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【陽動作戦】Yea-Ha! 派手に攻めろ! 砦攻防戦!



●シャンバラ
 シャンバラ南方沿岸を守護する『リースカル砦』。
 灯台の役割を持つこの砦は防衛拠点的な意味合いよりも航海の情報収取的な意味合いが多かった。天候、風向き、温度湿度などを適宜記録して数時間後の天候を予測する。魔道技術に長けたシャンバラでもこういった地道な観測は必要なのだ。
 無論、砦と言うだけあって相応の防衛力と兵力を有している。煉瓦で作られた防壁は海からの砲撃を防ぎ、常駐する兵士も少なくない。とはいえ最前線であるヴィスマルクからの脅威はなく、戦火に巻き込まれることはなかった。
 唯一の可能性はイ・ラプセル側からだが、よもやあの小国が攻めてくるなど夢にも思ってない。先に攻め込んだ魔女狩り大部隊により蹂躙されていると決めつけていた。
 だからこそ、青天の霹靂ともいえる衝撃だった。
「報告ー! 南方より敵影発見! 旗と船の形より、イ・ラプセルの海軍です!」
「何っ!? 何かの間違いじゃないのか!?」
「魔女狩り達はどうした!? 大司教様は!?」
「海軍は何をしているんだ!?」
「分かりません! 海軍は先だって発生した新手の海賊の対応に手一杯の模様です!」
「と、とにかく警鐘を鳴らせ! 各兵士、配置につくんだ!
 南門の扉を閉め、防衛の準備に移れ!」
 これがリースカル砦初の防衛戦になる。シャンバラ兵は戸惑いながらも訓練通りに動き、防衛戦の形を整える。首都ウァティカヌスに早馬を飛ばし、伝令を送った。
 そしてイ・ラプセルからすれば、シャンバラに対する初の攻勢となる。

●イ・ラプセル攻勢
「砦を落とす必要はない。これは潜入部隊を隠すための陽動だ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集まった騎士達の前で作戦内容を確認する。
「この作戦と同時にシャンバラ内部に自由騎士を潜入させる。その潜入を隠すために敵の砦を攻め『魔女狩りを退けたイ・ラプセルが攻めて来た』と思わせるのが目的だ。
 潜入員たちの任務はここでは明かせないが、彼らが上手くやればシャンバラ内部に橋頭保を作ることが出来るかもしれない、とだけ告げておく」
 フレデリックの言葉にどよめきが起きる。
 橋頭堡。ざっくり説明すればシャンバラ内部の軍事拠点だ。橋頭堡を形成すれば、わざわざ船で遠征するという手間も省ける。橋頭堡に兵を駐屯させて、そこを基点に攻めることが出来るからだ。
「無論、手を抜いて攻めろと言っているわけじゃない。囮を隠すために派手に立ち回ってもらう必要がある。五分戦ったら別部隊と交代という波状作戦だ。交代の合図を見逃すなよ。
 戦場は砦に繋がる橋の上になるだろう。そして門を守るために兵士が構えている。そいつらを蹴散らしてこい」
 戦争のために用意された施設ではないため、籠城するには不向きな構造だ。精々が壁に弓を撃つための窓がある程度。大砲などの重火器もあるが、長距離からの砲撃はオラクルには意味を為さない。
「イ・ラプセル軍の力、シャンバラ達に見せてこい!」
 フレデリックの言葉と共に、鬨の声が上がる。
 後の歴史家がシャンバラ開戦と呼ぶ戦いの幕が、切って落とされた。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
他国調査
担当ST
どくどく
■成功条件
1.5分間(30ターン)戦線を維持する
 どくどくです。
 シャンバラ戦、攻守交代です。

 この依頼は、【S級指令・妖精郷へ】【陽動作戦】のタグのついた依頼に参加した方は参加することができません。
 参加を確認した場合、参加を取り消し、其の費用は返却されません。

●敵情報
・シャンバラ軍(×7~)
 リースカル砦を守るシャンバラ兵です。亜人とノウブルの混成軍です。非オラクル。
 最前線ではない場所とはいえ、兵役を経験しているためそれなりの強さを有します。

・盾兵(×4~)
 体全体を隠す巨大な盾と槍で橋を守る部隊です。盾にはシャンバラの国を示す紋様が描かれています。種族はサイのケモノビト。
『ウォーモンガー Lv2』『バッシュ Lv2』『柳凪 Lv2』『痛覚遮断』等を活性化しています。

・弓兵(×3~)
 時代遅れの弓を使う兵士です。応急処置なども行います。種族はミズビト。
『ダブルシェル Lv2』『サテライトエイム Lv2』『メセグリン Lv3』『インビシブル』等を活性化しています。

・兵長(×1)
 部隊のまとめ役です。いなくなっても部隊が混乱するわけではありません。種族はノウブル。
『ホムンクルス Lv3』『スパルトイ Lv2』『ミラーニューロン』『インテリメガネ』等を活性化しています。

『兵長』以外の兵士は6ターンごとに『盾兵3人』『弓兵1人』追加されていきます。
 砦から矢や砲弾が飛んできたりしますが、オラクルの特性上20m離れた場所からの矢弾が当たることはありません。

●NPC
 同乗している騎士団(自由騎士ではない軍隊)は、別方向から砦を攻めています。
 また艦隊から砲撃が飛び、4ターンに1度の頻度で敵全体にダメージを与えます(オラクルには当たりません)。

●場所情報
 シャンバラリースカル砦西門。門に通じる橋の上が戦場になります。橋の幅により5名以上が並んで戦うことはできません(4名はOK)。
 時刻は昼。橋は安定しているためバランスなどのペナルティはなし。五分戦ったら信号弾が上がり、別部隊と交代するという波状攻撃を取ります。
 戦闘開始時、敵前衛に『盾兵(×四)』敵後衛に『弓兵(×三)』『兵長(×一)』がいます。事前付与は不可。なお相手は付与済みです。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2018年11月18日

†メイン参加者 8人†




「たかがヨウセイの女の子一人のために喧嘩売るなんて、物好きな国だよね~」
 潮風を頬で受けながら『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)はため息を吐く。シャンバラとの戦争の始まりは一人のヨウセイだ。それがここまで大事になるとはその時思いもしなかった。
「潜入する人の為にも、ここで頑張るよ」
 震える手を押さえるようにライフルを握りしめる『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)。並行して行われるS級任務。この砦戦はそれを隠すための囮だ。ここで派手に暴れることでその援護になるのだ。
「うん、グリ、頑張ろう」
 震えるグリッツに声をかける『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)。同じ孤児院の兄弟同士の二人は、イ・ラプセルに対する思いも同じだ。平和な国を守るため、共に武器を持つ。
「まあ、普段通り攻めればいいですね」
 言って肩の力を抜く『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)。下手な付け焼刃と作戦は嘘が露見する可能性が増す。ならばいつも通り攻めればいい。自由騎士として正々堂々と。砦を見つめ、気合を入れる。
「強い奴がいればいいんだけどねぇ」
 戦場の空気に身を震わせながら『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は笑みを浮かべる。ヴィスマルクが攻めてきたときほどの相手がいればいいんだけど、と戦場を見る。さてシャンバラの強さを味あわせてもらおうか。
「イ・ラプセルにあたしあり、って所を見せてあげるわ。行くわよ、アリア!」
 ドレスを翻して『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は親友兼相棒に声をかける。愛用のショットガンを回転させて、笑みを浮かべた。派手に暴れて敵を殲滅。それこそが彼女の目的だと言わんばかりの微笑みだ。
「うん。行きましょう、ヒルダちゃん!」
 ヒルダの声に頷き双剣を構える『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)。足首などの足回りの関節をほぐしながら戦いに挑む。親友の動きをサポートし、戦いを勝利に導く。その為に何をするかを頭の中で思考していた。
「UUUUUU……!」
 狂犬が唸るような声をあげるナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。十字の意匠が施された黒の鎧。全身を黒の鎧から発せられる声は、むしろ何かを堪えるかのような印象を受ける。例えるなら怒りを抑え、溜めるような。
「イ・ラプセル軍、来るぞ!」
「砲撃よーい!」
 リースカル砦から聞こえるシャンバラ軍の声。橋を守る兵士達が展開され、弓矢が降る。砲撃が耳をつき、鉄を思わせる血の匂いが鼻腔を刺激した。
 戦争。その空気は日常とは異なる世界。人が人を殺す非日常。長くここにいれば日常に戻れなくなる異空間。しかし今それを恐れる者はここにはいない。
 先に戦っていた隊に、撤退の合図が出る。
 それと入れ替わるように自由騎士達は橋に向かって駆け出した。


「イ・ラプセルの蒼の騎士アリア、参ります」
 一番槍となったのはアリアだ。名乗りを上げて二本の剣を構えて走り出す。自由騎士の由来は騎士と言う枠組みにとらわれない自由な戦術性。パワーではなく、技と速度に力を注いだアリアはその代表格ともいえよう。
 地面を蹴ると同時にアリアは刃を握りしめる。敵までの距離はまだあるが、彼女にとっては一足の間合。言葉通り一瞬で盾兵に肉薄し、刃を振るう。一の太刀で盾に衝撃を与えて動きをとどめ、隙を突く二の太刀が敵兵の皮膚を裂いた。
「今だよ、ヒルダちゃん!」
「ありがとっ! 愛してるわ、アリア!」
 ウィンクをしてヒルダは銃を構える。両手にブランダーパスを構える二丁の銃士。後衛でも問題ない装備だが、臆することなく彼女は前に立つ。常に最前線に立つ様はまさに威風堂々。彼女もまた枠組みに囚われない自由騎士の一人だ。
 アリアが生んだ隙を逃すことなく引き金を引き、防御の隙を広げる。休むことなくもう片方の銃を撃ち放ち、戦場全体に弾丸を見舞った。砦を落とす必要はないが、イ・ラプセルの強さを見よとばかりの激しい攻めが展開される。
「ヒルダ・アークライトここに在り! さあ、あたしを討たんとする者がいるなら出てきなさい!」
「んじゃまあ、派手に暴れさせてもらおうかね!」
 片翼を広げ、アンが銃を構える。放浪している間に会得したガンマンスタイル。死別した師に教わった技術と、培った経験。それは常に強者に挑むことで積み重なり、アンの強さとなっていた。手になじんだ銃を構え、戦場を見る。
 混戦した戦場の中で、兵長を見る。指示を出しながら連金術を繰り出すインテリ系。その額に向けて銃を向けた。筋肉は緩衝材、骨は固定具。自分自身を銃の一部と化し、静かな心でアンは引き金を引いた。兵長が着弾の衝撃で大きく揺れる。
「見たとこあんたが一番強そうだなぁ。せいぜい楽しませてくれよ?」
「兵長はお任せします。私は弓兵を」
 言ってマリアは魔力を練り上げる。イ・ラプセル軍を名乗る戦いにおいて、身分を隠す必要はない。だが逆にイ・ラプセル軍の旗を背負うことになる重圧もあった。だがそんなプレッシャーなど問題ないとばかりに静かに戦場を見る。
 戦場を俯瞰するように意識し、思考を展開するマリア。思い浮かべるのはアマツホカリの『将棋』と言うゲーム。陣を構えて防御し、陣を崩し敵将を討つボードゲーム。防御の要となる弓兵を崩すため、氷の魔力を解き放つ。冷気が敵兵の動きを鈍らせた。
「増援が来る前に何人か倒しておきたい所ですね」
「大丈夫、おれ、盾兵倒す」
 短く告げるイーイー。戦争なんて面倒くさいが、これも国を守るためだ。それに派手に暴れるのは解りやすい。頭を使うことは頭のいい人に任せて、自分にできることを全力で頑張る。それが大事だということをイーイーは分かっていた。
 フランベルジュを構え、体中に力を籠める。一心不乱にこちらを敵視するシャンバラ兵に恐怖を覚えながら、それを振り払うかのように刃を振るう。剣は盾により受け止められるが、イーイーはそのまま力を込めて相手を押して体勢を崩す。
「今だ! 撃てー!」
「うん、イーちゃん!」
 イーイーの声がかかるより前にグリッツは銃を構えていた。孤児院で共に過ごした親友のやることは、手に取るようにわかる。戦いと言う行為にはまだ慣れないけど、親友と呼吸を合わせることは誰にも負けない。
 狙い、撃つ。その為に何度も訓練を重ねてきた。銃の手入れ、射撃練習、戦う前の準備。この一発の為に多くの時間を費やした。訓練の辛さはグリッツの自信となって培われている。ただ真っ直ぐに引き金を引き、敵兵を撃つ。
「どうだっ! やったね!」
「Gurrrrrrrrrrrrrrr……!」
『偽聖剣「アスカロン」』を手に、吼えるように敵兵に向かって叫ぶナイトオウル。敵兵を押し返しながら、しかしナイトオウルは己を律している。女神を否定する憎きシャンバラ兵。しかしその怒りを堪えていた。自分自身に鎖をつけ、縛るように。
 自分自身を縛るように動きながら、しかし近寄る敵兵には苛烈に剣を振るうナイトオウル。ガシャリ、と動くたびに黒の鎧が金属音を立て、ザクリと剣が肉を断つ音が後に続く。追撃を仕掛けようとして足を止め、悔しそうに激しく吼えた。
「Aaaaaaaaaa……!」
「はーい、皆頑張ってねー! ローラからのお・ね・が・い!」
 戦場に似合わない口調でローラが明るくポーズをとる。どんな状況でも自分のペースを保つのはローラのキャラクターだが、ナイトオウルが自分を律してローラを守るように動いているのもその一因だ。ローラもそれを理解し、自分の役割に専念する。
 ふわり、とローラの周囲で風が舞う。ローラの魔力が優しい風となって、戦場に静かに吹いた。魔力の風は治癒の力を乗せて仲間を包み込み、傷口を撫でて痛みを沈めていく。色気を隠すことなく、真面目に支援。それがローラ・オルグレンと言う自由騎士だ。
「激しく攻めちゃおー! でも時には優しいのも欲しいなぁ」
 軽口をたたく余裕は成長した証。それは個人の成長と、集団戦闘を繰り返してきた経験から生まれるものだ。
 だがそれはシャンバラ兵も同じ。訓練された動きで倒れた盾兵の穴を埋め、イ・ラプセルを押し返そうと攻め立てる。己が神を守ろうといきり立ち、その心が力を引き出している。
 リースカル砦をめぐる攻防戦は、まだ始まったばかりだ。


 攻城戦で攻める側が勝つ流れは、大きく二つ。防御力を突破するだけの兵力を持つか、立てこもる側の兵站が尽きるのを待つか。
 先に説明したとおり、リースカル砦は拠点と言うよりは天候観察所として機能している。故に食料などの備蓄は多くない。その結果、シャンバラ側は討って出る作戦を取った。籠城戦で耐えるには防壁は強くなく、さらに言えば地理的条件で橋で足止めする方が時間が稼げるからだ。
 時間稼ぎ。シャンバラ側の勝利条件は援軍が来るまで耐えることだ。そうすればイ・ラプセルを追い返せる。
 ――そして先に説明したとおり、イ・ラプセル側の勝利条件は砦を落とすことではない。援軍を呼んでシャンバラ側の兵力を割き、S級任務の自由騎士達を潜入させやすくすることだ。
「愚かだな、イ・ラプセル! その程度の兵力で攻めてくるなどまさに小国である証左だ!」
「攻めろ攻めろ! 三日もすれば援軍がやってくる! それまで耐えるんだ!」
 活を入れる為に大声で叫ぶシャンバラ兵。どうやら陽動は上手く言っているようだと自由騎士達はほくそ笑んだ。
「Guuuuuuuuuuuuuuuuu……!」
 イ・ラプセルを馬鹿にされた怒りをぶつけるように叫ぶナイトオウル。怒りで強く剣を握るが、歯を食いしばって突撃するのを堪える。その誹り、その悪態、女神に対する侮辱を心にため、後の闘いでぶつけよう。黒の騎士は怒りの炎の中、誓う。
「っ……! 作戦は上手くいっているようですね」
 シャンバラ兵の声を聞きながら、マリアは小さくつぶやく。そのささやきは戦場の怒号に途切れて敵兵に届くことはない。飛んでくる矢に英雄の欠片が削られるが、その殺気もまたこちらに気を取られている証だ。
「思ったよりはやるようだったけど、これで終わりさ!」
 アンの大型拳銃が兵長を捕らえる。こちらの技をコピーして攻撃と回復を繰り返していたが、積み重なるダメージについに膝をついた。こちらも手傷を受けたが、最後に立っていた方が勝者とばかりに微笑むアン。
「はいはいはーい。ローラの切り札だよっ」
 にぱっ、とほほ笑んでローラが癒しの術を放つ。ふざけているように見えて、その魔術は精錬されたヒーラー技術の結晶。奇跡ともいえる御業が仲間を包み、身を守る鎧となる。効果は高いが消耗も大きいのが難点だが、それを感じさせないようにローラは妖艶に笑む。
「血を吸う感触、なかなか慣れないなぁ」
 技を放つ持久力がなくなり、イーイーは已む無くシャンバラ兵から血を吸って活力を回復する。普段は気持ち悪くて吸血行為は行わないが、今はそれを言っている状況ではない。体内を走る栄養がイーイーの気力を増加させる。
「イーちゃん……! くそ、終わったらうまいもの奢ってやるからな!」
 矢弾を受けて膝をつくグリッツ。英雄の欠片を削って意識を保ちながら、親友を気遣い大声をあげる。勝つためとはいえ親友が嫌う事を行っているのだ。倒れてなんていられない。戦いを終わらせて、平和な日常に帰るのだ。その為に引き金を引く。
「アリアに手を出したら、許さないんだから!」
 傷つくアリアを見て、ヒルダが怒りの声をあげる。冷静な部分では戦う以上は仕方ないとわかっていても、実際に傷つく場面を見ればそうも言ってられない。その娘に手を出していいのはあたしだけだ、と言わんがばかりの形相で弾丸を放つ。
「だ、大丈夫だからヒルダちゃん」
 突出しそうになるヒルダを制するように声をかけるアリア。回避型のアリアは速度を活かすこともあり防御面では脆い。呼吸を整えて二刀を握る。足を止めずに戦場を疾駆し、敵を翻弄しながら舞うように刃を振るう。
「まさか小国の攻めに押されるとは……増援はまだかー!」
 自由騎士の激しい攻めに押され始めるシャンバラ兵。増援により穴をふさぐが、それでも完璧とは言い難い。だが――
「気を抜くな! 守り抜けば我らの勝ちだ! ミトラース様の加護を信じよ!」
 奮起するシャンバラ兵。自由騎士の攻めは橋上の敵兵を全滅させる程ではない。このペースでもう少し時間をかければ可能だが、その前に気力が尽きてペースダウンしてしまうだろう。
 だからこその五分。手が緩んだ隙をつかせない為に、区切りを入れて仕切り治す。
「信号弾よ! てったーい!」
 ローラが大声をあげて、皆に伝える。赤の煙をあげる信号弾が天に昇っていく。
「逃がすか!」
「このヒルダ・アークライトが立ち続けている限り、イ・ラプセルの仲間には決して手出しさせないわよ!」
 殿に立ち、銃を乱射するヒルダ。弾幕に押される形でシャンバラ兵は自由騎士の撤退を許してしまう。
「次は俺達の番だな」
 交代の騎士達が戦場に躍り出る。手をタッチし、自由騎士達は撤退した。


 リースカル砦の戦いは三日三晩続いた。
 五分毎の波状戦を三時間繰り返し、日が沈めば効率と休息のために一時撤退。時折夜襲に見せかけた動きを取り、シャンバラ側の疲弊を増していく。
 シャンバラ側からこちらに打って出ることはない。兵力温存もあるのだろうが、援軍が来ればこの状況を盛り返せることが分かっているからだ。それまで耐えれば勝ち。それまで兵力は温存したいのだろう。
「戦いの規模に比べて、生存者が多いな」
「ああ、だがこの状況では……」
 リースカル砦の病室は、今回の闘いで倒れた兵士達が伏せていた。激しい戦いの割には生存率が高く、深い傷を負って治療を受けていた。
 これはアクアディーネの『権能:不殺』の結果であるが、それを知らないシャンバラ兵は疑問にも思わない。むしろこの状況を憂いていた。生存者が多いことは喜ぶべきことだが、負傷者を癒すために医療器具を消費しなくてはいけないからだ。
 兵站維持の観点からすれば、生存している負傷兵が多い方が物資の消耗数が多くなる。砦の上層部はそれを嘆いていた。死んでくれた方がよかったなどと言うわけではないが、援軍が来るのが遅れればあるいは。そんな懸念がよぎっている。
 だが結果として――
「シャンバラの援軍だ!」
「よし、撤退するぞ!」
 シャンバラの援軍を確認後、イ・ラプセル騎士団は撤退を宣言する。波が引くかのように去っていくイ・ラプセルの船を見て、シャンバラ兵は唯一神ミトラースに感謝し、信仰をさらに深めるのであった。

「さて。後は潜入した奴らが上手くやることを祈るぐらいかね」
 遠くなっていくシャンバラの地を見ながら、アンはため息をつく。
「やることはやったわ。あたし達は国を守りましょう」
「そうね……ってヒルダちゃん、薬塗り過ぎだって」
 アリアに薬を塗りながらヒルダが頷く。手の平に薬をつけて過剰に塗ってくるヒルダに、アリアは遠慮がちに告げた。
「海賊の方は上手くいったのでしょうか」
 マリアはもう一つの陽動作戦のことを思う。海賊に扮して別方向から攻める作戦だ。上手くいっていればいいのだが。
「シャンバラ、洗脳されてるみたいで、こわかった」
「うん。狂信者て、あんなに怖いものだったんだね」
 イーイーとグリッツはジュースでのどを潤しながら、戦いを反芻する。神の名を叫びながら怒号をあげる兵士達。オラクル兵ではないが、神の加護を信じて戦う命知らず。それがあそこまで怖いとは。
「ガチで戦争になっちゃったかぁ……うん、どうにかなるよね」
 ため息をつくローラ。気楽に好き勝手にやりたかったそうもいかないか、と肩をすくめる。
「ErrrrrrGeeeeeeeHHH!」
 戦いが終わり、怒りを発散させるように叫ぶナイトオウル。我が女神を侮辱するものを許さない。いつかこの怒りをぶつけてやる。
 それぞれの思いを込めたまま、船はイ・ラプセルに向かう。

 シャンバラとの戦いは、まだ始まったばかりだ――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『蒼槍勲章』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

どくどくです。
 意外な不殺の戦場効果。生存兵士がいるほど、戦争はリソースを食うのです。
 アクアディーネ、あざとい!

 以上のような結果になりました。
 もう少しシャンバラ兵を攻撃に特化させてもよかったかもしれません。でもこんな砦に名のある兵士が在住している理由もなく。
 MVPは迷いましたが防御に最も貢献したアラウンド様へ。貴方の献身があってこその五分間でした。

 シャンバラとの戦いは始まったばかりです。長い戦いになるかもしれませんが、先ずは傷を癒してください。
 それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済