MagiaSteam
Measurement! 推し量れ相手の強さ!



●ブレインストーミングより
『パノプティコンめ、同盟を断ったらすぐに宣戦布告してきやがったな!
 イ・ラプセルはどうするんだ? 相手の出方を伺うのか? それとも、こっちからぶちかましてやるのか?
 ……私は、駆け引きとかはよくわからないけどなっ!』

『ん~、ヴィスマルクから変な牽制を食らう前にパノプ領へ進撃かな。橋頭堡として件の港辺りでも奪い取りたいな。
 そうすれば此方への牽制より、パノプへの進行速度が上がるはずだ。パノプもやる気だし、お望みどおり右往左往してもらおうぜ』

●威力偵察
「結論から言えばパノプティコンへの情報不足は否めない。その為、今回は威力偵察が目的になる」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集まった騎士達にそう告げる。
 軍事作戦は大雑把に言えば『場所』『敵』の情報を元に立案される。特に後者は流動的で、これらを知るためには偵察行為が必要となる。威力偵察とは武力を行使し、敵の情報を得る行為だ。
 これまで自由騎士達は水鏡によりこれらの情報を事前に得ることが出来た。だが、
「今回水鏡による予知はない。距離限界もあるのだろうな」
 との事である。その為小規模な海軍を編成し、速度重視でイ・ラプセルから最短距離にある港町3356に向かった。何の障害もなく船は目的地付近までたどり着き――

「お待ちしておりましたよ。皆様。二週間ぶりでしょうか?」

 その湾岸に停留している船。そこから一人の男の声が聞こえる。遠視を持つ者がその船を見れば、金髪の貴族風な男が立っているのが見えただろう。
 パノプティコンの王、『王族1687』だ。

「いやはや、迅速な行動は尊敬に値しますよ。暫くは警戒されて動かないとみていたので本当に驚きです。亜人奴隷解放と言う平和主義に見えて敵とみると容赦はしない。その精神性こそが勝利を掴んできたのでしょうなぁ。
 それに敬意を表し、我輩自らと義娘『王族1734』がお相手しましょう。もちろん我が国が誇るの軍隊も含めて、ですが」
 展開される軍船。それはイ・ラプセルの船を囲むように展開される。オラクルに砲撃は通じないが、乗っている船はそうとも限らない。
「ハ・ラ・ス・モ・チ・カ・ニ・ラ・ミ!」
「イ・ミ・ソ・リ・ラ・ト・ナ・ス・イ!」
 一糸乱れぬ迅速な動き。まるで読まれていたかと思うほどの迅速な行動。これが防衛力に長けたパノプティコンの軍隊か。
 今すぐに撤退することは容易いだろう。包囲網が完全に完成すれば、逃げる事もできなくなる。だが何の成果もなく逃げ帰れば、出撃の意味がなくなる。威力偵察である以上、何かしらの情報を得なければ無駄足だ。
 だが深入りしすぎれば、逃げられなくなる。撤退のタイミングを見極めないと意味がないのだ。効率よく情報を得て、逃げる。これが現状での最善策だろう。
 船を回頭させる準備はできている。自由騎士達の判断は――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
EXシナリオ
シナリオカテゴリー
新天地開拓σ
担当ST
どくどく
■成功条件
1.8ターン交戦して撤退せよ(交戦情報の獲得)
 どくどくです。
 このシナリオは『ブレインストーミングスペース#1』の『ジーニー・レイン(CL3000647) 2020年04月30日(木) 14:52:12』と『ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033) 2020年05月01日(金) 19:48:33』の発言により発生しました。
 該当者の参加を強制する者でもなく、同時に参加優先権があるわけでもありません。ご了承ください。

 最低限の勝利条件を達するなら、この難易度。それ以上を求めるなら難易度は跳ね上がるでしょう。

●敵情報
・パノプティコン海軍(数不明)
 パノプティコンの海軍です。大陸共通語ではない言葉で喋り、強い連携で動きます。
 また、蒸気ドローンと呼ばれるモノを飛ばし、空中から観察と同時に攻撃を仕掛けてきます。
 情報を得るには実際に戦ってみるのもいいでしょう。会話は無理と思うので、技能などで押しはかるのも策としては有効です。
 構成は『重戦士』『防御タンク』『魔術師』『ヒーラー』スタイルです。それぞれのジョブのランク2までを活性化しています。
 5ターン毎に『重戦士』『防御タンク』が二人。『魔術師』『ヒーラー』が一人ずつ追加されます。

 また包囲網は18ターンで完全に完成します。そうなれば逃げることはできなくなり、パノプティコンの捕虜となります。捕虜となった者達は国から保釈金を払って通商連を通じて帰国することになります。ゲーム的にはイ・ラプセルの【軍事力】が100減少し、その分パノプティコンの【軍事力】が上がります。

・『王族1687』(×1)
 パノプティコンのハイオラクル。この中で唯一大陸共通語を喋ることがアイドーネウスに許可されています。その為、会話での情報収集は可能です。
 武器らしいものは何も持っていません。水鏡からの情報は皆無です。

・『王族1734』(×1)
 パノプティコンの王族。エドワード国王の嫁に宛がわれる予定でした。全身をローブで覆い、斧を手にしています。女性であろうこと以外は全くわかりません。
 水鏡からの情報は皆無です。

・蒸気ドローン
 大きさ1mほどの大きさを持つ十字架状の兵器です。常に【飛行】状態。銃口らしい存在と、観察する為のカメラが見られます。空中戦ルールに従い、回避などにマイナス修正が付きます。
 水鏡からの情報は皆無です。

『国民管理機構』
 この場にはありませんが、国民全員(ドローンは除く)を管理して何かしらの影響を与えているようです。
 水鏡の予知によれば、デウスギアの効果で12ターン目に戦場に変化が訪れます。詳細は不明ですが、『王族』の二人が強化されるようです。デウスギアの情報が得られる可能性がありますが、成功の必須条件ではありません。

●場所情報
 イ・ラプセル軍船。周囲は7割がたパノプティコン軍船に囲まれています。砲撃が飛び交っていますが、威嚇射撃なので戦闘には影響ありません。パノプティコン軍の船が接舷し、白兵戦部隊が甲板に乗り込んできています。
 撤退は行動可能なキャラが宣言すれば、規定ターン以内ならいつでも可能です。白兵戦部隊もそのタイミングで撤退します。パノプティコン軍も情報収集が目的なので、深追いするつもりはないようです。
 戦闘開始時、敵前衛に『王族1734』『重戦士(×2)』『防御タンク(×2)』が。敵後衛に『王族1687』『魔術師(×2)』『ヒーラー(×1)』『蒸気ドローン(×3)』がいます。
 事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
3個  3個  3個  7個
16モル 
参加費
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
10/10
公開日
2020年05月17日

†メイン参加者 10人†




 イ・ラプセルの船を囲むように展開するパノプティコン海軍。彼らの動きに乱れはなく、包囲網は少しずつ完成しつつある。
 だがまだ逃げることはできる。乗り込んできたパノプティコン軍と王族の二人。彼らがここに来たのは戯れか、或いは最大戦力で挑まなければならないとイ・ラプセルを評価したか。
「いきなりのお出迎えだな!」
 斧を構えて『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)が叫ぶ。こちらの到来を待ち構えていたかのような軍隊。そして王族自らの出陣。ジーニーの言う通り、かなりのお出迎えだ。
「先読みされたか? まずったな……!」
 言って銃を構える 『機神殺し』ザルク・ミステル(CL3000067)。水鏡の情報を前提にして有利を取るのが自由騎士の戦略だ。水鏡を始めとした情報皆無の状況では、作戦も立てにくい。少なくとも十全とした対策は取れないだろう。
「それでも、まだ『負けた』わけではありません」
 戦争の空気に飲まれないように凜と背筋を伸ばす『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)。この場合の敗北条件は何の情報もなしに戻ることだ。元より威力偵察。ある程度の戦闘行為は予想していたからこそのこのメンバーなのだ。
「せっかく王族が出張ってるんだし、情報掴んで帰らないと女がすたるよね!」
 うん、と頷く『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)。王宮に引っ込んでいそうな王様がわざわざ出張ってきてくれたのだ。そう考えればむしろ僥倖と言えよう。ピンチをチャンスに変えようと気合を入れて、拳を構える。
「……戦争か。やるしかないんだね」
 戦争。その言葉の意味をしっかり噛みしめ、戦場に立つ『朽ちぬ信念』アダム・クランプトン(CL3000185)。誰も傷ついてほしくないが、そんな世界を作るために戦わねばならない。その矛盾に葛藤しながら、しかし守るべき意思は変わらない。
「こういう時、あの人なら……いいえ、今は」
 策を弄するのが得意な人を思い出しながら『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は頭を振った。今その人は此処にはいない。今自分に出来る事を行うのみだ。武器を構え、歩を進める。
「大丈夫、キリたちならできるわ……!」
 状況を確認し、『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)は強く頷く。今すぐ逃げるという選択肢もあるが、それでは意味がない。出来るだけ多くの情報を手に入れて、イ・ラプセルに帰る。その為にも全力を尽くすのだ。
「楽しく会談したお方と戦場で出会うことになろうとは……これも時代という事ですね」
 嘆息して武器を構える『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。イ・ラプセルとの同盟会談でいろいろ話をした『王族1687』。情が移ったというわけではないが、その記憶をなかったことにすることはできない。
(遠方の情報が見れなくなったのは距離制限か? いや、もしかしたら相手のデウスギアの効果かもしれないな?)
 思考するセーイ・キャトル(CL3000639)。こうも相手が先手を打てた理由。水鏡の予知がほとんど発動しなかった理由。推測だけならいくらでもできる。それを証明するために調べなければならない。行動で、そして知識で。
(おひめ、さ、ま……私、と……似てる……気、が、する……)
『王族1734』を見ながらノーヴェ・キャトル(CL3000638)は静かに思う。武器も、立場も、何もかも違うけどそれでも何かしらの共通点を見ていた。それが何なのかはわからないけど、それでも確かに。
「即時撤退しないのは、なるほど賢明です。だからこそ、ここで戦意を挫いておきたいのですが、さて」
『王族1687』の言葉と共に展開するパノプティコン軍。
 イ・ラプセルとパノプティコン。公式に残る最初の交戦が、今切って落とされた。


「防戦に徹して逃げ去るってのは、確かに味気ないよな」
 潮の香りを含んだ空気を吸い込みながら、引き金に指をかけるザルク。傭兵団に所属していた時も、敗戦で逃亡することはあった。そういう時は怪我をしない為に迅速に逃げるのが基本だが、今回はそうもいかない。相手の情報を出来るだけ多く持ち帰るのだ。
 パノプティコン開閉の動きを見ながら、ザルクは引き金を引く。眼の動き、手の向き、足の向き。それらが相手の次の動きを教えてくれる。動く先に置くように弾丸を撃ち放ち、着弾した弾丸から解放される魔力が海兵達を疲弊させていく。
「大盤振る舞いだ、持ってけ!」
「キリが皆を守るわ!」
 サーベルを手にしてキリがパノプティコン兵の前に立つ。飛び交う砲撃。奇異な言葉を喋りながら動き回る敵。そして何より情報のない状態での戦い。不安なことだらけだ。だからこそ背筋を伸ばして自らの役割を果たす。
 迫る敵の動きをサーベルでけん制しながら、ローブを振るって相手の武器を絡めとる。特殊な織り方で刃に切り裂きにくくされたキリのローブは、盾とはまた異なる防御の一品。ふわりと舞う布が仲間を守る。
「たまきさん、よろしくお願いします!」
「はい。皆さん、行きましょう!」
 キリの守りを受けながら、こくりと頷くたまき。戦争の雰囲気に飲まれないように頬を叩き、数度唱えなれた呪文を繰り返す。それだけでスイッチが入ったかのように体は動いてくれた。みんなを守る。その意思は変わらないのだから。
 傷ついた仲間の姿を見ると同時に呪文を唱えるたまき。三音節の言葉でマナを集め、二音節で癒しの力に転化する。仲間の傷に意識を向けて力を解き放ち、仲間達の傷を癒していく。大丈夫、上手くやれる。頷いて、さらに呪文を唱え始める。
「皆さんが、無事に帰れるように……」
「はい。みんなでイ・ラプセルに帰りましょう!」
 力強くデボラが頷く。みんなで。この部分に力を込める。誰かを犠牲にして逃げるつもりはない。全員で祖国に帰還し、そして喜び合うのだ。その為にも皆を守り、そして情報を得て帰る。我が武器はその為に在るのだ。
 仲間を守るような立ち位置を維持しながら、同時に仲間達の位置を調節して防御の陣を形成する。武器の範囲、動線、距離……目に見えないそれらがデボラの形成する砦。味方すべてを守り、味方全てが皆を守るのだ。
「可能であれば王族1734さんを鹵獲したいのですが……」
「おひめ、さま……あいて、する」
 呟きながら駆けるノーヴェ。言葉こそ少ないがその意思に迷いはなく、甲板を蹴って一気に相手との距離を詰める。ローブを着た女性の王族。その動きから目を離さずに、一気に斬りかかった。
 右手にカタール。左手にカランビット。異なる形状且つ間合の二本の刃。その特性をしっかりと理解してノーヴェは切りかかる。接近戦の間合まで踏み込んでカランビットを振るい、距離を話しながらカタールで一閃する。己の速度を生かした一撃離脱。
(おひ、め、さま……は、どんな……ヒト? そこにいて……『つめた』くないの……?)
「カノンもいくよ!」
 ノーヴェと入れ替わるようにカノンが前に出る。相手の視線がこちらを向いていることを確認し、カノンは上半身を上下に振ってフェイントを仕掛ける。引っかかった様子はない。成程戦い慣れているな、とカノンは笑みを浮かべた。
 ネコのように身をかがめて、体位を低くして王族1734に迫るカノン。斧の一撃をかわし、その懐に入り込む。相手が斧を引き戻すよりも先に接近した勢いを殺すことなく拳を叩きこみ、相手に振動を伝える。小さく呻く女性の声が、確かにカノンの耳に響いた。
「少なくとも虜のお姫様、って言う感じじゃないよね。それはそれでいい題材なんだけど!」
「私も混ぜろ! 王女様、初めましてだな!」
 巨大な斧を構えて突撃するジーニー。両目で異なる色の瞳でローブの王族を見ながら、数秒先の相手の動きを感知する。見えたのは交差する斧と斧。ジーニーの斧に怯えず踏み込む王族の姿。その未来に臨むところと笑みを浮かべ、斧を振り下ろした。
 激突する斧と斧。パワーとパワー。掠っただけでも肉をえぐりとる重量武器同士の攻防。重い一打同士の打ち合いが物語るのは、相手もジーニーと同じ重戦士系の攻撃を主体としている――のだが、おそらくそれは本職ではない。
「へっ、本物の重戦士の力を思い知らせてやらァ!」
「そうですね。重戦士同士、語り合いましょう。……互いの武器で」
『断罪と救済の十字架』を手にしてアンジェリカがパノプティコン軍と相対する。アンジェリカは先手を取って一気に敵を攻め立てていた。ヘルメリアから得た権能を見せることになったが、神の加護ともいえる権能に対する対抗策など取れようはずがない。悪手ではないはずだ。
 揺れる船の動きを予測しながら足に力を込め、タイミングを見計らい武器を振り下ろすアンジェリカ。重戦士の基本中の基本。基本ゆえにその真価が発揮される攻撃方法。その差を示すかのように相手の重戦士には疲労がたまっていく。
「さあ、戦いましょう。互いの大事なモノの為に」
「そうだ。互いに譲れないモノがある。僕はその両方を守りたい!」
 敵前に立ち、高らかと叫ぶアダム。国、文化、種族、男女……様々な要因で価値観が異なるのは仕方ない。だが、そのどれもが素晴らしく甲乙つけがたいはずだ。だからその全てを守る。その為に、この鋼鉄の腕はあるのだから。
 護る。その意思を込めて構えをとるアダム。敵の動きを押しとどめ、仲間をだれも傷つけさせまいと強く意思を保つ。仲間に襲い掛かる刃と魔力弾。それらを受け止め、弾き飛ばしながらなお背筋を伸ばす。騎士アダム・・クランプトンは此処に在るとばかりに。
「モ・ン ミ・チ・モ・イ ニ・ト アダム! ニ・ミ・シ・ラ・モ・ニ・カ・チ・コ・リ・イ ノ・ミ・ニ・キ・ク・カ!」
「今のところ、砲撃は威嚇みたいだけど……」
 セーイは船に向かって飛んでくる砲撃に注視していた。王族の二人が乗っているから当てるつもりがないのだろう。こちらを逃がさない意図なのは間違いないが、それも『今のところ』だ。未来を見る目で情報を確認しながら、魔力を練り上げていく。
 周囲に存在するマナ。セーイ自身の体内に宿るマナ。その二つを繋げ、魔力をもって世界を改革する。展開するのは仲間を守る不可視の障壁。大きな円の中に複数の文字列を並べ、それぞれの意味をもって陣を為す。守りの方陣が敵の悪意を妨げる。
「俺も皆を守る!」
 待ち伏せされたショックを表に出さず、戦い挑む自由騎士達。今できる最善を。出来るだけの情報を持ち帰り、そして次につなげるのだ。
「ヌニュヌウィ」
 王族1734が呟くと同時に、石の肌を持つ『何か』が顕現し、彼女の周りにいる者に殴り掛かる。その一撃が自由騎士の勢いを止め、それに続くようにパノプティコン軍が攻め立ててくる。
「まだキリは倒れません!」
「防御の要を狙ってきましたか……!」
「仲間を守る。その為に騎士は在るんだ!」
 猛攻を受けたキリとデボラはフラグメンツを削られるほどのダメージを負い、アダムが守り切る意思をもって意識を保つ。デボラが看破したように、守り手を先に崩しに来ているようだ。
「流石に一筋縄ではいきませんか。やはり同盟できなかったことは悔やまれますなぁ」
 自由騎士の戦いを見て王族1687はため息をつくように口を開く。たが、今更手を結び直すというつもりはないようだ。
 戦いながらの情報戦。果たして多くの情報を得ているのは自分達か、それとも相手なのか。それは分からない。
 包囲網は少しずつ、完成しつつある。自由騎士達は時間を意識しながら戦いを続けていた。


 逃げる事はいつでもできる。故にギリギリまで闘い情報を仕入れ、そして逃げる。撤退のタイミングは皆で共有していた。それまで戦って情報を得て、逃げ帰るのだ、
「ん……。サポートは、任せて」
「ぬぅ、もふもふさんはいないようで……いや、やる気は出しましよ」
「西園寺もこの銃で援護します」
「皆様を御守りするのが騎士の努めです」
「はいはい。おじさんが癒すから厳しいのは任せたぜ」
 サポートの援護を受けながら、自由騎士達は情報を得るためにパノプティコン軍と交戦する。
「……大丈夫です。言葉は、わかります」
 たまきは言語理解の術式によりパノプティコン軍の会話を理解していた。短い単語による号令。時折交わされるやり取りで包囲網を狭めながら、砲撃のタイミングを計っていることは、わかる。だが――
(戦闘中は、言葉を交わしていません……。テレパスか何かで、意思疎通をしているのでしょうか……?)
 今この戦場に居るパノプティコン軍同士は全く会話が行われていなかった。誰が誰を狙い、次にどう動くか。それを口にしている様子はない。目線や手ぶりなどでそれを伝えている様子もないのだ。
「マキナ=ギアのような、通信……? いいえ、そういう機器を持っているようには、見えません」
「そうだな。動作のクセは見られない。なのにえげつない連携だ」
 ちっ、と舌打ちするザルク。目端が利く自信はあるが、その動きに目立ったものは見られない。ただ淡々と訓練通りに動き、一糸乱れない。普通は個性や練度の違いでズレが生じるはずなのに、そう言ったものがまるで見られないのだ。
(……違う、逆なんだ。動きに特徴がないのが、特徴なんだ)
 焦るな。自らを律するザルク。見たままを見て、聞いたままを聞く。その事実から情報を整理し推測するのだ。シャンバラやヘルメリアとは違う、際立った個性がない。つまりそれこそが――
「そういう力なのか? 一斉に行動できるような、そんな権能……?」
(おい、お前! ミズビトだろ?  直接話すのはアイドーネウスに禁止されていても、頭の中で会話する分にはいくら神でも監視できないだろ!?)
 ジーニーは戦闘行為の最中に海兵の一人にテレパスを使って話しかける。念話が邪魔された様子はない。だが相手はジーニーに目を向けるが、応える様子はなかった。
(このまま一緒にイ・ラプセルに逃げようぜ? パノプティコンで神に管理されて人生送るなんて、嫌じゃないのか?)
 まるで反応はない。――沈黙を保つように心の声を閉ざしている。
「おや、スカウトですか? いい作戦ですからね。こちらも真似てみますか」
(っ!? 嘘だろ! そんなところまで監視できるのかよ!)
 ジーニーにかけられる王族1687の声。神を侮ったつもりはないが、予想外だったことには違いない。ジーニーは諦めて戦いに専念する。
「……まさか……!?」
 アダムは目の前に立つ防御タンクの姿を見て戦慄する。青白い肌を持つヒト型の種族――ノスフェラトゥ。奉じる神を喪失した少数民族。それが部隊を為しているのだ。
「どういうことだ!? 貴方はノスフェラトゥに関して質問した時に――」
 問い詰めるように王族1687に向かって叫ぶアダム。かつて話をしたときにノスフェラトゥに関する質問をしたことがあった。その時は、
「ええ。『聞いたことがありますな』と答えました。それはそうでしょう。自国に居るのですから。こうして防御の要として、その不死性を利用させていただいております」
「利用……!」
「かつて申したと思いますが『人は宝』というのが私の信念です。ええ、有用な人材を適切な場所で働かせる。彼らのしぶとさは我が軍の強みの一つです」
 悪びれることなく言い放つ王族1687。アダムは拳を握り、戦いに挑む。
「おひめ、さ、ま……は、他の、ヒト…から……王さま、と…違うヒト……って、聞いた……」
 王族1734と刃をかわしながら、ノーヴェは途切れ途切れに問いかける。ローブの奥に隠れた顔は見えない。だが彼女がインディオ出身であることは聞いている。パノプティコンと相対する部族だとも。
「王さま……に、歯向かう、ヒトたち……て、聞いて、る……。『いや』じゃないの……?」
 もし戦いを強いられているのなら、それはノーヴェにとって『冷たく』感じる事だ。戦いたくない戦いを強いられ、同胞を追い詰め。そんな事をさせられるのなら、止めたい。
「ノ・ニ・リ・リ」
 だが帰ってきたのは、殺意の籠った斧の一閃。強く鋭い一撃が拒絶の意を示していた。
「ノーヴェ、下がれ! やばいのが来る!」
 数秒後の未来を見ながらセーイが叫ぶ。秒単位で目まぐるしく変化する戦場に置いて、数秒のアドバンテージは大きい。だが同時に得られる情報が多いのも確かだ。処理に手間取り、指示も自然と大雑把になる。
(国民管理機構の力……時間がかかるのはなんでだ? 確かにアルス・マグナみたいなエネルギーを溜めるとかそういう意味かもしれないけど、そんな大規模なモノなのか? とにかく情報が少なすぎる)
 思考するセーイ。とにかくパノプティコンの情報が少なすぎる。だからこその威力偵察なのだが、いざこうして見ても、得られるものがどれだけあるのか。とにかく、片っ端から情報を見出していく。
「流石に鹵獲は難しいですか」
 パノプティコン軍の増援を見て、デボラは王族1734の鹵獲を諦める。元よりうまくいけばという考えだったので、そこに拘泥はしない。捕らえることが出来ればより多くの情報を得られたかもしれないが、致し方ないだろう。
(それに下手に突出すると、こちらも捕らえられかねません。捕虜は丁重に扱ってくれそうですが……)
 こちらが鹵獲しようとしているように、あちらも同じことを考えている可能性はある。それを思えば強硬的な作戦は控えて正解だ。ヴィスマルクと違い捕虜の扱いは悪くはないだろうが、アイドーネウスに二十四時間管理されるのかと思うと、それもぞっとする。
「……ええ、無理は禁物です。より有益な情報を」
「面倒な状況ですね……!」
 呼吸を整えながらアンジェリカが呟く。アンジェリカは五感すべてを戦いに注ぎ、パノプティコン軍と相対していた。けして弱いわけではないが、突出した何かを持たないパノプティコン軍。ただ地道に攻撃を積み重ねてくるだけの相手。それだけなのに。
(連携力が高い……とでもいうのでしょうか? 同じ攻撃なのにこうもタイミングを合わされると避けにくいですね)
 時に同時に、時に連続で繰り出される武器と魔術にアンジェリカの体力は少しずつ削られていた。単純な攻撃が複数回あるのではなく、複数の攻撃がまるでチェスのように追い詰めるように飛んでくる。多方面からくる攻撃が逃げ場を奪い、そして雪崩のように迫ってくるのだ。
「これもパノプティコン国の管理の結果、なのでしょうか……?」
「だとしたら厄介だよね。ま、演劇には役立ちそうだけどさ!」
 前衛で戦っていたカノンも似たような感想を抱いていた。最初は連携だった動きが得意と思っていたのだが、ここまでくると連携の域を超えている。全くスキのない動きと、そして攻撃。尋常としか言いようがない。
 軽口を叩きながらカノンは王族1687を見る。向こうもこちらの視線に気づいたのかカノンの方を見た。それを確認し、カノンは口を開く。
「王女さんをうちの王様のオヨメさんにするつもりだったみたいだけど」
「ええ、ですが見事にフられました。お陰でこの有様です」
「あははは、ご愁傷さま。政略結婚ってお芝居のネタには丁度いいんだよね。イ・ラプセルが勝利の暁にはうちの劇団で上映させてもらってもいいかな?」
「いいですよ。パノプティコン勝利の暁には可愛らしい道化を演じてもらいましょう」
 おおっと、カノンは相手のユーモアに笑みを浮かべていた。相手も同じような笑みを浮かべている。どうあれ負けるつもりは互いにない。
 王族1687が指を弾くと同時に甲板に炎が走る。炎の弾丸と魔力の炎。二種類の異なる炎が戦場を走り――
「――え?」
 頬を撫でる熱い風にキリの心がざわめく。視界を緋が占め、肌を焼く熱と痛み、圧倒的な灼熱の速度、全てを飲み込む死の具現。忘れるものか。この光景を。否、この炎が記憶の全てを埋め尽くしたのだ。あの日、全てを奪った、この炎――
『プレールという名の、海岸沿いの村を、ご、ご存知、でしょうか……?』
 キリが王族1687に問いかけた時、彼はこう答えた。
『ふむ……少なくともパノプティコンの名称ではありませんね』
 そうだ。このひとは、いちども、『知らない』なんて、言っていない――
「『もし公務の際に手掛かりが見つかれば、お伝えいたしましょう』……と言いましたね。ええ、お伝えしましょう。
 その村は、今は墓地4133と呼ばれています。あそこの整地には手間取りましたよ」
「あなたが――――!」
 怒りで我を忘れそうになるキリ。踏みとどまったのは炎から仲間を守らないといけないという守り手の心から。ここで怒りに任せてしまえば、戦線は崩壊する。でも、でも――
 様々な情報、様々な感情、そして様々な武器と魔力が交差する戦場。国の為に、己の為に。その大小に意味はない。同じ人間の持つ、同じ『大事なモノ』なのだ。その価値に差異などありはしない。
 時間は刻一刻と過ぎていく。


 イ・ラプセルとパノプティコン。双方共に目的は情報収集だ。故に積極的な攻勢ではなく、手の内を晒させるように戦闘を加速させていく。
 それでも戦いである以上、手は抜けない。武器と魔力は容赦なく体力を奪っていく。
「く……。ま、だ」
「あいたたた! ノーヴェ、無理するな!」
「中々やるじゃねぇか。王女様!」
「ホント、強い王様とかはウケがいいんだろうけどねⅠ」
 ノーヴェ、セーイ、ジーニー、カノンがパノプティコン軍の攻撃を前にフラグメンツを燃やすほどのダメージを受ける。
「いい加減、顔ぐらい見せやがれ!」
 王族1734に向かい、大斧を振るって風を起こすジーニー。距離を離す為の牽制という意味もあったが、秘められた顔を拝まないと気が済まなかった。風は王族1734のフード部分を飛ばし、茶色の神と青の瞳を持つ褐色の少女の姿を衆目に晒す。
「インディオの貴女に問いたい。貴女は何の為に戦っている? アタカパという彼は、 愛した大地と精霊の為に今も戦っているみたいだよ」
 王族1734に問いかけるアダム。意味などない。何かしらの情報が得られれば、程度の問いかけだ。王族1734の反応はない。ただ唇が小さく彼の名を呼んだ。そんな気がする。そこに含まれる感情までは、アダムは読み取ることはできなかった。
「上手く目的まで耐えれればいいんだが……まさかパラライズショットの対策がとられるとはな」
 小さく舌打ちするザルク。王族1734の術式が展開されると同時に、相手が束縛されることなく動き続けていた。イ・ラプセルにはない術式。インディオ達が使うと言われている精霊の力か。少なくとも王族1734以外が使っている様子はないのが救いと言えよう。
「皆さん……! 無理は禁物、です」
 治癒の手を施しながらたまきは口を開く。サポートを含めた回復の力よりも、パノプティコン軍の火力の方が大きい。防御タンクの人達の尽力もあるが、じわりじわり通されつつあるのはたまきも分かっていた。あとどれだけ耐えられるか……。
「こういう時は気合です! 心が折れなければ、何とかなります!」
 攻めきれない状況。相手の情報が分からない手探りでの戦い。そんな状況に不安を覚えながらも、デボラはそれを吹き飛ばすように大声をあげる。分からないのは仕方ない。だからこその威力偵察だ。我が国の勝利のために足踏みなどしていられない。
「うんうん。負けなければ敗けじゃない。カノンたちは生きて帰ることが目的なんだから」
 肩で息をしながらカノンが微笑む。攻めきれないのは仕方ない。敵の強さはある程度は見えた。ならば攻め込んだ意味はある。欲する情報は後一つ。それを見る為にはあともう少し戦わなくてはいけない。さてもう少しだけ動いてくれよ、とカノンは体に活を入れた。
「権能らしい連携行動が一つ。後は王族1734の術式辺りですか。目新しい情報は」
 アンジェリカは戦いながら得られた情報を纏めていた。パノプティコン軍特有の行動。徹底管理されていることによる乱れのないコンビネーション。そしてインディオ特有と思われる魔術式。それがある、と分かっただけでも大きな収穫だ。
「連携って言うか……あれはそういうのじゃないと思うぜ」
 頭を掻きながら呟くセーイ。双子のノーヴェとセーイ。心から通じ合っている二人は息があったコンビだ。だがパノプティコンのそれは何かが違う。仲がいい、ではなく誰かに管理されて統一されたかのような、そんな動きだ。
「あは……そっか、そうなんだ……あははは」
 サーベルを握りしめ、虚ろに笑うキリ。後ろに仲間がいなければ、そのまま王族1687に飛びかかっていただろう。何もかもが焼かれたあの日。そこに居ただろう男。それが目の前にいるのだ。過去の炎と現在の炎が、キリの瞳に焼き付いている。
「おひめ、さま……どうし、て……そこに、いるの?」
 王族1734と交戦しながら問いかけるノーヴェ。敵国の王族。独特な魔術を行使するパワー型戦士。ノーヴェとの共通点は性別だけ。だが、刃を通じて感じられる思いは確かに同じだ。ノーヴェも王族1734も、何かを守るために戦っている。
 互いを探りながらの攻防が続き、そして時計の秒針が二周する。予知されたパノプティコンのデウスギア――国民管理機構が発動するタイミングだ。
「その前に、困惑してもらいましょう。強化の矛先がこちらである必要はありませんからね」
 そのタイミングに合わせて、アンジェリカが武器を振るい、王族1734の視界を困惑させる。これで狙いが定まらず、敵味方無関係に脅威が振りまかれる――
「――え?」
 だが王族1734の攻撃は真っ直ぐにアンジェリカに向かって振るわれ、彼女のフラグメンツを削る。確かに困惑の技は決まった。偶然こちらを狙ったということもあるだろう。アンジェリカは傷口を押さえながら思考する。本当に、偶然か?
「……なんだ、これ!?」
 未来を見る魔力で戦場を見るノーヴェとセーイとジーニーは目に映る未来に恐怖を感じていた。未来は多様性があり、未来視はその中でも最も可能性がある未来を見る。だが、今見ている未来はあまりにもはっきりしすぎた。
 振り下ろされる斧。身体を燃やす炎。銃弾、鉄槌、鋭い魔力。痛み、苦しみ、苦痛、脱力、敗北の屈辱、浴びせられる罵倒、そこからの転落、そして国を失い敗戦の民となって惨めに命を失っていく――
 強いイメージが未来を見る瞳から確実に伝わってくる。このままここに居ると、確実にそうなる。未来に経験する『はず』のそれを実体験したかのように錯覚し、感情が狂ったかのように湧き上がる。これは現実(いま)ではない未来(さき)と自らを納得させ、何とか意識を留める。今、未来を見るのは危険だ。
「攻撃が当たらない……!」
 王族1687と1734に攻撃を仕掛けた自由騎士達は、数十秒前とまるで異なる動きに驚いていた。先ほどまでは確かに動きが読めていた。それは今だって変わらない。なのに攻撃は全て紙一重で避けられていた。
「さっきまでとは動きが違う……いや、身体能力が増したわけじゃないけど!」
 圧倒的に相手が早くなったわけではない。こちらに何か影響があったわけでもない。弾速が歪められたわけでもなく、奇妙な魔力の壁が発生したわけでもない。例えるなら相手が自由騎士達の攻撃の隙間に立っている。それが一番近い表現だろう。
 もう少し長く戦えば、詳細はつかめるだろう。推測はいくらでも立てることが出来る。その中から最も可能性が高いモノをピックアップできるかもしれない。僅か10秒でここまでわかったのだ、あともう少し戦えば情報はより確実に――
「――撤退します」
 はっきり言い放つデボラ。他の自由騎士達も異存はなかった。元よりここが撤退ラインだ。欲をかけば深みにはまり、本当に包囲されかねない。これ以上の戦いは危険領域だ。
「おや、お帰りですか。いいでしょう。こちらも益はありました」
 回頭する船の動きを感じ取り、王族1687は撤退の意思を示す。それと同時にパノプティコン軍は一斉に踵を返し、船から離脱した。
「貴国によき未来が待っていることを祈ってますよ」
 去り際に王族1687はそう言い放つ。敵国の騎士に告げるには、あまりにも不適切な言葉。だがそれは自由騎士には意味深い言葉だ。未来。それを知るデウスギア。その存在を知っているという事。
 自由騎士達は何も言わずに、去っていく王族とパノプティコン軍を見送った。


 結果として――
「なんとか無事に帰れそうだな」
「美味しいご飯が食べたーい」
 自由騎士達は誰一人欠けることなく無事に戦闘海域から脱出できた。欲をかいて情報を得ようとすれば、全滅とまではいかなくとも包囲網が完成して捕縛されていただろう。
 そしてパノプティコン軍と交戦して、得られた情報もある。シャンバラのネクロマンサーやヘルメリアの蒸気騎士のような、国特有の戦闘スタイルというのはない。が――
「王族1734はインディオの魔術を使っていたな」
「見た目からして、インディオ出身なのは間違い。なぜパノプティコンに与しているかはわからないが……」
 王族1734と戦っていた前衛達は時折繰り出される彼女の魔術を見ていた。石の肌を持つ何かを呼び出して殴らせたり、ザルクの麻痺弾を無効化する加護を与えたり。他のパノプティコン兵が使っていた様子はない。
「ノスフェラトゥ……不死者と呼ばれる兵もいました。かなりの攻撃に耐えてましたね」
「空から落ちても死なない、というのが本当ならかなりの耐久性を持っていることになるな」
 布で空を飛ぶ青い肌の種族。そう呼ばれた大陸北部の希少種族。それがパノプティコンに兵として存在していた。
「ヴィスマルクもパノプティコンの領土を奪い取っています。おそらくは……」
「そうだな。彼らがヴィスマルクにもいると見た方がいいだろう」
 そして軍事国家ヴィスマルクがそのような有用な人材を捕らえていないはずがない。盾として有用に使うだろう。
「あとは兵の動きか。……ぞっとするぜ」
「一言も喋らずに、合わせたように、動いてました」
「つーか、テレパスで話しかけたことも分かるとか、どういうことだよ!」
 そしてパノプティコン兵同士の奇妙な連携。徹底的に訓練された、では済まされない程の動きだ。常識ではありえないあの動きは、管理国家と言われるパノプティコンの神の権能ではないだろうか?
「ええ。威力偵察としては十分な成果でしょう。相手の強みは解りました」
「魔導や技術に特化しているわけではなく、徹底的な管理国家。その噂に違わぬ軍隊と言った所でしょうか? 個性を重視する自由騎士とは見事に相対していますね」
「後はあのデウスギア……多分未来に関することなんだろうけど、あのまま戦ってたら危なかった」
「ん……すごく『ざわざわ』した……」
「水鏡の事を知っているという事は、似たようなデウスギアという可能性もあるけど……推測だけならいくらでも立てられるな」
 どうあれ、パノプティコンの強さの一端は知れた。後はここからどうするか考えるだけだ。
 船は真っ直ぐに、イ・ラプセルに向かっている――


「セ・ス・ラ・モ・ニ・ト・イ」
 戦いが終わり、血まみれの王族1734はそれを拭おうともせずに、義理の親である王族1687に詰め寄る。殺意こそないが、温厚とは言い難い剣呑な雰囲気。
「ええ、約束は守ります。貴女が従順である以上、インディオ達に必要以上の派兵はしません。抵抗する以上は交戦させてもらいますが」
 王族1734の言葉に頷く王族1687。1734が納得したのを見た後に、すでに海岸線から消えたイ・ラプセルの船の方を見る。敵対国を思いながら王族1687は静かにため息をついた。
(イ・ラプセルに港町3356を押し付けてインディオの対応をさせれば、彼女の約束を守りながら敵対するインディオ戦士達を掃討できたかもですが……なかなかうまくいかないものですな。
 流石に一筋縄ではいきませんね。癪ですが、神の蟲毒を進めるしかありませんか。あの男(アレイスター)の思惑に乗るのは、業腹ですが)
 やれやれ、とばかりに肩をすくめる王族1687。頭を抱える問題はまだまだ多い。最後の一年は、動乱に満ちた年になりそうだ。

 夜空は広く、海は静かに波打っている。
 だが戦争の空気は、確実に世界に広がっていた――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
王族1734は熊虎たつみVCに書いていただきました。

以上のような結果になりました。互いに探り合いという事で、怪我は少なめです。
監獄国家パノプティコン。その強さの一端を感じていただければ幸いです。
っていうか何このパーティ!? 防御タンク3名でダブルカバーリングとか、えええええええ!

MVPは最も情報を多く会得できたミステル様に。技能とプレイングの総合で判断しました。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済