MagiaSteam
春待ち時のメモリアル




 カタリーナ・ベルヴァルドという少女を一言で表すのであれば深窓の令嬢だ。
 白銀の髪の紫色の瞳。柔和な物腰。
 物憂げな表情ですら絵になる。
「ふう」
 少女は一つため息をついて、屋敷の外に広がるイ・ラプセルの城下街を見つめる。
 夫であるテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)に嫁いで早いくとせ。
 それほど長い時間ではないがいろいろな事があった。
 自分にとっても、そして、このイ・ラプセルにおいても、だ。
 自由騎士であり、領主でもあるテオドールは月に数日……カタリーナにとってはもっと多い日数にも思えるが、領地での仕事のため家をあける。
「まったく、ひどいお父様ですね」
 いいながら少しだけ膨らみがわかる腹部を優しくなでる。
 とはいっても彼女自身本当にひどいなんて思ってはいない。全ては平和な時代を迎えるための重大な仕事なのだ。会えないのは本当に寂しいけれど、我慢はしている。
 ちょっとだけの、旦那様本人に伝えることはできない、ちいさな愚痴だ。
 そんな旦那様が明日帰ってくると伝令が伝えてくれた。
 ならば――。
 お茶会を開こう! カタリーナはそう思い立つ。
 素敵なスコーンに美味しい紅茶、可愛らしいお菓子も用意して。
 それと。すこし旦那様に我儘を言ってみようと思う。少しくらいの我儘はまっていたご褒美だといえばきっと了解してくれるだろう。
 伝令にテオドールへの返信をつたえてもらう。

 ――明日、お茶会をひらきたいとおもいます。しいてはあなたの同僚である自由騎士のみなさんもお誘いしてください、と。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
リクエストシナリオ
シナリオカテゴリー
日常γ
■成功条件
1.カタリーナのお茶会に参加する。
2.今まで経験したことを語る。
 たぢまです。
 短い入院生活はあっというまでした。リクエストシナリオありがとうございます。
 今回は(CL3000375)テオドール・ベルヴァルドの奥様であるカタリーナ嬢に招かれてのお茶会です。
 
 そばには同じくテオドールさんの従者であるアナザーのディートリヒ・ハインケスが奥様を守る従者として控えてるはずでしたが、奥様の紅茶の手付きが危ういのでお茶を入れる係になっています。

 ◆やること
 皆様に対して、カタリーナは旦那様のご同僚ということで、お話を聞きたがっています。
 今までどんな事があったのか思い出話を是非きかせてあげてください。
 旦那様のお話もあると喜びますが、なくても楽しく聞きます。
 彼女にとって冒険譚とは遠い世界のお話なのです。
 どうやら、お腹の中のお子様にも聞かせたがっているようですよ。
 珍しいものなどをみせると喜ぶかと思います。

 基本的に◆◆STの依頼参照 というプレイングは不可です。
 あなたの想い出としてあなたの主観でかまいませんので思い出を聞かせてください。
 どんな内容でもかまいませんが、あまりにも公序良俗にふれる内容だと、デートリヒ君が止めると思います。
 いままで感じたことやこれからの目標などを語ってください。
 
 カタリーナさんは身分を気にしません。
 どんな方でも大丈夫です。正装もしなくていい、気軽なお茶会です。お茶菓子は用意されていますが、持ち込んでもらってもかまいません。

 ◆登場人物
 カタリーナ・ベルヴァルド
 テオドールさんの幼妻です。おなかにはお子さんがいます。はんざいとかいっちゃだめですよ!
 種族、身分にたいしての差別意識はありません。おっとりとした少女です。
 自由騎士に憧れています。
 
 ディートリヒ・ハインケス
 ベルヴァルト家の従者です。基本的にはテオドールさんについています。
 基本不機嫌そうな顔をしていますが期限が悪いわけではありません。
 今回はカタリーナを守る従者としてこの場にいますがなぜか紅茶をいれる係になっています。げせぬ。

 ◆ロケーション
 ベルヴァルトさんちの春の柔らかい光が差し込む中庭でのお茶会になります。
 細かいことは気にしなくてOKです。
 身分、種族はきにしなくてもOKです。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  2個  1個
10モル 
参加費
100LP
相談日数
7日
参加人数
3/6
公開日
2020年03月16日

†メイン参加者 3人†




「ふふ、皆さんいらっしゃい」
 お茶会にきた客人を笑顔でむかえるのはカタリーナ・ベルヴァルド――『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の細君である。
「カタリーナ、改めて紹介しよう。マグノリア・ホワイト卿とアデル・ハビッツ卿だ」
 カタリーナは微笑み、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)と『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)に上品なカーテシーを向けた。
「初めまして。テオドールの奥方様。僕は錬金術師のマグノリア・ホワイト。先ずはお招き、ありがとう」
 マグノリアも如才なく貴族式に礼を返す。
「そして、おめでとう。テオドールもね」
 薄く笑うマグノリアにカタリーナは頬を染める。隣に立つテオドールは気恥ずかしそうに頬をかいた。
「これは僕からのお礼」
 そう言って差し出された花束はかすみ草と青いデルフィニウムに矢車菊。ホワイトローズ。サムシングブルー。青い花に幸せの祈りをこめた心のこもった優しい花束を手ずからうけとりカタリーナは笑顔を深める。
 なるほど、マザリモノである自分に忌避感などもっていないことがわかる。なんとも、彼にお似合いのお嫁さんだと思う。
 ――まあ少し年齢差が大きいとは思うが口にはださないのが花だろう。
「テオドールの細君、初めまして。俺はアデル・ハビッツ。イ・ラプセルの……そうだな、兵隊だ」
「ふふ、この国をまもってくださる騎士様ですのね、えっと、その兜は取らないのかしら?」
 当然の質問にテオドールが咳払いをすれば、カタリーナはぺろりと舌を出す。
「無作法だが許してくれ。視力をこの兜で補っているのでな」
 挨拶は恙無く終わり、お茶会が始まる。
 

「テオドール様のことを聞きたいです」
 カタリーナは席についてすぐに彼らにそう切り出した。
(ところでディルは何故……)
 茶をいれているのか、とテオドールは視線で問おうとするがすぐに察する。テオドールの従者である彼は思いの外心配性なのだ。
 カタリーナとてそれほど茶を淹れることができないわけでは無いと思うが、お腹の中の小さな命に負担があるといけないと思い彼女からその仕事を奪い取ったのだろう。解せない顔をしている彼が面白くてくつくつと笑えば、睨まれた。
「そうだなあ」
 カタリーナの促しにマグノリアは悪戯げな表情を浮かべた。
「これは、彼が君とであうずっと前。彼はひどく落ち込んでいてね。ずいぶんあれていたようでね。
 ……よなよな、街を徘徊し、とっかえひっかえ、好みの男性と濃密な夜を――」
「きゃー! 破廉恥ですぅ~!」
「いや、いやいやいや、待て! 誤解をよぶ表現はやめたまえ!」
「ちぇ、まあ、つまりは貴族や政治家たちとの会食や討論会に精をだしていたということだよ」
「ああ、そういう」
 カタリーナの明確にがっかりしたようなその反応に、やっぱり貴族女性、ゴシップなどはお好みのようだとマグノリアはほくそ笑む。用意してきた雑誌はきっと彼女のお眼鏡に叶うだろう。
「領主のお仕事はいかがですか?」
 家をあける大きな原因である話はカタリーナにとって興味深いものだろう。
「ああ、領主としてのテオドールの無双ぶりはすごいぞ。山積みの書類をきってはなげ、きってはなげ。まさに快刀乱麻を断つがごとくだ。その壮観はお前にもみせたいものだな。
 ん? 書類のおしつけ? いやいや、適材適所というものだ」
 おかげで運営は軌道にのっている。俺たちなど安心して巡回や現場仕事に戻れるというものだ」
「わぁ」
「もちろんハビッツ卿の働きもあるぞ。彼らがあら事をまとめてくれることで、私が動きやすいというのもある。皆があっての自分だ」
「今後だが、このノウハウをニルヴァンの民に教導し、自由騎士の直接統治からニルヴァンの民に統治を移すことも考えている」
「ん?!」
 そんなアデルの構想にテオドールは茶を吹き出しかける。
「冬支度も教えた。冬越しの指導もした。そして春が来る。新しい時代を彼らは過ごせる経験は積んだ。
 ならば、テオドールは細君に返す頃合いだろう」
 そんなアデルの言葉にカタリーナは大きくそうです! と何度も頷く。
 なんとも愛されているものだ。
「まあ、彼らも経験は経ているし、多少の助けは必要だが、そこから先は彼らの足で進むのが一番だろうな……」
 カタリーナの期待の眼差しに苦笑しつつテオドールは曖昧に答えた。

「マグノリア様とアデル様のこともお聞きしたいです!」
「僕かい? えっと……」
 他人のことをよく観察しているマグノリアは自分のこととなるとさっぱりだ。なんと言っていいのか言葉がでてこない。
「ホワイト卿はな、戦場をよく観察している立派な騎士だよ」
「テオドールっ」
「何をはずべきことがある? 錬金術に深く通じ、状況に応じて様々なサポートをこなしたその証がその勲章だろう?
 それに君の探求力は新しい未来を描くことができる。人一倍の知識欲は素晴らしいとおもう」
「うむ、マグノリアの癒やしに何度も助けられた」
「アデルまで……そういう君はどうなんだい」
 なんとか自分に向けられた水をそらそうとマグノリアはアデルを促す。
「俺の話か?
 ――俺は兵隊だ。戦場を走り回って戦うのが俺の仕事だ。だから、戦場の話ばかりになるので、ご婦人には退屈だとおもうが……」
「いいえ、テオドール様と同じ戦場を征く方のお話が退屈なわけがございません!」
「では……技量と経験が優れた兵士は最前線の激戦区に回すのが戦術だ。
 故に、テオドールもマグノリアも同じく、激戦区をはしごになるな。
 自慢にもならんがシャンバラ以降は激戦区しかない。自由騎士も人数がいるわけでもないしで、どうしても無理が必要な場面もある。
 おかげで生傷が絶えんが、マグノリアの癒やしやテオドールの指揮・援護に助けられているというわけだ」
「まあ、いちどテオドール様が指揮する姿を見てみたいです」
「まったく、ハビッツ卿は私を褒め過ぎだ」
「褒められるに値することをしているからだと思うが」
 照れるテオドールにほくそ笑みながらマグノリアもそうそうと同意する。
 自分の夫が褒められていることが嬉しいのだろう。頬を染めて笑顔になるカタリーナをみてアデルはますますテオドールを死なせるわけには行かなくなったと思う。
「安心してくれ、激戦区が続いたとしても戦場では俺たちがテオドールを守る。だから家庭ではお前が彼を守ってやってくれ」
 その真摯な願いにカタリーナはなんども頷く。自由騎士という憧れの存在に、自分でもできることを示唆されたことが何よりもうれしかったのだ。
「はい! テオドール様は私が守ります! もちろん生まれてくる赤ちゃんもです!!」
 興奮気味に両の手を握りしめカタリーナが宣言する。
「だって、愛されているね」
 そんな可愛らしくも勇敢な妻に苦笑するテオドールにマグノリアは顔をほころばせた。
 新しい命が宿った――自分には絶対に来ることのない「しあわせ」を持つ眼の前の少女は守るという言葉に、なぜだか強さという変化を遂げたように見えた。
 それがマグノリアには眩しくてしかたない。
 それが、ヒトの心の成長というキセキなのだろう。そういったものにふれることができたのは僥倖だ。
「カタリーナ」
「はい?」
「君はね、我慢する必要はないのさ」
 だからマグノリアは少女にエールを送る。
「え?」
「政治に夢中だった彼が一念発起してクラウスに紹介してもらったのが君だ。最初こそは戸惑っていたようだけど……。
 彼は純粋でこころの優しい君にいつしかどんどん惹かれていったんだ。しってるかい? 堅物だと思ってた彼が君のことを惚気るときの緩んだ顔を?
 最近なんて開き直ったのか堂々と惚気けるようになったんだよ。耳にタコができるくらいにね。
 だからね、我儘をいっていいのさ。目一杯甘えていい、たくさん我儘が言えるのは若さの特権だよ……?」
 
 お茶会は思った以上に盛り上がった。道化師の齎した夢の話をして泣き出したカタリーナをあやすのは少々手間になったが、彼女にとってもいい気分転換になったようだ。
 アデルの兜の下がみたいと早速の我儘を言い始めた妻をなだめる姿をやけにマグノリアが楽しげな顔で見ていたのは覚えておいて、あとで問い詰めることにしよう。
 途中マグノリアがこっそりとカタリーナにわたしていた雑誌の表紙にはやけに刺激的な内容が書かれていたように思う。あとで取り上げる必要があるかもしれないとディルに目配せをおくったのに、無視をされた。
 
 別れ際、彼らを見送るときにカタリーナはぎゅうと強くテオドールの手をにぎっていた。
 二人が見えなくなったころ、ぽつりと「テオドール様は私がまもるんです」などと言うものだから――。
「ひゃあ、テオドール様?!」
 愛おしい少女をテオドールは強くだきしめ、愛している、と告げるのであった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

リクエストありがとうございました。
楽しんでいただければ嬉しく思います。
領主についてのいろいろは考えておきますです。

ギリギリ納品になってしまって申し訳ありません!
FL送付済