガタさんあり!」
太陽の笑顔にも負けじ劣らずの良い顔をしているのは『マザり鴉』アガタ・ユズリハ(CL3000081)。信念は毒。そして特技も毒。神の蟲毒を歓迎し、世界中が毒まみれになる事をあろう事か殊更に楽しみとしていうのだ。
 大蠍の猛毒に興味津々なためか他のメンバーとは少々目的が違うようにも感じる。気のせいか。いや。どうだろう。あの目はきっと狙ってる。
 その横で暗視で暗闇を先を見るカノンの邪魔にならないよう、カンテラの光を調整しながら進むのは『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)。
 風貌やそのしゃべり方から姐御肌がにじみ出る彼女だが、カンテラの照らし方一つとっても仲間に対する配慮が伺える。それにサバイバル経験も豊富な彼女は暗闇での動き方を熟知しており、それとなく他のメンバーにも暗闇での行動原則を伝えていく。まさに適任だった。
「しっかし、爆薬も効かねぇなんてな。こいつぁ倒し甲斐があるってもんだ」
 そういうと愛用の銃に視線を落とす。これまでもこれからも俺はこいつですべての敵を仕留めてきた。今日だって何も変わらない。
 まだ見ぬ強敵の予感に、アンは内から湧き上がる昂揚を抑えきれずにいた。

「進むか」
「そうじゃな」
「わくわく」
「レッツゴー♪」

 昇降機のゴウンという鈍い音が響き渡り、そしてほどなく第1階層は元の静寂に包まれた。

●第2階層

 それは第2階層の一番奥にいた。
 暗闇の中、鈍き光放つような存在感のそれは静かに来訪者を待っていた。
 イブリース化により大きく硬化した鋏と共に、元来の蠍の特徴でもある嗅覚も発達。来訪者が目の前に来るのを今か今かと待ち構える。

 ──風を切る音がした。
 ガキィィーーーン!!!
 それは暗闇から大蠍へ放たれた一発の銃弾。しかし大蠍はその強固な鋏でそれを難なく防いだ。
「あっちゃー。やっぱり正面からじゃ無理か」
 悪びれずそういうのはアン。情報で聞いた鋏の硬さを自ら確かめるため。あわよくば、と撃った弾丸は難なく弾かれてしまった。
「やい、お化け蠍!お前なんてカノンがケチョンケチョンにのしてやるんだよ!」
 息つく暇も無く、カノンが仕掛ける。それにシノピリカが続く。
 腕をぐるぐる回しながら突進するカノン、傍目に見れば子供の喧嘩のようにも見えるこのスタイルも、いざ本気の戦闘では自分を出来るだけ大きく見せようとする本能から来るものなのか。
 見掛け以上に重く、響く一撃を食らわすべくカノンが鉄山靠を仕掛けた。貫通力のあるこの技が決まればダメージが通るはず……だった。大蠍も野生の勘で危機を察知、とっさに両の鋏で防御。ダメージはすべて左右の鋏によって吸収され本体までダメージが通らない。
「やっぱりあの鋏なんとかしないとっ!!」
 シノピリカもあわせるように大蠍と対峙する。が、その戦法は真逆。いかに耐え忍ぶかに全神経を集中している。鋏による掴み攻撃を先読みし避けつつ、他の攻撃は相手の気を引くべく敢えて受け、全力防御で対応。恵まれた体躯とキジンたる自身の防御力への絶対的な自信、そして仲間への信頼が彼女を突き動かす。何は無くとも時間を稼がねばならぬ、と。
 アンも後方より二人を支援する。鋏の防御はなおも硬く、通常の攻撃では決定打は与えることが出来ずにいたが、周囲への威嚇射撃も織り交ぜることで大蠍の動きをある程度コントロールする事には成功していた。
「ははは、いいねぇ。聞いた話通り、デカくて強ぇじゃねぇか」
もっと、もっとだ。血が滾る。体中が沸騰する。自分の攻撃が効かない強敵。こいつを倒せば俺はもっと強くなれる──。アンは心躍っていた。

 カノンとシノピリカ、アンによる大蠍との攻防は続いていた。だが現状では決定打は与えられず、少しずつ前衛の二人に疲弊の色が見え始める。
「さすがにこのままじゃジリ貧じゃの。アガタ殿、まだか──っ!!」
「はいは~いっ! おっけーだよっ!!」
 遠くから声がする。声の主はアガタだ。
 すると誰よりも大蠍を前に果敢に挑んだカノンもさすがに限界が近づいてきたのかカノンの動きが鈍くなる。当然大蠍の野生は弱った獲物を逃さない。衰弱の気配を察した大蠍はじりじりとカノンとの間合いを詰めるが、カノンは俯き息を荒げながらも距離をとるために後退していく。
 シノピリカも今だ立ってはいるものの、攻撃を受け続けたことによる蓄積されたダメージは計り知れず、助けに向かう余力は無かった。
 しばらくして後退していたカノンの歩が止まる──もはや限界か。獲物にとどめの一撃を放つべく、大蠍がカノンへ向けて右鋏を振り上げたその刹那。顔を上げ、鋭い眼光を放ちながらカノンは言い放つ!
「……かかったな!」
 すさまじい衝撃と共に、荷台に目一杯の岩を積み重量強化したトロッコが大蠍に激突した。

「ふふ、錬金術(物理)の力、思い知った?」
 激突の衝撃による土煙の中から現れたのはアガタ。皆が大蠍と対峙してすぐ、トロッコの準備にあたっていたのだ。爆発に強くても物理的な衝撃にも強いとは限らない──その予想は当たっていた。
 トロッコの一撃をまともに受けた左鋏の外殻に皹がはいる。
「好機じゃっ!」
 シノピリカの鎧装の左腕にこれまでに無いほどの力がこもる

「SIEGER・IMPACTォォォ──────────ッッ!!!」

 極大の衝撃と打撃時に排出される蒸気により、辺りは一面の白煙に覆われ何も見えなくなる。そして次の瞬間──。
 ──パキッ。
 メキメキと音を立てて大蠍の左鋏の外殻が砕け落ちる。シノピリカの放った必殺の一撃は左鋏の無力化に成功したのだった。
 しかしその一瞬。ただの一瞬の気の緩みは大蠍の残った右鋏の強烈な一撃をシノピリカに浴びせる。吹き飛ばされ壁に激突するシノピリカ。会心ともいえる不意の一撃を食らい意識が混濁するシノピリカを大蠍は残った右鋏で掴もうとする。カノンもそれに気づくが間に合わない。
 そして鋏の餌食になったのは──アガタ。アガタは自身の危険をも顧みず大蠍とシノピリカの間に割って入ったのだ。
 間に合わなかったカノンは右鋏へ震撃を打ち込むがやはり装甲は硬く効果は薄い。
「アガタさんをはなせっ!!!」
 大蠍は捕らえたアガタに尻尾から毒を注入する。
 見る見るアガタの顔色が悪くなっていく。
 カノンはなおも攻撃を続けるがそれを止める事はできない。
 このままではアガタさんが危ない──

 その時銃声がした。

 「とうとうさらしやがったな。弱点を!!」
 チャンスを見計らい大蠍の全身が見通せる位置へ移動していたアンの放った時間差の二連撃は、右鋏の付け根にクリーンヒット。左鋏に続いて右鋏にも決定的なダメージを与えた。これには大蠍も苦悶を浮かべ、たまらず毒で意識の混濁したアガタを放り投げる。
「アガタ殿っ!!」
 放り出されたアガタをシノピリカが何とか受け止める。

 そして……左鋏の外殻を失い、右鋏にも大きなダメージを受け、暴れる大蠍の前に最後の気力を振り絞りカノンが立つ。
「これで終わりだーーーーっ!!!」

 鉄山靠のダメージは貫通した後方にこそ真の威力を発揮する。
 防御された右鋏を貫いたダメージは大蠍の核へ確かなダメージを与える。
 ズドォォォォン、と大きな音を立て大蠍は崩れ落ちる。戦いは終わった。

 アガタが目を覚ますと3人が声をかける。
「目覚めたか? びっくりしたぜ。ほんとすごい顔色だったからなぁ」
「しかしさすがはアガタ殿、いくら毒が好きとはいえ……」
「心配したんだぞっ!」
 それぞれが心配してくれている。アガタにはその気持ちが嬉しい。
「ふふ、でもこれでまた一つ、アガタさんの毒知識が増えましたよっ」
 飄々とそう言うアガタに他のメンバーを顔を見合わせる。
 アガタにとってはこれもまた研究のひとつでしかないのだ。無謀とも思えるこの研究欲はきっと今後大きな成果に繋がっていくのだろう。

●いのち石

「で、石はどうやって見つけるんだ?」
 あたりを見渡しながらアンがつぶやく。アンセムに聞いた色のイメージで緑っぽい石を探しているがなかなか見当たらない。
「確か……アンセム殿は目当ての石には若干の魔力と温度があるといっていた、のじゃ……あいだー!?」
 とにかく温かい石を探そうと、明かりも持たず手当たり次第に石や岩を触って確かめていたシノピリカ。だがその戦士として恵まれた体格が災いし、そこら中に頭をぶつけていた。
 暗闇から定期的に「あいだー!?」の声が聞こえてくる。……あ、また聞こえた。
 同じくカノンも温度を頼りに石を探していた。水まきする道具があればもしかしたら温度に反応して風を感じたかも。そう思ったが今はとにかく触って確かめるしかない。一つ一つ石を触って確かめるという地味な作業だったが、時折ほのかな温かみを感じる鉱石があり、それを集めていく。

「お待たせっ! つれてきたよっ」
 ユズリハは鉱夫を引き連れて戻ってきた。餅は餅屋、鉱石を探すなら鉱夫に助力を求めるため、一度鉱山を出て状況を説明し皆を引き連れてきたのだった。
「絵の具の材料だって? ああ、いのち石の事か。アレは確かに見た目じゃわからんからなぁ。確かにわずかに熱があるから触ってりゃもちろん見つかるんだが結構大変だろ? おい、ボンゴレ頼むぜ」
 ボンゴレと呼ばれた男は目を閉じると意識を集中し始めた。
「あっちの大きな岩の下、向こうの壁から出てる岩、それにこれもそうだな」
 ボンゴレが使ったのは魔力感知の技能。石から出る微量な魔力を感知して探したようだ。
 この鉱石は生きてる。だからその生命力がにじみ出てるのさ。微かなぬくもりを持つその鉱石は鉱夫のあいだではいのち石と呼ばれているらしい。
 これでアンセムより頼まれた鉱石も思いほか早く集める事が出来そうだ。そうメンバーが思った時、暗闇から声がした。

「あいだーっ!?」

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

マギアスティームでの初依頼、ご参加ありがとうございました。
強固な挟への対応、お見事でございました。
毒をその身を呈して受けた方はお大事にされてください。

MVPはとても悩みましたが強敵を渇望し、勝利に繋がる的確な射撃を行ったあなたへ。
FL送付済