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Groom! 黒に拘る男爵様

●マクガフィン男爵のタキシード
「こんな色じゃ駄目だ!」
言ってケインは手にした布を投げ捨て……ようとして棚に戻す。一応店のものなので無下に扱っちゃいけないという理性は働いたようだ。続けて様々な黒の布束を見始める。
「これは黒の発色が違う。こっちは色はいいけど生地が……色味は悪くないんだけど――」
彼の名前はケイン・マクガフィン。イ・ラプセルの男爵である。若くして親の跡目を継いだ彼は、この度結婚することになった。その為のタキシードを用意しようとしているのだが……。
「イメージに合わない!」
との事である。イ・ラプセルの服屋をめぐっているのだが、この結果であった。
「くそぅ、やはりパイントレントの蜜でないと駄目なのか!」
「しかしアレを退治するには腕利きの騎士を雇わないと難しいかと」
「分かっている……! くぅ、こうなれば――」
頭を抱えるマクガフィン男爵。馬車に乗り込み、そのまま神殿に向かった。
●自由騎士への依頼
「――て事情なわけよ」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は集まったオラクル達に説明を開始する。
「依頼人はマクガフィン男爵。三十二歳男性。この度結婚することになったんだけど、タキシードに使う黒の布がない。昔見た父親のタキシードがあってそのイメージが頭に引っかかってるらしい。
で、そのタキシードはパイントレントっていう幻想種から採れるらしい」
なんだそれ。オラクルたちの顔が言葉なくそう語っていた。
「そのトレント……動く木の幻想種なんだけど、ちょくちょく狩人を襲って怪我させている幻想種でね。どうにかしてほしい、っていう依頼も来てたんだ。なので二つまとめて解決しようってことよ」
なんだかなぁ。オラクルたちの顔が言葉なくそう語っていた。
「そんな顔するなよ。この結婚も結構面白い話でね。なんと男爵様とマザリモノの大恋愛の末の結婚なんだよ。その辺りもあって他の貴族達に隙を見せたくない、って気合が入ってるんだ。
上には上の苦労があるんだ。察してやってくれ」
――ノウブルとマザリモノの結婚。
マザリモノに子供が出来ないこともあるが、亜人との結婚は古い考えを持つ者が多い社交界ではいまだに非常識な行為だ。その壁を打ち破る一打となるかもしれない。
そう意味では、新生国王が立ち上げた自由騎士に頼むのは妥当な判断なのだろう。
「で、どうする? 一応言うと、そのトレント結構強いよ」
ヨアヒムの問いかけに、貴方は――
「こんな色じゃ駄目だ!」
言ってケインは手にした布を投げ捨て……ようとして棚に戻す。一応店のものなので無下に扱っちゃいけないという理性は働いたようだ。続けて様々な黒の布束を見始める。
「これは黒の発色が違う。こっちは色はいいけど生地が……色味は悪くないんだけど――」
彼の名前はケイン・マクガフィン。イ・ラプセルの男爵である。若くして親の跡目を継いだ彼は、この度結婚することになった。その為のタキシードを用意しようとしているのだが……。
「イメージに合わない!」
との事である。イ・ラプセルの服屋をめぐっているのだが、この結果であった。
「くそぅ、やはりパイントレントの蜜でないと駄目なのか!」
「しかしアレを退治するには腕利きの騎士を雇わないと難しいかと」
「分かっている……! くぅ、こうなれば――」
頭を抱えるマクガフィン男爵。馬車に乗り込み、そのまま神殿に向かった。
●自由騎士への依頼
「――て事情なわけよ」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は集まったオラクル達に説明を開始する。
「依頼人はマクガフィン男爵。三十二歳男性。この度結婚することになったんだけど、タキシードに使う黒の布がない。昔見た父親のタキシードがあってそのイメージが頭に引っかかってるらしい。
で、そのタキシードはパイントレントっていう幻想種から採れるらしい」
なんだそれ。オラクルたちの顔が言葉なくそう語っていた。
「そのトレント……動く木の幻想種なんだけど、ちょくちょく狩人を襲って怪我させている幻想種でね。どうにかしてほしい、っていう依頼も来てたんだ。なので二つまとめて解決しようってことよ」
なんだかなぁ。オラクルたちの顔が言葉なくそう語っていた。
「そんな顔するなよ。この結婚も結構面白い話でね。なんと男爵様とマザリモノの大恋愛の末の結婚なんだよ。その辺りもあって他の貴族達に隙を見せたくない、って気合が入ってるんだ。
上には上の苦労があるんだ。察してやってくれ」
――ノウブルとマザリモノの結婚。
マザリモノに子供が出来ないこともあるが、亜人との結婚は古い考えを持つ者が多い社交界ではいまだに非常識な行為だ。その壁を打ち破る一打となるかもしれない。
そう意味では、新生国王が立ち上げた自由騎士に頼むのは妥当な判断なのだろう。
「で、どうする? 一応言うと、そのトレント結構強いよ」
ヨアヒムの問いかけに、貴方は――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.パイントレント三体の討伐(生死は問わない)
●敵情報
・パイントレント(×3)
移動可能な樹木の幻想種です。姿は松の木そのもので、根の部分が軟体動物のように動いて移動します。性格は攻撃的。言葉は通じますが、基本人間は嫌いです。
殺す必要はありませんが、蜜を取るにはHPを0にする必要があります。
攻撃方法
殴る 物近単 枝のような腕で思いっきり殴ってきます。
松葉 物近範 周囲一帯に鋭い葉を飛ばします。
松ぼっくり 物遠単 頭の松ぼっくりを投げつけます。
奇声 魔近範 人の可聴領域を超えた音を放ち、撹乱させます。
●NPC
・ケイン・マクガフィン
男爵。三十二歳男性。ラノベ三冊分(適当)の騒動の末、マザリモノの女性と結婚することになりました。マザリモノとの結婚は社会的な障害が多く、他貴族に隙を与えないために完璧な衣装を作ろうと奮起しています。
現場まで道案内してくれますが、戦闘時は隠れています。
●場所情報
とある山の中。時刻は昼。獣道のため、足場は悪いです。何かしらの対策がなければ回避判定にペナルティがつきます。木々がうっそうとしているため、遠距離攻撃も何かしらの対策がなければペナルティがつきます。
戦闘開始時、敵前衛に『パイントレント(×3)』がいます。
事前付与は一度だけとします。ホムンクルス召喚も可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
・パイントレント(×3)
移動可能な樹木の幻想種です。姿は松の木そのもので、根の部分が軟体動物のように動いて移動します。性格は攻撃的。言葉は通じますが、基本人間は嫌いです。
殺す必要はありませんが、蜜を取るにはHPを0にする必要があります。
攻撃方法
殴る 物近単 枝のような腕で思いっきり殴ってきます。
松葉 物近範 周囲一帯に鋭い葉を飛ばします。
松ぼっくり 物遠単 頭の松ぼっくりを投げつけます。
奇声 魔近範 人の可聴領域を超えた音を放ち、撹乱させます。
●NPC
・ケイン・マクガフィン
男爵。三十二歳男性。ラノベ三冊分(適当)の騒動の末、マザリモノの女性と結婚することになりました。マザリモノとの結婚は社会的な障害が多く、他貴族に隙を与えないために完璧な衣装を作ろうと奮起しています。
現場まで道案内してくれますが、戦闘時は隠れています。
●場所情報
とある山の中。時刻は昼。獣道のため、足場は悪いです。何かしらの対策がなければ回避判定にペナルティがつきます。木々がうっそうとしているため、遠距離攻撃も何かしらの対策がなければペナルティがつきます。
戦闘開始時、敵前衛に『パイントレント(×3)』がいます。
事前付与は一度だけとします。ホムンクルス召喚も可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年07月10日
2018年07月10日
†メイン参加者 8人†
●
「なんか強ぇトレントがいるらしいな? いいねぇ。敵が強ければ強いほど滾るってもんさ!」
笑いながら山道を進む『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)。アンはヨアヒムのトレントに対する評価を聞いて腰を上げたのだ。強い相手と戦う。この喜びに勝るものはない。強い相手に勝って、うまい酒を飲むのだ。
「木から取れる……どんな黒なのかな?」
『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)はマクガフィン男爵は欲しがる服の色を想像していた。アマノホカリには木の蜜を使って塗られた黒の民芸品があると聞いたことがある。それに似たものだろうか?
「すきな人と結婚するのに、立場とか世間の目とか気にしなきゃいけないなんて。えらくなると、めんどくさいことが増えるんだなぁ」
よくわからない、という顔をする『春雷』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)。孤児院の子供達は種族関係なく仲がいい。世界が皆そうであればいいのに、と思いながらそう簡単にいかないこともイーイーは知っている。
「僕もキジンの腕で世間からよく見られてないことは知っているけど……そんなに貴族とマザリモノの結婚て難しいんだ」
こちらもよくわからない、という顔をする『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)。ノウブル以外の種族が良く思われていないのは肌で感じているが、好きあうのに障害はないと思っていた。少なくとも服に拘るほどではない、と。
「皆の事はナナンが守る! のだ!」
ガッツポーズをして 『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)が手を振り上げる。まだ小さな子供だが、その歩みはしっかりとしており力強い。不安定な山道でも問題なく進む様は――あ、バナナの皮踏んで転んだ。
「トレント達はなまじ言葉が通じてしまうぶん、遺恨もより根深いものとなったのかもしれませんね」
樹木だけに、と付け加える『護神の剣』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。クールなイメージがあるカスカが唐突に放った冗句に笑うべきかスルーすべきか微妙な空気が流れた。それさえ計算済み、とばかりにカスカは変わらぬ表情で山を登っていく。
「本末転倒を起こさぬ様、どうか慎重に……と思っていたが、存外山歩きには慣れおられるようで」
男爵用に山歩きの装備を用意した『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)だが、ほぼ完ぺきな山歩き装備の男爵を見て目を丸くしていた。山には狩りなどで良く出かけるらしく、そう言った装備は取り揃えていたようだ。
マクガフィン男爵の案内でパイントレントがいると思われる領域にたどり着く。そして小一時間したところで、松ぼっくりを発見する。
「あそこだな。では任せた」
マクガフィン男爵が指さす先には、針のように鋭い葉を持つ木の幻想種がいた。あちらも自由騎士達に気づいたのか、怒りの表情でこちらに近づいてくる。
「では護衛任された」
サポートとしてついてきた自由騎士達がマクガフィン男爵を守るように動いた。五人の自由騎士が、男爵を守るように展開する。
「我々は互いの生息域について話し合いにきた。あと、蜜もくれ」
パイントレントに話しかける『イ・ラプセル自由騎士団』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)。だが、
「はぁ、この松三兄弟に話し合い? 降伏の宣言以外聞かへんで」
「痛み目みぃひんとわからんのかぁ。アホな人間共が」
「へっへっへ。そんじゃまぁ、遊ぶとするか。精々楽しませてくれや」
交渉にすらならない状況だが、ルシアスにすればそれでも良かった。『話し合いを断ったのは相手の方である』と言う結果が戦う気持ちを幾分か楽にしてくれる。
幻想種と自由騎士。二つの戦意がぶつかり合う。
●
「では行くとしましょう。庭師ですから木の扱いは慣れています」
言って抜刀と同時にカスカが走る。トレント達の伸びた枝葉を見ながら、形が悪いと心の中で評価した。切るべきと所を切って伸ばすべきところを伸ばす。植物はそうやって手入れしないといけないのだ。――と思ってしまう商業病であった。
足場の悪さをものともせず一気にトレントに密着し、刀を振るう。狙うはトレントの胴体ともいえる幹の部分。腰を回転させると同時に振るわれる横一文字の一閃。それがトレントの硬い幹を傷つける。
「庭木になれとまでは言いませんから、少しだけ散髪してみません?」
「どあほうが! この髪型はワシのトレードマークや!」
「うーん、ちょっと大人しくなってね」
話を聞いてくれそうにないと判断したアリアがレイピアを抜く。狩人を襲う幻想種と聞いていたが、どうにも気が荒いタイプのようだ。蜜を手に入れるにせよ、一度大人しくさせる必要がある。話をするのはそれからだ。
魔力で自分自身の動きを活性化させ、一気に踏み込むアリア。周囲の木々を蹴って移動しながら交差の瞬間にレイピアを振るう。鋭い一閃がトレントの幹に傷をつけ、その傷が瞬時に凍り付く。新たに覚えた魔術の追加攻撃。凍える一閃がトレントの動きを止める。
「ねえ、どうして狩人さん達を襲ったの?」
「自分より弱い奴の都合なんて知らんわ! 松三兄弟の邪魔するんならお前らも同じじゃ!」
「だったら、あんたらを負かせれば都合を聞いて切れるってことだな」
テンガロンハットの位置を治しながらアンが笑う。弱い奴には従わないということは、強い奴の言葉しか聞かないということだ。こちらの言い分を聞いてもらうには、まず相手を負かす必要がある。そういう意味では好都合だ。
自然の中で動く知識。その知識を元に射線を確保するアン。同種の木々は栄養分を得る習性上、一定以上の間を置いて生える。その感覚を意識しながら引き金を引いた。木々の隙間を縫うように飛ぶ弾丸がトレントの揺るがす。
「ジャックポット! さて、あんたの強さはその程度かい?」
「黙れ人間。松三兄弟の恐ろしさ、その身に刻んでやるわ!」
「そいつは困る。なので治させてもらうぞ」
ため息をつきながらツボミがパイントレントをサーチする。ガラの悪い幻想種だが、その強さはヨアヒムの評した通りだ。奇声を上げるの攻撃に精神に強い爪痕を残すことがないことを確認し、安堵した。
パイントレントから仲間が受けたダメージを見て、魔力を回すツボミ。傷が深い人間を吟味し、魔力を解放した。癒しの力に変換された魔力の波が自由騎士達に触れ、その傷の痛みを消していく。
「おそらくあいつが長男だろうな。そいつから叩いていけ」
「ああ!? こんな弱っちい傷なんざ、痛くもかゆくもねぇんだよ!」
「じゃあナナンが行くねー!」
元気よくツヴァイハンダーを掲げてナナンが手を振る。両手用の大剣を苦もなく掲げ、根っこででこぼこした木々の間をひょいひょいと歩いていく。ナナンはその小さな体からは想像もできないほどの力を有していた。
剣を持つ手の平に力がこもる。同時に腰を下ろし、大地を踏みしめる足に力をかけた。体全体を使って自分の身長以上の剣を動かし、トレントを切り裂かんと振り下ろす。その一撃はパワーだけではなく、鋭いテクニックが含まれていた。
「どっかーん! これでどうだぁ!」
「松一のアニィ!? おのれぇ、タマ取ったらぁ!」
「たま、って何だろう……?」
首をかしげるグリッツ。銃の弾丸の事かな、と思ったけど文脈的にないだろうなぁと思いなおした。意味は解らないが激昂しているのは確かなようで、やはり話し合うには大人しくさせるしかないかと納得する。
ライフルを構え、瞳に魔力を集中させる。望遠の魔力が視界を広げ、木々の隙間をより正確に脳裏に意識させた。体戦隊でライフルを支え、落ち着いた心で引き金を引くグリッツ。弾丸はトレントの幹に命中し、頭部(?)に傷跡を残す。
「人間が嫌いっていうか、格下に見ているなら仕方ないよね」
「当たり前じゃ! ワシらはトレントやど。道具使わな森の中歩けへん弱小種族と一緒にするな!」
「偉い偉くないを決めるつもりはないけど」
トレントの叫びを遮るようにイーイーがその前に立つ。種族による差別は存在する。それは生まれ持った肉体的な有利不利が最たるものだ。確かに種族的にトレントは『強い』のだろう。だがそれが種として『格上』かどうかは別問題だ。
お腹に力を込め、闘志を込めて叫ぶ。オニヒトの吼え猛る叫びがトレント達の動きを止める。その隙を逃すことなく、イーイーのフランベルジュが一閃した。炎を表す波状の刃が幹を傷つける。
「面倒なので、いったん黙らせる。交渉はそれから」
「交渉? お前ら人間の言葉なんざ、聞く意味ないわ。ボケェ!」
「実に好戦的だな。成程、依頼が発生するのもうなずける」
トレントの態度を見てルシアスが頷いた。狩人に被害を与えるという報告は聞いていたが、ここまで好戦的だと、むしろ大きなトラブルになる前に駆けつけることが出来て幸運と言えよう。最悪、人里に被害が出ていた可能性もある。
トレントをブロックしながら、武器を構えるルシアス。戦争の結果により得た鋼の肉体。それはトレントの攻撃を受け止める壁となっていた。殴られた衝撃に耐えたルシアスは、お返しとばかりにバスタードソードで斬りかかる。確かな手ごたえが伝わってきた。
「おおお、こいつら強いで! 軍隊ちゃうか?」
「はっ、やったらそいつらを返り討ちにしてハクつけたるわ!」
「おうよ。ワイら松三兄弟に恐れるモン無しや!」
自由騎士達の強さを認めながら、しかし退くつもりのないパイントレント達。それは虚勢ではなく、確かな実力に裏打ちされた言葉だ。
自由騎士達も侮ることなく戦いを続ける。男爵の依頼もあるが、危険な幻想種をこのまま放置するつもりはない。
戦いは激しく加速していく。
●
遠近共に対応できるパイントレントだが、攻撃手段は近距離の方が多い。そういうこともあって、その攻撃は前衛サイドに比重が多く置かれた。何よりも彼らの恐ろしい所は――
「葉っぱニードルじゃ! 喰らえオラァ!」
「ひぃ、アニィの葉は痛ぇぜ! 負けてられるか!」
「キエアアアアアアアアア!」
味方を巻き込むことを前提で放つ範囲攻撃である。他のトレント達にもダメージを与えるが、自分達よりももろい人間の方が先に倒れる。そう計算しての半自爆的な行動だ。
「きゃん!」
「ナナンはまだ負けないんだからっ!」
範囲攻撃に耐えきれずアリアとナナンが英雄の欠片を削られるほどのダメージを追う。
「……やるねえ。流石だよ」
銃撃戦の末にアンが力尽きる。最初から最後まで前のめりのガンファイト。楽しかったよ、と言いたげに笑みを浮かべて気を失う。
「動きを止めるから。グリ、よろしく」
前衛の疲弊具合を察し、イーイーはパイントレントの動きを止める方向で動く。咆哮をあげて相手を威圧し、その足を止める作戦だ。足を止めている時間はそれほど多くはないだろうが、上手く合わせてくれる息の合った友がいれば――
「任せろ!」
イーイーに応えてライフルの銃身を動かすグリッツ。動き回る相手を捕らえることは難しい。だが止まるタイミングが分かっているのなら、その難易度は極端に下がる。イーイーの動くタイミングに合わせ、引き金を引く。銃声と共にトレントが倒れ伏した。。
「バカスカバカスカ範囲攻撃をしおって。ええい、回復が間に合わん!」
ツボミは回復にひっきりなしだった。多人数を癒そうとすれば、術の都合上一人の回復量は単体を癒すのに比べて少なくなる。ツボミの回復よりもダメージが多い為、いつかはこちらが力尽きるだろう。その前に決着をつけないと。
「確かに頑丈なようだな。そちらには劣るが、硬さならこちらも負けてはいない」
キジン化した胸を叩き、ルシアスが誇るように言う。歴戦の経験が生む防御術とキジン化したことによる防御力。三体の幻想種の攻撃を防ぐ鉄壁はそうやって生まれていた。とはいえその耐久も無限ではない。早く決着をつけたいい所だ。
「パイントレントちゃんは森を守る親分さんになればいいのに?」
ガラの悪いパイントレントの口調を聞きながら、ナナンがそんなことを言う。イ・ラプセルにもガラの悪い人はいる。そう言った人は縄張り内の人間を護るために強さを誇示しているという。それと重ね合わせたのだろうか。
「癖の悪い枝ですね。次はそちらを落としましょうか」
パイントレントの枝に吹き飛ばされ、悪態をつくカスカ。木々の間を縫うように動き、瞬く間に刀の間合に枝を捕らえる。形の悪い枝は落とすべし。『逢瀬切乱丸』を振るい、パイントレントの枝を切り裂いていく。
「こっちこっち!」
木々の間を飛び回るように移動するアリア。障害物が多い森の中は、足場が多いとポジティブに解釈していた。が、やはり平地に比べて動きづらいのは確かだ。バランスをとりながら跳躍し、切り裂いたと同時に移動する。
一進一退の攻防は、パイントレントの戦線離脱により自由騎士の優勢に傾いていく。集中砲火により一体ずつパイントレントを倒してきた効果が、花開いたようだ。
「だい、じょうぶ」
イーイーのフラグメンツが削られたが、幻想種の猛攻もここまで。
「陛下からも美少女という絶対的事実の次に、フォレストマスターの人と覚えられる私の実力を侮ったのが敗因です」
木々の間を縫うように動くカスカ。森の状況を活かし、木々を盾にしながらの攻防が戦いに貢献したと言えよう。滑る方な歩法で距離を詰め、重心を崩さぬままに刀を振るう。
「やはりその枝葉は邪魔だったようですね」
ちん、という納刀の音と同時に最後のパイントレントが倒れ、邪魔と言われた枝と葉が切り裂かれて地面に落ちた。
●
気を失ったパイントレントから蜜を回収するマクガフィン男爵。色々手慣れている当たり、ふんぞり返っているだけの貴族ではないようだ。
「あー……。そういやそんなことも頼まれてたっけか」
戦いに満足していたアンは、蜜の事を忘れていたようだ。
「食べられるかな……と思ったけど……この匂いは」
「井戸のロープみたいなにおいがする」
蜜と聞いて甘い味を想像していたグリッツは実物を見て諦めた。その匂いをイーイーが正確に表現する。
「男爵としてはこの幻想種をどうしたい? 俺はそれに従おう」
蜜を採取するマクガフィンに向けて、ルシアスはそう問いかける。立場上、自由騎士はエドワード国王直轄なので、この男爵に従う理由はない。だがこの男爵がどう判断するかを見てみたくなった。
「必要な蜜さえ取れれば問題ない」
「成程。蜜を使って嫁と蜜月な関係を築くということだな」
うんうんと頷くルシアス。本人は場を和ます冗談のつもりだ。
そう。若干場は荒れていた。意識を取り戻したパイントレントが殺せと叫んでいるのだ。
「畜生、好きにしやがれ!」
「おうよ! 俺たちゃ、死ぬのなんかこわくねぇ!」
捨て鉢になって叫ぶパイントレント達。因みにその枝葉はカスカの手によりカットされていた。無駄を削ぎ落し、すらっとした感覚だ。……人間に例えれば、アフロを削ぎ落してショートヘアにした感じか。
「満足しました。あとの交渉は任せます」
やりたいことはやり切った、とカスカはクールに言い放った。
「よし。端的に言うぞ。山奥に引っ込んで出て来るな。指定範囲より人里側に近づくな。その範囲で人を襲うな。
あとこれを破ったら今度は殺す」
ツボミの要求は、要するに住み分けだ。森の一定区画の自由は認めるが、そこから入って来るなら容赦はしない。そういう契約だ。
「待てや! それだと人間が範囲に入って来ても、抵抗するなってことじゃねぇか!?」
「区間を超えないように狩人達には言っておく」
「その代わり、その範囲内の動物たちはパイントレントさんが守ってあげてねぇ」
イーイーとナナンが付け加える。不承不承だが、パイントレント達はその条件を飲むことにした。生殺与奪権を握られている部分もあるが、単純に人間を攻めすぎると痛い目に合うということを察したのだろう。
「結婚おめでとうございます! お嫁さんのためにも蜜で染めたタキシードでがんばってください 」
「うむ、ありがとう。これで期限までにどうにかなりそうだ」
グリッツの祝福を受け、頷くマクガフィン。もう用は済んだと撤収の準備をしていた。パイントレントに関しては自由騎士に一任するようだ。
自由騎士達もこれ以上ここにいる必要はない。狩人への話し合いと区画の設定。やるべきことはたくさんあるのだから。
その後――
自由騎士が設定した区間を守っているのか、パイントレントによる被害は極端に減った。ゼロではない数件に関しては密猟者が立ち入った等によるものでパイントレントの攻撃も『動物を守る』範囲にとどまっていた。
そしてマクガフィン男爵の結婚式だが――実はまだ行われていない。
「すまないが、ウェディングドレスを作るために力を貸してほしい!」
「イブリース化した蚕が村を襲うっていう予知があって、丁度いいから一緒に片づけてもらおうかと」
まだまだ先は長そうである。
「なんか強ぇトレントがいるらしいな? いいねぇ。敵が強ければ強いほど滾るってもんさ!」
笑いながら山道を進む『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)。アンはヨアヒムのトレントに対する評価を聞いて腰を上げたのだ。強い相手と戦う。この喜びに勝るものはない。強い相手に勝って、うまい酒を飲むのだ。
「木から取れる……どんな黒なのかな?」
『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)はマクガフィン男爵は欲しがる服の色を想像していた。アマノホカリには木の蜜を使って塗られた黒の民芸品があると聞いたことがある。それに似たものだろうか?
「すきな人と結婚するのに、立場とか世間の目とか気にしなきゃいけないなんて。えらくなると、めんどくさいことが増えるんだなぁ」
よくわからない、という顔をする『春雷』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)。孤児院の子供達は種族関係なく仲がいい。世界が皆そうであればいいのに、と思いながらそう簡単にいかないこともイーイーは知っている。
「僕もキジンの腕で世間からよく見られてないことは知っているけど……そんなに貴族とマザリモノの結婚て難しいんだ」
こちらもよくわからない、という顔をする『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)。ノウブル以外の種族が良く思われていないのは肌で感じているが、好きあうのに障害はないと思っていた。少なくとも服に拘るほどではない、と。
「皆の事はナナンが守る! のだ!」
ガッツポーズをして 『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)が手を振り上げる。まだ小さな子供だが、その歩みはしっかりとしており力強い。不安定な山道でも問題なく進む様は――あ、バナナの皮踏んで転んだ。
「トレント達はなまじ言葉が通じてしまうぶん、遺恨もより根深いものとなったのかもしれませんね」
樹木だけに、と付け加える『護神の剣』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。クールなイメージがあるカスカが唐突に放った冗句に笑うべきかスルーすべきか微妙な空気が流れた。それさえ計算済み、とばかりにカスカは変わらぬ表情で山を登っていく。
「本末転倒を起こさぬ様、どうか慎重に……と思っていたが、存外山歩きには慣れおられるようで」
男爵用に山歩きの装備を用意した『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)だが、ほぼ完ぺきな山歩き装備の男爵を見て目を丸くしていた。山には狩りなどで良く出かけるらしく、そう言った装備は取り揃えていたようだ。
マクガフィン男爵の案内でパイントレントがいると思われる領域にたどり着く。そして小一時間したところで、松ぼっくりを発見する。
「あそこだな。では任せた」
マクガフィン男爵が指さす先には、針のように鋭い葉を持つ木の幻想種がいた。あちらも自由騎士達に気づいたのか、怒りの表情でこちらに近づいてくる。
「では護衛任された」
サポートとしてついてきた自由騎士達がマクガフィン男爵を守るように動いた。五人の自由騎士が、男爵を守るように展開する。
「我々は互いの生息域について話し合いにきた。あと、蜜もくれ」
パイントレントに話しかける『イ・ラプセル自由騎士団』ルシアス・スラ・プブリアス(CL3000127)。だが、
「はぁ、この松三兄弟に話し合い? 降伏の宣言以外聞かへんで」
「痛み目みぃひんとわからんのかぁ。アホな人間共が」
「へっへっへ。そんじゃまぁ、遊ぶとするか。精々楽しませてくれや」
交渉にすらならない状況だが、ルシアスにすればそれでも良かった。『話し合いを断ったのは相手の方である』と言う結果が戦う気持ちを幾分か楽にしてくれる。
幻想種と自由騎士。二つの戦意がぶつかり合う。
●
「では行くとしましょう。庭師ですから木の扱いは慣れています」
言って抜刀と同時にカスカが走る。トレント達の伸びた枝葉を見ながら、形が悪いと心の中で評価した。切るべきと所を切って伸ばすべきところを伸ばす。植物はそうやって手入れしないといけないのだ。――と思ってしまう商業病であった。
足場の悪さをものともせず一気にトレントに密着し、刀を振るう。狙うはトレントの胴体ともいえる幹の部分。腰を回転させると同時に振るわれる横一文字の一閃。それがトレントの硬い幹を傷つける。
「庭木になれとまでは言いませんから、少しだけ散髪してみません?」
「どあほうが! この髪型はワシのトレードマークや!」
「うーん、ちょっと大人しくなってね」
話を聞いてくれそうにないと判断したアリアがレイピアを抜く。狩人を襲う幻想種と聞いていたが、どうにも気が荒いタイプのようだ。蜜を手に入れるにせよ、一度大人しくさせる必要がある。話をするのはそれからだ。
魔力で自分自身の動きを活性化させ、一気に踏み込むアリア。周囲の木々を蹴って移動しながら交差の瞬間にレイピアを振るう。鋭い一閃がトレントの幹に傷をつけ、その傷が瞬時に凍り付く。新たに覚えた魔術の追加攻撃。凍える一閃がトレントの動きを止める。
「ねえ、どうして狩人さん達を襲ったの?」
「自分より弱い奴の都合なんて知らんわ! 松三兄弟の邪魔するんならお前らも同じじゃ!」
「だったら、あんたらを負かせれば都合を聞いて切れるってことだな」
テンガロンハットの位置を治しながらアンが笑う。弱い奴には従わないということは、強い奴の言葉しか聞かないということだ。こちらの言い分を聞いてもらうには、まず相手を負かす必要がある。そういう意味では好都合だ。
自然の中で動く知識。その知識を元に射線を確保するアン。同種の木々は栄養分を得る習性上、一定以上の間を置いて生える。その感覚を意識しながら引き金を引いた。木々の隙間を縫うように飛ぶ弾丸がトレントの揺るがす。
「ジャックポット! さて、あんたの強さはその程度かい?」
「黙れ人間。松三兄弟の恐ろしさ、その身に刻んでやるわ!」
「そいつは困る。なので治させてもらうぞ」
ため息をつきながらツボミがパイントレントをサーチする。ガラの悪い幻想種だが、その強さはヨアヒムの評した通りだ。奇声を上げるの攻撃に精神に強い爪痕を残すことがないことを確認し、安堵した。
パイントレントから仲間が受けたダメージを見て、魔力を回すツボミ。傷が深い人間を吟味し、魔力を解放した。癒しの力に変換された魔力の波が自由騎士達に触れ、その傷の痛みを消していく。
「おそらくあいつが長男だろうな。そいつから叩いていけ」
「ああ!? こんな弱っちい傷なんざ、痛くもかゆくもねぇんだよ!」
「じゃあナナンが行くねー!」
元気よくツヴァイハンダーを掲げてナナンが手を振る。両手用の大剣を苦もなく掲げ、根っこででこぼこした木々の間をひょいひょいと歩いていく。ナナンはその小さな体からは想像もできないほどの力を有していた。
剣を持つ手の平に力がこもる。同時に腰を下ろし、大地を踏みしめる足に力をかけた。体全体を使って自分の身長以上の剣を動かし、トレントを切り裂かんと振り下ろす。その一撃はパワーだけではなく、鋭いテクニックが含まれていた。
「どっかーん! これでどうだぁ!」
「松一のアニィ!? おのれぇ、タマ取ったらぁ!」
「たま、って何だろう……?」
首をかしげるグリッツ。銃の弾丸の事かな、と思ったけど文脈的にないだろうなぁと思いなおした。意味は解らないが激昂しているのは確かなようで、やはり話し合うには大人しくさせるしかないかと納得する。
ライフルを構え、瞳に魔力を集中させる。望遠の魔力が視界を広げ、木々の隙間をより正確に脳裏に意識させた。体戦隊でライフルを支え、落ち着いた心で引き金を引くグリッツ。弾丸はトレントの幹に命中し、頭部(?)に傷跡を残す。
「人間が嫌いっていうか、格下に見ているなら仕方ないよね」
「当たり前じゃ! ワシらはトレントやど。道具使わな森の中歩けへん弱小種族と一緒にするな!」
「偉い偉くないを決めるつもりはないけど」
トレントの叫びを遮るようにイーイーがその前に立つ。種族による差別は存在する。それは生まれ持った肉体的な有利不利が最たるものだ。確かに種族的にトレントは『強い』のだろう。だがそれが種として『格上』かどうかは別問題だ。
お腹に力を込め、闘志を込めて叫ぶ。オニヒトの吼え猛る叫びがトレント達の動きを止める。その隙を逃すことなく、イーイーのフランベルジュが一閃した。炎を表す波状の刃が幹を傷つける。
「面倒なので、いったん黙らせる。交渉はそれから」
「交渉? お前ら人間の言葉なんざ、聞く意味ないわ。ボケェ!」
「実に好戦的だな。成程、依頼が発生するのもうなずける」
トレントの態度を見てルシアスが頷いた。狩人に被害を与えるという報告は聞いていたが、ここまで好戦的だと、むしろ大きなトラブルになる前に駆けつけることが出来て幸運と言えよう。最悪、人里に被害が出ていた可能性もある。
トレントをブロックしながら、武器を構えるルシアス。戦争の結果により得た鋼の肉体。それはトレントの攻撃を受け止める壁となっていた。殴られた衝撃に耐えたルシアスは、お返しとばかりにバスタードソードで斬りかかる。確かな手ごたえが伝わってきた。
「おおお、こいつら強いで! 軍隊ちゃうか?」
「はっ、やったらそいつらを返り討ちにしてハクつけたるわ!」
「おうよ。ワイら松三兄弟に恐れるモン無しや!」
自由騎士達の強さを認めながら、しかし退くつもりのないパイントレント達。それは虚勢ではなく、確かな実力に裏打ちされた言葉だ。
自由騎士達も侮ることなく戦いを続ける。男爵の依頼もあるが、危険な幻想種をこのまま放置するつもりはない。
戦いは激しく加速していく。
●
遠近共に対応できるパイントレントだが、攻撃手段は近距離の方が多い。そういうこともあって、その攻撃は前衛サイドに比重が多く置かれた。何よりも彼らの恐ろしい所は――
「葉っぱニードルじゃ! 喰らえオラァ!」
「ひぃ、アニィの葉は痛ぇぜ! 負けてられるか!」
「キエアアアアアアアアア!」
味方を巻き込むことを前提で放つ範囲攻撃である。他のトレント達にもダメージを与えるが、自分達よりももろい人間の方が先に倒れる。そう計算しての半自爆的な行動だ。
「きゃん!」
「ナナンはまだ負けないんだからっ!」
範囲攻撃に耐えきれずアリアとナナンが英雄の欠片を削られるほどのダメージを追う。
「……やるねえ。流石だよ」
銃撃戦の末にアンが力尽きる。最初から最後まで前のめりのガンファイト。楽しかったよ、と言いたげに笑みを浮かべて気を失う。
「動きを止めるから。グリ、よろしく」
前衛の疲弊具合を察し、イーイーはパイントレントの動きを止める方向で動く。咆哮をあげて相手を威圧し、その足を止める作戦だ。足を止めている時間はそれほど多くはないだろうが、上手く合わせてくれる息の合った友がいれば――
「任せろ!」
イーイーに応えてライフルの銃身を動かすグリッツ。動き回る相手を捕らえることは難しい。だが止まるタイミングが分かっているのなら、その難易度は極端に下がる。イーイーの動くタイミングに合わせ、引き金を引く。銃声と共にトレントが倒れ伏した。。
「バカスカバカスカ範囲攻撃をしおって。ええい、回復が間に合わん!」
ツボミは回復にひっきりなしだった。多人数を癒そうとすれば、術の都合上一人の回復量は単体を癒すのに比べて少なくなる。ツボミの回復よりもダメージが多い為、いつかはこちらが力尽きるだろう。その前に決着をつけないと。
「確かに頑丈なようだな。そちらには劣るが、硬さならこちらも負けてはいない」
キジン化した胸を叩き、ルシアスが誇るように言う。歴戦の経験が生む防御術とキジン化したことによる防御力。三体の幻想種の攻撃を防ぐ鉄壁はそうやって生まれていた。とはいえその耐久も無限ではない。早く決着をつけたいい所だ。
「パイントレントちゃんは森を守る親分さんになればいいのに?」
ガラの悪いパイントレントの口調を聞きながら、ナナンがそんなことを言う。イ・ラプセルにもガラの悪い人はいる。そう言った人は縄張り内の人間を護るために強さを誇示しているという。それと重ね合わせたのだろうか。
「癖の悪い枝ですね。次はそちらを落としましょうか」
パイントレントの枝に吹き飛ばされ、悪態をつくカスカ。木々の間を縫うように動き、瞬く間に刀の間合に枝を捕らえる。形の悪い枝は落とすべし。『逢瀬切乱丸』を振るい、パイントレントの枝を切り裂いていく。
「こっちこっち!」
木々の間を飛び回るように移動するアリア。障害物が多い森の中は、足場が多いとポジティブに解釈していた。が、やはり平地に比べて動きづらいのは確かだ。バランスをとりながら跳躍し、切り裂いたと同時に移動する。
一進一退の攻防は、パイントレントの戦線離脱により自由騎士の優勢に傾いていく。集中砲火により一体ずつパイントレントを倒してきた効果が、花開いたようだ。
「だい、じょうぶ」
イーイーのフラグメンツが削られたが、幻想種の猛攻もここまで。
「陛下からも美少女という絶対的事実の次に、フォレストマスターの人と覚えられる私の実力を侮ったのが敗因です」
木々の間を縫うように動くカスカ。森の状況を活かし、木々を盾にしながらの攻防が戦いに貢献したと言えよう。滑る方な歩法で距離を詰め、重心を崩さぬままに刀を振るう。
「やはりその枝葉は邪魔だったようですね」
ちん、という納刀の音と同時に最後のパイントレントが倒れ、邪魔と言われた枝と葉が切り裂かれて地面に落ちた。
●
気を失ったパイントレントから蜜を回収するマクガフィン男爵。色々手慣れている当たり、ふんぞり返っているだけの貴族ではないようだ。
「あー……。そういやそんなことも頼まれてたっけか」
戦いに満足していたアンは、蜜の事を忘れていたようだ。
「食べられるかな……と思ったけど……この匂いは」
「井戸のロープみたいなにおいがする」
蜜と聞いて甘い味を想像していたグリッツは実物を見て諦めた。その匂いをイーイーが正確に表現する。
「男爵としてはこの幻想種をどうしたい? 俺はそれに従おう」
蜜を採取するマクガフィンに向けて、ルシアスはそう問いかける。立場上、自由騎士はエドワード国王直轄なので、この男爵に従う理由はない。だがこの男爵がどう判断するかを見てみたくなった。
「必要な蜜さえ取れれば問題ない」
「成程。蜜を使って嫁と蜜月な関係を築くということだな」
うんうんと頷くルシアス。本人は場を和ます冗談のつもりだ。
そう。若干場は荒れていた。意識を取り戻したパイントレントが殺せと叫んでいるのだ。
「畜生、好きにしやがれ!」
「おうよ! 俺たちゃ、死ぬのなんかこわくねぇ!」
捨て鉢になって叫ぶパイントレント達。因みにその枝葉はカスカの手によりカットされていた。無駄を削ぎ落し、すらっとした感覚だ。……人間に例えれば、アフロを削ぎ落してショートヘアにした感じか。
「満足しました。あとの交渉は任せます」
やりたいことはやり切った、とカスカはクールに言い放った。
「よし。端的に言うぞ。山奥に引っ込んで出て来るな。指定範囲より人里側に近づくな。その範囲で人を襲うな。
あとこれを破ったら今度は殺す」
ツボミの要求は、要するに住み分けだ。森の一定区画の自由は認めるが、そこから入って来るなら容赦はしない。そういう契約だ。
「待てや! それだと人間が範囲に入って来ても、抵抗するなってことじゃねぇか!?」
「区間を超えないように狩人達には言っておく」
「その代わり、その範囲内の動物たちはパイントレントさんが守ってあげてねぇ」
イーイーとナナンが付け加える。不承不承だが、パイントレント達はその条件を飲むことにした。生殺与奪権を握られている部分もあるが、単純に人間を攻めすぎると痛い目に合うということを察したのだろう。
「結婚おめでとうございます! お嫁さんのためにも蜜で染めたタキシードでがんばってください 」
「うむ、ありがとう。これで期限までにどうにかなりそうだ」
グリッツの祝福を受け、頷くマクガフィン。もう用は済んだと撤収の準備をしていた。パイントレントに関しては自由騎士に一任するようだ。
自由騎士達もこれ以上ここにいる必要はない。狩人への話し合いと区画の設定。やるべきことはたくさんあるのだから。
その後――
自由騎士が設定した区間を守っているのか、パイントレントによる被害は極端に減った。ゼロではない数件に関しては密猟者が立ち入った等によるものでパイントレントの攻撃も『動物を守る』範囲にとどまっていた。
そしてマクガフィン男爵の結婚式だが――実はまだ行われていない。
「すまないが、ウェディングドレスを作るために力を貸してほしい!」
「イブリース化した蚕が村を襲うっていう予知があって、丁度いいから一緒に片づけてもらおうかと」
まだまだ先は長そうである。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどく「よーし。これだけ足場悪くすれば三体でどうにかなるだろう」
自由騎士『ハイバランサー!』『リュンケウスの瞳!』『サバイバル!』
どくどく(概ね想定通り――)
???「フォレストマスターです」
どくどく「はい!?」
……というわけで、MVPはセイリュウジさんに。
一応言うと、プレイングの内容と戦術面すべて含めての結果です。甲乙つけがたい中で一歩秀でたのがスキル選択ということで。
それではまた、イ・ラプセルで。
自由騎士『ハイバランサー!』『リュンケウスの瞳!』『サバイバル!』
どくどく(概ね想定通り――)
???「フォレストマスターです」
どくどく「はい!?」
……というわけで、MVPはセイリュウジさんに。
一応言うと、プレイングの内容と戦術面すべて含めての結果です。甲乙つけがたい中で一歩秀でたのがスキル選択ということで。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済