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【闇より還ルもの】屍人グランギニョル

●
ああ、ああ、この国を。この国を護らねば。
それは、二十の年齢よりこの国を背負って35年。ずっとずっと思い続けてきた自らの矜持である。
水の国イ・ラプセルの王として戴冠してハイオラクルになった自分は、国のために尽くしてきたつもりだ。
政治、国防騎士団の整備、他国から亡命した亜人の奴隷化としての対策。前王から引き継ぎ自分はそれを為してきた。
特に20年前の大戦においては亜人の流入は国家問題にまで発展したが、鉱山への従事、騎士団の亜人部隊の設立。特に亜人のオラクルは強制徴用し、兵役を義務付けるシステムを構築した。
大陸弾道砲とアルス・マグナの撃ち合いにより、当時のヴィスマルクの首都を焼き尽くしたその酸鼻極める戦争は、本土決戦となったヴィスマルクとシャンバラだけではなくイ・ラプセルにも影響を与えた。その混乱に乗じて上陸しようとした、ヘルメリアのキジン兵と蒸気潜水艦との闘いも海軍の奮闘と、それなり以上の亜人オラクル兵の損耗により防衛はなんとか成功した。
彼我のキルレシオをヘルメリアが疎んじた故の撤退ではあったがそれがなければこの国は墜ちていたかもしれない。
ともかく、自分は20年前の大戦でこの国を守り切った。その自信はある。
通商連との国際条約にも口をだし、すべての国家の条約締結への道を提示した。
国境線上での小競り合いは終わることはなかったが、薄氷の上であるとは言え、平和という幻想は得ることができた。
当時よりあのアレイスター・クローリーという道化師は戦争を進めようとはしていたが、アクアディーネ様は頑として、戦うことを厭う。
自分も神の秘密を持つがゆえに彼女の苦悩はわかる。1800年の神歴においてこの少女のような女神はほぼ一人で神の戦をとめようと努力はしていたが徒労に終わったのは言うまでもない。
人は戦を求める。国のため、金のため、食料のため、資材のため、家族のため、様々な理由で戦は続く。それはヒトという生命の原罪なのだろう。
自分も女神の理想は叶わないものだと思っていた。
我が王政は守り続ける35年であったと思う。アクアディーネ様の意思を尊重するのであれば、そうせざるをえなかったのだ。
厳粛に、古きを尊び国を護る。それが女神に捧ぐ自分の矜持であった。
生意気な我が息子エドワードなどは、亜人の地位向上の改革などを唱えてはいたがこのご時世では難しいだろう。管理された差別というものは、ときに政治の潤滑油として作用するのだ。その理想論は美しい。しかし美しいだけではままならないのだ。
エドワードは聡明だがよく泣く気の優しい子供だった。
そんな気弱な息子にこの国の重さを継がせ、自分が死んでしまうというのはずいぶんと不憫だとは思ったが仕方がない。生命というものはいつか尽きる。それが今だったのだ。去来するのは後悔と未練。もっと息子と話したかった。もっと息子と酒を酌み交わしたかった。
妻が泣いている。アクアディーネ様も泣いている。だというのに泣き虫な息子は口をへの字に歪め涙をこらえている。強くなったものだ。
自分の命が続くのであれば、息子にあんな顔はさせなかったのに。
ああ、ここで終わるのか。
ヴィスマルクが戦の準備をすすめていると聞いた。自分はこんなところで寝ている場合ではないのだ。
イ・ラプセルを守らねば。国民を、国土を、そして女神を守るのが自分の役目だというのに。
ああ、ああ――。もう、何も見えない、聞こえない。闇に、落ちていく。
――汽笛が聞こえた。
自分はまだ、死んではいなかったのだろうか?
構わない。動けるのであれば、この国を護らなくては。
ヴィスマルクから、ヘルメリアから、シャンバラから、パノプティコンから……!!
兵士たちよ、立ち上がれ!
イ・ラプセルを護るのだ!!!!
●
「父上、が――」
その報告を聞き、イ・ラプセル国王エドワード・イ・ラプセル(nCL3000002)は愕然とする。
水鏡に映る、その事実。
前国王ミッシェル・イ・ラプセルが、歴代の将軍を引き連れ、この城に向かっているという演算された未来。
「まさか、還って、こられたのか」
「その通りでございます。王」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は目を閉じ答える。
「前王は今や、王ではなく、この国を蹂躙する存在になりました。かの王はこの国を愛していました、ですが」
「わかっている。それ以上言うな。クラウス。たとえ父上であっても、還リヒトは世界の理を曲げる存在であることはわかっている。死んだものは還らない」
二度目の死を父親にあたえる号令を出すことがどれほど、心優しき王にとって苦痛であるのかはクラウスにはわかる。だからこそ、王としての決断は彼から言わせなくてはならない。
「では、どうなさりますか?」
「我が父、還リヒトである、ミッシェル・イ・ラプセルを討て!」
ああ、ああ、この国を。この国を護らねば。
それは、二十の年齢よりこの国を背負って35年。ずっとずっと思い続けてきた自らの矜持である。
水の国イ・ラプセルの王として戴冠してハイオラクルになった自分は、国のために尽くしてきたつもりだ。
政治、国防騎士団の整備、他国から亡命した亜人の奴隷化としての対策。前王から引き継ぎ自分はそれを為してきた。
特に20年前の大戦においては亜人の流入は国家問題にまで発展したが、鉱山への従事、騎士団の亜人部隊の設立。特に亜人のオラクルは強制徴用し、兵役を義務付けるシステムを構築した。
大陸弾道砲とアルス・マグナの撃ち合いにより、当時のヴィスマルクの首都を焼き尽くしたその酸鼻極める戦争は、本土決戦となったヴィスマルクとシャンバラだけではなくイ・ラプセルにも影響を与えた。その混乱に乗じて上陸しようとした、ヘルメリアのキジン兵と蒸気潜水艦との闘いも海軍の奮闘と、それなり以上の亜人オラクル兵の損耗により防衛はなんとか成功した。
彼我のキルレシオをヘルメリアが疎んじた故の撤退ではあったがそれがなければこの国は墜ちていたかもしれない。
ともかく、自分は20年前の大戦でこの国を守り切った。その自信はある。
通商連との国際条約にも口をだし、すべての国家の条約締結への道を提示した。
国境線上での小競り合いは終わることはなかったが、薄氷の上であるとは言え、平和という幻想は得ることができた。
当時よりあのアレイスター・クローリーという道化師は戦争を進めようとはしていたが、アクアディーネ様は頑として、戦うことを厭う。
自分も神の秘密を持つがゆえに彼女の苦悩はわかる。1800年の神歴においてこの少女のような女神はほぼ一人で神の戦をとめようと努力はしていたが徒労に終わったのは言うまでもない。
人は戦を求める。国のため、金のため、食料のため、資材のため、家族のため、様々な理由で戦は続く。それはヒトという生命の原罪なのだろう。
自分も女神の理想は叶わないものだと思っていた。
我が王政は守り続ける35年であったと思う。アクアディーネ様の意思を尊重するのであれば、そうせざるをえなかったのだ。
厳粛に、古きを尊び国を護る。それが女神に捧ぐ自分の矜持であった。
生意気な我が息子エドワードなどは、亜人の地位向上の改革などを唱えてはいたがこのご時世では難しいだろう。管理された差別というものは、ときに政治の潤滑油として作用するのだ。その理想論は美しい。しかし美しいだけではままならないのだ。
エドワードは聡明だがよく泣く気の優しい子供だった。
そんな気弱な息子にこの国の重さを継がせ、自分が死んでしまうというのはずいぶんと不憫だとは思ったが仕方がない。生命というものはいつか尽きる。それが今だったのだ。去来するのは後悔と未練。もっと息子と話したかった。もっと息子と酒を酌み交わしたかった。
妻が泣いている。アクアディーネ様も泣いている。だというのに泣き虫な息子は口をへの字に歪め涙をこらえている。強くなったものだ。
自分の命が続くのであれば、息子にあんな顔はさせなかったのに。
ああ、ここで終わるのか。
ヴィスマルクが戦の準備をすすめていると聞いた。自分はこんなところで寝ている場合ではないのだ。
イ・ラプセルを守らねば。国民を、国土を、そして女神を守るのが自分の役目だというのに。
ああ、ああ――。もう、何も見えない、聞こえない。闇に、落ちていく。
――汽笛が聞こえた。
自分はまだ、死んではいなかったのだろうか?
構わない。動けるのであれば、この国を護らなくては。
ヴィスマルクから、ヘルメリアから、シャンバラから、パノプティコンから……!!
兵士たちよ、立ち上がれ!
イ・ラプセルを護るのだ!!!!
●
「父上、が――」
その報告を聞き、イ・ラプセル国王エドワード・イ・ラプセル(nCL3000002)は愕然とする。
水鏡に映る、その事実。
前国王ミッシェル・イ・ラプセルが、歴代の将軍を引き連れ、この城に向かっているという演算された未来。
「まさか、還って、こられたのか」
「その通りでございます。王」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は目を閉じ答える。
「前王は今や、王ではなく、この国を蹂躙する存在になりました。かの王はこの国を愛していました、ですが」
「わかっている。それ以上言うな。クラウス。たとえ父上であっても、還リヒトは世界の理を曲げる存在であることはわかっている。死んだものは還らない」
二度目の死を父親にあたえる号令を出すことがどれほど、心優しき王にとって苦痛であるのかはクラウスにはわかる。だからこそ、王としての決断は彼から言わせなくてはならない。
「では、どうなさりますか?」
「我が父、還リヒトである、ミッシェル・イ・ラプセルを討て!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセルの浄化討伐。
2.有力将軍還リヒトの浄化討伐。
2.有力将軍還リヒトの浄化討伐。
†猫天使姫†です。
連動イベント【闇より還ルもの】です。
今までの還リヒト依頼の決戦になります。
還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセルが還ってしまいました。
彼は強く強くイ・ラプセルを護ることを誓い、その志半ばで亡くなってしまいました。
その思いは強く、残留思念となって葬られた地下墓地にてゲシュペンストの力によって復活し、同じく墓地に眠る将軍たちをも引き連れ、生きているものを敵と誤認し、イ・ラプセル城に向かって死の行軍を続けます。
その進む先にあるすべてを飲み込んで。
みなさまはその死の行軍を止めていただきます。
ロケーション
イ・ラプセル中央カタコンベ
かなりの広さの地下墓地です。灯りや足元の工夫は必要になります。
墓石も多いです。
ミッシェル・イ・ラプセルが旗印を掲げている場所は少し丘のようになっている王族の墓所になります。
近隣にはかつての英雄、将軍などの墓があります。
エネミー
・還リビト
墓所に葬られた死人が王の呼びかけに応じ還ってきました。
強さは個体にもよりますが、王の威光を浴び、ある程度以上の力を付与されています。
王が浄化されれば彼らも浄化されますが、王が討伐されるまでは常に50体以上が、墓場から蘇ってきます。
・英雄ドミニク・ソクラレス
かつての英雄です。300年ほど前の英雄ですので名前をしっていてもかまいません。
イ・ラプセル王家に忠誠を誓っていました。
彼の英雄譚は竜殺しとして残っています。肖像画も残っています。
清廉潔白の騎士でした。騎士道にのっとった行動をします。名乗られればきちんと返します。
ノウブル/バスター
体力は高く、弱体化を付与する全体攻撃、パラライズを付与する範囲攻撃、高火力の貫通攻撃を得意としています。
足止めされれば範囲ノックバックを使って、ミッシェルのもとに行こうとします。
使用EXスキル:屠竜斬(とりゅうざん)
嘗て、ドミニクがスチームドラゴンを屠った剣技。竜特攻(対竜時火力+100%)・竜のみ防御無視 高火力近接単体攻撃スキル。
HP、攻撃力、防御力高め。
・将軍ガトー・ミハイロフ
先々代の王国国防騎士団団長を務めていた人物。フレデリック・ミハイロフの祖父にあたります。
キジン/ガンナー
冷静沈着な、ガンナーでした。全範囲の銃弾の雨が彼の得意なスキルです。
命中は高め。
HP、命中、速度早め。
使用EXスキル:パラライズショット
嘗てガトーが得意としていた足止めのスキル。範囲に対してパラライズ2の効果とグラビティの効果。ダメージ0
・ボス 還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセル
イ・ラプセル先王です。防衛が得手の王でした。
貴族や騎士、ポリティシャンであれば知己であっても構いません。
ノウブル(王族)/???
還リヒトとなることで、さまざまな攻撃手段を得ています。
還リヒトたちの全体回復
本人の防御力アップ
全体攻撃
P:王の威光
還リヒトたちに指示をだし操ります。全体的に還リヒトを強化します。
援軍
本シナリオ以外の【闇より還ルもの】タグより還リヒトが乱入する可能性があります。どの戦場に参戦するかはランダムとなります。
選択肢
下記選択肢をお選びください。
一人につき一か所になります。
NPCへの行動指示については
【ムサシマル・行動指示】
とにかく前に出てすきなだけ切ってて
このような形で相談卓にて指示をください。最新の書き込みの指示に従います。
あくまでもどのように行動してほしいかという指針であって、個人と一緒に行動するという指示ではありません。
皆さんで相談の上、現状設定されている行動以外をさせたい場合にご利用ください。
なければ特に指示されなくてもかまいません。
たとえばミズーリの回復行動について、体力が20%以下になったものを最優先で回復してほしい。
ノートルダムを切らさないようにしてほしい。など具体的な支援方法の指示という形になります。
基本的にNPCは各々のバトルスタイルのランク1のスキルはすべて所持しています。
NPCと個人的に行動したい場合は下記指定形式の二行目で該当NPCの名前を記入してください。
A:還リヒトたちを抑える
カタコンベに広く分布する還リヒトたちを浄化します。
NPCムサシマル・ハセ倉とアーウィン・エピがこちらにいます。
指示があればその通りに。一緒に戦うのであればその通りに動きます。
なにもなければ、こつこつと敵を倒しています。特に関りがなければ描写されません。
次から次へとよみがえる彼らを止めないと、ミッシェルへの攻撃が阻まれてしまいます。
B:英雄と将軍を抑える。
彼らはミッシェルを護っています。彼らを放置すると、戦線が大きくかき乱されます。(基本的にはミッシェルを護りにいきますのでご注意ください。)
NPCフレデリック・ミハイロフ、ミズーリ・メイヴェンがこちらにいます。
指示があればその通りに。一緒に戦うのであればその通りに動きます。
何もなければフレデリックは祖父を浄化するために行動、PCが危険であればかばうなどの防衛行動をします。
ミズーリはヒーラーとして皆さんを支援いたします。特に関りがなければ描写されません。
C:還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセルの浄化討伐。
中央区画の小高くなっている丘の王族の墓地より、王の威光でもって死者たちを操っています。
彼は迎え撃つあなた方を他国の兵だと思っています。
浄化するまで、敵ではないと気がつくことはありません。
ルール
必ず書式を守りプレイングをかいてください。書式が守れていない場合、描写ができない可能性があります。
また【】でくくることを忘れないようにおねがいします。
2行目で指定せずに行動内でご一緒に参加する方の名前を書かれていた場合は迷子になる可能性はあります。
ご一緒に行動される方は必ず同じ戦地でお願いします。
・指定書式
【A】(向かうパートをアルファベットでかいてください)
【一緒に参加する方のフルネームとID/若しくはチーム名】
【行動】
宿業改竄・アニムスは使用できます。
フラグメンツ・アニムスの全損以外での即死判定は今回はありません。
宿業を使い、採用されると現在のフラグメンツの2/3と、アニムス2、アニムスを使うと現在のフラグメンツの1/2とアニムス1が消費されます。(フラグメンツ30のPCが宿業使用し、成功したた場合はフラグメンツ-20になります。残りフラグメンツの小数点以下は切り捨てになります。見えない0.6など小数点以下が残っているわけではありません)
使用を宣言した時点でフラグメンツは-5されます。
フラグメンツ10以下では使用できません。
この場のどこかでアレイスター・クローリーは潜んで様子を見てはいますが、戦闘中に出てくることはありません。
隠ぺい魔法で隠れているので見つけることはできません。
今回においては傍観に徹するので、彼に対するプレイングは無効になりますのでご注意ください。
この共通タグ【闇より還ルもの】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
すべての依頼の成否によって、決戦の結果に影響を及ぼします。
倒しきれなかった敵は決戦のカタコンベに集合することになります。
連動イベント【闇より還ルもの】です。
今までの還リヒト依頼の決戦になります。
還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセルが還ってしまいました。
彼は強く強くイ・ラプセルを護ることを誓い、その志半ばで亡くなってしまいました。
その思いは強く、残留思念となって葬られた地下墓地にてゲシュペンストの力によって復活し、同じく墓地に眠る将軍たちをも引き連れ、生きているものを敵と誤認し、イ・ラプセル城に向かって死の行軍を続けます。
その進む先にあるすべてを飲み込んで。
みなさまはその死の行軍を止めていただきます。
ロケーション
イ・ラプセル中央カタコンベ
かなりの広さの地下墓地です。灯りや足元の工夫は必要になります。
墓石も多いです。
ミッシェル・イ・ラプセルが旗印を掲げている場所は少し丘のようになっている王族の墓所になります。
近隣にはかつての英雄、将軍などの墓があります。
エネミー
・還リビト
墓所に葬られた死人が王の呼びかけに応じ還ってきました。
強さは個体にもよりますが、王の威光を浴び、ある程度以上の力を付与されています。
王が浄化されれば彼らも浄化されますが、王が討伐されるまでは常に50体以上が、墓場から蘇ってきます。
・英雄ドミニク・ソクラレス
かつての英雄です。300年ほど前の英雄ですので名前をしっていてもかまいません。
イ・ラプセル王家に忠誠を誓っていました。
彼の英雄譚は竜殺しとして残っています。肖像画も残っています。
清廉潔白の騎士でした。騎士道にのっとった行動をします。名乗られればきちんと返します。
ノウブル/バスター
体力は高く、弱体化を付与する全体攻撃、パラライズを付与する範囲攻撃、高火力の貫通攻撃を得意としています。
足止めされれば範囲ノックバックを使って、ミッシェルのもとに行こうとします。
使用EXスキル:屠竜斬(とりゅうざん)
嘗て、ドミニクがスチームドラゴンを屠った剣技。竜特攻(対竜時火力+100%)・竜のみ防御無視 高火力近接単体攻撃スキル。
HP、攻撃力、防御力高め。
・将軍ガトー・ミハイロフ
先々代の王国国防騎士団団長を務めていた人物。フレデリック・ミハイロフの祖父にあたります。
キジン/ガンナー
冷静沈着な、ガンナーでした。全範囲の銃弾の雨が彼の得意なスキルです。
命中は高め。
HP、命中、速度早め。
使用EXスキル:パラライズショット
嘗てガトーが得意としていた足止めのスキル。範囲に対してパラライズ2の効果とグラビティの効果。ダメージ0
・ボス 還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセル
イ・ラプセル先王です。防衛が得手の王でした。
貴族や騎士、ポリティシャンであれば知己であっても構いません。
ノウブル(王族)/???
還リヒトとなることで、さまざまな攻撃手段を得ています。
還リヒトたちの全体回復
本人の防御力アップ
全体攻撃
P:王の威光
還リヒトたちに指示をだし操ります。全体的に還リヒトを強化します。
援軍
本シナリオ以外の【闇より還ルもの】タグより還リヒトが乱入する可能性があります。どの戦場に参戦するかはランダムとなります。
選択肢
下記選択肢をお選びください。
一人につき一か所になります。
NPCへの行動指示については
【ムサシマル・行動指示】
とにかく前に出てすきなだけ切ってて
このような形で相談卓にて指示をください。最新の書き込みの指示に従います。
あくまでもどのように行動してほしいかという指針であって、個人と一緒に行動するという指示ではありません。
皆さんで相談の上、現状設定されている行動以外をさせたい場合にご利用ください。
なければ特に指示されなくてもかまいません。
たとえばミズーリの回復行動について、体力が20%以下になったものを最優先で回復してほしい。
ノートルダムを切らさないようにしてほしい。など具体的な支援方法の指示という形になります。
基本的にNPCは各々のバトルスタイルのランク1のスキルはすべて所持しています。
NPCと個人的に行動したい場合は下記指定形式の二行目で該当NPCの名前を記入してください。
A:還リヒトたちを抑える
カタコンベに広く分布する還リヒトたちを浄化します。
NPCムサシマル・ハセ倉とアーウィン・エピがこちらにいます。
指示があればその通りに。一緒に戦うのであればその通りに動きます。
なにもなければ、こつこつと敵を倒しています。特に関りがなければ描写されません。
次から次へとよみがえる彼らを止めないと、ミッシェルへの攻撃が阻まれてしまいます。
B:英雄と将軍を抑える。
彼らはミッシェルを護っています。彼らを放置すると、戦線が大きくかき乱されます。(基本的にはミッシェルを護りにいきますのでご注意ください。)
NPCフレデリック・ミハイロフ、ミズーリ・メイヴェンがこちらにいます。
指示があればその通りに。一緒に戦うのであればその通りに動きます。
何もなければフレデリックは祖父を浄化するために行動、PCが危険であればかばうなどの防衛行動をします。
ミズーリはヒーラーとして皆さんを支援いたします。特に関りがなければ描写されません。
C:還リヒトの王 ミッシェル・イ・ラプセルの浄化討伐。
中央区画の小高くなっている丘の王族の墓地より、王の威光でもって死者たちを操っています。
彼は迎え撃つあなた方を他国の兵だと思っています。
浄化するまで、敵ではないと気がつくことはありません。
ルール
必ず書式を守りプレイングをかいてください。書式が守れていない場合、描写ができない可能性があります。
また【】でくくることを忘れないようにおねがいします。
2行目で指定せずに行動内でご一緒に参加する方の名前を書かれていた場合は迷子になる可能性はあります。
ご一緒に行動される方は必ず同じ戦地でお願いします。
・指定書式
【A】(向かうパートをアルファベットでかいてください)
【一緒に参加する方のフルネームとID/若しくはチーム名】
【行動】
宿業改竄・アニムスは使用できます。
フラグメンツ・アニムスの全損以外での即死判定は今回はありません。
宿業を使い、採用されると現在のフラグメンツの2/3と、アニムス2、アニムスを使うと現在のフラグメンツの1/2とアニムス1が消費されます。(フラグメンツ30のPCが宿業使用し、成功したた場合はフラグメンツ-20になります。残りフラグメンツの小数点以下は切り捨てになります。見えない0.6など小数点以下が残っているわけではありません)
使用を宣言した時点でフラグメンツは-5されます。
フラグメンツ10以下では使用できません。
この場のどこかでアレイスター・クローリーは潜んで様子を見てはいますが、戦闘中に出てくることはありません。
隠ぺい魔法で隠れているので見つけることはできません。
今回においては傍観に徹するので、彼に対するプレイングは無効になりますのでご注意ください。
この共通タグ【闇より還ルもの】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
すべての依頼の成否によって、決戦の結果に影響を及ぼします。
倒しきれなかった敵は決戦のカタコンベに集合することになります。
状態
完了
完了
報酬マテリア
7個
3個
3個
3個




参加費
50LP
50LP
相談日数
10日
10日
参加人数
55/∞
55/∞
公開日
2018年08月16日
2018年08月16日
†メイン参加者 55人†

●
「ならば、答え合わせだ! ゲシュペンストってのはあくまでも現象さ! 台風みたいな、災害的なものだ。でも、災害と違うのは――」
●
死人、屍人、屍。
死者がセフィロトの海に溶けるその日まで。安らかな眠りのためのその場所。イ・ラプセル中央地下墓地はその日、眠りを妨げられた死者たちで溢れていた。
ゲシュペンスト。幽霊列車が通れば不幸が起こる。死者が起きる。まことしやかにささやかれるその現象により目覚めてしまった彼らは、生前に残した思いを遂げようと還リヒトとなり、よみがえる。
彼らは王の号令により、敵国と戦う戦士となり王城を目指す。
彼らはしらない。ヴィスマルクの兵は去ったことを。
彼らはしらない。自らが戦う相手がいとしい母国の民であることを。
「元の王様まで還リビトになっちゃうなんて困ったもんなんだぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は大きな耳をばたばたとさせて東奔西走する。なんせこの大量の屍人を相手にするには自由騎士たちも無茶を強いられる。だからこそ、彼女は自分にできるたった一つを十全にこなそうとする。戦うことは苦手だ。けれど、戦う人をフォローすることはできる。
それはこの場において、とてもとても大切なこと。
屍人は叫ぶ、希求する。この国の平和を。たしかに平和など遠い話だ。今は戦争中である。 だけれども、彼らが憂うヴィスマルクの軍は退いたのだ。死者が戦士として立ち上がる必要はない。
「先王様! ヴィスマルクはもう、いないんだぞ! それにこの国はいまいい国になってるんだぞ! 満足してる! だからゆっくり眠るんだぞ!」
先王に届かぬかもしれない声。それでもサシャは叫び、自由騎士たちを癒した。
サシャをはじめドクターたちの支援を受け、前衛たちはこの先にいる王と英雄たちに向かう自由騎士を到達させるためにその血路を拓く。
『学ぶ道』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)は後衛に配置し、二連の薬莢を愛銃から排出する。
奥に行くものへむかう敵を排除し、牽制するために。
自分たちより還リヒトのほうが多いのはわかっている。後衛にいたとしても危険は変わらない。それに、カタコンベの最奥に坐する王の威光によって、屍人たちは通常よりも強化されているのだ。どうしても焦りはでてくる。
「きゃっ」
落ち着いているはずだった。しかし不如意というものはいつでも起こるもの。還リヒトの爪に肩口を大きく抉られ……ると思った。
「大丈夫ですか?」
サブロウ・カイトー(CL3000363)が巨大な太刀でレベッカを狙う還リヒトを切り伏せる。
「あ、ありがとうございます」
「墓に埋められるはこの国の先祖。それは親も同然です。親が子を害し、子が親に刃を向けるこの状況。あまり見たくないものですね。だから僕が、代わりにやっちゃいましょう! なあに、慣れています」
言って、笑んだサブロウは次の得物を狙いに瞬歩の足取りで最速の一撃を還リヒトに食らわせた。振り切った刀の反対側から別の還リヒトがサブロウの隙を狙う。
タァンと、サブロウを狙った還リヒトをレベッカの二連の銃撃が牽制する。その銃撃にのけぞった還リヒトの隙を見逃さずサブロウは切り捨てた。
「大丈夫ですか?」
同じ質問が返されたことにサブロウとレベッカは顔を見合わせて吹き出す。こんな場所だというのに。
「ありがとうございます。ところで見事な銃撃だ。僕もお気に入りの拳銃があるんですが、これがびっくりするほど当たらないんですよ。コツなんてありますか?」
実は刀を持つサブロウの好きな武器は意外なことに拳銃なのである。手に入れた拳銃は大切になんども分解しては直している。だというのにその射撃能力は絶望的なのである。だからレベッカの美しい銃撃に見とれてしまう。
「えっ、え? って今そんな場合じゃないですよ!」
「それはそのとおりだ、では終わったあとにでも教えてください」
「え、え? もう! わかりました。今は私が後ろはフォローします。前はよろしくおねがいします。この状況を終わらせましょう!」
「ガッテン、まかされました!」
『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は体躯を柳のようにしならせ、還リヒトからの打撃をいなす。
「これは持久戦になりそうね」
「早速弱音でござるか?」
ミルトスのつぶやきに近くにいた『一刀両断』ムサシマル・ハセ倉(nCL3000011) がにししとわらいながら尋ねる。
「いいえ、いいえ、むしろやる気になったわ。私はね、死して尚、この国のために戦おうとする精神は立派だし尊敬もするわ。だけど、それはもう妄念でしかないわ。そんなの悲しすぎる。だからね」
ミルトスは片方の拳を手のひらにうちつけ、不敵に笑う。ガントレットが金属音をたてる。
「なんとも勇敢なもんく殿でござるね。では拙者あちらを。後ろは任せたでござるよ!」
「ええ」
「では」
「一刀両断!」「絶ちます!」
彼女らになだれ込む還リヒトは一点収束された衝撃破でカウンターを受け、膝をつく。
「陛下たちに向かう皆! こっちはまかせて! 壁が薄くなったらそこで突っ込んでいって!!」
大きく拡張された音声は遠く響く。奥に向かう者たちが頷く気配があった。OK、それでいい。じゃあ私は任された道を拓こう!!
多少のダメージでは王の回復が打ち消してしまう。なんとも厄介な話だ。それでもやり遂げなくてはならない。そんな絶望的な状況であるのに体の奥底から闘志がわいてくる。それがミルトスという修道女の強さ。
眼の前の還リヒトにミルトスは拳をぶつけながら祈りを捧げた。
「彼らに罪科は無く、主は全てを許したもう。その魂に、安寧がありますように」
「おらアーウィン! ビビってないか!? 怖がってベソかくなよー!」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は目の前で拳を振るうアーウィン・エピ(nCL3000022) を煽る。
その青年は元捕虜であることを気にして必要以上に気負い無理をする傾向にあることは戦い方でわかった。
「うっせー! 怖いわけねーだろ! クソ医者! お前は下がってろ! 紙装甲」
「へっへっへ、元気だなぁ。アーウィン・エピ。精々がんばれよ、怪我をしたらこい、私の薬はしみるぞぉ」
からかいながらもツボミの目は医学知識を活用し、怪我人を追っている。あいつはまだ大丈夫、あいつ、そろそろやばいな。トリアージして効率的な治療をするのが彼女の役目だ。
「アーウィン、といったか、前線での経験は多いと聞いた」
さり気なくアーウィンの隣についた『女傑』グローリア・アンヘル(CL3000214)は彼に声をかけた。
「ああ、えー、グローリアだっけ? いい動きしてんな、あんた。ああ、前線は理想郷だぜ! なんせ死ねば自由だ!」
「おい、アーウィン・エピ! 死んだらセフィロトの海に飛び込む前に引き戻して、人工呼吸でお前のふぁーすとちゅうを奪ってやるからな!!」
「前言撤回。どうやら自由になる前に口うるさいクソ医者になじられて拷問付きで引き戻されるらしい」
そんな子気味のいいやり取りにグローリアの広角が緩む。
「緊張はしていないようだな。ではアーウィン、私は君に追従する。好きに動いてくれ」
「おうよ、女傑様のお心のままに」
いって飛び出したアーウィンが相対する敵の後ろに瞬時に回り込むと一切のロスをかんじさせることのない一撃で両方向からの打撃を同時に叩き込めば、還リヒトはその動きを止めその場から消滅していく。
「ひゅぅ、やるな、女傑様」
「1対1で時間を掛けるより、少ない労力で多くを倒すほうが効率が良いだろう」
「え? ああ、ああ、そうか、これが力を合わせて戦うってやつか……」
彼にとって戦闘とは個人で行うものであった。しかし今はそうではない。それをグローリアに気付かされた。口の中でありがとうの言葉を発しようとするが、なぜだか照れくさく感じる。
「おい、アーウィン・エピ! 後ろ後ろ」
ツボミがハーベストレインを全体にふりまきながらよく通る声で警告する。彼以外にも、彼女はその洞察力でもって戦場を俯瞰し指示をだしていく。その指示は明確で何人もの自由騎士の動きが目に見えて効率的になっていった。
「こら貴様ら! 寝るな! 死ぬな! もっと働け!」
そしてツボミは感じている。この状況を作った何者かの悪意を。
こんな状況じゃ前衛も後衛もないですね。
冷静に状況を判断した『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は口の中で舌打ちする。
(こだわるよりは、動きながら撃つほうがよさそうですね。幸いドクターは数人いますし、とはいえ体力の温存は必須ですので当たらないに越したことはないのですが……動き続けていれば囲まれることはないでしょう)
彼女はドクターの側を付かず離れずの距離を保ちつつ、氷の棺をいくつも生成する。
フリーズの状態異常で足止めができれば別の個体に向かう。そうすれば全体的な攻撃は多少は目減りするからだ。
それにしても――。
アレイスター氏が言っていたゲシュペンストが成長しているというのはどういう意味なのかが気になります。
どこかにいるのでしょうけど、見つかるのであればクロウはしませんね……。クローリーだけに。
ともかく、彼が今まで関わってくる案件には神が関わっていた。だとすれば――。
(ミッシェル陛下には生前ご厚意をいただきました。彼はこの国を常に憂いていた。この国を愛していた、だというのに……!)
還リヒトになったとはいえ、その手でこの国を蹂躙してしまっていることが我慢ならない『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)は、愛銃を構え二連の弾丸を打ち続ける。
「もう一度、先王陛下に安らかな眠りを! 我ら自由騎士団たちが、この先の国を護ります!」
「死んだ後もこき使われるなんて死人も楽じゃないんだねえ。通商連でもここまでブラックなことはあんまりやらないと思うよ?」
うんざりとした声で『もてかわハーレム?マスター』ローラ・オルグレン(CL3000210)が、一度きれた息吹をヒミツの宿帳から再度発動する。
「ところでローラに還リヒトよってきてない?」
還リヒトは彼女のモテカワオーラに引き寄せられるように近づいてくる。
ジークベルトはローラに近寄る還リヒトをダブルシェルで牽制すると、彼女の前に立ち防御の構えに切り替える。
「魅力のある方は大変のようですね、自分がお守りいたします」
「でしょー、モテるってたいへんなんだよぅ。それは兎も角大怪我なんかはさせないわよ、しっかり働いてね」
「はい、ご随意に」
騎士然としたジークベルトの上品な所作は貴族を思わせローラは苦手意識に怯むが、自分を守ろうとしてくれるのはわかる。それに、口では憎まれ口を聞こうとも彼女の情は篤いのだ。自分を守る彼の膝をつかせてはならぬと思う。
「では、先鋒はこの私が引き受けます。防御だけではままなりませんからね」
『ノンストップ・アケチ』タマキ・アケチ(CL3000011)からはいつもの――平たくいえば変態っぷりは鳴りをひそめている。
軍服に身を包み、バスタードソードを構えるその姿は紛れもなく歴戦の戦士である。
彼は目を細め、ローラとジークベルトの前に立つと周囲の敵をオーバーブラストで蹴散らした。
「お見事です、アケチさん」
ジークベルトは吹き飛ばされた還リヒト達の間隙を狙いダブルシェルでの援護攻撃を続け、ローラはそんな二人の回復を続けていく。
「にゃふふ~、ミケの出番だにゃ~♪ ミケも手助けするにゃ~ 忙しいときは猫の手もかりたいにゃ」
マナウェーブの特殊な呼吸法で、体内の魔導回路をフル回転させながら『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)はジークベルトとローラの後ろからひょこっと登場すると、空気中に存在する水分を凝固させ死の氷の棺を展開させ、一体の動きを鈍らせる。それを見逃すタマキとジークベルトではない。目配せしあい、迅速にその一体を連携攻撃で浄化し動きを止める。
「なかなかナイスなチームだにゃ~♪」
あどけなくも純粋なミケの言葉に彼らは頬を緩めて、すぐに真剣な表情に戻る。
まだ戦いは始まったばかりだ。騎士たちが守るべき姫は二人に増えたのだから。
「とりあえずやっこさん達を抑えない事には何も出来やしないねっ」
トラットリアマールのおっかさん。トミコ・マール(CL3000192)は腕に力こぶを浮かべその言葉を奮起の言葉に変え、鉄塊を振り上げ、目の前の還リヒトを打ち据える。力強いその攻撃は明確な衝撃でもって還リヒトを吹き飛ばした。
「このていどじゃアタシは倒れないさ! アタシの力見せてやるよっ」
普段のトラットリアでの穏やかな様子とは裏腹のその破壊力は凄まじく、還リヒトを次々と浄化し、その動きを止めていく。
そんな彼女を危険であると認識した還リヒトたちは彼女を囲みこんでいく。それが彼女に誘導されていたのだとは気づかない。
トミコは集めたゴミをまとめてちりとりで集めるかのように、周囲の還リヒトをオーバーブラストで吹き飛ばした。
「さあ、アンタらもがんばりな! がんばった子にはおいしい料理をごちそうするよ!」
「前の王様だか何だかしらねーが、今いる国民を泣かせてちゃ世話ねーぜ! ……とにかく、わんさか出てくる還リヒトを倒していけばいいんだな」
デュエルセンスびこーん! びこーん! 『おにくくいたい』マリア・スティール(CL3000004)のテンションはマックスだ。
マリアは先王に向かう者たちのぶっこみ隊として、その道を拓こうとしていた。しかし、方向として先王の墳墓がある場所はわかるが、具体的な方向は還リヒトに阻まれ分かりづらい。故に彼女(便宜上)は力をもつ者を感知するという方向性で直線距離を探った。
「あっちだー! おーい! ムサシマルのねーちゃん、アーウィンのあんちゃん! ぷりーずぱうわぁ~!!」
彼女(便宜上)は二人を呼びつけると、柳凪による脚さばきで最前線に突っ込んでいく。
「おい、マリア! お前めちゃくちゃするなよ!」
「わわー! まさに猪突猛進でござるな! 負けてはおれんでござる!」
「おい、ムサシマルも! ノープランでツッコムな! ドクター! ……ルー! ちょいついてきてくれ! あとクソ医者も!」
「ハイハイ、いいヨ、ムリは禁物ヨ」
「これだけ働かすんだからあとで酒を奢れよ」
マリアの号令で同じように走り出したムサシマルの背中を、『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)とツボミを呼んだアーウィンは二人を追いかけた。その後ろにはさりげなく、グローリアも追随する。ドクター二人は目配せをすると裾をまくりあげ、各々のやるべきことを確認しあうと動きはじめる。
「あそだ。 アーウィンのあんちゃん、コレ終わったら前に教えるって言った釣り場の場所教えるよ。 何で今言うかって? 後の楽しみが多い方が頑張れるじゃん! 決まりだからなー! 前に出てくから後ろよろしくな!!!!!!」
「おい、勝手に!」
当の呼ばれたルーとツボミは置いてきぼりをくらい、ルーはため息をつきながら近隣の仲間にノートルダムの息吹での支援をする。
実質体力値が底上げされたマリアたちは大騒ぎしながら、還リヒトの群れのど真ん中で大立ち回りをしている。
「おいらも助太刀するよーー!!」
ムサシマルとアーウィンの様子をみにきていた『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)も同じように負けてたまるかと虹色の目を輝かせ両手の愛剣、リンクスとオセロットを携えラピットジーンで速度を嵩上げすると、アクセルを燃やし飛び込んでいく。
「カタコンベって暗くてジメジメして、嫌だなあ! 早くお日さまいっぱい浴びたくなるよ! そんでそんで、かったらマールのおばちゃんのトラットリアで唐揚げいっぱいたべるんだー!」
そんな様子で振り回されるアーウィンをみて、『いつかそう言える日まで』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)の広角が上がっていることに本人は気づいているのだろうか?
ボルカスは雄々しい叫び声を上げると、先行した彼らと共に走り出す。
状況は最悪だ。倒しても倒しても王がいる限り屍人は次々と蘇る。これは長期戦で消耗戦だ。しかし消極的に戦っていては埒が明かない。
全てをとめられはしないとわかっているが、だからといってそこでしりごんでいたら味方を通すことはできない。ならば傲慢にいこう。できないなんて思わない。全てをとめてやるさ! 今を生きるイ・ラプセルの民のために俺はいくらでも傲慢で自信過剰な騎士になろう!
(これは守るための戦いだ。今を生きるイ・ラプセルを)
そして――。
「かつての勇士たちの名誉を、あの忌まわしい汽笛から守るために!」
ボルカスの巨大な剣が地面を削り砂煙を上げ、目の前の還リヒトに振り下ろされる。
「おー、ずいぶんと派手ネ。アタシもお手伝いするヨ」
近隣の自由騎士のエンチャントを終えたルーはボルカスに叩き切られ、虫の息である還リヒトを鉄山靠で浄化し、その動きを止めていく。
「ボルカスサンはそのまま思う存分戦ってヨ。アタシはフォローしてくネ!」
「すまん、かたじけない!」
「いいヨいいヨ、こういうの得意ネ」
ルーの目星による気配りは的確に周囲をフォローしていく。戦線において足りない人材があれば呼び寄せ、最適化する。
それは小さくて地味な行動かもしれない。しかし乱戦においてはそんな調整が戦線を支えるのだ。
「ちょっとまずいネ。増援がきてるヨ」
「よっしゃ、やるか!」
ルーの言葉に反応して、『炎の駿馬』奥州 一悟(CL3000079)が走り出す。
「英雄達と戦ってはみたいけど、そりゃまた今度だ! 他のみんなに任せるぜ! 今回は増援退治だ!」
その気合は龍氣をもって体を巡る。
眼の前には増援。武者震いが一悟を震わせる。
囲まれないように、集団の端を狙い移動しながら鉄山靠を使い集団を撃ち抜いていく。
「助太刀します!」
柳のような足取りで一悟の側につくのは『いっぽいっぽすすむみち』リサ・スターリング(CL3000343)。
「おう! 囲まれんなよ! 広いところに誘導するんだ。あいつらは生きてるものに反応する」
「はい! わかっています!」
震撃をふるいながら、リサは元気よく答える。くるりとカールさせたしっぽが緊張に震える。
(きつい依頼が続くけど、みんなと一緒なら何だってやり遂げることができるはず)
少女はまっすぐ前をむく。この絶望の向こうに必ず勝利と希望があることを疑わない瞳で。
一悟はいつの間にか目から涙をこぼしていた。痛いからではない。そりゃあ、殴れば拳は痛い。相手だって痛みを感じる。それが戦いというものだ。
けど彼らはもうその戦いの痛みさえ忘我の果てなのだ。それが無性に悲しかった。
彼らはこの国を愛し、故にこの国のために還ってきてしまったのだ。それは強い愛国心。尊敬する。ありがたい。そう思う。
けれど、死者はあくまでも死者なのだ。生者と死者は相容れない。事実彼らは、守るべきものと戦うという本末転倒な状況に陥っている。
だから彼らのためにできることは、自分が彼らのために涙を流し、そしてもう一度安らかな眠りに導くことだ。
一悟の魔導力は残り少ない。まとめて倒せないのは仕方ないが、初段の震撃であれば、魔導力を気にせず撃ち続けることはできる。
「いくぞ!」
「はい!!」
ルクタートルの少年少女の瞳はこの絶望的な状況においても曇ることはない。
――ああ、ああ。会えるかもしれない。
『胡蝶の望み』誡メ・巴蛇・ヒンドレー(CL3000118)の足取りは墓地だというのに軽い。煙管をくゆらせながら、胡蝶は気まぐれに羽根をはためかせる。
夢見る蝶の足取りの女を、『分相応の願い』咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)は追う。彼女が何を思ってこの鉄火場に向かったのかはおおよそ見当はつくが、こんな危険な場所にまで足を伸ばすほどに会いたいと思える客がいたとは思えない。そもそもにおいてこの地下墓地に埋められたかどうかなど、知るよしもない。
それでも咎メは構わない。龍氣を巡らせ、体内の氣の流れを調整する。姐さんが望むこと。それは自分が望むことと対して違うわけではない。
「やれやれ、護衛の苦労も考えて貰いたいんだけどねぇ」
誡メの手前に立ち咎メは愛しい胡蝶に傷一つつけるまいと構える。
(還リヒトは神の魂の循環を司る機構の歪みでしたか? 幽霊列車が循環を歪める。その歪みが姐さんをここに呼んだ。なぜだか、気分が悪い)
ふと、ふと胡蝶がふうわりと飛び立つ。お目当ての華をみつけたように。
大過から幾月。顔を見せなくなった客がいた。別にそんなことはよくある話だ。思い入れなど対してない。それでも。眼の前には還ってきたその人がいる。自分は墓参りをできるような身でもなければ縁もない。それでも、屍人であれば、現世と縁が切れた屍人であれば――。
「主様、一つお願いがござりんす」
蝶の手が伸びる。屍人は答えない。
蝶が蜜を吸うように屍人の首筋を誡メの唇が伝う。その動きがあまりにも美しくて自然で、咎メは動けずにいた。
ふと、我にかえった咎メは急いでその二人の間に入り込み距離をあけると、屍人を一心不乱に破壊する。人を壊すというのは悪くない。咎メはなんどもその拳を振り上げ下ろす。人を壊すのが悪くないからそうするのだ。そう言い聞かせて。自らの妬心を覆い隠すように。
「封豨、かえりんす。はようしなんし」
その様子を見ていた誡メが突如踵を返した。
「姐さん!?」
「かえりんす」
誡メは咎メを振り返らない。
咎メは誡メのあとを追いかける。
●
「自国を愛しているにも関わらず、自国の民を傷つけるなど彼らも望んではおらんだろう」
ウィルフレッド・オーランド(CL3000062)は無言でガトー・ミハイロフ――実の祖父を無言で見つめるフレデリック・ミハイロフ(nCL3000005) に声をかけた。
「ああ、その通りだ」
フレデリックは短く答える。
その渋い横顔をみて『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は思う。『おじいちゃん』と戦うのはきっと勇気がいるだろうと。だから自分がフレデリックを応援しようと両手を握りしめる。
「フレデリックおじちゃん、ナナンがいるよぉ!」
その言葉がナナンもまた奮起させる。
「はは、こんな小さい子に心配されているようでは俺も焼きがまわったようだ。大丈夫さ、あれは還リヒトだ。祖父ではないよ」
フレデリックはナナンの頭を撫で、大剣を掲げるとにぃと笑ってみせる。
その様子に大丈夫のようだとウィルフレッドは広角を上げるとミズーリ・メイヴェン(nCL3000010) に声をかけ、回復の準備を整えていく。
「なんと! バナナの皮がそこに!」
ナナンは将軍の近くにバナナの皮を撒くが、ガトーにはすぐに対応されバックステップで躱し、銃撃でバナナの皮を弾きとばす。
一手を使わせたとなれば上々ではあるが、これ以上は意味がないだろう。近づいた前衛が足を滑らせたら目も当てられない。
「いくで!」
ラピットジーンで速力をあげた『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、機械の足から蒸気を噴きだし、加速しながらガトーのブロックに入る。
「死んでもうてからもお国のためって頑張ってくれるんありがたいんやけどな、味方も敵ももう判断でけへんのやったらあかんやん?」
ショーテルを振り上げ速度をのせた斬撃をガトーの脇腹に食らわせる。
「あの人、将軍さんの孫やで」
『王の邪魔をするものは全て、敵である』
王が立ち上がった以上は敵が何者であれ臣下として戦う。そういった意志のもとで、ガトーは動いている。
アリシアの言葉にガトーはけんもほろろに、全周囲を焼く銃弾の雨を降らせた。
「おおっと! ガトーの旦那も容赦がないな!」
ミズーリの回復が少々たりないと感じた星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はハーベストレインで援護する。
彼の、バトルスタイルはガンナーである。だが、彼はそのガンナーのスキルのみにこだわることもなく、数々のスキルを有している。器用貧乏といえるかもしれない。しかしその器用さはこういった一手足りないという事態において、専門家ではないとはいえ、便利に作用する。
「如何に国に貢献した優れた将軍と言えども、民に仇為す存在となったのなら討たなければなりませんわ」
『疾走天狐』ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)もまた体性能を引き上げ、速度でもって攻撃を重ねていく。
「過去にどれだけ国に貢献していようが『今の』俺達の国にとっては不要物だ。……残念だがな。俺たちの国は俺たちが守る」
主人であるガブリエーレを援護するように『風詠み』ベルナルト レイゼク(CL3000187)のヘッドショットがガトーの耳もとをかすめた。
「不要に、生前の名誉を汚さないように、私達で討ち果たして見せますわ!」
なんとも『家名』だとか『名誉』だとかを気にする主人であると思う。ベルナルトにとってはそんなものは猫の餌にでもしてしまえと思うほどどうでもいいことだ。
家名がどうであろうと自分は自分でしかない。
しかし、前のめりなお姫様(パトロン)にとっては何よりも大切なものだということは理解している。
であれば。家臣であればそれをも守るのが役目だ。
「おーい、パトロン様。すっ転ぶなよ!」
とはいえ、口から出てくるのは皮肉。もちろん手元は姫君の援護射撃を続けている。
「転んだりなんてしませんわ!」
いうが早いか、足元をガトーに撃たれもつれさせて一回転したガブリエーレはバツの悪そうにベルナルトを睨んだ。
ベルナルトは見ないふりをする。
(なんだか、子供扱いされてるようなきがするわ。うちのほうが年上のはずなんやけど!)
「このような形でまたかの方々を拝見することになろうとは」
『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は苦し気に目を伏せる。先々代将軍、そして英雄ドミニクに会ったことはないが、教科書で描かれるその活躍は、サブロウタにとっても輝かしいものに見えたのだ。
両雄の攻撃は苛烈だ。自らの力を総動員して皆の回復を続けるが、息が切れてくる。
ふと、彼はおもいたつ。
メセグリンとは自然に存在する無形のマナを集積し癒しの力に還元する力だ。その活性化された力を還リヒトに適用すれば……!
思い立ったそのアイデアを実験するために彼は将軍に向かいメセグリンを発動する。
しかし、何もおこらない。マナを集積することはできた。術式も完璧だった。なのにもかかわらずだ。
そも、癒やしの力は無形の魔力であるマナを生命の体内に巡るオドを介し癒やしに還元するというプロセスを経ている。故に死者となりその循環するオドを失ってしまったものに発動することはないのだ。
実験は失敗に終わった。しかしできないということがわかるということもまた必要なことである。
「フレデリックの旦那にゃ悪いが……やっぱ強敵との戦いには血が滾る性分でね!」
暗闇に烟る墓石から転がり出てきた『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)が二連の射撃でもってガトーを牽制する。
「いいや、それくらいのほうがイキが良くて安心するぞ」
「そーかい、じゃあ、遠慮なく。不謹慎でもなんでも、こういった撃ち合いってのは興奮しちまうってもんだ!」
フレデリックの返事に舌なめずりをしてアンが答える。
強敵との戦いに血が騒いでいるのは、なにもアンだけではない。『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)も同じくだ。
彼はガンナーとしてガトーのその動きをこれから先への足がかりにしたいと思いその一挙手一投足に目を向ける。彼は移動しながら、ダブルシェルで牽制をかけながら足元を狙う。
「将軍さんよ、その程度かい? 参考にできるほどではないな。本気だしてくれよ!」
『小僧が……ちょろちょろと!』
ガトーの構えが変わった。銃口が足元に向けられる。それは牽制のための動きではないことがわかる。
きた、とザルクの感が告げた。直死の感が騒ぐほどではないが、危険が迫っていることが、ガトーから向けられる殺気でひしひしと感じられる。
「お前ら! よけろ!」
周囲の仲間に声をかける。まあ、かくいう自分は避ける余裕なんてないんだけどなと自嘲し、不可視の魔弾の制圧術が自らの足元に展開されていく。
貧乏くじではあるが、気を引けたのなら上々だ。不可視の散弾は自らを縛っていく。ずん、と体が重くなる。動けなくなった自分に狩人の目が向けられているのがわかる。
アンはこりゃまずいと、牽制のダブルシェルを撃つが、狩人の目はザルクを狙ったままだ。
タァンと高い銃声が響き、ザルクの腹部から大量の出血が吹き出す。
「ザルク!?」
やけに遠くに味方の声が聞こえる。
「くそっ、こんなとこで死ねるか……!」
ザルクは英雄の欠片を削り魂を引き寄せる。何かが失われる感覚がある。だけれどもやけに感覚だけはシャープだ。今ならできる気がする。震える手で大型口径銃を構える。ええいくそ、照星が合わない。ブレる照星にイラつくが大量出血する腹部を抑える手をグリップに添えればなんとかあわせることができた。腹部から血が流れだし下履きに吸い込まれていく。ああくそ、気持ちが悪い。出血しすぎた所為か片頭痛も併発している。
いつもより引き金が重い。しかしこの引き金を引きさえすれば……!
ガチリと引き金をひけば不可視の魔弾がガトーの足元に展開された。しかし、その結果を見ることはなく、ザルクは意識を手放した。
ガトーはザルクが放った己が磨き上げたその制圧術によって、身動きが取れなくなっている。
味方がくれたそのチャンスを逃すわけにはいかない。
「一気呵成にいくぞ!」
ウェルスが声を荒げて叫ぶ。仲間が倒れた。その事実は重くのしかかる。早く治療しないと命にかかわるかもしれない。それでも今はザルクが作った好機を失うわけにはいかない。
ウェルスはウルサマヨルを両の手で構える。『巨大な熊』。その名を関した銃は10歳のころから使い続けてきたものだ。まるでテセウスの船のように部品を付け替え整備し今に至るその自らの半身は当時とは全く違うものになっているが、ウルサマヨルであることは変わりない。
彼は照準を合わせ、動くことのできないガトーを二連の弾丸で撃ち抜く。
ウィルフレッドとミズーリ、サブロウタが必死に彼にメセグリンをかけ続ける。彼の体内のオドが失われてしまわぬように。
動けなくなったガトーを、ナナンが、アリシアが、ガブリエーレが、ベルナルトが、アンが、ウェルスが最大火力を叩き込んでいく。
「フレデリック! トドメはお前が! お前が祖父を浄化してやれ」
ウィルフレッドが叫ぶ。
フレデリックは、頷くと口の中で「やっぱじーさんは強かったよ」とつぶやき、バッシュを祖父に炸裂させる。歴戦の将軍、ガトー・ミハイロフの動きが止まった。
『そうか、私達の戦いはとうに終わっていたのだな』
ガトーは遠い目で自由騎士たちを見つめる。その瞳は、還リヒトだというのに、喜びの意思が込められている。
「イ・ラプセルは生きてるうちらが守っていくから安心してや! 自由騎士団は強いんわかったやろ?」
アリシアがガトーに語りかける。
『そのようだな。なれば老兵は去るのみよ』
「ガトーおじーちゃん、フレデリックおじちゃんに言うことはない?」
ナナンが尋ねるがガトーは首を振ると、最初からいなかったかのようにその場からかき消えた。
●
『我が王のもとにはいかせぬよ、下郎ども』
竜殺しの剣を構え、まるで絵画のように鎧の男、英雄ドミニク・ソクラレスが、王への道を阻む。
「私もいつか竜殺しになってみたいと思ってた!」
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は英雄の覇気にすらおくせずその小さな体で前に進む。
「私はカーミラ! イ・ラプセルが自由騎士! いざ尋常に勝負っ!」
その名乗りを皮切りに、自由騎士たちは名乗りをあげていく。
「どうも。アマノホカリの剣客、清瀧寺幽花です。私は愛国心など持ち合わせちゃいませんが、300年もの時を経て蘇るその執念に興味が沸いたので来ました」
『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は眠そうな目で、しかして鋭く値踏みをする目でドミニクを見やる。
「カノン・イスルギだよ。英雄ドミニクに一手御指南願い奉るよ」
ドミニクの正面に立った『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は左拳を右の拳で包み込む包拳礼を示してから、構えを取る。
「我が名は、ルシアス・スラ・プブリアス! 音に聞こえし竜殺しの英雄よ、お相手願おう!
互いに背負った誇りにかけて、互いの武を競おうではないか!」
わざとらしいほどに仰々しく声をかけるのは『戦場《アウターヘヴン》の落し子』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)。
彼等前にでる前衛たちのその名乗りを邪魔することはなくドミニクは聞き続けた。
『名乗りに返さぬのは戦士の恥であるな。下郎などと罵り申し訳ない。
我が名は竜殺し、イ・ラプセル聖騎士ドミニク・ソクラレス。貴殿らを戦士と見込み正々堂々の戦いを!』
ドミニクは自由騎士たちを戦士と認め、相対する。
『セイリュウジが言っていたな。300年と』
「ええ、貴方はゲシュペンストによって300年の時から蘇ったようですね。何か執念でもあるんですか?」
『ゲシュペン…スト?』
「もしかして、ゲシュペンストが出現したのは300年前だから英雄ドミニクはゲシュペンストを知らない?」
絵本で読んだ憧れの英雄を目の前に『見習い騎士』シア・ウィルナーグ(CL3000028)はその事実に行き当たる。
『蘇り、とは面妖な出来事ではあるが、まあいい。俺が呼ばれたのは戦うためなのだろうよ。貴様らはイ・ラプセルの騎士と言ったな。王は敵国が攻めてきたと言っていたが……』
その反応に違和感を覚えたのは『イ・ラプセル自由騎士団』リュリュ・ロジェ(CL3000117)だ。
「英雄よ、貴方は私達を敵国だとは思っていないのか?」
『イ・ラプセルの騎士と名乗ったのはお前たちだろう? 嘘をついているとは思わぬよ』
明らかな意志と思考能力を有しているように思える英雄は呵々と笑う。還リヒトとはその人物であって、その人物ではない。しかし、かの英雄は、そのよみがえった、英雄の仮初の器に英雄本人の魂を宿しているようにしか見えない。
かの魔術師はなんと言っていただろうか? ゲシュペンストの成長。それは能力の拡張を指すのではないのか。
300年も昔に遡り、残した思いを引きずりあげるほどに。
「聞いてみたいものだな、英雄ですら抱える思い残しってものを」
ルシアスが尋ねる。
『思い残しか。そうだな。その時の王を俺は守りきれなかった。竜殺しと呼ばれてはいてもそんなものさ。故に、どの時代の王だとしても、王のもと甦ったのであれば王を守るが我が本懐よ』
「その王様が間違えていてもですか?」
『飢えた白狼』リンネ・スズカ(CL3000361)が耳を揺らしながら確認をする。
『ああ、そのとおりだ。イ・ラプセルの騎士として、王に忠誠を誓っているゆえにな』
「王様の間違いを糺すのも忠臣のしごとだよ! それにイ・ラプセルの騎士同士で戦うのでいいのかな? そりゃ私も戦いたいけど! 私が竜に届くか聞いてみたいし!」
カーミラがぴょんこぴょんこと跳ねて疑問を口にする。
『まさに、俺も同じさ。にわかには信じれんが300年の時を経たのだろう? 300年の時を越えたイ・ラプセルの戦士と戦うことができるなど、僥倖だろう? この瞬間だけの泡沫の夢であったとしてもな』
「ああ、この人、割とバカなんですよ」
カスカが呆れた声で言う。
「それでもいいと思った私もまあ、そういうことでしょう。見せてくださいよ。竜を屠ったその剣を」
刃鳴りをあげカスカが抜刀する。
『さあ、いざ尋常に勝負!!! 容易に俺を超えて王に向かうことができると思うなよ』
こい、と英雄は告げた。その叫びは弱体化を伴い相対する全員を打ち据える。
「だてに英雄ってわけじゃないな」
浮遊状態を保つリュリュは即座に戦線を立て直すためにハーベストレインを展開する。
「スズカ!」
「はいな」
リンネもその呼びかけに応え、ノートルダムの息吹を展開し、自由騎士たちを支える。彼らに攻撃手段は少ない。しかしアタッカーたちを支える土台というかけがえのないものが彼らでもあるのだ。
「申し訳ないが、あなた達はここにいるべきではない。それでも、本でみた英雄に会えるというのは心が躍るよ」
リュリュはできることなら間近でその絶技をみたいとも思うがそうもいかない。
「あなたはカノンの劇団でも、その逸話を上演したことがあるよ!」
『ほう』
「すっごい人気がある演目なんだ」
カノンは拳を固め震撃を連打する。英雄はすいすいとそれをよけるがそれすらもカノンはうれしくてたまらない。
「だからね、本人と手合わせできるのは役者としても、格闘家としても光栄だよ」
ガキンと音を立ててカノンの拳が英雄の胴鎧をとらえた。やった、と思った瞬間吹き飛ばされるがくるりと宙返りをして着地する。
すごい! すごい! 英雄ってすごい!
カノンは傷だらけだ。しかしその瞳に曇りはない。当たらなければもう一度、二度三度と打ち付ければいい。
観察によってある程度の動きを理解したルシアスは腰を落とし吹き飛ばしを耐える。
「我らより背を向け逃げるは武名がなくぞ!」
ルシアスの挑発に、ドミニクは快活に笑う。
『安い挑発だ。貴様らのような騎士がこの場にいる。逃げようものかとは思うが……いいぞ小僧。その挑発に乗ってやる』
ドミニクは剣を構えルシアスに向かい挨拶をするかのようにバッシュを炸裂させた。
「……っ!」
ただのバッシュだ。なのに英雄が使うそれはルシアスの体力を一気に削る。口元からは一筋の鮮血。彼はその鮮血を片手でふき取り白い手袋が朱に染める。彼はひるまない。まっすぐに、まっすぐに、己のできる全力のバッシュで応えればドミニクの笑みが深まった。
ふと、ドミニクにカンテラの炎が投げられ彼は小手のついた腕でそれを払う。その死角から飛び出した、リンネの暗殺針がきらめく。彼女は騎士ではない。騎士道などくそくらえだ。
暗殺針が鎧の継ぎ目を狙う。侵入角が浅く急所をえぐるには少々力不足だった。しかしそのシャープな技術は己の心身を極めてゆけば、精彩が増すことは間違いない。
そのフェイントに動くのはリンネだけではない。
パァン!
高い破裂音が響く。十分に速度を乗せたカスカの居合がリンネの逆側から弾けた。
『アマノホカリの剣術か』
明確なダメージがドミニクを襲う。
「貴方の執念に報いたい気持ちは私にもありますが……生憎と貴方の時は300年前から永遠に止まっています」
『その通りだ、剣士よ、しかし俺はよみがえった。セフィロトの海よりな』
「でしたら、この神殺しカスカ・セイリュウジが竜殺しをもう一度屠りましょう。神殺しが竜殺しの技に遅れる道理はありませんから」
剣筋に宿るは執念。目の前の敵を断つための妄執。それが彼女の剣には宿っている。
『ああ、くるがいい、迎え撃つさ』
シアはそうだ、と思いつく。
竜なんて本でしか見たことはないけれど。
本で見た竜を幻想で作り上げる。
「どうだ!」
『ほう、俺が倒したスチームドラゴンではないか。絵画にも描かれていたあれだ。面白いが、ディティールが少々甘いな。あの背中の蒸気孔、実はもう少し小さかったのさ。しかし気にいった。故に』
ドミニクは上段に剣を構える。空気中の魔力(マナ)が収束し、剣身が青白く染まる。
『ハッ!』
短い掛け声と共に振るわれた剣閃は頭頂から一気に幻想の竜を捉え引き裂きかき消す。
『本当の竜であればこれほど手軽に倒せはしないがな』
屠竜斬。その英雄の英雄たる剣技をこの場の全てのものが手に入れようと目を凝らしていたが、その真価を見定めることはできずにいた。
カスカはドミニクが剣を振りぬいた瞬間を狙い全力の剣閃をきらめかせる。彼の剣技を持っていくことはできなかった。しかし、必殺の剣技を見せてくれた英雄への最大の礼儀がこの剣戟であると口よりも雄弁に語る。
「どりゃー!」
カーミラは愚直に、ただ愚直に英雄に拳をふるう。全部、全部自分の全部を。そして目の前の竜殺しの剣を受ける。体中は傷だらけの満身創痍だ。
一度は倒れる。拳が使えなければ足をつかえばいい。足が使えなければ自慢の角で頭突きをかませばいい。その攻撃は彼女本人を表すような直線だ。よけようと思えばよけることも可能だろう。だが竜殺しはその攻撃をあえて受ける。それが武人としての誠意だと。
「我流・神獣っ! 撃!!!」
それは両親が使っていた神威の技。両親ほどの精細さはない。型も中途半端、見様見真似の偽物だ。しかしその技にかける彼女の想いは紛れもない、本物である。
『いい技だ』
ドミニクが血を吐く。
その言葉が聞こえたか聞こえないかのところでカーミラは意識を手放した。
英雄の姿は最初より存在が薄れているようにみえる。
リュリュが今だと好機を告げればルシアスがバッシュを叩き込む。
「イ・ラプセルは現王のエドワード王が守るって! その王を護るのは私たち自由騎士団だよ!! ボクたちはまだ弱いかもだけど、絶対絶対強くなるから! だから安心して! ボクたちに任せて!」
シアもまたまっすぐな全力のヒートアクセルを憧れの英雄の真正面から打ち込む。
シアはまだ見習の騎士だ。だけれどもいつか立派な騎士になると思っている。
その一歩として、この戦いに勝つことで自分たちの力を示したいと思う。そしてなによりも英霊たちに安心してもらいたいのだ。イ・ラプセルには立派な騎士たちが王を護るために、国を護るために存在しているのだと。
『あとはまかせたぞ、自由騎士たちよ』
言って、英雄はゆっくりと夢幻の現が溶けるようにかき消えていった。
「うん、ボクたちは立派な自由騎士になるんだ!」
英雄が消えたそのあとを見つめ、シアは誓う。
●
数々の屍人と英雄、そして将軍を抜け、イ・ラプセル先王、ミッシェル・イ・ラプセルの前に立つ騎士たちは15名。
「励め」
たった一言だった。だが、『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)にとってはその言葉はまるで天から授かる啓示のように思えた。自分が騎士として、戦士として、軍人として認められたことがうれしかった。王にとっては任官する大勢の中の一つでしかないだろう。それでも言葉と共に下賜された剣は彼女の誇りだ。
同じく、『血に染まる銃姫』ヒルダ・アークライト(CL3000279)も幼少時、かの王にあったことがある。大きな手でなでられて「アークライトの姫君か。りりしい顔をしている。この国のため立派な騎士になることを命ず」などと、冗談交じりの言葉をいただいた。当時は国のため、なんて、よくわからなかったけど、その言葉に報いたいと思ったことを覚えている。
今は、この三か月自由騎士として戦い、経験を得てきてその言葉の意味が実感ができた。
――アークライト家の者は国を護るべき。
そのアークライトの矜持を果たすために、ヒルダはここにいる。この国には大切な友がいる。それもまたこの3か月で得た大切な経験。
国にヒトがいるだけじゃない。ヒトがいるからこその国であるのだ。
だというのに。敬愛する王は愛しい祖国を蹂躙しようとしている。二人の女騎士にとってそれは何よりも許せないことだった。
「これはこれは前国王陛下、ご機嫌麗しい……のかね?」
アリア・セレーネ(CL3000180)が森羅万象の息吹に己の魔力を同化させながら、挨拶をする。
まあ、麗しいには程遠い状況だけれど。ともあれ目的は大将首だ、拝謁は光栄だけれどね。
アリアは練り上げた魔力で紅い文字を中空に描き放つ。
アリアは先王のやり方が、多少の差別はあったことは否めないが嫌いではなかった。むしろその差別が自分を奮い立たせていたことも事実だ。
『ヴィスマルク兵め……!』
王はダメージをその時点で初めて受けることになる。歯ぎしりした王は赤く染まるオーラを身に纏った。
「こぼれたミルクを嘆くより、残ったミルクを大切にしようぜ。今の王では安心して眠れねえかい?」
先祖の墓石を乗り越え、むしろ足場にしながら、『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)は極彩色のポンチョをはためかせながらラピットジーンで強化すると、その速度のままに最高速の一撃を王にぶつけるが、その防御魔法に阻まれ深く浸透させることができない。
「還ったところで居場所などありはしないぜ、先王」
それでも柊は諦めない。剣閃が仲間のカンテラの光を反射し二度煌めく。その剣技は生きる意志、その剣筋は生き残るための技量。亜人にだってノウブルと同じだけの意志も、意味もある。
「亜人とノウブルが共に手を携えアクアディーネの理想を世界に広める、先王、もうあんたの時代じゃない。見てみろよ! この場所を! 亜人も、混血も、ノウブルも一丸となって戦っている。そこに上も下もない! これが今の! 新しいリアルなんだ!!!」
王錫によって振り払われた柊は地面に激突するがその意志の瞳は曇らない。
「そのアクアディーネ様の理想を体現するのがあなたのご子息だ。 とても立派なご子息に成長されている! 陛下。貴方の治世はもう全て終わったこと。後事は我らに任せ、休まれるがよろしかろう」
アリアは赤い文字を先王に刻み続ける。
先行する二人のの体力を支えるのは『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)と『改竄の願』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)の二人の錬金術師。目配せしながらパナケアを展開する。
「たまたま頼りない現王の力を試す為に環リヒトとして現れたか……もし、先王が正気だったとしたらどうだろうね。 戦場へ出る王と出ない王……。 どちらが国民にとっていいか……。 時代にも寄るだろうけど、興味はあるかな……」
嘗ての王はその武勇でもって、王威を示していた。現在はそのような時代ではない。王が戦闘の旗印にはなっても前線にでることはないだろう。なにせキングが倒されたら、そのチェスボードは敗北だ。
しかし、王が戦場に出れば配下たちの指揮は大きく向上することも事実である。どちらが正しいとは判断することはできないことではあるが……。時代は移ろう。戦場にでて王が戦う時代はすでに過去なのだ。
「死人であるとて先王ならば敬意をはらいたいのですが……こうなってしまってはやむをえませんね」
エミリオは苦笑する。眼の前の先王は先王であって先王ではない。
王の全体攻撃によって負傷者が増えれば、パナケアからハーベストレインに切り替え、対応していく。
「前の王様は残念ながら私は知らないし、関係ないわ。私の王様はエドワード様だもの」
目星によってすぐにみつけた王の姿を捉え、『翠の魔焔師』猪市 きゐこ(CL3000048)はエネミースキャンで王をスキャンする。弱い部分といえる場所はない。イブリース化することで、戦闘力を手に入れたように分析できる。
弱いところがないのであれば、単純な話だ。最大火力でぶちかますしかない。脳筋なかんがえだけれども。大技もなにも、あの王の攻撃はなにもかもが大技だ。いやになる。
きゐこはならば、と血染権杖をふりあげ、カタコンベ内に漂う少々カビ臭さもある水分を昇華させ大量の氷水晶を発生せるとその鋭い切っ先を王にむけ射出する。
ビキビキと音をたて足元から王が凍っていく。一瞬動きをとめるが、それもつかの間。だがそのつかの間こそが前衛に攻める隙をあたえるのだ。
(王が過ちを犯したら命を棄ててでも糾するのが騎士の務め……そうでしたよね、アグウェル先輩)
騎士として、先王に手を上げるという暴挙に対し、清廉なる騎士である『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は躊躇するが、紅蓮騎士の言葉に後押しされる。
「自由騎士アダム・クランプトン! 王にあるまじきその蛮行! 諌めさせていただく!」
『ヴィスマルクの兵が謀るか!』
右腕のカタフラクトの内圧が上昇し赤熱していく。その腕に周囲からマナがサンライトの光りを湛えて吸収されていく。光り輝いた黄金の腕から蒸気を拭き上げその蒸気圧を利用し王を諌める掌撃をアダムは炸裂させた。先王は一歩ふらつくように下がる。
「貴方の治世は良いものだったと思う。だけど……」
ノウブルとはいえ、キジンに対しての偏見がなかったとはいわない。特にアダムはそのほぼ全身がカタフラクトである。カタフラクト化は今ではメジャーな技術ではあるが、全身となると流石に奇異の目で見られることは否めない。
そういった多少の差別はあったとしても、亡命した亜人を奴隷階級とはいえ、国で守るという治世は決して不幸だけではない。
アダムはそれでは許せないのだ。不幸ではない、なんていう消極的な言葉では。
この国を、世界を改革して幸せな、だれもが優しさをもてる、そんな理想がある。だから――!
「今は、エドワード様の治世だ!! 世界の皆がもっと幸せになるための治世が始まっている。僕はその理想を叶える!!! 貴方はもう眠っていい!」
『えど、わーど……ぐぅう、うう、えど、わーど』
息子の名前を呼ばれ、王は振り払うかのような術撃をアダムに放出した。
柳凪を展開し、アダムは王の攻撃に耐える。
「グリ、いくよ」
『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)は相棒である、『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)に声をかける。
横合いからイーイーの身の丈と変わらないほどの大剣から噴出されるオーバーブラストが王を吹き飛ばし、グリッツの射線上に重なる。
「ありがとう、イーちゃん。このチャンスは見逃さないよ!」
ボルトアクション式の支給されたライフルの照星が一直線に重なり王を捉えると、その頭蓋に向かって訓練で培った正確無比の弾丸が吸い込まれた。
パアンと乾いた音をたて王の耳が弾け飛ぶ。
彼等ケルツェンハイムの少年たちは貧民街の孤児院の出だ。現王に治世が変わって生活が楽になった亜人たちでもある。貧しいのは変わらないけれども、少しだけ周りの大人が優しくなった、そんな気がする。気の所為かもしれない。しかし改革とはそういった気の所為の積み重なりで変わっていくものなのだ。
少年たちはそれほど良くはわからなくても、先王の治世に思うことはいくらでもある。しかし、それとは別に還ってしまったことを、それも国民を敵として認識してしまっていることがとても悲しいことだと二人は思う。
「だから、おわらせないと。死んだのに、まだまだ戦争させられてるの、かわいそう。死んだらずっと眠っていればいいって先生がいってた」
イーイーが色素の薄い紫の目を曇らせていう。
「そうだよ、前の王様はセフィロトの海でもう眠っていいんだ。先王様だって国を守ろうとして、こんな状況になるなんて望んでないはずだ!」
少年たちは連携して比翼の鳥のようにお互いがお互いを支え合い、隙を作りその隙を縫いながら攻撃を続けていく。
たまき 聖流(CL3000283)は両手を重ねノートルダムの息吹を付与していく。儚げな少女は祈り、騎士たちを癒やす。
大丈夫、必ず勝てる、そう声をかけながら。
たまきは彼等の国を守るという思いは本物だと思っている。だからこそ、歪められた認識を戻したいと思う。
故に祈り続ける。ヒーラーの教本に描かれる聖女ブリギッテのように。
その宿業の改竄ができるほどに祈ることはできなかったけれども。彼女の祈りはきっと必ず周囲でたおれていく還リヒトたちには伝わっていただろう。
彼女の想いは、伝播し冷えたカタコンベを温めていくような祈りだ。
龍氣螺合で身体能力を高めた、ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)は渾身の拳撃を王に打ち付けていく。
「前王よ。アナタのこれまでの功績はすばらしいものだった」
本当にそう思う。差別はあったが、この国は外敵から守られ続けていた。だというのに。
「これではすべてがぶち壊しではないか!」
守る王が守るべき国を破壊していく。本末転倒にもほどがある。
「アナタの意志は、現王が。そして国民が受け継いでいっている。国というものはそういうものだ」
だから、今は静かに眠りたまえ。
ラメッシュの拳はなんども王に打ち付けられる。王の意志を継ぎ、国を守る。その崇高な思いのために。
先王との戦いは熾烈を極めていく。膝を地につけたものは何人もいる。割れたカンテラが方方で燃えている。
『フェイク・ニューフェイス』ライチ・リンドベリ(CL3000336)はその表情を曇らせていた。先王が還ってしまったのは、なにも国を守るためだけじゃないと思う。多分だけれども。治世半ばで崩御してしまうことで、その責務を息子に押し付けてしまう。それがなによりも心残りだったのじゃないかと思う。
遠距離からブレイクゲイトを打ち込んでいく。ひとつふたつ、みつ、よっつ。そしていつつめ。魔導力が尽き、王の全体攻撃に晒され傷だらけだ。
彼女は近くの墓石の後ろに転がり込む。碑銘は……よく知っている英雄と呼ばれた戦士の名前だ。ライチはその碑銘の戦士に勇気を分けてもらう。
この作戦は王の怒りを買うかもしれない。
それでも、成すべきと感じた。
演説でなんどもきいたエドワード・イ・ラプセルの声。自分にしか聞こえない程度の声で声帯模写をしてみる。たぶん、あの声になったと思う。
先王は私達を敵だと思ってる。だけど息子の声だったら? もしかして届くかもしれない。
深呼吸する。そして立ち上がり叫ぶ。足元が震えている気がする。
「父上!!」
そして駆けだす。声に反応してこちらをむいた王が一瞬ひるんだ。
最初はそうすることで気を引いて皆の攻める隙になればいいと思っていた。けれどそれだけじゃたりない。自分が自分を許せなくなってしまう。だからライチは魂を燃やした。ちょっとばかりの虚栄心があったかもしれない。
力が湧いてくる。でも大切な何かが魂から削れていく気がしてすこし怖かった。その恐ろしさをごまかすために、仏斬と先斬をいつもより強く握りしめ、二連の剣撃を放つ。
王の肩口を抉る。ひとつ、ふたつ。まだ止まらない。みっつ、よっつ。連撃は続く。なんとはなく永遠に続くものに感じた。いつつ、むっつ。
がきん、とそこで剣が止められる。
『エドワー……ド』
息子の名を呟く王の瞳が優しいものになった気がする。宿るのは知性の光り。戻ってきた。けれど。残念ながら私はここまで。魂を削った代償に体が揺らぐ。
地面が迫ってくる。ああ、でも柔らかいものに受け止められた。たしかたまきって子だったかな?
「ライチさん! ライチさん! しっかり」
静かなのによく通る声だったことは覚えてる。彼女の必ず勝てるっていってくれた声だって頑張れる後押しになっていた。
でも、なんだか聞こえなくなってきた。おうさまは、どうなったのかな?
「大丈夫です。気絶しただけだとおもいます。魂を削ってまでムリをして……。彼女は私が退避させます」
いってたまきは、気絶する少女を抱き上げ、後ろに下がっていく。
『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)は戦場にはいない。
マキナ=ギアを立ち上げる。
流石に王に繋がる直接の回線は知らない。だからクラウディアにつなげた。多少の悶着はあったもののマキナ=ギアの向こうには現王、エドワード・イ・ラプセルがいる。
「今還リビトと騎士達が矛を交えました。僕もこれより赴きます。その上で敢えて問いたい。貴方は何をしているのかと」
『君たちの帰りを待っている』
「『長』が居ない今だから糾す。何故貴方は剣を携えない。今敵対している者はこの国に命を賭した人々だ」
『嘗てこの国のために命を賭したのは過去だ。今は還リヒトだ。還ってきてそしてこの国を蹂躙しようとしている。私は王としてそれを止める責務がある』
「貴方はかつての同胞を、この国の為もう一度殺せと命じたのだ」
『そのとおりだよ。現王として国を害するものは放置はできない。だから命じた』
「ならば貴方が今!父王の首を掲げずして何とする!!」
『君は、私がそれをできない臆病者というのかい?』
「友の、祖の、共に生きた民の亡骸に刃を突き立てよと貴方は命じた。両手を隣人の血で濡らせと。その貴方が、己をこそ血で穢さずして何が王か! 優しき王よ、僕は臣として諫言を送る! 甘いだけの王に、勝利などない!!」
『君に!! 君に何がわかる! 私に君たちのように戦う力があれば、だれよりも先に父のもとに向かっていた!! 父上を止めるのは私でありたかった!』
エドワードが声を荒げる。その瞬間騒ぎ声がマキナ=ギアのむこうから聞こえた。ややあってエドワードがもう一度マキナ=ギアに語りかける。
『声を荒げてすまない。今のは忘れてくれ。私は君たちを私の剣として信じて送り出した。送り出した以上は君たちの帰りを座してまつ。それが臆病者だといわれようとも……! クラウディア?!』
『カノンさん? クラウディアだよ。悪いけど王様を戦地には送りこめないよ! さっきだって王様出陣するとかめちゃくちゃいうんだもん! 間に合うわけないのに! あのね、王様が動けばこれを期に王様の政策を気に入らない人だって動き出しちゃう。暗殺のチャンスだってなるかもしれない。王様だって自由に動けるわけじゃないんだよ』
『クラウディア、命令だ。それ以上話すことを禁じる。 とにかく、カノン・T・ブルーバード、君の憤りは正しい。否定はしない。私が王でなければ、そうしていたさ。だから、頼む。私に変わって、父王を討ってくれ。そして諫言痛み入る。ありがとう』
『私は、ここは……?』
ライチの祈りが功を奏したのか先王の意識が戻る。
「ヒルダちゃん……!」
『死人の声に寄り添う者』アリア・セレスティ(CL3000222)が親友を向く。
親友はうん、と頷く。アリアはヒルダが先王にたどり着くように守り続けてきて傷だらけになっている。当のヒルダは多少のかすり傷はあるが、大きな傷はひとつもない。それにアリアは誇らしくなる。
親友には先王に伝えたい想いがある。それを助ける剣を振るうのになんの戸惑いもない。そりゃ意志を宿す還リヒトをもう一度屠ることに抵抗がないわけではない。それでも、それ以上に親友への想いが勝るだけだ。
「あとで必ず弔います」そう心の中でつぶやくのが精一杯だ。
「わかってる……! 先王陛下。ここはカタコンベ、貴方はもう一度亡くなっています」
告げるは残酷な言葉。
「ヴィスマルクはもう撃退したのだわ。まあ、またこないとはいわないのだけど、それは私達自由騎士がなんとかするわ」
その言葉につづけてきゐこも告げる。
『ああ、アークライトの姫か。大きくなったな。美しくなった』
王の手がヒルダに伸びる。アリアは焦り彼女を守ろうとするが、ヒルダは手をあげて制する。
王の手はあのときのようにヒルダの頭を撫で、ヒルダは泣きそうになる。大好きだった王様の手だ。
ヒルダはその手に触れ、言葉にならない言葉を接触感応で伝える。帝国との戦いと<可能性>であるオラクルが起こした奇跡。現王陛下が実現しつつある差別の無い国。
先王のこころにそれが伝わる。そうか、と先王は頷く。
「あのね、今の王様。エドワード様はすごくよくがんばっているわよ。ちょっとたよりないけれどもね」
きゐこがつげる言葉に先王の口元が緩んだ気がする。
『そうか、そうか。なれば、私はもうとうの昔に用済みであったのだな』
「いいえ! いいえ! 違います!」
否定するのはシノピリカ。防御もなくただ有効打を叩き込むことのみを目指していた彼女は満身創痍だ。下賜された剣はとうの昔に半分に折れて、柄しかない状態にも等しい。
「あなたの治世が、エドワード王をそだて育み、そして新しい世代に変わっていくのです。その礎たる陛下に用済みなどとだれが言えましょうか?! 私は蘇った貴方を臣下として屠り、心安くセフィロトの海に還らせるために来ました」
シノピリカは王の目をにらみつける勢いで叫ぶ。
『そうか、大義である。シノピリカ・ゼッペロン。ずいぶんと励んだようだな。その剣、もう少し大事にしてもいいのではないか?』
「はわわっ、それはなんとも、耳の痛い!」
『世界は流れる川のようにかわっていく。今がその過渡期であるのだろう。ミッシェル・イ・ラプセル。最後の命として告げる。私を、もう一度殺せ』
厳かに前王は告げる。なんとか体が動くものたちはその命に頷く。
体はもう殆ど動かない。だけれどもその命に従わないものはいなかった。
「前王陛下……!あたし達の世代へと未来をつないでくださって……ありがとうございます!」
ヒルダは涙を流しながら、先王の中心を蒸気散弾銃で撃ち抜いた。
燻る蒸気が先王の顔を隠す。かの王が最後にどんな顔をしていたのかは、ヒルダには見えなかった。
●
ぱちぱちぱちと。
場違いが拍手が聞こえた。振り向かなくてもわかる。ニヤケ顔のあの道化師だろう。
「<可能性>■■■■シスの奇跡はいつ見ても壮観だね。今回は2つか。滾る王のこころをとりもどし、失われた技術をとりもどす。なんとも愉快痛快」
不遜にも先王の墓石にあぐらをかくのはアレイスター・クローリー。
「で、この有様の説明はしてくれるのか?」
リュリュが呆れた声で尋ねる。
「そうですね、アレイスター君。説明を求めます。あとお墓の上からおりてください。」
アリア・セレスティも呆れた目で見つめる。
「もう少しくらい、情緒をもってほしいところだけど。まあいいや。
ならば、答え合わせだ! ゲシュペンストってのはあくまでも現象さ! 台風みたいな、災害的なものだ。でも、災害と違うのは――」
「その、ゲシュペンストって、もしかして神絡みの産物……? その、失われた神の成れの果……いや、まさか」
マリア・カゲ山はボソボソと口の中でつぶやく。
「おお! すごいじゃないか! そこまでたどりついたのかい? マリア・カゲ山! まあ正解にはちょっと足りないけど、及第点だ。大まかにおいてそんなものとおもって間違いない」
拍手しながらクローリーが口笛までふいてみせる。
「そうさ、ゲシュペンストってのは神が生み出した坤輿に向けた悪意さ」
「ってことは、イッパイアッテネ。私が感じた悪意ってのは神のものなのだろうか?」
倒れた自由騎士たちを汗だくで介抱しているツボミがクローリーに目も向けず尋ねた。
「カミサマ事態に悪意なんてなかったんだけどね。そもそもアレは今やただの力の本流さ。だけど、そうじゃない欲望という意志のベクトルがそれに影響したとしたら?」
「ゲシュペンストが現れたのは……」
シアが眉根を寄せて難しい顔になる。
「300年前だ。そして創造神の体を10に割って使って作られた5柱目の神■■■が消えたのは?」
「300年、前」
「正解だ。この符号に思うことはないかい? そうさ、坤輿を手に入れたい、力を手に入れたい神■■■たちの意志のベクトルが半分そろった。ゲシュペンストは悪意に反応する。そしてその悪意を吸い込んで成長する。この300年の間ゆっくりとそれを行ってきたのさ。結果起きたことは、セフィロトの海から、死者の意識を拾い出して、現世に戻してしまう。坤輿を壊すものを坤輿の外から引っ張り上げることすら可能になったんだ。それは死体を動かす程度の話じゃあない
ああ因みにこの状況がおきてるのはイ・ラプセルだけじゃないさ。ヴィスマルクも、ヘルメリアも、シャンバラでも、パノプティコンでも起こっている。まあ本土決戦があったイ・ラプセルほどではないけどね。人の死が多いところにアレは発生する。最近はどうにも働き者になってるみたいだ」
そこまで言うとクローリーは一本指をたてる。
「さて、本題に戻ろう。坤輿の理の構造をひっくり返すということは、しいては、坤輿自体をひっくりかえすことに繋がる。それが起きるとどうなるか?
原初の海のウル・ナンム
ウトナピシュテムの鳩は帰らず
アララト山に至る舟は失われ
ゴフェルの木々は砕かれた」
クローリーは詠う。
「だから急いでよ。坤輿に抗うには同じだけの力が必要だ。残る5柱を1柱に変えてタ■■■にして、その坤輿を飲み込む悪意に対抗しなくちゃ、みんな『海』にかえってしまうよ」
いつものようにヘラヘラと冗談をいうかのように笑う道化師の目は少しも笑ってはいなかった。
「ならば、答え合わせだ! ゲシュペンストってのはあくまでも現象さ! 台風みたいな、災害的なものだ。でも、災害と違うのは――」
●
死人、屍人、屍。
死者がセフィロトの海に溶けるその日まで。安らかな眠りのためのその場所。イ・ラプセル中央地下墓地はその日、眠りを妨げられた死者たちで溢れていた。
ゲシュペンスト。幽霊列車が通れば不幸が起こる。死者が起きる。まことしやかにささやかれるその現象により目覚めてしまった彼らは、生前に残した思いを遂げようと還リヒトとなり、よみがえる。
彼らは王の号令により、敵国と戦う戦士となり王城を目指す。
彼らはしらない。ヴィスマルクの兵は去ったことを。
彼らはしらない。自らが戦う相手がいとしい母国の民であることを。
「元の王様まで還リビトになっちゃうなんて困ったもんなんだぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は大きな耳をばたばたとさせて東奔西走する。なんせこの大量の屍人を相手にするには自由騎士たちも無茶を強いられる。だからこそ、彼女は自分にできるたった一つを十全にこなそうとする。戦うことは苦手だ。けれど、戦う人をフォローすることはできる。
それはこの場において、とてもとても大切なこと。
屍人は叫ぶ、希求する。この国の平和を。たしかに平和など遠い話だ。今は戦争中である。 だけれども、彼らが憂うヴィスマルクの軍は退いたのだ。死者が戦士として立ち上がる必要はない。
「先王様! ヴィスマルクはもう、いないんだぞ! それにこの国はいまいい国になってるんだぞ! 満足してる! だからゆっくり眠るんだぞ!」
先王に届かぬかもしれない声。それでもサシャは叫び、自由騎士たちを癒した。
サシャをはじめドクターたちの支援を受け、前衛たちはこの先にいる王と英雄たちに向かう自由騎士を到達させるためにその血路を拓く。
『学ぶ道』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)は後衛に配置し、二連の薬莢を愛銃から排出する。
奥に行くものへむかう敵を排除し、牽制するために。
自分たちより還リヒトのほうが多いのはわかっている。後衛にいたとしても危険は変わらない。それに、カタコンベの最奥に坐する王の威光によって、屍人たちは通常よりも強化されているのだ。どうしても焦りはでてくる。
「きゃっ」
落ち着いているはずだった。しかし不如意というものはいつでも起こるもの。還リヒトの爪に肩口を大きく抉られ……ると思った。
「大丈夫ですか?」
サブロウ・カイトー(CL3000363)が巨大な太刀でレベッカを狙う還リヒトを切り伏せる。
「あ、ありがとうございます」
「墓に埋められるはこの国の先祖。それは親も同然です。親が子を害し、子が親に刃を向けるこの状況。あまり見たくないものですね。だから僕が、代わりにやっちゃいましょう! なあに、慣れています」
言って、笑んだサブロウは次の得物を狙いに瞬歩の足取りで最速の一撃を還リヒトに食らわせた。振り切った刀の反対側から別の還リヒトがサブロウの隙を狙う。
タァンと、サブロウを狙った還リヒトをレベッカの二連の銃撃が牽制する。その銃撃にのけぞった還リヒトの隙を見逃さずサブロウは切り捨てた。
「大丈夫ですか?」
同じ質問が返されたことにサブロウとレベッカは顔を見合わせて吹き出す。こんな場所だというのに。
「ありがとうございます。ところで見事な銃撃だ。僕もお気に入りの拳銃があるんですが、これがびっくりするほど当たらないんですよ。コツなんてありますか?」
実は刀を持つサブロウの好きな武器は意外なことに拳銃なのである。手に入れた拳銃は大切になんども分解しては直している。だというのにその射撃能力は絶望的なのである。だからレベッカの美しい銃撃に見とれてしまう。
「えっ、え? って今そんな場合じゃないですよ!」
「それはそのとおりだ、では終わったあとにでも教えてください」
「え、え? もう! わかりました。今は私が後ろはフォローします。前はよろしくおねがいします。この状況を終わらせましょう!」
「ガッテン、まかされました!」
『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は体躯を柳のようにしならせ、還リヒトからの打撃をいなす。
「これは持久戦になりそうね」
「早速弱音でござるか?」
ミルトスのつぶやきに近くにいた『一刀両断』ムサシマル・ハセ倉(nCL3000011) がにししとわらいながら尋ねる。
「いいえ、いいえ、むしろやる気になったわ。私はね、死して尚、この国のために戦おうとする精神は立派だし尊敬もするわ。だけど、それはもう妄念でしかないわ。そんなの悲しすぎる。だからね」
ミルトスは片方の拳を手のひらにうちつけ、不敵に笑う。ガントレットが金属音をたてる。
「なんとも勇敢なもんく殿でござるね。では拙者あちらを。後ろは任せたでござるよ!」
「ええ」
「では」
「一刀両断!」「絶ちます!」
彼女らになだれ込む還リヒトは一点収束された衝撃破でカウンターを受け、膝をつく。
「陛下たちに向かう皆! こっちはまかせて! 壁が薄くなったらそこで突っ込んでいって!!」
大きく拡張された音声は遠く響く。奥に向かう者たちが頷く気配があった。OK、それでいい。じゃあ私は任された道を拓こう!!
多少のダメージでは王の回復が打ち消してしまう。なんとも厄介な話だ。それでもやり遂げなくてはならない。そんな絶望的な状況であるのに体の奥底から闘志がわいてくる。それがミルトスという修道女の強さ。
眼の前の還リヒトにミルトスは拳をぶつけながら祈りを捧げた。
「彼らに罪科は無く、主は全てを許したもう。その魂に、安寧がありますように」
「おらアーウィン! ビビってないか!? 怖がってベソかくなよー!」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は目の前で拳を振るうアーウィン・エピ(nCL3000022) を煽る。
その青年は元捕虜であることを気にして必要以上に気負い無理をする傾向にあることは戦い方でわかった。
「うっせー! 怖いわけねーだろ! クソ医者! お前は下がってろ! 紙装甲」
「へっへっへ、元気だなぁ。アーウィン・エピ。精々がんばれよ、怪我をしたらこい、私の薬はしみるぞぉ」
からかいながらもツボミの目は医学知識を活用し、怪我人を追っている。あいつはまだ大丈夫、あいつ、そろそろやばいな。トリアージして効率的な治療をするのが彼女の役目だ。
「アーウィン、といったか、前線での経験は多いと聞いた」
さり気なくアーウィンの隣についた『女傑』グローリア・アンヘル(CL3000214)は彼に声をかけた。
「ああ、えー、グローリアだっけ? いい動きしてんな、あんた。ああ、前線は理想郷だぜ! なんせ死ねば自由だ!」
「おい、アーウィン・エピ! 死んだらセフィロトの海に飛び込む前に引き戻して、人工呼吸でお前のふぁーすとちゅうを奪ってやるからな!!」
「前言撤回。どうやら自由になる前に口うるさいクソ医者になじられて拷問付きで引き戻されるらしい」
そんな子気味のいいやり取りにグローリアの広角が緩む。
「緊張はしていないようだな。ではアーウィン、私は君に追従する。好きに動いてくれ」
「おうよ、女傑様のお心のままに」
いって飛び出したアーウィンが相対する敵の後ろに瞬時に回り込むと一切のロスをかんじさせることのない一撃で両方向からの打撃を同時に叩き込めば、還リヒトはその動きを止めその場から消滅していく。
「ひゅぅ、やるな、女傑様」
「1対1で時間を掛けるより、少ない労力で多くを倒すほうが効率が良いだろう」
「え? ああ、ああ、そうか、これが力を合わせて戦うってやつか……」
彼にとって戦闘とは個人で行うものであった。しかし今はそうではない。それをグローリアに気付かされた。口の中でありがとうの言葉を発しようとするが、なぜだか照れくさく感じる。
「おい、アーウィン・エピ! 後ろ後ろ」
ツボミがハーベストレインを全体にふりまきながらよく通る声で警告する。彼以外にも、彼女はその洞察力でもって戦場を俯瞰し指示をだしていく。その指示は明確で何人もの自由騎士の動きが目に見えて効率的になっていった。
「こら貴様ら! 寝るな! 死ぬな! もっと働け!」
そしてツボミは感じている。この状況を作った何者かの悪意を。
こんな状況じゃ前衛も後衛もないですね。
冷静に状況を判断した『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は口の中で舌打ちする。
(こだわるよりは、動きながら撃つほうがよさそうですね。幸いドクターは数人いますし、とはいえ体力の温存は必須ですので当たらないに越したことはないのですが……動き続けていれば囲まれることはないでしょう)
彼女はドクターの側を付かず離れずの距離を保ちつつ、氷の棺をいくつも生成する。
フリーズの状態異常で足止めができれば別の個体に向かう。そうすれば全体的な攻撃は多少は目減りするからだ。
それにしても――。
アレイスター氏が言っていたゲシュペンストが成長しているというのはどういう意味なのかが気になります。
どこかにいるのでしょうけど、見つかるのであればクロウはしませんね……。クローリーだけに。
ともかく、彼が今まで関わってくる案件には神が関わっていた。だとすれば――。
(ミッシェル陛下には生前ご厚意をいただきました。彼はこの国を常に憂いていた。この国を愛していた、だというのに……!)
還リヒトになったとはいえ、その手でこの国を蹂躙してしまっていることが我慢ならない『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)は、愛銃を構え二連の弾丸を打ち続ける。
「もう一度、先王陛下に安らかな眠りを! 我ら自由騎士団たちが、この先の国を護ります!」
「死んだ後もこき使われるなんて死人も楽じゃないんだねえ。通商連でもここまでブラックなことはあんまりやらないと思うよ?」
うんざりとした声で『もてかわハーレム?マスター』ローラ・オルグレン(CL3000210)が、一度きれた息吹をヒミツの宿帳から再度発動する。
「ところでローラに還リヒトよってきてない?」
還リヒトは彼女のモテカワオーラに引き寄せられるように近づいてくる。
ジークベルトはローラに近寄る還リヒトをダブルシェルで牽制すると、彼女の前に立ち防御の構えに切り替える。
「魅力のある方は大変のようですね、自分がお守りいたします」
「でしょー、モテるってたいへんなんだよぅ。それは兎も角大怪我なんかはさせないわよ、しっかり働いてね」
「はい、ご随意に」
騎士然としたジークベルトの上品な所作は貴族を思わせローラは苦手意識に怯むが、自分を守ろうとしてくれるのはわかる。それに、口では憎まれ口を聞こうとも彼女の情は篤いのだ。自分を守る彼の膝をつかせてはならぬと思う。
「では、先鋒はこの私が引き受けます。防御だけではままなりませんからね」
『ノンストップ・アケチ』タマキ・アケチ(CL3000011)からはいつもの――平たくいえば変態っぷりは鳴りをひそめている。
軍服に身を包み、バスタードソードを構えるその姿は紛れもなく歴戦の戦士である。
彼は目を細め、ローラとジークベルトの前に立つと周囲の敵をオーバーブラストで蹴散らした。
「お見事です、アケチさん」
ジークベルトは吹き飛ばされた還リヒト達の間隙を狙いダブルシェルでの援護攻撃を続け、ローラはそんな二人の回復を続けていく。
「にゃふふ~、ミケの出番だにゃ~♪ ミケも手助けするにゃ~ 忙しいときは猫の手もかりたいにゃ」
マナウェーブの特殊な呼吸法で、体内の魔導回路をフル回転させながら『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)はジークベルトとローラの後ろからひょこっと登場すると、空気中に存在する水分を凝固させ死の氷の棺を展開させ、一体の動きを鈍らせる。それを見逃すタマキとジークベルトではない。目配せしあい、迅速にその一体を連携攻撃で浄化し動きを止める。
「なかなかナイスなチームだにゃ~♪」
あどけなくも純粋なミケの言葉に彼らは頬を緩めて、すぐに真剣な表情に戻る。
まだ戦いは始まったばかりだ。騎士たちが守るべき姫は二人に増えたのだから。
「とりあえずやっこさん達を抑えない事には何も出来やしないねっ」
トラットリアマールのおっかさん。トミコ・マール(CL3000192)は腕に力こぶを浮かべその言葉を奮起の言葉に変え、鉄塊を振り上げ、目の前の還リヒトを打ち据える。力強いその攻撃は明確な衝撃でもって還リヒトを吹き飛ばした。
「このていどじゃアタシは倒れないさ! アタシの力見せてやるよっ」
普段のトラットリアでの穏やかな様子とは裏腹のその破壊力は凄まじく、還リヒトを次々と浄化し、その動きを止めていく。
そんな彼女を危険であると認識した還リヒトたちは彼女を囲みこんでいく。それが彼女に誘導されていたのだとは気づかない。
トミコは集めたゴミをまとめてちりとりで集めるかのように、周囲の還リヒトをオーバーブラストで吹き飛ばした。
「さあ、アンタらもがんばりな! がんばった子にはおいしい料理をごちそうするよ!」
「前の王様だか何だかしらねーが、今いる国民を泣かせてちゃ世話ねーぜ! ……とにかく、わんさか出てくる還リヒトを倒していけばいいんだな」
デュエルセンスびこーん! びこーん! 『おにくくいたい』マリア・スティール(CL3000004)のテンションはマックスだ。
マリアは先王に向かう者たちのぶっこみ隊として、その道を拓こうとしていた。しかし、方向として先王の墳墓がある場所はわかるが、具体的な方向は還リヒトに阻まれ分かりづらい。故に彼女(便宜上)は力をもつ者を感知するという方向性で直線距離を探った。
「あっちだー! おーい! ムサシマルのねーちゃん、アーウィンのあんちゃん! ぷりーずぱうわぁ~!!」
彼女(便宜上)は二人を呼びつけると、柳凪による脚さばきで最前線に突っ込んでいく。
「おい、マリア! お前めちゃくちゃするなよ!」
「わわー! まさに猪突猛進でござるな! 負けてはおれんでござる!」
「おい、ムサシマルも! ノープランでツッコムな! ドクター! ……ルー! ちょいついてきてくれ! あとクソ医者も!」
「ハイハイ、いいヨ、ムリは禁物ヨ」
「これだけ働かすんだからあとで酒を奢れよ」
マリアの号令で同じように走り出したムサシマルの背中を、『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)とツボミを呼んだアーウィンは二人を追いかけた。その後ろにはさりげなく、グローリアも追随する。ドクター二人は目配せをすると裾をまくりあげ、各々のやるべきことを確認しあうと動きはじめる。
「あそだ。 アーウィンのあんちゃん、コレ終わったら前に教えるって言った釣り場の場所教えるよ。 何で今言うかって? 後の楽しみが多い方が頑張れるじゃん! 決まりだからなー! 前に出てくから後ろよろしくな!!!!!!」
「おい、勝手に!」
当の呼ばれたルーとツボミは置いてきぼりをくらい、ルーはため息をつきながら近隣の仲間にノートルダムの息吹での支援をする。
実質体力値が底上げされたマリアたちは大騒ぎしながら、還リヒトの群れのど真ん中で大立ち回りをしている。
「おいらも助太刀するよーー!!」
ムサシマルとアーウィンの様子をみにきていた『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)も同じように負けてたまるかと虹色の目を輝かせ両手の愛剣、リンクスとオセロットを携えラピットジーンで速度を嵩上げすると、アクセルを燃やし飛び込んでいく。
「カタコンベって暗くてジメジメして、嫌だなあ! 早くお日さまいっぱい浴びたくなるよ! そんでそんで、かったらマールのおばちゃんのトラットリアで唐揚げいっぱいたべるんだー!」
そんな様子で振り回されるアーウィンをみて、『いつかそう言える日まで』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)の広角が上がっていることに本人は気づいているのだろうか?
ボルカスは雄々しい叫び声を上げると、先行した彼らと共に走り出す。
状況は最悪だ。倒しても倒しても王がいる限り屍人は次々と蘇る。これは長期戦で消耗戦だ。しかし消極的に戦っていては埒が明かない。
全てをとめられはしないとわかっているが、だからといってそこでしりごんでいたら味方を通すことはできない。ならば傲慢にいこう。できないなんて思わない。全てをとめてやるさ! 今を生きるイ・ラプセルの民のために俺はいくらでも傲慢で自信過剰な騎士になろう!
(これは守るための戦いだ。今を生きるイ・ラプセルを)
そして――。
「かつての勇士たちの名誉を、あの忌まわしい汽笛から守るために!」
ボルカスの巨大な剣が地面を削り砂煙を上げ、目の前の還リヒトに振り下ろされる。
「おー、ずいぶんと派手ネ。アタシもお手伝いするヨ」
近隣の自由騎士のエンチャントを終えたルーはボルカスに叩き切られ、虫の息である還リヒトを鉄山靠で浄化し、その動きを止めていく。
「ボルカスサンはそのまま思う存分戦ってヨ。アタシはフォローしてくネ!」
「すまん、かたじけない!」
「いいヨいいヨ、こういうの得意ネ」
ルーの目星による気配りは的確に周囲をフォローしていく。戦線において足りない人材があれば呼び寄せ、最適化する。
それは小さくて地味な行動かもしれない。しかし乱戦においてはそんな調整が戦線を支えるのだ。
「ちょっとまずいネ。増援がきてるヨ」
「よっしゃ、やるか!」
ルーの言葉に反応して、『炎の駿馬』奥州 一悟(CL3000079)が走り出す。
「英雄達と戦ってはみたいけど、そりゃまた今度だ! 他のみんなに任せるぜ! 今回は増援退治だ!」
その気合は龍氣をもって体を巡る。
眼の前には増援。武者震いが一悟を震わせる。
囲まれないように、集団の端を狙い移動しながら鉄山靠を使い集団を撃ち抜いていく。
「助太刀します!」
柳のような足取りで一悟の側につくのは『いっぽいっぽすすむみち』リサ・スターリング(CL3000343)。
「おう! 囲まれんなよ! 広いところに誘導するんだ。あいつらは生きてるものに反応する」
「はい! わかっています!」
震撃をふるいながら、リサは元気よく答える。くるりとカールさせたしっぽが緊張に震える。
(きつい依頼が続くけど、みんなと一緒なら何だってやり遂げることができるはず)
少女はまっすぐ前をむく。この絶望の向こうに必ず勝利と希望があることを疑わない瞳で。
一悟はいつの間にか目から涙をこぼしていた。痛いからではない。そりゃあ、殴れば拳は痛い。相手だって痛みを感じる。それが戦いというものだ。
けど彼らはもうその戦いの痛みさえ忘我の果てなのだ。それが無性に悲しかった。
彼らはこの国を愛し、故にこの国のために還ってきてしまったのだ。それは強い愛国心。尊敬する。ありがたい。そう思う。
けれど、死者はあくまでも死者なのだ。生者と死者は相容れない。事実彼らは、守るべきものと戦うという本末転倒な状況に陥っている。
だから彼らのためにできることは、自分が彼らのために涙を流し、そしてもう一度安らかな眠りに導くことだ。
一悟の魔導力は残り少ない。まとめて倒せないのは仕方ないが、初段の震撃であれば、魔導力を気にせず撃ち続けることはできる。
「いくぞ!」
「はい!!」
ルクタートルの少年少女の瞳はこの絶望的な状況においても曇ることはない。
――ああ、ああ。会えるかもしれない。
『胡蝶の望み』誡メ・巴蛇・ヒンドレー(CL3000118)の足取りは墓地だというのに軽い。煙管をくゆらせながら、胡蝶は気まぐれに羽根をはためかせる。
夢見る蝶の足取りの女を、『分相応の願い』咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)は追う。彼女が何を思ってこの鉄火場に向かったのかはおおよそ見当はつくが、こんな危険な場所にまで足を伸ばすほどに会いたいと思える客がいたとは思えない。そもそもにおいてこの地下墓地に埋められたかどうかなど、知るよしもない。
それでも咎メは構わない。龍氣を巡らせ、体内の氣の流れを調整する。姐さんが望むこと。それは自分が望むことと対して違うわけではない。
「やれやれ、護衛の苦労も考えて貰いたいんだけどねぇ」
誡メの手前に立ち咎メは愛しい胡蝶に傷一つつけるまいと構える。
(還リヒトは神の魂の循環を司る機構の歪みでしたか? 幽霊列車が循環を歪める。その歪みが姐さんをここに呼んだ。なぜだか、気分が悪い)
ふと、ふと胡蝶がふうわりと飛び立つ。お目当ての華をみつけたように。
大過から幾月。顔を見せなくなった客がいた。別にそんなことはよくある話だ。思い入れなど対してない。それでも。眼の前には還ってきたその人がいる。自分は墓参りをできるような身でもなければ縁もない。それでも、屍人であれば、現世と縁が切れた屍人であれば――。
「主様、一つお願いがござりんす」
蝶の手が伸びる。屍人は答えない。
蝶が蜜を吸うように屍人の首筋を誡メの唇が伝う。その動きがあまりにも美しくて自然で、咎メは動けずにいた。
ふと、我にかえった咎メは急いでその二人の間に入り込み距離をあけると、屍人を一心不乱に破壊する。人を壊すというのは悪くない。咎メはなんどもその拳を振り上げ下ろす。人を壊すのが悪くないからそうするのだ。そう言い聞かせて。自らの妬心を覆い隠すように。
「封豨、かえりんす。はようしなんし」
その様子を見ていた誡メが突如踵を返した。
「姐さん!?」
「かえりんす」
誡メは咎メを振り返らない。
咎メは誡メのあとを追いかける。
●
「自国を愛しているにも関わらず、自国の民を傷つけるなど彼らも望んではおらんだろう」
ウィルフレッド・オーランド(CL3000062)は無言でガトー・ミハイロフ――実の祖父を無言で見つめるフレデリック・ミハイロフ(nCL3000005) に声をかけた。
「ああ、その通りだ」
フレデリックは短く答える。
その渋い横顔をみて『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は思う。『おじいちゃん』と戦うのはきっと勇気がいるだろうと。だから自分がフレデリックを応援しようと両手を握りしめる。
「フレデリックおじちゃん、ナナンがいるよぉ!」
その言葉がナナンもまた奮起させる。
「はは、こんな小さい子に心配されているようでは俺も焼きがまわったようだ。大丈夫さ、あれは還リヒトだ。祖父ではないよ」
フレデリックはナナンの頭を撫で、大剣を掲げるとにぃと笑ってみせる。
その様子に大丈夫のようだとウィルフレッドは広角を上げるとミズーリ・メイヴェン(nCL3000010) に声をかけ、回復の準備を整えていく。
「なんと! バナナの皮がそこに!」
ナナンは将軍の近くにバナナの皮を撒くが、ガトーにはすぐに対応されバックステップで躱し、銃撃でバナナの皮を弾きとばす。
一手を使わせたとなれば上々ではあるが、これ以上は意味がないだろう。近づいた前衛が足を滑らせたら目も当てられない。
「いくで!」
ラピットジーンで速力をあげた『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、機械の足から蒸気を噴きだし、加速しながらガトーのブロックに入る。
「死んでもうてからもお国のためって頑張ってくれるんありがたいんやけどな、味方も敵ももう判断でけへんのやったらあかんやん?」
ショーテルを振り上げ速度をのせた斬撃をガトーの脇腹に食らわせる。
「あの人、将軍さんの孫やで」
『王の邪魔をするものは全て、敵である』
王が立ち上がった以上は敵が何者であれ臣下として戦う。そういった意志のもとで、ガトーは動いている。
アリシアの言葉にガトーはけんもほろろに、全周囲を焼く銃弾の雨を降らせた。
「おおっと! ガトーの旦那も容赦がないな!」
ミズーリの回復が少々たりないと感じた星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はハーベストレインで援護する。
彼の、バトルスタイルはガンナーである。だが、彼はそのガンナーのスキルのみにこだわることもなく、数々のスキルを有している。器用貧乏といえるかもしれない。しかしその器用さはこういった一手足りないという事態において、専門家ではないとはいえ、便利に作用する。
「如何に国に貢献した優れた将軍と言えども、民に仇為す存在となったのなら討たなければなりませんわ」
『疾走天狐』ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)もまた体性能を引き上げ、速度でもって攻撃を重ねていく。
「過去にどれだけ国に貢献していようが『今の』俺達の国にとっては不要物だ。……残念だがな。俺たちの国は俺たちが守る」
主人であるガブリエーレを援護するように『風詠み』ベルナルト レイゼク(CL3000187)のヘッドショットがガトーの耳もとをかすめた。
「不要に、生前の名誉を汚さないように、私達で討ち果たして見せますわ!」
なんとも『家名』だとか『名誉』だとかを気にする主人であると思う。ベルナルトにとってはそんなものは猫の餌にでもしてしまえと思うほどどうでもいいことだ。
家名がどうであろうと自分は自分でしかない。
しかし、前のめりなお姫様(パトロン)にとっては何よりも大切なものだということは理解している。
であれば。家臣であればそれをも守るのが役目だ。
「おーい、パトロン様。すっ転ぶなよ!」
とはいえ、口から出てくるのは皮肉。もちろん手元は姫君の援護射撃を続けている。
「転んだりなんてしませんわ!」
いうが早いか、足元をガトーに撃たれもつれさせて一回転したガブリエーレはバツの悪そうにベルナルトを睨んだ。
ベルナルトは見ないふりをする。
(なんだか、子供扱いされてるようなきがするわ。うちのほうが年上のはずなんやけど!)
「このような形でまたかの方々を拝見することになろうとは」
『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は苦し気に目を伏せる。先々代将軍、そして英雄ドミニクに会ったことはないが、教科書で描かれるその活躍は、サブロウタにとっても輝かしいものに見えたのだ。
両雄の攻撃は苛烈だ。自らの力を総動員して皆の回復を続けるが、息が切れてくる。
ふと、彼はおもいたつ。
メセグリンとは自然に存在する無形のマナを集積し癒しの力に還元する力だ。その活性化された力を還リヒトに適用すれば……!
思い立ったそのアイデアを実験するために彼は将軍に向かいメセグリンを発動する。
しかし、何もおこらない。マナを集積することはできた。術式も完璧だった。なのにもかかわらずだ。
そも、癒やしの力は無形の魔力であるマナを生命の体内に巡るオドを介し癒やしに還元するというプロセスを経ている。故に死者となりその循環するオドを失ってしまったものに発動することはないのだ。
実験は失敗に終わった。しかしできないということがわかるということもまた必要なことである。
「フレデリックの旦那にゃ悪いが……やっぱ強敵との戦いには血が滾る性分でね!」
暗闇に烟る墓石から転がり出てきた『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)が二連の射撃でもってガトーを牽制する。
「いいや、それくらいのほうがイキが良くて安心するぞ」
「そーかい、じゃあ、遠慮なく。不謹慎でもなんでも、こういった撃ち合いってのは興奮しちまうってもんだ!」
フレデリックの返事に舌なめずりをしてアンが答える。
強敵との戦いに血が騒いでいるのは、なにもアンだけではない。『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)も同じくだ。
彼はガンナーとしてガトーのその動きをこれから先への足がかりにしたいと思いその一挙手一投足に目を向ける。彼は移動しながら、ダブルシェルで牽制をかけながら足元を狙う。
「将軍さんよ、その程度かい? 参考にできるほどではないな。本気だしてくれよ!」
『小僧が……ちょろちょろと!』
ガトーの構えが変わった。銃口が足元に向けられる。それは牽制のための動きではないことがわかる。
きた、とザルクの感が告げた。直死の感が騒ぐほどではないが、危険が迫っていることが、ガトーから向けられる殺気でひしひしと感じられる。
「お前ら! よけろ!」
周囲の仲間に声をかける。まあ、かくいう自分は避ける余裕なんてないんだけどなと自嘲し、不可視の魔弾の制圧術が自らの足元に展開されていく。
貧乏くじではあるが、気を引けたのなら上々だ。不可視の散弾は自らを縛っていく。ずん、と体が重くなる。動けなくなった自分に狩人の目が向けられているのがわかる。
アンはこりゃまずいと、牽制のダブルシェルを撃つが、狩人の目はザルクを狙ったままだ。
タァンと高い銃声が響き、ザルクの腹部から大量の出血が吹き出す。
「ザルク!?」
やけに遠くに味方の声が聞こえる。
「くそっ、こんなとこで死ねるか……!」
ザルクは英雄の欠片を削り魂を引き寄せる。何かが失われる感覚がある。だけれどもやけに感覚だけはシャープだ。今ならできる気がする。震える手で大型口径銃を構える。ええいくそ、照星が合わない。ブレる照星にイラつくが大量出血する腹部を抑える手をグリップに添えればなんとかあわせることができた。腹部から血が流れだし下履きに吸い込まれていく。ああくそ、気持ちが悪い。出血しすぎた所為か片頭痛も併発している。
いつもより引き金が重い。しかしこの引き金を引きさえすれば……!
ガチリと引き金をひけば不可視の魔弾がガトーの足元に展開された。しかし、その結果を見ることはなく、ザルクは意識を手放した。
ガトーはザルクが放った己が磨き上げたその制圧術によって、身動きが取れなくなっている。
味方がくれたそのチャンスを逃すわけにはいかない。
「一気呵成にいくぞ!」
ウェルスが声を荒げて叫ぶ。仲間が倒れた。その事実は重くのしかかる。早く治療しないと命にかかわるかもしれない。それでも今はザルクが作った好機を失うわけにはいかない。
ウェルスはウルサマヨルを両の手で構える。『巨大な熊』。その名を関した銃は10歳のころから使い続けてきたものだ。まるでテセウスの船のように部品を付け替え整備し今に至るその自らの半身は当時とは全く違うものになっているが、ウルサマヨルであることは変わりない。
彼は照準を合わせ、動くことのできないガトーを二連の弾丸で撃ち抜く。
ウィルフレッドとミズーリ、サブロウタが必死に彼にメセグリンをかけ続ける。彼の体内のオドが失われてしまわぬように。
動けなくなったガトーを、ナナンが、アリシアが、ガブリエーレが、ベルナルトが、アンが、ウェルスが最大火力を叩き込んでいく。
「フレデリック! トドメはお前が! お前が祖父を浄化してやれ」
ウィルフレッドが叫ぶ。
フレデリックは、頷くと口の中で「やっぱじーさんは強かったよ」とつぶやき、バッシュを祖父に炸裂させる。歴戦の将軍、ガトー・ミハイロフの動きが止まった。
『そうか、私達の戦いはとうに終わっていたのだな』
ガトーは遠い目で自由騎士たちを見つめる。その瞳は、還リヒトだというのに、喜びの意思が込められている。
「イ・ラプセルは生きてるうちらが守っていくから安心してや! 自由騎士団は強いんわかったやろ?」
アリシアがガトーに語りかける。
『そのようだな。なれば老兵は去るのみよ』
「ガトーおじーちゃん、フレデリックおじちゃんに言うことはない?」
ナナンが尋ねるがガトーは首を振ると、最初からいなかったかのようにその場からかき消えた。
●
『我が王のもとにはいかせぬよ、下郎ども』
竜殺しの剣を構え、まるで絵画のように鎧の男、英雄ドミニク・ソクラレスが、王への道を阻む。
「私もいつか竜殺しになってみたいと思ってた!」
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は英雄の覇気にすらおくせずその小さな体で前に進む。
「私はカーミラ! イ・ラプセルが自由騎士! いざ尋常に勝負っ!」
その名乗りを皮切りに、自由騎士たちは名乗りをあげていく。
「どうも。アマノホカリの剣客、清瀧寺幽花です。私は愛国心など持ち合わせちゃいませんが、300年もの時を経て蘇るその執念に興味が沸いたので来ました」
『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は眠そうな目で、しかして鋭く値踏みをする目でドミニクを見やる。
「カノン・イスルギだよ。英雄ドミニクに一手御指南願い奉るよ」
ドミニクの正面に立った『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は左拳を右の拳で包み込む包拳礼を示してから、構えを取る。
「我が名は、ルシアス・スラ・プブリアス! 音に聞こえし竜殺しの英雄よ、お相手願おう!
互いに背負った誇りにかけて、互いの武を競おうではないか!」
わざとらしいほどに仰々しく声をかけるのは『戦場《アウターヘヴン》の落し子』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)。
彼等前にでる前衛たちのその名乗りを邪魔することはなくドミニクは聞き続けた。
『名乗りに返さぬのは戦士の恥であるな。下郎などと罵り申し訳ない。
我が名は竜殺し、イ・ラプセル聖騎士ドミニク・ソクラレス。貴殿らを戦士と見込み正々堂々の戦いを!』
ドミニクは自由騎士たちを戦士と認め、相対する。
『セイリュウジが言っていたな。300年と』
「ええ、貴方はゲシュペンストによって300年の時から蘇ったようですね。何か執念でもあるんですか?」
『ゲシュペン…スト?』
「もしかして、ゲシュペンストが出現したのは300年前だから英雄ドミニクはゲシュペンストを知らない?」
絵本で読んだ憧れの英雄を目の前に『見習い騎士』シア・ウィルナーグ(CL3000028)はその事実に行き当たる。
『蘇り、とは面妖な出来事ではあるが、まあいい。俺が呼ばれたのは戦うためなのだろうよ。貴様らはイ・ラプセルの騎士と言ったな。王は敵国が攻めてきたと言っていたが……』
その反応に違和感を覚えたのは『イ・ラプセル自由騎士団』リュリュ・ロジェ(CL3000117)だ。
「英雄よ、貴方は私達を敵国だとは思っていないのか?」
『イ・ラプセルの騎士と名乗ったのはお前たちだろう? 嘘をついているとは思わぬよ』
明らかな意志と思考能力を有しているように思える英雄は呵々と笑う。還リヒトとはその人物であって、その人物ではない。しかし、かの英雄は、そのよみがえった、英雄の仮初の器に英雄本人の魂を宿しているようにしか見えない。
かの魔術師はなんと言っていただろうか? ゲシュペンストの成長。それは能力の拡張を指すのではないのか。
300年も昔に遡り、残した思いを引きずりあげるほどに。
「聞いてみたいものだな、英雄ですら抱える思い残しってものを」
ルシアスが尋ねる。
『思い残しか。そうだな。その時の王を俺は守りきれなかった。竜殺しと呼ばれてはいてもそんなものさ。故に、どの時代の王だとしても、王のもと甦ったのであれば王を守るが我が本懐よ』
「その王様が間違えていてもですか?」
『飢えた白狼』リンネ・スズカ(CL3000361)が耳を揺らしながら確認をする。
『ああ、そのとおりだ。イ・ラプセルの騎士として、王に忠誠を誓っているゆえにな』
「王様の間違いを糺すのも忠臣のしごとだよ! それにイ・ラプセルの騎士同士で戦うのでいいのかな? そりゃ私も戦いたいけど! 私が竜に届くか聞いてみたいし!」
カーミラがぴょんこぴょんこと跳ねて疑問を口にする。
『まさに、俺も同じさ。にわかには信じれんが300年の時を経たのだろう? 300年の時を越えたイ・ラプセルの戦士と戦うことができるなど、僥倖だろう? この瞬間だけの泡沫の夢であったとしてもな』
「ああ、この人、割とバカなんですよ」
カスカが呆れた声で言う。
「それでもいいと思った私もまあ、そういうことでしょう。見せてくださいよ。竜を屠ったその剣を」
刃鳴りをあげカスカが抜刀する。
『さあ、いざ尋常に勝負!!! 容易に俺を超えて王に向かうことができると思うなよ』
こい、と英雄は告げた。その叫びは弱体化を伴い相対する全員を打ち据える。
「だてに英雄ってわけじゃないな」
浮遊状態を保つリュリュは即座に戦線を立て直すためにハーベストレインを展開する。
「スズカ!」
「はいな」
リンネもその呼びかけに応え、ノートルダムの息吹を展開し、自由騎士たちを支える。彼らに攻撃手段は少ない。しかしアタッカーたちを支える土台というかけがえのないものが彼らでもあるのだ。
「申し訳ないが、あなた達はここにいるべきではない。それでも、本でみた英雄に会えるというのは心が躍るよ」
リュリュはできることなら間近でその絶技をみたいとも思うがそうもいかない。
「あなたはカノンの劇団でも、その逸話を上演したことがあるよ!」
『ほう』
「すっごい人気がある演目なんだ」
カノンは拳を固め震撃を連打する。英雄はすいすいとそれをよけるがそれすらもカノンはうれしくてたまらない。
「だからね、本人と手合わせできるのは役者としても、格闘家としても光栄だよ」
ガキンと音を立ててカノンの拳が英雄の胴鎧をとらえた。やった、と思った瞬間吹き飛ばされるがくるりと宙返りをして着地する。
すごい! すごい! 英雄ってすごい!
カノンは傷だらけだ。しかしその瞳に曇りはない。当たらなければもう一度、二度三度と打ち付ければいい。
観察によってある程度の動きを理解したルシアスは腰を落とし吹き飛ばしを耐える。
「我らより背を向け逃げるは武名がなくぞ!」
ルシアスの挑発に、ドミニクは快活に笑う。
『安い挑発だ。貴様らのような騎士がこの場にいる。逃げようものかとは思うが……いいぞ小僧。その挑発に乗ってやる』
ドミニクは剣を構えルシアスに向かい挨拶をするかのようにバッシュを炸裂させた。
「……っ!」
ただのバッシュだ。なのに英雄が使うそれはルシアスの体力を一気に削る。口元からは一筋の鮮血。彼はその鮮血を片手でふき取り白い手袋が朱に染める。彼はひるまない。まっすぐに、まっすぐに、己のできる全力のバッシュで応えればドミニクの笑みが深まった。
ふと、ドミニクにカンテラの炎が投げられ彼は小手のついた腕でそれを払う。その死角から飛び出した、リンネの暗殺針がきらめく。彼女は騎士ではない。騎士道などくそくらえだ。
暗殺針が鎧の継ぎ目を狙う。侵入角が浅く急所をえぐるには少々力不足だった。しかしそのシャープな技術は己の心身を極めてゆけば、精彩が増すことは間違いない。
そのフェイントに動くのはリンネだけではない。
パァン!
高い破裂音が響く。十分に速度を乗せたカスカの居合がリンネの逆側から弾けた。
『アマノホカリの剣術か』
明確なダメージがドミニクを襲う。
「貴方の執念に報いたい気持ちは私にもありますが……生憎と貴方の時は300年前から永遠に止まっています」
『その通りだ、剣士よ、しかし俺はよみがえった。セフィロトの海よりな』
「でしたら、この神殺しカスカ・セイリュウジが竜殺しをもう一度屠りましょう。神殺しが竜殺しの技に遅れる道理はありませんから」
剣筋に宿るは執念。目の前の敵を断つための妄執。それが彼女の剣には宿っている。
『ああ、くるがいい、迎え撃つさ』
シアはそうだ、と思いつく。
竜なんて本でしか見たことはないけれど。
本で見た竜を幻想で作り上げる。
「どうだ!」
『ほう、俺が倒したスチームドラゴンではないか。絵画にも描かれていたあれだ。面白いが、ディティールが少々甘いな。あの背中の蒸気孔、実はもう少し小さかったのさ。しかし気にいった。故に』
ドミニクは上段に剣を構える。空気中の魔力(マナ)が収束し、剣身が青白く染まる。
『ハッ!』
短い掛け声と共に振るわれた剣閃は頭頂から一気に幻想の竜を捉え引き裂きかき消す。
『本当の竜であればこれほど手軽に倒せはしないがな』
屠竜斬。その英雄の英雄たる剣技をこの場の全てのものが手に入れようと目を凝らしていたが、その真価を見定めることはできずにいた。
カスカはドミニクが剣を振りぬいた瞬間を狙い全力の剣閃をきらめかせる。彼の剣技を持っていくことはできなかった。しかし、必殺の剣技を見せてくれた英雄への最大の礼儀がこの剣戟であると口よりも雄弁に語る。
「どりゃー!」
カーミラは愚直に、ただ愚直に英雄に拳をふるう。全部、全部自分の全部を。そして目の前の竜殺しの剣を受ける。体中は傷だらけの満身創痍だ。
一度は倒れる。拳が使えなければ足をつかえばいい。足が使えなければ自慢の角で頭突きをかませばいい。その攻撃は彼女本人を表すような直線だ。よけようと思えばよけることも可能だろう。だが竜殺しはその攻撃をあえて受ける。それが武人としての誠意だと。
「我流・神獣っ! 撃!!!」
それは両親が使っていた神威の技。両親ほどの精細さはない。型も中途半端、見様見真似の偽物だ。しかしその技にかける彼女の想いは紛れもない、本物である。
『いい技だ』
ドミニクが血を吐く。
その言葉が聞こえたか聞こえないかのところでカーミラは意識を手放した。
英雄の姿は最初より存在が薄れているようにみえる。
リュリュが今だと好機を告げればルシアスがバッシュを叩き込む。
「イ・ラプセルは現王のエドワード王が守るって! その王を護るのは私たち自由騎士団だよ!! ボクたちはまだ弱いかもだけど、絶対絶対強くなるから! だから安心して! ボクたちに任せて!」
シアもまたまっすぐな全力のヒートアクセルを憧れの英雄の真正面から打ち込む。
シアはまだ見習の騎士だ。だけれどもいつか立派な騎士になると思っている。
その一歩として、この戦いに勝つことで自分たちの力を示したいと思う。そしてなによりも英霊たちに安心してもらいたいのだ。イ・ラプセルには立派な騎士たちが王を護るために、国を護るために存在しているのだと。
『あとはまかせたぞ、自由騎士たちよ』
言って、英雄はゆっくりと夢幻の現が溶けるようにかき消えていった。
「うん、ボクたちは立派な自由騎士になるんだ!」
英雄が消えたそのあとを見つめ、シアは誓う。
●
数々の屍人と英雄、そして将軍を抜け、イ・ラプセル先王、ミッシェル・イ・ラプセルの前に立つ騎士たちは15名。
「励め」
たった一言だった。だが、『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)にとってはその言葉はまるで天から授かる啓示のように思えた。自分が騎士として、戦士として、軍人として認められたことがうれしかった。王にとっては任官する大勢の中の一つでしかないだろう。それでも言葉と共に下賜された剣は彼女の誇りだ。
同じく、『血に染まる銃姫』ヒルダ・アークライト(CL3000279)も幼少時、かの王にあったことがある。大きな手でなでられて「アークライトの姫君か。りりしい顔をしている。この国のため立派な騎士になることを命ず」などと、冗談交じりの言葉をいただいた。当時は国のため、なんて、よくわからなかったけど、その言葉に報いたいと思ったことを覚えている。
今は、この三か月自由騎士として戦い、経験を得てきてその言葉の意味が実感ができた。
――アークライト家の者は国を護るべき。
そのアークライトの矜持を果たすために、ヒルダはここにいる。この国には大切な友がいる。それもまたこの3か月で得た大切な経験。
国にヒトがいるだけじゃない。ヒトがいるからこその国であるのだ。
だというのに。敬愛する王は愛しい祖国を蹂躙しようとしている。二人の女騎士にとってそれは何よりも許せないことだった。
「これはこれは前国王陛下、ご機嫌麗しい……のかね?」
アリア・セレーネ(CL3000180)が森羅万象の息吹に己の魔力を同化させながら、挨拶をする。
まあ、麗しいには程遠い状況だけれど。ともあれ目的は大将首だ、拝謁は光栄だけれどね。
アリアは練り上げた魔力で紅い文字を中空に描き放つ。
アリアは先王のやり方が、多少の差別はあったことは否めないが嫌いではなかった。むしろその差別が自分を奮い立たせていたことも事実だ。
『ヴィスマルク兵め……!』
王はダメージをその時点で初めて受けることになる。歯ぎしりした王は赤く染まるオーラを身に纏った。
「こぼれたミルクを嘆くより、残ったミルクを大切にしようぜ。今の王では安心して眠れねえかい?」
先祖の墓石を乗り越え、むしろ足場にしながら、『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)は極彩色のポンチョをはためかせながらラピットジーンで強化すると、その速度のままに最高速の一撃を王にぶつけるが、その防御魔法に阻まれ深く浸透させることができない。
「還ったところで居場所などありはしないぜ、先王」
それでも柊は諦めない。剣閃が仲間のカンテラの光を反射し二度煌めく。その剣技は生きる意志、その剣筋は生き残るための技量。亜人にだってノウブルと同じだけの意志も、意味もある。
「亜人とノウブルが共に手を携えアクアディーネの理想を世界に広める、先王、もうあんたの時代じゃない。見てみろよ! この場所を! 亜人も、混血も、ノウブルも一丸となって戦っている。そこに上も下もない! これが今の! 新しいリアルなんだ!!!」
王錫によって振り払われた柊は地面に激突するがその意志の瞳は曇らない。
「そのアクアディーネ様の理想を体現するのがあなたのご子息だ。 とても立派なご子息に成長されている! 陛下。貴方の治世はもう全て終わったこと。後事は我らに任せ、休まれるがよろしかろう」
アリアは赤い文字を先王に刻み続ける。
先行する二人のの体力を支えるのは『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)と『改竄の願』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)の二人の錬金術師。目配せしながらパナケアを展開する。
「たまたま頼りない現王の力を試す為に環リヒトとして現れたか……もし、先王が正気だったとしたらどうだろうね。 戦場へ出る王と出ない王……。 どちらが国民にとっていいか……。 時代にも寄るだろうけど、興味はあるかな……」
嘗ての王はその武勇でもって、王威を示していた。現在はそのような時代ではない。王が戦闘の旗印にはなっても前線にでることはないだろう。なにせキングが倒されたら、そのチェスボードは敗北だ。
しかし、王が戦場に出れば配下たちの指揮は大きく向上することも事実である。どちらが正しいとは判断することはできないことではあるが……。時代は移ろう。戦場にでて王が戦う時代はすでに過去なのだ。
「死人であるとて先王ならば敬意をはらいたいのですが……こうなってしまってはやむをえませんね」
エミリオは苦笑する。眼の前の先王は先王であって先王ではない。
王の全体攻撃によって負傷者が増えれば、パナケアからハーベストレインに切り替え、対応していく。
「前の王様は残念ながら私は知らないし、関係ないわ。私の王様はエドワード様だもの」
目星によってすぐにみつけた王の姿を捉え、『翠の魔焔師』猪市 きゐこ(CL3000048)はエネミースキャンで王をスキャンする。弱い部分といえる場所はない。イブリース化することで、戦闘力を手に入れたように分析できる。
弱いところがないのであれば、単純な話だ。最大火力でぶちかますしかない。脳筋なかんがえだけれども。大技もなにも、あの王の攻撃はなにもかもが大技だ。いやになる。
きゐこはならば、と血染権杖をふりあげ、カタコンベ内に漂う少々カビ臭さもある水分を昇華させ大量の氷水晶を発生せるとその鋭い切っ先を王にむけ射出する。
ビキビキと音をたて足元から王が凍っていく。一瞬動きをとめるが、それもつかの間。だがそのつかの間こそが前衛に攻める隙をあたえるのだ。
(王が過ちを犯したら命を棄ててでも糾するのが騎士の務め……そうでしたよね、アグウェル先輩)
騎士として、先王に手を上げるという暴挙に対し、清廉なる騎士である『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は躊躇するが、紅蓮騎士の言葉に後押しされる。
「自由騎士アダム・クランプトン! 王にあるまじきその蛮行! 諌めさせていただく!」
『ヴィスマルクの兵が謀るか!』
右腕のカタフラクトの内圧が上昇し赤熱していく。その腕に周囲からマナがサンライトの光りを湛えて吸収されていく。光り輝いた黄金の腕から蒸気を拭き上げその蒸気圧を利用し王を諌める掌撃をアダムは炸裂させた。先王は一歩ふらつくように下がる。
「貴方の治世は良いものだったと思う。だけど……」
ノウブルとはいえ、キジンに対しての偏見がなかったとはいわない。特にアダムはそのほぼ全身がカタフラクトである。カタフラクト化は今ではメジャーな技術ではあるが、全身となると流石に奇異の目で見られることは否めない。
そういった多少の差別はあったとしても、亡命した亜人を奴隷階級とはいえ、国で守るという治世は決して不幸だけではない。
アダムはそれでは許せないのだ。不幸ではない、なんていう消極的な言葉では。
この国を、世界を改革して幸せな、だれもが優しさをもてる、そんな理想がある。だから――!
「今は、エドワード様の治世だ!! 世界の皆がもっと幸せになるための治世が始まっている。僕はその理想を叶える!!! 貴方はもう眠っていい!」
『えど、わーど……ぐぅう、うう、えど、わーど』
息子の名前を呼ばれ、王は振り払うかのような術撃をアダムに放出した。
柳凪を展開し、アダムは王の攻撃に耐える。
「グリ、いくよ」
『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)は相棒である、『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)に声をかける。
横合いからイーイーの身の丈と変わらないほどの大剣から噴出されるオーバーブラストが王を吹き飛ばし、グリッツの射線上に重なる。
「ありがとう、イーちゃん。このチャンスは見逃さないよ!」
ボルトアクション式の支給されたライフルの照星が一直線に重なり王を捉えると、その頭蓋に向かって訓練で培った正確無比の弾丸が吸い込まれた。
パアンと乾いた音をたて王の耳が弾け飛ぶ。
彼等ケルツェンハイムの少年たちは貧民街の孤児院の出だ。現王に治世が変わって生活が楽になった亜人たちでもある。貧しいのは変わらないけれども、少しだけ周りの大人が優しくなった、そんな気がする。気の所為かもしれない。しかし改革とはそういった気の所為の積み重なりで変わっていくものなのだ。
少年たちはそれほど良くはわからなくても、先王の治世に思うことはいくらでもある。しかし、それとは別に還ってしまったことを、それも国民を敵として認識してしまっていることがとても悲しいことだと二人は思う。
「だから、おわらせないと。死んだのに、まだまだ戦争させられてるの、かわいそう。死んだらずっと眠っていればいいって先生がいってた」
イーイーが色素の薄い紫の目を曇らせていう。
「そうだよ、前の王様はセフィロトの海でもう眠っていいんだ。先王様だって国を守ろうとして、こんな状況になるなんて望んでないはずだ!」
少年たちは連携して比翼の鳥のようにお互いがお互いを支え合い、隙を作りその隙を縫いながら攻撃を続けていく。
たまき 聖流(CL3000283)は両手を重ねノートルダムの息吹を付与していく。儚げな少女は祈り、騎士たちを癒やす。
大丈夫、必ず勝てる、そう声をかけながら。
たまきは彼等の国を守るという思いは本物だと思っている。だからこそ、歪められた認識を戻したいと思う。
故に祈り続ける。ヒーラーの教本に描かれる聖女ブリギッテのように。
その宿業の改竄ができるほどに祈ることはできなかったけれども。彼女の祈りはきっと必ず周囲でたおれていく還リヒトたちには伝わっていただろう。
彼女の想いは、伝播し冷えたカタコンベを温めていくような祈りだ。
龍氣螺合で身体能力を高めた、ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)は渾身の拳撃を王に打ち付けていく。
「前王よ。アナタのこれまでの功績はすばらしいものだった」
本当にそう思う。差別はあったが、この国は外敵から守られ続けていた。だというのに。
「これではすべてがぶち壊しではないか!」
守る王が守るべき国を破壊していく。本末転倒にもほどがある。
「アナタの意志は、現王が。そして国民が受け継いでいっている。国というものはそういうものだ」
だから、今は静かに眠りたまえ。
ラメッシュの拳はなんども王に打ち付けられる。王の意志を継ぎ、国を守る。その崇高な思いのために。
先王との戦いは熾烈を極めていく。膝を地につけたものは何人もいる。割れたカンテラが方方で燃えている。
『フェイク・ニューフェイス』ライチ・リンドベリ(CL3000336)はその表情を曇らせていた。先王が還ってしまったのは、なにも国を守るためだけじゃないと思う。多分だけれども。治世半ばで崩御してしまうことで、その責務を息子に押し付けてしまう。それがなによりも心残りだったのじゃないかと思う。
遠距離からブレイクゲイトを打ち込んでいく。ひとつふたつ、みつ、よっつ。そしていつつめ。魔導力が尽き、王の全体攻撃に晒され傷だらけだ。
彼女は近くの墓石の後ろに転がり込む。碑銘は……よく知っている英雄と呼ばれた戦士の名前だ。ライチはその碑銘の戦士に勇気を分けてもらう。
この作戦は王の怒りを買うかもしれない。
それでも、成すべきと感じた。
演説でなんどもきいたエドワード・イ・ラプセルの声。自分にしか聞こえない程度の声で声帯模写をしてみる。たぶん、あの声になったと思う。
先王は私達を敵だと思ってる。だけど息子の声だったら? もしかして届くかもしれない。
深呼吸する。そして立ち上がり叫ぶ。足元が震えている気がする。
「父上!!」
そして駆けだす。声に反応してこちらをむいた王が一瞬ひるんだ。
最初はそうすることで気を引いて皆の攻める隙になればいいと思っていた。けれどそれだけじゃたりない。自分が自分を許せなくなってしまう。だからライチは魂を燃やした。ちょっとばかりの虚栄心があったかもしれない。
力が湧いてくる。でも大切な何かが魂から削れていく気がしてすこし怖かった。その恐ろしさをごまかすために、仏斬と先斬をいつもより強く握りしめ、二連の剣撃を放つ。
王の肩口を抉る。ひとつ、ふたつ。まだ止まらない。みっつ、よっつ。連撃は続く。なんとはなく永遠に続くものに感じた。いつつ、むっつ。
がきん、とそこで剣が止められる。
『エドワー……ド』
息子の名を呟く王の瞳が優しいものになった気がする。宿るのは知性の光り。戻ってきた。けれど。残念ながら私はここまで。魂を削った代償に体が揺らぐ。
地面が迫ってくる。ああ、でも柔らかいものに受け止められた。たしかたまきって子だったかな?
「ライチさん! ライチさん! しっかり」
静かなのによく通る声だったことは覚えてる。彼女の必ず勝てるっていってくれた声だって頑張れる後押しになっていた。
でも、なんだか聞こえなくなってきた。おうさまは、どうなったのかな?
「大丈夫です。気絶しただけだとおもいます。魂を削ってまでムリをして……。彼女は私が退避させます」
いってたまきは、気絶する少女を抱き上げ、後ろに下がっていく。
『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)は戦場にはいない。
マキナ=ギアを立ち上げる。
流石に王に繋がる直接の回線は知らない。だからクラウディアにつなげた。多少の悶着はあったもののマキナ=ギアの向こうには現王、エドワード・イ・ラプセルがいる。
「今還リビトと騎士達が矛を交えました。僕もこれより赴きます。その上で敢えて問いたい。貴方は何をしているのかと」
『君たちの帰りを待っている』
「『長』が居ない今だから糾す。何故貴方は剣を携えない。今敵対している者はこの国に命を賭した人々だ」
『嘗てこの国のために命を賭したのは過去だ。今は還リヒトだ。還ってきてそしてこの国を蹂躙しようとしている。私は王としてそれを止める責務がある』
「貴方はかつての同胞を、この国の為もう一度殺せと命じたのだ」
『そのとおりだよ。現王として国を害するものは放置はできない。だから命じた』
「ならば貴方が今!父王の首を掲げずして何とする!!」
『君は、私がそれをできない臆病者というのかい?』
「友の、祖の、共に生きた民の亡骸に刃を突き立てよと貴方は命じた。両手を隣人の血で濡らせと。その貴方が、己をこそ血で穢さずして何が王か! 優しき王よ、僕は臣として諫言を送る! 甘いだけの王に、勝利などない!!」
『君に!! 君に何がわかる! 私に君たちのように戦う力があれば、だれよりも先に父のもとに向かっていた!! 父上を止めるのは私でありたかった!』
エドワードが声を荒げる。その瞬間騒ぎ声がマキナ=ギアのむこうから聞こえた。ややあってエドワードがもう一度マキナ=ギアに語りかける。
『声を荒げてすまない。今のは忘れてくれ。私は君たちを私の剣として信じて送り出した。送り出した以上は君たちの帰りを座してまつ。それが臆病者だといわれようとも……! クラウディア?!』
『カノンさん? クラウディアだよ。悪いけど王様を戦地には送りこめないよ! さっきだって王様出陣するとかめちゃくちゃいうんだもん! 間に合うわけないのに! あのね、王様が動けばこれを期に王様の政策を気に入らない人だって動き出しちゃう。暗殺のチャンスだってなるかもしれない。王様だって自由に動けるわけじゃないんだよ』
『クラウディア、命令だ。それ以上話すことを禁じる。 とにかく、カノン・T・ブルーバード、君の憤りは正しい。否定はしない。私が王でなければ、そうしていたさ。だから、頼む。私に変わって、父王を討ってくれ。そして諫言痛み入る。ありがとう』
『私は、ここは……?』
ライチの祈りが功を奏したのか先王の意識が戻る。
「ヒルダちゃん……!」
『死人の声に寄り添う者』アリア・セレスティ(CL3000222)が親友を向く。
親友はうん、と頷く。アリアはヒルダが先王にたどり着くように守り続けてきて傷だらけになっている。当のヒルダは多少のかすり傷はあるが、大きな傷はひとつもない。それにアリアは誇らしくなる。
親友には先王に伝えたい想いがある。それを助ける剣を振るうのになんの戸惑いもない。そりゃ意志を宿す還リヒトをもう一度屠ることに抵抗がないわけではない。それでも、それ以上に親友への想いが勝るだけだ。
「あとで必ず弔います」そう心の中でつぶやくのが精一杯だ。
「わかってる……! 先王陛下。ここはカタコンベ、貴方はもう一度亡くなっています」
告げるは残酷な言葉。
「ヴィスマルクはもう撃退したのだわ。まあ、またこないとはいわないのだけど、それは私達自由騎士がなんとかするわ」
その言葉につづけてきゐこも告げる。
『ああ、アークライトの姫か。大きくなったな。美しくなった』
王の手がヒルダに伸びる。アリアは焦り彼女を守ろうとするが、ヒルダは手をあげて制する。
王の手はあのときのようにヒルダの頭を撫で、ヒルダは泣きそうになる。大好きだった王様の手だ。
ヒルダはその手に触れ、言葉にならない言葉を接触感応で伝える。帝国との戦いと<可能性>であるオラクルが起こした奇跡。現王陛下が実現しつつある差別の無い国。
先王のこころにそれが伝わる。そうか、と先王は頷く。
「あのね、今の王様。エドワード様はすごくよくがんばっているわよ。ちょっとたよりないけれどもね」
きゐこがつげる言葉に先王の口元が緩んだ気がする。
『そうか、そうか。なれば、私はもうとうの昔に用済みであったのだな』
「いいえ! いいえ! 違います!」
否定するのはシノピリカ。防御もなくただ有効打を叩き込むことのみを目指していた彼女は満身創痍だ。下賜された剣はとうの昔に半分に折れて、柄しかない状態にも等しい。
「あなたの治世が、エドワード王をそだて育み、そして新しい世代に変わっていくのです。その礎たる陛下に用済みなどとだれが言えましょうか?! 私は蘇った貴方を臣下として屠り、心安くセフィロトの海に還らせるために来ました」
シノピリカは王の目をにらみつける勢いで叫ぶ。
『そうか、大義である。シノピリカ・ゼッペロン。ずいぶんと励んだようだな。その剣、もう少し大事にしてもいいのではないか?』
「はわわっ、それはなんとも、耳の痛い!」
『世界は流れる川のようにかわっていく。今がその過渡期であるのだろう。ミッシェル・イ・ラプセル。最後の命として告げる。私を、もう一度殺せ』
厳かに前王は告げる。なんとか体が動くものたちはその命に頷く。
体はもう殆ど動かない。だけれどもその命に従わないものはいなかった。
「前王陛下……!あたし達の世代へと未来をつないでくださって……ありがとうございます!」
ヒルダは涙を流しながら、先王の中心を蒸気散弾銃で撃ち抜いた。
燻る蒸気が先王の顔を隠す。かの王が最後にどんな顔をしていたのかは、ヒルダには見えなかった。
●
ぱちぱちぱちと。
場違いが拍手が聞こえた。振り向かなくてもわかる。ニヤケ顔のあの道化師だろう。
「<可能性>■■■■シスの奇跡はいつ見ても壮観だね。今回は2つか。滾る王のこころをとりもどし、失われた技術をとりもどす。なんとも愉快痛快」
不遜にも先王の墓石にあぐらをかくのはアレイスター・クローリー。
「で、この有様の説明はしてくれるのか?」
リュリュが呆れた声で尋ねる。
「そうですね、アレイスター君。説明を求めます。あとお墓の上からおりてください。」
アリア・セレスティも呆れた目で見つめる。
「もう少しくらい、情緒をもってほしいところだけど。まあいいや。
ならば、答え合わせだ! ゲシュペンストってのはあくまでも現象さ! 台風みたいな、災害的なものだ。でも、災害と違うのは――」
「その、ゲシュペンストって、もしかして神絡みの産物……? その、失われた神の成れの果……いや、まさか」
マリア・カゲ山はボソボソと口の中でつぶやく。
「おお! すごいじゃないか! そこまでたどりついたのかい? マリア・カゲ山! まあ正解にはちょっと足りないけど、及第点だ。大まかにおいてそんなものとおもって間違いない」
拍手しながらクローリーが口笛までふいてみせる。
「そうさ、ゲシュペンストってのは神が生み出した坤輿に向けた悪意さ」
「ってことは、イッパイアッテネ。私が感じた悪意ってのは神のものなのだろうか?」
倒れた自由騎士たちを汗だくで介抱しているツボミがクローリーに目も向けず尋ねた。
「カミサマ事態に悪意なんてなかったんだけどね。そもそもアレは今やただの力の本流さ。だけど、そうじゃない欲望という意志のベクトルがそれに影響したとしたら?」
「ゲシュペンストが現れたのは……」
シアが眉根を寄せて難しい顔になる。
「300年前だ。そして創造神の体を10に割って使って作られた5柱目の神■■■が消えたのは?」
「300年、前」
「正解だ。この符号に思うことはないかい? そうさ、坤輿を手に入れたい、力を手に入れたい神■■■たちの意志のベクトルが半分そろった。ゲシュペンストは悪意に反応する。そしてその悪意を吸い込んで成長する。この300年の間ゆっくりとそれを行ってきたのさ。結果起きたことは、セフィロトの海から、死者の意識を拾い出して、現世に戻してしまう。坤輿を壊すものを坤輿の外から引っ張り上げることすら可能になったんだ。それは死体を動かす程度の話じゃあない
ああ因みにこの状況がおきてるのはイ・ラプセルだけじゃないさ。ヴィスマルクも、ヘルメリアも、シャンバラでも、パノプティコンでも起こっている。まあ本土決戦があったイ・ラプセルほどではないけどね。人の死が多いところにアレは発生する。最近はどうにも働き者になってるみたいだ」
そこまで言うとクローリーは一本指をたてる。
「さて、本題に戻ろう。坤輿の理の構造をひっくり返すということは、しいては、坤輿自体をひっくりかえすことに繋がる。それが起きるとどうなるか?
原初の海のウル・ナンム
ウトナピシュテムの鳩は帰らず
アララト山に至る舟は失われ
ゴフェルの木々は砕かれた」
クローリーは詠う。
「だから急いでよ。坤輿に抗うには同じだけの力が必要だ。残る5柱を1柱に変えてタ■■■にして、その坤輿を飲み込む悪意に対抗しなくちゃ、みんな『海』にかえってしまうよ」
いつものようにヘラヘラと冗談をいうかのように笑う道化師の目は少しも笑ってはいなかった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
ヒルダ・アークライト(CL3000279)
カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)
クイニィー・アルジェント(CL3000178)
サブロウ・カイトー(CL3000363)
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
アダム・クランプトン(CL3000185)
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
ザルク・ミステル(CL3000067)
ライチ・リンドベリ(CL3000336)
奥州 一悟(CL3000079)
マリア・スティール(CL3000004)
タマキ・アケチ(CL3000011)
咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)
カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)
クイニィー・アルジェント(CL3000178)
サブロウ・カイトー(CL3000363)
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
アダム・クランプトン(CL3000185)
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
ザルク・ミステル(CL3000067)
ライチ・リンドベリ(CL3000336)
奥州 一悟(CL3000079)
マリア・スティール(CL3000004)
タマキ・アケチ(CL3000011)
咎メ・封豨・バルガー(CL3000124)
†あとがき†
決戦おつかれさまでした。
多少の怪我人はいますが成功です。
今回のアニムス使用はお二人でした。
改竄ではないのに死者の声をきけたのは? という判定に関しては、もともと還リヒトでなおかつ
ゲシュペンストの力によって会話自体はできるのと精神事引っ張られてきているので、改竄までしなくても
会話はできるという判定にしてあります。
説明の中にあった改竄の使用法としては還ってきてない場合の状況になりますので、今回とは微妙に
状況が違うのです。
また今回はラーニングも成功しております。
想いとリソース、二つが合わさった結果になります。
それでは、皆様のおかげでとりあえず、先王はもう一度安らかな眠りにつきました。ありがとうございます。
屍人たちはもとにもどり消滅したものもいますが物質的に体がのこっていたかたについては
アンダーテイカーのみなさんとご一緒に丁寧に埋葬いたしました。
多少の怪我人はいますが成功です。
今回のアニムス使用はお二人でした。
改竄ではないのに死者の声をきけたのは? という判定に関しては、もともと還リヒトでなおかつ
ゲシュペンストの力によって会話自体はできるのと精神事引っ張られてきているので、改竄までしなくても
会話はできるという判定にしてあります。
説明の中にあった改竄の使用法としては還ってきてない場合の状況になりますので、今回とは微妙に
状況が違うのです。
また今回はラーニングも成功しております。
想いとリソース、二つが合わさった結果になります。
それでは、皆様のおかげでとりあえず、先王はもう一度安らかな眠りにつきました。ありがとうございます。
屍人たちはもとにもどり消滅したものもいますが物質的に体がのこっていたかたについては
アンダーテイカーのみなさんとご一緒に丁寧に埋葬いたしました。
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