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【インディオ】Your Choice? 己の戦いを選びたまえ!

●インディオ
火山を超えて進んだ先の谷間。そこに『彼ら』はいた。
動物の羽根や毛皮を身に纏い、独特の文化を持つ部族。すぐに移動できるように簡素なテントで雨風を凌ぎ、武装も蒸気などからかけ離れた原始的な斧や弓矢。
インディオ。管理国家パノプティコンに抗う部族。
自由騎士達を出迎えたのは、アタカパと呼ばれる男だった。ここの戦士長をしているという。自由騎士達は自己紹介と諸々の事情を説明する。
「火の領域を抜けたという事は、イクバヤと話をしたというのは確かなようだ。信じがたい事だが、神像のことまで知っているとなると――」
問答無用で追い返される雰囲気だったが、イクバヤと神像のことを出すとその態度も変わる。不信であることには変わりはないが、いくばくか考慮の余地が生まれたという程度である。
「どうする? 長の客人でもあり、火の試練を超えた者を無碍に扱うわけにはいかぬぞ」
「ましてや彼らは神像のことを知っている。それをこちらに渡すつもりと言っている」
「しかし、彼らが我らの故郷を奪いに来たことも事実だ」
「敵の敵が味方、とは限らない」
要約すれば、そんな意見で二分していた。それを制するように、アタカパは告げる。
「…………わかった。『クー』を示してもらう」
クー。聞いたことのない単語だ。インディオ特有の言葉だろうか?
「そちらの言葉に直せば『武勇を示す』あたりか。危険を侵す誓いを立てることだ」
え、武勇? もしかしてインディオの人達と戦うの? どこかで見たことのあるような展開に一部の自由騎士は戸惑った。
「ここより南方にパノプティコンの軍勢がいる。こちらを探しているらしい。このままここに留まれば、いずれは見つかってしまう。彼らを倒すのなら、そちらの言動と行動に歩み寄ろう」
なるほど、彼らを倒せという事か。一時的な信用を得るというのなら、妥当な案だ。
「――彼らは魂が繋がっている。彼らが見たことは全て、魂の繋がりを通して彼らの神に伝わるだろう」
「は?」
「つまり、彼らを襲えばイ・ラプセルの存在はパノプティコンに露見する」
「……それは」
――現状、潜入している自由騎士達の存在はパノプティコンにバレてはいない。
火山地帯を通ってきたのは、隠密を重視したからだ。二面攻略作戦のことを想えば、まだインディオとの関係を秘すに越したことはない。情報のコントロールという面もあるが――最悪の事態に陥った時、全責任をインディオにおっかぶせる事もできるのだからだ。
正々堂々と戦えば、作戦の優位性は失われる。それは本土から攻めるイ・ラプセルにとって不利な状況となるだろう。管理国家の不意をつけなければ、戦争でこちらが払う犠牲は大きい。
ならばインディオに扮して戦うか? 上手く偽装することが出来れば、イ・ラプセルのことは誤魔化せるかもしれない。その分、インディオ討伐の増援があるだろうがそれはイ・ラプセルには関係ない。
無論、現状をインディオ達に説くこともできる。だがそんな相手を信用してもらえるだろうか? 自分達にとって不利になるから無理だけど、パノプティコンと一緒に戦いたい。それを上手く説明できるか?
インディオを戦闘で屈服させて言う事を聞かせることもできる。アタカパを人質にとれば、残った戦士達は全て従うだろう。そうなればすべての懸念は解決だ。
さあ、貴方の選択は?
火山を超えて進んだ先の谷間。そこに『彼ら』はいた。
動物の羽根や毛皮を身に纏い、独特の文化を持つ部族。すぐに移動できるように簡素なテントで雨風を凌ぎ、武装も蒸気などからかけ離れた原始的な斧や弓矢。
インディオ。管理国家パノプティコンに抗う部族。
自由騎士達を出迎えたのは、アタカパと呼ばれる男だった。ここの戦士長をしているという。自由騎士達は自己紹介と諸々の事情を説明する。
「火の領域を抜けたという事は、イクバヤと話をしたというのは確かなようだ。信じがたい事だが、神像のことまで知っているとなると――」
問答無用で追い返される雰囲気だったが、イクバヤと神像のことを出すとその態度も変わる。不信であることには変わりはないが、いくばくか考慮の余地が生まれたという程度である。
「どうする? 長の客人でもあり、火の試練を超えた者を無碍に扱うわけにはいかぬぞ」
「ましてや彼らは神像のことを知っている。それをこちらに渡すつもりと言っている」
「しかし、彼らが我らの故郷を奪いに来たことも事実だ」
「敵の敵が味方、とは限らない」
要約すれば、そんな意見で二分していた。それを制するように、アタカパは告げる。
「…………わかった。『クー』を示してもらう」
クー。聞いたことのない単語だ。インディオ特有の言葉だろうか?
「そちらの言葉に直せば『武勇を示す』あたりか。危険を侵す誓いを立てることだ」
え、武勇? もしかしてインディオの人達と戦うの? どこかで見たことのあるような展開に一部の自由騎士は戸惑った。
「ここより南方にパノプティコンの軍勢がいる。こちらを探しているらしい。このままここに留まれば、いずれは見つかってしまう。彼らを倒すのなら、そちらの言動と行動に歩み寄ろう」
なるほど、彼らを倒せという事か。一時的な信用を得るというのなら、妥当な案だ。
「――彼らは魂が繋がっている。彼らが見たことは全て、魂の繋がりを通して彼らの神に伝わるだろう」
「は?」
「つまり、彼らを襲えばイ・ラプセルの存在はパノプティコンに露見する」
「……それは」
――現状、潜入している自由騎士達の存在はパノプティコンにバレてはいない。
火山地帯を通ってきたのは、隠密を重視したからだ。二面攻略作戦のことを想えば、まだインディオとの関係を秘すに越したことはない。情報のコントロールという面もあるが――最悪の事態に陥った時、全責任をインディオにおっかぶせる事もできるのだからだ。
正々堂々と戦えば、作戦の優位性は失われる。それは本土から攻めるイ・ラプセルにとって不利な状況となるだろう。管理国家の不意をつけなければ、戦争でこちらが払う犠牲は大きい。
ならばインディオに扮して戦うか? 上手く偽装することが出来れば、イ・ラプセルのことは誤魔化せるかもしれない。その分、インディオ討伐の増援があるだろうがそれはイ・ラプセルには関係ない。
無論、現状をインディオ達に説くこともできる。だがそんな相手を信用してもらえるだろうか? 自分達にとって不利になるから無理だけど、パノプティコンと一緒に戦いたい。それを上手く説明できるか?
インディオを戦闘で屈服させて言う事を聞かせることもできる。アタカパを人質にとれば、残った戦士達は全て従うだろう。そうなればすべての懸念は解決だ。
さあ、貴方の選択は?
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.どうするかを選択し、戦うなら勝利する事
どくどくです。
前回の予約具合を考慮して、参加人数を増やしました。別の道を進んでいたとかそういう感じで。
このシリーズは全二回のシリーズ物二回目です。この依頼で得られた結果を元に、パノプティコン領『港町3356』攻略を行うことになります。
●説明っ!
パノプティコンに隠密潜入してインディオに接触した自由騎士達。しかしインディオからすれば『他国の侵略者』です。美辞麗句を並べても、信用は得られません。彼らの崇める神像を渡すつもりがあるという事をもって、ようやく交渉のテーブルになりました。
彼らはクー……危険を侵す誓いを立てよ、と言いました。インディオを捜索するパノプティコン軍を襲撃する。そうすればその武勇に敬意を表して歩み寄ろうと。
だがそれをすれば、イ・ラプセルの存在は確実に露見します。そうなれば、パノプティコン攻勢作戦に大きく影響するでしょう。
1:クーを果たす(自由騎士としてパノプティコン軍と戦う)
正々堂々とパノプティコン軍と戦います。アタカパも同行します。
勝敗に関わらず、次のパノプティコン決戦でパノプティコン軍は入念に準備をしてくるでしょう。
2:クーを果たす(インディオに扮して戦う)
インディオに扮して戦います。アタカパも同行します。
種族特徴をインディオの衣装で隠し、武装は斧か弓矢に限定(武器を変える必要はありません。STの方で再計算します)され、スキルも重戦士と軽戦士とガンナーのものに限定されます。
パノプティコン軍のインディオに対する警戒度が高まり、次のパノプティコン決戦時にインディオを滅ぼす勢いで軍を派遣してきます。
3:インディオを説得する
現状を語ります。パノプティコン軍はどうにかやり過ごす形です。
決戦時はイ・ラプセルが不意を打つ形になります。ですが説得が不十分である場合インディオの信頼は得られず、説得の内容によっては次のパノプティコン決戦時にインディオ達は独自に動くことになります。
4:インディオと戦う
インディオを襲撃し、力づくで言う事を聞かせます。パノプティコン軍はどうにかやり過ごします。アタカパを人質にとれば、他のインディオ達は言う事を聞いてくれます。
決戦時はイ・ラプセルが不意を打つ形になります。インディオの信頼は得らませんが、こちらの言う事は聞いてくれます。ある意味、イ・ラプセル側からすれば理想の形です。
上記はあくまで一例です。他にもさまざまな作戦があるでしょう。その影響などは、どくどくが判断します。
プレイング時点で意見が割れていた時、多数決を取ります。数が同じだった場合、個々のプレイング内容で決定します。
●敵(?)情報
★パノプティコン軍
・パノプティコン兵(×12)
パノプティコンの軍隊です。軽戦士6人、ガンナー3人、魔導士2、ヒーラー1。それぞれRANK2までのスキルを使います。
権能の詳細は不明ですが、管理された動きによる同調攻撃や、精神的なつながりがあることなどが挙げられます。
『鯨斧』兵長0823(×1)
部隊の統括者です。ノウブル50際男性。鯨系幻想種の骨を削って作った斧を手にしています。重戦士。
『ギアインパクト Lv3』『ウォーモンガー Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。
★インディオ
・インディオ戦士(×8)
インディオの戦士達です。全員ノウブル男性。年齢は20歳~35歳まで。重戦士6名、ガンナー2名。武器は斧と弓矢です。アタカパが戦闘不能になれば、降参します。
それぞれRANK2までのスキルを使います。
・アタカパ・ブル(×1)
インディオの戦士長です。ノウブル男性25歳。くの字に曲がった棍棒(ガンストックウォークラブ)を使うCTタイプの軽戦士。そして『祈祷師』と呼ばれる精霊を扱う術を使います。オラクル(無色)。
『コンフュージョンセル Lv3』『ワナゲメズワク Lv3』『ヌニュヌウィ Lv3』等を使います。
『ワナゲメズワク』……『祈祷師』の付与です。川の精霊を呼び『不運を洗い流し運気を己に引き寄せる力』を与えます。RANK1。
『ヌニュヌウィ』……『祈祷師』の近接範囲な魔法攻撃です。石の肌を持つ精霊を呼び、石腕で地面を叩きます。RANK2。
●場所情報
パノプティコン領地にある谷間。パノプティコン軍と戦うにせよ、インディオと戦うにせよ視界を隠す物がないため、不意打ちなどはよほどの工夫がなければ不可能です。時刻は昼。明かりや足場や広さなどは戦闘に影響しません。
パノプティコン軍と戦う場合、戦闘開始時に敵前衛に『兵長0823』『軽戦士(×6)』、後衛に『ガンナー(×3)』『魔導士(×2)』『ヒーラー(×1)』がいます。
インディオと戦う場合、戦闘開始時に敵前衛に『アタカパ』『重戦士(×6)』『ガンナー(×2)』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
前回の予約具合を考慮して、参加人数を増やしました。別の道を進んでいたとかそういう感じで。
このシリーズは全二回のシリーズ物二回目です。この依頼で得られた結果を元に、パノプティコン領『港町3356』攻略を行うことになります。
●説明っ!
パノプティコンに隠密潜入してインディオに接触した自由騎士達。しかしインディオからすれば『他国の侵略者』です。美辞麗句を並べても、信用は得られません。彼らの崇める神像を渡すつもりがあるという事をもって、ようやく交渉のテーブルになりました。
彼らはクー……危険を侵す誓いを立てよ、と言いました。インディオを捜索するパノプティコン軍を襲撃する。そうすればその武勇に敬意を表して歩み寄ろうと。
だがそれをすれば、イ・ラプセルの存在は確実に露見します。そうなれば、パノプティコン攻勢作戦に大きく影響するでしょう。
1:クーを果たす(自由騎士としてパノプティコン軍と戦う)
正々堂々とパノプティコン軍と戦います。アタカパも同行します。
勝敗に関わらず、次のパノプティコン決戦でパノプティコン軍は入念に準備をしてくるでしょう。
2:クーを果たす(インディオに扮して戦う)
インディオに扮して戦います。アタカパも同行します。
種族特徴をインディオの衣装で隠し、武装は斧か弓矢に限定(武器を変える必要はありません。STの方で再計算します)され、スキルも重戦士と軽戦士とガンナーのものに限定されます。
パノプティコン軍のインディオに対する警戒度が高まり、次のパノプティコン決戦時にインディオを滅ぼす勢いで軍を派遣してきます。
3:インディオを説得する
現状を語ります。パノプティコン軍はどうにかやり過ごす形です。
決戦時はイ・ラプセルが不意を打つ形になります。ですが説得が不十分である場合インディオの信頼は得られず、説得の内容によっては次のパノプティコン決戦時にインディオ達は独自に動くことになります。
4:インディオと戦う
インディオを襲撃し、力づくで言う事を聞かせます。パノプティコン軍はどうにかやり過ごします。アタカパを人質にとれば、他のインディオ達は言う事を聞いてくれます。
決戦時はイ・ラプセルが不意を打つ形になります。インディオの信頼は得らませんが、こちらの言う事は聞いてくれます。ある意味、イ・ラプセル側からすれば理想の形です。
上記はあくまで一例です。他にもさまざまな作戦があるでしょう。その影響などは、どくどくが判断します。
プレイング時点で意見が割れていた時、多数決を取ります。数が同じだった場合、個々のプレイング内容で決定します。
●敵(?)情報
★パノプティコン軍
・パノプティコン兵(×12)
パノプティコンの軍隊です。軽戦士6人、ガンナー3人、魔導士2、ヒーラー1。それぞれRANK2までのスキルを使います。
権能の詳細は不明ですが、管理された動きによる同調攻撃や、精神的なつながりがあることなどが挙げられます。
『鯨斧』兵長0823(×1)
部隊の統括者です。ノウブル50際男性。鯨系幻想種の骨を削って作った斧を手にしています。重戦士。
『ギアインパクト Lv3』『ウォーモンガー Lv4』『バーサーク Lv3』等を活性化しています。
★インディオ
・インディオ戦士(×8)
インディオの戦士達です。全員ノウブル男性。年齢は20歳~35歳まで。重戦士6名、ガンナー2名。武器は斧と弓矢です。アタカパが戦闘不能になれば、降参します。
それぞれRANK2までのスキルを使います。
・アタカパ・ブル(×1)
インディオの戦士長です。ノウブル男性25歳。くの字に曲がった棍棒(ガンストックウォークラブ)を使うCTタイプの軽戦士。そして『祈祷師』と呼ばれる精霊を扱う術を使います。オラクル(無色)。
『コンフュージョンセル Lv3』『ワナゲメズワク Lv3』『ヌニュヌウィ Lv3』等を使います。
『ワナゲメズワク』……『祈祷師』の付与です。川の精霊を呼び『不運を洗い流し運気を己に引き寄せる力』を与えます。RANK1。
『ヌニュヌウィ』……『祈祷師』の近接範囲な魔法攻撃です。石の肌を持つ精霊を呼び、石腕で地面を叩きます。RANK2。
●場所情報
パノプティコン領地にある谷間。パノプティコン軍と戦うにせよ、インディオと戦うにせよ視界を隠す物がないため、不意打ちなどはよほどの工夫がなければ不可能です。時刻は昼。明かりや足場や広さなどは戦闘に影響しません。
パノプティコン軍と戦う場合、戦闘開始時に敵前衛に『兵長0823』『軽戦士(×6)』、後衛に『ガンナー(×3)』『魔導士(×2)』『ヒーラー(×1)』がいます。
インディオと戦う場合、戦闘開始時に敵前衛に『アタカパ』『重戦士(×6)』『ガンナー(×2)』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
5個
5個
5個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年07月31日
2020年07月31日
†メイン参加者 10人†
●
インディオとイ・ラプセルの関係は、少し前に到来したパノプティコン王の王族1687との会談に似ている。ヴィスマルクに対抗すべく歩み寄ったパノプティコンと、それを断ったイ・ラプセル。その理由は『信用できない』『いずれ敵対する相手とは組めない』と言ったものだった。
インディオからすれば、イ・ラプセルも同様だ。信用できない相手と共に戦えるわけがない。彼らからすればイ・ラプセルは『敵の敵』でしかないのだ
神像やインディオの家族との邂逅。それによりようやく交渉のテーブルを作り、折衷案として戦士長のアタカパは『クーを示せば、部族として歩み寄ろう』と告げる。自分達の為に戦ってくれるという意思と行動を示せば、反対意見もおさまるだろう。
だが――イ・ラプセル側、自由騎士達の反応は『それはできない』だった。
●
「ごめんなさい……。私達は此処で戦うわけにはいかないわ」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はインディオ達に謝罪の言葉を示す。自由騎士達全員と話し合い、その結果を偽りなく伝えた。ここで戦えばパノプティコンに情報を渡すことになる。それはけして看過できない事だ。
「連中に情報を渡すわけにはいかないんでな。それさえなければやってもよかったんだが」
言って肩をすくめる『海蛇を討ちし者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。イ・ラプセル側の目的はアイドーネウスの打倒だ。その為に必要な事なら何でもやるし、逆に彼らの利となることは徹底的にやらない。それが第一義だ。
「メリットとデメリットがあってネ。正直、デメリットの方が大きいんのサ」
先ずは理由を告げるべきだろう、と『ペンスィエーリ・シグレーティ』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は口を開く。今ここで戦う事のデメリット。それを考えれば戦うべきではない。
「戦いの前に不利になるようなことはしたくないんだ」
アクアリスの説明に被せるように告げる『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)。犠牲なんて少ないに越したことはない。ここでの行動の結果、犠牲が増えると言うのならそれは見過ごすことはできなかった。
「彼らとしてはクーはごく自然な提案なのでしょう。ですが――」
インディオの気持ちを想像しながら『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は眉を寄せる。割れる意見を統一するために示された儀式のようなモノ。インディオからすればそれを為すことが重要な文化なのだろう。それは理解できる。だが――
「うん。今は……それをしている場合じゃない気がする」
セーイ・キャトル(CL3000639)は言葉を選ぶようにインディオ達に告げる。彼らがこちらのことを信用しようとしてくれているのは分かるし、それを断る意味も理解できる。その意味と重さをしっかりと自覚して、言葉を紡いだ。
「今『クー』をしたら……皆、『つめたい』に……なる、から」
たどたどしく言葉を紡ぐノーヴェ・キャトル(CL3000638)。彼女の言う『つめたい』というのは、死や敗北を意味するネガティブば状況だ。今ここで戦えば、次の戦いは不利になる。インディオもイ・ラプセルも損益を被るのだという事を告げる。
「あー……戦わないのか。折角パノプティコンをぶちのめせると思ったのに」
「ええ……。以外、でしたね」
表紙抜けたように『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)と『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は武器を収めた。二人からすればパノプティコンと敵対する為にここまで足を運んだのに、肩透かしである。とはいえ、仲間の意見も理解はできる。今はその流れを崩さぬようにと戦意を収めた。
(……難しい話は苦手ですが、今はそう言う事だと理解しました)
同じく空気を読んで押し黙る『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)。この地とインディオと言う部族には色々思う所はある。だけど今はそれを押さえて、口を閉じた。
「…………そうか」
時間にすれば十秒足らず。アタカパは諦念のため息をついた。
「待ってくれ。俺達の話を聞いてくれ」
だが、ここからが交渉開始だ。互いの立場と意見を出し、その齟齬を埋める。それが交渉と言うのなら、互いのラインを確認した今こそ言葉を重ねる時なのだ。
●
自由騎士達が最初に語った事。それは――
「俺達の目的はアイドーネウスを倒すことだ」
「『神の蟲毒』……それに勝利しないと、この世界は終わりを告げる」
「タイムリミットまで時間がないんだ」
イ・ラプセルの目的である『神の蟲毒』……そして世界を救うという彼らの目的である。本来秘すべきことであるこれらを話したのは、インディオ達の信頼を得る為だ。
「俺達の国にある『未来を映す鏡』……水鏡っていうんだけど、それがある時期を境に何も写さなくなったんだ」
セーイが語るのは、『何もない未来』を知るきっかけとなった事。アクアディーネ様が知った虚の世界。全ての生命が死に絶えた世界だ。それを阻止するためには『神の蟲毒』に勝利しなければならない。
「これは映す未来がなくなった、って事なんだ。それを回避するには『神の蟲毒』に勝利しないといけない」
「荒唐無稽だな。世界が滅びるというのはどういう経緯で滅びるのだ?」
「それは……」
インディオに問われて、セーイは口ごもる。当然だ。その質問には誰も答えることが出来ない。世界がどのように滅びるのか。世界が何故滅びるのか。それは自由騎士さえ知らない事なのである。
「信じられないのは分かる。だがその前提があることを知ってほしい」
話を制するようにウェルスが言葉を続ける。実際の所、水鏡の存在も世界が滅びる話も信用してもらうのならイ・ラプセルに連れていくしかない。明日世界が消えてなくなるなど、戯言と受け入れられて当然なのだから。
「ヴィスマルクもパノプティコンも、それを目的に戦っている。『神の蟲毒』に勝利し、世界の崩壊を塞ぐために」
「それで、世界を守るために我々にパノプティコンに突撃して死ねと言いに来たのか?」
「我々をぶつけて疲弊したところを、後ろから得るために」
インディオの戦士の言葉は、言い方こそ悪いがあまり間違ってはいない。イ・ラプセルはインディオに共に戦おうと言いに来たのだ。信用しようとする『クー』を果たさない以上は、イ・ラプセルをそう言うふうに思うのも仕方のない事なのだ。
「正直、俺は敵対さえしなければいいと思っている。……まあ、信用されないのは仕方ないが」
言葉に含まれた感情を感じ取り、ウェルスはそう告げた。結局のところ、自分達の都合で彼らの歩み寄りを断ったことには間違いはないのだ。その理由はどうあれ、その事実は受け入れないといけない。
「私達に都合のいい事を言っているのは分かるわ」
嘆息するアンネリーザ。それでも今パノプティコンと戦うという選択肢だけは選べない。戦うことが怖いのではなく、被害が大きくなることが耐えられない。戦争である以上、ヒトは死ぬ。だけどその数が少ないに越したことはない――
「私達はパノプティコンに勝ちたい。貴方達も自分達の土地を取り戻すためにパノプティコンに勝ちたい。ならば、全ての力を出し切る時に万全の状態で挑みたいの」
今自分に出来る事は自分達もインディオ達も不利な状況に追い込みたくない。ただそれだけだ。戦い方を誤れば、多くの命が失われる。自分達が出会ったインディオ達に未来を作ってあげたい。
「言いたいことは理解できるが、それと信用は別問題だ」
「……そうね。私達が貴方達を裏切らない保証はないわ」
「インディオ達が元いた土地に住みたい、っていうのは知っている。奪われた故郷だっけか?」
記憶を思いよこしながら言葉を紡ぐナバル。インディオ達が戦う理由。神像を売り払ってまで家族を安全な場所に移し、勝ち目のない抵抗に準じる理由。戦えない民間人を襲うことなく、戦士の誇りをもって戦い続ける理由。それは――望郷なのだ。
そして、イ・ラプセルを信用できないのも『イ・ラプセルが故郷の土地を奪いかねない』という理由である。
「土地に関しては確約はできない。だけど王様に掛け合ったりしてみるから――」
「国、という者が王一人の采配でどうにかなるわけではない事も、キミは知っているのではないか?」
「う……」
アタカパの言葉に呻くナバル。騎士として活動し、『セイジテキななんとかかんとか』を目にすることは少なくない。どうにかできる、なんて約束が出来るわけがなかった。
「まあ、信用できないというのは仕方ないんだよネ」
うんうんと頷くアクアリス。逆の立場なら自分も相手を信用しないだろう。空気を読んでのフォローを行うが、相手の信用はまるでない事を察していた。それは『クー』を行わない時点で仕方のない事であったが。
「ちなみに、戦力てとして物資支援やボクらの中から何名かが残る……という提案も受け入れそうにないカナ。イ・ラプセルへの人質に使えるけど」
「そうだな。そのようは真似はできない。君達はイクバヤを始めとした家族の客人だ。無礼を働くわけにはいかない」
アクアリスの提案をやんわり断るアタカパ。実際の所は家族以外のモノを受け入れられないという面もあった。信頼できない相手を置くことで生まれる不信感。それを恐れての拒絶である。
(まあ、そうか。元よりボクらの助けが必要だ、なんて彼らは言ってないもんネ。パノプティコンとの戦力差なんて、初めから受け入れて戦っているんだから)
「ふむ。こちらに残るのは面白そうだったのですが」
残念残念、と頷くミルトス。どちらかというと戦いたかったミルトスからすれば、助成の拒絶は残念な知らせであった。不利な戦いはむしろ望むところではあったが、インディオが我が拒絶するのなら致し方ない。
「貴方達は二国間の軍事衝突に巻き込まれるだけとお思いでしょう。ただ、戦う事は同時に死ぬことを含みます。貴方達も戦士であるのなら、それは受け入れていると思われます」
「そうだな」
「命というチップは最大効率で使うべきかと。こうして伏しているのも、その機を伺ってのことと思われます。それを待ってください」
ミルトスの思考は、生存を放棄した修羅の思想だ。
「……今彼らと戦う以外で、『クーを示す』という事はできますか?」
この方面からの説得の手詰まりを感じたデボラは、話の流れを変える為に挙手をする。自由騎士にとっての戦う理由はインディオ達からすれば妄言で、よく受け取られても『それは自分達とは無関係』と言った感じだ。ならば少し現実的な方向を示そう。
「港町3356……私達の目的はパノプティコンがそう呼ぶその地です。
そこを攻め落とすことで『クー』を示すという事はできますか? それまでは見ているだけでも構いません」
「それはイ・ラプセルの戦術的都合だろう。言わば君達の都合だ」
「君達の都合で決定したことを『クー』とする、というのは傲慢ではないか?」
言われてデボラは押し黙る。デボラの言っていることはヴィスマルクが『今からパノプティコンの大地を攻め滅ぼすから、お前ら流に俺達を誉めろ』と言っているようなものだ。他国の都合で行った行為を自国の文化で推せ、というのは結局自国文化の押し付けでしかない。
大前提として、自由騎士達がはき違えていることがあった。
「君達の都合は……理解の及ばない範囲ではあるが納得しよう。嘘偽りを言っていないことも信じれる。おそらく秘すべき事情だったのだろうが、それを吐露したという事はこちらに対する歩み寄りなのだと思おう。
だが、信用は別問題だ。君達の都合だけを前面に出して協力してくれと言うのなら、こちらもこちらの都合で断るしかない」
インディオ達は『部族』という家族意識で団結している。奪われた故郷を奪還し、家族との生活を戻す。この一枚岩こそが彼らの強みなのだ。
そこにイ・ラプセルと言う『他人』がやって来て自分の都合を理由に協力を申し出たのである。それを受け入れれば、インディオの強みである一枚岩の結束にひびが入る。違う目的、違う理由、違う価値観のモノが入れば結束は弱まるのである。物理的、軍事的な強さではない。疑念、猜疑心、そして裏切り。組織としてのガンを孕むことになるのだ。
言ってしまえば、彼らにとって『国』や『神』の話などどうでもいい話なのだ。重点を置くべきは、インディオという部族にどう歩み寄るかだったのである。
その歩み寄りこそが『クー』であり、それを拒絶した理由が自国の都合なら、この反応はむしろ当然であった。
●
「私は……アナ、を……助けるの、に……ここに、居る……」
ノーヴェの言葉にインディオの数名が反応する。アナ。今はパノプティコンの『王族1734』として活動しているインディオの娘。
「アナは……インディオの人達を守るために……戦っている……。だから、インディオを危険にさらすことは……『つめたく』なる」
「だから今は退けと?」
インディオの言葉に頷くノーヴェ。
「本当、の……クーを示す約束……が出来る、のは……その時……。今は、逃げて……」
ノーヴェの言葉には、問題の棚上げで一時保留だ。今はクーを果たせない。だけど後に誓いを果たす。それでは今信用を得る事はできないだろう。
だが行動の根本がインディオの仲間を助けたい、という想いは確かに伝わった。
「アナさん……キリもアナさんを助けたいです!」
アナの名前に反応するキリ。これまでは書記に徹して言葉を挟まなかったが、同じ村にいた者として聞き逃すことはできなかった。プレールを最後まで守るために戦ってくれたインディオの戦士。
「キリはプレールを見捨てて放浪したかもしれないけど、アナさんを忘れたかもしれないけど――」
「そうか。君はあの村の人間か。……辛い思いをしたんだな」
「……っ!」
アタカパの台詞に言葉を詰まらせるキリ。村を捨てたと罵られるかと思ったのに。
「あの……プレール……、墓地4133は……」
「今なおパノプティコンの領地だ。案内をしたいが……今はそれどころではないな」
キリも自由騎士である立場は理解している。今優先すべきは、個人的な感傷ではない。
「インディオの人達と会ったぜ! みんな元気そうだった!」
ジーニーは通商連で出会ったインディオ達の話を戦士達に聞かせていた。家族と共に故郷の土地で過ごすことを目的としているインディオ達からすれば、神像よりも興味深い話だった。
「そういや、アタカパって祈祷師なんだろ? それじゃヤ=オ=ガーと話した事はあるのかなぁ」
「精霊には対話と言う概念はないが、意思を疎通させたことはある。……酷く荒々しい冬の北風だ」
「そっか! 精霊と話が出来るってすごいよな!」
「マザリモノ……そうか、貴方は」
「ああ、インディオと風の精霊のマザリモノだ!」
誇らしげに胸を張るジーニー。
「ま。そういう経緯もあるんで皆とは仲良くしたいのさ。出来ればパノプティコンと戦いたかったけど……今は早く離れた方がいいぜ!」
インディオ達と仲良くしたい。ジーニーの行動起源はそれだ。国の騎士としてではなく、個人の思いでインディオ達と寄り添う。それは彼女の生まれと経緯もあってのことではある。
それでもその気持ちは確かにインディオ達にも伝わっていた。
●
「貴国を受け入れるわけにはいかない」
アタカパははっきりと自由騎士達に告げる。歩み寄ろうとした『クー』を拒絶したのだ。その理由は納得できたが、インディオ達全員の信頼を得るのは無理だという判断である。
「君達はイクバヤを始めとした家族の客人だ。無下に扱うのは失礼だろう。貴国との接触はけして明かさないことを約束する」
ここでは何も見ず、何も起きなかった。協力はしないが敵対もしない。クーを拒んだ以上、この結果はどうしようもない事だった。歩み寄るための提案を拒否し、その上で自分達の為に協力してほしいというのは都合がよすぎる。
とはいえ、彼らがインディオに決して無関心ではない事も、利用しようとしているわけではない事はアタカパは理解していた。そして何名かの自由騎士達は彼らの仲間を心から心配していることも。
「『マイナスナンバー』と呼ばれる者達がいる」
どうするかを考えていた自由騎士達は、そんなアタカパの言葉に顔をあげる。
「パノプティコンの国民番号から漏れた、いわば逃亡者だ。彼らはパノプティコンに虐げられ、生きる活力を失っている。だが言葉次第では武器を取ることもやぶさかではないだろう」
それはインディオと同じくパノプティコン国民ではない新たな存在。港町3356を攻める際に不意を打つことが出来る戦力となる可能性がある。
(キリの村も、もしかしたらそんな感じの村だった……?)
昔の記憶が定かではないキリが薄ぼんやりとそんなことを思う。
「彼らの住居に案内しよう。それがブル族が出来る恩返しだ」
こうして、自由騎士達とインディオの交渉は終わりを告げる。
迫っていたパノプティコン兵をやり過ごし、火山地帯のさらに奥まで逃げるブル族達。一旦ベースキャンプを形成した後、アタカパは自由騎士達を連れて旅に出る。
マイナスナンバー。そう呼ばれるパノプティコンからの逃亡者の村に。
インディオとイ・ラプセルの関係は、少し前に到来したパノプティコン王の王族1687との会談に似ている。ヴィスマルクに対抗すべく歩み寄ったパノプティコンと、それを断ったイ・ラプセル。その理由は『信用できない』『いずれ敵対する相手とは組めない』と言ったものだった。
インディオからすれば、イ・ラプセルも同様だ。信用できない相手と共に戦えるわけがない。彼らからすればイ・ラプセルは『敵の敵』でしかないのだ
神像やインディオの家族との邂逅。それによりようやく交渉のテーブルを作り、折衷案として戦士長のアタカパは『クーを示せば、部族として歩み寄ろう』と告げる。自分達の為に戦ってくれるという意思と行動を示せば、反対意見もおさまるだろう。
だが――イ・ラプセル側、自由騎士達の反応は『それはできない』だった。
●
「ごめんなさい……。私達は此処で戦うわけにはいかないわ」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はインディオ達に謝罪の言葉を示す。自由騎士達全員と話し合い、その結果を偽りなく伝えた。ここで戦えばパノプティコンに情報を渡すことになる。それはけして看過できない事だ。
「連中に情報を渡すわけにはいかないんでな。それさえなければやってもよかったんだが」
言って肩をすくめる『海蛇を討ちし者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。イ・ラプセル側の目的はアイドーネウスの打倒だ。その為に必要な事なら何でもやるし、逆に彼らの利となることは徹底的にやらない。それが第一義だ。
「メリットとデメリットがあってネ。正直、デメリットの方が大きいんのサ」
先ずは理由を告げるべきだろう、と『ペンスィエーリ・シグレーティ』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は口を開く。今ここで戦う事のデメリット。それを考えれば戦うべきではない。
「戦いの前に不利になるようなことはしたくないんだ」
アクアリスの説明に被せるように告げる『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)。犠牲なんて少ないに越したことはない。ここでの行動の結果、犠牲が増えると言うのならそれは見過ごすことはできなかった。
「彼らとしてはクーはごく自然な提案なのでしょう。ですが――」
インディオの気持ちを想像しながら『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は眉を寄せる。割れる意見を統一するために示された儀式のようなモノ。インディオからすればそれを為すことが重要な文化なのだろう。それは理解できる。だが――
「うん。今は……それをしている場合じゃない気がする」
セーイ・キャトル(CL3000639)は言葉を選ぶようにインディオ達に告げる。彼らがこちらのことを信用しようとしてくれているのは分かるし、それを断る意味も理解できる。その意味と重さをしっかりと自覚して、言葉を紡いだ。
「今『クー』をしたら……皆、『つめたい』に……なる、から」
たどたどしく言葉を紡ぐノーヴェ・キャトル(CL3000638)。彼女の言う『つめたい』というのは、死や敗北を意味するネガティブば状況だ。今ここで戦えば、次の戦いは不利になる。インディオもイ・ラプセルも損益を被るのだという事を告げる。
「あー……戦わないのか。折角パノプティコンをぶちのめせると思ったのに」
「ええ……。以外、でしたね」
表紙抜けたように『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)と『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は武器を収めた。二人からすればパノプティコンと敵対する為にここまで足を運んだのに、肩透かしである。とはいえ、仲間の意見も理解はできる。今はその流れを崩さぬようにと戦意を収めた。
(……難しい話は苦手ですが、今はそう言う事だと理解しました)
同じく空気を読んで押し黙る『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)。この地とインディオと言う部族には色々思う所はある。だけど今はそれを押さえて、口を閉じた。
「…………そうか」
時間にすれば十秒足らず。アタカパは諦念のため息をついた。
「待ってくれ。俺達の話を聞いてくれ」
だが、ここからが交渉開始だ。互いの立場と意見を出し、その齟齬を埋める。それが交渉と言うのなら、互いのラインを確認した今こそ言葉を重ねる時なのだ。
●
自由騎士達が最初に語った事。それは――
「俺達の目的はアイドーネウスを倒すことだ」
「『神の蟲毒』……それに勝利しないと、この世界は終わりを告げる」
「タイムリミットまで時間がないんだ」
イ・ラプセルの目的である『神の蟲毒』……そして世界を救うという彼らの目的である。本来秘すべきことであるこれらを話したのは、インディオ達の信頼を得る為だ。
「俺達の国にある『未来を映す鏡』……水鏡っていうんだけど、それがある時期を境に何も写さなくなったんだ」
セーイが語るのは、『何もない未来』を知るきっかけとなった事。アクアディーネ様が知った虚の世界。全ての生命が死に絶えた世界だ。それを阻止するためには『神の蟲毒』に勝利しなければならない。
「これは映す未来がなくなった、って事なんだ。それを回避するには『神の蟲毒』に勝利しないといけない」
「荒唐無稽だな。世界が滅びるというのはどういう経緯で滅びるのだ?」
「それは……」
インディオに問われて、セーイは口ごもる。当然だ。その質問には誰も答えることが出来ない。世界がどのように滅びるのか。世界が何故滅びるのか。それは自由騎士さえ知らない事なのである。
「信じられないのは分かる。だがその前提があることを知ってほしい」
話を制するようにウェルスが言葉を続ける。実際の所、水鏡の存在も世界が滅びる話も信用してもらうのならイ・ラプセルに連れていくしかない。明日世界が消えてなくなるなど、戯言と受け入れられて当然なのだから。
「ヴィスマルクもパノプティコンも、それを目的に戦っている。『神の蟲毒』に勝利し、世界の崩壊を塞ぐために」
「それで、世界を守るために我々にパノプティコンに突撃して死ねと言いに来たのか?」
「我々をぶつけて疲弊したところを、後ろから得るために」
インディオの戦士の言葉は、言い方こそ悪いがあまり間違ってはいない。イ・ラプセルはインディオに共に戦おうと言いに来たのだ。信用しようとする『クー』を果たさない以上は、イ・ラプセルをそう言うふうに思うのも仕方のない事なのだ。
「正直、俺は敵対さえしなければいいと思っている。……まあ、信用されないのは仕方ないが」
言葉に含まれた感情を感じ取り、ウェルスはそう告げた。結局のところ、自分達の都合で彼らの歩み寄りを断ったことには間違いはないのだ。その理由はどうあれ、その事実は受け入れないといけない。
「私達に都合のいい事を言っているのは分かるわ」
嘆息するアンネリーザ。それでも今パノプティコンと戦うという選択肢だけは選べない。戦うことが怖いのではなく、被害が大きくなることが耐えられない。戦争である以上、ヒトは死ぬ。だけどその数が少ないに越したことはない――
「私達はパノプティコンに勝ちたい。貴方達も自分達の土地を取り戻すためにパノプティコンに勝ちたい。ならば、全ての力を出し切る時に万全の状態で挑みたいの」
今自分に出来る事は自分達もインディオ達も不利な状況に追い込みたくない。ただそれだけだ。戦い方を誤れば、多くの命が失われる。自分達が出会ったインディオ達に未来を作ってあげたい。
「言いたいことは理解できるが、それと信用は別問題だ」
「……そうね。私達が貴方達を裏切らない保証はないわ」
「インディオ達が元いた土地に住みたい、っていうのは知っている。奪われた故郷だっけか?」
記憶を思いよこしながら言葉を紡ぐナバル。インディオ達が戦う理由。神像を売り払ってまで家族を安全な場所に移し、勝ち目のない抵抗に準じる理由。戦えない民間人を襲うことなく、戦士の誇りをもって戦い続ける理由。それは――望郷なのだ。
そして、イ・ラプセルを信用できないのも『イ・ラプセルが故郷の土地を奪いかねない』という理由である。
「土地に関しては確約はできない。だけど王様に掛け合ったりしてみるから――」
「国、という者が王一人の采配でどうにかなるわけではない事も、キミは知っているのではないか?」
「う……」
アタカパの言葉に呻くナバル。騎士として活動し、『セイジテキななんとかかんとか』を目にすることは少なくない。どうにかできる、なんて約束が出来るわけがなかった。
「まあ、信用できないというのは仕方ないんだよネ」
うんうんと頷くアクアリス。逆の立場なら自分も相手を信用しないだろう。空気を読んでのフォローを行うが、相手の信用はまるでない事を察していた。それは『クー』を行わない時点で仕方のない事であったが。
「ちなみに、戦力てとして物資支援やボクらの中から何名かが残る……という提案も受け入れそうにないカナ。イ・ラプセルへの人質に使えるけど」
「そうだな。そのようは真似はできない。君達はイクバヤを始めとした家族の客人だ。無礼を働くわけにはいかない」
アクアリスの提案をやんわり断るアタカパ。実際の所は家族以外のモノを受け入れられないという面もあった。信頼できない相手を置くことで生まれる不信感。それを恐れての拒絶である。
(まあ、そうか。元よりボクらの助けが必要だ、なんて彼らは言ってないもんネ。パノプティコンとの戦力差なんて、初めから受け入れて戦っているんだから)
「ふむ。こちらに残るのは面白そうだったのですが」
残念残念、と頷くミルトス。どちらかというと戦いたかったミルトスからすれば、助成の拒絶は残念な知らせであった。不利な戦いはむしろ望むところではあったが、インディオが我が拒絶するのなら致し方ない。
「貴方達は二国間の軍事衝突に巻き込まれるだけとお思いでしょう。ただ、戦う事は同時に死ぬことを含みます。貴方達も戦士であるのなら、それは受け入れていると思われます」
「そうだな」
「命というチップは最大効率で使うべきかと。こうして伏しているのも、その機を伺ってのことと思われます。それを待ってください」
ミルトスの思考は、生存を放棄した修羅の思想だ。
「……今彼らと戦う以外で、『クーを示す』という事はできますか?」
この方面からの説得の手詰まりを感じたデボラは、話の流れを変える為に挙手をする。自由騎士にとっての戦う理由はインディオ達からすれば妄言で、よく受け取られても『それは自分達とは無関係』と言った感じだ。ならば少し現実的な方向を示そう。
「港町3356……私達の目的はパノプティコンがそう呼ぶその地です。
そこを攻め落とすことで『クー』を示すという事はできますか? それまでは見ているだけでも構いません」
「それはイ・ラプセルの戦術的都合だろう。言わば君達の都合だ」
「君達の都合で決定したことを『クー』とする、というのは傲慢ではないか?」
言われてデボラは押し黙る。デボラの言っていることはヴィスマルクが『今からパノプティコンの大地を攻め滅ぼすから、お前ら流に俺達を誉めろ』と言っているようなものだ。他国の都合で行った行為を自国の文化で推せ、というのは結局自国文化の押し付けでしかない。
大前提として、自由騎士達がはき違えていることがあった。
「君達の都合は……理解の及ばない範囲ではあるが納得しよう。嘘偽りを言っていないことも信じれる。おそらく秘すべき事情だったのだろうが、それを吐露したという事はこちらに対する歩み寄りなのだと思おう。
だが、信用は別問題だ。君達の都合だけを前面に出して協力してくれと言うのなら、こちらもこちらの都合で断るしかない」
インディオ達は『部族』という家族意識で団結している。奪われた故郷を奪還し、家族との生活を戻す。この一枚岩こそが彼らの強みなのだ。
そこにイ・ラプセルと言う『他人』がやって来て自分の都合を理由に協力を申し出たのである。それを受け入れれば、インディオの強みである一枚岩の結束にひびが入る。違う目的、違う理由、違う価値観のモノが入れば結束は弱まるのである。物理的、軍事的な強さではない。疑念、猜疑心、そして裏切り。組織としてのガンを孕むことになるのだ。
言ってしまえば、彼らにとって『国』や『神』の話などどうでもいい話なのだ。重点を置くべきは、インディオという部族にどう歩み寄るかだったのである。
その歩み寄りこそが『クー』であり、それを拒絶した理由が自国の都合なら、この反応はむしろ当然であった。
●
「私は……アナ、を……助けるの、に……ここに、居る……」
ノーヴェの言葉にインディオの数名が反応する。アナ。今はパノプティコンの『王族1734』として活動しているインディオの娘。
「アナは……インディオの人達を守るために……戦っている……。だから、インディオを危険にさらすことは……『つめたく』なる」
「だから今は退けと?」
インディオの言葉に頷くノーヴェ。
「本当、の……クーを示す約束……が出来る、のは……その時……。今は、逃げて……」
ノーヴェの言葉には、問題の棚上げで一時保留だ。今はクーを果たせない。だけど後に誓いを果たす。それでは今信用を得る事はできないだろう。
だが行動の根本がインディオの仲間を助けたい、という想いは確かに伝わった。
「アナさん……キリもアナさんを助けたいです!」
アナの名前に反応するキリ。これまでは書記に徹して言葉を挟まなかったが、同じ村にいた者として聞き逃すことはできなかった。プレールを最後まで守るために戦ってくれたインディオの戦士。
「キリはプレールを見捨てて放浪したかもしれないけど、アナさんを忘れたかもしれないけど――」
「そうか。君はあの村の人間か。……辛い思いをしたんだな」
「……っ!」
アタカパの台詞に言葉を詰まらせるキリ。村を捨てたと罵られるかと思ったのに。
「あの……プレール……、墓地4133は……」
「今なおパノプティコンの領地だ。案内をしたいが……今はそれどころではないな」
キリも自由騎士である立場は理解している。今優先すべきは、個人的な感傷ではない。
「インディオの人達と会ったぜ! みんな元気そうだった!」
ジーニーは通商連で出会ったインディオ達の話を戦士達に聞かせていた。家族と共に故郷の土地で過ごすことを目的としているインディオ達からすれば、神像よりも興味深い話だった。
「そういや、アタカパって祈祷師なんだろ? それじゃヤ=オ=ガーと話した事はあるのかなぁ」
「精霊には対話と言う概念はないが、意思を疎通させたことはある。……酷く荒々しい冬の北風だ」
「そっか! 精霊と話が出来るってすごいよな!」
「マザリモノ……そうか、貴方は」
「ああ、インディオと風の精霊のマザリモノだ!」
誇らしげに胸を張るジーニー。
「ま。そういう経緯もあるんで皆とは仲良くしたいのさ。出来ればパノプティコンと戦いたかったけど……今は早く離れた方がいいぜ!」
インディオ達と仲良くしたい。ジーニーの行動起源はそれだ。国の騎士としてではなく、個人の思いでインディオ達と寄り添う。それは彼女の生まれと経緯もあってのことではある。
それでもその気持ちは確かにインディオ達にも伝わっていた。
●
「貴国を受け入れるわけにはいかない」
アタカパははっきりと自由騎士達に告げる。歩み寄ろうとした『クー』を拒絶したのだ。その理由は納得できたが、インディオ達全員の信頼を得るのは無理だという判断である。
「君達はイクバヤを始めとした家族の客人だ。無下に扱うのは失礼だろう。貴国との接触はけして明かさないことを約束する」
ここでは何も見ず、何も起きなかった。協力はしないが敵対もしない。クーを拒んだ以上、この結果はどうしようもない事だった。歩み寄るための提案を拒否し、その上で自分達の為に協力してほしいというのは都合がよすぎる。
とはいえ、彼らがインディオに決して無関心ではない事も、利用しようとしているわけではない事はアタカパは理解していた。そして何名かの自由騎士達は彼らの仲間を心から心配していることも。
「『マイナスナンバー』と呼ばれる者達がいる」
どうするかを考えていた自由騎士達は、そんなアタカパの言葉に顔をあげる。
「パノプティコンの国民番号から漏れた、いわば逃亡者だ。彼らはパノプティコンに虐げられ、生きる活力を失っている。だが言葉次第では武器を取ることもやぶさかではないだろう」
それはインディオと同じくパノプティコン国民ではない新たな存在。港町3356を攻める際に不意を打つことが出来る戦力となる可能性がある。
(キリの村も、もしかしたらそんな感じの村だった……?)
昔の記憶が定かではないキリが薄ぼんやりとそんなことを思う。
「彼らの住居に案内しよう。それがブル族が出来る恩返しだ」
こうして、自由騎士達とインディオの交渉は終わりを告げる。
迫っていたパノプティコン兵をやり過ごし、火山地帯のさらに奥まで逃げるブル族達。一旦ベースキャンプを形成した後、アタカパは自由騎士達を連れて旅に出る。
マイナスナンバー。そう呼ばれるパノプティコンからの逃亡者の村に。