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【贄ノ歯車】Refine!洗練されし戦車システム!



●ヴィスマルクと一人の少女
「イ・ラプセルに行ってみないか?」
 軍人さんのその一言はとても優しくて。
「イ・ラプセルって……アーウィンお兄ちゃんが戦いに行ったところ?」
「ああ、もしかしたら会えるかもしれないぞ」
 アーウィンお兄ちゃん。昔この収容所(ラーゲリ)にいたミミズクのお兄ちゃん。兵隊さんになって、その国に行ったっきり帰ってこない。もしかしたら死んだのかもしれない、って思ってたけど軍人さんは生きているって言ってくれた。
 私は、アーウィンお兄ちゃんに会いたくて。だから軍人さんの言葉にうんと頷きました。

「痛い、痛い、やめてぇ!」
「まだ反抗の意思があるようです。続けて」
「ごめんなさい! 痛いのはもう嫌なの! だから、だから殴らないで……!」
「自己防衛の意思がなくなるまでプログラム実行。その後に薬物によるプログラムを」
「一か月かけて調律を行い、『チャイルドギア』に組み込む。休みを与える余裕はないぞ」
(助けて、助けてお兄ちゃん……!)
 そして私は――検体β9765は、ヴィスマルク軍人に逆らいません。だって、さからうといたいこぶしとおくすりがくるから。
 わたしはてつのなかにとじこめられて、ぐんじんさんのいうままにうごきました。せんしゃをうごかし、ひとをうって、ひとをひいて、たくさんたくさんころして、いやだけど、さからうといたいから、いたいのはいやだから。いや、いや、いや、だれかたすけ――

●自由騎士
「蒸気騎士を動かす駆動系を利用した戦車、だ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集まった自由騎士達に説明を開始する。
「ヴィスマルクの戦車部隊鋼炎機甲団が動き出した。新型の戦車とその随行兵だ。
 戦車自体は水陸両用型のオルクと呼ばれるモノだが、そこに組み込まれた新たな駆動系が厄介な品物だ」
 フレデリックは額に眉を寄せ、如何ともしがたい表情を浮かべた。
「蒸気騎士が個人で動かせることは知っているな? たとえ子供であっても」
「ああ」
「重さにすればかなりのモノとなる蒸気機関だ。だがそれを蒸気騎士を作った研究者は個人が動かせるようにした。
 そのシステムを戦車に転用したのがこの戦車だ。中には子供が閉じ込められている」
 はい? どういうことだと問い返そうとする自由騎士をの返事を聞かずフレデリックは言葉を続ける。唾棄したくなるほどの怒りを抑える様に。
「身長が低く体重が軽い子供を使うことで機械の大きさをコンパクト化し、軍に対する反抗心を暴力と薬物で奪い取り、言う事を聞かせるように仕向けて機械に閉じ込め、人殺しを強要している。
 あれは、そう言う戦車だ」
 一気に説明された言葉。それを聞いて自由騎士はどう思っただろうか? 少なくとも、フレデリックは強く拳を握って激情を押さえていた。
「進軍先はこのレガート砦だ。お前らは先行して止めてほしい。
 随行兵を押さえ、戦車の動きを止めれば『ギア』を戦車から切り離すことは可能だ」
『ギア』を取り外せば、戦車は駆動系を失い役立たずになる。あるいは『ギア』をそのままにして、イ・ラプセルで利用できるようにすることもできるだろう。その為には中に居る子供に新たな『調律』が必要になるが。
 何をするにしても、戦車部隊を止めなくてはならない。自由騎士達は急ぎ現場に向かうのであった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.戦車『オルク』の戦闘不能
 どくどくです。
 だれだよこんなひどいへいきをかんがえたのは。どくどくか。ひどいやつだな!(机ドン!
 なお、北部収容所の子供を使おうと言い出したのはたぢまCWです。

●敵情報
・オルク(×1)
 ヴィスマルクの戦車です。大きさ2mほど。水陸両用製で、安定性も高く、あらゆる場面で活躍できるとされています。
『チャイルドギア』と呼ばれる新型の駆動システムを利用しており『まるで生きているかのように』動きます。

攻撃方法
主砲 攻遠範 主砲を放ち、敵陣を攻撃します。
副砲 攻近範 備え付けられた機関銃。【二連】
水中適正 P 水場でも動きは損なわない。

・ヴィスマルク兵(×8)
 戦車に随行している兵士です。所属は鋼炎機甲団(機甲科)。防御タンク3名。ガンナー3名。魔導士2名です。種族は全員ノウブル。
 ランク2までのスキルを使用していきます。

・『チャイルドギア』
 蒸気騎士を動かすシステム(メタな事を言うと、10才の子供キャラでも重さ百キロ近くの蒸気騎士を動かすことが出来る理由みたいなもの)を転用した駆動システム。
 大きさ150cmの正方形で、身長120センチ以下の子供を拘束して押し込みます。子供はヴィスマルクに逆らえないように物理的且つ化学的に調教されており、恐怖におびえる精神が高い闘争本能を生み出します。その狂気ともいえる精神性が高い駆動性を生み出し、命令に従い自動で戦う戦車を完成させました。

 鹵獲すればイ・ラプセルでも使用可能です。その場合、同じような大きさの子供を『調律』する必要があります。子供以外を使用しようとすると、サイズの問題で戦車そのものを解体するレベルで改造が必要となるでしょう。

●場所情報
 ヴィスマルクとイ・ラプセルの境界線にある川。川の対岸はイ・ラプセルの領土、という場所です。時刻は昼。足場や広さなどは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『オルク』『防御タンク(×3)』が。後衛に『ガンナー(×3)』『魔導士(×2)』がいます。
 敵を待ち受ける布陣なので、事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
3モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2020年11月05日

†メイン参加者 8人†




「生きていればいい、とは思ってはいたがこれは……」
 迫ってくる戦車を見ながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は渋い顔をした。思いを馳せるのは『チャイルドギア』に閉じ込められた子供の事だ。生きていれば治すことはできる。だが、現状を『良かった』と喜ぶ気にはなれなかった。
「弱い子供は何時の時代も利用される。まったくクソッタレだぜ」
 皮肉気に言いながら武器を構える『海蛇を討ちし者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。いつの時代も、弱い者は食いつぶされる。ウェルスもそういう光景を何度も見てきた。だからと言って、慣れると言うわけではない。
「過去にも同じ事例がありましたね。ヘルメリアでしたか」
『断罪執行官』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は淡々と言い放つ。材料費や輸送コストを考えれば、兵器や車両は小型化が望まれる。その為に利用できるものを利用するのは技術の発展だろう。だが、倫理を欠いていいとは思わない。
「確かに兵器としての効率はいいのかもしれないね。けど」
 拳を握りしめて『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は口を開く。戦車と言う兵器を少ないマンパワーで動かす。しかもそれが兵士の言う事を聞く存在ならなお良い。それが小さければ、コストも安いだろう。そんな事は分かっている。けど。
「結果良ければすべてよし、というわけでも無かろうよ」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は静かに言って杖を構えた。ヴィスマルクの国内事情に口を出す気は毛頭ない。あるのはただ、目の前にある兵器に対する怒りだけだ。
「軍人として、このような兵器を認めるわけにはいかない」
 言って抜刀する『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)。軍服を着た者が兵器に乗るのはいい。だが、子供を無理やり兵器に乗せるのは間違っている。軍人は弱きを守る者なのだから。
「大きさ的に、孤児院の兄弟と同じ年齢なんだよね……」
 孤児院の小さな子供達を思いながら『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)は銃を握りしめた。優しく微笑みかけてくるあの笑顔が、大人の都合で壊されている。そう思うと怒りが込み上げてきた。
「あんなものを、新兵器と言うのですかヴィスマルクは」
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は戦車を前に静かに口を開く。力を使うのではなく、力に生贄を捧げるコンセプト。それを良しとする軍隊。勝利を得るために行ったヴィスマルクの判断。その全てに、ロザベルの精神は揺らいでいた。
「敵影発見。自由騎士だ」
「これより交戦に移る。オルク、戦闘準備だ」
 ヴィスマルク軍人の命令に従い、オルクの主砲が動く。命令とその受諾。そのプロセスに『ギア』にどのような負荷がかかっているかはわからない。だが、中に居る子供は逆らうこともできないのだろう。
 自由騎士達は迫るヴィスマルク軍に対し、武器を構えて戦闘に挑む。


「行くぞ」
 戦いの口火を切ったのはグローリアだ。魔力を神経に通し、反射速度を上げた後にヴィスマルク軍に迫る。冷静に、と自らを律しながらも同時に燃え盛るような怒りを抑えることが出来ない。その感情をぶつけるようにまっすぐ走っていく。
 防御用の盾を構えるヴィスマルク兵に向かい『忍冬・真打』を振るう。踏み込み、抜刀、そして構えからの振り下ろし。何万と繰り返した鍛錬が自然と理想的な斬撃を生み出す。防御の間も与えぬ鋭い一撃がヴィスマルク兵を襲う。
「貴様らの侵攻、止めさせてもらう」
「女神は貴方達を赦すかもしれませんが、私は赦しません」
 たおやかに、しかし強く感情を込めてアンジェリカが口を開く。キツネの表情は人間には分かりにくい。なのでそこにどのような感情が含まれているのか。余人には理解できなかった。ただ静かに、強く武器を握りしめる。
 鋭くヴィスマルク兵を見て、武器を振るう。素早く動き、力強く武器を振るう。自らの内にある獣の因子を最大限に強め、一気に解き放つ。獣性の解放と共に放たれた衝撃波が戦場を駆け巡っていく。
「慈悲深い女神に代わり、貴方達は私達が裁きます」
「まー。これは普通に救助案件だ。個人の事情はさておき」
 戦車の方を見て、頷くツボミ。少女の知り合いが身内にいる、というだけの関係だ。正直ここで見捨ててもその身内は仕方ないと笑って諦めるだろう。その光景が想像できるだけに、なお放置はできなかった。何よりも、医者として無視はできない。
 戦車の砲撃に耳を塞ぎながら、戦場を見渡す。立ち方、出血量、表情、息遣い。そういった情報から体調を見極め、最も倒れそうと思ったヒトを中心に癒していく。相手はヴィスマルクとその戦車だ。慎重に動くに越したことはない。
「せめて子供の居場所が分かれば対象に入れられるのだがな……。くそ!」
「戦車の中の、その中の駆動系だからな。視認どころか具体的にどこにいるかもわからないんで、迂闊に砲撃も加えられん」
 ツボミの言葉に頷くウェルス。相手を殺していいのなら、兵器による戦車破壊を躊躇する理由はない。だが、中に居る子供を助けるとなると戦車への攻撃はあまり派手にはできない。精神的にも肉体的にも負担がかかっているのは確かなのだから。
 だが攻撃の手を緩めるわけにもいかない。そんなジレンマに悩まされながらも、ウェルスは引き金に指をかける。何はなくともヴィスマルクの戦車随行兵を倒さなくては。狙いを定めて引き金を引き、敵を撃っていく。
「子供を犠牲にしても心が痛まないなんざ、酷い連中だぜ」
「全てのヴィスマルク軍人がそうではない……と思いたいです」
 戦車と切り結びながらロザベルはそう呟いた。多くはないかもしれないが、ヴィスマルク人の全てがああいった戦車を推奨しているとは思いたくはない。そういう風潮に悲しむ人も、居るのは確かなのだから。
 その考えをいったん振り切り、目の前の戦いに意識を戻すロザベル。ヘビィブレードを手にして、魔導用のコーティングを蒸気騎士の鎧に施す。その後にヴィスマルク兵に切りかかった。怒りを抑えながら、しかしその炎を絶やすことなく。
「これが元々ヘルメリアの技術だと思うと……いえ、技術は皆使い手次第なのですね」
「そうだね。銃が人を殺すんじゃない。人が銃で殺すんだ」
 ロザベルの言葉に頷くグリッツ。銃を教わる際に徹底的に教えられた言葉。銃は人を殺す道具だが、引き金を引くのはあくまで自分なのだ。だからその意味をきちんと理解しろ、と。今となってはそれが身にしみてわかる。
 弾丸を込めて、狙いを定めて、引き金を引く。何度も繰り返した動作。しかしそのたびに人を撃つ意味を心に刻むグリッツ。ギアとなった子供を救うため、なんどもそれを繰り返す。今ここに居ない親友の分まで戦うと決めたのだから。
「負けないよ! どんなことがあっても救うんだ!」
「そうだな。皆が同じ気持ちだと信じているよ」
 テオドールは頷き、魔力を展開する。なるほど、あの戦車は有用な兵器なのだろう。ヴィスマルクが採用をするほどの成果を上げるのだろう。だが、有用であることと国の為になることは違う。少なくとも、テオドールは貴族としてあれを受け入れられない。
『黒杖ミストルティン』と『白剣レーヴァティン』を振るう。黒と白の魔術具に宿ったテオドールの魔力が戦場を走る。呪いの力が顕現化し、魔力が戦車の動きを止めた。安心はできないが、それでも余裕は生まれる。その隙に次手を思考し、行動するのだ。
「救うのだよ。出来れば、ではなく必ず」
「そうだよ! 閉じ込められた子供を救うんだ!」
 言って拳を振るうカノン。戦いに勝つためにあらゆる作戦を考えるのは当然だ。その為に兵器が開発されるのも当然だ。それでも、勝つという目的のために誰かが犠牲になることは許されない。それがどれだけ効率がよくとも、だ。
 拳を振るい、ヴィスマルク兵に攻撃を加えていくカノン。彼らに用はないが、戦車を止める邪魔をするのなら容赦はしない。相手の攻撃をかいくぐり、大地を踏みしめて強い一撃を撃ち放つ。鍛え抜かれた一打が、ヴィスマルクに叩き込まれる。
「邪魔するなら、容赦はしないぞ!」
「それはこちらのセリフだ。イ・ラプセル」
「こちらも任務なのでな。主砲撃て!」
 ヴィスマルク兵の合図とともに、撃ち放たれる戦車の主砲。そこにイ・ラプセルに対する躊躇はない。
 怖いから。痛い目にあいたくないから。だから死んでください。
 それを他人のことを考えない非道だと攻め立てる自由騎士はいない。むしろそこまで追い込んだヴィスマルクに対する恨みがあった。
 ヴィスマルクとの戦いは、終わらない。強い怒りが戦場に渦巻いていく。


 イ・ラプセルは戦車を守ろうとする随行兵から先に攻撃する。守りの要である防御タンクを優先し、その数を少しずつ減らしていく。
 だがそれは高い攻撃力を持つ戦車を後に回すことと同意だ。主砲の砲撃が後衛の自由騎士を襲い、副砲が前衛に掃射されていく。
「回復を狙ってくるとは、効率的な奴らだな」
「あいたたた……」
「まだまだ。倒れるわけにはいかんよ」
 戦車の主砲でツボミ、グリッツ、テオドールがフラグメンツを削られる。
「そうだ。まだ倒れられん」
「ここで倒れたら、誰も救えなくなるもんね!」
「はい。全てを救いましょう」
 グローリア、カノン、アンジェリカも副砲を受けてフラグメンツを燃やすほどのダメージを受けていた。
「休んでる余裕はないぞ。一分一秒ごとに子供の命が削られてると思え!」
 仲間に、そして自分自身を叱咤するように叫ぶツボミ。閉塞された空間で苛まれる精神。暴力。薬物投与。医学の知識がその危険性をツボミに教えてくれる。ギリギリ正気を保っているように調整しているのだろうが、おそらく後遺症など考えてはいない。そう思うと焦燥感が湧き上がってくる。
「了解だ。一気に連中をぶっ飛ばす」
 ツボミの言葉にウェルスが頷いた。特殊加工された弾丸を拳銃に詰め込み、狙いを定める。弾丸はヴィスマルク兵の肩に撃ち込まれ、その後に次回と変形を繰り返して周囲の組織を破壊していく。
「このまま押し切ります」
 場の勢いは自由騎士側に向いている。それを察したアンジェリカは力を振り絞り、武器を振るう。炎を纏った衝撃波がヴィスマルク兵に叩き込まれ、一気に押し切る。最後の随行兵が倒れ、もう動かないことを確認した後に意識を戦車に向ける。
「君の未来を変える事は出来るから、信じて待っていて欲しい♪」
 カノンは歌いながら戦車を攻撃する。声が『チャイルドギア』内に居る子供に届いているかはわからない。届いていたとしても、歌を理解できる状態かはわからない。それでも可能性はゼロではないのなら、カノンは歌い続ける。
「『ギア』の大まかな位置は分かるが、確証までは無理か」
 テオドールは戦車の動き等から『チャイルドギア』の正しい場所を推測しようとしていた。だが、100%の確信はない。他国の新技術を見ただけで推測するのは不可能だ。透視の魔眼あたりがあれば確実だったかもしれない。
「待ってろ。今助けてやる!」
 軍刀を振るい、戦車に挑むグローリア。中の子供を安心させてやりたいが、それには奇跡が必要だ。そしてその奇跡を生むには、もう一歩身を削る覚悟が必要だった。歯を噛みしめながら、攻撃を重ねていく。
「……うん。子供がいるのはあそこだね。装甲が薄いのは……」
 グリッツは透視の魔眼を行使して、子供がいる場所を見つける。そこを避けるように射撃を繰り返していた。しっかり狙って、銃を安定させて、撃つ。常に思考し、行動する。そうしなければ、助けられない命があるのだから。
「一気に、行きます」
 随行兵が全員倒れた後に、ロザベルはもちうる兵装全てを解放して戦車を攻める。もう邪魔されることはない。出来るだけ早く戦車を止め、そして『チャオルドギア』から子供を救い出すのだ。
 一気呵成に戦車を攻め立てる自由騎士。その攻撃を前に、少しずつ戦車の動きも鈍ってくる。
「こんな兵器は、この世界には必要ない」
 グローリアは言って軍刀を戦車の隙間に突き刺し、軽くひねる。内部にあったベルトを裂き、その動きを封じる。その後に、体を大きくひねって履帯を斬りつけた。履帯のつなぎ目を切り裂き、千切れるように履帯が破壊される。
「動きは止めた。『ギア』を外すぞ!」
 グローリアの言葉と共に、自由騎士達は戦車に殺到する。
 その中にある『チャイルドギア』を外すために。


 サポートに来ていたマザリモノの錬金術師の応急処置を受けながら、自由騎士達は『チャイルドギア』を外していた。
「これで外れるはずです」
『チャイルドギア』の取り外しに一躍買ったのは、ロザベルの蒸気機関技師の知識である。彼女が連れてきた技師部隊との連携もあり、滞りなく戦車から『チャイルドギア』は取り外すことが出来た。ネジを外し、中の子供を縛っているベルトを外す。
「注射の跡と痣……とにかく水を飲ませろ! あと体を温めろ!」
 戦車の外に子供を引っ張り出した自由騎士達は、先ず子供の治療に力を注いだ。ツボミは子供の惨状に閉口しそうになるが、すぐに我を取り戻して治療に専念する。生きていればいい、とは言ったがこれは『兵器として生かされていた』にすぎない。
「…………」
 グローリアはぐったりとした子供の手を取り、ぎゅっと握りしめる。小さく壊れそうな命。冷たく消えそうな体温。それをここに留めるように、優しく包み込む。こんなことがあってはいけない。こんなことを起こさない為に軍人がいるはずなのに。
「こんな兵器を利用しようなんて人がいたら……」
 カノンは子供を抱きしめながら、怒りの声をあげる。抱きしめても反応しない子供の身体に、さらに怒りを高めていく。効率がいいから。いなくなってもいい子供はたくさんいるから。そんな理由がまかり通ってはいけない。
「……これでもまだ『マシ』な方なのだろうな」
 舌打ちしそうな表情でウェルスは呟く。長時間拘束された状態で閉じ込められ、人殺しを強要される。それ以前に徹底的に暴力を振るわれている子供。死んでいないのはヴィスマルクが死なないように『手加減』したにすぎないのだ。
「そうだな。こうなる前に亡くなった子もいるやもしれん。それを思うとやるせない」
 ウェルスの言葉にうなだれるテオドール。こんなやり方が100%上手くいくはずがない。ここに至るまでに亡くなった子供もたくさんいたのだろう。……いや、今なお『チャイルドギア』の生産は続いているのなら――
「……悲しいことです。これが戦争なのですね」
 静かに祈るアンジェリカ。勝つためにはなんでもする。それがヴィスマルクなのだとしたら、その勝利の裏側でどれだけの命が消えているのだろうか? どれだけの悲劇が繰り返されているのだろうか?
「止めないと。こんなことはすぐに!」
 拳を握って叫ぶグリッツ。孤児院出身のグリッツには戦災孤児の弟妹達がたくさんいる。自分の孤児院ではないから構わない。ヴィスマルクだから死んでもいい。などと言えるようなグリッツではなかった。
「その生産ライン、そして軍事拠点には新型のプロメテウスがあるのですか」
 ロザベルは遠く地平線の向こうを見る。その方向にあると思われるヴィスマルクの拠点。そこに『チャイルドギア』搭載戦車が作られていると言う。そしてそこにはヴィスマルクで作られたプロメテウス/ファッケルがいるのだ。
 怒りに任せて攻め込んでも、返り討ちに会うだけだ。それに子供の治療が優先される。自由騎士達は担架で子供を運びながら、帰路についた。

 病院に搬送された子供の状態は、芳しいとは言えない。予断を許さない状況だ。
 だが少なくとも心はもう壊れることはない。兵器として人を殺し、そうすることでしか生きることが出来なかった状況から脱することが出来たのだから。
 鉄血国家ヴィスマルク。人を人と思わない国家だからなしえる常勝の戦術。

 その在り方に対する怒りの炎は、静かに自由騎士の中で燃え始めていた。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。


今回、非常に興味深いリソースの使われ方がありましたが、アニムス使用のマニュアルに抵触すると言う事で却下という判定になりました。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済