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Uglychildren! 醜いゴブリンの子!

●これはこの時代ではよくある事
「アアアアアア、アアアアアアア!」
狂ったように腕を振るい、近寄る者を傷つけていく。それがつい昨日まで自分を守ってくれたものであっても。
その瞳に理性はなく、その表情に優しさはない。ただ暴れるだけ暴れる狂戦士。錆びたナイフは血にまみれ、その赤を見て興奮したかのように叫び声は大きくなる。
「ドルバの兄貴ぃ! もうやめてくれよ!」
「無駄だ。イブリースになったらもう戻れない。分かってるだろ?」
「でもよぉ! こんなのってないぜ!」
叫ぶのはイブリース化した男――ドルバと呼ばれるマザリモノについて従って来た子供だ。ストリートチルドレン。戦争で親を失った子供達の末路の一つ。孤児院はノウブルの子供で埋まっているヴェスドラゴンにおいて、亜人の孤児の末路は兵士に捕まってラーゲリでの強制労働されるかスラムで肩を寄せ合って悪事に走るかだ。
そんなストリートチルドレンを纏め、子供達を保護していたドルバ。それがイブリース化したのだ。ヴィスマルク兵を撒いて逃げる際に腹部に弾丸を喰らい、負の感情が強くなったのが原因だが、それは子供達には分からない。
ただわかるのは、イブリース化した者はもう助からないという事実。兵士に見つかり、処分されるしかないのだ。
「嫌だぁ、兄貴を置いて逃げる事なんてできない!」
「馬鹿! やめろ!」
だが感情がそれを拒否する。子供は制止の声を振り切り、ドルバの元に走っていく。あの兄貴がイブリースなんて嘘だ。きっとナイフを降ろして、優しく頭を撫でてくれる。そう信じて抱き着こうとする。
だが、無情にもナイフは振り下ろされる――
●隠密作戦開始
「王宮突撃の際に、橋を幾つか確保しておきたいです」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は集まった自由騎士達に説明を開始する。
「王都に攻め入る際に一番怖いのはヴィスマルク軍の挟撃です。それを防ぐために、橋をいくつか落して突撃ルートを減らしておけば時間を稼げます」
橋。言うまでもなく川にかけられた建築物で。そこを防がれるか破壊すれば川を迂回するよりほかない。歩兵のように渡河可能であればともかく、戦車などの車両系は手も足も出なくなる。
「調べた結果、こちらの橋はストリートチルドレンがねぐらにしている模様で。交渉して別の場所に立ち退いてもらうとしましょう」
橋の下に浮浪者や家のないものが住むということは、この時代ままあることだ。簡素なテントを張って雨風を塞ぎ、ストリートで盗みをして腹を満たす。法的には如何ともしがたい立場といえよう。――まあそれはヴェスドラゴンに不法侵入している自由騎士も同じなのだが。
そして件の橋にたどり着く。その際に、一体のイブリースを見た。
自由騎士の目的は橋の確保だ。このままストリートチルドレンがイブリースに殺されても問題はない。むしろ交渉の手間が省けて都合がいい。イ・ラプセルが潜入しているという秘密を守るという意味では、むしろそうすべきだ。
貴方は――
「アアアアアア、アアアアアアア!」
狂ったように腕を振るい、近寄る者を傷つけていく。それがつい昨日まで自分を守ってくれたものであっても。
その瞳に理性はなく、その表情に優しさはない。ただ暴れるだけ暴れる狂戦士。錆びたナイフは血にまみれ、その赤を見て興奮したかのように叫び声は大きくなる。
「ドルバの兄貴ぃ! もうやめてくれよ!」
「無駄だ。イブリースになったらもう戻れない。分かってるだろ?」
「でもよぉ! こんなのってないぜ!」
叫ぶのはイブリース化した男――ドルバと呼ばれるマザリモノについて従って来た子供だ。ストリートチルドレン。戦争で親を失った子供達の末路の一つ。孤児院はノウブルの子供で埋まっているヴェスドラゴンにおいて、亜人の孤児の末路は兵士に捕まってラーゲリでの強制労働されるかスラムで肩を寄せ合って悪事に走るかだ。
そんなストリートチルドレンを纏め、子供達を保護していたドルバ。それがイブリース化したのだ。ヴィスマルク兵を撒いて逃げる際に腹部に弾丸を喰らい、負の感情が強くなったのが原因だが、それは子供達には分からない。
ただわかるのは、イブリース化した者はもう助からないという事実。兵士に見つかり、処分されるしかないのだ。
「嫌だぁ、兄貴を置いて逃げる事なんてできない!」
「馬鹿! やめろ!」
だが感情がそれを拒否する。子供は制止の声を振り切り、ドルバの元に走っていく。あの兄貴がイブリースなんて嘘だ。きっとナイフを降ろして、優しく頭を撫でてくれる。そう信じて抱き着こうとする。
だが、無情にもナイフは振り下ろされる――
●隠密作戦開始
「王宮突撃の際に、橋を幾つか確保しておきたいです」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は集まった自由騎士達に説明を開始する。
「王都に攻め入る際に一番怖いのはヴィスマルク軍の挟撃です。それを防ぐために、橋をいくつか落して突撃ルートを減らしておけば時間を稼げます」
橋。言うまでもなく川にかけられた建築物で。そこを防がれるか破壊すれば川を迂回するよりほかない。歩兵のように渡河可能であればともかく、戦車などの車両系は手も足も出なくなる。
「調べた結果、こちらの橋はストリートチルドレンがねぐらにしている模様で。交渉して別の場所に立ち退いてもらうとしましょう」
橋の下に浮浪者や家のないものが住むということは、この時代ままあることだ。簡素なテントを張って雨風を塞ぎ、ストリートで盗みをして腹を満たす。法的には如何ともしがたい立場といえよう。――まあそれはヴェスドラゴンに不法侵入している自由騎士も同じなのだが。
そして件の橋にたどり着く。その際に、一体のイブリースを見た。
自由騎士の目的は橋の確保だ。このままストリートチルドレンがイブリースに殺されても問題はない。むしろ交渉の手間が省けて都合がいい。イ・ラプセルが潜入しているという秘密を守るという意味では、むしろそうすべきだ。
貴方は――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースの打破(生死問わず)
2.潜入していることがばれないようにする
2.潜入していることがばれないようにする
どくどくです。
イブリースを退治するだけの普通の依頼です。
●敵情報
・ドルバ(×1)
イブリース。ゴブリンのマザリモノ。18才男性。元は軽戦士だったらしく、複数のナイフを所持しています。ストリートチルドレンのまとめ役だったらしく、ヴェスドラゴンの戦災孤児をまとめていました。ヴィスマルク兵士との戦いで傷つき、イブリース化しています。
何もしなければ、最初のターンは自分に近づいてきた子供を攻撃するでしょう。
攻撃方法
斬撃 攻近範 錆びたナイフで攻撃してきます。
えぐり 攻近単 刃筋を回転させ、血管を裂く攻撃をしてきます。【スクラッチ2】
投擲 攻遠単 ナイフを投げてきます。
恨み 魔遠単 軍人階級に対する恨みを呪力に変えて飛ばしてきます。【カース1】
・ナイフ(×4)
ドルバのナイフです。宙に浮かび、近づく者から切り裂いていきます。
ドルバが戦闘不能(生死問わず)になれば、動きが止まります。
攻撃方法
突き 攻近単 突き刺してきます。
・ギネブ(×1)
OPで出てきた『子供』です。ゴブリンのマザリモノ。10歳男性。ドルバを本当の兄のように慕い、信じています。1点でもダメージを受ければ、死亡します。
彼の生死は、依頼の成功とは関係ありません。
●NPC
・ジョン・コーリナー(nCL3000046)
軽戦士なガジェット使い。相談卓内で支持されればその通りに動きます。なにも指示がない場合は、イブリースがチルドレンを皆殺しにした後にイブリースを攻撃します。
『コンフュージョンセル Lv4』『ズームスコープ Lv4』『チクタクノーム Lv4』『スモークボム Lv4』等を活性化しています。
・ストリートチルドレン(×14)
ドルバと一緒に活動していた戦災孤児たちです。種族は様々。
イブリース化したドルバに絶望しています。戦闘に巻き込まれない位置にいますが、自由騎士が何かの指示及び攻撃して殺害することは可能です。宣言だけで殺すことができるでしょう。
彼らの生死は、依頼の成功とは関係ありません。
・権能やスキル等について
戦いを知らない子供達にとって、オラクルの権能や戦闘スキルは未知の存在です。これらの行使によりイ・ラプセルの存在が露見することはありません。
強いて言えば『イブリースは殺すしかない』というのが彼らの常識です。浄化の権能は奇異に思われるでしょう。使用するなら、フォローは必要になります。
●場所情報
ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。その外周地域。スラムと言ってもいいレベルで治安は悪いです。その為、多少派手に暴れてもヴィスマルク兵士がやってくることはありません。
戦場は橋の下。近くに工場の排水が流されている川。明るさや広さや足場は戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ドルバ』(×1)『ナイフ(×4)』が。味方前衛に『ギネブ(×1)』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
イブリースを退治するだけの普通の依頼です。
●敵情報
・ドルバ(×1)
イブリース。ゴブリンのマザリモノ。18才男性。元は軽戦士だったらしく、複数のナイフを所持しています。ストリートチルドレンのまとめ役だったらしく、ヴェスドラゴンの戦災孤児をまとめていました。ヴィスマルク兵士との戦いで傷つき、イブリース化しています。
何もしなければ、最初のターンは自分に近づいてきた子供を攻撃するでしょう。
攻撃方法
斬撃 攻近範 錆びたナイフで攻撃してきます。
えぐり 攻近単 刃筋を回転させ、血管を裂く攻撃をしてきます。【スクラッチ2】
投擲 攻遠単 ナイフを投げてきます。
恨み 魔遠単 軍人階級に対する恨みを呪力に変えて飛ばしてきます。【カース1】
・ナイフ(×4)
ドルバのナイフです。宙に浮かび、近づく者から切り裂いていきます。
ドルバが戦闘不能(生死問わず)になれば、動きが止まります。
攻撃方法
突き 攻近単 突き刺してきます。
・ギネブ(×1)
OPで出てきた『子供』です。ゴブリンのマザリモノ。10歳男性。ドルバを本当の兄のように慕い、信じています。1点でもダメージを受ければ、死亡します。
彼の生死は、依頼の成功とは関係ありません。
●NPC
・ジョン・コーリナー(nCL3000046)
軽戦士なガジェット使い。相談卓内で支持されればその通りに動きます。なにも指示がない場合は、イブリースがチルドレンを皆殺しにした後にイブリースを攻撃します。
『コンフュージョンセル Lv4』『ズームスコープ Lv4』『チクタクノーム Lv4』『スモークボム Lv4』等を活性化しています。
・ストリートチルドレン(×14)
ドルバと一緒に活動していた戦災孤児たちです。種族は様々。
イブリース化したドルバに絶望しています。戦闘に巻き込まれない位置にいますが、自由騎士が何かの指示及び攻撃して殺害することは可能です。宣言だけで殺すことができるでしょう。
彼らの生死は、依頼の成功とは関係ありません。
・権能やスキル等について
戦いを知らない子供達にとって、オラクルの権能や戦闘スキルは未知の存在です。これらの行使によりイ・ラプセルの存在が露見することはありません。
強いて言えば『イブリースは殺すしかない』というのが彼らの常識です。浄化の権能は奇異に思われるでしょう。使用するなら、フォローは必要になります。
●場所情報
ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。その外周地域。スラムと言ってもいいレベルで治安は悪いです。その為、多少派手に暴れてもヴィスマルク兵士がやってくることはありません。
戦場は橋の下。近くに工場の排水が流されている川。明るさや広さや足場は戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ドルバ』(×1)『ナイフ(×4)』が。味方前衛に『ギネブ(×1)』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2021年06月14日
2021年06月14日
†メイン参加者 6人†
●
「これはまた、大変な状況だね。イ・ラプセル内なら簡単なんだけど……」
暴れるイブリースを前に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が眉を顰める。イブリース化したマザリモノと、ストリートチルドレン。ヴェスドラゴンに潜入した自由騎士は、自分達の存在を隠さなければならない。
イブリースを退治する事自体は可能だ。だが浄化の権能を使えば厄介なことになる。イブリース化したものは死ぬしかない。その常識を覆す存在がアクアディーネの権能だ。それを使えば、自由騎士の存在がばれる可能性が高い。
「……ともあれ、加勢しましょう」
スラムに紛れる為にボロボロのローブを纏った『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が盾を構える。橋に住むストリートチルドレンを説得しようとやってきたのだが、どうやら説得より先にやることが出来たみたいだ。
ここで見捨てるのが、軍務を優先する意味では正しいのだろう。他国民の子供がイブリースに殺害されたとしても、イ・ラプセルのお腹は痛まない。だがそれを理解したうえで、デボラは見捨てずに前に出る。
「みんな同じ気持ちで良かったぜ!」
『機盾ジーロン』ナバル・ジーロン(CL3000441)は動き出した自由騎士の糸を察し、笑顔を浮かべる。戦争である事や、潜伏の重要性はナバルも理解している。危ない橋を渡る事になるが、それでも救える命は救いたい。
甘いと言われることは理解している。感謝されない事も分かっている。それでもそれが正しいと思ったのなら、その道を進みたい。その果てに望む平和が待っているのなら、そこまで進みたい。傷つきながらも、ナバルはそう誓う。
「イブリース……本当に何なのでしょうか?」
狂暴化するゴブリンのマザリビトを前に『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は静かに呟く。人に仇を為し、変質させる現象。まるで悪意ある病気のように、悲劇を生み出していく。
今はそれを考えている余裕はない。首を振って思考を目の前の事に集中させる。イブリースが狙うのはストリートチルドレンの一人。声をかけても言う事を聞いてはくれないだろう。時間はない。急ぎ間に割って入り、凶刃を止める。
(戦災孤児か。イ・ラプセルとの戦争が原因でもあるんだよな)
ストリートチルドレンを洗浄から避難させながら『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそんな事を考える。戦争で親をなくしたり捨てられた子供達。イ・ラプセルの行動が、この国の子供達を苦しめたのかもしれない。
そこまで思ってから、首を振るウェルス。戦争の流れを止める事はできない。最善手はできるだけ早く戦争を終わらせることだ。その為に自分達が出来る事をやろう。できるだけ多くの命を救いながら。
(……アクアディーネ様の浄化の権能は本当に有り難いですね)
身に刻まれたオラクルの印を意識しながらセアラ・ラングフォード(CL3000634)は頷いた。イブリースは殺すしかない。そんな常識を打ち破り、命を救うのが女神アクアディーネの権能だ。アクアディーネの性格が顕れたかのような、そんな力。
だからこそ、この権能を使うという事は自分達の存在を示すことになる。だが、それを理解してなおセアラを含めた自由騎士達はイブリース化したマザリモノを浄化しようとしていた。楽な道ではないと理解しながら。
「ガアアアアア!」
暴れるイブリース。その脅威は一般人からすれば災害と言えよう。慕った隣人が暴徒と化す。その精神的な傷を含め、救いのない出来事。
その悲劇を止めるがために、自由騎士達は武器を手にした。
●
「させません」
言葉と同時にアンジェリカはイブリースに武器を振るう。前進に力を込めて、イブリースの重心を見据える。二足歩行で立つ以上、バランスをとる中心軸は必ず存在する。その軸を揺らすように武器を叩き込んだ。
ひるんだイブリースに追い打ちをかけるように、意識を集中するアンジェリカ。遥か東方のサムライの技。自分と切り合った相手の剣の動き。一戦で二を斬る表裏一体の太刀捌き。肉を断ち、そして骨を断つ必殺の一打がイブリースを襲う。
「救いましょう、この手の届く全てを」
「はい。手の届く範囲、全てに手を差し伸べます」
アンジェリカの言葉に頷くセアラ。仲間を癒しながら、同時に刃を向けるイブリースに目を向けた。孤児たちに慕われたゴブリンのマザリモノ。ここで命を絶たれれば、孤児たちは悲しみに暮れるだろう。他国の子供だろうが、見捨てていい道理はない。
仲間を癒しながら、イブリースの動きに注視する。仲間が壁となってイブリースの侵攻を塞ぎ、子供達に向かわせないようにしていた。手の届く範囲全て。それはこのイブリースが子供を傷つけないようにする事も、だ。慕ったヒトに傷つけられる。そんな悲劇を避けるために。
「誰も傷つけさせはしません」
「そうだね。難しいけど、出来ない事じゃない」
戦場全てを見ながらマグノリアは呟いた。イブリースを浄化して助けるだけなら難しくない。むしろ自由騎士達はそう言った戦いを繰り返してきた。問題なのはバレないようにそれを行う事だ。
やるべきことを頭の中で組み立てる。レンガを積み上げるように、一つずつ確実に。その一つがこの場での勝利、聖遺物に魔力を通し、そこから魔力の矢を精製する。魔を払う矢が螺旋を描き、イブリースを貫いた。
「かなり効いているようだね」
「俺の出番はなさそうだな。こちらに集中できていい」
善戦する仲間達を見ながら、ウェルスは子供達に目を向ける。ジョンと一緒に子供達を戦場から離す傍ら、優しく言葉をかけてその不安を晴らしていく。
「ドルバの兄貴が、兄貴が! おまえら、兄貴を苛めるなぁ!」
「苛めちゃいないさ。あの兄貴だってお前達を苛めたいわけじゃないからな。今はここから離れるんだ」
「やだぁ! だって兄貴、イブリースになったんだよ! もう戻らないんだよ! 最後まで一緒にいるぅ!」
「……そんな事、あの兄貴は望んじゃいないさ。暴力を振るうような兄貴だったのか?」
大丈夫、と言いかけてその言葉を飲み込むウェルス。その言葉は浄化の権能を知らない者からすれば偽の希望だ。今はそれを言う事はできない。
「……ええ、慕っている者に無下にされるのはたまりませんよね」
デボラはイブリースの攻撃を受け止めながら、そんな事を呟く。かつて婚約者に停滞裏切りを受けたデボラ。予想できたとはいえ、それでもその裏切りは痛かった。子供達のショックはそれ以上だろう。
それを想えば、この程度の攻撃などどうと言う事はない。イブリースの攻撃を盾で受け止め、足止めするように細かく足を動かし戦場を支配する。仲間を守り、攻め手の重度をあげる。それがデボラの役割。
「ここから先にはいかせません!」
「ああ、不幸な目になんかあわせねぇ!」
周囲を注視しながらナバルが叫ぶ。イブリースの動きを一番に見ているが、同時に子供達が飛び出してこないかも注意していた。感極まった子供が飛び出してこないとも限らない。そしてイブリースがそんな子供を攻撃しないように。
幸運な事に、子供達は仲間がしっかり遠ざけてくれている。それを確認すると、意識は全力でイブリースに向けることができる。ドルバの剣術と宙に浮くナイフの舞。その全てを受け止めながら、槍を振るって薙ぎ払う。
「そんなんじゃ俺に勝てないないぞ! どうしたどうした!」
挑発するように叫ぶナバル。ドルバを救おうとする騎士の一人ではなく、たまたま通りかかったスラム住人の演技だ。今はイ・ラプセルの鱗片を出すわけにはいかない。
敵の懐である以上、女神の権能を表に出して使えない。その足枷は確かに大きい。冷徹な事を言えば、それに拘らなければ楽な仕事なのだ。
だが、自由騎士達は敢えてドルバを救う道を選んだ。苦労してもいいとばかりに、イブリースを浄化する道を選んだ。その危険性を理解しながら、しかし誇りを持って歩む。
戦いは少しずつ激化していく。
●
(そろそろ頃合いかな)
イブリースのダメージ具合を見ながら、マグノリアは前に出てイブリースに近づく。川との距離を考慮しながら錬金術でイブリースにダメージを積み重ねていった。機会を見計ら居ながら、魔力を練り上げていく。
「悪くない攻撃ですが、私には通じません!」
イブリースが操るナイフの攻撃をさばきながら、デボラが声をあげる。威風堂々とした態度で立ちながら、子供達に攻撃を届かせないように立ち振舞っていた。信頼を得る計算ずくでもあったが、仮に違った状況でも守ることに躊躇はない。そんな動きだ。
(彼らが孤児になった原因になったのはオレらかもしれない)
ナバルは戦いながら、ヴィスマルクのストリートチルドレンのことを想っていた。戦争により親を失った子供達。その原因はイ・ラプセルも無関係ではない。そんなことを想いながら、今以上の不幸を出さないために盾を構える。
「いいか、俺の言う事をよく聞くんだ。先ずは……」
子供の目を見ながら、紳士な態度でウェルスが口を開く。同時に瞳に魔力を込め、視界を通して子供の脳に直接魔力を注ぎ込んだ。簡易な催眠状態にした後に、自分達のことを喋らないように命令する。
「流石にイブリース化していると、力強いですね。ですけど」
子供とは思えないパワーを駆使するイブリース。その一撃を癒すために魔力を開放するセアラ。幾多の経験を得て、多くの仲間を癒し続けたセアラ。その知識と見識はけして浅くはない。それらを下地にし、鍛えられた魔力をもって仲間達を支えていく。
「これでお終いです。お眠りなさい!」
裂帛と同時に放たれたアンジェリカの一撃。叩きつけるような力強い一撃がイブリースを打つ。明らかにバランスを崩し、崩れ落ちるイブリース。素人目に見ればこのまま倒れ、命尽きるだろう様子。だが、不殺の権能が命を守り、浄化の権能がイブリース化を解除していく。
(今だ)
それを待っていたかのように、マグノリアがイブリースの懐に入り、格闘動作に似た動きでタックルする。そのまま近くに流れていた川にイブリースと共に飛び込んだ。水しぶきを上げ、そのまま流されていく二人。
「あ。待ってください!」
マグノリアを追うようにセアラが川に近づき、足を滑らせるように川に落ちる。そのまま流されていくセアラ。自由騎士達は心配するように流された者達を見るが、今飛び込んでもどうしようもない、とばかりに足を止めた。
河原に静寂が落ちる。イブリースは撃退され、戦いはここに収縮したのであった。
●
「オレらの住処を荒らすな! あっちへいけ!」
戦闘を聞きつけてやってきた野次馬に、ナバルはそう言って追いはらう。橋占拠の目的は、モリグナと戦う際にこの橋を落すからだ。その時まで妖しい人が住み着いては意味がない。嫌な目で見られるが、戦いに巻き込むよりましだ。
「偽装は上手くいったみたいですね」
周囲の様子を確認しながら、デボラはため息をつく。浄化の権能がバレれば、イ・ラプセルの侵入がバレてしまう。証拠を残すことなくドルバを浄化するには、浄化して元気になった姿を見せるわけにはいかないのだ。上手く川に落ちて、誤魔化せただろう。
「お腹が空いたでしょうからパスタでも……おや?」
アンジェリカは子供達にパスタを作ってご馳走しようとして、その数が少ないことに気付く。確か十数名はいたはずだが、目の前にいるのはわずか五名のみ。それもどこか眠そうでフラフラしている。
「すまん、魔眼をかけている隙に逃げられた」
頭をかきながら答えるウェルス。魔眼は対象と視線を合わせる必要がある。その為、一度に催眠状態にできる対象は少ない。また目を合わせた瞬間に催眠状態になった仲間を見た子供達は、『人さらいだー』と叫びながら逃げて行った。
「恐らくヴィスマルクの奴隷商人も魔眼を使ってたんだろうな。迂闊だったぜ」
「とはいえ、その様子だと浄化の瞬間を見られたわけではなさそうです。秘密は守られたかと」
「こういう事があったから、ここに戻ってくることもない……かな?」
逃げた子供を追う手段もアテもないため、この話はこれで終わりになる。あとは、
「魔眼をかけた子供達はどうします? イ・ラプセルの孤児院に保護します?」
「連れて行ったら本当に人さらいだぞ。俺達のことは喋らないようにしたんだし、橋に近づかないように言って放置するしかないんじゃないか?」
意見のずれもあり少し揉めたが、イ・ラプセルで保護するというのは難しいという結論に落ち着いた。潜入状態の自由騎士は、極力身を隠さなければならない。魔眼でいう事を聞かせているとはいえ、現地の人間を潜入先に連れ込むのはリスクが高い。もし魔眼が解けて逃げられれば、それで終わりなのだ。
(ドルバさんを浄化した事を説明できれば、或いは印象は変わったかもしれませんが)
自由騎士は(実際は生きているけど)イブリース化したドルバを殺した人間だ。事情が事情とはいえ、いい印象は抱かれないだろう。そもそも敵国の潜入兵という時点で通報対象なのだ。
些か想定とは異なったが、橋の占拠とストリートチルドレンの退去には成功したのであった。
――マグノリアとセアラが川に落ちたのは全部演技である。アクアディーネの浄化と不殺の権能を隠すためのお芝居だ。
「この辺りでいいかな」
「流石に、疲れました……」
ミズビトでもないマグノリアとセアラは、息絶え絶えになりながら川から出る。誰もいない場所まで気を失ったドルバをかかえて水中内を移動したのだ。その消耗は大きい。水から上がった時に、鉛を背負ったかのような疲労が襲い掛かってきた。
「こ、ここは……俺はいったい!?」
意識を取り戻したドルバが叫ぶ。イブリース化した時の記憶はあるらしく、マグノリアとセアラを見て恐怖の表情を浮かべ……自分が何故助かってここにいるのかを理解できないという顔をしていた。イブリース化したものは助からないはずなのに。
「とりあえず、傷を癒しますね」
セアラはドルバが戦闘で受けた傷を癒していく。不殺の権能で命に別状はないだろうが、それでも傷を放置していいというわけにはいかない。
「とりあえず、話を聞いてもらうよ。先ずはキミの経緯と、僕らの目的だけど」
マグノリアはドルバに彼自身の敬意と自分達の立場、そして今後の目的を話す。浄化の権能のことや、女神モリグナを討とうとしていることまで。
「……つまり、あの橋を落すから立ち去ってほしいってか」
「そういう事だね。そしてこの事を知られるわけにはいかない。なので君の身柄は暫く僕等が預かることになる。
……できることなら、そのままイ・ラプセルに来てほしい……」
「……ふざけるな。選択肢なんてないんだろうが」
懇願するようなマグノリアの問いに、怒りを混ぜた声でドルバが答える。
「逆らうか逃げるかすれば、あいつらを殺すとかそう言うんだろうが。黙って従うしかないじゃないか」
『あいつら』とはストリートチルドレンの事だろうか。子供を殺すなんて事は一言も言ってないのだが? 疑問に思う二人に、怒気をぶつけるドルバ。
「お前らの仲間があいつ等に魔法を使ってたのを見てたぞ! 人さらいなんかが使う催眠の魔眼だ! あれで言う事を聞かせてるんだろうが!」
マグノリアとセアラは表情には出さないが納得した。自分達の大事な存在が魔眼にかけられ、命令されている。それを見て信用してくれというのは無理がある。人質をとられたと思われても仕方のない状況だ。
言葉を重ねて誤解だと説得するか? 子供達を連れてくるか? どれも逆効果だ。魔眼でどんな命令を与えたのかなど、ドルバには解らない。真実を告げても、それを証明する術はない。ドルバはイ・ラプセルのことを何も信用しないだろう。
前提条件としてこの状態のドルバを開放することはできない。イ・ラプセルに強く悪印象を持たれた以上、ドルバがヴィスマルク軍隊にこの情報を売らないという保証はどこにもない。むしろ子供達を守るために容赦なく行動するだろう。自分達を不幸にした戦争の引き金を引いた敵国なのだから。
最終的に、ドルバの誤解を解くのは諦めてこのまま拿捕することになった。人質をとられていると思っていることもあり、ドルバはは向かうことなく連行される。
かくして一つの戦いは終わった。
自由騎士の働きにより、ストリートチルドレンに死者はなく、慕った兄貴分に殺されるという悲劇は回避された。橋の占拠も無事完了し、着々とヴェスドラゴン攻略の手はずは進んでいく。
決戦への足取りは、少しずつ進んでいくのであった――
●
「魔眼を使った人さらい?」
「だとよ。兄弟達が誘拐されかけた、って泣きついてきたぜ。」
「スラムのガキがうるさいと思ったら……もう捕まって売られてるだろうに」
「形だけでも捜査しますか。何せ俺達、ヴィスマルクの兵隊さんだからな」
「あー、めんどくさい。聞かなかったこそにしない?」
「仕事しないとまたどやされるぜ。前線送りよかましだろうが」
「へーへー。それじゃま、行きますか」
「これはまた、大変な状況だね。イ・ラプセル内なら簡単なんだけど……」
暴れるイブリースを前に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が眉を顰める。イブリース化したマザリモノと、ストリートチルドレン。ヴェスドラゴンに潜入した自由騎士は、自分達の存在を隠さなければならない。
イブリースを退治する事自体は可能だ。だが浄化の権能を使えば厄介なことになる。イブリース化したものは死ぬしかない。その常識を覆す存在がアクアディーネの権能だ。それを使えば、自由騎士の存在がばれる可能性が高い。
「……ともあれ、加勢しましょう」
スラムに紛れる為にボロボロのローブを纏った『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が盾を構える。橋に住むストリートチルドレンを説得しようとやってきたのだが、どうやら説得より先にやることが出来たみたいだ。
ここで見捨てるのが、軍務を優先する意味では正しいのだろう。他国民の子供がイブリースに殺害されたとしても、イ・ラプセルのお腹は痛まない。だがそれを理解したうえで、デボラは見捨てずに前に出る。
「みんな同じ気持ちで良かったぜ!」
『機盾ジーロン』ナバル・ジーロン(CL3000441)は動き出した自由騎士の糸を察し、笑顔を浮かべる。戦争である事や、潜伏の重要性はナバルも理解している。危ない橋を渡る事になるが、それでも救える命は救いたい。
甘いと言われることは理解している。感謝されない事も分かっている。それでもそれが正しいと思ったのなら、その道を進みたい。その果てに望む平和が待っているのなら、そこまで進みたい。傷つきながらも、ナバルはそう誓う。
「イブリース……本当に何なのでしょうか?」
狂暴化するゴブリンのマザリビトを前に『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は静かに呟く。人に仇を為し、変質させる現象。まるで悪意ある病気のように、悲劇を生み出していく。
今はそれを考えている余裕はない。首を振って思考を目の前の事に集中させる。イブリースが狙うのはストリートチルドレンの一人。声をかけても言う事を聞いてはくれないだろう。時間はない。急ぎ間に割って入り、凶刃を止める。
(戦災孤児か。イ・ラプセルとの戦争が原因でもあるんだよな)
ストリートチルドレンを洗浄から避難させながら『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそんな事を考える。戦争で親をなくしたり捨てられた子供達。イ・ラプセルの行動が、この国の子供達を苦しめたのかもしれない。
そこまで思ってから、首を振るウェルス。戦争の流れを止める事はできない。最善手はできるだけ早く戦争を終わらせることだ。その為に自分達が出来る事をやろう。できるだけ多くの命を救いながら。
(……アクアディーネ様の浄化の権能は本当に有り難いですね)
身に刻まれたオラクルの印を意識しながらセアラ・ラングフォード(CL3000634)は頷いた。イブリースは殺すしかない。そんな常識を打ち破り、命を救うのが女神アクアディーネの権能だ。アクアディーネの性格が顕れたかのような、そんな力。
だからこそ、この権能を使うという事は自分達の存在を示すことになる。だが、それを理解してなおセアラを含めた自由騎士達はイブリース化したマザリモノを浄化しようとしていた。楽な道ではないと理解しながら。
「ガアアアアア!」
暴れるイブリース。その脅威は一般人からすれば災害と言えよう。慕った隣人が暴徒と化す。その精神的な傷を含め、救いのない出来事。
その悲劇を止めるがために、自由騎士達は武器を手にした。
●
「させません」
言葉と同時にアンジェリカはイブリースに武器を振るう。前進に力を込めて、イブリースの重心を見据える。二足歩行で立つ以上、バランスをとる中心軸は必ず存在する。その軸を揺らすように武器を叩き込んだ。
ひるんだイブリースに追い打ちをかけるように、意識を集中するアンジェリカ。遥か東方のサムライの技。自分と切り合った相手の剣の動き。一戦で二を斬る表裏一体の太刀捌き。肉を断ち、そして骨を断つ必殺の一打がイブリースを襲う。
「救いましょう、この手の届く全てを」
「はい。手の届く範囲、全てに手を差し伸べます」
アンジェリカの言葉に頷くセアラ。仲間を癒しながら、同時に刃を向けるイブリースに目を向けた。孤児たちに慕われたゴブリンのマザリモノ。ここで命を絶たれれば、孤児たちは悲しみに暮れるだろう。他国の子供だろうが、見捨てていい道理はない。
仲間を癒しながら、イブリースの動きに注視する。仲間が壁となってイブリースの侵攻を塞ぎ、子供達に向かわせないようにしていた。手の届く範囲全て。それはこのイブリースが子供を傷つけないようにする事も、だ。慕ったヒトに傷つけられる。そんな悲劇を避けるために。
「誰も傷つけさせはしません」
「そうだね。難しいけど、出来ない事じゃない」
戦場全てを見ながらマグノリアは呟いた。イブリースを浄化して助けるだけなら難しくない。むしろ自由騎士達はそう言った戦いを繰り返してきた。問題なのはバレないようにそれを行う事だ。
やるべきことを頭の中で組み立てる。レンガを積み上げるように、一つずつ確実に。その一つがこの場での勝利、聖遺物に魔力を通し、そこから魔力の矢を精製する。魔を払う矢が螺旋を描き、イブリースを貫いた。
「かなり効いているようだね」
「俺の出番はなさそうだな。こちらに集中できていい」
善戦する仲間達を見ながら、ウェルスは子供達に目を向ける。ジョンと一緒に子供達を戦場から離す傍ら、優しく言葉をかけてその不安を晴らしていく。
「ドルバの兄貴が、兄貴が! おまえら、兄貴を苛めるなぁ!」
「苛めちゃいないさ。あの兄貴だってお前達を苛めたいわけじゃないからな。今はここから離れるんだ」
「やだぁ! だって兄貴、イブリースになったんだよ! もう戻らないんだよ! 最後まで一緒にいるぅ!」
「……そんな事、あの兄貴は望んじゃいないさ。暴力を振るうような兄貴だったのか?」
大丈夫、と言いかけてその言葉を飲み込むウェルス。その言葉は浄化の権能を知らない者からすれば偽の希望だ。今はそれを言う事はできない。
「……ええ、慕っている者に無下にされるのはたまりませんよね」
デボラはイブリースの攻撃を受け止めながら、そんな事を呟く。かつて婚約者に停滞裏切りを受けたデボラ。予想できたとはいえ、それでもその裏切りは痛かった。子供達のショックはそれ以上だろう。
それを想えば、この程度の攻撃などどうと言う事はない。イブリースの攻撃を盾で受け止め、足止めするように細かく足を動かし戦場を支配する。仲間を守り、攻め手の重度をあげる。それがデボラの役割。
「ここから先にはいかせません!」
「ああ、不幸な目になんかあわせねぇ!」
周囲を注視しながらナバルが叫ぶ。イブリースの動きを一番に見ているが、同時に子供達が飛び出してこないかも注意していた。感極まった子供が飛び出してこないとも限らない。そしてイブリースがそんな子供を攻撃しないように。
幸運な事に、子供達は仲間がしっかり遠ざけてくれている。それを確認すると、意識は全力でイブリースに向けることができる。ドルバの剣術と宙に浮くナイフの舞。その全てを受け止めながら、槍を振るって薙ぎ払う。
「そんなんじゃ俺に勝てないないぞ! どうしたどうした!」
挑発するように叫ぶナバル。ドルバを救おうとする騎士の一人ではなく、たまたま通りかかったスラム住人の演技だ。今はイ・ラプセルの鱗片を出すわけにはいかない。
敵の懐である以上、女神の権能を表に出して使えない。その足枷は確かに大きい。冷徹な事を言えば、それに拘らなければ楽な仕事なのだ。
だが、自由騎士達は敢えてドルバを救う道を選んだ。苦労してもいいとばかりに、イブリースを浄化する道を選んだ。その危険性を理解しながら、しかし誇りを持って歩む。
戦いは少しずつ激化していく。
●
(そろそろ頃合いかな)
イブリースのダメージ具合を見ながら、マグノリアは前に出てイブリースに近づく。川との距離を考慮しながら錬金術でイブリースにダメージを積み重ねていった。機会を見計ら居ながら、魔力を練り上げていく。
「悪くない攻撃ですが、私には通じません!」
イブリースが操るナイフの攻撃をさばきながら、デボラが声をあげる。威風堂々とした態度で立ちながら、子供達に攻撃を届かせないように立ち振舞っていた。信頼を得る計算ずくでもあったが、仮に違った状況でも守ることに躊躇はない。そんな動きだ。
(彼らが孤児になった原因になったのはオレらかもしれない)
ナバルは戦いながら、ヴィスマルクのストリートチルドレンのことを想っていた。戦争により親を失った子供達。その原因はイ・ラプセルも無関係ではない。そんなことを想いながら、今以上の不幸を出さないために盾を構える。
「いいか、俺の言う事をよく聞くんだ。先ずは……」
子供の目を見ながら、紳士な態度でウェルスが口を開く。同時に瞳に魔力を込め、視界を通して子供の脳に直接魔力を注ぎ込んだ。簡易な催眠状態にした後に、自分達のことを喋らないように命令する。
「流石にイブリース化していると、力強いですね。ですけど」
子供とは思えないパワーを駆使するイブリース。その一撃を癒すために魔力を開放するセアラ。幾多の経験を得て、多くの仲間を癒し続けたセアラ。その知識と見識はけして浅くはない。それらを下地にし、鍛えられた魔力をもって仲間達を支えていく。
「これでお終いです。お眠りなさい!」
裂帛と同時に放たれたアンジェリカの一撃。叩きつけるような力強い一撃がイブリースを打つ。明らかにバランスを崩し、崩れ落ちるイブリース。素人目に見ればこのまま倒れ、命尽きるだろう様子。だが、不殺の権能が命を守り、浄化の権能がイブリース化を解除していく。
(今だ)
それを待っていたかのように、マグノリアがイブリースの懐に入り、格闘動作に似た動きでタックルする。そのまま近くに流れていた川にイブリースと共に飛び込んだ。水しぶきを上げ、そのまま流されていく二人。
「あ。待ってください!」
マグノリアを追うようにセアラが川に近づき、足を滑らせるように川に落ちる。そのまま流されていくセアラ。自由騎士達は心配するように流された者達を見るが、今飛び込んでもどうしようもない、とばかりに足を止めた。
河原に静寂が落ちる。イブリースは撃退され、戦いはここに収縮したのであった。
●
「オレらの住処を荒らすな! あっちへいけ!」
戦闘を聞きつけてやってきた野次馬に、ナバルはそう言って追いはらう。橋占拠の目的は、モリグナと戦う際にこの橋を落すからだ。その時まで妖しい人が住み着いては意味がない。嫌な目で見られるが、戦いに巻き込むよりましだ。
「偽装は上手くいったみたいですね」
周囲の様子を確認しながら、デボラはため息をつく。浄化の権能がバレれば、イ・ラプセルの侵入がバレてしまう。証拠を残すことなくドルバを浄化するには、浄化して元気になった姿を見せるわけにはいかないのだ。上手く川に落ちて、誤魔化せただろう。
「お腹が空いたでしょうからパスタでも……おや?」
アンジェリカは子供達にパスタを作ってご馳走しようとして、その数が少ないことに気付く。確か十数名はいたはずだが、目の前にいるのはわずか五名のみ。それもどこか眠そうでフラフラしている。
「すまん、魔眼をかけている隙に逃げられた」
頭をかきながら答えるウェルス。魔眼は対象と視線を合わせる必要がある。その為、一度に催眠状態にできる対象は少ない。また目を合わせた瞬間に催眠状態になった仲間を見た子供達は、『人さらいだー』と叫びながら逃げて行った。
「恐らくヴィスマルクの奴隷商人も魔眼を使ってたんだろうな。迂闊だったぜ」
「とはいえ、その様子だと浄化の瞬間を見られたわけではなさそうです。秘密は守られたかと」
「こういう事があったから、ここに戻ってくることもない……かな?」
逃げた子供を追う手段もアテもないため、この話はこれで終わりになる。あとは、
「魔眼をかけた子供達はどうします? イ・ラプセルの孤児院に保護します?」
「連れて行ったら本当に人さらいだぞ。俺達のことは喋らないようにしたんだし、橋に近づかないように言って放置するしかないんじゃないか?」
意見のずれもあり少し揉めたが、イ・ラプセルで保護するというのは難しいという結論に落ち着いた。潜入状態の自由騎士は、極力身を隠さなければならない。魔眼でいう事を聞かせているとはいえ、現地の人間を潜入先に連れ込むのはリスクが高い。もし魔眼が解けて逃げられれば、それで終わりなのだ。
(ドルバさんを浄化した事を説明できれば、或いは印象は変わったかもしれませんが)
自由騎士は(実際は生きているけど)イブリース化したドルバを殺した人間だ。事情が事情とはいえ、いい印象は抱かれないだろう。そもそも敵国の潜入兵という時点で通報対象なのだ。
些か想定とは異なったが、橋の占拠とストリートチルドレンの退去には成功したのであった。
――マグノリアとセアラが川に落ちたのは全部演技である。アクアディーネの浄化と不殺の権能を隠すためのお芝居だ。
「この辺りでいいかな」
「流石に、疲れました……」
ミズビトでもないマグノリアとセアラは、息絶え絶えになりながら川から出る。誰もいない場所まで気を失ったドルバをかかえて水中内を移動したのだ。その消耗は大きい。水から上がった時に、鉛を背負ったかのような疲労が襲い掛かってきた。
「こ、ここは……俺はいったい!?」
意識を取り戻したドルバが叫ぶ。イブリース化した時の記憶はあるらしく、マグノリアとセアラを見て恐怖の表情を浮かべ……自分が何故助かってここにいるのかを理解できないという顔をしていた。イブリース化したものは助からないはずなのに。
「とりあえず、傷を癒しますね」
セアラはドルバが戦闘で受けた傷を癒していく。不殺の権能で命に別状はないだろうが、それでも傷を放置していいというわけにはいかない。
「とりあえず、話を聞いてもらうよ。先ずはキミの経緯と、僕らの目的だけど」
マグノリアはドルバに彼自身の敬意と自分達の立場、そして今後の目的を話す。浄化の権能のことや、女神モリグナを討とうとしていることまで。
「……つまり、あの橋を落すから立ち去ってほしいってか」
「そういう事だね。そしてこの事を知られるわけにはいかない。なので君の身柄は暫く僕等が預かることになる。
……できることなら、そのままイ・ラプセルに来てほしい……」
「……ふざけるな。選択肢なんてないんだろうが」
懇願するようなマグノリアの問いに、怒りを混ぜた声でドルバが答える。
「逆らうか逃げるかすれば、あいつらを殺すとかそう言うんだろうが。黙って従うしかないじゃないか」
『あいつら』とはストリートチルドレンの事だろうか。子供を殺すなんて事は一言も言ってないのだが? 疑問に思う二人に、怒気をぶつけるドルバ。
「お前らの仲間があいつ等に魔法を使ってたのを見てたぞ! 人さらいなんかが使う催眠の魔眼だ! あれで言う事を聞かせてるんだろうが!」
マグノリアとセアラは表情には出さないが納得した。自分達の大事な存在が魔眼にかけられ、命令されている。それを見て信用してくれというのは無理がある。人質をとられたと思われても仕方のない状況だ。
言葉を重ねて誤解だと説得するか? 子供達を連れてくるか? どれも逆効果だ。魔眼でどんな命令を与えたのかなど、ドルバには解らない。真実を告げても、それを証明する術はない。ドルバはイ・ラプセルのことを何も信用しないだろう。
前提条件としてこの状態のドルバを開放することはできない。イ・ラプセルに強く悪印象を持たれた以上、ドルバがヴィスマルク軍隊にこの情報を売らないという保証はどこにもない。むしろ子供達を守るために容赦なく行動するだろう。自分達を不幸にした戦争の引き金を引いた敵国なのだから。
最終的に、ドルバの誤解を解くのは諦めてこのまま拿捕することになった。人質をとられていると思っていることもあり、ドルバはは向かうことなく連行される。
かくして一つの戦いは終わった。
自由騎士の働きにより、ストリートチルドレンに死者はなく、慕った兄貴分に殺されるという悲劇は回避された。橋の占拠も無事完了し、着々とヴェスドラゴン攻略の手はずは進んでいく。
決戦への足取りは、少しずつ進んでいくのであった――
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「魔眼を使った人さらい?」
「だとよ。兄弟達が誘拐されかけた、って泣きついてきたぜ。」
「スラムのガキがうるさいと思ったら……もう捕まって売られてるだろうに」
「形だけでも捜査しますか。何せ俺達、ヴィスマルクの兵隊さんだからな」
「あー、めんどくさい。聞かなかったこそにしない?」
「仕事しないとまたどやされるぜ。前線送りよかましだろうが」
「へーへー。それじゃま、行きますか」